軟式出身、硬式出身は関係ない
大阪桐蔭のメンバーはとにかく中学時代から実績のある選手が顔を揃えていた。能力が高ければ当然結果はついてくると思われがちだが、
中学時代から技術が長けていても、高校野球で全員が伸びるとも限らない。加えて、大阪桐蔭では組織力も磨かれて“勝てるチームの一員”に成長していく。
その潜在能力を西谷監督はどこに着眼点を置いて見ているのだろうか。

例えば、今年主力を張った根尾昂(中日1位)、藤原恭大(ロッテ1位)、中川卓也(早大進学予定)などには共通点があった。
「中学生の時に練習を見に行って、彼らはみんな向上心をしっかり持ってやっているなと感じました。良い選手が多いチームは、
指導者の方は目先の勝利だけでなく彼らの将来を考えて指導されています。その中で選手を見て重視するのは、技術も大事ですが野球に取り組む姿勢、
何より“大阪桐蔭で野球がやりたい”と強く信念を持ってくれている子には目がいきます。私たちももちろん、そう思っていただけるような指導を普段から心掛けていかないといけないです」。

ここ数年の甲子園での成績を見ると大阪桐蔭を志望する子はかなり多い。だが、寮のキャパシティーの問題や1学年20人前後と、毎年入学できる選手はある程度人数が限られているため、
全員を受け入れられないのが現状だ。それでも、どうしても大阪桐蔭に、と懇願して西谷監督が練習を見に行った際にアピールをして、西谷監督の目に止まった選手もいたという。

中学野球は大きく分けて軟式と硬式がある。硬式をやっていたから有利だとか、投手は軟式の方が伸びるだとか様々な呼び声があるが、実際はどうなのか。
「軟式だからどうとか、あまり関係ないですね。人によって違うところはあります。ウチは過去からみても入学しているのはほぼ硬式の選手ですが、
これは今までのご縁の兼ね合いもあってそうなっているだけで、意図してそうなっている訳ではないんです。現実で言うと、軟式野球の選手は硬式より少ないんです」。

野球人口、とりわけ少年野球人口は減少の一途をたどっている。野球より他競技に流れていることも原因のひとつだ。そのため野球シーズンオフとなったこの時期はあちこちで野球少年、
またはこれから野球を始める子供たちを対象とした野球教室が開かれているが、西谷監督はこんな考えを持っていた。

「プロ野球選手が野球教室を開いているのも聞きますが、子供たちにしてみたらプロ野球選手よりも高校球児が教えた方が、身近な感じがして野球に入っていきやすいとも思います。
高校生を見て、“こんなお兄ちゃんになりたいな”とか“甲子園ってすごいところなのに、そこでプレーできるってすごいな”って思ってもらえるようになるのもいいですよね」。

実際に大阪桐蔭は6月に香川県の招待試合に行った時に、試合後に地元の子供たちを招いたキャッチボールのイベントに参加した。香川県高野連が企画し、
春の県大会優勝校の大手前高松高の選手と共に子供たちとキャッチボールをするというシンプルなものだ。センバツで活躍した根尾や藤原や中川らとキャッチボールができるということで、
子供たちの目は輝きに満ちており、楽しそうにボールに触れる姿が印象的だった。

「こういうイベントはすごくいいと思いました。子供たちだけでなくウチの選手も初心に返って学ぶこともたくさんあります。
高校生になると結果にこだわりすぎて悩んでしまうことが多いですが、子供たちの目の輝きを見て忘れかけていたことも思い出せますし、お互いにプラスになることばかりでした」。