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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど
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0001通常の名無しさんの3倍
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2019/07/24(水) 00:50:40.43ID:XfFrIQoe0
小説書いたこともなければスレッド建てるのも初めてなんだけど、もし誰か見てるなら投稿してみる
0800◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:26:58.63ID:6Hz5WWbB0
大変お待たせしました!
コロナだの副業準備だのでバタバタしてました…。
頻度は落ちるかもしれませんが、また投下していきます!!取り敢えず書き溜めていた分を落としますね!

>>799
制服とはまた良いところに目をつけましたね!
イメージでは、
・ワーウィック→ヘンケンみたいな黒で襟の裏地が緑+シャツ
・スクワイヤ→エマさんみたいな緑+黒のレギンス
・フジ→お堅いベージュの連邦カラー
・グレッチ→フジと同じく連邦標準制服を適当に着崩した感じ

…こんな感じでしょうか??
0801◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:28:15.48ID:6Hz5WWbB0
「どうにかうまくいきましたか…」
『よくあんなの思いつきますよね中尉』
『機転が利くのも中尉のいいところだ』
「全体の動きを把握出来ていて良かったですよ。2人が敵を引きつけていたからこそです」
 フジ中尉達は敵MS隊をうまく撒くと、アレキサンドリア級強襲へと向かった。
 当初はコロニーへの攻撃用で用意していた衛生ミサイルだったが、目標を変えて敵の分断に使用したのである。思いの外味方主力の進軍が早く、丁度遊ばせていたところだったのが功を奏した。
 友軍のネモ隊も急な申し入れによく対応してくれたと思う。そのネモ隊にサラミスを任せ、中尉達は指揮艦を叩く。

『今なら殆ど裸に近い筈だ。さっきの連中が戻ってくる前に速攻をかける』
 ワーウィック大尉が指示を出す。彼がジオン出身である事が確定したが、だからといって彼への信頼が揺らぐ訳ではなかった。ただただ心のしこりが疼くだけだ。今は考えるべきではない。
『私から行きます。ただ…』
「ああ、まだ後1機出てきていないのが気になるな。どう思われます?大尉」
 アレキサンドリアの砲撃を躱しつつ、中尉もスクワイヤ少尉と同じく懸念を抱いていた。
『前回テスト機を撃破したとはいえ、さっきのガルバルディ隊を見るに補給は済んでいる筈だな。まだ何か出てくるかもしれん』
0802◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:28:55.36ID:6Hz5WWbB0
「そろそろ出てきてもおかしくはありませんね…」
 敵艦の機銃をライフルで潰しながら周囲を索敵したが、まだ変化は無い。この戦況で正面のカタパルトを開くのは敵としてもリスクが大きい筈だ。
『とにかく大元を叩いてしまえば!』
 機銃を潰され砲火が手薄になった敵の横腹に少尉のガンダムが接近する。迎撃する主砲が彼女へ照準を合わせようとしていた。
『そうはさせんよ』
 まだ弾幕の厚い敵艦前方を掻い潜り、ワーウィック大尉の百式が主砲にナギナタを突き立てる。彼が瞬時に離脱すると、装填済だったとみえるメガ粒子と共に主砲が爆発した。
『大尉!』
 少尉が、大尉へ狙いを定める機銃を破壊しながら叫ぶ。
『構うな!敵をよく見て動け!』
 少尉を叱咤しながらも、2人は綺麗に連携している。まさに背中を預けあっているといっていい。中尉はその2人の連携が乱れぬ様、彼らの更に先を見る。

 ようやく敵艦に取り付いたその時、先程の爆発の裏に反応を見つけた。
「大尉!来ました…例のやつです!」
『また同じ機体…量産に入っているのか?』
 気取られたのを察知してか、敵がその姿を露わにした。その曲線的なフォルムと淡い体色は紛れもなく例の試作機だった。
『よし、やつは私が叩く。2人は引き続き敵艦を破壊しろ』
『しかし…』
 少尉が食い下がる。
「私が随時状況は共有する。少尉が危ないと思ったら動けばいい。まずは大尉に任せよう」
『…了解』
 渋々従う彼女を確認すると、大尉の百式は軌道を変えて試作機へと向かった。砲火を嫌ってか、敵は艦から距離を置こうとしている様に見える。
「ふん…艦を捨ててでも決着を付けにくるか」
 百式の動きも捉えつつ、少尉のガンダムの支援を続けた。
0803◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:29:22.09ID:6Hz5WWbB0
 護衛のない戦艦は殆ど的と言って差し支えなかった。機銃や主砲を失った片側の船体は最早こちらの進軍を止める手立ても無い。
「少尉!いけそうか!?」
『やってみます…!!』
 遂に少尉は敵の艦橋目掛けてバーニアを吹かす。しかしその時、ミサイル群がガンダムを襲った。身を捩りどうにか躱すが、艦橋は叩き損なってしまった。
『!?…もう追いつかれた!?』
 ミサイルの発射地点を辿ると、そこには撒いた筈のガルバルディ隊。
「まだ余裕はあった筈だぞ…?一体何処から…」
 中尉達の後方を追ってきたわけでは無さそうだった。しかし大回りしていては到底間に合わない。
「…!そうか、コロニーか!」
 どうも連中はコロニーの外壁を破り、その中を一直線に引き返して来たようだ。容易く機体の進路は作れないと思ったが、恐らく例のデブリを利用したのだろう。衛生ミサイルを流用した事が仇になった。
『これは大尉の援護どころじゃなさそうですね…』
 戦艦を叩くのは中断し一旦距離を取る。ガルバルディ隊もこちらを追うようにしてアレキサンドリアから離れた。
「ここが正念場だ!抜かるなよ!」
『了解!』
0804◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:30:04.00ID:6Hz5WWbB0
 中尉が激を飛ばすと、応えた少尉のガンダムが敵の隊列に突っ込んだ。行く手を阻むのは先程の大型タイプである。
『さっきからしつこい!』
 その巨躯に見合わず、しっかりとガンダムの動きに付いてくる。お互いにライフルで牽制し合うも、付かず離れずの読み合いが続いていた。その隙を狙う様にブースターを背負ったガルバルディが砲撃を放つ。
 これをガンダムは宙返りして躱すが、無防備になった所を残る1機が強襲する。
「こっちは無視か?」
 すかさず中尉はライフルで敵を牽制した。それでも3機は徹底してガンダムを狙っている。
「各個撃破は作戦として正しい。だが、戦力を甘く見積もるのは感心しないな」
 ネモの背中に背負ったバックパックはレドームのみではない。有事に備えたサブジェネレーターも搭載している。
 本来は友軍機への供給が主な用途だが、中尉はこれをライフルに直結すると、オーバーヒートさせながら敵へ放った。
 流石に想定外だったのか、躱しきれなかったブースター搭載機の左半身が吹き飛んだ。それに気を取られた万能機へガンダムが斬りかかる。
 敵は正面から斬りかかったサーベルをシールドで受けようとした。少尉は咄嗟にサーベルを逆手に持ち替えシールドを空振りさせると、ガラ空きになった腹を横一文字に凪ぐ。
 サーベルは完全にコックピットを捉えていた。真っ二つになった敵機は爆散する。
 僚機が2機損壊したのを見て、残る大型機がなりふり構わず中尉へ迫った。迎撃しようにもライフルは先程のオーバーヒートで使い物にならず、携行していた右腕も電装系に異常をきたしている。
『中尉!任せて!』
 スクワイヤ少尉のガンダムが割り込む。すると敵機はガンダムの頭部を掴み、膝蹴りと挟み込む様にして叩きつけた。
『うわっ!!』
 頭部全壊とはいかないまでも、内部の機器は破壊されただろう。今度は受け身が取れないままのガンダムを前に、敵がサーベルを抜いた。
0805◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:30:41.43ID:6Hz5WWbB0
『させんと言っているだろう!』
 ワーウィック大尉だった。敵は背後からのナギナタを咄嗟にサーベルで受けると、形勢不利を悟って後ろへ下がった。半身を失ったガルバルディに肩を貸しながら撤退していく。
「試作機はどうです?」
 こちらも直ぐ様追える状態ではなく、敵を見送りながら大尉に声を掛けた。外観を見る限り百式に大きな損傷はみられない。
『中尉達を艦から引き離してからは母艦の支援に回っていたよ。私もそこを攻めあぐねていたところでこっちに合流させてもらった』
 そう言いながらガンダムの手を引く大尉。
『すみません、モニターが死にました』
「じきにサブが復旧するだろう。よくやった」
 かなり敵の戦力を削ぐ事に成功した。報告を流し見る限り、先程のネモ隊もサラミスを落とした様である。後は主力がどうなっているかだった。

『遅くなったな!ちょっくら主力の手伝いをしてきたもんでな』
 アイリッシュ級のグレッチ艦長だった。ようやくこちらに追いついたらしい。
「あっちはどうです?」
『依然交戦中だ。しかし例のニュータイプ、凄いなあれは』
「アーガマのパイロットですか」
『ああ、とても子供が乗ってるとは思えん。おかげでかなり優勢だぞ。…あれ?ゲイルちゃん、顔どうした』
『その言い方やめてくださいよ…』
 スクワイヤ少尉が溜息をつく。
「!…あれは」
 コロニー後方で大きな光が見えた。あの位置には核パルスエンジンがある。
『やったか!』
 ワーウィック大尉の言う通り、エンジンの破壊に成功した様だ。ジワリジワリとコロニーが失速していく。フジ中尉は落下予測を概算で試みた。これならグラナダへの直撃は避けられるはずだ。
「作戦成功ですね…」
 中尉はほっと胸を撫でおろす。ティターンズの凶行をなんとか防いだ。もうコロニー落としの悲劇など目にしたくなかった。
 しかし、同じ連邦であるティターンズの士官には、コロニー落としに嫌悪感を示す人間もいる筈だ。一部の将校が強硬手段に出たのではないかとすら思える。とはいえ、エゥーゴも仇敵であるジオンを抱き込んでいる以上、お互い様かもしれない。
 敵も味方も、正義も悪もない。混沌としたこの地球圏で、自らの信念を何処まで貫いていけるのだろうか。今はただ、安堵する気持ちに浸っていたかった。

31話 正念場
0806◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:32:57.08ID:6Hz5WWbB0
 敵襲は去った。しかしアレキサンドリアの艦内は戦闘中と何ら変わりなかった。
「状況は!?」
 帰投するなりヘルメットを投げ捨て、ウィード少佐はモニターに向かって怒鳴った。
『お戻りですか。乗組員は閉鎖したブロック周辺の消火作業にあたらせています』
 ブリッジからレインメーカー少佐が応えた。
「わかりました。コロニーは?」
『核パルスエンジンを破壊された様ですな。近辺でガンダムMk-Uらしき機影も確認しています』
「ちぃ…!よりによって盗まれた機体に邪魔立てされて…!」
 開いたコックピットから格納庫を見渡しながら舌打ちする。まだガルバルディ隊は戻っていない様だ。
『そろそろガルバルディ隊も戻りましょうが…』
「連中の補給も急がせる」
『しかし…』
「…?どうしたんです」
『フリード・ドレイク大尉が戦死なさいました。オーブ中尉も重傷です』
「は…?」
 途端に全身から力が抜けた。
『とにかく早くブリッジへお戻りを』
「…わかりました」
 返事をしながらも、ウィード少佐の視点は高い天井を見上げていた。
0807◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:33:45.18ID:6Hz5WWbB0
 ウィード少佐がブリッジに入った時、モニター越しの格納庫に丁度ガルバルディ隊が帰還するところだった。
 しかしそれは最早部隊などと呼べる様相ではなかった。オーブ中尉のガルバルディαは殆ど原型を留めておらず、単独では着艦すらままならない。
 それを支えるγは欠損こそないが、各部の塗装が剥がれ激戦だったことが伺える。そして何より、βの姿がそこには無かった。
「…!脱出ポットは見当たらないのか!?」
「機体は完全に撃墜されております」
「だとしても、直前に脱出しているかもしれんでしょう!」
「それは…」
「いいから探せ!!探すんだよ!!」
 力任せに壁を叩いた。何度も叩いた。
「…ウィード少佐…お気持ちは痛いほどわかります…」
「頼む…探してくれ…探して…ください…」
 ウィード少佐はその場に崩れ落ちた。駆け寄ったレインメーカー少佐が肩を抱いたが、その暖かみすら自らの冷えていく体温が際立つだけだった。

 その後オーブ中尉は半壊した機体から救出され、緊急治療室へ運び込まれ、ソニック大尉も軽傷ながら治療を受けさせた。ウィード少佐も休むよう促されたが、頑として聞かなかった。
 結局ドレイク大尉の捜索は行わなかった。ソニック大尉の証言によれば、ガンダムのビームサーベルは間違いなくコックピットを焼いたのだという。何度聞き返しても、彼の答えは変わらなかった。
 軌道が逸れたコロニーはグラナダから遠く離れた未開拓の区域に落着し、それを捨ておいたティターンズ艦隊はそれぞれに撤退した。
 今回の作戦は現場の暴走として片付けられたが、核パルスエンジンが通常の作戦で持ち出されることなどまずない。どう考えても司令であるジャマイカン・ダニンガンの指示である。
 そもそもウィード少佐達に護衛の通達が来た時点で、上層部が容認していたとしか思えない。
 アレキサンドリアの損傷も著しく、応急処置を施しながらコンペイトウへ向かう事となった。それまでに機体のデータをまとめなければならなかったが、とてもそんな気分にはなれない。ウィード少佐は自室に籠りがちになっていた。
0808◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:34:48.46ID:6Hz5WWbB0
「…よろしいですかな?」
 断りを入れて入室してきたのはレインメーカー少佐だった。
「何か航行に問題でも?」
 書類をめくりながら平静を装うウィード少佐だったが、きっと内心の乱れにも彼は勘付いているのだろう。
「いえ、報告がひとつ」
「…?」
 ウィード少佐は書類に触る手を止めた。
「コロニー落としの一件ですが…。どうも内通者がいたとか」
「そんな馬鹿な」
 ペンを机に置き、ウィード少佐は立ち上がった。もし事実なら遠回しにドレイク大尉を殺された様なものだ。確かにエゥーゴ主力艦隊の対応には目を見張る迅速さがあった。
「…シロッコ大佐腹心の若い女性士官が居るのですが、憶えていらっしゃいますでしょうか」
 はっきり憶えていた。前回帰還時に彼の傍に立っていた少女のことだろう。
「彼女がなんだと言うんです」
「アーガマと接触していた疑いがあります」
 レインメーカー少佐は表情を変えなかった。それどころか耳を疑うような事を続けた。
「しかし、それだけではありません。同じくシロッコ大佐麾下の我々にも疑いの目が向けられている様です」
「…!」
 思わず言葉に詰まる。良心の呵責に耐え、ドレイク大尉を失い、オーブ中尉もまだ予断を許さない状況だ。そこまでして戦った結果が裏切りの疑惑なのか。
「…私には、バスク・オム大佐達上層部による、シロッコ大佐への当てつけとしか思えません」
 ウィード少佐の心境を察してか、レインメーカー少佐が静かに言った。
「アポロ作戦にしても、シロッコ大佐が指揮権を手放した直後にエゥーゴの巻き返し。その後のコロニー落としも失敗しました。バスク達にしてみればまあ面白くないでしょうからな。
 ブレックス准将の暗殺も一枚噛んでいると聞きます」
 レインメーカー少佐の言う通り、シロッコ大佐が目をつけられるのも無理はない。まして彼は聡明な男だ。野放しにしておけば取って代わられる恐れすら感じるだろう。
「…それで彼らが話をでっちあげていると?」
「少なくとも我々は裏切っておりません。シロッコ大佐にしても我々を差し向けている以上、作戦に参加している身と言って良いでしょう」
「こんな時に派閥争いなどと…!」
 ウィード少佐は憤りを隠せない。あまりに馬鹿馬鹿しい話だった。身を粉にする思いで革新を成そうとしているシロッコ大佐が裏切りなどするはずがない。
「上層部にはお気をつけください。信じられるのは身近な人間だけです」
「ご忠告、胸にしまっておきます」
 そこまで話してレインメーカー少佐は退室していった。
0809◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:35:32.40ID:6Hz5WWbB0
 しばらくしてオーブ中尉の治療が終わったと報せが入った。一命は取り留めたとのことだ。しかし彼女はもう戦線復帰は絶望的という。ドレイク大尉ももう居ない。彼女達という両腕をもがれ、立ち上がることも出来ずに地を這っている様だった。
「…済まない」
 オーブ中尉の治療について報告へ来たソニック大尉は、小さくそう言った。
「どうしてあなたが謝るの?」
「俺は皆に助けてもらって今ここにいる。だが…俺は…何も…」
 彼が目頭を抑える。
「何も…してやれなかった…!!」
 大きな身体を、小さく震わせていた。その悲痛な姿がウィード少佐には耐え難かった。
「できる事はやった…。だからそんなこと言わないで…」
 ウィード少佐達が同じ配属となった後、レインメーカー少佐はお目付け役としてやってきた。そんなウィード少佐には、真に頼れる者はソニック大尉しか残されていなかった。
「…私にはまだ、あなたという脚がある。これからも支えてほしい」
「…ああ!わかっているさ」
 顔を拭うと、ソニック大尉はいつもどおりの笑顔を見せた。彼にはこれからも辛い思いをさせるかもしれないが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 あまりにも大き過ぎる犠牲を払いながら、ウィード少佐は決意を新たにした。エゥーゴを徹底的に叩く。その上で現ティターンズの上層部も潰す。その為にはやはりシロッコ大佐の力にならねばならない。
 ドレイク大尉やオーブ中尉が身を呈して守った理想の為、ウィード少佐もシロッコ大佐の理想を守りたいと強く願った。

32話 大き過ぎる犠牲
0810◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:39:06.56ID:6Hz5WWbB0
 オーブ中尉が目を醒ました時、白衣の医師達が彼女を囲んでいるのがぼんやり見えた。状況もわからず、ただ自分が生きている事だけを自覚する。医師達は彼女の意識確認を行うと、何やら話しながら作業を始めた。
 何が起きたのか思い出すのにも時間が必要そうだ。機体が被弾したその後の映像が断片的に頭をよぎる。そのひとつひとつを結びつけようとしたが、どうも覚束ない。
 ベッドごと上体を起こされている様だが、首を固定されているらしく視線くらいしか自由が利かない有様である。今回は手酷くやられた様だ。
「目が醒めたのね」
 部屋にこぼれた光と共に聞こえてきたのはウィード少佐の声。
「…ん…よく思い出せてないんだけど…」
 借り物の様な心地がする喉を動かし、なんとか声を出した。
「無理に喋らなくていい。ゆっくり治せばいいんだから」
 そう言う彼女の声が近づく。目を開くのも億劫になり、再び目を閉じた。
「負けたの…?」
 目を閉じたまま訊く。
「…まだ終わってないわ。むしろこれからよ」
 表情は見えないが、声色に気負いを感じた。恐らく、コロニー落としには失敗したのだろう。
0811◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:39:35.32ID:6Hz5WWbB0
 意識がはっきりしてくるにつれて、何となく思い出してきた。あの時、ネモのライフルを機体に受けた。その瞬間にコックピット内に鮮血が飛び散ったのを思い出す。火花を走らせながら半壊したモニター。
 それらに挟まれて途切れ途切れの意識の中、確かに見た。あるはずのものが、そこには無かった。
「…ドラフラ、あたし…もう戦えないんでしょ?」
 オーブ中尉の問いにウィード少佐は応えなかった。いや、それが答えだった。医師が止めるのも構わず、固定された首を半ば強引に動かし自らの左腕を見る。思った通り、彼女は肘から下を失っていた。
「そんな気はしたのよ。こんな…仰々しく…」
 言葉を切って少し休む。押し寄せる現実に気持ちが昂ぶり、呼吸が乱れた。周りが少し慌ただしくなる。
「!…無理しないで」
 ウィード少佐が肩に手を添えた。オーブ中尉は深呼吸して、最後に溜息をつく。
「少しまた寝る…。ドラフラも無理しないで…」
「わかってる。リディルもね」
 ぽんぽんと胸元を叩かれた。すぐにオーブ中尉の意識は再び遠のいていった。
0812◆tyrQWQQxgU
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2020/06/03(水) 15:40:00.29ID:6Hz5WWbB0
 それからしばらくして、オーブ中尉負傷後に何があったのかを聞いた。コロニー落とし失敗や、ドレイク大尉の戦死。今居るのはコンペイトウであることや、アレキサンドリア隊への疑惑。身体を少しずつ慣らしながら色んなことを聞いた。
「しっかし変な感じね!無いのに有るような気がする」
 容態が落ち着いて散歩程度なら許されたオーブ中尉は、ソニック大尉を伴って病棟を歩いていた。身体のバランスにまだ不慣れだが、失った腕の感覚が残っているのはよくある事なのだと言う。
「人間の身体というのはまだまだ未知数だからな。…困ったら何でも聞け。俺ももっと学ぶとしよう」
「ラムはそういうの詳しそう」
 彼に目立った負傷が無かったのは不幸中の幸いだった。
「これからどうするの?あたしはMSには乗れないだろうし、かといって人員も足りてないでしょ」
「ガルバルディ隊は解散だろう。お前もまだ治療が必要だし、俺ひとりというのもな」
「そうね…。フリードも居なくなったんだもん」
 ドレイク大尉は最期までオーブ中尉を呼んでいたのだという。彼女の言う通りもっと自分を制していれば、結果は違ったのだろうか。
「…少なくとも、彼女は俺達に止まって欲しくはないだろうな。救われたこの命…遺された使命の為に使わなければ」
「くっさ!ほんとあんたは相変わらずだわ」
 そういってオーブ中尉は笑った。正直言ってオーブ中尉としてはまだ失ったものへの実感は薄かった。どことなく高揚した気分が続いている。
「リディルが居ないと俺も締まらない。トレーニングには良いマネージャーが必要だからな」
「はいはい。今から会議でしょ?くだらない事言ってないで早く行きなさいよ」
 ソニック大尉を送り出し、彼女はひとり病室へ戻る。ウィード少佐はじめ、彼にも苦労をかけた。オーブ中尉も自分に出来る事を考えなければならなかった。
0813◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/06/03(水) 15:40:32.59ID:6Hz5WWbB0
 病室へ戻ると人影を見つけてぎょっとした。よく見るとレインメーカー少佐だった。彼はベッドの傍のチェアーに腰掛けていた。
「もう!びっくりしたじゃん!」
 薄暗い部屋に照明をつける。
「失礼失礼。ここで待てば会えるかと」
 そう言って彼は立ち上がり、軽く会釈した。
「爺は会議出ないの?」
「私はお呼ばれしておりませんで。少し手が空きましたから、お嬢さんとお話でもと」
「暇なら相手してもいいわよー」
 からかう様な笑みを浮かべながら彼女はベッドに腰掛けた。彼も再び座る。
「大変でしたね」
「まあね。でもしゃーないでしょ、よくあることだわ」
 本当は割り切れるものではない。しかし、クルー達にこれ以上心配を掛けたくないという気持ちの方が強かった。少なくとも彼らの前ではいつも通り振る舞うと決めていた。
「まだお若いのに、苦労をかけさせてしまって私も申し訳ない」
「何言ってんだか。いつもは若いうちに苦労しろとか言ってるくせに」
「いやはや、歳になるとどうも説教臭くなるものでしてな」
 困った様に少佐が頭を掻く。
「そういえば、なんか疑われてるんだっけ?内通者がどうたら」
「上層部は本当の前線を知らんですからな。戦艦に同乗して喚いていればそれが前線だと思っておりますから」
「いっぺんその辺にほっぽり出してやりたいわ。そんな余裕無いわよこっちは」
「彼らは彼らなりに任務を遂行しておるのでしょう。それぞれに事情があります」
「また説教ー?」
「これはいかんですな。言ったそばから」
 そういって2人は笑った。

「…爺、あたしこれからどうなるんだろうね」
 少し和やかになったところで正直に訊いてみた。
「…通常のMSパイロットとして戦うのは難しいでしょうな。様々な技術はありますが、どれもまだ実用的ではありません」
「様々な技術?手が無くもないってことか」
 失った左手をまじまじと見つめながら自嘲気味に笑った。
「義手とかは慣熟するまでかかるんでしょ?そんなの待ってられないわ」
「元々使った事があれば別ですが、使ったことのないものですから。サイコミュなどもそうでしょうが、身体に無いものを動かすというのはもっと難しい」
 身体に無いものを動かすと言われハッとした。無い筈の左腕を動かしているこの感覚はまさしくそれだった。
「…サイコミュってさ、操縦桿が無くても動くわけ?」
「…ええ。極まると遠隔操作すら出来ると聞いておりますな」
 聞いたことがあった。ジオンのMAは勿論だが、連邦もサイコガンダムなどで実際に戦闘を行っている。
「つっても動かしてるのは皆ニュータイプだもんね。あたしには関係ないか」
 そういってオーブ中尉はベッドに身を投げ出した。
「そう焦らずとも良いでしょう。時間はあります」
 そういってレインメーカー少佐が微笑んだ。それから他愛もない話を幾つかしたのち、どうやら暇を潰せたらしい彼は、お辞儀して病室を出ていった。
0814◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/06/03(水) 15:40:58.65ID:6Hz5WWbB0
 部屋でぽつりと独りになったオーブ中尉は外に目をやる。少しでも気晴らしになるよう窓があったが、地下に建設されたこの病棟では晴れやかな景色が見られる訳ではない。ごつごつとした岩に囲まれて作業に勤しむ人々が見えるだけだ。
「サイコミュか」
 オーブ中尉は何となく呟いた。ニュータイプ的な閃きなどとは無縁な彼女だったが、無いものを動かす感覚というのは今まさしく体感していた。この延長線なら想像ができる気がしている。
 きっと会議の中でこれからの事を話しているはずだ。何もかもを自分で決められる訳ではないとはいえ、このまま引き下がる気も彼女には毛頭無かった。
 オーブ中尉は確かにある右手と、無い筈の左手を強く握り締めた。

33話 無い筈の
0816通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/06/06(土) 11:33:14.16ID:BN3jfH6V0
乙です!
もしやコロニーより高いところまで行ったんじゃないかと心配してたので、一先ず安心しました!(待てやコラ)

機銃や主砲を近接武器で潰していくのは、メガバズーカランチャーの戦績の悪さが広まった結果でしょうか?(笑)
ワーウィックの心配をするスクワイヤも、大尉の意を汲んでフォローするフジも、いい感じに成長してますね!
ネモ隊もガルバルディ隊もミサイルを撒いて戦場に仕切りを作る、こういう集団戦描写とても好きです

フジのEWACネモ→改造ガルバルディα(大破、オーブは強化フラグ...?)
スクワイヤのマンドラゴラ→改造ガルバルディβ(ドレイク死亡、爆散)
ここでキルスコアとは...
正直、原作の展開はやらかしたことのスケールの割に話が動かなかったので、ピッタリ嵌まった感じがあります。
ジェリドは悔しさ第一みたいなキャラなのでシドレの死を軽く描写させられてしまいましたが
ウィード、ソニック、レインメーカーはシロッコ達とどう向き合っていくのか...
あらら、シロッコの小手先の悪影響が旗下の部隊にまで波及しちゃってまぁ...
ティターンズ内での疑惑に向かっていく導線、ぜひ辿らせてください!(悪趣味)

ソニックのγ、パワフルですねぇ。
高トルクパックとかF90Bとか、最近は何となく大柄な機体の格闘ぶりに燃えてきちゃう話が多くて好きです

単機でアレキサンドリアを守りきったウィードも立派、帰る家が無きゃ誰も戦えません。
でもそのせいで部下たちがボロックソにされてるのに気づけなかったんですよね......抱きしめてあげたい!(下心なし)
しかしこの件でいよいよウィード隊の依存を強めてるシロッコは不気味ですね、こっちでもひっぱたかれないかな(笑)

お、コンペイ島!ジオン共和国と並んでZ作中じゃちっとも描写のなかったコンペイ島じゃないですか!w
ジョニ帰のミナレット欲しかったおじさんとかガンダムTR-1とか、外伝では優遇されてる感じですが
今作ではどれほどゼダンやグリプスを使った大喧嘩に関わることやら......続き待ってます!
0817◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/06/07(日) 13:39:39.46ID:vuolscyX0
>>815
>>816
ありがとうございます!
ちと忙しかったので筆も止まっていたのですが、余裕が出来たので息抜きに再開しました!

前作では1対多数や血ツ別の戦いが多bゥったので、描試ハが難しいですbェ多数対多数に鋳ァ戦しているとbアろです。楽しbナもらえていb驍ネら何よりでbキ!

これだけ成長している彼らがいつまでもガルバルディに苦戦するはずもなく…
一応操縦スキル自体はガルバルディ隊の中ではソニックが1番高い設定です。伊達に脳筋ではありません。
ガルバルディ隊が連携してガンダム達と渡り合っていたところを、その有利さえ覆ってきたなら…こうなるのは自明かなというところ。

シロッコの急進的なやり方には齟齬が出ないとおかしいと思ってたんですよね。
そのしわ寄せが何処かに行くとすれば、彼のような人たらしなら…わからないように何処かに押し付けていてもおかしくはないかなと。
テーマの1つなのでしっかり描写していきます。

あれだけ1年戦争で重要な拠点だったソロモンが、何故グリプス戦役では放ったらかしなのか…ガトーのせいでしょうか。笑
ア・バオア・クーは名前まで変えてばっちり最終戦に絡んでいたので、僕の話ではコンペイトウも噛ませて行こうかなと思っています!
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2020/06/07(日) 13:42:30.29ID:vuolscyX0
「ちょっと見てみろ」
 そういうグレッチ艦長の声に、スクワイヤ少尉達MS隊の面々はモニターを覗き込んだ。次の出撃指示もなく、皆ブリッジに集まっていたところだった。
 コロニー落としの一件から1ヶ月と経たず、エゥーゴとティターンズは変わらぬ小競り合いを続けている。
 アンマン市やグラナダも例外ではなく、ちょっかいをかけてくる敵部隊との戦闘が頻発していた。アポロ作戦やコロニー落としの事もあり、相手が偵察部隊であっても決して気が抜けない状況である。

「これ、どう思うよ大尉」
 モニターに表示されたその報告には、旧ジオン軍残党の最大拠点アクシズが地球圏へと接近しつつあることが記されていた。
「私はアクシズのことは何も。ただ、デラーズ紛争の敗残兵も抱きかかえた事を考えれば…それなりの規模になっている筈です」
 考え込む様に右手を顎に当てながらワーウィック大尉が応える。
「彼らが地球圏に…。もしエゥーゴと手を組んだらティターンズも危ういんじゃ?」
 スクワイヤ少尉は単純に好機だと思った。ジオン狩りのティターンズと、反地球連邦のエゥーゴ。どう考えても利するのはエゥーゴの筈だ。
「これがそうとも言えん。発想がわかりやすくて説明し甲斐があるな少尉は」
 眼鏡を掛け直しながらフジ中尉がニヤリと笑った。
「む…何だっていうんです」
「ティターンズはこれまで失敗続きだ。それも、なりふり構わずやってきたせいで市民含め敵は多い。
 そもそも論としてエゥーゴにしても地球連邦軍の一部であることを考えれば、我々と同じく彼ら残党軍を戦力として欲してもおかしくはあるまいよ」
「そんな!だってティターンズはジオンの残党狩りが名目の組織でしょ!?」
「ああ、"名目"はな。連中のやっている事を顧みれば、そんなものは方便だとわかるだろう」
「うーん…そう言われてみればそうなんですかね…」
 少尉は思わず唸った。とはいえ、残党狩りが残党と手を組むなどおかしな話である。
「問題は…彼ら残党軍自身がどういうつもりで地球圏帰還を決行したのか」
 中尉の問いかけにも、変わらず大尉は考え込んでいる。
「正直、我々がこれ以上考察を続けてもあまり得るものは無いな。私にも真意が掴めん」
 大尉は考えるのをやめた様だった。
「お前らの意見はわかった。俺もイマイチ状況が読めなくなってきたからなぁ」
 大きく溜息をついた艦長が髭をいじる。
「アーガマが接触を試みるそうだが、どうもティターンズ側にも動きが有るようだ。…とはいえ、俺達がやることは特にない」
 そういって艦長はお開きだと言わんばかりに手を叩いた。皆それぞれの持ち場へと戻っていく。
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2020/06/07(日) 13:43:32.58ID:vuolscyX0
「このまま放ったらかしですかね?私達」
 整備の為格納庫へ向かいながら、パイロットの3人で並んで歩いた。
「そうもいくまい。そろそろ局面が動く」
 ワーウィック大尉が難しい顔で言った。
「ティターンズだけでも手一杯な今、更に敵が増えるのは避けたいところですが…」
 フジ中尉はこの間の件といい、いくら戦局が厳しくなるとはいえやはり残党と表立って手を組むというのは抵抗もあるだろう。
「色々と条件もある。いくらエゥーゴが反地球連邦といっても、ザビ家再興などを掲げているのであれば力を貸すわけにはいかないだろうしな」
 そうは言うが、大尉はもうジオンに未練はないのだろうか。
「ザビ家って全滅したんじゃ?」
「いや、ドズル中将の娘がいる。彼女自身はまだ幼いが、マハラジャ・カーンの娘が摂政としてついている筈だ。その位は伝え聞いたが、それ以上の事は何も」
「ザビ家かあ…イマイチ実感湧きませんね。なんか、そこだけ時間の流れが私達と違うみたいです」
「小惑星などに引き篭もっていればそうもなるさ」
 ワーウィック大尉はやや不機嫌そうに鼻で笑った。

 スクワイヤ少尉達が整備を進めている間にも、上層部は今後の事を話し合っているはずだった。ひと通りの作業を終えて休憩していた面々に再び招集がかかる。
 拭った煤が頬についたままの少尉を始め、バタバタとブリッジへ皆が集まった。
『諸君、調子はどうかね』
 1番大きなモニターにロングホーン大佐の姿が映った。相変わらずの仏頂面である。腕組みして椅子にふんぞり返っている。
『揃った様だから始めるが…。今現在我々は、接近しつつあるアクシズの対処に追われている。今頃はバジーナ大尉達が接触している頃かな』
 ブレックス准将の死後、アーガマのクワトロ・バジーナ大尉が後継者としてエゥーゴを背負って立つ事になった。その彼が直接交渉に出向いたということか。
 しかし、何故ロングホーン大佐やブライト・ノア大佐ではなく彼が後継者として選ばれたのかはわからない。
「アーガマの報告待ちということですか?」
 フジ中尉が問う。
『いや、こちらも待ってばかりでは居られまい。ある意味で彼らは敵地に乗り込んだ様なものだからな。諸君には彼らの出迎えをやってもらいたい』
 大佐は組んでいた腕を解くと、身を乗り出す様にして両手を机についた。
『アーガマの出迎えとは言うが、実際のところ逆に敵の出迎えに遭遇する可能性もある。アクシズの連中に歓迎されるとも限らんし、アーガマがティターンズに出し抜かれていることも考えられる。…危険だが任されてくれ』
「了解しました。すぐにでも出港します。…最後に1つだけお伺いしても?」
 珍しくグレッチ艦長が一言添えた。
『なんだね?』
「アーガマの交渉が破談していた場合、今後エゥーゴはどう動くので?」
『…ふん。いずれにせよ最後に勝つのは我々でなければならない。それだけだ』
 ロングホーン大佐はそれだけ言うと一方的に通信を切った。それを聞いたグレッチ艦長は帽子を深く被り直す。
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2020/06/07(日) 13:44:32.90ID:vuolscyX0
「さて、お前達!聞いたとおりだ。さっさと準備にかかれ」
 振り返ったグレッチの艦長の一声で皆作業を再開する。ぞろぞろと退出するクルー達に置いていかれる様にして、スクワイヤ少尉はひとりその場に残っていた。
「ん?どうかしたのかゲイルちゃん」
 気付いた艦長が首を傾げた。
「…今の話、何か引っ掛かるんですか?艦長」
「そうさな…他所さんと同じでうちも一枚岩じゃねぇだろ。アクシズと接触して、古巣に戻るやつらも出る筈だ。そうなった時、ほんとに上層部が言うほど事が上手く運ぶとは思えねぇからよ」
 髭を気にしながら、艦長は神妙な面持ちで言う。
「艦長にしては真面目な考察」
「悪いかよ!早くお前も持ち場に戻れやい」
「はいはーい」
 少尉は頭の後ろで手を組みながら大股でブリッジから退出した。歩きながら艦長の言葉を反芻する。
 確かに彼の言う通り、これまで以上に複雑な戦況が予想されるだろう。確かに、ワーウィック大尉の様に割り切っている人間ばかりではあるまい。加えて、フジ中尉の様にジオン出身者へのわだかまりを抱えている人間も居るはずだ。
 ノンポリシーな少尉からするとあまり実感は湧かないものの、この組織は思っている以上に繊細で脆いのだと改めて認識していた。

34話 アクシズ
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2020/06/07(日) 13:45:28.80ID:vuolscyX0
 スクワイヤ少尉達アイリッシュ級は、ロングホーン大佐の指示から程なくしてアンマンを立った。月を離れ、小惑星アクシズの方向へと進路をとる。パイロット達は機体のコックピットの中で待機を続けていた。
「アーガマからは音沙汰ないみたいで」
『もう会談の終了予定時刻は過ぎていますね。もしかすると…』
『ああ。交渉決裂したか、頭をティターンズに叩かれたか…。いずれにせよ我々の出番だな』
 スクワイヤ少尉達が危惧しているところに丁度通信が入る。
『待たせたな。アーガマの出迎えはティターンズがしてくれたみたいだぜ。おかげであっちは今混戦状態だ』
 グレッチ艦長が溜息混じりに言う。
『交渉は?』
 フジ中尉が問う。
『さあ。今んとこ何とも言えねえわな。とにかく撤収するアーガマと代わりばんこで俺達が壁になる。すぐ出れる様にしとけよ』
『『「了解」』』
 敵がティターンズだけなら良いが、最悪の場合アクシズとも交戦しなければならない。スクワイヤ少尉は気を引き締めた。

 アイリッシュ級が敵艦を捉えたとの報告が入る。既に砲撃を開始した様だ。
『み…皆さん!聞こえますか!』
 珍しく少し声を張ったのはグレコ軍曹だった。それでも人並みの声量しかない。
「なんです?」
『あ、少尉!アーガマから戦闘宙域を抜けたとの報告がありました。一部の敵をこちらが引き付けたのでどうにか…。交渉は決裂した模様』
『それはそれは。我々も出るので?』
 フジ中尉も通信に応答する。
『お願いします。ムサイ改が2隻、加えてMSも多数…』
『それだけ判れば十分だ。2人とも、行くか』
 話を切り上げたのはワーウィック大尉だった。ほぼ同時に前方カタパルトハッチが開く。少尉達は直ぐにアイリッシュ級前方へと展開を開始した。
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2020/06/07(日) 13:46:50.66ID:vuolscyX0
 戦火の行き交う宙域を、3機は縫うように進んだ。ムサイ改を背後にして、数機のハイザック、通常仕様のガルバルディβと共に見慣れない機体も見える。
『あの黒い機体…データにはありません』
 特段慌てた様子は無いものの、フジ中尉が口を開いた。
「新型ですかね?変な鶏冠!」
 2機ほど確認出来たその黒い機体は、頭部の突起を始めとして各部に黄色の配色が見える。シルエットもいささか異形である。専用のライフルを携えているようだ。
『全く、次から次へと…。戦力は見誤るなよ!鶏冠付きは後回しにして、叩きやすいところから叩く!』
『「了解」』
 ワーウィック大尉の指示を受け、各機は速度を上げた。
「まずは…1匹」
 迎撃するハイザックのマシンガンを躱しながら放ったマンドラゴラのビームライフルが敵の腹部に直撃、機体は爆散した。その下から上がってくる様にして別のハイザックが迫る。
 そちらを捕捉した時、別方向からのガルバルディの射線も少尉の方を向いた。
「数が多い!」
『慌てるな。新型はさておき、他の連中よりはこちらの方が機体性能は勝っている』
 そう言いながらフジ中尉のネモは、少尉を狙ったガルバルディの頭部を撃ち抜く。しかし、更に先程の新型の1機がネモに急接近していた。
『流石に新型は動きが良いな…』
 迎撃するネモが抜きざまに振りかぶったビームサーベルを、敵の新型はステップする様に躱しつつ中尉の背後を取る。
『ちぃ…!』
 至近距離でのライフルを受けそうになるも、中尉はその銃口をマニピュレータで掴み強引に逸した。しかし敵は更にサーベルを抜く。
「このッ!」
 あわやというところで少尉のマンドラゴラが追いつき鶏冠付きを蹴り飛ばした。制御を失った機体を尻目に、今度はもう1機の鶏冠付きがハイザックと共に威嚇射撃を繰り出してくる。
『流石にきりが無いな…!』
 別のガルバルディをナギナタで斬り捨てながら大尉がこぼす。併せて3機ほど落としたにも関わらず尚敵の勢いは衰えない。MS部隊に加えて敵艦の砲撃も止む気配はなさそうだった。
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2020/06/07(日) 13:47:43.98ID:vuolscyX0
『後どれ位だ!?』
 珍しくワーウィック大尉が声を荒げる。月面では鬼神の如き働きをみせた大尉だったが、上下の概念がない宙域で近接戦闘を継続するのは流石に消耗するらしかった。加えて、後続から別のムサイ改もMSを発進させているのが見える。
『増援含め…ハイザック4機、ガルバルディβ3機。新型が2機です』
 冷静に見えるフジ中尉だが、恐らく彼も焦り始めているだろう。そうこう言う間にも敵の砲撃は激しさを増し、初めは攻勢にあった少尉達も次第に防戦一方になっていく。
「なんだって敵は私達にこんな戦力を…!?」
 シールドで敵のライフルを弾きながら少尉も狼狽えた。
『どうだろうな!本来はアーガマを潰したかったのかもしれんが…』
 やり取りもそこそこに、再び単身敵陣へ走った大尉は、阻むハイザックを頭から真っ二つに断った。出遅れて迎撃しようとする周囲の敵を残る2人で牽制する。
 大尉の駆る百式改はバーニアの青い軌跡を曳きながら敵の最中を斬り抜ける。疲れをみせた大尉の言葉とは裏腹に、1機、また1機と落とす中でその動きは研ぎ澄まされていく様だった。
 敵を翻弄しつつも無駄の少ない所作には感嘆を禁じ得ない。その彼の後ろに、かつて背中を預けあったというアトリエ大尉の影が浮かんだ。
「そこは…私の席なんだから」
 影を打ち消す様にして、少尉はマンドラゴラと共に大尉の後へ続く。
「だからさァ…邪魔しないで…ッ!」
 敵の新型が行く手を遮ったが、マンドラゴラは加速して突き進む。敵が動揺した一瞬にギリギリで身を捩ると、回転しながら擦れ違いざまに腹から両断した。勢いそのまま更に敵中深く潜り込んでいく。
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2020/06/07(日) 13:48:24.28ID:vuolscyX0
『大尉!いくらなんでもこのままでは!』
『ちぃ…!』
 流石に被弾も避けられず、各機動きが鈍くなってくる。マンドラゴラはシールドを失い、百式のナギナタも明らかに出力が落ちているのが見て取れた。
 支援に回っている中尉のネモでさえライフルの残弾が尽き、近接戦闘を余儀なくされている。
 戦いが尚も続きいよいよという頃、敵の動きが変わった。各機適当なところで砲撃を切り上げると、そのまま撤退し始める。
『なんだ…敵が引いていく』
「はぁ…はぁ…追撃…しますか?」
 驚いた様子の中尉と同じく、少尉も状況が読めない。
『いや、よそう。これは…』
 撤退していく敵部隊の進路の先にはアクシズの大きな影があった。
『…まさか』
『ああ、そのまさかかもしれんな』
 2人は何かを察した様である。
「どのまさかです?」
『ティターンズとアクシズが手を組んだのかもしれん。ティターンズを残党が受け入れたのか…』
 確かにティターンズ艦隊はアクシズの方向へと退いていく様に見える。出迎える様にして現れたのは見慣れないMS群だった。
「あれは…」
『ガザか…?作業用でも数を集めて運用すればどうにかといったところか。残党なりによくやるようだな』
 大尉がガザと呼んだ桃色の機体が大量に群れる様子は、いささか不気味でもあった。
『これはアーガマも逃げ帰る訳だ。流石にこの物量で追い立てられれば無事では済みません』
『そうなる前に我々も帰れということだろう。撤退するぞ』
「エゥーゴと交渉決裂して…ティターンズとは組んだってことですか…?」
 スクワイヤ少尉は2人に割って入るように言った。フジ中尉から聞いた理屈はわかるが、実際に残党と残党狩りが手を結ぶなどということがあっていいのか。
『…信念などないのかもしれんな』
 思いにふけるようにしてワーウィック大尉が呟く。
『皆さん!戻るなら今しかありません!ここで退かないとアクシズが来ます』
 グレコ軍曹からの通信だった。敵MSを寄せ付けなかったとはいえ、アイリッシュ級も敵の砲撃を受けて少なからぬ損害を被っている様だ。満身創痍のMS部隊は母艦へと帰還する。
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2020/06/07(日) 13:49:05.10ID:vuolscyX0
 着艦後スクワイヤ少尉がコックピットを出てヘルメットを脱ぐと、案の定艦内は騒然としていた。
「やはりエゥーゴは勢力争いから取り残された様だ」
 一足先に機体を降りていたらしいワーウィック大尉が出迎える。整備スペースのレールを掴み、少尉も機体から離れた。
「もしそうだとして、どうするんでしょうね。今までみたいに散発的な攻撃を繰り返したって埒が明かないでしょうし」
「いよいよ板挟み…連邦もジオンも敵だなんて信じられませんがね」
 呆れたようにそう言ったのはフジ中尉だった。彼もふわりと足場へ着地すると、そのままレール伝手にこちらへやってくる。
「エゥーゴも不沈船と言うわけではないからな。このままどてっぱらに穴でも開けられようものなら…皆宇宙で溺れることになる」
 大尉の表情からは何も読み取れない。
「大尉は、ジオンとも戦えるんですか?」
 ワーウィック大尉の胸のうちがどうしても気になり、少尉は恐る恐る聞いた。
「…亡者とは戦うさ。信じられるのは自らの信念を固く持った…今を生きる人々だけだ」
 そういうと、大尉は少しだけ微笑んだ。
 彼の言葉に少尉は、地球圏の様々な意志が渦巻くこの宇宙で、やっと見つけた自分の戦う意義だけは離すまいと誓った。

35話 信念
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2020/06/10(水) 15:01:11.68ID:A9l4MSXN0
>>826
ありがとうございます!

また溜まってきてるので少しずつ投下します!
0828◆tyrQWQQxgU
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2020/06/10(水) 15:07:14.95ID:A9l4MSXN0
 フジ中尉はブリッジへと向かっていた。
「どうかしたんですか?」
 自室からひょっこり顔を出したスクワイア少尉が歩く先に見える。
「ああ。今後の作戦について進言が欲しいと艦長から言われていてな」
「なんですかそれ、私そんなこと一言も言われなかったんですけど」
 少し不服そうに少尉が言う。フジ中尉は鼻で笑ったまま彼女の前を通り過ぎ、足を止めずに歩いた。
「ちょっと!…私も行きます」
 後ろでバタバタするのが聞こえたあと、スクワイア少尉も付いてきている様だった。

 ブリッジに到着すると、そこにはワーウィック大尉と話し込むグレッチ艦長の姿があった。
「おお、来たか2人とも」
「2人ともって、私何も聞かされてなかったんですけど」
 いつも通り艦長に少尉が噛み付いている。
「それで…何か進展は?」
「どうもアクシズはゼダンの門を目指しているらしい。エゥーゴ主力はそっちに気を取られているな」
 フジ中尉の問いに応えたのはワーウィック大尉だった。
「こないだの動きからして、ティターンズとアクシズは手を組んだとみえる」
 少尉をなだめ終わったのか、艦長が髭をいじりながら言う。
「じゃあ私達は主力と一緒に奴らを追うんですか?それともまた留守番?」
 やや不機嫌な少尉が腰に手を当て艦長を見る。
「どうだかねぇ。流石に留守番ってこたぁ無いだろうが、ロングホーン大佐も決め兼ねてる。アンマンにしろグラナダにしろ、相変わらず狙われてるからな…中尉は何か考えたか?」
「そうですね…」
 中尉は少し間をおいた。考えはある。
「コンペイトウ…旧ソロモンを叩くというのはどうです?」
 言った中尉に同意する様にワーウィック大尉が頷く。少尉はピンときていない様子だ。
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2020/06/10(水) 15:07:42.14ID:A9l4MSXN0
「…1年戦争時、連邦はソロモンを叩いた後にア・バオア・クー…現ゼダンの門を決戦の地に選びました。グラナダを叩く選択肢も残しながらです。
 今はむしろその逆…我々が駐屯出来るのはグラナダを残してコンペイトウもゼダンの門もティターンズの拠点と化していますよね?」
 いつもの様にスラスラと中尉が述べると、ワーウィック大尉がその後を引き継いぐ。
「その通りだ。ここでゼダンの門を叩きたい主力を掩護する意味でもコンペイトウ攻略は正しい判断だよ。上手くすれば挟撃する形でやつらを叩ける。…どうなんです?艦長」
 ワーウィック大尉がグレッチ艦長を見上げると、釣られて皆艦長の方へ視線を移した。
「お前らがそう言っても、上層部がなんていうかはわからんさね。だがまぁ、選択肢としては有力だな」
 帽子のつばをつまみながら艦長が言う。
「とはいえ…第一に、敵に対して俺達の艦隊戦力じゃ拠点1つ潰すのもひと苦労だぜ。殆ど総力戦だ」
 そういって深く椅子へ座り直す艦長。丁度その時アンマンの基地司令から通信が入る。
『…少しいいかね?』
 ロングホーン大佐からだった。
「はい。…お前ら、来てもらったばっかりで悪いが、ちと外してくれ。作戦案は俺から大佐にちゃんと伝えとくからよ」
 艦長に手であしらわれた中尉達はそそくさとブリッジを後にした。
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2020/06/10(水) 15:08:16.49ID:A9l4MSXN0
「結局どうなるんでしょーね…」
 ブリッジのドアが閉まるなりスクワイヤ少尉が腕を組みながら言った。
「わからんな、こればかりは」
 そういってワーウィック大尉が歩き出すと、中尉達もその後に続く。
「…ああは言いましたが、私としてはこの機会にジオンを叩きたいんですよ本当は」
 中尉は思わず口に出した。決してワーウィック大尉に当てつけるつもりでは無かったが、そう取られても仕方がないと気付いたときにはもう遅かった。
「フジ中尉、そんなに大尉がジオン出身なのが気に入らないんですか?」
 苛立ちを隠さずスクワイヤ少尉が詰め寄った。彼女はかなり大尉に肩入れしている。
「すまない。そういうつもりではないんだが…。大尉、あなたもそうでしょう?結局こないだは残党とは接触出来ずじまいでしたし」
 少尉に睨まれながら大尉へと話を振った。
「…いや、いいんだ。今更連中と話が出来たところで何にもなりはしないさ。バジーナ大尉が駄目だったのなら余計に。それに、さっきの中尉の策は私の考えていたものと同じだったしな」
 変わらず冷静な大尉の横顔には、何処か諦めのようなものも感じられた。

「そういえば、なんでバジーナ大尉がエゥーゴの後継者なんです?エースって言ってもパイロットのひとりですよね」
 中尉を睨むのに飽きたスクワイヤ少尉が聞いた。本当に何も知らないらしい。
「彼の正体は旧ジオンの赤い彗星との噂だがな。ただのパイロットではないよあの男は」
 腕を組みながら、感慨深そうに大尉が言った。
「え!赤い彗星って、ホワイトベース隊を追っかけ回してたっていうあの??生きてたんですか」
 目を丸くした少尉があからさまに驚く。
「よく知ってるな少尉。珍しく話がわかるじゃないか」
 思わず中尉は鼻で笑った。彼女は何も知らないようで、たまにピンポイントでものを知っている事がある。それがおかしかった。
「知ってますよそのくらい!…でも仮に赤い彗星だとして、なんでエゥーゴの代表になるんです?」
 そんな事を話している内に随分歩いていた。その時艦内に放送が入った。
『クルーの諸君、我々の次の作戦が決まったぞ?至急ブリッジへ集まれ』
 グレッチ艦長の声だった。
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2020/06/10(水) 15:09:02.60ID:A9l4MSXN0
「まったく…歩き疲れたんですけど」
 再びブリッジに着くなり少尉がボソッと愚痴を漏らす。
「仕方ねぇだろ!大佐が急に通信してくるのが悪いんだ!文句ならあっちに言えや!」
 いつもの調子で艦長と言い合いを始めた。この辺のやり取りは大尉の着任前と何ら変わりない。
「くそ…まあいい!集まったな?」
 そういって艦長はブリッジを見渡す。
「フジ中尉からの進言もあり、諸々の情勢もあり…。我々はコンペイトウを叩くことになった!まーた主力と違う作戦かと思うかもしれんが、今回はちょっと違うぞ…?とりあえずこれを見ろ」
 そういって艦長が手を挙げると、グレコ軍曹が慌ててスクリーンを映す。そこにはアンマン・グラナダから伸びるコンペイトウへの進路、そして別艦隊の進路。それらが別々の目的地からゼダンの門へと合流する様子が示されていた。
「この図の通りだ。エゥーゴは最終決戦をゼダンの門に定めた」
 艦長はその場に立ち上がると、鼻から大きく息を吐いた。
「決戦は宇宙ですか」
 ワーウィック大尉がスクリーンに注視したままこぼす。
「実際にどうなるかまではわからん。キリマンジャロ攻略も実行段階にきているが…。ただ、ティターンズも手をこまねいているわけではない。
 地上の連邦議会も実質連中が抑えたままであるし、グリプスでもなにやらやっている様子だ。我々の作戦はその辺の動きを鈍らせる目的も兼ねている」
 以前とは違い、随分と艦長も情勢に詳しくなったものだ。立場がそうさせる部分も大いにあるのだろうが、一度切った啖呵もある。あれから全力で戦っているのがわかった。
「出来れば今度の議会でティターンズがまたおかしな法案をでっち上げるより早く、戦力的にぶちのめしておきたい。地上も宇宙もどっちもだ!その片方を任されたんだぜ?もう裏方とは呼ばせねぇわな」
 グレッチ艦長も閑古鳥なりに思うところはあったのだろう。今は気概に溢れている。
「それで、具体的にはどう動くんですか」
 中尉は一応聞いてみた。
「エゥーゴは大きく3つの艦隊に分散する。1つは地上のカラバと連携してキリマンジャロを叩く部隊。主にアーガマのパイロット達だな」
 艦長は椅子に座り直し、ぐるりと椅子を回してスクリーンを背にした。
「そっちにバジーナ大尉も?」
 さっき話したばかりの話題だからか、珍しく少尉が口を挟む。
「ああ、ジオンは一旦放ったらかしだ。どうせ交渉も出来んしな。そっち側の牽制はまた別の部隊だ…例のアトリエ大尉達がそれをやる」
 艦長の口からその名を聞いて、彼女の目が少しギラついた。
「そして、残る部隊がコンペイトウへ向かう訳だな…」
 後ろからの声。皆が振り向くと、そこにいたのはロングホーン大佐だった。
「諸君…」
「警戒し、守る戦いはここまでだ。これからは打って出る。叩き、追い立て、息の根を止める」
 腕を組んだ大佐が、珍しくその口元に笑みを浮かべていた。

36話 打って出る
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2020/06/10(水) 15:09:38.45ID:A9l4MSXN0
 ロングホーン大佐はアイリッシュの面々の視線を受け止めながら話し始めた。
「今回の作戦からは攻めに徹する。このまま状況が膠着してしまえば我々は勝てん」
 カツカツと靴を鳴らしながら艦長の側へ歩み寄る。
「しかし、アンマンやグラナダの戦力はどうなるので?」
 フジ中尉だった。
「その点なら心配は及ばん。我々のスポンサーがうまくやるさ」
「…なるほど」
 察しが良いようだ。今エゥーゴが生産拠点のグラナダやアンマンを失う事で最も困るのはアナハイムである。
 この戦いの構図がなければ連中の商売もうまくいかなくなる。ましてジオン残党が台頭してくるとなると、今のままでは彼らも計画が狂うのだろう。死の商人とはよく言ったものだ。
「その関係もあってエゥーゴは今回艦隊戦力を増強して作戦に挑む。諸君は私の元でコンペイトウ攻略作戦において旗艦として働いてもらう」
 この作戦に失敗すればエゥーゴはここまでだ。大佐自身ももう基地に籠もっている余裕はない。
「諸君が思う以上に状況は切迫している。私が指揮を取り、現場の動きをグレッチ・ファルコン少佐が仕切る。これまでよりもダイレクトな指揮系統になったと考えてくれたまえ」
 そのまま詳しい予定を各員へ伝達すると、場を解散し持ち場へと戻らせた。
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2020/06/10(水) 15:10:04.84ID:A9l4MSXN0
「…まさか大佐がこの艦にお越しになるとはついぞ思ってもみませんでしたわ」
 頬を掻きながらグレッチ艦長が苦笑いしている。
「私自身もだ。もうデスクでふんぞり返っているだけでは居られまい」
 出港準備で慌ただしくなる周囲の様子をブリッジの窓から眺める。これまでは基地の方からこれを眺めていたものだ。
「この間の捕虜の件な…。久しぶりに痛みを感じて、つくづく私は鈍っていたのだと文字通り痛感させられたよ」
 そういいながら大佐は腕を擦った。もう痛みは引いたが、もっと精神的な何かが疼いたままだ。
「お怪我と捕虜と、何か関係が?」
「いや、気にするな。こっちの話だ」
 訝しがる艦長をよそに、大佐は思わず笑みが溢れた。自らの気が充実しているのを感じている。
「それはそうと…。パイロット達の様子はどうかね?コロニー落としの一件といい、アーガマの連中を退かせる時にも随分と働いてくれたが」
「ええ、よくやっとります。フジ中尉は相変わらず頭が切れますし、スクワイヤ少尉も最近元気ですしな。何よりワーウィック大尉がしっかりまとめてくれていますよ」
 彼らの働きは目を見張るものがあった。ニューギニア攻略でも戦功を立てた大尉はともかく、他2人を月の哨戒などに充てていた自らの見る目のなさに辟易するほどだ。
「経歴を見たときはいささか心配だったがな…。ジオン出身の隊長と、エゥーゴの癖にジオン嫌いの参謀。それに何よりあの娘は…」
「まあいいじゃねぇですか。あいつら自身の問題です。何だかんだハートも強いですよ、連中は」
 元々問題を抱えた人材だからこそ彼女を仕舞い込んでいたところはあった。まさかガンダムに適正があるとは思いもよらなかったが、彼女がパイロットというのも面白い話だった。
「これからの情勢如何では彼女も肩身が狭くなるだろう。しっかり支えてやれ」
「はい。この事を知っているのは私だけですからな。彼女自身、私が知っているという事は恐らく知りませんがね」
 それからも艦長と共に港を眺めながらいくつか言葉を交わした。
0834◆tyrQWQQxgU
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2020/06/10(水) 15:10:53.17ID:A9l4MSXN0
 暫しの休息も終わり、他の艦と作戦の会議を行ったりしているとまたたく間に時間は過ぎた。通信士のグレコ軍曹に支度をさせると、艦内へ通告を行った。
「聞こえるかな諸君。これより出港だ」
 一度言葉を切り、心なしか興奮している自分を抑えた。こんな形で基地を出るのはいつ振りか。
「…私は久しく現場を離れていたが、諸君の働きがあれば死ぬことはないと思っている次第だ。身勝手な理屈に聞こえるだろう。そう思ってもらっても構わん。
 ただ、これは信頼の証だと受け取ってもらえると私は嬉しい。諸君の力を持ってすればこの作戦、必ずや成功するだろう。私の命は皆に預ける。その代わり、私が諸君の未来を預かろう。…励んでくれたまえ」
 通信を切った。振り返ると、艦長がぱちぱちと手を叩いている。
「いやはや、お上手ですな大佐」
「君のおべっかが心強く感じたのは初めてかもしれんな」
 恥ずかしそうに頭を掻く艦長。案外、この艦で1番変わったのは艦長かもしれない。少し前なら彼の評価はただの腰の低い親父だったろう。
「これから苦労も余計にあるだろうが、よろしく頼む」
「いやいや、大佐がおられればクルーにももう少しまともな指示が出せますよ。私も安心できます」

 港のゲートが開き、月面と宇宙のコントラストが水平線を描くのが見えた。海底から水面を目指す魚の様に、艦はゆっくりとその腹を岩場から離していく。
 宇宙は膨張を続けているという説もあるが、ならば我々はいつまでたってもこの海を泳ぎ続けるということだろうか。終わりのない潜水を続けながら、その片隅で喧嘩をするくらいしか能が無いちっぽけな魚だ。
 できることならば、少し先の未来が見てみたい。その思いをこの海が汲み取ってニュータイプなる人種が生まれたのなら、それも1つの道理だ。我々には自らを変える力がある。適応し、進化していくのだ。
 星が点々と瞬く宇宙に艦を進めながら、ロングホーン大佐は瞼を閉じて自分の感傷に別れを告げた。そうして再び目を開けた大佐には、もう作戦の事しか頭に無かった。襟を正し、今後自室となる執務室へと向かった。

37話 適応
0835◆tyrQWQQxgU
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2020/06/10(水) 15:11:26.30ID:A9l4MSXN0
 ソニック大尉は自らの乗機の前で腕を組み物思いに耽っていた。
「…ガルバルディが恋しいですかな」
 そう言いながら大尉の方へ歩いてくるレインメーカー少佐が目に入る。
「いえ、確かに思い入れはありましたが。この機体は更に上を行く機体ですよ」
 原型を留めなかったガルバルディ隊はその後、試験データを一部取り直したところで全機解体となった。死傷者が出た試験部隊もまた、再編成がなされたばかりである。
 ソニック大尉は新たな機体を見上げた。ゼク・アインと呼ばれるその機体は、かつてのジオン公国において基礎設計がなされた点においてはガルバルディに通ずるものがある。
「ペズン駐留の教導団がテスト運用している機体を回してもらったと聞きましたが、信用出来るんでしょうかね」
 髭に手を添えながら訝しむ少佐だったが、この機体の完成度はそれを払拭するだけの説得力があった。
「私はどうも細身の機体が苦手でして。こういうガッシリとした機体にこそ安心感を覚えます。全重を支える骨格と、それを覆う強固な装甲。ムーバブルフレームを発案した開発者は人体への敬意を忘れていない様で感心致します」
「そうか…」
 やや呆れ気味に少佐が笑う。そろそろ老齢になろうという彼だが、いささか筋力が足りていない様で心配になる。
「少佐、もしお時間がある様でしたら一緒にトレーニングでも?」
「いや、私は野暮用があるのでね。それに大尉のトレーニングについていける自信もありませんでな」
 そういってレインメーカー少佐はそそくさとその場を後にした。ソニック大尉は仁王立ちで後ろ姿を見送った。
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2020/06/10(水) 15:11:53.97ID:A9l4MSXN0
 機体のチェックをひと通り終えた大尉は、いつもの様に病室へと向かった。
「あ、ラム!」
 退屈そうにベッドで雑誌を読んでいたオーブ中尉が飛び起きた。
「おっとと…」
 ベッドから立ち上がった彼女だったが、ややバランスを崩してベッドの枠を掴んだ。
「あまりはしゃぐな。まだ万全じゃないだろう」
「もう大丈夫だって医者も言ってるわよ。ぼちぼち復帰ね」
 そう言って笑う中尉だったが、ソニック大尉は複雑な心境だった。
「中尉はもう戦わなくていい」
「あたしが片腕じゃ使い物にならないって言うんでしょ」
「…そうだ」
 その場に立ち尽くしてムッとしている中尉を尻目に、近くにあった椅子へ腰掛けて俯いた。
「フリードも失った。俺は…これ以上仲間が傷付いていくのを見たくない」
「何メソメソしてんのよ。こうしてる間にも大勢が戦ってるわ。戦ってる分はまだいいわよ…戦う術がない人々もそれに巻き込まれてる」
 中尉の言う通りだった。しかし、彼女もまた戦う術を失った1人ではないのか。
「…あたし、裏方で出来ることやろうかと思う。別にMSに乗るだけが戦いって訳じゃないわ」
 静かな彼女の声を聞いて、大尉はゆっくり顔を上げた。
「それがいい。」
 いつもより聞き分けの良い中尉に若干の違和感がありつつも、しばらく話してからソニック大尉は病室を後にした。
0837◆tyrQWQQxgU
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2020/06/10(水) 15:12:40.19ID:A9l4MSXN0
「これからのことは聞いた?」
 通路で向かいから歩いてきたのはウィード少佐だった。元より軍人にしては比較的細身だった彼女だが、コンペイトウに来てからは前にも増してやつれて見えた。
「聞いたよ。オーブ中尉とも一旦お別れだな」
 そういって大尉は腕を組み、壁にもたれた。
「彼女の為よ。人員の補充はあるけど、新しい部隊長はラムで正解よ」
「俺が隊長か?柄じゃない」
 思わず大尉は溜息をついた。抗うつもりも無かったが、とはいえ納得したわけでもなかった。
「…もうフリードは居ないんだから」
 小さく零したウィード少佐の目に、光は失せていた。
「わかってる。俺なりにしっかりやるさ。まあ…新入共を戦える身体に鍛えるのは俺にしか出来んからな」
 そういって笑ってみせた大尉だったが、彼女は力なく笑うだけだった。
 無理もない。先日のコロニー落としの一件で、この部隊は艦ごと左遷が決まったのだった。オーブ中尉はゼダンの門でリハビリを兼ねて別の部署へ、そしてアレキサンドリアはもうじきコンペイトウへ正式に異動することになっている。
 シロッコ大佐麾下の技術試験部隊としての役目もそれに伴い終了し、文字通りお払い箱にされた様なものだった。疑いを少しでも晴らす為とはいえ、これではトカゲの尻尾切りではないか。
「しかし、ジオンの残党共が動き出してるんだろう?いくらなんでも俺達をコンペイトウなんかに回してる余裕があるのか?」
「上層部がうまく立ち回ってる。一時的に手を組んだなんて話も聞いたけど…信じられないわね正直」
 ティターンズは一体何処へ向かっているのか。それを良しとするジオンもジオンである。もう何が何だかわからなくなりそうだった。
 そのまますれ違う様にして背を向けたウィード少佐を見ながら、ソニック大尉は拳を握りしめた。
「…エゥーゴ…ただでは済まさん」
 小さく独りでこぼすと、彼もまた歩き始めた。
0838◆tyrQWQQxgU
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2020/06/10(水) 15:13:31.28ID:A9l4MSXN0
 トレーニングの為自室へと向かう最中、レインメーカー少佐が若い男と話しているのが目に入ったので声を掛ける。
「少佐、彼が…」
「そうですよ。新しく配属になった…」
 言いかけた少佐を遮るように若い男は前に出て姿勢を正した。短く切り揃えられた赤髪と、何処か見たことのある目元をした男だった。
「ステム・オーブ少尉です。まだ配属には1日早いですが、ご挨拶だけでも」
 そういってにこやかに笑った彼だったが、どうにも目が笑っていない様に思えた。
「む…?」
 首をひねったソニック大尉に気付いてか、彼はまた口を開く。
「リディル・オーブは私の姉です。まさか同じ隊に入れ違いで配属になるとは思ってもみませんでしたが」
「おお、どおりで。目元が姉上とそっくりだなあ。軍属とは聞いていたが、2人揃ってティターンズのMSパイロットだったとは。…彼女には会えたか?」
「ええ。…あんな姉でも、覚悟を決めて戦っていたはずです。私も同志である大尉に恨み辛みをいう気はありませんよ」
 ステム少尉は軽く息を吐いて腰に手を当てた。
「まあ、これからは彼女の分も弟君が働くということだ。ビシバシ鍛えてやってくれますかな?」
 レインメーカー少佐が人差し指を立てながら言った。
「…では、私はこれで。エゥーゴを叩きのめすには時間が惜しいのです」
 そう言うと、少尉はスタスタと去っていった。
「いささか肩に力が入っている様だが…まあ無理もないか」
「マッサージでもしてほぐしてやってください。大尉はそういうの得意でしょうからなぁ」
 ステム少尉の背を見つめながら、2人はその場に立ち尽くしていた。

38話 トカゲの尻尾切り
0840通常の名無しさんの3倍
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2020/06/13(土) 08:29:18.00ID:P68Y1z0m0
お疲れ様です!
ちょっと立て込んでたので、2弾まとめて読ませてもらいました。
アクシズの地球圏接近を素直に好機と見るスクワイヤ...この人、戦闘時はともかく普段は先のことあまり考えてないんじゃ?w
まさか資源衛星1玉の勢力でダカール制圧までやってのけるとは思いませんよね(持続できなくて一月ちょいで撤退したけど)

大尉はハマーンのこと知らないんですね。
まぁぶっちゃけ日本国民も皇族全体を網羅してる人はそういないでしょうし、お付きの家系となれば尚更です。
何故クワトロがって、ロングホーンは内心参謀本部から疎まれてそうですし
ブライトは政治家って柄じゃないですからね(シャアも大概だろとか言わないw)

仮に艦長の推察がフラグだとすると、今度はアクシズに抜けていっちゃうキャラが出るんですかね?
「ぐ、グレコ軍曹!何を......ぐわぁっ!!」(多分こうはならない)
アーガマと代わりばんこって表現なんか好きです、やっぱチーム戦ですね。
ムサイ改キターーッ!! こやつのエンジン左右の羽がアレキサンドリアやエンドラに受け継がれ
最終的にムサカの、そしてクラップやラー・カイラムの特徴的放熱板になるのはロマンですねグヘヘ(性癖)。
そこから出てくるのはハイザックと、モブ敵機に堕ちたガルバルとぉ......バーザム!!
変な鶏冠呼ばわりされつつも動きがいい辺り、TV本編より活躍してくれるのでしょうか。ちょっと期待?(何故か疑問系)

少尉、もはやここにいないアトリエに嫉妬するw いいぞいいぞ!
疲れながらも動きがキレキレになっていくって分かりやすい死亡フラグですから
彼女には今後ともワーウィックをフォローしてほしいですね。
ガザCは不気味...目元はエゥーゴでお馴染みリック・ディアスと同じですし、ピンクの軍団とかキモっ!って感じでしょうか?w
本編だとアーガマ接触時スフィンクスみたいにMA形態で見張りをやってたのが印象的でした

おっ、ついにゼダンの門ですか。
あの壮大な破壊行為はジオン時代から旧式だったチベの改良モデルと
アーガマとの共通項も見られるアナハイム製輸送艦が一緒くたに潰されてるのが印象的でした。
わらわらと出ていく灰色のサラミスも、らしくなくて見ものでしたね!(熱いティターンズ叩き)
会話パートを多く入れることで、この辺の情勢はTVシリーズより見やすくなってていいと思います

そして今度はコンペイトウ、爺たちのアレキサンドリアが今度は出待ちと。
キリマンジャロ、ゼダンの門、アンマン、グラナダ...世界観の拡がりを感じる一方でコロニーレーザーの話が来ないのが何とも不気味です。
アトリエ大尉はまた(この時点では)マイナーな戦線に投入されるんですね、ご武運を。
月面都市はアナハイム側で上手くやる...ウォンさんが乗ってたような武装MWで部隊編成でしょうか?w
大佐乗艦キターーッ!! 戦場の空気云々も大概な死亡フラグ(ジュガン指令)ですが、気持ち的には生き残ってほしいです。
とりあえずスクワイヤは、これまで人殺しエキスパートとしてのニュータイプには見られていなかった、と。
ロングホーン大佐も中々のロマンチストですね

筋肉式ガルバルディγに代わってゼク・アインだと?!
ピッタリだと思う反面、万能機のコンセプトは先日撃墜されたβを思い出して少し不吉に思います。
しかしつくづくジオン系MSを扱う反ジオン組織ですね、ティターンズは(苦笑)。
オーブ中尉は裏方、良い兆し...なのか?
「騙されんぞ(黄色いレインコートのクソガキ並感)」

なんだぁ、新入りは男なのか(期待して損したような顔)。
彼は何に乗るのか(ニュンペーにゼク・アインだから青系でしょうか)、パイロットとしてどんな適性があるのか
一先ず力み過ぎて即墜ちするなよと!

続き楽しみにしています!
0841◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 17:21:57.71ID:5skNxF910
>>839
>>840
いつもありがとうございます!

まあ中尉にツッコまれてる通り、スクワイヤは戦略的な視点は持ち合わせていません。笑
普通に考えればティターンズの立ち位置は歪ですしね…

ワーウィックは長いこと地球に居ましたので、恐らくアステロイドでのいざこざには疎かったのだと思います。
思想的にもネオ・ジオンは嫌いでしょうし…
あとダカール演説前なので一般兵はシャア=キャスバルだと知りません。クワトロ=シャアまでは普通にバレてるでしょうけど笑

クルー達の会話は基本的には色んな伏線になる様考えています。
この章での伏線とは限りませんが…!
個人的にはバーザム好きなんですよね…笑
早くMG出ないかなと祈っています笑

ワーウィックやスクワイヤはNT的な進化はしていないので、技量で魅せてほしいなと。
ガザCがあの色で群れてると思うと…ゾッとしませんか?笑
虫みたいです…笑

戦いの流れが終盤に向かっているので色んな拠点が出てきます。
勿論コロニーレーザーも出てきますよ!お楽しみに…
0083でもそうでしたが、戦わずとも戦局を動かしているのがアナハイムかなと。
対立構図を維持する様な駆け引きをやってくれることでしょう。

ロングホーン大佐はいつ引っ張り出すか悩んでたのでようやくです。笑
ここから彼も物語にもう少し深めに関わっていきます。

ゼクアインもかっこいいですよねー…笑
ムーバブルフレームが優れている設定もありますし、ドレイク大尉の意志を引き継ぎつつも彼らしいかなと。
オーブ中尉のことは弟共々見守っていてください。笑
0842◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:21:31.61ID:5skNxF910
 スクワイヤ少尉は自室から外を眺めていた。機体の整備は万全で、後は哨戒中の部隊の報告待ちである。
「…月があんな遠く。こんなとこまで来ちゃった」
 小さくなった月を眺めながら、更に遠い惑星…地球へ想いを馳せた。彼女は地球のことをまるで知らない。生まれは地球だったのだが、物心付いた頃には宇宙にいたのだった。
 母とコロニーで暮らしながら、たまに帰ってくる父のお土産がいつも楽しみだった。

 父は地球で仕事をしていた。大きくなったら地球の美しさを見せてやりたいと、何度言われたかわからない。土の匂い、雑味のある空気…そのどれをとっても彼女には想像の及ばないものだったし、今もその感覚を知らない。
 そんな父とも久しく会っていない。彼女が軍に入ると言ったとき、最も反対したのは父だった。
 入隊の為に両親の経歴を知っり、父の仕事が地球連邦軍での仕事だと知ったのもその時のことだ。親の仕事を知らぬまま育ったこと自体、今にして思えば不自然だったのだが。
 軍人というのは勲章の付いた制服で華々しく凱旋するものだと思っていたが、彼女の父はそうではなかった。
 軍服姿を見たことは無かったし、いつもビジネスマンの様な出で立ちで帰宅していた為全く気付けなかった。母も、父が軍人であることを口にしたことはない。
 話はもつれ、半ば絶縁の様な形で家を飛び出し連邦へ身を寄せた。宿舎もあり生活には困らなかったが、結局思っていた様な劇的な変化に富んだ生活ではなかった。父の手回しだったのだろう。
 何故か丁重に扱われ、MSパイロットとしての適性を認められたにも関わらず任務に従事することもまともに無かった。退屈な生活から抜け出したい、あわよくば華々しく意味のある死を享受したかった彼女だが、そんなものには当然巡り会えぬまま。
 ティターンズの横暴が目に付くようになり軍内でもその賛否が議論される中、彼女はエゥーゴへと走った。退屈だったのだ。ただ、それだけだった。
 エゥーゴに来てからというもの、やることは山積みの組織ということもあり充実感があった。しかししばらくすると月の哨戒に回された。また元の様な生活に逆戻りである。
 この時にグレッチ艦長やフジ中尉とは出会った。フジ中尉は今よりだいぶとっつきにくい男だったが、グレッチ艦長は当時から何かと世話焼きだったのを覚えている。
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2020/06/17(水) 18:22:09.93ID:5skNxF910
「…入っていいか?」
 扉の向こうからワーウィック大尉の声がした。
「どうぞ!」
 何となくソワソワして、バタバタと彼を出迎えた。彼が着任してからというもの、クルー達の印象はガラリと変わった。頼り甲斐があったし、他の連中の様にやさぐれていなかった。しかし、何となく陰る瞬間があるのを彼女は時折目にしていた。
「落ち着かなくてな。ソロモンを攻めるなんて、昔の自分が知ったらなんて言うかわからん」
 入室した大尉がそう言って自嘲気味に笑う。フジ中尉との一件やアクシズの件もあり、やはり堪えている部分もあるだろう。彼に椅子を寄越し、スクワイヤ少尉はベッドに腰掛けた。
「そうですよねー。大尉って、何でエゥーゴに入ったんです?」
「んー…。そうだなぁ」
 火傷の後を軽く指でなぞりながら少し言葉を濁した。彼は言葉に困ると大体その仕草を見せる。
「言いたくないならいいんですけど」
「いや、ジオンにいた時の自分が情けなかっただけだ。そういう自分や、もっと情けないティターンズが許せなかったからかな、エゥーゴに来たのは」
 彼の言葉を聞きながらドリンクを冷蔵庫から取り出す。
「ジオンにはお友達とかいないんですか?」
「いない事はないが、随分と少なくなったよ。地球に親友がいるが、当分会えそうもない」
「地球かぁ」
 大尉にドリンクを手渡しながら、画像や映像でしか見たことのない地球を思い浮かべた。
「地球ってどんなところなんです?生まれた場所なのに記憶になくって」
「地球は…不思議な場所だよ。何かと振り回されるというか、コロニーの様に整然としちゃいない。人間の所有物というよりは、人間もその一部なんだなと思わせるような…。すまん、難しいな説明するのが」
 大尉が笑った。依然イメージは沸かないままだ。
0844◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:22:34.77ID:5skNxF910
「…大尉、もし良かったらですけど…」
「ん?何でも言ってくれ」
 彼からの眼差しが真摯で、思わず目を逸した。
「その…この戦いが落ち着いたら…なんていうか…一緒に地球に行きませんか?…あ!いや!一緒に暮らそうとかそういうんじゃなくって!ほら!行ってみたいなあ…っていうか…」
 しどろもどろになりながら尻すぼみになってしまった。
「…そうだな、行こうか。会いたい人が沢山いるしな」
「言ってた昔のお友達ですか?」
「それもそうだし、前の戦線で一緒に戦った連中が今も地球にいるからな。また会おうって約束はしてたし、良いタイミングになるかもしれん」
「あの…彼女さんとかそういう…」
「?…ああ、俺はそういうのはからきし…」
 言いかけたところで呼び出し音が鳴る。
「すみません」
「いや、気にするな」
 間の悪さに内心舌打ちしながら応答した。
0845◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:23:06.79ID:5skNxF910
「はーい」
「なんだその返事は!大佐だったらぶっ飛ばされてるぞ」
 グレッチ艦長だった。相変わらず空気の読めない親父だ。
「で?なんです?」
「お前…。いや、哨戒部隊が戻ったからよ。多分ゲイルちゃんが1番暇してるだろうから掛けてみた」
「失礼な。事実ですけど」
 少尉がぶすくれていると、ワーウィック大尉が割って入った。
「私も暇してますよ、艦長」
「あれ?なんでそこに大尉が?ま…まさか…」
 何故か艦長がわなわなしているのが通信越しにわかる。
「大尉!後で話は聞かせてもらうからな!一緒にブリッジに来い!い…いや!別々に来い!」
「なんでわざわざ別々に行くんです」
「ゲイルちゃんは黙ってろ!全く…最近色気ついてると思ったらそういうことか!」
 思わず顔が熱くなる。
「いやいや、艦長、多分何か思い違いを…」
「いーや!俺は言い訳は聞かんぞ!軍法会議ものだ!俺が審議して俺が判決も出してやるからな」
「さっき話聞かせろって…」
「うるせえ!」
 ワーウィック大尉の静止も聞かず、艦長が怒り狂っている。
「ええい、何でもいいからブリッジだ!作戦指示を出す!」
「「り…了解…」」
 あまりの勢いに圧倒されたまま通信は切れた。その可笑しさに、2人は一緒に笑い声を上げてしまった。
「はあ…。行こうか」
「はい!」
 やや呆れ気味の大尉に付いていく様にして、少尉もブリッジへと向かった。地球に行くならどの辺りが名所なのだろうかと、ぼんやり考えていた。

39話 地球
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2020/06/17(水) 18:24:06.15ID:5skNxF910
「何?エゥーゴだと?」
 執務室で報告を受けたウィード少佐は声を荒くした。正式にコンペイトウの部隊に組み込まれ、まだ公表されていない戦略兵器開発の支援などを準備するところであった。嫌なタイミングだ。
「それも、そこそこの規模でこちらに向かっているようですな。敵の哨戒部隊を追跡したところ、敵艦を数隻確認出来ました」
 口髭を触りながらレインメーカー少佐が言う。
「まだ他の将校たちは知らないのですか」
 身を乗り出したウィード少佐だったが、一度腰を落ち着かせながら言った。最近感情の起伏が激しい様に思う。
「ええ、私の個人的な情報です」
「個人的な情報…?」
 レインメーカー少佐はたまにそういうことを言う。まるで他に手勢があるかの様な言い方だが、未だ謎の多い男だ。
「この拠点に来てから、私も手を尽くしておりますよ。コンペイトウの哨戒部隊は私が抱き込んであります」
「何故そんなことを?」
 問うと、彼は唇を噛んだ。
「…汚名返上の為です。シロッコ大佐の疑いが晴れぬままではシロッコ麾下部隊の名が廃ります」
「…」
 何も言えぬウィード少佐は俯いたまま立ち上がった。レインメーカー少佐が裏で動いている間、私はただ拗ねていただけではないか。
「…単独作戦のご指示を。あくまでも威力偵察と言ったところですが…。ここで敵を足止めし、警戒させることで時間が稼げましょう。
 キリマンジャロの放棄とコンペイトウ陥落が重なるともなれば、如何にティターンズといえども盤石では無くなります。それだけは避けねば」
 レインメーカー少佐の言葉に、彼女は顔を上げた。キリマンジャロ基地の放棄については近々為されると聞いている。まだ現場の兵の多くは預かり知らぬことである。少しでも多くエゥーゴを道連れにして地上から宇宙へと戦線を移行したい考えだ。
 ジャブロー、ニューギニア、キリマンジャロ…。地上拠点を尽く手放すのには何か理由があるのか。ジオン残党との協力といい、今のティターンズの進み方は幾らか歪になりつつある。
「わかりました。…まだ連中にグリプスの件を知られる訳にはいかない。近付かれる前に出鼻を挫き、我々の戦力を友軍に知らしめる良い機会でもあります。…陰口など今のうちに好きなだけ叩かせておけばいい」
 そう伝えると、満足そうに彼は頭を下げた。退出していく姿を見送るでもなく、ウィード少佐はアレキサンドリアの乗員達に戦闘配置の指示を出した。裏切りの汚名はここで晴らす。
0847◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:25:05.53ID:5skNxF910
「出撃だな?準備はいつでもいいぞ!」
 執務室を出て格納庫へ向かう彼女と並んで歩くようにソニック大尉が後ろから現れた。
「ええ。ステムはどう?」
 アレキサンドリアには新たにオーブ中尉の弟が部隊に加わっていた。中尉は今頃ゼダンの門に着いた頃だろうか。
「多少自信家の様だが、腕は確かだ」
「リディルと一緒ね。センスがあるのよ。…今回は私も出る」
 今回の様な単艦行動だと、ドレイク大尉の穴を埋める為にウィード少佐自身も出る必要があった。連携自体は隊長であるソニック大尉に任せる。
「ニュンペーの調子はどうだ?データのフィードバックは済んだんだろ?」
「ガルバルディのデータのおかげで改修も進んだわ。パラス・アテネもいい機体に仕上がるでしょうね」
 改修を重ね、ニュンペーはデータ上殆どパラス・アテネと同じ機体性能と言ってよかった。特にγは優秀な近接戦闘データが取れたらしく、シロッコ大佐の専用機にも技術が転用されると聞いている。

「ステムはどの機体に?」
「私ならご心配なく」
 格納庫でステム・オーブ少尉が出迎えた。髪が短くなければもっと姉に似ているだろう。
「機体ごと転属を許されたのは幸いでした。おかげで最低限の訓練で馴染みましたから」
 そういって彼が見上げた先には、見覚えのある機体があった。
「これは…シロッコ大佐が関わっていた…」
「ええ。ガブスレイです。払い下げを貰ったばかりだったので、特別に大佐から許しを頂いてこちらに搬入しました」
 昆虫を思わせる独特なフォルム、そして可変機構を備えた構造は一般兵の扱える代物ではない。大佐が彼を目に掛けたのも納得出来る。そしてその彼を配属にしてくれたあたり、まだアレキサンドリアは見捨てられた訳ではないのだと安堵する気持ちも湧いた。
「連携は取れるのね?」
「はい。大尉にひと通り仕込まれましたからね」
「生意気言うな。まだまだその細腕では完璧には程遠い!」
 ソニック大尉の指導にも熱が入っている様だ。当のステム少尉はあまり堪えていない様子だが。
0848◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:25:39.34ID:5skNxF910
「よし…新しい編成で行くのは初めてだ。各員気を抜くなよ」
「「了解」」
 ソニック大尉の声を受けて、皆それぞれの乗機へと急ぐ。ニュンペーを除く2機はまだ実戦慣れしていない。ある程度のカバーが必要だろう。
 少佐は手慣れた動作で機体を動かす。ニュンペーに続いてゼク・アインが、そしてガブスレイが出撃準備に入る。
『選り取り見取りになりましたな!こないだまでガルバルディだらけでしたから…新鮮です』
 レインメーカー少佐がブリッジから通信を入れてきた。今回のアレキサンドリア運用は彼に一任してある。
「機体性能の平均値にバラつきはない筈です。いずれもティターンズ指折りの機体ですからね」
『わかっておりますとも。ご武運を』
「ウィード少佐、ニュンペー出るぞ」
 先頭を切って少佐はカタパルトから飛び出した。ここで戦果を挙げねば死にきれたものではない。そんな逸る気持ちを抑えるには、彼女はいささか平静さに欠けていた。

40話 単独作戦
0849◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:26:12.22ID:5skNxF910
『やはり哨戒部隊のカンは当たった様だな』
 ワーウィック大尉の言うとおり、敵が出てきていた。スクワイヤ少尉はそれをモニターで目視しながら指で撫でた。
 大尉と一緒に居た件で勝手に怒っている艦長からブリッジで作戦指示を受け、各員コクピット内で待機しているところだった。
 哨戒部隊は敵の追手に感付き、敢えてアイリッシュに誘導していた。連中が引き返している間に僚艦達は進路を変え、敵の手薄になった拠点を叩く手筈になっていた。
「うまくいきましたね!これなら私達が囮になってる間に少しは敵を家から締め出せるかも」
『そうなればいいが…どうも敵は戦力を小出しにしてきている様だな』
 フジ中尉はまだ敵の出方を伺っている。確かに思ったほど釣れていない。
『とにかく…奴らの相手は我々だ。行こう』
『「了解」』
 いつもの様に百式とマンドラゴラを両翼につけ、やや後方から中尉のネモがついてくる。
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2020/06/17(水) 18:26:36.17ID:5skNxF910
『この辺りのデータはあまり入っていないんじゃないか?中尉』
『ええ、残念ながら。デラーズによる観艦式襲撃の際のデブリも未だに多いですからね』
 2人の言うとおり、中尉のネモは月面周辺の様にはデータの観測を出来ていない。多少手探りにはなるだろう。
『前方に敵影3つ。…流石はネモだな。敵とデブリの判別が早い』
 基本は有視界戦のMSだが、視界に入る情報解析という点ではかなりの技術進歩がある。捉えた物体のモデリング作成とデータ比較などを瞬時に行えるよう、中尉の機体は特別なチューニングが施されている。
「何が居るんです?」
『これは…未確認機体とガブスレイ…それから…例の試作機?』
 腐れ縁というのか。まさかここでも出くわすとは。
「あの水色、行く先々に居ますね…やっぱ量産型?」
『いや、詳細データは未登録のままだ』
『手合わせすれば同じやつかどうかはわかる!こっちから仕掛けるぞ』
 ワーウィック大尉が右に飛ぶのを確認して、少尉は左から敵に回り込んだ。
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2020/06/17(水) 18:27:13.36ID:5skNxF910
 敵に気取られるより先に左右へ取り付き、デブリの影に隠れた。敢えて中尉のネモはセンターを取り、そのまま解析を続けながら囮になる。
『気付かれました。こっちに来ます』
 中尉が威嚇程度に射撃を行う。敵もデブリをうまく利用しながら距離を詰めてくる。
『よし、そろそろ横っ腹を叩く。いいな?少尉』
「いつでも!…って、え?」
『まずい!』
 中尉の声とほぼ同時に、少尉の隠れていたサラミスの残骸が動いた。それを持ち上げるようにして現れたのは、青い装甲の大型機だった。こちらに気付いて1機だけ進行方向を変えたらしい。
「でかい…!」
 驚いたのも束の間、敵はそのまま残骸で殴りつけてきた。飛び跳ねる様にしてそれを避けると、距離を取りながらライフルを向ける。しかし敵は間髪入れずにミサイルランチャーを面で発射してきた。
「ばっ…反則よこんなの!」
 ホーミングしてくるミサイル群を躱しながら、デブリで防ぎつつ状況を確認する。残りの2機を大尉達が牽制している様だが、明らかにガンダムを狙った動きを見せていた。
 やや離れた地点に出てきてしまった少尉だったが、ガブスレイがそれすら追ってくる。
「TMSってやつか…速い」
 敢えてデブリの残骸の中を無軌道に進むが、敵は難なく付いてくる。敵のビームがマンドラゴラの頬を掠った。
「顔直したばっかなのよ!もう!」
 転身した少尉は、ガブスレイを迎え撃つ態勢を取る。しかしその時背後に気配を感じた。
「…!水色ッ!」
 敵のビームサーベルをシールドで受けようとしたその時、敵はサーベルを逆手に持ち替えてそれを避けた。
「こいつ…あの時の…!」
 その動きは、ガルバルディを仕留めた時の少尉と全く同じだった。そのまま繰り出されるサーベルの横凪ぎを交わしきれず、脇腹に斬撃を受けた。間一髪コックピットは避けたものの、明確な被弾だった。
『ちぃ…!』
 僅かに遅れて大尉の百式が薙刀を振るう。間合いが足りない敵機はそれを受け止めず更に距離を取った。
『大丈夫か!少尉!?』
「私は大丈夫です。ただ機体制御が少し…」
 言い終わらぬ間に先程の青い機体が迫る。察知した大尉が間に割り込んだ。ビームサーベルを抜いた敵機に対し、百式も薙刀を短く構える。両者の刃が交差し、力場が反発する際のスパークが煌めいた。
『やるな…!』
 鍔迫り合いになった大尉の足元からガブスレイが急接近する。
『だが、甘い』
青い機体を押し退けた大尉は機体を宙返りさせると、更にガブスレイとのすれ違いざまに蹴りを見舞った。可変機故か、AMBACが利かないガブスレイはそのままデブリに衝突した。
 大尉はそれ以上追撃せず、少尉の傍に付いた。中尉のネモが取りつこうとする敵機を牽制する。
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2020/06/17(水) 18:27:36.35ID:5skNxF910
「こいつら、機体は違うけど…」
『ああ…間違いなく試験部隊の連中だ』
 やや呼吸を乱しながら大尉が言った。
 敵も乱れた隊列を組み直す様にして小さくまとまった。ガブスレイも可変してMSの姿を見せながら、デブリを手で退かす。その傍に降りた水色の機体。そしてその2機の前に壁を作る様にして、青い機体が立ち塞がる。
 暫しにらみ合う様にしてどちらの陣営も動きを止めていた。
『大尉、僚艦からアイリッシュへ通信があったようです。敵は全く布陣を変えていないとのこと…』
『何だと?ではこいつ等は単独で…?』
『作戦が裏目に出ましたね…。これ以上付き合っても意味がありません』
『…しかし…』
 今回は敵の方がうまくやった様だ。しかし、ここで逃がす道理も無い。
「私ならまだやれます!」
『いや、このままの長期戦はこちらが不利だ…。地の利も敵にある』

 すると敵部隊はゆっくりと距離を開け始めた。じわりじわりと牽制する様にも見えるが、時間を稼いでいる様にも思える。
『戻りましょう。敵も消極的です』
「でも!やられっぱなしです!」
『少尉、まだ前哨戦だ。そう焦るなよ』
「む…」
 そうこうしている間に敵も少しずつ引いていく。一定の距離が取れたところで両軍母艦へと退いた。
『また消化不良だな』
 撤退しながら大尉がこぼす。前回の鶏冠戦でも敵を殲滅しきれなかった。
「でも前哨戦ですもんね、次はぶちのめします」
『切り替えが早いのは良いことだ。忘れっぽい所もたまには役に立つ』
「中尉、それ褒めてます?」
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2020/06/17(水) 18:28:04.24ID:5skNxF910
 アイリッシュに帰投すると、メカニック達が直ぐに機体の補修に取り掛かった。各機消耗はいつものことだが、マンドラゴラのダメージはやや大きかった。
「危ないところだった。こうして見るとなかなか傷が深いな…」
 少尉が機体を見上げていると、大尉がやってきた。マンドラゴラは腹部横の装甲が大きく融解し、内部の回路も一部損傷している。
「あの敵…私と同じ動きをしたんです」
「本当か?もしそうなら、かなり優秀な学習コンピュータを内蔵しているのだろうな」
 不思議な感覚だった。同じ戦術を取ったというよりは、癖もそのままにトレースされたという印象だった。自身のシミュレーションのレコードを見ている気分に近い。
「もしそうなのであれば…大尉のデータも取られているでしょうね」
 フジ中尉が合流してきた。
「私のデータに汎用性があるとは思えんがな。薙刀しか遣わんのだし」
「モーション自体をトレースしていれば、他の動作への応用は可能かもしれません。回避運動などはそのまま転用できるでしょうしね」
 ワーウィック大尉の動きまで取り込んでいるとなるとなかなか厄介だった。機体が違うとはいえ、相手も恐らくワンオフの機体だ。下手をすると場合によっては敵の方が動きが良くなる可能性すらある。
「戦う度に手強くなるとはな…」
 大尉が腕組みをして唸る。
「でも、逆に言えば敵はその場では対策出来なかったりするんですよね?だったらやりようはありますよ」
「良いことを言うじゃないか。腹を切られた割には」
「中尉、やっぱり褒めてないですよねさっきから」

41話 トレース
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2020/06/17(水) 18:29:32.32ID:5skNxF910
「いやはや、お見事です」
 帰還したウィード少佐達をブリッジで出迎えたのはレインメーカー少佐だった。
「…情報とは違いましたがね。敵もこちらの動きを読んではいたようですよ」
「そうはいっても、目的通り敵の足止めが出来ただけ上等です」
 彼はウィード少佐の懸念を気にする様子もないが、正直紙一重だった。敵も奇襲を考えていたから良かったものの、これでもしエゥーゴがウィード少佐達の殲滅を優先していたならば…今頃どうなっていたかわからない。
「私は…もっとうまくやれるつもりでした」
 唇を噛んでいるのはステム少尉だった。
「…いや、上出来だ。あのバッタは尋常ならざる敵と言っていい。あれに落とされなかっただけお前は見込みがあるよ」
 そういって少尉の肩を叩くソニック大尉だったが、彼も表情はやや暗い。

「…それで、状況は?」
 ウィード少佐はスクリーンの方へ歩みを進めながら訊いた。
「エゥーゴは再び艦隊を合流させて正面に陣取っております。これでお互いに腹の中は割れた様なものですな。今は膠着しております」
 飄々としているレインメーカー少佐だが、この戦況を作り出したのは彼と言っていい。老獪な男である。
「上は何か言ってきましたか?」
「"ご苦労"とだけ」
「ふん…内心どう思われているかはわかりませんね。独断専行に変わりはない」
「拡げた風呂敷です。勝てば官軍とも言いますから」
 ニコリとしてみせたレインメーカー少佐だったが、ウィード少佐は背中を伝う嫌な汗を止められなかった。
「勝てば官軍…負ければ賊軍ですか。シロッコ大佐からは何も?」
 ステム少尉が口を挟む。彼も落ち着いて居られないようだ。
「何も。…まぁ今は状況が状況ですからな。内通を疑われている以上、我々は我々でやるしかありません。オーブ少尉とガブスレイ、ソニック大尉のゼクが届いただけでも良しとしましょう」
「…致し方ないか」
 ソニック大尉も腕を組んだ。
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2020/06/17(水) 18:30:06.96ID:5skNxF910
 その場を解散し、ウィード少佐はレインメーカー少佐と共にブリッジに居残っていた。パイロット達には少しの補給の後、機体に待機させている。
 しかし、あまり間を置かず戦況が動いた。エゥーゴの艦隊が正面から接近しているという。
「数は?」
「サラミス級が2隻ですな」
「正面か…。焦っているのかな」
「エゥーゴにしてみれば地上との2面作戦ですからな。どちらが先に落とすかといったところでしょう」
「そうはいってもどの道キリマンジャロは落ちるのでしょう?」
「エゥーゴにそれだけの力があれば、の話です。手放しでやるつもりはありませんよ」
 そうこうしている間も友軍からの支持はない。
「将校は何をやってるんです?我々だけで相手をしろとでも…?」
「これまでずっと巣に引っ込んでいた連中ですからな。肝がちいさいのですよ。…少しは自由にさせてくれると思えば、まあ」
「わかりました。駐留軍を少し借りましょう」
「そう仰ると思いましたよ。既に手配済みです」
 そういってレインメーカー少佐は通信機を手渡した。全く準備のいい男だ。それを受け取ると、ウィード少佐はすぐさまムサイ改級を1隻、MS小隊を1つ出させた。アレキサンドリアもソニック大尉達を出し、艦はムサイ改と共にMS隊の後ろについた。
「レインメーカー少佐、そういえば敵は誰が指揮を?」
「今回は直々にロングホーン大佐が出てきた様ですな。油断できませんぞ」
「いつぞやの男か…。ソニック大尉が世話になったとかいう」
 月で会った時、厳格な顔をした男だったのを憶えている。必要以上に敵を大きく見る必要はないが、一筋縄ではいかないのは容易に想像できた。
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2020/06/17(水) 18:30:43.08ID:5skNxF910
『ドラフラ、基地の連中は俺が使っていいんだな?』
 ソニック大尉だった。
「そうよ。どうせ自分では動けないだろうからね」
『了解』
 彼の機体を筆頭に、ステム少尉と共に駐留小隊を引き連れて布陣を敷く。対するエゥーゴもMS隊を発進させている様子が伺える。数はあまり多くない。
「さて…正面はラムに押させるとして…」
「まだ旗艦が見えませんな」
 レインメーカー少佐の言うとおり、アイリッシュがまだ姿を見せていない。バッタやガンダムもそちらに居るはずだ。
「デブリに潜んでいる可能性が高いですね。…警戒を続けて」
 前線は交戦を始めている。索敵班に周囲の警戒を続けさせながら、アレキサンドリアもムサイと共に艦砲射撃を行う。この距離では到底当たるものではないが、敵の進路を狭める事くらいはできる。
「あくまで正面から突破するつもりですな、連中は」
 レインメーカー少佐の言葉の通り、第1陣に続き敵の第2波のMS隊が加わってきた。いずれも機体はネモとGM2の混合部隊の様だが、数においては敵の方が優勢だ。ソニック大尉達で捌ききれなかった分が少しずつ距離を詰めてくる。
「まずいね…いくらなんでもこの物量では」
「援軍を呼びますかな?」
「…!いや、まだです。…ラム!」
『おう!どうした!』
「敵を引きつけながら後退を!」
『気軽に言ってくれる…俺のロードワークについてこれるか若造!』
『よくわかりませんけどついていきますよ!』
 ステム少尉も叫ぶ。2人の息も合ってきた様だ。
「下げるのですか…。どうするおつもりで?」
「まあ見ていてください」
 怪訝そうなレインメーカー少佐をよそに、ウィード少佐の頭の中には描いた絵があった。
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2020/06/17(水) 18:31:23.25ID:5skNxF910
 ウィード少佐の指示通り、ソニック大尉達は敵を引きつけながらジリジリと下がってくる。好機と見たのか、敵は第3波のMS隊を繰り出してきた。
「よし…恐らくこれが全部でしょうね」
「なるほど。後はどう捌くかですな」
 レインメーカー少佐が唸る。
「こちらもまだ手は残しています。…工作部隊に伝達!やれ!」
 ウィード少佐の指示を受け、デブリに機雷を仕込んでいた工作部隊が遠隔で爆破を開始する。あまり広い範囲での仕込みは出来なかったが、前回の出撃で時間を稼げた際に要所だけ機雷を仕掛けていた。
 進軍を始めた敵のサラミス級だったが、囲んでいたデブリが弾けた。中には燃料を残していた残骸もあったらしく、誘爆して派手な花火を打ち上げている。敵艦の1つがそれに巻き込まれて爆炎を上げた。
「ほう、これはたまげた」
 レインメーカー少佐が目を丸くした。
「地の利はこちらにあります。…ラム!聞こえるね!?」
『なんだこれは…!凄いことになってるぞ!』
「でしょうね!今が好機!転身して!」
『承知した!』
 一転して身を翻したソニック大尉達が、混乱した敵部隊を蹂躙する。数で勝るエゥーゴだったが、母艦に気を取られた所を大尉達に反撃を受ける形で隊列を崩し始める。
「各員気を抜くな!爆破したデブリはこちらにも飛んでくるぞ!」
 艦砲射撃を続けながら、自軍の艦隊に近づくデブリも破壊する。しかしながら敵も必死だ。それでも尚前進を止めない。
「やりますなウィード少佐。しかしエゥーゴも退く気は無いとみえる」
 レインメーカー少佐がスクリーンにかじりつきながら言う。
「かなりの混戦になってきましたね。もうひと押ししたいところですが…」
 その時だった。爆炎の中からアイリッシュが姿を現した。
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2020/06/17(水) 18:31:52.98ID:5skNxF910
「!」
「来ましたな」
 敵はやはりデブリに紛れ込んでいた。恐らく爆破で炙り出す形になったのだろう。
「早々に旗艦まで引き摺り出せるとは思ってませんでしたがね…!」
「勝てば官軍…負ければ…。…ウィード少佐?」
 レインメーカー少佐が諌める様に言った。勝てば官軍、負ければ…。
「…レインメーカー少佐。こんな時に私は…。私にはまだまだその境地は見えません」
 興奮気味だったウィード少佐は肩の力を抜いた。ここで下手は打てない。焦ってはならないのだ。旗艦は出てきたが、こちらの戦力も敵MS隊と交戦中だ。半端に動かすと持ち直した敵部隊に挟撃を受ける可能性がある。何より今アレキサンドリアも裸に近い状態なのだ。バッタやガンダムが出てきてしまえば沈められてもおかしくはない。
「全軍に通達!もう十分に敵戦力は叩いた。一旦下がるぞ」
 目の前の餌に今すぐにも喰らいつきたい気持ちを抑えた。
「…少佐、私も殿に出ます。後はお任せしますよ」
「よしなに」
 レインメーカー少佐は微笑んだ。その皺に刻まれたものは幾ばくの経験なのか…。今のウィード少佐には測りしれなかった。

41話 皺
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2020/06/17(水) 18:32:28.17ID:5skNxF910
失礼、42話でした!笑
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2020/06/17(水) 18:33:10.16ID:5skNxF910
「ええい!ここで退くだと!?」
 ロングホーン大佐は思わず拳を肘掛けに叩きつけた。囮にすべくアイリッシュを晒したにも関わらず、敵はそれを無視した。
「し…死ぬかと…思いましたぜ…」
 グレッチ艦長が腰を抜かしている。何せ爆発するデブリの中を突き抜けたのだ。しかし、これだけの事をしても敵は動じなかった。
『どうします?私とフジ中尉は出れますが』
 ワーウィック大尉からだった。修繕が追いついていないガンダムを除いて、出撃準備は出来ている様だ。
「ここで退く訳にはいかん!後続が持ち直す迄アレキサンドリアに喰らいつけ!」
『了解』
 後続のサラミス級達は今頃地獄絵図だろう。
「…舵取りの上手いやつがいるな。だが、逆に言えば奴らさえ始末出来れば…」

 混戦の中を百式達が出撃する。多少の護衛が出てきたが、大尉達は難なく撃退している様だ。
「後続はどうか!?」
「まだ駄目ですな…。かなり数も減っとります」
 グレッチ艦長がやや弱気になっているが、致し方ないとしか言えなかった。
「何が何でも立て直せ!もう敵も手札は切った筈だ!このままでは追撃戦にならんぞ!」
 ロングホーン大佐は叫び続けたが、それで事態が好転する訳でもない事は自身がよく理解していた。
 その間も大尉達が前進を続けていた。デブリが高速で飛び交っているだけに、敵の動きも決して機敏ではない。
『もうじき取り付きます』
「よし。沈められずとも可能な限り叩け」
 こちらも手痛い反撃を受けたが、せめてアレキサンドリアさえ前線から下げられれば、次の戦いを有利に運べる。
 大尉達が敵艦に取り付いている頃、サラミスのMS部隊も落ち着きを取り戻しつつあった。継戦能力の無い機体をアイリッシュに収容しつつ、僅かな手勢で追撃をかける。
 敵のMS隊も母艦と合流しつつあるが、それをさせまいと粘るこちらの部隊が交戦中である。挟撃と言うには隊列が乱れきっており、未だ混戦に変わりはない。
「大尉達はどうかな?」
「敵の試作機とやりあっている様ですな。腐れ縁ですよ全く」
 捕虜の解放交渉に来た敵将校の護衛がまさしくあの機体だった。
「…指揮官はあの爺かもしれんな、食えんやつよ」
 大佐は思わず笑った。グレッチ艦長の言うとおり腐れ縁なのだろう。
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2020/06/17(水) 18:35:01.05ID:5skNxF910
 どうも大尉達は攻めあぐねている様だった。ガンダム抜きではこんなものか。後続のMS隊も敵の殆どを討ち漏らしている。ようやく結果的に追撃の形になってきたが、これではどちらが敗走しているのかわからない。
「弱ったものだな。艦長よ」
 ため息をつきながら戦場を見渡した。グレッチ艦長は唸りながら髭を弄っている。
「敵もよくやります。後続のサラミスが被害状況をまとめ始めてますが、どうしますかね」
「潔く退くのも戦いか。仕方あるまい…追撃は切り上げる」
 大佐は重い腰を上げ、全軍に帰投命令を下した。敵との戦線を押し上げる事には成功したものの、殆ど敗戦というべき戦果であった。

 撤収していく敵部隊を口惜しくも見送り、それからは部隊の建て直しにかかった。サラミス級が1隻轟沈、MS部隊も2小隊は失っていた。残っているのは小破したアイリッシュ1隻とサラミス級1隻、ガンダム達を含むMS小隊が3つといったところだ。機体はいずれも補給が必要な状態である。
「諸君はよくやった。これで終わるつもりはないのは私だけではないのも承知している。…次だ。次で全てが決まるだろう」
 各員に向けた通信を送った。恐らく士気もまだ下がりきってはいない筈だが、唇を噛んでいる者も少なくない。
「…次はどう出ますか」
 ブリッジに帰投したフジ中尉だった。ワーウィック大尉も傍らにいる。
「ご苦労。諸君の働きでアレキサンドリアも無傷ではないな」
「しかし、あの程度ではまだ」
「うむ。とはいえあちらから仕掛けてくるほどの余力もあるまいよ」
 ロングホーン大佐は椅子に深く腰掛ける。グレッチ艦長がその側で各部署の報告を受けている。
「気になるのは他部隊の動きですね。戦力がゼダンの門に集中しているとはいえ、いくらなんでも抵抗が少なすぎます」
 フジ中尉の言うことは道理だった。こちらも必死で仕掛けはしたが、まさかあそこまで徹底的な抗戦に出るとは考えていなかった。
 しかも戦力的にはかなり少数と言ってよかった。まだ温存した戦力があるのだろうが、やはり士気が高いのは一部だけと考えて良さそうだ。
「残る戦力の士気は著しく低いと思っていいだろう。上もそういう判断で我々をこの戦力で派遣している。とはいえ一応月からは直に増援が来る予定だ」
0862◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:35:33.84ID:5skNxF910
「大佐…」
「何だ」
 ワーウィック大尉が何やら考え込んだ表情で言った。
「キリマンジャロはどのような状況です?」
「ああ、あちらはかなり順調な様だ。カラバとも上手くやっている」
「やはりそうですか。あくまでも憶測ですが…ティターンズは何か隠しているのではないですか?」
 面白い事を言う男だ。確かにロングホーン大佐も気掛かりなことはある。
「ティターンズにしては地上も宇宙も…どちらも抵抗が薄いものな。まるでこちらの必死さを嘲笑う様だ」
「私もそれを感じます。しかし、そうやって我々の消耗を狙っているのであれば、そこからの勢力図を一気にひっくり返せるだけの何かがなければ…」
「大尉。君の言うことはよくわかる。だがな、今考えるべきはコンペイトウだ。そこを忘れるな」
「はっ」
 彼が改めて姿勢を正した。正直彼の言う大局もあながち見逃していいものではない。ティターンズがコンペイトウを手薄にしているのであれば、ここで手こずっていては今後の作戦の如何に関わる。

「よろしい。また追って指示を出す。諸君は少しでも英気を養いたまえ」
 そういって2人を一度退出させた。グレッチ艦長もひと通りの報告を受け終わった様だ。
「…速攻を掛けるのも手だな」
 ロングホーン大佐は独り言のように呟いた。
「ま…まさか!援軍を待った方が良いんじゃないですかい?」
「敵もそう思っているとは考えられんかな?あの必死な抵抗…意外と突き崩せれば脆いやもしれん」
「そりゃそうかもしれませんがねぇ…。肝心のこっちの戦力がズタボロです」
「私もコンペイトウの戦局は大きく見ねばならんと考えてきた。しかし、意外とそうでもないのかもしれんと思ってな。もっと大きな目でこの絵を見れば、実際には小さな点に過ぎんのかもしれん」
「はぁ…」
 何やら飲み込めないといった様子の艦長だが、ロングホーン大佐の中では殆ど確定的な認識だった。
「こちらが休めばそれだけ敵も休ませる事になる。戦いが長引けば、最終的には増援のないコンペイトウの方が苦しくなる筈だ。今のうちに叩けるだけ叩いて消耗させねばならん」
 大佐は立ち上がり、ブリッジからの眺めを見渡した。同じ連邦の拠点でありながら、それはまるで旧ジオンの拠点ソロモンさながらに立ち塞がっていた。
 思い返せば、あの時もこの拠点は半分捨て駒の様な扱いを受けていたように思う。本来ならば重要な拠点なのだが、旧ジオンは派閥争いの為にここを切り捨てた。その結果、かなりの戦力がア・バオア・クーに集結することとなった。
0863◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/06/17(水) 18:36:02.04ID:5skNxF910
「…!…まさか…コロニーレーザーか!?」
 大佐は思わず目を見開いた。旧ジオンはそうやって引きつけた連邦の戦力の殆どをコロニーレーザーで焼き払ったのだった。ソロモンで必要以上の戦力を消耗せず、コロニーレーザーで一気に戦局を巻き返した。実際、最近ティターンズはグリプス2周辺で不穏な動きを見せている。目的は不明だったが、密閉型コロニーはレーザー砲の砲身にするにはうってつけである。
「いや…有り得ん話ではないな…!」
「大佐…もしそうなら…」
 艦長も話に合点がいった様子だった。

43話 合点
0864通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/06/20(土) 17:00:16.13ID:WW2VzUU20
乙です!

ついに明かされるスクワイヤの出自...
スーツ姿の軍属だった父というのは、特務機関の偉い人?
一年戦争(とデラーズ戦役)で消耗した連邦軍がパイロット適性の新人を遊ばせとくとは、普通は考えにくいですね
37話のグレッチ艦長の発言からも、何だかんだエゥーゴは連邦の一部なのだと伝わってくるものがあります

グレッチ艦長、ややスケベ親父だったのがちょいガミガミ親父になってるw
地球のこと考えて浮かれてるスクワイヤ可愛いです、ジオンの亡霊の聖地なんかでタヒぬなよー!

Sさんの考えだとコロニーレーザーは各拠点でパーツ製造しグリプスに運ぶ感じですか
確かにドゴス・ギアもコロニーレーザーも単一拠点で作るのでは非効率的ですね
レインメーカー爺さん、やりますね! もしや......この男こそ特務の上級将校でスクワイヤの父親では?!(多分違う)
陥落前のも含めて地上拠点複数放棄は不可解な話、これではジャミトフの理想は......バスクとシロッコ、どちらの思惑か

ステムは赤毛の中性的美青年ってところですか......カミーユ2Pみたいな(笑) それでガブスレイですか
配備機で力関係が伝わるのも面白いですね、加速ライフルにスマートガンにフェダーインとライフルだけで普通じゃないw
ガブスレイとニュンペーがエゥーゴと交戦し始めた時期は同じくらいだと思うのですが
後者の名前が出ない辺り、前者はサラのリークで多く割れてるといったところ?
虫野郎な可変機は大体ジェリド隊で機能がアピールされてますが、出来たら額バルカンが活躍するところも見たいです!
ソニックのゼクアイン、初っぱなから筋肉式奇襲w ミサイルもライフルも上手く使うし、実はガルバルより合ってる?
ニュンペーの水影心攻撃...ニンフからの連想でしょうか? 隠し腕もあり手数が多そうなのは手強く感じます
スクワイヤはアマクサ戦のトビアみたいなこと言ってる、これも強そう

ウィード隊は案山子よりマシ程度のコンペイトウ隊を引き連れ迎撃
なまじ腕のあるステムの直後だけにガタガタの編成になりそうなのがもうw と思ったら善後策で膠着に持ち込みました
爆炎の中から出てくるアイリッシュのカッコいいこと! 今更ですが緑の百式改は一貫して「バッタ」なんですね(笑)

なるほど、グリプス戦役はどこか戦線だけ大きいイメージがありましたが
エゥーゴはここまで対ティターンズ戦の決定打になる点を見出だせてないと...
一年戦争を振り返りつつ隠し球に気づくのは上手い流れです、が前大戦のは「ソーラ・レイ」なので改稿した方が良いかと

続き楽しみに待ってます!
0865◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/01(水) 14:48:42.22ID:GwywEkd60
>>864
彼女の父については重要な部分になるので、今後掘り下げていきます!
艦長や一部の人間は知っている様ですが、ほとんどの人間が知らないことです。
設定としては最初期の構想からの決定事項なので、是非読み進めてもらえればと!
グレッチ艦長は完全にお父さんですね…笑

コロニーレーザーみたいなでかいものを作るともなれば、工廠をもつ拠点の助力は居るかなと。
因みに個人的にはコロニーレーザー(ソーラ・レイ、グリプス2)だと思ってるので、文章ではそう表記してます!括弧内が個別名称という認識です!

ジャミトフの真の目的は地上から人を上げることなので、戦線が宇宙に移行するのは納得です。とはいえそれを前線の末端まで理解しているはずもなく…っていうのがティターンズが負ける敗因のひとつだと思ってます。

ステムは髪型が違うリディルくらいのイメージです笑
カミーユ2Pは想定外でした笑笑
ガブスレイは複数機出てますが、ニュンペーはウィード機のみなので名称不明といったところです。Zみたいなフラッグシップモデルでもないですしね。
量産機に優秀な学習装置を積むっていうのはGMからの伝統なので、それを更に掘り下げようかと。

アクシズもティターンズと結び、今はエゥーゴの厳しい時期です。
ここからどう巻き返していくのか、読み進めてみてください!
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2020/07/01(水) 14:54:19.39ID:GwywEkd60
 マンドラゴラの修理が終わったのは、攻略戦から少し時間が経過してだった。
 出撃出来なかったこともありスクワイヤ少尉自身も手伝ってはいたものの、他部隊の補給も急がねばならず、ドックは相変わらず慌ただしく人と機材が行き交っていた。
「あ、中尉!」
 格納庫から退出しようとしているフジ中尉に声を掛けた。
「少尉か。ガンダムはどうだ?」
「おかげさまで取り敢えずは。…参戦できなかったのが心残りですけどね」
「そういうな。まだ始まったばかりだろう」
 腕組みしたフジ中尉の横で、手すりに寄りかかりながら辺りを見渡す。サラミスが落ちたことで母艦を失い、アイリッシュに帰投した者も多い。心なしか普段見ない顔が多いように思えた。
「おいお前ら!暇してるんならこっち手伝え!」
 少尉達に気付いたメカニックのひとりが怒鳴った。どこも人手が足りていないのだ。
「はーい!…って中尉何処行くんです?」
「私は大佐とミーティングだ。後は頼む」
「ちょっとー!…む、仕方ないな…」
 そそくさと出ていった中尉にムッとしつつ、少尉はメカニックの手伝いに戻った。

 それから少しの間を置いて、パイロット達がブリッジへと招集された。
「補給もままならんというのに…すまんな」
 グレッチ艦長が皆に頭を下げた。おべっかつかいをやっていただけあって、人の心の機敏には鋭い。この一言だけでも、現場の人間達には響くだろう。
「ここは戦地だ。致し方あるまいよ。…さて、諸君を呼び立てたのは他でもない。奴らへの強襲をかけるためだ」
 グレッチ艦長とは対照的に、ロングホーン大佐はテキパキと作戦指示を始めた。どうも自然と役割分担できているらしい。
「前回は辛酸を舐めさせられたからな。…だからこそ奴らを休ませてはならん。絶えず攻め立てることで我々の攻略への意思が伝わるだろう。絶対に逃さん、とな」
 ロングホーン大佐の低い声はよく響く。それが尚更説得力を増していた。
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2020/07/01(水) 14:55:14.79ID:GwywEkd60
「しかし、こちらももうボロボロではないですか…」
 合流したパイロット達のうちのひとりが声を上げた。
「案ずるな。月からの増援を予定より急がせている。彼らと入れ代わり立ち代わり攻め立てることで、我々は補給も行えるようになる。苦しいのは今だけだ」
 大佐の説明に皆黙った。
「…わかるぜ。今ここにいる面子は仲間を失ったやつも多いだろう。
 でもな…ここで戦わねぇと、その犠牲も無駄になっちまう。そんで、もっと多くの仲間がやられるかもしれねぇ。今は俺達が先鋒だ。頼まれてくれ」
 グレッチ艦長が言葉を添えた。少尉は艦長のこういうところは好きだった。いらない一言を添えることもあるが。
「…では、作戦の説明をフジ中尉に任せたい。良いかね」
「はい」
 ロングホーン大佐の呼びかけで、中尉が前に出た。彼の分析力は大佐にも買われているらしい。
「今現在、我々はコンペイトウとかなり近い宙域に位置しています」
 そう言うと、スクリーンに周囲のデータが映し出される。
「流石にまだ上陸作戦とはいきませんが、もう少し進軍すれば拠点自体への砲撃も視野に入る距離です。今回、何処から攻め立てるのかですが…」
 喋りながら中尉はスクリーンの元まで歩いた。
「ここからいきましょう」
 彼が指し示した場所は、コンペイトウの上部だった。めぼしい設備も見当たらないような位置である。
「何でそんなところを?」
 少尉は思わず声に出して訊いた。
「いい質問だ。返す質問で悪いが、少尉はここに何故敵の設備が少ないのか解るか?」
「え…そりゃ…石が硬かったんじゃないですかね」
 場から小さく笑い声がこぼれる。悪いことを言った気は無かったが恥ずかしい気分である。
「…ここはな、デラーズ紛争で核攻撃を受けた爆心地近くだ。その時に殆どの戦力を一度失っている。明確な外敵のいないうちは、ここを改めて補強する必要が無かったのだろうな…今もここは手薄なままだ」
 馬鹿にされても都度思うが、彼の説明は非常にわかりやすい。馬鹿にはされるが。
「それで、この手薄な場所から攻め立てるのが今回の作戦だ。抵抗があれば敵の戦力を分散出来るし、抵抗がない場合にはあわよくば上陸できる」
「…そういうことだ。いずれにせよ正面から仕掛けるより分がある。デブリも少ないしな」
 大佐は前回のデブリ爆破で機雷にはウンザリしている。中尉の言うとおり爆心地ならば、デブリも比較的少ないだろう。
「異論はないか?」
 大佐の呼びかけに対し、皆意志は固まっているようだった。
「よろしい。ならば最後に…加えて皆に共有しておきたい事がある。ティターンズは、コンペイトウやゼダンの門だけでなく…更なる拠点を建造中との見方がある。
 その正体はまだ明るみにはなっていないが…私の見立てでは、大量破壊兵器ではないかと考えている。まだ憶測に過ぎんがな。
 その建造物が何であるにせよ、ここでコンペイトウを叩かねばその完成はより早まるだろう。だからこそ諸君の力を、今借りたいのだ」
「大量破壊兵器…」
 少尉に実感は沸かなかった。そこまでして人類は一体何と戦おうというのだろうか。大義名分?生存競争?はたまた単なる意地なのか。
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2020/07/01(水) 14:55:59.54ID:GwywEkd60
 説明が終わり、それぞれ持ち場へと戻っていく中にワーウィック大尉を見つけた。
「今度こそ私も出れそうですね」
「少尉か。やはり少尉抜きだとなかなか上手くいかんよ」
 頭を掻く大尉と横並びで格納庫へと向かう。
「私がいないんじゃ大尉も実力発揮出来ませんからね」
「まあそんなところだ。ガンダムはもういいのか?」
「あの子だけ一応アナハイムの技師がついてるんで、修理は比較的早いんですよ」
 マンドラゴラは試作機ということで、アナハイムから出向した技師が世話を焼いてくれる。技師の話に依れば、マンドラゴラの元になった機体はデラーズ紛争時にこのコンペイトウで散ったという。
 表沙汰にはなっていない話の様だが、人の記憶・口頭の伝承までは消せはしない。その証人がマンドラゴラとも言える。
「…マンドラゴラの兄弟達がここで戦ったらしいんです。何かの縁かもしれませんよね」
「アナハイムの開発計画が以前もあったと聞くものな。きっとその魂もあの機体は受け継いでいるのさ」
「魂か…」
 モノにも魂が宿るなら、ヒトと何が違うのだろう。自らの魂で訴えかけることが出来る人間が、どれほどいるだろう。

「また追って指示がある。コックピットで待機だ」
「了解!」
 格納庫に到着するなり、少尉はマンドラゴラの元へ駆けた。コックピットにヘルメットを放り込み、自身も搭乗口に手を掛けながら飛び乗る。
 初めの頃は戸惑った全天周囲モニターにも随分慣れた。もっとこの距離感を掴めば、機体の手足がまるで自分のものの様に感じられるだろう。今はまだマンドラゴラとの二人三脚だ。
「あんたの魂…私は感じる」
 コックピットの中、ひとり呟いた。深く深呼吸し、制御アームに手を乗せる。多くの人々の技術と想いの結晶。それが何故少尉に託されたのかは未だにわからない。ただ、その魂が彼女の魂と共振している事だけは確かだった。

44話 爆心地
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2020/07/01(水) 14:56:42.07ID:GwywEkd60
『そろそろ予定のポイントです。案の定…手薄ですね』
『わざわざこっちまで回り込んでくるとは敵も思うまいな』
 ワーウィック大尉とフジ中尉の通信を聞きながら、スクワイヤ少尉は2人と共に先行して敵の動きを探っていた。
「しっかし…殆ど何もありませんね…」
『そういう場所だからな』
『ですが、上陸して簡易的な拠点でも組めれば腰を落ち着かせて作戦を進められます。
 要塞の設計が変わっていなければ古い工廠もここから近い筈です。整備して補給拠点として使えれば都合も良いのですが』
『敵地で補給か。屯田兵みたいなものだな』
「ドンデンへー?」
 この2人と話していると知らない単語がよく出てくる。
『旧世紀の戦争では、敵地で田畑を耕して兵糧を補給していたそうだ。それをやっていた兵のことさ』
「へー、大尉って物知り」
 そんなことを話しながら辺りを探索する。他所に流れてしまっているのかデブリも比較的少なく、少しずつコンペイトウの岩肌も近づいてきた。

『敵影が3つ。いずれもハイザックですね』
「このくらいなら私達でもやれますね」
『いくらなんでも手薄過ぎないか?そりゃあ全ての防衛ポイントを抑えるのは無理だろうが…。逆に半端な数のモビルスーツが居るのは気になる』
 確かに大尉の言う通り、いくらか不自然な印象も受ける。
『いずれにせよここは抑えなければならないポイントです。我々で突いてみましょう。藪から蛇ってこともありますが…』
「ヤブカラヘビ?」
『少尉は少し黙ってろ』
「中尉も物知り」
 フジ中尉の毒々しい物言いにもすっかり慣れてしまった。彼は彼で少尉の扱いに手慣れてきている気がする。
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2020/07/01(水) 14:57:20.98ID:GwywEkd60
 敵に気付かれるのを承知で敵のセンサー範囲へ入る。隠れようのない以上、速攻が有効である。
「マンドラゴラ、先行します」
 機動力に優れる少尉のガンダムを筆頭に、百式とネモが続く。こちらの動きに気付いたハイザック達が迎え撃つが、敵も多少狼狽えているのがわかる。
 小さく固まっているハイザックを中尉のネモが撃つ。それを躱そうと慌てて隊列を崩した直後、ガンダムが襲った。
 袈裟斬りにして1機始末すると、返す刃で振り向きざまにもう1機横凪ぎにする。それをシールドで受けたハイザックだったが、その背後で百式の走査線が赤くチラついた。
 背後から押し当てた薙刀に形成されたビーム刃が的確にコックピットだけを貫く。逃げ出すようにして撤退を試みた残りの1機だったが、こちらはネモのライフルで撃ち抜かれた。

「…片付いた感じですね」
 また辺りに静寂が戻った。
『しかし、このまま上陸というのは余りに呆気ないな…』
『或いは、罠かもしれません』
 3機はゆっくりと地表に着陸した。敵は叩いたものの、ここに来て1度足を止める。
『我々だけで判断するのは危険かと。アイリッシュに通信を行いましょう』
『そうだな…』
「む…」
 少尉が溜息をひとつついた、その時だった。コンペイトウに敵影らしきものが映る。
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2020/07/01(水) 14:57:54.86ID:GwywEkd60
『増援か!?』
『機種不明…こ、これは』
 岩肌から突如茎のようなものが伸び、虫の頭を思わせる形状のユニットがチューリップの様にゆらゆらと揺れ始めた。
「何あれ…気持ち悪い」
 映像が鮮明でないが、極太のワイヤーか何かが先端のユニットを支えているらしい。
『防衛設備のひとつでしょうか?それにしてはあまり見ない形状ですが…』
『フジ中尉は一時退避してアイリッシュに通信を。熱源を見るにこの形は…』
 ワーウィック大尉のいう熱源は大きな菱形に見えた。岩肌の下に感知しているが、異様に大きい。
「うわっ」
 その岩肌がせり上がった。辺りの地表が大きく揺れ始める。宇宙空間では音を発していないが、この振動は尋常ではない。
 先程の茎が生えた辺りを中心に地割れが始まる。岩肌と思われていたこの辺りは、堆積物に覆われたシェルターのようであった。ひび割れた表面の下に人工的なパネルが見え始める。
『大尉!』
『いいから行け!ここは私達で抑える!』
『し…しかし!』
「…来ます」
 シェルターが開き、熱源の全容が徐々に姿を現す。緑色をした大きな物体は各部に砲門のような機構を備えているらしかった。頭頂部に先程のワイヤーが接続されており、生き物の様にうねっている。
『こんなもの…!いくら大尉達でも2人だけでは!』
『だから行けと言っている!増援を寄越すんだ!全滅したいのか!?』
『り…了解!』
 珍しく声を荒げた大尉に押され、中尉のネモは戦線を離脱した。
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2020/07/01(水) 14:58:57.92ID:GwywEkd60
「…で、どうするんです?これ…」
 思わず少尉は脱力してシートに沈んだ。どう見てもMAである。敵はまだ完全に動ける状態ではない様で、中尉を追う素振りは見せない。
『まさか完成していたとはな…グロムリン』
「知ってるんですか!?」
『ジオンの試作MAだよ。ほぼペーパープランだった筈だが、恐らくはティターンズの連中が組み上げたんだろう…』
 完全にシェルターが開き切り、足元まで確認出来るようになった。全長60mはある。グロムリンと大尉が呼んだその機体は、巨体を支えている一本脚を、ゆっくりと屈めた。
『…来るぞ!』
 大尉の声と殆ど同時に敵はメガ粒子を辺りに撒き散らした。撃つというにはあまりに砲門が多過ぎる。文字通り雨の様に、地表へビームが降り注いだ。
「あはは!笑うしかないでしょこんなの!!」
 少尉はヤケ気味に笑い声を上げた。2人は器用にビームを躱しつつ距離を取る。それを捉えた有線ユニットが少尉目掛けて更にビームを放つ。
「こなくそ…!」
 身を捩り既のところでそれを躱す。しかしそれを躱したところにも容赦なくビームの雨が降る。
『くそ!何処まで保つかわからんな!』
 大尉もうまく距離を取ろうとしているが、敵の攻撃を避けるので精一杯の様だ。
 すると敵は一本脚を踏ん張り、上にそのまま跳ね上がった。
「跳ぶの!?」
 ノズル噴射で機体のバランスを取ると、その一本脚をクローの様にして真っ直ぐ突っ込んできた。
「嘘でしょ…」
 ガンダムは螺旋状に飛ぶと、脚に絡む様にしてそれを躱す。しかし本体を避け切れず接触してしまった。激しい振動が機体を襲う。
「ぐぅ…っ!」
 まるで車にぶつかった子供のように、意に介さぬ敵の装甲にぶつかりながら弾き飛ばされる。
『少尉!』
 ワーウィック大尉の百式が全速力で追う。弾き飛ばされたガンダムを見つけ、速度を合わせてどうにか受け止めた。
「くっ…あんなの規格外ですって…!」
『わかってる。あれは本来対艦用の決戦兵器だ。逆立ちしたって勝てん』
 敵はそのまま大きく迂回し、再びこちらに向かってこようとしている。
『蛇どころか化け物が出てきたな…どうりで手薄な訳だ』
「でもこいつを落とせたら…」
『少尉…本気か?』
 正直言って勝てる気はしない。しかし、ここで死ぬならばそれまでだ。諦めではなく、自ら生を掴みにいきたいと感じていた。
 少尉は初めて、恐怖を手懐けた。

45話 藪から蛇
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2020/07/01(水) 14:59:44.24ID:GwywEkd60
「中尉が戻ってくるまで、落とされる訳にはいかないんですよ」
『その通りだな。しかし、このままではまともに近づく事もできん』
 再び突進してきたグロムリンを迎撃する。厄介なことに、突進しながら砲撃も躊躇なく仕掛けてくる。
『ちぃ!』
 その尽くを躱しながら、今度は大尉が仕掛ける。一定の距離まで間が縮まったタイミングで、百式は一気に逆噴射を行った。そのまま敵の勢いを殺すと、数ある爪の1つを切り落とした。
『く…この程度では…!』
 すぐさま離脱を試みた大尉だったが、追いかける様に敵がそのままグルリと回した脚部に蹴飛ばされる。
『ぐぅ…!!しょ、少尉!!』
 僅かに敵の姿勢制御が乱れた一瞬を突き、少尉はライフルを撃ちながら敵へ突っ込んだ。こちらを向いていた砲門をいくつか潰しつつ、更に接近する。
「うッッッ…とおしい!!!」
 少尉はサーベルを抜くと、破壊した砲門の1つに突き立てた。しかし相当な巨体である。浅く刺しただけでは致命傷にはならず、すぐに旋回した敵にまたもや振り払われる。そのまま地表へと叩きつけられた。

「あーあ、駄目だこりゃ」
 崩れ落ちる周囲の岩に囲まれながら、ガンダムは半ばその場にめり込むように坐礁した。少尉らをあしらった敵は悠々と着地する。
『質量が違い過ぎる。砲撃をいくら避けたところで、これではな…』
 ガンダムは勿論、大尉の百式も相当痛めつけられている。少尉とはいくらか離れた位置で膝をついているのが視界に入った。
 お互い部位の欠損こそ無いが、駆動系も装甲もかなりのダメージを受けていた。しかしそんなことはお構いなしに、敵は尚も飽きることなく砲撃を行ってくる。
『…待てよ』
 軋む機体を動かし、どうにか回避運動を行いながら大尉が呟く。
『あのビグザムでさえ稼働時間は20分しか無かった筈だ。最新技術で組み上げたとしても、あれだけのビームをいつまでも撃っていられるものか?』
「あれだけぶっ放してれば…息切れしてもおかしくない…!」
 少尉のガンダムも、大尉とは反対側からグロムリンに回り込む。
『恐らく…他部隊との連携が取れんからここに配備されているんだろうな。パイロットも乗り慣れてはいないかもしれん』
 言われてみれば、単純なパワーに物を言わせた戦い方である。高度な動きは今のところ見せていない。
『よし。少尉…ここはジワジワと敵の戦力を削ぐ。距離を取りつつ確実に装備を破壊するんだ』
「了解!」
 相も変わらず降り注ぐビームを躱しながら、敵の隙を探り続けた。
「まだいけるよね…マンドラゴラ」
 青い軌跡を残しながら、ガンダムはひたすら駆けた。
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2020/07/01(水) 15:00:15.05ID:GwywEkd60
 威勢よく返事をしたものの、敵MAは高火力・高機動に加えて兵装の全容はまだ見せていない。適度な距離を保ちつつ狙いを定めるのは並大抵の事では無かった。
「調子に乗って…こいつ!」
 流石のガンダムもガタがきているのか、躱しきれない攻撃が掠め始めていた。砲撃を逸らそうと角度をつけたシールドが、そのままビームに持っていかれる。
「まずっ…!」
 シールドに腕を引っ張られる形で機体が大きく傾き、そこへ更なる砲撃が襲った。幾つかを躱し、しかし幾つかをまた掠めた。
『大丈夫か!?』
「どうにか…!」
 そういう大尉の百式もあちこち装甲を失っている。彼は近接武器しか携行していない事を考えれば、更に攻撃は難しいはずだ。
『敵のシルエットは左右対称だ。両面を相手にせず、一面を2人で叩いて敵の砲撃を散らす』
 言うやいなや、息つく間もなく大尉は半ば囮になるような形で飛び出した。上部から攻める大尉に対して、少尉は足元から敵へ接近する。
 少尉は自分を狙う砲撃を躱しながら、大尉に狙いを定めた砲門から優先して破壊を試みる。そうすることでとにかく大尉の突破口を開く。
 しかし敵も側面を晒し続けることに抵抗を覚えてか、うまく旋回しながらこちらに一面を攻めさせない。敵は再び地表から脚を離すと、今度は有線で脚部そのものを射出してきた。
「くそっ…!」
 避けきれなかったガンダムは正面からクローに掴まれた。そのままクローはガンダムごと地面に突き刺さり、身動きを封じられてしまう。
『すぐ行く!』
 転身した大尉だったが、うねりながらそれを追いかける敵の有線ユニット。すぐに追いつかれ、大尉の百式も腕をワイヤーに絡め取られてしまった。
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2020/07/01(水) 15:01:26.31ID:GwywEkd60
「離してよッ!」
 脱出しようと粘ったものの、遂にライフルの弾を切らした。背中のポットもうまく動作せず、抜け出す事ができない。
『こんな紐くらいで…!』
 百式は自らの左腕を薙刀で切り離すと、よろめきながらも渾身の一振りでクローのワイヤーを叩き斬る。脚部を切り離された敵機は苦し紛れにビームを乱射し、百式はそれを肩に受けた。背中のバインダーからも火を吹きながら制御を失っている。
『く…。まあ2人にしては…良くやったよな』
 百式は肩から左腕を失い、殆ど墜落する様にして少尉の傍へやってきた。薙刀を地に突き立て、軋む首を持ち上げて敵を見据える。グロムリンは地表に倒れたが、スラスターで再び浮遊しようとしていた。

「大尉…」
 少尉は思わず唇を噛む。出来ることはもう殆ど無かった。
『…少尉は下がれ。恐らくアイリッシュがこちらに合流すべく進路を取っているだろう』
 大尉はガンダムを掴んだままのクローを薙刀で切断し、脱出を促す。
「そんな!大尉が残るなら私も…」
『命令だ。こいつは私がひとりでギリギリまで引きつける。もう直に敵もエネルギーを使い果たすだろう』
「…」
 2人でここに残っていてもどうしようもないことは痛い程わかっていた。しかし、ここで素直に退けない自分がいるのもまた確かだった。大尉を置いてなど行けるはずがない。引きつけるも何も、後はやられるのを待つだけではないか。敵のエネルギーが切れる保証など何処にもない。
 現に、ここにきて敵は有線ユニットにメガ粒子を集中させようとしているのが見えた。
『早く行け!死ぬつもりか!?』
「嫌です!行きません!!…マンドラゴラ!今動かないでいつ動くのよ!意気地なし!!」
 ガンダムはフレームを軋ませるばかりで少尉の声に応えない。2人がそれぞれ叫んだその時、有線ユニットが一際大きく光った。

46話 一際大きく
0877通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/07/03(金) 13:46:06.66ID:Pe6SqJ0C0
乙です!

沈んだサラミスの部隊がアイリッシュに合流...おお、大容量! 戦艦のキャラが立ってきましたね
グレッチ艦長の成長が見事で一種の死亡フラグじゃないかなんて...せめてダカール演説までは生き残ってほしいです!
外は爆心でボドボド、中はMA出撃用にくり貫いてボドボド...大丈夫か、この要塞w
一年戦争〜コスモバビロニア戦争の間で触手のモンスターが出てくるイメージは無かったので、唐突なグロムリンにビックリしました!
全身ビームの変態野郎...いい感じにボスの風格ありますね!ジオンの発想に技術が追いつかなかった感じは好みです!
これは触手や脚を潰した分だけ身軽になって手強いタイプ...いやパイロットの経験不足でそこまでは行かないのか?
ともかく奇襲が上手くいかない展開が続いてドキドキします、スクワイヤとワーウィックは生き残ることができるか?!

続き楽しみに待ってます!
0879◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/08(水) 21:40:19.89ID:QhFDALG00
>>876
>>878

読んでいただいてありがとうございます!

>>877

今にして思えば、前章に比べると戦艦が絡む回はあまりなかったですね。
グレッチ艦長もようやく艦長らしくなってきたというか…。

コンペイトウはその後話に出てこない辺り、拠点機能はかなり落ちてるんじゃないかと思ってます。ゼダンの門は真っ二つになるのでさておき…。笑
グロムリンは自分としては結構攻めたつもりです!でも強化版は出ませんよ!あれは流石にヤバ過ぎるので…。

そこそこ書き進めてますんで、少し投下しておきます!
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垢版 |
2020/07/08(水) 21:41:35.60ID:QhFDALG00
 有線ユニットが眩い光を放った瞬間、別の光がグロムリンを照らした。ユニットだけでなくグロムリン本体をも貫く。凄まじい閃光に、周囲の岩石が砕け散った。
「きゃあああ!!!」
 何が起きているのかもわからぬまま、少尉は強い光から顔を背けていた。辺りが落ち着いて思わず正面を向き直った少尉が見たものは、彼女を背中から庇った百式の胸だった。
「た…大尉!!!」
 スクワイヤ少尉は泣きながら半ば叫ぶように呼び掛けた。
『大丈夫か…?』
 崩れ落ちる様にして大尉の百式はその場に座り込んだ。彼の機体はもう殆ど大破と言って差し支えない損傷を受けていた。

『…間に合いましたか』
 フジ中尉の声だった。彼のネモが巨大なビーム砲を携えているのが確認出来る。どうやら彼の砲撃がグロムリンを直撃したらしかった。砲台自体にスラスターを備えているようで、それに機体を牽引させる様な形で少尉達の元へ急行する。
 グロムリンの有線ユニットが首をもたげたが、そこへ増援のGM2達が駆けつける。駄目押しの一斉射撃をグロムリンに浴びせ、完全に沈黙させた。
「大尉!応答して!大尉!」
『泣くな…少尉、私は平気だ…。少尉こそ怪我は?』
「よかった…もう…だめかと…」
 鼻を擦りながらも少尉は安堵した。
『全く、2人とも無茶をして…!すぐにアイリッシュも来ます。さあ、退避を』
 中尉の声を聞きながら、2人は指示に従った。ガンダムの肩を百式に貸しながらその場を一旦離れる。遅れてやってきた増援のGM2達が大破したグロムリンを取り囲み始めていた。
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垢版 |
2020/07/08(水) 21:42:32.83ID:QhFDALG00
 ようやく到着したアイリッシュに収容された面々は、機体をメカニックに預ける。救護班がすぐに駆けつけ2人の手当を行った。念の為医務室に連れて行かれたが幸い大きな怪我はなく、湿布だの絆創膏だのを貼り付けられるだけで済んだ。
「無茶苦茶ですよ大尉達。危ないところだった」
 遅れて医務室までやってきた中尉は呆れた様子である。実際、彼が間に合わなければ2人とも死んでいただろう。
「あのビーム兵器は?」
 椅子に座り込んだままの大尉が訊いた。
「ええ…メガバズーカランチャーです。アイリッシュに積み込んでいた狙撃用の高出力ビーム砲で、本来なら別でジェネレーターに繋がねばならないんですがね。ネモのサブジェネレーターが役に立ちました」
 遠距離用のものをあの距離で撃てば、確かにMAといえどひとたまりもない。
「流石に今回は…紙一重だったな」
 大尉は天井を仰ぐ。
「運が良かっただけですよ!全く…。2人は戦力の要です。今後はもう少し自重してください」
「済まなかった…中尉に貸しが出来たな」
 疲れ果てた大尉が力なく微笑むと、中尉がやれやれと溜息をつく。そんな様子を少尉は脱力したまま眺めていた。

 その後周囲の索敵が完了したロングホーン艦隊は、MAが出てきた時のシェルターから敵拠点へと入港した。
 状況から察するに、どうもここを任されていたらしい連中は慌てて逃げ出した様だ。或いはティターンズに協力させられていた連邦軍の正規部隊だったのかもしれない。
 ドックはグロムリンを始め様々な機体の組み立てに使用していたらしく、殆どそのまま使えそうだった。敵の動きを引き続き探りつつ補給を行っていた。
「おつかれさん。今頃連中は慌てているだろうな」
 そのまま医務室で休息を取っていた3人の元へグレッチ艦長がやってきた。
「上手く行き過ぎているとは思いましたが、思わぬ遭遇でした」
 立ち上がった中尉が姿勢を正した。気にするなと言わんばかりに艦長が手で払う。
「お前らは良くやった。いや、普通なら全滅していても仕方がないレベルだったくらいだ。…ここからは別部隊が内部からコンペイトウへ侵攻を開始する手筈になっとる」
「私達はどうすれば?」
 スクワイヤ少尉ものそのそと立ち上がる。
「んー…ゲイルちゃんのガンダムにしろ、大尉の百式にしろ、正直言ってもう戦える状態ではないな。それこそ大尉の百式に至ってはもうお手上げだ。ありゃ直す方が大変だろうよ」
「そうでしょうね…」
 それを聞いたワーウィック大尉も椅子を支えにしながら立った。
「マンドラゴラはどうなるんです?」
「ガンダムはまだ何とかなるらしい。近いうちに改修するらしいがな」
 少尉は胸を撫でおろす。機体に対して愛着のようなものを抱くのは初めてのことだった。
「余っている機体があれば良いのですが、物資も足りていない今の状況では…」
「ふふ、大尉ならそんな事を言うだろうと思ってな。良い知らせがあるぜ」
 そう言って艦長がウインクしてみせた。
「ウインクて…気持ち悪…」
「何だと!ゲイルちゃんだけボールに乗せるぞ!いいからお前ら付いてこい!」
 相変わらず唾を飛ばしまくる艦長に辟易しながら、3人は彼に続いてドックへと向かった。
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2020/07/08(水) 21:43:24.96ID:QhFDALG00
 ドックではアイリッシュを施設内に収容し、サラミス改は外からドックに括りつける様な形で補給を行っていた。それをぐるりと仰ぎ見ながら、少尉達は艦長についていく。
「連中の置いていった機体が少し残っていてな。メカニック曰く特に問題もないみたいだから、慣らし運転無しで良ければ使えるぜ」
 そこに佇んでいたのは、1機のマラサイだった。
「お前に乗ることになるとはな…」
 マラサイを仰ぎ見る大尉の目は、昔の友人にでも会えたかのように感慨深そうだった。
「わかってるだろうが、大尉が前乗ってた様な試作機とは違うからな。そこんとこ頼むぜ」
「ええ、十分です。薙刀の予備はアイリッシュにありましたよね」
 待ちきれないという様子で、大尉はマラサイのコックピットへと登っていった。少尉がふと横に目をやると、マラサイの横に主砲を取り払われたボールが転がっていた。
「で…私は?まさかほんとにボール??」
 少尉は涙目になって艦長に迫った。丸い棺桶。
「バカ言え、お前もちゃんと戦力になってもらわんと困るだろうよ!予備のGM2でいいな?元々乗ってたろ」
「ああもう…びっくりさせないでよ…」
 スクワイヤ少尉は思わず少し涙が出た。

 薙刀を携えた大尉のマラサイ、通常のライフルに持ち替えたフジ中尉のネモ、そして少尉のGM2が整備を終えて集まる。
『少尉、ボールじゃなくてほんとに良いのか?』
「うるさいですよ中尉」
 軽口を叩きながら一行はドックから続く大きな通路へと出た。
『よし、準備出来たみたいだな。軍曹、オペレートしてやってくれ』
 艦長はまだ他部隊とのやり取りもせねばならない。ごたついたブリッジを背景に、今度はグレコ軍曹がモニターに映る。
『皆さんご無事で…。これからは潜入作戦に移ります』
 前よりは幾らかマシになったが、軍曹は相変わらずおどおどしている。
『えっと…。周辺マップは皆さんの機体にダウンロード済です。別働隊が敵司令部を目指して進みますので、皆さんはそれを妨害に来るであろう部隊の掃討が任務になります。中尉の方でもより詳しい情報を集めながら進軍してください』
『わかった。現状での敵の動向は?』
 ワーウィック大尉がモノアイで周囲を見渡しながら聞く。
『詳しいことはわかっていませんが、既にこちらの動きは察知しているものと思われます。コンペイトウの外に動きはあまり見られないので、主力は施設内で待ち受けているのではないかと』
「なるほどね…。取り敢えず出くわしたやつを全部叩けば良いんでしょ?」
『まあ、そういうことだ。私が先鋒になる。後ろは2人に任せるぞ』
『「了解」』
 3人は、薄暗い施設の中へと足を踏み入れていった。


47話 昔の友人
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2020/07/08(水) 21:44:13.22ID:QhFDALG00
「そうか、上から来たか」
 レインメーカー少佐はステム少尉と共に被害報告を整理していた。デスクに向かう少佐の傍にステム少尉が立っていた。エゥーゴは前回の戦闘から引き続き正面突破を試みてくるとばかり思っていたが、敵は搦手も好むようだ。
「あちらは試作MAを配置していた筈じゃないのかね?」
「それが…逃げ帰った兵が言うには撃破された様で」
「まさか。…所詮は旧戦争時の設計ということですかな」
 ジオンの遺した設計を元に、ティターンズの工廠で復元したのが例のMAだった。とても一年戦争時の技術では建造できるものではなかったが、今の水準でならと造られた代物である。そう簡単に撃破出来る様な戦力ではない。
「しかし、腐っても対艦用のMAですぞ。それなりの損害は与えておるでしょう」
「そう思いたいものですね」
 2人共薄々感じているが、恐らく戦局はロクな事になっていないだろう。いずれにせよ補給拠点を抑えられてしまったのは痛手である。
「敵は恐らく内部からの侵攻を企てているはず…。本部の連中は?」
 ひと通りの情報を整理した少佐は椅子から腰を上げる。
「今頃になって迎撃準備を始めた様ですよ。我々も出ましょう」
 ステム少尉は前回の雪辱を晴らしたいだろう。彼にも働いてもらわねばならない。
「まあ待ちなさい。艦長から改めて指示がありましょう」

「ウィード少佐、艦の方はいかがですかな」
 ブリッジへ戻ったレインメーカー少佐は、立ったまま各部署へ檄を飛ばしているウィード少佐へ声を掛けた。
「ああ、少佐。まだまだ修繕が追いついていませんよ。…別部隊が敵の侵入を許したとか?」
「左様で」
「基地の連中の体たらくには反吐が出る。かといって…我々もここをガラ空きにする訳にはいきませんし」
 彼女の言う通り、これで要塞上部に戦力を集中した所を敵増援に横腹でも突かれてしまえばひとたまりもない。
「しかし…黙って敵の侵攻を見ているわけにもいきますまい。何せこちらは体たらくの駐屯軍が迎え撃つ形ですからな」
 レインメーカー少佐の言わんとすることはわかっている筈だ。彼女は顎に指をあて、思案を巡らせている様だった。
「…MS隊を出す。ラムと私、ステムも連れて行こう。この場は少佐にお任せしても?」
「勿論です。何かあれば直ぐにお伝えしましょう」
「助かります」
 そう言うと彼女はすぐにその場を後にした。コロニー落としの1件からはどうなることかと思ったが、心持ちも良い方向へと向いてきた様だ。
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2020/07/08(水) 21:44:44.17ID:QhFDALG00
 ウィード少佐から指揮を引き継いだレインメーカー少佐は、補修作業を急がせつつ宙域での索敵を続けさせた。今のところ動きはないが、間違いなく敵の援軍が来る。今はとにかく目の前の部隊を退けるのが先決である。
『艦はお任せします。我々は本部の護衛に』
 ウィード少佐から通信が入る。
「いってらっしゃいませ。ここらで連中との腐れ縁も切ってしまいたいところですな」
『全くですよ。…ラムの方はどうか?』
『行ける。武器の換装に手間取ったが』
 ウィード少佐の問いかけにソニック大尉も応える。ミサイルランチャーを取り外し、汎用のビームライフルに持ち替えた様だ。
『私も行けます。基地内では可変機も持ち腐れですね』
 ステム少尉のガブスレイも準備を終えて合流する。
「ではでは…皆さん、ご武運を」
 レインメーカー少佐の一声を受け、MS隊が動き始める。本部までの通り道で敵に遭遇するのは考えづらい為、恐らくは迎撃戦になるだろう。本部で迎撃せず済むに越したことはないが、駐留軍が連中を抑えきれないのは火を見るより明らかと言っていい。
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2020/07/08(水) 21:45:14.22ID:QhFDALG00
「さて…。私も自分の仕事をせねば」
 ひと通りの指示を出し終えると、小さく独り言をこぼして立ち上がった。彼の任務は艦長の代行、ましてや世話係ではないのだ。それ自体、もっと大きな目的の一部分にすぎない。
 自室に戻ると、作りかけだった報告書を仕上げに掛かった。正直、アレキサンドリア隊がここまで戦い抜けるとは思っていなかった。コロニー落としではある意味責任を負わされて左遷された様なものだが、部隊の再建が出来たのは不幸中の幸いと言っていい。これなら或いは彼らの頑張りも報われるかもしれない。
 エゥーゴもよくやる。コンペイトウでも同じ月の部隊と交戦しているのは全くの偶然だが、彼らもこの大きな絵の一部だ。
 絵は自ら描くものだ。決して筆の運びを誰かに動かされるものではない。まして、描いた絵にキャンバスを台無しにされるなどあってはならない。今はエゥーゴに花を持たせてやる部分があったとしても、最終的に描き上がる絵は我々のものだ。バスクやジャミトフ…いや、ティターンズさえも所詮は絵画の登場人物に過ぎない。
「パプテマス様…貴方が絵描きならば、私は筆で在りたいのですよ」
 報告書があらかた仕上がり、椅子の背もたれに寄りかかりながら天井を見上げた後目を瞑る。
 その瞼の裏には、荘厳で神々しい…神の意志たる絵描きの、光溢れる世界が広がっていた。


48話 神の意思
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2020/07/08(水) 21:45:58.95ID:QhFDALG00
「さて…いつ来るかな」
 ソニック大尉は辺りを見渡した。
 アレキサンドリアの持ち場を離れた彼らは、本部近くの比較的開けた通路に陣取っている。エゥーゴの抑えた地点から考えると、ここを通らなければ本部までは到達出来ない筈である。
『…正直なところ、ここまで敵が到達することがあればもう手遅れね』
 ウィード少佐が溜息をついた。左遷早々に負け戦とはつくづく運のない部隊だ。
「まあな。仮に殲滅したとしても、増援を迎え撃つだけの戦力は残っていないしな」
 変わらず索敵を続けながら応えた。
『だったら早く撤退すべきでは?このまま戦ったって何の意味も…』
 ステム少尉が口を挟む。
「はいどうぞとコンペイトウを明け渡すのか?ここを簡単に取られたらグリプス2の件も情報が渡る。俺達はギリギリ迄粘らんといかんのだ」
『そんなこと言ったって…』
 ステム少尉が言い終わるより早く、レーダーに敵反応。2機。
「来たな…俺が行く。2人はここで待機だ」
『『了解』』
 2人をその場に残し、ソニック大尉は単独で敵を追った。

 まだ本部へ続く通路には気付いていないらしく、近くで右往左往している様子がわかる。大尉は大きく迂回しながら敵の後方へと回り込んだ。
「GM2か。バッタ共はまだ来ていない様だな」
 2つの機影はGM2で違いなかった。遮蔽物を利用しつつ、背後から忍び寄る。
「…遅いんだ」
 敵がこちらに気付いたその時、大尉は先手を打って敵の1機をコックピットから撃ち抜いた。崩れ落ちる機体を盾にして更に接近すると、残る1機へ掴みかかる。頭部を抑えると、そのまま床へと叩きつけた。叩きつけられ這いつくばった敵のコックピットを静かに撃ち抜く。

「…ふむ。近い」
 ゆっくりと立ち上がりながら周囲の反応に気付いた大尉は警戒を続ける。今度は3機ほどまとまっているのを見つけた。
「戻るか?…いや、どの道かち合うなら…これ以上近づかれる前に叩くべきか」
 敵を迎え撃つ判断を下した大尉は、再び遮蔽物に隠れる。熱源反応だけでは敵味方の区別はつくまい。撃破したGM2のそれに紛れて見えるだろう。交戦距離になればこちらから仕掛けるだけのことだ。
 現れた敵は幾らか警戒心が強い様に思えた。的確にルートを選択しながら確実に進んでいる。そのうち1機のGM2が先行しながらこちらへ向かってくる。
「…後ろのやつはマラサイか。みすみす敵に機体まで奪われるとは」
 先行するGM2の後ろにマラサイが見える。識別を見るに占拠された拠点の予備機らしかった。
「!」
 その時、GM2がこちらへ発砲してきた。肩をビームが掠める。
「何故バレた…?」
 すぐにバーニアを吹かすと、敵と一定の距離を取る。敵がこちらを視認していたとは考えづらい。
「…またやつか」
 GM2、マラサイの背後に、月で見た例のレドーム付きのネモがいた。恐らくこの機体の装備でこちらが味方では無いことを判別したのだろう。
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2020/07/08(水) 21:46:32.72ID:QhFDALG00
 狭い場所なだけに軽率な動きはお互いに取れない。無勢のソニック大尉としては非常に好都合な地形である。しかし、ジリジリと距離を詰めてくるGM2。先程の連中とは一味違う様だ。
「…とはいえ、所詮はGM2とマラサイ。上等なバックアップがついたところで、ゼクとやり合うには些か性能不足だろうな…!」
 大尉は状況を打開すべく先に仕掛けた。ライフルを放ちつつ、別の遮蔽物のある位置へと飛び移る。GM2はこちらの射撃を躱した体勢から一連の動作へ繋ぐと、そのまま突進してきた。
「ほう…!身体の使い方を知っているな…!」
 感心しつつも敵に向けて近くの手頃なコンテナを投げつける。敵はそれを盾で受けたが、そのタイミングを狙ってコンテナ諸共敵を撃つ。弾薬を積んでいたコンテナが誘爆し、辺りを閃光が包む。
「む…」
 大尉も少し目が眩んだが、どうやら敵はその機会を見逃さなかったらしい。マラサイが懐に潜り込んでくる。
「この程度で!」
 瞬時にサーベルを抜くと、マラサイを両断すべく縦に振るった。しかし、逆に両断されたのはゼクの右腕だった。
「馬鹿な…」
 何が起こったかわからぬまますぐに体勢を立て直し再び距離を取ろうとするが、またもやGM2が追いすがってくる。ライフルで迎撃しようとするも、敵は螺旋状の軌跡を残しながら的を絞らせない。
「これは騙されたな!こいつら…並じゃない」
 量産機体だと侮っていたが、恐らくかなりの手練だ。閉所に関わらず連携もうまい。大尉は当たらないライフルを捨てると、今度は左手でサーベルを構えた。それに応えるようにしてGM2もサーベルを抜く。
「うおおおおッッッ!!」
 先程切断された右腕で敵のサーベルを受けると、ガラ空きになった敵の腹目掛けてサーベルを横に凪ごうとした。察した敵は地面を蹴ると、両足で左腕を踏むようにして抑えつけた。
 ゼクが肩から残る右腕を失うと同時に、敵は左腕を踏み台にして後方へと跳ねるようにして退く。入れ替わる様にして今度はマラサイが迫った。
「!…あれは」
 ふと目をやると、マラサイの得物は薙刀の様だった。バッタのそれと酷似している。
「エゥーゴでは薙刀がトレンドなのか?」
 一瞬嫌な予感がよぎったが、振り払うようにして敵と切り結ぶ。敵の太刀筋は無駄がなく、一瞬でも気を抜けばやられるのは間違いない。次第に押され始める。
「この俺がこんなところで…!舐めるなッッッ」
 敵の振りが大きくなった瞬間を見計らい、間合いを詰めた。薙刀はこんな狭い場所では扱い辛いだろうことは明白だった。懐に潜り込み、至近距離からサーベルでコックピットを狙う。
 しかし敵はそれを予測していたかの様に、ゼクの左手を抑えつつショルダータックルを見舞ってきた。思わず大尉は体勢を崩した。
「こいつ…!本当に鹵獲機か!?」
 つい前に奪われた機体の動きではなかった。固定武装の扱い方も熟知しているとしか思えない。体勢を立て直す暇もなくマラサイの薙刀が迫る。
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2020/07/08(水) 21:47:13.15ID:QhFDALG00
『大尉は勝手ですよ!』
 間一髪のところに援護射撃を挟んだのはステム少尉のガブスレイだった。バルカンによる威嚇射撃を嫌い、飛びのく様にマラサイが下がる。
「少尉か!何故持ち場を離れた!?」
『あんまりにも戻るのが遅いから…!来てみたら案の定じゃないですか!』
 正直ありがたい増援だった。しかし少尉のガブスレイも狭い場所では十分にスペックを活かすことは出来ない。
『で…?どうするつもりなんです』
「こいつらは並の連中じゃない。これ以上進まれでもすれば…。いや、刺し違えてでもここで落とす」
『なるほど。作戦らしい作戦は無しですか』
 ステム少尉の呆れた様な溜息が聞こえる。実際自分でも呆れる無策っぷりではある。変わらず敵部隊は距離を詰めてきている。
「あまり時間は掛けられん。長引くと他の部隊まで呼び寄せる事になるからな」
『それに引き換え…敵さんはいざとなれば補給に戻る事も出来る訳ですか。余計に速攻掛けないと』
「ま、そんなところだ」
『防衛やってるのがどっちなのかわかんなくなりますよ、全く』
 少尉の言うとおりだった。容易く敵に拠点を与えてしまったことがそもそもの間違いなのだが、こればかりは今更どうしようもない。
「来るぞ!」
『はい!』
 マラサイを先頭に、敵が再び攻勢に出る。2人は迎え撃つべくそれぞれの得物を構え直した。

49話 無勢
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2020/07/08(水) 21:47:43.35ID:QhFDALG00
「こんの…!デカブツ!!」
 初手のマラサイの突進をいなした青い機体に向かって、スクワイヤ少尉はビームサーベルで斬りかかる。敵は驚くほど俊敏にそれも躱しつつ、カウンターに蹴りを繰り出してきた。両腕でそれを防ぎながら、バルカンで敵の関節部を狙う。敵の膝を集中的に攻撃すると、ようやく体勢を崩した。
「貰った!」
『少尉!』
 追撃をかけようとした少尉をフジ中尉が制止する。すんでの所で下がると、ガブスレイの射撃が機体の目の前を掠めていった。ワーウィック大尉のマラサイと共に一旦距離を空ける。

『ガンダムじゃなくても…やるじゃないか』
「あの子は出来過ぎてるんですよ。たまには私も身の程も知らないと」
 スクワイヤ少尉はワーウィック大尉と軽口を叩く。敵に増援が加わったが、それでもまだ2対3だ。
『この辺りに敵影はあと1つ。増援はそちら側から移動してきた様ですが…』
 フジ中尉が辺りのデータを共有してくれていたが、先程の先制攻撃は賭けだった。高性能なエコーロケーションを利用した索敵とはいえ、味方の可能性も無くはなかったのだ。中尉の分析をあてにはしているが、仲間を撃つのは御免である。
『最後の敵が動かないあたり…何が何でもここは通したくないということだろうな』
 大尉の言う通り、恐らく残る1機のいる場所が最後の関門だろう。司令部とされる場所はそう遠くない筈だ。
 敵は待ち構えるようにしてこちらの出方を伺っている。
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2020/07/08(水) 21:48:10.80ID:QhFDALG00
『性能差はあるが、どうにかここを押し切れば…』
 その時、大尉の声を遮るようにして爆発音が振動と共にあたりに響く。
「な…何なの!?」
『爆破したのか!?』
 中尉が声を荒げる。只でさえ狭い通路が瓦礫に埋もれ始めた。強烈な振動は尚も続き、連続的にあちこちで爆発が起こっているのがここからでもわかる。
「何なのよもう!」
『下がれ!死ぬぞ!』
 頭上が崩れ、大小の岩が降り注ぐ。どうにか躱しながらあたりを見渡すが、照明がやられた様で周囲はかなり暗くなってきた。
『ちぃ!退くぞ!中尉、ナビゲートを!』
 そうこうしている間にも敵との間に大きな岩が落ちてくる。分断されたタイミングで一気に来た道を戻り始めた。敵も後退を始めた様だ。
「命拾いしたわね…デカブツ共」
『どうだかな。こっちも言ってる場合じゃないぞ』
「わかってますよ、中尉」
 何が起きているのか把握出来ないまま、中尉のネモに続く。彼の言う通り、何者かがコンペイトウを内部から爆破した様だった。

『ティターンズがやったんだろうな!』
 退避しながら大尉が声を張る。確かにエゥーゴが基地を爆破する理由は無いし、その術もない。
『まずいな…通路が塞がってる』
 中尉の声に思わず正面を向き直したが、確かに先程通った筈の通路が見当たらない。取り敢えず通路だった場所の前で一旦足を止める。爆発そのものは収まったようだ。
「ったく、ゲームの途中で盤をひっくり返す子供じゃあるまいし…。第一、あれって多分…味方諸共爆破したんでしょ?」
『だろうな…。ま、その成果に俺達を生き埋めに出来そうだが』
 大尉が苦笑いする。元々入り組んでいた通路が更に複雑になっていて、通れる場所自体も限られていた。確かにこのままでは生き埋めになる。
「中尉!他に道はないんですか!?」
『む…データの通りならもうお手上げだ』
「嘘でしょ…」
 大きく溜息をついて、少尉はもう一度モニターを見渡す。辛うじて残る灯りを頼りに目視で道を探してみるが、それらしいものは見当たらない。
『幸いMSがある。重機代わりにこいつで道を作るのもひとつだな』
 大尉のマラサイが動き出した。塞がった瓦礫を手でどかし始める。残る2人もそれに続き、地道に作業を始めた。奥まで崩れていればどうしようもないが、他にやれることもない。
0891◆tyrQWQQxgU
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2020/07/08(水) 21:48:32.25ID:QhFDALG00
『元々ジオンがMSを開発していた時、重機の延長ということにして連邦の監視を躱していたらしいな』
 岩を退かしながら大尉が言う。
「だったらこれがMSのほんとの仕事な訳ですね」
『本当にそうだったら良かったのにな。だが、そうはいかなかった』
「私達だってそうでしょう?別に殺し合う為に生まれてきた訳じゃない」
 大尉の返事はなかった。
『そういえば…。大尉はニュータイプの存在を信じてらっしゃるので?ジオニズムとでもいいましょうか』
 珍しく中尉が雑談に加わる。
『そうだな…。ジオン・ズム・ダイクンの言うような大それたものじゃないだろうが、遅かれ早かれ人の革新はあると思っているかな。実際に人類が宇宙に生活圏を拡げたのもそうだろ』
「ふーん。そんで、最後はその宇宙で生き埋めになる?」
『かもな』
 少尉が笑うと、2人も笑った。
『第六感というか…いわゆる超常的な力の片鱗も見てきた。個人的にはアトリエ大尉もそのひとりだと思っているが…。そんなものは些細なものでしかない』
『というと?』
『人の革新ってのは…超能力のことじゃない。人を感じ、労り、共に歩む事だ。それを綺麗事だと言わずに済む時が来たら、我々はまた新しい世界にいける』
「…こんなふうに?」
 大きな瓦礫が音を立てて崩れ、通り道が出来た。
0892◆tyrQWQQxgU
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2020/07/08(水) 21:49:00.75ID:QhFDALG00
 通路の向こうは比較的被害が少なかった様で、殆ど原形を留めていた。急にあたりが明るくなったせいか、幾らか眩しさすら覚える。
『上出来だ。早く行こう』
 大尉に促され、まずは先導役のフジ中尉が通り抜ける。それに続いて大尉のマラサイが進み、最後に少尉のGM2が通り抜けようとした。
 しかしその瞬間、支えを失った天井が再び崩れ落ちてきた。
『少尉!!』
「うわっ!!」
 機体に直撃する形で瓦礫が降ってくる。あっという間にあたりは暗くなり、大尉達の姿は見えなくなった。

50話 綺麗事
0894通常の名無しさんの3倍
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2020/07/09(木) 18:08:08.75ID:A1TC5o2Z0
乙です!

高速戦闘用バッタさん、逝く...仲間を庇いつつ機体をオシャカにするのは、もう彼の生き方そのものですね
マンドラゴラは改修√ですか。ついに0083〜Zの直系ミッシングリンクがグヘヘ...あら涎が垂れちゃいましたw
アナハイムの補給も基地からの鹵獲も充実してるようですし、どうなるか楽しみです!!
ネモ×EWAC×メガバズ、盛り杉ぃ!...すンごく好みです(笑)
サブジェネがあるとは言えジムIIだと複数機要りそうな辺り、ネモってもアナハイムの最新鋭機ですね!

ゲイルちゃんにボオル...ジオンの幻陽でパブリク配備したエゥーゴなら出しかねないw
それは冗談として大尉再びマラサイ...pixiv曰く元の長柄サーベルにはゲルググのデバイスが採用されてるそうなので
ナギナタを持たせてやるのはエゥーゴの補給体制に合わせつつ、機体への無理も少ないという意味で正解かもです

で、ゲイルちゃんもジムII回帰。僕はZ外伝をそう知らないのですが...主役級が赤ジムIIに乗るのって極めて稀では?
エゥーゴながら大尉のマラサイも当然赤でしょうし、「ヘンなパーティーが誕生した!(魔法陣グルグル並感)」ですよw
こういうところは長じてもゲリラ屋ですね

ステム君、ガブスレイみたいなゴツくて刺々しい機体で洞窟戦やりたいんだ...
私的にはファミチキ、じゃなくてハイザックくださいと言いたくなりますw
ウィード少佐、持ち直してきてますね! 彼女らの方は蹴られたガブスレイが凹みと擦り傷くらいで実質無傷
この人らにヘンなパーティーで戦わせるなんて、SさんドSさんですね...w

爺はシロッコの枝...? 少なくともウィード隊に仲間意識を持ってくれてて安心しましたが、一瞬ヒヤッとなりました
>>774辺りの「若いっていいなぁ」感は演技で、ホントはゾッコンだったとw カリスマは老若男女にウケてこそですね!
早速撤退を進言してしまうステム君、一理あるけど>>883>>886で掌くるりしてしまうのはまだまだ若いですね
(まぁ「(中に)出してください」ではなく「(外に)出してください」なら一貫してますがw)
それだけティターンズがやる気のある若者にアレを掴ませるクソ組織になってきてるわけですね、救いがねぇ...

暗殺に近い瞬殺を行うソニック...正直「屋根落とし」のイメージでしたが、案外「仕留めて候」な感じです(古いw)
ゼク・アインでかくれんぼとかホント出来る男ですね、そしてフジ中尉は敵に回すと一々嫌な男だw

敵味方識別コードをそのままに出来るのは、気心知れた少数編成だからこそですね。総力戦だと恐らく事故りますw
スクワイヤ、ジムIIに戻ったことで身軽さを生かした高機動の感覚を取り戻してきてる...?
おっ、マラサイのショルダータックル!(位置的にスパイクアーマー側ですね)
Zは撃ち合いが多くて新訳で回し蹴り追加されるくらいなので、こういうアクションは何とも嬉しいです!
そこから(額のララァがパッカーンするのであろう)ガブスレイバルカン、スゴく良く外伝してる!宇宙より映えててgood!

今度のニュンペーは出待ち...ラスボス然としてきましたが、はたして...
爆破ですよ(幻聴)。鉱山を閉山する時は労働者全員が揃ったのを確認してから閉門しますが
司令本部はウィード隊を何だと思っているのやら...さすがに爺じゃないよね?(苦笑)
基本に立ち返っての通路復旧、いいですねぇ...ワーウィックも鉄の巨人に憧れてた頃を思い出してるのかな?

私的には神も仏もない言い草ですが、人間は自然淘汰で減るにはちょっぴり強すぎるので
「殺し合うため生まれてきた」も満更嘘ではないと思ってます(思ってるから某ハゲは自重してください!)
一方的に駆除されるばかりでなく、「殺し合う」ほど力が拮抗できるだけまだマシ...と、これくらいにしときましょう

さて次くらいでスクワイヤの実情が明かされるのやら...楽しみに待ってます!
0895◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:32:23.22ID:YVtOvx+T0
>>893
>>894
いつもありがとうございます!

さて、百式改も大破してマンドラゴラも中破。イレギュラーな乗り換えイベントで初期機体に戻してみました。初期機体が量産型だとこういう時融通利いていいですね。
マンドラゴラの改修についてはもうアイディアがあるんですが、それは後ほど…。

そろそろティターンズ組も話が大きく動き始めます。
エゥーゴ組との対比も重要な部分になっているので、初期からの経緯も振り返ってもらえたらと思います。

地球から宇宙へ飛び出した人類は、本当に戦い続けるしかないのか?っていうのもテーマのひとつです。ある種のニュータイプ論といいますか…。
これも掘り下げていきますので、良かったら最後までお付き合いください!!

実は結構書き溜めていて、2章ラストに向けて一気に話が進んでいきます!楽しんでください!
0896◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:35:39.93ID:YVtOvx+T0
「く…。敵も味方もよくやるものだ」
 何者かが基地を爆破したらしかった。駐留軍がヤケになったのか…なんにせよ本部襲撃は退けた。ソニック大尉は胸を撫でおろしつつ状況を確認した。
「取り敢えず敵襲は去ったが…くそ」
 敵機の反応が離れていった。しかし大尉はその場から動けずにいる。最後に貰ったバルカンが致命的だった。おかげで機体は立ち上がることが出来なくなっていた。
「…やむを得ん。機体は放棄する。俺を拾えるか?…ステム?」
 応答がない。辺りは暗く、目視ではガブスレイを確認できない。
「くそ!こんなとこでやられるなよ!ステム!!」
 何度呼びかけても反応がない。熱源を見るにすぐ側にいる筈なのだが。
「ステム!!応答しろ!!」
『…煩いなあ』
 相変わらず姿は見えないが、確かに少尉だった。
「全く…心配かけやがって。怪我はないか?」
『ええ。心配には及びませんよ…特にあんたの心配は要らない』
「何?」
 直後、ガブスレイのライフルがゼクの脚部を撃ち抜いた。片膝をついていた機体が倒れ込む。仰向けになると、見上げた先にはモノアイが不気味に浮かんでいた。
「…何のつもりだ?今更冗談とは言わんだろうな」
『あんたが向こう見ずなおかげで予定は少し狂ったけど…ここであんたが死んだなら、俺は何とでも報告出来る』
 大尉の背に冷たい汗が流れた。
0897◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:36:11.93ID:YVtOvx+T0
 状況が飲み込めないまま、注意深く周りを確認する。
「何故こんな事を?誰かの差し金か?」
『誰の差し金でもない。俺自身の意志だ』
 ステム少尉の声は怖いほど静かだった。それだけでも彼の決意の固さは察するに余りある。
「…エゥーゴか?それともジオン残党か?」
『…はあ。やっぱりあんたの脳味噌は筋肉で出来てるらしいな』
 依然として銃口を向けたまま、ステム少尉が溜息をついた。
『先のコロニー落とし…。俺の姉、リディル・オーブ中尉は負傷した。今頃はゼダンの門でリハビリをやってる。…何故こんな事になったと思う?』
「それはエゥーゴが…」
『違う!!あんたらがしくじったからだ!!』
 ステム少尉は大きく声を荒げた。ソニック大尉は何となく事態を察した。
「…それで、俺に復讐でもしたいのか」
『…姉が軍に入るのを俺は止めた。でも言うこと聞かなくてさ…。士官学校の成績も良かったし、こっちも黙らざるを得なかった。
 MS乗りの適性があったんだろ?ウィード少佐やドレイク大尉、それにあんたとも上手くやってるって…たまにメールも貰った』
 そこで一度言葉を切ると、溜息をついた様だった。ソニック大尉は静かに聞いていた。
『自分で決めたことだ、負傷したのも戦場ではよくある事だって…そう言ってた。だとしても…俺は…守る事も出来ないくせにこんな場所へ引きずり込んだあんたらを許せない』
「…許せとは言わない。だが…お前を曇らせているものは、俺を殺したところで晴れないんじゃないのか?俺達は…仲間ではないのか?」
 返事はなかった。答えないまま彼は話を続ける。
『俺は姉の後を追うように入隊したんだ。戦争さえ終わってしまえば元の暮らしに戻れると思ったから。でも…もう元には戻れない…』
 彼が鼻をすするのが聞こえた。
『元には戻らない…だったら…作り変えればいいんだと…あの人は俺に言ってくれたんだ』
 嫌な感じがした。やはり何者かの手引なのか。
「誰が言ったんだ?シロッコ大佐か?」
『…喋り過ぎたな。これだけ聞ければ…冥土の土産には十分だろ?』
 ガブスレイが動いた。ソニック大尉は咄嗟にライフルを掴む。
『くそ!離せ!』
「日頃から鍛えてないからこうなる!」
 そのまま銃口を捻じ曲げると、軋む脚部を引き摺りながら強引にガブスレイへ掴みかかった。
0898◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:36:46.48ID:YVtOvx+T0
『往生際が悪いんだよ!』
「お前の爪が甘いだけだ」
 揉み合いになりながら、膠着の隙をみてコックピットハッチを開く。左腕以外まともに使えない状態ではまともにやり合えるはずがない。自爆装置のタイマーを起動すると、機体から飛び降りた。
 機体から転げ落ちる様にして脱出する背後で、ゼクの自爆装置が作動した。爆風に煽られ、着地も上手く出来ずに近くのコンテナへと落下した。

「ぐっ…くそ…」
 幸いコンテナの天板を破ったことがクッションになり、死なずには済んだ。半壊したコンテナの切れ目から、遠くでガブスレイが撤退していくのが見える。ほんの少しの間だが気を失っていた様だ。
 ソニック大尉は重い身体を壁で支えながら立ち上がる。身体の節々が痛むが、幸い四肢は無事だ。大きな出血も見られない。
「さて…どうしたものか」
 彼の裏切りは予想出来なかったが、恐らくはステム少尉ひとりの動きではない。そうなると部隊に戻るのも危険に思えた。
「誰の差し金なんだ…。ドラフラか?いや、あいつに限ってそんな。…或いは」
 ステム少尉を唆した人物が居るはずだ。だとすれば、部隊にいる他クルーの身も危険ではないか。
「こうしてはいられんな…」
 荒い呼吸を可能な限り整えると、壊れたコンテナから外へ出る。とにかくアレキサンドリアに戻ることにした。危険は承知の上だが、かといって他に行くあてもない。
「ぐぅ…!」
 視界が歪む。流石に無理をし過ぎたのか、ぐらりとまたその場に倒れ込む。
「ドラフラ…逃げろ…」
 薄れる意識の中で、ウィード少佐とドレイク大尉…そしてオーブ中尉の姿が彼の脳裏をよぎっていた。

51話 転げ落ちる様に
0899◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:37:19.79ID:YVtOvx+T0
「痛っ…」
 計器の光だけが取り残されたコックピットの中で、スクワイヤ少尉は頭をさすった。
『大丈夫か!?』
 ワーウィック大尉の声がする。
「何とか。でも…」
 機体を動かそうと試みるが、うんともすんともいわない。
「出られそうにないです。外から見たらどうなってます?」
『完全に姿が見えないな。埋もれてる』
 フジ中尉もいささか心配そうにしている。
『すぐに助けを呼んでくる。下手なことはせずにそこで待ってろ。いいな?』
「了解…」
 大尉の声に力なく応える。やはりGM2の馬力ではこんなものか。2人が離れていくのをレーダーから見送った。

 瓦礫に埋もれてからどのくらい時間が経ったのだろうか。暗い中で独りになると、いつの日かの出撃を思い出す。まともな回避行動も取らずに被弾して、いっそ死ねればと思いながら宙域を漂っていたものだ。少尉はあの時と同じ様に、シートの上に丸まった。
 あの時と違うのは、ここでは月が見えないことだ。何だかんだ言っても、あの景色は好きだったのかもしれない。この作戦を終えてアンマンへ戻る帰路にでも、ゆっくりと眺めたらいい。
 そんなことをぼんやりと考えていた時だった。再び辺りが大きく揺れ始める。
「何何何何???」
 動かないのは百も承知で操縦桿を握り直す。爆破の第2波が来たのかもしれない。
 ガチャガチャと意味もなく操縦桿を動かそうとしていると、少し負荷が軽くなるのを感じた。
「…いけるかな」
 バックパックに駄目元で火を入れ直し、機体を持ち上げようと試みる。周囲の揺れに共鳴して瓦礫が動かしやすくなったのかもしれない。しばらく続けていると、明らかに機体が軽くなった。
「頑張って!あともう少し…!」
 機体のダメージを報せる警告を無視して、強引に瓦礫を押し退けた。瓦礫と共に弾ける様に脱出する。ゴロリと転がって通路側へと出る事が出来た。
「あいたた…。もう…やればできるじゃん」
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