茂木健一郎氏の受験改革案「僕はすべてAO入試にすべきだと思っている」

茂木健一郎:アメリカにはSATという進学を希望する高校生が受ける共通テストがありますが、こんなペーパーテストはいらないというのが、アメリカの教育界の潮流です。

尾木直樹:コロナ禍以前からSATを使わない大学が、大幅に増えていますね。

茂木:偏差値などという指標を使っているのも日本くらいです。偏差値なんて、受験産業の人たちのメシのタネに過ぎない。

尾木:日本の偏差値というのは従来の5段階評価を50段階に細かく分けたようなもので、学力を示す指標ではない。本当に大事なのは学ぼうとする「意欲」なんです。

尾木:早稲田大学と東北大学の資料によると、過去10年間の学生の成績が一番いいのはAO入試の学生だったんですね。

茂木:いいデータですね。

尾木:私が教えている法政大学でも1割くらいがAO入試組ですが、やはり一番成績が伸びる。一番伸びないのが、早稲田とか第一志望の大学に落ちて法政に進学した学生。受験で疲弊したうえに報われず、「自分はここに来るはずじゃなかった」と1年生の秋頃まで引きずる。だけど、AO組は大学でこれを学びたい、あれをやりたいと喜びいっぱいで入ってくる。

茂木:早稲田も法政もいい大学で、上も下もない。なのに、学生が腐ってやる気を失ってしまうのは、偏差値で大学をランク付けするからです。予備校の人たちに言いたいんですが、それぞれ個性の異なる大学を偏差値だけで一括りにして、「MARCH」とか「日東駒専」と呼ぶのはなんなんだ、いい加減にしろ!(笑)

尾木:まあまあ、落ち着いて(笑)。

茂木:私はいわゆる「Fラン大」と呼ばれる大学で学生とトークをして、非常にユニークな活動をしている優秀な学生がいて驚いたんですが、「大学名を言えない」と嘆いていた。そういう社会っておかしいです。

尾木:そう思います。

茂木:僕はすべてAO入試にすべきだと思っているんです。「学力と比べて公平じゃない」とか批判もあるけど、一般入試のペーパーテストの点数自体が陳腐で、人間の能力のごく一部しか測れないナンセンスなものです。AO入試は人間の学び、活動の多様性などを総合的に判断するものなので、むしろ科学的です。

尾木:中学や高校では2年ほど前からアクティブラーニングという体験型、探究型の学習に切り替えようとしていましたが、コロナで元に戻ってしまいまった。

茂木:コロナを逆手に取って、塾や予備校は、「学校の勉強だけじゃ入試は危ない」と余計に煽っている。東大に合格して人生を変えろなどと、受験を美化する漫画も多い。どんどんおかしな方向へ進んでいます。