メキシコ人の漁師が小さな網に魚をとってきた。その魚はなんとも生きがいい。
それを見たアメリカ人旅行者は、
「すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの」
と尋ねた。 すると漁師は
「そんなに長い時間じゃないよ」
と答えた。旅行者が
「もっと漁をしていたら、もっと魚が獲れたんだろうね。おしいなあ」
と言うと、漁師は、自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だと言った。
「それじゃあ、あまった時間でいったい何をするの」
と旅行者が聞くと、漁師は、
「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって… ああ、これでもう一日終わりだね」
すると旅行者はまじめな顔で漁師に向かってこう言った。
俺は酒に酔うとよくゴルフの話をする。
この日も俺は鈴木相手にゴルフの話を延々としていた。
ゴルフってのはパー4が多い。パー4ってのは4打で入れろって事だ。
4打だ。何故4打か解かるか。これは言うなれば起承転結を意味してるんだ。
起で起こし、承で受け、転で転じ、結でまとめる。
そしてこの起承転結で1番重要とされているのは、承の部分だって事はあまり知られていない。
そう、つまり大事なのはいつだって第2打目なんだ。
1打目ぽしゃっても、2打目でやり直しがきくんだ。人生だってこれと同じだ。
例えるなら、1打目は10代から20代前半にかけての学生時代。
2打目はそっから30代あたりまでの社会人としての始まり。
3打目は脂の乗りきる40代、50代、そして4打目、人生の集大成の60代以降。
俺はな、1打目しくじった。他の奴らより少し出遅れた。
でもな、やり直しはいくらでもきく。俺にはまだあと3打あるんだ。まだ終わっちゃいねー。
こっからだ。こっから挽回してきっちり4打目でカップにボールを入れてやる。
お前見てろよ、馬鹿野郎。
そんな俺の熱弁を尻目に鈴木は退屈そうに新しく買った携帯電話をいじっている。
人生とはゴルフだ、俺はもう一度自分に確かめるように言った。
鈴木はちらっと俺の方を見てその後、邪魔くさそうにこう言った。