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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。
0799通常の名無しさんの3倍垢版2020/05/02(土) 07:07:56.88ID:NWG27T9L0
ご無沙汰してます!
ふとエゥーゴ側の制服が気になったのですが...

ワーウィック→サエグサやシーサーが着ていたようなチョッキ+シャツ
フジ→カツが着ていた緑系
スクワイヤ→レコアが着ていた露出の少ない方
グレッチ→グレーの正規軍服、前を止めずに着崩してる感じ(ヘンケン用だと襟から下が開かないんですよねw)

おおよそこんなところでしょうか?
ワーウィックはカミーユみたいにするほど青くないし、かといって連邦グレーを着こなすのも変かとこうしましたw
0800◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:26:58.63ID:6Hz5WWbB0
大変お待たせしました!
コロナだの副業準備だのでバタバタしてました…。
頻度は落ちるかもしれませんが、また投下していきます!!取り敢えず書き溜めていた分を落としますね!

>>799
制服とはまた良いところに目をつけましたね!
イメージでは、
・ワーウィック→ヘンケンみたいな黒で襟の裏地が緑+シャツ
・スクワイヤ→エマさんみたいな緑+黒のレギンス
・フジ→お堅いベージュの連邦カラー
・グレッチ→フジと同じく連邦標準制服を適当に着崩した感じ

…こんな感じでしょうか??
0801◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:28:15.48ID:6Hz5WWbB0
「どうにかうまくいきましたか…」
『よくあんなの思いつきますよね中尉』
『機転が利くのも中尉のいいところだ』
「全体の動きを把握出来ていて良かったですよ。2人が敵を引きつけていたからこそです」
 フジ中尉達は敵MS隊をうまく撒くと、アレキサンドリア級強襲へと向かった。
 当初はコロニーへの攻撃用で用意していた衛生ミサイルだったが、目標を変えて敵の分断に使用したのである。思いの外味方主力の進軍が早く、丁度遊ばせていたところだったのが功を奏した。
 友軍のネモ隊も急な申し入れによく対応してくれたと思う。そのネモ隊にサラミスを任せ、中尉達は指揮艦を叩く。

『今なら殆ど裸に近い筈だ。さっきの連中が戻ってくる前に速攻をかける』
 ワーウィック大尉が指示を出す。彼がジオン出身である事が確定したが、だからといって彼への信頼が揺らぐ訳ではなかった。ただただ心のしこりが疼くだけだ。今は考えるべきではない。
『私から行きます。ただ…』
「ああ、まだ後1機出てきていないのが気になるな。どう思われます?大尉」
 アレキサンドリアの砲撃を躱しつつ、中尉もスクワイヤ少尉と同じく懸念を抱いていた。
『前回テスト機を撃破したとはいえ、さっきのガルバルディ隊を見るに補給は済んでいる筈だな。まだ何か出てくるかもしれん』
0802◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:28:55.36ID:6Hz5WWbB0
「そろそろ出てきてもおかしくはありませんね…」
 敵艦の機銃をライフルで潰しながら周囲を索敵したが、まだ変化は無い。この戦況で正面のカタパルトを開くのは敵としてもリスクが大きい筈だ。
『とにかく大元を叩いてしまえば!』
 機銃を潰され砲火が手薄になった敵の横腹に少尉のガンダムが接近する。迎撃する主砲が彼女へ照準を合わせようとしていた。
『そうはさせんよ』
 まだ弾幕の厚い敵艦前方を掻い潜り、ワーウィック大尉の百式が主砲にナギナタを突き立てる。彼が瞬時に離脱すると、装填済だったとみえるメガ粒子と共に主砲が爆発した。
『大尉!』
 少尉が、大尉へ狙いを定める機銃を破壊しながら叫ぶ。
『構うな!敵をよく見て動け!』
 少尉を叱咤しながらも、2人は綺麗に連携している。まさに背中を預けあっているといっていい。中尉はその2人の連携が乱れぬ様、彼らの更に先を見る。

 ようやく敵艦に取り付いたその時、先程の爆発の裏に反応を見つけた。
「大尉!来ました…例のやつです!」
『また同じ機体…量産に入っているのか?』
 気取られたのを察知してか、敵がその姿を露わにした。その曲線的なフォルムと淡い体色は紛れもなく例の試作機だった。
『よし、やつは私が叩く。2人は引き続き敵艦を破壊しろ』
『しかし…』
 少尉が食い下がる。
「私が随時状況は共有する。少尉が危ないと思ったら動けばいい。まずは大尉に任せよう」
『…了解』
 渋々従う彼女を確認すると、大尉の百式は軌道を変えて試作機へと向かった。砲火を嫌ってか、敵は艦から距離を置こうとしている様に見える。
「ふん…艦を捨ててでも決着を付けにくるか」
 百式の動きも捉えつつ、少尉のガンダムの支援を続けた。
0803◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:29:22.09ID:6Hz5WWbB0
 護衛のない戦艦は殆ど的と言って差し支えなかった。機銃や主砲を失った片側の船体は最早こちらの進軍を止める手立ても無い。
「少尉!いけそうか!?」
『やってみます…!!』
 遂に少尉は敵の艦橋目掛けてバーニアを吹かす。しかしその時、ミサイル群がガンダムを襲った。身を捩りどうにか躱すが、艦橋は叩き損なってしまった。
『!?…もう追いつかれた!?』
 ミサイルの発射地点を辿ると、そこには撒いた筈のガルバルディ隊。
「まだ余裕はあった筈だぞ…?一体何処から…」
 中尉達の後方を追ってきたわけでは無さそうだった。しかし大回りしていては到底間に合わない。
「…!そうか、コロニーか!」
 どうも連中はコロニーの外壁を破り、その中を一直線に引き返して来たようだ。容易く機体の進路は作れないと思ったが、恐らく例のデブリを利用したのだろう。衛生ミサイルを流用した事が仇になった。
『これは大尉の援護どころじゃなさそうですね…』
 戦艦を叩くのは中断し一旦距離を取る。ガルバルディ隊もこちらを追うようにしてアレキサンドリアから離れた。
「ここが正念場だ!抜かるなよ!」
『了解!』
0804◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:30:04.00ID:6Hz5WWbB0
 中尉が激を飛ばすと、応えた少尉のガンダムが敵の隊列に突っ込んだ。行く手を阻むのは先程の大型タイプである。
『さっきからしつこい!』
 その巨躯に見合わず、しっかりとガンダムの動きに付いてくる。お互いにライフルで牽制し合うも、付かず離れずの読み合いが続いていた。その隙を狙う様にブースターを背負ったガルバルディが砲撃を放つ。
 これをガンダムは宙返りして躱すが、無防備になった所を残る1機が強襲する。
「こっちは無視か?」
 すかさず中尉はライフルで敵を牽制した。それでも3機は徹底してガンダムを狙っている。
「各個撃破は作戦として正しい。だが、戦力を甘く見積もるのは感心しないな」
 ネモの背中に背負ったバックパックはレドームのみではない。有事に備えたサブジェネレーターも搭載している。
 本来は友軍機への供給が主な用途だが、中尉はこれをライフルに直結すると、オーバーヒートさせながら敵へ放った。
 流石に想定外だったのか、躱しきれなかったブースター搭載機の左半身が吹き飛んだ。それに気を取られた万能機へガンダムが斬りかかる。
 敵は正面から斬りかかったサーベルをシールドで受けようとした。少尉は咄嗟にサーベルを逆手に持ち替えシールドを空振りさせると、ガラ空きになった腹を横一文字に凪ぐ。
 サーベルは完全にコックピットを捉えていた。真っ二つになった敵機は爆散する。
 僚機が2機損壊したのを見て、残る大型機がなりふり構わず中尉へ迫った。迎撃しようにもライフルは先程のオーバーヒートで使い物にならず、携行していた右腕も電装系に異常をきたしている。
『中尉!任せて!』
 スクワイヤ少尉のガンダムが割り込む。すると敵機はガンダムの頭部を掴み、膝蹴りと挟み込む様にして叩きつけた。
『うわっ!!』
 頭部全壊とはいかないまでも、内部の機器は破壊されただろう。今度は受け身が取れないままのガンダムを前に、敵がサーベルを抜いた。
0805◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:30:41.43ID:6Hz5WWbB0
『させんと言っているだろう!』
 ワーウィック大尉だった。敵は背後からのナギナタを咄嗟にサーベルで受けると、形勢不利を悟って後ろへ下がった。半身を失ったガルバルディに肩を貸しながら撤退していく。
「試作機はどうです?」
 こちらも直ぐ様追える状態ではなく、敵を見送りながら大尉に声を掛けた。外観を見る限り百式に大きな損傷はみられない。
『中尉達を艦から引き離してからは母艦の支援に回っていたよ。私もそこを攻めあぐねていたところでこっちに合流させてもらった』
 そう言いながらガンダムの手を引く大尉。
『すみません、モニターが死にました』
「じきにサブが復旧するだろう。よくやった」
 かなり敵の戦力を削ぐ事に成功した。報告を流し見る限り、先程のネモ隊もサラミスを落とした様である。後は主力がどうなっているかだった。

『遅くなったな!ちょっくら主力の手伝いをしてきたもんでな』
 アイリッシュ級のグレッチ艦長だった。ようやくこちらに追いついたらしい。
「あっちはどうです?」
『依然交戦中だ。しかし例のニュータイプ、凄いなあれは』
「アーガマのパイロットですか」
『ああ、とても子供が乗ってるとは思えん。おかげでかなり優勢だぞ。…あれ?ゲイルちゃん、顔どうした』
『その言い方やめてくださいよ…』
 スクワイヤ少尉が溜息をつく。
「!…あれは」
 コロニー後方で大きな光が見えた。あの位置には核パルスエンジンがある。
『やったか!』
 ワーウィック大尉の言う通り、エンジンの破壊に成功した様だ。ジワリジワリとコロニーが失速していく。フジ中尉は落下予測を概算で試みた。これならグラナダへの直撃は避けられるはずだ。
「作戦成功ですね…」
 中尉はほっと胸を撫でおろす。ティターンズの凶行をなんとか防いだ。もうコロニー落としの悲劇など目にしたくなかった。
 しかし、同じ連邦であるティターンズの士官には、コロニー落としに嫌悪感を示す人間もいる筈だ。一部の将校が強硬手段に出たのではないかとすら思える。とはいえ、エゥーゴも仇敵であるジオンを抱き込んでいる以上、お互い様かもしれない。
 敵も味方も、正義も悪もない。混沌としたこの地球圏で、自らの信念を何処まで貫いていけるのだろうか。今はただ、安堵する気持ちに浸っていたかった。

31話 正念場
0806◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:32:57.08ID:6Hz5WWbB0
 敵襲は去った。しかしアレキサンドリアの艦内は戦闘中と何ら変わりなかった。
「状況は!?」
 帰投するなりヘルメットを投げ捨て、ウィード少佐はモニターに向かって怒鳴った。
『お戻りですか。乗組員は閉鎖したブロック周辺の消火作業にあたらせています』
 ブリッジからレインメーカー少佐が応えた。
「わかりました。コロニーは?」
『核パルスエンジンを破壊された様ですな。近辺でガンダムMk-Uらしき機影も確認しています』
「ちぃ…!よりによって盗まれた機体に邪魔立てされて…!」
 開いたコックピットから格納庫を見渡しながら舌打ちする。まだガルバルディ隊は戻っていない様だ。
『そろそろガルバルディ隊も戻りましょうが…』
「連中の補給も急がせる」
『しかし…』
「…?どうしたんです」
『フリード・ドレイク大尉が戦死なさいました。オーブ中尉も重傷です』
「は…?」
 途端に全身から力が抜けた。
『とにかく早くブリッジへお戻りを』
「…わかりました」
 返事をしながらも、ウィード少佐の視点は高い天井を見上げていた。
0807◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:33:45.18ID:6Hz5WWbB0
 ウィード少佐がブリッジに入った時、モニター越しの格納庫に丁度ガルバルディ隊が帰還するところだった。
 しかしそれは最早部隊などと呼べる様相ではなかった。オーブ中尉のガルバルディαは殆ど原型を留めておらず、単独では着艦すらままならない。
 それを支えるγは欠損こそないが、各部の塗装が剥がれ激戦だったことが伺える。そして何より、βの姿がそこには無かった。
「…!脱出ポットは見当たらないのか!?」
「機体は完全に撃墜されております」
「だとしても、直前に脱出しているかもしれんでしょう!」
「それは…」
「いいから探せ!!探すんだよ!!」
 力任せに壁を叩いた。何度も叩いた。
「…ウィード少佐…お気持ちは痛いほどわかります…」
「頼む…探してくれ…探して…ください…」
 ウィード少佐はその場に崩れ落ちた。駆け寄ったレインメーカー少佐が肩を抱いたが、その暖かみすら自らの冷えていく体温が際立つだけだった。

 その後オーブ中尉は半壊した機体から救出され、緊急治療室へ運び込まれ、ソニック大尉も軽傷ながら治療を受けさせた。ウィード少佐も休むよう促されたが、頑として聞かなかった。
 結局ドレイク大尉の捜索は行わなかった。ソニック大尉の証言によれば、ガンダムのビームサーベルは間違いなくコックピットを焼いたのだという。何度聞き返しても、彼の答えは変わらなかった。
 軌道が逸れたコロニーはグラナダから遠く離れた未開拓の区域に落着し、それを捨ておいたティターンズ艦隊はそれぞれに撤退した。
 今回の作戦は現場の暴走として片付けられたが、核パルスエンジンが通常の作戦で持ち出されることなどまずない。どう考えても司令であるジャマイカン・ダニンガンの指示である。
 そもそもウィード少佐達に護衛の通達が来た時点で、上層部が容認していたとしか思えない。
 アレキサンドリアの損傷も著しく、応急処置を施しながらコンペイトウへ向かう事となった。それまでに機体のデータをまとめなければならなかったが、とてもそんな気分にはなれない。ウィード少佐は自室に籠りがちになっていた。
0808◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:34:48.46ID:6Hz5WWbB0
「…よろしいですかな?」
 断りを入れて入室してきたのはレインメーカー少佐だった。
「何か航行に問題でも?」
 書類をめくりながら平静を装うウィード少佐だったが、きっと内心の乱れにも彼は勘付いているのだろう。
「いえ、報告がひとつ」
「…?」
 ウィード少佐は書類に触る手を止めた。
「コロニー落としの一件ですが…。どうも内通者がいたとか」
「そんな馬鹿な」
 ペンを机に置き、ウィード少佐は立ち上がった。もし事実なら遠回しにドレイク大尉を殺された様なものだ。確かにエゥーゴ主力艦隊の対応には目を見張る迅速さがあった。
「…シロッコ大佐腹心の若い女性士官が居るのですが、憶えていらっしゃいますでしょうか」
 はっきり憶えていた。前回帰還時に彼の傍に立っていた少女のことだろう。
「彼女がなんだと言うんです」
「アーガマと接触していた疑いがあります」
 レインメーカー少佐は表情を変えなかった。それどころか耳を疑うような事を続けた。
「しかし、それだけではありません。同じくシロッコ大佐麾下の我々にも疑いの目が向けられている様です」
「…!」
 思わず言葉に詰まる。良心の呵責に耐え、ドレイク大尉を失い、オーブ中尉もまだ予断を許さない状況だ。そこまでして戦った結果が裏切りの疑惑なのか。
「…私には、バスク・オム大佐達上層部による、シロッコ大佐への当てつけとしか思えません」
 ウィード少佐の心境を察してか、レインメーカー少佐が静かに言った。
「アポロ作戦にしても、シロッコ大佐が指揮権を手放した直後にエゥーゴの巻き返し。その後のコロニー落としも失敗しました。バスク達にしてみればまあ面白くないでしょうからな。
 ブレックス准将の暗殺も一枚噛んでいると聞きます」
 レインメーカー少佐の言う通り、シロッコ大佐が目をつけられるのも無理はない。まして彼は聡明な男だ。野放しにしておけば取って代わられる恐れすら感じるだろう。
「…それで彼らが話をでっちあげていると?」
「少なくとも我々は裏切っておりません。シロッコ大佐にしても我々を差し向けている以上、作戦に参加している身と言って良いでしょう」
「こんな時に派閥争いなどと…!」
 ウィード少佐は憤りを隠せない。あまりに馬鹿馬鹿しい話だった。身を粉にする思いで革新を成そうとしているシロッコ大佐が裏切りなどするはずがない。
「上層部にはお気をつけください。信じられるのは身近な人間だけです」
「ご忠告、胸にしまっておきます」
 そこまで話してレインメーカー少佐は退室していった。
0809◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:35:32.40ID:6Hz5WWbB0
 しばらくしてオーブ中尉の治療が終わったと報せが入った。一命は取り留めたとのことだ。しかし彼女はもう戦線復帰は絶望的という。ドレイク大尉ももう居ない。彼女達という両腕をもがれ、立ち上がることも出来ずに地を這っている様だった。
「…済まない」
 オーブ中尉の治療について報告へ来たソニック大尉は、小さくそう言った。
「どうしてあなたが謝るの?」
「俺は皆に助けてもらって今ここにいる。だが…俺は…何も…」
 彼が目頭を抑える。
「何も…してやれなかった…!!」
 大きな身体を、小さく震わせていた。その悲痛な姿がウィード少佐には耐え難かった。
「できる事はやった…。だからそんなこと言わないで…」
 ウィード少佐達が同じ配属となった後、レインメーカー少佐はお目付け役としてやってきた。そんなウィード少佐には、真に頼れる者はソニック大尉しか残されていなかった。
「…私にはまだ、あなたという脚がある。これからも支えてほしい」
「…ああ!わかっているさ」
 顔を拭うと、ソニック大尉はいつもどおりの笑顔を見せた。彼にはこれからも辛い思いをさせるかもしれないが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 あまりにも大き過ぎる犠牲を払いながら、ウィード少佐は決意を新たにした。エゥーゴを徹底的に叩く。その上で現ティターンズの上層部も潰す。その為にはやはりシロッコ大佐の力にならねばならない。
 ドレイク大尉やオーブ中尉が身を呈して守った理想の為、ウィード少佐もシロッコ大佐の理想を守りたいと強く願った。

32話 大き過ぎる犠牲
0810◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:39:06.56ID:6Hz5WWbB0
 オーブ中尉が目を醒ました時、白衣の医師達が彼女を囲んでいるのがぼんやり見えた。状況もわからず、ただ自分が生きている事だけを自覚する。医師達は彼女の意識確認を行うと、何やら話しながら作業を始めた。
 何が起きたのか思い出すのにも時間が必要そうだ。機体が被弾したその後の映像が断片的に頭をよぎる。そのひとつひとつを結びつけようとしたが、どうも覚束ない。
 ベッドごと上体を起こされている様だが、首を固定されているらしく視線くらいしか自由が利かない有様である。今回は手酷くやられた様だ。
「目が醒めたのね」
 部屋にこぼれた光と共に聞こえてきたのはウィード少佐の声。
「…ん…よく思い出せてないんだけど…」
 借り物の様な心地がする喉を動かし、なんとか声を出した。
「無理に喋らなくていい。ゆっくり治せばいいんだから」
 そう言う彼女の声が近づく。目を開くのも億劫になり、再び目を閉じた。
「負けたの…?」
 目を閉じたまま訊く。
「…まだ終わってないわ。むしろこれからよ」
 表情は見えないが、声色に気負いを感じた。恐らく、コロニー落としには失敗したのだろう。
0811◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:39:35.32ID:6Hz5WWbB0
 意識がはっきりしてくるにつれて、何となく思い出してきた。あの時、ネモのライフルを機体に受けた。その瞬間にコックピット内に鮮血が飛び散ったのを思い出す。火花を走らせながら半壊したモニター。
 それらに挟まれて途切れ途切れの意識の中、確かに見た。あるはずのものが、そこには無かった。
「…ドラフラ、あたし…もう戦えないんでしょ?」
 オーブ中尉の問いにウィード少佐は応えなかった。いや、それが答えだった。医師が止めるのも構わず、固定された首を半ば強引に動かし自らの左腕を見る。思った通り、彼女は肘から下を失っていた。
「そんな気はしたのよ。こんな…仰々しく…」
 言葉を切って少し休む。押し寄せる現実に気持ちが昂ぶり、呼吸が乱れた。周りが少し慌ただしくなる。
「!…無理しないで」
 ウィード少佐が肩に手を添えた。オーブ中尉は深呼吸して、最後に溜息をつく。
「少しまた寝る…。ドラフラも無理しないで…」
「わかってる。リディルもね」
 ぽんぽんと胸元を叩かれた。すぐにオーブ中尉の意識は再び遠のいていった。
0812◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:40:00.29ID:6Hz5WWbB0
 それからしばらくして、オーブ中尉負傷後に何があったのかを聞いた。コロニー落とし失敗や、ドレイク大尉の戦死。今居るのはコンペイトウであることや、アレキサンドリア隊への疑惑。身体を少しずつ慣らしながら色んなことを聞いた。
「しっかし変な感じね!無いのに有るような気がする」
 容態が落ち着いて散歩程度なら許されたオーブ中尉は、ソニック大尉を伴って病棟を歩いていた。身体のバランスにまだ不慣れだが、失った腕の感覚が残っているのはよくある事なのだと言う。
「人間の身体というのはまだまだ未知数だからな。…困ったら何でも聞け。俺ももっと学ぶとしよう」
「ラムはそういうの詳しそう」
 彼に目立った負傷が無かったのは不幸中の幸いだった。
「これからどうするの?あたしはMSには乗れないだろうし、かといって人員も足りてないでしょ」
「ガルバルディ隊は解散だろう。お前もまだ治療が必要だし、俺ひとりというのもな」
「そうね…。フリードも居なくなったんだもん」
 ドレイク大尉は最期までオーブ中尉を呼んでいたのだという。彼女の言う通りもっと自分を制していれば、結果は違ったのだろうか。
「…少なくとも、彼女は俺達に止まって欲しくはないだろうな。救われたこの命…遺された使命の為に使わなければ」
「くっさ!ほんとあんたは相変わらずだわ」
 そういってオーブ中尉は笑った。正直言ってオーブ中尉としてはまだ失ったものへの実感は薄かった。どことなく高揚した気分が続いている。
「リディルが居ないと俺も締まらない。トレーニングには良いマネージャーが必要だからな」
「はいはい。今から会議でしょ?くだらない事言ってないで早く行きなさいよ」
 ソニック大尉を送り出し、彼女はひとり病室へ戻る。ウィード少佐はじめ、彼にも苦労をかけた。オーブ中尉も自分に出来る事を考えなければならなかった。
0813◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:40:32.59ID:6Hz5WWbB0
 病室へ戻ると人影を見つけてぎょっとした。よく見るとレインメーカー少佐だった。彼はベッドの傍のチェアーに腰掛けていた。
「もう!びっくりしたじゃん!」
 薄暗い部屋に照明をつける。
「失礼失礼。ここで待てば会えるかと」
 そう言って彼は立ち上がり、軽く会釈した。
「爺は会議出ないの?」
「私はお呼ばれしておりませんで。少し手が空きましたから、お嬢さんとお話でもと」
「暇なら相手してもいいわよー」
 からかう様な笑みを浮かべながら彼女はベッドに腰掛けた。彼も再び座る。
「大変でしたね」
「まあね。でもしゃーないでしょ、よくあることだわ」
 本当は割り切れるものではない。しかし、クルー達にこれ以上心配を掛けたくないという気持ちの方が強かった。少なくとも彼らの前ではいつも通り振る舞うと決めていた。
「まだお若いのに、苦労をかけさせてしまって私も申し訳ない」
「何言ってんだか。いつもは若いうちに苦労しろとか言ってるくせに」
「いやはや、歳になるとどうも説教臭くなるものでしてな」
 困った様に少佐が頭を掻く。
「そういえば、なんか疑われてるんだっけ?内通者がどうたら」
「上層部は本当の前線を知らんですからな。戦艦に同乗して喚いていればそれが前線だと思っておりますから」
「いっぺんその辺にほっぽり出してやりたいわ。そんな余裕無いわよこっちは」
「彼らは彼らなりに任務を遂行しておるのでしょう。それぞれに事情があります」
「また説教ー?」
「これはいかんですな。言ったそばから」
 そういって2人は笑った。

「…爺、あたしこれからどうなるんだろうね」
 少し和やかになったところで正直に訊いてみた。
「…通常のMSパイロットとして戦うのは難しいでしょうな。様々な技術はありますが、どれもまだ実用的ではありません」
「様々な技術?手が無くもないってことか」
 失った左手をまじまじと見つめながら自嘲気味に笑った。
「義手とかは慣熟するまでかかるんでしょ?そんなの待ってられないわ」
「元々使った事があれば別ですが、使ったことのないものですから。サイコミュなどもそうでしょうが、身体に無いものを動かすというのはもっと難しい」
 身体に無いものを動かすと言われハッとした。無い筈の左腕を動かしているこの感覚はまさしくそれだった。
「…サイコミュってさ、操縦桿が無くても動くわけ?」
「…ええ。極まると遠隔操作すら出来ると聞いておりますな」
 聞いたことがあった。ジオンのMAは勿論だが、連邦もサイコガンダムなどで実際に戦闘を行っている。
「つっても動かしてるのは皆ニュータイプだもんね。あたしには関係ないか」
 そういってオーブ中尉はベッドに身を投げ出した。
「そう焦らずとも良いでしょう。時間はあります」
 そういってレインメーカー少佐が微笑んだ。それから他愛もない話を幾つかしたのち、どうやら暇を潰せたらしい彼は、お辞儀して病室を出ていった。
0814◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/03(水) 15:40:58.65ID:6Hz5WWbB0
 部屋でぽつりと独りになったオーブ中尉は外に目をやる。少しでも気晴らしになるよう窓があったが、地下に建設されたこの病棟では晴れやかな景色が見られる訳ではない。ごつごつとした岩に囲まれて作業に勤しむ人々が見えるだけだ。
「サイコミュか」
 オーブ中尉は何となく呟いた。ニュータイプ的な閃きなどとは無縁な彼女だったが、無いものを動かす感覚というのは今まさしく体感していた。この延長線なら想像ができる気がしている。
 きっと会議の中でこれからの事を話しているはずだ。何もかもを自分で決められる訳ではないとはいえ、このまま引き下がる気も彼女には毛頭無かった。
 オーブ中尉は確かにある右手と、無い筈の左手を強く握り締めた。

33話 無い筈の
0816通常の名無しさんの3倍垢版2020/06/06(土) 11:33:14.16ID:BN3jfH6V0
乙です!
もしやコロニーより高いところまで行ったんじゃないかと心配してたので、一先ず安心しました!(待てやコラ)

機銃や主砲を近接武器で潰していくのは、メガバズーカランチャーの戦績の悪さが広まった結果でしょうか?(笑)
ワーウィックの心配をするスクワイヤも、大尉の意を汲んでフォローするフジも、いい感じに成長してますね!
ネモ隊もガルバルディ隊もミサイルを撒いて戦場に仕切りを作る、こういう集団戦描写とても好きです

フジのEWACネモ→改造ガルバルディα(大破、オーブは強化フラグ...?)
スクワイヤのマンドラゴラ→改造ガルバルディβ(ドレイク死亡、爆散)
ここでキルスコアとは...
正直、原作の展開はやらかしたことのスケールの割に話が動かなかったので、ピッタリ嵌まった感じがあります。
ジェリドは悔しさ第一みたいなキャラなのでシドレの死を軽く描写させられてしまいましたが
ウィード、ソニック、レインメーカーはシロッコ達とどう向き合っていくのか...
あらら、シロッコの小手先の悪影響が旗下の部隊にまで波及しちゃってまぁ...
ティターンズ内での疑惑に向かっていく導線、ぜひ辿らせてください!(悪趣味)

ソニックのγ、パワフルですねぇ。
高トルクパックとかF90Bとか、最近は何となく大柄な機体の格闘ぶりに燃えてきちゃう話が多くて好きです

単機でアレキサンドリアを守りきったウィードも立派、帰る家が無きゃ誰も戦えません。
でもそのせいで部下たちがボロックソにされてるのに気づけなかったんですよね......抱きしめてあげたい!(下心なし)
しかしこの件でいよいよウィード隊の依存を強めてるシロッコは不気味ですね、こっちでもひっぱたかれないかな(笑)

お、コンペイ島!ジオン共和国と並んでZ作中じゃちっとも描写のなかったコンペイ島じゃないですか!w
ジョニ帰のミナレット欲しかったおじさんとかガンダムTR-1とか、外伝では優遇されてる感じですが
今作ではどれほどゼダンやグリプスを使った大喧嘩に関わることやら......続き待ってます!
0817◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:39:39.46ID:vuolscyX0
>>815
>>816
ありがとうございます!
ちと忙しかったので筆も止まっていたのですが、余裕が出来たので息抜きに再開しました!

前作では1対多数や血ツ別の戦いが多bゥったので、描試ハが難しいですbェ多数対多数に鋳ァ戦しているとbアろです。楽しbナもらえていb驍ネら何よりでbキ!

これだけ成長している彼らがいつまでもガルバルディに苦戦するはずもなく…
一応操縦スキル自体はガルバルディ隊の中ではソニックが1番高い設定です。伊達に脳筋ではありません。
ガルバルディ隊が連携してガンダム達と渡り合っていたところを、その有利さえ覆ってきたなら…こうなるのは自明かなというところ。

シロッコの急進的なやり方には齟齬が出ないとおかしいと思ってたんですよね。
そのしわ寄せが何処かに行くとすれば、彼のような人たらしなら…わからないように何処かに押し付けていてもおかしくはないかなと。
テーマの1つなのでしっかり描写していきます。

あれだけ1年戦争で重要な拠点だったソロモンが、何故グリプス戦役では放ったらかしなのか…ガトーのせいでしょうか。笑
ア・バオア・クーは名前まで変えてばっちり最終戦に絡んでいたので、僕の話ではコンペイトウも噛ませて行こうかなと思っています!
0818◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:42:30.29ID:vuolscyX0
「ちょっと見てみろ」
 そういうグレッチ艦長の声に、スクワイヤ少尉達MS隊の面々はモニターを覗き込んだ。次の出撃指示もなく、皆ブリッジに集まっていたところだった。
 コロニー落としの一件から1ヶ月と経たず、エゥーゴとティターンズは変わらぬ小競り合いを続けている。
 アンマン市やグラナダも例外ではなく、ちょっかいをかけてくる敵部隊との戦闘が頻発していた。アポロ作戦やコロニー落としの事もあり、相手が偵察部隊であっても決して気が抜けない状況である。

「これ、どう思うよ大尉」
 モニターに表示されたその報告には、旧ジオン軍残党の最大拠点アクシズが地球圏へと接近しつつあることが記されていた。
「私はアクシズのことは何も。ただ、デラーズ紛争の敗残兵も抱きかかえた事を考えれば…それなりの規模になっている筈です」
 考え込む様に右手を顎に当てながらワーウィック大尉が応える。
「彼らが地球圏に…。もしエゥーゴと手を組んだらティターンズも危ういんじゃ?」
 スクワイヤ少尉は単純に好機だと思った。ジオン狩りのティターンズと、反地球連邦のエゥーゴ。どう考えても利するのはエゥーゴの筈だ。
「これがそうとも言えん。発想がわかりやすくて説明し甲斐があるな少尉は」
 眼鏡を掛け直しながらフジ中尉がニヤリと笑った。
「む…何だっていうんです」
「ティターンズはこれまで失敗続きだ。それも、なりふり構わずやってきたせいで市民含め敵は多い。
 そもそも論としてエゥーゴにしても地球連邦軍の一部であることを考えれば、我々と同じく彼ら残党軍を戦力として欲してもおかしくはあるまいよ」
「そんな!だってティターンズはジオンの残党狩りが名目の組織でしょ!?」
「ああ、"名目"はな。連中のやっている事を顧みれば、そんなものは方便だとわかるだろう」
「うーん…そう言われてみればそうなんですかね…」
 少尉は思わず唸った。とはいえ、残党狩りが残党と手を組むなどおかしな話である。
「問題は…彼ら残党軍自身がどういうつもりで地球圏帰還を決行したのか」
 中尉の問いかけにも、変わらず大尉は考え込んでいる。
「正直、我々がこれ以上考察を続けてもあまり得るものは無いな。私にも真意が掴めん」
 大尉は考えるのをやめた様だった。
「お前らの意見はわかった。俺もイマイチ状況が読めなくなってきたからなぁ」
 大きく溜息をついた艦長が髭をいじる。
「アーガマが接触を試みるそうだが、どうもティターンズ側にも動きが有るようだ。…とはいえ、俺達がやることは特にない」
 そういって艦長はお開きだと言わんばかりに手を叩いた。皆それぞれの持ち場へと戻っていく。
0819◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:43:32.58ID:vuolscyX0
「このまま放ったらかしですかね?私達」
 整備の為格納庫へ向かいながら、パイロットの3人で並んで歩いた。
「そうもいくまい。そろそろ局面が動く」
 ワーウィック大尉が難しい顔で言った。
「ティターンズだけでも手一杯な今、更に敵が増えるのは避けたいところですが…」
 フジ中尉はこの間の件といい、いくら戦局が厳しくなるとはいえやはり残党と表立って手を組むというのは抵抗もあるだろう。
「色々と条件もある。いくらエゥーゴが反地球連邦といっても、ザビ家再興などを掲げているのであれば力を貸すわけにはいかないだろうしな」
 そうは言うが、大尉はもうジオンに未練はないのだろうか。
「ザビ家って全滅したんじゃ?」
「いや、ドズル中将の娘がいる。彼女自身はまだ幼いが、マハラジャ・カーンの娘が摂政としてついている筈だ。その位は伝え聞いたが、それ以上の事は何も」
「ザビ家かあ…イマイチ実感湧きませんね。なんか、そこだけ時間の流れが私達と違うみたいです」
「小惑星などに引き篭もっていればそうもなるさ」
 ワーウィック大尉はやや不機嫌そうに鼻で笑った。

 スクワイヤ少尉達が整備を進めている間にも、上層部は今後の事を話し合っているはずだった。ひと通りの作業を終えて休憩していた面々に再び招集がかかる。
 拭った煤が頬についたままの少尉を始め、バタバタとブリッジへ皆が集まった。
『諸君、調子はどうかね』
 1番大きなモニターにロングホーン大佐の姿が映った。相変わらずの仏頂面である。腕組みして椅子にふんぞり返っている。
『揃った様だから始めるが…。今現在我々は、接近しつつあるアクシズの対処に追われている。今頃はバジーナ大尉達が接触している頃かな』
 ブレックス准将の死後、アーガマのクワトロ・バジーナ大尉が後継者としてエゥーゴを背負って立つ事になった。その彼が直接交渉に出向いたということか。
 しかし、何故ロングホーン大佐やブライト・ノア大佐ではなく彼が後継者として選ばれたのかはわからない。
「アーガマの報告待ちということですか?」
 フジ中尉が問う。
『いや、こちらも待ってばかりでは居られまい。ある意味で彼らは敵地に乗り込んだ様なものだからな。諸君には彼らの出迎えをやってもらいたい』
 大佐は組んでいた腕を解くと、身を乗り出す様にして両手を机についた。
『アーガマの出迎えとは言うが、実際のところ逆に敵の出迎えに遭遇する可能性もある。アクシズの連中に歓迎されるとも限らんし、アーガマがティターンズに出し抜かれていることも考えられる。…危険だが任されてくれ』
「了解しました。すぐにでも出港します。…最後に1つだけお伺いしても?」
 珍しくグレッチ艦長が一言添えた。
『なんだね?』
「アーガマの交渉が破談していた場合、今後エゥーゴはどう動くので?」
『…ふん。いずれにせよ最後に勝つのは我々でなければならない。それだけだ』
 ロングホーン大佐はそれだけ言うと一方的に通信を切った。それを聞いたグレッチ艦長は帽子を深く被り直す。
0820◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:44:32.90ID:vuolscyX0
「さて、お前達!聞いたとおりだ。さっさと準備にかかれ」
 振り返ったグレッチの艦長の一声で皆作業を再開する。ぞろぞろと退出するクルー達に置いていかれる様にして、スクワイヤ少尉はひとりその場に残っていた。
「ん?どうかしたのかゲイルちゃん」
 気付いた艦長が首を傾げた。
「…今の話、何か引っ掛かるんですか?艦長」
「そうさな…他所さんと同じでうちも一枚岩じゃねぇだろ。アクシズと接触して、古巣に戻るやつらも出る筈だ。そうなった時、ほんとに上層部が言うほど事が上手く運ぶとは思えねぇからよ」
 髭を気にしながら、艦長は神妙な面持ちで言う。
「艦長にしては真面目な考察」
「悪いかよ!早くお前も持ち場に戻れやい」
「はいはーい」
 少尉は頭の後ろで手を組みながら大股でブリッジから退出した。歩きながら艦長の言葉を反芻する。
 確かに彼の言う通り、これまで以上に複雑な戦況が予想されるだろう。確かに、ワーウィック大尉の様に割り切っている人間ばかりではあるまい。加えて、フジ中尉の様にジオン出身者へのわだかまりを抱えている人間も居るはずだ。
 ノンポリシーな少尉からするとあまり実感は湧かないものの、この組織は思っている以上に繊細で脆いのだと改めて認識していた。

34話 アクシズ
0821◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:45:28.80ID:vuolscyX0
 スクワイヤ少尉達アイリッシュ級は、ロングホーン大佐の指示から程なくしてアンマンを立った。月を離れ、小惑星アクシズの方向へと進路をとる。パイロット達は機体のコックピットの中で待機を続けていた。
「アーガマからは音沙汰ないみたいで」
『もう会談の終了予定時刻は過ぎていますね。もしかすると…』
『ああ。交渉決裂したか、頭をティターンズに叩かれたか…。いずれにせよ我々の出番だな』
 スクワイヤ少尉達が危惧しているところに丁度通信が入る。
『待たせたな。アーガマの出迎えはティターンズがしてくれたみたいだぜ。おかげであっちは今混戦状態だ』
 グレッチ艦長が溜息混じりに言う。
『交渉は?』
 フジ中尉が問う。
『さあ。今んとこ何とも言えねえわな。とにかく撤収するアーガマと代わりばんこで俺達が壁になる。すぐ出れる様にしとけよ』
『『「了解」』』
 敵がティターンズだけなら良いが、最悪の場合アクシズとも交戦しなければならない。スクワイヤ少尉は気を引き締めた。

 アイリッシュ級が敵艦を捉えたとの報告が入る。既に砲撃を開始した様だ。
『み…皆さん!聞こえますか!』
 珍しく少し声を張ったのはグレコ軍曹だった。それでも人並みの声量しかない。
「なんです?」
『あ、少尉!アーガマから戦闘宙域を抜けたとの報告がありました。一部の敵をこちらが引き付けたのでどうにか…。交渉は決裂した模様』
『それはそれは。我々も出るので?』
 フジ中尉も通信に応答する。
『お願いします。ムサイ改が2隻、加えてMSも多数…』
『それだけ判れば十分だ。2人とも、行くか』
 話を切り上げたのはワーウィック大尉だった。ほぼ同時に前方カタパルトハッチが開く。少尉達は直ぐにアイリッシュ級前方へと展開を開始した。
0822◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:46:50.66ID:vuolscyX0
 戦火の行き交う宙域を、3機は縫うように進んだ。ムサイ改を背後にして、数機のハイザック、通常仕様のガルバルディβと共に見慣れない機体も見える。
『あの黒い機体…データにはありません』
 特段慌てた様子は無いものの、フジ中尉が口を開いた。
「新型ですかね?変な鶏冠!」
 2機ほど確認出来たその黒い機体は、頭部の突起を始めとして各部に黄色の配色が見える。シルエットもいささか異形である。専用のライフルを携えているようだ。
『全く、次から次へと…。戦力は見誤るなよ!鶏冠付きは後回しにして、叩きやすいところから叩く!』
『「了解」』
 ワーウィック大尉の指示を受け、各機は速度を上げた。
「まずは…1匹」
 迎撃するハイザックのマシンガンを躱しながら放ったマンドラゴラのビームライフルが敵の腹部に直撃、機体は爆散した。その下から上がってくる様にして別のハイザックが迫る。
 そちらを捕捉した時、別方向からのガルバルディの射線も少尉の方を向いた。
「数が多い!」
『慌てるな。新型はさておき、他の連中よりはこちらの方が機体性能は勝っている』
 そう言いながらフジ中尉のネモは、少尉を狙ったガルバルディの頭部を撃ち抜く。しかし、更に先程の新型の1機がネモに急接近していた。
『流石に新型は動きが良いな…』
 迎撃するネモが抜きざまに振りかぶったビームサーベルを、敵の新型はステップする様に躱しつつ中尉の背後を取る。
『ちぃ…!』
 至近距離でのライフルを受けそうになるも、中尉はその銃口をマニピュレータで掴み強引に逸した。しかし敵は更にサーベルを抜く。
「このッ!」
 あわやというところで少尉のマンドラゴラが追いつき鶏冠付きを蹴り飛ばした。制御を失った機体を尻目に、今度はもう1機の鶏冠付きがハイザックと共に威嚇射撃を繰り出してくる。
『流石にきりが無いな…!』
 別のガルバルディをナギナタで斬り捨てながら大尉がこぼす。併せて3機ほど落としたにも関わらず尚敵の勢いは衰えない。MS部隊に加えて敵艦の砲撃も止む気配はなさそうだった。
0823◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:47:43.98ID:vuolscyX0
『後どれ位だ!?』
 珍しくワーウィック大尉が声を荒げる。月面では鬼神の如き働きをみせた大尉だったが、上下の概念がない宙域で近接戦闘を継続するのは流石に消耗するらしかった。加えて、後続から別のムサイ改もMSを発進させているのが見える。
『増援含め…ハイザック4機、ガルバルディβ3機。新型が2機です』
 冷静に見えるフジ中尉だが、恐らく彼も焦り始めているだろう。そうこう言う間にも敵の砲撃は激しさを増し、初めは攻勢にあった少尉達も次第に防戦一方になっていく。
「なんだって敵は私達にこんな戦力を…!?」
 シールドで敵のライフルを弾きながら少尉も狼狽えた。
『どうだろうな!本来はアーガマを潰したかったのかもしれんが…』
 やり取りもそこそこに、再び単身敵陣へ走った大尉は、阻むハイザックを頭から真っ二つに断った。出遅れて迎撃しようとする周囲の敵を残る2人で牽制する。
 大尉の駆る百式改はバーニアの青い軌跡を曳きながら敵の最中を斬り抜ける。疲れをみせた大尉の言葉とは裏腹に、1機、また1機と落とす中でその動きは研ぎ澄まされていく様だった。
 敵を翻弄しつつも無駄の少ない所作には感嘆を禁じ得ない。その彼の後ろに、かつて背中を預けあったというアトリエ大尉の影が浮かんだ。
「そこは…私の席なんだから」
 影を打ち消す様にして、少尉はマンドラゴラと共に大尉の後へ続く。
「だからさァ…邪魔しないで…ッ!」
 敵の新型が行く手を遮ったが、マンドラゴラは加速して突き進む。敵が動揺した一瞬にギリギリで身を捩ると、回転しながら擦れ違いざまに腹から両断した。勢いそのまま更に敵中深く潜り込んでいく。
0824◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:48:24.28ID:vuolscyX0
『大尉!いくらなんでもこのままでは!』
『ちぃ…!』
 流石に被弾も避けられず、各機動きが鈍くなってくる。マンドラゴラはシールドを失い、百式のナギナタも明らかに出力が落ちているのが見て取れた。
 支援に回っている中尉のネモでさえライフルの残弾が尽き、近接戦闘を余儀なくされている。
 戦いが尚も続きいよいよという頃、敵の動きが変わった。各機適当なところで砲撃を切り上げると、そのまま撤退し始める。
『なんだ…敵が引いていく』
「はぁ…はぁ…追撃…しますか?」
 驚いた様子の中尉と同じく、少尉も状況が読めない。
『いや、よそう。これは…』
 撤退していく敵部隊の進路の先にはアクシズの大きな影があった。
『…まさか』
『ああ、そのまさかかもしれんな』
 2人は何かを察した様である。
「どのまさかです?」
『ティターンズとアクシズが手を組んだのかもしれん。ティターンズを残党が受け入れたのか…』
 確かにティターンズ艦隊はアクシズの方向へと退いていく様に見える。出迎える様にして現れたのは見慣れないMS群だった。
「あれは…」
『ガザか…?作業用でも数を集めて運用すればどうにかといったところか。残党なりによくやるようだな』
 大尉がガザと呼んだ桃色の機体が大量に群れる様子は、いささか不気味でもあった。
『これはアーガマも逃げ帰る訳だ。流石にこの物量で追い立てられれば無事では済みません』
『そうなる前に我々も帰れということだろう。撤退するぞ』
「エゥーゴと交渉決裂して…ティターンズとは組んだってことですか…?」
 スクワイヤ少尉は2人に割って入るように言った。フジ中尉から聞いた理屈はわかるが、実際に残党と残党狩りが手を結ぶなどということがあっていいのか。
『…信念などないのかもしれんな』
 思いにふけるようにしてワーウィック大尉が呟く。
『皆さん!戻るなら今しかありません!ここで退かないとアクシズが来ます』
 グレコ軍曹からの通信だった。敵MSを寄せ付けなかったとはいえ、アイリッシュ級も敵の砲撃を受けて少なからぬ損害を被っている様だ。満身創痍のMS部隊は母艦へと帰還する。
0825◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/07(日) 13:49:05.10ID:vuolscyX0
 着艦後スクワイヤ少尉がコックピットを出てヘルメットを脱ぐと、案の定艦内は騒然としていた。
「やはりエゥーゴは勢力争いから取り残された様だ」
 一足先に機体を降りていたらしいワーウィック大尉が出迎える。整備スペースのレールを掴み、少尉も機体から離れた。
「もしそうだとして、どうするんでしょうね。今までみたいに散発的な攻撃を繰り返したって埒が明かないでしょうし」
「いよいよ板挟み…連邦もジオンも敵だなんて信じられませんがね」
 呆れたようにそう言ったのはフジ中尉だった。彼もふわりと足場へ着地すると、そのままレール伝手にこちらへやってくる。
「エゥーゴも不沈船と言うわけではないからな。このままどてっぱらに穴でも開けられようものなら…皆宇宙で溺れることになる」
 大尉の表情からは何も読み取れない。
「大尉は、ジオンとも戦えるんですか?」
 ワーウィック大尉の胸のうちがどうしても気になり、少尉は恐る恐る聞いた。
「…亡者とは戦うさ。信じられるのは自らの信念を固く持った…今を生きる人々だけだ」
 そういうと、大尉は少しだけ微笑んだ。
 彼の言葉に少尉は、地球圏の様々な意志が渦巻くこの宇宙で、やっと見つけた自分の戦う意義だけは離すまいと誓った。

35話 信念
0827◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:01:11.68ID:A9l4MSXN0
>>826
ありがとうございます!

また溜まってきてるので少しずつ投下します!
0828◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:07:14.95ID:A9l4MSXN0
 フジ中尉はブリッジへと向かっていた。
「どうかしたんですか?」
 自室からひょっこり顔を出したスクワイア少尉が歩く先に見える。
「ああ。今後の作戦について進言が欲しいと艦長から言われていてな」
「なんですかそれ、私そんなこと一言も言われなかったんですけど」
 少し不服そうに少尉が言う。フジ中尉は鼻で笑ったまま彼女の前を通り過ぎ、足を止めずに歩いた。
「ちょっと!…私も行きます」
 後ろでバタバタするのが聞こえたあと、スクワイア少尉も付いてきている様だった。

 ブリッジに到着すると、そこにはワーウィック大尉と話し込むグレッチ艦長の姿があった。
「おお、来たか2人とも」
「2人ともって、私何も聞かされてなかったんですけど」
 いつも通り艦長に少尉が噛み付いている。
「それで…何か進展は?」
「どうもアクシズはゼダンの門を目指しているらしい。エゥーゴ主力はそっちに気を取られているな」
 フジ中尉の問いに応えたのはワーウィック大尉だった。
「こないだの動きからして、ティターンズとアクシズは手を組んだとみえる」
 少尉をなだめ終わったのか、艦長が髭をいじりながら言う。
「じゃあ私達は主力と一緒に奴らを追うんですか?それともまた留守番?」
 やや不機嫌な少尉が腰に手を当て艦長を見る。
「どうだかねぇ。流石に留守番ってこたぁ無いだろうが、ロングホーン大佐も決め兼ねてる。アンマンにしろグラナダにしろ、相変わらず狙われてるからな…中尉は何か考えたか?」
「そうですね…」
 中尉は少し間をおいた。考えはある。
「コンペイトウ…旧ソロモンを叩くというのはどうです?」
 言った中尉に同意する様にワーウィック大尉が頷く。少尉はピンときていない様子だ。
0829◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:07:42.14ID:A9l4MSXN0
「…1年戦争時、連邦はソロモンを叩いた後にア・バオア・クー…現ゼダンの門を決戦の地に選びました。グラナダを叩く選択肢も残しながらです。
 今はむしろその逆…我々が駐屯出来るのはグラナダを残してコンペイトウもゼダンの門もティターンズの拠点と化していますよね?」
 いつもの様にスラスラと中尉が述べると、ワーウィック大尉がその後を引き継いぐ。
「その通りだ。ここでゼダンの門を叩きたい主力を掩護する意味でもコンペイトウ攻略は正しい判断だよ。上手くすれば挟撃する形でやつらを叩ける。…どうなんです?艦長」
 ワーウィック大尉がグレッチ艦長を見上げると、釣られて皆艦長の方へ視線を移した。
「お前らがそう言っても、上層部がなんていうかはわからんさね。だがまぁ、選択肢としては有力だな」
 帽子のつばをつまみながら艦長が言う。
「とはいえ…第一に、敵に対して俺達の艦隊戦力じゃ拠点1つ潰すのもひと苦労だぜ。殆ど総力戦だ」
 そういって深く椅子へ座り直す艦長。丁度その時アンマンの基地司令から通信が入る。
『…少しいいかね?』
 ロングホーン大佐からだった。
「はい。…お前ら、来てもらったばっかりで悪いが、ちと外してくれ。作戦案は俺から大佐にちゃんと伝えとくからよ」
 艦長に手であしらわれた中尉達はそそくさとブリッジを後にした。
0830◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:08:16.49ID:A9l4MSXN0
「結局どうなるんでしょーね…」
 ブリッジのドアが閉まるなりスクワイヤ少尉が腕を組みながら言った。
「わからんな、こればかりは」
 そういってワーウィック大尉が歩き出すと、中尉達もその後に続く。
「…ああは言いましたが、私としてはこの機会にジオンを叩きたいんですよ本当は」
 中尉は思わず口に出した。決してワーウィック大尉に当てつけるつもりでは無かったが、そう取られても仕方がないと気付いたときにはもう遅かった。
「フジ中尉、そんなに大尉がジオン出身なのが気に入らないんですか?」
 苛立ちを隠さずスクワイヤ少尉が詰め寄った。彼女はかなり大尉に肩入れしている。
「すまない。そういうつもりではないんだが…。大尉、あなたもそうでしょう?結局こないだは残党とは接触出来ずじまいでしたし」
 少尉に睨まれながら大尉へと話を振った。
「…いや、いいんだ。今更連中と話が出来たところで何にもなりはしないさ。バジーナ大尉が駄目だったのなら余計に。それに、さっきの中尉の策は私の考えていたものと同じだったしな」
 変わらず冷静な大尉の横顔には、何処か諦めのようなものも感じられた。

「そういえば、なんでバジーナ大尉がエゥーゴの後継者なんです?エースって言ってもパイロットのひとりですよね」
 中尉を睨むのに飽きたスクワイヤ少尉が聞いた。本当に何も知らないらしい。
「彼の正体は旧ジオンの赤い彗星との噂だがな。ただのパイロットではないよあの男は」
 腕を組みながら、感慨深そうに大尉が言った。
「え!赤い彗星って、ホワイトベース隊を追っかけ回してたっていうあの??生きてたんですか」
 目を丸くした少尉があからさまに驚く。
「よく知ってるな少尉。珍しく話がわかるじゃないか」
 思わず中尉は鼻で笑った。彼女は何も知らないようで、たまにピンポイントでものを知っている事がある。それがおかしかった。
「知ってますよそのくらい!…でも仮に赤い彗星だとして、なんでエゥーゴの代表になるんです?」
 そんな事を話している内に随分歩いていた。その時艦内に放送が入った。
『クルーの諸君、我々の次の作戦が決まったぞ?至急ブリッジへ集まれ』
 グレッチ艦長の声だった。
0831◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:09:02.60ID:A9l4MSXN0
「まったく…歩き疲れたんですけど」
 再びブリッジに着くなり少尉がボソッと愚痴を漏らす。
「仕方ねぇだろ!大佐が急に通信してくるのが悪いんだ!文句ならあっちに言えや!」
 いつもの調子で艦長と言い合いを始めた。この辺のやり取りは大尉の着任前と何ら変わりない。
「くそ…まあいい!集まったな?」
 そういって艦長はブリッジを見渡す。
「フジ中尉からの進言もあり、諸々の情勢もあり…。我々はコンペイトウを叩くことになった!まーた主力と違う作戦かと思うかもしれんが、今回はちょっと違うぞ…?とりあえずこれを見ろ」
 そういって艦長が手を挙げると、グレコ軍曹が慌ててスクリーンを映す。そこにはアンマン・グラナダから伸びるコンペイトウへの進路、そして別艦隊の進路。それらが別々の目的地からゼダンの門へと合流する様子が示されていた。
「この図の通りだ。エゥーゴは最終決戦をゼダンの門に定めた」
 艦長はその場に立ち上がると、鼻から大きく息を吐いた。
「決戦は宇宙ですか」
 ワーウィック大尉がスクリーンに注視したままこぼす。
「実際にどうなるかまではわからん。キリマンジャロ攻略も実行段階にきているが…。ただ、ティターンズも手をこまねいているわけではない。
 地上の連邦議会も実質連中が抑えたままであるし、グリプスでもなにやらやっている様子だ。我々の作戦はその辺の動きを鈍らせる目的も兼ねている」
 以前とは違い、随分と艦長も情勢に詳しくなったものだ。立場がそうさせる部分も大いにあるのだろうが、一度切った啖呵もある。あれから全力で戦っているのがわかった。
「出来れば今度の議会でティターンズがまたおかしな法案をでっち上げるより早く、戦力的にぶちのめしておきたい。地上も宇宙もどっちもだ!その片方を任されたんだぜ?もう裏方とは呼ばせねぇわな」
 グレッチ艦長も閑古鳥なりに思うところはあったのだろう。今は気概に溢れている。
「それで、具体的にはどう動くんですか」
 中尉は一応聞いてみた。
「エゥーゴは大きく3つの艦隊に分散する。1つは地上のカラバと連携してキリマンジャロを叩く部隊。主にアーガマのパイロット達だな」
 艦長は椅子に座り直し、ぐるりと椅子を回してスクリーンを背にした。
「そっちにバジーナ大尉も?」
 さっき話したばかりの話題だからか、珍しく少尉が口を挟む。
「ああ、ジオンは一旦放ったらかしだ。どうせ交渉も出来んしな。そっち側の牽制はまた別の部隊だ…例のアトリエ大尉達がそれをやる」
 艦長の口からその名を聞いて、彼女の目が少しギラついた。
「そして、残る部隊がコンペイトウへ向かう訳だな…」
 後ろからの声。皆が振り向くと、そこにいたのはロングホーン大佐だった。
「諸君…」
「警戒し、守る戦いはここまでだ。これからは打って出る。叩き、追い立て、息の根を止める」
 腕を組んだ大佐が、珍しくその口元に笑みを浮かべていた。

36話 打って出る
0832◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:09:38.45ID:A9l4MSXN0
 ロングホーン大佐はアイリッシュの面々の視線を受け止めながら話し始めた。
「今回の作戦からは攻めに徹する。このまま状況が膠着してしまえば我々は勝てん」
 カツカツと靴を鳴らしながら艦長の側へ歩み寄る。
「しかし、アンマンやグラナダの戦力はどうなるので?」
 フジ中尉だった。
「その点なら心配は及ばん。我々のスポンサーがうまくやるさ」
「…なるほど」
 察しが良いようだ。今エゥーゴが生産拠点のグラナダやアンマンを失う事で最も困るのはアナハイムである。
 この戦いの構図がなければ連中の商売もうまくいかなくなる。ましてジオン残党が台頭してくるとなると、今のままでは彼らも計画が狂うのだろう。死の商人とはよく言ったものだ。
「その関係もあってエゥーゴは今回艦隊戦力を増強して作戦に挑む。諸君は私の元でコンペイトウ攻略作戦において旗艦として働いてもらう」
 この作戦に失敗すればエゥーゴはここまでだ。大佐自身ももう基地に籠もっている余裕はない。
「諸君が思う以上に状況は切迫している。私が指揮を取り、現場の動きをグレッチ・ファルコン少佐が仕切る。これまでよりもダイレクトな指揮系統になったと考えてくれたまえ」
 そのまま詳しい予定を各員へ伝達すると、場を解散し持ち場へと戻らせた。
0833◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:10:04.84ID:A9l4MSXN0
「…まさか大佐がこの艦にお越しになるとはついぞ思ってもみませんでしたわ」
 頬を掻きながらグレッチ艦長が苦笑いしている。
「私自身もだ。もうデスクでふんぞり返っているだけでは居られまい」
 出港準備で慌ただしくなる周囲の様子をブリッジの窓から眺める。これまでは基地の方からこれを眺めていたものだ。
「この間の捕虜の件な…。久しぶりに痛みを感じて、つくづく私は鈍っていたのだと文字通り痛感させられたよ」
 そういいながら大佐は腕を擦った。もう痛みは引いたが、もっと精神的な何かが疼いたままだ。
「お怪我と捕虜と、何か関係が?」
「いや、気にするな。こっちの話だ」
 訝しがる艦長をよそに、大佐は思わず笑みが溢れた。自らの気が充実しているのを感じている。
「それはそうと…。パイロット達の様子はどうかね?コロニー落としの一件といい、アーガマの連中を退かせる時にも随分と働いてくれたが」
「ええ、よくやっとります。フジ中尉は相変わらず頭が切れますし、スクワイヤ少尉も最近元気ですしな。何よりワーウィック大尉がしっかりまとめてくれていますよ」
 彼らの働きは目を見張るものがあった。ニューギニア攻略でも戦功を立てた大尉はともかく、他2人を月の哨戒などに充てていた自らの見る目のなさに辟易するほどだ。
「経歴を見たときはいささか心配だったがな…。ジオン出身の隊長と、エゥーゴの癖にジオン嫌いの参謀。それに何よりあの娘は…」
「まあいいじゃねぇですか。あいつら自身の問題です。何だかんだハートも強いですよ、連中は」
 元々問題を抱えた人材だからこそ彼女を仕舞い込んでいたところはあった。まさかガンダムに適正があるとは思いもよらなかったが、彼女がパイロットというのも面白い話だった。
「これからの情勢如何では彼女も肩身が狭くなるだろう。しっかり支えてやれ」
「はい。この事を知っているのは私だけですからな。彼女自身、私が知っているという事は恐らく知りませんがね」
 それからも艦長と共に港を眺めながらいくつか言葉を交わした。
0834◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:10:53.17ID:A9l4MSXN0
 暫しの休息も終わり、他の艦と作戦の会議を行ったりしているとまたたく間に時間は過ぎた。通信士のグレコ軍曹に支度をさせると、艦内へ通告を行った。
「聞こえるかな諸君。これより出港だ」
 一度言葉を切り、心なしか興奮している自分を抑えた。こんな形で基地を出るのはいつ振りか。
「…私は久しく現場を離れていたが、諸君の働きがあれば死ぬことはないと思っている次第だ。身勝手な理屈に聞こえるだろう。そう思ってもらっても構わん。
 ただ、これは信頼の証だと受け取ってもらえると私は嬉しい。諸君の力を持ってすればこの作戦、必ずや成功するだろう。私の命は皆に預ける。その代わり、私が諸君の未来を預かろう。…励んでくれたまえ」
 通信を切った。振り返ると、艦長がぱちぱちと手を叩いている。
「いやはや、お上手ですな大佐」
「君のおべっかが心強く感じたのは初めてかもしれんな」
 恥ずかしそうに頭を掻く艦長。案外、この艦で1番変わったのは艦長かもしれない。少し前なら彼の評価はただの腰の低い親父だったろう。
「これから苦労も余計にあるだろうが、よろしく頼む」
「いやいや、大佐がおられればクルーにももう少しまともな指示が出せますよ。私も安心できます」

 港のゲートが開き、月面と宇宙のコントラストが水平線を描くのが見えた。海底から水面を目指す魚の様に、艦はゆっくりとその腹を岩場から離していく。
 宇宙は膨張を続けているという説もあるが、ならば我々はいつまでたってもこの海を泳ぎ続けるということだろうか。終わりのない潜水を続けながら、その片隅で喧嘩をするくらいしか能が無いちっぽけな魚だ。
 できることならば、少し先の未来が見てみたい。その思いをこの海が汲み取ってニュータイプなる人種が生まれたのなら、それも1つの道理だ。我々には自らを変える力がある。適応し、進化していくのだ。
 星が点々と瞬く宇宙に艦を進めながら、ロングホーン大佐は瞼を閉じて自分の感傷に別れを告げた。そうして再び目を開けた大佐には、もう作戦の事しか頭に無かった。襟を正し、今後自室となる執務室へと向かった。

37話 適応
0835◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:11:26.30ID:A9l4MSXN0
 ソニック大尉は自らの乗機の前で腕を組み物思いに耽っていた。
「…ガルバルディが恋しいですかな」
 そう言いながら大尉の方へ歩いてくるレインメーカー少佐が目に入る。
「いえ、確かに思い入れはありましたが。この機体は更に上を行く機体ですよ」
 原型を留めなかったガルバルディ隊はその後、試験データを一部取り直したところで全機解体となった。死傷者が出た試験部隊もまた、再編成がなされたばかりである。
 ソニック大尉は新たな機体を見上げた。ゼク・アインと呼ばれるその機体は、かつてのジオン公国において基礎設計がなされた点においてはガルバルディに通ずるものがある。
「ペズン駐留の教導団がテスト運用している機体を回してもらったと聞きましたが、信用出来るんでしょうかね」
 髭に手を添えながら訝しむ少佐だったが、この機体の完成度はそれを払拭するだけの説得力があった。
「私はどうも細身の機体が苦手でして。こういうガッシリとした機体にこそ安心感を覚えます。全重を支える骨格と、それを覆う強固な装甲。ムーバブルフレームを発案した開発者は人体への敬意を忘れていない様で感心致します」
「そうか…」
 やや呆れ気味に少佐が笑う。そろそろ老齢になろうという彼だが、いささか筋力が足りていない様で心配になる。
「少佐、もしお時間がある様でしたら一緒にトレーニングでも?」
「いや、私は野暮用があるのでね。それに大尉のトレーニングについていける自信もありませんでな」
 そういってレインメーカー少佐はそそくさとその場を後にした。ソニック大尉は仁王立ちで後ろ姿を見送った。
0836◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:11:53.97ID:A9l4MSXN0
 機体のチェックをひと通り終えた大尉は、いつもの様に病室へと向かった。
「あ、ラム!」
 退屈そうにベッドで雑誌を読んでいたオーブ中尉が飛び起きた。
「おっとと…」
 ベッドから立ち上がった彼女だったが、ややバランスを崩してベッドの枠を掴んだ。
「あまりはしゃぐな。まだ万全じゃないだろう」
「もう大丈夫だって医者も言ってるわよ。ぼちぼち復帰ね」
 そう言って笑う中尉だったが、ソニック大尉は複雑な心境だった。
「中尉はもう戦わなくていい」
「あたしが片腕じゃ使い物にならないって言うんでしょ」
「…そうだ」
 その場に立ち尽くしてムッとしている中尉を尻目に、近くにあった椅子へ腰掛けて俯いた。
「フリードも失った。俺は…これ以上仲間が傷付いていくのを見たくない」
「何メソメソしてんのよ。こうしてる間にも大勢が戦ってるわ。戦ってる分はまだいいわよ…戦う術がない人々もそれに巻き込まれてる」
 中尉の言う通りだった。しかし、彼女もまた戦う術を失った1人ではないのか。
「…あたし、裏方で出来ることやろうかと思う。別にMSに乗るだけが戦いって訳じゃないわ」
 静かな彼女の声を聞いて、大尉はゆっくり顔を上げた。
「それがいい。」
 いつもより聞き分けの良い中尉に若干の違和感がありつつも、しばらく話してからソニック大尉は病室を後にした。
0837◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:12:40.19ID:A9l4MSXN0
「これからのことは聞いた?」
 通路で向かいから歩いてきたのはウィード少佐だった。元より軍人にしては比較的細身だった彼女だが、コンペイトウに来てからは前にも増してやつれて見えた。
「聞いたよ。オーブ中尉とも一旦お別れだな」
 そういって大尉は腕を組み、壁にもたれた。
「彼女の為よ。人員の補充はあるけど、新しい部隊長はラムで正解よ」
「俺が隊長か?柄じゃない」
 思わず大尉は溜息をついた。抗うつもりも無かったが、とはいえ納得したわけでもなかった。
「…もうフリードは居ないんだから」
 小さく零したウィード少佐の目に、光は失せていた。
「わかってる。俺なりにしっかりやるさ。まあ…新入共を戦える身体に鍛えるのは俺にしか出来んからな」
 そういって笑ってみせた大尉だったが、彼女は力なく笑うだけだった。
 無理もない。先日のコロニー落としの一件で、この部隊は艦ごと左遷が決まったのだった。オーブ中尉はゼダンの門でリハビリを兼ねて別の部署へ、そしてアレキサンドリアはもうじきコンペイトウへ正式に異動することになっている。
 シロッコ大佐麾下の技術試験部隊としての役目もそれに伴い終了し、文字通りお払い箱にされた様なものだった。疑いを少しでも晴らす為とはいえ、これではトカゲの尻尾切りではないか。
「しかし、ジオンの残党共が動き出してるんだろう?いくらなんでも俺達をコンペイトウなんかに回してる余裕があるのか?」
「上層部がうまく立ち回ってる。一時的に手を組んだなんて話も聞いたけど…信じられないわね正直」
 ティターンズは一体何処へ向かっているのか。それを良しとするジオンもジオンである。もう何が何だかわからなくなりそうだった。
 そのまますれ違う様にして背を向けたウィード少佐を見ながら、ソニック大尉は拳を握りしめた。
「…エゥーゴ…ただでは済まさん」
 小さく独りでこぼすと、彼もまた歩き始めた。
0838◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/10(水) 15:13:31.28ID:A9l4MSXN0
 トレーニングの為自室へと向かう最中、レインメーカー少佐が若い男と話しているのが目に入ったので声を掛ける。
「少佐、彼が…」
「そうですよ。新しく配属になった…」
 言いかけた少佐を遮るように若い男は前に出て姿勢を正した。短く切り揃えられた赤髪と、何処か見たことのある目元をした男だった。
「ステム・オーブ少尉です。まだ配属には1日早いですが、ご挨拶だけでも」
 そういってにこやかに笑った彼だったが、どうにも目が笑っていない様に思えた。
「む…?」
 首をひねったソニック大尉に気付いてか、彼はまた口を開く。
「リディル・オーブは私の姉です。まさか同じ隊に入れ違いで配属になるとは思ってもみませんでしたが」
「おお、どおりで。目元が姉上とそっくりだなあ。軍属とは聞いていたが、2人揃ってティターンズのMSパイロットだったとは。…彼女には会えたか?」
「ええ。…あんな姉でも、覚悟を決めて戦っていたはずです。私も同志である大尉に恨み辛みをいう気はありませんよ」
 ステム少尉は軽く息を吐いて腰に手を当てた。
「まあ、これからは彼女の分も弟君が働くということだ。ビシバシ鍛えてやってくれますかな?」
 レインメーカー少佐が人差し指を立てながら言った。
「…では、私はこれで。エゥーゴを叩きのめすには時間が惜しいのです」
 そう言うと、少尉はスタスタと去っていった。
「いささか肩に力が入っている様だが…まあ無理もないか」
「マッサージでもしてほぐしてやってください。大尉はそういうの得意でしょうからなぁ」
 ステム少尉の背を見つめながら、2人はその場に立ち尽くしていた。

38話 トカゲの尻尾切り
0840通常の名無しさんの3倍垢版2020/06/13(土) 08:29:18.00ID:P68Y1z0m0
お疲れ様です!
ちょっと立て込んでたので、2弾まとめて読ませてもらいました。
アクシズの地球圏接近を素直に好機と見るスクワイヤ...この人、戦闘時はともかく普段は先のことあまり考えてないんじゃ?w
まさか資源衛星1玉の勢力でダカール制圧までやってのけるとは思いませんよね(持続できなくて一月ちょいで撤退したけど)

大尉はハマーンのこと知らないんですね。
まぁぶっちゃけ日本国民も皇族全体を網羅してる人はそういないでしょうし、お付きの家系となれば尚更です。
何故クワトロがって、ロングホーンは内心参謀本部から疎まれてそうですし
ブライトは政治家って柄じゃないですからね(シャアも大概だろとか言わないw)

仮に艦長の推察がフラグだとすると、今度はアクシズに抜けていっちゃうキャラが出るんですかね?
「ぐ、グレコ軍曹!何を......ぐわぁっ!!」(多分こうはならない)
アーガマと代わりばんこって表現なんか好きです、やっぱチーム戦ですね。
ムサイ改キターーッ!! こやつのエンジン左右の羽がアレキサンドリアやエンドラに受け継がれ
最終的にムサカの、そしてクラップやラー・カイラムの特徴的放熱板になるのはロマンですねグヘヘ(性癖)。
そこから出てくるのはハイザックと、モブ敵機に堕ちたガルバルとぉ......バーザム!!
変な鶏冠呼ばわりされつつも動きがいい辺り、TV本編より活躍してくれるのでしょうか。ちょっと期待?(何故か疑問系)

少尉、もはやここにいないアトリエに嫉妬するw いいぞいいぞ!
疲れながらも動きがキレキレになっていくって分かりやすい死亡フラグですから
彼女には今後ともワーウィックをフォローしてほしいですね。
ガザCは不気味...目元はエゥーゴでお馴染みリック・ディアスと同じですし、ピンクの軍団とかキモっ!って感じでしょうか?w
本編だとアーガマ接触時スフィンクスみたいにMA形態で見張りをやってたのが印象的でした

おっ、ついにゼダンの門ですか。
あの壮大な破壊行為はジオン時代から旧式だったチベの改良モデルと
アーガマとの共通項も見られるアナハイム製輸送艦が一緒くたに潰されてるのが印象的でした。
わらわらと出ていく灰色のサラミスも、らしくなくて見ものでしたね!(熱いティターンズ叩き)
会話パートを多く入れることで、この辺の情勢はTVシリーズより見やすくなってていいと思います

そして今度はコンペイトウ、爺たちのアレキサンドリアが今度は出待ちと。
キリマンジャロ、ゼダンの門、アンマン、グラナダ...世界観の拡がりを感じる一方でコロニーレーザーの話が来ないのが何とも不気味です。
アトリエ大尉はまた(この時点では)マイナーな戦線に投入されるんですね、ご武運を。
月面都市はアナハイム側で上手くやる...ウォンさんが乗ってたような武装MWで部隊編成でしょうか?w
大佐乗艦キターーッ!! 戦場の空気云々も大概な死亡フラグ(ジュガン指令)ですが、気持ち的には生き残ってほしいです。
とりあえずスクワイヤは、これまで人殺しエキスパートとしてのニュータイプには見られていなかった、と。
ロングホーン大佐も中々のロマンチストですね

筋肉式ガルバルディγに代わってゼク・アインだと?!
ピッタリだと思う反面、万能機のコンセプトは先日撃墜されたβを思い出して少し不吉に思います。
しかしつくづくジオン系MSを扱う反ジオン組織ですね、ティターンズは(苦笑)。
オーブ中尉は裏方、良い兆し...なのか?
「騙されんぞ(黄色いレインコートのクソガキ並感)」

なんだぁ、新入りは男なのか(期待して損したような顔)。
彼は何に乗るのか(ニュンペーにゼク・アインだから青系でしょうか)、パイロットとしてどんな適性があるのか
一先ず力み過ぎて即墜ちするなよと!

続き楽しみにしています!
0841◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 17:21:57.71ID:5skNxF910
>>839
>>840
いつもありがとうございます!

まあ中尉にツッコまれてる通り、スクワイヤは戦略的な視点は持ち合わせていません。笑
普通に考えればティターンズの立ち位置は歪ですしね…

ワーウィックは長いこと地球に居ましたので、恐らくアステロイドでのいざこざには疎かったのだと思います。
思想的にもネオ・ジオンは嫌いでしょうし…
あとダカール演説前なので一般兵はシャア=キャスバルだと知りません。クワトロ=シャアまでは普通にバレてるでしょうけど笑

クルー達の会話は基本的には色んな伏線になる様考えています。
この章での伏線とは限りませんが…!
個人的にはバーザム好きなんですよね…笑
早くMG出ないかなと祈っています笑

ワーウィックやスクワイヤはNT的な進化はしていないので、技量で魅せてほしいなと。
ガザCがあの色で群れてると思うと…ゾッとしませんか?笑
虫みたいです…笑

戦いの流れが終盤に向かっているので色んな拠点が出てきます。
勿論コロニーレーザーも出てきますよ!お楽しみに…
0083でもそうでしたが、戦わずとも戦局を動かしているのがアナハイムかなと。
対立構図を維持する様な駆け引きをやってくれることでしょう。

ロングホーン大佐はいつ引っ張り出すか悩んでたのでようやくです。笑
ここから彼も物語にもう少し深めに関わっていきます。

ゼクアインもかっこいいですよねー…笑
ムーバブルフレームが優れている設定もありますし、ドレイク大尉の意志を引き継ぎつつも彼らしいかなと。
オーブ中尉のことは弟共々見守っていてください。笑
0842◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:21:31.61ID:5skNxF910
 スクワイヤ少尉は自室から外を眺めていた。機体の整備は万全で、後は哨戒中の部隊の報告待ちである。
「…月があんな遠く。こんなとこまで来ちゃった」
 小さくなった月を眺めながら、更に遠い惑星…地球へ想いを馳せた。彼女は地球のことをまるで知らない。生まれは地球だったのだが、物心付いた頃には宇宙にいたのだった。
 母とコロニーで暮らしながら、たまに帰ってくる父のお土産がいつも楽しみだった。

 父は地球で仕事をしていた。大きくなったら地球の美しさを見せてやりたいと、何度言われたかわからない。土の匂い、雑味のある空気…そのどれをとっても彼女には想像の及ばないものだったし、今もその感覚を知らない。
 そんな父とも久しく会っていない。彼女が軍に入ると言ったとき、最も反対したのは父だった。
 入隊の為に両親の経歴を知っり、父の仕事が地球連邦軍での仕事だと知ったのもその時のことだ。親の仕事を知らぬまま育ったこと自体、今にして思えば不自然だったのだが。
 軍人というのは勲章の付いた制服で華々しく凱旋するものだと思っていたが、彼女の父はそうではなかった。
 軍服姿を見たことは無かったし、いつもビジネスマンの様な出で立ちで帰宅していた為全く気付けなかった。母も、父が軍人であることを口にしたことはない。
 話はもつれ、半ば絶縁の様な形で家を飛び出し連邦へ身を寄せた。宿舎もあり生活には困らなかったが、結局思っていた様な劇的な変化に富んだ生活ではなかった。父の手回しだったのだろう。
 何故か丁重に扱われ、MSパイロットとしての適性を認められたにも関わらず任務に従事することもまともに無かった。退屈な生活から抜け出したい、あわよくば華々しく意味のある死を享受したかった彼女だが、そんなものには当然巡り会えぬまま。
 ティターンズの横暴が目に付くようになり軍内でもその賛否が議論される中、彼女はエゥーゴへと走った。退屈だったのだ。ただ、それだけだった。
 エゥーゴに来てからというもの、やることは山積みの組織ということもあり充実感があった。しかししばらくすると月の哨戒に回された。また元の様な生活に逆戻りである。
 この時にグレッチ艦長やフジ中尉とは出会った。フジ中尉は今よりだいぶとっつきにくい男だったが、グレッチ艦長は当時から何かと世話焼きだったのを覚えている。
0843◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:22:09.93ID:5skNxF910
「…入っていいか?」
 扉の向こうからワーウィック大尉の声がした。
「どうぞ!」
 何となくソワソワして、バタバタと彼を出迎えた。彼が着任してからというもの、クルー達の印象はガラリと変わった。頼り甲斐があったし、他の連中の様にやさぐれていなかった。しかし、何となく陰る瞬間があるのを彼女は時折目にしていた。
「落ち着かなくてな。ソロモンを攻めるなんて、昔の自分が知ったらなんて言うかわからん」
 入室した大尉がそう言って自嘲気味に笑う。フジ中尉との一件やアクシズの件もあり、やはり堪えている部分もあるだろう。彼に椅子を寄越し、スクワイヤ少尉はベッドに腰掛けた。
「そうですよねー。大尉って、何でエゥーゴに入ったんです?」
「んー…。そうだなぁ」
 火傷の後を軽く指でなぞりながら少し言葉を濁した。彼は言葉に困ると大体その仕草を見せる。
「言いたくないならいいんですけど」
「いや、ジオンにいた時の自分が情けなかっただけだ。そういう自分や、もっと情けないティターンズが許せなかったからかな、エゥーゴに来たのは」
 彼の言葉を聞きながらドリンクを冷蔵庫から取り出す。
「ジオンにはお友達とかいないんですか?」
「いない事はないが、随分と少なくなったよ。地球に親友がいるが、当分会えそうもない」
「地球かぁ」
 大尉にドリンクを手渡しながら、画像や映像でしか見たことのない地球を思い浮かべた。
「地球ってどんなところなんです?生まれた場所なのに記憶になくって」
「地球は…不思議な場所だよ。何かと振り回されるというか、コロニーの様に整然としちゃいない。人間の所有物というよりは、人間もその一部なんだなと思わせるような…。すまん、難しいな説明するのが」
 大尉が笑った。依然イメージは沸かないままだ。
0844◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:22:34.77ID:5skNxF910
「…大尉、もし良かったらですけど…」
「ん?何でも言ってくれ」
 彼からの眼差しが真摯で、思わず目を逸した。
「その…この戦いが落ち着いたら…なんていうか…一緒に地球に行きませんか?…あ!いや!一緒に暮らそうとかそういうんじゃなくって!ほら!行ってみたいなあ…っていうか…」
 しどろもどろになりながら尻すぼみになってしまった。
「…そうだな、行こうか。会いたい人が沢山いるしな」
「言ってた昔のお友達ですか?」
「それもそうだし、前の戦線で一緒に戦った連中が今も地球にいるからな。また会おうって約束はしてたし、良いタイミングになるかもしれん」
「あの…彼女さんとかそういう…」
「?…ああ、俺はそういうのはからきし…」
 言いかけたところで呼び出し音が鳴る。
「すみません」
「いや、気にするな」
 間の悪さに内心舌打ちしながら応答した。
0845◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:23:06.79ID:5skNxF910
「はーい」
「なんだその返事は!大佐だったらぶっ飛ばされてるぞ」
 グレッチ艦長だった。相変わらず空気の読めない親父だ。
「で?なんです?」
「お前…。いや、哨戒部隊が戻ったからよ。多分ゲイルちゃんが1番暇してるだろうから掛けてみた」
「失礼な。事実ですけど」
 少尉がぶすくれていると、ワーウィック大尉が割って入った。
「私も暇してますよ、艦長」
「あれ?なんでそこに大尉が?ま…まさか…」
 何故か艦長がわなわなしているのが通信越しにわかる。
「大尉!後で話は聞かせてもらうからな!一緒にブリッジに来い!い…いや!別々に来い!」
「なんでわざわざ別々に行くんです」
「ゲイルちゃんは黙ってろ!全く…最近色気ついてると思ったらそういうことか!」
 思わず顔が熱くなる。
「いやいや、艦長、多分何か思い違いを…」
「いーや!俺は言い訳は聞かんぞ!軍法会議ものだ!俺が審議して俺が判決も出してやるからな」
「さっき話聞かせろって…」
「うるせえ!」
 ワーウィック大尉の静止も聞かず、艦長が怒り狂っている。
「ええい、何でもいいからブリッジだ!作戦指示を出す!」
「「り…了解…」」
 あまりの勢いに圧倒されたまま通信は切れた。その可笑しさに、2人は一緒に笑い声を上げてしまった。
「はあ…。行こうか」
「はい!」
 やや呆れ気味の大尉に付いていく様にして、少尉もブリッジへと向かった。地球に行くならどの辺りが名所なのだろうかと、ぼんやり考えていた。

39話 地球
0846◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:24:06.15ID:5skNxF910
「何?エゥーゴだと?」
 執務室で報告を受けたウィード少佐は声を荒くした。正式にコンペイトウの部隊に組み込まれ、まだ公表されていない戦略兵器開発の支援などを準備するところであった。嫌なタイミングだ。
「それも、そこそこの規模でこちらに向かっているようですな。敵の哨戒部隊を追跡したところ、敵艦を数隻確認出来ました」
 口髭を触りながらレインメーカー少佐が言う。
「まだ他の将校たちは知らないのですか」
 身を乗り出したウィード少佐だったが、一度腰を落ち着かせながら言った。最近感情の起伏が激しい様に思う。
「ええ、私の個人的な情報です」
「個人的な情報…?」
 レインメーカー少佐はたまにそういうことを言う。まるで他に手勢があるかの様な言い方だが、未だ謎の多い男だ。
「この拠点に来てから、私も手を尽くしておりますよ。コンペイトウの哨戒部隊は私が抱き込んであります」
「何故そんなことを?」
 問うと、彼は唇を噛んだ。
「…汚名返上の為です。シロッコ大佐の疑いが晴れぬままではシロッコ麾下部隊の名が廃ります」
「…」
 何も言えぬウィード少佐は俯いたまま立ち上がった。レインメーカー少佐が裏で動いている間、私はただ拗ねていただけではないか。
「…単独作戦のご指示を。あくまでも威力偵察と言ったところですが…。ここで敵を足止めし、警戒させることで時間が稼げましょう。
 キリマンジャロの放棄とコンペイトウ陥落が重なるともなれば、如何にティターンズといえども盤石では無くなります。それだけは避けねば」
 レインメーカー少佐の言葉に、彼女は顔を上げた。キリマンジャロ基地の放棄については近々為されると聞いている。まだ現場の兵の多くは預かり知らぬことである。少しでも多くエゥーゴを道連れにして地上から宇宙へと戦線を移行したい考えだ。
 ジャブロー、ニューギニア、キリマンジャロ…。地上拠点を尽く手放すのには何か理由があるのか。ジオン残党との協力といい、今のティターンズの進み方は幾らか歪になりつつある。
「わかりました。…まだ連中にグリプスの件を知られる訳にはいかない。近付かれる前に出鼻を挫き、我々の戦力を友軍に知らしめる良い機会でもあります。…陰口など今のうちに好きなだけ叩かせておけばいい」
 そう伝えると、満足そうに彼は頭を下げた。退出していく姿を見送るでもなく、ウィード少佐はアレキサンドリアの乗員達に戦闘配置の指示を出した。裏切りの汚名はここで晴らす。
0847◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:25:05.53ID:5skNxF910
「出撃だな?準備はいつでもいいぞ!」
 執務室を出て格納庫へ向かう彼女と並んで歩くようにソニック大尉が後ろから現れた。
「ええ。ステムはどう?」
 アレキサンドリアには新たにオーブ中尉の弟が部隊に加わっていた。中尉は今頃ゼダンの門に着いた頃だろうか。
「多少自信家の様だが、腕は確かだ」
「リディルと一緒ね。センスがあるのよ。…今回は私も出る」
 今回の様な単艦行動だと、ドレイク大尉の穴を埋める為にウィード少佐自身も出る必要があった。連携自体は隊長であるソニック大尉に任せる。
「ニュンペーの調子はどうだ?データのフィードバックは済んだんだろ?」
「ガルバルディのデータのおかげで改修も進んだわ。パラス・アテネもいい機体に仕上がるでしょうね」
 改修を重ね、ニュンペーはデータ上殆どパラス・アテネと同じ機体性能と言ってよかった。特にγは優秀な近接戦闘データが取れたらしく、シロッコ大佐の専用機にも技術が転用されると聞いている。

「ステムはどの機体に?」
「私ならご心配なく」
 格納庫でステム・オーブ少尉が出迎えた。髪が短くなければもっと姉に似ているだろう。
「機体ごと転属を許されたのは幸いでした。おかげで最低限の訓練で馴染みましたから」
 そういって彼が見上げた先には、見覚えのある機体があった。
「これは…シロッコ大佐が関わっていた…」
「ええ。ガブスレイです。払い下げを貰ったばかりだったので、特別に大佐から許しを頂いてこちらに搬入しました」
 昆虫を思わせる独特なフォルム、そして可変機構を備えた構造は一般兵の扱える代物ではない。大佐が彼を目に掛けたのも納得出来る。そしてその彼を配属にしてくれたあたり、まだアレキサンドリアは見捨てられた訳ではないのだと安堵する気持ちも湧いた。
「連携は取れるのね?」
「はい。大尉にひと通り仕込まれましたからね」
「生意気言うな。まだまだその細腕では完璧には程遠い!」
 ソニック大尉の指導にも熱が入っている様だ。当のステム少尉はあまり堪えていない様子だが。
0848◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:25:39.34ID:5skNxF910
「よし…新しい編成で行くのは初めてだ。各員気を抜くなよ」
「「了解」」
 ソニック大尉の声を受けて、皆それぞれの乗機へと急ぐ。ニュンペーを除く2機はまだ実戦慣れしていない。ある程度のカバーが必要だろう。
 少佐は手慣れた動作で機体を動かす。ニュンペーに続いてゼク・アインが、そしてガブスレイが出撃準備に入る。
『選り取り見取りになりましたな!こないだまでガルバルディだらけでしたから…新鮮です』
 レインメーカー少佐がブリッジから通信を入れてきた。今回のアレキサンドリア運用は彼に一任してある。
「機体性能の平均値にバラつきはない筈です。いずれもティターンズ指折りの機体ですからね」
『わかっておりますとも。ご武運を』
「ウィード少佐、ニュンペー出るぞ」
 先頭を切って少佐はカタパルトから飛び出した。ここで戦果を挙げねば死にきれたものではない。そんな逸る気持ちを抑えるには、彼女はいささか平静さに欠けていた。

40話 単独作戦
0849◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:26:12.22ID:5skNxF910
『やはり哨戒部隊のカンは当たった様だな』
 ワーウィック大尉の言うとおり、敵が出てきていた。スクワイヤ少尉はそれをモニターで目視しながら指で撫でた。
 大尉と一緒に居た件で勝手に怒っている艦長からブリッジで作戦指示を受け、各員コクピット内で待機しているところだった。
 哨戒部隊は敵の追手に感付き、敢えてアイリッシュに誘導していた。連中が引き返している間に僚艦達は進路を変え、敵の手薄になった拠点を叩く手筈になっていた。
「うまくいきましたね!これなら私達が囮になってる間に少しは敵を家から締め出せるかも」
『そうなればいいが…どうも敵は戦力を小出しにしてきている様だな』
 フジ中尉はまだ敵の出方を伺っている。確かに思ったほど釣れていない。
『とにかく…奴らの相手は我々だ。行こう』
『「了解」』
 いつもの様に百式とマンドラゴラを両翼につけ、やや後方から中尉のネモがついてくる。
0850◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:26:36.17ID:5skNxF910
『この辺りのデータはあまり入っていないんじゃないか?中尉』
『ええ、残念ながら。デラーズによる観艦式襲撃の際のデブリも未だに多いですからね』
 2人の言うとおり、中尉のネモは月面周辺の様にはデータの観測を出来ていない。多少手探りにはなるだろう。
『前方に敵影3つ。…流石はネモだな。敵とデブリの判別が早い』
 基本は有視界戦のMSだが、視界に入る情報解析という点ではかなりの技術進歩がある。捉えた物体のモデリング作成とデータ比較などを瞬時に行えるよう、中尉の機体は特別なチューニングが施されている。
「何が居るんです?」
『これは…未確認機体とガブスレイ…それから…例の試作機?』
 腐れ縁というのか。まさかここでも出くわすとは。
「あの水色、行く先々に居ますね…やっぱ量産型?」
『いや、詳細データは未登録のままだ』
『手合わせすれば同じやつかどうかはわかる!こっちから仕掛けるぞ』
 ワーウィック大尉が右に飛ぶのを確認して、少尉は左から敵に回り込んだ。
0851◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:27:13.36ID:5skNxF910
 敵に気取られるより先に左右へ取り付き、デブリの影に隠れた。敢えて中尉のネモはセンターを取り、そのまま解析を続けながら囮になる。
『気付かれました。こっちに来ます』
 中尉が威嚇程度に射撃を行う。敵もデブリをうまく利用しながら距離を詰めてくる。
『よし、そろそろ横っ腹を叩く。いいな?少尉』
「いつでも!…って、え?」
『まずい!』
 中尉の声とほぼ同時に、少尉の隠れていたサラミスの残骸が動いた。それを持ち上げるようにして現れたのは、青い装甲の大型機だった。こちらに気付いて1機だけ進行方向を変えたらしい。
「でかい…!」
 驚いたのも束の間、敵はそのまま残骸で殴りつけてきた。飛び跳ねる様にしてそれを避けると、距離を取りながらライフルを向ける。しかし敵は間髪入れずにミサイルランチャーを面で発射してきた。
「ばっ…反則よこんなの!」
 ホーミングしてくるミサイル群を躱しながら、デブリで防ぎつつ状況を確認する。残りの2機を大尉達が牽制している様だが、明らかにガンダムを狙った動きを見せていた。
 やや離れた地点に出てきてしまった少尉だったが、ガブスレイがそれすら追ってくる。
「TMSってやつか…速い」
 敢えてデブリの残骸の中を無軌道に進むが、敵は難なく付いてくる。敵のビームがマンドラゴラの頬を掠った。
「顔直したばっかなのよ!もう!」
 転身した少尉は、ガブスレイを迎え撃つ態勢を取る。しかしその時背後に気配を感じた。
「…!水色ッ!」
 敵のビームサーベルをシールドで受けようとしたその時、敵はサーベルを逆手に持ち替えてそれを避けた。
「こいつ…あの時の…!」
 その動きは、ガルバルディを仕留めた時の少尉と全く同じだった。そのまま繰り出されるサーベルの横凪ぎを交わしきれず、脇腹に斬撃を受けた。間一髪コックピットは避けたものの、明確な被弾だった。
『ちぃ…!』
 僅かに遅れて大尉の百式が薙刀を振るう。間合いが足りない敵機はそれを受け止めず更に距離を取った。
『大丈夫か!少尉!?』
「私は大丈夫です。ただ機体制御が少し…」
 言い終わらぬ間に先程の青い機体が迫る。察知した大尉が間に割り込んだ。ビームサーベルを抜いた敵機に対し、百式も薙刀を短く構える。両者の刃が交差し、力場が反発する際のスパークが煌めいた。
『やるな…!』
 鍔迫り合いになった大尉の足元からガブスレイが急接近する。
『だが、甘い』
青い機体を押し退けた大尉は機体を宙返りさせると、更にガブスレイとのすれ違いざまに蹴りを見舞った。可変機故か、AMBACが利かないガブスレイはそのままデブリに衝突した。
 大尉はそれ以上追撃せず、少尉の傍に付いた。中尉のネモが取りつこうとする敵機を牽制する。
0852◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:27:36.35ID:5skNxF910
「こいつら、機体は違うけど…」
『ああ…間違いなく試験部隊の連中だ』
 やや呼吸を乱しながら大尉が言った。
 敵も乱れた隊列を組み直す様にして小さくまとまった。ガブスレイも可変してMSの姿を見せながら、デブリを手で退かす。その傍に降りた水色の機体。そしてその2機の前に壁を作る様にして、青い機体が立ち塞がる。
 暫しにらみ合う様にしてどちらの陣営も動きを止めていた。
『大尉、僚艦からアイリッシュへ通信があったようです。敵は全く布陣を変えていないとのこと…』
『何だと?ではこいつ等は単独で…?』
『作戦が裏目に出ましたね…。これ以上付き合っても意味がありません』
『…しかし…』
 今回は敵の方がうまくやった様だ。しかし、ここで逃がす道理も無い。
「私ならまだやれます!」
『いや、このままの長期戦はこちらが不利だ…。地の利も敵にある』

 すると敵部隊はゆっくりと距離を開け始めた。じわりじわりと牽制する様にも見えるが、時間を稼いでいる様にも思える。
『戻りましょう。敵も消極的です』
「でも!やられっぱなしです!」
『少尉、まだ前哨戦だ。そう焦るなよ』
「む…」
 そうこうしている間に敵も少しずつ引いていく。一定の距離が取れたところで両軍母艦へと退いた。
『また消化不良だな』
 撤退しながら大尉がこぼす。前回の鶏冠戦でも敵を殲滅しきれなかった。
「でも前哨戦ですもんね、次はぶちのめします」
『切り替えが早いのは良いことだ。忘れっぽい所もたまには役に立つ』
「中尉、それ褒めてます?」
0853◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:28:04.24ID:5skNxF910
 アイリッシュに帰投すると、メカニック達が直ぐに機体の補修に取り掛かった。各機消耗はいつものことだが、マンドラゴラのダメージはやや大きかった。
「危ないところだった。こうして見るとなかなか傷が深いな…」
 少尉が機体を見上げていると、大尉がやってきた。マンドラゴラは腹部横の装甲が大きく融解し、内部の回路も一部損傷している。
「あの敵…私と同じ動きをしたんです」
「本当か?もしそうなら、かなり優秀な学習コンピュータを内蔵しているのだろうな」
 不思議な感覚だった。同じ戦術を取ったというよりは、癖もそのままにトレースされたという印象だった。自身のシミュレーションのレコードを見ている気分に近い。
「もしそうなのであれば…大尉のデータも取られているでしょうね」
 フジ中尉が合流してきた。
「私のデータに汎用性があるとは思えんがな。薙刀しか遣わんのだし」
「モーション自体をトレースしていれば、他の動作への応用は可能かもしれません。回避運動などはそのまま転用できるでしょうしね」
 ワーウィック大尉の動きまで取り込んでいるとなるとなかなか厄介だった。機体が違うとはいえ、相手も恐らくワンオフの機体だ。下手をすると場合によっては敵の方が動きが良くなる可能性すらある。
「戦う度に手強くなるとはな…」
 大尉が腕組みをして唸る。
「でも、逆に言えば敵はその場では対策出来なかったりするんですよね?だったらやりようはありますよ」
「良いことを言うじゃないか。腹を切られた割には」
「中尉、やっぱり褒めてないですよねさっきから」

41話 トレース
0854◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:29:32.32ID:5skNxF910
「いやはや、お見事です」
 帰還したウィード少佐達をブリッジで出迎えたのはレインメーカー少佐だった。
「…情報とは違いましたがね。敵もこちらの動きを読んではいたようですよ」
「そうはいっても、目的通り敵の足止めが出来ただけ上等です」
 彼はウィード少佐の懸念を気にする様子もないが、正直紙一重だった。敵も奇襲を考えていたから良かったものの、これでもしエゥーゴがウィード少佐達の殲滅を優先していたならば…今頃どうなっていたかわからない。
「私は…もっとうまくやれるつもりでした」
 唇を噛んでいるのはステム少尉だった。
「…いや、上出来だ。あのバッタは尋常ならざる敵と言っていい。あれに落とされなかっただけお前は見込みがあるよ」
 そういって少尉の肩を叩くソニック大尉だったが、彼も表情はやや暗い。

「…それで、状況は?」
 ウィード少佐はスクリーンの方へ歩みを進めながら訊いた。
「エゥーゴは再び艦隊を合流させて正面に陣取っております。これでお互いに腹の中は割れた様なものですな。今は膠着しております」
 飄々としているレインメーカー少佐だが、この戦況を作り出したのは彼と言っていい。老獪な男である。
「上は何か言ってきましたか?」
「"ご苦労"とだけ」
「ふん…内心どう思われているかはわかりませんね。独断専行に変わりはない」
「拡げた風呂敷です。勝てば官軍とも言いますから」
 ニコリとしてみせたレインメーカー少佐だったが、ウィード少佐は背中を伝う嫌な汗を止められなかった。
「勝てば官軍…負ければ賊軍ですか。シロッコ大佐からは何も?」
 ステム少尉が口を挟む。彼も落ち着いて居られないようだ。
「何も。…まぁ今は状況が状況ですからな。内通を疑われている以上、我々は我々でやるしかありません。オーブ少尉とガブスレイ、ソニック大尉のゼクが届いただけでも良しとしましょう」
「…致し方ないか」
 ソニック大尉も腕を組んだ。
0855◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:30:06.96ID:5skNxF910
 その場を解散し、ウィード少佐はレインメーカー少佐と共にブリッジに居残っていた。パイロット達には少しの補給の後、機体に待機させている。
 しかし、あまり間を置かず戦況が動いた。エゥーゴの艦隊が正面から接近しているという。
「数は?」
「サラミス級が2隻ですな」
「正面か…。焦っているのかな」
「エゥーゴにしてみれば地上との2面作戦ですからな。どちらが先に落とすかといったところでしょう」
「そうはいってもどの道キリマンジャロは落ちるのでしょう?」
「エゥーゴにそれだけの力があれば、の話です。手放しでやるつもりはありませんよ」
 そうこうしている間も友軍からの支持はない。
「将校は何をやってるんです?我々だけで相手をしろとでも…?」
「これまでずっと巣に引っ込んでいた連中ですからな。肝がちいさいのですよ。…少しは自由にさせてくれると思えば、まあ」
「わかりました。駐留軍を少し借りましょう」
「そう仰ると思いましたよ。既に手配済みです」
 そういってレインメーカー少佐は通信機を手渡した。全く準備のいい男だ。それを受け取ると、ウィード少佐はすぐさまムサイ改級を1隻、MS小隊を1つ出させた。アレキサンドリアもソニック大尉達を出し、艦はムサイ改と共にMS隊の後ろについた。
「レインメーカー少佐、そういえば敵は誰が指揮を?」
「今回は直々にロングホーン大佐が出てきた様ですな。油断できませんぞ」
「いつぞやの男か…。ソニック大尉が世話になったとかいう」
 月で会った時、厳格な顔をした男だったのを憶えている。必要以上に敵を大きく見る必要はないが、一筋縄ではいかないのは容易に想像できた。
0856◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:30:43.08ID:5skNxF910
『ドラフラ、基地の連中は俺が使っていいんだな?』
 ソニック大尉だった。
「そうよ。どうせ自分では動けないだろうからね」
『了解』
 彼の機体を筆頭に、ステム少尉と共に駐留小隊を引き連れて布陣を敷く。対するエゥーゴもMS隊を発進させている様子が伺える。数はあまり多くない。
「さて…正面はラムに押させるとして…」
「まだ旗艦が見えませんな」
 レインメーカー少佐の言うとおり、アイリッシュがまだ姿を見せていない。バッタやガンダムもそちらに居るはずだ。
「デブリに潜んでいる可能性が高いですね。…警戒を続けて」
 前線は交戦を始めている。索敵班に周囲の警戒を続けさせながら、アレキサンドリアもムサイと共に艦砲射撃を行う。この距離では到底当たるものではないが、敵の進路を狭める事くらいはできる。
「あくまで正面から突破するつもりですな、連中は」
 レインメーカー少佐の言葉の通り、第1陣に続き敵の第2波のMS隊が加わってきた。いずれも機体はネモとGM2の混合部隊の様だが、数においては敵の方が優勢だ。ソニック大尉達で捌ききれなかった分が少しずつ距離を詰めてくる。
「まずいね…いくらなんでもこの物量では」
「援軍を呼びますかな?」
「…!いや、まだです。…ラム!」
『おう!どうした!』
「敵を引きつけながら後退を!」
『気軽に言ってくれる…俺のロードワークについてこれるか若造!』
『よくわかりませんけどついていきますよ!』
 ステム少尉も叫ぶ。2人の息も合ってきた様だ。
「下げるのですか…。どうするおつもりで?」
「まあ見ていてください」
 怪訝そうなレインメーカー少佐をよそに、ウィード少佐の頭の中には描いた絵があった。
0857◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:31:23.25ID:5skNxF910
 ウィード少佐の指示通り、ソニック大尉達は敵を引きつけながらジリジリと下がってくる。好機と見たのか、敵は第3波のMS隊を繰り出してきた。
「よし…恐らくこれが全部でしょうね」
「なるほど。後はどう捌くかですな」
 レインメーカー少佐が唸る。
「こちらもまだ手は残しています。…工作部隊に伝達!やれ!」
 ウィード少佐の指示を受け、デブリに機雷を仕込んでいた工作部隊が遠隔で爆破を開始する。あまり広い範囲での仕込みは出来なかったが、前回の出撃で時間を稼げた際に要所だけ機雷を仕掛けていた。
 進軍を始めた敵のサラミス級だったが、囲んでいたデブリが弾けた。中には燃料を残していた残骸もあったらしく、誘爆して派手な花火を打ち上げている。敵艦の1つがそれに巻き込まれて爆炎を上げた。
「ほう、これはたまげた」
 レインメーカー少佐が目を丸くした。
「地の利はこちらにあります。…ラム!聞こえるね!?」
『なんだこれは…!凄いことになってるぞ!』
「でしょうね!今が好機!転身して!」
『承知した!』
 一転して身を翻したソニック大尉達が、混乱した敵部隊を蹂躙する。数で勝るエゥーゴだったが、母艦に気を取られた所を大尉達に反撃を受ける形で隊列を崩し始める。
「各員気を抜くな!爆破したデブリはこちらにも飛んでくるぞ!」
 艦砲射撃を続けながら、自軍の艦隊に近づくデブリも破壊する。しかしながら敵も必死だ。それでも尚前進を止めない。
「やりますなウィード少佐。しかしエゥーゴも退く気は無いとみえる」
 レインメーカー少佐がスクリーンにかじりつきながら言う。
「かなりの混戦になってきましたね。もうひと押ししたいところですが…」
 その時だった。爆炎の中からアイリッシュが姿を現した。
0858◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:31:52.98ID:5skNxF910
「!」
「来ましたな」
 敵はやはりデブリに紛れ込んでいた。恐らく爆破で炙り出す形になったのだろう。
「早々に旗艦まで引き摺り出せるとは思ってませんでしたがね…!」
「勝てば官軍…負ければ…。…ウィード少佐?」
 レインメーカー少佐が諌める様に言った。勝てば官軍、負ければ…。
「…レインメーカー少佐。こんな時に私は…。私にはまだまだその境地は見えません」
 興奮気味だったウィード少佐は肩の力を抜いた。ここで下手は打てない。焦ってはならないのだ。旗艦は出てきたが、こちらの戦力も敵MS隊と交戦中だ。半端に動かすと持ち直した敵部隊に挟撃を受ける可能性がある。何より今アレキサンドリアも裸に近い状態なのだ。バッタやガンダムが出てきてしまえば沈められてもおかしくはない。
「全軍に通達!もう十分に敵戦力は叩いた。一旦下がるぞ」
 目の前の餌に今すぐにも喰らいつきたい気持ちを抑えた。
「…少佐、私も殿に出ます。後はお任せしますよ」
「よしなに」
 レインメーカー少佐は微笑んだ。その皺に刻まれたものは幾ばくの経験なのか…。今のウィード少佐には測りしれなかった。

41話 皺
0860◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:33:10.16ID:5skNxF910
「ええい!ここで退くだと!?」
 ロングホーン大佐は思わず拳を肘掛けに叩きつけた。囮にすべくアイリッシュを晒したにも関わらず、敵はそれを無視した。
「し…死ぬかと…思いましたぜ…」
 グレッチ艦長が腰を抜かしている。何せ爆発するデブリの中を突き抜けたのだ。しかし、これだけの事をしても敵は動じなかった。
『どうします?私とフジ中尉は出れますが』
 ワーウィック大尉からだった。修繕が追いついていないガンダムを除いて、出撃準備は出来ている様だ。
「ここで退く訳にはいかん!後続が持ち直す迄アレキサンドリアに喰らいつけ!」
『了解』
 後続のサラミス級達は今頃地獄絵図だろう。
「…舵取りの上手いやつがいるな。だが、逆に言えば奴らさえ始末出来れば…」

 混戦の中を百式達が出撃する。多少の護衛が出てきたが、大尉達は難なく撃退している様だ。
「後続はどうか!?」
「まだ駄目ですな…。かなり数も減っとります」
 グレッチ艦長がやや弱気になっているが、致し方ないとしか言えなかった。
「何が何でも立て直せ!もう敵も手札は切った筈だ!このままでは追撃戦にならんぞ!」
 ロングホーン大佐は叫び続けたが、それで事態が好転する訳でもない事は自身がよく理解していた。
 その間も大尉達が前進を続けていた。デブリが高速で飛び交っているだけに、敵の動きも決して機敏ではない。
『もうじき取り付きます』
「よし。沈められずとも可能な限り叩け」
 こちらも手痛い反撃を受けたが、せめてアレキサンドリアさえ前線から下げられれば、次の戦いを有利に運べる。
 大尉達が敵艦に取り付いている頃、サラミスのMS部隊も落ち着きを取り戻しつつあった。継戦能力の無い機体をアイリッシュに収容しつつ、僅かな手勢で追撃をかける。
 敵のMS隊も母艦と合流しつつあるが、それをさせまいと粘るこちらの部隊が交戦中である。挟撃と言うには隊列が乱れきっており、未だ混戦に変わりはない。
「大尉達はどうかな?」
「敵の試作機とやりあっている様ですな。腐れ縁ですよ全く」
 捕虜の解放交渉に来た敵将校の護衛がまさしくあの機体だった。
「…指揮官はあの爺かもしれんな、食えんやつよ」
 大佐は思わず笑った。グレッチ艦長の言うとおり腐れ縁なのだろう。
0861◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:35:01.05ID:5skNxF910
 どうも大尉達は攻めあぐねている様だった。ガンダム抜きではこんなものか。後続のMS隊も敵の殆どを討ち漏らしている。ようやく結果的に追撃の形になってきたが、これではどちらが敗走しているのかわからない。
「弱ったものだな。艦長よ」
 ため息をつきながら戦場を見渡した。グレッチ艦長は唸りながら髭を弄っている。
「敵もよくやります。後続のサラミスが被害状況をまとめ始めてますが、どうしますかね」
「潔く退くのも戦いか。仕方あるまい…追撃は切り上げる」
 大佐は重い腰を上げ、全軍に帰投命令を下した。敵との戦線を押し上げる事には成功したものの、殆ど敗戦というべき戦果であった。

 撤収していく敵部隊を口惜しくも見送り、それからは部隊の建て直しにかかった。サラミス級が1隻轟沈、MS部隊も2小隊は失っていた。残っているのは小破したアイリッシュ1隻とサラミス級1隻、ガンダム達を含むMS小隊が3つといったところだ。機体はいずれも補給が必要な状態である。
「諸君はよくやった。これで終わるつもりはないのは私だけではないのも承知している。…次だ。次で全てが決まるだろう」
 各員に向けた通信を送った。恐らく士気もまだ下がりきってはいない筈だが、唇を噛んでいる者も少なくない。
「…次はどう出ますか」
 ブリッジに帰投したフジ中尉だった。ワーウィック大尉も傍らにいる。
「ご苦労。諸君の働きでアレキサンドリアも無傷ではないな」
「しかし、あの程度ではまだ」
「うむ。とはいえあちらから仕掛けてくるほどの余力もあるまいよ」
 ロングホーン大佐は椅子に深く腰掛ける。グレッチ艦長がその側で各部署の報告を受けている。
「気になるのは他部隊の動きですね。戦力がゼダンの門に集中しているとはいえ、いくらなんでも抵抗が少なすぎます」
 フジ中尉の言うことは道理だった。こちらも必死で仕掛けはしたが、まさかあそこまで徹底的な抗戦に出るとは考えていなかった。
 しかも戦力的にはかなり少数と言ってよかった。まだ温存した戦力があるのだろうが、やはり士気が高いのは一部だけと考えて良さそうだ。
「残る戦力の士気は著しく低いと思っていいだろう。上もそういう判断で我々をこの戦力で派遣している。とはいえ一応月からは直に増援が来る予定だ」
0862◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:35:33.84ID:5skNxF910
「大佐…」
「何だ」
 ワーウィック大尉が何やら考え込んだ表情で言った。
「キリマンジャロはどのような状況です?」
「ああ、あちらはかなり順調な様だ。カラバとも上手くやっている」
「やはりそうですか。あくまでも憶測ですが…ティターンズは何か隠しているのではないですか?」
 面白い事を言う男だ。確かにロングホーン大佐も気掛かりなことはある。
「ティターンズにしては地上も宇宙も…どちらも抵抗が薄いものな。まるでこちらの必死さを嘲笑う様だ」
「私もそれを感じます。しかし、そうやって我々の消耗を狙っているのであれば、そこからの勢力図を一気にひっくり返せるだけの何かがなければ…」
「大尉。君の言うことはよくわかる。だがな、今考えるべきはコンペイトウだ。そこを忘れるな」
「はっ」
 彼が改めて姿勢を正した。正直彼の言う大局もあながち見逃していいものではない。ティターンズがコンペイトウを手薄にしているのであれば、ここで手こずっていては今後の作戦の如何に関わる。

「よろしい。また追って指示を出す。諸君は少しでも英気を養いたまえ」
 そういって2人を一度退出させた。グレッチ艦長もひと通りの報告を受け終わった様だ。
「…速攻を掛けるのも手だな」
 ロングホーン大佐は独り言のように呟いた。
「ま…まさか!援軍を待った方が良いんじゃないですかい?」
「敵もそう思っているとは考えられんかな?あの必死な抵抗…意外と突き崩せれば脆いやもしれん」
「そりゃそうかもしれませんがねぇ…。肝心のこっちの戦力がズタボロです」
「私もコンペイトウの戦局は大きく見ねばならんと考えてきた。しかし、意外とそうでもないのかもしれんと思ってな。もっと大きな目でこの絵を見れば、実際には小さな点に過ぎんのかもしれん」
「はぁ…」
 何やら飲み込めないといった様子の艦長だが、ロングホーン大佐の中では殆ど確定的な認識だった。
「こちらが休めばそれだけ敵も休ませる事になる。戦いが長引けば、最終的には増援のないコンペイトウの方が苦しくなる筈だ。今のうちに叩けるだけ叩いて消耗させねばならん」
 大佐は立ち上がり、ブリッジからの眺めを見渡した。同じ連邦の拠点でありながら、それはまるで旧ジオンの拠点ソロモンさながらに立ち塞がっていた。
 思い返せば、あの時もこの拠点は半分捨て駒の様な扱いを受けていたように思う。本来ならば重要な拠点なのだが、旧ジオンは派閥争いの為にここを切り捨てた。その結果、かなりの戦力がア・バオア・クーに集結することとなった。
0863◆tyrQWQQxgU 垢版2020/06/17(水) 18:36:02.04ID:5skNxF910
「…!…まさか…コロニーレーザーか!?」
 大佐は思わず目を見開いた。旧ジオンはそうやって引きつけた連邦の戦力の殆どをコロニーレーザーで焼き払ったのだった。ソロモンで必要以上の戦力を消耗せず、コロニーレーザーで一気に戦局を巻き返した。実際、最近ティターンズはグリプス2周辺で不穏な動きを見せている。目的は不明だったが、密閉型コロニーはレーザー砲の砲身にするにはうってつけである。
「いや…有り得ん話ではないな…!」
「大佐…もしそうなら…」
 艦長も話に合点がいった様子だった。

43話 合点
0864通常の名無しさんの3倍垢版2020/06/20(土) 17:00:16.13ID:WW2VzUU20
乙です!

ついに明かされるスクワイヤの出自...
スーツ姿の軍属だった父というのは、特務機関の偉い人?
一年戦争(とデラーズ戦役)で消耗した連邦軍がパイロット適性の新人を遊ばせとくとは、普通は考えにくいですね
37話のグレッチ艦長の発言からも、何だかんだエゥーゴは連邦の一部なのだと伝わってくるものがあります

グレッチ艦長、ややスケベ親父だったのがちょいガミガミ親父になってるw
地球のこと考えて浮かれてるスクワイヤ可愛いです、ジオンの亡霊の聖地なんかでタヒぬなよー!

Sさんの考えだとコロニーレーザーは各拠点でパーツ製造しグリプスに運ぶ感じですか
確かにドゴス・ギアもコロニーレーザーも単一拠点で作るのでは非効率的ですね
レインメーカー爺さん、やりますね! もしや......この男こそ特務の上級将校でスクワイヤの父親では?!(多分違う)
陥落前のも含めて地上拠点複数放棄は不可解な話、これではジャミトフの理想は......バスクとシロッコ、どちらの思惑か

ステムは赤毛の中性的美青年ってところですか......カミーユ2Pみたいな(笑) それでガブスレイですか
配備機で力関係が伝わるのも面白いですね、加速ライフルにスマートガンにフェダーインとライフルだけで普通じゃないw
ガブスレイとニュンペーがエゥーゴと交戦し始めた時期は同じくらいだと思うのですが
後者の名前が出ない辺り、前者はサラのリークで多く割れてるといったところ?
虫野郎な可変機は大体ジェリド隊で機能がアピールされてますが、出来たら額バルカンが活躍するところも見たいです!
ソニックのゼクアイン、初っぱなから筋肉式奇襲w ミサイルもライフルも上手く使うし、実はガルバルより合ってる?
ニュンペーの水影心攻撃...ニンフからの連想でしょうか? 隠し腕もあり手数が多そうなのは手強く感じます
スクワイヤはアマクサ戦のトビアみたいなこと言ってる、これも強そう

ウィード隊は案山子よりマシ程度のコンペイトウ隊を引き連れ迎撃
なまじ腕のあるステムの直後だけにガタガタの編成になりそうなのがもうw と思ったら善後策で膠着に持ち込みました
爆炎の中から出てくるアイリッシュのカッコいいこと! 今更ですが緑の百式改は一貫して「バッタ」なんですね(笑)

なるほど、グリプス戦役はどこか戦線だけ大きいイメージがありましたが
エゥーゴはここまで対ティターンズ戦の決定打になる点を見出だせてないと...
一年戦争を振り返りつつ隠し球に気づくのは上手い流れです、が前大戦のは「ソーラ・レイ」なので改稿した方が良いかと

続き楽しみに待ってます!
0865◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:48:42.22ID:GwywEkd60
>>864
彼女の父については重要な部分になるので、今後掘り下げていきます!
艦長や一部の人間は知っている様ですが、ほとんどの人間が知らないことです。
設定としては最初期の構想からの決定事項なので、是非読み進めてもらえればと!
グレッチ艦長は完全にお父さんですね…笑

コロニーレーザーみたいなでかいものを作るともなれば、工廠をもつ拠点の助力は居るかなと。
因みに個人的にはコロニーレーザー(ソーラ・レイ、グリプス2)だと思ってるので、文章ではそう表記してます!括弧内が個別名称という認識です!

ジャミトフの真の目的は地上から人を上げることなので、戦線が宇宙に移行するのは納得です。とはいえそれを前線の末端まで理解しているはずもなく…っていうのがティターンズが負ける敗因のひとつだと思ってます。

ステムは髪型が違うリディルくらいのイメージです笑
カミーユ2Pは想定外でした笑笑
ガブスレイは複数機出てますが、ニュンペーはウィード機のみなので名称不明といったところです。Zみたいなフラッグシップモデルでもないですしね。
量産機に優秀な学習装置を積むっていうのはGMからの伝統なので、それを更に掘り下げようかと。

アクシズもティターンズと結び、今はエゥーゴの厳しい時期です。
ここからどう巻き返していくのか、読み進めてみてください!
0866◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:54:19.39ID:GwywEkd60
 マンドラゴラの修理が終わったのは、攻略戦から少し時間が経過してだった。
 出撃出来なかったこともありスクワイヤ少尉自身も手伝ってはいたものの、他部隊の補給も急がねばならず、ドックは相変わらず慌ただしく人と機材が行き交っていた。
「あ、中尉!」
 格納庫から退出しようとしているフジ中尉に声を掛けた。
「少尉か。ガンダムはどうだ?」
「おかげさまで取り敢えずは。…参戦できなかったのが心残りですけどね」
「そういうな。まだ始まったばかりだろう」
 腕組みしたフジ中尉の横で、手すりに寄りかかりながら辺りを見渡す。サラミスが落ちたことで母艦を失い、アイリッシュに帰投した者も多い。心なしか普段見ない顔が多いように思えた。
「おいお前ら!暇してるんならこっち手伝え!」
 少尉達に気付いたメカニックのひとりが怒鳴った。どこも人手が足りていないのだ。
「はーい!…って中尉何処行くんです?」
「私は大佐とミーティングだ。後は頼む」
「ちょっとー!…む、仕方ないな…」
 そそくさと出ていった中尉にムッとしつつ、少尉はメカニックの手伝いに戻った。

 それから少しの間を置いて、パイロット達がブリッジへと招集された。
「補給もままならんというのに…すまんな」
 グレッチ艦長が皆に頭を下げた。おべっかつかいをやっていただけあって、人の心の機敏には鋭い。この一言だけでも、現場の人間達には響くだろう。
「ここは戦地だ。致し方あるまいよ。…さて、諸君を呼び立てたのは他でもない。奴らへの強襲をかけるためだ」
 グレッチ艦長とは対照的に、ロングホーン大佐はテキパキと作戦指示を始めた。どうも自然と役割分担できているらしい。
「前回は辛酸を舐めさせられたからな。…だからこそ奴らを休ませてはならん。絶えず攻め立てることで我々の攻略への意思が伝わるだろう。絶対に逃さん、とな」
 ロングホーン大佐の低い声はよく響く。それが尚更説得力を増していた。
0867◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:55:14.79ID:GwywEkd60
「しかし、こちらももうボロボロではないですか…」
 合流したパイロット達のうちのひとりが声を上げた。
「案ずるな。月からの増援を予定より急がせている。彼らと入れ代わり立ち代わり攻め立てることで、我々は補給も行えるようになる。苦しいのは今だけだ」
 大佐の説明に皆黙った。
「…わかるぜ。今ここにいる面子は仲間を失ったやつも多いだろう。
 でもな…ここで戦わねぇと、その犠牲も無駄になっちまう。そんで、もっと多くの仲間がやられるかもしれねぇ。今は俺達が先鋒だ。頼まれてくれ」
 グレッチ艦長が言葉を添えた。少尉は艦長のこういうところは好きだった。いらない一言を添えることもあるが。
「…では、作戦の説明をフジ中尉に任せたい。良いかね」
「はい」
 ロングホーン大佐の呼びかけで、中尉が前に出た。彼の分析力は大佐にも買われているらしい。
「今現在、我々はコンペイトウとかなり近い宙域に位置しています」
 そう言うと、スクリーンに周囲のデータが映し出される。
「流石にまだ上陸作戦とはいきませんが、もう少し進軍すれば拠点自体への砲撃も視野に入る距離です。今回、何処から攻め立てるのかですが…」
 喋りながら中尉はスクリーンの元まで歩いた。
「ここからいきましょう」
 彼が指し示した場所は、コンペイトウの上部だった。めぼしい設備も見当たらないような位置である。
「何でそんなところを?」
 少尉は思わず声に出して訊いた。
「いい質問だ。返す質問で悪いが、少尉はここに何故敵の設備が少ないのか解るか?」
「え…そりゃ…石が硬かったんじゃないですかね」
 場から小さく笑い声がこぼれる。悪いことを言った気は無かったが恥ずかしい気分である。
「…ここはな、デラーズ紛争で核攻撃を受けた爆心地近くだ。その時に殆どの戦力を一度失っている。明確な外敵のいないうちは、ここを改めて補強する必要が無かったのだろうな…今もここは手薄なままだ」
 馬鹿にされても都度思うが、彼の説明は非常にわかりやすい。馬鹿にはされるが。
「それで、この手薄な場所から攻め立てるのが今回の作戦だ。抵抗があれば敵の戦力を分散出来るし、抵抗がない場合にはあわよくば上陸できる」
「…そういうことだ。いずれにせよ正面から仕掛けるより分がある。デブリも少ないしな」
 大佐は前回のデブリ爆破で機雷にはウンザリしている。中尉の言うとおり爆心地ならば、デブリも比較的少ないだろう。
「異論はないか?」
 大佐の呼びかけに対し、皆意志は固まっているようだった。
「よろしい。ならば最後に…加えて皆に共有しておきたい事がある。ティターンズは、コンペイトウやゼダンの門だけでなく…更なる拠点を建造中との見方がある。
 その正体はまだ明るみにはなっていないが…私の見立てでは、大量破壊兵器ではないかと考えている。まだ憶測に過ぎんがな。
 その建造物が何であるにせよ、ここでコンペイトウを叩かねばその完成はより早まるだろう。だからこそ諸君の力を、今借りたいのだ」
「大量破壊兵器…」
 少尉に実感は沸かなかった。そこまでして人類は一体何と戦おうというのだろうか。大義名分?生存競争?はたまた単なる意地なのか。
0868◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:55:59.54ID:GwywEkd60
 説明が終わり、それぞれ持ち場へと戻っていく中にワーウィック大尉を見つけた。
「今度こそ私も出れそうですね」
「少尉か。やはり少尉抜きだとなかなか上手くいかんよ」
 頭を掻く大尉と横並びで格納庫へと向かう。
「私がいないんじゃ大尉も実力発揮出来ませんからね」
「まあそんなところだ。ガンダムはもういいのか?」
「あの子だけ一応アナハイムの技師がついてるんで、修理は比較的早いんですよ」
 マンドラゴラは試作機ということで、アナハイムから出向した技師が世話を焼いてくれる。技師の話に依れば、マンドラゴラの元になった機体はデラーズ紛争時にこのコンペイトウで散ったという。
 表沙汰にはなっていない話の様だが、人の記憶・口頭の伝承までは消せはしない。その証人がマンドラゴラとも言える。
「…マンドラゴラの兄弟達がここで戦ったらしいんです。何かの縁かもしれませんよね」
「アナハイムの開発計画が以前もあったと聞くものな。きっとその魂もあの機体は受け継いでいるのさ」
「魂か…」
 モノにも魂が宿るなら、ヒトと何が違うのだろう。自らの魂で訴えかけることが出来る人間が、どれほどいるだろう。

「また追って指示がある。コックピットで待機だ」
「了解!」
 格納庫に到着するなり、少尉はマンドラゴラの元へ駆けた。コックピットにヘルメットを放り込み、自身も搭乗口に手を掛けながら飛び乗る。
 初めの頃は戸惑った全天周囲モニターにも随分慣れた。もっとこの距離感を掴めば、機体の手足がまるで自分のものの様に感じられるだろう。今はまだマンドラゴラとの二人三脚だ。
「あんたの魂…私は感じる」
 コックピットの中、ひとり呟いた。深く深呼吸し、制御アームに手を乗せる。多くの人々の技術と想いの結晶。それが何故少尉に託されたのかは未だにわからない。ただ、その魂が彼女の魂と共振している事だけは確かだった。

44話 爆心地
0869◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:56:42.07ID:GwywEkd60
『そろそろ予定のポイントです。案の定…手薄ですね』
『わざわざこっちまで回り込んでくるとは敵も思うまいな』
 ワーウィック大尉とフジ中尉の通信を聞きながら、スクワイヤ少尉は2人と共に先行して敵の動きを探っていた。
「しっかし…殆ど何もありませんね…」
『そういう場所だからな』
『ですが、上陸して簡易的な拠点でも組めれば腰を落ち着かせて作戦を進められます。
 要塞の設計が変わっていなければ古い工廠もここから近い筈です。整備して補給拠点として使えれば都合も良いのですが』
『敵地で補給か。屯田兵みたいなものだな』
「ドンデンへー?」
 この2人と話していると知らない単語がよく出てくる。
『旧世紀の戦争では、敵地で田畑を耕して兵糧を補給していたそうだ。それをやっていた兵のことさ』
「へー、大尉って物知り」
 そんなことを話しながら辺りを探索する。他所に流れてしまっているのかデブリも比較的少なく、少しずつコンペイトウの岩肌も近づいてきた。

『敵影が3つ。いずれもハイザックですね』
「このくらいなら私達でもやれますね」
『いくらなんでも手薄過ぎないか?そりゃあ全ての防衛ポイントを抑えるのは無理だろうが…。逆に半端な数のモビルスーツが居るのは気になる』
 確かに大尉の言う通り、いくらか不自然な印象も受ける。
『いずれにせよここは抑えなければならないポイントです。我々で突いてみましょう。藪から蛇ってこともありますが…』
「ヤブカラヘビ?」
『少尉は少し黙ってろ』
「中尉も物知り」
 フジ中尉の毒々しい物言いにもすっかり慣れてしまった。彼は彼で少尉の扱いに手慣れてきている気がする。
0870◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:57:20.98ID:GwywEkd60
 敵に気付かれるのを承知で敵のセンサー範囲へ入る。隠れようのない以上、速攻が有効である。
「マンドラゴラ、先行します」
 機動力に優れる少尉のガンダムを筆頭に、百式とネモが続く。こちらの動きに気付いたハイザック達が迎え撃つが、敵も多少狼狽えているのがわかる。
 小さく固まっているハイザックを中尉のネモが撃つ。それを躱そうと慌てて隊列を崩した直後、ガンダムが襲った。
 袈裟斬りにして1機始末すると、返す刃で振り向きざまにもう1機横凪ぎにする。それをシールドで受けたハイザックだったが、その背後で百式の走査線が赤くチラついた。
 背後から押し当てた薙刀に形成されたビーム刃が的確にコックピットだけを貫く。逃げ出すようにして撤退を試みた残りの1機だったが、こちらはネモのライフルで撃ち抜かれた。

「…片付いた感じですね」
 また辺りに静寂が戻った。
『しかし、このまま上陸というのは余りに呆気ないな…』
『或いは、罠かもしれません』
 3機はゆっくりと地表に着陸した。敵は叩いたものの、ここに来て1度足を止める。
『我々だけで判断するのは危険かと。アイリッシュに通信を行いましょう』
『そうだな…』
「む…」
 少尉が溜息をひとつついた、その時だった。コンペイトウに敵影らしきものが映る。
0871◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:57:54.86ID:GwywEkd60
『増援か!?』
『機種不明…こ、これは』
 岩肌から突如茎のようなものが伸び、虫の頭を思わせる形状のユニットがチューリップの様にゆらゆらと揺れ始めた。
「何あれ…気持ち悪い」
 映像が鮮明でないが、極太のワイヤーか何かが先端のユニットを支えているらしい。
『防衛設備のひとつでしょうか?それにしてはあまり見ない形状ですが…』
『フジ中尉は一時退避してアイリッシュに通信を。熱源を見るにこの形は…』
 ワーウィック大尉のいう熱源は大きな菱形に見えた。岩肌の下に感知しているが、異様に大きい。
「うわっ」
 その岩肌がせり上がった。辺りの地表が大きく揺れ始める。宇宙空間では音を発していないが、この振動は尋常ではない。
 先程の茎が生えた辺りを中心に地割れが始まる。岩肌と思われていたこの辺りは、堆積物に覆われたシェルターのようであった。ひび割れた表面の下に人工的なパネルが見え始める。
『大尉!』
『いいから行け!ここは私達で抑える!』
『し…しかし!』
「…来ます」
 シェルターが開き、熱源の全容が徐々に姿を現す。緑色をした大きな物体は各部に砲門のような機構を備えているらしかった。頭頂部に先程のワイヤーが接続されており、生き物の様にうねっている。
『こんなもの…!いくら大尉達でも2人だけでは!』
『だから行けと言っている!増援を寄越すんだ!全滅したいのか!?』
『り…了解!』
 珍しく声を荒げた大尉に押され、中尉のネモは戦線を離脱した。
0872◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:58:57.92ID:GwywEkd60
「…で、どうするんです?これ…」
 思わず少尉は脱力してシートに沈んだ。どう見てもMAである。敵はまだ完全に動ける状態ではない様で、中尉を追う素振りは見せない。
『まさか完成していたとはな…グロムリン』
「知ってるんですか!?」
『ジオンの試作MAだよ。ほぼペーパープランだった筈だが、恐らくはティターンズの連中が組み上げたんだろう…』
 完全にシェルターが開き切り、足元まで確認出来るようになった。全長60mはある。グロムリンと大尉が呼んだその機体は、巨体を支えている一本脚を、ゆっくりと屈めた。
『…来るぞ!』
 大尉の声と殆ど同時に敵はメガ粒子を辺りに撒き散らした。撃つというにはあまりに砲門が多過ぎる。文字通り雨の様に、地表へビームが降り注いだ。
「あはは!笑うしかないでしょこんなの!!」
 少尉はヤケ気味に笑い声を上げた。2人は器用にビームを躱しつつ距離を取る。それを捉えた有線ユニットが少尉目掛けて更にビームを放つ。
「こなくそ…!」
 身を捩り既のところでそれを躱す。しかしそれを躱したところにも容赦なくビームの雨が降る。
『くそ!何処まで保つかわからんな!』
 大尉もうまく距離を取ろうとしているが、敵の攻撃を避けるので精一杯の様だ。
 すると敵は一本脚を踏ん張り、上にそのまま跳ね上がった。
「跳ぶの!?」
 ノズル噴射で機体のバランスを取ると、その一本脚をクローの様にして真っ直ぐ突っ込んできた。
「嘘でしょ…」
 ガンダムは螺旋状に飛ぶと、脚に絡む様にしてそれを躱す。しかし本体を避け切れず接触してしまった。激しい振動が機体を襲う。
「ぐぅ…っ!」
 まるで車にぶつかった子供のように、意に介さぬ敵の装甲にぶつかりながら弾き飛ばされる。
『少尉!』
 ワーウィック大尉の百式が全速力で追う。弾き飛ばされたガンダムを見つけ、速度を合わせてどうにか受け止めた。
「くっ…あんなの規格外ですって…!」
『わかってる。あれは本来対艦用の決戦兵器だ。逆立ちしたって勝てん』
 敵はそのまま大きく迂回し、再びこちらに向かってこようとしている。
『蛇どころか化け物が出てきたな…どうりで手薄な訳だ』
「でもこいつを落とせたら…」
『少尉…本気か?』
 正直言って勝てる気はしない。しかし、ここで死ぬならばそれまでだ。諦めではなく、自ら生を掴みにいきたいと感じていた。
 少尉は初めて、恐怖を手懐けた。

45話 藪から蛇
0873◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 14:59:44.24ID:GwywEkd60
「中尉が戻ってくるまで、落とされる訳にはいかないんですよ」
『その通りだな。しかし、このままではまともに近づく事もできん』
 再び突進してきたグロムリンを迎撃する。厄介なことに、突進しながら砲撃も躊躇なく仕掛けてくる。
『ちぃ!』
 その尽くを躱しながら、今度は大尉が仕掛ける。一定の距離まで間が縮まったタイミングで、百式は一気に逆噴射を行った。そのまま敵の勢いを殺すと、数ある爪の1つを切り落とした。
『く…この程度では…!』
 すぐさま離脱を試みた大尉だったが、追いかける様に敵がそのままグルリと回した脚部に蹴飛ばされる。
『ぐぅ…!!しょ、少尉!!』
 僅かに敵の姿勢制御が乱れた一瞬を突き、少尉はライフルを撃ちながら敵へ突っ込んだ。こちらを向いていた砲門をいくつか潰しつつ、更に接近する。
「うッッッ…とおしい!!!」
 少尉はサーベルを抜くと、破壊した砲門の1つに突き立てた。しかし相当な巨体である。浅く刺しただけでは致命傷にはならず、すぐに旋回した敵にまたもや振り払われる。そのまま地表へと叩きつけられた。

「あーあ、駄目だこりゃ」
 崩れ落ちる周囲の岩に囲まれながら、ガンダムは半ばその場にめり込むように坐礁した。少尉らをあしらった敵は悠々と着地する。
『質量が違い過ぎる。砲撃をいくら避けたところで、これではな…』
 ガンダムは勿論、大尉の百式も相当痛めつけられている。少尉とはいくらか離れた位置で膝をついているのが視界に入った。
 お互い部位の欠損こそ無いが、駆動系も装甲もかなりのダメージを受けていた。しかしそんなことはお構いなしに、敵は尚も飽きることなく砲撃を行ってくる。
『…待てよ』
 軋む機体を動かし、どうにか回避運動を行いながら大尉が呟く。
『あのビグザムでさえ稼働時間は20分しか無かった筈だ。最新技術で組み上げたとしても、あれだけのビームをいつまでも撃っていられるものか?』
「あれだけぶっ放してれば…息切れしてもおかしくない…!」
 少尉のガンダムも、大尉とは反対側からグロムリンに回り込む。
『恐らく…他部隊との連携が取れんからここに配備されているんだろうな。パイロットも乗り慣れてはいないかもしれん』
 言われてみれば、単純なパワーに物を言わせた戦い方である。高度な動きは今のところ見せていない。
『よし。少尉…ここはジワジワと敵の戦力を削ぐ。距離を取りつつ確実に装備を破壊するんだ』
「了解!」
 相も変わらず降り注ぐビームを躱しながら、敵の隙を探り続けた。
「まだいけるよね…マンドラゴラ」
 青い軌跡を残しながら、ガンダムはひたすら駆けた。
0874◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 15:00:15.05ID:GwywEkd60
 威勢よく返事をしたものの、敵MAは高火力・高機動に加えて兵装の全容はまだ見せていない。適度な距離を保ちつつ狙いを定めるのは並大抵の事では無かった。
「調子に乗って…こいつ!」
 流石のガンダムもガタがきているのか、躱しきれない攻撃が掠め始めていた。砲撃を逸らそうと角度をつけたシールドが、そのままビームに持っていかれる。
「まずっ…!」
 シールドに腕を引っ張られる形で機体が大きく傾き、そこへ更なる砲撃が襲った。幾つかを躱し、しかし幾つかをまた掠めた。
『大丈夫か!?』
「どうにか…!」
 そういう大尉の百式もあちこち装甲を失っている。彼は近接武器しか携行していない事を考えれば、更に攻撃は難しいはずだ。
『敵のシルエットは左右対称だ。両面を相手にせず、一面を2人で叩いて敵の砲撃を散らす』
 言うやいなや、息つく間もなく大尉は半ば囮になるような形で飛び出した。上部から攻める大尉に対して、少尉は足元から敵へ接近する。
 少尉は自分を狙う砲撃を躱しながら、大尉に狙いを定めた砲門から優先して破壊を試みる。そうすることでとにかく大尉の突破口を開く。
 しかし敵も側面を晒し続けることに抵抗を覚えてか、うまく旋回しながらこちらに一面を攻めさせない。敵は再び地表から脚を離すと、今度は有線で脚部そのものを射出してきた。
「くそっ…!」
 避けきれなかったガンダムは正面からクローに掴まれた。そのままクローはガンダムごと地面に突き刺さり、身動きを封じられてしまう。
『すぐ行く!』
 転身した大尉だったが、うねりながらそれを追いかける敵の有線ユニット。すぐに追いつかれ、大尉の百式も腕をワイヤーに絡め取られてしまった。
0875◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/01(水) 15:01:26.31ID:GwywEkd60
「離してよッ!」
 脱出しようと粘ったものの、遂にライフルの弾を切らした。背中のポットもうまく動作せず、抜け出す事ができない。
『こんな紐くらいで…!』
 百式は自らの左腕を薙刀で切り離すと、よろめきながらも渾身の一振りでクローのワイヤーを叩き斬る。脚部を切り離された敵機は苦し紛れにビームを乱射し、百式はそれを肩に受けた。背中のバインダーからも火を吹きながら制御を失っている。
『く…。まあ2人にしては…良くやったよな』
 百式は肩から左腕を失い、殆ど墜落する様にして少尉の傍へやってきた。薙刀を地に突き立て、軋む首を持ち上げて敵を見据える。グロムリンは地表に倒れたが、スラスターで再び浮遊しようとしていた。

「大尉…」
 少尉は思わず唇を噛む。出来ることはもう殆ど無かった。
『…少尉は下がれ。恐らくアイリッシュがこちらに合流すべく進路を取っているだろう』
 大尉はガンダムを掴んだままのクローを薙刀で切断し、脱出を促す。
「そんな!大尉が残るなら私も…」
『命令だ。こいつは私がひとりでギリギリまで引きつける。もう直に敵もエネルギーを使い果たすだろう』
「…」
 2人でここに残っていてもどうしようもないことは痛い程わかっていた。しかし、ここで素直に退けない自分がいるのもまた確かだった。大尉を置いてなど行けるはずがない。引きつけるも何も、後はやられるのを待つだけではないか。敵のエネルギーが切れる保証など何処にもない。
 現に、ここにきて敵は有線ユニットにメガ粒子を集中させようとしているのが見えた。
『早く行け!死ぬつもりか!?』
「嫌です!行きません!!…マンドラゴラ!今動かないでいつ動くのよ!意気地なし!!」
 ガンダムはフレームを軋ませるばかりで少尉の声に応えない。2人がそれぞれ叫んだその時、有線ユニットが一際大きく光った。

46話 一際大きく
0877通常の名無しさんの3倍垢版2020/07/03(金) 13:46:06.66ID:Pe6SqJ0C0
乙です!

沈んだサラミスの部隊がアイリッシュに合流...おお、大容量! 戦艦のキャラが立ってきましたね
グレッチ艦長の成長が見事で一種の死亡フラグじゃないかなんて...せめてダカール演説までは生き残ってほしいです!
外は爆心でボドボド、中はMA出撃用にくり貫いてボドボド...大丈夫か、この要塞w
一年戦争〜コスモバビロニア戦争の間で触手のモンスターが出てくるイメージは無かったので、唐突なグロムリンにビックリしました!
全身ビームの変態野郎...いい感じにボスの風格ありますね!ジオンの発想に技術が追いつかなかった感じは好みです!
これは触手や脚を潰した分だけ身軽になって手強いタイプ...いやパイロットの経験不足でそこまでは行かないのか?
ともかく奇襲が上手くいかない展開が続いてドキドキします、スクワイヤとワーウィックは生き残ることができるか?!

続き楽しみに待ってます!
0879◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:40:19.89ID:QhFDALG00
>>876
>>878

読んでいただいてありがとうございます!

>>877

今にして思えば、前章に比べると戦艦が絡む回はあまりなかったですね。
グレッチ艦長もようやく艦長らしくなってきたというか…。

コンペイトウはその後話に出てこない辺り、拠点機能はかなり落ちてるんじゃないかと思ってます。ゼダンの門は真っ二つになるのでさておき…。笑
グロムリンは自分としては結構攻めたつもりです!でも強化版は出ませんよ!あれは流石にヤバ過ぎるので…。

そこそこ書き進めてますんで、少し投下しておきます!
0880◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:41:35.60ID:QhFDALG00
 有線ユニットが眩い光を放った瞬間、別の光がグロムリンを照らした。ユニットだけでなくグロムリン本体をも貫く。凄まじい閃光に、周囲の岩石が砕け散った。
「きゃあああ!!!」
 何が起きているのかもわからぬまま、少尉は強い光から顔を背けていた。辺りが落ち着いて思わず正面を向き直った少尉が見たものは、彼女を背中から庇った百式の胸だった。
「た…大尉!!!」
 スクワイヤ少尉は泣きながら半ば叫ぶように呼び掛けた。
『大丈夫か…?』
 崩れ落ちる様にして大尉の百式はその場に座り込んだ。彼の機体はもう殆ど大破と言って差し支えない損傷を受けていた。

『…間に合いましたか』
 フジ中尉の声だった。彼のネモが巨大なビーム砲を携えているのが確認出来る。どうやら彼の砲撃がグロムリンを直撃したらしかった。砲台自体にスラスターを備えているようで、それに機体を牽引させる様な形で少尉達の元へ急行する。
 グロムリンの有線ユニットが首をもたげたが、そこへ増援のGM2達が駆けつける。駄目押しの一斉射撃をグロムリンに浴びせ、完全に沈黙させた。
「大尉!応答して!大尉!」
『泣くな…少尉、私は平気だ…。少尉こそ怪我は?』
「よかった…もう…だめかと…」
 鼻を擦りながらも少尉は安堵した。
『全く、2人とも無茶をして…!すぐにアイリッシュも来ます。さあ、退避を』
 中尉の声を聞きながら、2人は指示に従った。ガンダムの肩を百式に貸しながらその場を一旦離れる。遅れてやってきた増援のGM2達が大破したグロムリンを取り囲み始めていた。
0881◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:42:32.83ID:QhFDALG00
 ようやく到着したアイリッシュに収容された面々は、機体をメカニックに預ける。救護班がすぐに駆けつけ2人の手当を行った。念の為医務室に連れて行かれたが幸い大きな怪我はなく、湿布だの絆創膏だのを貼り付けられるだけで済んだ。
「無茶苦茶ですよ大尉達。危ないところだった」
 遅れて医務室までやってきた中尉は呆れた様子である。実際、彼が間に合わなければ2人とも死んでいただろう。
「あのビーム兵器は?」
 椅子に座り込んだままの大尉が訊いた。
「ええ…メガバズーカランチャーです。アイリッシュに積み込んでいた狙撃用の高出力ビーム砲で、本来なら別でジェネレーターに繋がねばならないんですがね。ネモのサブジェネレーターが役に立ちました」
 遠距離用のものをあの距離で撃てば、確かにMAといえどひとたまりもない。
「流石に今回は…紙一重だったな」
 大尉は天井を仰ぐ。
「運が良かっただけですよ!全く…。2人は戦力の要です。今後はもう少し自重してください」
「済まなかった…中尉に貸しが出来たな」
 疲れ果てた大尉が力なく微笑むと、中尉がやれやれと溜息をつく。そんな様子を少尉は脱力したまま眺めていた。

 その後周囲の索敵が完了したロングホーン艦隊は、MAが出てきた時のシェルターから敵拠点へと入港した。
 状況から察するに、どうもここを任されていたらしい連中は慌てて逃げ出した様だ。或いはティターンズに協力させられていた連邦軍の正規部隊だったのかもしれない。
 ドックはグロムリンを始め様々な機体の組み立てに使用していたらしく、殆どそのまま使えそうだった。敵の動きを引き続き探りつつ補給を行っていた。
「おつかれさん。今頃連中は慌てているだろうな」
 そのまま医務室で休息を取っていた3人の元へグレッチ艦長がやってきた。
「上手く行き過ぎているとは思いましたが、思わぬ遭遇でした」
 立ち上がった中尉が姿勢を正した。気にするなと言わんばかりに艦長が手で払う。
「お前らは良くやった。いや、普通なら全滅していても仕方がないレベルだったくらいだ。…ここからは別部隊が内部からコンペイトウへ侵攻を開始する手筈になっとる」
「私達はどうすれば?」
 スクワイヤ少尉ものそのそと立ち上がる。
「んー…ゲイルちゃんのガンダムにしろ、大尉の百式にしろ、正直言ってもう戦える状態ではないな。それこそ大尉の百式に至ってはもうお手上げだ。ありゃ直す方が大変だろうよ」
「そうでしょうね…」
 それを聞いたワーウィック大尉も椅子を支えにしながら立った。
「マンドラゴラはどうなるんです?」
「ガンダムはまだ何とかなるらしい。近いうちに改修するらしいがな」
 少尉は胸を撫でおろす。機体に対して愛着のようなものを抱くのは初めてのことだった。
「余っている機体があれば良いのですが、物資も足りていない今の状況では…」
「ふふ、大尉ならそんな事を言うだろうと思ってな。良い知らせがあるぜ」
 そう言って艦長がウインクしてみせた。
「ウインクて…気持ち悪…」
「何だと!ゲイルちゃんだけボールに乗せるぞ!いいからお前ら付いてこい!」
 相変わらず唾を飛ばしまくる艦長に辟易しながら、3人は彼に続いてドックへと向かった。
0882◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:43:24.96ID:QhFDALG00
 ドックではアイリッシュを施設内に収容し、サラミス改は外からドックに括りつける様な形で補給を行っていた。それをぐるりと仰ぎ見ながら、少尉達は艦長についていく。
「連中の置いていった機体が少し残っていてな。メカニック曰く特に問題もないみたいだから、慣らし運転無しで良ければ使えるぜ」
 そこに佇んでいたのは、1機のマラサイだった。
「お前に乗ることになるとはな…」
 マラサイを仰ぎ見る大尉の目は、昔の友人にでも会えたかのように感慨深そうだった。
「わかってるだろうが、大尉が前乗ってた様な試作機とは違うからな。そこんとこ頼むぜ」
「ええ、十分です。薙刀の予備はアイリッシュにありましたよね」
 待ちきれないという様子で、大尉はマラサイのコックピットへと登っていった。少尉がふと横に目をやると、マラサイの横に主砲を取り払われたボールが転がっていた。
「で…私は?まさかほんとにボール??」
 少尉は涙目になって艦長に迫った。丸い棺桶。
「バカ言え、お前もちゃんと戦力になってもらわんと困るだろうよ!予備のGM2でいいな?元々乗ってたろ」
「ああもう…びっくりさせないでよ…」
 スクワイヤ少尉は思わず少し涙が出た。

 薙刀を携えた大尉のマラサイ、通常のライフルに持ち替えたフジ中尉のネモ、そして少尉のGM2が整備を終えて集まる。
『少尉、ボールじゃなくてほんとに良いのか?』
「うるさいですよ中尉」
 軽口を叩きながら一行はドックから続く大きな通路へと出た。
『よし、準備出来たみたいだな。軍曹、オペレートしてやってくれ』
 艦長はまだ他部隊とのやり取りもせねばならない。ごたついたブリッジを背景に、今度はグレコ軍曹がモニターに映る。
『皆さんご無事で…。これからは潜入作戦に移ります』
 前よりは幾らかマシになったが、軍曹は相変わらずおどおどしている。
『えっと…。周辺マップは皆さんの機体にダウンロード済です。別働隊が敵司令部を目指して進みますので、皆さんはそれを妨害に来るであろう部隊の掃討が任務になります。中尉の方でもより詳しい情報を集めながら進軍してください』
『わかった。現状での敵の動向は?』
 ワーウィック大尉がモノアイで周囲を見渡しながら聞く。
『詳しいことはわかっていませんが、既にこちらの動きは察知しているものと思われます。コンペイトウの外に動きはあまり見られないので、主力は施設内で待ち受けているのではないかと』
「なるほどね…。取り敢えず出くわしたやつを全部叩けば良いんでしょ?」
『まあ、そういうことだ。私が先鋒になる。後ろは2人に任せるぞ』
『「了解」』
 3人は、薄暗い施設の中へと足を踏み入れていった。


47話 昔の友人
0883◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:44:13.22ID:QhFDALG00
「そうか、上から来たか」
 レインメーカー少佐はステム少尉と共に被害報告を整理していた。デスクに向かう少佐の傍にステム少尉が立っていた。エゥーゴは前回の戦闘から引き続き正面突破を試みてくるとばかり思っていたが、敵は搦手も好むようだ。
「あちらは試作MAを配置していた筈じゃないのかね?」
「それが…逃げ帰った兵が言うには撃破された様で」
「まさか。…所詮は旧戦争時の設計ということですかな」
 ジオンの遺した設計を元に、ティターンズの工廠で復元したのが例のMAだった。とても一年戦争時の技術では建造できるものではなかったが、今の水準でならと造られた代物である。そう簡単に撃破出来る様な戦力ではない。
「しかし、腐っても対艦用のMAですぞ。それなりの損害は与えておるでしょう」
「そう思いたいものですね」
 2人共薄々感じているが、恐らく戦局はロクな事になっていないだろう。いずれにせよ補給拠点を抑えられてしまったのは痛手である。
「敵は恐らく内部からの侵攻を企てているはず…。本部の連中は?」
 ひと通りの情報を整理した少佐は椅子から腰を上げる。
「今頃になって迎撃準備を始めた様ですよ。我々も出ましょう」
 ステム少尉は前回の雪辱を晴らしたいだろう。彼にも働いてもらわねばならない。
「まあ待ちなさい。艦長から改めて指示がありましょう」

「ウィード少佐、艦の方はいかがですかな」
 ブリッジへ戻ったレインメーカー少佐は、立ったまま各部署へ檄を飛ばしているウィード少佐へ声を掛けた。
「ああ、少佐。まだまだ修繕が追いついていませんよ。…別部隊が敵の侵入を許したとか?」
「左様で」
「基地の連中の体たらくには反吐が出る。かといって…我々もここをガラ空きにする訳にはいきませんし」
 彼女の言う通り、これで要塞上部に戦力を集中した所を敵増援に横腹でも突かれてしまえばひとたまりもない。
「しかし…黙って敵の侵攻を見ているわけにもいきますまい。何せこちらは体たらくの駐屯軍が迎え撃つ形ですからな」
 レインメーカー少佐の言わんとすることはわかっている筈だ。彼女は顎に指をあて、思案を巡らせている様だった。
「…MS隊を出す。ラムと私、ステムも連れて行こう。この場は少佐にお任せしても?」
「勿論です。何かあれば直ぐにお伝えしましょう」
「助かります」
 そう言うと彼女はすぐにその場を後にした。コロニー落としの1件からはどうなることかと思ったが、心持ちも良い方向へと向いてきた様だ。
0884◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:44:44.17ID:QhFDALG00
 ウィード少佐から指揮を引き継いだレインメーカー少佐は、補修作業を急がせつつ宙域での索敵を続けさせた。今のところ動きはないが、間違いなく敵の援軍が来る。今はとにかく目の前の部隊を退けるのが先決である。
『艦はお任せします。我々は本部の護衛に』
 ウィード少佐から通信が入る。
「いってらっしゃいませ。ここらで連中との腐れ縁も切ってしまいたいところですな」
『全くですよ。…ラムの方はどうか?』
『行ける。武器の換装に手間取ったが』
 ウィード少佐の問いかけにソニック大尉も応える。ミサイルランチャーを取り外し、汎用のビームライフルに持ち替えた様だ。
『私も行けます。基地内では可変機も持ち腐れですね』
 ステム少尉のガブスレイも準備を終えて合流する。
「ではでは…皆さん、ご武運を」
 レインメーカー少佐の一声を受け、MS隊が動き始める。本部までの通り道で敵に遭遇するのは考えづらい為、恐らくは迎撃戦になるだろう。本部で迎撃せず済むに越したことはないが、駐留軍が連中を抑えきれないのは火を見るより明らかと言っていい。
0885◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:45:14.22ID:QhFDALG00
「さて…。私も自分の仕事をせねば」
 ひと通りの指示を出し終えると、小さく独り言をこぼして立ち上がった。彼の任務は艦長の代行、ましてや世話係ではないのだ。それ自体、もっと大きな目的の一部分にすぎない。
 自室に戻ると、作りかけだった報告書を仕上げに掛かった。正直、アレキサンドリア隊がここまで戦い抜けるとは思っていなかった。コロニー落としではある意味責任を負わされて左遷された様なものだが、部隊の再建が出来たのは不幸中の幸いと言っていい。これなら或いは彼らの頑張りも報われるかもしれない。
 エゥーゴもよくやる。コンペイトウでも同じ月の部隊と交戦しているのは全くの偶然だが、彼らもこの大きな絵の一部だ。
 絵は自ら描くものだ。決して筆の運びを誰かに動かされるものではない。まして、描いた絵にキャンバスを台無しにされるなどあってはならない。今はエゥーゴに花を持たせてやる部分があったとしても、最終的に描き上がる絵は我々のものだ。バスクやジャミトフ…いや、ティターンズさえも所詮は絵画の登場人物に過ぎない。
「パプテマス様…貴方が絵描きならば、私は筆で在りたいのですよ」
 報告書があらかた仕上がり、椅子の背もたれに寄りかかりながら天井を見上げた後目を瞑る。
 その瞼の裏には、荘厳で神々しい…神の意志たる絵描きの、光溢れる世界が広がっていた。


48話 神の意思
0886◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:45:58.95ID:QhFDALG00
「さて…いつ来るかな」
 ソニック大尉は辺りを見渡した。
 アレキサンドリアの持ち場を離れた彼らは、本部近くの比較的開けた通路に陣取っている。エゥーゴの抑えた地点から考えると、ここを通らなければ本部までは到達出来ない筈である。
『…正直なところ、ここまで敵が到達することがあればもう手遅れね』
 ウィード少佐が溜息をついた。左遷早々に負け戦とはつくづく運のない部隊だ。
「まあな。仮に殲滅したとしても、増援を迎え撃つだけの戦力は残っていないしな」
 変わらず索敵を続けながら応えた。
『だったら早く撤退すべきでは?このまま戦ったって何の意味も…』
 ステム少尉が口を挟む。
「はいどうぞとコンペイトウを明け渡すのか?ここを簡単に取られたらグリプス2の件も情報が渡る。俺達はギリギリ迄粘らんといかんのだ」
『そんなこと言ったって…』
 ステム少尉が言い終わるより早く、レーダーに敵反応。2機。
「来たな…俺が行く。2人はここで待機だ」
『『了解』』
 2人をその場に残し、ソニック大尉は単独で敵を追った。

 まだ本部へ続く通路には気付いていないらしく、近くで右往左往している様子がわかる。大尉は大きく迂回しながら敵の後方へと回り込んだ。
「GM2か。バッタ共はまだ来ていない様だな」
 2つの機影はGM2で違いなかった。遮蔽物を利用しつつ、背後から忍び寄る。
「…遅いんだ」
 敵がこちらに気付いたその時、大尉は先手を打って敵の1機をコックピットから撃ち抜いた。崩れ落ちる機体を盾にして更に接近すると、残る1機へ掴みかかる。頭部を抑えると、そのまま床へと叩きつけた。叩きつけられ這いつくばった敵のコックピットを静かに撃ち抜く。

「…ふむ。近い」
 ゆっくりと立ち上がりながら周囲の反応に気付いた大尉は警戒を続ける。今度は3機ほどまとまっているのを見つけた。
「戻るか?…いや、どの道かち合うなら…これ以上近づかれる前に叩くべきか」
 敵を迎え撃つ判断を下した大尉は、再び遮蔽物に隠れる。熱源反応だけでは敵味方の区別はつくまい。撃破したGM2のそれに紛れて見えるだろう。交戦距離になればこちらから仕掛けるだけのことだ。
 現れた敵は幾らか警戒心が強い様に思えた。的確にルートを選択しながら確実に進んでいる。そのうち1機のGM2が先行しながらこちらへ向かってくる。
「…後ろのやつはマラサイか。みすみす敵に機体まで奪われるとは」
 先行するGM2の後ろにマラサイが見える。識別を見るに占拠された拠点の予備機らしかった。
「!」
 その時、GM2がこちらへ発砲してきた。肩をビームが掠める。
「何故バレた…?」
 すぐにバーニアを吹かすと、敵と一定の距離を取る。敵がこちらを視認していたとは考えづらい。
「…またやつか」
 GM2、マラサイの背後に、月で見た例のレドーム付きのネモがいた。恐らくこの機体の装備でこちらが味方では無いことを判別したのだろう。
0887◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:46:32.72ID:QhFDALG00
 狭い場所なだけに軽率な動きはお互いに取れない。無勢のソニック大尉としては非常に好都合な地形である。しかし、ジリジリと距離を詰めてくるGM2。先程の連中とは一味違う様だ。
「…とはいえ、所詮はGM2とマラサイ。上等なバックアップがついたところで、ゼクとやり合うには些か性能不足だろうな…!」
 大尉は状況を打開すべく先に仕掛けた。ライフルを放ちつつ、別の遮蔽物のある位置へと飛び移る。GM2はこちらの射撃を躱した体勢から一連の動作へ繋ぐと、そのまま突進してきた。
「ほう…!身体の使い方を知っているな…!」
 感心しつつも敵に向けて近くの手頃なコンテナを投げつける。敵はそれを盾で受けたが、そのタイミングを狙ってコンテナ諸共敵を撃つ。弾薬を積んでいたコンテナが誘爆し、辺りを閃光が包む。
「む…」
 大尉も少し目が眩んだが、どうやら敵はその機会を見逃さなかったらしい。マラサイが懐に潜り込んでくる。
「この程度で!」
 瞬時にサーベルを抜くと、マラサイを両断すべく縦に振るった。しかし、逆に両断されたのはゼクの右腕だった。
「馬鹿な…」
 何が起こったかわからぬまますぐに体勢を立て直し再び距離を取ろうとするが、またもやGM2が追いすがってくる。ライフルで迎撃しようとするも、敵は螺旋状の軌跡を残しながら的を絞らせない。
「これは騙されたな!こいつら…並じゃない」
 量産機体だと侮っていたが、恐らくかなりの手練だ。閉所に関わらず連携もうまい。大尉は当たらないライフルを捨てると、今度は左手でサーベルを構えた。それに応えるようにしてGM2もサーベルを抜く。
「うおおおおッッッ!!」
 先程切断された右腕で敵のサーベルを受けると、ガラ空きになった敵の腹目掛けてサーベルを横に凪ごうとした。察した敵は地面を蹴ると、両足で左腕を踏むようにして抑えつけた。
 ゼクが肩から残る右腕を失うと同時に、敵は左腕を踏み台にして後方へと跳ねるようにして退く。入れ替わる様にして今度はマラサイが迫った。
「!…あれは」
 ふと目をやると、マラサイの得物は薙刀の様だった。バッタのそれと酷似している。
「エゥーゴでは薙刀がトレンドなのか?」
 一瞬嫌な予感がよぎったが、振り払うようにして敵と切り結ぶ。敵の太刀筋は無駄がなく、一瞬でも気を抜けばやられるのは間違いない。次第に押され始める。
「この俺がこんなところで…!舐めるなッッッ」
 敵の振りが大きくなった瞬間を見計らい、間合いを詰めた。薙刀はこんな狭い場所では扱い辛いだろうことは明白だった。懐に潜り込み、至近距離からサーベルでコックピットを狙う。
 しかし敵はそれを予測していたかの様に、ゼクの左手を抑えつつショルダータックルを見舞ってきた。思わず大尉は体勢を崩した。
「こいつ…!本当に鹵獲機か!?」
 つい前に奪われた機体の動きではなかった。固定武装の扱い方も熟知しているとしか思えない。体勢を立て直す暇もなくマラサイの薙刀が迫る。
0888◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:47:13.15ID:QhFDALG00
『大尉は勝手ですよ!』
 間一髪のところに援護射撃を挟んだのはステム少尉のガブスレイだった。バルカンによる威嚇射撃を嫌い、飛びのく様にマラサイが下がる。
「少尉か!何故持ち場を離れた!?」
『あんまりにも戻るのが遅いから…!来てみたら案の定じゃないですか!』
 正直ありがたい増援だった。しかし少尉のガブスレイも狭い場所では十分にスペックを活かすことは出来ない。
『で…?どうするつもりなんです』
「こいつらは並の連中じゃない。これ以上進まれでもすれば…。いや、刺し違えてでもここで落とす」
『なるほど。作戦らしい作戦は無しですか』
 ステム少尉の呆れた様な溜息が聞こえる。実際自分でも呆れる無策っぷりではある。変わらず敵部隊は距離を詰めてきている。
「あまり時間は掛けられん。長引くと他の部隊まで呼び寄せる事になるからな」
『それに引き換え…敵さんはいざとなれば補給に戻る事も出来る訳ですか。余計に速攻掛けないと』
「ま、そんなところだ」
『防衛やってるのがどっちなのかわかんなくなりますよ、全く』
 少尉の言うとおりだった。容易く敵に拠点を与えてしまったことがそもそもの間違いなのだが、こればかりは今更どうしようもない。
「来るぞ!」
『はい!』
 マラサイを先頭に、敵が再び攻勢に出る。2人は迎え撃つべくそれぞれの得物を構え直した。

49話 無勢
0889◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:47:43.35ID:QhFDALG00
「こんの…!デカブツ!!」
 初手のマラサイの突進をいなした青い機体に向かって、スクワイヤ少尉はビームサーベルで斬りかかる。敵は驚くほど俊敏にそれも躱しつつ、カウンターに蹴りを繰り出してきた。両腕でそれを防ぎながら、バルカンで敵の関節部を狙う。敵の膝を集中的に攻撃すると、ようやく体勢を崩した。
「貰った!」
『少尉!』
 追撃をかけようとした少尉をフジ中尉が制止する。すんでの所で下がると、ガブスレイの射撃が機体の目の前を掠めていった。ワーウィック大尉のマラサイと共に一旦距離を空ける。

『ガンダムじゃなくても…やるじゃないか』
「あの子は出来過ぎてるんですよ。たまには私も身の程も知らないと」
 スクワイヤ少尉はワーウィック大尉と軽口を叩く。敵に増援が加わったが、それでもまだ2対3だ。
『この辺りに敵影はあと1つ。増援はそちら側から移動してきた様ですが…』
 フジ中尉が辺りのデータを共有してくれていたが、先程の先制攻撃は賭けだった。高性能なエコーロケーションを利用した索敵とはいえ、味方の可能性も無くはなかったのだ。中尉の分析をあてにはしているが、仲間を撃つのは御免である。
『最後の敵が動かないあたり…何が何でもここは通したくないということだろうな』
 大尉の言う通り、恐らく残る1機のいる場所が最後の関門だろう。司令部とされる場所はそう遠くない筈だ。
 敵は待ち構えるようにしてこちらの出方を伺っている。
0890◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:48:10.80ID:QhFDALG00
『性能差はあるが、どうにかここを押し切れば…』
 その時、大尉の声を遮るようにして爆発音が振動と共にあたりに響く。
「な…何なの!?」
『爆破したのか!?』
 中尉が声を荒げる。只でさえ狭い通路が瓦礫に埋もれ始めた。強烈な振動は尚も続き、連続的にあちこちで爆発が起こっているのがここからでもわかる。
「何なのよもう!」
『下がれ!死ぬぞ!』
 頭上が崩れ、大小の岩が降り注ぐ。どうにか躱しながらあたりを見渡すが、照明がやられた様で周囲はかなり暗くなってきた。
『ちぃ!退くぞ!中尉、ナビゲートを!』
 そうこうしている間にも敵との間に大きな岩が落ちてくる。分断されたタイミングで一気に来た道を戻り始めた。敵も後退を始めた様だ。
「命拾いしたわね…デカブツ共」
『どうだかな。こっちも言ってる場合じゃないぞ』
「わかってますよ、中尉」
 何が起きているのか把握出来ないまま、中尉のネモに続く。彼の言う通り、何者かがコンペイトウを内部から爆破した様だった。

『ティターンズがやったんだろうな!』
 退避しながら大尉が声を張る。確かにエゥーゴが基地を爆破する理由は無いし、その術もない。
『まずいな…通路が塞がってる』
 中尉の声に思わず正面を向き直したが、確かに先程通った筈の通路が見当たらない。取り敢えず通路だった場所の前で一旦足を止める。爆発そのものは収まったようだ。
「ったく、ゲームの途中で盤をひっくり返す子供じゃあるまいし…。第一、あれって多分…味方諸共爆破したんでしょ?」
『だろうな…。ま、その成果に俺達を生き埋めに出来そうだが』
 大尉が苦笑いする。元々入り組んでいた通路が更に複雑になっていて、通れる場所自体も限られていた。確かにこのままでは生き埋めになる。
「中尉!他に道はないんですか!?」
『む…データの通りならもうお手上げだ』
「嘘でしょ…」
 大きく溜息をついて、少尉はもう一度モニターを見渡す。辛うじて残る灯りを頼りに目視で道を探してみるが、それらしいものは見当たらない。
『幸いMSがある。重機代わりにこいつで道を作るのもひとつだな』
 大尉のマラサイが動き出した。塞がった瓦礫を手でどかし始める。残る2人もそれに続き、地道に作業を始めた。奥まで崩れていればどうしようもないが、他にやれることもない。
0891◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:48:32.25ID:QhFDALG00
『元々ジオンがMSを開発していた時、重機の延長ということにして連邦の監視を躱していたらしいな』
 岩を退かしながら大尉が言う。
「だったらこれがMSのほんとの仕事な訳ですね」
『本当にそうだったら良かったのにな。だが、そうはいかなかった』
「私達だってそうでしょう?別に殺し合う為に生まれてきた訳じゃない」
 大尉の返事はなかった。
『そういえば…。大尉はニュータイプの存在を信じてらっしゃるので?ジオニズムとでもいいましょうか』
 珍しく中尉が雑談に加わる。
『そうだな…。ジオン・ズム・ダイクンの言うような大それたものじゃないだろうが、遅かれ早かれ人の革新はあると思っているかな。実際に人類が宇宙に生活圏を拡げたのもそうだろ』
「ふーん。そんで、最後はその宇宙で生き埋めになる?」
『かもな』
 少尉が笑うと、2人も笑った。
『第六感というか…いわゆる超常的な力の片鱗も見てきた。個人的にはアトリエ大尉もそのひとりだと思っているが…。そんなものは些細なものでしかない』
『というと?』
『人の革新ってのは…超能力のことじゃない。人を感じ、労り、共に歩む事だ。それを綺麗事だと言わずに済む時が来たら、我々はまた新しい世界にいける』
「…こんなふうに?」
 大きな瓦礫が音を立てて崩れ、通り道が出来た。
0892◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/08(水) 21:49:00.75ID:QhFDALG00
 通路の向こうは比較的被害が少なかった様で、殆ど原形を留めていた。急にあたりが明るくなったせいか、幾らか眩しさすら覚える。
『上出来だ。早く行こう』
 大尉に促され、まずは先導役のフジ中尉が通り抜ける。それに続いて大尉のマラサイが進み、最後に少尉のGM2が通り抜けようとした。
 しかしその瞬間、支えを失った天井が再び崩れ落ちてきた。
『少尉!!』
「うわっ!!」
 機体に直撃する形で瓦礫が降ってくる。あっという間にあたりは暗くなり、大尉達の姿は見えなくなった。

50話 綺麗事
0894通常の名無しさんの3倍垢版2020/07/09(木) 18:08:08.75ID:A1TC5o2Z0
乙です!

高速戦闘用バッタさん、逝く...仲間を庇いつつ機体をオシャカにするのは、もう彼の生き方そのものですね
マンドラゴラは改修√ですか。ついに0083〜Zの直系ミッシングリンクがグヘヘ...あら涎が垂れちゃいましたw
アナハイムの補給も基地からの鹵獲も充実してるようですし、どうなるか楽しみです!!
ネモ×EWAC×メガバズ、盛り杉ぃ!...すンごく好みです(笑)
サブジェネがあるとは言えジムIIだと複数機要りそうな辺り、ネモってもアナハイムの最新鋭機ですね!

ゲイルちゃんにボオル...ジオンの幻陽でパブリク配備したエゥーゴなら出しかねないw
それは冗談として大尉再びマラサイ...pixiv曰く元の長柄サーベルにはゲルググのデバイスが採用されてるそうなので
ナギナタを持たせてやるのはエゥーゴの補給体制に合わせつつ、機体への無理も少ないという意味で正解かもです

で、ゲイルちゃんもジムII回帰。僕はZ外伝をそう知らないのですが...主役級が赤ジムIIに乗るのって極めて稀では?
エゥーゴながら大尉のマラサイも当然赤でしょうし、「ヘンなパーティーが誕生した!(魔法陣グルグル並感)」ですよw
こういうところは長じてもゲリラ屋ですね

ステム君、ガブスレイみたいなゴツくて刺々しい機体で洞窟戦やりたいんだ...
私的にはファミチキ、じゃなくてハイザックくださいと言いたくなりますw
ウィード少佐、持ち直してきてますね! 彼女らの方は蹴られたガブスレイが凹みと擦り傷くらいで実質無傷
この人らにヘンなパーティーで戦わせるなんて、SさんドSさんですね...w

爺はシロッコの枝...? 少なくともウィード隊に仲間意識を持ってくれてて安心しましたが、一瞬ヒヤッとなりました
>>774辺りの「若いっていいなぁ」感は演技で、ホントはゾッコンだったとw カリスマは老若男女にウケてこそですね!
早速撤退を進言してしまうステム君、一理あるけど>>883>>886で掌くるりしてしまうのはまだまだ若いですね
(まぁ「(中に)出してください」ではなく「(外に)出してください」なら一貫してますがw)
それだけティターンズがやる気のある若者にアレを掴ませるクソ組織になってきてるわけですね、救いがねぇ...

暗殺に近い瞬殺を行うソニック...正直「屋根落とし」のイメージでしたが、案外「仕留めて候」な感じです(古いw)
ゼク・アインでかくれんぼとかホント出来る男ですね、そしてフジ中尉は敵に回すと一々嫌な男だw

敵味方識別コードをそのままに出来るのは、気心知れた少数編成だからこそですね。総力戦だと恐らく事故りますw
スクワイヤ、ジムIIに戻ったことで身軽さを生かした高機動の感覚を取り戻してきてる...?
おっ、マラサイのショルダータックル!(位置的にスパイクアーマー側ですね)
Zは撃ち合いが多くて新訳で回し蹴り追加されるくらいなので、こういうアクションは何とも嬉しいです!
そこから(額のララァがパッカーンするのであろう)ガブスレイバルカン、スゴく良く外伝してる!宇宙より映えててgood!

今度のニュンペーは出待ち...ラスボス然としてきましたが、はたして...
爆破ですよ(幻聴)。鉱山を閉山する時は労働者全員が揃ったのを確認してから閉門しますが
司令本部はウィード隊を何だと思っているのやら...さすがに爺じゃないよね?(苦笑)
基本に立ち返っての通路復旧、いいですねぇ...ワーウィックも鉄の巨人に憧れてた頃を思い出してるのかな?

私的には神も仏もない言い草ですが、人間は自然淘汰で減るにはちょっぴり強すぎるので
「殺し合うため生まれてきた」も満更嘘ではないと思ってます(思ってるから某ハゲは自重してください!)
一方的に駆除されるばかりでなく、「殺し合う」ほど力が拮抗できるだけまだマシ...と、これくらいにしときましょう

さて次くらいでスクワイヤの実情が明かされるのやら...楽しみに待ってます!
0895◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:32:23.22ID:YVtOvx+T0
>>893
>>894
いつもありがとうございます!

さて、百式改も大破してマンドラゴラも中破。イレギュラーな乗り換えイベントで初期機体に戻してみました。初期機体が量産型だとこういう時融通利いていいですね。
マンドラゴラの改修についてはもうアイディアがあるんですが、それは後ほど…。

そろそろティターンズ組も話が大きく動き始めます。
エゥーゴ組との対比も重要な部分になっているので、初期からの経緯も振り返ってもらえたらと思います。

地球から宇宙へ飛び出した人類は、本当に戦い続けるしかないのか?っていうのもテーマのひとつです。ある種のニュータイプ論といいますか…。
これも掘り下げていきますので、良かったら最後までお付き合いください!!

実は結構書き溜めていて、2章ラストに向けて一気に話が進んでいきます!楽しんでください!
0896◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:35:39.93ID:YVtOvx+T0
「く…。敵も味方もよくやるものだ」
 何者かが基地を爆破したらしかった。駐留軍がヤケになったのか…なんにせよ本部襲撃は退けた。ソニック大尉は胸を撫でおろしつつ状況を確認した。
「取り敢えず敵襲は去ったが…くそ」
 敵機の反応が離れていった。しかし大尉はその場から動けずにいる。最後に貰ったバルカンが致命的だった。おかげで機体は立ち上がることが出来なくなっていた。
「…やむを得ん。機体は放棄する。俺を拾えるか?…ステム?」
 応答がない。辺りは暗く、目視ではガブスレイを確認できない。
「くそ!こんなとこでやられるなよ!ステム!!」
 何度呼びかけても反応がない。熱源を見るにすぐ側にいる筈なのだが。
「ステム!!応答しろ!!」
『…煩いなあ』
 相変わらず姿は見えないが、確かに少尉だった。
「全く…心配かけやがって。怪我はないか?」
『ええ。心配には及びませんよ…特にあんたの心配は要らない』
「何?」
 直後、ガブスレイのライフルがゼクの脚部を撃ち抜いた。片膝をついていた機体が倒れ込む。仰向けになると、見上げた先にはモノアイが不気味に浮かんでいた。
「…何のつもりだ?今更冗談とは言わんだろうな」
『あんたが向こう見ずなおかげで予定は少し狂ったけど…ここであんたが死んだなら、俺は何とでも報告出来る』
 大尉の背に冷たい汗が流れた。
0897◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:36:11.93ID:YVtOvx+T0
 状況が飲み込めないまま、注意深く周りを確認する。
「何故こんな事を?誰かの差し金か?」
『誰の差し金でもない。俺自身の意志だ』
 ステム少尉の声は怖いほど静かだった。それだけでも彼の決意の固さは察するに余りある。
「…エゥーゴか?それともジオン残党か?」
『…はあ。やっぱりあんたの脳味噌は筋肉で出来てるらしいな』
 依然として銃口を向けたまま、ステム少尉が溜息をついた。
『先のコロニー落とし…。俺の姉、リディル・オーブ中尉は負傷した。今頃はゼダンの門でリハビリをやってる。…何故こんな事になったと思う?』
「それはエゥーゴが…」
『違う!!あんたらがしくじったからだ!!』
 ステム少尉は大きく声を荒げた。ソニック大尉は何となく事態を察した。
「…それで、俺に復讐でもしたいのか」
『…姉が軍に入るのを俺は止めた。でも言うこと聞かなくてさ…。士官学校の成績も良かったし、こっちも黙らざるを得なかった。
 MS乗りの適性があったんだろ?ウィード少佐やドレイク大尉、それにあんたとも上手くやってるって…たまにメールも貰った』
 そこで一度言葉を切ると、溜息をついた様だった。ソニック大尉は静かに聞いていた。
『自分で決めたことだ、負傷したのも戦場ではよくある事だって…そう言ってた。だとしても…俺は…守る事も出来ないくせにこんな場所へ引きずり込んだあんたらを許せない』
「…許せとは言わない。だが…お前を曇らせているものは、俺を殺したところで晴れないんじゃないのか?俺達は…仲間ではないのか?」
 返事はなかった。答えないまま彼は話を続ける。
『俺は姉の後を追うように入隊したんだ。戦争さえ終わってしまえば元の暮らしに戻れると思ったから。でも…もう元には戻れない…』
 彼が鼻をすするのが聞こえた。
『元には戻らない…だったら…作り変えればいいんだと…あの人は俺に言ってくれたんだ』
 嫌な感じがした。やはり何者かの手引なのか。
「誰が言ったんだ?シロッコ大佐か?」
『…喋り過ぎたな。これだけ聞ければ…冥土の土産には十分だろ?』
 ガブスレイが動いた。ソニック大尉は咄嗟にライフルを掴む。
『くそ!離せ!』
「日頃から鍛えてないからこうなる!」
 そのまま銃口を捻じ曲げると、軋む脚部を引き摺りながら強引にガブスレイへ掴みかかった。
0898◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:36:46.48ID:YVtOvx+T0
『往生際が悪いんだよ!』
「お前の爪が甘いだけだ」
 揉み合いになりながら、膠着の隙をみてコックピットハッチを開く。左腕以外まともに使えない状態ではまともにやり合えるはずがない。自爆装置のタイマーを起動すると、機体から飛び降りた。
 機体から転げ落ちる様にして脱出する背後で、ゼクの自爆装置が作動した。爆風に煽られ、着地も上手く出来ずに近くのコンテナへと落下した。

「ぐっ…くそ…」
 幸いコンテナの天板を破ったことがクッションになり、死なずには済んだ。半壊したコンテナの切れ目から、遠くでガブスレイが撤退していくのが見える。ほんの少しの間だが気を失っていた様だ。
 ソニック大尉は重い身体を壁で支えながら立ち上がる。身体の節々が痛むが、幸い四肢は無事だ。大きな出血も見られない。
「さて…どうしたものか」
 彼の裏切りは予想出来なかったが、恐らくはステム少尉ひとりの動きではない。そうなると部隊に戻るのも危険に思えた。
「誰の差し金なんだ…。ドラフラか?いや、あいつに限ってそんな。…或いは」
 ステム少尉を唆した人物が居るはずだ。だとすれば、部隊にいる他クルーの身も危険ではないか。
「こうしてはいられんな…」
 荒い呼吸を可能な限り整えると、壊れたコンテナから外へ出る。とにかくアレキサンドリアに戻ることにした。危険は承知の上だが、かといって他に行くあてもない。
「ぐぅ…!」
 視界が歪む。流石に無理をし過ぎたのか、ぐらりとまたその場に倒れ込む。
「ドラフラ…逃げろ…」
 薄れる意識の中で、ウィード少佐とドレイク大尉…そしてオーブ中尉の姿が彼の脳裏をよぎっていた。

51話 転げ落ちる様に
0899◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:37:19.79ID:YVtOvx+T0
「痛っ…」
 計器の光だけが取り残されたコックピットの中で、スクワイヤ少尉は頭をさすった。
『大丈夫か!?』
 ワーウィック大尉の声がする。
「何とか。でも…」
 機体を動かそうと試みるが、うんともすんともいわない。
「出られそうにないです。外から見たらどうなってます?」
『完全に姿が見えないな。埋もれてる』
 フジ中尉もいささか心配そうにしている。
『すぐに助けを呼んでくる。下手なことはせずにそこで待ってろ。いいな?』
「了解…」
 大尉の声に力なく応える。やはりGM2の馬力ではこんなものか。2人が離れていくのをレーダーから見送った。

 瓦礫に埋もれてからどのくらい時間が経ったのだろうか。暗い中で独りになると、いつの日かの出撃を思い出す。まともな回避行動も取らずに被弾して、いっそ死ねればと思いながら宙域を漂っていたものだ。少尉はあの時と同じ様に、シートの上に丸まった。
 あの時と違うのは、ここでは月が見えないことだ。何だかんだ言っても、あの景色は好きだったのかもしれない。この作戦を終えてアンマンへ戻る帰路にでも、ゆっくりと眺めたらいい。
 そんなことをぼんやりと考えていた時だった。再び辺りが大きく揺れ始める。
「何何何何???」
 動かないのは百も承知で操縦桿を握り直す。爆破の第2波が来たのかもしれない。
 ガチャガチャと意味もなく操縦桿を動かそうとしていると、少し負荷が軽くなるのを感じた。
「…いけるかな」
 バックパックに駄目元で火を入れ直し、機体を持ち上げようと試みる。周囲の揺れに共鳴して瓦礫が動かしやすくなったのかもしれない。しばらく続けていると、明らかに機体が軽くなった。
「頑張って!あともう少し…!」
 機体のダメージを報せる警告を無視して、強引に瓦礫を押し退けた。瓦礫と共に弾ける様に脱出する。ゴロリと転がって通路側へと出る事が出来た。
「あいたた…。もう…やればできるじゃん」
0900◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:37:53.56ID:YVtOvx+T0
 ガンダムほど上等なショックアブソーバーがある訳ではない。脱出の衝撃でコックピットのあちこちにぶつかりながらも、所々生き返ったモニターでどうにか辺りを見渡す。
 地形が変わるほどのことは無いが、辺りの色が違う。火災が起きているようで、壁が橙色に染まっているのがわかった。
「…もしかしてアイリッシュがやられてる?」
 嫌な予感がよぎり機体を立て直そうとするものの、GM2は先の無茶な戦闘と脱出で限界を迎えたらしい。立ち上がろうとして逆に姿勢を崩した。
「何やってんのよ!これじゃ意味ないじゃない!」
 脱出したもののこれではどうすることもできない。少尉は途方に暮れ、思わずシートにもたれかかった。
「この際…いっちゃうか」
 ヤケクソ気味に呟いた少尉は身体を起こし、素早く身支度を整えるとハッチを開いた。モニターで見るよりも鮮明になった景色が広がる。やはり所々火災が起きているが、空気が比較的少ないのかあまり燃え広がってはいない様だ。
 少尉はノーマルスーツのブースターを吹かしながら機体を離れ、生身でアイリッシュがいる拠点の方向へ向かった。

 しばらく道なりに進んでいくと、徐々に辺りの惨状が見えてくる。爆破による通路のダメージも目立つが、どうもこの先で拠点が襲撃されているらしい。恐らく敵が反撃に出たのだろう。
「うわ…これやばいんじゃない?」
 なるべく壁沿いに進みながら、可能な限り先を急ぐ。この状況で敵機体に捕捉でもされようものなら抵抗のしようがない。何せ生身である。ヘルメットの集音マイクで周囲の環境音を探るが、ノイズが酷過ぎる。
「弱った…何もわかんないや。大尉達、無事かな」
 恐らくアイリッシュは最低限の防衛線しか敷いていなかった筈だ。大尉達が合流したところで劣勢に変わりない。
0901◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:38:16.02ID:YVtOvx+T0
 少し開けた場所に出てきた。その通路の先で、交戦中のアイリッシュが見えた。拠点の内外から挟まれる様な形で襲撃を受けているのがわかる。
「やっぱりか…。でもどうすんの私」
 近くまで来れたのは良しとしても、この中を突っ切ってアイリッシュまで走るのは無謀どころの話ではない。死にに行くのと同義だ。少尉は足を止めざるを得なかった。
 すると、すぐ近くに敵のハイザックが下がってきた。慌てて壁に背を付けて息を殺す。少し被弾して一時後退したらしい。
 それを追うようにしてフジ中尉のネモが近づいてきた。的確にコックピットを撃ち抜き、ハイザックを沈黙させる。
「あっぶな…。爆発したらどうすんのよほんと!」
 中尉は彼女の存在に気付いていないらしく、すぐにそのまま踵を返した。
「あ!中尉!…気付くわけ無いか」
 通信も試みたがうまく繋がらない。まさか少尉が生身で戻ってきているとは思う筈もなく、ネモは再び戦線へ戻っていった。仕方なく、十分に注意しつつ少しずつアイリッシュへ近づく。
 大体の状況が掴めてきた。爆破の混乱に乗じて襲撃されたのだろう。それなりの戦力を投入してきたらしく、辺りに倒れている機体だけでも4機は確認出来る。あの慌ただしさからしてまだまだ居るのだろう。
0902◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:38:57.05ID:YVtOvx+T0
 すると、倒れていた機体の内の1機が上体を起こす。どうも撃破されたフリをしてやり過ごしていたらしい。すぐ近くで少尉は身を潜めた。
 そのハイザックは、瓦礫の影からビームランチャーへ手を伸ばす。
「こいつ、芋ってんのね」
 まだ敵機の存在に誰も気付いていない様だ。アイリッシュまでの射線を遮るものは何もなく、このままでは艦長達が危ない。
「はあ…こんなの正気の沙汰じゃないってば…」
 選択の余地はない。少尉は駆け出すと、ビームランチャーへと飛び移り、必死でしがみついた。

「あー!!もう嫌!!!」
 絶叫しながら少尉はビームランチャーのスコープ近くにしがみついていた。敵はそれに気づかないまま、ゆっくりとランチャーを構える。少尉からしてみれば全くゆっくりではないが、振り回されながらも絶対に手を離さなかった。
「…はあ…はあ…」
 息も絶え絶えになりながらよじ登る。携行している装備はハンドガンしかないが、スコープを傷付けるくらいのことは出来るはずだ。敵の動きが止まったのを確認すると、素早く立ち上がりスコープと対峙する。
 跳弾に注意しながら角度をつけた位置からハンドガンを見舞う。1発2発と同じ箇所に命中させた。スコープにヒビが入り、そして砕ける。
「やった!!」
 しかしその直後、ハイザックのモノアイと目が合う。当然気付かれたに違いない。
「ま、片道切符だとは思ったけどさ」
 敵のマニピュレータが迫った。巨大な掌で辺りに大きな陰が出来る。
「地球、行きたかったな。…大尉、好きでしたよ」
 ひとりで呟くと、敵の手に掴まれるより先に、目を瞑り両手を広げて背中から身を投げだした。不思議と恐怖はない。
 きっとこれでアイリッシュは守れた。ワーウィック大尉達が居ればどうにかこの局面も切り抜けてくれるだろう。
 これまで何度も死線を潜り抜けてきたし、ある種この先の人生を前借りした様な心地だった。この数カ月は自分の人生で最も充実していた様に思う。自身が何かの役に立てるということの喜びを知った。この時の為に生かされてきたのだろう。

 ただ後悔があるとすれば、大尉に直接気持ちを伝えておけば良かった。
 身体が重力に引かれて、緩やかに落ちていく。地球の重力はきっとこんなものではないのだろう。風を切り、様々な音が聞こえる。動物の鳴き声に草木の揺れる音、誰かの笑い声。
 まるで知っているかの様に鮮明なイメージが浮かぶ。いや、知っていたのか。生まれて間も無い頃の、忘れてしまった記憶。今になって、思い出したのだろうか。

52話 喜び
0903◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:39:27.77ID:YVtOvx+T0
「必ず…必ずやつらの墓標をここに」
 ウィード少佐は人目を憚らずに呟いた。本部による自爆から命からがら生き延び、共にアレキサンドリアで合流出来たのはステム少尉だけだった。彼にはそれ以上何も聞かなかった。いや、聞けなかった。
 アレキサンドリアに帰還し、レインメーカー少佐から報告を受けた。上層部は揃いも揃ってコンペイトウから脱出。残された兵達は死に物狂いで敵旗艦アイリッシュを襲撃しているとのことだった。彼らも無駄死にする気は無いようだ。

「全く本部の連中は…。しかし、我々はどう出ましょうか」
 神妙な面持ちのまま、レインメーカー少佐は訪ねてきた。
「どうもこうもありませんよ。我々は直ちに出港。のち、やつらの出口を塞ぐ。殲滅次第残存部隊を回収して、我々もゼダンの門へ」
 今まさに戦っている兵達を見捨てることはできない。彼らの戦いに報いる為にも、生きる希望を捨てさせるようなことをしてはならなかった。
「そうおっしゃるだろうと思いました。準備はしておりますよ」
 アレキサンドリアは最大戦速ですぐさま出港した。一刻も早く援護に向かわねばならない。ウィード少佐も再びニュンペーの元へ急ぐ。
 格納庫ではステム少尉も準備に取り掛かっているところだった。
「大変だったね。ここさえ乗り切れば本拠地へ戻れるわ」
「ええ…」
 声を掛けたものの、ステム少尉の様子があまり芳しくない。ソニック大尉を救えなかった呵責もあるかもしれないが、今は触れないでおく事にした。
「指揮は私が執る。あなたは…あなたのやるべきことをやればいいの」
 そういって彼の背を軽く叩き、コックピットへ潜り込んだ。
0904◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:39:54.64ID:YVtOvx+T0
『もうすぐ作戦区域です。準備はよろしいですか?』
 レインメーカー少佐から通信が入る。
「いつでも。ステム、行けそう?」
『はい』
 ステム少尉の返事がいつもより短い事を気にしつつ、ニュンペーをカタパルトに接続する。
『MS隊を射出後、アレキサンドリアは援護射撃で突破口を開きます。混乱に乗じて、お2人は破壊したシェルターから侵入してください。隙をみて本艦も上陸します。友軍の回収はそれからです』
「わかりました。頼みます。…ニュンペー、出るぞ」
 既に火の手が上がり始めているシェルターの近くへ急いだ。ここで早々に敵を叩かねば、増援が来てしまう。その前に友軍を回収し、撤退する必要がある。後ろからステム少尉のガブスレイもついてきている。

 間を置かずに艦砲射撃がシェルターに向けて行われた。外部に固定されていたサラミス改が腹から折れ、爆炎を上げる。更なる砲撃に晒し、シェルターの中がはっきり見て取れるまでになった。
『少佐、ご武運を』
 レインメーカー少佐の合図と共にシェルター内へと潜り込む。真っ赤に燃える拠点の中へ身を投じた。小破したアイリッシュをMS隊が防衛している。
「ステム!離れるんじゃないよ!」
 呼びかけながら先手を打った。こちらに気付いた敵の1機を迅速にライフルで始末する。同じ隊と思しきGM2が2機、こちらに迫ってきた。アイリッシュの機銃を躱しつつ、敵機と接触する。
 まず突出してきた先頭のGM2が抜いたビームサーベルを、すれ違い様に腕ごと切断する。こちらを振り向いたところをステム少尉がライフルで胴から射抜く。
 更に迫るもう1機の射撃を尽く躱すと、こちらからもライフルで狙撃し両腕を無力化する。武装を失いバルカンで応戦してくるGM2を背後から羽交い締めにして、機銃の弾除けに使った。これで敵の迎撃をいなしながら、どうにか着地する事に成功する。
0905◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:40:21.52ID:YVtOvx+T0
 まず周囲を確認すると、敵の数は片手で数える程になっていた。友軍による決死の作戦が功を奏したらしい。とはいえこちらの損害も尋常ではなく、かなりの数居たはずの駐留軍は10機程度にまで減っていた。
 ウィード少佐は友軍全てにチャンネルを開いた。
「皆よく聞いてほしい。よくぞここまで粘ってくれた。ここを切り抜ければ、シェルター外にアレキサンドリアが待機している。敵に構わず脱出せよ。繰り返す、脱出せよ」
 彼らは責務を果たしたのだ。今度は殿としてウィード少佐が撤退を支援せねばならない。それが、全ての兵達に示せる精一杯の誠意だった。
 通信を切ると、友軍達がシェルターの外を目指し始める。追いすがる敵機を妨害する為、ニュンペーは再び地を蹴った。
『敵の殲滅はどうするんです??』
 ステム少尉からだった。
「我々でやる。これ以上は彼らに任せられない」
『しかし…』
「私ひとりでもやる。残るか、撤退するか…ステムは好きな方を選んでいい」
『そんな』
 本気だった。ドレイク大尉も、オーブ中尉も、ソニック大尉も此処にはもう居ない。独りで戦い抜いて死ぬならばそれも本望だが、それは彼女の選択であって他の兵を巻き添えにする理由にはならない。ステム少尉も例外ではなかった。
0906◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/10(金) 00:41:12.72ID:YVtOvx+T0
 追いかけて来たネモが、逃げる友軍の1機を背後から切り捨てた。更に追おうとするところをライフルで牽制する。こちらに気付いた敵機達が身を翻し向かってくる。
「来い…!全員こっちに来い!」
 全身の血が沸き立つ様な心地の中、切り結び、押し飛ばし、撃ち落とす。自分の中で何かが切れてしまっているのを感じていた。この先に何があろうと構わなかった。
 先程のネモによる正確な射撃を受ける。すんでのところで躱したものの、追撃が迫った。
「くそっ…!」
 斬撃をサーベルで受け止めたものの、足が止まってしまう。別のGM2が横から更に斬りかかってきた。
 が、すぐにライフルがそれを撃ち落とした。ステム少尉のガブスレイである。
『僕も…自分にやれることをやります』
「かっこつけちゃって…。後悔しないでよ」

53話 彼女の選択
0909◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:21:56.21ID:AvQA0wbv0
>>907
デザインは見たことあります!
結構攻めてますよね

>>908
いつもありがとうございます!

さて、1週間ほど経ったので続きを投下します
0910◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:22:38.58ID:AvQA0wbv0
 スクワイヤ少尉は目を開けた。
「あれ?死んでない」
 目の前にワーウィック大尉のマラサイが居た。よく見ると少尉はマニピュレータの上に横たわっている。
『地球…行くんだろ?諦めるのはまだ早い』
「大尉!」
 思わず涙が溢れ出す。
『1度アイリッシュに戻るぞ。下手なことはするなとあれほど言ったのに』
「すみません…」
 擦った目を遣ると、敵のハイザックは完全に沈黙していた。そのコックピットには薙刀が突き立てられている。
 マラサイはそれを引き抜くと、もう片方の手に乗せた少尉をコックピットへと促した。開いたハッチの向こうに大尉が居た。スクワイヤ少尉はそそくさと乗り込む。
「さて…行くか」
 ハッチを閉じると、身を翻したマラサイはバーニアに火を入れてアイリッシュへ向かった。

「…何で大尉は私が居るってわかったんです?」
「フジ中尉だ。少尉の声を聞いたと言ってな。気のせいかもしれないと言っていたが、まさかと思って声のした方へ向かったら案の定」
 あの時の通信が通じていたのか。通りかかったのが中尉のネモでなければ今頃死んでいただろう。
「それから…通信入れっぱなしだったろ。それで少尉だと確信したよ」
「え…!?全部聞いてたんですか!?」
「まあ…ひと通り」
 顔が熱くなるのを感じた。
「えっと…いや…いいんです。これはこれでロマンチックだったかも」
「そうか」
 大尉が笑った。
0911◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:23:11.69ID:AvQA0wbv0
 飛び交う戦火を潜り抜け、どうにかアイリッシュまで辿り着く。タイミングをみて開いた格納庫へ滑り込んだ。
「私はまた戦場に戻る。少尉は一旦降りてくれ」
「わかりました。…私もすぐ行きます」
「機体があればでいい」
 少尉はマラサイのコックピットハッチに手をかける。
「少尉…!」
「?」
 声を掛けられ、思わず振り返った。
「その…。戻ったら話そう」
「…ええ」
 少尉は笑顔で返した。少尉を降ろして周囲の安全を確認すると、大尉はすぐに去っていった。
「遊ばせてる機体なんてあるかな…」
 格納庫を見渡すが、補給を行っている機体以外は空いている様子はない。仕方なく少尉はガンダムの元へ走った。
「あ、少尉。お戻りで」
 アナハイムの技師がデータを確認しているところだった。
「この子、どうにか出せない?」
「今からですか!?うーん…」
 見る限り最低限の応急処置は出来ているようだが、あくまでも外観の話だ。
「状況はわかりますよ。ここを切り抜けられなければ直すだけ無駄ですからね。しかし…正直何が起きても責任は取れません」
 技師は苦い顔をした。
「いいわよ。動くんならそれで十分」
 それ以上返事も聞かず、少尉はコックピットハッチから機体に乗り込んだ。
『少尉、止めても無駄でしょうから…説明だけでも聞いてください』
 先程の技師がモニターに映る。
『アポジモーターの稼働率は70%ってとこです。多分使ってるうちに更に数字は落ちると思いますが。関節もかなり傷んでます。あとサーベルも1本紛失した状態ですので…』
「わかった。大尉の薙刀がまだ1本余ってたよね?」
『ドライブは可能です。でも扱えますか?長物は慣れないと結構難しいですよ』
「手ぶらよりいいわ。あれと適当なライフルを1丁貰っていくから」
 いつもと違うフレームの軋みを感じつつ、装備を見繕った少尉は格納庫を後にした。
0912◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:23:47.05ID:AvQA0wbv0
「マンドラゴラ…あと少しだけ頑張ろうね」
 カタパルトは使わず、そっと艦体の陰から出撃する。辺りは幾らか静かになっていた。注意深くアイリッシュから離れる。
『ガンダムは少尉か!やっぱりな!』
「フジ中尉!」
 ガンダムに気付いたのはフジ中尉だった。彼のネモは壁際に座礁している。周辺に敵影はない。
『やはり気のせいではなかったな。全く無茶ばかりして…』
「そういう中尉こそ。…動けます?」
 周辺に展開していた敵部隊が見当たらなかった。少し離れた場所で交戦しているらしい。
『試験部隊のやつが2機ほど残ってる。そいつらにやられた』
 ネモは脚部を損壊しており、立ち上がるのは難しそうだ。
「この辺りに敵は居ないみたいですね。中尉だけでも戻っててください。後始末は任せて」
『済まないな…。どうも敵は撤退を開始した様だ。しかし先程の2機が殿を務めている…気をつけろよ』
「大丈夫ですって。まだ死ぬには早いですから」
『死にたがりのゲイルがそんな事を言うとはな』
 中尉は少し笑ったようだった。コックピットハッチから脱出した中尉がガンダムのコックピットを叩く。
『これを少尉に託す。これまでのやつらとの交戦データを蓄積・解析したものだ』
 ハッチを開けて中尉と対面する。彼から端末を手渡された。
「ロードに時間がかかるだろうが、ガンダムの反応が向上する筈だ。ぶっつけ本番になるが…」
「中尉、ありがとうございます。安心して待っててください」
「頼んだぞ。メッセージも添えてある」
 珍しく中尉が親指を立ててハンドサインを見せた。そういうこともする男なのだと今更知って、少尉も思わず笑った。

 中尉を見送り、端末を差し込む。やはりロードには幾らか時間が掛かるようだ。友軍の動きを見る限り、敵はシェルターの外に出たらしい。
「さーて…腐れ縁もここまでにしたいね」
 拠点を放棄した時点でエゥーゴの勝利は揺るがない。しかし、まだ友軍が追撃戦を続けている。これを逃せばまた敵に反抗の機会を与えるかもしれない。ガンダムのスラスターを吹かすと、少尉は敵の姿を求めてシェルターの外へと駆けた。

54話 追撃戦
0913◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:25:11.73ID:AvQA0wbv0
「だいぶ…片付いてきたね…」
 息を切らしながらウィード少佐は辺りを見渡した。もう敵は片手で数える程しか残っていなかった。シェルターを抜けるまでの間に4,5機は落とした筈だが、それからは数えている余裕も無かった。友軍は殆どがアレキサンドリアへ向かった筈だ。
「しかし…レインメーカー少佐は何を…」
 肝心のアレキサンドリアが見当たらなかった。何かトラブルがあったのかもしれない。
『とにかく今は、目の前の連中を片付けるのが先決ですかね。このままでは身動きが…』
 ステム少尉もよくやってくれている。正直独りではここまでやれなかったと思う。彼の言うとおり、今相対している4機のMSはそれなりによくやる。特に中央に陣取ったマラサイはひとりだけ動きが違う。
「あのマラサイ…。もしかしてバッタのやつか?」
 得物が同じ薙刀だった。同じパイロットということならこの動きの良さにも説明がつく。
「だとすれば…バッタはグロムリン辺りが潰してくれたか。あの時代遅れのMAもそこそこに仕事をしたみたいね」

 こちらから仕掛けるより早く、敵が一斉に動いた。少し遅れてこちらも敵に向かってスラスターを吹かした。周りを固めるGM2の威嚇射撃でこちらの進路が狭まる。その進路の先には、マラサイ。
「ステム!遅れないでよ!」
『はい!』
 ガブスレイに背中を預ける形で、少佐は突っ込んでくるマラサイに向けてライフルを放った。マラサイはこれを華麗に躱すと、薙刀を頭上で回した。
「マラサイごときがこのニュンペーとやり合えるとでも!?」
 マラサイが振り下ろした薙刀をギリギリで躱す。回避運動から繋いだ動きでバックハンドにサーベルを繰り出した。敵はそれすら薙刀で受け止めるが、無防備になった側面にはステム少尉のガブスレイが居る。
『落ちろッッッ!!』
 少尉のフェダーインライフルにサーベルが形成され、勢いよく突き立てにいく。しかしマラサイは、避けるどころかガブスレイの懐に入り込んだ。
『何だと!?』
 フェダーインライフルはリーチが長い分、懐に潜られると扱いが難しい。薙刀を扱うだけあってそのあたりは熟知している様だ。ガブスレイは首根っこを掴まれるようにして、背負い投げの要領で投げ飛ばされた。
『くそっ!』
 着地するやいなや、他敵機のライフルに晒される。攻撃を受けるより早く可変すると、少尉は敵と距離を取った。
0914◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:27:25.79ID:AvQA0wbv0
「ちょこざいな!」
 ガブスレイを投げ飛ばしたマラサイへ、今度はニュンペーで挑む。近距離でライフルを見舞った。流石に加速の早いライフルをこの距離では避けきれなかった様で、マラサイは肩の盾でいなした。脇が甘くなった所にフェンシングよろしくサーベルで突きかかる。
 いくらパイロットの腕が良かろうと、所詮はハイザックに毛が生えた程度の量産機である。ニュンペー相手では持ちこたえられなくなるのも時間の問題だろうと思った。
 しかし、こちらのサーベルを敵は捌ききった。疲れるどころか更に動きが良くなっている様にすら思えた。こちらの攻撃の隙をつかれ、薙刀の柄で脚を払われる。
「何だ!?」
 関節部を狙われたのか、一瞬ニュンペーはガクンと体勢を崩した。見上げた先で敵のモノアイが妖しく光る。
 意を決した少佐は、敵の腰部へ抱きつくとそのまま押し倒した。先程の敵の戦術と同じく、インファイトに持ち込めば薙刀は文字通り無用の長物になる筈だ。
 しかしここでも敵の方が1枚上手だった。押し倒した勢いそのまま、ニュンペーは腹から蹴り上げられた。
「ちいぃ!」
 跳ね除けられ、再び距離が開く。明らかにパイロットとしての腕は敵の方が上を行っている。
 更に良くないのは、他の機体の動きも見ながら戦わねばならない事だった。こうしてマラサイとやり合いながらも、他のGM2が茶々を入れてくる。

 長い攻防が続く。ステム少尉が被弾し地表へ不時着した。可変してMSに戻るも、肩を損傷した様だ。
『まだやれます!お構いなく!』
 少尉が叫ぶ。そこにここぞとばかりにGM2がサーベルを抜いて迫る。
「そこッッッ!」
 少佐は交戦中のマラサイ越しにそのGM2へとライフルを放った。マラサイの頭部を掠ったそのライフルは、そのままGM2の腹部を横から貫通した。間髪入れずにガブスレイが正面から横凪に両断する。
「後3機!!」
 こちらも疲弊しているが、それは敵も同様だった。マラサイの援護をしようとライフルを向けた別のGM2だったが、弾が切れたのか空撃ちした。返す様にそのGM2へライフルを見舞い、コックピットに直撃させる。
「残弾くらい確認しておくんだね」
 極限状態の中で、本能的に次の手を選択していく。研ぎ澄まされていく感覚はあるが、余裕がないのはこちらも同じだ。再度接近してきたマラサイへの反応が遅れる。
「まだだ!」
 ギリギリのところで薙刀の柄を掴み、敵と睨み合う。長い戦いで気が遠くなりそうになりながらも、どうにか踏みとどまっていた。このマラサイに乗っているだろうパイロットとその仲間達への復讐心に支えられているからかもしれない。
「お前達だけは絶対にッッッ!!!」
 少佐は力の限り吠えた。そのままマラサイを押し退けると、敵の左腕を掴み肩から引き千切った。ムーバブルフレームの難点があるとすれば、人体構造に近い故に関節部が脆弱であることだった。モノコック構造の様な堅牢さは無い。
 もいだ腕をそのまま投げ捨てると、バランスを崩したマラサイを蹴り倒す。そこへ残る1機のGM2が間に割り込んできた。
「邪魔をして…!」
 もう後はない。割り込んできたGM2と掴み合いになりながら、その腹にライフルを突き立てる。めり込んだ状態の零距離で最後の一発を撃ち込んだ。倒れかかってくる敵機をそのまま打ち捨てる。
0915◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:29:14.91ID:AvQA0wbv0
「はぁ…はぁ…」
 息も絶え絶えの少佐の傍にガブスレイも合流する。
『残るは…』
 目の前にいるマラサイは、片腕になりながらも戦う意思を曲げずにいるようだ。退く素振りは微塵も見せない。
「あんたらの勝ちだろう!それで満足じゃないのか!?何故退かない!?」
 思わず少佐は怒鳴った。何もかも失ったこの戦いは、紛れもなくティターンズの敗北だった。なのにこの男は何故まだ追ってくるのか。
 そうはいってももう敵は満身創痍だった。これ以上何か出来るとは思えない。
「…もういい。これ以上は追ってこれまい。ステム、アレキサンドリアは?」
『…来ませんよ』
「何を言ってるの?」
『レインメーカー少佐は今頃この宙域を脱している頃でしょうね…撤退した友軍位は拾ってくれたかもしれませんが』
 耳を疑った。理解が追いつかない。
『エゥーゴがここまでやるとは思いませんでしたよ。僕自身も紙一重でしたが…あなたはここで死ぬんですよ、ソニック大尉達と同じ様に』
 何を言われているのか、意味を汲むまで少し時間がかかった。
「…まさか、ラムは…」
『あんたで最後だ。エゥーゴも片付いたしね』

55話 復讐心
0916◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:37:33.47ID:AvQA0wbv0
「全く…どいつもこいつも」
 ステム少尉は思わず毒づいた。何故戦力的に余裕がない筈のエゥーゴがこれ程までに追撃を掛けてきたのか、そしてウィード少佐は何故馬鹿正直にそれを迎え撃つのか…理解に苦しんだ。

 そもそもレインメーカー少佐との当初の計画では、初戦で少し善戦した後にウィード少佐達をエゥーゴに討たせて撤退するだけの筈だった。
 しかし、ソニック大尉が単独で侵攻してきた敵と交戦に入ってしまい、あろうことか本部の爆破まで粘ってしまった。最初の誤算である。救援に入る動きを見せつつ自ら手を下す事になってしまった。
 本部の爆破自体もレインメーカー少佐の入れ知恵だった。そうすれば上層部が脱出するだけの時間は稼げると唆したのだ。
 背後の後ろ盾を失った駐留軍は、少佐の見立て通り死にもの狂いで戦った。

 大尉の誤算だけならまだ良い。しかし今度はウィード少佐がエゥーゴ相手に善戦してしまう。混戦の中でやられてくれればそれでも良かったのだが、殿になって味方を全て逃してしまった。
 ここでウィード少佐が倒れれば次はステム少尉が敵を一手に引き受けなければならなくなるし、少佐だけ残しての撤退を取れば、抑えきれずに敵の追撃が尚一層激しくなる。
 そうなると自身の脱出すら危うくなる為、先にエゥーゴを片付ける必要まで出てきてしまったのだった。
0917◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:37:55.89ID:AvQA0wbv0
「まあこれで…試験部隊が必死に戦ったという記録はより補強されるけどね。回収した友軍が証言してくれる。…ただ、おかげで俺は割を食った」
 舌打ちしながら、ステム少尉はフェダーインライフルをウィード少佐に向けた。
『全て…レインメーカー少佐とステムが?』
「この際だから聞かせてやるよ。余りに爺さんの動きが遅いから俺が補充されたんだ。シロッコ大佐は…これ以上こんな試験部隊のお遊びに付き合っている暇はない」
『大佐が…』
 信じられないといったところか。皆そう思うのだ。自分は特別だと思い込んでいて、いざ事実を突き付けられると認めようともしない。
「コロニー落としに失敗した時点で、その責任を負うのがあんたらの最後の任務だったんだ。…姉さんの負傷の代償と一緒にね」
 姉弟揃って散々振り回されてしまった。しかしそれもここで終わる。
0918◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:38:18.70ID:AvQA0wbv0
「エゥーゴも一通りは片付いたし、あんたを始末したら…俺は合流ポイントでアレキサンドリアに拾ってもらう。それで任務完了だね」
 ため息をついてニュンペーを見据えた。もうパラス・アテネは完成の目処が立ったし、ニュンペーの量産体制も整いつつある。シロッコ大佐達もこのプロトタイプを失ったとして特別惜しくは無いのだろう。
『大体の察しはついた。それで…今なら私を殺せると?』
「逆に…殺せないと思ってるのか?」
 ソニック大尉といいウィード少佐といい、何処までも邪魔をする。もうウンザリだった。
「さよなら」
 ライフルでニュンペーを狙うと、流石に抵抗してきた。ビームを躱し、こちらを組み敷こうと掴みかかってきた。そんなところまでソニック大尉と同じなのか。
「あんたはここで終わりだ!潔く撃たれれば良いものを…!」
『そうかもね。でも、実行犯のあんたを連れて帰ってくれるほどレインメーカー少佐も甘くないよ』
「無駄な抵抗だ!惑わせて!」
0919◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:38:42.25ID:AvQA0wbv0
 取っ組み合いの最中に、背後でマラサイが立ち上がっていることに気付いた。
「何!?死にぞこないが…!」
 ウィード少佐を押し退け、今度はマラサイを撃つ。右肩の装甲が弾け飛んだが、それでも膝をつかない。それどころか薙刀を脇に挟んでこちらへ向かってきた。
「馬鹿な!たかがマラサイだぞ!?何故動ける!?」
 敵の鋭い斬撃が下から斜めに迫る。動揺した少尉は思わず腕で身を庇った。刎ねられた片腕がライフルごと宙を舞う。
「くそ!いい加減落ちろよ!!」
 残る右肩のメガ粒子砲と頭部のバルカンで集中砲火を浴びせる。しかしマラサイを蜂の巣にする前にニュンペーが接近してくる。
「どいつもこいつも何故死なない!?」
『あんたの爪が甘いから!!』
「煩いんだよ!あんたも!!」
 迫るニュンペーの頭部に蹴りを入れたものの、怯むことなくこちらを睨み返してきた。
「その目は何なんだ!」
 拡散メガ粒子砲で目くらましをし、その隙にサーベルを抜く。ニュンペーを袈裟斬りにしようとするが、マラサイの妨害に遭う。千切れた左腕を拾い上げ、スパイク部で殴りつけてきた。
「こいつ!庇う理由は無いだろ!?」
 何故敵であるニュンペーを庇うのか。大人しく寝ていれば良かったものを。打突を受けよろめきつつも、返す刃でマラサイの持つ左腕を破壊する。爆発の衝撃でマラサイは再び倒れた。
0920◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:39:05.37ID:AvQA0wbv0
『ステム…この際あなたの理由は聞かない…。でも…あなたにとってこの戦いは何の意味もないわ。…せめて生き延びてくれれば良かった』
 膝をついていたニュンペーが立ちあがる。
「ソニック大尉は俺が自ら手を下してやった。あんたもそうする事で俺の目的が達成されるんだよ…。何も心配する必要はない!!」
 再びサーベルで斬りかかり、鍔迫り合いになった。Iフィールドの反発で周囲に電撃が走る。
 どちらも満身創痍だが、的になって戦っていたニュンペーのダメージの方が深刻な筈だ。単純な押し合いで負けるとは思えない。
「往生際の悪いところまでソニック大尉と同じだな。だが…それもこれまでだよ」
 サーベルを更に押し込んだ。自分の刃で焼かれて死ぬならば、彼女にはおあつらえ向きだろう。
『私も無意味な復讐の最中だから…まだ死ねない』
 装甲表面を少し溶かしたところでニュンペーはまたサーベルを押し返してくる。
「知ったことか!あんたの分際で復讐だの何だのと…身を弁えろ!」
 その時、倒れたマラサイがバルカンで邪魔してきた。
「この…!」
 気を取られたタイミングで、次第にガブスレイが押され始める。
『そこに転がってるマラサイは勿論だけど、ガンダムがまだいる。それに…』
 これだけの連戦で、何処にこんな力が残っているのか。抑えきれず膝をつく。
『ラムをやったって言うんなら、それは胸に仕舞っておくべきだったね』
0921◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:39:31.94ID:AvQA0wbv0
「は…。ほんとに立場が解ってないらしいな!あんたは…」
『解ってないのはステム…あんただよ』
 ジリジリとサーベルが近付く。苦し紛れに持てる武装を乱射するが、ニュンペーに怯む様子は無い。
『黙ってれば上手くいったかもしれないのにね…。あんたは…ここで死ぬ』
「くそ!くそ!」
 サーベルが首元まで迫る。元々大型機のニュンペーが、更に巨大に見えた。ニュンペーは両手でサーベルを握り直す。
「何なんだよ!おかしいのはお前らじゃないか!」
『自分だけはおかしくないと思ってるやつが…1番イカれてるんだよ』
 ハッとした瞬間、視界がメガ粒子砲で白く光った。

56話 返す刃
0922◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:44:34.16ID:AvQA0wbv0
「は…うぐっ…」
 思わずウィード少佐は呼吸を乱した。沈黙したガブスレイを見下ろしながら、どうにか意識を保った。
 辺りはすっかり静けさに包まれていた。マラサイもこちらに仕掛けてくる様子はなく、そのまま横たわってこちらを見据えている。
「まさか…あんたに助太刀されるとはね…」
『事情は知らんが、ワケアリみたいだったからな』
 返答にハッとして通信機器を見る。オープン回線だった。油断に油断を重ねたステム少尉らしいといえばらしい。彼は諜報を任されるには余りに若過ぎた。

 全く心当たりが無いわけではなかった。元々レインメーカー少佐はお目付け役として着任していた。今にして思えば、彼の良いように動かされていた部分も否めない。
 それがシロッコ大佐の意思だったのだとすれば、もう初めから定めは決まっていたのだ。ステム少尉含めて所詮は捨て駒だったのだ。
 恐らく彼の言っていた合流云々も少佐の方便だろう。ここまでの事をしておいて少尉を生かしておく理由がない。
「助けてもらったことは感謝する。だが…それとこれとはまた別の話だ」
 ニュンペーは再びサーベルを起動した。
『投降したくないのはわかる。だが、直にエゥーゴの増援も来るぞ。死ぬ気か?』
「投降など出来るものか。この機体も、データも、貴様らに殺された仲間の遺した全てだ。エゥーゴに接収される位なら、ここで共々死んでやる」
『それこそ犬死というんだ』
 マラサイが膝をついて立ちあがる素振りを見せた。
0923◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:45:04.05ID:AvQA0wbv0
『エゥーゴはティターンズの投降兵も受け入れる。俺も元ジオン兵だ』
「だから何だ!お前達が仮に私を受け入れても、私がお前達を許すことはない!」
 誰も彼も皆、彼女を置いて先に逝ってしまった。オーブ中尉にも合わせる顔はない。そろそろ潮時なのだろう。この復讐心以外、もう何ひとつ手元には残っていないのだ。
「…決着を。さあ立て」
『…どうしてもやるのか』
 マラサイは、薙刀を拾いながら立ち上がった。振り返ればこの男との因縁も長かった様に思う。月面での交渉時に顔を合わせて以来、ずっと戦ってきた。敵ではあるが、ある種の敬意は芽生えていた。
「お前をここで倒して、ガンダムを倒す。そうでなければ死んでも死にきれん」
『何処かでやめにしなければ、この連鎖は終わらんよ。螺旋みたいなものだ』
「お前達を殺して終わりにさせてもらう。そんなにやめにしたければここで死ねばいい」
『…生憎、後回しにしている話があるからな』
「そんな日常すらお前達が奪った!」
 ニュンペーはサーベルを構えると、マラサイに振り被った。敵は下がる様にしてそれを躱しつつ、地を蹴って飛び上がる。
「逃がすか!」
 サーベルを回転させながら投擲する。直撃はしなかったものの、敵の脚部装甲を裂く。敵の着地より早く、ガブスレイのフェダーインライフルを拾い上げ更に追撃をかけた。
0924◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:45:33.59ID:AvQA0wbv0
『相変わらず腕がいいな』
 そういいながらマラサイは薙刀を回転させてビームを弾く。そのまま距離を詰めると、脇に抱えた状態から横凪に斬りつけてきた。
「あんたのデータもしっかり入ってる」
 受け止めるようにフェダーインライフルのサーベルを展開する。ウィード少佐自身は長物の扱いには慣れていないが、学習装置の補助で互角に渡り合う。皆が身を呈して手に入れた実戦データの結晶だ。
「バッタならまだしも、半壊のマラサイで勝てるほどニュンペーは甘くない!」
 薙刀を払うと、ノーガードの左側から蹴りを見舞った。蹴飛ばしてよろめかせたところへ更にライフルで斬りつける。
『ちぃ!』
 すんでのところを薙刀の柄で防がれる。しかしIフィールドの展開が不十分だったのか、そのまま薙刀を切断した。

 再び距離を取り睨み合う。
「自慢の長物もこれではね。もうおしまいだ」
『まだわからんさ。私の奥の手はまだある』
「ハッタリを」
 こちらからライフルで仕掛けるが、マラサイは積極的に応戦してこない。ライフルの射撃を躱しながら距離を保とうとしている様だった。
「時間稼ぎのつもりか!?そんな決着…私は認めない!」
『どうかな。早く落としてみろ』
 躍起になって追いかけていると、突然振り向いたマラサイが薙刀を投げつけてきた。ギリギリで躱したものの、ライフルを破壊された。
「わざわざ丸腰になるとは」
『お互い様だ』
 そうは言うが、肉弾戦こそニュンペーに分がある。身を翻し接近してきたマラサイだったが、突き出してきた腕に絡む様にして背後を取る。腕を捻り上げると、そのままマラサイを組み伏せた。ソニック大尉の近接格闘データも取り込んでいるのだ。
「お前如きでは…私"達"には勝てない」
『まだだ…!』
 マラサイはなおも抵抗するが、マウントを取ったニュンペーを退かすほどの力はもう残っていない様だった。
0925◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 11:46:10.68ID:AvQA0wbv0
『お前は…今…私"達"と言ったな…?』
「ああ。私ひとりでは勝てずとも、仲間の魂はここにある」
 力に任せて右腕も引き千切る。これでもうマラサイは一切の抵抗が出来ない筈だ。
「安心しろ。お前を送ったらガンダムも直ぐに送ってやる。その後で…私も逝くだろうが」
『その話はまだ取っておけ。奥の手があると言ったろう』
「何?」
『…来たか』
 マラサイが全てのスラスターを全開にして足元を滑り抜けた。掬われる形でニュンペーは尻餅をつく。マラサイはそのまま受け身も取れずに近くの岩礁へぶつかり動きを止めた。モノアイが消灯する。
「くそ…。何だ…?」
 その時、高速で接近する機体を捉えた。体勢を整えて身構え、シェルターの方向を振り返った。
『大尉!!』
 若い女の声。見覚えのある機体が姿を現した。
「…奥の手ってこれね。探す手間が省けた」
 最後の敵、ガンダムだった。

57話 私"達"
0926◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/17(金) 12:38:08.31ID:AvQA0wbv0
取り敢えず投下はここまでですが、もう実は2章は書き上げています。
3章でこの物語は完結します。そちらも設定が完全に定まり次第書き始めようと思いますが、その前に2.5章を少し投下予定です。裏話的な。

乞うご期待!
0928通常の名無しさんの3倍垢版2020/07/18(土) 19:51:28.68ID:bDHris4x0
乙です!
また間が空いてしまいました(・ωく)

洞窟で味方のはずのガブスレイに睨まれるって、ちびっちゃいそうなくらい怖い絵ですね
ステムはソニックを脳筋呼ばわりしますが、正直彼の最期まで見ても私怨なのか腹黒なのかしっくり来なかったです
まぁどっちもあったってところでしょうが...復讐一筋だったジェリドが少し恋しくなったりして
何はともあれ因果応報かなぁ。ウィードやソニックの奮戦に対してふざけてるみたいで、同情しかねます
(脳筋をバカにしてる頭でっかちなのは分かりました、自分に都合よく考えたがる子ですね)

あぁ、クローアームも使ってしっかり押さえないから、あと
さすがにビームライフルでボーザツラウフは無理ですねw 銃身が熱で溶けるか溜まったIフィールドで暴発するでしょう
(と>>897の時は思いましたが、>>918>>924で撃ってますね。筒が歪んだ程度?)
そんな時の為の銃床側ビームスピア、もっと流行っていいと思います

そして久々のハイザックカスタム、Z関連の二次創作では本編より出番が多い気がします、地味に愛され機種かと
スクワイヤ、何だかんだで生き残る方に動ける子ですね...こりゃ他の媒体でも何やかんやで長生きするぞ
サラミス、再出港叶わず撃沈...性ではありますが、かなCです!

ワーウィックに回収されるスクワイヤ、こいつら...(笑)
計画通りの改修が出来ないまま戦場に放り出されるのは、GP計画の呪いなんでしょうか
ちゃっかりEWACネモ退場、いや偵察機にあるまじき戦果の数々でした。R.I.P.

試験部隊の人間に時代遅れ扱いされるレストアMAのグロムリン君、ちょっとカワイソス
まさか乗ってたのオーブ中尉じゃないスよね...? ゼダンの門でリハビリしてるはずだし
合流ポイント...あからさまな死亡フラグw
脇を使ったナギナタ攻撃も長物ならではですね

後回しにしてる話→日常 と、ボロボロでも察しがいいウィード少佐。アイバニーズとは違うのだよ、アイバニーズとは!
仲間たちの武器やデータで戦う展開の何と熱いこと!(さっき自分を殺しかけた武器とか言わないw)
やはり最期はモノアイが死ぬワーウィックのマラサイ...しかし爆発しないですね、ジェリド機は欠陥品だったか(苦笑)
今回はお色直ししたガンダムの登場で〆、いよいよラストバトル?だぁ!

3章となるとついにZZ外伝が...?wktk
2.5章というのも気になりますね、もうSさんの焦らし屋さん!w
お身体に気をつけて、続き楽しみにしてます!
0929◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/19(日) 23:04:34.45ID:1WHQhniM0
>>927
>>928

いつもありがとうございます!

ステムはどのくらい描写すべきか迷いましたが、今回はあまり掘り下げずにいく感じです。
ガブスレイは強機体だと思うんですけど、扱いも難しいかなというところで。
ライフルはもう少し状態について書いてもよかったですね!基本的には使える状態だと思ってもらえれば!使ってますし!笑

ハイザックカスタムは、ティターンズ側の量産機でマイナーチェンジくらいの立ち位置なので便利でした。笑
艦隊戦はまた書きたいですね…

グロムリンは旧戦争時の設計なんで、まあそんなもんかなと…笑
連携も取りづらいとなれば持て余しますよね…
オーブ中尉はゼダンの門に行ってます!今回は出番なしですね

正直ウィード少佐はもっと早くから描写増やしとけば良かったなぁと思わんでもないですが、序盤はあまり戦わない敵のポジションだったのもそれはそれで悪くはないかなと
ついついマラサイに乗せると頑張らせちゃいますが、いくら大尉でもこれ以上は厳しいですね

3章は元々書いた通り、Z終盤の話になります!ZZは今のところ構想は無いんですが、1章の面子がこのまま出番なしというのも寂しいところ…
取り敢えずまだまだ続きますのでお付き合いください!
0930◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:19:12.71ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉はようやくワーウィック大尉を発見した。辺りには敵味方のMSの残骸が散っており、その中に大尉のマラサイを視認出来た。
「また水色!?」
『ニュンペーだ。最後くらい覚えていくといい』
 例の試作機から女の低い声がした。こちらと同じチャンネルに繋いでいるのか。
「大尉!無事ですか!?」
『ん…一応…な。しかし…待ちくたびれたぞ』
 返答があるものの、機体を見るからに大丈夫とは思えない。両腕をもがれている上各部の損傷も激しく、これ以上の戦闘は不可能だろう。
『少し…休ませてくれ…』
「はいはい」
 着地し、ニュンペーと名乗った試作機と相対する。かなり消耗している様子だが部位の欠損もなく、大尉に比べれば綺麗なものだ。

「何で同じチャンネル開いてるわけ?」
『まあ、お互いに積もる話も色々とね』
「胡散臭…」
 軽く苛立ちを覚えながら、念の為周囲を確認する。動ける敵機はニュンペーだけの様だ。
「あんたさえぶちのめせば良いのね?」
『そうだ。私もお前さえ倒せば全てが終わる』
「別に何も終わんないわよ。何言ってんだか」
 ニュンペーにライフルを向ける。よく見ると敵は何も武装を持っていない。
「丸腰でやる気?」
『心配無用』
 そう応えるなり、ニュンペーはこちらに向かってきた。
0931◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:19:57.27ID:/Z+V/y3V0
「!…速い」
 瞬時に懐に潜り込まれる。慌てて応戦しようとしたが、敵の方が速い。ライフルを構えていた腕を取られ、あらぬ方向へ曲げられた。MS故に関節の自由度は高いが、それでもかなりの負荷が掛かる。
 その上この至近距離では、斬りかかろうにも薙刀ではリーチがあり過ぎる。
「だったら!」
 薙刀の下部を切り離し、長柄のビームサーベルに切り替えた。逆手に持ち替え敵に突き立てにかかる。流石に狼狽えたのか、それを躱しながらニュンペーは再び距離を取った。
『…先程のマラサイの方が骨があったかな』
「大尉は強いよ。でも私も強い」
『2人して手負いも倒せずに?』
 そういうニュンペーの手には、ガンダムが持っていたライフルが握られている。腕を取られた時だとこちらが気付くのとほぼ同時に発砲してきた。

「泥棒!」
『盗られる方が悪いね!』
 射撃を避けながら距離を保つ。更に敵は、こちらを追いつつ先程切り離した薙刀の片割れも拾い上げる。
「人のものばっかり使って!」
 急制動を掛けて身を翻すと、宙返りして敵の頭上を取る。が、いつもより明らかに機体が重い。
「ちい!アポジモーターがどうこう言ってたねそういや!」
 構わずそのまま敵に斬りかかる。
『遅いね』
 ニュンペーは斬撃を容易く躱すと、すれ違いざまに斬りつけた。これを躱しきれず、ガンダムは胸から左肩にかけて傷を負う。しかしまだ浅い。
「まだまだぁ!」
 着地するやいなや、更に敵へサーベルを見舞う。しかし、どれだけ切り結んでも手応えがない。全て肩透かしの様な感覚すら覚えた。例の学習装置がなせる技か。
『援護が無ければ…ガンダムもこんなものか!』
 敵のサーベルによる反撃を腹に受け、一瞬足が止まる。
『死ねッッッ!』
「誰がッッッ!!!」
 ニュンペーの振り被った薙刀に、逆手に持ったガンダムの薙刀を合わせる。かなり強引だが、再び薙刀を元の1本に戻した。
『何!?』
 敵のドライブが切断され、ビームが消えた斬撃は空振りに終わる。コントロールを奪った薙刀をそのまま敵の肩に突き立てた。
「お返し」
 そのまま最大出力でビーム刃を形成する。溢れるメガ粒子で敵の左肩が弾け飛んだ。
0932◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:20:44.65ID:/Z+V/y3V0
『小賢しい真似を…!』
 衝撃で体勢を崩しながらも、ニュンペーは苦し紛れに右肩の拡散ビーム砲を放つ。正面からそれを浴びたガンダムは、両腕で身を庇いながらも大きなダメージを被る。
「何なのよ!内蔵武器あったの…?」
 敵が後ろへ下がるのを確認すると同時に、モニターがやや乱れる。サブカメラをやられたらしい。
「はあ…あんたやるね。名前は?」
『今更聞いてどうする?』
 爆散した自らの左腕からライフルをもぎ取ると、再び発砲してきた。付かず離れずの距離で敵の射撃を躱す。
「何か武器は…?」
 逃げ回りつつ辺りを探すと、友軍が落としたらしいビームライフルを見つけた。その場に転がる様にしてそのライフルを拾うと、膝立ちで狙いを定め敵を撃つ。
『そういえばいつものネモが居ないな!』
「あんたらが落としといてよく言う!」
 フジ中尉ほど正確な射撃は出来ない。その上ニュンペーの動きは素早く、コックピット内の補助スコープを使用してもなかなか命中しない。腕の損傷もあり照準がブレる。
「もう!腹立つ!」
 スコープを押しのけながら少尉は喚いた。ライフルを携えたまま、こちらから突っ込む。当たらないなら近づいて撃てばいい。

『どうしたガンダム!!』
 近距離の射撃すらニュンペーは躱す。こちらの行動パターンがわかっているかのようだ。
「この子の名前はマンドラゴラ!あんたこそ覚えておきなよ!」
 データ頼りな動きをするというのなら、敵の意表を突けばいい。ライフルを持ち直すと、ガンカタの要領でトンファーのようにして敵の腹部を殴った。
『くっ!』
「あら、初めて?優しくしてあげようか?」
 右手のトンファーと左手の薙刀。長短を使い分けて敵に間合いを測らせない。まして片腕では捌けるはずもなく、ガンダムは敵の頭部を薙刀で切り飛ばした。
 とはいえ、ビームライフルもそんな使用を前提には作られていない。何発か殴るとすぐに使い物にならなくなった。ねじ曲がったライフルを捨て、両手で薙刀を構え直す。
「これで!」
『舐めんじゃないよッッッ!』
 敵が吠えた。また先程の拡散ビーム砲を撃つ。ビームを浴びながらも、薙刀を銃口に突き立てようとした。ビーム刃が敵に触れた時、放たれたメガ粒子が刃のIフィールドで偏光して花火の様に辺りに散らばる。
「くっそ…!」
 狼狽えた少尉は思わず下がる。敵はそれを見落とさなかった。右肩にダメージを負わせつつも、頭部を掴まれガンダムは押し倒された。両腕の上に脚を乗せる様にして組み敷いてくる。
0933◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:21:16.06ID:/Z+V/y3V0
『撤回するわ…。強いね…あんたも』
「そりゃ…どうも…」
 お互いに息を切らしながら睨み合う。こちらを見下すニュンペーのモノアイが赤く光っていた。
『いいね…教えてあげる。私はドラフラ・ウィード少佐』
「…ふん。ゲイル・スクワイヤ少尉よ」
『ゲイル…スクワイヤ?』
 ウィード少佐が聞き直した。
『ああ、思い出した。あんたが例の?』
「何よ…」
『あんたの親父さん知ってる。もう死んだって聞いたけど』
 衝撃が走る。少尉は全くこの女を知らない。父が死んだ?
『…何も知らないくせにエゥーゴに居るの?名字まで変えてさ』
「別に…。何か知ってる風だね…」
 少尉は奥歯を噛み締めた。ウィード少佐と名乗るこのパイロットは父のことを知っているらしい。
『ヴォロ・アイバニーズ…。時代遅れな特務部隊の隊長だろ?随分前会った時、娘がエゥーゴに居るって言ってたからね。親不孝なやつもいるもんだと思って覚えてたよ』
「嘘…」
 父の死を、こんな形で知ることになるとは思ってもみなかった。一瞬、最後に見た父の姿が脳裏をよぎった。

58話 データ
0934◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:21:44.59ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉は耳を疑った。父がティターンズに居たのか。
「何で…父さんが」
『…は?私が知る筈無いだろ。ニューギニア基地はとっくに陥落してる。あんたらエゥーゴが落としといて何を』
 ニューギニア基地はワーウィック大尉が前に居た戦線だ。父が連邦の人間だということは知っていた。恐らくそれなりに高い地位に居たであろうことも。わざわざ母方の姓を名乗って、七光りを隠そうと躍起になっていたところもあった。
 しかし、それがティターンズだったとは聞いていなかった。この女の言う通りなら、特務部隊故に知らなかったのか。
『…余計なことを話したみたいだね。気にしないで。すぐにあんたもあっちに逝くんだし』
 ガンダムから薙刀をもぎ取ると、ビーム刃を掲げた。
『…あんた達はフリードやラムの仇だ。でも、敬意は払う。だから一瞬で終わらせてあげる…それがせめてもの情け』
0935◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:22:37.67ID:/Z+V/y3V0
「私…何も…知らなかった…」
 ニュンペーが薙刀を振り下ろす。荒れたモニターが明るくなった。
「…余計に死ねないじゃない」
 フジ中尉から貰った端末のロードが100%を示す。それと同時に表示された言葉は"形影相同"。
「中尉…だから意味わかんないってば」
 緊急で左肩の接続を切り離し、ギリギリで薙刀を躱した。残る右腕に乗るニュンペーの脚にしがみつき、そのまま引き倒す。
『何を…!』
 形勢を逆転し、跪いたニュンペーの前に立つ。
「私が本当は誰だろうと…」
 離した左腕を拾い上げ、再度接続する。過剰な負荷のせいか、接続部から煙が上がった。
「私は…私の魂を信じる」
 呼応する様にして、サブカメラが復旧する。煙の中でツインアイが光った。

『大層なことを言っても…何も変わりはしない』
 ニュンペーが立ち上がり、こちらに向かってくる。しかし、ガンダムはそれを容易くいなすと脚を払い再び膝をつかせた。
『!?』
「皆…何も知らない癖にさ…知った様な気になる」
 てっきり少尉は、ニュンペーのものと同じ様な敵の行動パターンを受け取ったのだと思っていた。
『馬鹿にして!』
 立ち上がりながらニュンペーがハイキックを見舞う。しかしガンダムはそれに手を添えると、その蹴りの勢いで逆にニュンペーの体勢を崩させた。
『な…何が起こっている!?』
 中尉のくれたデータは敵がどう出るかのデータではなく、自機の特性を活かすにはどうすればいいかというものだった。これまでの戦闘で得た癖の補正や弱点の補強…あくまでも能動的なデータだった。
「私は…全部受け入れることは出来ないかもしれない。でも…」
 少尉は頭を空っぽにした。
「いくよ…マンドラゴラ」
 今は何も考える必要はない。後で考える事が増えただけの事だ。
0936◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:24:02.82ID:/Z+V/y3V0
『何をやったのか知らないが…!私達の血の結晶が…そんな付け焼き刃に…!』
 ニュンペーは腕部のビーム砲を放つ。これまでは内蔵兵装はエネルギー節約で極力使いたくなかったのだろうが、そうも言っていられなくなったらしい。形振り構わなくなったのがわかる。
 ビーム砲を躱しつつ、敵の落とした薙刀を取り戻す。
「私に長物は向かない。だから…」
 再度薙刀を分割し、二刀流に持ち替えた。
「その付け焼き刃、2本ならどう?」
『戯れるな!』
 ニュンペーは脚部のクローを駆使して接近戦を挑んできた。こちらの捌く2本の刃に、カポエイラの様にタイミングを上手く合わせてくる。
「…いける」
 こちらからも敵のリズムに合わせる様にして攻防を繰り広げる。そして、そのリズムを意図的に崩した。斬りかかるその時に一部のアポジモーターを作動させることで、動作スピードを瞬間的に早めたのだ。
 その一瞬が敵には捉えられなかった。クローごと右の足首を切り落とす。

『こいつ…!』
 体勢を崩しながらもビーム砲を放ってくる。流石に作動しないアポジモーターが増えてきたのか、躱しきれずに右肩のバーニアが撃ち抜かれる。推進剤による爆発の衝撃で片方の薙刀を落とす。
「ちい…」
『まだ…!まだ終わっちゃいない!!』
 ニュンペーは戦意を喪失してはいない。片膝をついた状態でありながら、残る薙刀も片手で抑え込んでくる。流石にガンダムもパワーが落ちてきているのか、敵に掴まれた左手を振り払えない。
『お前も…道連れだ…!』
 左マニピュレータの手首を握り潰される。お互いの体勢が崩れつつも、ガンダムは残るスラスターで制御しつつ敵に蹴りを見舞った。
「絶対に嫌だね…」
 アポジモーターの稼働率は50%を切っている。今の無茶な制動でもかなりやられただろう。とはいえひとまず敵の武装は殆ど破壊できた筈だ。
0937◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:24:27.86ID:/Z+V/y3V0
「こなくそ…!」
 蹴りの勢いそのままに宙返りし、ガンダムは手首を失った左腕で駄目押しに殴りつける。
『ッッッ…!』
 抵抗を試みるニュンペーだが、少尉はもう反撃の隙を与えなかった。半壊した左腕が火花を散らすのも構わず、使えるだけのスラスターを加速させながら両腕で連打を繰り出す。
「あんた達が…!どれだけ…!強かろうが…!」
 ひとつ、またひとつとスラスターが死んでいく。上がらなくなる左腕。
「どんなに…!私を…!憎もうが…!」
 息も絶え絶えになりながら、残る片腕で力の限り殴りつける。倒れそうになるニュンペーに、その時間すら与えない。
「私は…死ねないッッッ!」
 振り被った拳で最後の一撃を叩き込む。ようやくニュンペーは、その場に崩れ落ちた。
0938◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:24:53.88ID:/Z+V/y3V0
 満身創痍のガンダムは、半壊したニュンペーを見下ろした。立つことすらままならなくなった敵機は、頭を垂れずにいるのが精一杯の様だった。ガンダムは残っていた最後のビームサーベルを右手に持とうとしたが、マニピュレータが言うことを聞かない。
「もう…勝負は着いたよ…」
『ふざけるな!お前達がそれで良くても…私は…!』
 ニュンペーがここにひとりで居るということは、他の部隊は全滅したということだろう。母艦が見当たらないのは気掛かりだが、友軍らしい友軍は何処にもいない。
『私には…!もう…何も残っちゃいない…!!』
 苦し紛れに撃たれたビーム砲が頬を掠める。2発目は無かった。エネルギーが底を尽きたのだろう。ニュンペーはだらりと右腕を下げた。
「あんたひとりでどうするっていうのよ」
『例え首1つになろうと…お前らに噛み付いたまま死んでやる…』
 少尉は思わず溜息をついた。

「物騒なこと言う割にさ…。結構甘いよね」
『何…?』
 少尉は武器を手放した。
「大尉のマラサイだって、トドメを刺したければいつでも刺せた。あたしにしても、うだうだ口上述べなきゃ殺せたんじゃないの?」
 ウィード少佐は押し黙っていた。
「…結局、復讐なんて柄じゃないんじゃない?あんたのこと…よく知らないけどさ」
『私の大義は…』
 少尉は通信を切った。結局この女は殺してほしいのだ。死ぬ理由が欲しいのだろう。スクワイヤ少尉にはそれが痛いほどよく分かった。まるで自らの身を裂く様に。
0939◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:25:20.97ID:/Z+V/y3V0
 少尉は死に興味を抱いた。しかし事の本質は違ったのだろうと、今になって思う。現状を打破できない自分自身に言い訳がしたかったのだ。何でもいいから自分の生に意義が欲しかった。そんな気持ちを誤魔化すように、対岸にある死を羨望したのかもしれない。
 しかし、そんな自分を救い出してくれたのが…ワーウィック大尉であり、フジ中尉であり、グレッチ艦長だった。
 こんな自分に、手を差し伸べてくれた。死への本当の恐怖を知り、傍らに置き、そして実際に我が身を投げ出す理由すら生まれた。それでも尚生きていたいと願える今の少尉にとって、彼女の声は悲痛に思えた。
 きっと自分が多くを得た裏で、彼女は多くを失ったのだ。その幾つかは少尉が奪ったのかもしれない。横凪に腹を裂いたいつぞやのガルバルディを思い出す。
 別のガルバルディや青い大きな機体も、ここに居ないということはそういうことだろう。ガブスレイも静かに沈黙している。
 彼女は、独りだった。
0940◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:25:54.87ID:/Z+V/y3V0
「私はもう…あんたから何も奪わない」
 ひとり呟き、ウィード少佐とニュンペーに背を向けると、ガンダムはよろよろと歩き出した。もし撃てるならば、撃てばいい。彼女にはその資格があるだろう。しかしきっと撃たないだろう。彼女自身が、それを望んでいるようには到底思えなかった。
 ただ、その憤りをぶつける相手が欲しかったのだと思う。だから少尉もぶつけられるだけの全てで応えた。それでも、というのなら仕方がないかもしれない。
 すると、背後で大きな爆発が起こった。振り返ると、ニュンペーは跡形もなく自爆していた。
「…馬鹿。死ぬことないじゃない」
 思わず、少尉の頬に涙が伝う。この戦いで、本当の敵は何処にいたのだろう。少なくとも今の少尉には答えが見つからなかった。
「何か…ここんとこ泣いてばっかり…。大尉…」
 機体各部のエラーがモニターを埋め尽くし視界が赤くなっていく中、少尉はマラサイを探した。

59話 形影相同
0941◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:26:48.85ID:/Z+V/y3V0
「周辺に敵は居ないな!?」
「はい!いつでも出れます!」
 グレッチ艦長の呼び掛けに、グレコ軍曹も必死で応えた。彼女もよく頑張ってくれている。
 追撃に出たMS隊以外の回収が済み、ワーウィック大尉達を追ってシェルターから出港するところだった。
「しかし…まさか上層部が逃げ出すとはな。敵ながら現場の兵が不憫だ」
 傍でロングホーン大佐が腕を組んでいる。敵の襲撃時に彼がMSで出ると言い出した時は必死で止めた。血気盛んな男だとはわかっていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
0942◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:27:16.04ID:/Z+V/y3V0
 出港した先に広がっていたのは、激しい戦闘の跡だった。残骸ばかりで生存者は見当たらない。
「必死こいて探せ!まだ大尉もゲイルちゃんも戻ってねぇんだ!」
 グレコ軍曹達に通信で呼び掛けさせながら、艦長自身も艦橋の窓に貼り付いた。動いている機体があればそれだけでわかるのだが、まるで墓場の様に静まり返っている。
「何処行った…?何処にいるんだよ…」
 目頭が熱くなるのを感じながら何度も見渡す。スクワイヤ少尉のことはまるで自分の娘の様に思っていた。大尉と一緒にいた時は思わず怒ってしまったが、内心今の彼なら任せてもいいと思っていた。その彼も見当たらない。
「状況は!?大尉達はまだ戻ってないんですか!?」
 勢いよく扉を開けて入ってきたのはフジ中尉だった。彼も負傷しているように見える。
「わからねぇ…何処にもいないんだよ…」
 艦長は帽子を深く被って呟いた。
「そんな筈ないでしょう!?私も出ます!見つからない筈がない!」
 フジ中尉は再びブリッジから駆け出していった。
0943◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:27:45.99ID:/Z+V/y3V0
 艦長の落とした肩をロングホーン大佐が叩く。
「艦長、そろそろ増援も来る。彼らが来てからの捜索というのは…」
「何言ってんです!?もし今!あいつらが怪我でもして助けを待ってたら!誰が助けるってんですかい!?」
 目を見開き、思わず艦長は大佐に怒鳴った。ハッと我に返り血の気が引いた。もうこれで今までのゴマすりも何もかも無に帰った。
「艦長…」
「…も、申し訳…」
 ロングホーン大佐の体格の良さが際立って感じる。殴られるのかと思い目を瞑った。が、彼は踵を返した。
「私もMSで捜索に出る。戦闘ではないぞ…文句はあるまい?」
「へ…?いや、そりゃしかし」
「負傷兵の気持ちも考えず、挙げ句艦長にも怒鳴られてしまった。これでは示しもつくまいよ。なあ?」
「…」
 ズレた帽子もそのままに、大佐を見送ることしか出来なかった。

 その後も捜索は続いたが、一向に彼らは見つからない。余りに状況が酷く、現場での捜索も難航していた。
『艦長、この辺りの区画には居ないようだ』
 ロングホーン大佐もフジ中尉以下動けるパイロットと共に捜索に出て暫く経った。
「そろそろ増援も到着しますな…。結局見つからずじまいか」
 グレッチ艦長も相変わらず艦橋から目視で動きがないか探り続けていたが、成果はない。
「艦長!」
 グレコ軍曹が、これまでにないような大声を出した。驚きのあまり、思わず飛び上がる。
「びっくりさせんな!どうした!?」
「それが…」
 艦長の方を振り返ったグレコ軍曹が珍しく涙を流している。不吉な予感も感じつつ、彼女の見ていたモニターに駆け寄る。
0944◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:28:39.83ID:/Z+V/y3V0
『おーい』
 そこには、見るからにくたびれたスクワイヤ少尉とワーウィック大尉の姿があった。ガンダムのコックピットの中の様だ。
「お前ら…!無事か!今何処だ!?」
『座標を今送ります。大尉を回収するまでは良かったんですけど…いやー、ガンダムがガス欠起こしちゃって。駆動系も言う事聞かないから身動き取れなくなっちゃったんですよ。ってか通信機器も壊れかけ…やっと繋がったけど』
 少尉は何でもないことの様に笑う。
「お前…!下手したら置き去りになってたぞ!?」
 涙と鼻水が止まらない。生きていてくれて良かった。
『うわっ、ちょっと、艦長汚い…』
「何とでも言え!…ああ…良かった…良かった…」
 ひと目を憚らずに泣きじゃくった。他のクルー達も鼻をすすったり笑い合ったりしている。
「艦長、ポイントを確認しました!」
 グレコ軍曹が元気に言う。
「おう!軍曹、その調子で頼むぜ!…大佐、そこから向かえますか?」
『無論だ。もう少しそこで待っているがいい』
 身体中の力が抜けた艦長は、思わず尻餅をついた。やっと、コンペイトウを巡る長い戦いが終わったのだ。
0945◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:29:08.88ID:/Z+V/y3V0
 ボロボロのガンダムを回収し、時同じくして到着した増援の艦隊と合流する。もう少し早く来てくれれば救えた命もあっただろう。しかし、これでもロングホーン大佐が手回ししてくれた結果だ。本来ならもっと遅れていたと考えれば、これで手を打つより他無かった。
 現場の後処理は到着した部隊に任せて、アイリッシュの面々には暫しの休養が言い渡された。合流部隊との擦り合わせがあるロングホーン大佐を拠点に残し、アイリッシュはコンペイトウの別ドックへと回った。
 最後のシェルター攻防戦でかなりの損傷を負ったこの艦も、そろそろ修繕しなければならない。
「ここは任せる」
 ブリッジをクルー達に預けると、艦長は医務室へと小走りで向かった。
「あ、艦長」
 スクワイヤ少尉の気が抜けた声がした方を見ると、ベッドに寝ているパイロット達を見つけた。暇そうに欠伸をする少尉と、本を読んでいた様子のフジ中尉。大尉が1番重症な様で今も眠っているが、後の2人も安静にしていなければならないと聞いている。
「やっと顔を出せた。お前ら大丈夫か?」
「大丈夫に見えます?」
「少なくともゲイルちゃんは大丈夫そうだな」
 そう言われて少尉が露骨にぶすくれる。艦長にとっては、いつものやり取りを出来ることが何より嬉しかった。
「大尉も気が張っていた様で…ぐっすり寝てますよ」
 中尉が微笑む。彼がいなければスクワイヤ少尉はガンダムの元まで辿り着けなかったと聞いていた。中尉のネモは別部隊が今頃回収してくれていることだろう。
「そういう中尉も安静にしてねぇと駄目だろ?本なんか読んでねぇで寝てろ」
「これはまた酷い言い草ですね。せめて頭くらいは動かしていないと」
「動かし過ぎだろうよ、中尉の場合は」
 艦長は苦笑いした。やれやれといった様子で中尉は本を閉じた。
0946◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:29:34.91ID:/Z+V/y3V0
「…艦長ですか」
 大尉が目を覚ました。
「おお、騒がしかったか?すまんな」
「いえいえ、十分に寝ました」
「お前らはほんと落ち着きがねぇな。こんな時くらいゆっくりしてりゃ良いのによ」
「艦長が1番煩いでしょ、どう考えても」
「何だと?」
 少尉に噛み付くと、別の患者を世話していた医師が口元に指を立てた。艦長は申し訳なくなってシュンとした。
「…ほら、怒られた」
 少尉が意地悪く笑う。
「そんなことよりよ、お前らにとりあえず報告をと思ってな」
 艦長は少尉のベッドに腰掛けた。
「今回の作戦でコンペイトウが完全に落ちたぜ。俺たちの勝ちだ。…何だ?喜べよ」
 3人とも浮かない顔をしている。
「…勝ったのは良いんですけど。私達…何と戦ってるんだろうなって思っちゃって」
「まあ…そうだよなぁ」
 少尉の言葉は、今までよりも重く感じた。実際に彼女らは向かってくる敵と命のやり取りを重ねて、敵を殺す実感を伴いながら常に前線にいたのだ。
 掛ける言葉が見つからず、艦長は白い天井を仰いだ。

60話 天井
0947◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:30:23.01ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉は自室で目を覚ました。比較的軽傷だった彼女とフジ中尉はワーウィック大尉よりひと足早く回復後、暫しの休息を許されていた。ベッドから起き上がり、のそのそと着替える。昨夜に聞いたコンペイトウの近況を思い出していた。
 コンペイトウ制圧後、エゥーゴの部隊は戦闘で半壊した基地の整備を進めていた。基地に残されていた少数の捕虜を受け入れつつ、拠点の調査や捕虜の証言などで基地の役割の全容が見えてきていた。
 ロングホーン大佐達の読み通り、ティターンズは大量破壊兵器…コロニーレーザーの建造に着手していた。コンペイトウはその資源の加工・中継なども担っていた様だ。しかし既に粗方の作業は終えていたらしく、拠点としての役目を一定終えた後だったことが伺える。
「んー…」
 背伸びをして制服の皺を伸ばす。休息と急に言われても何をしたら良いかわからない少尉は、とりあえずブリッジへと向かった。
0948◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:30:47.14ID:/Z+V/y3V0
「おう!お前らは休んでて良いんだぞ?」
 腕組みしたままグレッチ艦長が振り返った。
「そんな事言われても、こんな場所じゃバカンスって気分でも無いし。…少し痩せました?」
「おっ、そうかな?」
 艦長が少し嬉しそうに腹をさする。多分飲酒の量が減っているのだろう。酔っている暇もなかったか、酔えなくて飲むのを辞めたのか。
「まあ…まだ飛び出てますけどね、そのお腹」
「お前とは胃袋が違うんだ、胃袋が」
 艦長はそういってさすっていた腹をポンと叩いてみせた。
「ま…後で教えようと思ってたんだがな。…キリマンジャロ、落としたみたいだぜ」
「へえ。じゃあ地上の大きな拠点はひと通り攻略出来たんですね…」
「ダカールの議会がまだ残ってる。軍事施設の掃討はカラバに任せられる規模になってきたみたいだけどな」
 少し前まではティターンズの天下だった地球も、勢力図が大きく塗り替えられてきた。ジャブロー攻略に始まり、それこそニューギニア基地の攻略も大きな転機になったはずだ。
「…艦長」
「どうした?」
「ニューギニア基地攻略の話…いや、私の知りたい事…何か知ってます?」
「…」
 艦長が押し黙った。心当たりのある様子に見えた。
「私…」
「…あー…疲れた!軍曹、ちょっと久々にサボってくるわ」
「え、でもロングホーン大佐が…」
 グレコ軍曹がおどおどと慌てる。
「適当に話合わせといてくれ!…付き合えやゲイルちゃん」
 呆れているグレコ軍曹に苦笑いしてみせつつ、少尉は黙って艦長についていった。
0949◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/23(木) 23:31:17.88ID:/Z+V/y3V0
 艦長の自室前までやってきた。
「お前、俺の部屋来るの初めてだなそういや」
 そう言いながら扉を開けた艦長は、どうぞといった風に手で部屋へと促した。
「へー、意外と片付いてるもんですね」
 少尉が部屋へ足を踏み入れると、小綺麗な空間が広がっていた。見るからに高そうなオーディオやウィスキーのボトルが目に入る。月面でのゴタゴタの中で積み込んだと思うと、力の入れる場所を幾らか間違えている気もしないではないが。
「まあ適当に座れ。…水でいいか?」
「コーラとかないんですか?」
「オーケー、水でいいな」
「聞く意味ありました?」
「生憎切らしててな」
 近くにあったスツールに腰掛けつつ、艦長からコップを受け取る。
「で、ニューギニア基地の話だっけか。俺も当然現場にいた訳じゃないが…何故今更そんな事を気にしてるんだ?」
 横並びにグレッチ艦長も腰掛けた。
「…私、まどろっこしいいい方は性に合いません。その…艦長ならヴォロ・アイバニーズのこと…」
「何処で聞いた?」
 珍しく艦長の反応は早かった。声もいつもより幾らか落ち着いて聞こえる。
「コンペイトウで…成り行きですよ」
「成り行き…まあ、そういうこともあるのかね」
 立ち上がった艦長は、自分のグラスを注いだ。
「…ここから先、お互いに隠しっこは無しだぜ」
 片手にグラスを持ち、片手で少尉を指差しながら艦長が眉をひそめた。水を口に運びながら、少尉は次の言葉を待つ。
「一年戦争終盤だったかな。ゲイルちゃんの親父さんには世話になった事があってな…。あれはそれこそコンペイトウ、いやソロモンで前線にいた時の話だ」

61話 成り行き
0951◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/27(月) 00:04:25.76ID:xPbph6ya0
 いつかこんな日が来るのだろうとは思っていた。グレッチ艦長は軽く溜息をついた。
「先にひとつ言っとくが、お前の親父さんは確かにティターンズだった。だが、だからって悪人だった訳じゃあない。寧ろ出来た人だった…怖いくらい」
 スクワイヤ少尉は、手に持った水に映る自らの顔を見つめている。
「昔の話になるが、俺は当時イケイケのバリバリだった…」
 それを聞いた少尉が笑って鼻をこする。艦長としては少しでも気を楽にして聞いてほしかった。実際には、当時の艦長は今よりももっと気弱だったものだ。
「そんな俺も、戦艦が沈むとなればどうしようもなくてな。ソロモンでの戦いで乗艦がやられた。だが…当時の上官は退くことを良しとしなかった」
 口にしながらその時のことを思い返す。
0952◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/27(月) 00:05:03.94ID:xPbph6ya0
 一年戦争において、ソロモン戦は敗北の許されないものだった。グラナダを叩くにしろア・バオア・クーを叩くにしろ、ソロモンは絶対に抜かねばならない。そのプレッシャーもあったのだろうが、それでも艦は沈む時には沈むのだ。
 ましてジオンの巨大MAなどと交戦になれば、簡単に基地を攻略など出来はしない。メガ粒子砲を艦体に受け、いよいよとなった当時の上官の焦りと恐怖で歪んだ顔を思い出す。
「…クルーも道連れに玉砕なんて訳にいかねぇ。当時副官だった俺は脱出を提言したよ。上官はおかしくなっちまって、あろうことか俺に銃を向けやがった…。俺が命令を聞けないと言ったその時さ」
 イカれた上官に撃たれるのが先か、艦が沈むのが先か。いずれにせよ死を覚悟したその時、全身が血で塗れた。
「…上官はその場で撃ち殺された。ヴォロ・アイバニーズ…お前の親父さんにな。同じ艦に乗ってたんだ。あっちはパイロットだった。
 艦の被弾時に丁度補給へ戻ってきていて、ブリッジのゴタゴタを聞きつけて来てみたら…俺を撃とうとしてる上官の姿が目に入ったってな訳だ」
 少尉は何も言わず、またコップを覗き込んでいる。何を考えているのか窺い知ることは出来ない。艦長はそのまま話を続ける。
「上官を殺すなり、俺に向かって『あんたが1番階級が高い。指示をくれ』なんて言うからよ。そらもうクルー連れて皆で一目散に逃げ出した。おかげで皆助かったんだ」
 艦が沈んでしまえば、証拠も一緒に消える。わざわざあの上官の事を証言する様なクルーも居なかった。
0953◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/27(月) 00:05:28.59ID:xPbph6ya0
「そんでま…彼とは終戦後も多少交流があったもんでな。…ほんと言うと、ゲイルちゃんがまだガキの頃に何度か会ったりもしてるんだぜ」
「うそん」
 顔を上げた少尉が、当時のまだ子供だった頃の彼女と重なる。丁度思春期真っ只中で父親と上手くいっていなかったのか、その父親が連れてきたグレッチ艦長とも殆ど顔すら合わせようとしなかったのを憶えている。
「デラーズ紛争も終わったあたりの頃だったな。長いこと連絡を取ってなかったら、久々にあっちから寄越してきてよ。…自分の身に何かあれば娘を頼むってさ。最初俺は何の事だかさっぱりわからなかった」
「…それってつまり、ティターンズに入るからってこと?」
「そういうことだった。俺がティターンズに入る様な柄じゃない事はあっちも知ってたからな。同じ連邦とはいえ、詳しいことは伏せたんだろうよ」
 彼自身、娘が軍に入るとは思っていなかったのだろう。あの手この手で護ろうとしていた。その為に、時には汚い仕事もやった筈だ。気付けば…連絡など取れない様なところへ逝ってしまった。
0954◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/27(月) 00:06:54.25ID:xPbph6ya0
「親父さん…俺に相談出来るのはティターンズに入る前が最後だとわかってたんだろうな。なし崩し的に俺はエゥーゴに入っちまったし。結果的にはそのおかげで上手く行ったけどよ」
「じゃあ…私がいつまでも哨戒任務に就かされてたのは、父さんと艦長のせいってことですか…?」
「まあ…そうだな」
 少尉は何かを言いかけてすぐ口を閉じた。言わんとすることは艦長にも痛いほどわかる。
「ゲイルちゃんの為だった。とにかく死んでほしくなかったんだよ…親父さんは」
「それで自分は死んだっていうんですか!?」
 艦長を遮り少尉が立ち上がった。コップを持つ手が小さく震えていた。
「落ち着け。…続けるぞ?」
 少尉に背を向けるようにして艦長は窓際へ行った。
「この事を知っているのは俺と…ロングホーン大佐だけだ。ティターンズの将校の娘がエゥーゴにいるなんて知れたら、過激なやつが何をするかわからん。とはいえ…この状況下で戦力を遊ばせておくわけにもいかなくなってきた。大佐が最大限に手回しした結果が…」
「マンドラゴラですか」
 少尉が俯いた。艦長は彼女自身の力量もガンダムを与えられた理由の一つだと思っているが、彼女はそうは考えていない様子だった。
0955◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/27(月) 00:07:36.95ID:xPbph6ya0
「まあ何にせよ、ゲイルちゃんの活躍で俺達はここまで来れた。もう俺達が守ってやらなくたって…お前はやっていける」
 そういって艦長は少尉を見つめた。
「そんなの…身勝手ですよ…」
 見つめ返してきた少尉の目には、哀しみや憤りが入り混じっていた。背けたくなる気持ちを抑え、じっと見つめる。
「私のこれまでは…私自身の意志で決めてきたと思ってました。でも…」
 彼女が肩を落とす。小さな身体が更に小さく見えた。
「お前はお前だ。父親が誰だろうが、何に乗っていようが、お前はお前なんだ」
「だったら何で父の事を隠していたんです!?何故ガンダムなんか寄越したんです!?」
 少尉が半ば叫ぶ様に吠えた。
「ゲイルちゃん…」
 肩に触れようとした手を振り払われる。
「…許してくれとは言わない。ただ、少しでも知ってしまったなら、全てを誤解なく知っていてほしかったんだ。伝えるのが遅くなって…済まなかった」
 彼女が知ってしまった以上、今更何かを隠すことは出来ない。艦長は自分のデスクから一束の資料を引っ張り出した。
「…これに、お前の親父さんの事が書いてある。俺が掻き集めた全てだ…持っていくといい」
 目を合わせることもなく、少尉はそれを奪い取る様に受け取る。
「…失礼します」
 去っていく彼女の目には涙が光っていた。
「…アイバニーズ。お前の娘は今日も元気だぜ…。なあに、大丈夫だ。強い子に育ってる」
 独り取り残された自室で、艦長はグラスを空けた。

62話 いつかこんな日が
0956◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/27(月) 00:12:35.71ID:xPbph6ya0
 スクワイヤ少尉はひたすら走った。何処に行くでもなくただ走った。流れる涙も拭かず、ぶつかる肩も気に留めなかった。
 父は敵でありながらずっと見守ってくれていたのだろう。それなのに自分はそんな事も知らずにいた。ただ自惚れ、玩具を与えられて喜ぶ子供の様にガンダムに乗っていた。そして父は、少尉も知らぬ所で独り死んでいったというのか。

「はあ…はあ…」
 息が切れ立ち止まった場所は格納庫だった。目の前には、傷だらけのガンダムが佇んでいた。
「お前も…私と一緒か」
 呟いて、コックピットハッチを開く。すっかり乗り慣れたシートに彼女はうずくまった。生死を共にする覚悟で一緒に戦ってきた機体には、長年連れ添った家族の様な気持ちさえ湧いてくる。シートが暖かく少尉を包んだ。
 いわゆるガンダム開発計画の末裔であるマンドラゴラは、本来ならばあってはならない機体だった。エゥーゴにいてはならない人間だった少尉が乗るには、おあつらえ向きだったのかもしれない。鼻つまみ者同士、気が合うわけだ。少尉は自嘲気味に鼻で笑った。
「…」
 艦長から受け取った資料に目をやる。父の全てがここにあると言っていた。鼻をすすりながら手に取ると、ページをめくっていった。
0957◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/27(月) 00:19:51.58ID:0v0DPqXX0
なんか連投規制掛かりました…笑
変なとこで切れてますが1日お待ちください…
0959◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/28(火) 00:25:39.26ID:m1HvhbmY0
 艦長の言う通り、一年戦争時はパイロットとして戦った様だ。終戦後は残党の拠点を虱潰しにまわり、いつしか特務部隊の隊長として任務をこなす様になったことがわかった。そして、ティターンズからの勧誘。そこから先の資料は、黒塗りや切り抜きが急に増えた。
 読める範囲で目を通す限り、東南アジア地域のエゥーゴ・カラバを追う任務についていた様だ。
「これって…」
 エゥーゴ側の資料と、ティターンズ側のものと思われる資料が入り混じっている。父が追っていた部隊というのは、ガルダ級とその戦力だった。そこにあった名に、ページをめくる手が思わず止まる
「カラバに合流していたエゥーゴの構成員…ワーウィック大尉とアトリエ…中尉」
 彼らは父と交戦していた様だ。偶然とはいえ、その事実に少尉は震えた。嫌な予感がする。しかしここで資料を閉じることはどうしても出来なかった。
 そして、その予感は的中する。ニューギニア基地攻略作戦。ここで父の情報が途切れる。最後まで戦っていたことだけはわかったが、父が戦った最後の相手は…試作機のマラサイとガンダムだった。
「そんなことってあるの…?いや、でも…」
 父を殺したのはワーウィック大尉なのか。或いはアトリエ大尉なのか。しかし、この資料にどれ程の信憑性があるのかもわからない。
「…本人に聞けば」
 それがもし事実なら、あまりにも酷だった。自分の愛する人が、父を殺めたかもしれないのだ。戦争で敵味方に別れている以上、仕方のない事ではある。だとしても、それが事実なら少尉はどうすればいいのか。洗いざらい話すよう問い詰めるべきなのか。或いは後ろから撃てばいいのか。どちらも少尉に出来ることではなかった。
 恐らく、大尉はこの事を知らないのだろう。艦長も話してはいないだろうし、大尉がこの事実を知った上で接してくれていたとは流石に思えない。
0960◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/28(火) 00:26:26.50ID:m1HvhbmY0
 しかし疑問も残る。何故ロングホーン大佐とグレッチ艦長は、この事を知りながら同じ部隊に2人を配置したのか。
「…ああ、そういうことか」
 あくまでも推測だが、万が一少尉がティターンズと繋がりがあった場合に対処できる様、特務部隊と交戦経験のある大尉を呼んだのだ。大尉の着任をまともに把握していない風だったグレッチ艦長はともかく、大佐の様な立場の人間ならその位は考えるだろう。
 そして、もし何かあった時に揉み消せる機体…マンドラゴラを寄越したのだとすれば辻褄も合う。
 しかし、それ程ティターンズとの内通を警戒していたのなら大尉に話していてもおかしくないのではないか。少尉は疑心暗鬼に陥っていた。
0961◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/28(火) 00:27:12.05ID:m1HvhbmY0
「ここに居たんだな…。大丈夫か?」
 ハッチの外の声に驚き、少尉は思わず顔を上げた。フジ中尉だった。
「ああ…中尉ですか…」
 資料をシートに隠してハッチを開けた。
「大尉じゃなくて悪かったな。廊下で声を掛けても無視して走っていったから、何事かと」
 気づかなかった。それどころではなかったのだが、少し悪いことをした。
「何でもないですよ。ただ、ガンダムが気になって」
「ふん、それならいい。無理に話す必要はあるまいよ」
 察したのか、中尉はそれ以上深く聞かなかった。
「…あ、そういえばあのデータ…」
「あれか?ちゃんとロード出来たみたいで何よりだ。役に立ったろう?」
「無かったら危なかったかもしれません。にしてもあのメッセージ何だったんです?意味わかんない」
「相変わらずだな。少しは言葉や歴史を学んだらどうなんだ」
「いいから教えてくださいよ」
 中尉は意地悪く笑った。

「形影相同…。影の形というものは、身体と相同じ様に動くだろう?転じて、心が正しく動いたならば、物事もその様に動くだろうと言うことだ」
「ふーん、なるほど」
 父は、間違った行いをしたのだろうか。娘の為に誤った道を歩み、その結果死んだというのだろうか。ならばそうして残された少尉は、過ちの産物なのか。
「…私達は、正しいんでしょうか」
 少し驚いた様に中尉が眉を動かした。
「誰にも正しいことなんてわからん。だが、正しいと思った事をやらねば何も変わらん。影は、私達が動かなければ動かないだろう?」
「中尉にもわからないことってあるんですね」
「わからんから学ぶんだ。少尉も本くらい読めばいい」
 そういって、持っていた本で軽く少尉の頭を叩いた。
「…何かあればいつでも呼べよ」
「ありがとうございます」
 彼が去っていった後も、少尉はしばらくシートにうずくまっていた。

63話 正しいこと
0962◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/28(火) 00:27:53.10ID:m1HvhbmY0
 艦長との一件の後、少しの時間が経った。スクワイヤ少尉達はコンペイトウでの休息を終え、アイリッシュもまたコンペイトウを後にすることとなった。アンマンに戻り、グラナダのアナハイムチームによるガンダム改修や新型機の受領を行う為だった。
 小さくなっていた月も随分大きくなり、長い戦いがひとまず終わったのだという実感も少し感じられる。そんな月をしばらく眺めた後、少尉は自室を出た。
 ワーウィック大尉の容態もすっかり快方に向かい、そろそろ彼も自室での待機を許される頃合いだ。スクワイヤ少尉は大尉を手伝う為、医務室へと向かった。

「ああ、済まないな少尉」
 大尉は丁度身支度を始めているところだった。
「言っても病み上がりですもん。手伝いますよ」
「少尉こそ…ここのところ、あまり元気がないみたいだが。…大丈夫か?」
 あの一件以来、艦長ともギクシャクしたままだった。ワーウィック大尉にもどう接すればいいのか測りかねているところがある。
「別に…。さ、行きましょ」
 大尉についていく形で医務室を後にする。2人で廊下を歩きながら、何か話題がないか探した。
「…そういえば、月に戻ったら新型を受領するとかなんとか。大尉が乗るんでしょ?」
「そうなるのかな。グラナダの工廠で作ったらしいが…ジオン系の機体なら扱いも楽だ」
 大尉はいつもと変わりない。それはそうだ。考えてみれば、変わってしまったのは自分自身の心の持ちようだけだった。
「少尉のマンドラゴラも改修するんだろ?」
「らしいです。私は元通り直してくれればそれだけで全然良いんですけど、アナハイム的にはもっとデータが取れるから改良させてくれって」
「ま、少尉とガンダムはもうワンセットみたいなものだからな。少尉の活躍を考えれば、彼らが張り切るのも無理はないさ」
 これまでの少尉なら素直に喜んだ。しかし今の少尉には、大尉の何気ない言葉すら何処まで信じられるのか確証がなかった。
「…大尉」
 思わず立ち止まる。やはり、もう今までと同じでは居られない。
「どうした?やっぱり何か変だぞ」
 大尉が覗き込むようにして心配する。その彼の気遣いすら痛かった。
「…聞きたいことがあるんです。その…色々」
0963◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/28(火) 00:28:24.25ID:m1HvhbmY0
「まあ、そうだよな。構わんよ。…立ち話もなんだし、取り敢えず荷物を置いてきていいか?」
 そういって大尉は荷物を受け取り、そそくさと自室へ入っていく。少尉はつい彼の袖を掴んだ。
「私…」
 誰を信じたらいいのかわからなかった。そのことを伝える術も、無かった。
「…入るか?散らかってるが…」
 少尉は頷いた。彼は優しく部屋へ迎え入れてくれた。
 病室にしばらくいたせいか、部屋は少し埃っぽい。物はそんなに多くもないが、生活感のある部屋だった。大尉がバタバタと衣服を片付ける。
「すまんな、普段はもうちょっと片付いてるんだが…」
 彼は苦笑いしながら、まとめた衣類を籠に投げ込む。そんな大尉を眺めていると、少尉も少し気持ちが落ち着いた。ふと傍の棚に目をやる。何処かの格納庫で撮影したのだろうか、部隊の集合写真が目に入った。

「これって」
「ああ、一緒に戦ったカラバのメンバーだよ。ここに来る前に撮ったやつでな。皆元気だといいが」
 少尉はその写真を手に取った。カラバのメンバーと共に、ワーウィック大尉と肩を組んでいるアトリエ大尉。その傍には戦場に不似合いな女の子が満面の笑みで写っていた。
「この子、誰かの子供とか?」
「いや、ガルダ級に潜り込んだ迷子だ」
 ひと通り片付けの済んだ大尉がベッドに腰掛ける。
「迷子…。ガルダ級ってザルな警備してるんですね」
 思わず少尉は笑った。
「見つけた時は私も正直目を疑ったよ。しかしまあ不思議なものでな…彼女はいわゆるニュータイプというか…」
「そういうことなら仕方ないですね」
「いやいや、本当に。研究所に居た娘なんだ」
「へぇ…」
 ショートヘアの活発そうな子だ。写真でもアトリエ大尉にパンチを食らわしている。
「…おっと、すまない。ついついお喋りになってしまうな。そんな事より、少尉の聞きたい話があるだろ?…こないだの返事だよな」
 手遊びしながら、大尉も少し落ち着かない様子で言った。
「それは最後に聞かせてください。…大尉が地球で戦ってた時の話も聞きたかったんです」
 そういって少尉もベッドに腰掛けた。
0964◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/28(火) 00:30:21.92ID:m1HvhbmY0
 大尉は色んな話を聞かせてくれた。アトリエ大尉との出会い、先程の少女…メアリーのこと。カラバの仲間の話や、ジオン残党との共同作戦も興味深い話だった。今更だが、ワーウィック大尉がどんな道程を辿ってきたのか知ることが出来たのも少尉にとって嬉しいことではある。
 しかし、やはり1番聞きたいのは交戦したティターンズのことだった。
「ずっと同じ部隊と戦ってたんですね」
「ティターンズ自体特殊部隊の延長線みたいなものだが、交戦していた部隊はその中でも更に特務部隊と呼ばれていたらしい」
 やはり父の小隊だったのだろう。少なくともあの資料の裏付けになった。
「結局、彼らとはニューギニア基地の攻略まで戦うことになってしまった。途中でガルダ級が沈みかけたりもしたが」
「…よほど手強かったんですね」
「正直、アレキサンドリアの試験部隊よりも連中の方が練度は高かったな。特に隊長機は別格だった」
0965◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/28(火) 00:34:28.69ID:m1HvhbmY0
なんですかねこれ…また連投規制…。
めちゃめちゃいいとこですが、この感じだと1日1話が限界かもです…。
0967◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 01:02:49.42ID:c3b+Gpyy0
 それから大尉の話はニューギニア基地攻略作戦へと移っていく。
「私とアトリエ大尉は、カラバに地上部隊を任せて基地へと侵攻した。特務部隊の連中をどうにか退けて司令部を目指したんだが、我々が到達した頃にはもう上層部の連中は壊滅した後だった」
「先を越された?」
「いや、仲間割れみたいなものだな。待ち構えていたのは、ひと仕事終えた特務部隊の隊長だったよ」
 それも父の戦いだったのだろう。資料にも、エゥーゴによる占拠時にはニューギニア基地におけるティターンズ首脳部は壊滅した後だったと記されていた。

 大尉はごろりとベッドに寝転がって天井を見上げた。
「あの隊長のことは…忘れられないだろうな」
「…何故?」
 遠い目をした大尉を見つめながら、少尉は訊いた。
「まず何より強かった。もしまたあんな敵と戦うことがあるなら、今度こそ死ぬな」
 大尉はそういいながら顔の火傷を撫でた。
「その火傷…その時の傷なんですね」
「これで済んだのは奇跡だ。私とアトリエ大尉のガンダムの2人掛かりで、たった1機のジム・クゥエルに気圧されていた」
「ジム・クゥエルって…旧式も旧式じゃないですか」
 ただただ驚いた。ジム・クゥエルは性能的にGM2とさして変わらない筈だ。多少カスタムされていたとしても、アトリエ大尉の駆るガンダムとワーウィック大尉の試作型マラサイを同時に相手取るのは尋常な事ではない。まして優勢に戦うなど可能なのか。
 少なくとも、少尉ならガンダムをもってしても恐らく無理だ。
「それに加えて…短い時間だが話した。私とよく似た男だったよ。彼を乗り越えなければ、私は前に進めないとはっきり感じた」
0968◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 01:04:47.89ID:c3b+Gpyy0
「大尉と似てたんですか?」
 少尉からすれば不思議だった。彼女の知る父の姿と大尉の姿はあまり重なる部分は無い。父は口数も少なく、只々厳格な男だった。
「かつての自分と話しているようだった。憎しみに囚われて、独りで戦うことでしか存在を証明出来なかった…。人に、自分の何かを託すのは難しいことだからな」
 それを聞いて、ようやく少尉は腑に落ちた。連邦に所属している事を周囲に隠す為軍服姿も見せず、我が子にすら己を見せなかったのが父だ。それが嫌いでもあった。
「…だが、俺はアトリエ大尉を始めとした仲間に助けられた。やつを倒すにしても私一人では無理だったが、皆の協力で戦えた。それが…生死を分けた大きな差だったんだろうな」
 大尉らしい答えだった。だからこそグロムリンとの戦いでも、身を挺して少尉を守ってくれたのだろう。彼が仲間に助けられたのと同じ様に。

「大尉って、優しいんですね」
「ん?どうした急に」
 上体を起こした大尉に、少尉は力なく微笑んだ。
「だって殺されかけたわけですよね。傷まで負わされて、生死の境を彷徨って…。そんな風に思えないですよ普通」
 大尉は父に自分を重ねたというが、大尉の戦う原動力はいつしか…憎しみではない何かにすり替わったのだろう。そういう意味では父とは逆だったのかもしれない。
「亡くした人もいる。他所者の私に良くしてくれた当時の艦長は…基地攻略半ばで戦死された。だが、それは敵にとっても同じだ。私も…自分が生き延びる為に、誰かの大切な人の命を奪ってきた」
 その通りだった。不仲ではあったし、結果的には少尉のことを縛っていた父。しかしそれでも父は少尉を守っていたのだ。その父の命を奪ったのは、紛れもなく目の前にいる男だとはっきりしてしまった。
 何かを人に託すのは難しい…。大尉のその言葉も、艦長に少尉を託した父と重なる部分がある。それが余計に苦しさを増した。

 父を殺した男。それと同時に…彼は彼女の愛する男でもあった。

64話 火傷
0969◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 01:06:21.53ID:c3b+Gpyy0
また変な切れ方したら嫌なのでここで切ります!
第2章も長いこと書いてきましたが、次でラストです。
多分明日あたり投下するので、お楽しみに…!
0971◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 16:54:35.32ID:mYNlLmBN0
「私も…聞いてほしいことがあって」
 スクワイヤ少尉は、意を決して切り出した。
「ああ、聞こう」
 ワーウィック大尉は上体だけ起こしたまま次の言葉を待っていた。
「…コンペイトウでの戦いがあって…正直、誰が味方で誰が敵なのかわからなくなったんです」
 自分の手をもう片方の手で包みながら言った。
「信じられるのは自分だけなんだって思って…でも…自分すら少し怪しくて…」
 ウィード少佐を始め、敵の戦う理由を現実として受け入れた時、本当に彼らが討つべき存在だとは思えなくなっていた。
 味方ですらそうだ。身を案じてくれていた父はティターンズだったし、信頼関係を築いてきたグレッチ艦長は真実を隠していた。今となっては、共に戦ってきたフジ中尉に自身のことを話して受け入れてもらえる自信も無い。ジオンとの折り合いをつけたばかりの中尉にはあまりに酷だ。
 そして何より、ワーウィック大尉が父を殺したという事実も知った。その彼は、自身よりも仲間を信じると言う。何が正しく、何が間違っているのか。今の少尉にはわからなくなっていた。
0972◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 16:55:05.63ID:mYNlLmBN0
「…それでも私は、少尉を信じるよ」
 暫しの静寂の後、ワーウィック大尉が言った。
「…どうして…?」
 こみ上げてくるものを抑えきれず、嗚咽を漏らす。大尉は、彼を信じられなくなりつつあった少尉とは真逆の事をいう。
「憶えているかわからんが…私が着任した日、休憩室で話したろ。まだあの頃は何というか…少し危うい感じだった」
 大尉が頭を掻く。少尉も今でも鮮明に思い出せる。ボロボロのサラミス改の中で、どうせ何も変わらないと不貞腐れていたあの頃の自分。
「あれから…ガンダムを受け取ったり、私とフジ中尉が少し揉めたり、敵との交戦があったり…。ほんとに色んな事があった」
 また大尉は寝転がった。少尉は溢れ始めた涙を袖で拭った。今日に至るまでの全ての景色が、感情が、猛スピードで彼女の中を駆け巡る。
「今の少尉は…何というか…素敵だ。鬱屈とした時間を乗り越えて…きっと少尉自身、誰かの為に戦う事ができる。…人の苦しみを知って、それでも尚生きて戦うのは簡単な事じゃない。でも今の少尉ならそれがきっと出来ると思ってる。そんな少尉を…私も守りたい」
 拭っても拭っても、涙が溢れた。ようやく気付いた。きっと少尉は、肯定して欲しかったのだ。生きていていいのだと。死後の世界に思いを馳せなくとも、今ある時間を称賛してくれる存在が欲しかったのだ。
 ただこの瞬間の為に生きてきた気さえした。
「私がもし…誰かを守れなくて…大尉の期待を裏切っても…信じてくれる…?」
「信じるさ」
 涙も言葉も止められない。
「もしも…皆いなくなって…私しかいなくなっても…」
「信じる」
「もし…!私が…あなたに銃を向ける様なことがあっても…」
「…少尉の選択を信じる」
「…うぐ…もう…何でよ…!!」
 堰が壊れたかのように、少尉はわんわん泣いた。身体から何もかもが枯れ落ちてしまうくらい泣いた。
 彼が父を殺したのだとして、それは許せない。しかしもう今の少尉にとって、ワーウィック大尉は心の底から憎める様な相手ではなかった。板挟みにされる苦しみも、ようやく気付けた生きる喜びも…溢れる感情はないまぜになった。今の少尉には、この涙の理由を説明できる術がなかった。
 のそのそと起き上がった大尉が、静かに背中をさすってくれた。
0973◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 16:55:26.42ID:mYNlLmBN0
 それから少尉が落ち着くまで、2人はただ月を眺めていた。
「月、きれいですね」
 鼻をぐずらせながら少尉は言った。
「旧世紀の日本って国で、とある有名な作家がいてな」
「え?またうんちく?」
 少尉は笑った。大尉も笑う。
「『月が綺麗ですね』ってどういう意味だと思う?」
 大尉が言う。
「そのままですよ、きれいだなーって」
「あなたの事が好きですって意味になるんだと。洒落てる」
 それを聞いた少尉は赤く腫れた目で大尉を見つめると、立ち上がり、大尉をベッドに押し倒した。
「私…馬鹿なんで。言葉で言われてもよくわかんないんですけど…。でもまあ、言ったことには責任取らないとですよね?…ねえ、月は綺麗?」
「そうだな…綺麗だ」
 少尉はそのまま大尉に被さる様にして抱きついた。互いの心臓の音が、まるで自分の物のように聞こえる。もっと聞こえる様に、彼の胸に頬を埋め耳を澄ませた。
 今はただ自分達の生だけを感じていたかった。この鼓動と月明かり以外、確かに信じられるものは何処にも無かった。
0974◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 16:55:48.46ID:mYNlLmBN0
 一夜明け、予定より少し遅れつつアイリッシュはアンマン市へ入港した。少し久しぶりの基地には、見慣れた景色が広がっている。補給がひと通り済んだところで、スクワイヤ少尉はブリッジに足を運んだ。
「お、ゲイルちゃんか。調子はどうだ」
「うん…ぼちぼちですかね」
 グレッチ艦長がいつものシートに腰掛けている。少尉はその傍に立った。
「…何かちょっとご機嫌だな?珍しいじゃねぇか」
「艦長とも仲直りしようかなって」
 驚いた様に艦長が少尉を見る。
「私…気にしないことにしたんです。色々。マンドラゴラにも言っちゃってますしね…私は、私の魂を信じるって」

「そうか…魂ねぇ…」
 艦長は口元をニヤリとさせながら、帽子を深く被り直した。
「わかんない事だらけだし、そんなに頭も良くないですけど。これからの自分の事は、今度こそ自分で決めます」
 ブリッジの向こうを眺める少尉の目に、沢山の景色が映り込む。幾何学模様の様に複雑な光が射す。
「…そりゃ、いい心掛けじゃねぇか!」
 艦長が立ち上がり、両手を腰に当てた。
「艦長!何やってるんです!?」
 バタバタとやってきたフジ中尉が眼鏡をかけ直しながら怒っている。
「どうした!」
「いやいや、補給が終わり次第大佐の所に行くようにとあれ程」
「…そうだっけ?」
 艦長がとぼけるのを見て、中尉が更に怒る。
「あなたという人は…!今回の部隊再編がどれだけ重要かわかってらっしゃらないので!?全く、やっとまともになったかと思えば…」
「あーもう、2人で勝手にやってて…」
「おい!逃げんなゲイルちゃん!」
「艦長!まだ話は終わってませんよ!こないだも…」
 問答を続ける2人を置いて、少尉はブリッジを後にした。
0975◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 16:56:31.02ID:mYNlLmBN0
「どうだ?ブリッジはいつも通りか?」
「うん、いつも通り。何だかんだで…ほんと変わんないですよあの人達」
 廊下を歩いていると、ワーウィック大尉も合流した。2人で格納庫へと足早に進む。
「少尉は変わった」
「またその話?大尉は相変わらずですよ!」
「それならいい」
「はいはい」
 談笑しながら向かった格納庫では、新しい機体の周りに人だかりが出来ていた。ここからではよく見えない。
「あ!あれ大尉のやつでしょ!?早く!」
「そんなに慌てなくてもな…おい…」
 呆れながら満更でも無さそうな大尉の手を引く。
 本当に何もかもを気にするのをやめた訳ではない。しこりは今も残ったままだ。だが、いつかはそれも許せる日が来る事を願った。既に失ったものの為に、今ある幸せを失う覚悟は持ち合わせていなかったのかもしれない。
 死への探究心は今も消えない。だが、それ以上に探すべきものを生の中に見つけた。傍に寄り添う死神を手懐けて、今は少しでも生きていたいと思うのだった。

65話(最終話) ねぇ、月は綺麗?
0976◆tyrQWQQxgU 垢版2020/07/29(水) 17:04:02.31ID:mYNlLmBN0
第2章完結です。
ご愛読ありがとうございます。

これから第3章…最終章へと入っていく訳ですが、その前にスピンオフ的な話を4話程投下します。
時系列的にはコンペイトウ攻略作戦後なので、61話〜最終話辺りと平行している感じですね。
これも最終章に繋がる重要なパートになりますので、お楽しみください!

最終章はまだ殆ど構想が出来ていない状態で、しばらく期間が空くかと。
スレッドもぼちぼち埋まりそうなので、スピンオフの後は感想や質問があればお聞かせ願えたらと思っています。

気付いたら1年以上お付き合い頂いてますね…!
引き続きよろしくお願いします!
0977通常の名無しさんの3倍垢版2020/07/31(金) 14:40:59.89ID:L0VueQHU0
乙です!

スクワイヤ少尉...ニュンペーの名前、覚えてくれたんでしょうか(苦笑)
終わりを見ている辺り、ウィード少佐も過去に囚われた人間になってしまいました(泣)
分離式ナギナタを用いた死闘、熱いです!
拡散ビームといい、ニュンペーは隠し腕のついたパラス・アテネを想像すれば良さそうですね(但しミサイル無し)
2連ライフルが無いことで固定の腕部ビームガンが映えるの、良いと思います
ライフルを鈍器にして長短を補うスクワイヤ怖っ!
爆発するイメージあるんですけど、死にたがり経験からその辺の匙加減も分かるといったところでしょうか

遂に明かされるスクワイヤの出自......けどこのやりとりで「アイバニーズ=ティターンズ兵」と知るのは難しくないですか?
ボスニア隊みたいに半ば従わされてる部隊やスードリ隊のような義勇兵、ホンコン特務のように呼ばれる流れもあります

形影相同、フジ中尉ったら分かりにくい言葉を...w
文字通り漢字なのでしょうか、百式や龍飛はある世界観ですし
それとも英語? The heart-shadow will stab the facts!(さっき考えた、現ライダー並感)みたいなw

ウィード、ホント不憫...コロニー落としに携わった業はあるでしょうけど、何も言わずに、独りで...
リディルみたいに生き残った部下もいるのに、目の前が真っ白になっちゃったんでしょうね
さて、アレキサンドリアごと逃げたレインメーカー爺さんと、そろそろ人間やめてそうなソニックの行方は...
ロングホーン大佐まで救援に行ったアイリッシュ隊との対比も印象的です

アイバニーズ......なんでぇ、いい親父だったんじゃないですか >>928で少しdisってごめんちゃい😣💦⤵
>「何故ガンダムなんか寄越したんです!?」
これは、F91、V、Gレコ辺りの親と子を繋ぐガンダムにも通じる心象でしょうね
マンドラゴラはアイバニーズの用意した機体ではありませんが、彼の願いがきっかけになってるわけで...
艦長、結局飲むんかい!(まぁ適度に飲んでた方がアル中は再発しにくいといいますしねw)
しかし辛い中でも資料を読み始めるスクワイヤは強い、こちらも請求書など読まねば...無作法というもの(私事)

マンドラゴラとワーウィックの関係......実質被害妄想ですよね(笑) 艦長・大佐「解せぬ」
いや、こういう暗いところのあった方が共感できる部分もあります
わーっ、もう、大尉の誘い受け! ちゃんと地球いけよ畜生!
月が綺麗ですね、と言いながら月に着陸したカップルはあまりいないと思いますw いい着地点だ!

新しい機体といい改修アイリッシュ(そろそろ艦名が付くのでしょうか?)といい、2.5と3章への期待が高まります!
引き続きよろしくお願いします!!
0978◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/01(土) 23:46:39.74ID:DxKUOfXf0
>>977
いつも感想ありがとうございます!

アイバニーズ=ティターンズ所属という部分はもっとわかりやすく書いても良かったかもしれませんね!どうも読み手書き手が知ってる事の説明は疎かにしがちです…

フジ中尉のアレは漢字に英語でルビ振ってあるくらいのイメージで良いと思います。笑

正直言いますと、ウィードは最初から死ぬ予定でした。残念ながら。
何もないと思っていたスクワイアが色んなものを手に入れていく過程と、充実していると思われたウィードが色んなものを失っていく過程は対比になっています。
その先に何があるのかは、3章でも書けたらなと思ってます。

1章では母と娘の話をしたので、2章では父と娘の話をしたいなと思っていました。メアリーの時は母親側の描写多めだったので、今回は殆ど描写しない手法で書いてます。それぞれ、直接的に護った母親と間接的に護った父親ですね。

ワーウィックとスクワイアの関係ですが、ひとつは前作主人公を弱体化させずに一歩も引かせないという目的がありました。彼がこの局面で引くとは思えませんし。
しかし新しい人物を中心に置きたい思いもあり、どういう関係性にすれば良いか考えた時…いわゆるヒロインの逆バージョンに据えれば丸く収まるなと。笑
彼の前作での成長やアトリエ大尉の強さを描写しつつ、それによってスクワイアの父であり前作ラスボスでもあるアイバニーズの株も上がったかなと思います。
彼らによってスクワイアのキャラクターを補強しつつ、ちゃんと主人公として成長させたいと思っていたので、塩梅が結構難しい部分はありました…ワーウィック目線のパートが一切存在しないのもその関係です。

また、地球をテーマにすることが多いガンダムシリーズで月を舞台にするのも良いなと思っていました。個人的にXも好きですしね。笑
幸いグリプス戦役的にも重要な場所だったので描写しやすかった部分はあります。
地球で生き方を見つけたワーウィックの傍にいるスクワイアが、月で生き方を見つける…そういうのもロマンチックかなと。笑

新しい機体は既に決まってます!笑
過去最高に豪華な面子が揃う最終章になるかと!期待してください!
その前日譚に当たるのがスピンオフだったりしますんで、お楽しみに!
0979◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/01(土) 23:56:05.58ID:DxKUOfXf0
追記ですが、強さ的には

 アイバニーズ
≫アトリエ≧ワーウィック
>ソニック≧ウィード≧スクワイア≧フジ

くらいのつもりです。機体的にはぶっちぎりでマンドラゴラが強いですが、操作性も最悪です。
ニュンペーは量産前提なところもあり、操作性や拡張性が最も高い設定です。レコアさんが完成形のパラス・アテネであそこまでやれてましたし。
なので、組み合わせ的にはやっぱりワーウィック×百式改が2章作中だと1番強いでしょうね。

…いや、名無し×グロムリンが1番強いか。笑
0980通常の名無しさんの3倍垢版2020/08/02(日) 09:23:56.65ID:vxOKlxpp0
おおっ、強さ比乙です!
ソニックはウィードより強い設定なんですね、只の筋肉じゃないと思ってましたが


量産前提のニュンペーは作中のアレキサンドリアに先行配備されるのでしょうか...捨てた女からフィードバックして。
あとソニックが最初に乗ってたガルバルディγも気になりますね。
>>657で説明はありましたが、αとβだけでもかなり違うので若干曖昧なままというか
例えばカラーリングなんてどうなんだろうなー、て思ってました

ウィードのニュンペー→水色
オーブのガルバルα→薄萌黄
ドレイクのガルバルβ→赤紫

と来れば

ソニックのガルバルγ→檸檬色

といったところかな、と
キャラクターが暑苦しい分だけ、色くらい爽やかでいてほしかったのもありますw
0981◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 09:37:10.01ID:c/vKaxZs0
>>980
ソニックは一歩引いてる感じありましたが、彼自身は決して弱くないです。コンペイトウでも実質独りでスクワイア達相手に粘ってますしね。
とはいえ大体ウィードと同じかやや上くらいのイメージです!

ガルバルディ軍団は元デザインから継ぎ接ぎして別物っぽくなってるイメージだったので、詳細の色までは考えてなかったですね笑
単色というよりはほんとツギハギのイメージです。
そうはいっても特に描写も無いので、好きなカラーで読んでもらって良いかなと思います!
0982通常の名無しさんの3倍垢版2020/08/02(日) 11:38:41.81ID:yA8n81MZ0
連投規制は鯖自体が政治板やニュース板の煽りを喰らってるっぽいな
あっちの連投荒らしや煽りは最悪に酷いからな
コロナ関連で何処ぞの国家のバイオテロだとか触れ廻ってるキチガイもいたし

運営が規制かけまくってるんだろう
0983通常の名無しさんの3倍垢版2020/08/02(日) 11:45:10.43ID:vxOKlxpp0
新旧シャア板でもそれくらい働いてくれないかと思うわ

やたらID持ってる(それでいて同じようなことばかり書く)輩もいるけど
運営なら寿命半分とか出さなくても見えるんでしょ?
0984◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 21:22:27.40ID:c/vKaxZs0
>>982
>>983
なるほど、そういう背景が…!!
そういうことなら暫くは連投するの難しいでしょうね…改善されてほしいものですが…
0985◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 23:31:51.36ID:c/vKaxZs0
「おっと…。いやはや、私もトレーニングは好きな方だと思っていたが…敵わんな」
 入室してくるなり、ロングホーン大佐が呆れた様に笑った。
「…いつまでも寝てる訳にはいきませんよ。身体が…なまってしまう…!」
 上半身を剥き出しにして懸垂をしながら、ソニック大尉は応えた。その背中には、自爆時に背に受けた生々しい傷痕が残っていた。

 大尉が意識を取り戻した時、目を開けたその場所はエゥーゴによって占領された基地内の医務室だった。医師の問診では常人ならば死んでいておかしくない高さから落ちていると指摘されたが、その割には軽傷で済んでいる。日々の鍛錬が物を言うとはこのことであろう。
 傷が癒えたのち捕虜として尋問も受けたが、ソニック大尉は潔く全て答えた。事の経緯が真実だとすれば、これ以上ティターンズに恩義を感じることもない。そして何より、失っていたであろう命をロングホーン大佐に拾われた様なものだった。
 今現在は、コンペイトウから移送されてアンマンの月面基地に滞在している。
「それで…意思は固まったかね?」
 壁に寄りかかりながらロングホーン大佐は腕を組んでいた。
「…」
 懸垂をやめ、タオルを手に取り汗を拭う。
「試験部隊は壊滅、アレキサンドリアも最早私の帰りを待ってはいない。それはわかります。しかし…」
「ふむ。…こうして囚われの身になるのは2度目だな」
 大佐が腕を擦りながら笑う。
「あの時はご無礼を」
「構うものか。私が焚き付けた。…あの時の君の大義とやら、今はどうなのかな」
「大義ですか。…確かに口にしましたね」
 地球を在るべき姿に戻す。その考えは今も変わらない。しかしそれ以上に、ウィード少佐やドレイク大尉、オーブ中尉の存在が大きかった。彼女らと共に戦うことに充実を見出していたところはある。
 それを奪ったのはエゥーゴだと思っていたが、結局のところその充実自体がまやかしだったと知る今となっては…もうエゥーゴに対する強い抵抗感も無かった。
「ひとつ気掛かりなのは…エゥーゴに手を貸すということは、かつての仲間と戦うことになる。私に…それが出来るかどうかわかりません」
「よく考えてみろ。エゥーゴもティターンズも、本来ならば同じ地球連邦軍だ。この戦役自体内輪揉めのようなものだぞ」
 大尉は息を吐いた。オーブ中尉が戦線に出てくることはないだろうが、実質的な裏切りになる。それは自身の生き方に背いてはいないか。
「君自身のことだ。君が自分で決めろ。エゥーゴに与するもよし、ティターンズに帰るもよし。この際下野して戦いから距離を置くのもひとつだろう。…だがな」
 ロングホーン大佐がドリンクを渡してくれた。ありがたく受け取る。
「君のような男…私は嫌いではない」
 後ろ手を組みながら、大佐は退室していった。
0986◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 23:32:22.45ID:c/vKaxZs0
 シャワーで汗を流し、連邦軍の標準的な制服を着込む。久しぶりにティターンズ以外の制服だったが、元々着ていたこともあり身体には自然と馴染んだ。
 こうして個室まで与えられているのは破格の待遇と言えた。まるで隊員のひとりの様な扱いだ。大佐からしてみればもうエゥーゴに入れたつもりらしい。しかし、それと同時にいつでも逃げていいと言われているのと同じでもあった。手早く荷物をまとめる。
 特に周囲を気にするでもなく部屋を出た。基地の構造は把握していないが、詳細とまではいかずともおおよその見当はつく。
「ロングホーン大佐か…。変わった男だ」
 大尉は部屋を出ると、小さな荷物を持ってその場を後にした。目下向かうのは、MSが格納されているであろう整備ドックである。
 人の格好や流れを見ながら、整備ドックの方向を探った。今のような状況だと格納庫は人も多いはずだ。メカニックらしきクルーやスーツを着たままのパイロットが出てきた方へと足を運ぶ。

「ここか…」
 大きな扉の先にはドックが広がっていた。慌ただしい人の動きに囲まれ、多数の機体が整備を受けている。
 ソニック大尉は品定めをする様に外周を歩いた。GM2やネモなどの主力量産機、一部にはGMキャノン2の様な型落ち機体も見受けられた。
「…おっと、あんた。ここから先は関係者しか入れないぜ」
 更に先へ進もうとしたところを呼び止められる。柄の悪い金髪の男だった。
「何か証明の類が必要か?それなら…」
「いや、要らねぇ。俺は関係者の顔なら全部覚えてる。だが…あんたの顔は見覚えが無い。帰んな」
 証明書類を出そうとした大尉を男が制した。
「君の知らない人員補充だってあるだろう。書類ならある」
「そんな書類は幾らでも作れる。信用ならねぇ。それに…あんたからは敵の殺気を感じる」
 揉め事を起こすと面倒だが、ここを進めないとなると困る。
0987◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 23:32:47.00ID:c/vKaxZs0
「どうしてもっていうんなら、押し通ってみろよ」
 男が構える。何の確証も無しに突っかかってくるこの男が、不思議と嫌いではなかった。
「血の気の多い連中だな、全く」
「やっぱ余所者だな!?」
 早々に男は殴りかかってきた。大尉はそれを容易く躱すと、先に進んだ。
「おいこら待てこの野郎!」
 更に後ろから殴りかかってきたがそれも躱し、男の腰を抱えるとそのまま担ぎ上げた。
「てめぇ!離せよ!」
「口ほどにもないな。弱い犬ほど何とやらか」
「まじで何なんだよお前…くそ。」
 悪態を突く男の抵抗を意に介さない。子供の様に肩に担いだまま、気を取り直した大尉は先へ歩いた。
「…お前が何者か知らねぇが、ここは通さねぇ!」
 懲りずに男は暴れ続けた。あまりに暴れるので一旦放り投げる。
「私は丸腰だぞ?侵入者かもしれん男相手に随分と手緩いのだな」
「痛ってえ…!そういうお前こそ必死さが感じられねぇな。…もしかしてほんとに関係者なのか?」
 再度立ち上がる男を見ながら、大尉は自分のこれからが馬鹿馬鹿しくなっていた。この男の言う通り、本気でティターンズに戻りたいなどとは思っていないのは自分自身が一番よくわかっていた。
「ふん…。お互いこれでは茶番だな」
「うっせぇ!さっさと引き返せよデカブツ!」
 掴みかかってきた男をヒョイとつまみあげ、再び担ぎ上げて前へと進んだ。やはり男は暴れたが、もう降ろしてやらなかった。
0988◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 23:33:36.72ID:c/vKaxZs0
「来たか。…ん?」
 並ぶ機体と戦艦を前にして、ロングホーン大佐が腕を組んでいた。
「アトリエ大尉…そこで何やってる」
 ソニック大尉が担いだ男はアトリエ大尉という名らしい。
「こいつ余所者でしょう!?何者なんです!?」
 担がれたままアトリエ大尉が喚く。
「すみません大佐。機体でも奪って逃げようかと思いましたが、この男が見逃してくれなかったものですから」
 ソニック大尉は、アトリエ大尉をその辺に軽く放り投げた。彼は着地も下手くそだった。
「痛ってぇな…。何しやがる!」
「アトリエ大尉、君こそ何をやっている。彼はソニック大尉…先日の戦闘で人員が不足している君の部隊への最後の補充だ」
「え!でも」
「とやかく言うな。例の任務は彼と共に遂行しろ。それとも1人でやる気か?」
「まじかよ…」
 アトリエ大尉は立ち上がりながら身体についた埃を払った。

「…決心は着いたんだな?」
 ロングホーン大佐は再びソニック大尉を見据えた。
「はい。私は帰る場所も無い、一度死んだ身です。それに…戦うことでしか恩義を返すことが出来ん男ですから。しばらくはお世話になります」
「そうか、歓迎するとも。さあ、荷物は自室に置いておくといい。…アトリエ大尉、案内してやれ」
「はあ…了解。…ほら、デカいの!付いてこいよ」
 ややぶすくれたアトリエ大尉に付いていく形で、新たな母艦へと足を踏み入れた。

65+1話 自身の生き方
0989◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 23:41:20.89ID:c/vKaxZs0
「お前…ソニックって言ったっけ?ファーストネームは?」
 アトリエ大尉は腰をさすりながら艦内を歩いていた。勝てる気はしなかったが、ここまで子供扱いされると流石のアトリエ大尉も少し落ち込んだ。
「ラム・ソニックだ。君は?」
「酒みてぇな名前だな。俺はベイト・アトリエ」
 このジントニックみたいな名前の男からは、初見に敵と同じ雰囲気を感じた。しかしその割には切羽詰まったものを感じない。それはそうとしても、ロングホーン大佐が認めている以上あれこれ詮索するだけ無駄だった。
「まあいいや、ここがお前の部屋な」
「ありがたい」
 ソニック大尉の部屋に2人で入室すると、彼はゴソゴソと荷物を解き始めた。
「お前、余所者だよな?元ティターンズか何かか?」
「…勘の鋭いところは認める。そのとおりだ。大佐に命を救われた」
「なるほどね。それだけ判れば十分だわ」
 地球に置いてきたメイもそうだが、どうも元ティターンズ兵とは接する機会が多いらしい。

「それで…我々の任務というのは?」
 ソニック大尉が立ち上がる。
「ああ、新しい機体を受領しにいくんだ。俺用でな」
 先日の対アクシズ戦で部隊はかなりの痛手を負っていた。アトリエ大尉自身も乗機のネモに限界がきていたし、そろそろ丁度良い頃合いだった。
「受領するのが任務か?訳有な感じだが」
「その通り。体よく言っちゃいるが、要は奪いに行くって訳さ」
「それで鉄砲玉に元ティターンズの俺を使う訳か。…何を奪うつもりだ?」
「ふふ、それはお楽しみにしとけ。あんたはあんたとして…俺ほど適任な人材もいないんだとよ」
 そう言ってアトリエ大尉は笑った。今回奪うつもりの機体のことを考えれば、あながち間違ってもいない人選ではある。
 ソニック大尉を連れ、MSデッキへ向かった。今回アトリエ大尉は奪った機体で帰還しなければならない為、行きはソニック大尉の機体に同乗することになっている。機体の説明などを済ませ、その場はお開きにした。彼にはまだ色々と慣れて貰わねばならない。
0990◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 23:41:46.40ID:c/vKaxZs0
 準備を済ませ、遂に決行する日がやってきた。ワーウィック大尉達のアイリッシュが帰還した様だが、今回は出迎えに行っている暇はない。
 アトリエ大尉が格納庫へ向かうと、既にソニック大尉が機体に乗り込んでいるところだった。
「準備万端ってか?おはようさん」
「ああ、アトリエ大尉。よろしく頼む」
 まだエゥーゴに合流して日が浅いからか、少し緊張の色が見て取れる。
「あんたもMSはよく遣うと聞いたが…急にエゥーゴの機体でいけるのか?」
「問題ない。…エゥーゴはなかなかいい機体を持っているな。何よりフォルムがいい」
 2人が今回使用する機体は黒いリックディアスである。
「最近は赤が人気らしいけど、断然黒だよな」
「同感だ。ティターンズカラーという訳じゃないがな」
「ま、カッコ良けりゃそれでいいよな。…意気投合したとこで、準備するか」
 シートをソニック大尉に譲り、アトリエ大尉はその後ろについた。
『2人とも、準備はいいかな』
 艦長から通信が入る。
「ああ、大丈夫だ。短い間だったが世話になったな」
 今作戦での機体奪取成功後はこの艦から異動することになっている。主力部隊の再編である。恐らくソニック大尉もそのタイミングで正式にエゥーゴ加入が決まるのだろう。
『まだ気が早いぞ。この任務が終わるまではよろしく頼む』
「あいよ!そっちこそ手筈通り頼む」
『うむ。任された』
0991◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/02(日) 23:42:28.83ID:c/vKaxZs0
 事前にリークした情報では奪取目標の試作機が3機建造されていて、その中の1機を奪えればそれで良い。その1機は現在月の周辺を輸送中の為、航行を妨害する形で強奪する。本来の引き渡しの為に装備が一式用意されているらしく、強襲して丸々掠め盗る予定だ。
 まずは母艦であるサラミス改で近付ける限界まで追いかけ、そこからはSFSに乗って単機で襲う。遅れてくる陽動部隊が支援するとのことだが、あまりあてにし過ぎない方がいいだろう。
「しっかし、何でまたこんなに情報が駄々漏れなんだ?」
『既に機体開発の主導権は反ティターンズ側に傾いているのでな。本質的に強奪ではなく受領と言っていい。今回はティターンズ寄りの連中が邪魔に入るだろうが、我々で対処出来る規模だ。残す記録としてもエゥーゴ側に正当性がある形を取りたいというわけだよ』
「回りくどい言い方だな」
 ソニック大尉が苦笑いする。
「俺達には関係ねぇ。貰うもん貰って帰るだけだ」
 アトリエ大尉はソニック大尉の肩を叩いた。

 月から出港したサラミス改は、予定のポイントへと向かう。敵の輸送艦が通った道をなぞる形だ。
「丁度いい時期に転向できて良かったんじゃねえか?これからティターンズは苦しくなるだろうぜ」
 出撃待機しながら、アトリエ大尉は後ろから話しかけた。
「何処で踏み違えたのだろうな。理念を持ち、能力のある人間を集めた組織の筈だった」
「へっ。そういう思い上がりが全ての原因だと思うけどな?」
「…確かにな」
 ソニック大尉は自嘲気味に笑う。彼の転向に至った経緯は詳しく知らないが、結局こうして人が離れていくのも時勢を表しているのだろう。
 そうこうしている間に敵の輸送艦が見えてくる。敵もこちらを捕捉しているはずだ。
『では2人とも、武運を祈る』
「おう!行ってくる!」
 アトリエ大尉の返事を聞き、ソニック大尉がリックディアスを起動する。SFSのスラスターに火を入れると、輸送艦へ向かって出撃した。

65+2話 回りくどい言い方
0992◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/03(月) 00:14:29.89ID:uwYmBiVJ0
「さて…。あの輸送艦に取り付けばいいんだな?」
 ソニック大尉は操縦桿を握り直す。慣れないなりにシミュレーションはしておいた。幸いリックディアスは非常に操作性の高い機体だった。
「あんたが取り付いたら、俺が機体を奪いに行く。援護は任せるぜ」
「そんな細腕で大丈夫か?」
 とてもじゃないが、アトリエ大尉は白兵戦が得意には見えない。
「おいおい、そこはあんたの丸太みてぇな腕で援護してくれよ」
「俺ありきか。戻ったら鍛え直してやる」
「…来たぜ。お出迎えだ」
 輸送艦から敵のMSが迎撃に出てくる。ざっと4機。いずれもバーザムである。

「新型のみで編成か。余程大事な積荷なんだろうな」
「頼むぜソニック大尉!」
 開幕の合図に放たれた複数のビームを難なく避ける。まずはもっと輸送艦に近付かねばならない。敵に構わずSFSのスラスターを吹かした。
 2機ほど突出してこちらを迎撃する動きを見せている。これらの合間を縫うようにして、とにかく敵の攻撃を躱す。
「流石に…手数が多いな」
 八方から浴びせられるビームをどうにか躱しつつ、とにかく距離を詰める。
「先に叩かねぇのか!?」
「輸送艦に取り付いてしまえばやつらも手出し出来んだろう」
 嘘を言ったわけではない。とはいえ、正直まだ元同胞を撃つ事に引け目を感じている部分も否めなかった。だが敵からすればそんな事情は関係ない。当然容赦ない攻撃が続く。
「おい!大丈夫かよ!」
 うろたえるアトリエ大尉。
「黙って見ていろ!」
 粘りに粘るソニック大尉だが、いよいよ限界だった。ある程度の距離まで近付けたことを確認すると、SFSを蹴る様にして跳んだ。
「この男を送り届けねばならん。この鍛えた身体に誓って!」
0993◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/03(月) 00:15:24.75ID:uwYmBiVJ0
 好機と見たのか、バーザムの1機が接近戦を仕掛けてきた。サーベルを抜き、加速を掛けて斬りかかる。
「ぬおお!!!」
 ソニック大尉は敵のマニピュレーターを掴み斬撃を止めると、もう片方の手で頭部を殴りつける。よろめいた敵機からそのままサーベルを奪うと、コックピットに突き立てた。
「次ぃ!!」
 背後から撃ち抜こうと狙いを定める別のバーザムだったが、逆にソニック大尉は背のビームピストルで威嚇射撃を食らわせる。
 180度転身し、今度はピストルを手に持ち直してそのまま敵を蜂の巣にする。ライフルに比べると威力は低いが、2丁をバランス良く扱うことで手数を増やせる。
「邪魔はさせんぞ!!」
 そのまま爆散するバーザムに背を向けつつ、再び輸送艦へ向かう。残る2機は連携して輸送艦を守っているが、これに取り付く為にはどうにかして敵を引き剥がす必要がある。
「やるじゃねぇかよ!見直したぜ」
 後ろでアトリエ大尉が声を上げる。
「まだだ。問題はここからだからな」

 味方の牽制に期待したいところだが、今のところそれらしい動きは見られない。可能ならばこの軌道を抜ける前にケリをつけてしまいたいところだ。
「多少強引だが…行くしかないな!」
「うおっ!」
 よろめくアトリエ大尉にも構わず、バインダーの出力を上げて突進した。迎え撃つ敵の射撃が掠める中、一心不乱に輸送艦目掛けて突っ込む。
 こちらの狙いを察したのか、敵が進路を塞ぐ様にして立ちはだかった。
「押し通る!!」
 ソニック大尉はサーベルを抜いた。受ける敵のサーベルと鍔迫り合いになり、そこへ更に別機体のビームも迫った。しかしここは引いた方が負ける。被弾しつつも鍔迫り合うバーザムを押し退けた。
 押し込まれ体勢を崩した敵機を踏みつける様にして、更に加速して輸送艦に向かって駆ける。背後から撃とうにも、この位置なら輸送艦への着弾が気になって撃てない筈だ。
 狙い通り敵の動きが鈍った隙を突き、リックディアスはそのまま輸送艦の後部ハッチを撃ち抜き、突き破りながら強引に着艦した。

「いてて…。全く無茶しやがるぜ」
「何にせよ…これで文句はあるまい。さて、お目当ての機体は何処だ?」
 モニターから周囲を確認する。バーザム達が格納されていたらしきハンガーの奥に、白い機体が見えた。
「よし、あれだな。援護頼む!」
 言うなり、アトリエ大尉はコックピットを飛び出していった。ソニック大尉に仕掛けてきた時もそうだったが、何故あの腕っぷしでそこまで無茶ができるのか…。飛び出したアトリエ大尉を追いかける形で、ソニック大尉も機体から離れた。

65+3話 輸送艦
0994◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/03(月) 00:16:06.00ID:uwYmBiVJ0
「くそ…!簡単には渡しちゃくれねぇか!」
 アトリエ大尉は敵から見えないよう壁に背をつけて銃を抜いた。散発的に敵の銃声が響く。威勢よく飛び出したものの、騒ぎに気付いた敵クルーと白兵戦になっていた。
「…で、何か作戦があるんだろうな」
 合流したソニック大尉が溜息をつく。
「そりゃお前…その自慢の筋肉であいつらどうにかしてくれれば」
「無茶苦茶なやつだ」
 呆れ果てた様にソニック大尉が笑う。軽口を叩いてはいるが、それほど余裕があるわけではない。見た限り敵は3人ほどで、全員銃を持っている。闇雲に突っ込んでどうにかなる状況ではなかった。
 銃声が止み、ジリジリと迫ってくる敵の気配を感じる。2人は息を潜めた。
「…俺が囮になる。その間にお前が最低1人仕留めろ」
 小声でソニック大尉が呟いた。
「囮って言ったってよ…どうするつもりだ」
「俺を連れてきたのはこういう時の為だろう?俺の筋肉を信じろ」
 猶予は無い。アトリエ大尉は渋々頷いた。
「長くは保たん。任せたぞ」
 そう言ってソニック大尉は前に出た。

 遮蔽物を利用しながらソニック大尉が攻勢に出る。敵の注意を引きつけながら、アトリエ大尉のいる場所への意識を離そうとしていた。
 敵の動きを見つつ、アトリエ大尉は敵の背後を取るべくソニック大尉とは反対の方向へ走った。敵はソニック大尉との銃撃戦に夢中でこちらには気付いていない。
「よし…。くたばってな」
 瞬時に敵へ狙いを定めると、背後から1人の頭を撃ち抜いた。崩れ落ちた味方に気を取られたもう1人を、ソニック大尉が逃さず撃つ。
 最後の1人は逃走を図ったが、ソニック大尉が後ろから羽交い締めにする。揉み合いになりながらヘッドロックの要領で首を抑え込むと、そのまま落としてしまった。
「上出来だな。取っ組み合いにさえならなければお前も良い腕だ」
 周囲を確認しつつソニック大尉が言う。
「俺に限らず取っ組み合いであんたに勝てるやつがいるのか怪しいがな!…あんたはディアスに戻れ。俺は目標を奪取する」
「了解。そろそろハッチも破られそうだしな」
 ソニック大尉の言う通り、先程破壊したハッチから外のバーザムがこちらに向かってこようとしていた。アトリエ大尉は、踵を返したソニック大尉とは反対方向へ走る。
0995◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/03(月) 00:16:39.53ID:uwYmBiVJ0
「待ってろよ…!」
 アトリエ大尉はとにかく機体のもとへと急ぐ。息を切らせ辿り着いた場所には、純白の機体がいた。白い装甲には赤いラインが走り、やや大型で独特なフォルム。それを見上げながらアトリエ大尉は懐かしい気分がしていた。
「久しぶりだな…ガンダム」
 そこに居たのは、アトリエ大尉のかつての乗機であるガンダムMk-Wの正当後継機…ガンダムMk-Xだった。
 まだ一部調整が済んでいないとのことだが、一応ひと通りの装備が揃っている。アトリエ大尉はハンガーのレールを伝い、コックピットへと飛び乗る。
「ガンダム盗るなら俺に任せろってね…。ま、1機盗んで1機は諦めたけどな」
 ワーウィック大尉にベッタリだったスクワイア少尉を思い出して、つい笑った。あの生真面目な男が、ああいう娘に懐かれているとは思ってもみなかった。
 事前に確認していた手順で手早く機体の起動に入る。その起動手順もMk-Wと通ずるものがあった。乗機だったMk-Wはムラサメ研究所が盗用データから組み上げた不完全な機体でもあったが、Mk-Xはオーガスタ純正だ。
 Mk-Wの一件を問われたムラサメ研究所も開発に手を貸す羽目になった様だが、サイコガンダムの運用データなどの提供によりMk-Xの完成は早まったという。
「よし…動けよ…!」
 各シーケンスをクリアし、デュアルアイに光が灯る。それと同時に、アトリエ大尉も前を見据えた。
「ガンダム…また俺と戦えて光栄だろ?」
0996◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/03(月) 00:17:28.32ID:uwYmBiVJ0
 ハンガーから強引に引き剥がす様に機体を動かしつつ、リックディアスと通信チャンネルを合わせる。
「ソニック大尉!目標を奪取した!離脱するぜ!」
『わかった!これ以上は持ち堪えられん!急げ!』
 前方を確認すると、ハッチをこじ開けたバーザムと揉み合いになっているリックディアスが見えた。
「借りは返さねぇとな」
 専用のライフルを構え、正確にバーザムの頭部だけを撃ち抜く。そのままソニック大尉はバーザムを組み伏せた。
『よし!先に行け!』
「了解!」
 開けたハッチから脱出する。が、それを待ち伏せていた残る最後のバーザムが背後から斬りかかってきた。
「甘いぜ…鶏ちゃん」
 斬撃をひらりと躱し、追撃のライフルも容易く避けた。アトリエ大尉が反応した通りに機体が付いてくる。ネモが悪い機体だったとは言わないが、やはりガンダムは規格外だ。インターフェースのせいもあるが、やはりMk-Wを思い出す。
 迫る敵と向かい合いながら、とっておきの武装を射出した。当然、使い方なら熟知している。
「ん?2基もあんのか…!流石後継機…贅沢なこって!」
 再度斬りかかろうとしたバーザムだったが、それは叶わなかった。ガンダムの射出したインコムがサーベルを手首ごと弾き飛ばしたのだ。更に脚部、頭部、肩…あらゆる部位を四方から撃ち抜いた。半壊したバーザムを、大型サーベルでとどめを刺す様に両断する。
「この威力…オーバーキルか?…一理ある」
 爆散する敵機を背後に、ガンダムは悠々と武装を収めた。

『お前…その武装。…ニュータイプってやつか』
 続いて脱出してきたソニック大尉のリックディアスが追いついた。
「最近はもうニュータイプニュータイプって言われ過ぎて否定するのも面倒になってきたわ…。それに、インコムの事ならシステム的にはオールドタイプでも使えるんだけどなあ」
『いや、俺は遠慮しておこう…』
 2人が合流して程なく、援軍が輸送艦を取り囲んだ。彼らの予定よりもかなり早い段階で敵を殲滅してしまったらしい。
「これで任務完了だな。あんたが居て助かったぜ」
『お前のようなやつと戦場で相対することが無くて良かった』
「へっ、そうかい。…まあこれからもよろしく頼むわ」
 友軍にその場を任せ、2人はサラミス改への帰路についた。

65+4話 純白の機体
0997◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/03(月) 00:24:58.47ID:uwYmBiVJ0
何だかんだギリギリになりましたね…
取り敢えず次建てときました!

次スレッド
グリプス戦役の小説書いてるんだけど
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1596381803/

まさか跨ぐ事になるとは書き始めた頃には思っても見ませんでしたが…笑
引き続きよろしくお願いします!
0998通常の名無しさんの3倍垢版2020/08/03(月) 07:32:19.93ID:PIGO23ZM0
乙です!

まだ黒塗りのディアスなんていたんですね...w
あのドムもどきなカラーリング嫌いじゃないです

裏切ったのがシロッコだとしても、ティターンズ全体がジャブロー核自爆をやらかす危険集団、どのみち戻れはしない...
ここでGMキャノン2! 新訳要素も嬉しい
やはりアトリエは勘がいい、まだソニックにも迷いがあったでしょうしね
書類の件はWのデュオが「偽物だけどなぁ!」と行って逃げていくシーンを思い出しましたw

ここで来たか、(顔的に)虫野郎! 青に塗られる前というのがまた細かいw
もしやソニックをゼク・アインに乗せたのは、MK-V奪取作戦への伏線だったのでしょうか?

(もうアトリエの心配はしてないので、笑)ソニック、お前くらい生き残れよ...!

次スレ、楽しみにしてます!
0999◆tyrQWQQxgU 垢版2020/08/03(月) 10:37:01.45ID:uwYmBiVJ0
>>998
個人的に黒ディアス渋くて好きので…笑

ティターンズは実際かなりヤバい事してますし、ソニックは知らされてない部分もあれど加担している部分もありましたから。
メイの時ほど割り切れてはいない感じですが、その辺りも3章で!

クインマンサ顔のあいつです…!
1機が教導団、1機がネオ・ジオンへ行くので正直ギリギリの数ですが…
前作主人公の1人が乗るガンダムと考えると、丁度いい顔してます笑
そうですね、教導団行きの機体同士っていう接点はあります。後で簡単に掘り下げますが、その辺の絡みも考えてはいます。

ウィード隊最後の1人がエゥーゴに来てしまいましたが、それによって彼らのストーリーもまだ終わっちゃいないといったところですね。

よろしくお願いします!
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