そんな木村屋にも魅惑的なゾーンがあった。
入り口直上のサンクチュアリ「プラモコーナー」だ。
やはり万引きを危惧して子供の手の届かない高さに陳列してある。
私は白い車のプラモが欲しくて姉の貯金箱から千円をくすねて買いに行った。

ニヤニヤしている私にババアは「なにニヤニヤしてんの」といぶかしげだ。
日頃の恨みを晴らすが如く、無尊な態度でババアにアゴで指示を出す。
「おばちゃん、アレ取ってアレ、ほらアレだよ」
“あ?ろくな銭もねぃくせに何言ってけつかる”
といった表情を見せるババア。
私の番だ。
おもむろに千円札を取り出す私。
ババアは印籠でも突きつけられたような驚愕した表情になった。
「あらぁ~お金持ちねぇ~」手のひらがグルングルン返される。
いよいよ私のニヤニヤが止まらない。
「ね、だからアレ取ってアレ」
はいはいっ!と脚立を使ってお目当てのプラモを取るババア。
思わぬ千円札の登場で10歳は若いリアクションを魅せるババアに私はご満悦。
いやぁ~いいもん見れた!
プラモを受け取ってお金を渡した。
するとババアが急に理性を取り戻し「こんな大金どうしたの」と尋問をし始めた。
「貯金してたお金だよ」と嘘をぶっこくも、伊達に長年ババアをやっていない。なかなか納得してくれなかった。
「本当だよ!」と半ば強引に決着をつけ、家路を急いだ。
その数時間後、姉に速攻でバレて叱られた。
しかし、世の中に、特にババアに一矢報いた私の心は晴れ晴れしていた。
盗んだ金で買い物をさせたババアの失態はデカい!……はず。