第2については、サウジアラビア人の会社への支出は、当時CEOだったゴーン氏の裁量で支出できる
「CEO(最高経営責任者)リザーブ(積立金)」から行われたもので、ゴーン氏は、その目的について、
「投資に関する王族へのロビー活動や、現地の有力販売店との長期にわたるトラブル解決などで全般的に
日産のために尽力してくれたことへの報酬だった」と供述しているとのことだ。実際に、そのような
「ロビー活動」や「トラブル解決」などが行われたのかどうかを、サウジアラビア人側の証言で明らかに
しなければ、その支出がゴーン氏の任務に反したものであることの立証は困難であり(「販促費」の名目で
支出されていたということだが、ゴーン氏の裁量で支出できたのであれば、名目は問題にはならない)、
そのサウジアラビア人の証言が得られる目途が立たない限り、特別背任は立件できないとの判断が常識的であろう。

 検察は、サウジアラビア人の聴取を行える目途が立たないことから、特別背任の立件は困難と判断していたと
考えられる。サウジアラビア人の証言に代えて、検察との司法取引に応じている秘書室長が、「支出の目的は、
信用保証をしてくれたことの見返りであり、正当な支出ではなかった」と供述していることで、ゴーン氏の弁解を
排斥できると判断して、特別背任での再逮捕に踏み切ったのかもしれない。

 しかし、そこには、「司法取引供述の虚偽供述の疑い」という重大な問題がある。

 この秘書室長は、ゴーン氏の「退任後の報酬の支払」に関する覚書の作成を行っており、今回の事件では、それが
有価証券報告書の虚偽記載という犯罪に該当することを前提に、検察との司法取引に応じ、自らの刑事責任を減免して
もらう見返りに検察捜査に全面的に供述している人間だ。そのような供述には、「共犯者の引き込み」の虚偽供述の
疑いがある。そのため、信用性を慎重に判断し、十分な裏付けが得られた場合でなければ、証拠として使えないと
いうことは、法務省が、刑訴法改正の国会審議の場でも繰り返し強調してきたことだ。