【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。
元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの話を、みんなで創り上げていきませんか?
◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇
SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。
過去スレはまとめサイト、現在の作品は>>2以降テンプレで。
前スレ
http://nozomi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1402054089/
まとめサイト(バレ氏)
ttp://ss-master.saku@ra.ne.jp/baki/index.htm(ジャンプの際は@削除)
WIKIまとめ(ゴート氏)
ttp://www25.atwiki.jp/bakiss >>スターダストさん
なるほど、確かに! 「小人になる」だとコミカルに聞こえますが、実際は「際限なく縮む」です
もんね。消滅まで。で「小人(しょうじん)」じみてますが犬飼の葛藤は共感できます。達成では
足りぬ、認められたい。分野によってはそうでなくては無意味なものもありますしね。プロの創作とか。 >>179に書こう書こうと思ってたのに忘れてた今の項の大前提があったので、加筆。
犬飼は訳もわからぬといった様子で僚友を見ていたが、ほぼ死微笑の面頬の下に真紅の瀦(みずたまり)が絶望的な
速度で広がっていくのを認めた瞬間、森全体へ木霊する同口同音の電撃的な迸りは彼を円山に駆け寄らせる原動力と
相成った。
「メ! メルスティーンお前!! いったい何を……!!!」
から
犬飼は訳もわからぬといった様子で僚友を見ていたが、ほぼ死微笑の面頬の下に真紅の瀦(みずたまり)が絶望的な
速度で広がっていくのを認めた瞬間、森全体へ木霊する同口同音の電撃的な迸りは彼を円山に駆け寄らせる原動力と
相成った。
(ケガの状態も気になるが……預けていた無線機! 通信手段が全滅したら…………伝令! 合流地点まで行かなきゃな
くなる!そうなったら果たして出来るのか……!? この盟主から逃げのび……られるのか……!?)
斬撃のせいだろう。円山の携帯電話ともどもバラバラのジャンクとなって散らばっている。修復は明らかに不可能であった。
(くっ! 非常時用が……! ボクのケータイはまだあるけど……山だぞここは! 火渡戦士長たちまで届くのか電波……!)
思考を切り裂くよう掠め去ったひゅんという音の正体を犬飼が突き止めたのは、縦に裂けた胸ポケットから落ちていく真二
つの端末を見た瞬間だ。大刀を軽く振り終わった盟主はちょっと肩を竦めた。
「ふ。高かったろうに……悪いね。けど君のようなタイプを壊し壊されへ引きずり出すにはこういうシチュが必要、だろ?」
(いったい何を……! というか戦部のは!? 戦部のが無事なら今すぐこの状況を戦団に……!)
「諦めろ犬飼。俺のもやられた。両断の時なのか『その次』なのか……。ともかく電信はもう総て断たれた、諦めろ」
腕を揉みねじりながら、これも一興と言わんばかりに薄ら笑う戦部に犬飼は理解する。
円山が、盟主の奇襲直後すぐ「犬飼を離脱させるほか戦団に急報する術はない」と判断した真の理由を。
(円山は……アイツは……分かっていたんだ。盟主がまず連絡の手段を、無線や携帯を潰してくるって……!)
或いはその鋭さ故に狙い打たれたかも知れない血みどろの朋輩の前で犬飼は叫ぶ。どうして、どうやって、やられたのだと。
「メ! メルスティーンお前!! いったい何を……!!!」
以上。以下、続き。 第104話 「タングステン0307(前編)」
イオイソゴに捕捉される少し前。
数々の対応策を矢継ぎ早に告げた犬飼倫太郎に、円山円は瞳を名の如く変じていた。
「ひどく冴えてきてるわね犬飼ちゃん。そんなにしてまであの盟主に一矢報いたいの?」
「ああ報いてやりたいね」。犬飼の頬に、卑屈で陰湿な笑いが広がった。
「アイツはボクを……このボクを…………見逃しやがった。軽く壊せる、だから壊してもつまらないとばかり……! しかもボクが
命がけで果たそうとする伝令すら、アイツは自分が愉しむため是非やれと、やって尽くせと……言わんばかり…………!」
フザけやがって。叫びを押し殺したのは追跡を警戒してのコトだろう。だが大声で叫ぶコトさえ許されない現況は、怒号
1つ好きに上げられない実力のなさは、犬飼の卑屈な精神をますます黒く煮え滾らせる。
「誰がアイツの破壊の作楽(サクラ)になってやるか……!! 覚えていろ、許さない。見逃したコトを後悔させてやる。お前
は見逃したボクの伝令によって特性合一(きりふだ)すら知られ斃されるんだ……!」
(そーいうトコが小者だって言われる所以だろうに……)
円山は弱々しく笑う。止血用の核鉄で武装錬金しているのだ、血色は、青い。
「だから生きて本隊と合流する! 盟主の能力と所在さえ速攻で伝達すれば、あの野郎は誰ひとり殺せず死ぬだろ! 最高
の当てつけだね。やるよ、やっちゃうよボクは。たとえ木星やらの幹部が追ってこようと……やってやる!」
なんか小者っぽさが一周して逆に格好よくなってない? 麗人はクスクス笑った。」
「でも自分なりに使命を果たしたいっていうのが今回はあるっていうか……もしかして助けたい気分でいっぱいだったりする?
重傷負っちゃってる私とか、ほとんど勝ち目のない足止めする羽目になっちゃった戦部とかを…………武装錬金(このちか
ら)で救ってみたいとかガラにもなく、思ってる?」
並走する犬飼の瞳孔が少し驚愕に収縮したのを円山は見逃さなかったが、”それ”がかつて『ヴィクターV』の言ったコトと
合致しているせいだとまでは──あのときの発言直前、離脱していたせいで──気付けなかった。
「それとも単に功名心? どうせただ逃げ帰るだけじゃまた周囲(まわり)に馬鹿にされるから、今回は1位の記録保持者と
ついでに私を救って……勲功を加増してやろうって腹積もり?」
「別に。ただ必死なだけさ」
犬飼は浮かべた。無理のある。卑屈な笑いを。
「ぶ、無事伝令を務めて本隊に合流できたら、後は安全な後方で終戦と叙勲を待つだけなんだよこっちは。なのにむざむざ
やられてやる訳にはいかないね。だいたい戦部は好きで残った奴なんだ」
「ふーん」。いろいろ見透かしたような眼差しの円山に犬飼は「い、いざとなったらお前を囮にしてでも逃げてやるからな!」と
強がって、みせる。
「そうさ。伝令なんて1人居れば充分だろうが。2人いたら手柄は半減なんだ、逃げる囮にした方が……賢い、だろうが」
第一こいつの持ち主はボクなんだよと犬笛を指で叩き卑屈な笑みを浮かべる犬飼。
「ボクに何かあればレイビーズは即刻停止。2人とも捕まって死ぬんだよ。だったらどっちの生存を優先すべきか分かるだろ
お前も」
だから何かあったらお前が囮になれ、ボクは逃げる……と言い放つ犬飼だが、口角のぎこちなさからするとどうも本心では
なく悪ぶっているだけらしい。そうであろう、考えるまでもなく分かるコトだ。仲間を見捨てて囮にして1人逃げおおせた男が
受けられる風評など……ただ1つではないか。
理解しているはずなのに、犬飼は、言う。円山も守って逃げ切ると断言(ほしょう)してしまうと、それは敵対する自分さえ
も救って立ち去った『ヴィクターV』と同じになってしまうと分かっているから、心にもないコトを言ってしまったのだ。
「……でもまあ、円山。とりあえず礼はいってやるよ」
「なによいきなり。ちょっと気持ち悪いんだけど?」
「うるさい。ボクの立案になんだかんだで付き合う以上、礼いっとかないと……あとで色々うるさいだろ」
「らしくないっていうか……成長したの犬飼ちゃん?」
「黙れ。あと……戦部にもな。もし会うコトがあったら伝えとけ。お前の言葉、参考になったって」
「何ソレ? 結局見捨てて殺すから、あの世であの人にも伝えろ的なアレ?」
「………………そんなトコさ」
. 虫とり草とは本来、磁性流体化で扁平に潰れきったイオイソゴ本体を床や地面に設置する忍法である!
『置き』ゆえ機動性は皆無であり、当てるには相当の読みが必要とされるが当たりさえすれば一撃必殺! 対象が直近を
通過するやゲル肉と溶融しているイオイソゴの肉体がまさに食虫植物の如くに取り巻き……全身に仕込んでいる五百五十
五の耆著の着弾を以って獲物を”おもゆ”の如く煮崩すやドロドロのイオイソゴと溶融せしめ強引に消化する!
完全版であればレティクルの幹部でさえ特定3名以外まず脱出不能の虫取り草。
だがイオイソゴが犬飼たちに使った虫とり草は自分ではなく森の地面を隆起させたいわば不完全版であった!
彼女はなぜそれを使ったのか。一刻でも早く伝令を断つべき状況で、イオイソゴ自身犬飼たちには一撃必殺を使う他な
いと考えてはいたにも関わらず……どうして不完全版に留めたのか?
その、理由は──…
破獄。暗然と波打っていた磁性の牢が内側から弾け飛んだ。めらめらと火のついた磁性流体の破片が、発掘現場のよう
に直方体と刳り抜かれた森の地面にびしゃびしゃとぶつかり飛沫を上げるなか前へ前へと中空を滑翔するのは2人の男と
……無数の、風船爆弾。 (バブルケイジA・T(アナザータイプ)。円山の隠し持ってたコイツは)
(爆発によって無限増殖! その飽和によって木星の幹部の牢獄を弾き飛ばした!!)
2人の心を過(よ)ぎるは盟主の言葉。
『仲間が、ウィルが、時間に対し結構な無茶をやってくれたからねえ。あるんだよ、別の歴史の記憶が、君たちに。歴史が
リスタートするたび消え損ねた記憶が蓄積している。いわば別系統の歴史の君たちの精神が……宿っているのさ』
(精神は武装錬金の根源! 2つの特性を有する盟主があのとき円山に曰くありげな態度を取った原因がコレだった!)
『中村剛太が斗貴子を守らんと奮起した際その場に『犬飼と円山と毒島が居なかった』時系列』
からの承継によって円山が戦士になった頃から既に密かに隠し持っていたA・Tの増殖飽和によってからくも虫とり草の結
界を突破した犬飼! 脱出直前すでに公衆電話のボックスと同サイズにまで収縮していた結界内で無限増殖の風船爆弾
を炸裂させたが為に再殺部隊の制服は到るところが無惨に焦げ満身もまた創痍である。
(けど爆発に25……いや65、65mは吹っ飛ばされてなお飛んでいるから合流地点までの距離が僅かなりと削れている!
105……145! 残り838m! 本隊の集合地まで838m! 木星の幹部に捕捉されたのはマズいけど死力を尽くせば
抜けられない距離じゃ──…)
「させぬよ」
どこかの声に呼応するように磁性流体の破片が不気味に蠢く。爆発で吹き飛ばされた虫とり草の残滓だ。爆心地から50m
ほどの距離に飛び散って白い煙を上げていたそれが、爆風に押されるままツツーと飛んできた犬飼たちめがけ急速に伸張し
血しぶきを、上げた。
「なっ……!?」
犬飼倫太郎はみぞおちを中心とする胴体一帯に、致命的な貫通を受けていた。尖り切った『何か』は気管支をぐしゃぐしゃに
坐滅したあげく背中にすら突き出ている。上質なワインのような色合いの紅色の流れが惨たらしい尖塔を潤していく。
イオイソゴの姿は先ほど坂口照星の生首を抱え一瞬の思案に浸っていた地点には既にない。
どこかに潜む、彼女は。 (ひひっ。蔵匿されし”ばぶるけいじ”を虫とり草の脱出に使うぐらい読めておったわ! よって交差法! 先の虫とり草発動
のさい折れて取り込まれ磁性流体化した手ごろな木をば──…)
ゲル状のまま『いかにもアナザータイプの爆発で飛ばされたように見せかけ』、犬飼たちの前方へ移動! 彼らに接近と
同時に角度を調整しつつ磁性流体状態を解除! かくして元の、しかし危険な状態で原状復帰したのは!
折れている、ブナの木だった。幹はビルの基礎杭に使えそうなほど太いのに、樹皮が生々しく白くめくれた先端は残酷なほ
ど鋭く滑らかに尖っている。
さりとて平時であればブナは決して人に危害など及ぼさなかっただろう。
だがこのとき犬飼は無限増殖の風船爆弾の一斉爆発に押されるまま時速89kmで中空を舞い飛んでいた。だから眼前で、
先ほど吹き飛ばした虫とり草の残飯のようなゲルが、元の、牢獄に取り込まれる直前の、地面隆起のごたごたの中ヘシ折
られた木の姿に戻りゆくのを見ても自衛行動は一切とれなかった。なぜなら同様の現象が同じく空を辷(すべ)る円山の前
方でも生じつつあったから──…
(盟主のせいで奴は重傷! 受ければ死ぬ!)
2体のレイビーズは、円山を、尖った木から逸らすため使う他なく、そのため犬飼は自身に迫る『杭』を躱わせなかった。
(根元から折るのは……無理か! 木星の幹部め! 磁性流体から戻しがてら補強してやがる!!)
自身をモズのハヤニエとするブナは先端以外鉄粉でコーティングされている。耆著で溶かされていたころ磁力によって
もたらされた鉄分が、成分レベルでミキシングされており、それなりの身長がある犬飼がいくら体重をかけて揺すってもブ
ナの木はビクともしない。
(抜けない!?)
(以上は!)
少女の、果肉をぬりこめたような鮮やかな唇がひゅるるっと窄み、
(最悪だが! やるしか!!)
犬飼は円山からUターンさせた軍用犬Bを……自分の胴体に、噛みつかせた。 「ぐっ! がああああああああああああ!!!」
己が武装錬金に胴体の肉片をボロ屑のように引き裂かせる地獄の激痛に瞳孔を見開き叫びながらも、犬飼は我が身を
横へ動かしブナから引き抜く。正気の沙汰ではない自傷行為であったものの、であるからこそか、彼の頭上やや斜め上に潜
伏中のイオイソゴは快哉を、送る。
(よもやよけよるとは! 吸息かまいたち!!)
先ほどまで犬飼の頭のあった位置で真空の渦が爆ぜ飛んだ。
(やはりな……! これは根来や音楽隊の犬型も使える……『直撃すれば人間の頭蓋なんて一瞬で弾け飛ぶ』忍法! 身
動きできなくなってたボクにかまさぬ訳がない!)
(それを胴裂きの脱出で躱わすとは……! 一見無茶苦茶じゃが合理的かつ最短の決意! 生存の為の判断!)
奇兵の中にあって最弱と揶揄される男の意外なる気骨に感銘し、敬服したイオイソゴは。
『だからこそ』始末しなければならないと警戒を引き上げる。澄んだ角膜に映写される少年は丁度どぼどぼと胴体から血を
飛ばしつつも着地するところだった。頼りなげにも健気にも構え攻撃に備える彼への敵意1つ孕まぬ無感情な殺意はむし
ろイオイソゴなりの仏心。
(ひひっ。明らかに重篤な後遺症が控える深手……。退役後なるもの無明の地獄、すぱりと殺るがむしろ慈悲…………)
激動の追撃戦の戦鐘が打ち鳴らされたのは、ブナの杭から逸らされいまだ舞い飛ぶ円山円が、再殺部隊制服の襟首に
噛みついたレイビーズが1頭の首を使ったフルスイングによって一層の加速を得た瞬間で──…
それはイオイソゴが犬飼の大出血を伴うブナ出血に意識の大部分を惹き付けられていた瞬間秘密裏に行われて、いた!
(……足止めは、犬飼!)
やや、流線型だった。風船爆弾のスーツが、である。かつて剛太の前で火渡に馳せ参じた時の円山は、パンダとも、妖怪
の仙人とも取れる不気味な巨漢の風船着ぐるみを纏っていた。それの変形だった。ただし今回はL・X・Eでいうところの『細』
であり『太』ではない。身長は円山円本来の182cmそのままに、スマートなボディラインも維持しつつ、ただし頭部はツートン
カラーに塗り分けられた高速爆撃機の機首のような鋭角さだ。
(全速離脱! 犬飼に後事を託しただ1人合流地点へ飛び込むか!!) 推力はどうするという興味を抱きつつも無意識に耆著を撃ちかけてはいた老嬢が、『逃げる相手が最高速に達する前に
叩く』という誰でも分かる最善手をできなかったのは、円山円がロケットスタートの手続きを終えるまでの刹那の間硬直した
のは、華奢な体を覆っている黒ブレザーが盛大なる血しぶきの舞台になったせいである。
(血……!? 馬鹿な! 磁性流体化によってあらゆる打撃斬撃を無効化できるわしが……出血……!?)
予測もできない事態だった。まず成立し得ない条件だった。なぜならイオイソゴの体を浸した生暖かい血液は──…
(っ! 『わしの物ではない』!? ど、どういう)
(どこかでするだろ。必ず、パンクを……!!)
ここから打つ策謀の様々をイオイソゴに悉く読まれる犬飼倫太郎が唯一虚をついた瞬間(こうげき)であり!
(な……なにいいいいいい!!!)
戦歴五百年さえも震撼させる、ありえからぬ盤面!
キラーレイビーズBの中型肉食恐竜のような鋭い爪に斬り裂かれた犬飼倫太郎の頚動脈、だった。
樹上の枝と枝の隙間に原型で隠れ潜んでいたイオイソゴ=キシャクの全身に鉄さび臭い液体をびしゃびしゃと降りかけて
いたのは。
ブナ脱出の胴裂き後すぐの自殺行為であった。感嘆のイオイソゴが円山に視線を移している最中の奇手だった。
(なっ……!?)
彼女が意図を掴みかけるのもむべなるかな。それは攻撃の態などまるで成しておらぬ、行為! にも関わらず犬飼は頚
動脈を損傷するという致命的な打撃を負っている!
(馬鹿な! 先ほど貴様はブナから脱出したではないか! 生存のための最善手を打った者がどうして自殺行為を……?!?)
「うちは代々名門の家系でね。じいちゃんは戦士長だ」
「……?」
みるみると血色を、命の艶を失っていく青年の、卑屈で、しかしどこか誇らしげな笑みの意味をイオイソゴは理解できない。
犬飼倫太郎は。
確かに負け犬といわれている。だが戦う前から尻尾を巻いた負け犬では……ない。身の程を弁えぬ立ち居振るい舞い
は実際おおい。勝てるという大口だって常に叩く。
だが……敗色濃厚になるや命乞いをする負け犬では、ない!!! (ヴィクターVですらあのヴィクターに勝ったといえる成果を残したんだぞ!! だったらボクだって……足掻き抜く!)
.
..
『ならばそれが問いの答えだ』
.
..
(だろ、戦部)
ふっと笑う口元の背後で。 キラーレイビーズAの直掩のなか、風船スーツの背中を大きく膨らませる円山。鳥が飛び立ち落ち葉が舞う。隆起に隆起を
極めたスーツが木々の枝を抜け15mほどの不可解な丘となって聳える様に、錫を司るレティクルの幹部は顔色を厳しく
(はげ)ます。
ロケットスタート
(マズい! 空気を充填し圧縮! その放出の風圧で初手から一気に最高速……! 可能性の1つと考えてはいたが……!)
これまで風任せの移動しかしてこなかった円山だからこそ、身長吹き飛ばしの風圧を移動に転化した能動的移動法は未知
であり、全容が不透明であるからこそ(耆著が多少着弾したとしても空気噴射は圧倒的で、しかも合流地点まではわずか1
きろめーとるしかないゆえ、一瞬……なのではないか、見過ごしたが最後やつは一瞬で、逃げおおせるのではないか……!?)
とばかり慎重さゆえに恐れ緊張してしまうイオイソゴだ。しかも犬飼の胴裂きから頚動脈切断に至る不可解な流れに軽く混
乱してもいた。反応は僅かに遅れたが、その一点をして彼女を無能と誹るのは些か無慈悲であるだろう。
(撃つ!)
すみれ色のポニーテールの上で交差した、2つの小さな拳から溢れんばかりに溢れた銃弾様の舟形金属片こそ耆著。
常人ならば犬飼の頚動脈切断には10秒ほどフリーズするだろう。老獪なるイオイソゴの動転は75分の1秒。円山が圧縮
空気で離脱する時間稼ぎのためだけに犬飼の自殺めいた行動が費消されていると即座に断定。弾幕を以ってあらゆる目
論見を粉砕せんと100近くの弾丸のスローイング体勢へ不随意で移行! 膨らんでいた円山が僅かに萎むまでの僅かな
時間であった。幼き忍びはマージンを取って戦う。自身の先ほどの反応の遅れさえ織り込んだ挙措であった。反応の遅れが
弾着の遅れに、円山の加速の競り勝ちに繋がったとしても、他の弾丸のどれかが確実に! 離脱しつつある円山を仕留め
られるよう無数の弾丸の放擲を……選んだのだ! 円山(ふうせん)はまた、萎む……。 (破裂させる! その空気圧搾が了する前に! 伝令は絶対に)
面制圧の耆著の雨で阻んで止めると瞳を燃やすイオイソゴの背後で音もなく……2頭までであるはずのキラーレイビー
ズ『C』と『D』が爪をかざし。迫っていた。
彼女は追撃途中、確かに、思って、いた。追い続けていた軍用犬の足跡の傍のどれもに、血が一滴たりと寄り添っ
ていなかったという事実に基づき……思っていた。
──(盟主さまに重傷を負わされた円山が、止血に当てるべき核鉄をただ風船爆弾と変じているだけであれば、血は止め
──処なく流れ落ち軍用犬の足跡を彩っていた筈! にも関わらず『なかった』ということは……ひひっ)
──(普通に考えればこれはもう確定、じゃろうな)
──(LII(52)の核鉄で止血しておると。止血がてらダブル武装錬金発動できるよう……備えておると) 犬飼たちが銀成市から借り受けたという、剣持真希士の核鉄を所持しているのが円山と、そう考えるのが『普通』だと、
思って……いた。
だが。
「オーバーボディ?」
円山が問い返していたのは、イオイソゴに捕捉される前の逃走中。騎乗の会議だ。
「ああ。お前、再殺の時、最初は風船爆弾で全身を覆っていただろ? あれを首から下に……シャツと制服の間に纏うのっ
て……可能か?」
「できなくはないけど……それがA・T発動からの『切り札』にどう繋がるのよ?」
簡単な話さ。犬飼は、告げた。
「ボクが、持つからだ。LII(52)の核鉄……銀成から貸与された剣持真希士の核鉄を」
「……? 別に元々持ってたのはアナタだし、核鉄って頻繁に使い手が代わると金属疲労していざってとき動作不良起こすっ
て話もどっかで聞いたコトあるからいいけど……でもそれをしたら」
自分の核鉄を、傷口から離した円山は、軍用犬の背中へわずかに垂れた血液を袖口で拭い、見せ付けた。
「止血の手段がなくなったら……つまり私がバブルケイジを周囲に展開したら」
「地面に垂れた血の跡を追ってこられるかも、だろ。さっきも聞いた。けどどうせ流血が無くてもバレるだろ」
後ろ振り返ってみろよ。促された円山は、軍用犬の足跡が続く森を見て嘆息した。
「……落ち葉とかで途切れてるのもあるけど…………木星の幹部なら、そう長くはかからずに……でしょうね」 「そう。結局痕跡は発見される。でも、『だからこそ』だ。レイビーズの足跡の傍に血痕がなければアイツは絶対に……思い込む。
『2つ目の核鉄を所持しているのは犬飼ではなく円山。バブルケイジA・T発動のため密かに所持し待機中』
……と」
「なるほどね。木星の幹部は頭がいい。私たちが、剣持真希士の核鉄による止血で、足取りの消去と体力の回復を同時に図
りつつ、しかも最後の切り札への布石をも整えているという所までは……最善手だからこそ、絶対に、読める」
「だからこそお前は止血を……バブルケイジで、やるんだ。昔使っていたオーバーボディーの要領で、ラバースーツのよう
に全身を覆ってしまえば外界に、レイビーズの足跡の傍に、血液は……落ちない」
「しかもキツーく締め上げちゃえば、ちょぉっと強引だけど止血もできるわね」
核鉄を使った時と同じ効能を、核鉄を使わずして、できる。
「A・Tの無限増殖なんて木星の幹部なら突破できる。どうせ分身を盟主の傍に残しているんだ、仮に大量の爆弾の中に
通常の、身長を吹き飛ばす物を混ぜてくるかもという危惧を浮かべたとしても、何がしかの一撃必殺をボクたちに浴びせら
れればよしとばかり強引に突っ込んでくるだろう」
「その後背を衝く訳ね」
.
「隠し持っていた犬飼ちゃんの核鉄で……3頭目4頭目のレイビーズで」
.
バブルケイジA・Tの無限増殖炸裂と共に無音無動作で発動し、吹き飛ばされる虫とり草の破片に紛れ森の木々へと隠
れ潜んでいた『C』と『D』は、トドメのため犬飼に視線を集めるイオイソゴの背後すぐ傍にもう、迫っていた。
──「けどあの幹部、並みの打撃斬撃は通じないって話よ?」
そう。原理からいえば爪牙でしか戦えない軍用犬は、磁性流体化でスライムの強みを得られるイオイソゴに致命傷を与え
られない。 ──「わかってる。レイビーズでただ攻撃するだけじゃムリ臭いってのは」
──「何せ戦士中トップクラスの高速斬撃を誇る津村斗貴子のバルキリースカートや」
──「武装錬金ではない、普通の日本刀ですら相手を大小ごと両断できる早坂秋水の振るうソードサムライXでさえ」
──「あの木星の幹部に傷1つ負わせられなかった……からね」
彼ら以上の速度や攻撃力で仕掛ければ或いは、だが、嗅覚による敵追跡こそが本懐のキラーレイビーズが突如として
津村斗貴子以上のスピードと、早坂秋水をも軽く凌ぐパワーを手に入れるなどというコトは原理的にいって有り得ない。
イオイソゴにはエネルギー攻撃が有用だとはいうが、それもまた、軍用犬では……ムリだろう。
エネルギー攻撃なら或いは……だけど、ボクの武装錬金じゃ絶対ムリだ)
(それでも『1つだけ』……試したいコトがある!!)
犬飼倫太郎の秘しに秘した切り札の到来に。獰猛に背後から襲い来る爪牙に。
(ひひっ。ま、そう来るじゃろ)
イオイソゴ=キシャクは彼女が蝋涙鬼もどきと呼ぶ斬撃無効の磁性流体忍法によって処し傷なきを得る。
攻撃が素通りした余勢のまま身を丸め葉を散らし、丸めた身を漂わすレイビーズCとDに犬飼は舌を打つ。
(磁性流体化さえ解いていれば通じたのに……! やはりこの幹部気付いていたか! 核鉄が、ボクにと!)
(ま、見事な策ではあったよ。確かに逃走痕は、『普通に考えれば』円山が2つ目の核鉄を持っているとしか思えぬ物じゃっ
たが、で、あるからこそ敵が逆を打ってくると考えるは当然……。ばぶるけいじのあなざーたいぷは通常もーどから……
つまり円山が1つしかない核鉄で、武装錬金で、切り換えていた訳じゃ)
イオイソゴがちらりと犬飼に送った視線は(しかも一瞬で我が所在を掴めたのは見事。嗅覚探知を領分とするレイビーズ
なれど、わしの匂いのみを……鳩尾無銘から毒島あたり経由で聞いているであろう『まんごー』の匂いのみを捜させたので
あれば、ここら5〜6箇所にしかけた『だみぃ』にひっかかり見つけられなかったであろう……)と告げている。
ではなぜ犬飼はイオイソゴ本体を一発で引き当てられたのか! (秘密は……! いや! 今は、『次』!!)
眼光を漲らせ空中でターンしたCとDの特攻は、ちゃぷんと波打つ黒ブレザーを空虚な手応えで貫くに留まった。
(無駄よ無駄無駄! げる状と化したわしを物理攻撃で斃すなど不可能よ!!)
攻撃されている間も当然面制圧の耆著を円山に投げんと両腕を動かしているイオイソゴ。
半生な、磁性流体と生身の狭間にある、ぷるぷるな杏仁豆腐のような質感の柔肌に、黒ブレザーが接触した。犬飼の血
がたっぷりと染み込んだ黒ブレザーが。
(っっ!!!)
ウナギの血は毒というが、犬飼の血は、違う。だが布地から彼の血を、半ば液状の柔肉で吸ってしまった少女はぶるぶるっと
やや快美を帯びた表情で打ち震え、切なげな、熟れきれぬ様子で双眸をとろかせ舌を出した。
(く……! こ、こんな時に…………!!)
跳ね上がる鼓動。毒を浴びせられるよりも甘美で破滅的な慟哭がイオイソゴの理性を奪う。
衣服に染み込んだ青年の頚動脈の血が、若々しい味が、レイビーズを回避するため磁性流体化した半生の肉に染み通り、
誰よりも愛するから、食べたくて仕方ない鳩尾無銘と言う少年を……思い出させた。
──「我を喰いたいと吐かしたなイオイソゴ=キシャク!!!」
──「望みどおり!! 喰らうがいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
(くっ! 銀成で喰わされた鳩尾無銘の左腕の味が…………任務の為と強引に割り切り懸命に考えぬようしていた甘美なる
目的が…………わしの理性を…………紊(みだ)す…………! 戻れ! 伝令の阻止に全力を……!!)
ややくすんでいるが若々しく蕩けそうな犬飼の血の味に『大食』の罪を冠す幹部の心は刹那の間、激しく乱れた。
「……沁み込むだろ? CとDを避けて磁性流体したお前の体だから……肉が溶けているから……血の味は…………沁み
込む、だろ?」
(おのれ! 頚動脈切断と”れいびぃず”奇襲の真なる目的はこれか! 無銘めの作った穴を利するための……!) 銀成において戦団側の手練れ5人を飄然と手玉に取ったイオイソゴを正攻法では崩せぬと踏んだ無銘は仇敵に弱点を
作るべく自ら左腕を切断し……喰わせている。自分しか見えぬように、自分の味を第一に考えるあまり冷静な判断ができ
ぬように……と。長年チワワだった少年にとってその左腕は、剣術の修練とか、忍者刀への彫り物とか、演劇の特殊効果
とかの、人間らしい、理知や創作の喜びをもたらす宝物だった。だが彼は宝を犠牲にする道を敢えて選んだ。イオイソゴと
いう、妊婦の腹を裂き、胚児にホムンクルス幼体を埋め込む強残無比を平然と成す奸悪に今以上の犠牲を出させぬため
少年らしいどうしようもない惜別を己が左腕に抱きながらも付け根から忍者刀で斬り飛ばし……面すら見たくない忌むべき
老婆に、献上(くわ)せたのだ。
(っのれ……! 腕(それ)は! 貴様ら赤の他人が…………! 貴様ら赤の他人が利していい穴では…………!!)
僅かな怒気に波打つ頬を務めて無表情に鎮め
(じゃが伝令は阻止する!! 緒戦で盟主さまが所在を知られ討たれるようなことがあれば……我らが『悲願』、大いなる
五月の救いが……喪われる! 何より)
食欲で甘く固まりそうな腕の関節を
(お仕えすると決めた愛すべきめるすてぃーんさまを、わしは、守りたい……!!!)
使命感で強引に駆動させるイオイソゴ。
100近くの耆著を満載した2つの拳を肩の上から前方へと振り抜きつつあるスローイング体勢は、彼女の主観ではコン
マ何秒か制止したぎこちない不完全なものであったが、犬飼倫太郎の目には(なんて滑らかさ……! ちっとも動じていな
いのか!!?)と映る流麗なものだった。
こさっ。無数の枝の中で鳴った奇妙な物音に少女が動揺と警戒を頭の中で迸らせた時間は僅か1秒!
大きな瞳がまずハっとした。次に、何かの不安に揺れ、眦(まなじり)の傍に小さな汗が垂れた。最後に確信の光が灯る。
(つまらぬ囮を! 『奴』なら物音1つ起こさず奇襲するわ!!)
その思考が投擲姿勢を! 0.03秒!! 停めた! のは!!
怯惰ではなくむしろ慎重さ故だった!! これもまた、イオイソゴに捕捉される前の、会話。
..
「…………根来が?」
「ああ。来るさ。銀成で木星の幹部に挑発されてるからね」
「確かに、彼にしてはビミョーに仲がいい楯山千歳の両目を耆著で潰されたから……」
「根来の性格なら必ずどこかで奇襲する。木星の幹部もそれは読んでる。というか、何もしなかったとしても、根来の特性
なら必ず『やる』からね」
「あ、そうか。そもそも彼女が楯山千歳から光を奪ったのって、『やられた』からだものね」
イオイソゴは銀成において、勝てる筈だった足止めを、火渡が来たとしても継続できる筈だったヒットアンドアウェイのゲ
リラ戦を、根来の思わぬ足止めで潰されている。
イオイソゴが千歳の視力を奪ったのは腹いせでもあるが、挑発でもある。
隠密機動に長けた根来をわざと激怒させるコトで、冷静な打ち筋を打てなくし、殺りやすくする……という最善手だったが。
「お蔭でいま木星の幹部は、ボクたちを追撃しながら……根来までもを警戒しなきゃいけない戦略的な不利を抱えている」
彼女に捕捉される前、犬飼はうすら笑いで指摘した。円山の顔がやや曇ったのは、人が客観的でいる限り誰もが同意せざ
るを得ない感想を抱いたからだ。
「根来にケンカ売ったせいで警戒を……? ソレちょっと間抜け」
「な話でもないさ。本当は木星の幹部はアジトに引き篭もって根来を迎え撃つつもりだったろうさ。けど」
「……あ。盟主の出奔のせいね」
「そう。予想外の出撃をされたせいで、イオイソゴは奴の保護と、ボクたち伝令の追撃という、これまた予想外の作戦行動を
……取らざるを得なくなった。自分以外には到底任せられない、重要な、動きのため、安全なアジトから……外出する羽目
になってしまった」
「だから根来を警戒しつつの追撃も想定外で」
「自分の身をボクたちの前で晒すという行為も控えたいはずだ。ボクたちの攻撃を紙一重で回避した所を根来に突かれるのを
……シークレットトレイルで、亜空間から奇襲できる根来に報復されるのをアイツは何より恐れている」
「だからそれは、いざっていう時、木星の幹部への牽制に……できる」 「こさっ」という音を無数の枝の中で鳴らしたのはキラーレイビーズB! 犬飼の頚動脈切断を行ったBは、派手に出血する
主人や、膨張する円山、CとDの奇襲といった目まぐるしい出来事にイオイソゴが目を奪われているのを幸い、足元にあった
手ごろな石を犬飼の影で咥え上げ……そして枝の中へと放り込んでいた!!
果たして木星の幹部は物音に反応した! 予想外の追撃戦において『亜空間から突乎として出現しうる』根来の奇襲を!
犬飼たちにいざトドメというとき虚を突きうる彼の出現を! 老獪さゆえ兼ねてより警戒していたイオイソゴは、言ってしまえ
ばただ小石を枝の群れに投げ込むといった他愛ない行為に! しかし半ば驚愕を以って反応……してしまった!!
常に万全の段取りを整えているからこそ『根来なら或いは何らかの手段で網にかからぬ方法で奇襲しにきたのでは』と
些細な物音にいい意味で怯え対処を考えかけたのは、常に最善手を念頭における優秀さゆえの欠点だろう。 事実彼女が思考を停止したのは1秒程度!
だが犬飼の、頚動脈切断に端を発する奇手は全く同時に始まっていた!
戦歴500年を出し抜きうる策など滅多に浮かぶものではない、それは残酷だが事実!
だが!
読まれうる策謀であってもそれら総てが同時に発動し進行するのであれば!
1人しかいないイオイソゴは! 盟主のボディーガードを作るため任意車なる忍法で分身し、戦闘の最中、あちらとの並
行処理をもせざるを得ない幼い忍びは!!
(どこかでするだろ。必ず、パンクを……!!)
という犬飼の目論見に、術中に……嵌る!
(つまらぬ囮を! 『奴』なら物音1つ起こさず奇襲するわ!!)
その思考が! 円山円の空気圧爆裂によるロケットスタートを防ぐための投擲姿勢を! 0.03秒!! 停めた! のは!!
怯惰ではなくむしろ慎重さ故であり!!
そこまでの数秒間立て続けに起こされた犬飼の頚動脈切断から無銘の利用に対し、老練と冷静で抑えたりとはいえ知的
生命体の宿業ゆえ完全には動転や憤懣を消し去れ無かったイオイソゴが! 根来の出現疑惑すら横ッ面から叩きつけられ
た状態で! 僅か! たったの! 0.03秒!! しか! 耆著の投擲体勢に硬直を及ぼさなかったのはむしろ神彩とさえ
いえる心理的境地だった!! だが犬飼倫太郎は! その0.03秒の間に!!
老嬢の両拳に満載される100近くの耆著総て! 吹き飛ばして! いた!!
(ち…………!!!)
ザルいっぱいのドングリをブチ撒けたような耆著の舞いっぷりにイオイソゴは歯噛みする。
(磁性流体化ゆえに打撃斬撃を素通りさせる我が身の弱点を、こうも早く把握しよるとは……!!)
(確かに……耆著を投げるための腕や掌を豆腐みたくされたらフォームそのものを乱すのは難しい)
だが弾丸の方はどうかな。血色が褪せた犬飼は、眼鏡の奥で瞳を鬱蒼と歪める。
(お前が掌に握りこんでいたざっと100ぐらいの耆著……。お前の掌が磁性流体化で爪や牙を素通りさせる状態だっていう
なら……レイビーズの掌への攻撃は耆著に……円山を狙い打つための弾丸に…………当たる!!)
(そして全弾を散らした……! 悔しいが見事な判断と認める他ない……! 他のタイミングなればやわやかな我が肉に
耆著を埋没させ飛散を防ぐこと能(あ)たう……! じゃが! こやつは! わしが根来への警戒に神経を取られたあの一瞬
に! 0.03秒という、飛散を防ぐ細かな動作のやりようのないごくごく僅かな隙に!)
レイビーズのCとDで掌を攻撃し、円山円の離陸を阻む面制圧の弾幕の芽を、ばらばらに、吹き飛ばした!!
果たして空気を大きく炸裂させ場より吹き飛んでいく風船の麗人!
その巻き上げる風に、決定的な戦況の変転を告げる大風の中で、視線を絡めあう犬飼とイオイソゴの時間が僅かの間、
止まった。
両側に跳ねている茶色の癖っ毛をスローに揺られながら、白む心象世界の波紋に頬をゆらゆらと炙られる青年は目を
丸くしながら汗をかく。
(ていうか……我ながらよく当たった。ま、まさか、これもアイツの罠とかじゃないだろうな…………)
一番驚いているのは犬飼自身である。あまりにも上手くいったため騙されているのではないかという視線を浮かべたが、
耆著を吹き飛ばされた瞬間の心底から驚いているイオイソゴの顔に少しだけ……自信がつき始める。
(なんだ。ボクだって……やろうと思えば…………やれるじゃないか)
首筋の致命傷を撫でる。凄まじい痛みに顔をしかめたが、頬はどこか、綻んでいる。
ばたばたと、すみれ色のポニーテールを緩慢なる時の波濤でくゆらせながら老練なる童女は、気にしている低い鼻を人差
し指で無意識にこする。
(こやつは本当に”あの”犬飼倫太郎なのか……!?)
イオイソゴの脳裏を戸惑いが掠めた。そうであろう。犬飼といえば再殺騒動のとき、真先にやられた男ではないか。以降、
ヴィクター討伐においてもさしたる戦績はなかった。
(そもそも虫とり草脱出に合わせて仕掛けた罠から脱出できたのもおかしい……。ま、斯様な疑問は、あれを完全版で使え
ておったならそもそも涌かなかったじゃろうがな)
先ほど犬飼たちを捕らえた虫とり草とは。
虫とり草とは本来、磁性流体化で扁平に潰れきったイオイソゴ本体を床や地面に設置する忍法である!
『置き』ゆえ機動性は皆無であり、当てるには相当の読みが必要とされるが当たりさえすれば一撃必殺! 対象が直近を
通過するやゲル肉と溶融しているイオイソゴの肉体がまさに食虫植物の如くに取り巻き……全身に仕込んでいる五百五十
五の耆著の着弾を以って獲物を”おもゆ”の如く煮崩すやドロドロのイオイソゴと溶融せしめ強引に消化する! 完全版であればレティクルの幹部でさえ特定3名以外まず脱出不能の虫取り草。
だがイオイソゴが犬飼たちに使った虫とり草は自分ではなく森の地面を隆起させたいわば不完全版であった!
彼女はなぜそれを使ったのか。一刻でも早く伝令を断つべき状況で、イオイソゴ自身犬飼たちには一撃必殺を使う他な
いと考えてはいたにも関わらず……どうして不完全版に留めたのか?
その、理由は──…
(根来への警戒! 円山どもが”ばぶるけいじあなざーたいぷ”で虫とり草を張り裂いて脱出するのは読めておった! じゃ
がその炸裂より早く連中を消化せんとすればわしは体内へどうしても集中せざるを得なくなり──…)
周囲への、根来への警戒が薄くなる!! 最悪なのは犬飼円山の消化に専念してなおA・T発動が早かった場合であろう。
その場合イオイソゴは、全身を無限増殖爆弾で炸(はじ)かれつつ、犬飼の追撃に対処せざるを得なくなる。そんな隙を、
根 来 が
見逃す訳は、ない。
(じゃからわしは犬飼どもの虫とり草(不完全版)からの脱出を樹上から臨瞰しつつ、爆風の速度を利した”ぶな”のかうん
たーを設置しつつ根来を警戒! あとは隠れ潜みながら伝令組の脱出を阻むつもり……だったんじゃが)
犬飼が、一発で所在を把握した。
イオイソゴが自分の匂いのダミーを5か所以上設置していたにも関わらず、なぜ犬飼は迷わず彼女の場所を掴めたの
か!
秘密は大戦士長・坂口照星の生首にある! 彼女はそれを磁性流体化した状態で携帯する他ない『とある事情』があった!
そして犬飼倫太郎のキラーレイビーズは、照星がどこに囚われているのかという所から追跡を始めた都合上、彼の匂いに対し
現状戦団随一の敏感さを有している! 銀成から借りてきてまで捜索に動員していた剣持真希士の核鉄からレイビーズC&
Dが発動している以上、照星めがけ行けと命じさえすれば、イオイソゴ本体の携行している生首へ一直線で向かうのはごく
ごく自然な当然の流れ!!
だがイオイソゴが生首を見せ付けてからまだ1分も経ってはいない! 照星に反応できたのはレイビーズの嗅覚ゆえだが、
レイビーズが反応する先にイオイソゴが居ると迷い無く断定できたのは間違いなく! 犬飼倫太郎(ハンドラー)の資質!!
(……これも根来への警戒が仇となった事例!)
(そう! 大戦士長の生首をその辺りに転がしでもしておけばアイツに、根来に! 回収されかねないからな!!)
常人なれば死したる照星の首を回収しても痛痒は感じない! だが! 人智常道を大きく外れた世界に棲息する忍びたる
イオイソゴが忍びたる根来に照星の生首を奪われる場合事情は著しく変転する!
(根来忍法・壊れ甕! 死したる者の首と胴を接合し黄泉がえらせる魔人のわざ!)
(それでアイツが大戦士長を蘇らせ救出するシナリオだってあり得るんだ! 何しろ胴体があるであろうアジトは今、幹部が
出払っている! 盟主の捜索のため予想外に出撃している!)
(左様な場所であればしーくれっととれいるを有する根来が潜入し、照星めを壊れ甕にて蘇生するのも可能……! それは
困る…………! かの大戦士長には『まだ、してもらうことが』あるゆえ、根来に生首を奪われるのはまずい……!)
と、いう危惧があったればこそ照星の生首を磁性流体化し携行する他なかったイオイソゴだ。
(しかし……じゃからといって、速攻でその匂いを追跡してくるのは、わしの予想の中でもかなり可能性が低かった部類……!
見せつけてからまだ1分と経っておらんのじゃぞ!? 磁性流体化で所持せざるを得ない事情を、わしの根来めへの警戒
感と合算して即座に見抜けるような男であったか犬飼は? 少なくても、話に聞く犬飼倫太郎めはもっと、予想外の事態に
は動乱する男じゃったというのに……!!)
、それが、銀成で、津村斗貴子たち5人を手玉に取ったイオイソゴへ立て続けに一矢報い続けている! (頚動脈切断が”すいっち”なのか……? 自らを死地に追い込むことでかつてない力を発揮せんとするいわば一種の決意
表明…………?)
力量的な水準や安定性では、彼女が銀成で相手取った面子中最下位な栴檀香美にさえ犬飼は劣る。まだ武装錬金が発動
できない香美に、武装錬金コミで『下』とイオイソゴが断定せざるを得ないほど──見縊っている訳ではなく、むしろ若人への
好意を以ってあれこれと弁護的な長所探しをしてなお、香美には勝てないと、断腸の思いで──断言せざるを得ないほど、
犬飼の戦歴には精彩が、ない。
(じゃが自らを死地に追い込んだこやつの気魄は……津村斗貴子以上!! 残り少ない時間で命の総てを燃やさんとする
覚悟が実力以上の実力を……もたらして、おる!!)
銀成で足止めした5人には無かった動機だ。強く、数でも勝(まさ)っており、最終目的もまたイオイソゴそのものではなかった
からこそ氾疇は全力止まりだった。死力、では……なかった。
.
..
いい気分だ。ざまあ見ろヴィクターV.もはや止まる見込みのない首からの出血を実感するたび、犬飼の頭は冴えてくる。
弾き飛ばされた100近くの耆著はまだ宙をクルクルと舞っている。
円山は……遠ざかる。木の根がのたくる地面に線分が刻まれるほど速く、落ち葉を巻き上げ横ッ飛びに。
(じゃが!)
(一番やばいのは、この瞬間!!)
2つの掌から、それぞれ、磁性流体化させていた耆著を10近く浮上させ摘出させ狙撃に移りかけるイオイソゴとほぼ同時に
犬飼の戦略的行動は終わっていた。
キラーレイビーズCの、決して中型犬とは言いがたい巨(おお)きな体が、すみれ色の馬髪持つ少女の目の前いっぱいに
広がり。
枝の中を電光石火で駆け巡っていたDに関しては、最後に、敵のくの一が乗っている太い枝を根元から……切断。
最後に、というのは、上の方でかなり同様の行為をはたらいていたためである。
降り注ぐ木の枝は、たとえイオイソゴがCの影から首を出したとしても感覚と物理両方の面から狙撃を妨害するだろう。
(視認と安定! ひひっ! 狙撃に欠かせぬもの2つ断ちよるとはのう……!!)
イオイソゴはもう笑うしかない。ロケットスタートで遠ざかりつつある円山を、一刻も早く狙い撃ちたいのに、レイビーズCの
せいで全く見えない。見えたとしてもDが足場を崩している。
(耆著でれいびーずを排除? 弾丸が減るし何よりその間に円山との距離が一層ひらく!)
200m向こうの移動先で今もなお高速で離れつつある標的を、ぐらぐらと落ちながらの体勢で、しかも指弾的な方法で撃ち貫くのは……
(かなり難しいじゃろうなあ)
やれやれと肩を竦めるイオイソゴの遥か前方で、破裂音が、した。
(ちゃ、着弾……!!?)
突如として左方に傾いた風船の中で、円山円は唖然とし──… 犬飼は横目で見た。右臀部のあたりが半径10cmほどに亘ってどろどろと溶かされているバブルケイジのスーツを。
「ひひっ。覚えておけ。忍びとは難しいことを成してなんぼじゃと……」
落ちていく枝の上で、ひゅっと靴の原型に戻るイオイソゴの右足首から先に青年は気付く。
(足で耆著を……!? 馬鹿な! あれだけ色々かまされたあげく! 視界を塞がれ足場さえ崩された状態だったのに!!
足の指で挟んだ耆著を……200mは向こうの円山に当てた、だと…………!!?)
犬飼の頚動脈切断。
伏兵的なレイビーズC&Dの出現。
無銘の作った弱点の、血の味による刺激。
根来出現の誤認。
常人ならどれか1つ炸裂するだけで面白いように流れを持っていかれていく現象を、イオイソゴは立て続けにブツけられてなお、
『視界を塞がれ足場さえ崩された状態』にあって、足という、投擲には到底不向きな器官で狙撃を成し遂げたのだ。
(ボクの策なんてどうせ読まれると思っていたから! 総てを一瞬に収束させて同時に起こして、思考回路をパンクさせて
やろうとそう、思っていたのに……通じなかった…………!)
(されど筋は申し分なし! 根来などより鳩尾などよりヌシの方がよっぽどわしの弟子向きよ……!)
賛辞を内心送る彼女が、降りしきる枝の中、円山狙撃を足で成し遂げた理由は!!
(わが耆著はっぴーあいすくりーむの原型は包囲磁石! それゆえ鉄分を含む標的にはごくごく僅かながら反応する!
戦歴500年のわしだから気付きうる極めて微小な誘引ゆえ、投擲後”おぉと”と対象に着弾するといったことは残念ながら
ないが……それでも、視界を塞がれていたとしても、その間、円山が直進したのか曲がったのかという、大まかな方向だけ
は分かる! 分かるのじゃ!!)
あとは絞り込まれた方角を元に、円山の、遠ざかる気配から逆算した速度を算定。覚えている『足で耆著を投擲した際の
弾速』から導き出される予想着弾地点に円山が嵌りこむタイミングで発射……。
(恐るべき経験……! けど!!)
磁性流体化が広がり墜落すると思われた風船スーツの円山円は……破裂音と共にむしろ…………加速!!
(いろいろカマしても狙撃されるかもって、予想してたのよねこっちも!!)
漆黒のゲルでうぞうぞと揺れるゴムの破片を舞い飛ばしながら、円山は突き進む。
あれれ? なんでじゃ? ほへーと一瞬白目を剥いて可愛らしく佇んだ老獪なくの一は、すぐさま頬に黒い皺を寄せる。
(『重ね着』。二重か、それ以上の構造…………!! 毛唐どものいう爆発反応装甲の応用!)
円山円はバブルケイジのオーバーボディを着た。着た上で、その上から更にもう1着か或いはそれ以上、纏ったのだ。
(何のため? 簡単じゃ狙撃対策のため! わしの耆著が1発2発当たったとしても、逆にそれで外側の風船を破裂させ
……加速しようという寸法!! しかも、磁性流体化し様々な足止めを働くであろう被弾装甲の”ぱぁじ”も兼ねておる!!
ひひっ! 『当たった物体をすぐ磁性流体化してしまう』がため、貫通力はない我が耆著の弱点をよくぞ突いた! そう!
風船が複数枚で構造されるのであれば、我がはっぴーあいすくりーむは最外郭で止まってしまう…………!)
その点を、円山は見抜いていた訳ではない。
(賭け、だったわ……! 『打ち込んだ物を磁性流体化する』耆著だけど、その磁性流体化のタイミングは自動(オート)なの
か任意なのか……銀成での戦いを聞く限りでは、分からなかった……!!)
武装錬金特性には2種類ある。自動型はバブルケイジや激戦のような、特定条件を満たすと創造者の意思とは無関係に
発動する能力。任意型はサンライトハートやバルキリースカートのような、創造者の命令があって初めて発動する能力。
(弾数が多いタイプはだいたい自動型であるコトが多いけど、全身に耆著を埋め込んで打撃を完全無効化している筈の
イオイソゴが、いっつも磁性流体のゲル状の筈の彼女が、人型を保ったまま立ったり歩いたりしてたって報告も銀成から
受けてたし……じゃあ任意? って考えるのは当然でしょ) 厳密にいうと、イオイソゴは自動型と任意型の中間である。
耆著自体は打ち込んだ物をオートで磁性流体化してしまうが、その、磁性流体化した物体を、磁力で操るコトで、任意型
の利点をも得ている。銀成での足止めの最中、ビルの屋上で、周りの高層建築物の上層部を幾つも幾つも飛ばした事実
など最たる例だ。
いよいよ唸りを上げて埒外へと逃げていく円山を、黙然と腕もみ捩りながら見やるイオイソゴ。
(さて問題は)
犬飼の追撃を受けつつ、円山の追跡に専念するか。
それとも犬飼を葬ったあと、後顧の憂いなき状態で円山を追うか。
イオイソゴの実力であれば、犬飼倫太郎など瞬殺できて当然だ。足止めを排除した上でゆるりと円山を追う……誰だって
考えつく方法だし、イオイソゴだってそれは検討した。
(じゃが空気圧噴射を利した円山は……速い! いま時速96きろだとすれば、だいたい600めーとる先の合流地点へは
……最速で22.5秒! といっても向こうの原動力は充填→放出の空気ゆえ、原動機のような定常速度はもちえず従って
速度にはむらがある。あとはまあ……識者なれば障害物回避の減速なども踏まえるともっと遅いとでも言うじゃろうが、ひ
ひっ、ま、そこらの障害物がわしより恐ろしい訳もないから、わしに追いつかれる”りすく”を得てまで障害物に速度を減殺せ
しめることは少ないとみた。それら諸々へ奴の必死さを加味すると……ふむ。およ30秒前後かの? 合流地点到着まで)
つまり円山の現実的で平均的な時速は約72km。飛翔体としては遅い方だが、少し前まで風任せでしか動けなかった
風船爆弾でここまでの速度を出せるようになった円山の工夫は称賛されて然るべきだろう。
追うイオイソゴが安定して出せる速度は70kmという所だ。 (もちろん無理をすれば100きろめーとるぐらいいけるが、後が続かんし根来の奇襲が恐ろしいし、何より犬飼が妨害して
くる率が高い)
つまり再殺部隊2人の影を念頭に入れて追う限り、イオイソゴと円山の距離は2秒間に1mずつ広がっていく計算で、し
かも先ほどのロケットスタートでついた200mの差はここまでの時間経過(りそく)ゆえ単利で10%増しである。
(つまり)
犬飼を相手どればいよいよ追いつけなくなる。実力的には瞬殺できる……というのは客観的な意見に過ぎぬのだ。
(人間を軽く見てはならん。生涯最後の戦いで、それまでの評価を一変した者など幾らでもおる。犬飼倫太郎の戦団におけ
る評価が孱弱(せんじゃく)であったとしても、『じゃからこそ』、この、足止めのための最後の戦いで嘗てない力を発揮しうる
恐れがある……!)
まずはお前だとばかり足止めの抹殺から入れば、犬飼は得たりとばかり時間を稼ぐだろう。円山が合流地点へ辿り着く
まで50秒だが、イオイソゴがたとえ限界を無視した時速100kmを発揮し続けてなお追いつけなくなるまでのタイムリミット
は……更に短い。
(そんなちょっとの時間なら……ボクにだって稼げる! 情けないけど、瞬殺回避に全力をつぎ込み続ければ…………
できなくはない! 頚動脈を切断した以上、時間を稼げても稼げなくてもボクは死ぬ! けど! 命は! 命の使い方だけ
は……ボク自身が選んでボク自身で全うできる……!!)
『ならばそれが問いの答えだ』
戦部の声が心の中を通り過ぎる。盟主から奇襲されるほんの僅かな前、犬飼は彼と言葉を交した。弱い人間の身で強靱
きわまる怪物たちと戦うコトを楽しむ……楽しめる、男に、犬飼はほんの少しだけ自分を投影したのだ。繊弱きわまる立場
にあり、強い者たちにせせら笑われる自分に通じる構造的な共通項を……見出して、だから、悠然と、自信を持って生き
るにはどうすればいいか知りたくて……『その生き方をどうしてお前は楽しめる』とそう、問いかけた。
──「俺が人の身で戦うのは面白いから……などと言う回答が、低い立場で戦うのを面白がらぬお前にどうして届く?」
戦部は結局どこまでも戦部(きょうしゃ)だった。鼻白む犬飼にしかし彼は期せずして、解答に繋がる問いかけをした、。
──「権勢だけが欲しいならなればいいさホムンクルスに」
救出作戦の概要をレティクルに売り、戦団が負けて滅ぶきっかけを作った後、謝礼で人外と化しさえすれば見下してきた
相手総て真向から捻じ伏せられる実力が手に入るだろ……と。
(誰が、するか)
犬飼はこの夏、標的と狙う怪物との勝負に敗れたあと、あろうコトか見逃され……命を、救われた。救われて、しまった。
殺すべき化物に救われるなど屈辱以外の何者でもない。何か情報を売り生き延びたのではないかとせせら笑い囁きあった
のは一族の中でも常日頃影日向に犬飼を小馬鹿にしている連中だ。事実無根の風評被害の種子さえ産み付けて去って
いった怪物を『ヴィクターV』を、だから犬飼は許せない。 (命を救うコトと人を救うコトは一緒じゃないんだよ! お前は、普通のバケモノが人に押し付ける『死』をただ『生』に置き
換えボクに押し付けた……だけ、だろうが! お前が、お前がボクを救けたせいで、ボクはますます惨めな謂れを……!!)
最悪の事態になったら自ら始末をつける……怪物になりつつある少年は、犬飼と戦う前そう告げた。善性の滲む物言い
ではある。
(でもなヴィクターV。その文法じゃお前は、お前が死にたくないからボクを見殺しにしなかったってコトになるんだよ!)
いかなやっかみが犬飼にあるのか? 不利益を蒙った者特有の、ぶつけられぬまま鬱々と理論だけが研ぎ澄まされた
指摘を開陳する。
(最悪の事態ってのはお前が人死にに直接関与するってコトだろつまりは。だったらあのときお前がボクを見殺しにしてた
ら……する他なくなってだろ、自害?) だから何だかんだ言いつつお前は自分のためにボクを救った、自分が生きたいがためだけに、ボクに生を押し付けた……。
歪んだ、こじつけのむきもある捉え方だが、見過ごされたがゆえに後ろ指を指され、核鉄没収や戦士除籍すら日々恐れ
絶望していた犬飼ゆえに仕方ないとも言える。原因となった相手の善意を善意と解釈するコトなど、到底できる心境ではな
かった。
敵の温情など、屈辱でしかない。
復讐してやる。
そんな想いさえなければ、ヴィクターVに差し伸べられた手という名の核鉄を、大量出血で死につつある犬飼が我が身に
押し当て延命するコトは、なかった。
だが復讐すべき相手はもう地上にはいない。地球を守るため、災異(ヴィクター)を巻き込む形で月へと消えた。
怪物が、地球を守った。
怪物に守られてしまった地球の中で、犬飼はイオイソゴという難敵と戦わざるを、得なくなった。
戦部のいったようなコト……、つまりヴィクターVからの助命の件でせせら笑ってきた連中を、ただ殺したいだけなら、伝令
たる円山を殺し、木星の幹部に命乞いをしつつ取り入り、栴檀を滅ぼしたあと悠然と人外になり暴れればそれで済む。手軽
にサッパリできるいい手段だ。 (それをやる? ヴィクターVですら地球を守ったのに? なのにボクは生存とか、復讐のために、敵に尾を振る……?)
フザけるな……! と彼は煮えたぎる思いを自問の果て何度もした。
やってみよ、犬飼倫太郎という戦士は怪物以下に成り下がるではないか。ホムンクルスとなり、いけ好かない一族の連中
を殺戮して溜飲を晴らそうとしても結局かれらの見下した笑いは消えないだろう。そしてやがて犬飼は、血で償わせる以外の
手段を持たなかったよくある底辺として名も知れぬ『正義の味方』とやらに断罪され……汚名(シミ)を歴史に刻むだろう。
ヴィクターVは、違う。
犬飼を始めとする戦団にさんざっぱら追い立てられ、幾度と無く命を狙われたのに──…
地球を、守った。
『ならばそれが問いの答えだ』
戦部の声が心の中を通り過ぎる。
(木星の幹部・イオイソゴ=キシャク! どうせボクは負けるだろうが、斃すつもりで……いく! )
そこまで覚悟を高めねば足止めさえできぬほど実力差は、大きい。
(『試したいコトがある』。物理攻撃完全無効の幹部だが、牙や爪しかないレイビーズでも理論上は……斃せる! かなり
の集中が必要だけど、いまある能力の1つを総動員すれば…………可能性は、あるッ!!) 気魄を読んだイオイソゴは「ふむ、まあ、受けてたとう」と眠たげな表情で薄く笑う。
(こやつがいかな奇策を打とうと実力差は明白……!)
耆著を前方に放ち、磁性流体化の状態で、円山を追い始める。
レイビーズに乗った犬飼が決死の形相ながら遅れて発進するのを横目で見ながら、老獪な忍びは冷然と思う。
(追撃戦の要諦は論者によって分かれるが、わしの経験からの最善手は『目的地に近い方を徹底して攻撃!』 もちろん
こちらが後ろから攻撃される”りすく”もあるが、しかしそれをばやる輩の気勢というのは不思議なものでの、己なればいくら
攻撃されようと、いくら酸鼻なる傷を負おうとむしろ高揚するのじゃが、先行する味方を狙われると面白いように狼狽する……)
強さとは畢竟、原則の徹底。『目的地により近い伝令を優先して攻撃した方が安心』といった単純極まる原則も、足止め
の命がけの攻撃が降り注ぐ中、しかしそれを物ともせぬ涼しい顔で、とにかく、ひたすら、執拗に、徹底的に、狂っているの
ではないかという位のしつこさで、目的地に近い方の伝令ばかりを攻撃するコトによって磨きぬけば、一個の恐るべき戦略
と、なる。少ない反復は一つ覚えと誹られるが、度を越え常軌を逸した反復は畏怖しか、されない。
(守るべき相手ばかり攻撃される足止めは必ずどこかで自分の命がけの行為の空しさを悲しみ、焦る……! ひひっ、そりゃ
そうじゃろ、己が決死と信じた行動が、仲間の安全に、組織全体への貢献に、何ら繋がっていないのじゃから)
イオイソゴは、犬飼をそういう心理的境地に追いやって……心が弱ったところを討つ、つもりだ。
(ひひっ。粘るようなら対根来ども用に秘匿しておる忍法を2つ……いや、2つは多いの、1つ出せば何とかなろう)
(彼我の力量差は歴然。しかも相手は自ら自刎めいたことを演じ死につつある……。冷静に対処すれば必ず勝てる)
(ひひっ。わしの狙いはあくまで鳩尾無銘を喰らうこと……。犬飼なる望外の戦士相手に誰が死ぬかよ)
. .
武藤ソウヤをパピヨンパークに送った時空改竄者……の転生した少女(20歳オーバー)。
レティクル壊滅後の、終止符の更に先のその世界で、彼女こと羸砲ヌヌ行(るいづつぬぬゆき)語りて曰く。
「イオイソゴたちレティクルの幹部は、戦士や、音楽隊と、何がしかの因縁を持っていた訳だけど」
「意中の相手と戦えないまま消滅する幹部が……『1人』だけ居た」
犬飼倫太郎はやがて大金星を、上げる。幹部の1人を見事殺害してのけるのだ。
相手は──…
代償は──… >>234最後訂正
栴檀→戦団。
この稿で一番褒められるべきは毒島。犬飼と円山が対策立てられてるのは毒島が銀成のこと逐一報告したお蔭。
情報は、大事。 創作勢のみなさん、こっち応援お願いします。
北斗の拳専用ですが、適宜、他の作品からも参加可能な仕様です。
よろしくお願いします。
新北斗の拳妄想伝2
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/csaloon/1523434486/ >>スターダストさん
「全力ではなく死力」。今の犬飼にぴったりの、重みある言葉ですね。しかも火事場のバカ力ではなく、
何重にも重ねた策を立て続けにぶつけてる、というのがまた壮絶。「原作での彼」からは想像できない
「彼」を創造した、スターダストさんに痺れ憧れます。このまま相討ちなら確かに大金星ですが、さて? 第105話 「タングステン0307(中編)」
【ある作家たちの対談記事】
(上半分と作家名が塗りつぶされている)
……すから、デッド=クラスターの戦いというのはですな、確かに難解ではあるんですけど、まだロジックは通じる」
×××「確かにあの月の幹部の戦いはおととしまた映画化されましたしね、人気ですよね。パッと見なにやってるか分かり
辛いんですけど、ホームアローンとか、ファイナルデスティネーションとか好きな人ならそのうち分かるっていう」
■■■「ほんとこの点でもわたしは中村剛太にお礼を言いたい(笑)」
×××「また報告書(笑)」
■■■「本当にですな、彼が、チーム天辺星の面々が『棟』のどこでどういう死に方をしたかっていうのをですな、詳しく覚え
てくれていなかったら、デッド=クラスターが、あの約10人相手に演じた大立ち回りな迎撃戦なんてのは逆算しようがない。
……ってコトをおととし◇◇◇監督に言ったら『■■■君まったくその通りだよ、撮れなかったよ』と」
×××「ですよね。あの特性のややこしさときたら……。レティクルどころか全部の武装錬金を見渡してもそうはない」
■■■「最近たまたまやった龍が如くの最新作のミニゲームでちょうどアレを、ムーンライトインセクトをモチーフにした能力
が出てて驚いたんですが、ゲームだとですな、まだ割合わかる。オブジェクトを爆破すると、一定範囲内にある同一規格製品
の直近にワームホールが開き、そこへクラスター爆弾を転送して射出できる。例えばベンチを攻撃すると、周りのベンチに
も……という訳です」
×××「あー。龍司がふなっしーみたいなゆるキャラやるアレですか。確か『周り』……の範囲、対象半径が、オブジェクトの
レア度に比例するんですよね。木のベンチなら自分の周り30mほどしか対象じゃないけど、金のベンチなら500m圏内の
金のベンチ総てが砲台代わりに……みたいな」
■■■「だからね、自分が使うならこれほど分かりやすい能力は実はないけど……やられる方はね、分かりっこないです
よ(笑)。遠くとか、死角とかで、ワームホールぼこぼこ開(ひら)いちゃうんですから(笑)」
×××「しかもスナイパーですからね、デッド(笑)」
■■■「芋砂(笑)。『棟』のような媒介豊富な場所に引き篭もって、遠くの相手が貴金属店の前とおりかかったタイミングで
棟の売り場からかっぱらった手元のダイヤ爆破、みたいなコトされると、そりゃ撃たれますよ誰だって(笑)。分かるか! と(笑)」
×××「相手の所在は特性じゃなく監視カメラの映像で掴むってのがまた始末が悪い(笑)」
■■■「ただそういうのが言える程度にちゃんとした準備(ロジック)を積み重ねているのがデッドな訳で」
×××「難解ではありますが、紐解きようはありますからね。じっさい中村剛太も報告書の中で恐ろしく精密な分析を」
■■■「何よりありがたいのが付録の資料。こちらは事後処理班の仕事ですが、『棟』側の見取り図や、終戦直後の商品
棚を始めとする内部の写真、被害目録といった、『どこで何がどう爆破されていたか』が分かるビジュアル的な証拠をです
な、中村剛太との分析と突き合せると、ああデッド、こうやって攻撃組み立てたんだなって、立体的にわかっちゃいますね」
×××「そういう仕事をしてくれた事後処理班のお蔭で、他の幹部の戦いもだいたい論理付けられるんですがねえ」
■■■「『タングステン0307』。イオイソゴ=キシャクが坂口照星救出作戦序盤で円山円に仕掛けた追撃戦だけはやはり
どうも分からない。なぜああいう経緯が成立しえたのか……。難解というか、不可解ですな」
×××「ですよね。犬飼を初撃で葬らなかった理由だけが謎すぎて謎すぎて。いやわかってはいますよ。当時の彼女は、
高速道の車なみの速度で遠ざかっていく円山を追いかけつつ、根来の奇襲も警戒しなきゃいけなかったってのは」
■■■「足止めで追いすがってくる犬飼にヘタに構って手こずれば、円山が戦団の合流地点まで逃走成功して盟主の
所在が知れ渡る。かといって太く短くで集中した最大出力で以って犬飼を瞬殺しにかかればその隙を根来に突かれる
……という危惧をしていたんだろうなってのは、まあ、分かる。分かるけれども」 ×××「岡目八目だとやっぱり犬飼の始末については『ああいう形』ではなく、初撃で、スパ! とやった方がよかったでしょ
と、思っちゃいますよ。そっちのが円山の追撃も根来への警戒もコンパクトにまとめられたし、イオイソゴなら出来たでしょうし」
■■■「出たロリババア愛(笑)」
×××「だって角と飛車と……クイーンですよ。銀成で無傷で足止めできたぐらいに、強いんですよイオイソゴ」
■■■「? あ、津村斗貴子と早坂秋水と、鐶光?」
×××「はい。あの3人の連携を軽くいなせた私の嫁がですよ? 言っちゃ悪いですが、 犬 飼 を、あ編集さん、犬飼
のところは掲載時太い文字でね(一同笑)、犬 飼 を サクっとはやれなかったのはやっぱりどうしても」
■■■「不可解、ですな。だから時々イオイソゴ無能論が持ち上がり×××さんがヒートする(笑)」
×××「そこも含めてですよ、犬飼を初撃で葬れなかったのが痛いっていうのは(泣) 根来とか戦部ならまだよかったのに、
犬 飼 をっていうのが……。そのせいであんな結果になったもんだから……なったもんだから……(泣)(一同笑)」
■■■「乃木少将でいう旅順ですな、犬飼」
(編集部注:大金星に到るまでの犬飼の軌跡については前号の△△△先生の記事を参照)
×××「ただまあ、根来への警戒はじっさい、被害妄想ではなく──人類側からすれば迷惑な話ですけど──恨みの奇襲
されかねないのに、盟主のせいで外出せざるを得なくなった幹部としては、最善手といいますか、本当に正しくはあった。
油断なしロリババア可愛いよ可愛いと支持されるゆえんですよ」
■■■「ですな。それこそ直前根来はアジト付近で網張っていたデッド=クラスターから戦士数人救っていた訳で。行方こそ
くらませてはいたけど、救出作戦の舞台たる新月村にはもう来ていた訳で」
追 撃 戦
×××「『タングステン0307』を”一度は”影から窺っていたのは確かですからね! だからイオイソゴが居もしない根来を
警戒してせいで犬 飼 を初撃では仕留められなかったっていうマヌケなオチだけはないんですよ! ないんですよ!!!
(一同爆笑)」
■■■「……とんでもないタイミングでしたね、根来」
×××「ええ。何しろ仕掛けたのが金(記事はここから破れている)」
イオイソゴが円山追跡に移った直後の話になるが。
彼女は万全なる根来対策を文字通り敷衍(ふえん)していた。
(『忍法内縛陣もどき』! 不可視の鳴子は、既にッ!)
散らされた辺り、でだ。犬飼の攻撃で掌より100の耆著を散らされた辺りで──ほぼ同時期、葉擦れで出現を誤認させ
られた不覚も相まって──、幼きくの一、五感よりも確実な結界を敷設している。
完了したタイミングは耆著を足で投げた辺り。犬飼に散らされた耆著たちを、左の靴中にひそかに同種の指揮棒を両親
の指で揮(ふる)い、磁力操作によって。
な る こ
(地下ならびに樹木内部に磁性流体空間を敷き詰めた!)
半径およそ150メートル圏内の地面ならびに木々総て! 実は既に耆著によって侵食されている!
いずれも外皮およそ1cmをうっすら残し敷き詰められた層だ。磁性流体は、地下なれば40cm厚、木々なれば幹から
の循環で枝葉の端々までとそれぞれ瑞々しく詰まっている。
亜空間を蝕む効能じたいはもちろん無いが、しかし付近で根来が実空間へと現出した場合、刺激は電瞬を以ってイオイ
ソゴへ逓信される。(武装錬金的直感)。『層』より下で出現した場合でも結局は磁性流体の鳴子に根来はひっかかる。 その構造の為イオイソゴが配している耆著! 全装弾数555のうち
実に300!
半分以上を投じるほど彼女は根来を警戒(おそ)れている!
そして鳴子の結界はイオイソゴがどれほど速く動こうとも……常に半径150メートル圏内を守護する! 動くのだ! 磁
力の、微妙絶妙なる誘引の固着によって、創造主と共に、動くのだ!
地面はともかく木々から木々への移動は? ……などという疑問など野暮であろう。根来を、察知するための仕掛けなの
だ。副次的ながらイオイソゴの武装錬金的直感は地の下の構造をも把握する。いわばそれは磁性流体のソナーであるか
ら、『根』の造影から木の座標を算出し、別の木からの磁力射出をして着弾し、鳴子に……という訳である。
※ 精密さを期する場合、イオイソゴはいったん木から地下へと耆著を落とし、根から再び別の木へと登らせる手法を取
るが今回は追撃戦で前進著しいため(彼女的には)やや粗雑な木から木への移動を取った。
(これぞ忍法内縛陣もどき! 根来めが気付けばよし気付かずともよし!)
気付いてなお地面または木、またはそれに準ずる物体からの奇襲を目論む場合、根来はイオイソゴから151メートル
以上離れた場所へ飛び出さざるを得ない。だがそれだけの距離があればイオイソゴは余裕を以って応対できる。
鳴子に気付かぬ場合……というのは根来の性格からするとちょっと考え辛いが、万一千歳の件に対する怒りをしてかか
るというなら仕掛けた老嬢にはしめたもの、これまた悠然とあしらえる。
(問題は……気付いた根来めが虚空よりの来臨を択(えら)んだ場合じゃが……)
剛太戦の彼が円山を囮にしたすぐあと斗貴子に仕掛けたような奇襲。中空の亜空間という、一切の遮蔽物がない、あけ
すけなまでに丸見えな、奇襲の橋頭堡にはとうてい見えぬ座標からの心理的盲点を衝いた不意打ちを憂う少女の頬に汗
が伝う。だが鳴子を仕掛けねば奇襲はより隠密性を増すのだ。察知不能な虚空を選択されたとしてもである、視認できる
だけマシといえよう
(さすがにわしの耆著でも、ひひっ。中空までは磁性流体化できんからのう。ゆめゆめ警戒怠るなかれじゃ)
そういう、応用力とみに高いハッピーアイスクリームでさえ完殺しえぬ優位性をシークレットトレイルが有しているのをいや
というほど認めているからこそ千歳の両目を潰すという挑発を仕掛けたイオイソゴだ。彼が怒りで判断を誤るのを大いに
期しているからこそ……犬飼相手に下手は打てない。
(じゃが)
言い換えれば。仮令(たとえ)かれが中空から仕掛けてきたとしても。
(『亜空間から現出中の根来を』知覚できさえすれば……勝てる! ”これ”ならば、な……!)
黒いスカートのポケットの中で、手が触れる。『柄(つか)』に。スカートのポケットに入るぐらいだ、長さ自体は短剣と変わ
らない。
そう。
長さ、自体は──…。
(ひひ。『この形見』なれば、必ず……!)
ともかく、根来にそれを当てるには、犬飼相手に、下手は、打てない。向こうにとっては功名心を抜きにしても『盟主の所在
ならびに切り札の伝令』といった戦団全体の勝利のため、イオイソゴは絶対斃さねばならぬ相手だが、イオイソゴにとっては
そうではない。本命は鳩尾無銘。おいしいワンちゃんがもうすぐなのに、血統書が辛うじて付いているだけの代物が落命の
きっかけになるなど、程があるではないか。馬鹿馬鹿しいにも。 運転手には普通はパスワード再発行する用の家購入にローン組んで トラックの野郎が悪い
結局eydenラップスタア優勝したら一転売り煽ってたラッパーが1番きついのは政府批判中毒者だったかもしれない
このパターンの親に感染者増えるぞ