■この世の終わりを覚悟する
金融市場は、まさにパニックであった。多くの市場参加者は
「この世の終わり」が迫っていると考えて、持っている国債
や株を投げ売りし、円をドルに替えようと奔走したのである。
特に悲惨だったのは、外国人投資家であった。彼らは来日
した際に1ドルを約100円に替え、概ね額面で国債を
購入していたのだが、額面の3分の1に暴落した値段で
国債を売り、売却代金の円をドルに替えて本国に逃げ
帰ったのである。投資額は、およそ10分の1に目減
りしていた計算になる。
政府は、大規模なドル売り介入として、外貨準備を
1兆ドル売却したが、焼け石に水であった。ドル売り
介入で市場から吸い上げられた資金を供給するため、
日銀は巨額の買いオペ(市場から国債を購入して代金を
支払う取引)を行なったが、国債価格を回復させる事は出来なかった。
株価は暴落し、GPIF(年金の資金)などが必死に買い支えたが、
ほぼ全銘柄がストップ安のまま、取引を終えた。
市場関係者の多くは、ため息もつけないほど青ざめていた。
円と国債を空売りしている投機家だけが、買い戻しで得られ
る利益を計算しながら微笑んでいたのである。
夕方になり、東京市場が閉まると、投資家たちは長かった
一日を思い出し、其々にため息をついた。しかし、
本当のため息をついたのは、その後であった。