本書の第一章では、著者が実際に手掛けたケース6例が紹介されている。
例えば「強迫性障害」のため3年間入浴できず、栄養失調もあって命に危険が差し迫った男性、
財産や高齢化に付け込んで親を奴隷化するケースなど、本書を読むと、ひとくちに「ひきこもり」と言っても、じつに多様なケースがあることがわかる。

 そして著者の危機介入の仕事ぶりを例えるなら、まさに容疑者を検挙するためにガサ入れに踏み込む刑事さながらである。
家族の同意の下、実行日を決めて対象者が籠城する部屋に突入し、説得という名の直接対決を行うのである。暴力性の強い対象者の場合、警察官の同行を依頼する。
それでも著者自身、何度もケガを負ったり命の危険にもさらされるという。

 そして第三章以降では、これまでに数多くの問題を抱えた家庭に介入し、親子それぞれの本音や生育環境などを調査した著者ならではの分析や、問題解決に向けた提言が様々に記されている。

(ひきこもりとなった)彼らの成育歴や家庭環境をたどってみると、ある共通項が浮かびます。
それは幼少期〜思春期に、大きな「不安」を感じていたことです。
 その不安のひとつが「等身大の自分を受け入れてもらえなかった」こと。
これにより「親のメガネにかなう子にならなければいけない」といった強迫観念を植え付けられ、ひきこもりに向かうケースは多いと記す著者。
そして親世代を含み、日本全体が「〜でなければいけない」という「総強迫性社会」になっているという著者の指摘には、ひきこもり問題の根深さを痛感させられるのだ。