昭和三十八年九月二十七日午後十一時すぎ、
アパートの手前約三百メートルの道路わきに運転して来た車を駐め、
ドアを開いて降り立った花形は、それに並ぶ形で駐車していたトラックの陰から
現れた二人に、両側からはさまれた。

「花形さんですか」
「そうだ」

その次の瞬間、二人は同時に右と左から、柳葉包丁を花形の脇腹に突き立ててえぐった。
花形はアパートの方へ二百メートルほど走って逃げたが、力尽きて昏倒し、その場で絶命した。
生涯で初めて敵に背中を向けたとき、彼の三十三年の人生は終わったのである。