右巻きニートは何故右巻きなのだろう。
その疑問を解決するため、我々はニートの故郷である○○県某村に向かった。
「まだ日本にこんなところがあったのか…」
思わず口に出てしまった言葉を、失礼だと同行した上司に咎められた。

小人が住むような小さな家、ツギハギだらけの服を着る漁民たち、
そして彼らは余所者で身なりのいい我々を、監視する様に物陰から見詰めている。
高度成長だの、神武景気だの、オリンピックだのバブルだので浮かれていた我々は、
日本という国家から置き去りにされたかのようなこの貧村の現状にショックを受けた。

ボロ屑のような家に居たのは老いた母親ひとりきり。
彼女の乾いた白髪はまとまりなくしなだり、歯は大方抜け落ちていた。
老婆は我々を見るなり全てを悟ったのか、つまづきながらよろよろと土間に降り、
「右巻きの息子が申し訳ありません」と、涙ながらに我々に何度も土下座した。

右巻きニートの父親はニートが幼少の頃、ある祭りの日に村の人妻を強姦し、殺害した。
父親は刑期を終えても、村には戻らなかった。
母親は身寄りがおらず、蓄えもなく、どこに移り住むこともままならなかった。
針のムシロの様な気持で、発育が悪く我が儘な右巻きニートを必死に育てたのだ。

我々はこの時、やはり右巻きニートは許せないと思った。
漁村の貧しさが悪いわけではない、全て右巻きニートのわがままが悪かったのだ。
我々は右巻きニートの母親から貰った、ニートが右巻きで釣ったという、腐りかけの
小アジの干物をゴミ箱に放り込むと、怒りに震えながら東京への帰路についた。