警察庁が今年4月、ショッキングなデータを公表した。2
016年に摘発した殺人事件(未遂含む)のうち55%、つまり半数以上が、「親族間殺人」だというのだ。
いまの日本の家庭や親族内での人間関係が、いかに薄氷の上で危うげに保たれているかを、思い知らされるデータではないだろうか。

 『子供の死を祈る親たち』(新潮社)の著者、押川剛氏は本書の中で、2003年以降のデータを分析し、親族間殺人が増加傾向にあることを示している。
そして増加する理由のひとつに、執行猶予付き判決や懲役3年など、「裁判で温情判決が下されやすいこと」をあげている。

 著者が問題視するのは、こうした判例が続けば、対応困難な精神障害者(認知症含む)の事案においては、「相応の理由があれば、家庭内殺人もやむなし」という風潮に流れていくのではないか、ということだ。

 そしてもうひとつ、いまの日本社会においては、家族問題にかかわる専門機関は数多いが、こと、「命の危険」に繋がるようなケースの場合、それを救える「危機介入」のプロフェッショナルは極めて少ないという現状である。

 ここで著者の仕事である「精神障害者移送サービス」を紹介しよう。依頼が来るのは多くの場合、自治体の専門機関などからは見放され、家族も手に負えなくなった何かしらの精神障害を抱える「ひきこもり」が対象者だ
。家族に代わり危機介入することで医療に繋げ、契約によっては社会復帰までを支援する。