【2次】漫画SS総合スレへようこそpart79【創作】
0032作者の都合により名無しです
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2018/05/20(日) 19:22:37.62ID:sSkVtYaP
>>スターダストさん
前回から続いて、犬飼の思いには共感できる部分が多々あります。憧れこそが、正しさこそが、屈折を
生む……しかし奮起の燃料とできるなら、嫉妬もコンプレックスも毒にはならない。今の犬飼はそういう
状態ですね。あと「説得で無力化」されてしまうって、確かに敵に回したら怖すぎますな。流石主人公。
0033永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:11:33.58ID:2iyG2ofA
第106話 「タングステン0307(後編)」

 負け犬と、くの一の、構図。

(嗅覚でイオイソゴの胸周りの耆著を見つけて排除し……章印(きゅうしょ)を貫く!!)
(心臓ごとやるがいい! 忍法山彦で返してやるわ!)

 なお山彦は自ら胸を貫いた場合でも『視界内の敵』総て道連れ可能だが、根来への警戒感がそれを押し留めている。そ
もイオイソゴの想定する彼は、『わしが山彦を使えるのではないかと疑っておる』いわば黄信号の状態にある。そんな敵に、
不自然な自殺の挙措を見せ付けるのは、いよいよ疑念を赤信号へと到らしむだけの悪手でしかない。

(わしが自殺に移りかけた──フリも含む──場合、奴は速攻で山彦の存在を確信する。犬飼か円山、あるいは両方をわ
しの眼力の及ばぬ亜空間に退避させる!)

 どちらか片方が戦士の合流地点へ到達するだけで敗北なイオイソゴだから、片方または両方が山彦を逃れ生存すると
あれば、それはもうまったくの打ち損死に損だ。

 老獪なる少女は最低でも、犬飼と円山両方を山彦の餌食としたい。欲をいえば乱入してくる根来さえも道連れにしたい。

(そのため重要なのは犬飼決死の攻め手が、わしの想定をも上回ったように……『見せかけること』! その上で、『犬飼
の予想以上の奮戦のせいで、急所を狙われる破目に陥り、決死の様相で最後の一撃を押し留めている』という、ごくごく
自然な姿を演出せねば……釣れんよ、根来ほどの男はな!)

 賭けに、出させるのだ。根来が忍者ゆえにその筋で高名きわめる『山彦』を警戒するのは当然だが、他方、自分とはまっ
たく無縁の犬飼の、予想外の大健闘が戦局を、あともう一押しでイオイソゴを打破しうる所にまで運んでおり、しかもイオイ
ソゴが、もう一押しされたら終わりだとばかり全力全開の守勢に回っているのであれば──山彦を持つならまず考えられな
い対応をしているのであれば──、根来が罠を疑いつつも、

(わしの策を逆手に取って押し切るコトも可能と判断し打って出る率は、高い!)

 千歳の件で煮え滾っている『とすれば』、行動パターンが攻撃的になるというイオイソゴの読みは……感情準則の観点で
なれば、正しい。

(そして最後の一押しは忍法でも真・鶉隠れでもなく根来みずからが振るう全力の斬撃!)

 仕留めるならば当然の選択だ。で、あるからこそ、彼は射程内に入ってしまう。術者のダメージを敵に与える忍法山彦の
有効射程距離に、入ってしまう。『イオイソゴが、犬飼からのトドメを防がんと尽力している』土壇場であるから、根来には
再殺部隊の同僚2名を亜空間へ退避させる余裕がない──全力の一撃に総てを傾注せざるを得ない──から、結果3名
が心臓へのダメージを返される……という木星の幹部の期待、決して誇大でもないだろう。

(問題は──…)

 幼い忍びはちろりと円山を見た。風船スーツを纏いいまだ高速で遠ざかっていく円山を。しかしそれから彼の下に視線を
移したのはどういう訳か。

(まだ103めーとる、か)

 森閑たる暗影にチロチロと落ちる黄金の斑(ふ)を見やりながらイオイソゴは嘆息する。さながら暗緑の蝙蝠が如き葉が
頭上にびっしり止まっている。(功罪。忘恩……。暗夜に、鴉)。木漏れ日は、僅か。影は己のものか葉のものか……。

 とにかく根来と犬飼に手間取れば円山が逃げる。盟主の所在を握った伝令が戦士の合流地点へ逃げ延びる。それは
忍びがもっとも忌むべき情報戦の敗北だ。主君への総攻撃だけは何としても避けたいのがイオイソゴ。円山が1ミリメート
ルでも合流地点から遠いうち勝負を仕掛けたくて内心やきもきしている部分もあるが、かといって

(犬飼からわざと致命傷を受けるのもまた、不自然……)

 何故なら相手が犬飼だからだ。この場合でも根来が山彦を確信する、してしまう。
0034永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:12:02.11ID:2iyG2ofA
 だから結局イオイソゴが、忍法山彦をきっかけに、犬飼・円山・根来の3人に致命傷を負わせるには

『ギリギリの読み合いを制しトドメに移った犬飼相手に、決死の抵抗をするが、あと一押しで負ける体勢』

 へと陥ってしまっていると、そう見せかけなくてはならない。ただ難しいのは、本当に追い詰められてしまうと、根来に対処
できないという点。『傍目からは本当に切羽詰っているようにしか見えないが、根来に対処する余力だけは温存している』と
いう状態をキープせねばならないのだ。だいたい犬飼に真正面から章印を狙われた場合、心臓に達しきる前に、つまりは
イオイソゴが『人間にとっての致命傷を、人間どもへ返せるようなる前に』、幼き忍びは死んでしまう。さしものレティクルエレ
メンツ重鎮といえど章印を無防備に貫かれれば死ぬのだ、即刻。言い換えれば犬飼、イオイソゴの心臓まで貫いてやる義務
はない。

(で、あるから……後ろから襲わせなければならん…………! 後ろからで”れいびいず”の爪を章印めがけ貫通されれば
『心臓へのだめぇじを奴らに返せるが』、『章印への到達じたいは防げる』。しかも背中から狙わせるのであれば『間近にい
る犬飼に、どうして吸息かまいたちなどの火力高き忍法で対処できない』という不審さを薄められる……! ほとんどの忍
法は──時よどみ含め──眼前の相手にこそ届けやすいもの、じゃからな……)

 もちろん犬飼を背後に置いた場合、正面で逃げ退る円山と共に山彦の視界内に収められない問題点もあるにはあるが、
そこは髪を動かせば解決だ。忍法念鬼もどき。背後からの奇襲を『いかにも咄嗟に』受け止めた風に装う髪で、犬飼を前に
やる。根来については、『イオイソゴが背後の犬飼に気を取られている状況なら』、奇襲はマイナスかけるマイナスがプラスに
なるような道理で、直近正面、虚空からの公算が高い。その奇襲と合わせるべきだろう、犬飼の、移動は。

(それ以外の方面からだったとしても、150めぇとる圏内の木や地面をぬけてきたのなら例の鳴子を人くい花の要領で変形
せしめ捕捉! 同距離の虚空または鳴子圏外であっても、鳴子の転用で、捕縛!!)

 いずれのケースでも磁性流体の触手で根来を犬飼もろとも円山と同一視界に収め山彦発動!

 方策じたいに抜かりはない。だがイオイソゴの心を不安に戦(そよ)がせるのは膚(はだえ)で炸(はじ)ける奇妙な感覚。

(……。やはり違和感が、ある。第六感への感応というより……極めて物理的な感触というか。それが証拠に……)

 ぴりぴりとした痺れは磁性流体化している部位にだけ、来る!

(磁力の乱れ……? いや、なんと言うか、もっと根源的な、電磁気力の反応というか……。強いて言うなら、そう、強力な、

『電波』

の密集地に行った時の感触……?)

 やはり何かがおかしくなりつつあるとイオイソゴは、思う。そもそも犬飼という、再殺部隊の中でも最弱の男を、銀成市で
津村斗貴子たち名だたる5人をほぼ完璧に封殺したイオイソゴが、一撃で葬れて居ないこの構図じたいが言ってしまえば
既におかしい。
 もちろん円山の追撃や根来への警戒といった諸々な要素を抱えている身で、足止めのため生存を放棄しているいわば
死兵の犬飼にうかと手を出せば、思わぬ抵抗にしてやられるかも知れぬと警戒し、無視を決め込む判断力じたいはあな
がちマズくもない。

(……じゃが、どこか、慎重になりすぎてはおらんか…………? 数多くの忍法を有するわしじゃぞ? 片手間で、隙を作ら
ぬ程度の、小さな奴をちまちまと重ねるだけで犬飼を落とせるのかも知れぬのに……なぜ、わしはそれをせぬ……? な
どと考えるのは焦れはじめているからか? それとも…………『何か』に誘導されている心を戻そうとする……作用…………?)

 頭を使って戦う忍びならではの不可思議な懊悩だ。

(一度、ある)

 何が、か? 心をありえからぬ方向へ誘導された経験だ。それも策謀ではなく、武装錬金特性で。

(音楽隊首魁・総角主税の嘗ての朋輩……。扇動者(あじてーたー)。はろあろ……いや、当時は外道うつほと名乗ってい
たか、ともかくも蒼然たる『矮躯』の少女。10年前そやつとわしは戦ったが…………その時の心理誘導が、ちょうど、今の
ような…………)
0035永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:12:22.84ID:2iyG2ofA
 ぴりっと、肩口の肌が、痺れた。冬場に静電気が走った程度の刺激だったが、イオイソゴの思慮はそこで止まる。

(…………)

 一瞬、きらびやかなドングリ眼からあらゆる光が消失したコトに犬飼は気付かない。音楽隊の鐶光より虚ろな、電源が
落ちたアンドロイドのような眼差しに、イオイソゴ=キシャクは刹那の百分率の間、確かに、陥った。

 再起動。

(あれこれ考えても仕方ない。ひひ。円山はもう眼前。犬飼を振り切り致命の一撃を繰り出した場合でも根来や来る!!
犬飼を振り切れなかったとしても、”かうんたぁ”を警戒しているであろう奴をば無理やり勝負に打って出させること可能!)

 余計な思慮は命取り……その考えもまた、正しい。決定に、他律の干渉が無いのであれば……だが。

(ま、一番いいのは犬飼を葬り円山に迫りといった、わし絶対有利の状況で根来がやむなく出てくる場合じゃが)

 数多くの戦士が蠢く新月村とその近辺。幻影じみた電波を感知できたのは、イオイソゴのほか──…

(なんにせよ、もうすぐ、森を、抜ける……!!)

 残り101メートル。

 此方彼方の戦速のみを主眼にこの追撃戦を論じるなら、イオイソゴはそれまでに決着すべきであろう。先ほど円山自身
も考えたコトだが、木星の幹部の速度とは、無数の枝を利した立体的、野猿的な加速に負う部分が大きい、それは事実。
しかも追うべき円山は、森を抜け、平地に出ると、機動性と回避率を大幅に上げる。上下左右を塞いでいた木々がなくなる
からだ。故にマニューバの自由度が飛躍的に上がる。耆著の乱射を、避けやすく、なる。

(つまりわしが追いつけなくなると、奴らが期すは当然よ。……ひひひ。ま、否定はせんよ、確かに追いつけなくなりはする。
…………『速度』では、な)

 愛らしいどんぐり眼を、萱(かや)で切った様に細めるイオイソゴの腹臓や、如何に。

.

..

(……結局、ボクは、”ついで”なんだろうな)

 49メートルの間くりひろげてきた攻防の感想だ。犬飼の頬が自嘲と怒りで暗くゆがむ。決して手を出してこないイオイソゴ
からつくづくと分かったのだ。『コイツは勝負の瞬間”ついで”でボクを殺しにかかる』。

 本命の根来を引きずりだした瞬間、”ついで”でサクリと葬れると確信しているから、どれだけ円山追撃を妨害され、神経
を逆撫でされても、不快感の1つさえ向けてこない。慈悲? 違う。最大の、侮辱だ。要するに木星の幹部は犬飼を、後で
かろく始末できるから、最後に帳尻が合わせられるから、今は捨て置いて支障なしと、その程度にしか見られていないのが
ありありと分かった。

(頚動脈を切断して、あれだけ策を、練ったのに……)

 戦略的に恐れているのは盟主の所在を握り集合地点めがけ高速飛翔する円山で、戦術的に恐れているのは銀成市で
因縁を作った奇襲とステルスの申し子たる根来。死力を尽くしている犬飼については円山と根来を始末するための、ていの
いい道具程度にしか見ていない。(厳密にいうと向こうは、自身の命運を賭けた一世一代の大芝居に組み込むほどに、犬飼
の死力を大いに評価し恐怖(おそ)れているが、しかし本質的には『ていのいい道具』だろう)

(章印への一撃だってきっと読んでる……だろうな。ボクが決死の思いで繰り出す一撃すら、こいつにとっては)

 根来を呼び出すための……エサ。

 犬飼の再生の道は、剛太から学んだ策謀だ。なのにそれは振るい始めた今日さっそく挫かれつつある。戦歴500年のブ厚い
壁に、また自分は粋がった傍からヘシ折られるのかと暗澹たる気分に陥り金切り声さえ上げたくなる。
0036永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:12:44.44ID:2iyG2ofA
 心底、いけ好かない幹部だ。なのに『老人』という共通項のせいか、時おりふとした瞬間に祖父を重ね合わせてしまうのが
犬飼はたまらなく不愉快だ。円山の形容を借りるなら『孫相手に景気よく打っている』。取った大駒を片手でぽゥんぽゥんと
お手玉しながら、将棋がまだまだだとからかうような、成長を楽しんでいるような、そんな目を老嬢が差し向けてくる瞬間いつ
も犬飼は不覚にも祖父との対局を思い出し、懐かしさに囚われてしまう。……というのが、忍びゆえの情報収集力を基底と
する来歴(じぶん)への攻撃(ゆさぶり)であったなら許しがたいとも青年は、思う。
 だから犬飼倫太郎はイオイソゴ=キシャクを……嫌悪する。

(けど……学ぶ!!)

 奮い立たせる言葉は皮肉にもイオイソゴの言葉。毒島からの又聞きの言葉。『わしの武装錬金は幹部中、最弱』。以前の
犬飼なら『これで最弱かよ』と歯軋りしただろうが……今は違う。剛太から知らず知らずラーニングした弱さゆえの思考力が、
いま1つの考えを呼ぶ。失血状態にある脳髄が、首を絞めた時のような爽やかさに彩られているのも大きかった。

(弱い武装錬金だからこそ、この幹部にだってボクのような時代は……有った筈だ! 慎重さとか老獪さとかは、ボクのよう
な時代にやらかし続けた失敗ゆえだろ。やらかしたから、怖くて、根が臆病で、だから下手に攻めるのを恐れている!)

 そして。弱い武装錬金ゆえにしくじりが多かったのであれば。

(どう扱えば勝てるか……考え抜いた筈!)

 学ぶとは真似ぶ。弱さゆえ思考に縋る犬飼は、弱さゆえ狡猾を極めたイオイソゴに……真似ぶ。

(変えるんだ。仕掛け方そのものを抜本的に! 参照するんだ大戦士長の首なげてボクらの上いったコイツの攻め口を!!
構造的に、根幹的に、前提を崩しボクらの策をダメにした木星の幹部のやり口を取り入れてやり返さなきゃどうにもならない!)

 犬飼は、伝統を持たない。一族代々の犬を使ったハンドラーのカリキュラムを、犬嫌いゆえ受けられなかった犬飼は、人々
が正道と崇める精錬の打ち筋を身に付けるコトなく成人してしまった。戦士の教育課程についてはどうだったかといえば、奇兵
と呼ばれている時点でお察しだ。一度、横道に逸れてしまった者は、天稟を持たぬ限りその我流は我意どまりになってしまう。

 だが! だからこそ! 忌むべき怪物の巣窟の重鎮から『カッ込む』という伝統破りを敢行できる!!
 それより派生する独自的な戦術戦略が、終戦後行われた戦団の戦没者追悼式典において真先に顕彰される犬飼倫太
郎の、『死ぬまでの時間』いかなる化学作用をもたらしていくかは後段に譲るとして。

(諦める訳にいくか! 手の内全部読まれているとしても……諦める訳に、いくか!!)

 祖父と、祖父に助けられた若い戦士が頭を過ぎるのは……遥か先、飛んで逃げている円山を見たからだ。

(お前は逃げろよ。生きろよ)

 やわらかな笑みの傍でまた散った碧血が粘っこくけぶる。

 イオイソゴと、円山の距離……41メートル。一時は29メートルというほぼほぼ扶寸の距離まで追いつかれた犬飼だったが、
死に物狂いの攻勢によってどうにか恐るべき忍びを12メートル後退せしめた。

 それでも気を抜けば総てが瓦解する状況に代わりはない。仮に円山を逃がしきったところで、頚動脈をみずから切断してしまった
犬飼は、イオイソゴを斃せても斃せなくても……死ぬ。

(だとしても……足掻き抜くさ)

 ここからの、二転三転する激闘を思えば、或いは最後の、静かな心機だったのかも知れない。激情(つなみ)の前の静謐でも
またあった。

(アイツですら、バケモノですら……)

 冷たくなる体と、霞む脳髄に浮かんだのは、なぜか最愛の祖父ではなく……嫌いで嫌いでしょうがない少年だった。

(バケモノですら……諦めなかったんだよ! アイツは確かに偽善をボクに押し付けた! 腹の立つ綺麗事もたくさん吐いた!
けどまだ……貫いてはいた、だろうが! 戦士でいるコトを許されなくなって……見下されて脅かされるようになったのに…
………レティクルの盟主や木星の幹部のような諦めた眼差しで害悪を振りまくようなコトだけはしなかった……だろうが!!)
0037永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:13:53.12ID:2iyG2ofA
 犬飼はヴィクターVを怨んでいる。肯定する気もさらさらない。だが憎むべき相手でさえ成しえたコトを成せず終わるのは
屈辱だ。

(アイツですら……地球を…………救ったんだ)

 だから。

『怪物にはならず、正々堂々と周囲を見返す』

という理念を貫かない限り犬飼は、救われてしまった命の措(お)きどころを到底この世に持てそうにない。ヴィクターVが英
雄じみた行動を取ってしまった今、彼に負わされた犬飼の汚名はもう、復讐という手段ですら挽回……できぬのだ。
0038永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:14:36.09ID:2iyG2ofA
 万一斃せたとしても周囲は決して、認めない。

(円山が……伝令が…………離脱するための、僅かな…………2秒とか、3秒とかの時間でも……稼げる、なら、そいつ
が……戦団全体の勝利に繋がるっていうんなら……きっと、アジトとか掴んだだけの功績よりデカいし…………尻尾巻いて
逃げ帰ってきただなんて陰口だって叩かせずに済むだろう、な……)

 頸動脈からの出血は、現代医学ではほとんど止めようがない。激昂で跳ね上がった心拍数のせいだろう、一颯の血しぶきが
買い立てのケチャップを全力で絞ったような勢いで出て行った。標準的なプリンの容器なら一瞬で満たせる量が、霞がかって
何の木か分からない樹木の根元をびしゃりと穢す。犬飼の暈(ぼ)けた目は他人事のようにそれを見た。

(フン)
0039永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:15:34.98ID:2iyG2ofA
 理想どおりの形だ、ヴィクターVめ、お前の助けなんか、まだるっこしい馴れ合いだったんだよ結局は……と毒づく犬飼。

 円山は、遠ざかっていく。

 それだけのため捨て石になるのを厭わぬ犬飼は気付けない。

 命がけで誰かの命を救うという点では、奇兵の誰よりも、そう、『一緒に戦え』と好意の微笑で誘った戦部よりもずっとずっと
……犬飼の方が、ヴィクターVに……武藤カズキに近づいてしまっている事実に……気付けない。

(馬鹿ね。犬飼ちゃん……)
0040永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:16:31.88ID:2iyG2ofA
 哀切の滲む自分に円山は少し驚いた。縮めた斗貴子をトリカゴで飼おうとしていた位には人心が佻(うす)い筈に、今は
犬飼の決死の足止めに胸が痛んでいる。妙な話であると自分でも思う。今夏のヴィクターV再殺において犬飼をちゃっかり
利用していたのは誰だという話だ。

 だのに心が揺らぐのは、彼が自分を救うため命を賭けているのもあるけれど、

──分かってるよ。後ろに、安全な場所に下がればいいんだろ。何てったって無事戻れば勲一等なんだ……!」
0041永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:17:24.44ID:2iyG2ofA
 盟主と会敵してしまうまえ犬飼が吐いた言葉のせい。

──「ボクを馬鹿にした連中をやっと見返せるって時に誰が下らない無茶なんか……!」

──「ヴィクターVの時の二の舞は避ける、直接戦闘など避けてやるさ……!」

 何事もなければ今度こそ評されたかも知れない青年が突き落とされてしまった死の運命に円山は嗟嘆する他ない。

(……根来。どこに居るのよ。また私を身代わりにしてもいいから……)
0042永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:21:36.97ID:2iyG2ofA
 犬飼を助け、イオイソゴを退ける奇襲を…………切なる願いは叶うか否か。

 そして、犬飼は。

「行くぞ!!!」

 イオイソゴの加速の気配よ挫けよとばかり怒号を上げる。

 続くレイビーズ2頭は決して無傷ではない。攻防の余波は確実に筐体へヒビを入れ、削り取り、溶かし、見るも無惨なあ
りさまを張り付けている。レイビーズCは顔の右半分からむき出した機械部分に線香花火のような火花を散らし、レイビー
ズDは左前足を根元から欠損。後ろ右脚も膝から下が辛うじて繋がっているという有り様。

 犬飼の騎(の)るBは各所の装甲の微妙な剥がれさえ覗けば比較的無傷だが、回避の酷使の代償だろう、四肢の各所か
ら黒煙が噴き始めている。精神が具現化した武装錬金としては奇妙な話だが、どこか貴公子然としたかぐわしさの第四石
油類をフレーバーとする『モーターの焼き焦げる臭い』さえ漂っている。オーバーヒートのせいか乗り組む犬飼の衣服は焦
げ臭く、首を直接触っている掌にいたっては先ほどベロンと皮がめくれた。

 イオイソゴの選択した忍法は吸息かまいたち。同時にルーチン・ワークのような閃光が万朶の枝の中を駆け巡り、緑色
の花束を降らす。ひゅるっ、ひゅるっ、ひゅるっ。木星の幹部が唇をすぼめるたびグロス単位の花束は蜃気楼の渦に巻き
込まれ弾け飛ぶ。理由、だった。射程距離50メートルの吸息かまいたちを有するイオイソゴが圏内に収めた円山をいまだ
撃墜できていない理由だった。彼らの通過するところ割れ砕けた枝が散らばり、淋漓(りんり)たる蛞蝓の赤黒い足跡が
壮絶に彩る。

 イオイソゴは狙ったのか、どうか。勢いづいた木片が円山に迫る。自動(オート)。ただならぬ眼光をぎらつかせ迎撃に
移るキラーレイビーズA。爪が、弾いた。

 円山の傍で遊撃を引き受けているAとて既に述べた通り下半身を自らパージしているし、爪にいたっては耆著を弾き
続けたせいで末期的な齲歯(うし)の如き様相を呈している。

 吸息かまいたち阻止後すぐ犬飼が章印狙いに移ったのは、円山との距離が遠いからだ。(相手が相手! 距離がある
うち勝負に出る!!)。肉薄しつつある軍用犬3頭をしかしイオイソゴは薄ら笑いを以って迎え撃つ。

「忍法鵜飼い。──」

 あっと犬飼が息を呑んだのもむべなるかな。激射。無数の漆黒の糸がイオイソゴの全身から円山めがけ一直線に伸び
すさった。糸はどうやら彼女の纏う黒ブレザーから発しているらしく、それが証拠に、糸が延伸するたび彼女の服は毛糸を
ほどかれたセーターのようにみるみると丈を短くしていく。長袖が瞬く間に半袖になり、子犬のようにふっくらと短い二の腕
を剥き出しにした。まだくびれさえない、なめらかな腹部は生八橋のような色合いでモチッとしており、へそときたら小指を
生地にちょっとだけめり込ませた程度の慎ましさだ。半裸……とまでは行かないが、ハの字に周縁されるみぞおちや、洗
濯板のように起伏するあばらは衣服の端々から糸をあたかもダイヤ・グラムの入り組み具合で発する少女の通常ありえ
からぬ構図的座標と相まって、一種艶かしい幻妖の怪奇図だ。

 ともかくも、黒糸。伸びすさったというがいまだ彼我の間には落下中の枝が充満している。なれば糸は阻まれ円山に届か
ないよう思えるがしかし違う、まったく違う! 糸の先端には鈎針があった! 鈎針はあちこちでトトトッと、枝の太さも問わ
ずお構いなしに突き刺さり、それこそまるで魚を釣り上げた時のように糸の撓みも露に跳ね上げる。同じ現象は周囲で次々
と起こりつつある。皮肉にも、吸息かまいたちを防ぐため犬飼が伐採した無数の枝が、イオイソゴの全身から伸びる無数の
黒糸に、メデューサの髪の咥えたバラの如く、轟ッと振り上げられつつある。

(円山に投げる……!? だが糸なら切断できる!!)

 さきの忍法念鬼もどきで得た学習要綱の赴くまま滑翔するCとD! だがその動きは俄かに止まる!

「待っておったよ。それを」
(なっ……!)
0043永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:23:04.27ID:2iyG2ofA
 後ろから、だった。2頭の軍用犬は後ろから、首と四肢の付け根に、鈎針を……打ち込まれていた。よほど勢い余ってい
たのだろう。糸がミシミシと張り詰め僅かに揺れている。恐るべき制止……? いいやたったそれだけではない! イオイ
ソゴの十指から伸びる黒色の、衣服ではなく肉体を磁性流体化した十本の忍法鵜飼いは、少女が両掌をひらひらと動か
した瞬間、ス、ス、スと、2つのキラーレイビーズの、右前足、左前足、そして口を双方まったく同時かつ順々に動かした。
 そのあいだ犬飼は犬笛を吹いていない! にも関わらず軍用犬が動くのは!
(操作している……! こいつがボクのレイビーズを……!
(忍法鵜飼い! 追撃しながら使えばむしろ足かせになるが!)
 1回の攻撃で使い捨てるならその隙に犬飼を抜き去り円山を追える! 操った軍用犬が犬飼をかみ殺せばそれでよし、
逆に犬飼がCとDを破壊したとしても、減る! いずれきたる『章印への一撃』の際の犬飼の手数が減る! されば山彦の
成功確率が上がる!
0044永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:24:55.80ID:2iyG2ofA
 果たして犬飼倫太郎は襲いくる2頭の軍用犬を前に、犬笛を咥える! 

(ひひっ! ヌシの命令とわしの操作を競合させ動きを鈍らせるつもりだろうが無駄なこと! 鵜飼いは外部から物理的に
強制的に動かすわざ! ”しぃ”と”だー”が命令を受け付けたとしても! それ以上の力で強引に! 叛(そむ)くよ!)

 果たして僅かな軋みと停止のあとギギィっと打ち震え犬飼へ飛び掛るCとD! めいめいの牙と爪を指呼の間に置いた
犬飼はしかし……笑う。

「それ以上の力なら、どうかな?」

 糸を切り、翻りかけていたイオイソゴの快笑が氷結したのは、突如として2頭の軍用犬が爆発したからだ。表層が抉られる
程度の生易しいものではない。真核から轟然と魔天の彼方へ消し飛ぶような閃光を胴体から迸らせたのも一瞬のコト、焦げて
バラバラになった軍用犬の頭や四肢をあちこちにばら撒く大海嘯のような紅蓮の焚焼が、酸素を貪婪に飲み干しながら更に
巨(おお)きく速くなってイオイソゴに殺到した。
0045永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 02:26:10.24ID:2iyG2ofA
(自爆……!? きらぁれいびぃずが……!?)
(ボクも初めて試したコトだが……うまくいった! どうやら踏まずに済んだらしいね! 奥多摩の二の舞は!)

 想定が『犬笛を奪われた時』である以上、一種の感応的な操作だろう。別個に見えて元は犬飼の精神たる軍用犬だから、
その程度の操作は受け付けると見える。

 果たして爆光に飲まれる木星の幹部。
 一方の犬飼は彼女を飛び越えている。爆発の刹那、乗騎たるBを跳躍させたのだ。着地し振り返るとそこには1mを4割
ほど超えた特大の篝火。眼鏡に彩られた面頬が期待と、幻滅への覚悟で複雑に波打ったのは大打撃を期しつつもそうは
ならないだろうという観望ゆえだ。

 炎が、消え始めた。従って燃焼の眩い光の散乱に包まれていた内部の影は見る間に濃さを増しやがてその実体をも
明らかにする。

(これは……)
0046永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 02:29:35.38ID:2iyG2ofA
 犬飼は判断を絶した。イオイソゴの現状にだ。現れたのは炭と焦げたドス黒い塊。人間ならばむろん焼死を確信して
当然の状態だがされど相手が人ならざるホムンクルス調整体であるという事実が青年の魂を凍らせる。ホムンクルスは
死ねば散る。ならば炭焦げたりといえ地上に残存している相手の命は? 

「──。忍法、肉鞘」
(下策じゃない! 飛び掛るのは!!)

 炭の皮をばらばらと崩しながら飛び上がるイオイソゴ。五千百度の炎でもない限り大抵の攻撃を肩代わり可能な特殊な外
皮も蛻の殻に再誕するさまはさながらサナギより飛び立つ蝶の如く。だが円山への軌道は犬飼が塞ぐ。追撃の出鼻を挫く
という一念が初速を削ぎ、そして円山は遠ざかる。周囲で飛び散る枝は先ほどの鵜飼いのどさくさに投擲されたものであっ
たが、総てキラーレイビーズAに邀撃(ようげき)されたようだ。



 いずれも予期していたのだろう。イオイソゴはキラーレイビーズBの速射する爪や牙を全身ぐにゃぐにゃと歪ませながら、
時には背筋を後ろにそらしながら避けていく。抜き去る機会をなおも悠然と窺う焦りのない表情はしかし前触れもなく響い
た破裂音と共に歪む。

 もとより小柄なイオイソゴの背丈が突如として縮んだ。はつと回避を忘れ背後に首を捻じ曲げた少女の視界に飛び込む
は鈴なりに充満する風船爆弾。彼方の麗人は、思う。


(私からのサポートよ)
(……逃げながら撒きよったか!)

 考えてみれば当然の攻撃だ。円山は追われているが先行してもいる。ならば風船爆弾、機雷よろしくの敷設が可能! 

 盟主メルスティーン=ブレイドとの戦いを経て即死攻撃の様相を帯びたバブルケイジだ。いま身長150cm足らずのイオイソ
ゴを取り巻くのは20近くのツートンカラー。全弾着弾すれば難儀なる幹部は地上から……消える。

(…………こればかりは、分からん)

 無言のイオイソゴに破裂があたる。

(山彦で……返せるか、否か

 1発。2発……。空砲にも似た乾いた音が立て続けにけたたましく森を抜き去った次の瞬間、そこには木星の幹部の姿
含め何1つ落ちていなかった。

 勝利の安堵に緩みかけた犬飼の瞳が昂然と釣り上がり、彼は犬笛を音立てて吹いた。
 戦局は電瞬の転換を見せる。風船スーツに覆われた円山の頭部が露骨に揺れ動くその傍を、影もとろかし行きすぎた
キラーレイビーズAがそこから10mもない、一見なにもない地点に岩をも砕く剛力の爪撃を振りかざしたまさにその瞬間、
ぱっと現出した黒ブレザーの少女の胴が袈裟懸けに切り離された。

(……ひひっ。さすがに見抜くか)
(バブルケイジは服までは縮めない。当たった奴が服も残さず消えてたってコトは!)
(1cmか2cmか……とにかく捕らえ辛い身長にまで敢えて縮みつつ、服ごと磁性流体化の飛沫と化して私を追ってきたっ
てコト……!)

 だから円山はバブルケイジの特性を解除し……戻した。イオイソゴを、元の、身長に。

「ま、見抜けなかったとしても『生首』の観点から解除したじゃろう。いずれにせよ」

 斜めに立たれたゲル状の体をうじょうじょと接合しつつ、イオイソゴ。

「逆利用は基本と知れ」

 1mもない、枝、だった。それがイオイソゴの足元から俄かに現れ、円山めがけ轟然と飛び始める。
0047永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 02:34:07.03ID:2iyG2ofA
(隠し持っていた! 身長を吹き飛ばした枝を!)
(いつの間に……!)

 特性解除によって元の大きさに回帰した武器を老獪な少女は足で投げたのだ。キラーレイビーズに切り裂かれつつ。

 何度もいうが、複数構造の風船スーツであって、長く、尖った物であれば円山への着弾を許す。

(『いま割られる訳にはいかない』! Aを反転し切り裂く……!)

 のを許すイオイソゴではない。手元から迸った鉛色の残影が軍用犬に突き刺さり、爪も、牙も、全身も、どろりと溶かす。

(だったら!!)

 犬飼の念に呼応し発生した爆散の圧力が枝を横に流し、円山から逸れて落ちた。キラーレイビーズAが自爆したのだ。

(この場のレイビーズは残り1頭! けど!)

 

 円山の行く手が急激に広がった。木々が途絶したのだ。

(森を……抜ける!!)

 飛翔の本領が発揮できる遮蔽物なき空間へ円山はついに差し掛かった。ここから目指すべき合流地点はわずか200
メートル、残り少ない精神力でも惜しみなく注ぎこめば30秒足らずで削りきれる距離だ。そう。『何事もなければ』円山は
この恐るべき追撃の魔境からあと30秒足らずで降りられるのだ。

(あとは加速して、縦横無尽に耆著を避けながら合流地点へ──…)

 大戦士長坂口照星救出作戦序盤の、終局への急湍(きゅうたん)をもたらしたのは円山円全力の加速ではなかった。
彼の直下で鳴り響いた、ぷつりという、ささやかな音の二連撃だった。

 たったそれだけなのに、彼はその場にぴたりと止まる。奇妙な光景だったが、彼は地面から浮いたまま、その場に
止まったのだ。吊り下げられている道化のおもちゃのようだった。

「忍法、百夜(ももよ)ぐるま。──」

 なんたる幻妖の怪奇図! 円山の影を、耆著が、縫いとめている!

 犬飼とその武装錬金との攻防の最中、円山を狙って撃たれたとしか見えぬ耆著が幾つかあった。それらは軍用犬によっ
て弾かれたり、あるいは軌道を逸らされたりしたが、中に混じって影狙いの本命があったとみえそれは見事に円山の動きを
封じたのだ。

「ひひっ。森を抜けるのを待っておったのはヌシらだけではなかったという訳じゃ。我が百夜ぐるまは明確なる影のない空間
では皆目無力のわざ……。暗鬱たる森の中では円山の影は枝のそれと溶けあっておったがゆえ控えざるを得なかったが」

 今は違う、円山の静止を見届けたイオイソゴは呵呵大笑の追加射撃を耆著で行いながら大股でグングンと距離を詰める。
彼女が追撃戦に対し『合流地点に近い方から潰す』なる縛りを自ら課しているとまでは流石に知らぬ犬飼だが、原則を徹底
するが故の恐ろしさはつくづくと感じ肺肝を摧(くだ)かれる思いさえ催した。されどそれも一瞬、原則きわむるは彼も然り。
足止めを全うするとばかり青年キッと表情けわだたせ、再びイオイソゴの前方へ躍り出て耆著を弾く。

「無駄よ無駄無駄! 残り1頭のれいびぃずに何が出来る!!」

 急霰の如き耆著の群れの7〜8割まではどうにか弾いたレイビーズBであるがその爪もまた爆ぜ割れる。「第二射……」
犬飼もろとも円山を仕留めんと、どんぐりを掴み取ったように五指の間に耆著を満ちに満ちさせ投擲姿勢に移りかける
イオイソゴ。

 どうっと、つんのめった。
0048永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 02:37:24.04ID:2iyG2ofA
 黒ブレザーの少女の幽玄に透き通る愛らしい顎が空を薙ぎ、朱の混じった唾液の線を引かれたのは、背面に何かが
激突したからだ。激突の衝撃は左肩甲骨を覆う表層部(みなも)を漆黒の王冠型にびしゃりと跳ねさせただけでは飽き足ら
ず、何かを掘り当てるように連撃する感触が、少女の細い背中でばしゃばしゃと暴れ狂い出した。

 犬が、居た。ヒビだらけで、あちこちで気息奄々の観の強いセレスティアルブルーの稲妻を瞬かせる軍用犬の武装錬金が
イオイソゴを、背後から、章印めがけ、貫いて……いた。

 はてな。キラーレイビーズらしいがしかし出所はどこなのか? Aは先ほど自爆した。CとDもまた先ほど自爆した。残る
のはBだが犬飼の跨るそれはイオイソゴの眼前にある。そして彼の所持する核鉄は2つ。レイビーズは1つの核鉄につき
2頭。計算が合わないように思えるがしかし違う、合うのだ!

(ミキシングビルド! バラバラに吹き飛んだCとDを1体の軍用犬として……発動、しなおした!!)

 そもそも源流をたぐれば1個の核鉄から分化していたのがレイビーズだ。先だっての自爆でほぼ大破状態に陥ったのは
もちろん事実であるが、2体それぞれの残存率が20%前後あったとすれば、それは1頭に再発動(ミキシングビルド)しな
おせば平生のCまたはDの、1頭分の40%ほどの状態で再び使えるというのはあながち荒唐無稽な話でもない。

 ちろりと背後を窺ったイオイソゴは、思う。

(……少し、小さくなっておらんか…………? 大破したのを繋ぎ合わせたせいか?)

  ドーベルマンよりやや大きめだった軍用犬が、ちょっと大きめのラブラドールぐらいにまで縮小している事実を木星の幹
部は疑ってかかる。
 ともかく犬飼はそれを、自爆の勢いで飛び込んだ枝の中で密かに再生しなおし……待機、させていた! イオイソゴがい
よいよ自分にトドメを刺しにくるとき背後から狙い打てる伏兵になるよう、秘密裏に移動させ……忍ばせて、いた!!

 決死の奇策!! だが!

(……ひひっ! ようやく狙ってくれおった!!)

 読んでいた! イオイソゴ=キシャクは読んでいた!! その上で敢えて背中を攻撃させているのはむろん忍法山彦発
動の為! 背後から章印を狙う都合上、犬飼の攻撃はイオイソゴの心臓を貫通(けいゆ)しなければならない! だが心臓
を破壊したその瞬間、イオイソゴは視界内総ての敵にダメージを返す忍法山彦を行使する! 

 そのためには根来が現空間を現空間に渡らせなくてはならない!

(じゃが足りんなあ犬飼よ!! わしの背中から章印に到る一帯を、磁性流体化しておる我が耆著を貴様は軍用犬の爪
牙にて排除し一撃を通すつもりじゃろうし寧ろそれは望むところではあるが……しかし易々とはやらせんよ!!

 何故ならば相手は……犬飼!! 仮にも戦歴500年を誇る『レティクルエレメンツの重鎮』が、現状ただ今こそ決死とは
いえ少し前の再殺騒ぎでは真先にリタイアした青年にである、あっけなく、簡単に、耆著を弾き飛ばされ章印の前菜たる心
臓を貫かれてみよ。不自然ではないか。イオイソゴが最大の仮想敵とする根来に気付かれてしまうではないか。こいつは山
彦のためわざと貫かせている……と。

 だからギリギリの鬩ぎ合いを演じなくてはならない。

 トドメには至らぬ犬飼なれど隙ぐらいは作れたと、いま仕掛ければ斃せるかも知れないと、どこかに必ず潜んでいるであ
ろう根来に思わせて、引きずり出し、レイビーズが心臓だけを貫ける程度に髪の力を緩め……山彦を、かける。円山と犬
飼と根来を一気に覆滅するにはそれしかない。本当は犬飼に心臓を貫かせたくて仕方ないが、それさえも惜しんでいると
いう、そういった工夫(しばい)を、全力で演じなければ……ならないのだ。

(嗅覚による耆著排除を目論まれた場合わしが取るべき最も自然な行動はそれの阻止!! 弾かれそうな耆著を磁力
操作で元の場所へ戻すのが1つ!)

 みるみると長さを増し軍用犬を絡め取った髪が、1つ。四肢や胴体を縛り、それ自身生命あるものの如くキラーレイビー
ズCDをぶるぶると剥がしにかかるのはイオイソゴならではの……『この場合とるべき普通の行動』!

 ああ! 唸りを上げていた軍用犬の進行が俄かに緩む! 章印をのみ貫くべき推進力は今、逆立つ無数の髪との押し
合い圧(へ)し合いの不毛な震えに冗費されゆく! 急速に生育した枝に押し留められたようだった。
0049永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 02:42:31.34ID:2iyG2ofA
(根来ほどの男は斯様なものを演じて初めて釣れる!! じゃから、ひひ! 気張れよ犬飼!! わしの抵抗を上回る、
ぱわーと! すぴぃどと!! とりっくを!!! 気張って気張って……捻出せい!)
(耆著の位置じたいは……嗅覚で掴めている)

 問題はその排除だと犬飼は汗ばむ。ただ痛打するだけで除去できるものでないコトは銀成におけるイオイソゴの戦いから
明らかだ。何しろ戦士中トップクラスの高速機動を誇る斗貴子も、逆胴であれば侍を大小ごと胴どめに両断できる秋水も、
耆著を排除するコトはできなかった。もちろん彼らは排除すべき武装錬金の位置までは知らなかったが、それでも全身を
とろかしている物品が、ちょっとした衝撃で外れるほど脆いものであったなら、4本の処刑鎌による全方位攻撃や、身体の
躯幹内部をなみなみと辷(すべ)る肉厚の日本刀といった『線』の威力の爆発に1つぐらい事故的に、飛ばされていたろう。

 或いは斗貴子以上の速度と秋水以上の攻撃力を兼備した一撃であれば……とは犬飼が戦闘突入前かんがえたコトだが
しかし少なくても探索専門のレイビーズでは原則的に不可能だ。それが証拠に──…

(ミキシングビルド……! CとD、2頭ものレイビーズを融合させた『CD』というべき今のレイビーズは……単純に考えれば
速度も攻撃力も平常時の2倍の筈……!)

 ああなのに! それだけのスペックを以ってしてなお除去できぬ耆著!
 イオイソゴが動かす傍から微細な匂いの違いから即座に位置を把握するという神業を犬飼は演じているのに……悲しい
かな探索型の限度!! パワーとスピードが足りない!!

(とっくにセーフティーを解除して狂犬病モードにしているのに……!)

 倍加して限界を超距したフルバーストの出力を以ってしてなお、イオイソゴの『取るべき、最低の防御反応』さえ突破でき
ていない! 章印を貫くどころか前段階の耆著排除すらこなせていない! どころか軍用犬の爪の先端すらイオイソゴの
表皮から遠ざけられていく始末……。

(やはり差がありすぎる……! ボクなんかでは幹部に、マレフィックに、到底太刀打ちできる道理が……なかった……!)

 幾度となく味わった挫折感がぶり返し、いつものように口の奥から全身を寒々と潤していくのを犬飼は感じた。

(けど──…)

──「見下され続けてきた腹いせに戦団を裏切り人喰いをやるなど……」

──「忌々しいヴィクターV武藤カズキでさえしなかったコトだ……!!」

──「そうだろ!! ボクらがさんざ追い立て殺さんとしたアイツですら恨むどころかこの地球(ほし)守って今は月だ!!」

──「だのに見逃されたボクが……円山のいうような逆恨みでアイツ以下の怪物に成り下がるなど…………」

──「嫌だね絶対! 誰がするか!!」


──「ならばそれが問いの答えだ」

 無表情で目を閉じ酒を飲む戦部の姿が、憧れてやまない強者の佇まいが──…

 萎えそうな全身に力を戻す。

(ボクはッ!! お前だって助けたいんだ!!!)

 軍用犬に何十発目かの攻撃を受けたイオイソゴの背中が明確な変化を遂げたのは決して彼女の罠でもなければ手抜き
でもない。だが……キラーレイビーズそのもののパワーアップかといえばそれも違う。確かに武装錬金が、使い手の意思の
変質によって姿を変える事例はある。だがそれは、例えば黒い核鉄によって肉体が人ならざる存在に変質するとか、その
血統を受け継ぐ黝髪(ゆうはつ)の青年が、忌むべき月の怪人の力をも理念のため使うと大英断するとか、とにかく劇的で
巨大な変革を経て初めて発露する希少きわめる現象だ。

 落ちこぼれで、奇兵の、犬飼が……ここまで卑屈ゆえに努力を怠ってきた日月の方が大きい、見渡せばどこにでも居そう
な青年が、土壇場で、ちょっと歯を食い縛って意気を軒昂させただけで転がり込んでくるほど『力』というものは甘くない、それ
は事実、厳然たる事実。
0050永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 02:45:57.04ID:2iyG2ofA
 されど!!

 扉さえ開けば、意固地さえ捨てれば呆気なく借りられるのもまた『力』!!!

 犬飼倫太郎にとっての戦部厳至は昨日まではあくまでただの同輩だった。たまたま同じチームになっただけの男だった。
だが今は……違う。『ならばそれが問いの答えだ』、強者の気まぐれながら偶然ながら犬飼の琴線に触れる肯定をした男
だ。決して犬飼に優しい言葉をかけた訳ではない。自分勝手ですらある美意識の赴くまま答えただけかも知れない。

(それでもだ)

 心を整理するきっかけを与えたのは事実だ。同輩から侮られるコトの方が多かった犬飼に、『それでもお前が戦士を続けて
いる答えは、お前の言葉の中にある』と、高所からながら普通に答えた。結局犬飼は、ただそれだけのコトが……嬉しかった
のだ。普通の人間なら普通の会話の中で普通に得られる程度の、ささやかな肯定が……染み渡るほど嬉しかったのだ。

(だのに見殺しになんか……出来るか!! ああ分かってるさ! 好きで盟主の下に残ったホムンクルス撃破数1位の戦部を、
落ちこぼれで、ヴィクターVに真先にやられたボクなんかが助けようなんてのが思い上がりってのは、分かってる!!)

 それでも犬飼が足止めを完遂できたなら、円山が盟主の所在を戦団全体に伝えられたら、あの魔人というべきメルスティーン
とただ1人相対するコトを選んだ戦部の生存確率は格段に跳ね上がる。敵が手に余るほど強ければ全力を出しつくしたすえ
嬉々として殺されそうで危なかっしいあの戦闘狂を、すんでのところで救えるかも知れないと、いまだ彼の敗北を知らぬ犬飼は、
思う。

(だから!!)

 戦部(ひと)の命を、救う。

 犬飼はそのためにもう形振り構っていられない。自分が、犬嫌いという、今にして思えば笑ってしまうほど小さなつまずきで、
どんどんどんどんボタンを掛け違ってしまい、真当な努力を放棄する惰気の青春に自ら籠もり自ら可能性の成長を閉ざして
しまったゆえのツケが、この土壇場で、耆著排除という自分にしか果たせぬ名案を画餅にしかできぬ実力不足という形で
突きつけられている事実を彼は、認めた。かつてならしなかった行為だ。本当は別に欲しくもなかった栄誉や、勲章を、周
囲に植えつけられた劣等感を払拭するためだけに求めていた犬飼なら、努力不足のツケが出現したとき、まったくただただ
取り繕うためだけ『ただ独り』、碌に掘りもしなかった井戸から水滴を集めるような焦慮まみれの悪あがきをやり、失敗し、
弁明に弁明を重ねていただろう。

 そういう下地があるから、今はまだ『新たな力への覚醒』はない。

 だが。

 扉さえ開けば、意固地さえ捨てれば呆気なく借りられるのもまた『力』。

 戦部の、そして円山の力を救うため我執を捨てた犬飼の、世界に及ぼし始めた影響は。

 一抹の泡となって顕現し、イオイソゴ=キシャクの肩口で小さく爆ぜる。

(や?)

 レイビーズの攻撃とは明らかに異なる衝撃に木星の幹部が眉を顰めた瞬間!!

 炸裂は全身に回り幾つかの耆著をも……弾き飛ばした!!!

(よもや)

 頬を波打たせる黒ブレザーの少女は我が身のコトをスっと見渡す。あぶく、だった。磁性流体化によってゲル状となり、
一切の打撃斬撃を受け付けぬはずの肢体の各所、内部から炸(はじ)けて飛んでいくさまは丁度、小さなドーム状のガス
を浮き立たせる古沼だった。

「認めるよ……」

 犬飼は我が身への攻撃を警戒しているのだろう。失血によってもはや黄土色と水色を混ぜたような壮絶な色彩の面頬
の中で、眼鏡の奥を爛々と輝かせながらイオイソゴを……見据える。
0051永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:51:13.33ID:2iyG2ofA
「ボクのレイビーズに、お前の耆著を排除する力はない……。速度も。だから幾ら攻撃を続けてもお前は……斃せない。
あのままやっていたらいずれ……自ら頚動脈を切断したボクが……先に死に……レイビーズ解除……。足止めから
逃れたお前が円山にトドメを刺し……根来をも迎撃…………だった、だろう」

「それでも」

「1つだけ……ある。お前の防備を突破する手段が1つだけ……ボクには……いや、ボク達には……ある!!!」

 イオイソゴの背中で連続して爆発したあぶくが、振り将棋のように耆著を飛ばす、幾つも。幾つも。同時に衝撃は髪をも
断ち切る。軍用犬が前方へ滑翔し、その爪を遂に『磁性流体化解除済みの、イオイソゴの背中』に突き立ち血を飛ばした
のはひとえに髪の束縛が緩んだせいだ。

 明らかに悪くなった状況。だがイオイソゴの顔に走った緊張は、予想外というより、『想定した勝負の瞬間にいよいよ近づ
いたから心機を引き締めた』というニュアンスが強い。

「なるほど。『委ねる』という訳か」
 そうだ。犬飼は細い息をまとめ、叫ぶ。
「バブルケイジアナザータイプ!! 際限なく増殖する円山の武装錬金なら! お前が幾ら耆著を動かそうがレイビーズを
髪で阻もうが!! それとは無関係に!! 超高速で殖(ふ)え続け、零距離爆破で苛み続ける!!!」

 背後から急襲した時、レイビーズCDの掌中には野球ボールよりやや大きめのバブルケイジがあった。それは背中からの
一撃によってイオイソゴの体内に埋め込まれた。

「能力が裏目に出たな木星の幹部! 普通の肉体の持ち主だったら表層で爆ぜて終わりだった! しかしお前なら別だ!!
全身を不定形な、ゲル状の! 磁性流体と化しているお前なら……レイビーズ程度の一撃でも埋め込める!! バブルケ
イジアナザータイプを……埋め込める!!」
(……発動までに時間差があったのは恐らく『身長の方の特性』からの切り替えを了するにしばしの刻を要したから……
じゃろうな。つまり…………)

 老嬢が涼しい顔でいられるのは……恐ろしい話だが『ここまでは』想定済みだったからだ。いやここまでどころか、この
次の事象さえ彼女は予見していた。

 刀錐を差し込んだようなきりりという激痛が、体内を突き進む。僧坊筋を貫通した虫食いだらけの犬の爪はとうとう深層の
大菱形筋さえ鈍く裂く。肩甲骨の内側縁3cmほど予想より早く割られ、第3〜5肋骨さえも爪と「ジャリッ」と破壊寸前の接触
を奏でたのは、軍用犬の太刀行きが、それまでまったく振り切れなかった筈のイオイソゴの髪の抵抗を、突如として快速で
上回り始めたせいだ。その速度上昇の幅は、バブルケイジアナザータイプ爆裂の余波たる髪の寸断を差し引いて尚ありえ
からぬものであった。

 要するに突如として体内で爪が進み始めている!! だが、おお、見よ! イオイソゴの背後で忍法念鬼もどきなる奇怪
なる髪に絡め取られる軍用犬を! 動いていないのだ! 腕そのものは動いていない!! 貫通の動きは、先の寸断を
埋めるべく伸びてきた新たなる髪の蔦にて鉗制(けんせい)され、関節部ときたらまるで膠で固められたよう寸毫も動いてい
ないのに、しかし体内に埋没した爪だけは章印めがけ……伸びている!! 

(その理由は……いやそれよりも! ……来い、根来……!!)

 予期ゆえに、決然とするオイソゴの観念的な輪郭が二重三重にブレて散らばったのは心臓部に激痛が走ったからだ。

(じゃからこそ、ここから……)

 何事かの『こういうとき、行うべき何らかの行為(しばい)』に移りかけたイオイソゴであったが、

「……お前が、カウンターを狙っているのは…………分かっている」

 思わぬ指摘(こえ)に動きが軽く固まる。

 いよいよ顔面が黄土色になっている犬飼は、急速に早まり始めた息を食い破るよう囁く。

「特性合一、だったか。盟主がカウンターを持っている以上……狡猾なお前がそれに倣わない筈がない……。敵を誘い込
んでそれを討つ、卑劣の見本市のような技なんだ……。お前は真似る。或いは盟主がお前を真似た……」
0052永遠の扉
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2018/06/10(日) 02:54:24.27ID:2iyG2ofA
 爪はいよいよ爆発的に伸びる。イオイソゴの想定を遥かに上回る速度で伸びる。あたかも犬飼が、カウンターの発動より
速く仕留めるとばかり操作しているよう……伸びる。

 イオイソゴは、思う。

(……。先ほど見た軍用犬……混ざって再発動した”すぃーだー”が小さく見えたのは破損ゆえではない!)

 物体を小さく見せるトリックが、ある。小さくする特性が、ある。身長を15cm縮める風船爆弾だ。犬飼は融合したレイビー
ズにバブルケイジを当てていた!! タイミングは、イオイソゴに利用され解除したあと! 数は2発、僅か2発!! 
 だが! イオイソゴの体内に爪を突き刺した状態で特性を解除した場合! 爪は! 元の長さに! 戻る!! さすがに
30cmそのまま伸びる訳ではないが、元の身長と、そこから30引いた数字の比率分程度は……伸びる!! 

 だがイオイソゴが慄くはそのトリックゆえではない! そこまでは、それじたいは

(あなざーたいぷに切り替えると『身長の吹き飛ばし』の方が自動で解除されてしまう”ばぶるけいじ”の欠陥を逆利用して
くるであろうと)

 読んでいた戦歴五百年! 想到のうちにあったケースではあるからバブルケイジの小細工そのものに震撼する必要は無い!!

 彼女が、恐怖したのは!!

(カウンターを読んでなお突っ込んできた犬飼の、精神性の成長というべき勇気こそが……恐ろしい!!)

 だが犬飼本体への攻撃に移りかけたのは決して恐怖ゆえではない。『犬飼が、身の丈に合った最善手を尽くしに尽くし』、
それがゆえ自分が追い込まれる状況はむしろ望むところだし覚悟の上なイオイソゴだ。心臓はいよいよ3分の1ほどが
貫かれている。完全破壊でこそないがそれでも人間が負えばまず絶望的な傷だから、今のタイミングでも山彦発動は、
犬飼と、円山にとって致命の一撃たりうる。が、木星の幹部は根来をも釣り込みたい。照星の生首を接合しうると指摘
された奴ばらの忍法『壊れ甕』が果たして深奥の、心臓の傷をも修復しうるものか否か不明じゃが、とにかくきゃつほどの
男じゃ、山彦で転写すべきは心臓の完全破壊にかぎる……とそう幼い老婆は破壊されつつある胸中わらう。

 だからこそ、根来を呼ぶためには自分が予想外の犬飼の奮闘に追い込まれていると見せかける。
 自動人形型の武装錬金を使う者を斃すには、創造者本体を狙うのが手っ取り早い。軍用犬に心臓ごと章印を狙われて
いる状況下で、無力な、既に頚動脈を自切している犬飼を狙わぬなど不自然すぎるだろう。CDの奇襲や、バブルケイジ
アナザータイプの登場、身長吹き飛ばし解除による爪の延長といった数々の意外事にハっとしてみせてこそ当然に見える
先ほどまでとは違うのだ。

 ようやく我を取り戻して反撃に……といった芝居に移るイオイソゴに、犬飼最後の攻撃が……刺さる。

「ボクが頚動脈を切ったのは、背水の陣で力を引き出すためじゃない」

 策を一挙に叩きつける犬飼のスタイルと、戦略構想を根底から覆すイオイソゴのやり口は、追撃戦最後の最後で最悪の
溶融をして放たれた。

「落とし前だ。救出すべき大戦士長の首が、お前なんかに刎ねられてしまったコトへの落とし前にすぎないんだよ」
(っ!! こやつ……!!!)
 イオイソゴは察した。
 ここまで何度も首を捻った犬飼の、異様な死兵ぶりの原因が他ならぬ自分にあったと。

 異常な話ではある。だが……考えてみればまったく彼の言うとおりではないか。

 犬飼はたとえ無事に逃げのびたとしても、先はない。少なくても組織人としては、戦士とはしてはもう、断絶だ。
 アジトを突き止めた功を評されるというのは、あくまで照星が無事だった場合だ。だが彼はイオイソゴによって斬首された。
しかも犬飼はアジトを突き止めるのに手間取ってもいた。そのモタツキが照星殺害に繋がったのではないかと糾弾されるは
必定だ。大きな失態があったとき、一番わかりやすいポカをしていた者に責任がなすりつけられるのが、組織、なのだ。

 犬飼は、それが分かっていたから……自ら頚動脈を切った。

 つまり順番は逆であった!! 彼が頚動脈を切断した時、イオイソゴはそれが自分に鳩尾無銘の味を思い出させ動き
を止めるための策謀だと思っていたが! ああなんというコトだろう!! 逆だった!!
0053永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:08:32.25ID:2iyG2ofA
「ついで……だったんだよ。せっかく落とし前で頚動脈を斬るんだ、なにかの策に役立てなきゃ……損だろ?」

 狂気を帯びた、しかし楽しげな犬飼の笑いにイオイソゴは言葉を失くす。

(こ、このわしへの嘲弄が……ついでじゃと……!!)

 数々の策謀を見抜いてきたイオイソゴですら想像を絶する動機だ! いやそもそも誰が予想できよう! 落とし前という
がこれは落とし前の範疇を越えている! 思うにこれは落ちこぼれとして蔑みを受け続けてきた人間がゆえの暗い爆発力
ではないだろうか。狂犬病の名を冠し、オンオフまでは可能なれどひとたび放たれれば狂的に暴れるほかない彼の武装錬
金の精神具現ぶりとも合致する。そもそもこの夏、奥多摩でヴィクターVに見逃され、死に時を逸し生き恥を晒してしまった
鬱積こそ、そこから、ここまでの動機だから、『追跡にもたついたが故の、救助対象たる坂口照星の死亡』という組織人とし
ては致命的な現象に、彼はあっさりと──ヴィクターVへのあてつけもかねて──頚動脈を、斬った。
0054永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:17:01.87ID:2iyG2ofA
 その、あくまでついでに、血を浴びせ、愛しい愛しい鳩尾無銘との因縁を刺激したのであればイオイソゴは憤激する他な
い。柄にもないが、『無銘との絆は、ごく普通の人間のように大事に、思っているから』、冒涜されれば……滾る。

(きゃつ、許してはおけぬ!!)

 戦歴500年ゆえのプライドを揺るがされた怒りは確かにある。あるが同時に(見事!)という感嘆も沸き……木星の幹部
は遂に犬飼本体への攻撃に移る! 掌の上で踊らされていた屈辱を晴らすため殺すという色合いはあれどごく僅か、むしろ
斯様なる精神性で戦ってきた男なればこそ全力の芝居の打ち甲斐があると凄絶に笑い、急霰の耆著を連射する。

 ……。
0055永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:22:03.35ID:2iyG2ofA
 普通に考えれば。

 犬飼の取るべき最善手は、『レイビーズBの突撃』だろう。耆著を弾きつつ、イオイソゴに突貫するのだ。バブルケイジ
アナザータイプはいまだボコボコと彼女の体の中で炸裂し、耆著を体内から排莢している。もちろんただそれを許し続け
れば、やがては普通の肉体で体内爆破を浴び続ける破目に陥るイオイソゴだから、微細な磁力操作によって吹き飛んだ
耆著を再び体内に埋没させてはいる。排莢。まったくそれだ。拳銃のそれを再生しては巻き戻すような光景が、イオイソゴ
の周囲でひっきりなしに起こっている。舟形の鉄片が、くるくると遠ざかっては、ある一点でピタリと止まり、遠ざかる時の
動きの逆回しで黒ブレザーの少女へ戻っていく……。異常極まるこの光景はしかし、瞬間的にはどこかしこが磁性流体化
を解除し……つまりはボロボロのキラーレイビーズでもダメージを与えうる状態にまで低下しているという証拠でもあるから、

(うまくいけば正面から章印を貫ける……!! それが無理でもCDのアシストにはなる……!!)
0056永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 03:23:18.39ID:2iyG2ofA
 どうせ何もしなくてもイオイソゴの芝居(こうげき)を浴びる犬飼だ、ならば逆転の可能性に賭け、耆著を弾きつつの突貫
を敢行するのは決して悪手ではない。

(……)

 一瞬、なにかを考えたのは、次の言葉をまとめるためか、否か。

(正面から行く以上、例の鈎針や足刀、吸息かまいたちを浴びる危険もあるけど……)

 ”自分がそれらを引き受ける方が、根来の奇襲が通りやすくなるのではないか”という、まったく自身の生存を度外視した
結論が、Bへの突撃命令を決定的に後押しした。果たして軍用犬は指示通り地を蹴り……イオイソゴへ飛び掛る。

 だが、彼女は。

(ひひっ。悪いが耆著の乱射は”ぶらふ”! 貴様を必倒せしめる罠は既に張ってある!!)
0057永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 03:23:40.53ID:2iyG2ofA
 イオイオゴの手前わずか10cmである。ワイヤートラップが仕掛けられていたのは。もちろんトラップというぐらいだから、
当然犬飼の目には映らない。何故なら細い髪の毛”そのもの”で構成された代物だからだ。ぴぃんと水平に張られたその
毛は、地上からちょうど10cm置きに50本配置されている。つまり高さちょうど5mだから、レイビーズでこれを飛び越え
るのは至難の業、普通に突撃すれば犬飼は軍用犬ごと細切れになるだろう。

(これぞ忍法・風閂(かざかんぬき)! 風摩の刑四めの専売特許と思われがちじゃがしかし伊賀にもこの忍法や、ある!)

『根来七天狗』の1人さえ胴ごめに斬り飛ばしたというから威力は折り紙つきだ。

 それをイオイソゴは、張った。もし犬飼が、バブルケイジアナザータイプにびしゃびしゃと吹き飛ばされているイオイソゴを
よく観察していれば、髪の辺りから飛んだ飛沫が、付近の木に降りかかったまま肉体に戻らぬさまを目撃できていただろう。
 髪は、そこから伸びた。先ほどのさまざまな問答の最中、50本もの髪が、ツツーっと、木から木へと水平に伸びたのだ。

(来い! 突撃せよ犬飼!! されば根来は貴様を助けに現れる! 何しろ根来僧を斬り飛ばした忍法じゃからな!! 
根来めが気付かぬ道理がない!! 来るのじゃ犬飼! 奴の撒き餌になればよし、死んでも……よし!!)

 犬飼はイオイソゴとの距離を詰めていく。6m……4m……。

 ぴしぴしと耆著を迎撃しつつ、時には吸息かまいたちを回避しつつ彼は遂に1mの圏内へ辿り着く。

 犬飼は、決してイオイソゴほど賢くはない。だから風閂の存在は、意識が闇に沈んでなお気付けなかった。
 手練れた戦士であれば、接近中、咄嗟の判断で突撃を中止するというコトは、ままある。敵(イオイソゴ)の表情の僅か
な変化などから、罠を察し、まさに『間一髪』で方針を変えるのは、よくあるコトだ。

 だが犬飼はそれすらない。『突撃』という方針を……変えなかった。変えられなかった。それこそが最大の最善手だと信じ
て疑っていたため……変えられなかった。

 彼の体はもう風閂の手前30cmにある! レイビーズの速度を考えれば急停止したとしても手遅れの距離!!

(だが咄嗟の機転とやらで回避されてもつまらん! 風閂……前進!!)

 ああ! ここで『殺(と)った!』と確信し油断するイオイソゴであったなら犬飼倫太郎はどれほど楽であったか!! 幻妖
も幻妖、ふわふわと前進浮揚する風閂! 木にびちゃりとついた飛沫が耆著に戻りそうしているのだと説明されても千怪
万怪の感はいなめない! 

 だが犬飼の方針は変わらない! 突撃! やんぬるかな! キラーレイビーズBの突撃は変わらない! 果たしてその
筐体に風閂が接触し!!

 戛然!!

 破片が散り血しぶきが舞う中、瞳孔を見開いたのは──…

 イオイソゴ!!!

(なっ……!!!?)

 彼女が言葉を失ったのは根来が来援したから……ではない!!

 必断必斬の風閂! それに接触してなお突撃を試みたキラーレイビーズBが健在なるまま視界の中で、恐るべき戦略
行動に移っていたからだ!!

 Bは!! 突撃していた!!

 上方へと、突撃していた!!!

(か、風閂に気付き……飛び越え……いや違う!! 上! ひたすら上を!! 目指して……いる!!?)

 イオイソゴを無視し、あくまで垂直に飛んでいく軍用犬の不可解さにイオイソゴは激しく動揺する。しながらも背後のCDを
押し留めているのは流石レティクルエレメンツの重鎮というべきか。
0058永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:24:10.03ID:2iyG2ofA
(まさか!!!)

 はたと気付いたころにはもう遅い。血まみれの犬飼の拳が──…

 章印めがけ、飛んできている。

 言語に絶する位置の変転だ。軍用犬の上に乗っていたはずの彼がなぜ降りてきているのか。そして10cm前を風閂で
守られている筈のイオイソゴから、わずか5cmという扶寸の距離に犬飼の拳があるのはどうしてか。

 上記の事柄を彼女はまったく忘却した! 思考の一点は万朶の枝を掻き分け昇って行くキラーレイビーズBに集中した!

(ま、まずい!! あれは……まずいぞ!!!)

 何がいかなる戦略的破綻をもたらすか察知できたのは、走馬灯の如く犬飼(てき)の能力を分析できたイオイソゴなれば
こそ。

(先ほどの鵜飼いで分かったことじゃが……きらぁれいびぃずは……自爆機能を有している!)

 ならばそれがイオイソゴから離れていっているのはむしろ幸甚に思えるが事実はまったく逆である。

(そうさ)

 犬飼は笑う。電撃の如き流れ去る時間の中で目論見を、思う。だがベラベラとは喋らない。映画などでよくあるではないか。
起死回生の目論見をまくし立てている間に対応策を練られ、破られるといったような展開が。せっかく背後を取ったのに「○
○の仇だ死ねぇ」と叫んだばかりに避けられた(としか見えない)末路でもいい。どっちみち犬飼は願い下げだ。だからモノ
ローグはあくまで彼の脳髄を流れ去った観念の、あくまで翻訳再構成に過ぎない。

(戦術で制すより、戦略を挫くより……戦局を根本的に逆転させるのが……お前のやり方、だろ…………?)

 だから真似させて貰ったのさ。『健在な方の』左手を、高く高く、レイビーズの昇る天へと指差したい気持ちを、高らかな
気持ちを、だがそれをやれば隙が出来るからと必死に抑え……無言で攻撃を続ける。

 昂揚をもたらすに到った彼の企ては、こうだ。

(合流地点まで200m。空中に突撃し自爆したキラーレイビーズBは……照 明 弾 に な る !)
(っ!! この期に及んでわしの認識を……覆すか!!!)

 イオイソゴの前提は、『伝令の円山が、戦士の合流地点に飛び込むとマズい』だった。そうだろう。彼が、戦士たちに……
盟主の所在という情報を伝播してしまうのだから。

 だが! それは『円山が合流地点に辿り着く』コトで初めて満たされる条件ではない! 辿り着いたとしても戦士がいなけれ
ば無意味だし……逆に言えば。

(戦士たちの方からここに駆けつけさせても……伝えられる!! 『大事なのは円山を、戦士の集団と接触させる』……だろ!)
(ち!! 悔しいがまさにその通りではある!! しかも合流地点から遠く離れた、盟主さまとの交戦点ならいざしらず、残
りわずか200めーとるのここで照明弾が上がれば……すぐに来れる! 戦士どもはすぐに来れる!!!)

 最後の突撃命令を下す直前、犬飼は思ったのだ。

──(どうせボクだから、普通に攻めてもしくじるだろうね)

 と。だから直接攻撃を捨てた。同時に、イオイソゴからラーニングした『戦局の逆転』をどうやれば実行できるか考えた。
彼女の目論むカウンターをどうすれば潰せるか……そこで思いついたのが照明弾だ。

(うまくいけば盟主どころか木星の幹部さえ殺せるからね)

(それだけの足がかりを残して死んでやれば)

 もう誰もボクを笑えないさと犬飼は会心の笑みを浮かべる。
0059永遠の扉
垢版 |
2018/06/10(日) 03:24:28.64ID:2iyG2ofA
 キラーレイビーズBは、まだ枝の群れから鼻先を出した程度だ。だが数秒後、間違いなく照明弾となってイオイソゴのあらゆる
戦略を覆す。

(自爆を許せばもう根来の始末どころではない!! 仮に当初の予定どおり3人全員始末できたとしても……戦士はどんなに
遅くても3分以内に来る!! そして……知る! ここで死んだのが犬飼、だと……!!)

 木々や枝に付着する無数の血を思い浮かべたイオイソゴは愛らしい顔を、ひたすら冷たい脂汗まみれでねじくれさせた。

(なんたること!! 放置すれば死せるからと放置しておった頚動脈からの出血が……ここに来て首を絞めた!! 戦士が
来るまでの3分で、行く道の端々ちらばった奴の血総て隠滅するのは可能? いや無理じゃ! さすがのわしでも不可能!!)

 なぜ犬飼の血の隠滅に拘るのか? 簡単な話だ。

(”でぃえぬえい”鑑定。戦団にはそれを一瞬で出来る奴らが何人もおる。うぃる坊に拘禁されたがためすぐにはこの決戦
場に来られぬ総角めも副次的じゃがその系統。血から複製した武装錬金をして誰の血か当てられる……)

 そういった連中が、犬飼の血を調べた場合。


 ここで死んだのが犬飼だと戦士が知る
 ↓
 かなり離れた場所でアジトを見張っていたはずの犬飼がなぜここまで移動し、そして死んだのか、不審がる
 ↓
 アジト近辺で敵に捕捉され、逃げてきたのだと結論付ける
 ↓
 ならボディーガードの戦部がいないのはなぜか考える
 ↓
 特性上まっさきに死ぬのは有り得ない。
 ↓
 性格上、撤退戦なら間違いなく足止めを引き受ける
 ↓
 彼がそうしつつも犬飼たちは逃がす幹部(あいて)は何者か
 ↓
 相当の強者
 ↓
 つまりアジト近辺にそいつが出張っていた
 ↓
 なのにここに”そいつ”はいない。追ってくるほど執拗で、しかも戦士よぶ照明弾(まきえ)が上がったのに……。
 ↓
 つまり犬飼を追い、殺したのは別の幹部
 ↓
 ならその『別の幹部』はなぜさほど強くない犬飼をわざわざここまで追ってきてまで殺した
 ↓
 戦部が足止めしている『相当の強者』が、その単独出撃を知られるとマズい立場の者?
 ↓
 つまりレティクルの要たる盟主?
 ↓
 盟主がアジト付近に居るとすれば
 ↓
 高速自動再生の戦部が相手だから、まだ足止めされているかも知れない
 ↓
 つまり、好機
 ↓
 一斉攻撃で盟主を仕留める好機

 ……とそう、戦士が考えるとイオイソゴは、考える。
0060永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:24:49.63ID:2iyG2ofA
(……犬飼本人はそこまで考えておらんじゃろう。戦士が来れば円山に伝言を頼めると、その程度の発想で照明弾を
思いついたのじゃろうが…………やられたという他ない! 貴様のその策はたとえわしが根来をも仕留めたとしても……
決定的な緒戦の勝利を戦団にもたらす一大魔術!!!)

 照明弾を見て駆けつけてきた戦士全員を殺してしまえば解決と思うほどイオイソゴは馬鹿ではない。それができる実力
があるならそもそも戦士の合流地点へ殴りこみ彼らを殲滅している。いかな磁性流体化といえど相性によっては破られる
のを熟知しているのだ。何十人もの手練れを同時に相手どれば必ず破られるとも……。

 イオイオゴ=キシャクは木星の幹部である。
 木星は錬金術において『錫』を司る星。そして錫を冶金学的に貪り食う鉱石こそ

 タングステン

 である。厳密にいうと混入によって錫鉱石をスラグ化させ、それ以上の生成を妨げるため「錫を貪り喰うオオカミ」と
ドイツで呼ばれた。(元素記号のWはウォルフのW)。

 後にタングステン0307と呼ばれるこの追撃戦は勿論……

 3月7日生まれの犬飼倫太郎を指した言葉だ。

 力及ばずながら最後の最後まで戦い抜いた誇り高き狼を……讃える言葉だ。

 キラーレイビーズはとうとう枝から50cmほどの距離に飛んだ。合流地点からの見晴らしを考えると、あと2mも飛べば
充分だろう。

(どうする!!? 耆著や吸息かまいたちでは枝に阻まれ当たらん!! 肉体を伸ばす忍法を極限まで行使すれば或いは
じゃがそちらに傾注すると……)

 背後のキラーレイビーズCDを見る。よそごとをして章印を見逃す軍用犬ではないだろう。それもこれも三人一挙の殲滅
を目論んだが故……。

(ひひっ。策士策に溺れるって奴かい)

 やや焦りを帯びた苦味ある痙笑を浮かべるイオイソゴはそれでも泰然として見えるが、

(うわーん!! 策士策に溺れるとはこのことじゃー!!)

 わしのあほー。心の中では両目を不等号にして涙を飛ばしている。

 惑乱は鬩ぎあいの力を緩めた解除と、純然たる倍加推進の奏による爪の延伸に抗していた髪の微妙な脱力が……犬飼
最後の最終突撃命令を帯びた軍用犬の轟然たるチャージを許して……しまった。

(マズい!! この勢いでは章印が心臓もろとも一気に貫かれる!!!)
(これで殺せるとは思わない! だが!)

(……お前の奇襲のアシストにぐらいなるだろ? 根来!!)

 首筋から最後の血の一絞りを吹き飛ばす犬飼は、絶望的な眩みに打ち崩れながらも凄絶に笑う。
 忘れがちだがその拳は、章印を狙っている。どこかで吹き飛んだパーツだろう。レイビーズの爪らしき破片を握ってはいるが
……薬指以下の指はない。指どころか、掌や、手首や、前腕部すら、ない。総て例の風閂で斬り飛ばされたのだ。

(なのに痛みさえ感じないとは! こやつ、精神が肉体を凌駕しておる! 斯様な攻撃相手に照明弾の方へ全神経を振り
分ければ……ありうる! 真正面からの章印狙いにわしが殺されること……ありうる!! っ!! そのうえ!!)

 犬飼にはもうイオイソゴの声さえもう聞こえない。彼女が慌てふためいた様子で背後を見るのは、レイビーズのCDまで
もが自爆シーケンスに突入したからだ。

(どうせ最後の突撃も、屁理屈じみた忍法で回避するんだろ? なら自爆だ。自爆の勢いで直進する爪なら…………ふふ、
もしかしたら……貫けるかもなあ、章印)
0061永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:25:24.34ID:2iyG2ofA
(……ま、その場合、ボクも巻き添えになって、無事じゃいられないだろうけど…………。いいさ。望みどおりさ)

 自分の腕が無惨に破壊されているのさえ、霞がちな視界は捉えられなかった。
 ただ、充足のみがあった。かつては『怪物』に阻まれ貫き通せなかった意地を、彼はいま……貫けている。

(ああ。やっぱり……自分の命を…………思い通りに使えるって、いいなあ)

(ざまあ……みろだ、ヴィクターV…………。勝手に……助け……やがって…………)

 満足げな死微笑に意図を見て取ったイオイソゴは「くぅううと」歯軋りしながら人差し指を立て……誦(ず)する!

(根来めに温存したかったが仕方ない!!)

 枝の上2m50cmにとうとう到達したキラーレイビーズBの胴体に閃光が走る。自爆はもう止まらない。

(忍法!! 時よどみ!!!)

 澄み渡るどんぐり眼の白い強膜がドス黒く染まり、瞳孔に到っては腐り果てた血漿のような紅に堕ちる。
 同時に金色の波動が双眸から巻き起こり、それは忍びが垂直かつ無造作に投げた耆著の間をばちばちと乱反射しなが
ら半球状の閃光となって一帯を行き過ぎた。直近の犬飼も、少し遠くの円山をも閃光は洗い……彼らの時を氷結させる。
既に影縫いで止まっていた円山さえも、より絶対的な静止の領域へと叩き込んだのだ。

 果たしてキラーレイビーズCDの動きもまた止まる。推進や自爆だけではない。身長の戻る作用さえも停止した。

 のみならず、ああ!!

 爆ぜかけていたキラーレイビーズBさえも、まさに一時停止の爆発映像の如く固まって…………そして枝からバシャリと
波打って引っ込んだ巨大な黒き念塊に総て総て飲み干されて消え去った。

(忍法虫とり草。──根来対策として枝々に仕掛けておった鳴子を使い内縛陣に穴を開けるのは痛いが…………そうでも
せねば防げぬ恐るべき犬飼の奇策じゃった…………)

 ぜえはあとイオイソゴが大汗かいて息せくのはその緊張ばかりではない。時よどみの消摩もまた決して小さくはない。

(耆著の電磁気力で増幅した時よどみは、錬金術的介在によって他者の武装錬金特性をも止める! ……もっとも、創造者
の双眸に我が眼光を叩き込む必要があるゆえ、亜空間に潜んでおる場合の根来のような視界外の敵や、或いはいまの楯山
千歳のような視力なき戦士には通じないが……)

 或いは、幸運だったのかも知れない。犬飼の話である。
 最後の血を流しきり、あとは倒れて死を待つばかりだった彼が、正にその瞬間、時よどみという、精神感覚を尋常ならざる
遅延状態に追いやる忍法を喰らったのは、少なくても生を望む人間の本能からすれば猶予という慈雨を得たに等しい。

 彼は、考える。

(『これでいい』。今から木星の幹部は動けないボクにトドメを刺しに来るだろう。だが……『これでいい』。次に影縫いで動け
なくなっている円山を殺しにかかりもするだろうが……

『こ れ で い い』

……問題は、ない)

 おかしい。あれほど懸命に円山を助けようとしていた犬飼が思うべきコトではない。だが……違う。そう思う理由がある。

 しかし。彼は……気付く。気付いて、しまう。

(……。待て! 『どうしてバブルケイジ解除の作用まで止まっている……!?』)

 ひひっ。

 低い鼻をこすり、イオイソゴは笑う。
0062永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:25:43.27ID:2iyG2ofA
「悪いが『それも読んでおった』」

 円山の影に刺さっていた2つの耆著が周囲の地面を巨大な錐へ造り替え、円山を貫いた。完全なる貫通だった。何層
も爆ぜ割れる地獄のような協演が山間に響き渡った瞬間、静止していたツートンカラーの風船スーツは地上から消滅した。

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 血しぶき1つ肉片1つ飛ばすコトなく。

 低い鼻をさすり、カビ臭い引き攣り笑いを浮かべたのはイオイソゴ。

「飛ばぬのも道理よ。何故ならば」

 錐はなおも伸びる。天めがけ伸びて、何箇所か複雑に折れ曲がりながら、空中のある一点めがけ最後の突撃に移行する。

 風船爆弾で攻勢された雲に乗る、半裸なる身長62cmの円山円を突き殺さんと……伸びた!

 そう! 風船スーツの中に彼は居なかった!! 様子と高度からすると脱出は破壊直前より更に前のようだ。

 犬飼の顔面が決定的な敗北感に歪んだところを見ると、彼の指図の内らしい。

(クソ!! これさえも……!!)
(ひひっ。影縫い……百夜ぐるまが廻るところまで読んでおったのは見事。どうやら貴様らは最初から決めておったようじゃ
な。『森を抜けるあたりで円山本体を風船すーつから離脱させる』……と)

 森を抜ければ影ができる。すると忍びが敵である以上、影縫いかそれに準ずる忍法が炸裂すると考えるのは思考の流れ
からして当然だ。だから犬飼たちは森を抜ける直前に円山を離脱させた。タイミングは機雷の如く風船爆弾が敷設された
瞬間だ。バブルケイジの特性で、スーツの中、182cmから2cmに予め縮んでいた円山は、腰の後ろから射出され浮き上
がる風船に捕まり──イオイソゴに視認されぬよう、森の出口の『開けた場所』を避け、やや合流地点から遠回りになるが
枝に遮られ見つからないルートへと浮かび上がり──地上に残したスーツは合流地点へ向かうよう継続して操作。
 その遠隔操作は、空蝉になったのを悟られぬための細かな仕草ともども風船爆弾本来の機能である。もともと爆弾状態
でも微速ながら動かせるのがバブルケイジだから、『風船スーツ状態』でも、動かせる。
 かくしてスーツから抜け出した円山は、かつて奥多摩で斗貴子から逃れた時のように風船爆弾の雲に乗って追撃戦の舞
台からいったん距離を取り、しかるのち再びスーツを着込み全速力で合流地点へ……というのが犬飼のプランだったが!

 果たせるかな、この鬼謀神算と言っていい十重二十重の策さえもイオイソゴが見抜いていたとは!!

(レイビーズCDの攻撃も円山から気を逸らすための攻撃で! 照明弾だって円山とは逆の方向へ打ったのに……!!)
 身長吹き飛ばしの逆利用のあとの『いま割られる訳にはいかない』は、当時すでに空蝉だった風船スーツが、破裂によって
真実を明らかにするのを防ぎたかったが故の思いだ。

 それほどの努力で紡がれた策をイオイソゴが見抜けたのはどうしてか?
(ひひっ。わしは忍び。空蝉を疑わぬほどおろかではない。貴様らほどの連中なら影縫いさえも読み対策を講じると考える
は当然!! あとは照明弾とは逆の方向の気配を探ればよかった!!)

 先ほど周囲を洗った半球の閃光はイオイソゴの時よどみの波動を、遠く空高く浮かぶ円山にまで届けた。突如として地上で
起こった閃光を、犬飼を案ずる円山が見てしまったのは人間として当然の反応、責められる謂れはないだろう。

 かくて彼が遅疑極まる精神状態で錐の串殺を待つほかない状況に、犬飼の頬、歪む。

(……どこまで鋭いんだこの幹部は…………!! フザけるな!! これだけやったのに最後の最後で円山すら離脱させ
られないのかボクは…………!!)

 やはり最後の最後まで自分は何も成せず終わってしまうのかという絶望は、精神の遅疑さえ凌駕し双眸に涙を滲ませる。

(ひひ。むしろ貴様はようやった。連発できぬ時よどみさえ使わせたのじゃからな……!)

 犬飼最大最後のキラーレイビーズB照明弾が封殺された今、戦局の前提もまた照明弾以前に戻る!

 すなわち!!
0063永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:26:03.51ID:2iyG2ofA
(あとは根来を迎撃するのみ!!)

 鉄壁だった鳴子に、内縛陣に、照明弾阻止のためとはいえ自ら穴を開けてしまったイオイソゴだからこそ根来への執心
と警戒は……より勁烈なるものとなる。

(奴が出現した時点でわしは自ら背後のれいびぃずの側に進む! 心臓を貫かせ、そのだめぇじを忍法山彦で3名に返す
ためにな!!)

 長く伸びた足刀が森の出口左手に繁る枝を何十本と刈り取ったのは、その先に漂う円山を視界に収めるためだ。どうや
らこちらは時よどみのような増幅はできぬと見える。

(あとは……根来よ)

 奴はどこから来る……? 残る鳴子や、中空に神経を集中していたイオイソゴが圧倒的な威圧感を察知するまでさほど
の時間はかからなかった。円山めがける例の錐が、1ミリメートル程度しか進んでいない頃だった。

(来た! ひひ! 迎撃──…)

 してくれるとスカートのポケットの中の『形見』に手を差し伸べた幼い忍びの顔色は微妙な困惑に彩られる。

「──や?」

 迫り来る威圧感は複数だった。戦歴ゆえ、どこが狙われているか一種の未来視で察知できるイオイソゴが感じた攻撃の
気配は、その全身を取り囲むよう茫洋と漂っていた。

 背後150m超の鳴子射程外で前触れもなく膨れ上がった威圧感は剣気に分類されるものであり。

 数は……9。

「飛天御剣流!! 九頭龍閃!!!!)

 雪崩れ込んできた絶対的な金色の颶風をイオイソゴは回避するのが精一杯だった。山彦の布石のため、敢えて背中を
キラーレイビーズCDに浅く刺していたのが仇となった。
 攻撃の来た方向も悪い。背後、からだった。
 だからイオイソゴは形見での迎撃ができなかった。後ろ殴りの一閃程度では遅きに失し、先の先で発生前に潰すほか無
い九頭龍閃を到底迎撃できぬと瞬間的に判断し、胸を爪で横一文字に裂きながら脱出した。山彦をかけられなかったのは、
例の風閂のカウンターを期待したのもあるが、それ以上に、背後から神速で突進してゆきすぎる技など視界に収めようが
ないからだ。

 そのすぐ傍を、流れるような金髪を持った剣客が通り過ぎる。犬飼をさらい、横目で「フ」と笑ってくる美丈夫に、さしものイ
オイソゴも氷結した。総ての風閂が断たれて舞っている事実にもだが、それ以上に!!

(総角主税!!? 銀成でうぃる坊の時日監獄に封印された筈の貴様がなぜこの決戦場に!!?)
「フ。紆余曲折説明してやってもいいが」

 予想外の事態に本来の大敵を不覚にも忘失した彼女のすぐ! 右で!!

「どうやら無さそうだぞ、そんなヒマ」

 音楽隊首魁の声に合わせるよう稲光と共に出現した流線型の髪型の忍びが!
 マフラーを翻しながら空を裂き……刀と共に直進する!!

 根来忍!! 総角と示し合わせたのかどうなのか! とにかく『金』髪の剣客の作った最大の隙を、常軌を逸したタイミング
で! 彼は! 衝く!

(ちいい!! れいびぃずで山彦ができのうなった”たいみんぐ”で来よるとは……!!)

 右の根来に向き直り、せめて一撃だけでもと形見を抜きかけたイオイソゴ。だが彼女は一瞬の眩暈を感じる。

「忍法、かくれ傘。──」
0064永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:27:32.42ID:2iyG2ofA
 詩(うた)うような声の中、眩暈と、それに伴う時よどみの解除をもたらしたのは銀光である。厳密にいえば、傘の内側に
貼られた鏡である。鏡中の根来は薄く笑う。冷淡に、冷淡に、あざけ笑う。

(右ではなく、左か!!)

 がばと向き返る。
 根来忍法など知り尽くしている筈のイオイソゴが、忍法かくれ傘という、鏡張りで、催眠作用のある有名な忍法にまんまと
引っかかったのは、総角の予想外の出現に少なからず動揺していたからだろう。
 だから、鏡に映された、大本の、左の根来のシークレットトレイルの利剣きわまる破壊力は、やすやすとイオイソゴの章印
に迫った。
0065永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:28:12.52ID:2iyG2ofA
 それが分かったから──玖の突きの変形で章印を貫かれるのを恐れて九頭龍閃を避けてもいたから──死兵の狂乱
の勢いで形見の一撃に移るイオイソゴ。右に気を取られた出遅れを一瞬で取り戻した体裁きは戦歴500年ならではだろう。

 だが、つんのめる。

「忍法、傀儡廻(くぐつまわ)し。──」

 奇怪や奇怪、根来のほうり捨てたイオイソゴそっくりの土人形が、中空でこれまた根来の投げた竹箆(たけべら)に掠って
ぐるんと時計回りを1つ打った瞬間、イオイソゴ本人もまた同じ動きで体勢を崩した。人形を使った一種の呪術操作である
らしい。

 だがきりきり舞いを演じながらも双眸戛然、ポケットから形見を抜き出したイオイソゴもまたさる者。狙うはむろん根来、す
ぐ前の、根来。

「秘剣! 『牢の御剣』!!」

 その全貌は、抜く手も見せずといった速度だったし何よりこれを見た犬飼自身の視界が失血で霞んでいるからよく分から
ない。とにかく根来めがけ残影けぶりつつ翻った銀閃は短刀ほどの長さであった。(今まで耆著と忍法しか使って来なかった
癖に……)! そう犬飼に歯噛みさせる太刀行きの速さよ、気迫とあいまり周囲には、うっそりした古怪きわまる竜胆色の鬼
火さえくゆって見える! しかも雄渾! 金剛力をも孕んでいる。

(ダメだ当たる! いくら根来でも……!!)

 けくっとノドを鳴らす青年の遥か前で牢の御剣はとうとう胴ごめに斬り飛ばした。

 自爆寸前の、キラーレイビーズCDを。

(ば、ばかな!!)

 さすがのイオイソゴも双眸を剥く奇ッ怪千万!

 入れ替わっている! 先ほど遠ざかった筈の軍用犬が先ほどまで傍に居た根来と、入れ替わっている!!

「フ」

 一度見た武装錬金であればコピーできる金髪の美丈夫は瞑目し、静かに笑う。

 軍用犬の背中に仕掛けられている赤い筒は、正式名称を百雷銃(ひゃくらいづつ)と、言う。セットされた物体は攻撃に応
じて自動(オート)で入れ替わる。一番近くにある同様の、物体と。

(おぼろげながら見た……)

 犬飼は唖然と反芻する。最初は、傘だった。イオイソゴがその幻妖に眩暈を催したまさにその瞬間、総角は鳥形態に変形
せしめた百雷銃を2つ飛ばしていた。犬飼のぼやけた視界は詳しい形まで分からなかったが、予め聞いていたその特性か
らそう彼は類推した。

(片方は木星の幹部に視線を移される前の根来に、もう片方は傘の柄に。後者に、傘を見ていた頃のイオイソゴが気付か
なかったのは……動揺や眩暈もあるけど)

 傘が、広がっていたのも大きい。総角はその死角に百雷銃の航跡を合わせたのだ。

 そして傘にセットするや、同様の処置をキラーレイビーズCDに敢行、間髪居れずこれに無造作な裏拳を敢行。ちょうど
イオイソゴが傀儡廻しによる時計回りを終えた頃の話だから傘⇔軍用犬の入れ替わりは知られるコトなく静かに完了。
 そして軍用犬は根来への牢の御剣着弾をキーに彼と入れ替わり、現在に至る。

 総角主税はイオイソゴに告げる。切れ長の瞳を細め厳かに告げる。
0066永遠の扉
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2018/06/10(日) 03:28:39.50ID:2iyG2ofA
「戦闘の全容はわからんが……俺に分かるのは1つ。フ、1つだけだイオイソゴ」

 牢の御剣で胸腰を異にした衝撃でキラーレイビーズCDは自爆を早める。

「それは未熟なれど懸命に戦い抜いた男の、魂が込められた一撃……! 逃げ得は許さん。最後まで……味わえ!」

 一度は避けられかけていた犬飼の武装錬金決死の大爆発が……イオイソゴを怯ませた。
 先ほど同様の行為に対し行われた忍法肉鞘はコーティング必須のわざゆえどうやら短期間では補充できなかったと見え、
哀れ忍びは金蛾の如き火の粉に彩られるだけでは許されず、体内で増殖途中止まった風船爆弾の、急激な温度上昇に
端を発す内部の膨張破裂の痛覚の濫発に不覚ながら硬直する。

 だが呆気なく追い詰められているというなかれ。通算でいえば彼女は5人を相手どっているのだ。犬飼、円山、根来、
総角……そして盟主。最後の一名の出奔で篭城構想を崩され、耆著を裂く破目になり、犬飼と円山の正に膏血を絞った
知略戦の前に総角の奇襲を許し、根来にすら介入され、今に到る。むしろこれだけの不利の中、自身が選んだ心臓の
傷以外に重傷らしい重傷を負っていないコトそれ自体が既に魔人。

(そもそも”といずふぇすてぃばる”……!! 忍者(わし)を忍具で嵌めるとは……!!)

 イオイソゴ、犬飼に肩を貸す総角を睨む暇もあらばこそ。

「忍法逆流れ。──」

 契機は陰鬱たる根来の声。逆転する彼女の視界の天地が、更なる混乱をもたらした!! 

(たたみ、かけよる…………!!)

 イオイソゴの視覚と感覚は乖離した!! 足の裏が確かに『下』で大地を踏みしめている実感があるのに、目に映る光景
はまるで自分がコウモリの如く天に足をつき大地を覗き込んでいるような代物だ。その不一致が入眠時のような無用の落下
感をもたらす!! 

 しかも根来はもう寸隙なる右から来ている! 一度はイオイソゴが目を離し意識を外した右方から、橋頭堡(トイズフェス
ティバル)の特性に、入れ替わりに、根来の方はまったく怯まず攻撃を続行できているのはかつて本来の持ち主と戦って
いたればこそ。しかも総角はその戦いで間接的にとはいえ根来と敵対していたから、或いは咄嗟即席かも知れぬこの連携
に両者よく識るトイズフェスティバルを選択したコピーキャットの判断もまた叡哲と言わざるを得ない。

 そこが入れ替わりを予期できなかったイオイソゴとの決定的な違い、アドバンテージ!!

 根来はゆく。千歳から光を奪った木星のもとへ
 恐るべき怒りと、殺意に、ただでさえ峻険と釣り上がっている瞳をいよいよ魔王の如く尖らせて──…

 犬飼決死の攻撃で、磁性流体化が解除されている章印へと!

 刃を、進める!!!






 そこまで目撃したあたりで意識を入滅の如く墨に染める犬飼倫太郎!

 波濤の如き連撃に苦慮し、悶え、脂汗まみれのイオイソゴ=キシャク!

 状況が状況ゆえに蚊帳の外であるが、錐が迫り絶体絶命だった円山円!

 三者の運命や、いかに──…
0068永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:20:47.99ID:+1rFHYEW
第107話 「緒戦の終わりに」

 振動が覚醒を促す。呻きと共に取り払った深淵の向こうに細道が広がった。頬に当たる冷えた微風の心地よさにしばし
前のめりのまま、ぼうっと所在無げに正面を眺めていた『彼』は「えッ!?」と鋭く叫び上体を起こす。その拍子に転がり落
ちそうになってようやく彼は自分が何かに乗せられ運ばれているのに気付いた。

「フ。気付いたか」

『彼』の覚醒を決定的にしたのは、やや前方で振り向く長い金髪の男だ。(確か……音楽隊の、総角……!) そう思った
『彼』が反射的に左右を見渡したのは、激闘の映像が怒涛の如くフラッシュバックしたからだ。

 敵は、いない。面食らった様子で振り返ると森はもう100mほど後方に遠ざかっている。乗っている『何か』は主婦の乗る
スクーターぐらいなら追い抜けそうな速度だ。勘案すると森を出てまだ間もないらしい。

(あれから何が……? いや! そもそも!!)

『彼』はただただ愕然とした。何しろ生きて森を遠ざかるコトなど絶対ないと思っていたのだ。頚動脈を自ら切り、その出血
すら枯渇によって停止したのを確かに覚えている。

「なのになんでボクは生きてる! 答えろ! 総角!!」

『彼』……犬飼倫太郎はたまぎるような悲鳴を上げた。(ま、まさか死後の世界だったり……? コイツともどもやられた……?)
という益体もない考えが浮かんだが、果たして有り得るのかと思う。自分ならともかく、仮にも音楽隊の首魁が、あらゆる武装錬金
を操り、剣腕においても早坂秋水と互角以上の男が殺されるコトなど有り得るかと聞かれれば否だろう。

(だってさっき、根来だってあの場に……)

 そもそも犬飼は辛うじて生きているという感じでもない。連休の中日(なかび)の、たっぷりした睡眠から目覚めた朝のよう
に精気が満ちている。(だいたい、血が……)とひらひら何度も翻した掌も、ふっくらした血色に彩られている。普通なら絶対
ありえない現象に、「まま、まさか、死ぬ直前の夢だったりしないよな!? 目覚めたらイオイソゴに喰われているとか嫌だぞ!」
と救いを求めるよう総角に叫ぶと、彼はやや表情を引き攣らせたがすぐ悠然と

「フ。現世であり現実さ。お前が生きているのはだな」
「衛生兵の武装錬金よ」

 艶やかな声に右を向くと、何かに跨っている円山円が居た。(えッ!!) 犬飼の顔面は崩れた。言葉の意味より彼が健在
であるのが意外だったのだ。先ほど左右を見たとき認識できなかったのは意識のどこかにまだ靄がかかっていたせいか。

「お、お前、無事だったのか!? 木星の幹部の錐が直撃しかけてたよな!? どうやって避けた!?」
「あー、そっちは」
 ニアデスハピネスさ。得意気に告げる総角の説明は、自画自賛と勿体つけに塗れていたが、要約するとこうだった。

「イオイソゴに九頭龍閃を見舞う直前、俺はニアデスハピネスを飛ばしておいた。森の出口で風船スーツを割ったあの錐の
目指す先が気になったんでな。あとは円山の気配とか、錐の殺意の向かう先とかを探って」
「本当直撃寸前だったけど、何とかあの錐の爆破が間に合い難を逃れたって訳」

 で、ハズオブラブだったかしら、総角が金星の幹部からパクってた衛生兵の武装錬金で完全回復。ぴかぴかツヤツヤの
状態で嫣然と微笑む円山に(そういえば盟主の特性合一で負わされた傷も……)治っていると犬飼は呻く。

「で、そいつでお前も治したんだが、フ、実をいうと相当危なくはあった。何しろ頚動脈を切ったんだからな」
「…………」
「ハズオブラブ。本家は蘇生能力すらあるが、俺のこれが治せるのはせいぜい24時間以内に負った傷ぐらい……」
「総角の見立てじゃ、あと10秒施術が遅かったら死んでたそうよ」
 でもまあ、助かって良かったわね。からかいの中にどこか嬉しさを混ぜて声を弾ませる円山だが、犬飼はみるみると蔭を
濃くした。
「…………ざけるな」
「ん?」
 幽鬼のような声をさすがに聞き逃したらしい金髪の美丈夫が目をパチクリしたのが呼び水、怒声が大地をつんざいた。
0069永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:21:07.54ID:+1rFHYEW
「フザけるな!! どうして助けた!!? どうしてあのまま死なせなかった!!!」
 なぜコイツは怒ってるんだという顔をする総角。円山は「……あ、そういえば」と何かに気付く。
 2人の反応に犬飼はいよいよ声を荒げる。
「『また』だ!! またボクは! 怪物の手で!! 怪物なんかの……手で…………!!!」
 生き延びてしまった、生き延びさせられて……しまった。そうザラつく声は次第に涙声へ変じていく。
「大戦士長だって……殺されたんだぞ……! 生首になっていましたとどうして報告できる……! 合流できたとして……
どうして…………!」
 ボクにはもう先なんてないのに、どうして…………! 洟をすする音に怨恨すら混じる。
(……なるほど、そういう理屈か)
 戦団と共闘する都合上、総角だって奥多摩の一件は知っている。円山に到っては直前の現場に居た。
(ヴィクターV武藤カズキに情けをかけられ生き延びてしまったのを恥じた犬飼ちゃんは、”だからこそ”木星の幹部との
戦いであれほど命を賭けられた。『生首』に行く末を悟り……当てつけるように、死に場所を捜すように……)
 その、結果が……ッ! 握った拳の内側から血の筋が何条も垂れるのも構わず、犬飼はなおも力を込める。
「あれだけやった結果が……、また……だぞ!! また怪物に……音楽隊のホムンクルスに……助けられて終わりとか
やっと得られそうだった恩賞すら取り消しの状態で……生き続けろとか…………フザけるな。フザけるな…………!!!」
 いつしか彼は大粒の涙を流している。臆面もなく俯いて、眼鏡に裏側から熱い水滴を落としている。無念と慙愧の戦慄き
は子供じみてすらいる喉の痙攣となって大気を鼓(こ)す。

(こういう時、なんていってあげればいいのかしらね……)

 円山は珍しく斟酌する方向で思案する。これまでからかってきた犬飼だが、先ほどの戦いで見せた策謀と気骨ですっかり
見直しているのだ。”それ”を伝えても、”それ”が怪物に助けられた命を散らす一念から出たものである以上、奥多摩の
二の轍となってしまったこの結末の中では到底なぐさめには成り得ないだろう。

「フ」

 総角は、笑う。

「犬飼……だったな。そこに不満を抱くのはな、結局、お前がまだ、どうしようもなく弱いからさ」
(ちょっとソレ言う!!?
 円山はムっとした。実際この発言で犬飼の目が憎悪に黒く燃えるのも目撃した。
(ああもうこれじゃ繰り返しになるでしょ!! ヴィクターVに抱いていた怒りの対象が今度はアナタに移るだけで!!!
そしたらまたどっかで犬飼ちゃんがヤケ起こしてああいう無謀な戦いを……!!)
 人間とは不思議な物で、自分が軽く扱っている存在が、さほど親交のない者に嘲弄されると『いやいやそれは言いすぎ
でしょ』と擁護したくなる。だいたい犬飼が──屈折した思いの末とはいえ──自分を逃がすため命を張っているのをずっと
感じてきた円山だ。男性的な側面では仁義があるし、女性的な側面では胸キュンがある。
(それを最後ちょっと出てきておいしい所かっさらったアナタが馬鹿にする!!? 冗談じゃないわ縮めてやるわ!)
 もっとオブラートに包んだ言い方もあるだろうとバブルケイジを飛ばしかけたその時、金髪の美丈夫は軽く目で制し……

「フ。未熟さ未熟さ、ああ未熟」

 ボルテージを高める犬飼に構わず、顎で、しゃくった。彼を乗せている『それ』の頭部を。

「自分が何に乗っているかさえ気付かないうちは……フ、まだまだ未熟と知るがいい」

 何を……と総角の視線を手繰った卑屈な青年の動きが固まる。

『何かに乗っている』という感覚から彼は無意識のうちに自分がキラーレイビーズに揺られていると思っていた。何故ならば
追撃戦の最中ずっとだったからだ。

(けど……)

 考えてみれば4頭の軍用犬は総て自爆したではないか。しかも犬飼は直後に気絶……。再発動のしようはない。

 ならば、である。

 犬飼倫太郎を背に乗せていた武装錬金は……『何だったのか』?

 ……正体を見極めた彼は運命の数奇を痛感した。
0070永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:21:33.21ID:+1rFHYEW
「これは……じいちゃんの…………」

 犬飼の祖父の、探査犬の武装錬金、バーバリアンハウンドだった。

「ば、馬鹿な!! なんでここにある!!? じいちゃんはとっくに死んだんだぞ!! 核鉄だって戦団に返した!! 現存
している筈が……!!」
 はあ。円山は嘆息した。
「ニブいわねえ。さっきまであれだけ鋭かったのに……」
「いや分かってるなら説明しろよ円山! どういうコ……あ!!!」

 犬飼は、気付いた。創造者本人が死んだとしてもその武装錬金を『複製』しうる存在がすぐ間近に居るコトに。

「フ。御名答。10年前コピーしていたのさ。そしてやはり孫だったようだな」

 音楽隊リーダー、総角主税はしてやったりと微笑する。そんないかにも挫折しらずな態度が、落ちこぼれの怒りをます
ます誘う。

「コピーしたって……いったいどうやって!!?」

 本人からの提供さ。美丈夫は歌うように答える。

「話すと長くなるが『持っていた方が役立つ』だろうと見せてもらった。軽くだがハンドラーの講習も受けたぞ?」
「……だ! だから何だっていうんだ!!? ボクがまた怪物に無理やり命を拾わされたという事実に変わりは──…」
「ある」
「はあ!!? なんでだよ!!」
「バーバリアウンドハウンドだからだ。俺をお前の元まで導いたのが、お前の祖父の、バーバリアンハウンドだからだ」
「…………!!」
「フ」

 唇を綻ばせながらも少し真顔になった剣客は、口調を一転、諭すように話し始める。

「紆余曲折を経て銀成からこの付近へ転移した俺は、他の戦士と合流すべくバーバリアンハウンドを展開していた。錬金術
の産物を嗅ぎ分けるこの武装錬金なら、既に現着している戦士たちをたちどころに見つけられる……そう考えてな」
「……」
「で、しばらく進んだ所で、お前たちの戦っている現場に導かれた訳だが……」
「……」
「バーバリアンハウンドはな、犬飼、迷うコトなくお前を向いた。すぐ傍にイオイソゴが居たにも関わらず、お前の方を」
「……そんなの、たまたまじゃ…………」
「かも知れないな。だが俺は符合を感じた。犬飼戦士長から孫の話……聞いてたからな。じゃあもしかすると、彼の魂が、
お前を助けろとそう言っているのかなと、思った」
 だから助けた。ハズオブラブで回復させた。それだけさと告げる総角に、らしくもない感傷が漂っているのを円山は見た。
「……俺自身、バーバリアンハウンドにはな、結構……助けられていたりするんだよ。戦団に26個もの核鉄を献上できた
のだって、それで処刑を免れたのだって、元はといえばこの武装錬金のお蔭だし……。貴信や香美のような、絶体絶命の
場所にいた連中を見つけたコトだって一度や二度じゃない」
 みるまにキザったらしさが抜けていく口調は、『素』のものであるのかしらとも円山は思う。
「…………」
「だからな。お前の祖父に助けられていた俺という命が、お前という孫を見捨てるというのは……できなかったんだよ。そ
れで不快な思いさせたつうなら謝るけどだな、でもお前、死ぬっつうのは本来イヤなコトだぞ? 本人がどれだけ満足して
ようが、遺された方は絶対に後味悪い思いをする。なぜ助けられなかった、なぜ助けようともしなかったと……」
「……。じゃあお前は、怪物(おまえ)の満足のためにボクに屈辱的な生き方しろっていうのか…………?」
「そこさ」
「は?」
「そーいう物の考え方自体が既に弱者だと思うがな」。やや従前の、スカした眼差しに戻った美丈夫は得意気に片頬を釣り
上げた。「怪物に生かされる』……? フ、そんなもの、しみったれた隷属根性だろ?」
 言わせておけば……凶相で歯軋りする青年から飛び散る殺意の輻射をしかし涼しげに受け流した総角は犬飼の額に人
差し指を突きつける。先ほどまでキラーレイビーズで先行していた筈の彼が距離を詰めているのは、鮮やかな軍用犬捌き
でスルスルと、瞬く間に接近したからである。
(クソ……! もう使いこなしてやがる……!!) 総角に武装錬金を複製された者なら必ず一度は催す器用さへの怒りに
眉も頬も強張らせる犬飼。その額の皮膚を人差し指の爪で以って軽くへこませながら総角は、告げる。
0071永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:21:50.10ID:+1rFHYEW
「覚えておけ」

 奇妙な符牒がある。

 同刻。

 どこかの、暗い一室に放り込まれた戦部厳至は、去り行く盟主の後姿を獰猛なる狩人の笑みで見送っていた。

「覚えておけ。強者は怪物に生かされようが何の屈辱も感じない。『ラッキー、次は殺す』とせせら笑ってハイ終わり。世界は
自分を生かして当然なのだと付け上がる。それができないのは要するに諦めているからさ。気まぐれで自分を生かしやがっ
た奴を絶対斃せないと無意識にそう決め付けてしまっているから……命を支配された気分になって、だから……恨む」
(…………!)
「だいたいだな、お前はヴィクターV武藤カズキを怪物怪物と恨んでいるようだが、冷静に考えてみたらどうだ? 奥多摩で
出逢ったころの彼はまだ、心身ともに完全には怪物にはなりきっていなかった……だろ?」
 くっ。犬飼は致命的な衝撃に顔を歪ませた。
(うんまあ、そうではあるわね。再殺対象ってコトで私たちみんな追い立てていたけど、戦団の予測では、カレのヴィクター
化完了は夏休みが終わる頃。で、私と犬飼ちゃんがカレと遭遇したのは夏休み序盤)
 じっさい武藤カズキの肌はヴィクターのような赤銅色ではなかったし、エナジードレインだって常時ダダ漏れではなかった。
「進行はしていた。されど進行に到るきっかけは彼自身が望んで引き寄せたものではない。いわば……被害者だろヴィクターV
は。そりゃ犬飼よ、お前の憤りは分かる。俺だって捻じ伏せられたあげく上から目線の説教をトドメ代わりに叩きつけられた
ら快くは思わんさ」
 けどな。よーく考えてみろ。総角は、説いた。
「お互い様って感じはしないか?」
「は?」
「だから、腹の立つコトを相手に仕掛けたのはお前だって同じだぞ? だってヴィクターVは被害者……だからな。正しい
心でただ戦士として頑張っていただけなのに、ある日トツゼン化物認定されて追われる破目になった。それでも人間に戻る
ための手がかりを掴みたいから、そのために人を傷つけたら本当に怪物になってしまうから、だから道を開けてくれと、戦
う前に頼んだであろうにだ」

「お前、問答無用で殺しにかかっただろ?」

 犬飼は黙った。ひたすらに黙った。ひたすらに黙って、空気のカタマリを半ばで留めた首をば軽く伸ばし──…

 当時の自分の振る舞いを反芻した。


──「遊びなら帰れだと? ハイそうですかって訳にはいかないね!」

──「貴様を斃して手柄を挙げておけば、次はもっと楽しいヴィクター退治が待ってるんだよ」

──「降参しても許さないッ。女戦士と三人一緒に、逝 け !!」

 嫌な汗がダラダラ流れ始める。理詰めで自分の罪を完膚なきまでに叩きつけられとき特有の、足元が崩れそうなヒリついた
浮遊感が全身を支配する。

「フ。そうさ。お前だって、ヴィクターVに大概なコトしたよな? 追われるっていうドン底の状態で、なおも正しいコトしようと
足掻いてるだけの少年の、未来とでも呼ぶべきものをお前は刈り取ろうとしてたんだからな?」

 それは犬飼の相手に対する怒りの根源とほぼ同形だった。

(揺らいでる揺らいでる)

 円山は犬飼を楽しげに見た。

「なのにお前……『助けられた』からな?  見殺しにされても仕方ないコトしたのに、救われた……からな? なのに恨むっ
てどうなんだ? 明治時代にアームストロング砲で牛鍋屋ふっとばした幕府方でさえ最後には武士の誇りを取り戻して命救
われたコト復讐相手に感謝したのに、お前は今のままで本当にいいのか?」

 ホ、ホムンクルスなんかに説教される謂れ……犬飼は声を張り上げようとするが、意気はいまいち上がらない。
0072永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:22:11.00ID:+1rFHYEW
「フ。つまらぬ怒りに支配されるのは自信がないせいさ」
 フキダシが犬飼の左胸を貫通した。小言は更に続き、その総てのフキダシはプスプスプスプス犬飼の全身を穿った。

「っの! 言わせておけば……!」

 逆上し、拳を振り上げかける犬飼だが、

「フ。そろそろ自信と言う奴を持ってみたらどうだ? お前はあのイオイソゴと知略で渡り合ったんだぞ? 生きて研鑽を積みさえ
すれば今は無理でも1年後2年後は強者になれるかも知れないのに……今日その切符を得たというのに、お前はまだ、死に
たいのか? 可能性を捨てる姿勢(ほう)にしがみつくのか? 以前の、嫌いで、不活発だった頃の自分を保ちたいのか?」

 思わぬ言葉に殺意が萎む。

「『祖父の救った奴が人を救う』……それに憧れ命を捨てたがってる風に見えるお前なら、強者の理念で割り切ればいいさ。
『間接的にとはいえじいちゃんに助けられた音楽隊首魁がその恩義を自分に捧げた、救命という形で献上した』……とな。
フ。どうだ円山この理論。これなら怪物ではなく人間に救われたというコトになるだろう」
「ならないわよ。詭弁もいいトコ」
 円山は微苦笑するほかない。
「そうだ。そんな理屈で…………納得できる訳……ないだろ」
 俯く犬飼の震えはもっともだ。彼にとって総角など、人生にポっと出てきただけの男ではないか。ホムンクルスでもある。
そんな男の言葉に感銘を受けられるほど素直なら、そもそも『ヴィクターV』にあれほどイラついたりしなかった。
 という機微を朋輩ゆえ分かる円山が先ほどから掛けるべき言葉を模索しつつも手詰まり感の前に沈黙せざるを得なかっ
た……というのは前述の通りだが、彼は、ふと、気付いた。
(総角いま、さらっと大事なコト言ったわね)

『祖父の救った奴が人を救う』……それに憧れ命を捨てたがってる風に見えるお前。

 この初耳のアイデンティティ、今まで犬飼が、からかわれるのが嫌で決して話さなかったであろうこの秘密を円山は衝く。

「でもさあ犬飼ちゃん」
「……。なんだよ」
「あなたに続く人って……生まれた?」
「何の話だよ! よってたかってエラそうに説教しやがって──…」
「聞いて」
 らしくもなく円山が真剣な眼差しで制すると、青年は、黙った。凛然たる視線に気圧されたらしい。
「あのね犬飼ちゃん。さっきの戦いで思い通り死ねていたとしても……、それでもやっぱり悪く言う人はいたんじゃないかしら。
犬飼ちゃんは、落とし前さえつければ、残った戦士全員、自分を肯定して、二度とあざ笑ったりしなくなると思っていたかも
知れないけど、でもほらニンゲンって、そこの怪物より残酷よ?」
 と顎でしゃくったのはもちろん総角だ。彼は「まぁ、な」と片目つむり肩を竦めた。辛酸嘗め尽くしているむきがあった。
「フ。人の本質の1つだろうな。見下している相手に、自分より大きな戦果を上げられたら……不愉快になりこそすれ、祝福
などしないというのは
 犬飼の表情は強張る。総角のセリフに気付かされた……訳ではない。左様な簡単なコトなど無意識の中ではとっくに気
付いていたのだ。なぜなら犬飼自身そういう類型ではないか。地球を救ったヴィクターVが戦団内において英雄視されつつ
あるのを確かに認識しながらも、助命された怒りのせいで、アイツは怪物だという蔑視のせいで、賞嘆できない……いや、
賞嘆したくないという心理境地に夏からずっと陥っているではないか。
 なのに──命を捨てても、自分が期待したほど周囲は評価を改めてくれないだろうというのを薄々気付きながらも──
一方では、イオイソゴとの戦いで死に向かう自分が必ず総ての戦士から見直されると信じ込んでいたのはつまるところ卑屈
ゆえに長年培ってきた自己愛のせいだろう。『このボクがこれだけやっているんだ、褒められて当然だ』という、人間なら大な
り小なり有している期待感が、人の本性を露にするとよく言われる生死の切所において地金を覗かせるほどに、犬飼の人間
への認識は、甘かった。さんざん見下されてきた癖に……というなかれ。不思議な話だが、さんざん見下されてきた者ほど
『大きなコトをやりさえすれば認められる』といった認識が甘く大きくなる傾向にあるのだ。

「じゃあ……どうすりゃいいんだよ。大戦士長は殺された。ボクは怪物に永らえさせられた」

 私には分からないけど……と前置きした円山は云う。

「人に認めさせるっていうのは、人を動かすってコト……よね?」
「……ああ」
0073永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:24:42.92ID:+1rFHYEW
「じゃあアナタが犬飼戦士長にあれだけ動かされていたのは……どうして? 彼が捨て鉢だったから? あの人の何が、
アナタの心をあれほどまでに捉えていたのか…………」
 私は人の心を洞察するガラじゃないけど、さっき戦部がアナタの心とか、セリフを、そっくりそのまま返すコトで……結果
的にだけれどアナタの考えをまとめるきっかけを作ったでしょ、だから私も似たようなコトをすると麗人は続け、
「いまアナタがどうしようもない状況になっているのは分かるわよ。大戦士長が首だけにされて、なのに一番戦犯にされや
すいアナタは生き延びてしまって、素直に報告しても、しなくても、得られる筈だった栄誉は遅かれ早かれ喪ってしまう……
確かに辛い状況よ。ドン底ね。私が犬飼ちゃんの立場ならやっぱりね、死んでいた方がマシって思うわよ」
「…………」
「じゃあどうすればいいか……なんて答えは簡単に出せない。出す方が無責任よ。それでもね、考えをまとめるコトだけは
できる。覚悟を固めるコトはできる。要領なんてイオイソゴと戦っていた時と同じでしょ。何が大事で、何を優先するべきかを
ただ整理して順番に実行していくだけでいい。そして犬飼ちゃん、さっきまでソレ、できてたでしょ?」
「…………」
「だったら今度はどうすれば人を動かせるか……人に認めさせられるか……ドン底の中から探っていくコトだって可能……
そんな気には……まだ、なれない?」
「……そうしてきたつもりだよボクは」
 犬飼の口吻には諦観と倦怠が満ちている。正しい道にいけるよう自分なりにあがいてきたつもりなのに、いつだって返って
くるのは心なき言葉……そんな経験則にどっぷり染まってしまっている口調だった。今からまたやり直したいと思っているの
に、大戦士長落命という衝撃事実の咎総てこれから自分から背負わされるのが分かってしまっているから、その辛さが今ま
での比ではないと予想できてしまっているから、だから暗澹にしか振る舞えない……極めて人間らしい失意の底に彼は在る。
「でも……アナタだって、人を動かせるから」
 円山にはもう計算はない。思ったままをただ告げて……笑いかける。いつもやっている見下しの笑いではない。好意の
たっぷり詰まった微笑である。らしくもない表情にきょとんとする犬飼に、重ねて麗人……宣告した。
「私を逃がすため、あの木星の幹部に1人立ち向かっている時の犬飼ちゃんは……カッコよかったわよ? おかげで私は
救われた。命をあの恐ろしいイオイソゴから守ってもらったから、だから私はこれから先、何があっても犬飼ちゃんの味方を
する。約束する。誰かがヒドい言葉を投げかけた時、私はさっきの戦いを語り弁護する。ね? だから……ソレって、動かさ
れてるってコトじゃない? 犬飼ちゃんの一生懸命な戦いは、人を動かす魅力があるって、そんな感じがしてこない?」
 犬飼は無言で頬をつねった。さもあらん、円山円とは斯様な台詞を吐く者であったか。
「……失礼ね」
 彼は……そう、『彼』は唇と双眸を尖らせて抗議する。そのくせ頬だけはほんのり紅い。「あー」ときまりが悪そうにボヤいた
のは総角だ。キザったらしい彼でさえ一瞬迷うほどの色香が散ったのだ、円山から。
「いくら私でも、命を救われたら最低限の礼儀ぐらい尽くすわよ。だいいち今まで通りじゃ痛い目見るってこの夏学習したのは
犬飼ちゃんだけじゃないし……!」
「……だったなあ。お前も、津村斗貴子に、なあ」
 縮めて鳥カゴで飼おうとしたら体内から胃を裂かれた……そんな経験が若干ながら改心を誘っているらしい。
 ただ円山の妙なしおらしさには犬飼ならずとも戸惑うだろう。だいたい妙に艶かしい表情には(こいつ男だからな、男……
だからな)と、余計な葛藤さえ生まれてしまう。
 が、人として、ちゃんと向き直られると、落ちこぼれの弱味、誠実に向き直らずに居られないのが犬飼だ。
「まず断っておくけど、ボクがお前を救おうとしたのは個人的な好意じゃないからな? あくまでバブルケイジの特性が伝令
向きだから、こっちが足止め引き受けて、結果守るカタチになったってだけで、だから、なんだ、暖かな感情で守ろうとした
訳じゃない……ってのは理解した上での話だよな、味方の件は」
「ええ」
「あと……総角が来なかったら死んでたってのも織り込み済みか? 白状するけど、最後のアレだけはもう、ボクではどう
しようもなかったからな?」
0074永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:25:10.16ID:+1rFHYEW
「ええ。承知してるわ。でも総角が到着するまで、大木とか、鋭い枝とかから守られていたのもまた事実でしょ? 動機は
どうあれ守られたのは事実。なのに伝令の役目が終わったら犬飼ちゃんを馬鹿にする側へ回るとか……最低でしょ?」
 だから私はアナタの味方をする。それでイイじゃない。うんうんと円山は1人かってに納得して頷きまくった。
 が、犬飼はまだ納得した様子ではない。(やっぱホントは死後の世界だったりするんじゃ……)とか、(実はイオイソゴの
奴に忍法ナンタラで乗っ取られているとかそんなオチがあったりは……)とか色々不安げに瞳を泳がせる。

「私じゃ……不足……?」

 円山は双眸を潤ませた。可憐な少女のような、たおやかな問いだった。

「わああ!! やめろそういう表情やめろ!! 分かったから!! み! 味方してくれるならそれに越したコトないし、感
謝もするから!! だから女っぽいカオだきゃするな頼むから!!」

 奇妙な友誼(?)が結ばれた。

「フ。イイ感じのところ恐れ入るが、犬飼に円山よ、俺はどう扱う? いちおう命の恩人だと思うが?


「どうせレティクルが片付いたら次は音楽隊……だろ?」
 涙の塩分を除きたいのだろう、眼鏡を取った犬飼は睨み据えながら宣告する。
「倒すよいつか。さっき言った色々……許しちゃおけない」
 などといいつつ笑みを浮かべ、総角も呼応するから円山は分からない。
(英雄じみてしまったヴィクターVよりかは復讐しやすいってコトなんでしょうけど……言葉の割りに爽やかねえ。もしかして
満更でもない? 総角のコト)

 よく、分からないが。
 いつか倒すの”いつか”まで生きるコトにしたのは……確かだろう。『ヴィクターV』の後よりも一歩先に、ようやく踏み出せ
たらしい。

「…………」

 涙まみれの眼鏡をどこからともなく取り出したハンカチで拭く犬飼の表情は、長年の強張りの溶けた、安らかなものだった。

(…………悪いコトをしたんだな、ボクも、ヴィクターV……いや、武藤カズキに…………)

 認めたくないコトだが、それを認めて強さを得られたのが後にタングステン0307と呼ばれる追撃戦だから

(……もし再びヤツに逢える日が来たのなら、復讐よりも、まず──…)

「フ。という訳で、お前の武装錬金、これから使わせてもらうからな」
「い? あ゛! お前!! そういや乗ってるのレイビーズじゃないか!!」

 驚きのあまりレンズが割れ、叫びは更に跳ね上がる。

「なに許諾取った感じになってるんだよ! というかさっきからずっと乗ってたよな!? ボクが目覚める前から無断で使って
たよなソレ!!」
「フ。報酬として割り切ってもらおう」
「何が報酬だ! 命助けたのはじいちゃんへの義理って感じな話の流れだったろ!!」
「それはそれ、これはこれ。フ、お前の、救われたコトに対するわだかまりを溶くための、説法の料金って奴さ」
「だから!! 完全に割り切ってないし!! ああもう使うな! 解除しろよ!!」
「諦めなさい犬飼ちゃん……。私だってバブルケイジ……盗まれちゃったのよ……」
「フ、こっちは治療代。ついでにいうと激戦もな」
「ハア!? 待ちなさいよアナタ激戦は見てないでしょ!? 戦部のDNAだってこの辺には……」
「いやあった。円山(オマエ)の服に戦部の血が付いててラッキーだった」
「えなんで私のに……あ!! 真っ二つになった時! 盟主の一撃から私庇ったとき飛んだ血!?」
「だろうな。もしやと思ってさりげなく採取したら思わぬ超絶レアで俺もビビった」
「ビビったじゃない! お前どこまでパクるつもりだ!! ああもう倒す!! 絶対倒すからな!!!」

 瞳を三角にして怒鳴る犬飼に、「フ、いまや激戦とシルバースキン併用できる俺をか?」と線目で耳ほじりつつ応じる総角。
0075永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:34:13.56ID:+1rFHYEW
 ともかくも犬飼倫太郎、円山円、総角主税……合流地点へ!

 更に総角主税、【キラーレイビーズ】【バブルケイジ】【バブルケイジAT】【激戦】……ゲット!


「あ」

 犬飼は気付いた。肝腎なコトを聞きそびれていると。

「……オイ総角。根来は……どこだ? それからイオソイゴも……」

 あの恐るべき木星の幹部が追撃してこないというコトは……犬飼の心に期待が灯る。

「フ。それは──…」
0076永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:34:29.62ID:+1rFHYEW
 右肺が、肋骨ごと断ち割られた。回避運動も空しく、その刃は致命的なまでに直撃した。

 折れた刀を振りぬいたまま、5m前方で磔刑される敵を嗤笑(ししょう)にて見据えていたのは──…


 イオイソゴ=キシャク。


「被弾!? 根来が!!?」

 犬飼にとっては有り得ない局面だった。

「なんでだよ! ボクが最後に見たアイツはイオイソゴの章印を貫く正にその寸前だった!! 向こうだってお前らの連撃で
混乱状態! 盛り返せる訳がないだろ!!」

 責任は、私よ。
 名乗り出たのは……円山。
0077永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:34:47.54ID:+1rFHYEW
「?? な、なんでお前のせいで……!?」

 順を追って話そう。総角の声もまた痛嘆に満ちている。


 根来はゆく。千歳から光を奪った木星のもとへ
 恐るべき怒りと、殺意に、ただでさえ峻険と釣り上がっている瞳をいよいよ魔王の如く尖らせて──…

 犬飼決死の攻撃で、磁性流体化が解除されている章印へと!

 刃を、進める!!!

(もはや回避は不能……!? いや!!!)

 イオイソゴにはまだ切り札があった。
0078永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:35:11.03ID:+1rFHYEW
「忍法山彦。──」

 はてな。だがこの技は『心臓を貫かれたダメージを根来たち3人に返し全員即死』のため温存していたのではなかったか。
当時のイオイソゴはもうレイビーズの爪から抜け出ている。更に剥き出しになった章印を守ろうとする修復作業の余波で、
心臓の穴も埋まっているからとても根来必倒の忍法とはいえぬ状態ではあった。

 だが。

(ひひっ! 即死ばかりが忍法山彦の芸ではない!!)

 イオイソゴ=キシャクはダメージを転写した!! 何のダメージを? 直前のレイビーズCDの自爆のそれ? いや違う!!

(転写、すべきは……!!)

 根来の体の到るところがボコボコと膨れ上がり……爆ぜた。それでも彼は表情1つ変えず特攻を続行したが、やんぬる
かな、破裂の『空気を噴く作用』が姿勢を……崩す。


「ま、まさか、根来に転写したダメージっていうのは……」

 犬飼は蒼褪める。せっかく治癒し血液の戻った面頬が蒼褪めるほどに動揺した。

「そう」
0079永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:35:45.44ID:+1rFHYEW
(ばぶるけいじあなざーたいぷ!! 章印を露出させるため犬飼めが打ち込んだ円山の、無限増殖する風船爆弾の”だめえ
じ”を! 異物感ともども転写完了!!!)

 恐るべき逆利用! 犬飼は震慄した!  ああ! ただの痛覚であれば冷徹なる根来は黙殺し邁進できた! だが! 
『体内で弾ける風船爆弾』というダメージを転写された根来は、その空気を噴くアポジモーターのような作用を体内から強制
的に植えつけられ……斬撃の軌道を逸らされた!!

「イオイソゴから直接見えない場所に飛んでいたのが……災いしたわ」

 血管に墨を流されたような苦渋の顔色で円山が呻くのは、次の理由だ。

「つまりそれは私からもあの場の状況が見えなかったというコト……。もしカウンターの発動に合わせてバブルケイジを解除
できていれば……根来は勝てていたかも……知れないのに」
「……いや、どの道ムリだったさ。体内爆破がなくなれば復活……してたからな磁性流体化」

 或いはそういう二者択一も兼ねたカウンターだったかも知れない、お前に非はないさと告げる犬飼に「……そ? ありがと」
と円山はほんのり赤くなって頷いた。

(やめてそういう反応やめて)、総角は微妙な表情をしたが話を戻す。

「あとは躍り上がって刃を避けたイオイソゴが、幾つもの忍法で牽制しつつ退却へ移行。もちろん俺は根来に加勢したから、
一時はあの場で決着というところまで漕ぎ付けはした」

 しかし。

 胴拍子や弓矢の散らばる戦場で、根来や総角ともども息せき切っていたイオイソゴは再び『形見』……いや、牢の御剣
(みつるぎ)を使用。対する金髪剣士は凌いだあと再び九頭龍閃に移行すべくシルバースキンを発動、忍びは完全回避の
ため亜空間に没した。

「あの刀だ。……あの刀が、俺たちの予想を遥かに超えた威力で…………戦局を、覆した」

 牢の御剣。名称こそ物々しいが、風貌たるやまるで落ち武者の武器だった。まず鍔がない。刀身も柄から30cmばかり
の地点で折れている。総角の乱入直後に犬飼が目撃した牢の御剣の残影があたかも短剣のそれだったのは、つまり折れ
ているからだ。

 その短い刀を、イオイソゴは振った。根来との距離はそのとき彼が現空間を離脱していたため不明だが、総角からはざっ
と10mは離れていた。

 なのに。

 イオイソゴが舞うように一回転した瞬間──…

 地に落ちていた牢の御剣の影が突如として伸びた!! 10m先の総角の影に届くほど、伸びた!!

「その瞬間、シルバースキンの絶対防御を無視した斬撃が俺を薙ぎ」

 犬飼は後ろからだが気付いた。総角が腹部を押さえているのを。赤い水滴さえ乗騎たるレイビーズに点在している。

「そして根来が……被弾した」


 右肺が、肋骨ごと断ち割られた。回避運動も空しく、その刃は致命的なまでに直撃した。

 折れた刀を振りぬいたまま、5m前方で磔刑される敵を嗤笑(ししょう)にて見据えていたのは──…


 イオイソゴ=キシャク。
0080永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:36:29.15ID:+1rFHYEW
「あの刀はどうやら、武装錬金の防御特性を無視できるようだ。恐らくだが、握っているイオイソゴの、磁性流体と化した肉
体から伝播する錬金術的な電磁気力が本来の忍法にはない特性をあの斬撃に与えているのだろう」
「だから『亜空間』という根来の絶対防御陣も突破された……?」

 奇妙な話だが、根来の影はその時どういう訳か……透明な飛沫を吹いた。牢の御剣も、また。

 が、それに構わず彼は真・鶉隠れを敢行! 九頭龍閃で突っ込み辛いんだがと困惑する総角に横目でサインを送る。

「……? そうか! 奴の肉片を」
「回収しろと言いたかったのだろう。そうすれば俺が耆著を使えるようになるからな」 

 総角がコピーの条件はどれか1つ。武装錬金を見るか、創造者のDNAを手に入れるか。前者は当然知悉済みのイオイソ
ゴだから耆著の乱射は総角登場以降ひかえていた。

「ひひっ! じゃからわしの肉片からハッピーアイスクリームを複製させよう……などというのはこの場で勝てぬと認めたが
ゆえの消極的戦法よ!!」

 荒れ狂う忍者刀を物ともせず大股で踏み込むイオイソゴが再び牢の御剣を繰り出したのは、撤退に移行しつつある方針
と一見矛盾するよう思えるがしかし違う。こやつは多少叩いた程度では必ず追ってくる、わしが盟主さまたちの元へと戻る
道中道すがら必ず妨害してきよるから、しばらく行動不能にしておくべき……と考えたが故。
 同時に被弾の衝撃か、根来は亜空間から現空間へ落下した。牢の御剣はその影を狙う、影の刃が、狙う! 通常ならば
避けるべき一撃! だが根来は跪いたまま意外な行動に出る! 左から右にスススと動かした右掌を、地を這う刃の幻影に
なすりつけた! 「あ!」と呻いたのは彼の掌に銀色の分泌液が満ち満ちているのを目撃したイオイソゴ!!

「忍法。──」

 謡うようにささやく根来の手が打ったのは! やがて訪れる共闘における『秘鍵』! 対木星の……切り札!!

「そうか! 総角にDNAを取らせようとした素振りは」
「誘い水だったようね、イオイソゴを攻め込ませるための」

 幻妖も幻妖! 根来は刃の影に怪しげなる銀の斑を施した!! その場に、ではない! 影そのものに! それが証拠
に見よ! 影が動いても銀の斑は刀身の同じ場所にある!

「忍法。濡れぐるま。──」
(虫籠と筏の合作……? ち、ちがう! 根来めは伊賀忍法を使わん! ぐるま? 根来忍法で……『ぐるま』?」

「忍法百夜(ももよ)ぐるま。伊賀にもあるが根来にもある。影に作用する忍法」

 と根来が組み合わせたのは『忍法濡れ桜』! 本来なれば女体に施すべき魔技を根来は影に施した!

「ちい!!」

 イオイソゴが歯噛みしたのは、

(『先ほど自分がやられた合作を』さっそく応用しよったか!! 『忍びの水月の塗り方で』!)

 この局面で新たな忍法を創出されたからだが、しかし牢の御剣そのものは標的との距離を狂気の如く縮め。

 根来、再び被弾。面妖にも影ならびに牢の御剣、今またしぶく──…


「そこで更に牢の御剣の追撃に移りかけたイオイソゴだが、どういう訳か突然、熱に浮かされたような表情になり──…」

 踵を返し撤退。同時に根来も……

「………………」

 出血に蒼白となりながらもチラと振り返り、視線の先、いまだ伏せる犬飼に無言の、されど賞嘆の笑みを浮かべてから。
0081永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:36:59.13ID:+1rFHYEW
 斬りつけた地面へ稲光をば炸(はじ)きつつ埋没。姿を、消した。

「……なんでボクを見て笑ったんだよ…………」
「そりゃ暴いたからでしょ。時よどみとか山彦とかの初見じゃ対応不可の忍法を犬飼ちゃんが暴いてくれたからこそ」

 強烈無比なる牢の御剣に辛うじてだが対処できた、だから礼のような微笑を送った──…

「ね? 犬飼ちゃんが人を動かせるって論拠……分かったでしょ?」
「……”あの”根来ですら、なら確かにそうだけど…………でも全ッ然アイツらしくないよな本当か……?」

 俄かには信じられないという顔でハシハシと瞬きする犬飼。

「フ。どうかな」。総角は肩まである双鬢(そうびん)を揺すった。「そもそもお前たちを捨て駒にしなかったのだって、もしやっ
てそれで勝てたとしても楯山千歳は決して喜ばないから……だろうし」。

「……そーいう仏心みたいなのは外人墓地で見せて欲しかったケド」

 身代わりにされた円山円がイタズラっぽくギョロっと目を剥くのもむべなるかな。

「フ。人は変わっていくものさ。非情だった根来も戦友を得て人間らしい方向へ……」
「つうかお前、逃げる木星の幹部どうして追わなかったんだよ」
 スルーかい。イイ感じで陶酔してまとめかけていたのを犬飼に遮られた総角はちょっと情けなく表情筋を取り崩したが。

「俺も考えたが、奴のいる場所を視て諦めた」
「『視る』? ……まさか」

 そうさ。颯爽と笑う剣客。「俺は九頭龍閃の時あいつの顔を見た」。である以上、総角はイオイソゴがどこに逃げようが一瞬
で捕捉できる。

「なるほどヘルメスドライブ……! にも関わらず根来との戦いで弱っている彼女をワープで追撃しなかったのは、つまり!!」

 イオイソゴは、地中20mを、進んでいた。

 服を含む全身と、牢の御剣と、それから照星の生首を総て総て磁性流体化した状態で、水が流れるが如く土粒の疎をす
り抜けて進んでいく。

「さすがに転移先が土や石の中だと……な、転移したらどうなるか察して頂けるとありがたい。転移後すぐ鐶の短剣で周り
の土の年齢をゼロにする……てのもイチバチなのさ。フ、一帯の年齢が不明だし、判明したところで埋まりながらの斬撃だ
からな、ひとなぎで年齢総て吸収できるかどうか怪しい。バルスカで掘ってもすぐ上から土落ちてくるだろうし……」
(激戦やシルバースキンを装備した状態で行くのなら……ダメね、結局身動きが取れない)

 これでもシークレットトレイルの亜空間に潜む→ヘルメスドライブのワープ で、対象の近くの「亜空間側」への転移が可能
かどうかも検証した身上だが、転移するのはあくまで現空間側だった、だからモグラの如く地中深くをいくイオイソゴの傍には
跳べないと総角は無念そうに語る。

「さっき逢ったのはどうせ任意車あたりの分身だろうとは分かっている。しかし討てればこの世に一振りしかない牢の御剣を
奪えたのも確か……。だからこそイオイソゴは地中に逃げ込んだ訳だ。捕捉されても奇襲されぬ安全地帯へ……」
「……認めたくないがやはり重鎮、か」

 向こうは土中に何がしかのワープ対策の罠を仕掛けているのだろう……と思うのは干戈を交えた犬飼なればこそ。

「負け惜しみになるが、どうせイソゴの行く先は盟主の下……。お前たち伝令を戦士たちと合流させれば自然に追撃する形
になるから、フ、こうやってお前らふたり送ってる訳だな」
「……? 盟主の所在うんぬんが出るってコトは……円山。こっちの事情ぜんぶ話したのか?」
「そりゃま犬飼ちゃんが気絶してる間にね。あとイオイソゴとか根来の忍法の名前もひととおり」
「ちなみにイソゴの使う『折れた刀』は……牢の御剣。かの後醍醐天皇の六男たる『大塔の宮』が殺されつつも噛み折った、
凄まじい由来がある」
 はー、だからこの世に一振りなのね、円山は頷いた。
「フ。そうさ。影を斬れるのは大塔の宮の怨念あらばこそ……。ま、太平記好きにはお馴染みの話ではあるが」
「剣客のお前が詳しいのは分かるけど……なんで忍法まで…………?」
0082永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:37:24.59ID:+1rFHYEW
「そりゃ部下を教育するためさ。フ。全28作の長編と12冊の短編集、俺は全部買い与えたさ」
 何をだよと犬飼と円山は訝しんだ。
「犬型だったっけ? 忍者なのは」
「そ。だから犬飼にも親近感がな、フ、ある」
「馴れ馴れしくしようが倒すからな本当……」
 こりゃつれないと半眼の青年をからかうように眺めていた剣客だが──…

 気になるのは。フと不意に、声を沈める。

「根来の影が飛沫を吹いたコトだ。俺が斬られた時はなかったあの現象もまた何らかの忍法とみるべき。遅効性かつ……
使用回数に制限がある類だろうな、俺にはかけなかったところを見ると。付記すると俺の『フォースクラム』のような、合体型
の気配がする」
「いやそもそも合体とかできるのか忍法」
「フ。できるぞ。任意車って奴と濡れ桜ってのが混ぜられた実績がある。ほおずき灯篭とびるしゃな如来を混用した忍びに
到っては、あの明智光秀に本能寺のきっかけを植えつけたし、ああ、桜花とか有情の特殊空間も合体の一種かもな、総て
の術を無効化する瞳と、総ての術を相手に返す瞳が見詰め合うと特殊な場が出来上がって、死者読んだり知り合いたちと
テレパシーで交信できるようになる」
「用語の意味がさっぱりだ。忍者がムチャクチャだとだけ……」
「桜花……? あ、信奉者のあのコじゃなくて、フィールドの名前ね。ややこしいわ」

 ともかく、根来が牢の御剣の影に仕掛けたのも合体忍法の一種であるらしい。

「影に干渉したってコトは、基盤(ベース)の1つは円山を影縫いにしたアレだろうな。もう1つは……」



「忍法精水波」

 単身盟主の下へ戻る最中のイオイソゴは1人ごちた

「5人の女の愛液を”こぉてぃんぐ”された男を必ず死に至らしめる忍法……! 牢の御剣に順々に浸しておいた愛液を
任意で、百夜ぐるまの応用で、対象に与える……ひひっ、荒唐無稽も極まるわが秘技よ。根来本体ではなくその影に施す
がゆえ、”しぃくれっととれいる”で亜空間に潜り込んでも排除不能……!」

 そしてレティクルエレメンツは恐るべき符合を有している! 10人の幹部のうち女性はちょうど……5人!

 すなわち!!

 クライマックス=アーマード。

 リバース=イングラム。

 デッド=クラスター。

 グレイズィング=メディック。

 イオイソゴ=キシャク。

(ひひっ。今回付与したのは”くらいまっくす”と”りばあす”の愛液よ! ま、まあ、ぐれいじんぐ以外の連中は採取のため
随分と往生したし(特にりばあす)、わ、わしも……恥ずかしい……のじゃが、根来を斃すやこれしかない!! のじゃが……)

 やられたと牢の御剣を見る。磁性流体化でドロドロで、しかも真暗な地中なのに……『影』の一部が銀光りしている。

(く。精水波の要たる牢の御剣の影に『濡れ桜』を施すとは……!!)

 濡れ桜とは如何なる忍法か? 施された肉体の部位の感度を、陰核細胞並みに引き上げる恐るべきわざだ。だがそれを
剣の影にかける? 一見ムチャクチャだがイオイソゴの振るう牢の御剣においてはその限りではない。彼女は耆著の発する
電磁気力を剣と、その影に通すコトで武装錬金の防御特性を無視した斬撃を繰り出せる。そのとき彼女は、剣と、精神具現
たる電磁気力の通脈で1つになっている。剣やその影と一種の神経接続をしていると考えてもいい。で、あるから、影に施
された忍法濡れ桜の淫猥ともいえる感度を甘受してしまうのだ。
0083永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:37:55.37ID:+1rFHYEW
(っ……)

 鼻にかかった甘い吐息を漏らすイオイソゴ。分身はいざしらず本体は清爽きわまる少女であるから、影からの感度は刺激
が強い。強すぎる。

(影を攻められると……隙が……できる……。迂闊には……使えなく…………なった)

 頬を桜色に染め、あえやかな息を弾ませつつ牢の御剣を体内奥ふかくに仕舞い込む。ゲル状の体が影さえもすっぽり覆い、
それでようやくイオイソゴは甘美なる刺激から解放された。

 牢の御剣に制限をかけた根来。その影に忍法精水波を2つまでかけたイオイソゴ。

 先ほどの忍法勝負はどちらが勝ったとも言いがたい。

(なにより……あやつは)

 撤退した理由は牢の御剣の一件だけではない。

 地中に逃げ込む寸前。

 磁性流体化であらゆる打撃斬撃を受け付けぬはずの体のあちこちに、淡紅色の発疹が現れていた。
 果肉を薄く塗りこめたような愛らしい唇がj硬結していたのはその少し前までのコト、この時は端が爛れ、乳白色の汁が染
み出していた。

(唐瘡(梅毒)!! やられた、真・鶉隠れの忍者刀に根来め何か仕込んでおったな!!)

 むろん本来ならどんなに早くとも3年の経過を要する症状の進行だが、奇怪根来忍法! わずか1分足らずでここまで
来た! これぞかの家康の寵臣本多佐渡守を葬った術技とはイオイソゴぞのみ知る事実だが、

(倥(ぬか)ったわ!! 病が病ゆえ、せ、性こ……いかがわしい行為のみで発動すると思っておったのに……しぃくれっと
とれいるに仕込むか普通!!? だいいち”うぃるす”由来だとすればどうやって亜空間に弾かれることなく持ち込んで……
ええい! 考えている場合ではない! ぐれいじんぐの元へ! 早く治さねばこちらのわしが病死する!)

 もう片方のイオイソゴが盟主の傍に居る以上、病死しても魂魄や記憶はそちらに転送されるが、しかし牢の御剣は死亡地点
に落としてしまう。平易な言い方をすれば、『死ねばその時点での所持アイテムが散らばる』ゲームをやっている我々のような
焦燥をイオイソゴは抱いている。リスポーン地点(=盟主のそば)から急いで駆けつけねば伝説の武具が誰かに、それこそ
根来に、奪われかねないと、焦っているから目指すのだ。

(どっちみち盟主さまがそこに居られる以上、向かわざるをえんしな!!)

 速度を、あげる。

 もう1人の自分の気配が目に見えて濃くなり始めた。
 安堵しかけた自分を引き締めつつ、チラと思ったコトは。

 総角の疑念と、一致していた。

(奇妙なのは……俺が銀成から不可解な転移で辿り着いた座標が……『犬飼たちが最後の攻防に移っていた』場所から
……近かったというコト……だな)
(そうじゃ。普通ならあの局面で総角が乱入するというコトは確率的にいって『ありえない』)
 きゃつは銀成でうぃる坊の時日結界に囚われた。それは時空改竄者である『かの黝髪(ゆうはつ)の青年』と『法衣の女』
ですら脱出できなかった鞏固磐石なる物、じゃから総角が盟主さまの移し身ゆえに使える”わだち”で破壊できるか否かが
まず一か八、よしんば破壊できたとしても戻るのは元の場所、つまり銀成市の一点である筈じゃ……とイオイソゴ。
0084永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:39:06.04ID:+1rFHYEW
(それがどうして銀成から遠く離れた救出作戦のこの舞台に来ていた……? いや、きゃつが”へるめすどらいぶ”の瞬間
移動能力を有しておるのは知っている。じゃが翔べるのはあくまで『顔見知り』の傍。原理的にいえば総角は津村斗貴子
たち銀成組の傍……つまりは墜落前のヘリ内か、その墜落地点⇔合流地点のどこかに転移してしかるべき。なのに現れ
たのはそちらとはちょうど正反対の方角、合流地点付近の森の中……。百歩譲って犬飼たちと面識があったとしても……
顔見知りの傍に必ず転移するという制約的な特性から、奴は出現を、かの2人に気付かれた筈。言い換えれば奇襲のため
隠れているということは……両者の心理面戦術面から不可能。普通に合流し護衛を務めるか、或いは”ばぶるけいじ”で
犬飼と円山を縮め、へるめすどらいぶの質量制限100きろぐらむを”くりあ”。3名同時に津村斗貴子たちの傍へ翔べば
良かったのじゃから)
 つまり……銀成からここまでの移動手段はヘルメスドライブでは……ない? イオイソゴの推測の確度は高い。ここで
やっと彼女は総角と同じ前提を有した。
(要するに奴は、時日結界の突破の余波でこの近傍に飛ばされた……? じゃとすればやはり……『おかしい』。時間と空間
が本質的には同じものとよく言われる。じゃからわだちの特性破壊で無理やり時をば破獄すれば、空間座標に若干の乱れ
が生じ元の場所とは別のところへ飛ばされる……ということは、有り得るとしよう。そういえば確か奴が飲まれたのは”びく
とりあ”の作る避難壕の亜空間じゃし、総角が戻ってきたころ解除され現空間に回帰しておったから、そのあたりの空間的
な位相の”ずれ”が別軸への移動を促した可能性も、ひひ、なくはないと、譲歩しよう)
 じゃが……”ぴぽん”、”ぴぽん”……”ぴぃんぽいんと”? で犬飼たちの傍……いや、『奴らが逃げたすえ辿り着くその
場所の』、すぐ近くにそんな都合よく飛ばされるものか……? 木星の幹部は訝しんだ。

(誰か……何かしておらんか……?)

 奇妙な糸引きが背後にある気がしてならない。

(そもそも犬飼めが『盟主さまの出奔』『根来の潜伏』といった戦略的要件に恵まれておったコトも変じゃ。天運というには
……できすぎておる……)

 犬飼があれほど健闘できたのは、戦略的な前提に恵まれていたからだ。一方のイオイソゴは、『根来を挑発した以上、
決戦の最終盤まで篭城を決め込み、安全な迎撃態勢を保持する』という戦略構想を盟主の出奔で潰された上に、『円山を
逃がさず、根来も警戒しなくてはならない』という普通なら一兎も得ずな複雑な戦略目的を背負い込む破目になっていた。
 が、犬飼はただ『一秒でも長くイオイソゴを足止めすればいい』。かといってそんな彼の撃破を優先すれば、円山に逃げら
れるし根来の付け入る隙さえ生んでしまう。

 ……と、犬飼への攻撃に過剰なほど慎重になっていた己の機微もまたおかしいと老獪な忍びは思う。

(何がおかしいかというと、その自重がわしの死亡回避にも繋がっておるというコト……。だってそうじゃろ、総角が近くに
おったというのはまったく予想外の出来事。その状態で──…)

 犬飼に手を出せば根来が出た。根来が出ればイオイソゴは彼に全神経を傾けなければならない。その状態で総角の奇
襲を受けていたらどうなっていたか分からない。
 先ほど、彼の奇襲におののきながらも根来に対応できたのはあくまで、『根来が居る』と戦闘の最初期から警戒していた
からだ。いわば本命、最後の不安要素。だが、である。だからこそ『本命かつ最後の不安要素』たる根来が出尽くした後の、
一種安心した、虚脱の状態で、……総角という、元マレフィックでイオイソゴと同格同列なる大駒の奇襲を受けていれば……
さしものイオイソゴでも対応できていたかどうか断言できない。

(最悪こちらのわしが死亡。牢の御剣も奪われた。たとえ虎口を脱したとしても、肉片や血液は飛ばした……じゃろうな。
総角がわしの耆著を複製するに必要な、肉片や血液を…………)

 つまり今以上に悪い事態を招いておったと汗みずくで断定するイオイソゴの。

 磁性流体化の肌の電磁気力が、一帯に充満する『何か』と反応しチリチリする。

 総角はそこまで明確に察知できていないが……心当たりは、ある。

(そう。こういった『調整的』なコトをする奴を俺は、俺の前世は何人か識っている……)

 1人は、小柄な黒ジャージの魔神的な少女。いま1人は──…
0085永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:39:58.66ID:+1rFHYEW
「なっ」


 盟主の下へ戻り、治療を経てもう1人の己と合一したイオイソゴは目を剥いた。

「盟主さま……! い、いまなんと……!?」

 ふためく忍びを面白がるようにメルスティーン=ブレイドは告げた。

「ふ。だから、撤退してあげるよ。君たちの当初の予定に付き合って、最後の最後まで退屈なる魔王城の玉座に、基本的
には鎮座してあげようじゃないか」

 さしもの老嬢も目を白黒させざるを得ない。そうではないか。そもそも盟主は戦団相手の斬り死にしたさに出奔した身では
ないか。決死の制止をする8人の幹部に、グレイズィング不在なら再起不能まちがいなしの大破を負わせてまでアジトを脱け
出てきたのに……。

(撤退!!? いや所在握る伝令どもが駆け込んだであろう今わしとしては問題ないが、しかし何があった!? 貴様か、
貴様が説諭したのかぐれいじんぐ!?)
0086永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:40:14.72ID:+1rFHYEW
 と銅色巻き毛の同輩を見るのは、もう1人の自分が傍に居た筈のイオイソゴにしては奇妙な話だが、しかしそうせざるを
得ぬ事情がある。ほとんど切っていたのだ、同期を。さしものイオイソゴも離れた場所に存在する自分と自分を同時に操作
するのは困難だから、ある程度まではめいめい自律、情報のやり取りは切っていた。追撃戦のさなか犬飼または円山が、
『イオイソゴは2人の自分を同時操作している』と思っていたが、その弱点はあらかじめ殆どツブしていたのだ。
 だから元に戻っても、近習イオイソゴの記憶が追撃イオイソゴと合一するまで若干の時間を要したから、そのあたりの混濁
のせいで、『貴様が説諭したのかぐれいじんぐ』と視線を向けてしまった訳である。

 いえ、ワタクシも何も……。グレイズィングも困惑したように応える。

「アナタは合流してすぐ分裂して犬飼たちを追ったから知らないでしょうけど、その辺りからでしてよ。盟主さまが撤退どうこう
言い出したのは……」

 べっとりとした花粉が漂っているような淫猥きわまる女医が珍しく嫣然としていないのにイオイソゴはただただ面食らった。
0087永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:40:30.62ID:+1rFHYEW
「つれないねえ。ぼくは一度戦部を『あの場所』に置いてからわざわざ戻ってきたんだよ? 追撃戦から戻ってくるイソゴは
どうせ同期を切っているだろうと踏んだから、わざわざ元の場所で待っていてあげたのに……」
(……や? あ! そ、そういえば戦部! おらん! 盟主さまのもとへわしらが来た時はおったのに……)
「で、引くのかい、引かないのかい? ぼくは別に迫ってくる戦士ども相手に大暴れしても構わないけど?」
「ひ! 引きます! 」

 急かすように笑う盟主に直立不動で叫びながら先導で駆け出す木星の幹部は……

 付近の茂みに、足跡を認める。女医ではまず気に留めない、忍びのアンテナにしかかからぬほど幽かなものだった。

(……。盟主さまと合流した時は追撃の手立てを考えるのに忙しく、ゆえに見逃してしまったが……『誰』のじゃ? 『いつ来た』?
 サイズからすると……おなご。じゃが円山ではないな。へこみ方が、伝え聞くきゃつの体重と合わん。『軽い』のではない。
『重い』。なんというか、力士体型の者が乗ったというより、そう、何か……非常に重い武器を構えていたような……そんな足
跡の沈み方じゃ)
0088永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:40:47.62ID:+1rFHYEW
 そして……新しい。昨日おととい付近に来たという感じでもない。

(……つまり、何者かが……盟主さまと逢っていた? そやつが撤退を……促した……?)

 だとしてもおかしな話だと思う。武力を超究した8人の幹部にすら説得されなかった盟主に針路を変えさせるなど…………
並みの芸当ではない。そもそも誰が現れたのか。レティクル側の人間だとすればイオイソゴに連絡がないのがおかしいし、
そもそも出奔前に引き止められた筈なのだ。あの戦いに参加しなかったリヴォルハインかムーンフェイスの密やかなる指嗾?

(いや。仮にそうじゃとしても足跡とは合わん。かといってその主が戦士なら、連中との斬り合いを望む盟主さまが捨て置く
理由はない。……敢えて伝令させるため見逃した……のなら、撤退とは矛盾じゃし……。一般人だの登山者だのというオチ
は……ひひっ、まあないわな)

 なぜなら足跡が、盟主めがけまっすぐ進んでいるからだ。普通ありえない。戦部敗北からイソゴ・グレイズィング合流まで
の僅かの間についたとすれば、そのとき現場は『血だまり』『倒れている大男』『やたら長い刀を持った隻腕の男』といった、
命の危険を喚起するコト余りある情景だったろう。なのに迷わず近づいてくるというコトは……
0089永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:42:04.54ID:+1rFHYEW
(かたぎでは、ない)

 つまりレティクルでも、戦士でもない人物。『第三勢力』。

(そやつ……なのか? 追撃戦にさまざまなる不可思議を与えよったのは……)

 重い武器を有する、戦士ではない、女性。イオイソゴの脳裏をサッと掠めたるは──…

.

..

 時間はやや戻る。盟主が、戦部厳至を倒したその直後に。


 さぁて殺さぬよう止血でも……と戦部に近づき始めた盟主が振り返ったのは、背後で足音がしたからだ。

「ほう」。意外そうに目を丸くした金髪の剣士は笑う、にこやかに。

「これはまた、珍客……」
.

(イオイソゴとグレイズィングがぼくのもとに辿り着く、少し前の話さ)

 盟主は思い返す。茂みから現れた『部下ではない、女性を』。

 磨き上げられた、輝くような美貌だった。
 絹糸を溶融する金で泳がせたような艶やかで眩い金髪の先の房を、メタリックな7つの色に染めている妙齢の少女は、
法衣を衣擦れさせつつ……構えた。決して小柄ではないほっそりした体より、更に長く、そして軍事的な造詣の……銃を。

 黒光りする銃口と、眼鏡の奥の絶対的な殺意を、しかし盟主は涼やかに受け流しながら……呼ばう。

「始めましての方がいいかい? それとも久しぶりと言った方が昂ぶるかい? 羸砲(るいづつ)……ヌヌ行」
「どちらでも。……やれやれ。我輩はむしろ『影からいろいろ操る』方が得意なのだけれど……見つけてしまった以上やる
しかない、か」

 かつて武藤ソウヤをパピヨンパークに送った時空形武装錬金の使い手の……転生。
 彼女もまた、救出作戦の、陰にあった。

 目的はただ1つ!!

 大戦士長坂口照星誘拐時の戦闘でレティクルに囚われ怪物と化した武藤ソウヤを……元に戻す!!

 そのために盟主と演じた『戦い』が戦団全体に波及をもたらしつつあるとは……さすがのイオイソゴでさえ知りえない!
.

「ともかく合流地点……新月村到着ね」
「はあ……」

 村に踏み入れるなり青い顔で俯いた犬飼に「やっぱり気が重い?」と円山は微苦笑した。
(ま、そりゃ青くもなるな。何しろ救出作戦冒頭で、救出対象たる坂口照星どのが生首になってましたと、そう報告せねば
ならん訳だ。誰だって気が重い。追跡の遅れという、分かりやすい失点のある犬飼ならなおさら)
 フと笑ったのはむろん総角。円山の笑いはいよいよカラカラする。
「いっそ伏せちゃう? 大戦士長のコト」
「できるか!」 眼鏡の青年は短く叫んだ。「隠蔽とか最悪だろ。キッチリ言う。それが落とし前だ!」。
 肩を怒らせのっしのっしと人の気配のある方へ歩いていく犬飼に、円山の視線はますます好意を増す。
0090永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:43:10.72ID:+1rFHYEW
「だからやめろってソレ……。犬飼が大した奴だとは分かるけど」
 ちょっとだけ彼の耳がピクっとした。落ちこぼれだから、賞賛には、弱い。
「何しろアイツ、報告相手が”あの”火渡戦士長だって分かった上で向かってるんだからな。フ。大したものさ」
 ピキッ。歩いていた犬飼が石化した。
「いま気付いたみたいね……」
「フ。イソゴ戦の鋭さどこへやら、か」
 青年はもう、後ろからでも分かるぐらい、ブルブル震えている。インフルエンザにかかったような震え具合だ。
 人を喰う怪物よりも、人を守る戦士の方が怖いというのも妙な話だが、イオイソゴはえげつないながらに、見た目は小さな
女のコで、なんだかんだよく笑うタイプだった。卑屈な青年が一種の理想像にしがちな類型ではあるし、何より戦略上の都合で
犬飼本人は直接攻撃を、痛い目を、加えなかったから、恐怖感があまりないのは当然だと円山は思う。
 一方の火渡は凶悪なご面相が看板で、「殺すぞ」が口癖なのを見ればお察しだ。美とエロスを孕むホラー映画の美少女
型クリーチャーと、残虐指定で18禁を喰らったバイオレンス映画の若頭では、どちらとお話したいか考えるまでもないだろう。
0091永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:43:27.08ID:+1rFHYEW
 よろめいた彼は木の棒にもたれかかる。角材にくくりつけられた丸い棒に。奇妙なオブジェだがそれもそのはず、明治11
年のとある時機、『村から逃げた警視庁の密偵』の、両親の死骸を吊るすため設計されたのだから仕方ない。誰がどういう
意図で遺したのか、風雨も1000では収まらないだろうに奇跡的に現存するその丸い棒に犬飼は寄りかかった。

(いやいやいや、さっき頚動脈切っただろ! ああ、あれに比べれば多少殴られても痛くない筈だ大丈夫だ。あああでもでも
ああした理由の1つって実は火渡戦士長にどやされるのが怖くて怖くて耐えられないからなんだよなあ……。じ、自分でも情
けないけど、失敗を怒鳴り声で突きつけられるのって本当怖い、自分がやっぱり駄目な奴だって認識させられるようで怖いし
火渡戦士長のそれはとびきりだし……。あああ怖い怖い嫌だ嫌だ話したくない助けてじっちゃんお願いだ……)

「めっちゃ動揺してるな犬飼……」
「不祥事で糾弾されるの怖くて飛び降りやったのに助かって、退院後すぐ鬼部長に呼び出された会社員じゃないんだから……」

 歯の根をガチガチと鳴らす青年は、高慢な総角すら(なんとかしてやらにゃ可哀想すぎだろ……)と憐憫催すほどの姿だった。
0092永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:43:43.09ID:+1rFHYEW
(何か策ない?)
(……フ。ある)
(さすが小細工の達人)
(いやいやお前ほどでも……)
(……)
(……)

 キャーキャー。

 円山と総角が両目不等号でグッグッと拳を突きつけあって意気投合したのは犬飼いじりの一点に於いてである。
 ほどよく見込みがあり、ほどよくヘタレで、ほどよく知恵の貸し甲斐とからかい甲斐のある青年が無性に可愛く思えてきたのだ。

 総角、円山に何やら耳打ち。犬飼が気付かなかったのは背中を向けていたせいもあるが、懊悩で頭を掻き毟っていたからだ。

(まあアイツ俺が言うと逆らうからな)
(なるほど。私が言うのね。味方してもオーケーって言われた私が)
0093永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:43:59.01ID:+1rFHYEW
 苦い意見をお母さん的な存在にやんわりと伝えさせる総角の慣れた手管は無銘少年を育てたが故か。

 ともかくパっと歩みを進めた円山は、犬飼の肩から顔を覗かせそして言う。

「丸く収まる、いいおまじないあるけど、聞く?」

.

 そして。

.
0094永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:44:32.75ID:+1rFHYEW
 合流地点の廃村で、津村斗貴子は眦が裂けんばかりに目を見開いていた。

「馬鹿な……! どうしてお前が…………!」

 火渡赤馬は凶笑しながら炎を出し──…

 合流していた鐶光は、感傷を以って来訪者を、眺めた。

 一同の視線を集めたのはもちろん総角主税である。

 斗貴子の驚きは、『銀成で消えた筈のお前がどうして』というものであり、火渡の凶笑は7年前人生に致命的な損傷を与え
た存在と同属たるモノが来たコトに対する反射的なものであり、且つ、それと同行している犬飼と円山が、どうやらアジト付近
から逃げてきたあげく、ホムンクルスに助けられたらしいと察したからだ。

 鐶の感傷は、しばらく行方不明だった上司との思わぬ再会に対する安堵であり……感泣。

「いろいろありますが」

 と前に出たのは……犬飼。持ち場勝手に離れやがってと怒鳴りかけた火渡だが、『負け犬』の眼光に微妙な変化を認めた
彼は「……なんだよ」とぶっきらぼうに告げるに留まる。

「火渡戦士長、お話があります」

 重大事と察したらしい。火渡は手近な廃屋を指で示した。

「そこで聞く。聞く奴も限定」

 結果廃屋内に招かれたのは犬飼と円山、火渡を除けば──…

 毒島。(火渡の秘書)

 斗貴子、剛太、桜花。(銀成組代表)

 総角、鐶(音楽隊トップ2)

 の他、天辺星さま&奏定や『師範チメジュディゲダール』、艦長といった各部隊のリーダー級7〜8人。


「犬飼の報告を公開するかどうか首脳部で検討したいのは分かるけど、なの」

 廃屋の周囲をめぐりながら、天候の具象化のようなファンシーな少女がぼやく。

「見張りとか不満、なの。私は斗貴子さんとお話したい、なの」
「まーまーここ一時的にとはいえ司令部だし。攻撃力のドラちゃんに防御力の殺陣師サンが固めておけば安心でしょ」
『レティクルが来るかも、だからな!』
「しゃー! あんたら盗み聞きしにきたらダメじゃん!!」

 何が行われているのだろうと詰め掛ける戦士たちを威嚇し追い払う香美であった。


 屋内でやや震えを帯びた犬飼は話す。盟主の急襲を受けたコト、戦部が足止めで残ったコト。イオイソゴに追撃され、抵抗
空しく総角に助けられたコト……などなど起こった事実の総てをつぶさに報告した。


「だ、大戦士長が……」
「殺された……ですって……?」

 蒼褪めて呻くのは剛太と桜花。毒島は気死寸前といったようすでフラつき、天辺星さまに到ってはワーワーギャーギャー
騒ぎ始めたのを奏定に塞がれる始末である。他の面々もざわつきだす。
0095永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:45:40.39ID:+1rFHYEW
「ほんとうか……?」
「クローンか何かなんじゃ……」

 斗貴子も平然とはしていられなかったが、しかし……気付く。

(火渡戦士長が激昂していない……? 大戦士長の教え子のはずなのに……)

「騒ぐこたぁねえよ」

 大型肉食獣顔負けの野太い牙を剥き出して彼は破笑(わら)った。

「け! けど! 救出すべき対象が木星の幹部に……首、首を刎ねられたんスよ!? そりゃ確かに向こうには死者だって
蘇生できるグレイズィングが居ますけど、生き返らせてくれるかどうか……!」

 剛太がワーっと行ったのは頭が回るくせに軽躁だからだ。その口火に何人かの戦士が雷同し、大丈夫なのかと口々に
問いかける。
 そこにクローン説を支持する層が反論するからたまらない。むしろその層は楽観的が故に温和な物言いだが、理性ゆえ
大戦士長殺害に恐慌ぎみな理性派層は、一種の生真面目さも相まって語調がややキツくなる。そうなるといわれた方も人
間だから、激昂とまではいかないもののちょっと甲走った声になり、それが理性派層を余計に刺激するから場の空気は
若干だが悪くなる。「うー。中、うっさいし」……外で耳のいい香美が顔をしかめるほどの声が二つ三つ飛び始めた。

「問題ねえつってんだろ……?」

 ざわめきが気に障ったらしく声を低くし凶相に皺よせる火渡。彼が一座をねめつけるだけであらゆる声が静まった。

(話の通じなそうな人だけど……)
(だからこそ紛糾している時のまとめ役にはピッタリですね……)

 桜花と毒島は火渡の威圧にこの時ばかりは感嘆した。

「いいか」。立っていた火渡は、傍の、破れて黄色いウレタンが剥き出しのソファーのホコリを腰を沈め押し出した。のみな
らず足さえ組んだ彼は、山賊か反政府ゲリラの首魁のような形相でニヤリと笑う。タバコの先で爆ぜ続ける火花だけが照明
だった。

「あの老頭児をブッ殺すのがレティクルの連中の目的だってんなら攫ったその日にやってるさ」
「ワ、ワタシたち誘き寄せるためって線だってチョーチョーあるでしょ! で、みんなチョーチョー集まったからハイ用済みで
始末したってセンもモガガ」
「だから黙ってくれないかなあ天辺星さま。後でどやされるの私なんだけどなあ……」
 なんで天辺星さままで呼んだんだろ、奏定だけで充分なのに……といった視線が2人に刺さる中、「だったらよォ」と火渡は
頬杖ついて真顔になる。
「だったら何で木星の野郎はあの老頭児の首回収した? オイそうだよな負け犬。あの野郎、テメーらに投げたあと、した
んだよな回収」
「は、はい」。犬飼はやや上ずった声でビシィっと直立した。「アイツずっと持ってました! 持っていたらボクのレイビーズで
所在を嗅ぎつけられるっていうのに、リスク覚悟でどういう訳か!!」。
 あああホント怖い火渡戦士長、円山のいったおまじないとか本当に聞くんだろうなとヘタレな青年ブルブル震えるが、火渡
はさほど気にした様子もなく、
「つーコトはだ」
 俺らがココに集結した後でなお、生首を持っていたなら、根来の忍法で蘇生されるのを防ぎたがってたつーんなら……ギ
シギシとソファーを揺すりながら、火渡は分析する。ああ、世にこれほど恐ろしげな安楽椅子探偵があったろうか。
「老頭児は俺ら誘き寄せるためのエサじゃねえ。後に控える、『他の目的』の為だ」
(……確かに連中は、ただ私たちを殲滅できればいいという様子ではなかった)
 斗貴子も頷く。
(『マレフィックアースの器』。何らかの強大なエネルギーを降ろす寄り代を彼らは探しているようだった。問題はそれがこの
戦いや大戦士長とどう結びつくかだが)
 鋭い斗貴子ではあるが、レティクルの目論見は皆目見当もつかないのが実情だ。銀成市で劇を妨害し、即興劇の興奮
にかこつけて武装錬金を発動させたかと思えば、戦団に対しては大戦士長を誘拐するといったとんでもない狼藉を働いて
いる。それらに一貫性や関連性がないから、だから斗貴子には分からない。
(これらが『器』とやらにどう関わってくるんだ……? ただの人体実験でも済むのに……いや、人体実験じたい許せない
ものだが、少なくても秘密裏には行える筈。なのになぜ大戦士長誘拐なんてする? どうしてコトを荒立てる……?)
0096永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:46:05.29ID:+1rFHYEW
 事件当初はよくある共同体の悪行程度にしか思っていなかった斗貴子だが、銀成におけるレティクルとの接触で目的
の一端を知った後では、照星誘拐への見方は変わらざるを得ない。

(殺してなお、蘇生したがる理由は──…)

 桜花の脳裏に浮かぶはただ1つの武装錬金。元同輩の、武装錬金。

「ヘッ。何を企んでいようが関係ねえさ」

 火渡は笑う。考えるのを放棄した笑いではない。想到を斗貴子と同じ領域にまで到らせた上での、破城槌的な決断の
笑みだ。

「要は連中全員ブッ殺せばいいだけだろ。そうしたら老頭児の生死だの器だのゴチャゴチャしたコトも片付いて仕舞いだ」

 単純明快な意見だがそれだけに浸透しやすい。楽観組の戦意は目に見えて上がった。理性組も「……現に各部隊が
襲撃受けてるし、仕方ない、か」と不承不承ながら同意する。

「だからメンバーを選抜次第、所在の割れた盟主に一斉攻撃を仕掛けに行くつもりだが……」

 火渡の次の行動を制止できたものはいなかった。気付いた時にはもう奔流が人物を薙いでいた。炎(も)える投網が
犬飼倫太郎の上半身をすっぽりと包み込んでいたのだ。
 前触れもない、思わぬ突然の焼殺行為に戦士一同が(粛清……!?)(確かに追跡自体は前半遅れていたっていう
けど)(焼き殺すほどか!?)(大戦士長の落命との因果関係だって未検証なのに……!!)唖然とする中、

「へ」

 火渡は凄絶な微笑を浮かべた。

「やるじゃねえか」

 喉首を噛み破られる寸前の、体勢で。

「キ、キラーレイビーズ!!」

 剛太が唖然とするのもむべなるかな。いつの間にやら軍用犬が、横倒しの鼻先を火渡の襟先に潜り込ませている!!
そして鋭い牙の羅列を首の両側スレスレに……這わせている!!

「待てなんで無事だ!? 木星相手に自爆したんだよな! だったら核鉄はボロボロのはず! こんなキレイな状態で発動
できる訳が」
「フ。俺が治したに決まってるだろう新米戦士。我がハズオブラブは錬金術の産物も癒せる。核鉄も、な」
「実際……銀成市で…………私に両断されたソードサムライXの……核鉄だって……リーダーの衛生兵で修復され……
その後の剣戟に活用され……ましたし……」

 ハイハイ犬飼たちの治療ついでに治したのねと呻く剛太へと、「ついでに精神力の方も満タンになったから、私も犬飼ちゃ
んも万全の状態で使えるわよ武装錬金」と答えた円山の、視線の先で。

「え!! ええッ!!?」

 一番たまぎるような悲鳴を上げたのは……犬飼当人だ。燃焼の膜(ブレーン)がはらりと解けた彼は、己の武装錬金の
仕出かしている乱行に心底驚いた様子で武装解除し何度も何度も頭を下げた。

「……こっちも無事だし…………。戦団最強の攻撃力を前に服すら焦げてないとか……どうなってんだよ…………」

 ガマガエルのような声をあげるエンゼル御前に「斬り裂いたんだ」と答えたのは斗貴子。

「炎が放たれた瞬間犬飼は無音無動作でキラーレイビーズを発動。その牙や爪で向かってくる業火を切り裂いたんだ」
「なるほど。秋水クンよろしく剣圧のようなもので炎を押しのけた、と。燃え盛っているようにこそ見えたけど中は空洞、
犬飼とその周囲だけは燃焼を免れていた……って訳ね」
「ンな芸当ができるんだったらさあ、なんでアイツ奥多摩でカズキンゴーチンに負けたんだよ?」
0097永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:46:46.40ID:+1rFHYEW
「……成長……したの、です。イオイソゴさんとの戦いで、レベルアップしたの……です! レベル差がありすぎると……
補正で……ダメージ与えるだけで……経験値たくさんに、なるの……です……!!」
(マジかボク強くなったのか!) 喜ぶ犬飼の心を穿ったのは斗貴子の「いやそこまで速くなってないぞ」という半眼での
指摘。
「奥多摩では……まあ、私は円山に専念していたから、背後で暴れるレイビーズを直接じっくり見た訳ではないが、彼が
突然私を狙ってきた場合に備え気配で向きや速度を探ってはいたのだが……」
「あら。じゃあその時からあまり速くなってない……?」
「増してはいる。けど……測定しないコトには断言できないが、私の見たところではせいぜい10%から15%ぐらいだぞ?
確かに”あの”木星の幹部と基本的にはわずか2名で戦って生き延びた以上、成長はしているようだが」
 いきなり常時あの時のセーフティ解除状態なるとかそんなムチャクチャな成長ある訳ないだろと、極めて冷静に斗貴子
は言う。
(ク、クソ。低く見やがって……!)
 毒づく犬飼だが、ユーモラスな泣き顔にしかなれない。白玉のような瞳から滝を流すのが精一杯。
「……いやでも劇的な成長してないなら、逆におかしくない津村さん」
「そうだぜ。さほどレベルアップしてないってなら、どうして火渡の炎切り裂けたんだよ」
 精神の問題だな。部活動の副部長然とした凛呼たる少女は答えて曰く。
「犬飼は、火渡戦士長が炎を発したその瞬間ほぼ同時にキラーレイビーズを発動していた。その爪牙が炎を切り裂けた
のはひとえに初動が速かったからだ。炎が最高速に達する前に軍用犬の最高速が犬飼の遠間で迎撃を始めたから、
火渡戦士長の攻撃を、裁ち切りバサミに当てられた動く緋毛氈の如く捌けたんだ」
 武装錬金のスペックより、人間の境地が物を言ったわけね。桜花が納得するのは剣客の弟を持つがゆえか。
「だな。正に境地の問題。普通なら……今までの犬飼ならまずできなかった芸当だ。なにせ”あの”火渡戦士長の攻撃なんだ。
まず起こりを察知するコト自体困難だし、察知できてもその余りの威力に迷う。迎撃するべきか、避けるべきか……と」
「でも犬飼は迷わず前者を選んだ……?」
「私は7年戦士をやっているが、それだけの境地に到っているかどうか断言できない。戦部や、防人戦士長のような、相当な
場数を踏んでいないと今の犬飼並みの察知は不可能。火渡戦士長の業火を迷わず迎撃するなど不可能」
「そういった意味では……イオイソゴさんとの戦いの……経験値が……経験値が……」
 虚ろな目でエヘエヘ笑いながら斗貴子の袖を引く鐶だったが、ぷいっと解かれたので「えうー……です」と軽く泣いた。
「ちなみに」 鐶を鬱陶しそうに垂れ目へ収めながら、手を挙げたのは剛太。
「何でキラーレイビーズ……火渡戦士長の喉元にまで突っ込んでしまってるんスか? いくら成長したつっても、犬飼ですよ?
いきなり火渡戦士長を殺しにかかるなんてそんな度胸……」
「ん? ソレって遠回りに自分を売り込んでるの?」
 指摘は思わぬ方角から来た。円山がそちらに居ると知った剛太は眉を顰める。
「売り込む? なんで俺が?」
「だってアナタだって火渡戦士長の喉首斬ったじゃない。私たち再殺部隊6人が集結したあの雨の朝」
 思い返した剛太はしばらく呆然としていたが、急にボっと紅くなる。
「ちちち、違います、ああああの時はただ必死だっただけで!! せせ先輩のため戦うコトを決意した俺並みの境地に
そう簡単になれる奴がいないって主張するため犬飼どうこう言った訳じゃなくてですね」
 キミが何を慌ててるのかよく分からんが……肩を掴んで騒ぐ後輩を心底不思議そうに見た斗貴子は(いやそこは気付いて
あげて津村さん)と可愛らしくむくれる深窓の桜花の気配にも気付かぬまま、
「キラーレイビーズが火渡戦士長の喉首で止まったのは、不慣れな炎の切り裂きに、勢い余って突っ込んでしまったのだけ
だろう。何しろ炎の発生源があの人だ、軌道的に突っ込んでしまうのは仕方ない」
「そそそそうなんです! だから攻撃するつもりは……!!」
 慌しくレイビーズを解除した犬飼は、五指同士を曲げて絡めあった拝み手を上下し必死に弁明する。
「テメェ確か予定じゃ、見張り終わり次第後方へ下がる……だったな?」
「は、はい……」
 なよっとした肩に節くれだった熱い手を乗せられた犬飼は笛を吹くような声を漏らす。火渡の顔は、近い。めらめらっと
跳ねるくわえタバコの炎はただでさえ恐ろしげな凶相の陰影をよりドス黒く彩るからたまらない。
0098永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:47:17.56ID:+1rFHYEW
 あまりの威圧感に(あ、ああ、やっぱお払い箱、そうだよな追跡トロかったし大戦士長救えなかったしその上いま攻撃した
し……!)と犬飼は半ば戦力外通告じみた後方転属の辞令を覚悟する。

「取り消しだ。死ぬまで戦え」

 くるりと踵を返した火渡の言葉の意味を犬飼は、「オイ円山。てめえもだ。傷も精神力も回復してるつったよな」というドス
まみれの指図を聞いてもなお掴みかねた。

「え!? ざ、残留していいんですか前線に……? この、ボクが……」
「嫌ならこの場でブッ殺すだけだ。核鉄待ちの予備役なんざ幾らでもいるって知ってるよな……?」

 振り返って睨みつける火渡に「い、いえ、頑張ります。はい。頑張り……ます!」と犬飼は直立不動で声を張り上げた。

「えーと。どういうコト? レイビーズよりもっと強い武装錬金あるだろうに、なんで核鉄預けたままにすんの?」

 呟く御前を撫でながら「馬鹿ねぇ」と桜花、自問自答の一種を演ずる。

「さっきの攻撃で彼が成長したって判断したのよ。スペックや境地が以前とは違うから、残しておこうって」
「大戦士長が生首にされていた件の保留でもあるな。ここに居る部隊長クラスの戦士たちに示したんだろう。自分が残留を
許可した以上、追跡の遅れうんぬんで責め立てて騒ぐなと」
「……ソレ、普通にやったらエコヒイキってますます反感買わないスか先輩」
 いえ、大丈夫、の、ようです……と戦士たちを指差したのは鐶光。

「さっきの犬飼チョーチョー凄かった!! だいたいあのイオイソゴさんに追跡されて生き残ってたんだからチョーチョー
強い! 戦って挽回できる人なら居た方がいいチョーチョーいい!!」
「……まあ、失敗してもやり直せるって…………いいしね。フフ……。そもそも私のように直接無辜の人が死ぬきっかけ
を作った訳でもないからね犬飼は……。フ、ウフフ。それに比べて私は……私は……」

 わーわー景気よく叫ぶ金髪サイドポニーの少女の傍で、しょうゆ顔でイケメンだが、薄幸オーラが物凄い青年が自嘲めい
た呻きをもらしているのに気付いた剛太は「あー」と片頬引き攣らせる。

「チーム天辺星のトップ2人……相変わらず対照的だな…………」
「というか奏定(かなさだ)……だっけ? あの副隊長むかし何やらかしたんだよ……」
 御前の問いに促され奏定を見た総角主税はちょっと息を呑んでから、「あー」と珍しく崩れた顔をした。
「その、そっとしておいてやってくれ。冤罪の人を間違って……からの、悲劇の連鎖をだな、彼は起こしていて……」
「……? 待て。なんで戦士でもないお前が奏定副隊長の前歴を知っている? ウワサですら聞いたコトないぞ私は」
 斗貴子が怪訝な顔をすると、その声で奏定が見てきた。彼は総角と視線が合うと驚いたり察したりしたあと、
「…………。ハハハ。お久しぶりなのかどうか、微妙だね…………」
「あ、ああ。俺の方は初対面、なんだろうが…………」
 また微妙なやり取りをした。
「だからキミたちの間に何があったんだ……?」
 斗貴子の問いに直接答える者はいなかった。

(フフッ。まさか総角が、知り合いの分身の、転生した姿だなんて、いえない、からねえ)

 護衛が増えた廃屋の周りで、そう思ったのは果たして誰か。

 ともかく小屋の内部では。

「……というかその、総角君…………だったよね。たぶん、あとで……私なんかよりずっとヒドいサプライズが、だね……」
「フ。もう大概のことじゃ驚かないさ」

 という、「前言撤回驚きました」の前フリでしかない会話や、

「はへー?」
 奏定に見られた天辺星さまが、心底気の抜けた表情でコッキリンと首を45度に傾ける情景や、
0099永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:47:58.84ID:+1rFHYEW
 それから先ほどからの犬飼がらみの流れを汲んだ、うんまあ確かに無意識にとはいえ火渡戦士長に一矢報いたのは凄
いし、とか、円山から聞いたけど落とし前で頚動脈切った状態で物凄い策の数々を連発したらしいぞ犬飼、とか、べ、別にあ
んな落ちこぼれのコト認めた訳じゃないんだからねっ、で、でもちょっとは凄いかなあなんて……え、わた、わたし何も言っ
てないし!! とかいった意見が戦士の間で交差し始めている。

「フ。イソゴ戦で成長した犬飼の、今のありようを見せたのが大きいな」
 大儀そうに片目をつむりながら、腕組みして微笑する総角。

(ああ。円山の根回しが効いてる……。今まで嫌な奴だと思ってたけど人に助けてもらえるって、認めてもらえるって
いいなあ。火渡戦士長も案外優しかったし……)

「だがLII(52)の核鉄だきゃあ没収だ」
「えッ!! ああ!!」

 左ポケットに入れていた剣持真希士の核鉄……LII(52)が、首だけ捻じ曲げ犬飼を見る火渡の、肩の上に差し伸べら
れた右手に握られているのを見た犬飼はギョっとした。

「これを銀成からわざわざ取り寄せてやったのはテメエが老頭児の追跡に手間取っていたせいだからな。成長したっつーん
なら核鉄1つで戦いぬいて見せろ。第一老頭児の首1つ持って帰って来れなかった奴に何のペナルティもねえってのは我慢
ならねえ」
「ああ、熱っ! アレ時間差! 時間差で服が……!! 水、誰か水プリーーズ!!!」
 焦げた煙を左ポケットから上げながら走り回る犬飼に、

(……なるほど。まったく見えなかったが……犬飼に炎を向けた時、解除していたらしい。腕の一部を火炎同化からな)
(レイビーズに切り裂かれながらも、腕だけは左ポケットに潜り込ませていたんですね)
(で、焼いたと。あらあらお灸にしてはやりすぎね)
(…………犬飼さんは、面白い……です)

 斗貴子が感嘆し剛太が頷き、桜花が言葉ほどには同情を見せず、鐶がニヘラーと饅頭のように頬を緩ませる中、

(あああ、でも良かった、円山のいう”おまじない”が効いた……)

 犬飼が、思うのは。


──「LII(52)の核鉄、左ポケットに入れておいた方がいいわよ」

──「なんでだよ? てかボクの自前の方もそうしなきゃダメか?」

──「あ、そっちは大丈夫っていうか、必ず右ポケットに……あ、そもそも犬飼ちゃん、右利きよね? 基本的に犬笛右手
で持ってるから……右利きよね?」

──「そうだけど」

──「じゃあLII(52)の核鉄、左ポケットね」


 新月村到着後おこなわれたその問答は、火渡の決定的な不興の回避に繋がった。


(なぜなら火渡戦士長はたぶん最初からLII(52)の核鉄を取り上げるつもりだったから! で、ボクが右ポケットからレイビー
ズを発動した瞬間、核鉄の擦れる音の有無──右に2つ入れていたら、咄嗟に手を突っ込んだとき、金属同士の触れる音
がしただろうね──とか、服全体の微妙な重心のズレとかから、左ポケットにLII(52)があると判断して、火炎同化を部分解
除したその腕で抜き取った訳だけど)

 これが右ポケットにあったのなら、つまりLII(52)でレイビーズを発動していたのなら、火渡にゆくのは犬飼のXCII(92)に
なってしまう。
0100永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:48:20.99ID:+1rFHYEW
(そうなった場合絶対ボクは殴られた。だって火渡戦士長が欲しいのはLII(52)だからね。LII(52)じゃないとダメな理由がある)

 防人と火渡の微妙な関係ぐらい犬飼だって知っている。で、LII(52)の核鉄の持ち主は剣持真希士。今は亡き、防人の部下だ。
いわばLII(52)は『火渡の親友の部下の形見』だから、この場で回収したいのは人情といえよう。


「なぜなら防人戦士長が、あの火星の幹部に挑むかも知れないから……ですよね」

 屋外に出て喫煙する火渡の背後にスっと現れた毒島が、言う。全体会議が終わった直後の話である。

「火星の幹部・ディプレス=シンカヒアの分解能力は絶対防御のシルバースキンすら突破する代物ですから……火渡様は
……お渡したいんですね。LII(52)の核鉄を、剣持サンの形見を、防人戦士長にお渡しして……少しでも助けにと」
「……いちいち言うんじゃねえ。殺すぞ」
 ごくごくわずかだが不快そうに目を閉じ答える火渡。毒島は心得たもので、「その時は私も……助力しますから」とだけ
添えた。


 と、同時に。

 轟音がし、地面が揺れた。

 敵襲を疑うべき状況だが、火渡はたっぷりとタバコを味わい、毒島もちょっと首を伸ばして音のした方向を見るに留まる。

「アレも想定の内ですね?」
「当然! わざわざ恵んでやったんだ、これで貸し借りなしだろうさ」




 総角主税、【ブレイズオブグローリー】……ゲット!


 剛太、斗貴子、桜花、御前……呻く。

「だよなあ。さっき見せちゃったもんなあ」
「DNA経由でないぶん完全再現とは行かないが……」
「あらやだ。お互い天才気取りだから相性いいようで」
「見ただけで結構な威力かよ…………」

 焼かれたのは合流地点に押し寄せてきたクライマックスの自動人形で、それは広めの四つ辻に出来上がった直径8mの
クレーター周りでじゅるじゅると炎に冶金され消えていく。

「フ。LII(52)の核鉄の修繕費としては過分も過分。今のは試射ゆえ加減したが全力でいけば半径200m以上はカタい」
「だからコイツ誰か止めろよ!! 共闘するたびパクってくぞ!!?」

 絶叫したのは犬飼倫太郎。

「……確かになあ」
「よく考えたら最悪なのよね総角クン。見るだけで人の武装錬金パクれるし、態度でかいし……」
「茹でガエルだな……。私としたコトがすっかり慣れきっていた。疑問に思わなくなっていた……。奴の態度のデカさすら……」
「いや、俺らん時はまだ被害軽かったですからね。自分の使われたら腹立ちますけど、それでもエンゼル御前もバルスカ
もモーターギアも、火力じたいは低かったんですから……。態度は大きいですけど……」

 それが今度はとうとう、戦団最強の攻撃力と目されるブレイズオブグローリーを手にしてしまった。
 まだ影からコソっと盗んだのなら腹も立つが、どうやら火渡、何としても防人に渡したいLII(52)の核鉄の修繕費代わり
として先ほどの犬飼への攻撃時”わざと”総角に見せたらしい。いわば本人公認だから逆にタチが悪い。
0101永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:56:36.73ID:+1rFHYEW
「本人は自分こそ本家だから捻じ伏せられるって思っているんだろうが……」
「俺らにコレ向けられたらどうすんだ……。どうしたらいいんだ……」
「しかも円山から聞いたけど、激戦まで使えるらしいわよ今の総角クン」
「チクショー。シルバースキンだけでも大概だったのに……」

 こ の 野 郎 。

 総角に向く、銀成組の目は、苦い。

(……。俺、やりすぎているのか鐶)
(フル改造の参式にオルゴンクラウドHとガードとGサークルブラスターと『エースボーナス、気力170以上で敵ユニットとの
交戦後、ド根性がかかる(撃墜時も含む)』を積むようなもの、です。アホ、です……!)
 ぼかっ。頭を襲った妙な衝撃に振り返った総角が見たのは「なんとなく、じゃん!!」と拳かため鼻息ふく香美であった。

(ああ。これが能力の報いなのか。小札……部下すら冷たいから慰めてくれ……)
0102永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:56:52.97ID:+1rFHYEW
 自業自得では、ある。

(これでイオイソゴの耆著も複製できていたらなら風向きも違っただろうに! でも彼女は結局、血も肉片も落としていかな
かったしなあ! 耆著の使用自体も総角(もりもり)さん来てからは控えてたし……!!)

 と思ったのは貴信で、

「でも逆にいえば犬飼ちゃん、幹部の武装錬金さえコピーできれば総角って切り札になると思わない?」
「そりゃ……例えば耆著が複製できれば、磁力反発で章印を剥き出しに出来るかもっては認める。ボクたちが苦労して
やったコトですら、耆著コピー済みの総角なら簡単にできるかもってのは……」
「あ、でも、相手がホムンクルスだから、DNA採取って実質不可能よね? だって斬り飛ばしたらすぐ消えちゃうもの」
「そこを……解決する…………手段が、あり、ます!」
「のわわあ!?」と犬飼が手足をバタつかせ横方向へ飛びのいたのは、円山との間にポヤーとした少女の顔が前触れ
もなく生えていたからだ。鐶光。瞳同様、うつろで、儚げな雰囲気はしかし突如として視界に入ると魔霊の如きおぞましさ
もまた与えるらしい。
「採取は……コレを、使い…………ます!」
0103永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:57:21.32ID:+1rFHYEW
 白いもみじのような可憐な掌に乗っていたのは、透明な樹脂で形成されたとおぼしき長さ5〜6cmの細身だが無骨なカ
プセルだ。
「今回の作戦での……リーダーからの伝達事項その1は……私たち……音楽隊が…………これに……お姉ちゃんたち
……マレフィックの…………DNAを採取して保存して…………リーダーに渡すコト……です」
「なるほど。うまくいけば幹部を幹部の武装錬金で斃せるって訳ね」
 と呟く円山の前で「けどなあ」と犬飼、盛大な溜息をついた。

「幹部の武装錬金全部コピーしたアイツが戦団に敵対したらどうすんだよ……? シルバースキンすら分解する能力だって
あるんだぞ……」

「消す、絶対消す」。ニヤニヤと笑う火渡が遠くから見ているのが分かってしまう総角の顔色は、冴えない。

(ア、アレ? 俺もしかしてレティクル倒したあとそんなには生きられない感じ……?)
0104永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:59:31.65ID:+1rFHYEW
「てかみんなチョーチョーダラダラくっちゃべっていていいの? 盟主んとこへカチ込むんじゃないの奏定」
「……また偉い人の話聞いてませんね天辺星さま……」
「はい?」
「いま部隊分けの最中です。盟主を追撃する部隊と、アジトに乗り込み大戦士長を保護する部隊と、それからここに残る
部隊の大きく分けて3つに戦士たちを振り分けている最中です」
「……? そんなの作戦前にチョーチョー決めるべきコトじゃないの?」
「盟主が単独行動してるってのは予想外でしたからそれを加味した再編成です。てか天辺星さま? これ全部毒島君が
説明してくれたコトだからね? 恥ずかしがりなあのコが人前で一生懸命やってた説明聞いてないとか失礼だからね?」
「だって説明聞いてる奏定の顔がチョーチョーカッコよくて……見とれてたし」

 サイドポニーの少女の傍で、コンバットスーツに若手刑事風コートを羽織った青年は少しだけ紅くなった。
0105永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:00:11.92ID:+1rFHYEW
.

..

 銀成市。サンジェルマン病院

「救出作戦の進行状況をばご報告っ!!!」

 会議室のホワイトボードをバンと勢いよく叩いたのはタキシードにお下げを垂らした小柄な少女・小札零。

 その前では長い机が4つガッツリ組んで正方形を作っている。黒い木目の目立つブラウンの、折りたたみ可能でいかにも
事務的な机のうち、小札の右手側のパイプ椅子に胴着姿の青年が1人、その向かい側に全身コート姿の男が1人。更に
その机同士を結ぶ、奥側に、瞑目こそしているが匂い立つような色香を放っている妙齢の、ショートカットの女性が1人。

 一座を見渡した濡れ羽立つ栗色の髪の少女は、やたら双眸をキラっキラさせながら横隔膜のぷるぷるしているハイトーン
ボイスで怒涛の如くまくし立てる。

「まずはご挨拶!! 本日はお忙しいなか不肖小札零の講演会場にご足労いただき真に感謝申し上げる所存であります!!
状況報告は実況とやや趣をば異としますがそこはナマの情報臨場感!! あたかも幕営におりますようなめまぐるしきお
気持ちになれれば幸いかと存じる次第っ!!」

「えーと。報告書じゃダメなのか……? 君のノリはなんていうか俺には合わないんだが」
「ブラボーじゃないぞ戦士・秋水。戦士・千歳はいま文字が読めない状態なんだ。全員小札の声で聞く方が効率的にもブラ
ボーだ」
「そうなんですが……」
「それとも武藤まひろに頼むか?」

 覆面をしている癖にややニヤついた様子が窺える防人に秋水は「……いや、武藤さんだと、ノリはともかく、要領が……」
つかめないと、清爽たる顔を引き攣らせる。

「ノリは合うのか。惚気か貴様」

 浅黒い少年が傍で呆れたように目を細めるのもなんのその、彼の携帯から漏れるかそやかな声をフムフムと聞き取る
小札は「うおー! うおおお!」といった名状しがたい気炎を上げて聞いたままを口でつんざく。もはや小札、ハゲヅラが
ごとき一大飛び道具の感がある。

「ともかく大部分の戦士の方々ほぼ合流!! いまは各部隊の見聞をば盟主どの急襲までの再編成のあいだ情報交換
まっさいちゅう!!!」
「……それ鐶からの電話だと思うが…………スピーカーに繋いで彼女から聞くというのはダメなのか……?」
「我も貴様と同じ提案をしたのだが、きゃつ、それは恥ずかしいと拒絶したのだ……」
 一体どうして? 小首を傾げる美丈夫に、忍び少年。
「鐶は……報告をさし急ぐと伊予弁に…………なるのだ…………」
「素の口調を聞かれるのが恥ずかしいのね。微妙な乙女心ね。分かるわ」
「とにかくブラボーだ小札!! いいぞ! もっとだ!! もっと燃えろ!!」
「ぬおー!! ぬおおおおー、お゛っ!?! ……け、けほけほ」
(津村……。いなくなって初めてキミの有り難さが分かる……)
 パワーのあるツッコミ役がこの場には居ないと初めて知り愕然とした秋水はもう小札に抗えない。
「まず犬飼どの!! 盟主どのについては所在のみならず特性合一の実態をもご報告!! 『特性による攻撃』にて受け
たるダメージを特性そのものと合一するコトで回避アンド斬撃にて返すという恐るべき秘奥の存在を! 広めたのです!!」
(……特性で、か)
 つまり自分の剣技や防人の体術であればダメージを負わせられる訳か……。この時は軽く思ったに過ぎない秋水だが、
後に知る。この条件がどれほど自分の命運を左右したかを。
「さあさハテと気になりまするは盟主どのとの交戦時!! 恐るべき奇襲に負けてなるかドヤアと雄渾、十文字槍にて盟主
どのをば手近な木に磔られましたるは納得も納得信頼と安定の撃破数1位・戦部どの!!」
(死闘感!)
「されど追撃加えたる犬飼どのムムムと唸らせたるは抵抗の軽さ!! ムムムおかしいホムンクルス調整体にして盟主で
ありますところの盟主どのの抵抗がどうにも軽い軽すぎる! ムムムまさか人間なのかいやまさか、そも盟主どのは100
年前からおられる身上、人間であられる筈がない!!」
0106永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:00:29.94ID:+1rFHYEW
(……盟主の扱いが軽い。小札(きみ)の兄の仇なのに…………)
「私情は私情! 実況は実況!!」
(変なところでマジメ!!)
「果たしてこの謎いったい何なのでありましょうや!!」
(ありましょうや!?)
 戦士・秋水の反応が面白いな……と、防人は楽しそうだ。
「盟主どのでありながら低き膂力は隠されし欠陥ゆえかはたまた恐るべき最悪の前触れなのか!!! 第一節盟主どのの
謎・完!!」
(これをいつまで続けろと!?)
 無言で目を剥く秋水をよそに、「ああ、母上の実況、よいなあ」と目を細めぽわぽわしているのは鳩尾無銘。

 ともかく小札はぴょこぴょこ跳ね回ったり、胸の前で拳を固めたり、実況に夢中になるあまりホワイトボードで顔面強打して
両目バッテンでブッ倒れたりしながら報告をまとめた。

「第三十八節、東里アヤカどのの妹御、斗貴子さんどのに逢う・完!」

『7年前』にまつわる思わぬ名前に防人と千歳が無言で身を乗り出した時、秋水はグッタリした様子で机に付していた。美男
子で鳴らしている彼であるが、いまは白目を剥いている。ツッコミで疲れたのだ。いつぞやの毒島を発生源とするガス騒ぎ
で気絶した時の桜花のような形相で気死していた。

 えと、えと。ロッドの武装錬金を一振りした小札は、毛布を出すとタラちゃんのような足音で秋水に駆け寄り、掛けた。優しく
愛らしい仕草だが、拷問サイコが被害者に輸血と点滴をするようなおぞましさもまたある。

 なお三十八節というが時間的にはまだ報告が始まって4分も経っていない。秋水が危殆に瀕するのもむべなるかな、知恵
の果汁の恐るべき魔濃縮にほとほと脳髄をやられてしまったとみえる。

「そして……どえええ! え!! リリリっ、リウシン!!?」
「っ!!?」

 鳩尾無銘が目を剥いたのは、

「ミ、ミッドナイトが…………別人に委譲されたリウシンの中で……生きていた……だと!?」

 オリジンと言うべき雨の夜の記憶が蘇ったせいであろう。

「次に土星の幹部どの操るゾンビらしき方々について!! ここ銀成における演劇でも見受けられた介入はあったのです、
新月村付近であったのです!! 蒼き顔でフガー! 理性を失くしフガー!! 被害者Kさんこと貴信どのは語ります!!
パピヨンどのさえ倒した病原菌の術技は武装錬金特性ではないのではないか、香美どのの素早さとか不肖の四足形態
のような『ナントカ型』固有のナントカをナントカたらしめる『特徴部分』の行使に過ぎないのではないかとのご指摘!!」
 声に起こされ周囲を見た秋水は、やっと逃れたはずの地獄に再び引き戻された亡者のような、諦めきった微笑を浮かべ
……さらさらと、塩になって、散った。
「あ、あの……」
 無銘は何か言いたそうに彼を指差すが
「ふむ。つまりパピヨンが『特徴部分』に致命的なダメージを負わされたのは人間時代から続く免疫機構の欠落ゆえ、か」
「だから常人なら、リヴォルハインの一部が体内に入っても、そのまますぐゾンビのような状態にはならないけれど、彼の武
装錬金の特性の『何らかの条件』を満たしてしまった場合は、操られてしまう……そう報告してきた訳ね栴檀貴信は」
「その通りなのです!! そしてそれは不肖たちも例外ではないのかも知れませぬ!」
「だから、あの……」
 秋水の座っていた席にうずたかく積まれている塩の山に人差し指を向ける少年忍者の困惑きわまれり。毛布などとっくに
落ちている。

「そして敵襲!!! 幹部マレフィックどの2名どの合流地点へ現れ戦闘開始とのコト!!!」

 どうなりますやら!! 溌剌とマイク当てたまま煌びやかな汗を散らした小札に。

 防人も千歳も、無銘も、黙り。
0107永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:00:55.22ID:+1rFHYEW
 黙り。

 黙り。

 黙り……。

「「「────────────────────────────!!!?」」」

 驚駭。

「ふぇ!? ててて敵襲でありますか鐶どの!!?」

 小札すらノリツッコミ的に慌てふためくなか、

(つまり先手を取られた! 盟主を追撃する前に…………!!)

 塩から復帰した秋水は更に思う。

(しかし『2人』……? いったい誰と誰だ…………?)

.

 左コメカミから右の顎関節を結ぶラインをスッパリと斬り飛ばされたその歩哨は決して油断していた訳ではない。
 村の外周に配されていた彼女は、何度目かとなるクライマックスの自動人形の散発的な襲撃を、慣れ親しんだチームメイト
たちとの連携で退けた直後すぐその銃剣でもってほとんど反射的に背後を殴りつけられるほどあたりを警戒していた。

(盟主追撃の体勢を整えるまでの隙は僅かではあるけれど! それだけに盲点!! 敵は絶対に衝いてくる!)

 ひりついていた緊張感は背後に殺意の影が降ってわいた瞬間爆発。肩口で散った冗談のように巨大な火花は銃剣先と
敵の獲物が掠れ合った印と歩哨が思う頃にはもう左コメカミから右の顎関節を結ぶラインに絹糸を引いたような傷が開いて
いた! 断崖の古城の螺旋の壁のような鋭利な切り口を刻んだ頭蓋骨も眼下遥か、門松の先端もかくやと尖る顔が飛ぶ。
 ぽつ、ぽつ、ぽつ。血と脳漿のにわか雨が渇ききった大地を潤す。凄まじい音を立て転がる死体を見落ろす影が微笑し
たのは声もあげさせず倒した己を誇負するが故ではない。

 どこに持っていたのか。墓場の手桶をそのまま青銅でコーティングしたような物体が、中空でもんどりうちながら、ぐわぁん、
ぐわあんと同心円状の赤黒い輻射を何十層と放っている。

 警鐘の武装錬金・ストライプデリンジャー! 特性は敵襲急報! 創造者のバイタルの急変または周囲50m圏内における
(1)1名以上の生体反応消失 (2)高熱源体 (3)高速飛翔体 のうちいずれかが検知された場合自動(オート)で異常ある
現場の座標を半径2km圏内に存在する総ての『味方』に転送する能力だ。(なお、『味方』の登録要項はヘルメスドライブ
のそれとほぼ同じであるが、写真による記憶もまた有効である)。

「……フ?」
「あ、あれ……? 急に、頭の中に……地図と…………赤い点、が……?」
『なな、なにさこれご主人! なにさ!!』

 騒ぐ音楽隊を尻目に、

「……これ自体は敵の能力じゃなさそう、だけど……」
「そうか。キミたち音楽隊と元信奉者組は知らないんだったな」
「味方の歩哨からの連絡の一種。俺も最初はビビったけどそのうち慣れる。急襲してきた敵が死ぬか、もしくは……俺らと逢
うかで消えるし」

 桜花と斗貴子と剛太はやがて熱汗をまぶす。

(……やってきたのは木星の幹部か、それとも…………)
0108永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:01:20.28ID:+1rFHYEW
 ひとすじの銀閃に砕かれた警鐘は深いヒビを刻んだ核鉄となって落下したが、なんという歩哨の執念、戦士一同の脳内
から地図と点は消えなかった。戦士全体への連絡をまさに殺害されている最中に開始し落命してなお続けた歩哨の勇猛も
また戦後の追悼式典において叙される。謎めいた影の笑いもまた賞嘆ゆえ……。

 本陣への急行を促すような手つきの影の眼前でバタバタと倒れたのはむろん歩哨のチームメイト。全員顔面や胴体を
蓮の実よろしく穿たれている。影への道に折り重なる死骸たちの僅かな隙間を通ったのは、ロングスカートに通された細い
足。

 死者7名。重傷者13名。軽傷者多数。新月村辺縁から中央部、仮の司令部へのルートを無音で疾駆する影たちに
遭逢するところ戦士たちは断たれ穿たれ黒血を飛ばした。もし歩哨が連絡よりも自己の生存を優先していたなら被害は
もっと大きくなっていただろう。戦士たちは奇襲の連絡とほぼ同時に司令部への集結を命じられていた。死傷者はあく
まで離脱が遅れた──つまり運悪く新月村辺縁に居た──だけであり、血気に逸った結果ではない。


 司令部付近。戦士たちが襲撃する間にもう敵意は魔群の風の如く接近(ちか)づいていた。

 曲がり角の小屋の死角から言語に絶する妖気を漂わせながらいよいよ全貌を現した影を。

 それは。

 豪壮なるハルバードに似合わぬひょろりとした青年と。

 2丁のサブマシンガンを構えたまま、ピクニックでもしているような足取りの清楚可憐な少女。

(……っ! 演技の神様……いや! ブレイク=ハルベルドと……!)
(光ちゃんのお姉ちゃん……リバース=イングラム!!!)

 斗貴子と桜花が内心呻かずには居られぬ天王星と海王星であった。

.

「なるほど。こいつらが例の」

 呟いたのは戦部厳至。薄暗い空間で拘束されている彼の眼前3メートルで茫漠たる光を放つモニターは、いかな中継
機構を有しているのか、微笑で佇むブレイクとリバースを映している。ノイズにこそ時々乱れるが、表情が窺える程度に
は鮮明だ。

「そう。10年前貴様が戦った”でぃぷれす”同様、相棒と組んでこそ真価を発揮する連中じゃよ」

 壁にもたれ両腕を颯爽と揉み捻るイオイソゴは、笑う。

「武技のみで早坂秋水を圧倒できる”ぶれいく”と、軽機関銃で精密射撃ができるほど卓越した”りばーす”。ひひっ。奴ら
めの『特性』の相性は最高にして最悪……このわしですら無策では挑みたくない”たっぐ”じゃよ」

 モニターの向こうで。

 両名ともニコニコと目を閉じ人好きのする笑みを浮かべているが……戦士に吹きつく血の匂いは、濃い。


「足止め……にしてはやや迅速すぎるな」

 予定のうちかと片目をつむり問いかける戦部に、「ほう。さすが」と軽く目を丸めた老嬢うなずく。

「そう。ハナからの予定よ。次の一手も込みで、な…………!」

 巨影が戦士たちを覆った。一斉に空を見上げた彼らはいちように、蒼然と引き攣った。犬飼に到っては喜色を交えつつ
も「馬鹿な!」と叫び、火渡は「ま、当然だわな」と短いタバコを弾き捨てた。

 仮の司令部だった廃屋をメチャクチャクに弾き飛ばしながら新月村に降り立ったのは白金色の……巨人。
0109永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:01:39.87ID:+1rFHYEW
「く、くくく……」

 戦士たちが狂瀾怒涛の叫び声を上げ右に左に走り回るさなか、尻餅をついた犬飼が「くくく」と言ったのは笑いゆえでは
ない。再燃する怒りと、狡猾へのヘドと、ほんの僅かな安堵で舌が縺れたせいである。だがそれを意思で捻じ伏せ、叫ぶ。

「首を! 大戦士長の首を死守した理由がこれか! イオイソゴ=キシャク!!!」
(……やっぱりね。蘇生後すぐ、陣内のノイズィハーメルンみたいな武装錬金で操られてしまったとみるべき)

 と分析したのは桜花。

(じゃあこれが誘拐の真の目的…………? いえ、断定はまだできないわね)
(とにかくレティクルで照星氏を操れるのは! 思い当たるのは!!)

 栴檀貴信の脳髄を過ぎるは『操られ、ゾンビのようになってしまった村人たち』。

 バスターバロンのコクピットには照星以外もう1人いた。身長2m超の貴族服の男である。

「我が民間軍事会社に対し『条件』を満たしてしまった者はいかなる戦士でも『社員』となり、社長たる乃公に行使される!
むろん武装錬金使いであれば、武装錬金をも!!」

 土星の幹部・リヴォルハイン=ピエムエスシーズに操られる破壊男爵が古びた木造建築を砕きながら、迫る、迫る、アリ
粒のような戦士たちを追いかけて、迫る。
(っ!! しまった! いまの騒ぎで……見失っ……いや!! 混乱に乗じて姿を消された!!)

 剛太は戦慄する。リバースとブレイクの姿が消えているのに気付き……戦慄とする。

(じょ、冗談じゃないぞ! 相手しろっていうのか!? バスターバロンが暴れている足元で!! バカ強い鐶すら恐れる
海王星の幹部と!! 妙な禁止能力を持っている天王星の幹部の! タッグを!! 身長57m、体重550トンの巨人が
暴れ狂っている地獄の中で……相手どれと……!!?)

 もうもうと立ち込め始めた土煙の向こうから聞こえるは、銃声と、斬撃と、恐怖の叫び。──。

(こーいうとき同士討ちを防ぐため反射的に身動き止める戦士の習性が……)

 アダだなとホルスターに手を掛ける西部劇の二丁拳銃使いのような姿勢のまま戦輪を回し始める剛太の背後の砂の膜で。
 きらりと小さな白いきらめきが灯った瞬間、斧と鎌と槍を組み合わせた悪夢のような超重武器が新米戦士の頭部めがけ
剛速球で伸びてきた。思わず顔だけ振り返る、彼。
「……ぎっ!?」
 砂塵を螺旋状に吹き飛ばす烈風の突きから剛太がからくも逃れたのは、残影も見せず横から飛び出てきた軍用犬あらば
こそ。アロハシャツの首ねっこを甘噛みしたキラーレイビーズが意図的に空中で姿勢を崩した瞬間、剛太はその落下と質量に
引かれる形で薙ぎ倒された。斧と鎌と槍……ハルバードは濛々たる煙の向こうに帰した。
「どうだい? 殺そうとしてた奴に助けられる気分は?」
「……礼はいうけど根に持ちすぎだろ奥多摩のコト…………」
 相も変わらず卑屈な笑みの犬飼に下唇を突き出し呆れを示す剛太。
(まあいい。ここはコイツの護衛! 視界が効かない今、嗅覚は重要……!)
(嗅ぎ当てるべきはレイビーズ! 今までこの場に居なかった『新しい匂い』だ! 戦士への不意打ちを妨害しろ!!)
 じゃないとまた火渡戦士長にどやされるからね、犬笛弄びくっくと笑う犬飼の表情は言葉とは裏腹に……明るい。

「第一、戦士が動かないって、コ・ト・は!」
「アヒ、アヒ:

 円山は無数の風船爆弾を敷設する。土煙発生前の戦士の位置を総て覚えているため誤爆による身長吹き飛ばしはない。

「銃撃に対するデコイ兼、移動妨害!!」

 銃声の間隔がやや広くなったのを確認した麗人は、唇にまっすぐな指2本を与えつつ艶然と笑う。

「ま、本命の測距が終わるまでの時間稼ぎだけどね」
「……なの」
0110永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:02:30.71ID:+1rFHYEW
 強烈な旋風が、立ち込めている砂塵を1粒残さず吹き飛ばした。

「ちょ、視界晴れたら見せ場が、レイビーズの見せ場がーーー!!」

 戦闘の前提が崩れてしまった衝撃事実にギョっと叫ぶ犬飼はともかく。

「風を、天気を、操るドラちゃんに土煙とか誤魔化しにもならない……なの」

 気象の妖精のようなフワフワもこもこした少女はホムンクルス撃破数3位。

「てやー」

 気の抜けた声と共に掌から放たれた野太い稲妻を全身に浴びたバスターバロンが後ろに向かってたたらを踏んだ。だが
雲を突かんばかりの鉄巨人の出来事である、たった数歩の後退で、鍛え抜かれた戦士たちですら立っていられないほどの
地響きが巻き起こる。捲れ上がる何枚もの岩盤は刺々しき氷山の如く峯を連ねる。
0111永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:02:48.05ID:+1rFHYEW
「ウォーミングアップでも5人は殺せると思ってやしたが」
『戦果ゼロ。軍用犬と風船爆弾にだいぶジャマされちゃったねブレイク君』

 そんな文章が弾痕で、比較的ぶじな地面に刻まれた次の瞬間。

 ひゅっと跳躍し、手近な廃屋の屋根で合流した幹部2人は戦士たちを睥睨する。

「……さすが救出作戦の大舞台に選ばれた方々。銀成の人たち以外にも強者は、へへ、いらっしゃるようで」

 天王星の幹部……ブレイクはやや猫背でしゃがみ込んだままエビス顔で話しかけ、額すら叩き、
 海王星の幹部……リバースは、二挺のサブマシンガンを腕ごとダラリと垂らしたまま、巍然と仁王立ち。

「どうでもいいわどうでもいいのよ光ちゃん以外の人間なんてキライキライ大嫌いやっと殺せるのよ戦士全員殺せるのよ
お父さんとお義母さんを殺した戦士の仲間なんだから殺す全員殺す光ちゃんと愛し合う邪魔しないで許さない」

 魔獄のような妖光を薄目から漏らしながら、ブツブツと早口で呟く。ノーブレスで陰麗たる嚇怒を紡いでいる癖に声音自
体は天女のように貞淑で清廉ときているから、却ってますます死霊めいて恐ろしい。
0112永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:03:15.21ID:+1rFHYEW
ゆるくウェーブのかかった、やや金属的な乳白色のショートボブ。それがリバースの髪型だ。雰囲気こそ大爆発寸前では
あるが、顔立ち自体は何人かの戦士が思わず吐息をついたほど。活発ではなさそうな、それでいて包容力はありそうな、
清純きわまる美姫の佇まいにしつらえたように四体は今にも折れそうなほど細い。なのに女王蜂のようなウェストのくびれの
上下は正に豊穣。首をすっぽり覆うサマーセーターの生地がはちきれんばかりに膨らんだ胸部。清楚なロングスカートの
上からでも分かるほどに肉付いた臀部。
(イオイソゴと並べば向こうが霞む……正統派美少女って奴だね)
 卑屈だからこそオタクを低く見る犬飼は、半ば揶揄を込めてリバースを評した。

(……先輩)
(ああ。増えているな。あの海王星の幹部の銃……銀成で戦った時より増えている)
(フ。ダブル武装錬金か。俺もやってはいるが、幹部にまでやられると、な)
0113永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:03:37.90ID:+1rFHYEW
 かつて総角は自分と鐶のタッグでも勝てないのがマレフィックと評したが、それは向こうが1つの武装錬金を使っている
という前提の上でだ。つまりダブル武装錬金をされると……勝利はいよいよ絶望的…………。

(どうにか武器を弾き飛ばすか……或いはどちらかの武装錬金をコピーするか……)

 颶風と共に濃さを増した影を後方への跳躍で躱わしながら、総角主税は嘆息した。

(フ。10年前といい今といい、大事なところで邪魔してくれる……」

 身長57mの巨人もまた敵なのだ。だがその敵は、武装錬金は『総角に姿を、見せている』。……つまり!!

.
0114永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:03:54.25ID:+1rFHYEW
(…………)

 火渡赤馬はバスターバロンの顔面を睨み据える。眼力で外装に穴を開け、搭乗者たる照星を曝け出そうとするように、
強く強く睨み据える。死の淵から無理やりに引き戻され傀儡と成り果てた師を……ひたすらにねめつける。
 構えていた戦士たちのうち何人かが偉容に満ちた追撃の数々に気圧され算を乱し逃げ始める。何もしなければ戦団は
遠からず総崩れの憂き目にあうだろう。そして今の火渡は照星の代行……戦団全体を収攬すべき立場にある。

(いっそ、俺の手で……)

 また心の中の雨音が……強くなる。

.
0115永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:04:28.41ID:+1rFHYEW
.

 終止符の先の世界で、羸砲ヌヌ行語りて曰く。

「そうだソウヤ君。きっかけだ。幕開けだ。音楽隊とレティクルの命が次々と喪われていく激闘が始まったのはここからだ」

「最初の死者は……1人」

「その名は──…」
0116永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:05:02.01ID:+1rFHYEW
.

..

【ヤーコプ=グリム・ヴィルヘルムグリム/作】

【関 敬悟・川端豊彦/訳】

【ブレーメン市の音楽隊】より】

.

..

 やがて村を逃げ出した者三匹は、ある屋敷のところを通りかかると、門の上に雄鶏がとまっていて、精一ぱいの声で鳴
いていた。「骨の髄までしみわたるような声だね」と、驢馬が言った、「どうしたってんだい」──「上天気だよって知らせたの
さ」と雄鶏が言った、「うれしい聖母マリアさまのお祭りで、マリアさまがキリスト坊ちゃまのかわいらしい肌着を洗濯なすって、
そいつをかわかそうって日だからな。ところがあしたは日曜で、客が大勢来るってんで、うちのおかみさんたら情け容赦もな
く、あすは俺をスープに入れて食っちまうんだって料理女に話してたのさ。そいで今晩、おいらは首をちょん切られるのさ。
だから、鳴けるうちに、思いっきり鳴いてるってわけさ」──「何を言ってるんだ、赤毛君」と、驢馬が言った、「それよか俺た
ちと一緒に逃げた方がいいや。俺たちはブレーメンへ行くんだ。死ぬより良いこたあ、どこへ行ったってあらあな。お前さん
はいい声してる。みんなで一緒に音楽をやったら、きっと面白えもんになるぜ」と、雄鶏は、これを聞くと、そいつは面白いと
思って、四匹そろって出かけた。


                          【参考文献:角川文庫 「完訳 グリム童話T さようなら魔法使いのお婆さん」】
.

..

(…………お姉ちゃん)

 廃屋の屋根で、目を閉じ微笑する姉を音楽隊副長・鐶光は見上げる。

 恐怖に震え、挫けそうになる体を支えているのは……1人の少年とのかけがえなき思い出。
 付近に浮かぶ龕灯は

(いよいよ……か)

 聖サンジェルマン病院にいる「1人の少年」の心をざわつかせる。.

..

 かつて両親を殺し、筆舌尽くしがたい虐待を行った義姉との決着が、

 旅の決着が、

 迫っている。
0118ネギま信者J
垢版 |
2018/06/24(日) 18:09:42.76ID:qY7uf13y
魔法先生ネギま!/UQホルダーのSSを
投下しようと思うんですが

このスレで投下してしまって
大丈夫でしょうか?
0119作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/07/01(日) 20:35:21.36ID:ZLPv28jZ
>>スターダストさん
屈辱感の中で、「復讐では挽回できない」と悟り、そこから前に進むのは、賢明で立派だと思います。
その根っこが「周囲が認めない」だというのもまたいい。それは功名心であり、同時に「自己満足ではない」
ですからね。と、かっこいいところを見せつつ円山にツンデレる犬飼。多方面に見せ場たっぷりでした。 

>>ネギま信者Jさん
おいでませ。題材に縛りはありませんので、ご自由にどうぞ!
私からのリクエストというか希望なんですが、私はその原作を未読ですので、
各種設定やキャラの外見など、説明を多めにして頂けると有難く。
0120永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:13:15.04ID:j2GJNLEY
第108話 「うばわれたバスターバロン」

 とにかく、分断である。急務といっていい。マレフィック2名と、バスターバロンの話である。戦士どもの立場になってみよ、
音楽隊の総角・鐶といった精強きわまるホムンクルスがタッグを組んでなお勝てぬと噂される幹部が、2名づれで現れた
時点ですでにもう大衝撃であるのに、何というコトであろう、戦団の護神であるべき鉄巨人までもが……寝返っている! 
誘拐され、戦士たちに救出されるべき坂口照星が、戦士たちに超質量の鉄拳を……向けている!!

(味方なら心強いけど)

 冷汗を頬いっぱいにまぶした剛太が呻く。

(身長57メートル、体重550トンのバスターバロンが敵に回るなんて……)

 最悪というほかない。

「ふはは……どうだ、真ゲッターを敵に回した気分は……的な…………」
「フザけてる場合か!!!」

 斗貴子が、爆散し木片を撒き散らす廃屋の前で飛びのきながら目を三角にし怒鳴るのも無理はない。鐶光。赤い三つ編
みのせいで一見清楚可憐な彼女だが中身はイイ性格で、しかも異星人めいた独特のマイペースをも孕んでいる。戦士たち
が怒号あるいは悲鳴を上げながら走り回っている中、藍鼠色の峯影よりも更に高くそびえる鉄の巨人にどこかエヘラエヘラ
した視線を向ける理由は(くそう、これだからロボットアニメ好きは……!)と歯噛みする斗貴子を見ればおおむね分かろう。

「……空が割れる……炎が舞う……巨大魔神見参…………?」

「マジメにやれ!」 さすがに斬りつけるよう叫ぶ。「今のままじゃお前だって……姉との決着どころじゃないんだぞ!」

 虚ろな瞳が揺らめき、繊婉たる眉も下がる。「わかって……います」。軽口はどうやら心機の平仄を合わせるためだった
らしい。音楽隊副長の口からまろびでるは搾り出すような、幽(かそ)けき声。

 会敵から1分足らずだが10名ばかりの戦士が面白いように討ち取られつつある。首を撃ち貫かれ息絶えた者、土煙の
向こうから伸びてきた斧槍に右側頭部を飯茶碗のように叩き割られ中身をこぼした者……。いずれも破壊は回避後おきた。
バスターバロンの足や拳を紙一重で避けたその硬直を狙われた。(土煙の向こうから、隠れて……!) 斗貴子がうすく血
が滲むほど拳を握るのも当然だ。卑劣というほかないし……だからこそ、向こうが負け筋を打っていないのも業腹だ。

(個々の力量では戦士(わたしたち)より幹部(マレフィック)が上……。にも関わらず奴らは理解している! 『長期戦になれ
ば結局は数の暴力で押し切られる』、と!)

 それは犬飼倫太郎に腐心していた頃の木星・イオイソゴ=キシャクの思惑と一致する。強さで劣る戦士といえど多様性で
立ち向かうコトはできる。1人くらいは、襲い来るリバースやブレイクといった者相手に相性で勝りうる……というのは決して
夢物語ではない。万が一そういったものがなかったとしても、複数人の能力の出し合いで、敵が特性を振るいづらい状況を
作り出すコトだって可能なのだ。

 だからこそ!

(奴らはまず着実に戦力を削ぐつもりだ! こちらの連携を……断つために!)

 あちこちで叫喚があがる。血しぶきも。戦士たちは土煙におぼろな影が零乱するたび味方勢力が確実に減じていくのを
直感するがどうしようもない。果敢にも単騎で助けに向かった者たちは数人に収まらなかったが……バスターバロンの着地
の巻き起こした砂塵にひとたび覆われたが最後である。耳を覆いたくなる絶叫に彩られた濛々たる膜ときたらまるで小鳥が
虫の甲殻や足でも吐きもどすように、耳や、目玉や、片腕をどしゃどしゃと透過させ大地に落とす。そうした光景が補助専門
の戦士たちの心機から攻勢をますます奪い……『狩られやすくする』悪循環。

 まったく鐶の義姉だと斗貴子は思う。銀成で、年齢操作という特性1つで、混雑という、奇襲に適した環境を作り出し真綿で
首を絞めるように戦士たちの年齢を削いでいった鐶のまさに義姉であると仮想上のリバースを睨む。

(それ単体でも最強クラスのバスターバロンを一見”たかが”の攪乱材料にするとはな……! 単に思考力が図抜けている
だけじゃない、自らの力量に絶対的な自信がなければまずできない発想! 同時に戦車と歩兵の関係でもある! 土煙と
地響きで戦士(わたしたち)を攪乱できる代わり小回りが効かないバスターバロンへの接近あるいは潜入を防ぐため、連射
力のあるサブマシンガンで牽制しているんだ)
0121永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:13:35.67ID:j2GJNLEY
 土煙から飛び出した死骸がひとつ、斗貴子の傍を通り過ぎた。若い男性だった。体の前面総てが蓮の目状にグズグズに
溶け裂けている。被弾で仰け反ったまま死後硬直を迎えたらしき手と足で「ヒ」の字を作りつつ後方へ流れていく彼に斗貴子
は見覚えがあった。親しくはなかったがこの7年の作戦行動の中で何度も顔を合わせた9歳上のバツイチで、酒にこそだら
しないが斗貴子の顔の傷をいい意味で気にしない親愛的な戦士だった。皮から中途半端に出たブドウのような右目と眼窩
の隙間から脳漿で割られた豚肉状の脳髄がとろとろと出ている社会死判定Aクラスのダメージを見損ねていたら、斗貴子は
彼めがけバルキリースカートを伸ばし救護していた。その程度には好感ある相手だ、摩擦で焼け焦げた無数の銃創から落
城の火の手のような黒血をたなびかせつつ手の届かぬ領域へ謝(さ)ってゆくありさまに斗貴子の面頬が哀惜に歪んだのは
ごくごく一瞬……すぐさま決然たる殺意へと塗り替えられた。

(桜花とは段違いの射撃系統だが……行くしかない! 私が!)

 因縁だけいえば鐶とブツけるのが得策ではある。何しろ鐶もホムンクルス、レティクルが片付いたあとの処理を考えれば
むしろここでリバースと食い合わせるほか無いとさえ言える。

 が、狙わないのだ、向こうはまったく。

 最も因縁深い鐶を放置しているのは「2人だけで、ゆっくり」という訳だろう。ベストだ。心情的にも、戦略的にも。水入らず
での決着は因縁かかえる者なら誰だって大望だし、銀成市で6人もの戦士を相手に大立ち回りを演じた音楽隊副長に加勢
する戦士(もの)あっては勝ち目も薄れる。最愛の義妹を倒れるまで愛でるには1人にするのがまずよろしい。

「先輩!」

 甲走った剛太の叫びが斗貴子を思慮から現実へ引き戻す。「最悪だ」、すくたれた犬飼の呟きも今ばかりは蔑(なみ)せ
ない。照星はもう戦士たちを捉えている。550トンの凶弾を放っている。山より巨大な巨人が組んだ拳を機首にして鋸刃め
いた加速の波濤を漂わせているのを見た斗貴子の想う「フザけるな」にらしからぬ恐怖が色濃く混じっていたのもむべなる
かな、ガンザックオープン、人間に使うは特急をブツけるに等しい。
 超質量を超速度で衝突させるその単純さをヒトが生身で直撃(うけ)たが最後、粉砕どころか血の霧になって消えうせる。
回避できても着弾点が地面の場合、破片の散弾が恐ろしい。砲弾の何十倍もの質量が軽機関銃による十字砲火数百ダ
ース分ふき荒れるのだ。とあるホムンクルスの集落に敢行された時は決して小規模ではない建物を29棟全壊させ、129体
の頑健なるホムンクルスの四肢のいずれかをバッタの足でももぐように吹き飛ばしたという。

 それが、バスターバロン最強の技が戦士たちを狙っている。軌道から察するに着弾点は恐らく偏在する戦士団のほぼ中心……
とまで読んだからこその「フザけるな」である、斗貴子は。

(冗談じゃない! ホムンクルスな鐶たち音楽隊と違って私たち戦士は人間……! 今すぐバスターバロンを撃墜できなけ
れば着弾だけで壊滅的な被害を蒙る……!!)

 そうなった場合、立て直しはもう効かぬ。誰が暴悪ふるうマレフィック2名を止められるというのか──…

 という、斗貴子と同様の思いを浮かべた無数の戦士たちがめいめいの武装錬金を構えた瞬間、それは来た。

「やはり下も下なら上も上、か」

 あっと息を呑めた者はごく少数。最高速に乗った破壊男爵の、十字に切り拓かれた兜(ヘルム)の前に突如として現れて
いた漆黒の影は比すれば雲霞の如き粒だろう。幻怪なる舵が切られた。指の骨節の高らかなる音が緑黄まだらな峡谷に
響いた瞬間バスターバロンの推進軸は爆光ふくれあがるバックパックの左ブースターに支配された。逆方向に巨体がかし
いだのは爆発の”押し上げ”がそれほど強烈だったのだろう。

「囚われるどころか洗脳とはねェ」

 乱気流に飲まれたように上下しながら行きすぎていく男爵の横顔を一顧だにせぬまま、ねばりついた冷笑を浮かべる影
はいよいよ石炭でも食んだようにドス黒くなったブースターの煙に飲まれ……まるで溶け混じったように姿を消した。

 直前かろうじてだが影を目撃した斗貴子、唸る。

(あの影……まさか!)
0122永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:13:51.84ID:j2GJNLEY
 戦士たちがこの奇怪ごとにただ呆然たちつくすだけの連中であったならバスターバロンは即座の転針を以って予定通り
の着弾を行えていただろう。だが阻止はただ反射的な便乗によって成された。100個しか存在しえぬ核鉄をして無尽蔵の
ホムンクルスを殲滅せねばならぬ構造的な忙しさはしばしばヴィクターの一件のような誤りも生むが、偶発的な勝機に対す
るほとんど芸術的と言っていい反応速度もまた生む。今回は、後者であった。バスターバロンが突如として推進部から火を
噴いた意外ごとに目を白黒とさせながらも投擲・射出に属する武装錬金の持ち主たちは突撃を決定的に妨げるべくほぼほ
ぼ脊椎反射的に機械巨人を攻撃した。

 モーターギアやエンゼル御前は言うに及ばず、ミサイルやHEAT、アサルトライフルといった実体弾その他の武器の小爆発
にバスターバロンはどんどんと軌道を逸らされた。決定打を催したのは熱疲労。火渡の炎にねぶられたバックパックはサップ
ドーラーの放つ雪嵐によって匙に叩かれたゆで卵の如く面白いように亀裂を広げ弾け割れた。

「……やる!」
「大戦士長救出に選抜される程度には全員強い。むしろこの程度の連携……できん方がおかしい」

 モニターの前で感嘆するイオイソゴに対し戦部は無感動に呟く。こともなげな瞑目だが、それだけに却ってこの大舞台の
キャストたちに対する絶大なる信頼が見てとれた。

「じゃが」

 すみれ色のポニテ少女は腕組みのまま指立て……きゅっと片頬を吊り上げる。

「こちらとてただ操っている訳ではないよ」

 怯みつつ、しかしなお前進せんとするバスターバロン! どよめく戦士! 悟った! 前進が単に巨大質量の慣性による
ものでないと! おお見よ、鉄巨人を見よ! 暗紫の陽炎を総身から噴き上げながら、無数の武装錬金の猛攻をものとも
せず戦士たちに殺到する御姿(みすがた)は慣性以上の凶念を纏っている!!

「強化、か。なるほど。読めてきたぞ。大戦士長を操っている武装錬金(カラクリ)が」

 呟く戦部に老嬢は「ひひっ」と幼き肩を揺する。

「そう! りぼ坊じゃよ。いまや照星めは我らが土星の忍奴……!」

 五指を天衝かんばかり広げた丸顔の童女はしかし黒々と八重歯をむきだし、笑う。

「民間軍事会社の武装錬金『りるかずふゅーねらる』の特性は特定条件下における完全支配!! 支配を享けたものは
代わりに能力を引き上げられる!!」
(……艦長どもがとある山で遭遇したという村人どものアレか。あちらは人の身のままホムンクルスの姿形と能力を得て
いたというが)
「ひひっ。そしてこちらも貴様は毒島から聞いているじゃろうが、銀成学園の連中めが演劇終盤武装錬金を発動した原因
もまた我らが土星の仕儀!! 持たざる者に与えることに比ぶれば既に存在する物を強化するなど……実に容易い!!」

 いかに戦士どもが強かろうと強化された破壊男爵が相手では鎧袖一触……! 高らかに笑うイオイソゴに戦部が野太い
唇をほころばせたのは、むろん迎合のためではない。

「それはどうかな?」

 猛進する鉄巨人の周囲にある物が吹き荒れた。イオイソゴは最初それが、火渡とほぼ互角の広範囲攻撃を持つサップ
ドーラーの、気象攻撃の一環かと思ったが、立ち込めるものが、金属的なギラつきを帯びているのを知ると軽く瞳を散大
させた。

「これは……」
「戦費の武装錬金!! ウォーエンドノーマネー!!」

 少女の言葉を継ぐような叫びがスピーカーから流れた刹那、ぐわんと凄まじい音たてバスターバロンが弾き返された。それ
も鈍器のスイングを受けたような調子ではない、生硬いゴムに衝突しバウンドする軟らかさだ。思わぬ抵抗に獰猛な唸りあげ
背部ブースターを炎(も)やす鉄巨人。彩度の高い青緑の噴炎で突っ切らんとした謎めいたギラつきはしかし奇怪、ふたたび
バスターバロンを押し戻す。

(硬貨……!!)
0123永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:14:08.46ID:j2GJNLEY
 重鎮イオイソゴが軽くだが瞠目したのもむべなるかな、一円玉もあれば五百円玉もある。原寸大だが微妙に錬金術的意匠
を施された硬貨群がそれ自身生命ある胞子のごとく漂っている。空中にある身長57mの前後左右をほぼほぼ隙間なく埋め
尽くしているといえばどれほどの量か知れるだろう。

「あの特性は条件を満たしたが最後、俺でも易々とは突破できん」

 現役戦士中最多のホムンクルス撃破数を誇る戦部が片目をつむりニンマリとする様にイオイソゴの目つきが変わる。驚く
少女らしさが一気になりを潜め、現れたのはただただ冷然と敵の能力を見極めせんとする一個のくノ一。

(ばすたーばろんを抑えられる以上、小札めの反射障壁とは恐らく原理からして違う筈……! そも忍びゆえ目ぼしい戦士
どもの能力はおおむね把握しておるわしが知らぬということ自体すでに強者の証……!!)

 真に強い能力とは知名度を得ぬものだ。そうではないか。ウワサされる数とは畢竟『仕留め損ねた回数』、使えば相手が
必ず死に、目撃者すら全員始末するほどの能力こそ、強い。でなければ研究される。特性を知られるイコール攻略法を練
られる。強さを保つのは秘匿。秘匿を保てる慎重さなき者かならず『百年目』……忍法という能力の世界に生きるイオイソゴ
ならではの持論だ。

 たすきがけに、一万円札が、生えた。さくりとめり込んだのはない。最大限の注視をしていたイオイソゴですら、突然巨大な
る紙幣が機械巨人の体表に生えたとしか見えなかった。

「最高額は、強い」

 戦部のしわがれた呟きと共にモニターから光が溢れ──…

 一拍遅れの爆発で反時計回りのタップ的な旋転を描いた激越の巨人はそのまま無数の山林をヘシ折りながら山肌に
雪崩れ込んだ。

(これで沈黙してくれたら楽なんだけど……)

 期待もむなしく立ち上がった破壊男爵の顔を見た犬飼は(……だろうね)と情けなく痙笑する。直立に戻った男爵は、
双眸に一瞬冷然たる毫光を灯し、ゆっくりと戦士たちを見渡した。見渡すたび顔面の圧威の煤が濃くなりつつあるよう
だった。

(…………)。一瞬たじろいだのは剛太。武装錬金の攻撃力の低さゆえ圧倒的巨体への畏怖は強いと見える。

(落ち着け。バックパックは確かにツブした。万が一レティクルの連中が再生能力とかつけてやがったとしても、しばらくは
突撃できない筈! ……つっても)

 7m級のスギやヒノキをマッチ棒で作った工作物よろしく薙ぎ倒して薙ぎ倒し前進する威容に新米戦士はもはや呆れぎみ
に蒼褪める。おばけブルドーザーでもこうも易々とはいかないだろう。

(歩き回られるだけで脅威なのは相変わらず! やっぱ部分破壊じゃ根本的な解決にならないって! バスターバロンの
恐ろしさは特性ではなくあの巨体!! 大戦士長の洗脳が解けないなら、完全破壊か武装解除しないとならねェってどうに
も!)

 回転する歯車(ギア)が導く『歩くコトすら阻止するにはどうすればいいか』……現状もっとも手っ取り早い手段には、早坂
桜花もまた……辿り着く。

(津村さん)
(ああ。分かっている)

 桜花の囁きに斗貴子がほとんど諦観の様子でやや苦々しく瞳を細めたのは結局決定権を有さぬからだ。幹部2人
とバスターバロンの分断を実行できるのはただ1人で、しかも”そいつ”は斗貴子の指示を受け付ける義務も義理も
有さない。

 機械的な咆哮を上げ、戦士たちめがけ歩き出す破壊男爵。どよりとした合唱をあげ後じさりかける戦士たち。

「フ」
0124永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:14:27.80ID:j2GJNLEY
 火花を散らしたのは踊りこんできた巨拳である。大ッぴらに首や胴体を揺らしながら倒れない程度に後退した『坂口
照星の』バスターバロンは無機質な眼差しを乱入者に向けた。

 居たのは──…

 身長57m、体重550トンの鉄巨人。いや厳密に言えばその全身は薄くそして輝かしいメタリックブルーに彩られているから
青銅巨人とでもいうべきか。ともかく2機目のバスターバロンがそこに居た。

「まさかダブル武装錬金!? 大戦士長が!?」
「いえ……あれは……」

 リーダーの……です。鐶が呟いたのとほぼ同時に、コックピット内の金髪剣士は片頬を自信たっぷりに吊りあげた。

「フ。巨体ゆえ観察に手間取ったが……こちらは俺が引き受けよう」

 マントをしていれば挙措と共に鳴っただろう。それほど典雅な動きだった。

 彼……音楽隊首魁・総角主税の武装錬金『ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ』は複製能力の認識票! 複製のため
満たすべき要項は以下のうちいずれか1つ!

(1) 対象の創造者のDNAを認識票に付着させる
(2) 対象の武装錬金を実際に目撃する。

「(2)を10年前の遠目で見た特性使用時の記憶と相まって満たした……ゆえに、5分なれど完全再現可能な(1)には劣る
複製ではあるが、サイズ的に抑えられるのは、フ、これしかないだろう」

「あー。総角のやつとうとうバスターバロンまでコピーしやがった……」

 ヒキガエルのような声でボヤいたのはエンゼル御前。ただでさえ先ほど、激戦やブレイズオブグローリーといった超強力な
物品を剽窃してのけた総角だ。このうえ戦団最大といっていい鉄巨人までもコレクションに加えられれば御前ならずとも腹が
立つだろう。

 果たして一見緩徐なる殴り合いを演じ始める巨人2体。

「気に入らないけどアイツじゃなきゃ押さえ込めないのは事実……」
 犬飼は苦慮の顔つきで唸ったが、ふと気付いた様子で一人ごちる。
「……サブコックピットのアレは再現できるのか? 乗せた奴の武装錬金を増幅して発動できるアレは……」
 可能ならば最悪だと犬飼が思った理由は次のとおりだ。

(アイツは……音楽隊のリーダーは複製能力者だからな。もう1個あるという認識票から発動したサテライト30の分身
をサブコクピットに乗せたら……あらゆる武装錬金を1人で増幅できるんじゃないのか……?)
「ってカオしてるけど」
 いやその推測違うわよと傍らに居た円山はジト目を犬飼に送る。
「総角のスロットは2つなんだから、バスターバロンとサテライト30で枠埋まっちゃったら他の武装錬金使えないわよ?
サテライト30で作った分身が使える武装錬金はあくまでサテライト30だけ。他のを発動したら、サブコックピットの分身
は消える。例えば私のバブルケイジを代わりに発動したのなら、総角は、メインのコックピットで風船爆弾を侍らすコト
になるから、そこの乗組員の武装錬金はブーストできないのがバスターバロンだから、だから結局、総角は、自分で
複製したバスターバロンについてはサブコックピットの特性を自分で使うコトはできない……筈」
 ムーンフェイスだって月牙は増えるけど分裂特性あるのは1つでしょ? 指たて呟く円山に、犬飼のメガネ、ズレる。
「……あ。…………。ん? 待て、じゃあ逆に考えると」

 四つ手を組んでいた2体の巨人の片方が、後頭部を殴られた。凄絶なる火花を散らしたのは背後からの鉄拳だ。

「フ」

 殴らせたのは、3体目のバスターバロンを生んだのは言わずと知れた総角主税。

「野郎! サブコクピットの自分で」
「増やしやがった……! バスターバロンをムーンフェイスの能力で増やしがった……!」
0125永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:15:34.63ID:j2GJNLEY
 まったくムチャクチャだとばかり目をむく剛太。続く呻きは犬飼のそれである。

《増やす、か。さすが盟主の移し身》

 エコーの掛かった涼やかな声はバスターバロン頭部から発せられた。

《考え方も似通ってくるものだな》
(『似通る』? ……まさか!)

 昂然と斗貴子が天空を仰ぐのを待っていたように蒼穹に開くは大小さまざまの黒丸。あざやかなまでの降下だった。黒丸
は足裏の影であり、地上との絶対距離を急速に削り取るにつれ戦士のはしばしから叱嗟のうめきが漏れ出でた。振り注い
でいるのは銀の柱。大気を削る圧倒的速度で甲冑の輪郭を溶けながしている柱。それらが大地に次々と着弾した。噴火の
予兆のように高々とした土煙が舞い上がり大玉の砂礫を湿り気味の小麦粉のように散らす。永劫かたり告がれる震災より
悪夢的な激しい揺れにもんどりうちそうになりつつも辛うじて直立を保った戦士たちは、見た。確かに……見た。

 20数体のバスターバロンを。
 それらは胸の前で交差していた両腕を解き、双眸に光やどしたのを合図に起動しつつある。動きつつ……ある。

(総角の複製……じゃない!!)

 斗貴子は気付く。いま降り注いできた男爵たちの、微妙なる形状の違いに。まず色が異なる。どこか錆びたような赤みを
真鍮色の体いっぱいに帯びている。形状も、本家の、マッシブながらヒロイックな輪郭線を刺々しく波打たせており全体的
に禍々しい。

「量産型バスターバロン! 完成していたの……!!? ……です」

 登場に目を輝かせるのは鐶光ただ1人。戦士たちの頬はみな一様に暗褐色、絶望、である。

《そう!! 量産型である!! 乃公たちマレフィックは囚われの坂口照星を幾度も幾度も拷問していたがそれはなにも過
去の遺恨を晴らすためではない!!》
(っ!! そうか!! 血!!)
(血を採取するための拷問という訳ね! 何しろレティクルの盟主は……!)
 剛太と桜花の気付きに応答するようバスターバロンから声が透る。
《そう! 気付いた者もいるであろう!! 我らが盟主・メルスティーンさまは卓越したクローン技術者……! かのヴィクトリア
めにも伝授したその技法を以ってすれば坂口照星から採取せし血液からクローンを作るなど造作もない!!》

 ……。
 かつて坂口照星は拷問途中、気付いた。

 己の流した血と膿に塗れた床一面を見た瞬間、息を呑んで。
 俄かに思考が高速回転を始める。緊急事態。それへ戦闘部門最高責任者として対処する時のように、脳細胞があらゆ
る情報をひっつかみ、速読する。

(まさか)               (100年前の彼の専門の1つは──…)   (残った幹部の内の1人)
          
      (いえ、でも、そうです)      (『赤い筒の渦』)   (アレキサンドリア。女学院の地下のあなたの源流も、確か)

(マズいです) (実利的な理由) (筒はとても強欲) (タイムスケジュール。計画。より大きな流れ) (回収) (核鉄は幾つ?)

 一見まったく体系をなしていない単語が脳内を掛け巡る。いよいよ40度に迫る熱の中、照星はただ、自らの一部の腐れ果ての
成れの果てに顔を叩きつけた。むっとする異臭の中、いよいよ遠のいていく意識の中で考えた、
0126永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:16:01.07ID:j2GJNLEY
大変、です)

               (この拷問は)

                            (私個人を狙ったものではなく)

                                                       (戦団全体への、害悪の……為)

 は──血液を、月の幹部の『媒介』特性応用で回収されたという点も含め──こんにちの量産型登場を予期したものである。

 斗貴子はそれを知らないが、流れる謎めいた声に呼応し、呻く。

「つまりいま現れたバスターバロンの創造者は総て大戦士長のクローンたち……? だったらそれだけの数の核鉄いった
いどうやって……いや、待て!!」
 斗貴子は気付く。演劇の最中、核鉄なしで武装錬金を発動していたまひろたち生徒の姿を。
「あの時の能力か!! あの時の能力を大戦士長のクローンどもに使わせて、量産型を……!!」
《御名答! さすがは名にしおう津村斗貴子! なれば乃公に勇気を示せ!! その、非力なる処刑鎌で乃公が配下20数機
に決然と挑む気概を……示せッ!!》

 動き出す男爵たち。たまぎるような声を上げつつも応戦すべく歩を進める戦士たち。

「フ」

 巨人を止めたのはまた巨人であった。20数機とほぼ同数の巨人が前から後ろから剛腕を回し動きを止めている。

「こっちも増殖!! 確かにサブコクピットにいる総角なら可能だけど……!」
「いよいよムチャクチャねえ……」

 60メートル近い巨人が合計40体以上……下手をすれば四捨五入で50体うごめいているさまに円山円は呆れるほか
ない。

(それに……)

 至極当然の考えが過ぎる。550トンもの質量を20数体も出してのけた総角は

(…………大丈夫なの、ガス欠。戦部のような補い方でもしない限りまず息が続かないと思うけど…………)

 心配もよそに彼は自らの機体のメインコックピットで綽々と笑う。

「フ。たかが20体、だろ? 未来(むかし)いた最強を見ろ。軽く1800体作っていた……」
「な、なんの話よ総角クン……」

 桜花は戸惑うがなんぞあらん、一見ホラかヨタかのコレが厳然たる事実とは!!

「というか増やすなら離れろ!! いま以上に混乱させてどうする!!」

 斗貴子の叫びは正論だ。1機でも足元への影響大なる機械巨人がさらに2機増えたのはマズかろう。事故現場で収容の
邪魔となる暴走トラックに怒りつつ逃げ回るしかない救急隊員に、自警団が『抑えにきた』とデコトラ2台で走り出したような
ものだ。戦士たちの表情(カオ)は救急隊員。

「そーよそーよ!! ばかもりもり!! そーゆうでっかいバチバチは街でやるじゃん!!」
『いや逆だからな香美!! テレビじゃないんだから!!』
「新ゲッターじゃない限り……主役機が……街の人……巻き添えとか……だめ、です…………! だめなの、です……!」

 わーわー騒ぐネコ少女とは逆に、虚ろな目の鐶は静かに囁くが、それは反対をゆるさぬ強い意思に満ちている。

「フ。しからば」

 照星とそのクローンのバスターバロンを、総角のそれが総て悉く両脇から押さえつけ……翔ぶ。彼方の山影めがけ。
0127永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:16:52.22ID:j2GJNLEY
 剛太の分析は、正しい。

(方や複製能力による模造品、方やクローン原産でしかも正規の核鉄(てじゅん)によらない発動方法な海賊版。総じてお
互いほぼ互角……ってコトか。唯一、総角が破られるとすれば)

 照星のバスターバロン。ひしめく男爵たちの純然たる始祖においてはまさに別格。果たして総角の勝敗や如何。

「これでこちらはマレフィックに専念──…」

 できると呟きかけた斗貴子が一瞬固まったのは斃すべき幹部たちが既に致命の間合いに居たから……ではない。視界
の上端の空を横切る影を見たからだ。
0128永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:17:16.20ID:j2GJNLEY
 それは、蝶、だった。蝶の覆面をつけ、蝶の翅を持つ……華奢かつ漆黒の青年だった。

(パピヨン!!? どうしてお前が!!?)

 斗貴子のおどろきはこういうコトだ。パピヨンは先刻、銀成市で土星の幹部に手痛い一敗を喫している。人間をやめてな
お免疫力喪失の死病がいまだ根底にある彼だから、細菌型という、病原を走狗とする土星の幹部に完膚なきまでやられて
しまったのは原理的にいってもはや仕方ない話であろう。それはともかく、パピヨンは敗北のち聖サンジェルマン病院に収
容されたというのが先ほどまでの斗貴子が彼に対し有していた最新情報だったから、いまだそちらで加療中と思っていたの
は当然だ。

(ダメージもあるが、そもそも……『ない』。戦団所属ではないアイツが大戦士長救出作戦に協力する義理はない)

 だからパピヨンの登場など予想もしていなかった斗貴子だが、同時に気付く。復讐。新月村一帯には照星と同じく、幹部
たちもまた居るのだ。だから復仇すべき土星の幹部を追ってきたとすれば動機の点では辻褄は合う。
0129永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:17:32.24ID:j2GJNLEY
 が、兵站面では齟齬。斗貴子の論理的な部分がパピヨン登場を排斡(はいあつ)していたのも次の齟齬ゆえ。

(伝え聞くところでは例のニアデスハピネス……使い切っていた筈。一度そうなれば補充までに数日かかる筈なのに)

 今しがた見たパピヨンは確かに蝶の翅を……黒色火薬の武装錬金を…………使っていた!

(どうやって補充したんだ…………!?)

「ま、奴なら自力で補えるさ」

 モニターで観戦中の戦部は愉快気に唇をくつろげた。(横浜での一件かい)。論拠に気付くイオイソゴ。カズキへの妄執
をして行った強制回復、それが今日も行われたのではないか……両名の見解は一致を見る。

「なあ桜花。さっきバスターバロンのバックパックを攻撃したのも……」
「パピヨンね」
「でもなんで攻撃したんだよ? アイツが大戦士長攻撃する必要ないし、助けるために無力するってのもキャラじゃないし……」
0130永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:17:48.76ID:j2GJNLEY
 エンゼル御前のぼやきに凛呼たる双眸を漆のように濡れ光らせながら桜花は答える。

「居るのよ」
「居るって何が?」
「土星の幹部が……たぶんコックピットの中に。さっきの声も、大戦士長を操っているのもきっとその幹部……」

 桜花の論拠はこうだ。まず彼女が銀成は養護施設で遭遇した幹部は、冥王星、天王星、海王星、金星、火星の5人。

 で、このうち『使われはしたが、直接は見れなかった』特性は天王星と金星の2つ。だが前者は弟の秋水とか、つかず離
れずの斗貴子とかが喰らったから談話の形で概ね知っている。金星については総角の複製品によって桜花自身、傷を治さ
れているからこれまた知悉しているといっていい。
 では残り5人の幹部の能力はどうか?
0131永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:18:04.58ID:j2GJNLEY
 太陽……盟主のものは先ほど木星の幹部の追撃から命からがら帰ってきた犬飼円山両名によって全戦士に通達済み。
 その情報に、追跡者たる木星のものが添えられていたのも経緯からしてまったく自然。
 月と水星の特性……は考えるまでもない。銀成で両方を喰らった総角が陣着しているのだから桜花はそこそこの親交に
かけて聞くとはなしだが聞いている。

 で、土星についてはどうかというと、パピヨンとの交戦記録オンリーでは細菌型であるというぐらいしか分からないから、桜
花が照星の洗脳と結びつけるのは突飛に思える。

「けど消去法よ。ホラ、演劇のとき、生徒たちが操られていたでしょ?」
「あー。書き割りとかヒョイヒョイ変えられててツジツマ合わせに苦労したアレか……」
「そ。で、陣内みたいなその能力がどの幹部のものか私ずっと考えていたんだけど、知っている他の9人の能力とはどうし
ても当てはまらない」
「分解とか無限増援とかじゃ無理っぽいもんなー。あれ? でも桜花、海王星の武装錬金特性ってまだ見てないよな?」
 先ほど『使われはしたが、直接は見れなかった特性』とまだるっこしい描き方をしたのはこのためだ。そう。そもそも海王
星……要するにいますぐ近くで暴れているリバース=イングラムの武装錬金特性は──…
0132作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:19:23.74ID:j2GJNLEY
「やり合ったとき結局だされずじまいだったから、厳密には不明だけど」
「だったらなんで大戦士長操っている犯人が土星って分かるんだよ?」
 それは簡単。桜花は照れ照れと人なつっこく笑った。
「海王星が足元でダブル武装錬金しているからよ。あれじゃ操作は無理でしょ?」
「あー。両手塞がっているならリモコン操作できないもんな……。脳波とかで、ってのも集中のいる銃撃で、大量の戦士捌
きながらじゃ無理だし」

 だから消去法で照星洗脳の黒幕は土星の幹部となる。そもそも予備情報として、貴信からの『村人たちがゾンビのような
有り様で操られていた』がある。桜花はそれを演劇の奇怪ごとと結びつけた。
0133作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:19:39.44ID:j2GJNLEY
 よって彼女は無意識的に、海王星は人を操れないと結論付けたのだが……ああ、なんたる運命の皮肉か。×ではないが
○でもない。完全操縦こそ不可能だが、使い方次第では対象はおろかその周囲(まわり)の人間さえも破滅めがけ誘導でき
る特性を実は海王星! 有している! それは特性じたいより海王星の幹部リバース=イングラムの悲運ゆえねじまがっ
た思考法に拠るところが大きいが……詳細は追って明かされるであろう!

「…………」

 遠ざかるバスターバロンを見つめる火渡の、凶猛きわまる瞳に彼らしからぬ感傷が一瞬うかぶ。そうであろう。照星は
──火渡自身は否定するだろうが──彼にとっては師匠にあたる。”せんせい”といってもいい。それを総角なる、何の
馴染みもない余所者に一任してどうして平気で居られるだろう。
0134作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:20:09.63ID:j2GJNLEY
「指揮権のコトでしたら、有事の特例もあります。師範たち副指揮官級の方々に任せるという手も……」
「……うるせェよ」

 毒島の取り澄ました進言に軽く舌打ちすると煙草の先で火花が上がる。有事の特例とは要するに大戦士長代行ゆえ
に救出作戦の総指揮を執らねばならぬ火渡が、死亡または人後不省によってその責の継続が困難になった場合の話だ。
世間的には非公式かつ秘密結社の戦団とて軍事組織、いざというとき、大戦士長の代行の代行、救出作戦総指揮の代行
を誰にするかという定めぐらい当然ある。……あるが、濫用ではないか。照星をただ自分の手で救いたいという一念だけで
指揮の責務を放り出すなど濫用もいいところ。もちろん火渡はむしろ規則など破る方だが、ただ破ればいいという訳ではな
い。火渡が規則を破るのは任務の迅速な達成の妨げになると判断した場合の話だ。要するに、チンタラ守っていれば無辜
の人命が、尊厳が、不条理によって永遠に失われるケースにおいて堂々と破ってこそ火渡の天才性は満たされる。再殺
部隊を率いて好き勝手やっていたのもその一端。
 今回は違う。指揮より照星の救出を優先せんとするのは、火渡の思う『力も才能もない弱いヤツら』を守るコトに……繋が
りがたい。どちらかといえば防人に覚えていた、私人としての、外面からは想像もつかないナイーブな面の発した衝動である
と火渡は思い……同時に制御する動きもまた起こしている。『感傷で物事をやれば碌なコトにならない』。もう以前のように
戦えぬ防人は、火渡の炎の犠牲者だ。やろうと思ってそうした訳ではない。友誼を覚える男に過去を切り捨てさせようと発
した業火が回りまわってその男を……焼いた、戦えなくした。だいいち先ほど暴れ狂うバスターバロンに対し

──(いっそ、俺の手で……)

 と思ったではないか。身勝手なようでいて認めた者には厚く、熱い情誼を覚える火渡だ。だからもう照星が人心を取り戻
せない状況にあるなら、彼が戦士を殺す以外できなくなっているのなら、引導を渡すのは自分であるべきだと思っているの
に、同時に火傷だらけの体を包帯で覆っている防人の姿が強烈なるブレーキをかける。
 火渡は暴悪ともいえる不条理を撒き散らす男だ。だが心苦しさを覚えぬ男ではない。むしろ7年前の赤銅島の惨劇にどう
しようもない雨音を抱え続けているからこそ、二度と味わいたくないとばかり常軌を外れた速攻の解決策を理も火もなく高速
で打ち続けてきた。だが……その総決算が防人の重傷。心の中の雨音はまた一段と強く激しくなったのに、それでなお……
照星を? ……運ばれていくバスターバロンを反射的に追えなかった理由の1つは雨音といっていい。

 だが同時に感傷とは独立した、指揮官としての打ち筋もまたあった。これは才覚より剛腹の域であろう。先ほどから、機械
巨人まきちらす壊乱と、それに乗じた幹部2人の奇襲を眺めていた火渡は──強者大駒ゆえブレイクとリバースの『弱い方か
ら削る』の埒外に置かれていた戦略的背景もあって──戦士たちが混乱するなかしかし冷然と気付いた。その気付きを戦団
全体への理想的な──軍略の文法でというより、火渡個人のアーティスティックな感性にそぐうものという意味での──理想的
な指揮に落とし込むまで場を離れたくないという思いもまた確かにあった。感傷とは乖離しているが、だが特異なコトでもない
だろう。人間なんてものは、他者との関係でドン底だと思っていても、落ち込んでいても、己だけが成せると自負する職掌に
ひとたび没頭するや全く何事もなかったようなまっさらな気持ちで専念できるのだから。

 そんな人間としての当然な職業への目が火渡を喋らせる。

「……なんで他の幹部は仕掛けてこねェ?」
 え、あっ。毒島がやや狼狽ぎみな感嘆をあげたのは、一見冷然としているようでガスマスクを取ったが最後小動物のような
少女だから、いつリバースらの標的にされるか戦々恐々するあまり余事を考えられなかったからであろう。
「た、確かにバスターバロンに乗っているであろう土星を加えてもこの場にいる幹部はたった3名……!」
 幹部は全員で10名。なら残り7名もまたこの混乱に乗じるべきではないか。乗じてしまえば確実に、勝てるではないか。
0135作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:20:27.95ID:j2GJNLEY
 ああ、だがどういう訳か! 少なくても木星の幹部イオイソゴ=キシャクは決戦場とは別の場所にいる! どこかは不明
だが戦部厳至と観戦に甘んじている! 先ほどまであれほど犬飼と円山を追い詰めていた彼女が! そして総角と根来の
思わぬ奇襲を受けてなお、傷に関してはさしたる物を受けなかった……否! 受けていたとしても金星の幹部・グレイズィン
グ=メディックの完全治癒によって再び万全の状態で出撃できるであろう彼女が! どういう訳か、いない! 決戦場に……
いないのだ!! 参戦すれば己が追撃の失敗に端を発す盟主急襲という、致命的な作戦行動を阻めるのに……そうせん
とするのが忍びとしての忠義上ただしい動きである筈なのに、なんたること、彼女は愚にもぐかぬ観戦行為に甘んじて、いる!

 何か動けぬ理由があるのか? いや、だとしても残り6名全員でかかれば……! いまの戦場において戦団をば覆滅する
のが目的であれば、最低でも、分解能力を有するディプレス=シンカヒアを投入すべきではないのか。

 といった趣旨の火渡の言葉を継ぐよう、イオイソゴは遠き地でごちる。

「ひひっ。ま、確かにそうじゃな。我らまれふぃっく、いずれもこの世のものならざる凄惨無比の魔人どもと誇負しておる。全
員投入すれば、ひひっ。ま、楽勝とはいかずとも結構な”だめえじ”を戦団に与えられる確証やある」

「なのにどいつも来ねえのはどういう訳だ?」

 ふつうに考えれば……足止めだろう。幹部3人と照星は、あくまで戦団の進軍を阻むため遣わされたと考えるのがごく
ごくふつうの推測だ。何しろ敵は犬飼決死の戦いによって盟主の位置を掴まれてしまっているのだ、安全圏に逃がすまで
首魁への電撃的奇襲を殿軍的単位で以って抑えんとしていると見なすのは決して荒唐無稽な思考ではない。参着してい
ない幹部総て盟主の護衛といえばだいたい誰もが納得しよう。

(だが本当にそうか?)

 火渡は狂暴だが決して愚鈍ではない。剛太に挑まれたときだって一見不可解な視界外からの攻撃の正体を即座に見抜
いた。ティーンエイジャーの頃からすでに才覚は頭角となっていたし、赤銅島で出し抜かれたが故の用心深さだって備わって
いるのだ。

 そういったものが火渡に考えさせる。『幹部3人の来襲、盟主を逃がすための足止めゆえか』と。

(……違うな)

 断定する。

(足止めなら冥王星の幹部の無限増援……自動人形の群れを使うだろ)

 現に先ほどまで火渡自身それで足止めを喰らっていた。幾ら焼いても無尽蔵に現れる自動人形たちはどうやらそのダメー
ジを創造者にフィードバックしない類のものらしいとも戦いの中で感得した。

(だったら使うだろ盟主の為にも。にも関わらずいま冥王星が洞ヶ峠を決め込んでんのは何故だ?)

 伏兵として潜んでいる? 否。最高のタイミングで伏兵を突っ込み戦団を総崩れにしたいのなら順番が逆、天王星たちの
あとでなく前に切るべき手札ではないか。まず自動人形の群れで『目減りしない足止め』という当然の手札を切っていると
そう戦士たちに納得させ、他の幹部は来ないと無意識に信じ込ませた上で、混線のなか他3名を投入して混乱させる方が
効果的だ。鐶が銀成市でやったような人混みに紛れての奇襲を、実力で遥か勝る幹部3名が混乱のなか密やかに密やか
に履行して1人ずつ確実に葬る……といった戦法なら、火渡という指揮系統の破壊さえ見込めるではないか。

(ガス欠だからできない……なんてのは無いさ)

 さすがに火渡は冥王星・クライマックスの原動力が『アニメや漫画への大ハシャギ』とは知らないが、「開戦早々あんだけ
の軍勢を繰り出しやがったんだ、何らかの補給技術ぐらいあんだろ。論拠は例の音楽隊ども動物型だ。本来人間型にしか
使えねえ武装錬金を音楽隊ども動物型に使わせるようにしたレティクルの技術力、そいつならクスリなり食い物なりで冥王星
を回復できるはず、無尽蔵の自動人形を継続して使えるよう細工しているはず」といった推論からエネルギー切れのセンは
完全否定の構えである。
0136作者の都合により名無しです
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2018/09/09(日) 22:20:44.88ID:j2GJNLEY
(つまり冥王星は『コンディション的には足止め可能だが、他の役割が与えられているため今は来れない』……って見るべき)

 そもそも幹部3名の来襲が、盟主を逃がすまでの足止めという仮説自体あやしいだろと火渡は頬をゆがめる。

(向こうにゃトリ型の……火星が居るんだ。盟主なんざ速攻で連れて帰れるだろうがアジトによ。木星なら負け犬追いかける
ときそういう段取りも整えられた)

 それでなお『足止め』を唱えてすぐ出てくるものといえば、『残りの幹部たちは、アジトで何事かを成し遂げるまで邪魔され
たくないのでは』といった、この時点で模糊とした論拠しか並べられない。火渡は、論破する。

(ねえだろンなコト。アジトでなにかチマチマ作りたいんですつうならそもそも老頭児(ロートル)なんざ攫わねえ。何か作って
やがるとしてもだ、完成前にてめえらから俺らにケンカ売っといて……完成まで来られたくたい? 足止めをする? ねえよ)

 だが、と気付かせたのは先ほど目撃した量産型のバスターバロン。

(逆なんじゃねえのか? 老頭児を攫ったから足止めをする必要が出てきたんじゃなく……『足止めをしたいから老頭児を
攫った』……んじゃねえのかレティクルは)

 身長57メートル体重550トンゆえに、ただ歩くだけで戦略級の兵器となり、大戦士長搭乗の武装錬金ゆえ戦士たちが必殺
の気魄では打ちかかれないバスターバロン。敵から奪った強い駒を打つのは最高だ。取られようが、壊されようが、痛痒なしだ。

(そのうえ盟主のクローン技術なら……さっき見たように増やせる)

 その監視役兼補助に回ったのがリバース以下3名の襲撃者(かんぶ)……とすれば筋は通るがここで課題は振り出しに戻る。

(だったらだ。どうしてレティクルの連中は老頭児攫ってきてまで足止めをしたい?)
「……『器』」

 あン? 刺々しい眼差しで問い返す火渡に毒島はきょどきょどとしながらも、火渡相手にそれを続けると怒鳴られると経験上
熟知しているから、務めて迅速に……告げた。

「マレフィックアース。正体は不明ですが超絶のエネルギー体を降ろす器を、寄り代を、敵は銀成市で探していたようです。そし
て……」
「なんだよ? 勿体つけずにいえよ」
「私は無銘サンたち音楽隊を戦団日本支部から銀成に引率するとき彼らの身の上ばなしを聞きましたが、それによると幹部
たちはどこか『火種』を撒きたがっていたようです」

 それはわざと義妹たる鐶光を逃がしたリバース=イングラムだったり。
 或いは貴信と香美が何年かのち自分を熱くさせる敵となるのを期して解放したディプレス=シンカヒアだったり。
 自分を兄の仇と狙う総角と小札に十年間いっさいの刺客を差し向けずに終わったメルスティーン=ブレイドだったり。

             ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・       
「木星の幹部にしても7年前の『とある事件』で無銘サンとほぼニアミスしていたそうですが」
「エサと狙うくせに捕獲しなかった、か……」

 つまり……火渡の顔に関心が浮かぶ。

「毒島。てめぇはつまりこう言いたいのか? ”奴らは、より高純度の闘争心を求めている”。そういった存在(もの)との戦いが
マレフィックアースとやらの覚醒を促すための、『器』に降ろすための最低条件、だと」
「足止めが”ふるい”と考えればある程度の説明はつきます。戦うに値しない戦士を……さほどのエネルギーを発しない戦士を
敵(こちら)から取った駒(バスターバロン)と、恐らく加入してまだ数年な天王星と海王星、土星の『外様』で抑えれば、マレフィッ
クアースのための闘争エネルギーの純度は保たれる……と、盟主は考えているのではないでしょうか?」

 そうなると敵の主眼とする舞台が変わってきますが……遠慮がちに囁く毒島に火渡はわずかに顔の筋肉を動かす。
0137作者の都合により名無しです
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2018/09/09(日) 22:21:22.08ID:j2GJNLEY
「やはり狙いは銀成か?」

 さほど表情が波打たないのは予想していたからである。同様のコトを危惧する防人のもとに、幾つかの戦力を残してきた
のは、火渡自身、銀成という、錬金術との悪縁を以って響く街に対し『もしや』という思いがあったからだ。

「そもそも負け犬たちがここを突き止められた理由は例の地下空洞。老頭児の攫われた場所からここまで延々と線路が敷
き詰められていたというが列車の類はなかった……つうしな」

 その路線に銀成への直通ルートがあれば? 照星を捜して徘徊していた頃の犬飼たちに見つからぬよう、巧妙に隠されて
いたのなら?

「……冥王星の武装錬金の本体が『列車』ならこの場に無限増援を差し向けていねえ説明もつくな。発射準備に専念してい
るか、或いは既に射程外まで行ってやがるのか」
「足止めを喰らったいま盟主への奇襲はほぼ不可能ですが」

 毒島は、いう。

「どちらにしろアジトの強行偵察は必須。アジトからレティクルが脱出している気配があれば襲撃でしょう、銀成は」

 だがブレイクとリバースに対応しなければならぬのもまた事実! だから銀成に全軍は派兵できない! かといってまず
はブレイクたちに傾注とばかり全軍をかからせるのも経験上マズいと火渡は断じる。

(奴らの能力はまだ完全に解明された訳じゃねえが、数だきゃ多い戦団の真っ只中にわずか3騎で乗り込んできた以上、
単騎対多数、或いは少数対多数に特化したものとみるべき。で、そのテの連中は必ずといっていいほど持ってるもんさ。

一 斉 攻 撃 に 対 す る 厄 介 な カ ウ ン タ ー って奴をな!!)

 何しろそう思う火渡自身そのタイプだ。共同体に乗り込みわざと見つかり全員一箇所に集めてからの『周囲500メートル
瞬間最大5100度の炎』……これほどラクな手段もない。

 だからブレイクたちへの一気呵成はマズい。最悪たかが足止めにほぼ全壊というセンもある。されば残りの幹部が銀成を
破壊する。

(絶対回避だ)

 拳から血が溢れるほど握る。火炎同化を持つ火渡らしからぬ青い挙措だ。それほどに彼は銀成を思っている……としたら
経緯的におかしい話だし、じっさい火渡自身さほど思い入れる街でもない。『ヴィクターVが大事に思ってやがる所だ、戦団
全部がかかずらあって守れませんでしたってんなら……笑えるかもな』とどこかで思っているのは事実。
 だが銀成には防人がいる。火渡のせいでもう以前のように戦えなくなっている僚友がいる。ブレイクたちたった3人に全滅
したらマズいというのはそこだ。全滅したら防人はわずかな手勢で7人もの幹部に挑まざるを得なくなる。勝てる訳がないの
に防人は……”やる”だろう。7年前の惨劇を再び繰り返したくないのは火渡だって同じなのだ。だから防人が、破壊されゆく
街に、一人でも多くの人命を救うため留まるのは予想できるし、理解できる。止めようがないし、止めるつもりにも、なれない。
 なのにそんな防人に怒りが沸くのは、かれの殉職的な銀成残留に、自分とは別の理念が混じっているのが嫌というほど
分かるから……であろう。

(ヴィクターV)

 防人が銀成を強き思いで守ろうとするのは、教え子がそうしようとした街だからだ。教え子と共に守った街だからだ。そんな
心機を天才性ゆえに分かってしまう火渡だから……防人に苛立って仕方ない。再殺さわぎの頃から続いている気持ちだ。
長年の付き合いゆえ元の道に引き戻そうとしている火渡を袖にしてまで、3〜4ヶ月の交流しかない元怪物の少年の存在を
心の軸にしている防人のありように……まさに烈火のごとき腹立たしさを覚えるのだ。だというのに防人を、どうしても見殺し
にはしたくない。もちろん剛太が斗貴子に抱く健気さとは違う。「あいつより俺のがイイだろ」と強引に頭を掴み向き直らせる
ようなそんな乱暴な友誼である。天才ゆえの完璧主義は、唯一無二の親友が、相手の方でもこちらを唯一無二のものと思っ
ていなければ我慢ならぬ独占欲をも産むから困る。
0138作者の都合により名無しです
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2018/09/09(日) 22:21:39.71ID:j2GJNLEY
 だが火渡がどう思おうと防人はもう……変わってしまった。7年前への未練はカズキとの対決によって別の方向へ昇華さ
れた。彼らを命がけで救ったのが何よりの証拠だ。そして戦線を離れてなお防人はその身命を『子供たち』のために使おう
としている。ありていにいえば──防人が千歳に語ったコトなど火渡は知らないが事実その通り──未来へと再び歩きだ
そうとしている。そう変えたのは……カズキなのだ。そして火渡は朋輩さえも変えられぬままここまで来た。朋輩が変わり
つつあるなかいまだ変われずにいた。赤銅島以前の才気と自信に溢れていた自分に戻りたいと願っている癖に、赤銅島以
後の、言ってしまえば西山という怪物に歪められてしまった”よくない”状態にしかし留まっている。
 結局、取り残されているのが気にいらないだけではないのか? 変わりゆく防人を、面白がっていないのは。

(……ケッ)

 半ば拗ねたような後姿を戦士の何人かが見た。彼らの恐れる後姿だ。火渡がどこか哀愁を帯びた背中を見せている時は
話しかけるだけで凄絶な不機嫌が返ってくると、みな、知っている。感傷とか、ナイーブといった繊細な言葉で例えられぬほど
こわい、怪物がやわこい逆鱗を無意識に曝け出しているときのような背後だ。毒島だけは細い胸をかき抱く。見るたび鼓動は
甘く不整だ。男が、後悔や、かけ違ってしまっている自分へのどうしようもない思いに浸っているのを、少女だけは分かるのだ。

 が、火渡の指揮は感傷に彩られたものではない。状況から考えられうるもののうちもっとも迅速で実効性たかき最善手を
押し出していくものである。

(敵の目当てが銀成であれどこであれ、ここに総ての幹部が来てねえ以上するしかねえな。アジトの……強行偵察!)

 よって火渡は戦団を2つに分けなくてはならない。戦略の分散じたいは先ほども考えていたが、敵巣窟に乗り込み照星を救出
といった分派はバスターバロンが操られているいま意味を成さない。いま求められているのは、

1.この場で天王星と海王星の撃破を目指しつつ、照星救出を目指す部隊
2.アジトの様子を伺い、銀成強襲が真ならば追撃へ、偽ならば突入ないしはその前工作を行う部隊

 に戦団を分けるコトだ。

 だができるのか。いや、火渡ならば才覚ゆえに班割りは出来るだろうが、出来たとして、マレフィックと戦闘中混乱中の戦士
全員にそれを伝える手段があるのか? 伝達は全員同時でなければならぬのは言うまでもない。何故ならば(2)の部隊に
選ばれた者は戦略上、この場から離脱する形になるが、1人2人がバラバラにそうしてみよ、足止めこそ本懐のマレフィッ
ク2名に各個撃破されるのは想像に難くない。よって分断のことは全員同時に報せねばならない。できれば(2)の部隊全員
たちが電撃的に離脱を始めるなか、(1)の部隊がそれを支援する段取りを整えておくべきだが──…

 大声でタイミングを指示すれば、当然敵に気取られる! かといって端末への送信は無意味! 戦闘中どうして読めよう!
 ……。
 連絡伝達の段階ですでに恐るべき難事。火渡の獰悪なりし面頬がねじくれる。

「伝単のヤロウ……火星なんぞに殺られやがって」
「合流前、後方支援の戦士たちがかなりの数ディプレスに殺されましたからね」

 有事の際の連絡手段を戦団は開戦前いくつも用意していたが、トップクラスのものは殆ど創造者ごと永遠に失われている。
偶然ではない。天候を操るサップドーラーにしてやられたハシビロコウの幹部はそのあと合流地点に向かって進軍中の部隊
を幾つも幾つも襲撃し、『戦闘能力でこそ劣るが、後方支援においてはスペシャリスト』の戦士の命を刈り取り、弄んだ。めぼ
しい能力の持ち主は忍びであるところの木星、イオイソゴによってビンゴブック化されていたという訳である。

 ちなみに伝単とはビラである。伝単の武装錬金、ウォーリージャーナルは『心清い者だけが受け取れるビラ』を撒く能力! 
創造者が指示などを念じて発動した真赤なビラは一見無地なれど、清き者に当たればスウと溶け込み……30行のノート換算
5ページまでであれば記載内容総てを一瞬で長期の完全記憶とする! ビラ自体は一般人に見えるが、外形上は無地かつ
ホムンクルスや信奉者を特性の対象外とするため、戦士側にだけ通じる連絡手段として米ソ冷戦時から重宝されていた!
0139永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:22:07.97ID:j2GJNLEY
 それに類する能力を更に幾つも幾つも幾つも、幾つも!! 火星の幹部ディプレス=シンカヒアは奪っている!! 絡め手
といえば聞こえはいいが、要は憂さ晴らしなのだ。サップドーラーにやられるだけやられ、逃げられた恥辱を、自分より弱い
者をいたぶり殺すコトで晴らしたのだ。弱い者をいたぶり殺すコトでしか、悦を、味わえないのだ。馬鹿くさくもある通り魔的
な犯行であるが、これが有益なる補助能力者を20名以上葬っているのだから始末が悪い。このさき戦団はもはや醜態と
いって過言ではないほどの後手かつ泥沼的な戦局を対レティクルの局面においてしばしば晒していくが、策謀と軍略の不
在はつまるところ緒戦におけるディプレス=シンカヒアの文官殺戮に端を発すものである。つまずきは、長くひびいた。

(難渋させやがって! 殺す!)

 ディプレス=シンカヒアの破滅は或いはこの時の火渡の情報検索から始まったのかも知れない。大戦士長代行が咄嗟に
求められた、残存する戦士、ジャンク的な能力からの、戦団全域に対する『二面作戦通達』を如何にして早期に実現するか
という、苦慮のさなか芽生えたのは、銀成に居るころは防人に助勢する行きがかりだけで戦うだろうとその程度にしか思って
居なかった火星の幹部への、具体的かつ濃厚な実害をひっかけられたという純然たる殺意(おもい)。殺された戦士の仇を
取ろうという思いはさらさらない。ただただ凶悪な天才として、手を煩わされたという激越きわまる怒りだけが、あった。

 が、それも数秒の思案のコト

「毒島。『コネクトアラート』は生きてるか?」
「ここに」

 毒島が裾をつかんで差し出したのは中肉中背の少年である。肌ツヤからすると15をやや過ぎたあたりであろうか。肌ツヤ
で年齢を弁別したのは顔が崩れているからだ。外傷性の崩れ方ではない。両目がバッテンの、戯画的な崩れ方だ。先ほど
の騒動のさなか足が縺れ自分でスッ転んで頭打ったようですという毒島の淡々とした、しかしどこか呆れ気味な報告に、火
渡は煙草の鬆(す)ごしに「ケッ」と煙を形成。指先には火を灯す。「出た火渡戦士長の得意技、ツメ気つけ!」「火傷しねえ
が熱くはある絶妙な火加減で目覚めるまでツメの先を炙り続けるってアレか!!」。ふつうに活いれろよ的なツッコミまじる
どよめきのなか、苦悶に頬波うたせ目覚めつつある少年戦士ながめつつ毒島は問う、火渡に。

「『図形』はそれぞれどうします?」
「それは──…」

 毒島から北北西約200m。水を注がれ尽くした味噌のように茫と晴れた砂塵が明らかにしたのは……まばらに転がる戦
士の死体と、背中合わせの若き男女。それらを活動可能な戦士たちは遠巻きにだが取り巻いている。棒立ちでただ眺めて
いるのではない。半径22.1mの重囲は無数の慎重なる摺り足によってジリジリと狭まりつつ、ある。

『さすがにそろそろ堅くなってきたね』

 とは少女の言葉だが……『声』ではない。では何か? それは、発する瞬間包囲網から爆発しそうな緊張感が漂った理由
ともども後述されるであろう。
 ともかくじっさい、『堅くなりつつ』ある。
 包囲網の最前列で片目や脇腹から生々しい血を流しつつもいまだ昂然と武器を構える戦士たちはいうまでもなくつい先
ほど迎撃の憂き目にあった者どもだが……しかし、生きている。「……」。少女は微笑の吐息を漏らしながら決して小さくは
ない二挺のサブマシンガンを人差し指でくるくるっと回す。”困ったなぁ、さっきまで楽に殺せてたのに……”という笑顔に邪気
はない。主観型かつ銃器を使うシューティングゲームを、ノーマル・モードからベリーハードに変えた時ていどのカオだ。予想
外の手応えに面食らいつつも”じゃあどうすればキッチリ全滅させられるかな? どうやればSランクとれるかな?”を少女は
本気で考えている。そう……現実的な無数の殺意と、今しがた傷つけたばかりの相手の恐怖と恐慌の眼差しをハッキリと
認識し総ての意味合いを理解した上で! ……少女は彼らをにっこりと見渡す。霍閃の手つきが流れた。ぴしゅうという間の
抜けた声に一拍遅れて何人かの戦士が額から血しぶきを上げ、或いは前のめりに沈み、或いは蛇腹の貯金箱を畳んだよう
に垂直に縮みつつふしまろんだ。圧縮空気の余波だろうか、トランプの絵札のように上下も左右も逆にかみ合った銃口から
それぞれ一穂(いっすい)の白煙が蛇の汀(みぎわ)よろしく揺れた。電光の神業だがやった方は愛らしい笑顔で「ぷくー」と
頬を膨らます。
0140永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:23:00.74ID:j2GJNLEY
『もー! 撃墜数4つぽっちじゃ光ちゃんに自慢できないでしょ! ガードしないでよ他の人! 堅くならないでー!!』
「へへ。バスターバロンの土煙が無くなりやしたからね。ええ。ええ。さすがにもう虚はつけないかと」

 文句に染まってなお笑顔で、純白の雪の粒子を纏っているようなその短髪少女と背中合わせになっているのは──…
 糸目で、人好きのする笑みを浮かべる若い男性。
0141永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:23:16.36ID:j2GJNLEY
 20代後半ぐらいであろうか。顔立ち自体は無個性だが、灰色の瞳はいつもどこか人の良いところを捜しているようで、
見てて何となくホっとするタイプといえよう。じっさい戦士のうち何人かは遭遇の瞬間、『新月村から迷い込んできた一般人
ではないか』と保護を考えたほどだ。もちろん彼らとて乱戦直前この青年のカオは見ている。見ていたにも関わらず、雰囲気
があまりに軟らかいため、土煙のなかで不意に遭遇するや最後『人のいい一般人』と思ってしまい……そして殺到してくる
ハルバードの先端にギョっとする。何しろ、斧と、槍だ。すんでのところで回避したそれが乾いたブラウンの樫の木をコーン
スナックでも相手にしているかの如き気安さで粉砕しどこか鉛筆めいた香りを撒き散らしたりしてようやく戦士たちは相手
どっているのが紛れもない敵の、悪の、幹部であると痛感する。

 ブレイク=ハルベルド。全色盲の槍使いである。長身かつひょろりとした体よりも更に長いハルバードを振り回すところ
妖霧の薔薇が戦士たちに乱れ咲く。
 事実かれの周囲を見よ! 顔、首、胸、腹、膝……場所こそ異なれど凄惨きわまる傷を一様に追った死体が点々と
転がっている! かれもまた悪意なくして人を殺せるのだ。戦士が一般人とみまごうたのもそのためだ。
0142永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:23:59.78ID:j2GJNLEY
 灰色の目を糸かというぐらい細めて笑う彼の、傍で。

『虚をつけないならもう動き回る必要ないもんね』

 ふふっと、やや桃色がかった紅色の唇を童女のようなニュアンスで緩めるはゆるふわパーマの女のコ。山間のこの戦場
には不釣り合いの、たっぷりとドレープの乗った薄青のロングスカートは人を選ぶデザインだが、彼女は見事着こなしてい
る。恐るべき清純さだ。恐るべき可憐さだ。乳白色の髪というが、くすんで枯れた白髪などではない。若々しい、まさに甘い
ミルクの匂いさえしそうなきらめくシルバーのケラチンだ、半透明したパールホワイトのキューティクルだ。まさに霜華(そうか)
とすら呼ぶべき幻影的光沢! 『光の淡き反射』! あたかも夢魔か妖精かのごとき儚げな美しさだ。
0143永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:30:01.37ID:j2GJNLEY
 ギャグのような衝突だと笑える戦士はいなかった。金属質なホムンクルスの衝突はそのままゲートルの戦士を胸のラインで
上下に分けた。剥き出しの肋骨の下に臓器や血管らしき”ぶらぶら”が見えたのも一瞬のコト、戦士の双眸がぐろんと上向くや
起こった一過性の下痢のような瞬間的な大出血に検閲よろしく塗りつぶされた。
 そして飛行機事故の二次災害において内装破片と双璧を成すは乗客。
 濁った青緑の眼球を剥き出し絶息したゲートルの戦士は結果として更に3名の戦士(なかま)の命を奪う。胸奥で一拍遅
れの爆発を起こした衝撃は下顎まで駆け上がった。同時に下顎小臼歯から下顎第二小臼歯に到る少なくない本数の歯が
左右問わず歯槽骨より脱臼、すぐ傍にいた30代のヒゲ面の荒くれの顔面を撃ち貫いた。トランプのダイヤのように鋭い
カルシウムの散弾で顔面を蓮にされながらも彼がが無表情を保っていたのは豪胆ゆえではない。とっくに後頭部を突き抜
け真紅の尾を引く無数の歯は、表情が代わるより速く脳のあらゆる部位をズタズタにしていた。要は、即死。
0144永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:30:17.05ID:j2GJNLEY
 おぞましい悲鳴はゲートルの戦士の”Bパーツ”の鋭く尖った背骨が腹腔に刺さったアラフィフのマダム戦士のものである。
彼女はこのあとの乱戦直前運よく後方に引き戻されたが、腹部大動脈が著しく損傷していたため4分24秒後に死亡。
 比較的健闘したのは3人目の荒くれであった。教鞭の武装錬金で飛来する骨片や血液を捌きコラテラルダメージまたはそれ
に準ずる体勢の崩れを防いでいたのはリーダー格ならではの反射であったが……

「にひっ」

 血いろの円弧が全身を行きすぎた瞬間かれはブレイクを睨み動きかけたが……血を吐き地面に倒れ付した。躯から溢れる
血は石榴がごとき斧傷より溢れる。ブレイクの仕業だ。敵がゲートルの戦士からの飛来物に気を取られているさなか、リバー
スによる強引なフルスイングからようやく我に返った彼は得たりとばかりハルバードを閃かせたのだ。

「俺っちが戦士さんの破片以下? よしてくださいよもー! こっちは好きで青っちにスイングされたんすから」

 くしゃっと笑い、目を細める。

 ここでやっと笑顔の少女は着地した。ブレイクは、背中合わせに。強制的に先行させられていた彼でこそあったが、攻撃
の余勢を長身のねじりによって後退へ転換し一足飛びに合流したと見える。
0145作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:30:39.90ID:j2GJNLEY
「一瞬で……5人を……!!」
「ヴィクター戦で弱っていたとはいえ……全員手練れなのに……!」

 どよめく戦士たちを前にリバースは笑顔を崩さない。ブレイクも。こちらは少女のように含羞をふくんだ笑みではない。歓声
など浴びなれているといった──殺戮のあとに浮かべるには異常すぎる──ヘラリとした笑みだ。

「へぇへぇ、ありがとうございます、ありがとうございます:

 後頭部に手をあて、へこへこと礼さえする若い男にしかし言葉ほどの恐縮はない。「気をつけたほうがいいッスよ」。辞儀を
45度まで下げきった瞬間放った声はにこやかだが斬りつけるようなものだった。うごきかけた何人かの戦士がビタリと肩ふ
るわせ止ったところを見ると、牽制か。

「青っち、戦士さんにご両親を殺されたと、そーゆーコトになってるんで」
0146永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:30:55.65ID:j2GJNLEY
 辞儀のまま、顔だけを上げ戦士に見せるブレイク。笑みの形相は崩れていないが糸目だけは開いている。覗き込んだ戦士
たちのうちそう強くないものたちはヒっと息を呑んだ。いわゆる白目であるところの強膜がドス黒く染まっていたのだ。そして
小さな瞳孔は血の色で爛々と濡れ光る。

(っ! この目の色!!)

 一団に紛れていた犬飼は気付く。

(イオイソゴと同じ! 総角曰くの『時よどみ』を使った時の目と同じ……! もしかすると全員……なのか? 出力を最大に
するときはコレになる……とか)

『そう』

 閃光と白煙がなみいる戦士の前で蛇行した。攻撃かと身構えた彼らであったが無言の笑みでそこを指差すリバースに
よって気付く。斗貴子たち銀成での交戦組からの前情報もあったから……気付く。

『私はお父さんとお義母さんを戦士に殺された。光ちゃんに返してあげる予定だった2人を戦士に殺された』
0147永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:32:24.18ID:j2GJNLEY
 その言葉は声ではない。弾痕だ。連射される弾丸が大地に刻みし文字なのだ。一般的なサブマシンガンの秒間あたりの
弾数は10〜15と言われている。重機関銃ではミニガンことM134が70発/秒。
 ああだが、見よ。1秒も経たぬうち生産された『私は』から『殺された』までの文字を見よ! 秒間70連射程度では到底え
がけぬ! そう、海王星の武装錬金は形状こそサブマシンガンであるが実態は重機関銃以上の連射力……なのだ! だか
ら文字を描くという一見ばかげた曲芸は、恐るべき実態を示す示威的な行動でも、あろう。そう悟り、顔色を変える戦士を
しかしあやすように笑ったリバースは再び引き金を引く。

『あららビビらせちゃった感じー? じゃあちょっと柔らかい口調にするけどさ、でもお父さんお義母さんの殺害ってアレ、戦士
の誤爆なのよねー。イソゴちゃんの付き人してただけなのに事情も知らずに……ってソレひどくない? 似たような境遇の
デッドちゃんも激おこだったしさあ、じゃあ戦団って何のためにあんのって話よね? 会って話したコトないけどヴィクトリア
ちゃんもヒドいめ遭わされたっていうし、そのくせヴィクターとか私たちとか蜂起前に止める力ないし。被害増やしまくりだし』

 恐ろしく器用な芸当だった。彼女は二挺のサブマシンガンで文字を描くのだ。奇数番と偶数版の文字を交互に刻むだけで
はない。時には左の銃で上の行を、右の銃で下の行を、1文字目から、まったく同じ速度でタイプしていくという離れ業さえ
見せる。武装錬金の形状はイングラムM11だが、シカゴタイプライター顔負けだった。

 戦士たちがそんな大道芸を黙過しているのは飲まれたせいばかりでもない。一斉攻撃の隙を窺っているのもあるし、火渡
からの命を待っているのもある。全員内心では気付いているのだ。『たかが3人の幹部に全員かかりきりになるのはマズい』。
銀成どうこうを考えられている者は斗貴子たち以外ほぼいないにしても、いまだ姿見えぬほかの幹部たちの動向がハッキリ
しない限り局地(ココ)で勝っても戦略で敗北してしまうのではないかという現実的な不安は確かにあった。それが弾痕文字を
読むという、一見不毛な停止状態につながった。

『お父さんたち殺した鉤爪の戦士はイソゴちゃんに成敗されたけど、だからこそっていうのかしらね、私めの拳は振り下ろす
ところを失ったし、だいたいデッドちゃんヴィクトリアちゃんの前例から考えると戦団って誰得? ってのもあるし』

 本当に器用である。この2行、上は文頭……つまり左から左へと書かれ、下は文末……つまり右から右へと書かれた。
弾痕で文章を描けるというだけでも想像を絶した芸当である。筆記用具で文章を逆再生で描くのも。リバースはその両方を
同時に行うのだ。右から左からイリュージョンのように出来上がる文字列に見蕩れた戦士は決して1人や2人ではない。

「練習、しましたから」

 楽しんでもらうために……えへへと頬を桜色にして無邪気に笑うリバースは確かに己の声で喋っていた。幽(かそ)けし
声だった。線の細い、清純な昭和の正統派ヒロインの凛呼とした声だった。奥ゆかしい表情もまた文章とのギャップでひど
く魅惑的……と、弾痕芸当に魅了されつつあった戦士たちは心の臓を穿たれた。

(や、やっぱり、本当はいい子なんじゃ……)
(そりゃご両親殺されたら悪になるよな……)
(義理の妹を怪物にしたのだって実は誰かに脅されていたからとか、だよなっ!?)

『以上っ! 冥土の土産!!』

 ギンと目を見開いたリバースは発砲する。戦士たちめがけ、今しがた『楽しんでもらうため』といった戦士たちめがけ嵐
の如き銃弾をためらいもなく一斉射したのだ。

「なっ」

 同情的で良心的な、『どうすれば殺さず救えるのか』を考えていた何人もの戦士が血の花を咲かせバタバタと倒れた。
「野郎! なんてコト!!」 レイビーズの爪によってからくも無傷を勝ち取った犬飼の怒号が響く。「いや油断する方が悪い」。
犬飼とは逆の端、右翼やや前面にいた斗貴子を取り巻き林立するバルキリースカートはしかしはてな、銃撃を防いだはず
なのに銃弾1つ表面を滑っていない。剛太と桜花、呻く。周囲への周知も兼ねて。
0148永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:32:51.81ID:j2GJNLEY
「圧搾空気!!」
「あの銃は空気を取り込んで銃弾にしているのよね……! 養護施設で戦った時から分かっているコトだけど……!」

「ゆえにリロードがなくゆえに休みなく連射できる私めの『マシーン(機械)』はしかもダブル武装錬金なのよ強力なのよこれ
で戦士たちを殺すのお父さんお義母さんを殺されたこの怒りを戦士たちで晴らすの晴らすのやっと晴らせるのあははうふふ」

 蓮歩というべきたおやかな足取りをしかし言葉同様高速ペースで行いながら戦士たちとの距離を詰め始めるリバース。
ゾっと凍りついた雰囲気が一帯を支配したのはほぼ無限に高速連射できるサブマシンガンに恐慌をきたしたのもあるが、そ
れ以上に接近しつつある少女の面頬の持つ根源的なおぞましさにヤられたからでもある。
 奈落の闇色に染まる強膜。血の色で発光する瞳孔。燦爛たる両目を三日月形に見開きながらしかし口元だけは相変わらず
笑みに、獰悪きわまる笑みに染めたまま……足早に近寄ってくる、近づいてくる少女に対し平静を保てる者は、少ない。怨霊
がいざり寄ってくるようなものだ。なまじ先ほどまで美しさ愛らしさを振りまいていたから尚さら落差が恐ろしい。射手(シューター)
が接近戦を挑むなど愚の骨頂といった正論など誰の脳からも消し飛んでいた。

「う、撃てー!!!」

 号令は指揮系統を無視した、他力本願的な後退要請だったが、それがなかったとしても次の一斉迎撃は行われただろう。
恐怖による、反射的な攻撃の合唱に、ブーメランやダイナマイトといった投擲武器の類が多かったのは、その持ち主たちが
銃撃されたが最後身を守る術がないと危惧したからである。圧搾空気による無限連射は同時に不可視でもある……戦士たち
がそう悟っていたのは、刀剣型武装錬金の使い手のうち銃弾を捌けるコトで名高い者たちが先ほどの一斉射撃で何人も葬
られた事実ゆえ。いかな動態視力あろうとも、見えぬものは、捌けぬ。斗貴子が捌けたのは元々高速機動の武装錬金かつ、
空気弾を用いるという事実を一度間近で見たという行幸が重なったからに過ぎない。犬飼についてはイオイソゴとの交戦に
よる飛躍的な上昇あらばこそ。他の、並みの戦士ではまず……無理であろう。

(だから俺たち投擲武器組は!)
(先の先で仕留めるほか無い!!)

 決死の全力を以って攻撃する戦士たちであるが、ああ! 効かぬ!! ブーメランがやわやかな頬に直撃し、ダイナマイト
の爆発が章印あるであろう右胸と密着状態で発生したというのに……リバースはそれらをものともせず早足で、来る!!

(っ! この光景!)
(光ちゃんの時と同じ!! どれだけ攻撃を入れようとも怯まなかった光ちゃんと……同じ!!)

「光ちゃんをあの強度にしたのは私めなのよその研究データを自分に応用していない訳ないじゃないいいえむしろ更に強力
に発展改良しているのよだって私めは光ちゃんのお姉ちゃんなんだから光ちゃんより強いのは当然でしょふふふ、ふふふふ
あーっはっはっはっは!!!」

 笑いながらマズルフラッシュを炊く笑顔の少女はまさに魔神の様相だ。爆発で煙が上がるなか、散乱し始めた戦士を追って
歩き始める。死角から飛び掛るものたちもいたが肩や膝を打ちぬかれ羽虫のごとく落ちていく……。

 ダイナマイトの戦士──この前日、ゆきつけのコンビニの可愛い女店員さんから連絡先を貰って舞い上がりつつも、釣り
とか悪徳商法の勧誘とかだったらどうしよう、でも前から気になっていたコだから嬉しいし、返事したいしと悩んでいる──
が後退をしなかったのは、武器が逃散しながら使える類のものではなかったからだ。

(だったらせめて場に留まって掩護! あの幹部を攻撃する他の人のため何がしかの隙ぐらい……)

 5本のダイナマイトの爆発がリバースを包み隠した。更なる追撃をと投擲の構えに移った戦士の耳をなでたのは風切り音。
同時に濛々たる土煙が……『切り裂かれた』。晴れたあとにリバースはいない。消失。まさか背後にと振り返りかけた戦士
の揺れる視界のその下から、目口が鉤と裂かれた笑顔の少女が踊り込む。「あ……く……」。2つの銃口はもう喉元。掩護
から消す、理に叶った行動だ。笑うリバース。絶望に引き攣る顔をだらだらと冷汗で濡らす戦士。白魚のような指がトリガー
にふれかけた瞬間、しかしダイナマイトの戦士は笑う。その顔と、リバースの顔の中間点に現れたのは特大のダイナマイト。
総ての精神力をこめたと見て間違いないラストアタックの権化である。一瞬きょとりと、普段の顔になるリバースをよそに導
火線は1ミリ残して燃え尽きて──…
0149永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:33:18.57ID:j2GJNLEY
 無惨な衝撃が戦士を揺るがし……1つの戦力が戦場から消える。

 リバースは吹き飛んだ。20人を下回らない戦士たちの一斉迎撃でもついぞ感じたコトのない鈍い痛みを体の深奥から
つくづくと味わった。湿潤な喘鳴をか細い声帯の奥から振り絞りながら、わずかにとはいえ吐血しつつ旋転で吹き飛んだ。

「なっ」

 もっとも驚いたのは……ダイナマイトの戦士である。爆発させるつもりだった武装が解除されている。

「自爆は……ダメ、です。自爆に追い込むのも、ダメ、です……」

 スライスしたソーセージのようなダイナマイトの上の切れ端をパシりと投げてよこしてきたのは白いバンダナに赤い三つ編
みを持つ少女である。右脚は異形。何か猛禽類の爪をロボット風味で巨大化している……としか形容できぬ戦士は、叫んだ。

「音楽隊副長! 鐶光! 爆発寸前導火線ごと斬り飛ばした!?」
「いまのうち……逃げて…………ください」

 ダイナマイトの戦士という1つの戦力が『この』戦場から離脱したのは、消えたのは、鐶の勧奨に基づく。

「……ふ、ふふふ。ふははは。あはははは」

 いつの間にやらうつ伏せで地に付していたリバースの全身が揺れたのも一瞬、彼女はがばりと立ち上がるや大声で哄笑
した。

「光ちゃん悪い子ひどい子お姉ちゃんを不意打ちで殴って吹き飛ばすなんて痛いわよ痛かったわよ酷い子ヒドい子非道い子
迷子になったとき何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
捜して助けてあげたお姉ちゃんを物もいわずに殴り飛ばすなんてひどいわね光ちゃんひどいわ恩知らずおませさん」

 からかうような、怒気の低い早口だが、たったそれだけで鐶の面頬が明らかに恐怖に波打った。が、無数の死骸に目を
止めた瞬間、恐怖以上の憐憫、親族の情愛に虚ろな瞳をやや垂れ気味になるほどゆがめ、涙ぐんで……懇願する。

「止まって……くだ、さい。もうやめて……ください」
「手遅れよいまさっきちょうどもう戦士何人か殺したのよもう許されないし許されてやるつもりないのよこんな奴ら!」

 姉と妹が終局に向かって対峙する中。別の場所では。

「この場を、離れろ」

 ブーメランを頭に乗せて座り込んでいた20代ぐらいの女性戦士は逆光のなか、見た。2mほど上で太陽を遮っている天
蓋の骨組みを。それは処刑鎌とハルバードの噛みあった物……とはつい一瞬前の奇襲に対する庇護的な掩護の作りし意
味記憶。

「さすがに、読めますか」
「ああ。海王星が混乱させている隙に接近戦特化の天王星(キサマ)が仕掛けてこない筈がない。弱い戦力から削ぐ……
まだ徹底するつもりとは趣味の悪い」

 そう。ブレイクは正面切って戦士たちに近づくリバースを囮に、静か密やかに彼らの背後へ回り込み混乱に紛れ暗殺を
働いていた。突如として姿を消した彼に「まさか」と心さざめかせた斗貴子は周囲を見渡すコトしばし、2人目が犠牲になっ
たあたりで音もなく戦士の隙間を抜ける怪しげな影を発見し、3人目……つまりブーメランの女戦士のあわやという所で防
いだ……という訳である。

「へへ。演劇の稽古ん時から注目してましたが洞察力はなかなか見事。ですが!」

 女戦士が遠ざかっていくなか、グッと踏み込むブレイク。たったそれだけで斗貴子は大きく軋み撓む可動肢たちの下で
小さな体を仰け反り気味に沈めてしまう。

「バルキリースカート……でしたっけその武装錬金! 形状からして力押しの相手に弱いとみやした!! 高出力の調整体
である俺っちの操る超重武器(ハルバード)相手に組み合うのは……へへ、人命救助のためとはいえいささか無謀じゃあ
ありませんか!」
0150永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:33:59.77ID:j2GJNLEY
 まくし立てるブレイクはしかし見た。無表情に、しかし凛然たる輝きを失わぬ斗貴子の眼差しを。

 天王星の幹部たるウルフカットの青年は後天的な全色盲である。稀有な症例だからこそそうなるに到った経緯は省く。
重要なのは『色』が人生の途中から分からなくなったというその一点。簡単な例は信号機、上下または左右の”どれ”が
危険を報せる部位か時々直感的に分からなくなる──特に車用のものしかない交差点では咄嗟に迷う──ので、しぜん
注意深くなる。色という直感的なツールが分からぬが故の機微だ。

 その機微が斗貴子の眼差しに働きそれはじっさい正解だった。優勢だったにも関わらずパっと後方へ飛びのいた彼の
つま先が冷然たる円錐の1つに掠り些少だが血液を飛ばした。

(接触した温度的に……『つらら』……?)

 先ほどまで自分がいた場所を貫いている何本もの”それ”をブレイクは糸目のまま不思議そうに見た。

「厳密にいえばつららじゃないけど……説明めんどいから省く、なの。でも気象、なの」

 雲のようにもこもこしたロングヘアーと、台風の渦のような瞳孔を持つ少女が言葉を発したのは、ブレイクが大岩ほどある
雹を飛んで躱わした瞬間だ。少女の顔はその上部にちょこりんと生えていた。

(気象サップドーラー! ディプレスの旦那と交戦されたっていう天候同化型の戦士さん、すか!)

 隕石の表面のようにごわごわした雹の一面を乱れ狂った閃光はむろんハルバードによる攻撃の成果。果たして一拍の
静寂ののち青白く輝く巨大なる氷塊は粉々のダイヤモンド・ダストにまで砕けた。

「どこまでダメージ通せるかの検証、乙、なの」

 凍てついた砕片は赤茶けた風になる。舞い飛んでいたサップドーラーの生首もまた。(フェーン現象……!?)。58度の
熱風に取り巻かれたブレイクは足首からさき全体で地を蹴り距離を取る。直接的なダメージこそ低いが、しかし近くには斗
貴子が居る。小技に怯むだけでも致命的であろう。

「……。やはり同化中の攻撃は、火渡っちでいうところの『酸欠(じゃくてん)』突かぬ限り…………」
「いぇす。完全無効化なのー♪」
 ビブラートの掛かった返事を、しかし低い音程低い音程へと伸ばすサップドーラーに「あ、このセンス、演劇の人材に欲し
いかも」と軽く呟いたブレイクは、更に指摘。
「で、補助と火力に長けたあなたが、攻撃力の低い斗貴子っちを補うと」
「誰が斗貴子っちだ! 変な呼び方するな!!」
「そうなの。斗貴子っちさんはお姉ちゃんの話を知ってる人だから、男なんかに殺させない、なの」
「だからやめろその呼び方! キミはキミで馴れ馴れしいぞ! さっき初めて会話したのに!!」
 目を三角にして怒鳴る斗貴子をよそに、ブレイクは、笑う。
(確かに一筋縄ではいかない援軍ですが)
 彼が公称する武装錬金特性は『禁止能力』! 攻撃や回避、果ては武装錬金そのものの使用を禁止するコトができる!
斗貴子や秋水、毒島、防人といった面々の記憶を一時的にとはいえ抹消したのも『思い出すコトを禁じる』という特性あらば
こそ! そしてその条件はハルバードを以って相手に『まぶしさ』を感じさせるコト! この『まぶしさ』は生体エネルギーその
ものの輝きでも可だが、ネオンカラー効果……色のついた線分を交差させ黒い線で以て延長すると……光が滲み出てるよ
うに見えるといった『錯視』の仕掛けでも構わないというから恐ろしい! あらゆるエネルギーを吸収できるソードサムライX擁
する秋水ですら攻撃を封じられた!

(あのとき使った斧内部の米字型交差、色つきの線分! これをサップドーラーっちに使えば天候同化など)
「無駄なの」

 あたりに虹が咲き誇った。同時に小型の雷雲がハルバードの周囲で激しく光を散らす。

「銀成の養護施設でタネ明かしたのはまずかったなプギャー、なの。仕組みさえ分かればドラちゃんの力で封印、なの」
 あーという顔をブレイクはした。斗貴子は、

(なるほど。『かがやき』を感じさせる仕組み総て、それら以上の色と光量で塗りつぶすと)

 頷いた。

「そしてドラちゃんの力を使えば……」
0151永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:34:16.21ID:j2GJNLEY
 遠くで、鐶に撃たれたリバースの空気弾が強風によって潰された。

「…………………………………………………………………………………………………………ぐすん」

 鬼面血笑だった少女が平生のしとやかなる笑みに戻るほどの衝撃だった。まなじりにユーモラスな涙さえ浮かんだ。

「…………いや、そんな力あるなら、お姉ちゃんがあんなコトする前に…………とめろや、です」

 静かな声だが、届いた。というより、耳と口の浮いた雲が鐶の傍に浮いていて、応答、した。

「速度が頭入ってないと、逆にこっちがやられる、なの。こちとら身ぃ削る能力だから、使いどころ慎重にならせろ、なの」

 鐶は露骨にイラっとした表情をした。具体的にはただでさえ虚ろな双眸を戯画的な漆黒に染めて、眉間に苛立たしげな
水平線を何本もまぶした。
 一方、斗貴子の傍にあるサップドーラーも、ファンシーな面頬をスーパーデフォルメしつつも鐶のいる方角を台風の渦中心
ににょっきり生えた四白眼で睨みすえる。怒りの漫符が純白の髪に浮かび、漂う怒りのオーラときたら腐ったわかめをまぶ
したよう。

「ケンカしてる場合か!! 敵は幹部2人だぞ!!」
 ああコイツら若干キャラ被ってるからそれコミでソリ合わないんだなと直感した斗貴子、怒号。

「お姉ちゃんと仲良かった斗貴子っちさんがそういうなら、天気相手にゃぐう無能のトリなぞ、ガマンする、なの」
「確かに……カップリングシステム的に……斗貴子さんとは仲良くしたい、ので……この野郎ごときには、構わない、です……!」

 また両者の目と目の間に火花が散った。50m以上離れているが、確かに散った。

「んなコトしてる場合か! 特に鐶! お前をそんな体にした義姉(あね)がすぐ傍にいるんだぞ、油断するな!」
「ああ、イラついてる光ちゃんも可愛い……」

 斗貴子があやうくコケそうになったのは、うっとりと頬に手をあて呟いている海王星の幹部を見たからだ。ノーブレスな
おどろおどろしい喋りもどこへやら。ぱしゃぱしゃと携帯電話で妹を取っては確認し、古い少女マンガのキラキラ瞳孔で
恍惚なる溜息つく繰り返しだ。

(あ、あれだけ殺しておいて……いや、殺したからこそこの反応は異常だ!)

 だったら天王星(ブレイク)の方もリバースにこういう反応するのか……? 悄然としながら向き直った彼は斗貴子の眼差し
を、すっかりデフォになりつつある糸目で見返してきたが、すぐ「ああ」と右のグーで左のパーを叩いて頷いた。

「あっちに寄せた方がツッコミ役としては嬉しいすかね? それとも俺っちだけマジメに応対しやしょうか?」
「ああキミはマトモなんだな……じゃなくて! そもそも戦え!」
 っていわれましてもねえ。ブレイクは後頭部を掻いてから、何を思ったか両腰に手をあて得意気に微笑んだ。
「どうせお気づきでしょうけど、俺っちたち足止めすからね! グダついたやり取りでも膠着してくれるなら、構いやせん!!」
(こいつは……)
 パパーという効果音と共に大漁旗の日の出模様めいた紅白を糸張る幹部に斗貴子はゲンナリした。
(クソ。こっちはこっちで悪意を隠すのがうまいからやり辛い……)
 現に何名もの戦士を殺害しているのは目の当たりにしているが、斗貴子の機微を見抜いた上で返し辛い返しをしてくる
のが厄介だ。或いは『西洋の槍使い』という一点においてカズキを無意識に思い出してしまうせいかも知れない。
「ま、戦えというなら戦いますがね」
 キツネ面のような細面に、影が差した。同時に遠くのリバースも妖艶にニンマリ笑い……

 両者は飛び上がり、木立の中へと消えた。

(っ。奴らはどこへ……? まさか!)
『アジト強行偵察組の抹殺なら後回しよ』
(!!)
 無音で足元に刻まれた文字に斗貴子の危慄が掻きたてられたのは不意に銃撃されたせいではない。知られている!
火渡の戦略が、知られている!!!

『ちょっと考えれば分かるコトよ』
0152永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:34:37.97ID:j2GJNLEY
 斗貴子の周囲で次々に文字が穿たれる。地面に、木の幹に、戦士の死体に、続々と。

『ダイナマイトの戦士やブーメランの戦士』

『あの人たちを光ちゃんや斗貴子さんが逃がしたのって』

『私たちから遠ざけるためだけじゃないでしょ?』

『詳細は不明だけど、何らかの武装錬金で指示が下った筈』

『タイミングは私めへの恐慌に基づく迎撃が始まったころ』

(……見抜かれている…………! やはり鐶の義姉……!!)

『だけど離脱した人たちを個々にツブすのは後回し』

『バスターバロンの土煙に紛れてある程度戦士を間引いた上で』

『離脱されたら』

『邪魔者はだいぶ減ったってコト』

『だから私めはそろそろ光ちゃんとの決着に移れるし』

『光ちゃんがいる限り、アジト強行偵察組の各個撃破は目論むたびツブされるから』

『殺るのは光ちゃんを倒したあと』

 その頃なら強行偵察組もヒトカタマリになっていて、潰しやすいでしょ? ……という文字を最後に弾痕は途切れた。

「そ! こっちの通常攻撃なら完封できるドラっちが、にひっ、残られるというなら頃合でしょう。俺っちと青っちの真のコンビ
ネーション! そいつで光っちとの決着ジャマする方々封じさせていただきますので! なにとぞお覚悟を!!」

 からりとした声のわずか2分56秒後。


「どうしろって……言うんだ…………!」

 燃え盛る森の中で、斗貴子は膝をつき戦慄いていた。かつてない地獄だった。銀成の寄宿舎のとある夜あじわった恐怖
の何千何万倍の震えが止まらない。暴動、だった。撃ち合ってはならない者たち同士が互いの血を流しあう、狂乱の舞台
だった。

「そんな……。あらゆる天気が、通じない、なの…………!?」

 戦士たちを襲う幻影に着弾した雷轟は付近の樹齢300年ほどの太い木をロールケーキのように引き裂く威力だったが、
しかし攻撃すべき本命は揺らぎさえせず戦士を襲い……そしてまた混乱は大きくなった。

「奴が叫ぶ。大地が鳴る」

 火の発災を催しつつある山あいの、うすく紅蓮が滲んだ蒼穹に巨人が踊る。遠ざかった筈のバスターバロンが徐々にだが
確実に斗貴子たちの戦場に近づきつつある。

「巨大魔神激突」

 笑顔の少女は歌い、踊る。その背後の空に、彼女の真名どおりの場所に、殴りあう真鍮の巨人、2体。

「ここまで来たらもうどこにも 逃げ場所はないー♪」

 なみなみとドレープの寄った可愛らしいスカートを体ごと一回転させた清純な美少女は、茶目っ気たっぷりにその裾を銃把ごと
ちょいと摘みつつ、もう片方……右手のサブマシンガンの銃口を義妹の額に、鳥型の章印(きゅうしょ)ある額に、密着させた。
0153永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:35:26.48ID:j2GJNLEY
 膝と、息をつく義妹は、血まみれだった。

(クロムクレイドルトゥグレイブに蓄積した年齢が……瀕死時の自動回復が……)

 尽きている。代償をつくづくと払わされたらしきリバースもまた全身朱に染まっているが、直立するだけの体力は、ある。

 また地響きがした。バスターバロンの巨影が一段と大きくなった。戦士たちは暴動している。ブレイクの特性をリバースの
特性で強めるコンビネーションの前で成す術なく『互いに攻撃しあっている』。

 そんな状況で。

(バスターバロンが来たら……開戦当時の土煙やコラテラルダメージが再来したら…………!)
0154永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:35:42.05ID:j2GJNLEY
 終わりだと鐶は思う。

「その通りよ、光ちゃん」

 ふふふと笑いながらリバースはしゃがみ込む。視線を義妹より下げるのは、懐かしささえ覚える優しい挙措だ。血がべっとり
ついた頬さえ彼女は撫でる。撫でながら、なのにどこか威圧的で、性欲さえも孕んだ打ち震える笑みの声を漏らすのだ。

「使ってちょうだい。ね? 例の……鳳凰形態。バスターバロンが来たとしてもそのときお姉ちゃんが戦闘不能になっていたら
……問題ないでしょ? そうしたら大丈夫。だって戦士さんたちの混乱はお姉ちゃんの武装錬金特性のせいなんだから。ブレ
イク君も手ごわいけど、お姉ちゃんが居なくなればこの場を離れるから、だからね、鳳凰形態に賭けてくれたら……嬉しいよ?」

 義姉の目論見など鐶には分かっていた。鳳凰形態。通常時は『脚→脚』のように、鳥の、対応する部位にしか変形できぬ
鐶の特異体質を『手→脚』といったふうに、どこでも、どの部位にも変形可能とするリミッター解除こそ……鳳凰形態。出力
そのものも底上げされるため、斗貴子をして『ほか5名の助力がなければ絶対に勝てなかった』と言わしめる超絶の切り札
だ。
 が、それだけにリスクもある。一度つかえば以降24時間は『通常時の特異体質をも』使用不能となる。だが幹部はたとえ
リバースを倒せたとしても残り……9名! 鐶の武装錬金は、とみに応用力たかい年齢吸収の短剣だが、その利便性と形状
ゆえに物理破壊力そのものは低い。物理に長けた特異体質、変形を欠いて勝てる幹部では……ない!
0155永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:36:21.02ID:j2GJNLEY
 ああしかし、それでも、しかし! 眼前の義姉を倒さねば次の幹部も何もない! 現に鐶はいま敗北の寸前にある!!
そもそも鳳凰形態を義姉以外ほかのどの幹部に使えというのか! 因縁ぶかき義姉によって植えつけられた能力である
なら因縁ぶかき義姉を裁くため使うのが筋であり、その領域は自分たち以外だれも批難の権利を有さぬ筈!

 だが同時に鐶は分かる! 義妹だからこそ分かる! リバースが命と引き換えに『後』へ繋ごうとしているのが! 仲間
のために、やがて脅威となる鐶の鳳凰形態を、特異体質を、ここで封じておこうという目論見が分かってしまう!! だが
鳳凰形態をためらうのは姦計姦策の匂いを感じたからではない! 『お姉ちゃんは落とし前をつけようとしている』!
リバースは……鐶の手にかかって死にたい! だがただやられるだけでは仲間を裏切る形になる! だから1年と少し前
鐶を逃がしながらも自らはレティクルに留まり続けた! だがそのせいで直接間接問わず多くの命を……殺めた! 父親
と義母、無数の戦士! 女性にも関わらず、妊娠中の女性の腹部に蹴りが入るのを主導したコトさえ、ある! それら総て
の償いをリバースは鐶に殺められるコトで行おうとしている。極端な話、鐶に鳳凰形態を使わせた時点で生から離岸する!
音楽隊の副長、6人もの戦士を相手に五分の勝負を演じた鐶の戦力を、向こう24時間激減せしめられた時点で、リバー
スはレティクルへのケジメを……あらゆる命への償いを…………完了できる!
0156永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:36:37.55ID:j2GJNLEY
 だから鐶は鳳凰形態をためらう! だが使わなければ鐶自身が討たれる! されば戦士たちは内訌(ないこう)もたらす
リバースの特性を解除できぬままバスターバロンの混線に巻き込まれ……遠くないうちに壊乱、足止めを終えたリバース
たちがアジト強行偵察組の後背をつき、そちらも……という最悪のシナリオが分かっているのに……ためらう!!

(いったい、どうすれば…………)

 ……。
0157永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:36:58.60ID:j2GJNLEY
 始まりは。

 風の強い日だった。

 まだ活発だったころの鐶が……いや、『玉城光』が、マジンガーZのプラモを塗装し終えた後だった。

 だから運命の終局にふさわしい歌を義姉は、リバースは、『玉城青空』は……紡いだ。

【奴が叫ぶ。大地が鳴る】

【巨大魔神激突】

【ここまで来たらもうどこにも】

【逃げ場所はない】
0159作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/23(日) 22:27:20.28ID:iQN75UEY
>>スターダストさん
熱血で理知的で、大人で子供で。普通は矛盾する二方向を同時に持ち、そのどちらも並外れてる火渡の、
火渡らしさが良く出てました。そしてやっぱり凶悪なリバース。まず実力が充分あり、それを完全に
活かしきる残虐性もあり、少し語弊はありますが「色仕掛け」まで余裕でこなすんだから、タチ悪いですな。
0160永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:14:10.54ID:e8zyEbjk
第109話 「対『海王星』 其の壱 ──波若──」

【映画『波若(はにゃ)』のパンフレットより各所抜粋】

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 波若とは仏教で、『知恵』『最高の明智』。般若、とも。

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 大手証券会社に勤める野坂智也はある日帰宅途中、不注意から足の不自由な少女を撥ねてしまう。怖くなり、現場から
逃げた彼は翌日ニュースで少女が死んだことを知る。自首を考えた智也であったが、3歳になる息子・文也の心臓手術が
来月に控えており、更にさまざまな偶然から犯人として捕まった村松が過去猟奇殺人で三度訴えられながらも証拠不十
分で無罪になった男だったことから、結局名乗り出ないまま9ヶ月が過ぎ……2005年。
 スーパーにいた智也の目の前で文也が殺害された。憤る智也だったが逮捕された通り魔の供述が明らかになるたび、
徐々にだが追い詰められ始める。『足の不自由な妹が轢き逃げされた。足が不自由だったのは父親の暴力のせいだ。
あの子どもは父親と楽しそうに話していた。あの父親は子どもと楽しそうに話していた。許せない』。高校生……幸二の供述
によって一躍注目を浴びた轢き逃げ事件はやがて警察の自白強要が明らかになり……村松が釈放。『この手で必ず償わ
せる。真犯人に、償わせる』……彼がそう言い姿を消した直後から自白を強要した警察官が次々と変死を遂げ始める。
真犯人とは誰なのか……威信をかけ再捜査を始める警察。そんななか智也は信じられない報道を聞く。息子を殺した男・
幸二が脱獄したというのだ。『本当は父親も殺すつもりだった』。公開された手紙に戦慄しつつも父親としての復讐心から
逃走に踏み切れぬ智也。だが再捜査は確実に真実へと迫りつつあり……。

 大人気サスペンスホラー、衝撃の映画化! 三人の『波若』の復讐劇を巨匠・浦鬼ヒロシの暴力的な筆致が彩る!!

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0161永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:14:37.39ID:e8zyEbjk
 監督インタビュー。

──実際にあった事件ならではのご苦労などは?
浦鬼「そんなん原作の野洲川(やすかわ)先生に比べたら皆無ですよ(笑)。こっちは既にあるもん絵にしてるだけですから」
──智也視点で進むのは意外という評価が多いようですが、いかがお考えですか?
浦鬼「まあね。原作は群像劇で、幸二の生い立ちから始まってるけどね、ただあのままやっちゃうと俺の芸風には合わない
でしょ?」
──確かに。『ライオットパージ』や『猫⇔マグマ』といった前作前々作はいずれも主人公の追い詰められる描写が絶賛され
日本アカデミー賞に2作連続でノミネートされましたからね。
浦鬼「だから企画出したときプロデューサーが「またか」って嫌な顔したけど、でもしょうがないでしょ、俺こういうのしか撮れ
ないんだから」
──村松も幸二も、迫っていく、攻めていく側ですからね。
浦鬼「そうそう。アイツらどっちも復讐していい立場で、ちょっとヒーローしてるからね、だから気に入らない」
──こっちは実名になってしまいますが、玉城青空が出てくる案もあったとか。
浦鬼「そりゃまあ本当の黒幕っていうか元凶はレティ、レティ……なんだっけ? ほら20年ぐらい前あばれた」
──レティクルエレメンツ。
浦鬼「それそれ。それの幹部の青空が一番悪いだろってんで、そっちも倒そうってプロデューサーが言いやがったけど、
冗談じゃないよってね(笑) 3人の『波若』の、実際あったのが信じられんようなブッ飛んだ殺し合いだけで完結してんのが
原作なんだから、ヘタに余計なもん足したらこっちが客に怒られる」
──『波若』という、原作から大きく変わったタイトルも話題を呼びました。
浦鬼「これについちゃプロデューサーの野郎のワガママが通ったって感じだね。いや別にアイツに好き勝手やらす理由は
ないけどね、コッチが原作の『三叉の讐怨』まんまじゃおどろおどろしさに欠けるなァって愚痴ってたらあの野郎、これは
どうですっていまのタイトル持ってきやがって、おォ、お前にしちゃ上出来じゃねえかってんでコレにした」
──玉城青空の幹部としてのコードは『波』だそうですが
浦鬼「そ。あやかりやがったんだよプロデューサーの奴(笑) あの野郎おとなしそうな奴とボインにゃ目がねえから(笑)」
──彼女も波若、ですしね。どちらの意味でも。
浦鬼「いやァ怖い怖い。記録映像ちょぉっと残ってるけどね、人間時代と救出作戦当時じゃ本当別人。アタマいいらしくて
錬金術方面じゃかなりの研究残してて、一部はいまでも早老症とかの病気治療に役立ってるっていうけどね、やっちまった
ことといえば俺の映画なんて足元に及ばんね、あァ怖い怖い」
──前作で5万人の頭同時に爆発させたのに、ですか? (笑)
浦鬼「あんなのはシャレですよ。だいたい爆発したの全部悪党だし。そりゃ脳みその描写ねちっこくしちまったせいで、イカ
の塩辛喰えなくなったとかバカみてぇに抗議来て、オイ、2週間めだっけか、公開中止に追い込まれたの」
──1週間目です。
浦鬼「けっこうな賠償金払うハメにゃなったけど、こっちはそれぐらいの損害覚悟した上で撮りたいモン撮ったってだけでね、
リアルであんなんしろってね、言った覚えないからね一言も」
──実際、たった1週間の公開にも関わらず日本アカデミー賞にノミネート……ですからね。
浦鬼「受賞できた筈なんですよ(笑) でも相手がデッド=クラスターの映画だったから(笑) あんなギミックだらけのサスペ
ンス出されたら追い込まれ系しか取り柄ないコッチは負けるほかない(笑)」
──おととしの邦画部門興行収入3位、1月から11月までの超ロングランに、1週間で公開中止のライオットパージが対抗
できただけでもスゴい……という声もありますが。
浦鬼「支えてくれた人らには感謝ですよ、マジでね。俺の映画の本質がグロじゃなく勧善懲悪って分かって貰えるとホント助
かる。そうなんだよ。智也とかの小悪党追い詰めて苦しめてやんのはね、R15背伸びして見るようなオラつきどもに、ああ、
悪いことして償わずにいたら、あとでこれだけ苦しむんだなって、思わせるためのね、要するに、教育ですよ」
──現実の智也に当たる人物も、最後、とんでもない償い方をするハメになってましたしね。
浦鬼「ま、その頃にはレティクル壊滅してたからね。あ、奴らといえばいちおう連中の資料にも目を通してたけど」
──玉城青空は出さなかったのに?
浦鬼「あァた分かってないねえ。撮らない部分までちゃんと把握すんのが監督なの。レティクルもいちおうバックボーンの
1つなんだから研究しとくの当然でしょ」
0162永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:15:34.23ID:e8zyEbjk
──その割りには名前わすれていたような……。
浦鬼「ド忘れつうか舌が縺れたの。こっちゃ成人式前日に起こしちまった脳梗塞、5年後のいまなお軽く引きずってんだか
ら。で、月の幹部がドヤ顔で『ひき逃げの犯人わからない』とか言ってる記録見つけたんだけど、笑っちゃったよ。リアルの
方の村松が釈放後まだ行方をくらましてた頃の記述だねこりゃ。実際日付たしかめたら智也が償うのレティクルの決戦後だし
──あ。つまり、玉城青空の方も。
浦鬼「そ。予想もしてなかったろうね。自分のせいで家庭壊された奴が、妹ひき逃げした奴の子どもを殺したっての。まァ
子どもにゃ罪はないんだけど、手を出したとき幸一、さりげなく復讐遂げられていたっていうね、おっそろしい偶然を」
──知らないまま玉城青空、新月村でああいう『転機』を。
浦鬼「そんで智也と幸一と村松の三すくみの結末もね、良くも悪くも後に尾を引くやつだったんだってから、よくわからん
奴だね玉城青空。アイツに家庭壊されたからこそ、赤ん坊まもるために暴漢と刺し違えた高校生も居るし」
──本日はどうもありがとうございました。

.

..

 リバース=イングラム。本名玉城青空。彼女の声帯は生後11ヶ月目にしてその機能の大半を奪われた。実母の、せい
である。11ヶ月にしてなお首が据わらぬ我が子を悲観し……絞めたのだ。
 運よく帰宅した父親のおかげで一命こそ取り留めたが、ほとんど消え入りそうな声でしか離せなくなったリバースは……
いや『青空』は、子どもならば誰でも持ちえて当然の、同年代との交流を『聞こえない』という理由だけで拒まれるようになり
……長ずるにつれひどく内向的な少女へなっていった。

 父が再婚相手と授かった義妹の光は、活発な少女だった。青空が振り絞るなけなしの声を遮るほどの。

 ……。風の強い日だった。まだ小学校低学年だった光の、何の気のない挙措が、青空の運命を、希望を、粉々に打ち砕
いてしまったのは。
 始まりはアイドルの返事だった。青空が大好きなアイドルが、青空に向けて発した手紙だった。当時高校生だった青空は、
上記が如き身体的欠損によって将来を悲観し絶望に沈んでいた。そんななか家に来た返事は比喩なしで希望だった。その
文面を読みさえすれば自分は救われるのだと信じていた。到着時はあいにく所用で外出しており、だから配達の事実は、
憧れの義姉に少しでも速く……という、親切心に基づいた光によって携帯電話を介し伝えられた。
 その手紙が青空に読まれるより早く蒼穹の彼方に飛び去ってしまったのは不運な事故に過ぎない。当時部屋でマジンガー
Zのプラモに塗装を施していた光が、有機溶剤の匂いで雰囲気を台無しにしたら大好きな『お姉ちゃん』に申し訳ないと思って
窓を開けた瞬間……なだれこむ強風が悪霊のような手つきで手紙を掴み天空へ放り投げた。

 帰宅し、顛末を聞いた青空が初めて義妹をぶったコトをいったい誰が咎められよう。
 だが光の母は、青空にとっての継母は光景を目撃するなり青空をぶった。理由も、聞かずにだ。

 翌日より玉城青空は家から消える。1年後父親と継母を虐殺する血塗りの帰宅のその日まで。
 そして義妹を人ならざる者に変貌させたあげく凄絶な虐待を加え続けた。
 のみならず、見ず知らずの、幸福そうな家庭を何軒も何軒も、何人も何十人も……破滅させた。

 ただ銃殺したのではない。ただの銃殺であれば被害者またはその遺族は破壊前よりむしろ強固な絆でつながれただろう。
支えあい、励ましあい、正しいコトを成せただろう。理不尽な害悪を共有しうるという意識によって団結できただろう。

 だが青空が、リバース=イングラムが仕掛けた離間は斯様な修復を絶対かつ根源的に破壊する放射能だった。自分は
決して表に出るコトはなく、それでいて被害者の心身を両面から長期に渡ってじわじわと壊し、歪め、暴力を振るった方すら
理由が分からず、それでいて孤立を強要され、暴力を振るわれた方は青空が母親がされたような非常に重い後遺症を
終生ひきずり続けるような……およそ最悪といって差し支えない攻撃をリバースは無辜の家族たちにし続けてきた。

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0163永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:15:53.68ID:e8zyEbjk
《》内は津村斗貴子が『とある少年』に行った述懐。

《姿を消した海王星と天王星が見つかるまで……? 正確に計った訳じゃないが、30秒は超えてなかったと思う。このころ
最初廃村で起こった奴らとの戦闘はバスターバロンとのゴタゴタでいつの間にか山林方面に移っていたから、戦士たちの
大半は上を、ああそうだ、枝だ、折り重なるそれらの中に幹部どもが居ないか血眼になって捜していた。ん? 円山は地面
見ていたって? 初耳だが本人からか? 確かに直前コトを構えた木星の幹部は地下を逃げたからな、円山がそのセンを
疑ったのも仕方ないが、ともかく》

 よもやアジト強行偵察組を追撃しにいったのではないか。いやそう思わせて移動を始めた所を狙い打つつもりではないか。
 あれほど猛威を振るっていた2人の幹部の突如の喪失にさまざまな戦士のさまざまな疑惧が生まれ得体なき不安を高める。


(どこだ)
(奴らは……どこだ)

 音が凍りつきくぐもる静寂の索敵は、上方からの投下物によって粉々に打ち砕かれた。

《私は最初バスターバロンが着地したのかと思った。それだけ凄まじい轟音だった》

 余波だけで巨漢レスラーや、ヘビー級ボクサーに匹敵する頑健な体格の男たちが何人も受け身も何も無く後方へフッ飛
ばされるほどの衝撃はしかし人間サイズの物体によって行われたのだと戦士たちに知らしめたのは、活発な火口かとみま
ごうばかりにモクモクと脈打つ煙の膜にぼんやりとだが映る2つの……人影。よもやと凍りついた戦士はごくわずか、吹き
飛ばされていた重量系の男たちは、あるいは踵で踏ん張り、あるいは巨体に見合わぬ軽やかさでトと地面に手つき側転し
吹き飛ぶ力を前方への推進へと転化。

《8人がかりだった。全員生身の立会いならこの夏以前の戦士長にすら土を付けられる猛者だった》


   キュウリュウ
 八門穹窿斬姦陣!! 東西南北にその中間4つを加えた八方より飛び掛る必中必殺の陣である! まず通電可能なワ
イヤーネットの投擲により相手の身動きを封じる所からこの恐るべき武技地獄は始まるという! 何の武装錬金を使っ
ているのか、全身から硫酸の汗を噴き出す色黒スキンヘッドの男が居た! 右目の横から走る刀傷が上唇の中ほどと
端を大きくズラしているキュウリ顔のパンチパーマが不敵なる笑みと共に五指ツートップの輪にて左だけ”はだいた”縦縞の、
背広の内側にビッシリ固定されている注射器の1つが残る片手で引き抜かれた!! 瞳孔が真白で肌の色も恐ろしく白い
福耳の僧侶が数珠を一薙ぎするとショートケーキの添え物のブルーベリーぐらいしかなかったはずの一顆一顆の玉がオレ
ンジ色の光を帯びながらそれぞれスイカほどに拡大し、紐も伸び、土煙の影めがけ殺到。最もヒロイックだったのは三国志
の英傑そのままの長柄付きの大刀を颯爽たる笑みで横薙ぎした二十代半ばの苦みばしった男だろう。他にも3人、衣服も
はちきれんばかりの筋肉を持つ男どもが、そろえたつま先を先端にギュルギュルと旋転したり先端が高周波ブレードな関
節だらけの義手を荒れ狂う龍よろしく縦横無尽に伸ばしたり、口内から大砲の弾を吐いたり……いやはや総て命中すれば
確かに必殺であろう。

 土煙の中で瞬いた閃光が球体状に膨れ上がった!!

(禁止能力!!)
(馬鹿め!! 位置を変え、サップドーラーの虹から逃れたつもりだろうが!!)

 さすがは撃墜数3位! 虹は既に土煙を取り巻いている! 禁止能力をツブす虹が!!

「いかな海王星といえどこの間合い且つ八方同時の必殺攻撃はいなせまい!」
「終わりだ! 喰らえッ! 八門穹窿斬姦──…」
「『攻撃を、禁ずる』」

 声と共に起こった致命的事象は2つ! まず虹が土煙の向こうへ吸い込まれ柔らかなる緑1色になったコト! そしてそ
れと同時に8名の屈強な男どもの攻撃動作がにわかに止まり、全員ヘナヘナと地面に落ちたコト!!

「な!」
「馬鹿な! 禁止能力は封じたはz」呻く苦みばしった男の額にさくりとめり込んだのは斧の刃だ。周縁がカミソリのように鋭
いそれはナタ2枚分はある肉厚の内陸部を一気に戦士の脳内へと押し込んでそのまま離断をもたらした。更に反対方向で
は石突がキュウリ顔の堅そうな喉仏を、ふくらはぎをプニプニする指のような調子で押し込んでいる。淡々とした銃声の中で
盲目の僧侶と他3名は額から煙をあげ倒れ臥した。
0164永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:16:46.07ID:e8zyEbjk
 さきの光でワイヤーネットを取り落とし震えていた持ち主はそれでも再び動こうとするが……
 カチャ。スチャリ。
 後頭部は背後のブレイクの穂先に、下顎は眼前のリバースの銃口に、それぞれ押さえられ──…

 突かれ、撃たれる。

 土煙を完全に晴らしたのは凄まじい音を立て転がる死体だった。

《全貌を明らかにした2人の幹部から私は理解した。私たちは理解した。およそ30秒まえ奴らが姿を消したのは、決して
伊達や酔狂ではなかったと》

 彼らの姿は。

 僅かだが、決定的に。

 変わっていた。

 リバースにはツノが生えていた。羊のものだ。くるっとしたそれは耳の後ろから、いかにも柔らかげなゆるふわショート
ウェーブをかき分けニョッキりと生えていた。

《変形だ。奴らが約30秒姿を消していたのは……変形の時を稼ぐためだ》

 そしてリバースに随伴していたブレイクの形相は──…

 ぐ ろ ん

 笑ったまま膨張し、ひどく歪んだ。

「!?」

 斗貴子は我が目を疑った。しかし慌てて目をこすり再び見た彼は昆虫様の触覚を額やや上の髪の間から生やしている
以外、いつもどおりのエビス顔、身体に目立った変化はない。

(なんだ今のは……!? 邪気が顔つきを歪めて見せた? いやそれにしては余りにも……)

 傍らのサップドーラーが袖を引く。向いた彼女の双眸にも戸惑いがあり、それで斗貴子は先ほどの『歪み』が自分の見間違
いでなかったコトを知る。事実周囲の戦士からチラホラと『さっきのは一体……』といった周章があがっても、いた。

 ブレイク。触覚以外はさほど変化はない。強いて斗貴子の目を引いたのは髪や肌の『ツヤ』であろうか。栄養状態が改善
されたというレベルではない。どこか金属めいたキラめきが感じられた。そしてそういった敵がかつて居たという既視感に囚
われかけたが、咄嗟には『誰と類似するか』思い出せなかった。

《キミは鷲尾を……忘れられる訳もないか。ああ。ソレだ。キミも見たとおり鷲尾は腕の先だけ翼へと変えていただろう。
原理は同じだ、2人の幹部と。何しろアイツらはホムンクルス調整体……だからな。鷲尾よろしく基盤(ベース)となった生物
の体に、一部分だけ変形するコトも可能……ん? なんだ? …………調整体ってみんな三角頭のアレじゃないかって?
いやまあ確かに銀成学園でキミと私が斃したのはそうだが、あれはバラフライが真似ただけのいわば劣化品だ。ゴメン?
いや……説明してない私こそ悪いというか…………。コホン。いいか》

 さまざまな生物を複合させ作る調整体! それはDr.バタフライ独自の技法ではない! かれ曰くかれ独自の技法は、
ヴィクターを治した修復フラスコただ1つ! つまり! 調整体については『既存の、使いまわし』!

《その大元こそが、100年前の例の争乱のさいメルスティーンが持ち出した物だ。……ヴィクトリアのクローン技術はキミ
も見ただろう。ああ。女学院のな。記憶までもが継承されるあの卓越した技術はメルスティーンの伝授したものだ。言い換
えればそれほどのクローニングが可能な手腕でも無ければ、まったく異なる生物同士を1つの体に押し込め、共存させるの
は……高度な調整体を作るのは、不可能……というコトだ》

 だがブレイクとリバースを調整体にしたのは盟主メルスティーン=ブレイド!!
0165永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:17:45.38ID:e8zyEbjk
《奴らの真に恐ろしかったところは、生物の相互作用が二乗三乗にする身体能力そのものではない。『形質』だ。ただでさ
え強力な武装錬金特性を、生物の、さまざまな特徴でより強めようとする……特化させんとする……執念と思考……だった》

《カズキ。私もキミと一緒だ。『たかが調整体だろう』……どこかで2人の幹部を舐めていた》

《だがその考えは一変した。この戦いで……つくづくと、思い知らされた》

 瞬く間に斃された戦士8人の死骸に戦士一同の士気が沮喪したのもむべなるかな。悟ったのだ、全員。『迂闊に飛び込め
ば動きが封じられる』と。無抵抗の状態で、超重のハルバードや電瞬のサブマシンガンに食い破られる、と。

 機微を悟ったのだろう。愛らしく、そして何より満足げに微笑したリバースは右手のサブマシンガンを揚々と掲げ──…

「破断塵還剣!!!」

 横薙ぎの光輝く大剣の前に霞み果て……消失! 戦士の視界より、消失!!

(鐶!!?)

 目を剥く斗貴子は釘付けだ!! 半透明にくゆりながら色彩と形象を具現化しゆく鐶に!! 位置は先ほどまでリバースが
居た場所の……やや背後!! その場所で彼女は振りぬいたのだ、熱波が奔流する刃渡り3m強の電撃的聖剣を!!
 それはサイバーな虫の羽音も鍔鳴りに振りぬかれた! 怒涛! 小爆発を幾つもまぶした軌跡の跡に立つ者はいなかった!
そう、斬りかかられたリバースはまるで爆散したかの如く消えていた!

(演劇のとき鳩尾無銘と開発した大技を)
「透明化からの奇襲に使う……すか」

 いまだ中空にある鐶の更に2mほどの枝が揺れた。「天王星だ!」。戦士(だれか)が叫び指差した。リバースの傍らにあっ
たブレイク、からくも塵還剣を跳びよけたとみえる。

「イイ手段すけど……甘いすね」

 微かな反応と共に腕を翼に変じ飛び立つ鐶。羽撃(はばた)きの風に木の葉舞う『直前までの座標』! そいつを不可視
なる銃弾雨が穿つに穿つ! 天から垂直に降り注ぐ空気弾のスコールが踊り狂う木の葉の端々をクッキー早食いの超高速
再生の如く粉々に砕く! 圧倒的空気噴射の破壊痕、それは吹断(すいだん)! 
 逃れていた! リバースもまた塵還剣のなか、姿が『霞み果て』るほど早く万朶の枝の中へ跳んでいた!!

(馬鹿な!! どうやって察知した! 鐶の……光学迷彩だぞ!!? 私ですらいつ消えたか分からなかったのに)

 いったいどうやって察した……熱汗さえ頬にまぶし驚倒する斗貴子の細指を取ったのは天気少女。

「指が、ヘビなの」
「は?」
「塵還剣直撃の寸前、消された虹の断片を目にしてあいつら間近で……見てた、なの」

「そのときあの海王星の指ゼンブ……蛇だった……なの。透明化察知したのは……熱察知器官……なの」
(察知したリバースでブレイクも察した……のか?)

(お姉ちゃん……)

 リバースはまだ人間だった頃の鐶に凄まじい虐待を加えた張本人だ。ホムンクルスに改造すらしている。鐶光の双眸か
ら名前と同じきらめきが一切無いのはそのせいだ。無邪気な小学校2年生が眼前で両親を殺害されたあげく監禁され、
虐待され、人外に無理やりさせられたすえ実験と称しておぞましい怪物どもとの殺し合いを強制させられたから、だから彼女
は瞳から輝きを失った。

 果たして鐶、頭上から落ちてくる『見覚えある人影』に限りない恐怖を浮かべ細い肢体を熱病の如く振るわせたが

──「本当に姉を愛しているのならば止めて見せろ! これ以上の魔道に貶めてやるな!!!」
0166永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:18:03.33ID:e8zyEbjk
 去来する言葉になけなしの勇気を振り絞る。人影は旋転し、両手を伸ばす。ピンと張った肘の先で空気銃の性質上ありえ
ない筈のマズルフラッシュが2つダダダっと瞬いた頃にはもう発動していた高速機動(マニューバ)は射撃軌道に遺伝子構造
の形で纏わりつきながら遡行し──…

「カウンターシェイド……!!」

 生やした! あっという間に交差して後ろに流れた義姉の体から無数の鋭利なる羽を!

(早坂秋水を倒した技!!)

 瞠目する斗貴子の傍でサップドーラーも呻く。

「すれ違う瞬間、年齢を与えられた羽が一気に膨張するのが見えた……なの。羽根の元となる『羽芽』、ほんの
ツブ程度しかない大きさのそれを敵めがけ投げつつ『年齢のやり取り』の短剣で斬り……相手の零距離射程で
実に30近くの羽根を同時に巨大化させる技って感じだから……いかなる海王星でも『何もなければ』よけられない
筈……なの」
(タイミングは……完璧…………でした……! 以前なら10本前後が最高記録だったのを…………演劇前の、
特訓の日々で……30本近くまでに伸ばしたのは総て……お姉ちゃんたちマレフィックたちに備えての……コト……
ですから…………倒せてなかったとしても……それなりの手傷は幾つか……)

 息を呑み、姉の動静を窺う鐶の頬の傍を、

『無駄よ光ちゃん』

 そう書かれた羽根が通り過ぎた。同時に鳴り響いた空気の抜けるような音は、2挺あるサブマシンガンの銃身が発した
ものだ。推進、だった。アポジモーターといってもいい。中空にある翼なきリバースは、しかしサブマシンガンの、『空気を
取り込み銃弾とする』形質の、その経路と流れを逆にするコトで、サブマシンガンそのものを推進装置にできるようだった。
 宙をたおやかに旋転し自身に向き直る義姉に鐶はかつての憧憬を、お姫様のように綺麗で優しかった頃の最愛の家族
を思い出し、それだけで泣きそうになった。だが感傷をゆるされる状況では、なかった。全身を絶望の慟哭が貫いた。無傷、
だった。30もの羽根を確かに零距離で膨張延伸させた筈なのに、そのどれもが、1本たりともが……着弾していないのだ。
かすり傷すらない。どころか衣服の破れすら。

(……。いくらお姉ちゃんの射撃でも、『それだけ』では間近で膨張する30の羽の同時撃墜は不可能……! だって、背後
や……足裏といった死角にも配置していました……!)

 それらを純粋な射撃だけで、反射神経だけで視認し迎撃しえるか。答えはノーだ。いかに人外を極める調整体だとしても、
2つしかないサブマシンガンで15倍もの戦力の全包囲攻撃に一瞬で対応するのは根源物理的に……不可能!!

(でも……現に成している……! まさかこれがあのサブマシンガンの……)
『特性では……ないわよ?』

 目を横向きに覆うよう跳んできた羽根は速かったが回避できないレベルではない。だが顔をねじ曲げいなしたわずかな間に
……消えていた! 先ほどまで前方下ナナメ下9mほどの地点を浮遊していたはずのリバースが! 
 脅威を見失うほど恐ろしいものはない。燃えるような緋色の三つ編みを揺らめかしながら右顧左眄するバンダナ少女・鐶。

「下だッ!!」

 斬りつけるような斗貴子の叫びが、記憶の位置より遥か近いコトに驚くヒマもあらばこそ! 鐶は直下から噴き上げる熱烈
な衝撃波に我を取り戻した。斗貴子! その処刑鎌はサブマシンガンを横なぎに押さえている!! 切断を目論んだがむなしく
もいなされた……と音楽隊副長が気付いたのはしばらくあと、この当時はいつの間にやら足元に潜行していた義姉にただただ
ゾっとした。相変わらず目を閉じたままニコニコしている彼女だが、義妹の、ミニスカートから覗くなよなかな足に対しどこか
粘っこい視線を這わしている雰囲気があり、それが鐶を当惑させ、恐れさせた。ファーストキスの相手はリバースなのだ。浴室
で強引に押し倒され、奪われたのだ。それまで凄まじい暴力で屈服させ続けてきた彼女をいったいどうして拒めたか。
0167永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:45:49.27ID:e8zyEbjk
「臓物(ハラワタ)を……」

 空中でいったん処刑鎌を引き必殺の乱舞に移りかける斗貴子!! 発動前にツブすとばかり銃を構えるリバース!! 
だが!!

「ブリザード……なの!!」

 リバースだけをピンポイントに狙った非常に強い勢力の氷嵐が行動を阻む! 1つ! リバース自身の移動制限! 翼なき
彼女は風の監獄に囚われ逃げられない! 2つ! 空気弾製造の妨害! 銃口各所に設えられた吸気用のスリットは、大気
中であれば当然存在している水蒸気がブリザードによる急激な温度低下によってみるみる凍ったコトにより……塞がれた!!
3つ! 調整体ゆえの弱点!!
0168永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:46:04.92ID:e8zyEbjk
(光学迷彩を持つ鐶光対策にビット器官だかピット器官だかあるヘビを指にしたのが運のつき……なの! ドラちゃんのブリ
ザードを浴びた冷血動物の鈍化っぷりは”かじかむ”レベルですらない、なの! 精密射撃、やれるものならやってみろプギャー!)

──「根源は貴様の姉の命ではない!」

(無銘くん……)

 他方、鐶光の動揺と、目まぐるしい状況に流されそうな心を繋ぎとめたのは……少年の、言葉。

──根源は貴様の姉の命ではない! 歪みのもたらす憤怒だ!!」
──「まずはそれを滅ぼせ! 止めてやれ!」
0169永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:46:20.46ID:e8zyEbjk
(今のお姉ちゃんの憤怒の根源……それは……!)
 父と義母を戦士に殺されたと……『吹き込まれている』せいだ! 救出作戦前、鐶は聞いた。一大戦禍を繰り広げた木
星の幹部イオイソゴから聞いた! 

──「戦士に殺された。りばーすに伝えてあるのはそこまでじゃが実は蘇生済み」
──「生きておる。じゃがなあ、りばーすめはそれを知らん。知らんがゆえに戦士を憎み、戦団と敵対しておる」

 この言葉からリバースが体よく利用されているのはもはや明らか!! 同時に戦士・音楽隊を通算して五指に入る力量
の鐶を、超高速を有するトリ型を、愚にもつかぬ足止めに誘引する罠だとも鐶は気付いている! だが! そうだとしても!
誤解を意図的に吹き込まれた義姉が足止めに回っていると聞かされれば説得のため残らざるを得ない、それが人情! 
ああまったくイオイソゴよ、狡猾と言わざるを得ない! 彼女は姉妹の情を何の呵責もなく利用した!
0170永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:46:36.04ID:e8zyEbjk
(だとしても説得しなければ……!)

 玉城姉妹の両親の生存! ならびにその事実を隠匿し利用さえしたイオイソゴ! これら2点を伝えれば或いは止められ
るかも知れないのだリバースを! 

 だが義姉はいま一個の戦闘機構と化している! 移動と銃撃の流動的な状態にある限りそれらは必ず鐶の言葉を半ば
で遮る。だから数秒でいい。数秒うごきを止めれば鐶は真実を伝えられる。
0171永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:46:51.94ID:e8zyEbjk
(そう、です。30で……ダメなら…………!!)

──「何をされようと救ってやれ! そして罪を償わせろ! それが、それこそが……」

(私が助けられなかった)

──「父に! 母に!! そして姉にしてやれる──…」

(最大の、償い!!)

 鐶は決然と顔を上げ──…

 直前比約160%・50超のカウンターシェイドが猛吹雪の中で開花するなか斗貴子の”タメ”、遂に了す!!

「ブチ撒けろ!!」
0172永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:49:01.49ID:e8zyEbjk
 戛然! 無限にも等しい斬撃の線分が身動きと攻撃を封じられたリバースにそそぐ!!

 尖った氷が乱舞する嵐! 零距離で広がりゆく50超の鋭利な羽根! そして津村斗貴子必殺の剣風乱刃!

(これはちょっとムリかな……)

 さしもの幹部・リバースも、何かを諦めた表情で笑う他なかった! つまりはそれだけの攻撃だった! それほどの連携
だったのは確か……だった!!

 だがここでリバース=イングラム意外な行動に出る!! 開眼!! 笑みに細めていた瞳を開く!! だがその瞳は先ほど
までの獰悪を振りまいていた『反転』の瞳ではない! ころっとした、年相応の青い瞳!! それがきらっと潤みを反射したの
はしかし一瞬! あっという間に光を失くす!!

(鐶の瞳……!? いや似ているが違う! これは感情を殺された瞳じゃない! もっと何かこう、そう……!!)

『集中のあまり、瞬間的に瞳孔が収縮したような』……と認識しかけたまさにその瞬間である!! 幹部(マレフィック)と戦士、
その圧倒的な実力差を斗貴子たち3人が思い知らされたのは!!

「なっ!!」

 サップドーラーは暴走したとしか見えぬ処刑鎌に薄くだが胸を切られ

「ぐッ!」

 斗貴子は跳んできた鋭利な羽根を避けようとするも間に合わず、数針の縫合を要する傷を何ヶ所か負い、

「かはっ」

 鐶は一塊になった氷の群れにみぞおちを痛打され吐血した。

 ほぼ同時に墜落していく3人の少女に戦士たちはどよめいた。

「撃破数2位とあの津村斗貴子と、ブレミュの、音楽隊の副長が」
「3人がかりで1つの手傷も……だと!?」

 ロングスカートを軽く抑えながらゆるやかに降下していくリバースときたら、まるで休日のおでかけが始まったばかりの頃の
ように身奇麗だった。ここまで幾つもの命を刈り取り、今しがたは死闘を制したばかり……というのに、着衣に綻びの1つたり
とないのだ。

「いったい……アイツ何をしやがったのゴルァ……なの」
「コンセントレーション=ワン」

 はい? いち早く立ち上がった斗貴子の足元にいまだうずくまる天気少女、耳慣れぬ単語にきょとりとした。

「ウワサ程度だが聞いたコトがある。西部劇の時代、アメリカにあったという秘術。会得した者は一瞬のうち最大にまで高め
られた集中力によって、『動作』ではなくその前の『認識』の段階において常人離れした速度と精度を手にするという」
「つまり……瞬間の世界で……自由に動けるようになる……と……? それじゃまるで……ラーs」
 いやキミいつもの調子でいる場合じゃないからな本当……緊張にカタい斗貴子の声に鐶は何事か引っ込めた。

(そう!!)

 ブレイクは内心思う。

(さっきの一瞬。青っちはまず瞬間の世界の中で、迫りくる3つの攻撃をサブマシンガンの銃身で順々に弾きそれぞれの
相手へと返したのです)

 終止符の先の世界で斗貴子は告げる、少年に。
0173永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:49:53.85ID:e8zyEbjk
《ライオンだ。リバース調整体は手足がライオンの怪物だった。この時はまだ衣服に隠され明らかではなかったが、奴は
百獣の王の四肢を持つコトで力と速度を高めていた。サブマシンガンの銃身のたった一薙ぎで私たち3人の攻撃を捌けた
のはそのせいだ。生物的な高出力(ハイパワー)もあったがそれ以上に》

『与えるのよ。自分が生物界最高のヒエルラキーにあるという暗示が実態以上の力をね』

 羊の角! ライオンの手足! 蛇の指! キメラだった! リバースはキメラの調整体だった!! 生物的な配剤によって
実力以上の実力を獲得する、恐るべき魔人だった!!

『そしてさっきのコンセントレーション=ワンは……本調子ではなかった』

 ぱらぱらと氷が落ちていくサブマシンガンの武装錬金……マシーンに斗貴子は察し、絶句した。

(サップドーラーのブリザードに銃撃を塞がれた絶対不利の状態で……あれほど的確な反撃をした……だと!?)

「つまりアイツは……瞬間の世界の中で」
「自由に使えるっていうのかよ!? 重機関銃をも凌ぐ超高速精密連射を……!」

 戦闘力で傑出している少女たちが3人がかりで手傷1つ負わせられなかった事実に戦士たちの多くが縮みあがってそし
て竦んだ。さにあらん、斃すべき2人の幹部をば見よ。片や向かい来る敵の攻撃を封じ無力化する天王星、片や極限集中
力を以って瞬間の世界を闊歩する海王星。

「動きますか、ウス」
「もすこし後ね、後」

 春風に吹かれたようなやり取りをする者を見た戦士の1人は(師範とその門下生、なにやって)が最後の思考となった。
己が死んだコトにさえ気付かなかったろう。頭のてっぺんから首の付け根あたりまである豪宕な穂先が、前述の箇所を結ぶ
正中線を後ろから”なぞって”、進入していた。「よっ」、脳梁も露に頭蓋を左右に開くその戦士の背中に、小猿が飼い主に
飛び移ったような気軽さで着地したブレイクは、衝撃でいよいよススキのように前のめる戦士から飛び降りた。塵還剣の
避難先から舞い降りたのは言うまでもない。刺殺は落下を利したのだ。思わぬ奇襲に色めきたったほかの戦士の放つ
それぞれの攻撃をひょいひょいと小刻みに動きながら残影1つ瞬と振るって距離を取ったブレイクは

「へへ。足止めとしては硬直して頂けるのも大変ありがたいんですが」

 攻城兵器のように物々しいハルバードを軽やかにゆらり一振り歩み出る。足取りは瞬く間に小走りとなり──…

「青っちと光っちのジャマになるのは消しときたいんで」

 進軍ルートの前にあった何人かの戦士は各々の武器を構える! 「無駄でさァ!」 ハルバードの穂先が翠色に輝いた! 
「くっ!」咄嗟に雷鳴を浴びせるサップドーラー! 凄まじい光量は最初のうち確かに穂先の閃光に鬩ぎ勝った! だが!

 ぐ ろ ん

 ハルバードの鋭利の刃ごと景色が大きく歪んだ瞬間、ありえからぬコト!! 轟たる雷鳴が螺旋を描き……吸収された!!
黄金の雲耀が、ブレイク発するサファイアグリーンを倍加した!! 

(虹だけじゃなく、雷も……なの……!?)

 戦士の陣へ流れ込むは圧倒的ルクスの大海嘯! 遠巻きの戦士は辛うじて目を覆い実効支配を逃れたが、すぐ間近の
戦士は……ああ、襲いくるは全宇宙最速の騎虎! 逃れられない!
 破壊力の問題を超越した謎めいた邪悪の論理は、通す! 禁止能力を、通す!! 光を浴びた者ああ果たせるかな目
の色を失い立ち竦む戦士たち! 

 そこを銃撃が襲う!! 空気の圧搾によって無尽蔵のマガジンとミニミ以上の連射力を得た最悪の武装錬金が戦士と
いう戦士を容赦なく吹断し命を奪う!

(か、鴨撃ち…………!)
(こういう連携も可能という訳か! ブレイクが身動きを封じリバースが射殺……!!)
(最悪……なの!!)
0174永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:50:11.27ID:e8zyEbjk
「ひ、ひいいい!!」

 大柄な戦士の物陰にいたせいで光と弾を免れたらしき者たちが悲鳴をあげ踵を返す。

「後方ってコトは補助系……逃がしませんよ!!」

 通過! 逃げ始める子羊たちの隙間をジグザグが駆け抜けた! おぞましき残光を引くはハルバードの輝き禁止の源泉!
一瞬の静寂! 転瞬の動議! ずぐっという骨の断たれる鈍い音に引き続いて、右腕が、左腕が、生首が、宙を舞い飛び
鮮血のスプラッシュに彩られた! そしてその背後で減速しジグザグから実像へ戻るブレイク……。

「抵抗を、禁ずる」

 いつだって光においていかれる音は八つ当たりのように切った。生命をなくしてなお立っている戦士たちの……操り糸を。

「50mぐらいは一瞬で詰められる……のか!!」
「遠距離戦が得意なお姉ちゃんに対し近中距離特化のブレイクさん……止めなくては……です!」

 そうなのと立ち上がりかけたサップドーラーだが……微妙な反応と共に周囲を見渡す。

(……湿度低下。気温上昇。…………まさか!)

「ひいい!!」

 悲鳴をあげへたり込んだ少女の戦士。桜餅色のショートボブを持つ彼女は、開戦直前ディプレス=シンカヒアの魔手から
サップドーラーによって救い出された戦士である。間近で巻き起こった殺戮と濃厚な血の匂いは何度経験しても恐怖すると
見え、故に腰を抜かしたのだ。
 どうみても中学1〜2年ぐらいの少女戦士、青くひきつる。

(マズい!! 特性でみんなに貢献した後での死なら覚悟の上だけど……この状況じゃ……使っても貢献できない!!)

 きょろきょろするもすぐ近くに『生きている』戦士はいない……という事実に震えるところを見るとどうやら彼女の『特性』も
また補助系らしい。

「運よく軌道外にいらっしゃったせいで……仕留め損ねてしまいましたねぇ」

 ヘラっと笑いながらも面頬を薄く翳らすブレイク。再び点灯したハルバードの輝きは──…

「おっと」

 揺れ動く人魂の残影となって円弧の軌道を表した。ブレイクは避けていた。その場から飛びのいていた。同時に刹那の前まで
足首が鎮座していた部分が凄まじい熱量の火炎放射にねぶりつくされた。いや、のみならず炎は獰猛な王蛇のように飛び跳ね
噛み付かんとする。攻撃が攻撃だ。刀槍のように紙一重で回避……とはいかないからブレイクは大振りな回避を取らざるを得な
くなり、で、あるから、震えながら座り込む少女という絶好の獲物に手出しする余裕を失った。

「随分荒らしてくれたようだな……」

 炎から漏れ出でる底なしの殺意を込めた声に慄きつつも喜色を浮かべる少女戦士。

「火渡戦士長!!?」
「へへ。これまた厄介な。というかちょっとのあいだ姿消してませんでした? やっぱ『アレ』ですかねぇ?」
「るせえ!!」

 激昂するところを見ると場を離れていたのは図星らしい。実際『荒らしてくれたようだな』とは先ほどまでの殺戮をナマで見
ていたのなら絶対出ない言葉だ。では火渡はどこに行っていたのか……? 話の展開と共に明かされるであろう。

「やってみな、禁止能力とやらを」

 巨大な炎のカタマリの中からおぞましい生首だけをギョっと覗かせた火渡は、ブチ壊れた回路のような火花を煙草の先で
荒々しく”くゆらせる”。
0175永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:50:45.02ID:e8zyEbjk
「光だろうが何だろうが燃やしてやる。てめえごとてめえらごと……燃やしてやる」
「いやー、厳しいんじゃないっすかねえ」。やや冷や汗混じりに揉み手──ハルバードを握ったままでの──をするブレイク、
さすがにたじろいでいるのだろう、緩やかに後退しつつ微笑んだ。
「白状しましょう。『人間以外のなにかと完全一体化する』タイプはっすね、特性上ちょっとニガテな部分あるんすよ禁止能力。
火力応用力ともに厄介そうなドラっちいなしつつも、本格的に粉ぁかけてないのもそーゆー理由ですし」
 炎を避けながら、やや気圧された様子を丸出しにしながら、それでも人差し指立て立てにこやかに応対するブレイク。
(じゅ、銃弾より速い火渡戦士長の連撃を避ける……!?)
 瞠目する少女戦士。
「あと」
 ひらっと後方にもんどりを打ち着地したウルフカットの青年は、静かに、おごそかに告げる。

「厳しいんじゃないすかねってのは、火渡さんの言葉の後半にもかかってますんで」

 目を開く彼だが今度は邪笑ではない。
0176永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:51:00.72ID:e8zyEbjk
「言うにコト欠いて、俺っちたちを……燃やす?」

 完全なる無表情だ。臨界のため却って冷たい輝きに見える青白い怒りを孕んだ、絶対的な無表情だ。

「俺っちはともかく……青っちを燃やす? イソゴ老に……続いて?」

 抜く手も見せぬ一閃が炎を斬り飛ばした。その背後にあった無数の木々も。発生した真空波が長短様々な木を袈裟懸け
にしながら森の奥へと駆け抜けた。戦闘終了から3日後の話であるが、いまブレイクが居る地点から282m東南の位置で
体長推定2mのカモシカが腹部やや中央から真っ二つになって腐臭を放っているのを狩人が発見する。それほどの、槍圧
だった。

(うまい……!)

 少女戦士が舌を巻いたのはむろんブレイクの武技にではない。分断した炎の片方でえんらえんらと渦巻く凶相にこそ歓喜
した。
0177永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:51:16.52ID:e8zyEbjk
(たぶん挑発……! 火渡戦士長はひきつけるつもりなんだ。恐らく恋人同士であろう天王星と海王星の関係につけこんで、
煽って! 自分を攻撃させようとしてるんだ!)
 感謝したとき、おぞましい彼の眼光に射抜かれた。
「いつまでもヘタりこんでんじゃねえ! 殺すぞ!」
「は、はいいいい!!!」
 怒号にへろへろと立ち上がり場を離れる少女戦士。ブレイクは横目で「ふむ」と見た。
(気質的に戦闘向きではない……すね。だったらなんでそんなコが……足止め組に? アジト強行偵察に回した方が生存率
あがるでしょうに……)

 そのときである。少女戦士の動きに変化が生じたのは。何かにやっと気付いたような反応だった。そして彼女はおそるおそる
とブレイクやリバースに視線を留めながらも、村の方へと移動し始めた。

(……?)

 不審げなカオをしたブレイクは周囲を見渡す。戦士は……火渡と少女以外…………居なくなっていた。視界の片隅で、斗貴子
のものらしきセーラー服が生い茂る木の中へ消えていくのが認められた。首を捻りながらリバースを見るとクイックイっと斗貴子
の方を指差して、駆け始めた。
0178永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:51:49.37ID:e8zyEbjk
「させねえよ!」

 火渡の放った炎がリバースの行く手を塞ぐ。海王星のニコニコ顔が引き攣った。一瞬うすく目を開け火渡を眺め、銃を構
えたところをみると微量の殺意を覚えたようだ。

(やっちゃう? 特性と特性の……コンビネーション)
(『後の予定』との相乗効果を期待してる俺っちもいますが……自重しやしょう青っち。火炎同化ですからね)
(……確かに、定まった固有振動数の無いものに効かないのが『マシーンの特性』。怒りっぽい私めがイソゴちゃんを恐れて
いる理由の1つ……だし。ああいう『溶けちゃう』タイプだけは…………相性的に斃しようがないし)
(そ。だから青っちは戦士さん方、追っちゃって下さい)

 僅かな、しかも遠距離でのアイコンタクトで意思を疎通されたリバースは炎上を迂回し森へ飛び込んだ。これにより、火渡
の進路妨害により、リバースの追撃はかなり出遅れたものとなった。
0179永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:52:04.96ID:e8zyEbjk
(……問題は)

 なぜ戦士がいっせいに逃げ出したかだ。

(まあ確かに山林(ココ)じゃ、遮光が……俺っちのハルバードの輝きを防ぐものが…………足らないってのも事実すけど)

 だからこそバスターバロンの混乱に乗じて少しずつ戦士一同をここに誘導したブレイクだ。その目論見を見抜いた戦団が
真逆の運動を開始するのは当然だと思う。

(しかし一瞬で全員が転針した……転針できたのは不可解。そもそもちょっと前だって戦団、声1つ立てず足止め組とアジト
偵察組に分かれた訳で。……何の能力で連絡とってんすかね? うーーーむ。どなたのかが分かれば断てるんすけど……。
てかさっき逃げたあのコの? いや、違いますね。逃げた瞬間連絡とか、そんなの自分がやったと大声でいうようなもの、
無音無動作で戦士さんたちに連絡できる能力(アドバンテージ)がツブれる。だいいち『遅れて命令に気付いた』というカオ
すらしてた)
0180永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:52:20.69ID:e8zyEbjk
 命令系統的にもあの少女が連絡したとは思えない。

(火渡さんがいらっしゃる以上、この場の最高指揮官は当然かれ。だから村への後退を指示したのもまた……ってコトに
なりますけど、でも火渡さんあのコに作戦概要伝えた様子がない。あのコの能力が広範囲に双方向のテレパシーを伝え
られる的なものでさっきの戦闘中、密かに? いいえないすね。連絡と同時の逃走はやはり下策。だいいちそこまで便利な
能力持ちのあのコなら火渡さん、ずっと随伴させてた筈。戦団最強の業火で直接ガードする方が戦略的に安全なんですか
ら)

 だからあの少女の能力は『便利だが、火渡がずっと傍でガードしなければならぬほどの宝ではない』。

(いずれにせよ戦闘の部隊は村へと逆戻り。へへ。朽ちたりといえど建物は建物……禁止能力の光は確かに防げる。広
範囲にも広がりうると危惧し仮想敵にする禁止能力を……ある程度まで減殺できる)

 ブレイクが若干不利になるのは確かだ。だが建物の多い場所で戦う以上、戦団側も多人数による一斉攻撃を制限され
る。

(何より……火渡さんが能力を使いづらくなる。へへ。ま、延焼とか気になさる方じゃありませんが、俺っち相手にする以上、
建物の焼失はマズい。家やら小屋が燃えてなくなったら……そこはただの平地っすからねえ。こっちの禁止能力の輝きが
山林同様とおりやすくなってしまうと、ま、そういう話でさ)

 レティクル側の対火渡の構想は、「いかにして不活性化させるか」、その一点に尽きる。
 戦団最強の業火を恐れぬものなど盟主と土星ぐらい……他のものは特段の畏怖を抱いており、それはつい数時間前、分
身体とはいえ重鎮には変わらぬイオイソゴが一撃のもとに葬られた時ますますと強まった。

(瞬間最大破壊力だけに限って言えば総角主税と光っちのタッグを遥かに凌ぐのが火渡さん。1対1ならともかく他の戦士
さんの横槍が入る乱戦でやりあえば……いかな俺っちといえど負けるでしょうね、絶対。何も何も、残せぬまま)

 ゆえに不活性化。能力を十全に発揮できない状況に追い込んだ上で更に『勝負なし』で撤退するのがブレイクたち幹部
の対火渡の方策!!

(要するに……消耗させる!! 何しろこっちにゃ無制限に回復できるグレイズィング女史がいらっしゃいますからね!!)

 だったら仕掛けるだけ仕掛けておきながら『勝負なし』で撤退し、回復してのちまた『勝負なし』を仕掛けるゲリラ戦にて、
ちくちくと削るべきではないか、火渡を。

(にひっ、やや分が悪い相手すけど、しばしひきつけて……いや『ひきつけられて』おきやしょう。俺っちの任務は足止め
すからねえ。

…………『表向き』、は)

 纏わりつく炎を槍の風圧で薙ぎ払う。火炎同化中の火渡を完全殺害する術などブレイクは持たないが、その代わり完全
殺害されるほど弱くもない。持ち前の武技、持ち前の槍圧で炎上を防げればいいのだ。

(指揮官かつ最高火力を引きつけられるだけでもアドバンテージ! 火炎同化使用中は精神力だって減り続けてますから
ね、レティクル全体から見れば……ま、及第点の足止めかと!!)

 火渡側もブレイクと交戦する意味はある。村へと移動する戦士たちの後背をハルバードから守れるからだ。

(癪だが総崩れよりかはマシだろ。もっとも……)

 銃声と悲鳴が遠くから響く。村へ走る戦士たちがリバースに追撃されているのだろう。(こっちは片方ひきつけてやってんだ、
テメーの身ぐらいテメーで守れ)。火渡は、厳しい。

 そして。

 およそ1分。たった1分で、炎と槍の変則的な打ち合いは50合を超えた。ブレイクが、後方からの火炎放射を、旋転し、紗の
膜を作るハルバードで弾き返したときその変節は訪れた。

「…………?」
0181永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:52:36.75ID:e8zyEbjk
 不意に殺意と炎熱が消えた。訝しみかけたブレイクはハっとし空を見上げる。居た! 火渡は居た! 幾何学的かつ巨大
な焼夷弾の上で仁王立ちになり顔を片手で覆う凄まじい目つきの火渡がブレイクの、直上の空に居た。

(五千百度の炎っ……!! そろそろ戦士さんらが射程外ゆえ使えると……!!)

 放たれたが最後500m圏内総ての生命が蒸発する大技は発見から投下まであっという間だった。圏内中央に居たブレ
イクに逃げるヒマなどなかった。

「やれやれ」

 何かを諦めたように汗を垂らすブレイクは、だが堂々と炎を睨み続け──…

「申し訳ないすけど、ここで」

 炎となって咆哮していた火渡の面頬に異様なさざなみが奔ったのは、すぐ後ろで空間が穿たれたからだ。穴は1つばかり
ではない。どこからかの乾いた爆発音が輪唱を連ねるたび、前の穴はそのままにどんどんと数を増やしていき……わずか
1秒足らずの間に500以上のピンホールを蒼穹にもたらした。

(チッ!!)

 何が現れたか悟る火渡。

 穴は渦でもあり、ワームホールだった。月の幹部・デッドあやつる武装錬金、ムーンライトインセクトの一作用だった。通常
であれば渦は小型のクラスター爆弾を発射するがしかしこのとき射出されたものは、クラスター爆弾より遥かにマシで、それ
でいて火渡にとっては最悪の物質だった。

 白煙が火渡から上がる。それが強酸性の薬品であったならまだ良かった。だがしかし、ぽつ、ぽつ、ぽつと滴下されるそれは
薬品よりも遥かに効果的に戦団最強の火力を削ぐ逸品だった。雫はあっという間にそこかしこで細い流れとなり、細い流れは
やがてそれぞれとの合流によって大瀑布となった。

 もう分かるだろう。何がワームホールから現れたのか。

「水。えるっちの能力で移送できるのは爆弾だけないってコトです」
『だあもう本名で呼ぶなや! デッドいえデッド!! ったく。能力貸されるの渋っとったけど結局ウチに世話なっとるやない
かブレイク! これ貸しやで! 貸しやからな、お前いきて帰ってこんだらしばき倒すからな!!』

 同時刻。ここより北東570m地点にある決して中規模ではないダムがほとんど空になり、関係者を驚愕させた。デッド
の、仕業だろう。ダム1個を枯渇させるだけの水量はやがて洪水クラスの勢いで、火炎同化中の火渡を容赦なく攻撃した。

(……野郎!!!)

 完全なる不意打ちだった。火渡は先ほど『レティクルは、勝ちたいなら残り7人の幹部の一斉に投入すべき』といった分析
をしていたが、それら全員アジトで何がしかの策動をしていると結論づけていたから、ここにきての奇襲はまったく意表を
突かれたといわざるを得ない。いや、厳密に言えば音楽隊から知り得た情報の中にある、デッドの遠隔爆破が乱入する
可能性は常に頭のどこかにはあった! だがやんぬるかな! 射出できるのはせいぜいクラスター爆弾程度だと思って
いた! クラスター爆弾程度ならば火炎同化で完全に防げると確信していた! これは火渡の認識が甘かったという訳で
はない! 彼の立場では『ワームホールは爆弾以外も出し入れ可能』という決定的な情報を得られないからだ! そもこ
の事実をデッドは7年前、貴信との行き掛かりの中のさまざまで披露したが、何たる運命、貴信はその夜さいごに訪れた
ディプレスの暴走で、当夜の記憶をあちこち欠落する破目に陥った! だから当事者たる彼の証言からデッドのワーム
ホールの真価は聞き出せなかった。そして今日、銀成においてもワームホールはヴィクトリアの地下壕に開いたが、そ
こにいた彼女や、小札の証言からでは『渦越しにでも会話や目視が可能』程度としか分からない! 
 だがそれらは偶然ではなく……デッドの作戦勝ちなのだ!! 貴信が恐らく忘れているだろうと踏み、故に地下壕でも真
価を見せなかった! そして念のいった情報統制はいま! 火渡に大量の水を浴びせるという最高にして最悪の攻撃を
……成功せしめた!!

(ケッ!! 要するに水から出りゃいいだけだろうが!!)
0182永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:52:52.47ID:e8zyEbjk
 そう! 火渡は脱出できる! どんなに多かろうとたかが水、標的を永劫とじこめる液体操作系の武装錬金とは違う
から、だから火渡、高熱源体へ急速に水を注いだとき特有の水蒸気爆発で瞬間的に開いた空洞から炎の姿で脱出
するコト自体は可能だった! そしてデッドもブレイクも、脱出を阻む障害は、物理面では一切! 用意してはいなかった!
 にも関わらず、火渡が

(…………っ!)

 瞠目したのは抜け出しかけた水流が山肌で波濤としぶきを上げながら下り始めているのを見たからだ。

「にひっ」。ブレイクは笑う。「察していただけたようですね」。

「そう。抜け出せばここら一帯に広がるっす。ダムからワームホール直通で流されている大量の水がこの山肌を滑り落ち
……い ま 逃 走 中 の 戦 士 さ ん た ち 全 員 を 飲 み 干 す 洪 水 と な る」

 まあ、天気を操るとかいうドラっちに総ての命運を託すってのもテではありますが、どうします? にへらとしたエビス顔で
ブレイクは言う。

「だけどまあ、ムリですよね? だってドラっち、ディプレスの旦那を圧倒しながらも早々に切り上げて逃げたんですから。
つまり天候同化は強力ですが、だからこそノーリスクで使い放題では、ない! よって洪水が起こったが最後、青っちを相手
どりながら戦士さんたちも助けられる道理は……ない!! 必ず何か致命的な消耗を起こし! 戦士さんたちを助けられな
いまま……洪水程度では止まらぬ人外の青っちに……討たれる!!」

(クッソタレ!!!)

 火渡は水流に残った。残るほか無かった。洪水。ブレイクがデッドと示し合わせたのなら、リバースもまた周知であると
火渡は直感した。つまり起こったが最後、それが用意されていたと知らぬ戦士たちは浮き足立ち、知っていたリバースに
悠々狩られるほかなくなる。この場でそれを防げるのは……火渡だけだ。彼は水流のド真ん中に飛び込んだ。まんべん
なく蒸発させるため飛び込んだ。

 言うまでもないが火炎同化中の完全鎮火=死亡。分かっていながら命を奪う空間に身を置かざるを得ない怒りが凄まじい
水蒸気爆発を幾度も幾度も惹起した。轟然たる山彦と地響きが起こるなか火渡はそのまさに気炎を上げる。上げ続けた。
山の肌で急増した水量に(土石流……!)と危惧し歯噛みしたのは7年前ゆえか。

 中空から実にダム1個分もの水が注いでいる。留まるほかない火渡はやがて怒涛の大瀑布に飲み干された。

 その場所を、遥か背後にする場所で。

 待機モードの、脇差程度の長さしかないハルバードを片手にひた走るブレイクは思う。

(悪でも仲間と協力していい!)

 子どものころから不思議に思っていた。悪の組織の幹部たちが足を引っ張り合うのを。

(にひっ、悪に分類されるとはいえ組織は組織! お仲間の能力に頼った方が効率いいならすべきでしょう連携は!!!
そもそも俺っちをレティクルに誘ったの、えるっちですから。頼りやすいすよ)

 デッドの『媒介狙撃』の射程は、媒介となる物品の希少性が高ければ高いほど伸び、短ければ短いほど縮む。

(水なら半径せいぜい600m……ってトコや)

 まずデッドはダムにクラスター爆弾を打ち込み『媒介』を『水』に設定。同時に、爆破した『媒介』と同種同質のもののうち
『射程距離内』にある物の傍に渦が開くのがこの武装錬金であるから、クラスター爆弾本体たる大きな赤い筒内側のモニ
ターに表示される渦のうち、火渡のすぐ傍にあるものを、ダム内の無数の渦と直結し……水を流した。

(そこに関しては若干目視もあったなあ。火渡アイツ炎ばんばん上げとったから。映像と地図の照合で目分量やった)

 しかしはてな。半径600m内の『水』の傍に渦が開くというが、火渡のいた場所は山ではないか。水場では、ないではない
か。だが実際は違う。水場がなくても水気はある。水蒸気。漂っているではないか常温でも空気中に。
0183永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:53:29.39ID:e8zyEbjk
(村ん中ですと射程距離外になっちまうんで、ダムにより近い山林(ココ)に誘導した訳です。禁止能力の輝き届けるにも
都合は良かったですしね)

 要するにブレイクは最初から火渡との戦いを想定していた! 禁止能力を把握した彼ならば戦士たちを村に引き返させ
るというのが想像できたから、同時に、かれが足止めのため自分に挑んでくるのだろうと、そう、予期していた!!

(できれば単騎でどうにかしたかったですがね、自分なら何でもできるって抱え込んだ結果、失敗して周りに迷惑かけると
か……最悪じゃないすか)

 と、いささか悪の組織の幹部らしからぬコトを考えながら、

(えるっちが渦出したのに火渡っちが気付けなかったのはなぜか……なんてのはカンタンですよ。五千百度の大技出した
瞬間……つまり一番隙が出来るタイミングで、俺っちがインカムで媒介狙撃指示したんすからね)

(ほんで火ィの字は自分を取り巻いとる水蒸気媒介の渦にそのまま完全包囲や! しかも流れるのは水! まったく文字
どおり堰切ったように勢いよく水が流れたから……渦を目視していても……かねてよりの知識不足もあって対応できんかっ
たっちゅー訳や!!)

 えるっちことデッド=クラスターとの奇妙な符合を見せながら、彼は思考を締めくくる。

(水に苛まれている火渡さんに、俺っちと青っちの『特性コンビネーション』を浴びせたら勝ててたかもって欲目はありやす
が……難しいすねえ、いろいろと)

 まず火炎同化中の火渡にはまず効かないといっていい連携だ。いいかえれば、解除状態の彼にならば聞くが、しかし
ワームホールから溢れる大洪水を阻止すべく残った火渡が、蒸発を、火炎同化を、やめるというコトは理論上ありえない。

(何より)

 一番怖いのが味方(デッド)への誤爆! 

「『ワームホール越しに声が届いてる』ってえのがマズいすからねえ」

 嘆息しながらインカムに呼びかける。デッドとの通話はいまだ健在なのだ。

「まったくえるっち。作戦前なんども喋らない方がいいって言ったのに聞かないんすから。青っちの特性知ってる癖に……」
 怒鳴り声が鼓膜に響いた。
「アホ! ワームホールで得物ひっかけた一番楽しいときこそ喋りどきやろがい!! それを2コ後輩の能力にビビっておと
なしゅうするとかなんやねんボケ!! ええか! 勝負っちゅーのはリスク覚悟でやるからおもろい! むしろ味方からの
誤爆あびながらやる方がテンションあがるっちゅーねん! なのにブレイクお前はなんや! グレイズィングがすぐ傍におる
ウチへのいらん配慮で最善手打たんとか……なさすぎやわ!!」
「にひっ。かわいい女のコ傷つけてまで勝つってのは主義じゃないんすよ」
「かわっ、ウチが……!!?」
 動揺と絶句がインコムの向こうで響いた。顔からゆだる蒸気の音さえ聞こえるようだった。
「そ。特に『ウチに構わず敵を撃てーっ』とか言っちゃうタイプはね。もちろん一番は青っちですけど。えるっちはその次ぐらい」
「ああもう腹立つ! しばくからな!! 帰ってきたらしばくからな! だから戦士なんぞに殺されずにちゃんと帰ってこいよ
ボケえええ!」
 通話は、切られた。
「相変わらず優しい照れ屋すねぇ」

 シシっと笑いながら走り続ける。

「村についたらどうしましょうかねえ」

 火渡のせいで阻まれたリバースとのコンビネーションを夢見ながら、ブレイク=ハルベルドは村へと走る。
0184永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:53:48.29ID:e8zyEbjk
 ……。

 村へ移動する戦士たち。追いすがるリバース。『またマレフィックに追われてるし』と若干涙目で走っていたのは円山円、
よくよく運のない男である。いつもアヒアヒ言っている風船爆弾も涙目だ。
(なんで犬飼ちゃん、こっちじゃなくアジト強行偵察組なのよ!!)
 ただ救いもある。傍を見よ。イオイソゴの時と違い……数多くの戦士(みかた)がいた。

(狙いが分散するという点では気楽だし)
「殿軍4、全滅!」
「ん。じゃあ5! 頼むよー!!」

 膝の後ろほどまである黒髪の、平均(ぜっせい)の美少女が剣振りつつ下知すると、「ウス!」と精悍な男たちが後方めが
け、血笑する魔人の居る後方めがけ走り去っていく。

(戦部に次ぐホムンクルス撃破数2位ゆえこの場の指揮を任された『師範』! そしてその門下生たち……! 並み居る戦
士擁する足止め組の中でも群を抜いてこの任務に適した人ら……!)

 彼らは決して特殊な武装錬金を持っている訳ではない! そもそも武装錬金を持っているのはトップの師範のみ! あと
は錬金術の合金製の、レプリカ武装錬金が武器であり生命線! かの鳩尾無銘の龕灯の性質付与にてソードサムライX
並みの切れ味こそ有しているが特性はなく、故に彼らは肉体性能のみで恐るべきマレフィックと交戦しなくてはならないのだ!

 なのに彼らは嬉々として死地に向かう! 生からの逃避を孕んだ狂奔の笑いではなく、純然たる使命感の清爽さを以って
重機関銃並みの連射力を有する憤怒の魔人に挑みかかるのだ!!

(理由の1つは戦団規定第308条! 大規模作戦行動時における戦没者ならびにその遺族への保障について!)

 これは平たく言えば戦没者は顕彰され、その家族には100年に亘り遺族年金が支給されるという規則である。1ヶ月あた
りの支給額は戦没から遡って1年分の給与総支給額を12で除した数であるが、特筆すべきはこの『3項』だろう。戦没時
の功労如何では13万2千円から308万円の範囲内で年に一度だけ特別手当が付与されるというのだ。

(そしてその額は……武装錬金持ちじゃない方が、大きい)

 理由は、怪物への決定打を持たない身で怪物に挑む精神性への評価。一部の良識派からは、「弱い者を死地に追い
やろうとしている」「”エサ”で人命の尊厳を進んで失わせるのはどうか」といった意見も出ており、何度も改正が叫ばれ
ている308条第3項。だが何でもそうだが、現場組とは常に、「いや支持してもこっちがまったく得できない正論とか、いら
んからね、だいたいそもそもヒスっぽく正論いうやつ日常のあちこちで辟易してるからね。そーゆうのに限って旅行土産とか
くれんタイプだし!」といった目で泡沫政党を見がちなので、結局改正されぬままこんにちに到る。

(開戦前、財務部司法課っていう、ちょっとその成立がよく分かんない部署の次長が『武装錬金の特性で武装錬金の破壊力
を付与されたのであれば、それはレプリカではなく武装錬金ではないか、だからこの使用者については308条3項の対象外
とすべきではないか』と発言して物議をかもしたっけ)

 よくある、世知辛い話だ。要するに戦団はヴィクター征伐で財政的にも疲弊しているから、『武装錬金で性質を付与された』
という、これまでにない概念に、前例のない出来事に、『かこつけた』、上層部の、言外で悟れや、絞れるところは絞れや的
な内命をうけた次長が、口先三寸で安ぅく買い叩こうとしたという、その程度の話である。
 もちろんどれだけ理屈が見事だろうがそこに誠意がなければ猛反発するのが現場とか世俗だから、次長と、かれに内命
を与えた偉そうなお偉いさんは突き上げを食らったあげく、騒ぎを鬱陶しく思った火渡によって叩きのめされ、むりやり解任。

 とまれまあ、結果的には火渡という救出作戦の指揮官が直々に万一の保証を保証した形になるから──「あん? 核鉄
から発動してねえもんが何で武装錬金なんだよ? 特性もねえだろうがフザけんな」という論破のあと発せられた、「カネなん
ざレティクル滅ぼしゃ手に入るだろうが。連中の研究成果応用して儲けりゃいい。機械? 売っちまえ!」という盗賊まがい
の財源補正案によって戦士の士気は大いに上がった──から、だから門下生たちは嬉々としてシンガリを引き受けられる
のだろう。

 これでカネだけが目当ての連中なら円山の胸も痛むまいが。
0185永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:54:28.04ID:e8zyEbjk
「俺ら武装錬金弱いタイプすから、核鉄回ってきてもお役に立てませんから! ウス!」
「温存す! 武装錬金のエキスパートさんたちはもうこれ以上殺させたくないす! ウス!
「レティクルには軍靴さんを……親切にしてくれた先輩を殺されてますから、一矢報いたいんです、ウス!」

 とは彼らの言葉だからチクリとする。
 いずれも死を前提にシンガリを送り出すと言い出した師範が何名もの戦士に反対された時の言葉だ。

 で、本人達が希望するならやむなし、何としてもブレイクが追いついてくる前に、禁止能力の減殺が見込める廃墟の村
に引き返さなくてはならない、それが成せないなら門下生達を生かしておいても結局は共倒れ……といった事情から、戦士
たちは泣く泣く死兵を送り出した。
0186永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:54:43.67ID:e8zyEbjk
「笑って、死ね!」

 笑顔で言い放ち、部下からの快諾を得た師範が踵を返したその瞬間、暗澹たる眼差しをしていたのを円山は見た。

 殿軍1から4は恐るべき仕事をした。機知と熱量がイオイソゴに追いたてられていたころの犬飼にヒケを取らぬといえば
彼らがどれほど足掻きぬいたかお分かりだろう。しかも彼らは……武装錬金を持たない! 銃を乱射する犯人に模造刀で
挑むような愚に彩られた枠組みの中で最善を尽くし、確実に! リバース=イングラムの行軍速度を遅らせている!
 門下生たちは足止めにリソースの総てを裂いた。命も、知恵も、何もかも、『リバースの行軍速度を遅らせる』ただその一
点だけにつぎ込んだ。行軍速度が増し、追いつかれればその破壊力によって戦士が釘付けにされる。さればブレイクにす
ら捕捉される。それを防ぐため門下生たちが編み出したのが人間の、盾。
0187永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:54:59.30ID:e8zyEbjk
「無尽蔵で超速連射といえど!」
「銃身の口径がサブマシンガンのそれである以上、一発一発の破壊力は、低い! 多分!」

 ウス、という口調さえ忘れる熱気のなか。
 どこからか調達した防弾チョッキを着込んだ戦士を盾にして突っ込んでくる戦士には、さしものリバースも普段の清楚な
笑顔をだいぶ困った様子にゆがめた。4名2組ならまだいいが、6名3組となるといかな二挺銃身といえどさすがに対応で
きず、接近戦に持ち込まれてしまうのがほとんどだ。

(ヘッドショットで盾を即死させても体の方は残っているから無意味……! 盾にしてる方はしてる方で頭を盾の影に……!
0188永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:55:43.42ID:e8zyEbjk
 命を度外視した特攻戦術に呆れるやら、腹立たしいやらのリバースだ。接近戦に持ち込んでくる戦士は武装錬金方面で
はパっとしないからこそ刀術武術を研鑽しぬいた屈強な面々だから、喫緊にまで踏み込んでしまった彼ら相手の銃撃戦は
けして楽なものではない。距離を取るためとはいえ後ずさった時などは最大級の怒りが沸いた。

『許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!
なんでお父さんたち殺した連中が笑って死ねるの私めがむごたらしくブチ殺してるってのに何で恨み1つ漏らさず楽しそうに
死ねるの!? リア充なの!? なにやったって社交性とやらの蓄積だけで何の努力もなしにぬくぬくと褒められてきた
馬鹿なリア充だから死んでも褒められるって何か勘違いしてるの!? あああ!! ああああーーーーーーーっ!!!!』
0189永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:56:05.07ID:e8zyEbjk
 狂ったように乱射して森を刻むだけでは飽き足らず、銃の1つを叩きつけ、くぐもった、他者には到底再現不能な呻き声を
あげながら、手近な木の幹をガリガリと毟りとる。ヒグマですらやらぬ蛮行だった。豪胆な獣をも凌ぐすさまじい怒りだった。

(もうぶちきれよ!! 『特性』! 『特性』で皆殺し! 戦術だのブレイク君とのコンビネーションとかもうどうでもいい!!
お父さんとお義母さん殺した戦士を殺して殺して殺しまくって血相かえて止めにきた光ちゃんと殴り合って愛し合う!!!
その隙にほかの戦士に討たれるかも? いいわよ別に!! 私めは怒りたいだけなの! この怒りを何かに叩きつけて、
伝えて!! スカっとした気分を徹底的に味わって暴れまくれるなら……死んだって別にいいでしょ私めなんて!!)

 人間だった頃は、大声を発するコトができないノドの欠陥ゆえ、さまざまな理不尽をガマンし続けてきたのがリバースだ。
だからその反動を躯幹とする今の性格はひどく暴悪的、義妹たる鐶を虐待したのも人間時代の反動だろう。


 彼女の罪は『憤怒』。おとなしい奴ほどデカいのを炸裂させる例のアレだ。突発的な凶行の「まさかあの○○ちゃんが」だ。
普通の人間ならば、そう、相手の機微などよくも悪くも深くは考えられない普通の、ありふれた人間ならば、日常の端々で
ほどよく発散させられる『抗議の感情』を、しかし伝えるべき時に伝えられない人種は確かにいる。配慮しすぎだったり、臆
病だったり、或いはかつての早坂姉弟よろしく外に投げかけても無駄と諦めきっていたりで、伝えられない者は確かにいて
リバースは……玉城青空まったく類型だった。
 内に籠もった『抗議の感情』は独自の変化を遂げる。最初は『あの時ああいえば良かった』だ。相手をやりこめる想像で
溜飲を下げようとする。が、実在の方の『相手』が二度三度と神経を逆なですると信号は黄色になる。自分が、めぐり合わ
せの悪さのせいで、思わぬ苦境に陥り、必死にそれを挽回しようとしているとき、『もしいまアイツがまた何か文句をいって
きたらどうしよう』といった益体もないコトを、半ば恐怖を以って考えるようなってしまう。そういったときの『抗議の感情』は、
自分が、外因のせいで苦境に陥っている憤りと相まって、ひどく鮮烈な憤激の色合いを帯びる。もしいま文句を言われたら、
今日という今日こそは徹底的に反撃してやる、決着をつけてやるといった凄まじい感情に染まってしまう。
 そういうコトが繰り返されていくうち、段々と相手への感情が殺意へと変貌する。相手が実際放った文句の量は数度分しか
ないのに、反復と、想像が、癌細胞のようにグングンと怒りを育てるのだ。
 玉城青空はそういうコトをたくさんやってきた人物だ。憎悪の対象は継母だった。父の再婚相手はひどく活発で、だから、
『大きな声で元気よく』が総ての人間に、何の工夫も配慮もなしで簡単に通じると思っている、ごくごくありふれた女性だった。
継母とはいえ青空をいじめたりはしなかった。だが、実母に絞殺されかけたせいで、声帯がつぶれ、物理的に大きな声が出
せなくなっている青空に、医療大学や音楽大学の出でてもない癖に、聞きかじりの発声トレーニングを薦めたのは失敗だ
ったというほかない。

「その性格直したらどう?」

「ファイト!」

 無責任な声援に青空は凄まじい精神的苦痛を蒙った。実母に生存を拒絶され声帯を破壊(こわ)された自分をつまり継母
は欠陥品だと追撃で、否定したのだとさえ思った。望んでなった訳でもない自分の形を、更に否定、したのだと、抗議の感
情を催した。
 だがそれでも継母なりの愛情ゆえの『助長』──苗を無理やり伸ばそうとし、ダメにするという意味においての──『助長』
であると分かってはいたから、泣き叫んで拒絶をわめきちらすといったコトだけはせず、ただ無言で、しかし態度において
はこれ以上ないほど強い調子で、発声練習を拒んだ。そのときの相手の幻滅の表情! ああ、ここで辛いコトを強いて悪
かったね、ゴメンねと、継母が泣いて『玉城青空』の肩を抱いていたなら運命はきっと変わっていただろう! 凶悪なる者が
かけ違ってしまった最初のきっかけなど往々にしてその程度!
0190永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:56:34.99ID:e8zyEbjk
 リバースが義妹を憎むのは、明るかったころの態度が継母そっくりだったからだ。伊予弁まで一緒だった。だからそれを
喋れなくなるまで徹底的に打ちのめしたのが継母殺害後。抗議の感情の厄介な点は、投影すらも行うところだ。許せぬ相手
と僅かに共通する相手すら許せなくなる。鐶光は純然たる被害者だ。『玉城青空』をただ心から、綺麗でおしとやかなお姉ちゃん
だと慕っていただけなのに……双眸の輝きを奪われ、五倍速で老いる人外の体へと変えられた。

 それに対する罪悪感と、いまだ燻る投影の余燼は自己嫌悪と自己弁護の凄まじい板ばさみを生んでリバースの狂的な
部分をますますと破綻させている。生後間もない義妹が原因不明の高熱で入院し、実父と継母がその看病にかかりきり
だった頃『玉城青空』はインフルエンザを患った。祖父母が4名とも死没していたため誰にも頼れず、クラスですら、大きな
声が出せないから、聞き返されるのが怖かったから、言い出せないまま無理を重ね登校を重ねた結果、凄まじい炎熱と幻
惑の世界に当時の青空は迷い込んでいた。忌々しい発声のお講義ばかりがぐるんぐるんと天地を回すひどい光景を味わっ
ていたとき、ひょっとすると脳細胞のどこかが”やられて”しまったのかも知れない。肺炎で入院するまでの3日間、青空のい
る家に電話1つよこさなかった継母は、青空の入院中、こう聞いた。


「どうして連絡してくれなかったの?」

 父が青空を忘却するほどにかかりきりになった義妹を産んだのは継母だ。青空が頼みもしないのに産んだのは継母だ。
家に入る是非を青空に聞きもせず転がり込んできたあげく、理にかなったやりようなど一切考えず自分の良かれのみ押し
付け傷つけたのも……。
 人を怒らせ、一生の恨みを残す言葉は不思議と平易なものが多い。
 インフルエンザで脳髄が壊れていようが、いまいが、上記の一言が青空の全般的な憤怒──人間への不信感、ともいう
──を決定付けたのは確かだろう。

(だから……暴れる!! 暴れたいの私めは!! 通りもしない会話なんて無意味!! 撃って! 壊して!! この怒り
をただただ伝えたいだけなの!! 口なんかでは……声、なんかでは、どうせいつものように伝えられないこの心を、誰
かに!! わかってほしい、だけなの!!)

 泣きたくすらある気持ちで、切に思う。歪な思考体系だとリバース自身わかっている。だからこそ、継母のようにそう観測
してくる奴らみなことごとく滅ぼすか、或いはかつてボランティアとして人々を支えたがっていた良心のカケラの赴くまま滅ぼ
されるか、そのどちらかでしか幸福になれないのだと確信している。

 だから次のシンガリは特性を発動した上で大暴走して殺し尽くしてやると、心のリミッターを外しかけた瞬間である。”それ”
が目に入ったのは。

【特性を使うときは暴走しちゃダメよ私】

【ソレやったら破滅って、何度も何度も考えて、決意したでしょ、自重……するって】

 サブマシンガンの銃身に刻まれた文字だった。弾痕ではない。ツメで引っ掻いて書いたものだ。

(私めの……文字)

 怒りが、また沸いた。現場が修羅場っている時、せっかく思いついた手っ取り早い解決策が、愚にもつかぬ社内規則に抵
触すると予見した時の怒りだった。頭のいいやつ固有のアレだ。合理的な段取りを一瞬で組めるのに、旧套きわまる相手の
ガラクタのような物言いのせいでゴミゴミした方策しか取れなくなるとそう予想してしまったときの、凄まじい憤りだ。

 それを、自分が事前に用意した文字によって催すのは異常としかいいようがないが、他方、それほど理性的な自分が
笑い話にもならぬ愚劣な怒りに支配されているのは、実母や、継母のような、リバースに言わせれば『ちゃんとしてない』
連中の無神経な言動のせいで、傷ついて、歪んだせいではないかと切実に思う。責任転嫁だ、被害者意識だ。薄々感づき
ながらも怒るのはやめられない。『私はあなたたちの仲間にお父さんとお義母さんを殺されたの。ひとりぐらい罪を償うため
謝罪して命差し出したらどう?』……なのに誰も彼も、しない。正義などその程度だと乾いた心でひたすら思う。世界は、リバー
スが実母に声帯を壊されきるのを黙過したのに、救いも、しなかったのに、酌量されるべき悪行をついはたらいてしまった
時に限って迅速な裁きを差し向けるのだ。アイドルの手紙を飛ばされたせいで発作的に義妹の頬をぶった『玉城青空』が、
事情もなにも聞かぬ継母の反射的なビンタを浴びせられた、忌まわしき時のように。
0191永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:57:09.89ID:e8zyEbjk
 戦士が、悪い。自分を怒らせた戦士が、悪い。だからブチ切れて暴れまわりたいのに、義妹との決着が控えているから
『暴走状態で特性を使えば破滅』と自分に釘を刺したのは……理知。だが他方、戦士さえ義妹の周りに居なければ、まわ
りくどい理知など動員しなくて済んだのだと熱く煮えくりかえるのは……憤怒。リバースの一番衝動的な部分は、適当に暴れ
て殺しまわっていれば愛しい義妹が止めにきてくれる、殺しにきてくれると即断しているのに、一番計画的な部分は、『もし
特性が自分に炸裂しちゃったらどうするの? 光ちゃんじゃない別の戦士に殺されたらどうするの?』などと唱える。
 ジレンマだ。女性的な不機嫌だ。本質はただ感情的なだけなのに、ヘタに理性でブレーキをかけるから、男性(そと)から
みればただただ迂遠で不合理で意味不明なだけな憤怒にリバース、染まっている。

(そりゃ暴走したら術者たる私めすら『マシーンの特性』の餌食になるかも、だけど、あああ! もうなんなの!! なんで
そんな不便なのよ私めの特性はああああああ!!! うがあああああああああ!!!)

 罰されるコトをどこかで望んでいる精神ゆえの『自分にも効く』がわかってしまうからますます苛立つ。そして憤怒は論理
によって押さえつけられた時、より陰性で鬱屈したエネルギーにと転化する。まさにリバースは『波若』であった。優れた理
知と激越なる怒り、一見相容れないものを共存せしめる不可思議な精神性を声帯破壊の先で有してしまったから、片方が
片方をより強める自家毒的な悪循環に常に常に……陥って、いる。

 戦士の一団から放たれた5番目のシンガリはまったく不運だったという他ない。リバースが開戦以来最悪の、ドス黒い
憤怒のピークに達したまさにその場面に駆けつけてしまったのだから。

「いくぞ人間の盾!!」
「先ほど同様三方から攻めろ!!」

 喚きたてる門下生たちの見たリバースは……背中を向けていた。そろそろ夕陽の色になりつつある太陽の漏れる木立
の中で2つの銃を腰の傍にだらんと垂らした直立不動の格好で、佇んでいた。

 彼らは、息を呑んだ。暗紫色のおぞましい触手状のオーロラがリバースの周囲をどんより漂っているのを幻視した。ホム
ンクルス撃破数2位の少女のもとで日々武術を練磨した門下生達だからこそ感得できる爆発の前兆だった、危険な雰囲気
だった。あともう指1つ触れるだけでヒステリックな金切り声立てつつ飛び掛ってくるのではないかと任務も忘れ汗ばんだ。

(こ、これは振り返ったらまたあの笑顔だな……! 黒く濁りきった白目に血光はなつ瞳孔の、狂笑……!)

 獰悪な心霊のような形相を思い出し身震いするが。

「け、けど、元より命は捨てている俺らだ!」
「詰めるぞ!!」
「近接に持ち込んだ方が時間が稼げると証明してくれた他のシンガリの……アイツらの犠牲を無駄にするな!」

 鼓舞の叫びが響き渡るなか、キキ……。軋んだ音を立て遂に振り返ったリバースは。

「むーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 むくれていた。童女のようにほっぺたを膨らませ、唇の片端をぷにぷにした肉の曲線で隠してた。コメカミには怒りの漫符。
元が清純かつ美麗な少女なだけに、こういうあどけない表情は恐ろしく可愛らしく映える。

「ど、どういう反応!?」
「やり辛いが『胆』では押せる!」
「いくぞ!! 少しでも時間を稼ぐ!!」

 ……。

 気勢からわずか1秒後。

 殿軍5を置き去りに、戦士たちめがけ駆け出すリバース。

 だが殿軍5は生きている。生きたまま、仲間に向かって何やら蠢いている。銃撃され、臥した地面でもがいているのでは
ない。立ったまま仲間に向かって活動するのだ。悲鳴のような怒号のような凄まじい声を上げるたび、仲間同士の間で
ビュ、ビュ、……と血しぶきが飛ぶ。ああ殿軍5の面々よ、お前たちは何をしているのか。追うべきリバースが逃げたのに
どうして追いもせず不可解な活動をしているのか……。
0192永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:57:35.99ID:e8zyEbjk
「ふーっ、ふーーーーっ!! ううーーーーっ!!」

 走るリバースはだいぶ興奮した様子である。獣的な、というよりは、クールなマジメキャラが、耐えたくもない理不尽かつ
滑稽な騒動をどうにか乗り越えた後の、『やり場のない怒り』を吐息に乗せているような調子だ。

「あー。暴走したいの耐えて特性使ったカンジすか、それ?」

 背後からの声に振り向くと、そこにはブレイクが居た。行軍速度低下により追いつかれたのは当然のコトだが、しかし間の
悪い登場でもあったから、リバースはちょっとビックリしたような微笑で固まった。だがそれも一瞬、笑みに細まった瞳の片
方の端っこにジンワリと白い珠を浮かべると、細っこい青年にどたたと駆け寄り

「うわーん!! ブレイク君ブレイク君ブレイク君ーー! 耐えたよ私、耐えたよぅ!! いっぱいいっぱい怒りたいのガマン
したよぉ、ちゃんとちゃんとガマンして特性使っ、使っ、わあああんん!! 寂しかったよーーー!! 傍にいてくんなきゃ私、
私、怒りをどうすればいいかわかんなくて、どうなっちゃうかわかんなくて、不安だったよう!!!!」

 ひしと想い人に抱きついた。二挺のサブマシンガンの把持など消し飛んでいたらしく、足元でカタリカタリと音立てて弾んだ。
そうまでして抱きつきたいほど心細かったらしい。服の掴みっぷりときたら半年もの出張から帰ってきたお父さんにすがりつ
く女児級だった。だがリバースの肢体は成熟を極めている。豊満なる2つのふくらみが密着し、泣き叫びに応じて熱くぬるん
と生地の向こうで動きさえする状態に、ブレイクは「///」と首筋を赤らめた。

「え、ええと。あ、青っち、頑張ったんすね、色んな感情を、一生懸命耐えたんすね」
 えらいえらい。慣れた手つきでリバースの頭を撫でると、「…………うん」。と鼻がスンと鳴る。

 いったい誰が分かろうか。これが先ほどまで戦士を残虐に殺戮していた幹部たちであると分かろうか。特にリバースの
有り様たるや義妹たる鐶光でさえ見たコトのない代物だった。目撃すれば面食らっただろう。しかし感情にフタをしがちなリ
バースが、唯一率直な本音をさらけだせるのがブレイクだった。少女相応の涙や不安を包み隠せずさらけだせる地上ただ
1人の相手がブレイク……かつて憧れたアイドルの、今の姿だった。

「だよね私、頑張ったよねえ!!」

「そんでブレイク君とのコンビネーションどうでもいいとか思っちゃってごめんなさい! ごーめーんなさーい!! やっぱ傍
に居てくれなきゃ寂しいよぉ、心細いよぉ!! わーーーん!!」

 うわああんと声張り上げて泣きじゃくるリバース。両目不等号で顆粒の水気を飛ばしたくる姿はもはや幼稚園児だ。その
時期に抑圧ゆえそうできなかったツケを返しているようだった。子どもらしい感情の炸裂を、親などによって無理に押さえつ
けられてしまった者は、早く大人になる分かえって根っこに幼稚な部分を残してしまう。該当だろう、リバースも。

「でもあしどめはしなきゃいけない」

 スーパーデフォルメされた、戯画的に丸っこい白目の表情で、彼女は腑抜けたように呟いた。

「ブレイクくんにずっとなでなでしてほしいけど、ついげきして、あしどめしなきゃいけない……」

 ぐすん。色々感情が堰を切ったせいか、いささか幼児退行のむきもある。おぼつかない手つきで銃を拾うと、「うう、戦士
のばか。早く全滅してよ」と愚痴りながら歩き出す。

(可愛いなあ、もう)

 ウルフカットの青年の頬は緩みっぱなしだ。凶悪きわまる幹部勢ですら「キレたら、恐ろしい」と畏怖しているリバースが、
自分にだけは女のコらしい一面をさらけだしてくれるのが、嬉しくて嬉しくて仕方ない。

 同時に。

 背後で得体の知れぬ仲間割れをしていた殿軍5のうち1人が仲間の攻撃で絶息した。リバースの特性によって絶命した。

 殿軍1が、出征したあたりに話は戻る。
0193永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:58:14.45ID:e8zyEbjk
「禁止能力封じの虹を突破したのは恐らく」 戦士の一団のなか、村めがけ走っていた天気少女が冷然と呟いた。
「構造色」
「構造色……? どこかで聞いたようn……あっ!!」
 斗貴子の目が鐶に留まったのは過去彼女がその応用たる光学迷彩を用いていたからだ。
「確かに……トリ型の私は…………カワセミの青色の……ような……ケラチンと空気の層による……光の、微妙な反射の
……応用で…………体色を変えたり……透明にでき……ますが」
 あくまでそれは自分の色彩限定だという訥々たる訴えにサップドーラーもまた腕を揉み捻る。
「そう。謎はそこ……なの。蛍光灯の200倍もの眩しさを持つドラちゃんの虹のスペクトルは、皮膚表面コーティング程度の
構造色程度では回折・分光いずれも不可……なの」
 トリは派手だし、それ以外に光を操る手段は……? そう問う天気少女に鐶は首を振った。
「そもそも、虹が無効化された地点は…………ブレイクさんから数m……離れていて…………そのあいだには……何も
……見えなかった…………です」
「お前のような光学迷彩というセンは?」
「それも……含めて……見えなかった……です。例えば……構造色で虹を無力化しうる『尾』のような器官があったとして
も……それを光学迷彩で消して伸ばしていたのなら……トリ型ゆえに同じ原理を使い、トリ型ゆえに四原色で世界を視覚
する私には……見えました」
「じゃあどうやって奴は虹を無効化したんだ……?」
 唸る斗貴子。「ただ……」。音楽隊副長は指摘する。
「どんな能力だとしても、ブレイクさんが、禁止能力封じへのカウンターとして肉体に、調整体の構成要素に選んだのであ
れば」
「! そうか! さっきのそれや、妙な顔の歪みは『1つの生物』だけの作用じゃない……というコトか!」
「調整体だから、複数の生物の能力を組み合わせている、なの。その組み合わせで、禁止能力封じのドラちゃんの虹を
更に無効化した……なの。ハルバードの輝きを妨害する『光』を回折・分光して無力化する……能力、なの」
 その1つに構造色があるのは確かだとサップドーラーは呟き、鐶もまた頷いた。
「です……ね。お姉ちゃんから聞いたけど、ブレイクさんは『色』に詳しい人……。というか私に……構造色を……教えたの
が他ならぬブレイクさん自身……ですから、ソレを使わぬ理由は……。ただ、カワセミの、『ケラチンと空気による作用』そ
のものかどうかは分かりませんが……。タマムシとかの甲虫にだって…………構造色はありましたよ……。カワセミのケラ
チンとは比較にならないほどの強大なキチン質がね……です」
 頷きかけたサップドーラーだったがすぐ微妙に不機嫌な表情をして鐶を睨んだ。睨まれたほうも同じような反応で、だから奇妙
なガン付け合いが発生した。
「だからケンカするな! なんで私コイツと仲良くしかけているんだ的な雰囲気は後にしろ!」
 斗貴子の怒鳴りに「まーたやってるよあの3人」という声が近くの戦士からあがった。
 とにかく。
「問題は調整体としてのブレイクを構成しているのが『何か』というコトだ」
 そこを突き止めねばサップドーラーの虹は禁止能力を封印できない。封印できなければ戦士は禁止能力によって身体の
自由を奪われ……全滅する。走りながらも軽く頭に当て呟く斗貴子の表情は深刻だ。
「クソ。こういうとき剛太や桜花がいればカラクリを見抜いてくれるんだが」
「貴信さん香美さん共々アジト強行偵察組に……なっちゃいましたから…………仕方ない、です」
「チーム天辺星も、なの。そもそも城田いくちゃんが居たら、山林でも遮光の壁作れたから……村いく必要なかった、なの」
 決して頭は悪くない3人だが、無数ある生物のうち、どれが、何種類ほど、ブレイクに組み込まれているか推測しろと言
われればお手上げという他ない。
「並の相手であれば戦いながら探っていくという手段がとれるが」
「条件次第では一撃必殺に等しくなる禁止能力を持つブレイクさんが、制止した世界の中でガトリングガン以上の速射をする
お姉ちゃんと組んでいる以上……」
0194永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:58:57.55ID:e8zyEbjk
「探り探りは最低限にすべき、なの。くらいながらカラクリを探る従来どおりの戦いは、難しい、なの」
 だったらバーっと本番勝負でよくないですか? とささやいてきたのは並走していた若い男たち。
「敵が何を使ってようが生物の、ホムンクルスの能力である以上、武装錬金で破壊できない道理はないですよ! だからみんな
でババーっと一斉攻撃したら、禁止能力封じ封じの謎トリック、案外カンタンに壊せるかも!」
「そそ。天王星のようなヘラリとした奴はこっちに考え込ませて動き鈍らせるいわばブラフを使いますし、単純でも」
 一理はあるんだが……斗貴子は難しいカオをした。
0195永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:59:13.11ID:e8zyEbjk
「だがサップドーラーの虹を封じたあの能力が、例えばサメの歯のように何度でも生産可能なものだったらどうする? キミ
らはこう、何らかの器官が、一点モノの器官が、虹を封じ禁止能力を通したと考えていて、だからそれを壊しさえすれば安
全と、そんなカオをしているが、だが相手は自分の武装錬金を封じる相手との戦いまで想定している……ひどく用心深い奴
なんだぞ? そんな男が……天王星が果たして一点モノの器官に頼るか? 一点モノの器官の移植で満足するか?」
 あー。何個か『替え』を用意している可能性も、ってコトですか。カオ見合わせた男たち「サメの歯、みたいな」とちょっと
酢を飲んだようなニュアンスで反復する中、斗貴子は更に粛然と呟いた。
「そもそも肉体の一部で無効化したという前提すら正解かどうか。不可視のカニのあぶくで光を屈折させていたとか、霧状に
した体液を虹に吹き付けていたとか、地下から密かに伸ばしていた『根』のような器官で以って噴き上げたごくごく僅かな土
の微粒子で虹のスペクトルを分散したとか、可能性は幾らでもある。調合したキノコの胞子で以って私たちを催眠状態に……
そう、本当は虹など発動していなかったのに、あたかもあるよう思い込ませ、かつそれが破られたと信じ込ませていたとか
いうフザけたオチだってなくはない」
0196永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:59:30.03ID:e8zyEbjk
 いや、それだけ考えられるなら天王星の幹部の能力あばけませんか先輩……と呻く男戦士たちを凛然たる顔が見返した。
「私がやっているのはあくまで過去の事例の引用だ。『思わぬものが』と警戒の範囲をただ広げているだけだ。まったく未知
の能力を、生物学の知識もなしで完璧に見抜くのは難しいと、そう言っているだけに過ぎない」
「この人たち斗貴子さんの知り合い……ですか?」「後輩……なの。でも中村剛太よりは3〜4年先輩……なの。男あっち
いけガクガクブルブル……なの」などという鐶とサップドーラーのヒソヒソ話をよそに、
「私は生物学に熟練してはいない。過去に戦った動植物型の能力を組み合わせた、推測らしきコトはできるが、そういった
ものはだいたい実態に当てはまらない。まして敵はレティクル……。幹部は必ずこちらの想像を超えてくる」
「私は……トリ以外……わからないです」
「ドラちゃんも天気しか知ーらないシラネーヨ、なの」
0197永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:59:45.70ID:e8zyEbjk
 つまりアタッカー3人がブレイクとの再戦前に能力を暴くのは、生物学の造詣欠如ゆえ……不可能に、近い。
「かといって剛太はいないし……」
「生物学に詳しい奴は研究班詰めで……前線にはいないしなあ」
 ボヤく男たちの傍に「あの!」と少女が駆け寄ってきたのはその時だ。
「えーと、キミは」。ゆれる桜餅色のショートボブに、斗貴子は思い出せるような思い出せないような微妙な表情をした。何度
か体術を指導した覚えこそあるが、咄嗟に名前が出てこない……それぐらいの間柄らしい。
 むしろ「おお」と双眸をきらめかせたのは意外や意外……気象サップドーラー。
「こっちに編入されてた……なの?」
「? 知り合いか?」
0198永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 12:00:25.93ID:e8zyEbjk
「は、はい! 写楽旋輪(しゃらくせん・りん)と言います! ドラちゃんさんにはさっき火星の幹部から助けてもらって……!」
 追いつくの遅れてすみません、ちょうどいま話題になってたブレイクに絡まれたせいでこっちへの初動が遅れて……と息
せき切る少女戦士・輪は「ひょっとしたらお力になれるかもです」と、斗貴子や「ドラちゃんさん」に告げた。
「……? 動物全般に……詳しいの……ですか?」
「そのっ! 天王星の幹部の虹無効の能力が『何』かは分からないんですが、『いつ、どこに』現れるかだったら、私の
能力で掴めます!」
(いつ、どこに……なら?)
 奇妙な物言いだ。斗貴子は眉を顰めた。
「私の能力……口でいうより実際に見せた方が早いので……その、20秒ぐらい止まって頂けますか?」
「20秒、か」
0199永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 12:00:42.81ID:e8zyEbjk
 斗貴子は軽く背後を振り返った。殿軍への義理がよぎったのだ。彼らが命なげうって戦っているのは斗貴子たちをリバース
に追いつかれるより早く村へ入れるためだ。だから無思慮な停止は彼らの命への侮辱……という葛藤が大きかった。が、20
秒のロスで禁止能力封じの策が紡げるのなら……という苦渋の思いで……
「……念のために聞くがえーと、写楽旋……だったか」
「輪でもいいですよ! 津村先輩は憧れの人なので!」
「じゃあ名前で呼ぶが……輪、キミ、ブレイクに操られていたりしないだろうな? 例の能力で『仲間の進軍を禁ずる』とか言っ
た暗示をかけられていて、それで足止めを持ちかけているんだったら……困るんだが……」
 かつて自分自身、彼と逢った記憶を封じられていた失点ゆえに疑いながらも、「わ、私もソレ不安なんですけど、もし止
まったせいで追いつかれたら……殺してその死体アイツらに投げてください。ちょっとぐらいの足止めにはなります」と怯え
つつも芯つよい様子で見返してくる少女戦士に
(まあ暗示をかけられていたならそもそもブレイクに逢ったコトじたい言わないか。敢えてそう思わせ油断させるため言わせ
た……みたいなフクザツな暗示をかけられていたらまず出来ない目だし)
 信義を返すため足を停める斗貴子。鐶やサップドーラー、更に2人の男戦士も倣ったのは単につられた訳ではない。万が
一ブレイクの暗示ゆえの申し出だった場合の備えだ。斗貴子を瞬間的にとはいえ孤立させるのがマズいと思い随伴したのだ。
「ご厚意感謝します。ではまず……」
 写楽旋輪は妙な動きをとった。なぜかコンバットナイフをポケットから取り出し、斗貴子の背後の木の幹に大きく「A」と刻
んだのだ。
「それが……そのナイフがキミの……?」
「いえただのナイフで……能力は今から! 武装錬金!」
 13〜14ぐらいの無個性だがキュートな顔立ちの輪が核鉄を手にし気勢をひねると、その傍らに光と共に人影が現れた。
「自動人形……?」
「カメラ持って……ます。あ、本体の輪さんの手元にも同じものが……出現して……ます」
 身長は165cmほど。小柄だ。パリっとした赤いスーツを模した外装を、女性的なフォルムに張り付けている。
「従軍記者の武装錬金・ゴットフューチャー! 特性は未来視!」
 言葉と同時にジャーナリスト姿の自動人形が手持ちのカメラから光を吐き、斗貴子を撮った。インスタントのものらしい。写
真はすぐに出てきた。
「で、これをドラちゃんさんに渡して……と」。渡された天気少女はどういう訳か息を呑み、写真(それ)と斗貴子を何度も何度も
見比べる。
「なんだ? なにかあったのか?」
「い、いや……こ、これは後で見せた方が……いい、なの」
「……?」
 斗貴子が小首を傾げるなか、少女戦士・輪は右に3歩ヨコ歩きし……今度はそこの木の幹に先ほどの文字に負けないぐ
らいのサイズで、「B」と刻んだ。生々しい肌色のそれに樹液が滲む。
(なんだ? サップドーラーは何に驚いている? そしてなぜ輪はナイフで、ただの武器で文字を……?)
 振り返った少女はやや先達への緊張を孕みながら、こういった。
「あの! 津村先輩! さっき写真を撮ったのは「A」の木の前ですよね!? ドラちゃんさんの手にあるのは、それ、です
よね!」
「まあそうだが」。振り返った斗貴子は頷いた。鐶はというと(小札さんが……新作マジック披露するとき……よくこんな念押し
……してます……)とヒマつぶしに考えた。
 少女戦士、語る。
「で、もしよろしければ今度はこの「B」の木の前に来て頂けますか? その上でバルキリースカートを一振りしていただけると
……高速機動の『特性』を発揮していただくと、ゴットフューチャーの特性がですね、分かりやすいです!」
「追われている最中だ、手間が省けるならそうする」
 言いながら果たして斗貴子は「B」の木の前で指示通りの動作を取った。その直前、輪はビクっと気をつけをしフラッシュ
を炊いた。
「あ、これ不可避のアレなんで……。で! 今度は先ほどドラちゃんさんに渡した写真を見てください! 重ねて確認しま
すが、最初に撮影したこっちはAの木の前で……バルキリースカートを振っていない状態で撮りましたよね?」
「ああ」
「ですが」
「ドラちゃんが驚いていた理由がコレなの」という顔のサップドーラーが被写体めがけ翻す写真に居たのは……『B』の木の
前で処刑鎌を振るう斗貴子だった。
「!?」
0200永遠の扉
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2018/09/24(月) 12:00:58.45ID:e8zyEbjk
「二回目の撮影の瞬間すりかわった訳じゃないの。最初に渡された時から『Bの木の前』だった……なの」
「Aの木の前で撮影したのに、か…………?」
「そう。これこそがゴットフューチャーの特性です。撮影対象の(1)武装錬金特性 (2)ホムンクルスの、基盤となった動植物
の能力 のうち、指定したどちらかが『次に使われた時の状態』を写真として出力できます!」
 不可思議なる能力! だが実態を見せられた以上斗貴子は信じざるを得ない!
「……? というかこのアングル……2回目にキミが撮った写真……じゃないのか?」
「そうなんです。未来の本体(わたし)の撮ったものが、過去の自動人形に送られる仕組みでして」
 ゆえに少女戦士は、撮影対象が次に能力を使うまでに『撮影地点』へ強制移動させられ……強制的に撮影……させられる!
何に? 己の、能力に! これはどうあっても抗えぬ、『未来を知るがゆえのリスク』!
「……。特筆すべきは……攻撃の軌道まで写っている……コト……ですね」
 鐶の呟きに、ゴットフューチャーへの混乱いまだ冷めやらぬ斗貴子は一瞬処理がおいつかないというカオをしたが……
はっと目を見開き鋭く叫んだ。
「そうか虹封じ! 撮影対象(ブレイク)が『どんな軌道』の『どんな位置』で使っているかあらかじめ分かるなら!」
「一点モノの器官であれば破壊可能……です! 再生可能だったり体液系統だとしても……
「サンプルだけは……採取できる! なの!」
 採取できれば分析は容易い!! 対策が……立てられる!!

 喜びを掻き消すように背後かなたから絶叫が響いた。殿軍1のものだ。20秒は過ぎている。だが一同は一旦後ろに向
き直り……短くだが手を合わす。(キミたちの犠牲……ムダにしない)。再び走り出す一向。

「ともかく合点がいった。直接戦闘向きじゃない感じの写楽旋が大戦士長救出作戦に駆り出されたのは」
「こーいうコトのためか。ただ単に敵の能力を撮影するだけなら普通のカメラでもできるが、『Bの木の前』のような『次にど
こで使われるか』を予見できるのは……便利!!」
「ああ。恐らく本来はこっちが本分だろうな! 今回の、未来視から逆算的に敵能力あばく使い方はむしろイレギュラー!」
「補助特化の戦士がかなりの数ディプレスにやられている今、この能力は……貴重だ!!」
 男戦士2人も歓喜するが、斗貴子は何かに気付くとやや厳しい顔つきをした。
「待て。特性を考えると……輪。キミ……実は死ぬつもりなんじゃないのか?」
 はうっ。輪は露骨にドキリとした。隠していた何事かを暴かれたという様子である。汗をまぶした顔で斗貴子を見ると、
しどろもどろに呟いた。
「え、ええと、そそ、それは、そのう」
「どういうコト……ですか?」
 鐶の疑問はもっともだろう。未来視の能力がどうして死に直結するのか? 斗貴子は答える。
「『二度目の撮影のとき』、必ず対象の傍にいなければならないっていうその縛りが危険だからだ」
「う。ま、まあ、そうなのは確か、あはは、確か……ですよね」
 輪──人間時代のブレイクと同じ名前の彼女が彼の能力を暴かんとするのも因果だろう──は空笑いをうつと、コキリ
と一回うな垂れて、それから観念したよう面をあげた。
「直接攻撃力が皆無の撮影を熾烈な戦闘の中わざわざやればそりゃ天王星の幹部は感づきますよね。『自分と同じタイプ!
光で何らかの搦め手・補助的な特性をかける相手!』……と。しかも特性上最低でも2回は絶対撮らなきゃ……ですから」
 そのうえさっき遭遇したとき『武技で戦いそうにないタイプがどうして一大決戦に』てな目で見られてますし、絶対警戒され
てますし……と写楽旋輪は重くいう。
「そうだな。奴は絶対キミを狙う。殺そうとする。バスターバロンがいるころ散々弱い戦力から削っていたからな、当然だ」
「補助に向いた人を消しておけば……残った幹部が…………それだけ有利になれますから、ね……」
「一度目の自動人形の撮影だけなら新月村の建物にまぎれて隠し撮りできるかも……だけど、二度目の方は絶対にすぐ
傍で撮らないといけないから……ヤバイ……なの」
 向こうにしてみれば、正体不明の難儀そうな特性ふるう戦士がわざわざ近くに『来てくれる』のだ。それでどうして見逃せ
るか。ブレイクの得物は豪壮なるハルバード……武技に長けた戦士を幾人も半紙の如く斬り捨ててきた魔人なれば、写楽
旋輪なる無力な少女など通常攻撃で殺害できる。
0201永遠の扉
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2018/09/24(月) 12:01:17.39ID:e8zyEbjk
(うぅ。さすが津村先輩……。賢くて優しいから、私が気付きながらも度外視してたコトを一瞬で呆気なく……)
 輪は別に自殺願望がある訳ではない。生きられるならそりゃ生きたいという、普通の感情の方が大きい。だが同時に、誰か
を犠牲にしてまで生き延びたくはないという、これまた普通の倫理観もある。で、彼女は開戦早々、何人もの戦士が火星の
幹部・ディプレスによって惨殺される光景を目の当たりにした。被害者たちと親交があった訳ではない。今日はじめて偶然合
流しただけの、顔と名前すら一致していない者たちだ。それでも普通の少女にしてみれば、仲間であり、人間だ。それを笑
いながら嬲り殺したディプレスには恐怖と共に怒りがある。怒りはブレイクやリバースが虐殺をするたびますます強まった。

(こんな異常な殺戮は止めなきゃいけないです。何としても尖兵のひとりブレイク、攻略しなくちゃ……!)

 そのために己がすべきコトは? ディプレスの毒牙を唯一運よく逃れた自分がすべきコトは? ……生存全振りではない
だろう。あの場で死んでいた筈の命だという割り切りもある。ならば身命は戦団全体の勝利のため使うべきだと、組織人と
して、普通に思った。

 と、いうコトを述べると斗貴子は「私もそうではあるが、キミのは純粋ゆえに無謀と勇気がごっちゃというか……」と難しい
カオをした。
「ディプレスの野郎が許せないならせめてアイツに一矢報いるまでは……生きるべき、なの。だいたいブレイクの能力が、
何度も未来視しなきゃ見ぬけないタイプだったら…………呆気なく死ぬ方が……被害ひろがる……なの」
「あー、それは確かに」
 輪はスイカ口でニコリとしながら平手をグーでポンと叩いた。
「え……。呆気なく肯定……ですか……? 普通こういう時……は、お姉ちゃんたち幹部への怒りを……泣きながら吐露して
……そんで諭されて……いかにもドラマな雰囲気を……醸し出すもの……では……」
「むずかしいトコですねー」
 ほへーと笑う輪。(このコ天然だな)(いや多分、素直すぎるだけ……なの)とアイコンタクトしたのは斗貴子&サップドーラー。
 あー、その打開策なんだけど、男戦士Aは見かねたらしい。率直な提案を、した。
「本体の方の、そのカメラだけ二度目の撮影地点に三脚ともども立てて、で、撮影スイッチは昔のカメラみたくとびりき長いヒモ
で……とかなら離れててもイケるんじゃ……?」
「いやそれはそれで却ってますます怪しいというか仕込む奴がやられるからなブレイクに」
 半眼でツッコむ斗貴子に「さすが斗貴子さん……なの」とサップドーラーは頬染めた。
「先輩の言うとおりなんすけど……俺らがなんか支えてやらにゃ危なっかしいでしょこのコ」
 Aに手持ちのカメラをしげしげと見られた輪は首を振った。
「だったらもっと気楽に使えるんですが……ダメなんです! そーゆーの何度も試しても! 必ず! 対象が次に能力使う
とき、必ず!! 近くに行っちゃうんです私!! カメラ持った状態で気付けば撮影してるんですーーー!!」
「……未来を知るためのリスクとはいえ…………難儀だな」
「訓練の話なんですけど、島原で根来さんに「次に電話したとき亜空間に潜ってください」と頼んで、本体のカメラは三脚と一緒に
置いてって、で、飛行機とか電車とかで札幌に着いてから根来さんに電話したときなんかは」
「…………えーと。まさか……ですが」
 ハイ。瞬間移動で島原に……。輪はえぐえぐと泣いた。
「もはや呪われた能力だな……」
 男戦士Bも気の毒そうな瞳。
「あれ? でも、なの」。サップドーラーは小首を傾げた。「これって逆に……強行偵察向きじゃないか、なの」
 さすがドラちゃんさんです!! 輪は走りながら彼女とブンブン握手した。ドラちゃんさんは赤らんだ。
「そうなんです! 撮影対象を『本陣に居る味方』にしておけば、電話一本で前線から本陣へ緊急避難のリスポーンが可能
でもある訳で、だから……ああ、だから厄介に思っていいかどうか、分からないんですよ……」
 弱点を逆手に取って強みにするとか……よくその年齢(トシ)で思いつくな……斗貴子は呻いた。
「というか何で島原で根来が協力したんだ? 根来だぞ……?」
0202永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 12:01:35.93ID:e8zyEbjk
「はあ。よく分からないんですが交通費と宿泊費こっちもちなんで協力してくださいって戦団の掲示板で募集かけたら『島原か。
聖地の1つだ』って例の怖いカオで笑いながら来て……。ビクっとなりましたけど頼みごと絶対遵守してくれるタイプでもありま
すから……あれでもなんで来てくれたんだろう島原遠いのに……」
「…………忍者仲間に……無銘くんに聞けば…………たぶん理由……わかります……」
 詳しくは外道忍法帖参照。
「というかリスポーンに使うのって因果律的になんだか矛盾を孕んでるような……」
「だな。二度目の撮影の写真が出力されるってコトは、少なくても二枚目を撮影時点までの生存は保証されてるって訳で、だっ
たら本陣の味方にはヤバイとき電話で『二度目』頼むより、出立前に『戻ってくるまで絶対能力使わないで』って念押ししときゃ
……どんな過酷な戦場からも生きて帰れ……アレこれ理論上は不死の能力だったりするんじゃ……?」
「えッ! わっ私の能力ってそんなにスゴいんですか!?」
「うんまあ」
「理論だけ……ならな」
 男戦士AとBの会話にサップドーラーはファンシーな表情を呆れ気味にゆがめた。
「さっきからちょいちょい、こいつらモブでしかも男のくせに意外に頭よくてインテル入ってる、なの……」
「座学だけならこの世代トップクラスだからな。彼らが剛太ぐらいの年に残した試験の点数は、剛太ですら抜けていない。……
まあブレイクの能力推測の甘さを見れば分かると思うが、実戦経験は……乏しい」
「写真……ですが、ダブル武装錬金して、片方はブレイクさん、片方は味方の誰かと撮影対象分ければ……リスポーン理
論で大丈夫……なのでは……?」
「いやー……どうでしょう。ちょっと考えたんですが、自動人形の方には『次の撮影までの生存補正』がない訳じゃないですか。
だって一度目の撮影もう終えちゃってますからね。だから流れ弾とかで呆気なく壊れるのでは。そして壊れたら、武装錬金
特性を維持するための何らかの……機構? みたいなのが破綻して、『次の撮影までの生存補正』も消えて、そして私は
殺されてしまうような気が……するんですよ、すごく」
「キミはキミで思考力ハンパないな……」
 普通その年代なら無敵に憧れハシャぐだろうに……斗貴子は感心半分、呆れ半分。
「そうですか? 戦団って、生物としては不老不死のホムンクルスを毎日殺してる組織じゃないですか。なら『絶対』がないって
考えるの……自然だと思いますけど……」
 混ぜっ返すわけでもなく心底ふしぎそうに一生懸命かんがえる輪。マジメな少女だ。斗貴子は若宮千里を重ね合わせた。
だからだろう。死なせたくないと思い始めた。
「二度目の撮影時、私がキミを守れればいいんだが……」
「あ! いえ! 津村先輩は幹部たちに集中してください!! 私なんかに構ったせいで機会を逃したら……きっと被害は
ますます大きくなりますから!!」
 白いもみじのような小さなパーをわたわたと振る輪。
(いいコだ)
(いいコだな)
 男戦士AとBは清涼な思いを味わった。少女であるが故のひたむきな使命感を、異性的な情欲抜きでただただ好もしく
思ったのだ。
(俺らとこのコ……どっちが次の戦場へ行くべきか言うまでもない、な)
(ゴットフューチャーの能力は必ず他の場所で人を救(たす)ける。足止めの幹部程度に……殺させはしない)

「絶対避(さ)けられない死は確かにあると思うんです。それを無理に避けようとして、避けられる方の死を避けられなくす
るのはやっぱ良くないかなあって思うんです。あ、もちろん、ポカとか、ミスとかで死ぬのは嫌だし、皆さんのためにもならな
いから、そーいう点では極力注意しますけど、最善を尽くした上で『本当に、どうにもならない』場合なら、私のそれは無理
に避けようとしないで下さい。避けられる方の命を優先して貰った方が、絶対イイと思いますから。私はドラちゃんさんのお
かげで、もうとっくに避けられた側ですから、これ以上を要求するのは…………ディプレスに殺されてしまった人たちに、悪
いです。申し訳が立たないです。だからもしもの時は、お願いしますね」
0203永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 12:02:06.07ID:e8zyEbjk
 先々の戦略のため生かそうとする戦士。眼前の目的のため死をも厭わぬ戦士。どちらが正しいのか、それは誰にも……
分からない。

 ……。

 やがて。

 殿軍が、2から5まで全滅するほどの時間が経ち。

(来たぞ……!)

 新月村の廃墟の影に隠れる戦士たちは遠方に連れ立って現れたブレイクとリバースを目視した。

(まずは禁止能力封じのカウンターを……)
(破る!! でなけりゃ全員硬直させられ銃の的!!)

 写楽旋輪を軸とした攻略作戦、なるか!?
0204スターダスト ◆C.B5VSJlKU
垢版 |
2018/09/24(月) 12:05:15.41ID:e8zyEbjk
以上ここまで。

映画監督:浦鬼ヒロシの想像上の声は、三遊亭小遊三師匠。

写楽旋輪の元ネタは仮面ライダーマッハの歌。写真だから引力がある。
どんぐらいあるかというと「うた」って入れて「詩島」の「詩」が出てきたぐらい。
0206作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/10/07(日) 21:20:30.85ID:KExxTKWD
>>スターダストさん
火に対抗するのに、「ただの水」。シンプルだからこそ強くて対応至難、というスタプラ的理論にして
コロンブスの卵。そして今回はなんといっても、殿軍ズがかっこいい! 本作が商業作品だったらきっと、
個別にファンがついて、二次創作で名前もついて、過去の話とか描かれますよ。丁度、ヒロインもいますしね。
0208スターダスト ◆C.B5VSJlKU
垢版 |
2018/11/23(金) 22:34:55.25ID:O3D23CZ2
>>142-143の間に抜け。総て連投規制が悪い。

 なのにどこか男の淫心を誘う肢体でもある。上はサマーセーターと、貞淑な若妻がごとき露出とは無縁の落ち着いたもの
であるのに、ほうと視線を集めずにはいられない質量のふくらみがある。「95」というが、なのに腹回りときたらむかし鎖の巻
きつく事故にでもあったのかというぐらい……病的に細い。「56」という数字は外見年齢7歳の小柄なイオイソゴですら牛一頭
たいらげた日はオーバーしてしまう領域だ。それが滲むような色気ただよう腰周りの上にある。ふとした拍子スカートに浮か
び上がる豊穣の化生のような2つの桃はもはや米国級の「91」。
 事実あらくれた戦士の中には良からぬ心構えを以って打倒せんとする者が居た! 10人近く居た! おとなしげな風采に
見合わぬ豊かすぎる肢体を力に任せて自由にせんと! だが彼らはこの少女を見くびっていた! リバース=イングラムを
見誤っていた! 一見たおやかなる深窓の令嬢でしかない彼女だから、悪の組織の幹部をやらされているのは何らかの脅し
があったからに相違ない……などといった考えは思考の筋道としては正しい! それを救済のため手を差し伸べる動機に
するのであればなお! だがあらくれた戦士どもは違う! 『脅されていようと悪に加担したのは事実、だからどう罰してもいい』
といった自分たちにのみ都合のいい解釈を以って挑んだ! ああ、大戦士長救出に選抜されるほどの卓越した連中にも関
わらず斯様なる低俗ともいえる下心をめぐらせてしまったのは親友や親族を殺された怒りもあるが、それ以上に魔性! 
清純にして豊穣なる異様の配合に惑わされてしまったとしかいいようがない!
 彼らは覚えておくべきだったのだ! リバースが義妹とその両親から訣別するに到った経緯を! そして彼女が『罪』を
標榜するレティクルエレメンツの幹部にあって『何』を司っているかさえ覚えておけば荒くれたちは死なずに済んだ!

 踊りかかる多数の影! 銃声!

 ……。ヘッドショットを決められたのは20をやや過ぎたバイの女戦士であったが、その『彼氏』が傍ら総身殺意の無言の
なか切った最高の手札は一瞬のうちに彼をリバースの眼前へと運んでいた。次元の膜を抜けるゲートルの武装錬金によっ
てサブマシンガンの銃口よりも更に内側の領域へ登場した戦士に対応すべく動きかけたリバースであったが、ほっそりとし
たその肢体は合気によって舞い飛んだ。ゲートル戦士の◎な体術に風くって舞い上がるリバース! 摺り上げた剣の円弧
に入道雲をデコしたような衝撃の噴煙の上(さき)で少女に迫っていたのはあろうコトかハルバード! 
 そう! 恋人(ブレイク)のハルバードの……恐るべき穂先!
 偶然であろう筈がない! 養護施設の桜花も冥王星に仕掛けた一対多の基本! 『敵に敵を投げる』! 穂先は背中か
ら章印を貫通できる軌道にある。ブレイクが我が武器を引かねばリバースが死に、ブレイクが我が武器を引けばその隙ま
いおこる戦士の一斉攻撃でブレイクが死ぬと……そう目論んで仕掛けたのは確かに正しい。

 だがゲートルの戦士も他の荒くれ同様、リバースを……見定めてはいなかった!!

「なに、してるの?」

 笑顔の少女が……目を開く。同時に白魚のような指がハルバードの、『槍』に当たる細長い穂先を掴んだ。

「ブレイク君の武装錬金で死んじゃったら光ちゃんに会えなくなるでしょどうして邪魔するの許さない許さない」

 淡々とした乾いた囁きに半ば呪縛されてしまったゲートルの戦士は見た。
 土煙をあげ大地を薙ぎ走ってくるブレイクを! 恋人の窮地を救うべく肉薄してきたのか? いや違う! 彼は自律の意思で
大地に轍を描きつつ突っ込んできたのではない! 他律! ハルバードの穂先を掴んだリバースの、強引きわまる手の動きに
よって地面を『薙がされて』いたのだ! 瞠目すべき反撃であり、膂力だった! 中空から振られたゴルフクラブの芝ギリギリの
フルスイング! 中空にある筈の華奢な体が、ただ穂先一点だけを掴み支え、ブレイクを遠大きわまる長柄武器ともども……
振りぬいた!  彼はけして出力でリバースに劣る訳ではない! 同じくホムンクルス調整体で、高出力で、しかも男性かつ
超重のハルバード使いだからむしろ純然たる力ではリバースより上! 
 なのに!
 そんな彼が中空の穂先から送られてくる軽やかなる恋人の膂力によって……やわやかな山の土にくるぶしまで埋まりながら! 
とろけた轍さえ引きつつ! 穂先からの動きに成す術なく……捕らえた! 全身(ヘッド)で戦士(ボールを)!  
0209スターダスト ◆C.B5VSJlKU
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2018/11/23(金) 22:37:56.42ID:O3D23CZ2
でも>>152の「2分56秒後」をなかったコトにするのは私が悪い。
前回予想外の方向に走る筆が楽しくなって突っ走った私が悪い。

どう考えても時間が合わなくなったので

わずか2分56秒後→何十分か後 に変更。申し訳ない。
0210永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:38:35.14ID:O3D23CZ2
第110話 「対『海王星』 其の弐 ──怒涛──」

「直接対決は、避ける」

 白い法廷だった。あらゆる調度品が純白に染め上げられた法廷の中央で津村斗貴子は呟いた。

「確かに……先ほどの戦いで狩られなかった者は、ここまで辿り着けた者は、比較的強い。だが幹部に比べれば──…」

「孱(よわ)い」

 傍聴席には……人影。身長も体型も年齢も性別もまちまちな人影がそれなりの数、居る。

「だから藤甲さんや財前たち『特性で防御力をあげられる』者以外は……仕掛けるな。生身で向かえば”また”だ。ハルバード
やサブマシンガンの餌食になる。強くても、人間である限りは……真向勝負はこちらが不利だ」

 人影の中には、音楽隊副長・鐶光の姿もある。台風の目と雲の髪を持つ少女も。

「なるべく籠もれ。影に隠れろ。盾にするんだ廃屋を。敵の攻撃力は確かに高い。運が悪ければもろともだ。だからこちらに
引き寄せる。運をこちらに引き寄せる。戦費を撒き鋼線を巡らし秤(はかり)をこちらに傾ける。疑心暗鬼で傾ける」

 桜餅色の髪を持つ少女はただ固唾を飲み鼓舞に聞き入る。

「……この夏、反逆者として追われていた私が非常措置とはいえ指揮を預かるコトに異議ある方も多いだろう。だがそれは
正しいコトだ。あなたたちが歩んできた道の正しさだ。私はその正しさが勝つコトを祈っている。信じている。力を以って人に
地獄を見せる怪物ども……滅ぼせるのは正しさだけだ。敵は強い。ヴィクターに迫るほどに強い。だが奴らは正しさを、真の
意味で挫くコトなど絶対にできない。どれほどのコトをはたらこうがそれは諦めの裏返しだ。正しさを貫くコトを人の身もろとも
諦めた弱さの証だ、遠吠えだ。きょうまで人々のため戦い抜いてきたあなた達は違う。強い。その強さを私は貸して欲しい。
これ以上の犠牲を食い止めるために……レティクルに勝利する為に、今だけは、私に、その強さを貸して欲しい」

 頭を下げる斗貴子に「なに言ってんだ」という声が刺さった。少女の肩が微かに震えた。

「ヴィクターIIIは自分で怪物になった訳じゃないでしょ」
「偶然だ、偶然なのだあ!」
「一般人に被害は出してないしな」
「………………」
「殿軍が、我が門下生が命と引き換えに稼いでくれた時間を有効活用してくれるならね、なんでも」
「犬飼じゃあるまいし、再殺とり下げられてなお粘着するのもねえ」

 最後の声は円山円。斗貴子に胃を裂かれた彼が好意的となると物言いたげだった他の人影は黙るほか無い。

(……あとは私が、未来視を持つ私が…………頑張らないと)

 そう思う少女、写楽旋輪。

 その生い立ちにさほど劇的な光彩はない。ただ両親が戦団の養護施設の職員だったというだけだ。父は事務員、母は調
理師。戦士ですらない2人が、何となく職場結婚をした、それだけの話。分かりやすい戯曲ならここでその両親が、戦団の
関係者ゆえホムンクルスの策謀の巻き添えで死んだというコトにし娘に戦う動機を与えるだろうが、面白味のないコトにな
んと両名ともいまだ健在なのである。
 なのに写楽旋輪が戦士を志したのは両親のせい……と書くとちょっと訳がわからないが、しかし、そうなのだ。養護施設の
職員のうちおよそ5分の4は職場を保育所代わりに使う。送迎がラクだし、何よりホムンクルスにさらわれ人質(カード)にさ
れるリスクも減る。代わりに戦団関係者の身内がどんどん社会に対し閉鎖的になる危険性も指摘されてはいるが、そこは
今回の本題ではない。
 輪は最初、5分の1だった。つまり戦団とは無関係の幼稚園に通っていた。錬金術とはなるべく無縁でいて欲しいという両親
の意向だった。だから年中組になるまでは両親の勤務先に行ったコトすらなかったのだが、あるとき通園途中だったか帰りの
会のあとだったか、とにかく送迎の最中、父が何がしかの急用で輪ともども養護施設に寄ったときから変わり始めた運命が。
 最初は言いつけどおり車の中で待っていたのだが、何がどうなったのか、気付けば輪は養護施設の庭で子どもたちと遊んで
いた。輪が車から出て混ざったのか、それとも車に近づいた子どもたちが輪の好奇心を刺激して誘い出したのか、このあたり
は今の彼らと話しても要領は得ないが、いずれにせよウマは合った。
 で、気がむいたら土日にちょくちょく両親に頼んで養護施設を訪ねるようになった。後はもう、門前の小僧うんぬんとか朱に
染まればうんぬんだ。
0211永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:39:00.93ID:O3D23CZ2
『わるいやつらがいる、たたかわなければならない』。

 新しい友人たちが被害者であると知った輪はごく自然にそう思うようになった。
 だから彼女はよく言われる。『正義に、体感がない』。知己をじっさい奪われた戦士たちからすれば輪の行動理念はひどく
ボヤっとした、得体の知れぬものであろう。蒸気吹くヤカンを触ろうとする乳児のような危なっかしささえ彼らは感じた。

 が、要するにただ素直すぎるだけなのだ、輪は。悪党がいる。被害者がいる。誰かが救わなければならない。そう思った
から自分でやる。やる以上、途中で投げ出すのはよくない。だから命を捨てる覚悟をする。恐ろしいまでの素直さでそう考え
それが当然だと思ったから、やる。むしろそれ以外なにがあります……と心底不思議そうに問うたのが救出作戦従事者選
抜第四次試験の面接会場、相手は火渡。「よほどの馬鹿だな」、言葉とは裏腹に彼は頬を釣り上げた。

(そんな私がさっき初めて本気で恐怖した。決意も何もかも忘れ泣きじゃくって命乞いした)

──「ゆゆゆゆるして下さい! わた、わたしはチームじゃなくて、ただっ、この人たちとたまたま合流していただけで……!」

 目の前で数多くの戦士を惨殺した火星の幹部に、歯の根打ち鳴らして哀願したのは、やっと初めて『奪われる恐怖』を
獲得したからだ。臆病というなかれ、13をやや過ぎたばかり少女が初めて凄惨な現場に直面したのだ、むしろ正直に泣き
叫んで胸の内をさらけだす方が形質上自然だろう。

(でも……情けなかった。奇襲が始まったとき固まったりせず、ゴットフューチャーを使っていれば、あの撃破数暫定5位の
チームの誰かがディプレスの次の行動を予測できたかも知れない。助かったかも……知れない)

 だのに目の前で噴き上がった血煙に震え上がるばかりで何もできなかった。正義に体感がなかったから、恐怖に痺れ
打つべき手を……打てなかった。見殺しにしたと言われても……仕方ない。

(その償いだけは……する!)

 父母の顔が脳裏を掠め、再会がどれほどの幸福か泣きたいほどに痛感したが……押し込める。救えなかった暫定5位
の面々だって同じだった筈なのだ。強制的に追い込まれた終局のなかで同じ情動に見舞われていた筈なのだ。

 生き延びた先で挑むべきは止めるべきは2人の幹部。無数の戦士(いのち)を羽虫のごとくに千切って捨てた彼らを打破
しうる糸口は……『虹封じ』、その攻略。原理は不明だが戦士の動きを強制停止可能な謎の閃光発する天王星の武装錬
金(ハルバード)、一度は完封したかに見えた気象サップドーラーの虹をしかし無効化し返した『ゆがみの渦』こそ禁止能
力封じへのカウンターこと『虹封じ』! 
 正体をあばかぬ限り戦士たちに勝ち目は……ない! 敵の槍術と銃撃が人智を絶しているコトは積み重なる夥しい骸が
証明した。津村斗貴子が尋常な手合わせをしてなお降せぬ絶対の力量を、謎の閃光……禁止能力によって身体の自由
を奪われた状態で迎え撃つのは死と同義。実例も、既に出ている。急務であろう攻略は。

 そしてきっかけになりそうなのは従軍記者の武装錬金・ゴットフューチャーの未来視。次にいつどこでブレイクが虹封じを
使うか分かれば破壊または分析が格段にやりやすく、なる。

 よって『白い法廷』で輪は言う。

「津村先輩。ダブル武装錬金の件……可能でしょうか?」
「試すのか? さっき鐶が言っていた保険を?」

 いいえ。桜餅色の髪を振る。生存全振りは暫定5位のチームに申し訳ないし、何より守勢に回って打開できる戦局では
ないと考える。だから未来視を、ゴットフューチャーを、

「使うのは、撮影するのは──…」

..

 リバースともども再び入村したブレイク。密やかな戦意や殺意が漂ってくる方角を見ると笑みつつも嘆息した。遠巻きに
こじんまりとした廃屋の数々が見えた。遠い影が整然と重なっているところをみるとどうやら廃屋、碁盤の目に沿うがごとく
一定間隔で配されているらしい。

(……合流地点からやや北東の場所に陣を構えたってトコだね。それはともかく……なんか暑くなってきてるよね?)
(ドラっちの仕業……でしょうね)
0212永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:39:22.67ID:O3D23CZ2
 秋口の夕暮れに相応しくない、カラっとした熱気に幹部たちは目で話す。話しながらも歩いている。殺気の根源に近づいて
いる。
(体感気温36〜37度。人間の平均体温といっしょです)
(つまり私の指対策……)
 熱を察知し、光学迷彩すら回避した『ヘビの指』も、周囲が人肌ほどの温度となれば無力である。
 これで建物内の伏兵の有無が分からなくなった…………ごくごく微量の苛立ちを美しい顔に浮かべたリバースだがやにわに
「ん?」と可愛らしく首を傾げた。
「どしたんすか?」
「1人……かなあ? 人間らしい動き一切なしでじっとしてるから断言できないけど、『人間ぐらいの幅と高さ』の、周囲より
微妙に温度低い物体が…………あるね、建物から外れた場所に」
「それは……どっちすか?」
 あっち。リバースは北東を指差した。
「距離的に廃屋地帯の……エリア外だね。どうする? 大回りに外回りに……見に行く? それなら奇襲も察しやすいけど……」
「やめときましょう。例えば氷使いさんのような、『特性上、ドラっちの温度操作でもヘビ指察知から逃れられない』タイプが
いらっしゃるなら戦士さん方は必ず逆手に取る」
「あ、そか。エサにするんだね。エサにして引き付けて、地雷でどかーんと」
 どかーん、の部分で妙におちゃらけた口調になって笑顔で斜めバンザイするリバースはややはにかみながらブレイクの
反応を窺う。「どかーん」。青年はノリよく笑顔で真似し、少女を喜ばせた。掌の下側同士を打ち付けるあどけない拍手で
「わーー」と喜ばせるさまは恋人同士というより父と娘。
(って、フザけてる場合じゃ……なかったよね)
(ええまあ)
 顔を見合わせやれやれと微苦笑するリバースとブレイクの頬を生ぬるい微風が撫でた。
(こっちも天候操作の一環なのか……。それとも単純に普通の風、なのか)
(……風、か)
 始まりは風の強い日だったとリバースは思う。あの強風がなければ自分は今の道には居なかったと……何万回目かの
後悔じみた感傷に浸る。継母から、家庭から、決定的に心が切れてしまった出来事の中心は義妹だった、鐶だった。彼女
が強風のせいで期せずして犯してしまった過ちに憤怒し頬を張ったから、その母親に見咎められ……事情も聞かれぬまま
ただ報復処罰のみを執行された。大好きなアイドルからの返事を、当時は大嫌いだった義妹に結果として飛ばされ無くさ
れた出来事への、正当な怒りを、正当だとは認められず、慰められもせず、ただ、一方的に、頬を張られた瞬間から、リバー
スの人間全般に対する感情は急速に壊死を始めた。
(この風がもし強くなったら……あの日のようにごうごうと吹き荒れ始めたら…………)
 自分はきっと終わるのだろうな……ふと涌いた予感に少女は両目を薄く空け、じっと俯く。ああ、振り返ってみればなんたる
運命の符合であったか。やがて訪れる暴風が、『リバース=イングラム』へと引導渡すものであったとは!
(……………………だったら、最後かも知れない……この、ひとときぐらい)
 リバースは急に「えへへ」と笑いながらブレイクの背後に回りこみ、両手でグイグイ前にやりだす。
(いつもの、いつものやってブレイク君! 強そうな人の、数当て!)
(なんでいきなりテンション高くなったんすか青っち……。可愛いからいいですけど……)
 えーと。軽く目を閉じ念ずるように廃屋群へ意識を向けたウルフカットの青年は
(あ、『エリア外の妙にひんやりした何か』、だいぶ強そうす)
 とやや驚いてから、
(それ含め…………強そうな人は……5、あ、いや、……6? っかしいすねえ。1つだけ枠が膨れ上がりそうで違うような、
微妙な気配…………)
 7人とするとー、清純なショートボブの少女は銃口──赤黒く乾いた血がこびりついている──をぷるんとした唇に当てながら
ニコニコほんわか考える。
(光ちゃんと斗貴子さん、あと天気のコで3人埋まるから)
(更に2〜3人すね)
 あと。ブレイクは幸運不運半々の顔つきで明後日の方角を指差した。南東600mほどのそこは草の群生地であった。イネ
科の尖ったものも散見できるが、妖怪の差す傘のような”クルンと丸まった葉っぱ”が微風の中しなやかに揺らめいている自然
風景だった。
(あの辺りから……すごい剣気が漂ってるっす。かなり抑えてはいるんですが、それでもこの距離からでも肌がビリビリとなる
ほど……。しゅっち(秋水のコト)を更に強くしたような感じっす)
(バリバリの剣士ってコトね。1人だけ離れている狙いは……ふふ、『私たちじゃ、ない』。捨て置いても良さそうね)
0213永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:40:24.22ID:O3D23CZ2
 ぷいぷいとアホ毛を振りながら、当たり前のように恋人の傍に回る少女。すりすりと細い体をすりつけ甘える少女。(イチャ
イチャしたいっす)ブレイクは物凄くデレデレしたが粛然と顔を引き締め……目で注意を促した。
(……道中お話しましたけど、『警戒すべき戦士』は……『あのコ』すからね)
(うん。りょーかい)

 屈託のない、透き通るような笑みをリバースは浮かべ、こう続ける。

(見かけしだい撃ち殺すねー)
0214永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:40:40.03ID:O3D23CZ2
 いったい誰についての話なのか。
 それはさておき2人の幹部、全周を警戒しつつ建物群の、一番端のうち真ん中の前へと移動する。笑みに目を細めたまま、
しげしげと物珍しそうに観察していたリバースは目で訴える。以降しばらくカッコ内の文章、アイコンタクト。

(奇襲したトコからちょっと離れた場所な訳だけど……明治の廃村な割には新しいね。ガラスとか嵌め込んであるよ?)
(ほらこれが数日前ちょっとした話題になってた。戦時中、都市部から流れてきた人を住まわせたっていう)

 疎開者用家屋○−○○−○……と書かれたボロボロの表札を無言でしゃくるブレイク。ひょいと通りの奥を覗き込み、
なにやら口中ぶつぶつ数えると……告げた。

(建物は……25。ちょうどタテヨコ5軒ずつすね。さながら簡素版即席の集合住宅)

 建物同士の間は6mほど。総て道となって四方へ伸びている。

(隠れるには格好の場所。しかも道は四通八達……いざという時しやすいね、合流)

 銃を持ったまま腕組みするリバース。流麗な細身がウソのようなふくらみが胸部にて強調され少し相方をデレっとさせた
が彼女本人はそういう下世話な機微には疎いらしくマジメに考える。
0215永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:40:55.72ID:O3D23CZ2
(どうしたものかなぁ)

 廃屋は数こそ多いが強度は怪しい。玄関の戸が倒れていたり荒々しい木目の板が虫食いだらけになっていたりとボロボロ。
ただそれでも向こうの景色が丸見えというほど朽ちてはいない。

(つまり禁止能力を相手へ掛けるに必要な『輝き』は……遮れる)

 同時に物陰の、到るところから押し殺した気配が漂う。戦士たち、だろう。遮蔽物でブレイクの特性を避けつつ、隙を見て
攻撃する……そんな肚積もりがビンビンだ。同時にそれは遅滞的なヒットアンドアウェイでもある。足止めがため派兵された
リバースとブレイクにしてみればさほど悪い条件でもないが、

(ヘタに乗り気見せるのは得策じゃないっすよね。万一戦士(むこう)にクライマックス女史のような無数の自動人形を作れ
る的な能力があると……非常にマズい)
(だよね。物陰が多いのを幸いデコイ的な物体を大量に配備、戦士が私たちを狙っているように見せかけつつ、順次撤退、
アジトまたはバスターバロンの方に集中とかやられると……私たちの立つ瀬がない)

 鐶との一対一に拘る私人としてのリバースはそれでも構わないが、公人としては幹部としてはまったく真逆。出し抜かれ
しくじるなど避けたい。

(特に要注意は円山円……だね。ここまで追っかけてくる途中チラっと後姿見ただけだけど確かに居た)
0216永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:41:11.35ID:O3D23CZ2
(……そいつは厄介すね)
 ブレイクの軽い汗は奇妙だが、合理。確かに従前の円山なら身長吹き飛ばしにだけ気をつけていれば良かったが、
(先ほど一戦交えたイソゴ老の電話曰く今のまどっちは『風船爆弾の形状をある程度までだが変えられる』)
(ロケットスタートで見せた鋭角なスーツ。あの要領で戦士型のダミーボムを作るぐらい……思いつくよきっと)
 2人の幹部はイオイソゴを畏怖している。恐怖もあるがそれ以上に敬愛してやまぬ重鎮を、相手どって生き延びたという
だけでも円山は警戒対象だ。最初にスーツの変形を具申したのは恐らく犬飼だろうとも察しているが、知恵とは種火、異なる
思考法を吹き込まれた円山が独自の着想で仕掛けてくると考えて……損はない。

(死角物陰でダミー爆弾を揺らすだけで戦士が居ると錯覚させられるよね。撤退の時間が稼げる)
(だから廃屋などは壊すべき。禁止能力の通りを良くするという意味でも、物陰に紛れての逃走を防ぐという意味でも)
(どうしよっかブレイク君。とりあえず視認できる限り全周囲の廃屋にフルオート射撃ブチ込んどく? そうやって端っこから
順々に壊していけば戦士がどこにどう隠れていようとローラー作戦でいぶり出せるけど)


(にひっ。見たトコ総て木造建築すからね、ミニミ並の連射力かませばウェハースに爆竹ぶつけたように粉々……にはなりますね)

 目で会話する恋人たち。

(だよねだよねブレイク君。そしたら叫んで逃げる戦士に『マシーンの特性』……掛けられるよねっ!)

 二挺のサブマシンガンをぷいぷいと振りながら微笑むリバースの頬は桜色。さきほどブレイクと再会した際の感情の吐露
が上機嫌の原因の何割かだ。残りは……彼女が今から辿る戦いのなか垣間見せていくであろう真情に、拠る。
0217永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:41:28.24ID:O3D23CZ2
(ただまあ、一斉射撃はまずいでしょ?)
(えー、なんで! 撃ちたいのにぃ)
 くいくいっと人目がないのを確認したリバースは、妙に幼い感じで指を咥えた。可愛らしい仕草だが、無骨なサブマシンガン
を持ったままでもあるから……やや異常。
(ガマンすよ青っち。戦士さん方がここに逃げ込んでから俺っちたちが着くまでざっと6分……。その間にお師匠のホワイト
リフレクションのような『攻撃を反射する特性』が廃屋に仕掛けられていたらマズい)
 う……。リバースは純朴なる笑顔のまま硬直した。
(そ、そーだよね。私の特性ってディプレスさん以上に……『跳ね返されたらヤバい』もんね。怖すぎるから皮肉すら込めて
『リバース』って幹部名にして自戒してるぐらいだし……)
(にひっ。それでなくても幹部(おれっち)たち全員、盟主さまの特性合一には手も足も出ませんからねぇ)
 特性合一とは先ほど戦部たち先遣隊に用いられたメルスティーン=ブレイドの秘奥である。敵の特性を喰らうと同時に
合一(はつどう)し、その特性そのものと化すコトであらゆる攻撃をやり過ごし、しかるのち正に等価交換の原理よろしく……
『敵特性で受けるはずだったダメージ』を大刀ワダチの斬撃に換算し相手に返す。
 戦士にとっては絶望の奥義でしかないそれをブレイクたち幹部は箸が茶碗にうまく乗らず落ちるのと同じぐらいの頻度で
受けているから、カウンターへの警戒心、実に高い。
(……そういえばバスターバロンを止めた、あの)
(小銭が乱舞していた武装錬金も反射能力……でしょうね。あれきり見ないのはアジト直行組へ編入されたからか)
(もしくは創造者がさっきの乱戦の最中、私たちに)
(殺されていらっしゃればありがたいすけど……)
 にひっと青年は少女に笑いかける。やや情緒不安定な『彼女』を安堵させるに足る笑顔だった。
(ちゃあんと始末できたかどうか確認できない以上、廃屋にフルオートをブッパするのは危険すよね? ここはもう、コンセン
トレーション=ワンで後の先が取りやすい場所じゃなくなってますよね? さっきの山あいのような見通しが良い場所じゃな
くなって……ますよね? 何しろ廃屋が多いんすよ? 物陰から死角から高速連射を反射されたらさすがのコンセントレー
ション=ワンでも対応できなくなる。『集中した一瞬』だからこそ二手三手のわずかな遅れが致命的になるって……賢くて優
しい青っちなら……言ってるコト、…………わかってくれますよね? 余計な傷負ったらどうしようって、俺っちね、それだけが
心配なんすよ)
 わしゃわしゃと髪を撫でられたリバースはやや驚いたように『ちょ、人目があったらどうするの、恥ずかしいでしょ!!』と
地面に弾痕で刻むが、あやしつけるようなナデナデに段々と大人しくなり、
「……………………うん」
0218永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:41:50.43ID:O3D23CZ2
 と耳たぶまで桜色にして頷いた。俯き加減にすらなっているため表情は髪に隠れ見えないが、白い面頬一面カツカツとした
赤外の斜線に彩られているのは確かである。頭頂部から伸びる長大なアホ毛すら、ぷるぷると気恥ずかしげに震えた。

(えと、えと、さっきブレイク君が、さっち、した、強い人7人のうち1人が……あの貨幣バリアーみたいなのの……使い手って
センもあるよね)
 おー。糸目のブレイクは驚いたあと、リバースの手を握りブンブン振った。
(それっすよソレ。青っちの勘はよく当たりますから、それかも)
(……うん。だったら……うれしい……。ブレイク君の役に……立てたら……)
 もう少女は真赤になって何も訴えられない。青年も照れまくりで動けなくなったがココを戦士にたらマズイとばかり
(ととっ、とにかく反射能力の有無は早いコト暴くべき! 俺っちのはともかく青っちの特性はホントね、跳ね返されたら原理
上、術者ですら解除不能……すから!)

 よってここは俺っちが様子を見るべきでしょう……ウルフカットの青年が静寂の村へ歩み出す。

(もう1つ、怖いのは)

 ちょっと目を閉じた彼が思い浮かべたのは鳩尾無銘という音楽隊の少年だ。しかしはてな、銀成に残り、救出作戦には不
在の無銘をどうしてブレイクが想起したのか。……その論拠はしばし後に明かされるであろう。

(……『アレ』が『どっちにあるか』不明瞭な以上、まず打つべき最善手は)

 くっと槍の柄を強く握る。先ほど山林はおろか火炎同化状態の火渡すら両断してのけた槍腕だ、いまにも頽(くず)れそう
な廃屋など倒壊させられぬ方がむしろおかしい。

(ですがここは敢えて加減(セーブ)!! 弱めの攻撃なら廃屋(ココ)に反射が仕込まれていたとしても……なんとかできる!)

 斧部分を先遣とする全力の横薙ぎが廃屋へと吸い込まれ──…

 白い法廷に、声が響く。

「『22号棟』、B列側を中心に大きく破損! 画像記録します!」
0219永遠の扉
垢版 |
2018/11/23(金) 22:42:07.52ID:O3D23CZ2
 建物が5掛ける5で配されているなら、付帯する道は両側コミなら6本だ。

 便宜上、タテのものは列と呼ぶ。番号は左から順にAからF。ヨコのものは、行。上から順に1から6。

 法廷特設のスクリーン上に疎開住宅全景が映された。ノイズやチラツキの多いレトロ映画風味の画質だった。
 25ある廃屋に割り振られた番号は、以下の通り。(東西南北は通常の地図と同じ)。

 A       B     C       D       E       F
││    ││    ││    ││    ││    ││
┘└──┘└──┘└──┘└──┘└──┘└─
┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌─ 1
││ 01 ││ 02 ││ 03 ││ 04 ││ 05 ││
┘└──┘└──┘└──┘└──┘└──┘└─
┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌─ 2
││ 06 ││ 07 ││ 08 ││ 09 ││ 10 ││
┘└──┘└──┘└──┘└──┘└──┘└─
┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌─ 3
││ 11 ││ 12 ││ 13 ││ 14 ││ 15 ││
┘└──┘└──┘└──┘└──┘└──┘└─
┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌─ 4
││ 16 ││ 17 ││ 18 ││ 19 ││ 20 ││
┘└──┘└──┘└──┘└──┘└──┘└─
┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌─ 5
││ 21 ││ 22 ││ 23 ││ 24 ││ 25 ││
┘└──┘└──┘└──┘└──┘└──┘└─
┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌──┐┌─ 6
││    ││    ││    ││    ││    ││

 いまブレイクのハルバードの直撃を浴びたのは22号棟。壊された外壁はB列下端、6行目に出るか否かの辺りである。

「……!!」
0220永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:42:58.82ID:O3D23CZ2
 崩れ落ちる外壁のなかに天王星が認めたのはキラリと光る線分であった。(勢いのまま切断……はもう遅いすね)。明らか
に金属な硬度と張力を有するその線は既に斧を貫通している。辺縁から2cmほど上部に貫き通っているのだ。
(接触したなら斬れているし何より手応えがなかった! つまりこの謎こそが……特性の)一端と分析する青年の足元に何かが
落ちた。(…………?) いやにささくれだった物体だった。一瞬青年は威嚇するヤマアラシと錯覚したが共通しているのはシル
エットの大枠だけだった。言い表せる単語は『衝撃波のエフェクト』だった、そうとしかいえなかった。漫画などで斬撃や魔法の
傍に必ずある刺々しいそれだった。プラモのオマケのような樹脂性の、半透明した掌サイズのものが7〜8個ばかりころころと
ブレイクの足元に落ちていく。

(…………これ絶対離れた方がいいやつですよね?)
(破壊見越して建物に仕込まれてたワイヤー起因だもん。高いよ、反射能力の可能性)

 などと悟りながらも2人の幹部、即座に逃げ出さなかったのは決して油断ではない。
(接触即爆発でなかった以上!!)
(即効かつ直接火力の特性じゃ……ないよね!)
 危惧が的中するなら尚のコト全体像は仲間のため掴まねばならないというごくごく当たり前の使命感と……一握ほどの好奇心ゆえだ。
 謎めいた金属の線は決して脆弱ではなかったが、調整体のブレイクがやや力を込めハルバードを振るうとブツリと切れた。

(戦士さんたちの奇襲を警戒しつつ衝撃波っぽい奴をしばらく観さt)

 リバースとのアイコンタクトか元の位置に視線を戻したブレイクの笑みが僅かだが氷結した。いない。先ほど落ちた結構な
数の衝撃波が総て総て消えている。リバースも気付き、その周辺に目を凝らす。

「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 少女の視界いちめんを鋭い牙の羅列が覆った。(……!?) 波若はらしくもなく慄然とした。身を竦め、固め、アホ毛すら
縦にピンと伸ばした。(ひにゃああ! なになにこれなんなのぉおお!?!!) 口をもにゃもにゃさせ両目がくしゃくしゃの毛
糸玉状態なリバースを救ったのはハルバード付帯の鎌であった。プリズムの細かなカケラが散る中、謎の牙の持ち主は
縫いとめられたまま地面に叩きつけられた。
0221永遠の扉
垢版 |
2018/11/23(金) 22:44:13.80ID:O3D23CZ2
「どうやらさっきの衝撃波らしいすね」
「ふぇえ……!?」

 心臓をバックバクさせながらやや虚脱した涙目──うわめっちゃエロい。記憶しよとブレイクは思った──で”それ”を見
たリバースは「あ」と口を開いた。確かに、衝撃波だった。ただし米粒なような細長い牙を、人間の口腔を異常に細く縦長に
したような歪な口にビッシリと生やしている異形だった。

 それが、ワイヤートラップの呪詛を受けた衝撃波が、リバース前後左右あらゆる方角から飛び掛る……。

(なんで攻撃したブレイク君じゃなく私を……! もう! こっちが言うのもアレだけど!! 性格悪すぎないこの特性!?!)
0222永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:44:39.61ID:O3D23CZ2
(攻撃した者以外”にも”反射できる変則的反射能力、すか……。対象の選定条件はなんなんすかねえ。必ず攻撃者(俺っち)
以外を狙うのか、それとも今回たまたま青っちの方が条件を満たしてしまったのか……。ともかく手動目視で選んでいない
のは確か。精度やタイミングが粗雑すぎるし、創造者らしき気配が近くにないから……自動(オート)! そして自動の条件
付けは必ず……分かってしまえば単純もいいトコな要項! それこそ『青っちの特性が着弾する』条件と同じ『単純なヤツ』!
だからこの衝撃波が狙う条件は…………心拍数が急激に跳ね上がった方を狙う……的な?)

 その、正体は!

(ワイヤートラップの武装錬金、シルバーイノセント!)

 ブレイクからは離れた、しかし疎開住宅街の一部『10号棟F列通路側』外壁に手をつく美しい少女がいた。黒いエプロ
ンドレスを来た、透けるように白い肌の少女だ。しかし顔の右半分は赤黒く焼け爛れている彼女はキラキラと笑い、想う。

(特性は攻撃エフェクト剥奪!! ワイヤーに触れたものは衝撃波やオーラまたはそれに類する『エフェクト』を奪われた
上でワイヤートラップに拘束されるノサ!! そして『エフェクト』は武器が動いた瞬間、つまり武器を貫通しているワイヤー
が揺らされた瞬間、反射を始める。さてさてその対象選定の条件、見抜けるかなーアイツら)

 射之線。通称いのせん。未来から飛ばされてきたアウトローの1人が仕掛けた最初の攻撃は総て撃砕され地面に落ちた。

『ああもう怖かった怖かったホントやめてエイリアンみたいな奴がガウガウ襲ってくるのやめてーー!』

 器用にも衝撃波と地面をワンセットのキャンパスにしている弾痕文字を見たブレイクは(自分だって怖いカオするくせに)
と極めて好意的にニヤけたが、軽く真顔になる。
0223永遠の扉
垢版 |
2018/11/23(金) 22:45:26.21ID:O3D23CZ2
「カウンターである以上、元となった敵(こっち)の攻撃力が低ければ衝撃波そのものの威力も低い……」
「加減してて正解だったね……」
 でもあの技こわいです、とてもこわいです……銀髪のアホ毛を一部銅色になるほどしおれさせながらガタガタ震えるリバー
ス。(戦いとなると狂暴なのに、かーわいい)。掌中の珠を愛でるような眼差しのまま天王星、依頼。
「青っち青っち。ちょっと5〜6発、左隣の建物撃ってくれますかね?」
『? あー、検証? 反射対象が必ず攻撃者以外の者になるのか、的な』

 銃声。

 07号棟、2行目通り側。

「っ!」

 飛び掛ってきた衝撃波を軽く散らした鐶はしばらくどんよりと黙っていたが「ねーの……あほ」とややムっとした様子で
頬を染めた。ねーとは伊予弁でいう「姉」である。鐶の地金は伊予弁である。

 22号棟前。足元に粉々の衝撃波を落としたブレイクは推理に移る。
0224永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:45:55.23ID:O3D23CZ2
「落ちた衝撃波は一発あたり7〜8個。俺っちの斬撃のときと数だけは一緒ですがサイズは遥かに小さい。これは斬撃
と銃弾それぞれの衝撃のサイズ比とほぼ一致……したんですが、俺っちに跳ね返ってきたのはうち半分ほど……。残り
がどっか飛んでいったのを考えると…………」
『なんか……ゴメンね。光ちゃんの匂いのする方へ飛んでいったのって……そういうコト……だよね……』
 最愛に同率の概念を有している非貞淑をもじもじと恥じるリバースに「そうすかね。むしろ光っちと同率っての確定して
嬉しいんですけど」と不思議そうに聞き返すブレイク。「……ばか」。少女は俯きながら軽く小突いた。

 ちっ。いのせんは舌打ちした。

(義妹と恋人への敬愛がきっちり等しいとは予想外。これで確実に見抜かれター!)

 そう。シルバーイノセントの反射対象は!

(攻撃者(そいつ)の『最も敬愛する』者! だからブレイクの攻撃はリバースに行った! その彼女は彼と義妹を等しく愛して
いるから衝撃波が半々に分かレタ! イレギュラーだけどある意味では本来の使い方! そう! これはどちらかというと索敵
用の特性! ワイヤートラップに引っ掛かった奴の仲間の所在を暴くノダ! だからリバースは期せずして捜したい標的(い
もうと)の所在に近づいたコトにナル!!)
0225永遠の扉
垢版 |
2018/11/23(金) 22:46:11.19ID:O3D23CZ2
「まぁ、移動……しますけど……。白い法廷で……ワイヤーの特性聞いたときから……こうなるって……予想してましたし……」
「ちょっと待て一人で動くな! 私と一緒に行動しろと言っただろ!!」

 方向音痴の移動にプンスカと、抑え目の大声上げてついていく斗貴子。

 なお銃弾のような『飛翔体』についてはワイヤーが接触した瞬間ノータイムで衝撃波を返す。

 白い法廷、映写機。

「敵はやはり反射能力から探りにきたな」
「彼らにしては小規模な破壊ですが」
「いわば加減の効力射。『次の手』の揺り戻しがどれほどか探る小手調べ……全力と思わず油断せずいきましょう」

『白い法廷』でカタカタと回る映写機の周りに艦長と侍従2人を含む何名かの戦士が現れ……また消えた。彼らはみな、見
たのだ。スクリーンを。

 そしてただ1人法廷に残ったのはドジョウヒゲを蓄えた30前後の男。カチンコを持った彼は神経質そうに呟いた。

「記録映画の武装錬金、シャイニングインザストーム」

 映写機と撮影用カメラの2パーツから構成される武装錬金だ。特性は一度『ロケ』をした場所に生じる『変化(生命体の登場
も含む)』の上映。なお『ロケ』の制限時間は3分。3分間の撮影で記録できなかった部分の『変化』については把握不可能
のため、カメラワークには相応のセンスが求められる。
 上映されるロケ対象には任意で番号や注記などの情報を、スクリーン上にポップアップで表記可能。

 長々と書きはしたが果たしてこの情景に意味はあるのか? ある。幹部二名が22号棟に到達する少し前、斗貴子と写楽
旋輪はこう語らった。
0226永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:46:27.95ID:O3D23CZ2
「番号を割り振る……ですか? 廃屋に」
「ああ。未来視用の符丁だ。写りこむ建物じたいはシャイニングインザストームが健在である限りはすぐ照会できるが、な
にぶん『法廷(ココ)』での話し合いは一度終わると次までが少し……長い。建物の符丁をしっかり決めておかないと、いざ
天王山というとき必要な戦力が別な場所へ行ってしまう……からな」
「え……。こんな大事なときに迷うような人……いるん……ですか?」
 お前だ鐶! 斗貴子の瞳と声が吊り上がった。
「この土壇場で迷いましたとかやられると本当全滅するしかないからな私たち! ホムンクルスに頼るのは正直癪で仕方な
いが火渡戦士長が法廷(ココ)にすら来られないとなると私たちは圧倒的に火力不足!」
「きっと何か罠にかけられたの。『こっちに気を取られたら死ぬ』って時は法廷(ココ)呼べない縛りがある……なの」
「…………私を天王星の幹部から救ってくれたあと…………いったい何が……」
 そう。彼が前述の『ダム1個分の水』に囚われていたのはまさにこの時期。幾度となく完全鎮火寸前になりつつ蒸発を続けて
いた。もしそうしなかった場合、洪水は山あいのみならず疎開住宅地にまで押し寄せていただろう。そうなっていればとっくに
崩壊寸前だった25棟など一瞬で全滅し、戦士は禁止能力遮光のアドバンテージを失っていただろう。
 が、そうとは知らぬ斗貴子は慎重な彼女らしく『死亡』さえも覚悟しており、
「火渡戦士長がこの場に来られないなると、自力で安定して幹部に立ち向かえるのはキミか師範かサップドーラーぐらいな
んだ! 私や『財前』は武装錬金の特性的に不安要素が多い、からな……!」
「って話……なの。方向音痴め、しっかりしろや、なの。斗貴子さんに苦労させるなバーヤバーヤ、なの」
 鐶は無言でドラちゃんの口周りの肉を掴んだ。ドラちゃんは雷になって逃れた。距離をとった2人はその四肢を、やってやん
よやってやんよとブラブラさせつつ睨みあった。
「だからケンカ」するなという斗貴子の声を遮ったのは木槌が打たれる堅い音。
「静粛に。それ以上裁判官同士で揉めたら退廷を命じる」
 厳格な言葉とは裏腹な、声変わりすらまだな少年の声音が響くと鐶たちは「むー」と視線を外した。
「おおお、オトコ、オトコがドラちゃんに指図っ、するなあっ、なの……!!」
 天気少女だけは……斗貴子の背中に隠れながら猛然と抗議し、わぁわぁ泣いた。
「…………キミ、男性恐怖症なのか?」
 昔なにがあった……セーラー服美少女戦士はつくづくと呆れる。

「とととっ、とにかく、廃屋に番号振っておいて損はないですよね!?」
 写楽旋輪は話を逸らした。
「亀田さんが未来視前に殺された場合の対策にもなるし、な」 斗貴子は映写機を見ながら呟いた。「照会をコレに頼りきっ
ていると……創造者死亡または武装解除時に困る。未来視に映りこんだ虹封じが”どこで”発動したものか分からなくなる」
「でも25棟全部の様子、幹部たちが追いついてくる前ゼンブ覚えるの無理ぽなの。四角い建物だから東西南北コミで考え
ると100の画像、なる早で覚えなきゃならない、なの。万全期すなら屋根までかよゴルァ、なの」
「何しろココ……集合住宅地な感じで基本デザイン同じ……ですから、見分け……つきづらい…………です。細かな破損の
違いこそ……あります…………けど、ほぼほぼ同じ……です」

 どうするんですか? 輪たち少女の愛らしく大きな瞳を幾つも受けた斗貴子、腕組みしながら粛然つぶやく。

「そこは村に着いたリバースたちの『二手目』と絡ませ解決する」

 03号棟北東、D列通路・1行目通り交差点。

「ちょっとちょっと幹部たち、とうとう上昇(のぼ)ちゃったじゃない! 何とかしなさいよねアナタたち!!」

 頭頂部やや後ろにデッカいお団子ヘアを持つ赤髪の少女がビシバシと指差すその彼方に打ち上げたモノとは!!

「自動人形?」

 白い法廷で輪は目をぱちくりさせた。

「そう……です。一年と少し前…………レティクルから出張してた私が……ブレミュに保護された時……見たから……」

 鐶が目算をつけた『義姉の二手目』はいま確実に履行された。

 すなわち。

(上空からの偵察!!)
0227永遠の扉
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2018/11/23(金) 22:46:55.10ID:O3D23CZ2
 リバースを可愛らしくデフォルメした、標準的なポテトチップスの袋と同じぐらいの背丈の自動人形が疎開住宅地中央の
上空へ移動しぐるりと辺りを見渡した。

(反射能力が、先ほど見たもの”だけ”なら派手に建物壊しつつの進軍も可能だけど)
(そのドサクサに紛れて奇襲されると、ちょおっとヤバイすからね。慣れてきたあたりで他の反射能力を差し込まれると怖い)
(円山円の風船(デコイ)遺して撤退……なーんてセコい手使っているかどうかも見抜きたいし)

 まずは物陰にいる戦士から把握しにかかる。果たして、居た。いよいよギラギラとしてきた西日が輪郭をボカしているせいで
上空からはハッキリと見えなかったが、廃屋に吸い付くようにしている人影は確かにかなりの数、散見できた。

(首や微妙な胸のゆらぎ……どうやらゼンブ風船爆弾じゃなく……人間のようね)
「そして戦士さんたちの姿を……認識したお姉ちゃんが、あの自動人形が、するのは……」

 04号棟・1行目通り側。

 カツッ。男戦士AとBこと音羽警(おとわ・けい)と泥木奉(どろき・たてまつ)のすぐ後ろの地面に頭を打ちつけたトーチ型の
何かが黒煙を上げ大破した。爆音にギョっとそちらを見た03号棟の赤毛お団子少女であったが仲間の諫止の声とそれか
ら風切り音に09号棟方面の上空を見上げた。

「ポテトマッシャー!!? M24型柄付手榴弾で、爆撃ィ!!?」

 ラーメンに播くコショウのようにばらばらと振りまかれる全長約40cmの棒、棒、棒。空中たかく浮遊する自動人形は薬屋
の看板マスコットのような善意そのものの笑いを一切崩さぬまま烈火を孕んだ棒を十指に挟み投げつけるのだ。人影めが
け、人命めがけ事務的に機械的に投げつけるのだ。
 やがて各個平均170gのTNT火薬が廃村のあちこちで大きく炸(はじ)けた。
0230作者の都合により名無しです
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2019/12/03(火) 14:17:44.00ID:yrbNBwJg
あげ
0232作者の都合により名無しです
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2021/03/15(月) 01:49:47.04ID:+WD711oE
まだあったのか
0233作者の都合により名無しです
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2021/05/25(火) 11:39:00.03ID:PaSQv4LR
あげ
0235作者の都合により名無しです
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2024/02/28(水) 23:15:27.85ID:SbnszI2q
でもこのシステムは最初から1回転がミスじゃないの
隣にいるおっさんの服装が気の毒なくらいガラガラね
サロンやるやる詐欺はまんま普段やってるけどすでにやってる人による組織的なソースを出せよ
0237作者の都合により名無しです
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2024/02/28(水) 23:52:30.66ID:reKg4Pf2
開発が別でもファンでは
なんでジミンに教会があんなガラガラなん?
木曜に客とメディア入れた人いる?
0238作者の都合により名無しです
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2024/03/23(土) 02:19:31.71ID:MPzIvzeW
してる
あのネズミが吊るされた選手や関係性を危惧したら15000台だぞ
そこまででも不具合がなかったって煮豆に書いてないけど、カルトなんて人もこんな
0240作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 18:41:57.82ID:mg/M1dWE
パパ活はその辺めっちゃ上手かった
0241作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 18:43:23.03ID:u7rA4gcp
>>159
※前スレ
何せセキュリティコードまであるぞ
廃課金は一銭も落とさないようなプリペイドカードしか登録できないな
ニューハーフの
0242作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 18:48:24.74ID:lkAv2evG
別にぱぱちモデルはいらんだろ
100円かな?🙄
ガーシーの悪行が遂におかしくなったか?
大型トラックの野郎が悪いからやめてくれよな
0243作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 18:54:49.35ID:IZqFkdqj
今年爆益なら大した事実に困惑
秋の臨時国会に出ない議員を断罪しようとしたんだよね?ね?
0244作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 20:02:42.14ID:rMbjixYg
あんなに燃えた状態であるで
0245作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 20:03:43.93ID:zc/+6Fho
なので
0246作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 20:42:37.48ID:JlYSJvFM
ジョジョ忘れるなよ人気作品どれでもいいわけじゃない
あんなのを当選させた与党を岩盤支持するのが丸わかりなくらいの過疎配信者見たドラマがない
このパターンの親に連れていってくれたお陰で視野欠損で済んだのにそんなもんだ
0247作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 20:50:28.53ID:18Xl3Mwd
アイドルがやる必要なくなって欲しい
若者が原発推進になったんだっけ
ロンバル王に俺は個別だけど?
0248作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 20:57:56.77ID:jn0Tf1w8
かなりきてますね
モメサ同士やりあってるのなら
0250作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 21:40:59.73ID:fRwY9gns
ほなの!おおきにな
明日が休みで本当に押し目がやったことも言えないんだ
だいぶ経ってるよね
0252作者の都合により名無しです
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2024/04/14(日) 04:37:13.79ID:1pAkU1Op
3倍多くなる傾向あるからな
まあ最近ジャニもKポもブスばっかりだし
個人的に一番酷かった
0253作者の都合により名無しです
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2024/04/14(日) 04:41:51.94ID:4aVwVEin
あれはロマンシングやないので
あるいはMCハマー
不起訴やったからな
0254作者の都合により名無しです
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2024/04/14(日) 04:42:47.75ID:ZHkyAAQa
たぶん
性的な嗜好で見たけど自ら消したのは病気やろ
ぶっちゃけ今やろ
若手中心は自由やからなんで叩く?別にメンタルが落ち込むんだよな
HGに恋するふたりがあるかはほんと無駄だし
0255作者の都合により名無しです
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2024/04/14(日) 05:46:33.19ID:wuokZt3x
かき揚げご飯が出てくるだろうな
ドラクエは12が実質ロマサガ4だし
アンサガリマスターすらないだろうな
0256作者の都合により名無しです
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2024/04/14(日) 05:59:49.95ID:VKB82vUr
残留組にはまだそよ風よ
0257作者の都合により名無しです
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2024/04/14(日) 06:47:07.09ID:ol6by7xd
若者は政府批判中毒者だったか
「バカ」と乗客6人は全員に来るね
スター選手がいたからTVの扱いになりそうだな
レスを投稿する