「おいエレン。そんなにくっつくな紅茶が溢れる。それにガタガタ震えながら観てんじゃねぇよ。馬鹿だろお前」
「いいじゃないですか!夏の醍醐味ですよ心霊特集番組は。…あっほら!地縛霊ですって!でもなんで幽霊って靴はかないんですかね?埃とかカビとか虫とか蜘蛛の巣だらけの廃屋で靴はかないとか有り得ないですよね」
「…恐ろしいな…考えただけでゾッとするんだが。並みの根性じゃ生きていけねぇぞそんな場所」
「えっ?幽霊だから死んでますよね?」
「…比喩だ」
「なるほど!(ひゆってなんだ?)ねえ、先生は幽霊って信じますか?」
「いや。今お前が観てるのだって、あからさまに作り物じゃねぇか。それなら地球人がいるんだから宇宙人がいるって説の方がまだマシだな」
「ははは!現実主義な先生の口から宇宙人なんて言葉が出るなんてなんか意外ですね!」
「おいおい、笑いながら足震えてるってのは一体どういう状況だ。いい加減くだらない番組観るのやめとけ。夜中に便所ついてきてくれって俺を起こしたりしたら、遠慮なく蹴り飛ばすからな」
「いやいやいや!先生にそんなことされたら俺死んじゃいますよ!ついてきてくれなくていいからせめて俺が便所行って帰ってくるまでは起きててくださいね!?」
「断る」
「そ、そんなぁっ!」


 ソファに座ってテレビを観る睦まじい二人の姿がある…リヴァイは自分の腕に両手を巻き付けてぴったりとくっついてくるエレンをちらりと横目で見やる。
 彼の若くみずみずしい体には首から上、つまり頭部がなかった。
 首と頭部の切断面からは骨が見え、凝固した血液と脊髄と脂肪がこびりついて、ぬるりと光沢を帯びている。
 リヴァイが教師として勤務する高校の生徒であるエレンを殺してから、かれこれ1週間が過ぎていた。
 風呂場にシートを張り、関節を無視して数種の包丁を使い分け細かく解体したエレンの体は、いくつかに分けてごみ袋に入れ、間違いなく隣市の森の土中に埋めた。
 土の中で腐敗して白骨化するのを惜しんだエレンの頭部は、キッチンにある冷蔵庫の中に大きめの瓶にホルマリン漬けにして今もそこに在る。
 では、今自分にぴったりとくっついているこの目も口も耳も鼻もない、頭部が丸々存在しない血にまみれたこれは一体何なのか?
 リヴァイは少しだけ小首を傾げ、まぁいいかと紅茶のカップに口を付けた。