――稲村さんは、『君の名は。』の原画をスタジオポノックで描かれていたとか。

稲村 出来たばかりのポノックは本当に小さな準備室だけで、そこで米林監督や美術の久保(友孝)さんが『メアリ……』の準備を進めて
いるのを横目に、『君の名は。』の原画をやっていました(笑)。『メアリ……』の仕事を請ける前に、『君の名は。』を手伝うと決めて
しまっていたので。

安藤 お世話になりました(笑)。

――安藤さんの『メアリ……』参加は、その時の恩返しでもあったわけですね。稲村さんは『君の名は。』を終えた直後から『メアリ……』
のキャラクターデザインにとりかかったと聞いております。絵柄も作風も全く異なる作品に切り替わったわけですね。何か前の作品の
影響を引きずるといったことはなかったのでしょうか。

稲村 基本的にはなかったですね。『君の名は。』の原画作業の隙間に、あれこれ『メアリ……』について考えて整理していたので、
いきなり入るよりもむしろ良い準備期間でした。ただ今風の華やかな見せ方とかタイミングとか、細かなところでは多少学んだこと
を意識したかも知れません。そういう意味では、『バケモノの子』(2015年、細田守監督)と『君の名は。』は、どちらもジブリとは
異なるスタイルの演出でしたから、良い経験を積ませてもらいました。 (つづく)