X



宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。
0602◆tyrQWQQxgU 2019/10/29(火) 05:50:03.84ID:foFjUzco0
>>601
その果てにあったのが母性っていうのがまた何とも…。
血統や使命感に対する当の本人の願望が噛み合わなくて色々こじらせちゃった人って感じですよね。
女遊びしてるだけとかならまだチャラいで済むんですが…w

ガンダムってそういう願望のスケールに対してぶっ飛んだ行動に出るキャラクター多い気がしますw
0604通常の名無しさんの3倍2019/12/06(金) 19:12:05.22ID:Up+Tcuff0
勝手ながら登場人物紹介@

朱雀隊
○サム・ワーウィック
 この物語の主人公。階級は大尉。多分27歳。一人称は「私」。
所属はジオン公国軍機動部隊(地上降下組)→カラバ・朱雀隊(応援)→エゥーゴ。
憂いを抱えたインテリ戦中世代で時代に乗り遅れ気味のオールドタイプ。
とはいえSFSをぶつける、水中戦を提案する、一時的に全体指揮を取るなど機転は利く。
自分の進む道を考えあぐねており一度は戦線を離れたがジャブロー核自爆の真相を知り
再び操縦桿を握ることを決意、やがて様々な人々と共に戦う中で居場所を見いだしていく。
搭乗機はMS-05(プロローグ)→マラサイ試作機(グリーン、途中に腕移植や換装など有、Ep1-64)→ジムII(Ep68)
○ベイト・アトリエ
 サムの相棒的存在で一年戦争時代のエース。階級は中尉。多分29歳。一人称は「俺」。
金髪坊主頭でピアスやタトゥーをしている。厳つい風貌だがどちらかといえば虚弱体質(Ep5, Ep8)。
所属は地球連邦軍→カラバ・朱雀隊(応援)→エゥーゴ。
自由な天才タイプで優しくてしぶとい、憎まれ口を叩く損な役回りだが死にそうにはないタイプ。
気配を察知する等ニュータイプの素養が見られる。
搭乗機はマラサイ試作機(白・赤、Ep1-17)→ベースジャバー(Ep20-21)→ガンダムMK-IV(Ep26-64)→ジムII
○メアリー
 自称6歳のウルフカットの少女。旧称・エイト、ハチ(ニタ研)、貨物ちゃん(自称)。一人称は「あたし」。
ムラサメ研究所からの脱走者で人に色(性質)を見る能力を持つ。自分の色は見えないが、本人は青が好き(Ep9, Ep2)。
自身にメアリーと名付けて大人に物怖じしないなど、理知的で活発な性格。
ニューホンコンにおける軍事作戦に出撃する可能性があった(Ep25)。
ニューギニア基地戦では、その感性と意志の強さを以て追ってきたサイコガンダムをコントロール下に置いた(Ep55)。
戦後世代の主人公といったところ
○トキオ・サドウスキー
 大柄で豪快、口髭オールバックの大尉。バッカスとは旧知の仲でカラバに同伴。一人称は「俺」。意外と嫉妬深い。
ずっとノーマルスーツを着ているタイプの人で、キャノン装備のMSに乗ると落ち着く病気。
Ep51からはMS部隊長代理を務める。
搭乗機は量産型ガンキャノン→ジムキャノンII→ネモ(Ep18)→リック・ディアス(Ep22-32)
→ガンキャノン・ディテクター(Ep33-41)→リック・ディアス1.5(Ep48-60)
○スティレット・シェクター
 華奢な黒髪、小柄で背が低い少尉。歳は20そこそこ。一人称は「俺」「僕」。
繊細で礼儀正しく工学に詳しい。
Ep4で撃墜された同僚のエドワード・イーエスと仲が良かったのもあって、ワーウィック以上に悶々として見える。
一方で度胸があり困ってる相手は敵でも放っておけない(SFSやパラシュート無しに降下したことも、Ep12-14)。
搭乗機はネモ(Ep12)→ド・ダイ改(Ep16)→Gディフェンサー(Ep22)→メタス改(ビームガン装備、Ep48-60)
○ライン・W・バッカス
 40くらいの褐色ドレッドヘアの少佐。一人称は「私」。
地球生まれ地球育ちで明確にティターンズを嫌っている。サドウスキーとは旧知の仲で体育会系。
MS部隊の指揮官だったがスギ艦長の戦死に伴い艦長代行を務める。
搭乗機は改造ネモ(Ep22)→疑似ネモ・ディフェンサー(Ep23)
○メイ・ワン
 後述
○ヴィジョン
 朱雀のメカニックマン。あけすけに物を言える性格。一人称は「俺」。
ジオンの好戦的な面は嫌いだがメカには惹かれるという悲しい星に生まれた男。
機械の系統を血縁に例える。
○レイ・スギ
 朱雀の艦長。一年戦争時はレビル派として後方支援を行っていた。一人称は「私」。
子供と話す時は目線を合わせ自分のことを爺さんだと言うタイプ。軍人だが上着に飴を入れて持ち歩いている(Ep7)。
おおよそ好好爺と言える一方、飴と鞭の扱いも上手い模様(Ep11)。
ホワイトベースに補給を行い、ジャブローでクルーと顔を合わせたこともある生き字引。
Ep44で朱雀艦橋にて戦死、葬儀で棺は海へと弔われた
0605通常の名無しさんの3倍2019/12/06(金) 19:14:13.76ID:Up+Tcuff0
勝手ながら登場人物紹介A

ジオン残党
○アルフレート・フラマス
 ワーウィックの旧友でジオン残党として戦場に残り、エゥーゴ参加を打診した人物。
黒い長髪をセンターから横に流した、筋肉質な体格のいい男。
仲間を引き連れ満身創痍の朱雀隊を援護した後、ジオン残党としてティターンズに宣戦布告した。
搭乗機は専用ゲルググ(Ep41)

ティターンズ(U型潜水艦、ペガサス級、ミデア)
○アルニコ・フェンダー
 ティターンズに初期から参加している少将。ジャブローからニューギニア基地に転任となった。
純粋に反乱の芽を摘みたいだけの事なかれ主義者だったが、戦況が不利になるや敵前逃亡を試み
それを察知したアイバニーズを轢き殺そうとするものの逆にファラリスの雄牛に処された
○ヴォロ・アイバニーズ
 特殊部隊出の優秀な少佐。普段は感情の読めない男で、フェンダーの右腕として数々の武勲を挙げてきた。
エゥーゴ及びカラバの作戦拠点制圧の命を受け指揮を取るもアトリエ1人に苦戦する部隊に業を煮やし、自ら出撃する。
優れた戦闘技術でアトリエのマラサイを空中分解させ(Ep17)、朱雀を火の海にした(Ep36-38)。
信念も何もなく戦いこそが人生であると定義しており、カラーリングは深く潔い黒を好む。
Ep64で崩落した潜水艦ドックにて戦死。
搭乗機は改造ジム・クゥエル(Ep61より更に改造されている、Ep17-64)
○ストランドバーグ
 アイバニーズの側近的存在で白髪白髭のベテラン兵士。階級は中尉。
最近の部隊員の名前が覚えられなくなってきている。
32話でベトナム上空にて戦死。
搭乗機はジム・スナイパーII(ベース : ジム・クゥエル、Ep31-32)
○ビー
 小柄な短髪の男で白兵戦に強い。階級は少尉。
調子に乗りやすく敵機を通信で挑発することさえある(Ep37)。
Ep60でニューギニア基地上空にて戦死
搭乗機はギャプラン(リミッター付、Ep34-41)→改造ギャプラン(Ep59-60)
○スペクター
 ほっそりとした長身の眼鏡男で電子戦や情報処理に強い。階級は大尉。
咄嗟に装甲をパージして接近戦に突入するなど、臨機応変なパイロットとして描かれる。
一方でガンダムに乗るやいきり立つ病気である。
また、フェンダーの間諜としてアイバニーズを監視していた。
Ep59でニューギニア基地の地下試験場にて戦死。
搭乗機はジム・ストライカーカスタム(ベース : ジム・クゥエル、Ep34-41)→改造ジム・クゥエル(Ep41)
→ガンダムMK-IIIハーピュレイ(Ep59)
○メイ・ワン
 地球連邦軍の諜報員。背が低く前下がりのボブヘアーで表情が分かりにくいようにしている。
所属は地球連邦軍→ティターンズ→カラバ・朱雀隊
コロニーに生まれ不自由ない幼少期を過ごすも戦時の混乱で両親と生き別れ、
ジオン残党と通じていた(とされる)女性を姉のように慕い共に地上へ降下、
護身術を学ぶも粛清によって彼女を失い、より強くあるために武術に打ち込み、連邦軍の育成機関に入った。
エゥーゴの作戦と動向を調査する為に朱雀へ潜入していたが
メアリー奪還任務のためにアイバニーズ隊に編入、帰還後ムラサメ研究所の部隊との接触を命じられる(Ep20)。
ドジっ娘気質で連携が苦手だが、縄抜けや演技は上手く戦闘スキルも工作員4人を瞬時に屠る程(Ep11, Ep39)。
うっかりアトリエに見つかり逃亡を図るも、追ってきたバッカスに気絶させられ尋問されるも脱走(Ep10-12)。
遭難時にシェクターに助けられ、ある出来事でアイデンティティが崩れかけた折にアトリエに誘われカラバへ出奔。
アトリエとシェクター両方に満更でないようで、メアリーとは徐々に姉妹のような関係になっていく。
搭乗機はネモ(Ep12)→ベースジャバー(Ep20-21)→ガンダムMK-IV(Ep26)→ジムII(Ep55-64)
0606通常の名無しさんの3倍2019/12/06(金) 19:15:30.77ID:Up+Tcuff0
勝手ながら登場人物紹介B

ニタ研
○ネイト・ウェイブス
 長い黒髪の女性でムラサメ研究所の研究員。
一年戦争後のニュータイプ研究に参加して即落ちしたクチで、人類全体の覚醒に希望を感じていた。
オーガスタ研究所からの盗用データで製作したガンダムMK-IVをティターンズに引き渡そうとしていた(Ep24)。
研究のために自らの娘を手放したことを長く後悔している。
Ep26でムラサメ研究所にて死亡
○強化人間
Ep56-58に登場。本名不詳。
本来はサイコガンダムを遠隔操縦するためニューギニア基地に送られていたが
機体のコントロールをメアリーに奪われたことで、基地内の試作機バイアランで出撃。
インコムを撃ち抜き4機相手に拘束戦闘を展開、次々に敵装備を破壊しシェクターを追い込むも天パに刺されて戦死

ゲスト
○ハヤト・コバヤシ
 Ep1とEp54に登場、カラバの指導者に相当する人物でワーウィックとアトリエに直接機体を届けた。元WBクルー
○頬のこけた細身のスーツの男
 Ep19にてモニター越しに戦況報告を受け思案顔になっていた男。
>>427コメントにてウォン・リー本人であると明言されている
○恰幅の良い男
 ベトナム基地におけるエゥーゴ・カラバの軍議に参加していた将校。
戦況を理解せず緊張感のない物言いでワーウィックを苛立たせる。
恐らくゴットン隊の人質に捕られたりアイリッシュ級マスタッシュでアクシズ攻略を目論んだあのエゥーゴ軍人だろう
○天パ
 Ep54に搭乗、マップデバイスを無くしたメアリーに誰にでも居場所があることを教え、連邦軍基地まで案内した。
続くEp58ではアウドムラ隊の僚機として早業でバイアランを仕留め、アトリエにメアリーのことを頼んで去っていった。
>>509ではワーウィックからレイという名の大尉ではないかと示唆されている。
搭乗機はリック・ディアス(Ep58)
0609通常の名無しさんの3倍2019/12/12(木) 17:03:55.57ID:dEJEHwDM0
>>87から見れるpixiv版、久々にチラ見したところ
5ch版から2話追加で70話構成になってるんですね
1つはあとがきだとして、もう1話はいずこに...?
0612◆tyrQWQQxgU 2019/12/15(日) 19:48:25.69ID:wrV+LsOI0
うおー!久しぶりに覗いてみたらまだ書き込んで頂けてるとは!皆さんありがとうございます!

>>604
凄く嬉しいです!ご紹介ありがとうございます!!細かな所まで拾って頂いている…!!
登場人物を持て余してしまった感もあったので、もう少し掘り下げていける機会があればと思います。
0613◆tyrQWQQxgU 2019/12/15(日) 19:50:48.77ID:wrV+LsOI0
>>609
これはあれですね、冒頭がpixiv版だと話数に入ってます。あとは仰る通り後書きで70話。
切りがいい数字になったのはただの偶然ですが、結果的に締まったかなと笑
0614◆tyrQWQQxgU 2019/12/15(日) 19:53:28.29ID:wrV+LsOI0
折角なのでお伝えしておくと…実は続きを執筆中です…!
4話分書き終えていますが、まだ定まっていない部分もあるのでもう少しお待ちいただければ!ご期待ください!!
0615通常の名無しさんの3倍2019/12/15(日) 22:37:09.78ID:aEi26jdx0
お久しぶりです!
話数の件、了解です。
いやてっきり何話か見落としたのかと思いました...w

続き、それなりに進んでるんですね!
たとえば仮称の部分を後から「あぁ、こっちにしとけば良かった!」などと思って後悔するのも勿体ないので
(一応pixivの方は改稿できるようですけど)その時点で納得のいくように書いていただければ、と思います。
さてZの、頻繁に幽霊でも出そうな宇宙空間、何処から始まるのか...楽しみです
0616◆tyrQWQQxgU 2019/12/21(土) 10:19:31.73ID:obeaV6xL0
>>615
お久しぶりです!
お待たせしてしまいましたが、そろそろ続きを始めようかと!
仰る通り、舞台を宇宙に移した話になります。

ところで、投稿はこちらが良いですかね?別でスレ立てした方がいいでしょうか?
今回は終わりを決めていないので、もしかしたらグリプス戦役終盤まで行くかもしれません。
そうなると1000超える可能性が…。笑
0618通常の名無しさんの3倍2019/12/21(土) 12:12:38.07ID:0kUclpJT0
私的にはpixivの一覧から見ていくのが面倒なので、こちらで一気読み出来ればな...と思うところもあります
0619◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:18:28.70ID:gCx9nIPL0
なるほどなるほど…。
そしたら今まで通り、こちらに投下していきます。
一人でも多くの方の目に止まる方が僕も嬉しいので!

それじゃ、第2部を始めていきましょう…。
0620◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:31:27.89ID:gCx9nIPL0
これまでの、そしてこれからのあらすじ。

 ジオンでの敗戦を経験し、アイデンティティを喪失した主人公サム・ワーウィック。
 彼は自らの過去の過ちをティターンズの横行に重ね、エゥーゴの大尉として戦いに再び身を投じる。
 一時的にカラバの部隊と行動を共にする事となった彼は、同じくエゥーゴのベイト・アトリエ中尉やニュータイプ研究所の少女メアリー、そしてカラバの戦友と激戦を潜り抜けていく。
 第1部は、地上におけるティターンズ最大拠点の1つであるニューギニア基地攻略を完遂し、再びアイデンティティを確立した彼が次の戦地へと飛び立ち幕を閉じた。

 続く第2部。月周辺の哨戒任務にあたっていた主人公、ゲイル・スクワイヤ少尉…通称"死にたがりのゲイル"は日々の任務に飽き飽きしていた。
 その部隊に隊長としてある男がやってくる。彼の着任を契機に、エゥーゴ・ティターンズの抗争は彼女らを激動の時代へと巻き込んでいくのであった…。
0621◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:35:10.96ID:gCx9nIPL0
 好奇心は時として、命を代価に欲するのかもしれない。

 底無しの宇宙に漂う機体の中で、ゲイル・スクワイヤ少尉はぼんやりとした思考を巡らせていた。ヘルメットを放り出すと、ウェーブがかった肩につくほどの黒髪が無重力に揺れる。
 彼女は小柄な身体をシートに埋める様にして、その猫の様な青い目を閉じていた。ずっとこうしていられたらどんなに気楽か。
 薄っすら目を開けて、遠くに映る青い星を眺める。地上ではティターンズの拠点が次々と陥落していた。破竹の勢いで進撃するエゥーゴ・カラバの両軍に、裏で同調する連邦軍の派閥も増え始めているという。
 エゥーゴ所属の彼女にとっては旗色の良い話だが、大局の物事など関心の薄い話でしかなかった。
0622◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:36:22.05ID:gCx9nIPL0
『…少尉!スクワイヤ少尉!』
「…はい」
 耳障りな通信が入り、気怠く身体を起こす。同僚のフジ中尉だった。とにかく息苦しいほどにお堅い男だ。
『無事か?てっきりやられたものかと。動けるのなら戻れ』
「帰投します」
 スクワイヤ少尉達は月面近くの暗礁区域で偵察の任を帯びていた。このところ近辺でティターンズ艦隊の動きが活発化している為だった。恐らく大規模な作戦が行われると思われる。
 今日もいつもの様に小競り合いになり、少尉が少し被弾したあたりで敵機は宙域を離脱していった。どうせなら落としてくれれば良かったものを。そう呪いながらそのまま漂っていたのだった。

 彼女は、あまりに退屈な日々にうんざりしていた。いっそ死ねればどんなに楽か。しかし、死んだ先も退屈だったら?もし死が終わりでないとしたら、その先を知るのは死んだ者達だけだ。
 楽観的にみるなら、そこが楽園だから彼らは現世に還らないのかもしれない。
0623◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:37:49.81ID:gCx9nIPL0
 帰還すると渋々フジ中尉についていきながらブリッジへ向かう。
 スラリと背が高く、姿勢の良いテキパキとした歩き方は彼の性格そのものの様だ。こざっぱりとした短髪の面長で、太ぶちの黒眼鏡からは切れ目が覗いている。
「ローランド・フジ中尉ならびにゲイル・スクワイヤ少尉。只今帰投致しました」
 ブリッジに到着すると、中尉はハキハキと口上を述べた。
「報告ご苦労さん。まあ、大事になったらなったで他の連中がどうにかするさ…。ふあ…俺達はあくまで偵察!ゆるゆるやろうや」
 艦長のファルコン・グレッチ少佐は欠伸をしながら目を擦っている。フジ中尉とは対照的にいい加減な男である。特徴といえば虎髭と飛び出た腹、それからいつも軍帽を深く被っていた。
 この様子だとスクワイヤ少尉達の偵察中も居眠りでもしていたのだろう。
「艦長…!いつも申し上げておりますが」
「ああ、わかってるわかってる。昨夜は深酒しちまってな…。そうカッカするな」
 詰め寄るフジ中尉を手で制するグレッチ艦長。もうこの光景も何度目だろうか。諦めたフジ中尉が肩を落としている。
0624◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:38:49.71ID:gCx9nIPL0
「しかしなぁ、"死にたがりのゲイルちゃん"よ。わざと被弾するな。メカニックの仕事が増える」
 そう言いながら、グレッチ艦長が眠そうに目を細めながら肩肘をついている。
「…わざとじゃないんですけど」
 スクワイヤ少尉はブリッジの外の眺めに目を逸らしながら小声で答えた。
「うそこけー!お前、ほんとは操縦滅茶苦茶上手いって聞いてるぞおい!」
 急に身を乗り出した艦長がツバを飛ばしながら少尉を指差す。
「何を聞いてそんな事…。買いかぶりですよそんなん…!」
 少尉は両手でツバから身を守る様にして嫌がりながら言い返す。
「いいから気をつけろ!若い女がそんなんでどうする!?世の中楽しい事いっぱいあるぞ!何なら俺が教えてやろうか!」
「はあ…最悪」
 今時セクハラ親父なんて流行らないが、いつの時代も何処かに居るものなのだろう。スクワイヤ少尉は溜息をついた。
0625◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:39:46.91ID:gCx9nIPL0
「それはそうとしてだな…。お前らにも言っておこう。司令部から伝達があった。人員の補充だそうだ」
 そういうと艦長はタブレット端末をフジ中尉に手渡した。
「お前らの上官だ。MS隊の隊長として配属になった。お前らのお守りはこれからはそいつがやる」
 艦長をよそに、フジ中尉は真剣な眼差しで端末を見つめている。スクワイヤ少尉も覗き見ようとしたが、身長差のせいでまるで見えない。この堅物はその辺りの気遣いは出来ないらしい。
「御仁はいつ頃到着で?」
 結局少尉には見せることなく端末のモニターを消灯した中尉が聞く。
「明日だったかな?よく覚えてねぇな」
「こんな大事な話、何でそんなギリギリになってするんです??と言いますか、いつ来るかも正確に把握してらっしゃらないので??」
 また中尉が怒り始めた。もう好きにやっててくれと思いながら、取り敢えずどんなやつが来るのか想像を膨らましていた。今より状況が良くなるならどんなやつでも構わないが。
0626◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:40:25.78ID:gCx9nIPL0
「あの…艦長…?」
 オペレーターのグレコ軍曹が消え入る様な声で間に入る。この女性オペレーターはいつも居るのか居ないのかわからない。その位影の薄い女だった。
「どうした?」
 怒る中尉に辟易しながら艦長が聞く。
「その…新しく来られる方が…着艦許可を求めてます…」
「あ、今日だったのか」
 今しがた思い出したかのように素っ頓狂な反応をする艦長。この艦長はこれでよく少佐になったものだ。案の定更に中尉が怒っている。
「嘘でしょう!?もしかしてこの間納入した新型も…」
「そんなのもあったなそういえば!」
「艦長!!!!!」
 少尉は頭痛がしてきた。その後もしばらくその調子で見苦しい大の男達の漫才を見ながら突っ立っていた。
0627◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:41:45.13ID:gCx9nIPL0
「失礼」
 飽きずに問答を続けていたところに、見知らぬ男が入ってきた。
「そのまま外で待つ訳にも行きませんでしたので、着艦させて頂きました…。本日より着任致しました、サム・ワーウィック大尉であります」
 物腰の柔らかい、感じのいい男だった。バイザーを外したその顔には大きな火傷の跡がある。
「おお!君か!すまんな、ちょっと取り込んでたものでね。私が艦長のグレッチだ」
 そういってそそくさと椅子から降りると、わざとらしく胸を張って握手をした。新入りには良いところを見せておこうと虚勢を張っているようだが、傍から見れば滑稽も良いところである。
「ほら、お前らも挨拶くらいしろ!…すみませんな、躾がなっておりませんで…」
 よく言う。こうやって世渡りしてきたのかもしれないと思うと、あながちある方面では無能とも言えない。おかげでこちらは大迷惑だが。
「…フジ中尉とスクワイヤ少尉だな。よろしく頼む。よろしければ艦内を案内していただきたいのですが、どちらかお借りしても?」
 ワーウィック大尉がそういうと、ハッとした艦長がまた胸を張る。慣れないことをしている艦長を眺めるのもまた一興かもしれない。
「よろしい!…うむ、ゲイルちゃんよ、案内してあげたまえ」
「私ですか?」
「なんだ、どうせ暇だろうが!大尉殿を待たせるな!」
「…はーい」
 仕方ないので、苦笑いするワーウィック大尉を連れてブリッジを出る。
0628◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 01:42:44.82ID:gCx9nIPL0
「私は馴染めそうかな?この艦は」
 バイザーをかけながら大尉が笑った。確かにこの面子には異質な存在に思える。
「ん…まあ…何とかなるんじゃないですか?…てかそのバイザー、洒落てますね」
「いいだろ?お気に入りだ」
 そういってバイザーから覗く眼差しに何となく安心感を覚えた。これからは幾らか気休めができそうだった。

第2部 1話 漂う
0629通常の名無しさんの3倍2019/12/22(日) 07:45:32.20ID:NtzOVhhu0
5ちゃんに投下するならもうちょっと書き溜めてからの方がいいんじゃね?
0630◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 10:07:24.31ID:iXefjNe40
>>629
一応今のところ(お陰様で筆が進んで)10話以上ストック出来てるんですが、投下自体話数まとめての方が良いですかね?
スマホだからか、地味な作業ですが結構コピペが大変で…笑

何かいい方法あれば教えてください!
0632通常の名無しさんの3倍2019/12/22(日) 14:40:27.46ID:UDowvX6B0
おっ、投下はやかったですね!
月曜あたりからかと思ってました

スクワイヤ少尉は直近の出来事でヤケになってるのではなく、刺激に飢えてる感じですかね、出だしの話からして。
それとも親を早くに失くすとか、過去の出来事から人並みの価値観を逸脱気味なのか...普通は一人で帰投するでしょうし

艦種も機種も明らかではありませんが、月面軌道の哨戒となるとアイリッシュまでは出さないでしょうし
流出品のサラミス改かな...いっそ大型輸送艦の小改造モデルとかw
艦長が悠長に呑んでる辺りから、アクティブな作戦というよりは適当な隕石に錨を降ろして簡易基地という塩梅ですね。
MSはジムIIかネモかと、特務という風でもないですよね。
新型が何なのか気になりますな(ジェモとかワーウィックに合いそうだけど、本格配備がダカール以降なのでどうかな...)。
前章で元ジオン兵としての縛りが取れたので、何でも乗りこなしてくれそうなのが期待ですね!

さてフジ(どうにもヘンケンのサラミスを思い出す)にワーウィックを加えてスリーマンセルで話が進むのか
アポロ作戦関連の展開もあるでしょうし急遽再編成みたくなるのか、楽しみです
0633◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 16:25:06.51ID:iXefjNe40
>>631
そうなりますよねー…笑
出先で書いたり投稿したりが多いのでスマホ率高いんですが、まとめて出せるときにPC使うくらいしか無いですかね…

>>632
どうも!
僕としてはもう忘れ去られてると思っていたので、ここがちょこちょこ機能してるの見て書かなきゃと思いました!笑

彼女のバックボーンも少しずつ書いていきます。
ワーウィック大尉とはまた違う経緯でエゥーゴにいるんですが、物語的にも結構重要な部分になっていく予定です。

考察いい線いってます!!一旦ストップ!!笑
一応、なるべく新鮮なアイディア盛り込んでるつもりですけど…!笑

ちまちま時間見つけて1話ずつでも投下しようかと思ってましたが、明日休みなので今夜PCからどどんと一挙公開します!10話くらい!
0634◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:09:28.49ID:JcV85rst0
 スクワイヤ少尉はひと通り艦内の設備をワーウィック大尉に案内した。とはいえ彼女らの乗るサラミス改は古い改造艦で、それほど案内できる部分もない。案内が済んでしまうと特にやる事も無かったので、休憩室でドリンク片手に休んでいた。
「少尉は何処の生まれなんだ?」
 簡易ソファに腰掛けたワーウィック大尉が聞いた。
「地球生まれです」
 少し離れた椅子に座ったスクワイヤ少尉は簡潔に答えた。あれこれ喋ることは日頃からあまりなかった。
「そうか。何かあって宇宙に?」
「まあ…色々」
 彼女は過去の話があまり好きではない。ほぼ反射的に浮かぶ、ある男の顔が必ずと言っていいほど胸の内をかき乱す。
「なるほどな。私は君とは逆に、最近まで地球にいたんだ」
「あちらは激戦が続いていると聞きました」
「この火傷もここ最近の話さ」
 そういってバイザーを外してみせた。どうも火傷跡にコンプレックスがあるわけではないらしい。
0635◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:10:16.63ID:JcV85rst0
「あの時は正直死んだと思ったよ。起きたら病室だったんだが、現実の心地がしなくてな」
「へえ…!」
「?…この手の話が好きなんだな」
 目を輝かせた少尉に気付いた様で、大尉が微笑みかけた。
「死んだらどんな心地なのかは…興味があります」
「それはまた」
「変だとか、気を病んでるとか色々言われますけど」
「私はそうは思わんよ。ただ、少し危ういな」
「"死にたがりのゲイル"なんて言われるくらいには」
 そういってドリンクを手で弄びながら自嘲気味に笑った。

「…此処にいらっしゃったのですね」
 フジ中尉がやってきた。折角の良いところで…間の悪い男だ。
「ああ、彼女の話を聞かせてもらっていたよ。興味深い子だ」
 立ち上がりながらワーウィック大尉が言う。目が合うとまた彼はニコリとした。
「またおかしな事を言ってなければ良いのですがね。それはそうと、艦長がお呼びです。スクワイヤ少尉も来たまえ」
 おかしな事とは何だ。不服に思いつつ、口をつぐんだまま彼らに付いていく形でブリッジへと戻った。
0636◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:11:26.41ID:JcV85rst0
「お呼び立てして申し訳ないな大尉」
 到着した我々に気付いた艦長は、いかにもといった風に資料へと目を通していた。普段は成人向け雑誌を読んでいるところしか見たことがない。
「そんな。私は部下です艦長」
「いやいや!何でも前の戦線ではガンダムと肩を並べて戦っていたというじゃないかね!大尉もニュータイプというやつですかな」
「ニュータイプというのは…私の様な茫洋な男とは似ても似つきません」
 ガンダム…ニュータイプ…。遠い世界のものだと思っていた単語が大尉と結びつくと、彼への興味は更に増した。

「それで、状況に動きが?」
 中尉が相変わらずの姿勢の良さのまま切り出した。
「おう、それなんだがね。遂に司令部が敵さんの目的を察知したそうだ。やはり月面都市の占拠を狙っているらしい」
 そう言いながら、再度資料に目を落とした艦長は髭をいじっている。
「月の都市といえば、グラナダかフォン・ブラウンですか?」
 ワーウィック大尉の表情が少し険しくなった。スクワイヤ少尉はそんな彼に気付きつつも、変わらず艦長の話を聞く。
「そうさなぁ…。グラナダとすればティターンズとしては今より融通を利かせたいところだろう。
 アンマンあたりなら、グラナダとあわせてAEの工場を抑えて我々の拠点も潰してしまえば…ゼダンの門とも連携しやすくなる」
「そうなるとまるで一年戦争時のジオンですな」
 フジ中尉が大尉を横目に見ながら言った。
「しかし、基本的にはスペースノイドからの反発は避けられないでしょう。土地が土地です」
 大尉は宇宙生まれと言った。この辺りの事情には詳しいのだろう。
「敵艦隊の動きも鑑みた上層部は、フォン・ブラウン市が本命だと当たりをつけているらしい。
 大尉の言う部分もあるが、ティターンズは経済都市の中心を抑えることで政治的に今以上の影響力を持ちたいのかもしれん」
 艦長にしては真面目な話をするなと感心していた。或いは別の高官の受け売りかもしれないが。
0637◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:12:30.26ID:JcV85rst0
「この敵の動きに対して、我々も後手には回らん。偵察は程々にして、ぐるりと月の裏側にいけとの事だ」
「ん?でもフォン・ブラウンは表側でしょ?…あ」
 スクワイヤ少尉が突っ込んだ。しかし突っ込んだ後で気付いてしまった。
「そう!我々は、主力がフォン・ブラウン側で敵とやり合ってる間、グラナダにちょっかいを出されない様に張り付くのが仕事と言う訳だ!」
「はあ…いつも通りじゃないですか」
 少尉は大きく溜息をついた。やはり主戦場にはお呼びでないと言うわけだ。偵察の次は見張り…結局そういう役回りなのだ。
「少尉、主戦場だけが花ではないぞ。我々の任務がなければ、主力は思う存分戦うことができない」
 フジ中尉がもっともらしいことを言う。わかりきったことを懇切丁寧に説明してくれるのでありがたい。
「まあ、必ずしもフォン・ブラウンが本命とは限らんさ。仮にそうだとしても敵としてもアンマンからの掩護などはなるべく牽制したいだろうし、それなりの規模の戦闘にはなるはずだ」
 早くも大尉は、戦いたがっている少尉の本音を察しているらしい。
「ま!これで我々の次の動きはわかったろ!各自、自分の相棒の手入れはしっかりしとけよ」
 そういって艦長は我々を見渡したあと、また資料を眺めながら椅子を回して背を向けた。そういえば、彼はずっと資料のページをめくっていなかった気がする。
 本当に眺めているだけなのか艦長。呆れつつ、スクワイヤ少尉は退出する大尉達に続いた。

2話 月面都市
0638◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:13:27.68ID:JcV85rst0
 スクワイヤ少尉達は狭い格納庫へと辿り着いた。本来サラミス級はMSの運用を想定していなかった為、船外にMSを立たせている事が殆どだった。彼女らの艦はその劣悪な整備環境を改善する為に増設された格納庫がある。
「しかし狭いな。整備も大変だろう」
 大尉がこぼす。
「大尉は地球ではカラバの艦にお乗りになっていたとか?ガルダ級はさぞかし広い格納庫があったでしょうな」
 中尉のそれは若干棘のある言い方だった。やっかみかと思いつつも、まあ羨ましい気持ちもわからんではない。サラミス改はMS3機を並べるだけで殆どスペースは無かった。
「良い艦だった。だが、それは格納庫が大きかったからではないな」
 そういって大尉は面々を見つめた。怪訝そうなフジ中尉と、暗い表情のスクワイヤ少尉。それはいつもだが。
「艦の良し悪しは乗員次第だ。私は、皆が帰れる場所を作っていきたいと思っている」
 何ともこの艦には似つかない青臭さだった。しかしスクワイヤ少尉には、大尉の顔の火傷がその青臭さに現実味を帯びさせている様にも思えた。
0639◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:13:59.71ID:JcV85rst0
「…そうなれば良いですがね。大尉の機体はこちらですよ」
 軽い溜息をついた中尉は傍の手摺りを掴み、手の中で滑らせながら床を軽く蹴って進む。フジ中尉に続くスクワイヤ少尉とワーウィック大尉は、一番奥にある機体へと近付いた。
 そこにあったのは、GMなどと比べると細身の機体だった。一般的な機体しか乗ってこなかったスクワイヤ少尉からすると、あまり見慣れないフォルムだ。大型のバックパックが目を引く。
「Z計画の発展試作機…百式改です。本来ならオリジナルの百式と同じ様に耐ビームコーティングを行う筈だったのですが、如何せんコストがかかりすぎます。その関係で通常装甲のエゥーゴカラーに」
 中尉がまくし立てる。
「これはまた希少な機体を回してくれたものだな。性能は?」
 大尉は腕を組んで機体を見上げている。
「以前乗られていたマラサイよりは高性能です。火力と機動力には目を見張るものがありますよ。とはいえ、それこそZの様なフラッグシップモデルには敵わないといったところでしょうか」
 中尉が即座に応えると、大尉は満足げに微笑んでいた。
「流石フジ中尉、聞きたいことは大体頭に入れてくれている…助かるよ。しかしこの機体、私には十分過ぎるくらいだな」
「エイリアンみたいな頭…。嫌いじゃないですよ」
 スクワイヤ少尉は胸の前で手をパクパクと動かして、チェストブレイクしたエイリアンの真似をした。
「エイリアンか。また古い映画を」
 大尉が笑った。何の事か解っていない様子の中尉は首を傾げた。
「中尉も知らないことはあるんですよね」
 茶化す様に少尉が言うと、彼はフンと鼻を鳴らした。
0640◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:14:32.10ID:JcV85rst0
「君らはずっとこのGM2か」
 振り返った大尉は、少尉達の機体を眺めている。
「ええ。スポーツカーみたいなの渡されても困りますし…これで良いんです」
 そういいながらも少尉は内心この機体には飽き飽きしていた。反応はイマイチな上、直線の加速もそこそこ。
 かといって特別小回りが利くわけでも無いし、装備出来る火器も大したものはない。
「そういう割に不満はありそうだな?」
 少尉の顔を覗き込む大尉。どうも少尉は考える事が表情に出やすいらしい。
「我々にはこれで十分です。大尉の様に武勲を挙げている訳でもありませんから」
 割り込むようにまた嫌味ったらしく中尉が言う。糞真面目な中尉には、この面白みのない機体がお似合いだ。
「これからは武勲を挙げることになるさ、嫌でもな…。さて、私は機体に慣れておきたい。少し籠もるよ」
 そういって大尉は自分の機体のコックピットへと消えた。
0641◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:15:05.58ID:JcV85rst0
 大尉が機体を触っている間、フジ中尉も自分の機体を調整していた。スクワイヤ少尉も自分の機体の元へ来たものの、前回の損傷を補修したばかりでそんなに弄る部分もない。
 暇を持て余しつつ、コックピットから格納庫の中を眺めていた。
 新入隊長と堅物上司、飲んだくれ艦長…。濃い面子だが、スクワイヤ少尉はこの隊長の加入と新たな作戦指示に少し気持ちが踊る心地がしていた。

『パイロットの諸君!支度は出来ているか』
 その飲んだくれから各員へ通信が入る。
『お陰様で万全です。まさかこれほどの機体を回して頂けるとは』
 大尉が嬉しそうに応える。
『いやはや、私も驚いたがね…!戦果を期待しておりますよ』
 モニター越しに手を揉みながら艦長も笑顔である。恐らく彼はこの機体の価値など理解していない。何せ"そんなものもあった"などと言っていたばかりだ。
『慣熟とまではいかなくとも、大尉も実際に機体は動かしておきたいだろう。3機で偵察がてら指定宙域へ先行したまえ。そろそろ艦も動かさねばならん』
 そういって艦長は椅子へ座り直した。
『了解。GM2両機はどうか?』
『問題ありません。いつでも』
 大尉の声に、フジ中尉がレスポンスよく応える。
『私も行けます』
 少尉も手短に応え、出撃を待った。
0642◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:15:32.88ID:JcV85rst0
 ワーウィック大尉を先頭に、3機はサラミス改から立った。指定された暗礁宙域はここから程なくのところにある。恐らく敵機と遭遇する事もあるまい。
『2人の操縦技術は評価が高い様だな。それに引き換え、私は慣れない機体でかなり久々の宇宙だ…。背中を預けるつもりでいるから、頼んだぞ』
 大尉はそういいながら百式改で様々な動作を確認していた。ブースターを吹かし、四肢を使ったAMBACの作用と組み合わせて機体の旋回などを行う。
 宇宙では3次元的な動きを求められる為、正確な空間認識能力が無ければたちまち制御を失う。
 しかし大尉の動きを見るに、とても最近宇宙へ上がったばかりとは思えないコントロール技術だった。百式改は高機動な反面、操縦にかなりの技量を要求してくる筈だ。
 開発元の百式も、かの高名な赤い彗星が乗っていると聞く。これ程の機体とパイロットが何故こんな部隊に配備されたのか、少尉も首を傾げざるを得ない。
0643◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:16:09.98ID:JcV85rst0
「何故大尉は…いや、言い方は悪いかもですけどね…?こんな閑古鳥が鳴いてる様な部隊に来たんです?」
 スクワイヤ少尉は思い切って聞いてみた。
『嫌に自己評価が低い』
 大尉が笑う。中尉は無反応だ。
「だって、そうですよ。オンボロ艦の艦長は飲んだくれだし、私達も糞の役にも立たなくてまともな作戦には参加してませんし」
『また辛辣だな少尉』
 話しながらも彼は機体を動かし続けている。見る限りやはり腕が立つのは明白だった。戦い慣れているのが傍から見ても解る。
『少尉の言うところも、まあわからんではないさ。だが、少数派のエゥーゴが伸び代のある部隊を持て余すと思うか?私の様な前線にいた人間を回して、戦える人員を育てるのも課題なのさ』
「ふーん…」

『まだ少尉は腑に落ちない様だな』
 そういって大尉はまた笑う。が、話に割り込むようにしてレーダーに反応があった。
『中尉!これは…』
 大尉が頭を切り替えるようにしてフジ中尉に説明を促す。
『大きさからしてMSが2機でしょうか?味方の識別信号は無し…しかしこんな場所で…?』
 デブリも多く、まだ姿は見えない。しかし恐らく相手もこちらを見つけた筈だ。
 スクワイヤ少尉は先程までの話をすっかり忘れた。ヒリヒリと肌を刺す戦いの匂い…ふと、昂ぶる自分に気付いた。

3話 エイリアン
0644◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:17:13.47ID:JcV85rst0
『私の両翼につけ!各機離れすぎるなよ…。デブリの位置も考えながら動け』
 ワーウィック大尉が指揮を執る。フジ中尉は指示通り右翼についた。
「一旦様子をみますか?」
 中尉は周囲を索敵し、前方の2機以外の機影がないことを確認する。とはいえ何者かわからない以上、下手に動くべきではない。
『いや、目視出来る位置までこのまま接近しよう』
 ジオン上がりのこの男は怖いもの知らずの様だ。或いは余程腕に自信があるのか。確かに並の腕では無いのだろうが…。
「この宙域で敵と遭遇する事自体イレギュラーです。やり過ごすのもひとつかと」
 釘を刺したが、行軍を止める様子はない。
『大丈夫だ。無理はしない』

 敵も動きを止める様子はなく、接触は時間の問題だった。中尉達はデブリの影に隠れつつ距離を詰める。
『よし…2機ともここで一旦待機。私が先に単騎で行って指示を出す』
「無茶です!いくら新型といえど…」
『その心遣いには感謝する。だが…まあ見ていろ、一瞬だ。気を抜くな』
 そういうと、大尉はそのまま行ってしまった。その動きに気付いてか、敵の動揺が見て取れた。まごついて敵が足を止めたその間に、大尉の百式改は急接近した。
『ハイザックが2機!装備はビームライフル携行だ!私はこのまま中央から叩く!両機は左右で挟み撃ちにしろ!』
 状況を咄嗟に判断した大尉の指示が飛ぶ。中尉達もそれに続く形で敵を強襲することとなった。
0645◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:18:42.88ID:JcV85rst0
 宣言通り敵の中央を突破した百式改は、敵が振り向くより早く反転すると、敵のコックピットを的確にライフルで捉えた。
 撃ち抜かれ沈黙した僚機を置いて、離脱しようとするもう1機のハイザック。中尉が追おうとしたその先に、敵を阻む左翼のスクワイヤ少尉が見えた。
 彼女のGM2は抜刀すると、スプレーガンで牽制しながら敵の進路を絞り込んだ。敵も流石に素通りする気はないらしく、銃撃をかいくぐりながらヒートホークを発熱させる。
 交差する機体とその刃。

『少尉!』
 ワーウィック大尉の声が響く。しかし、舞ったのは切断された武器を握りしめたハイザックの左腕だけだった。
『大丈夫です隊長』
 幸い少尉の機体は無事だったが、そのまま敵機は戦域を離脱していく。
「ワーウィック大尉、如何されますか」
 ここで見逃す男ではあるまい。見逃せるところを敢えて先手で潰しに掛かる様な隊長だ。
『レーダーが許すギリギリの遠距離から敵を追う。近くに母艦が居る筈だ。しかし…』
 中尉の予想に反して大尉は言葉を濁した。
「…敵も恐らく追われるのは承知の逃走でしょうね。作戦行動中だったのであれば、何か思惑があるかもしれません」
 この隊長は猪突猛進している訳ではない様だ。敵はそのままのこのこと母艦の位置を知らせるなど、素人の様なことはしないだろう。とはいえ、仲間にこの遭遇を伝えない訳にもいくまい。
 こうして考えている間にも、敵機はどんどん離れていく。
0646◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:19:23.07ID:JcV85rst0
『…中尉がやつならどうする?』
 大尉に問われた。その試す様な物言いが癪に触ったが、今は一刻を争う。
「私なら可能な限り撒きます。母艦から引き離すことができれば少しはやりようもあるでしょう。ここでいう母艦というのは」
『我々の艦だな』
 流石に物分りがいい。分かっていて聞いたかのようで余計に印象は悪いが。
「そうです。気付いたらこちらが敵に囲まれていたなんて事も十分あり得るかと」
 モニターの向こうで少尉が首を傾げているが、彼女に説明している暇はない。
「どうします?」
『それを頭に入れた上で追うとしよう。機影があればすぐに引き返す。中尉の懸念が現実になる前にな』
『とりま追うんですね』
 少尉が面倒臭そうに言う。その態度を説教してやりたいところだが、今は抑えた。
0647◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:20:30.35ID:JcV85rst0
 付かず離れずの距離を保ちながら敵を追う。GM2のセンサー範囲はハイザックのそれと大凡同じだ。追われていることは確認しているだろう。
 思った通り、敵は直進せずに迂回しながらこちらを気にしている様に見えた。
『中尉、流石に現状の進路から到着地点予測までは出来ないか?』
 大尉が無茶を言う。
「それはいくらなんでも…いや、やってみます」
 敵の推進剤を考えると、撒くとはいっても進路を大きく逸れることは出来ないはずだった。
 同じ母艦の別働隊がいると仮定して、それらと落ち合いつつ自身も母艦に帰還できるポイント…。そんな場所はそう多くは無いだろう。
 フジ中尉は、周囲の座標を確認しつつ、暗礁宙域のデブリやミノフスキー粒子濃度など様々な環境データをかき集める。この辺りの索敵はこれまで散々やってきた。

「…どうでしょう?この辺り」
 絞られた地点は、どれも似たような位置を示していた。デブリが多い為目視が難しく、ミノフスキー粒子を散布した形跡も近くにある。
 散布した場所を何かしらが通過しているのは明白だ。敵にとっての目印は、我々にとっても目印になる。
『すごいな…これだけのデータを即席で照らし合わせたのか?』
 大尉は本当に驚いている様子だった。正直悪い気はしない。
「驚く暇があれば次の指示を頂きたいですね」
『手厳しいじゃないか…いや、その通りだな。この座標から選ぶならここだ。』
 いくつか提示した座標の中から大尉がひとつを選んだ。
『パズルのピースが揃ったみたいだな。この座標に我々をおびき寄せるつもりなら、背後をつける場所はここ。そしてそうなれば…』
 大尉はまた別の座標を示していく。

『…ここが敵の母艦の位置だ』
 そこは、本来サラミス改が通過する予定経路の横っ腹だった。

4話 遭遇
0648◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:21:21.54ID:JcV85rst0
 スクワイヤ少尉は殆ど除け者にされた状態で、話だけがトントン拍子に進んでいる。とりあえず2人に付いてきた形だ。
『これは…追いかけてきた甲斐がありましたね』
 中尉が唸る。よくわからないが、敵母艦の居場所を掴んだらしい。
『これだけ判れば長居は無用だ。追撃は中断して帰還するぞ。しかし、まさか中尉がここまで優秀とはな…。』
 ワーウィック大尉が嬉しそうに笑う。それを見て、少尉は何となく嫉妬に近い感情を中尉に抱いた。
「まあ、私が敵を泳がせたからこそですけどね」
『よく言う。仕留め損なっただけだろうに』
 中尉が相変わらず冷徹に言い捨てる。やはりこの男は好きになれない。
 正直いって、あのハイザックは落とせた。その上で意図せず取り逃したのも事実だが、こうも言われれば腹も立つ。
『喧嘩するんじゃない、全く…。中尉だけじゃない、勿論少尉もよくやってくれたさ』
「すみません」
 大尉の一言で少し気が晴れた。ちょろいもんだと自分でも思うが。
0649◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:21:44.41ID:JcV85rst0
 追手に警戒しつつ暗礁宙域を抜け、当初指定されていた地点へと到達する。そろそろ艦長達も合流する筈だ。
『ここでサラミスと合流したとして、計画通りに進路を向けてしまうと先程の連中に腹をみせる事になりますね』
 ひと息ついたところでフジ中尉が口を開いた。
『母艦の位置こそ掴んだが、敵の戦力は未知数なままだしな。ここにいた理由も不明だ』
 大尉の言う通り、わざわざボロ艦を待ち伏せするとは思えない以上別の目的がありそうだ。
「偶然出くわしただけかもですよ?あっちも慌ててるかも」
『確かにな。折角だし、これからの作戦遂行の為にも敵の芽は摘んでおきたい。合流したら報告だ』
 そういって大尉が深く息を吐いた時、サラミスからの識別信号が届いていた。
0650◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:22:21.64ID:JcV85rst0
『遅くなってすまんな!』
 何も知らない艦長の能天気な声が響く。ちょっと散歩にでも出てきた様な風情だ。
『艦長、急ぎお伝えしたいことがあります』
 大尉が真剣な面持ちで返す。
『ふむ、収穫が既にあるとは流石だな!補給がてら帰投したまえ』
 モニター越しの艦長は見るからに満足げである。実際のところ、ここ最近の任務に退屈していたのは少尉だけではなかったのかもしれない。
 こんなに活き活きしている艦長を見るのは久しぶりだった。
 3機とも着艦すると、機体をメカニックに任せてブリッジへと急ぐ。到着すると出発前と変わらない様子の艦長が出迎えた。

「艦長、この先に敵母艦が居る可能性がかなり高いです」
 ヘルメットを脇に抱えたまま、単刀直入に大尉が切り出した。
「機影があるか?」
 グレッチ艦長はグレコ軍曹の方を振り返った。
「えと…いや、確認できません」
 おどおどと軍曹が応える。機影があったら既に大慌てしているだろうに。流石の少尉もその位はわかる。
「…そうでしょうね。先程遭遇戦がありまして、退却した敵のルートから位置を割り出しました。まだ距離がありますが…」
 やや呆れ気味のフジ中尉が眼鏡を掛け直しながら言った。
「わかった!お前達の言うことを信じよう。兎に角急ぐのだな?」
 艦長にしては決断が早い。いや、詳細が分かっていなくても要点を掴むのが上手いとでもいうのか。
「艦長、中尉に立案を頼みたいのですが如何でしょうか。まだあの座標付近に母艦がいるとして…」
 大尉がそう言いながらブリッジの正面窓の上に、拡大された宙域マップを写した。中尉が手早く敵艦の座標を入力する。
「よし。中尉、続けてくれ」
 艦長はモニターを注視している。スクワイヤ少尉もその場に立ったまま、皆と共にそのマップを見つめた。
0651◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:23:05.49ID:JcV85rst0
「ありがとうございます。…ご覧の通り、このまま直進すれば確実に接敵します」
 中尉が指し示すマップに表示された月面拠点アンマンへの進路の途中、ここからすぐの位置で接触が考えられた。中尉はそのまま説明を続ける。
「迂回して躱す事も出来ますが、時間が掛かりすぎます。
 それに恐らく敵はこちらに居場所を掴まれている事を知りません。この辺りに駐軍している目的は不明ですが、先手で叩いておいた方が憂いは無いかと」
 そこまで一気に話し終えると、フジ中尉は艦長を見つめた。腕組みをして唸る艦長。
「しかしなぁ…こちらも寡兵だ。相手の戦力を把握していない以上、危険じゃないか?」
 珍しく艦長が真っ当な物言いをしたので、少尉はいささか驚いた。また顔に出ていたのか、艦長が不満げな顔で少尉を見る。
「なんだあ?少尉…。俺だって仕事くらいするぞ!それとも何か案でもあるのか?」
「いやぁ、物珍しくて…。私は攻めるのに賛成ですよ。だって敵がそこにいるんでしょ?」
「馬鹿にしてんな小娘め…。だが敵を避けるのは確かに歯痒いな」
 虎髭を弄りながら艦長がいう。

「あまり時間をかけると敵の位置がわからなくなります。叩くなら急ぎましょう」
 大尉が決断を促す。
「むむむ…。よし!ここはいっちょ派手にやるか!アンマンの奴らに土産が要るだろうしな…やられる前にやるしかねぇ」
 そういって艦長が椅子から立ち上がった。いつもより少しは艦長らしい姿だ。そのまま中尉の方へ向き直った。
「それで?具体的にどう叩くつもりなんだ中尉」
0652◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:23:57.82ID:JcV85rst0
「そこですが」
 中尉が大尉と目を合わせる。
「大尉に単騎で先行して頂きたい」
「なんちゅうことを言う!」
 早速艦長が取り乱す。この提案は少尉も予想していなかった。
「私は構いませんよ。百式があればやれます」
 当のワーウィック大尉は全く動じている様子がない。2人で案を照らし合わせてはいない筈だが、大尉も確信がある様だ。
「勿論我々も出ます。しかし敵との戦力があまりに違い過ぎた時、大尉以外は足手まといになりかねません。
 何かあっても大尉単独なら帰還できるはずです。大尉からの指示を受けるまでGM2は少し後方で待機すべきかと」
 中尉は淡々と述べた。少尉としてはワーウィック大尉に付いていきたいのだが、そうも言っていられない。
「それでやれるというのか…本当に…?」
 艦長は一転して伏目がちになった。
「…いや、お前達に任せてみよう。これで返り討ちに遭うなら、きっと遅かれ早かれだ。
 急いで準備にかかれ!本艦はこのまま進路を予定通り進む!座標に近づいたらタイミングを見計らって全機出撃、本艦もMS隊が帰還できる速度まで一時減速する。無理は禁物だぞ…」
 踏ん切りがついた様に艦長が指示を飛ばす。
「「「了解」」」
 少尉達はすぐに踵を返して機体のもとへと戻った。
0653◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:26:20.27ID:JcV85rst0
「…無茶な作戦だな全く」
 格納庫へ軽く駆けながら大尉が口を開いた。そう言う割に口元は少し緩んでいる。
「急な立案をさせられて出てくるものなど、たかが知れてますからね」
 性懲りもなく毒づく中尉。
「まあ、私は隊長なら大丈夫だと思いますよ。強いし」
 少尉なりに元気付けようと言ってみた。実際、彼なら敵を退けてしまいそうな感がある。これまでの様々な情報が積み重なって、いくらか大袈裟に見積もっているのかもしれないが。
「少尉にも期待している。2人共、支援を頼む」
 乗機のもとへ辿り着くと、3人は手早く機体へと乗り込んだ。行き当たりばったりな作戦にも思える。
 下手をするとここで早々に全滅も有り得るのだが、頭の中で退屈しながら死を弄ぶ事に比べると遥かに心躍る時間になりそうだ。

5話 先行
0654◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:27:23.26ID:JcV85rst0
「何!?こんなところでエゥーゴ??…わかった、お前だけでも帰ってきてくれて良かったよ。おかげで次の手が打てる」
 僚機を失い自身もボロボロになって帰ってきた部下の報告を受けた。
 この艦…アレキサンドリア級を統率しているのは、黒髪の両サイドにブロックを入れた女性士官、ティターンズ所属ドラフラ・ウィード少佐である。
 白い肌と鋭い眼光のコントラストが見るものをハッとさせる。まだ30歳ほどの彼女だが、士官学校から一気に駆け上がるようにして今の地位まで上り詰めた。
 部隊は、母艦アレキサンドリア級を運用しての航行中であった。幸い遭遇戦を行ったのは偵察組で、本命は別にある。すぐにその本命の部隊へ召集をかけた。

「話は聞いた?」
 ウィード少佐はブリッジに到着した3人と向き合う様にして立つ。
「うん、エゥーゴでしょ?何でまたこのタイミングで…」
 応えた先頭のパイロットがヘルメットを脱ぐ。
 ブロンドのロングヘアに首を軽く振っている彼女はフリード・ドレイク大尉。その美しい髪とグリーンの瞳が光っていた。ウィード少佐とは同期である。
「新型っぽいのが居たらしい。テストか何かしてたのか…」
 そう言いながら、ウィード少佐は腕組みしながら近くの壁にもたれかかった。
「だったら捕獲しちゃえば良いんじゃない?新型ゲットに情報も取れて一石二鳥よ」
 もう一人、ドレイク大尉の背後からひょいと顔を出してそう言ったのはリディル・オーブ中尉だ。彼女は小柄で童顔の為まるで子供の様だが、何ならウィード少佐達と歳はさして変わらない。
 ピンで赤毛を横に留めて額を出しているせいか余計に幼く見えるのだが、本人はそれが楽とのことだ。
「そう簡単にはいかないぞ?しかしな…その困難な使命が我々をまたひとつ強くする…」
 女性陣の後ろで腕を組む筋骨隆々の男はラム・ソニック大尉。角刈りで常ににこやか、爽やか風でむさ苦しい。
 恐らくわかった上でやっているというのが余計に面倒臭いのだが、やる時はやる憎めない男だった。
0655◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:28:09.28ID:JcV85rst0
「あー…。おーけー、そしたらあんた達的には素通りしてやり過ごす気はないわけね?」
 ウィード少佐は、両手でやれやれとジェスチャーしながら首をひねった。
「そんな見た目で意外と弱気なのよね?そういうところも良いと思うわ」
 ドレイク大尉が茶化してくる。
「うるさいわね…。しかし今敵の本隊が何処に居るのかさえわからないし…」
 そこまで言ったところでレーダーが機影を捉えた。
「何だあれは…。識別信号なし、データベースにもない機体か。早速、敵さんから出向いてくれたって事じゃないのかい?」
 オペレーターの傍で情報を確認したソニック大尉がこちらを見て微笑んでいる。あとすごく二の腕の筋肉を主張してくる。
「てかあの速度で接近されたらやばくない??あたし達早く行かないと!」
 オーブ中尉の言う通り、高機動な機体のようだ。明らかにこちらを捉えて突進してきている。しかも単騎である。
「はあ…ゆっくりしたかったのに…。しゃーなし!あんた達、お出迎え頼むよ!」
0656◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:29:03.33ID:JcV85rst0
 ウィード少佐がそういうと3人はバタバタとブリッジから退出した。また幾らか静かになったところで、冷静に状況を見極める。依然として敵機は接近中だ。
「お友達は皆血気盛んですなぁ」
 さっきまで黙っていた副官のナイト・レインメーカー少佐が腰を上げた。
 落ち着き払った初老のこの男は、ちょび髭がトレードマークの相談役だ。MSで出撃することも多いウィード少佐に代わって艦の指揮を執る事もある。
「落ち着きがないのよ連中は…」
 溜息混じりにウィード少佐がそういうと、彼はニカッと笑った。
「羨ましくもある。今の私にはあのノリは出せません」
「レインメーカー少佐までああなってしまったら、私はいよいよ気がおかしくなっちゃう」
 そういうと2人で少し笑った。
「…しかし、あの敵…何が狙いなのか。こちらの位置を掴んでいるあたり、無能なイノシシではありませんな」
 腰の後ろで手を組みながらレインメーカー少佐が呟く。
「確かに…。余計、こちらの作戦まで気取られる訳にはいかない」
「左様。何にせよ迎撃して正解でしょう。オーブ中尉の言うように捕獲までいければ上等ですが、まあ様子見ですな」
 格納庫から3機の出撃を確認した。すぐに交戦に入るだろう。大規模な艦隊行動を予定しているティターンズにとって、僅かな芽も摘んでおく方が後々の事を考えると有利だ。
 兎に角今は前線の状況を見ながらモニターに食い入るしかなかった。

6話 イノシシ
0657◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:30:04.35ID:JcV85rst0
 単独で接近する敵機を迎え撃つかたちで、ドレイク大尉達は隊列を組んだ。
 センターを取るのはソニック大尉のガルバルディγ。エゥーゴのリックディアスを解析して手に入れた新素材で外装を強化したガルバルディである。
 軽量な装甲材とはいえ、増加した分鈍重になった機体の運動性を損なわない様、ジェネレーターを高出力のものに換装して強引に動かしている。
 機動性は下がったままだが、気持ち程度のバーニア増設は行われている。

 その両脇を固めるのは、ドレイク大尉のガルバルディβとオーブ中尉のガルバルディα。ドレイク大尉のβは現行機種と殆ど大差ないが、それでもマラサイに勝るとも劣らない機体性能を備えている。
 そしてオーブ中尉の、本来は旧ジオンの機体であるαの改修機。こちらは高機動戦闘に対応すべく軽量化に主眼を置いている。元々近接攻撃に秀でた機体である為、俊敏でトリッキーな戦法が取れるのも強みだ。
 また3機とも連携の為センサー類を強化しており、その頭部はいずれもバイザータイプのものに外観が変わっている。
0658◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:30:38.22ID:JcV85rst0
「さてさて…。新型のお手並み拝見ね」
 ドレイク大尉は接近する敵機をレーダーで捉えていた。かなり近いところまで来ている。
『俺に任せてくれ!γのパワーがあれば蝿の一匹や二匹…』
『何言ってんのよ!あんたは、あたしが敵の足を止めた時に突っ込んで叩くのが仕事でしょ!』
 2人がまた喚いている。ウィード少佐が頭を抱えるのも無理はない。
「いい?あなた達…。指揮は私が執るのよ?」
『『了解ー』』
「聞き分けの良い子達ね。その調子」
 そのまま付かず離れずの間隔をとって敵を待ち構える。

 来た。緑色の、バッタの様なMS。
 翅さながらのスタビライザーと、後ろに伸びた曲線的な頭部。所々フレームの見えた四肢といい、その身軽さと相まって異形さが際立つ。
 デブリに跳び乗る様にして、敵は屈んだまま動きを止めた。双方睨み合いになる。
「何これ…。エゥーゴってこんなものも作るのね…」
 ドレイク大尉は思わずこぼした。虫は好きではない。
『仕掛ける?』
 オーブ中尉が身構えたまま聞いた。
「そうね…リディルが適任だわ、任せる。ラムもしっかり抑える用意を」
『わかった。この僧帽筋に誓って』
0659◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:31:28.31ID:JcV85rst0
 決めるやいなや、オーブ中尉のαが速攻を掛けた。敵の乗ったデブリに回り込む様にして背後を取りにいく。
 抜刀の動作もなく、ボックスタイプのビームサーベルで突きかかった。しかし敵はもうそこに居ない。
「上よ!リディル!」
 オーブ中尉の真上から、別のデブリを足場にしたバッタがサーベルで斬りかかる。中尉は敵の刃を受け止めず、宙返りする様にして再びデブリの背後に隠れた。
 バッタがそのデブリを切断すると同時に、すぐ後ろについたソニック大尉のγが両肩をがっしりと掴む。
『捕まえたぁ!!』
 しかし敵はスタビライザーと大型バーニアを偏向させてγの肩関節へ向けると、勢いよく噴射した。オーバーヒートを恐れたγは堪らずその手を緩める。
 すぐに身を翻したバッタが正面から袈裟斬りにする。咄嗟に両腕で庇ったγが、増加装甲を炸裂させることで敵の粒子を相殺。どうにか再び距離を取った。
0660◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:32:07.33ID:JcV85rst0
『こいつ…怖いもの知らずねッッッ』
 間髪入れず再びαが刺しにかかるが、躱し躱されの3次元でのドッグファイトが続く。上下左右の概念も無くなる様な高度な読み合いの中、敵の動きが止まる気配はない。
「これだけ振り回してもよく動くわ…。捕まえても直ぐに抜け出しちゃうし、困ったわね」
 翻弄される僚機達を眺めながら、どうしたものかと思案するドレイク大尉。するとその時、別の熱源反応を2つ感知した。
「増援!?これは…GM2!」
『こっちはそれどころじゃないの!…ッッッ!』
 αが敵の斬撃を交わしきれず左脚を失う。γにしても先程のダメージがあり、長期戦は不利に思えた。
「まだアレを使う訳には…」
『畜生!筋肉は使った後の冷却も大切なんだ!』
『うるっさいわねぇ!どうすんのよフリード!長くは保たない!』
「揃いも揃ってこれじゃねぇ…。仕方ない、撤退よ。私が殿を務める」
 そういってドレイク大尉はライフルを構えた。まずαに追いすがるバッタを狙撃して足を止める。躱されたものの、その隙をついてαは母艦へと一気に離脱していく。
 続いてγがじりじりと後退するのを支援しつつ、βは矢面に立った。
0661◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:32:43.79ID:JcV85rst0
 敵の高機動は性能面で優れているからこそだろうが、乗り手も尋常ではない。
「でも、やれない相手じゃないわ」
 距離を詰めてきたバッタに射撃を続ける。よく動きよく躱すが、支援を要請した辺り決して余裕がある訳ではあるまい。その証左か、遂に敵の肩を弾が掠めた。
 しかしそれとほぼ同時に、GM2が到着した。その内の1機が仕掛けてくる。
「逸っちゃって…」
 バッタとの間に割り込むようにして突っ込んできたGM2は、ビームサーベルを抜刀するとすぐさま斬り上げた。
 ドレイク大尉はシールドでそれをいなし、そのままシールド内蔵されたグレネードを至近距離で見舞った。
0662◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:34:40.23ID:JcV85rst0
 が、それは敵に炸裂しなかった。敵のGM2は弾頭を咄嗟に掴み強引な軌道修正をして避けたのである。
 背後で爆発するグレネードの逆光に、GM2のバイザーが蒼く光っている。そんな芸当をみせた相手は初めてだった。
「…!こんなやつらと連チャンやりあうのは…どうかしてるわね」
 γが確実に離脱したのを確認したドレイク大尉も、後退すべくバーニアを吹かした。更に追いすがろうとするGM2をバッタが制しているのも見えた。見逃してくれるらしい。

 敵のMSが追ってくる気配はない。そのまま僚機達に続いて着艦したドレイク大尉だったが、久しぶりに冷や汗をかかされた自分に少し苛立ちを覚えていた。
 バッタは勿論、GM2が脳裏に焼き付いて離れない。あの回避行動はまぐれではあるまい。繊細なマニピュレータの操作とそれを実戦で行う度胸…。
 もし回避でなく攻勢に転じる動きだったらと思うと、首の皮一枚繋がった心地がした。思わず自らの首筋に触れる。
 各機の被害状況確認で慌しいメカニック達をよそに、ドレイク大尉の胸のうちは静かに震えていた。

7話 静かに
0663◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日) 23:55:03.07ID:JcV85rst0
今日はここ迄!
10話くらいいきたかったんですが、添削しながらは普通にしんどいですね…これでも結構頑張ったつもりですが笑
また書き溜めて、話的に切りのいいところでまとめて投下します!pixivはもうちょい待ってください…笑
0665◆tyrQWQQxgU 2019/12/25(水) 17:08:18.60ID:npqKeYdO0
>>664
ありがとうございます!
また更新しますんで、ゆっくり読んでください!笑
0666通常の名無しさんの3倍2019/12/25(水) 23:30:52.53ID:eAQEBsgp0
乙です!

マラサイから百式改とは、また跳びましたね...バッタだけにw
カラーリングもワーウィックが乗るのもあって納得です、目立ったら負けな方の戦線ですもんね。
てか金ピカはエマルジョン塗装とか言ってるけど、デモカラーにしか見えない(笑)

フジ中尉、思ってたより機転の効く人でびっくりしました、生真面目なだけでなく肝が据わってるんですね(失礼)。
そしてフジとワーウィックの間に入れないスクワイヤ、ミサイルを手で弾くとか恐ろしいことしますね ((((;゜Д゜)))。
あの技はスクワイヤの才能を見せると同時に、初期のワーウィックに通じる連携戦術の弱さを伝えるものに思えました。
彼女どうなっちゃうんでしょうね...

ティターンズの娘っ子たち+筋肉+お爺さん、普通にいい人たちっぽいなぁ...
死んでほしくないなと思う反面、どう戦況に巻き込まれていくんだろうとwktkしている自分がいます(おいおい)。
訳が分からないまま終わるのは可哀想ですけど、そうなってしまうのも戦争の異常性なわけで(フラグ立てるな、おい!)。

まぁ実感として、グリプス戦役後半を描く以上は第一部のような大団円は難しいだろうなと素人なりに思うわけです。
そこも含めて今後が楽しみです、よい年末を!
0667◆tyrQWQQxgU 2019/12/27(金) 00:47:46.49ID:zsWGJwoj0
>>666
コメントありがとうございます!

あれだけ暴れまわっていればそれなりの機体が回ってくるはずかなと。
カミーユみたいな子供ですら、実績さえ挙げればZが回ってきてますしね。
しかし百式改って、色変えたら完全に悪いやつの見た目してると思うんですよ…頭長いし…笑

キャラクターの考察は特に嬉しいです!ありがとうございます!
自分で書きながらワーウィックは成長したなぁとしみじみ…笑
新規の2人は光るものがありつつも、まだこれから成長していく過程をストーリー的にも大切にしたいところです。
特に主人公のスクワイヤ少尉はどう書いていこうか未だに悩む部分が多いです。

ティターンズの面々は、第1部だとサドウスキーがいつぞや言っていたような"わかりやすい悪役"だったので、今回はもっと平等にキャラクターをつけました。
その辺りももう一つの軸にしていければと。

正直、第1部がそうだったように、あまりZ本編(特に後半)の様な陰鬱なトーンでは書きたくないと思ってました。舞台が同じなので余計に。
しかし今回はもっと過酷な環境下でキャラクター達を動かしたいとも思っているので、どうなるか自分でも楽しみです。
0668◆tyrQWQQxgU 2019/12/28(土) 02:25:51.16ID:k9rxMFLw0
今日は(恐らく)プラモ組み納めだったので、第一部の最終決戦風な画像でも上げておきます。笑https://i.imgur.com/HH6yvJM.jpg

始まったばかりの第ニ部ですが、地味に書き進めているので年内にこちらはまた更新したいところです。
https://i.imgur.com/UHBYOXk.jpg
0669◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 16:28:30.40ID:VILRIuWI0
お待たせしましたー!
今年ももうじき終わりますが、今年最後の投下!よろしくお願いします。
0670◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 16:29:15.42ID:VILRIuWI0
 あのまま続けられる自信がスクワイヤ少尉にはあった。しかしそれを止めたのはワーウィック大尉だった。
「何故止めるんです!」
『やつら…性能はそこそこだったが、特殊な改造を施した機体だった。仮にわざわざテストの為にこの宙域に居たのなら、まだ大物を隠している可能性が高い』
「だったら余計叩いた方が!」
 食い下がる少尉。
『今の我々の戦力では無理だ』
 横からフジ中尉も口を挟む。そうこうしている間に敵との距離は開いてしまった。

「私では戦力不足ですか」
 渋々帰投しながら少尉は思わずこぼした。大尉の様な戦闘技術や撃墜実績はないし、中尉の様には頭も回らない。それでもやれると思っての行動であった。
『そういう事ではないさ。さっきの戦闘…少尉のあれは並のパイロットの動きではなかったと私は思うがな…危ういくらいに。しかし今やつらを追うのは我々の任務ではないだろう?』
 ワーウィック大尉の言うことがわからない訳ではなかった。それでも、目の前の敵をみすみす逃すことに耐えられなかった。やっと巡ってきた本格的な戦闘のチャンスだったのだ。
0671◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 16:29:58.90ID:VILRIuWI0
『また死にたがりか』
 フジ中尉だった。長い間少尉の中で堰き止められていた何かが遂に決壊した。
「中尉に何がわかるって言うんです!?」
『わからんさ。わかりたくもないな』
「こんな辺鄙な宙域でいつまでも予定調和な哨戒任務ばかりやって、それで平然としてる方がよっぽどわかりませんよ!」
『死にたがるのは自由だが、そんな好奇心じみたものの為に少尉は人を殺せるのか?』
「何を今更!人を殺すのが仕事でしょ!?」
『2人とも…よすんだ』
 血が昇った2人とは対照的に、止めに入ったワーウィック大尉の声は恐ろしく静かだった。その有無を言わさぬ雰囲気に気圧され、口をつぐんだ。

 居心地の悪い沈黙のなか、少尉達の部隊は速度を落とし先行しているサラミスを追っていた。先程の敵も、もうこの宙域を離れている頃だろう。
『…2人の言い分もある。同じ様に、私にも言い分がある。だからこれだけは言っておきたい。2人の判断や能力が相手に劣っていた訳ではないと思っている。
 タイミングさえ合えばあんな連中に遅れを取る我々ではない筈だ…そうだろ?』
 ワーウィック大尉が宥めるようにして言った。どうも気を遣いすぎる男だ。その気遣いが今の少尉には痛かった。理屈で解っていても、気持ちが逸るのを抑えられなかった自分が酷く惨めに思えた。
「…やっぱり戦っていたいんです。その為にエゥーゴに入ったから」
『私もそうだ。だからこそ今は堪えてくれないか?来たるべき時に少尉の力は必要になる』
「…わかりました」
 少し気持ちも落ち着いてきた。これまでの日々は、途方もなく広い宇宙に居て人ひとりの存在などちっぽけ過ぎて実感も湧かなくなっていたところだったのだ。
 久しぶりに芽生えた存在意義の様なものが、自分を熱くさせたのかもしれない。
『フジ中尉も、君の物事を見る力はもっと冷静に使うべきだ。それが出来る判断力も持ち合わせているしな。間違っても仲間を煽るのにそれを使ったりするんじゃない』
『お見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません』
 すんなりと中尉は詫びた。しかしそれは少尉に対しての謝罪では無かった。当分溝は埋まりそうもないと少尉は感じた。
0672◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 16:30:31.58ID:VILRIuWI0
 程なくして帰還した少尉達は、報告の為ブリッジへと足を向けた。彼女らを回収した艦は、再び元の速度でアンマンを目指し始める。
「おう!戻ったな!…何かあったか」
 重い雰囲気を察してか、珍しくグレッチ艦長が気にかけている。
「少々、喧嘩しましてね…」
 大尉が頭を掻きながら苦笑いしてみせた。その後ろで少尉達は変わらず黙りこくっている。
「なるほどなぁ…。まあ、たまには良いんじゃねえか!大尉もここに来たばっかりだし、俺達は元々てんでバラバラな人間の集まりさ…衝突してなんぼだぜ」
 こういう時には、この艦長の気楽さがありがたかった。
「それで、敵さんはどうだったかね」

 ワーウィック大尉から一通りの報告がなされた。
「…以上です。尻尾しか掴めなかった感触でしたが、こちらも足を止めずに済んだと思えばおあいこですね」
 そこまで聞いて、艦長は進路を映したモニターを見つめた。
「おかげさんで割とすぐアンマンには着けそうだな」
「そのアンマンですが…」
 大尉が再び口を開く。
「補給時に色々とお願いがありまして」
「おうおう!大尉殿には助けられましたからなぁ!あれこれ言ってくださいよ!」
 また艦長が手揉みしながら笑っている。悪どい商人か何かの様に見えるのだが、本人は自覚していなさそうだ。それを見て大尉は微笑んでいた。
0673◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 16:31:41.36ID:VILRIuWI0
 暫くしたらアンマンに着くと言うので、パイロット達はそれまでしばし休息ということになった。各々、自室へと帰るよう言われた。
 大尉だけはそのまま少し艦長と話していたが、あの後何を話していたのだろうか。
 スクワイヤ少尉は、何もない狭い部屋に戻ってきた。殆ど寝るだけの場所で飾ることも出来ない。
 とりあえずシャワーを済ませ、下着姿にシャツだけ羽織ってベッドに寝転ぶ。左腕を額に乗せ、その下から天井を見つめた。
「…死にたい訳じゃないんだけど」
 小さく声に出して言った。功を焦った訳でもない。ただ、何もしないでいる日々が耐えられなかった。
 このまま何も無いのなら、寧ろ死の先に何かあるかもしれないと、淡い期待を抱いただけだ。今は何かしら取り組めるものがあるだけ充実して感じる。
 そんな事を考えながら、うとうとと微睡み始める。眠るのに程よい身体の熱を感じながら、死ぬ時はこんな風にふわふわしていると良いなと思った。

8話 死にたがり
0674◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 16:38:57.19ID:VILRIuWI0
「…少尉。おーい…。入るぞ…。」
 スクワイヤ少尉が寝惚けていると、少し遠くでワーウィック大尉の声が聞こえている様な気がした。とりあえずその辺の布に頭から包まる。
「流石にそろそろ起きろよ…体調でも悪いのか?」
 大尉の声が近くなった。気のせいでは無かったらしい。そう思うと何故か心臓が高鳴ってきた。今顔を見られるのは、何となく恥ずかしい…寝起きだからか?
 布の切れ間から外を覗こうと思った時、その切れ間が丁度開いた。大尉だった。結構な近距離で目が合う。
「あ!うわあ!」
「うお!」
 つい少尉は驚いて額を額にぶつけてしまった。それにまた驚いて2人してバタバタと後ろに下がる。

「痛…いやいや、すまん、外から通信しても返事がないから体調が悪いのかと思って…見に来たんだが…」
 尻もちをついて額をさすりながら大尉が言った。少尉もばっちり目が醒めた。いや寧ろ恥ずかしさで開きすぎるほど目が開いている。
「お…おはようございます…」
 少尉もしどろもどろに挨拶をする。
「おはよう…あ」
 大尉と目が合うと、今度は大尉が恥ずかしそうに目を逸らした。
「ほんとにすまん…その…」
 そうだった。殆ど下着姿なのを忘れていた。もう恥ずかしさで爆発しそうだった。耳が熱い。また布に包まった。
「すみません…どの位寝てました…?」
 目を逸らしたまま苦し紛れに尋ねる。
「いつもより起床時間は2時間近く過ぎてるな」
 頭を掻きながら、同じく目線を逸らした大尉が言った。
「やっちゃった…。ごめんなさい、こんな格好で…。体調は大丈夫ですから…」
「そ、そうか…。早く支度しろよ」
 大尉は少しこちらを見て赤面したまま微笑むと、足早に退室した。赤面していたといっても、恐らく少尉程ではあるまい。少尉は意味もなく包まった布で顔をごしごしとこすった。
0675◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 16:39:39.66ID:VILRIuWI0
 とにかく急いで支度すると部屋を出た。
 まだアンマンには着いていないとはいえ、流石に寝過ぎた。作業というほどの作業はさしあたって無いのだが、昨日のことを考えると大尉が心配するのも仕方なかった。
 とりあえずちゃんと謝る為にも大尉を探す。
「ん、少尉か。大尉が心配していたが…大丈夫か?」
 フジ中尉と出くわした。昨日は昨日で言い争ったものの、中尉は特に変わりない様子だった。
「すみません、大丈夫です。中尉もその…昨日は申し訳ありませんでした」
「ああ、私も言い過ぎた。気にしないでくれ。…大尉なら今頃ブリッジだ」
「ありがとうございます」
 軽く会釈してブリッジへ向かった。時間を見つけて中尉ともきちんと話をしようと思った。同じ艦にいる以上、彼とも今後長い付き合いになるかもしれない。
0676◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 16:40:34.24ID:VILRIuWI0
 ブリッジに到着すると、ワーウィック大尉がオペレーターのグレコ軍曹と何やら確認しているところだった。少尉に気付いた大尉が恥ずかしそうに笑った。
「少尉、さっきはすまなかった。元気そうで良かった」
「こちらこそご心配をおかけしました…。そういえば艦長は…?」
「艦長なら自室にいらっしゃるよ。基地に着く前に諸々資料の準備があるらしい」
「そうですか…」
 そう言いながら、2人でブリッジから見える月を眺めた。遠くから見える月はぼんやりと白くて美しいが、こうして近くで見てみると点在するクレーターや観測機器で酷く無機質なものに思えた。
「もうじきアンマンの基地ですか」
「ああ、今日のうちに着くだろう。少尉が喜ぶものがあれば良いが、どうかな」
 鼻筋の通った彼の横顔に何となく見とれた。恋人は居るのだろうか。
「私が喜ぶものでも用意してくれたんですか?」
 ちょっとからかい気味に聞いてみる。
「ふふ、実は艦長に直談判しててな。まだどうなるか判らんが…」
「へぇ…楽しみにしときます」
 それが何かはわからないが、気にかけてもらえていることが嬉しかった。彼が来てからというもの、退屈していた自分が少し変わり始めているのを感じる。
 どうしようもないと思っていた色んなものが動き出した。

「私は月に来るのが初めてでな…話には聞いていたが。いつも見上げていたものがいざ目の前にあると変な心地だ」
 感慨深そうに大尉が言う。
「こうしてやってきたのは私も初めてです。何ていうか、近くで見るとあんまり綺麗じゃない」
「まあそう言うな。どんなものも見方によって変わるものさ。自分の目が変われば、自ずと周りも変わっていく」
 スクワイヤ少尉も何かを、誰かを変えられるだろうか。
 ぼんやりとそんな事を思案していると、変わらなかった月の景色の向こうが輝き始めた。大小様々な灯火が色とりどりに灯っている。

「私には、とても美しく見えるよ」
 大尉の声を聞きながら、アンマン市が地平線の先に見えてきた。

9話 地平線
0677◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:00:07.11ID:VILRIuWI0
 ダン・ロングホーン大佐は、アンマン市に入港するサラミス改を眺めていた。
 彼は1年戦争においてはパイロットとして前線で戦い抜き、戦後はマゼラン級艦長や独立艦隊司令を歴任。現在はこのアンマン市にあるエゥーゴ拠点を任されている。
 深い掘りにしっかりとした鼻、厳格な性格を表した様な太い眉、精悍な顔立ちをした軍人であった。
 壮年に差し掛かった今でも若い連中に遅れは取らないと自負するだけあって、心身ともに鍛え抜いた彼は他の上層部の人間とは纏う雰囲気からして違う。
 大佐はおもむろに席を立つと、サラミス改のクルーを出迎える為ドックへと降りた。哨戒任務を主に行っていたと聞いているが、エゥーゴには持て余していられる戦力は無いといっていい。
 ブレックス准将からの指示もあり、彼らにはこれから嫌というほど働いてもらわねばならないだろう。
0678◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:00:45.27ID:VILRIuWI0
「やあ諸君。アンマン市へようこそ」
 搬出などがやや落ち着いたとみえるタイミングを見計らい、大佐はクルー達に顔を見せた。皆作業を中断してその場で姿勢を正す。
「わざわざお出迎え頂くとは恐縮で…。私が艦長のファルコン・グレッチ少佐であります」
 挨拶をした、だらしない風貌の男はそう名乗った。
「グレッチ少佐。私がここを任されているロングホーン大佐だ。航行ご苦労。諸君には伝えたい話が色々あってな…勿論、聞きたいことも色々と」
 そう言いながらざっと周囲を見渡した。
「ワーウィック大尉というのは?」
「はい。お呼びでしょうか」
 資料で見た通り、顔に火傷の跡がある男が前に出た。
「君か」
「サム・ワーウィック大尉であります。MS隊隊長として任務に参加しております」
 かしこまってはいるが、その目には強い意志を感じ取った。これまでもそうやって生き延びてきたのであろう、死線を超えてきた男の目だった。
「いい目だな…。君からの要請は事前に艦長から聞いている。善処したつもりだが、まあその話は新しい艦でするとしようか」

「新しい…艦ですか」
 大尉が驚いた様に聞き返した。
「ん?聞いていないのか?」
 大佐はグレッチ少佐に視線を移す。なんの事か少佐もピンときていない様子である。
「ふむ…ギリギリの通達であったし、手違いがあったかな。ならサプライズだ。諸君はこれから新造艦であるアイリッシュ級戦艦へと配属になる。勿論、人員も補充する」
 クルー達がどよめいた。栄転といっていいだろう。
「搬出した資材の多くはアイリッシュ級の方に移されている頃だ。今のうちに艦内を見ておくといい。…案内しろ」
 そういって傍に控えていた下士官に誘導させた。
「艦長とブリッジクルー、MS隊の諸君はアイリッシュ級のブリッジへ。今後の作戦について話しておきたい」
0679◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:01:33.68ID:VILRIuWI0
 アイリッシュ級は、マゼラン級やペガサス級は勿論、エゥーゴの旗艦であるアーガマなども参考にして開発されたMS運用艦である。既に2番艦"ラーディッシュ"を始めとした数隻が作戦行動中だった。
 今回の任務では、ブライト・ノア大佐やクワトロ・バジーナ大尉らが月の表側ならば、ロングホーン大佐達は月の裏側を守る。まさしく表裏一体の作戦といえよう。
「ここがブリッジだ。広いだろう?」
 艦長達を引き連れ、出来上がったばかりのブリッジへと入った。サラミスとは比べ物にならない最新鋭の設備に、皆の唾を飲む音すら聞こえてきそうだった。
「…これを、私が扱うので?」
 唖然としているグレッチ艦長が恐る恐る聞いてきた。
「勿論。私も同行したいところだが、基地を空ける訳には行かんしな」
 それを聞いても尚、艦長は返す言葉もないといった様子でただただ驚いている。
「じき慣れるさ。それはそうと、これからの作戦について諸君に伝えねばならん」
 大佐が後ろ手を組みながらクルーを見渡すと、皆の視線が注がれた。
「よろしい。…皆知っての通り、月周辺ではティターンズ艦隊の動きが活発になりつつある。
 上層部はフォンブラウン市こそが標的になるとみているのだが、それを見越したティターンズがここアンマン市を無視するとも思えんというのが私の見解だ」
0680◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:02:27.24ID:VILRIuWI0
 ゆっくりとブリッジの窓沿いを歩きながら大佐が述べる。窓に写り込んだクルー達の表情は一様に固かった。
「諸君は哨戒任務の任を解かれ、これからはアンマン市を拠点とした戦闘行動に加わってもらう。
 エゥーゴは少数精鋭だ。現状として、ティターンズ程は連邦軍内の他派閥を味方につけているとは言い難い。我々の少ない手札に於いて、まさしく諸君には切り札となってもらうべく召集した次第だ」
 いささか仰々しい言い方だと自分でも感じながら大佐は続けた。
「この艦は勿論、人員だけでなくMSも新たに補充する。
 MS隊は優秀な人材が多いと報告にあったしな。後で私の方から案内させてもらう。こう見えて私もパイロット上がりだからな…未だにMSを見ると昂ぶるものがある」
 報告にあった面々…ワーウィック大尉、フジ中尉、スクワイヤ少尉。彼らの顔をクルーの中に見つけた。大尉は勿論、他の2人も興味深い人材であった。
「今後の詳しい作戦行動に関してはまた艦長を通して伝える。そして、今度はこちらが聞きたかったことなんだがね。ここに到着する前に交戦があったとか?」
 そう問うとワーウィック大尉が進み出た。彼に向かって頷き、説明を促す。

「私からご報告させていただきます。…」
 彼の話を要約すると、未確認機体の護衛を兼ねたテスト部隊と思われるティターンズと遭遇戦になったとのことだった。
「なるほど。連中がフォンブラウン市側の艦隊と合流すると厄介だな」
「はい。しかし遭遇した位置からすると、近いのはむしろアンマンです」
「やつら…ここに来るか…?」
「十分有り得ます。フォンブラウン側に大きく戦力を割いているとすれば、こちらに割く戦力はそれこそ少数精鋭で来るのでは」
 大尉の話は頭に入れておくべき案件だった。アレキサンドリア級が母艦なのであれば、単艦でも一定の戦力は保持しているだろう。あと数隻引き連れて陽動に出る可能性は高い。
「そうか…。貴重な話を聞けて良かった。直ぐに作戦を立案させよう」
「お願いいたします」
 そういって大尉は深く頭を下げた。
0681◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:02:56.95ID:VILRIuWI0
 それから、他のクルーと同じくブリッジクルー達にも設備の説明を受けさせている間に、大佐はパイロット3人と共にMS格納庫へと足を向けた。
「私がMSに乗っていた時には、まだまだ女性パイロットは少なかったものだよ」
 感慨深く思いながらスクワイヤ少尉を見た。大佐からすればまだ子供のように見えるが、大尉や艦長からの報告に依れば彼女もなかなかの腕利きらしい。
「私の事はどうお聞きになったんです?」
「燻っていたが腕は良いと」
「買い被りですから」
 そういって彼女は少し笑った。これからの働きに注目しておきたい。

 格納庫に到着すると、サラミスから移したワーウィック大尉の百式改がまず目に入った。納入時に不足していた専用装備など、彼に合わせたチューンナップを施してやる予定だ。
「数ヶ月前、これの金色がここに来たよ」
「バジーナ大尉ですか」
 ワーウィック大尉が食い付いた。彼からすれば同じジオンの男はさぞ気になるに違いなかった。
「サングラスなどかけて、気取った男だ」
「私も普段はこれを」
 そういって彼はバイザーをみせた。
「傷を隠す為のものだろう?」
「はい。正直あまり気にはしていないのですが、カラバの友が私にくれたものですから」
 大尉の火傷は最近負ったものだと聞いていた。ニューギニア基地での激戦は大佐の耳にも届いている。
0682◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:03:44.06ID:VILRIuWI0
 続いて見えた機体はフジ中尉のものだった。
「これはフジ中尉の乗機だ。大尉から通信機器の強化を依頼されて、急ピッチで組ませたよ」
 大佐がそう伝えると、大人しくしていた中尉が食い入るように機体を見つめた。
「これが私の機体ですか」
 中尉の見つめる先には、畳まれた大型のレドームを背負ったネモが立っていた。
「EWACネモとでも言おうか。君の判断力を買ってのことだ。センサー強化は勿論、処理能力の高いAIも入れておいた。更にこの近辺で収集した環境データを蓄積…そのほぼ全てが入ったストレージを積み込んである。さながら前線司令塔といったところか」
 そして、その後ろにはスクワイヤ少尉の機体が用意されていた。
「これがスクワイヤ少尉のMSだ…。驚いたか?」

 そこに立っていたのは紛れもない、ガンダムだった。

10話 栄転
0683◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:13:54.74ID:VILRIuWI0
 信じられなかった。むしろ、取り立てて実績を上げた訳でもない自分にこんな機体があてがわれるなど、陰謀すら感じた。
「ご覧の通り、ガンダムだ」
 ロングホーン大佐がそう紹介したガンダムは、複数のバーニアノズルがついた見慣れない大きなポットを2基背負い、横に伸びた両肩にもアポジモーターが見られる。
「こいつは過去に少々揉めたデータを流用しているのだがな。まぁそうはいっても優秀なものを腐らせるわけにもいかん。君と同じだ」
 大佐のいうデータに関しては何とも言えないが、まさかガンダムとは。
「この機体…ベースはジムカスタムですか」
 中尉が聞いた。知らない名前だ。
「よく判ったな。設計データの基礎はその通りだが、勿論現代仕様に作り変えてある。そこにテスト運用されたポットのデータを盛り込んで、ガンダムタイプに仕上げた。
 ティターンズが作ったジムクゥエルのガンダムヘッドと思想は似てはいるが、こいつは正真正銘のガンダムだよ…コードネームは"マンドラゴラ"…。
 長いこと地面に埋まってたからな、引き抜いてやろうと思っていたのだ」
 白を基調に胸部など各部で紫をあしらったカラーリング。その壮観な眺めには見惚れるしかなかった。
0684◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:14:25.94ID:VILRIuWI0
「しかし…何故こんな機体を私に…?」
「買い被りかもしれんな、大尉の」
 大佐の言葉に、思わずワーウィック大尉を振り返る。
「元々私が乗る予定だったが…どうもガンダムは性に合わない。百式を受領して一度は流れた話だったのを、また掛け合って回してもらったんだ」
 そういって彼は笑った。思わず少尉も笑う。そんな事があり得るのか。
「ほんとに…買い被り過ぎですよ」
「君ならやれるさ。中尉の万全のサポートもあれば、私がやることなど殆どない。…念願のスポーツカーだな。困るか?」
 ニヤリと意地悪く大尉が言う。夢にも思わなかった事態に、興奮がしばらく続きそうだった。

 しかしその時だった。大佐の端末が呼出音を鳴らした。周囲も急に慌ただしくなっている事に気付く。
「どうした」
 ロングホーン大佐が応答している間に周囲の人間に聞くと、ティターンズからの放送中継が始まったという。少尉達も近くのモニターへ詰め寄った。
『…フォンブラウン市は我々ティターンズが占拠した。…繰り返す!…』
「馬鹿な!主力は何をやっていた!」
 大佐が端末に怒鳴る。この放送が本当ならば、早くもフォンブラウン市を敵が抑えたということだった。
「…私は司令部に急ぎ戻る。諸君は指示を待ちたまえ。機体は任せるが、まだ慣れない内はGM2でも構わんぞ」
 大佐はそういって足早に去っていった。
0685◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:15:04.22ID:VILRIuWI0
 それから殆ど間を置かず、今度は第1戦闘配備の指示が響く。こちらも敵襲か。
「早速か…。私は百式で出る。2人は…」
「データに目を通しておきたいですし、私もネモで出ます」
「えっと…」
 大尉達が機体を決める中、スクワイヤ少尉はガンダムを仰ぎ見た。
「少尉…流石に急には動かせんだろう」
 察した大尉が心配そうに言う。
「いや、やります。きっとこの時を待ってたんです。私も、この子も」
 猶予はない。少尉がガンダムの元へ走ると、彼らも乗機に向かって走った。

 それぞれコックピットに乗り込むと機体を起動する。少尉の乗っていたGM2はそもそも旧GMからのアップデート版だった為、全天周囲モニターですら無かった。
 広々としたコックピットに周囲の様子が写る。まるで宙に浮いている様な気分だ。
「これ…すっごい」
『少尉、ガンダムで本当に大丈夫か?』
 ワーウィック大尉からだった。
「大丈夫も何も…最高です」
『あまり無茶はするなよ』
「了解!」
 このタイプのインターフェースについて無知な訳ではない。とはいえ、大体はわかっても後は実際に動かしてみる必要がある。
『中尉はどうか?』
『凄い量の情報が…。早く慣れます』
『少しずつで良いからな。焦るな』
『了解』
 中尉の機体もどうやら勝手が違う様だ。今まで自分で組んでいたものが既に最適化されているらしい。
0686◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:15:39.71ID:VILRIuWI0
『MS隊、準備は出来てるか?』
 グレッチ艦長からだった。緊張で顔が強張って見える。
『全機いけます。状況は?』
 大尉はいつもと変わりない。
『詳しいことはまだわかっちゃいないが、フォンブラウン市の強襲と間を置かずにアンマン市へもティターンズが来ているらしい。アレキサンドリア級が1隻、後続にサラミス改も2隻遅れて付いてきてる』
「アレキサンドリア級…もしかしたら」
『ああ、奴らかもしれんな。残念ながら本艦はまだ出港出来る状態にはない。MS隊だけ、アンマン市の防衛部隊と共に出てもらう形になる』
『了解。我々の部隊指揮はこちらに一任していただけますか』
『もちろんだ大尉。データ収集は中尉のネモと少尉の新型を存分に使ってやれ』
『ありがとうございます』

 モニター越しの艦長が大きく息を吐き、覚悟を決めた様に改めてこちらを見つめた。
『戦果を期待するぞ!』
『『「了解」』』
 艦長は自らを奮い立たせる様に言った。まさかの新造艦の艦長だ、無理もない。同じくガンダムを任された身としては心境に近いものがある。
 まだカタパルト以外の設備が使えない為、百式、ネモに続く形で格納庫を歩く。ドックの天板の一部が開き、カタパルトハッチの向こうに星空が見えた。いつもと同じ宇宙も、モニターが変わると別物の様だ。隅々の遠い星まで掴めそうだった。
 大尉、中尉が先行して出撃した。スクワイヤ少尉もそれに続くべく機体をカタパルトに固定する。
『ゲイルちゃん。ガンダムだぜ?良かったな』
 グレッチ艦長が苦笑いしている。自分達の手を離れたところで事態が動き出している気がした。艦長も今の状況に付いていくのが精一杯といった様子だ。
「これまでの鬱憤を晴らしてやりますよ。…ゲイル・スクワイヤ少尉、マンドラゴラ…出ます」
 掛かるGに耐え、射出された機体を制御する。背後のポットと全身のアポジモーターのおかげか、どんな姿勢でも安定して飛行出来る。
 月を背に、螺旋状の光を描いた機体は今、彼女と共に明るい宇宙へと飛び立った。

11話 螺旋状の光
0687◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:27:04.48ID:VILRIuWI0
「アポロ作戦…。始まりましたな」
 副官のレインメーカー少佐がブリッジの外を眺めつつ顎に手を当て言った。その傍に立ち、戦況を確認するウィード少佐は敵の出方を伺っていた。
 本作戦に参加する前段階としてのテスト実施だったのだが、敵に遭遇したのは計算外だった。
 それにしても…パプテマス・シロッコ…。木星帰りの男は、したたかなやり口でフォンブラウン市を制圧した様だ。出し抜かれたジャマイカンが黙っているとは思えないが。
 ウィード少佐の部隊はそれと呼応する形でアンマン市を強襲しているところであった。予定よりは早いが、この機を逃す訳にはいかない。恐らくシロッコ大佐もウィード少佐達が動くことを見越している筈だ。

『そろそろね…。先行するわよ』
 出撃したドレイク大尉から通信が入る。彼女らの機体は先日の交戦で損傷していたが、急ピッチでの補修がどうにか間に合った。試験用でパーツを持ち合わせていたのが功を奏した。
『あのバッタ…出てくるかな』
『いようがいまいがエゥーゴなど…パンプアップした今の俺の敵ではない!』
 オーブ中尉のαは脚部の修理で手一杯だったが、ソニック大尉のγは一時的に装甲材を増やしている。月面近くの戦闘では重力も気になるが、先日のデータからするに被弾することも考慮したテストを実施すべきだった。
 ひとまず3人を先行させて敵戦力を引きずり出す。フォンブラウンの情報が錯綜しているだろうことを考えると、恐らく出せる戦力は殆ど出してくる筈だ。
0688◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:28:01.90ID:VILRIuWI0
「指揮官殿は出られますかな?」
 レインメーカー少佐がこちらを見る。
「そうね…。こないだの連中が出てくる様であれば、それも考えるわ」
 ガルバルディ隊のテストは勿論だったが、本命のモビルスーツがまだ眠っていた。
 PRX-000…名をニュンペーと言う。シロッコ大佐から支給されたもので、木星船団のジュピトリス謹製らしい。メッサーラの様なエース機ではなく、連邦軍で本格的な量産に耐えうる機体を彼の独力で試作したいとの事だった。
 そのデータを元にして次の試作機を作るそうだが、テスト運用した限りでは非常に操縦性に優れたインターフェースを備えている。
 今頃彼はドゴスギアに乗艦している筈だが、そちらでも設計に携わった機体を配備しているらしい。
「あれは予備パーツが殆どないからね…。ここぞってとこでしか実戦には出せない」
「ニュンペーの為にガルバルディを用意した様なものです。戦局の見極めはお任せしますよ」

 話している間にも敵に動きが出始めていた。
 先行したガルバルディ隊に呼応して、敵の守備隊が出てきている。主にGM2と思われる機体が6機程度。サラミス改も2隻ほど確認している。
「サラミスは気にするな!アレキサンドリアで引きつける!コロニーの残骸を盾にしつつ、市街に侵入しろ」
 フォンブラウン市の戦局が落ち着くまで、ウィード少佐としては援軍が参戦するまで、とにかく敵を引きつけたい。
『市街って…。そりゃ敵は攻めづらいだろうけど…』
 ドレイク大尉がどうも渋っている。
「言いたいことはわかるわよ。なにも破壊活動をしろとは言っていない。そういう動きを見せるだけでも、敵を引きつけるには効果的だからね…もしあちらさんが砲撃でもして被害が出ようものなら、エゥーゴ側に非がある」
『無茶な屁理屈ね…あなたのそういうとこ、嫌いじゃないわ。今日のあなたは意外と強気』
 ガルバルディ隊は引き続き侵攻を再開した。敵はしっかり釘付けになっている様だ。
0689◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:28:51.57ID:VILRIuWI0
 すると、防衛ラインに加わる機影が3機現れた。内1機は例のバッタの様だが、僚機が前回と違う。
「何なのあれは」
 ウィード少佐は思わずこぼした。大型のレドームを展開した機体と、見慣れない機体が更に1機。
『嘘でしょ…!ガンダムじゃんあれ!』
 オーブ中尉が驚きの声を上げた。バッタだけでも厄介なところに、更にガンダムとは。
「まずいね…。頭でっかちの方も気になる。急いで市街まで侵入して!」
『俺が的になる!2人は先に行け!』
 ソニック大尉の宣言どおり、γが敵の射線を誘導する。しかし釣れるのはGM2ばかりで、先程の3機はαとβを捉えている。しかも接近速度が目に見えて早い。機動性は勿論、こちらの進路を先読みしている様な的確さである。市街に入る前に頭を抑えられてしまう。

「ちっ…このままでは」
 ウィード少佐は歯ぎしりした。ティターンズこそ練度の高い連邦軍唯一の軍隊である筈だ。数に物を言わせるその他連中とは訳が違う…。この様な戦況をシロッコ大佐に報告するわけにはいかなかった。
「ここは私にお任せください。あなたはあなたの成すべきことを」
 レインメーカー少佐が出撃を促す。確かにこのままでは最悪各個撃破されかねない。
「…わかった。時間稼ぎさえ出来ればこっちのものよね」
「左様、頼みましたぞ。…整備班!ニュンペーの用意を急げ!ウィード少佐が出る!」
 彼の言葉を背に、ウィード少佐は直ぐに機体の元へと駆けた。
 シロッコ大佐が彼女に語った未来…そこへ到達する為には必要不可欠な作戦である。そしてこのニュンペーは、その後の連邦軍における兵達が搭乗する新たな機体となる筈だと、彼女は確信していた。

12話 語った未来
0690◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:32:44.99ID:VILRIuWI0
 新型の情報処理能力は桁違いだった。この機体はフジ中尉がほしい情報をいち早く届けてくれる。周囲の地形は勿論、敵の進路予測や到達までの予測時間など、戦術の組み立てに必要なものがすぐに手に入る。
 データに関してはホームであるアンマン市だからこそともいえるが、それを抜きにしても舌を巻く性能である。
「このまま直進すれば敵の市街最短コースを潰せます。敵は迂回するしかないはずです」
『よし、こうして道を絞れば敵の頭を叩けるな…モグラ叩きだ』
 そういってワーウィック大尉がニヤリと笑う。その後を、スクワイヤ少尉のガンダムも遅れず付いてきている様だ。

 出てきた敵部隊は案の定、例のガルバルディ隊だった。重装甲の機体が防衛隊を引きつけている様だが、そちらは彼らに任せた。あろうことか残りの連中は街を盾に取ろうとしている。
「やはりティターンズは手段を選びませんね…」
『全てがそうとは言わんが、少なくとも市街には一歩も侵入させてはいかん』
 市民は既に地下階層へ退避しているとはいえ、この街は市民の財産そのものだ。こんな作戦を平気で立案するティターンズに、宇宙移民者達が従うわけもなかった。
0691◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:33:21.79ID:VILRIuWI0
 敵とコロニー外壁を挟む形で並走する。その先には市街が広がっていた。
「大尉、ここを抜ければ連中は市街へ手が届きます」
『その前にこちらから叩けということか』
「はい。ここから2kmの所で外壁が僅かに途切れる。先回りしてそこから敵の進路を遮りましょう」
『『了解』』
 2人が速度を上げた。流石に百式とガンダムは速い。中尉はワンテンポ遅れる形でその後を追った。

「…!来ます」
 位置を掴んでいるのはこちらだけだ。敵からすれば、姿の見えなくなった我々が突如進路に現れたことになる。敵機がクレーターの影から現れた。思った通り、予期せぬ事態に敵は足を止めざるを得ない。
『一気に叩け!』
 大尉の一声で一斉射撃を行う。狼狽えた敵は奇襲をまともに受けた。決定打にはならなかったものの、距離が開くまでの間にかなり手傷を追わせた筈だ。後退する敵を追う。
「少尉!追いつけるか!?」
『この子なら!』
 スペックだけ見れば少尉のガンダムは群を抜いて推力がある。いきなりの初陣とはいえ、ガルバルディの先を取るくらいなら訳もないはずだ。
 ガンダムが加速をかけると、またたく間に中尉達を、そして敵を出し抜いた。まさしく電光石火である。敵に立ちはだかるようにして、彼女はビームサーベルを抜いた。
0692◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:34:00.44ID:VILRIuWI0
 挟撃を受ける形になった敵は、血路を拓くべく少尉のガンダムに切り込む。軽装な機体が突貫するのを援護するように、もう1機が振り返りながら中尉達をライフルで牽制してきた。敵ながら咄嗟の連携の早さは称賛に値する。
『中尉!援護しろ!』
 大尉の百式がライフルを交わしながら敵機に迫る。サーベルを瞬時に抜くと、敵の下に潜り込みそのまま居合いの如くライフルを両断した。
 敵が尚も粘りシールドのグレネードを撃とうとしたところを、中尉のビームライフルが捉えた。誘爆で煽られた敵機はその場に倒れ込む。
 少尉のガンダムに斬りかかった敵も斬撃を躱され、そのまますれ違い様に首を跳ね飛ばされるのが見えた。勝負ありと言っていいだろう。

『武装解除させるぞ。その後で残るゴリラを叩く』
 大尉がそう言うのとほぼ同時に、新たな機影を掴んだ。ハイザック1機と未確認の機体。全身が薄水色をした、曲線的なシルエットの機体だった。特殊な形状の銃器を携えている。
『あれが親玉…?』
 少尉が言うやいなや、未確認機はこちらに向けて発砲した。大した威力のビームではないが弾速は極めて速い。
「散開!」
 やむを得ず中尉達は距離を取るように散った。あれを避け続けるのは困難に思える。威力が低くとも、ビームである以上は急所に当てられてしまうと無事では済まない。
『本命だな…ここで落とす』
 大尉が再び抜刀して未確認機と距離を詰めた。遮ろうとしたハイザックの足元を容易くすり抜ける。気を取られたハイザックの無防備な背中へ、中尉は標準を合わせる。
0693◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:34:57.71ID:VILRIuWI0
 が、割り込むようにして少尉のガンダムが入り込んだ。
「少尉!射線に入るな!」
『中尉こそ位置が悪いですよ!』
 撃ち損じたハイザックをガンダムが斬った時、沈黙していた筈の先程のガルバルディが動いている事に中尉は気付いた。
 メインカメラを失った軽装機から武装を受け取ったらしいもう1機が、ガンダムにライフルを向けていた。
「少尉!」
 中尉は思わずガンダムの前に飛び出していた。盾で防ぐよりも先に、敵のビームが機体を貫く。機体の制御を失い、中尉は重力に引かれた。
『『フジ中尉!』』
 2人の声が響く。注意が逸れた大尉の百式を未確認機の銃撃が襲う。少尉はどちらに加勢すべきか決めあぐねている様だ。
「少尉!ガルバルディだ!あっちを先に…」
 言い終わるよりも先に、機体が地表へ打ち付けられる。落下の衝撃で頭を強く打った中尉は、目の前が真っ暗になった。

13話 咄嗟の連携
0694◆tyrQWQQxgU 2019/12/31(火) 17:47:21.72ID:VILRIuWI0
まだまだ未投下の話がありますが、キリが悪くなりそうなので今回はここまで。
来年もよろしくお願いします!!
0695通常の名無しさんの3倍2020/01/02(木) 19:30:59.44ID:8YYQZkyE0
ことよろです!

紫のガンダム、マンドラゴラですか。
コラボ企画で色々なカラーリングがあるにしても、白×紫で戦闘シーンのあるガンダムorジムって中々なさそうですね。
百式改とレドーム付ネモに対してガンダムヘッド、通常規格より感度が高いのか移植の副作用で微妙に鈍感なのか...
死にたがり気質で1人だけセンサー弱そうなのっていい感じに不安を煽りますねw

フジ専用ネモはネモ早期警戒型やネモ・ディフェンサーとはAIで差別化している感じですかね。
あの緑と藍色のボディーに偵察用のオプション、なんと言うか落ち着いてて知的なイメージを与えられると思います。
展開がどうなるにしろ、引き続き見ていきたい機種です。

そしてニュンペー、木星帰りの設計した機体とは...
どちらかといえば陰気な色の機体が続いているように思うので、薄水色の配色は絵的にいい清涼剤になりそうですね。
新型のライフルはフェダーインとはまた違うのかな?気になります。

最後にお気付きかもしれませんが、>>691に唐突に「コロニー」出てますよw
いや宇宙進出のための施設なんだから、入植地で合ってるのかな......ここはザ◯ングル風に「ドーム」が無難かと。

では、良いお年を!
0696◆tyrQWQQxgU 2020/01/02(木) 21:48:13.51ID:HWjwRoQ80
>>695
よろしくお願いします!

マンドラゴラはその名前と仕様で何となく察する部分あるかもなので言うのも少し野暮ですが、ガンダム計画のデータ流用機って設定です。違うバッタの方ですね。笑

EWACネモに関しては、情報の収集・分析に長けた機体と言うところ以外はほぼネモです。フジ中尉はさして飛び抜けて強いとかそういうキャラではないので。てかネモ自体高級感ありますしね…。

ニュンペーは初の完全なオリジナル機体ですが、メッサーラの次のPMXシリーズ(女であり過ぎた人のやつ笑)のプロトタイプ的なデザインで想像してもらえたら良いかなと思います!
ライフルに関しても色々考えているんですが…シロッコってなんやかんやで硬派な機体も好きですよね?
独力でサイコセンサー作るような彼だったら、ヴェスバー的な通常とはスピードの違うライフルを(可変式でない形でなら)作るくらいやりそうかなと。

紛らわしくてすみません笑
コロニー(残骸の)外壁が月にぶっ刺さってるやつです!ティターンズ側の描写の時にも盾にしてますね。

引き続きよろしくお願いしますー!
0697◆tyrQWQQxgU 2020/01/02(木) 21:54:37.30ID:HWjwRoQ80
バイオセンサーの間違いですね笑
0698通常の名無しさんの3倍2020/01/04(土) 14:49:05.15ID:8E+LEgmR0
>>696
コロニー外壁の件、確かに>>688で残骸を盾にしていましたね!失礼しましたw

しかし月面へのコロニー落としというと0083やZでは専らフォン・ブラウンが狙われてましたけど
地球の1/6という中途半端なGや大気圏がない(=燃焼しない)ことを鑑みると、案外事故が頻発してるかもですね。
月面都市の天蓋に当たった日には大惨事でしょうし、CCA冒頭のコロニーのような対空レーザーが完備されてるのかも

こうなるとZ序盤でカミーユ達とカクリコンが撃ち合っていた灰の谷も、墜落した輸送船の墓場だったりとか...?
それならハロの1匹くらい残ってそうですね、これだから二次創作は想像させてくれるんです(アイーダ姉さん並感)

ニュンペーはセックスしかないあの人の試作機でしたか(語彙力)。
なんとなく近藤版ジ・Oの量産機ブレッダのイメージで想像していたのですが、汎用機を目指すならこっちでしょうね。
モジャモジャした物が嫌になった人も、火力支援より前に出ていたイメージが強いです

引き続き、よろしくお願いします
0700◆tyrQWQQxgU 2020/01/04(土) 23:08:52.97ID:iGYzd05Y0
>>698
グリプス戦役もそうですが、月って何かとイベント起きやすいので、こういう時描写が楽です笑

そうですその人です!笑
試作機というよりは一般機向けに開発したものからデザインを流用して、後から作ったワンオフがシャア元カノのものになったイメージでしょうか?
ティターンズに参加した時点でシロッコは成り上がり上等だったと思うので、あの位の時期なら一般兵の乗る機体を設計しなかったとは思えないんですよね。その辺の下りも後々…

>>699
ありがとうございます!
また更新するので引き続きよろしくお願いします!
0701◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:07:49.85ID:Q4XtGfBY0
お待たせしました!
公私ともにちょっと忙しかったもので…。
纏まった話数が準備出来たので投下します!
0702◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:08:43.53ID:Q4XtGfBY0
「中尉!大尉…!!こいつ等ぁ…!!」
 スクワイヤ少尉は怒りを剥き出しにして吠えた。
『くっ…!冷静になれ少尉!』
 複数被弾しながらも大尉は持ち堪えている様だ。しかしこのままでは押し込まれる。フジ中尉も応答がなく、月面に座礁したままだ。

 まずは中尉をやったガルバルディの息の根を止めねばならない。機体を捻る様にして方向転換すると、そのまま突っ込んだ。
 敵が迎撃しようと射撃してくるも、狼狽えて撃つ弾など大した事はない。身を翻してそれらを避けていく。
 躱しながらこちらからもライフルで応戦するが、どうにも照準が振れて定まらず少尉は眉をひそめた。機体の急激な機動にライフルが振り回されている様だ。
「ちぃ!」
 射撃を諦めた少尉はガルバルディβにサーベルで正面から斬りかかる。すると、メインカメラを失った筈のガルバルディαが横から突きかかってきた。
 寸でのところで後退して躱し、逆に蹴り飛ばす。弾かれたαの傍へとβも下がった。
「視えるの!?」

 βが倒れたαに手を添えると、ガルバルディ達は立ち上がりながらこちらを向いた。どうやらカメラの情報を共有して補っているらしい。
「触れ合ってベタベタして…気持ちの悪い…!」
 両機を引き離して各個撃破するか、或いはまとめて落とすのもいい。再び突進して横凪に一閃か、仕掛けてきたところを回り込んで2枚抜きか…幾つも方法を巡らせた。
 しかし、敵はこちらに積極的な攻撃を掛けてこない。時間稼ぎか?しばし睨み合いになった。
0703◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:09:29.98ID:Q4XtGfBY0
『少尉!落ち着けと言っているだろう!』
「落ち着いてられますか!」
『それでも落ち着くんだ。周りを見ろ』
 傍に大尉の百式が降りてきた。機体のあちこちに弾痕が残っている。
 対して、例の謎の機体はこちらを見下ろしたまま動かない。その後ろで、ガルバルディ達がバーニアを吹かし肩を貸し合う様にして下がっていった。
「また逃げる!」
 こちらが追う素振りをみせたその時、ガルバルディと入れ替わる様に敵のGM2小隊が現れた。この部隊の到着を待っていたのか。流石に劣勢である。
『中尉の安否も気になる…彼の機体を回収して後退する』
「でも、このままじゃ」
『…少尉は中尉を連れて基地へ走れ。私がその間敵を食い止める。…こっちも積んだばかりの隠し玉があるんでな。まだテストもしちゃいないが』
 明らかに手負いの機体に乗っている大尉が、笑ってみせた。この状況で何処に隠し玉があるというのか。
「大尉…」
『よし、行ってこい。少し良いところ見せてやるから』
 GM2の小隊がジリジリと迫る。少尉は急ぎ中尉のネモを抱きかかえた。月の重力下でも、ガンダムの膂力ならどうにか運べる。

 全力で戦線を離脱しながら、ふと大尉の方を振り返った。フレキシブルバインダーから外した柄のようなものとサーベルを連結して、基部からナタ状の刃を形成している。
「あれが隠し玉…?あれだけでどうするっていうのよ…!」
 やはり大尉は強がっているだけだ。あのままでは流石の彼でも物量に呑まれてしまう。しかし少尉にはどうすることもできない。とにかく全力で基地へ向かう。
0704◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:09:56.77ID:Q4XtGfBY0
『…スクワイヤ少尉か…?』
 退却する道の中腹あたりでフジ中尉が目を覚ました。
「…!今は無理しないで」
『どうなっているんだ…状況は…?』
「敵が増援を呼んでまずい感じです。大尉が食い止めてるうちに後退しないと…でも…」
『…そうか。…私の事はいい…ここまでくればひとりでも大丈夫だ…。少尉は大尉の後退を掩護してくれ』
 そういって、中尉は機体を自分で起こした。
「ほんとに大丈夫なんですか!?」
『ああ。これまでも嘘はつかずに付き合ってきたつもりだがな』
 確かに毒づく元気はあるとはいえ、さっき意識を取り戻したばかりだ。
『いいから行け!急がないと手遅れになる!』
 中尉が珍しく口調を荒げて言った。彼の言う通り猶予は無かった。
「了解…!」
 少尉は来た道を再び全力で戻った。果たして間に合うだろうか…?
0705◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:10:30.63ID:Q4XtGfBY0
 ガンダムの機動性を以てすれば、この距離を戻る位は大して時間もかからない。すぐに先程の地点の機影が見えてくる。スクワイヤ少尉は、見えてきた光景に息を呑んだ。
 先程のGM2の小隊…10機とはいかないまでもそれなりの数が居たはずだった。それが、2,3機しか残っていない。その討ち果たした残骸の真ん中で暴れ回っているのは、紛れもなく大尉である。得物が変わるだけでこうも変わるものなのか…。
 大尉の百式改は、バイザーの奥で光る赤い光の尾を引きながら敵に向かっていく。その動きは、まるで狩りでもするかの様な威圧感を放ち、俊敏かつスムーズである。明らかに敵が気後れしているのがわかった。
 敵のサーベルが届くよりも随分早く、ナギナタの間合いは敵を捉える。大尉は殆ど無抵抗に近い状態の機体を次々と切り刻んでいった。

『はぁ…はぁ…ん?…中尉はどうした?』
 全ての敵を斬り伏せた大尉が、少尉に気付いた。
「意識が戻って、自力で帰還できると。私は大尉の掩護をするよう指示を受けました」
『そうか、無事なら良かった。こっちもどうにか雑魚は片付けたが、例のテスト機達を追うのは叶わなかった…』
 そういって大尉の百式は宇宙を見上げた。もう敵のMSは1機も見当たらない。敵艦はMS隊の回収のみで離脱した様だ。
「結局私は連中に勝てませんでした…」
 少尉も周囲を見渡しながら、小さく呟いた。
『後で反省会でもやるか?とはいえ、とにかく防衛には成功したといっていい。まずは戻ってフォンブラウン市の被害も確認しないとな』

 折角のガンダムもこのままでは宝の持ち腐れになってしまう。先程の大尉の働きを見てしまうと、自らの未熟さが余計に身に沁みた。

14話 隠し玉
0706◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:11:30.17ID:Q4XtGfBY0
「脅威は去った…てなところか」
 戦況の一部始終をアイリッシュ級のブリッジから見ていたグレッチ艦長は、敵の反応が消えたレーダーを見ながらどかっと椅子に座った。
 先程ひとり帰投したフジ中尉が医務室へと運ばれたばかりだ。暫くしてワーウィック大尉達も戻るだろう。
 辛くも防衛は叶ったが、早々に新型が中破。残りの連中の機体も調整の必要がある。ドックは好きに使っていいと言われているが、それ以前にこの椅子に座る自分にも実感の沸かないままだった。

 グレッチ艦長は一年戦争時、ルナツー艦隊所属のサラミスで副官を務めていた。当時の上官とはあまり馬が合わず、お世辞にも良い環境とは言えなかったものだ。
 ソロモン攻略戦で敵の巨大MAの流れ弾に当たった際、脱出の是非で完全に対立。軍法会議上等で従うクルーを連れて脱出したその時、母艦はメガ粒子砲の直撃を受けて轟沈した。
 その後友軍に回収されたのだが、ア・バオア・クーを攻める本隊には合流せずそのまま改名したコンペイトウに駐軍。本来合流予定だった艦隊は、続く攻略戦でソーラレイによって宇宙の藻屑になったと聞く。
 そうして幸か不幸かのらりくらりと生き延びた戦後、空席を詰めるようにして昇格していったのだった。デラーズ紛争の頃には月に勤務し、それから長い間哨戒任務ばかりしてきた。

 エゥーゴに参加したのも成り行きで、定まってきた環境を派閥の内紛でいちいち変えたくなかっただけだ。
 これまで色んな場所を転々としてきて、ようやく月に慣れてきたところなのだ。自分の周りが乗った船に同乗したに過ぎない。
 そう思っていたにも関わらず、気付くと新造艦の艦長だ。全くもって本当に飲みたい気分だった。
「大尉達も戻りました」
 グレコ軍曹が報告する。思えばクルー達も若い者が増えた。親交の深い戦友も数えるほどになってしまった様に思う。
「そうか。たまには俺の方から出向いてやるかな…」
 そういって馴染まない椅子から腰を上げると、その場を任せてドックへと向かう。
0707◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:12:00.69ID:Q4XtGfBY0
 整備ドックでは、帰還した防衛隊に加えてガンダムや百式改も並んでいた。どの機体もそれなりに整備が必要と見える。
 遠目にそれらを眺めていると、その中に敵のものと思われる中破したガルバルディらしき重MSも混じっていた。鹵獲に成功したのだろう。
「艦長!只今戻りました」
 丁度ドックの出入口に向かってきていたのはワーウィック大尉とスクワイヤ少尉だった。
「無事で何より」
「いえ…敵にしてやられました…。未確認の機体を引き摺りだすまでは良かったんですが、私も気が逸ってしまいました」
 口惜しそうな大尉の傍で、同じく少尉も機嫌の悪そうな顔をしている。
「中尉はどうです?」
 その少尉が口を開いた。
「ああ。頭を打ってる様だが、今回は頭が堅いのが幸いしたみたいだな!一応検査は受けさせるが、大した事はないだろうよ」
 そういうと少し彼女も笑った。自分にも娘がいればこの位の年だっただろう。
0708◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:12:43.67ID:Q4XtGfBY0
「そういえば、防衛隊が捕虜を1人連れて帰ったとか」
 ドックを振り返りながら大尉が言う。
「大尉の手柄かと思ったが違うのか」
「私はそこまで上手くはやれませんでしたよ。敵を引きつけるのが精一杯で」
 謙虚な男だ。彼が小隊1つ叩きのめすところは、中尉のネモが中継したレーダーから確認していた。
 何故これ程の男が着任したのか不思議だったが、新造艦が回されてきた今となってはその前触れだったのだとわかる。
「大尉の働きぶりも観ていたよ。どうやったらあんな芸当が出来るんで?」
「まだまだですよ。強いて言うなら…殺した分だけ殺されかけてきましたから」
 ことも無げにそういうが、歴戦の勇士というやつなのだと思う。
「今頃捕虜はロングホーン大佐にこってり絞られてるだろうな」
「あのおじさま、おっかない感じしますもんね」
 少尉が言う。確かにグレッチ艦長も挨拶した時は威圧感で小さくなる思いだった。ああいうまさに軍人という風な手合いは正直苦手だ。

 そのまま簡単に報告を受けた。惜しいところだったが、やれることはやったといっていいだろう。
「まあ、2人も今のうちに休め。整備もここでならしっかりやってくれるだろうよ」
「ありがとうございます」
 グレッチ艦長は踵を返すとそのままブリッジへと戻った。サラミスとは違い、廊下すら随分と広い艦である。知らない場所に迷い込んでしまいそうだと思いながら、彼はこれからの事を考えて軽く溜息をついた。

15話 迷い込んでしまいそう
0709◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:13:28.53ID:Q4XtGfBY0
「捕虜とは言っても手荒い真似は出来ん。同じ地球連邦の軍人であることに変わりはないしな」
 ロングホーン大佐は、入室するなりその味気ない個室に入れられた男を見た。随分と鍛えているであろうその筋肉は、支給した服の上からでもよくわかる。
 とはいえ、特に暴れるでもなく大人しいものだった。念の為、大佐の後ろには2人の士官が控えている。

「ラム・ソニック大尉と言ったか。ティターンズの作戦…半分はうまくいったぞ。フォンブラウン市が敵の手に落ちたというのは事実のようだ。
 しかし…このアンマン市を落とすには戦力が足りなかったな。所詮君らは陽動部隊か?」
 ソニック大尉は何を言うでもなく押し黙ったままだ。拘束はしていないが、身動ぎひとつみせないまま簡易ベッドに腰掛けている。
「…黙っていても一向に構わんが、話すことで救える命もあると思うがね。計画の中身が判れば、要らぬ交戦は避けられる」
 大佐は彼の目の前に椅子を引いて腰掛け、正面から向き合った。大佐より一回り大きな体躯だ。
「君自身も交渉カードの1枚だ。アレキサンドリア級はこの宙域に留まったままだからな…まだ何かやる気なら、こちらも手を打たざるをえんだろう」
0710◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:14:08.49ID:Q4XtGfBY0
「…大佐殿、何故我々は戦わねばならないと思われますか?」
 ようやくソニック大尉が口を開いた。
「ふむ…。そうだな、君らの思想と行いが危険だからだ。ジオンの敗戦理由はその危険な選民思想と大量虐殺だと私は思うのだが、君らティターンズも同じことをやっている」
「そのジオン残党を狩るのが我々の任であります。それに虐殺などありえない。あなた達エゥーゴは彼らを庇うでしょうが」
「君らの知らない事も我々は知っているのかもしれん。エゥーゴに転向した元ティターンズ兵にも、多くを知らない者が居たようだしな。…地球至上主義とジオンの選民思想に大した違いはないぞ。
 実際、今回のアンマン市強襲にしても市民の生活を脅かさないやり方は幾らでもあった筈だ。そういう部分を省いてしまう性急なところもそっくりだな」
「我々は義に背いた事はしていません…!」
「その義ってのがね…間違っているのだよ…」
 大佐はわざとらしく溜め息をついた。それを見て大尉も口を噤む。恐らくこの会話は平行線だ。話し合いで解決するのなら、我々軍隊なぞそもそも必要で無いのだ。
0711◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:16:21.76ID:Q4XtGfBY0
「…作戦について話すつもりはないのか」
「私は…この鍛え抜いた身体以外、真に語る術を持たんのです。口先では同じ問答の繰り返ししか出来ません」
 その目は真っ直ぐだった。悪い男ではない。だが、それだけで全てが許される訳でもない。
「そこまで言うのなら、良いだろう」
 大佐は椅子から立ち上がると、彼の横っ面を思い切り殴った。それでもソニック大尉は座ったままの姿勢を崩さない。口を切ったのか、唇に血が滲む。士官が慌てて大佐を止めに入る。
「止めるな。…ソニック大尉、君も殴られるばかりでいいのか?やり返してもいいんだぞ?」
「そこまでおっしゃるのなら、良いでしょう」
 そっくりそのまま返す様にして、彼はゆっくりと立ち上がった。

「実戦の現場から離れて久しくてな」
「言い訳は聞きませんよ。鍛錬こそが全て…ッッッ!」
 言うやいなや鉄拳が襲いかかる。狭い部屋なだけあって大佐のすぐ後ろは壁だった。拳を見極め躱すと、ソニック大尉はそのまま壁を打ち抜いた。
「これはなかなか…」
 その隙に懐に潜り込んだ大佐は、右のアッパーを綺麗に顎に入れた。食いしばった大尉だが、その眼光は変わらず大佐を捉えたままだ。
 右の拳を壁から引き抜く動作と同時に左の膝蹴りが来る。咄嗟に腕を畳んで横から受けるも、余りの衝撃に足が地から離れる。
「伊達じゃ無いようだな、その鍛錬とやらは…」
 そのまま少し距離を取る形になりつつ、下がる腕を身体に引き寄せた。今のはなかなか効いた。
0712◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:17:21.25ID:Q4XtGfBY0
 コーナーに追い詰められた大佐だったが、流石に士官達が2人掛かりでソニック大尉を抑えつけた。彼もこれ以上やる気は無くなった様で、大人しく跪いた。
「これは私から仕掛けたのだ。変わらずここに置いといてやれ」
「しかし…!」
 士官が食い下がるのも仕方ないが、何となくこの男のことがわかった気がしていた。とにかく真っ直ぐな拳と、それを裏付ける信念の強さがあった。
「ソニック大尉…。また機会があれば続きを」
「こんな戯れ…俺の力はこんなものではない…!」
 思わず大佐は笑った。むしろ愚直過ぎるようだ。ティターンズにもこういう男がいるのか。
「拳をぶつけた仲だ。悪い様にはせん。しかし敵であるのもまた変わりないからな。利用はさせてもらうぞ」
 そういって大佐は跪く彼をそのままにして退室した。

 退室して小窓から彼を眺めた。士官達に何やら言われつつ、またベッドに腰掛けている。
 それを見届け廊下を歩きながら、大佐は蹴られた右腕をさすった。日頃のトレーニングが無ければ骨の1本も折られていたかもしれない。あのまま続けていたら恐らく一方的な展開になっただろう。
「しかし私もまだまだ捨てたものではないな…」
 大佐は1人呟き、笑みが溢れるのを止められなかった。

16話 鍛錬こそが全て
0713◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:17:49.14ID:Q4XtGfBY0
 フジ中尉が目を覚ますとそこは病室の様だった。むくりと上体を起こす。辺りを見渡すと、他にも手当てを受けている者達が複数居た。
「あ、起きてる」
 丁度スクワイヤ少尉がやってきたところだった。彼女はこれといって負傷はしていない様子だ。
「今しがたな。揺らすとまだ痛むが、大した事はない」
 そういって頭に手をやると包帯が巻かれていた。それ以外に傷らしい傷はない。
「皆無事か?」
「はい、大尉も。防衛作戦は成功したんですが、まだ敵と睨み合ってる感じで。もうじき全体ミーティングやるみたいです」
 中尉自身は流石に次の出撃は見送ることになりそうだが、敵はどう出てくるのか。フォンブラウン市の状況も気になる。
0714◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:18:09.49ID:Q4XtGfBY0
「おう、君らは…。スクワイヤ少尉とフジ中尉だな?」
 入室してきたのはロングホーン大佐だった。右腕を庇っている様に見える。2人で敬礼すると、止めろと言わんばかりに手を振った。
「規律などというものは、それだけでは大して当てにならん。大切なのは実務だ。諸君の様に、戦い、敵を倒してくれれば社交辞令などいらん」
「はっ」
 変わらず中尉は姿勢を正していた。
「いいから楽にしろ…。私も手当てを受けに来た」
「どうされたので?」
 少尉も右腕に気付いたらしく見つめている。
「ちょっとした喧嘩よ。なかなか手強い相手だった」
 そういって大佐ははにかんだ。何故本部で指揮を執る彼が負傷しているのか気になった。喧嘩などと真面目に言っているとは思えないが。彼は衛生兵に声を掛けると、その後について去っていった。
「どうしたんだろうな…」
「さあ?階段でコケたの誤魔化してるとか」
「ないな」
「ないですね」
0715◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:19:36.78ID:Q4XtGfBY0
「ところで、少尉は見舞いに来てくれたのか?」
「まあ…そんなところですかね。時間もあったし」
 彼女は、ベッドの傍らに置いてあった丸椅子に腰掛けた。
「…負い目は感じる必要など無いからな。あそこでガンダムが被弾するより、私の機体を盾にしたほうがいいと判断しただけだ」
「私は…そんな簡単には割り切れません」
 少尉の言う通り、フジ中尉も決して自分を駒だと割り切って動いた訳ではなかった。身体が勝手に動いたようなものだ。
 いざこうして口にすると、何かしら後付するかのように理由をつけてしまう癖が付いているのかもしれない。
「何ていうか…敵は連携がちゃんと取れてたなって思って」
 伏し目がちに少尉が言う。
「確かに。対して我々は個人プレーの目立つチームではあるな。何だかんだ言ってもあの時は大尉も焦っていたし、私も敵を抑えられなかった」
「そうでしょ?自分なりに考えてみたんですけど…。一緒に戦うなら、その…もっと仲良くならなきゃ駄目かなって…」
「それで見舞いに?」
 彼女はやや恥ずかしそうに頷いた。それが可笑しくて中尉は思わず声に出して笑った。案外彼女も彼女なりに考えていたらしい。

「笑わなくったっていいじゃないですか!」
「はは…。いや済まない、君の言うとおりだ。背中を預けられる関係が必要なんだろうな、我々も」
「いつかちゃんと話しなきゃって思ってた矢先にこんなことになっちゃって…遅いのかもですけど」
「いや、その気遣いが私も出来ていれば良かった。さっき大佐も言っていたが、規律や理屈が全てではないものな」
 自分でも規律を重視し過ぎたり、理論武装しがちな自覚はあった。決めつけてかかっても必ずしもその通りに事が運ぶとは限らない。
 その証左に、連携とは無縁に思っていた彼女が自らその改善を口にした。皆自分の知らないところでも戦っている。
「次の出撃までに、大尉も交えて話そう。私はすぐには前線に出られないかもしれないが…」
「大丈夫ですよ。中尉は今は休んでください」
 席を立ちながら彼女が笑った。2人で話して笑うところを見るのは珍しい気がした。それだけでも幾らか関係は改善したのかもしれないと思えた。

「そんじゃ、私はこれで」
「ああ。時間に遅れないようにな。重要なミーティングになる」
「そういうとこですよ中尉!」
 また笑いながら、スクワイヤ少尉は病室を出ていった。思わず中尉も少し笑みを浮かべていた。

17話 規律などというもの
0716◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:20:30.51ID:Q4XtGfBY0
「くそっ…」
 ウィード少佐はブリッジの椅子に片肘を付きながら苛立ちを募らせていた。対照的に、レインメーカー少佐はいつも通りただ静かに傍で立っている。
 その前でパイロットの2人…ドレイク大尉が窓に寄りかかり、オーブ中尉は地べたに座り込んでいる。

「睨み合いね…」
 ドレイク大尉が窓の外の月を眺めながら言う。戦域は離脱したものの、すぐに動き出せる位置で待機している。どちらが先に動くかはまだ読めない。
「そうは言ったって、こっちはもう殆ど出せる機体も無いじゃない。ラムだってどうなったか…」
 落ち込んだ様子のオーブ中尉が、体操座りで顔を膝に埋めながらこぼした。ソニック大尉は皆を逃がす間もひたすら単騎で持ち堪えていたが、ウィード少佐がニュンペーで支援を試みた際にはもう時既に遅かった。
 その上助け出そうにも、中尉の言う通りまともに稼働出来る機体は最早ニュンペーくらいなものだった。第2陣で入れ替わる様に到着したGM2に至っては全滅である。
「ラムの救出と作戦をうまく絡められないかしら?何かしら交渉取引して…」
 ドレイク大尉の言う対応が出来れば勿論良いのだが、ウィード少佐はなかなかそれを思いつけずにいた。
「そうなるとこちらも対価になるものを差し出さなければならない。あちらは間違いなく、アポロ作戦の内容を知りたがるに決まってる…。楽観的に見積もってもニュンペーを差し出せって位の事は言うでしょうね。あれも渡せない」
 対応策が思いつかないまま沈黙が流れる。
0717◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:21:56.53ID:Q4XtGfBY0
「でも、ラムが簡単に口を割るとも思えないよね。あれで義理堅いやつだから」
 オーブ中尉が立ち上がりながら言う。
「あいつが喋らなければ、それだけ情報の類の希少性は増すわね。相対的にラムを拘束する価値も下がっていく。いい塩梅で痛みの少ない情報を差し出せないかしら?」
 ドレイク大尉は窓を眺めるのをやめて、こちらに向き直った。
「んー…そうね…」
 引き続き頭を捻り続けるが、答えは出そうもない。些末な情報が今後命取りになりはしないだろうか。ここでソニック大尉を救えても、後々全滅しては元も子もない。
「お嬢さん方。ここは私が交渉致しましょうか?」
 ゆっくりとそういったのはレインメーカー少佐だった。

「おお!困った時のじいさま!」
 オーブ中尉が目を輝かせて言う。
「はい。困った時の為のじいさまでございますよ」
 レインメーカー少佐が優しく微笑む。しかし裏を返せば、彼ももう黙ってはいられないということでもある。
「それで、どうするっていうんです?」
 正直、ウィード少佐には渡していい情報がどれなのか判断出来なかった。
「大したことではありませんよ。…知らぬ存ぜぬを突き通すのです」
 盲点だった。思わず開いた口も塞がらない。
「勿論、ソニック大尉が口を割っていない前提ですがな…。我々は何も知らされておらぬと。
 ただ通達されたタイミングで攻めたのだと、その一点張りで良いのです。今のところは見逃して撤退してやる代わりに捕虜を返せと言いましょう」
 確かにこれなら撤退の口実にもなる。実情は攻めたくてももう攻められないのだが、敵からすればまだこちらの保有戦力などわかるまい。
 とりあえず捕虜を返すだけでその約束が取り付けられるのなら、エゥーゴも乗ってくる可能性は十分ある。
0718◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:22:28.53ID:Q4XtGfBY0
「流石じいさまですわね」
 ドレイク大尉も乗り気の様である。
「しかし、ラムが口を割っていたら…?」
 薄々わかりながらも、ウィード少佐は聞かずにはいられなかった。
「勿論その時は交渉決裂。それどころか我々も嘘がバレますから…下手すればそのまま追撃が来て全滅でしょうな。情報も連中に渡ることになります」
 こともない風に笑いながらレインメーカー少佐が言った。
「ラムは大丈夫だよ!絶対何も言うわけない!」
 オーブ中尉が詰め寄る。
「まあ…何か漏らしてれば敵に動きがあるでしょうしね。それもないなら今のところは大丈夫でしょう」
 ドレイク大尉も口添えした。やるなら今しかない様だ。
「わかったわよ。レインメーカー少佐…交渉の準備を」
「はい。お任せを」
 まだ不安の拭い切れないウィード少佐をよそに、彼は朗らかに笑った。

18話 嘘
0719◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:23:13.41ID:Q4XtGfBY0
 全体ミーティングを始めようとしていたその時、敵艦であるアレキサンドリアから打診があったとの報告が入る。捕虜の取引である。ロングホーン大佐は唸った。会議室に招集された面々がざわついている
「あと少し遅ければこちらが先手を打ったのだがなぁ…。どうしたものか」
 皆顔を見合わせている。
「交渉にはナイト・レインメーカー少佐なる人物がこちらの拠点までランチで出向くとの事です。内容は…」
 側近の士官が報告を続ける。敵は攻勢に出るより捕虜の奪還を優先したい様だ。捕虜を引き渡せば一旦退くというが…。
「判った、もうよい。…捕虜からは情報を引き出せなかった。私も立ち会ったが、なかなか律儀な男の様でな」

「フォンブラウン市の状況はどうなっているんでしょうか?」
 ワーウィック大尉だった。防衛戦におけるMS隊の活躍は言うべくもないが、試作機に関しては今回も取り逃したと聞く。
「それだがな。経緯としては、脅されたフォンブラウン市側が港を開放した様だ…仕方あるまい。こちらの主力は一旦グラナダへ引き揚げている」
「裏側を死守出来ていなければ、あわや壊滅の危機だった訳ですな」
 そう言いながら、グレッチ艦長が難しい顔をして髭を弄っている。
「その通り。だからこそ今ここで主力が態勢を整えておかねばならん訳だ。このタイミングでの敵の一時撤退の申し出というのは、正直言って有り難い…しかし」
 ロングホーン大佐は腕組みして息を吐いた。ソニック大尉からは正攻法で情報を引き出すことは出来ないだろう。とはいえ、このタイミングだからこそ敵に裏を感じるのである。
「こちらにばかり都合が良いとは思えん。主戦場なり他の作戦から注意を逸らそうとしているのか、捕虜開放以外にも敵に利するところがあるのか…。
 何にせよ駆け引きが要るだろう。交渉には応じるべきかと思うが、諸君からは何かあるかね」
 集まっている面々を見渡す。概ね同意しているようである。
0720◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:23:38.57ID:Q4XtGfBY0
「よし。では承諾の返事を送り、私はすぐに交渉に赴く。そうだな…ワーウィック大尉、君も同行したまえ」
「はっ」
 彼は一瞬驚く素振りをみせたが、すぐに従った。グレッチ艦長にも別で指示を与えねばならない。もう戦いは始まっているのだ。
 会議を解散すると、艦長へ次の指示を出し側近の士官にも交渉の場を整えさせた。ランチの入港なども考え、表のわかりやすい場を選んでいる。敵にコソコソと拠点を嗅ぎ回らせない為だ。
「大尉は百式で出迎えの準備をしておけ。防衛隊もいつもより多く表に出す。まあ、敵も何かしら護衛を付けてくるだろう」
「威嚇になりますでしょうか?」
「少しはな。何せ小隊ひとつ全滅させた機体だ」
「買い被りではありませんか」
 大尉がそういうと、2人で笑った。交渉の準備を進めながら、大佐達も会議室から退出した。
「そういえばそのスクワイヤ少尉達と会ったよ、医務室でな」
 歩きながら大尉と引き続き話を続ける。
「中尉の見舞いですかな…私もそのうち。大佐はその右腕のお怪我ですか」
「ちょっとした喧嘩だ。…まあ得るものはあったが」
「なるほど…。私は白兵戦はからきしです。地球でも2度ほど捕虜に出し抜かれましたよ」
 ワーウィック大尉は察しが良いらしい。捕虜に出し抜かれたというのは感心しないが。
「今回は逃がすなよ?」
 ドックへ向かう彼とも別れ、大佐は上層部との打ち合わせの為一旦執務室へ戻った。
0721◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:24:17.25ID:Q4XtGfBY0
 執務室へ入り、グラナダへ通信を行う。取り継がれるのを待ちながらモニターの前に座り、デスクを指先で叩いていた。
「…お待たせしました。ブライト・ノア大佐であります」
 一年戦争の英雄…。ホワイトベースの元艦長であり、今はエゥーゴの旗艦アーガマを任されている男だ。
「ごたついている所を申し訳ない…。アンマンのダン・ロングホーン大佐であります。ティターンズにしてやられましたな」
「ドゴス・ギアが制空圏へ入るのを阻止できませんでした。グラナダからの援軍が間に合えば…」
「間に合いませんよ。それも織り込み済みの作戦でしょう。…その敵の作戦について情報は何かしら得られましたかな?」
「どうも敵の指揮系統が不透明です。確かに伝えられるのはそれだけですね。そちらは?」
「今からこちらを襲撃した敵との交渉に入ります。捕虜を捕らえたものの、口を割りませんのでな。せめて取引材料にはなってもらわねば」
「何を悠長な!敵は現にフォンブラウンを抑えているんですよ!?」
「…君らがグラナダまで下がってこれたのは我々が基地を死守したからだ。自力で守り切れなかった君らにとやかく言われる筋合いはあるまいよ」
「くっ…」
「とにかく、こちらもやれることをやりますとも。何かあれば密に連絡を」
「…わかりました。月の裏側は頼みます。我々もフォンブラウン奪還に全力をあげます」
「よろしく頼みます。では、私も交渉の準備もありますのでこれで」
 通信を終えた。彼の言う通り、いくらエゥーゴの主力といえど兵力差を埋めるのは容易では無かっただろう。しかし、それでもやるしかないのだ。

 丁度、じきにレインメーカー少佐が到着との報が入る。ティターンズのお手並拝見といったところか。刻一刻と戦況は変わっていく…自分に出来ることをただやるだけである。

19話 都合
0722◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:25:13.54ID:Q4XtGfBY0
「これはこれは…」
 レインメーカー少佐は、ランチから眺める敵の基地に思わずこぼした。着艦指示のあった正面の港には、複数のMSが整列していた。その中には例のバッタも見える。
 こちらもニュンペーを伴って基地へと着艦する。試作機故あまり見せびらかすべきではないが、他にまともに稼働出来る機体もない。また、敵に過度な警戒をさせない為にも軽装な機体の方が都合も良い。
『MSはここまでだ』
 敵パイロットの声。バッタに制止されたニュンペーが立ち止まる。
『ロックしていくが…絶対に触るなよ』
 ウィード少佐が釘を刺しながらコックピットハッチを開いた。まだ半人前の娘だが、今回の交渉もひとつ勉強になるだろう。
『後で難癖つけられてもたまらんからな』
 そう言い返し、バッタもハッチを開く。ノーマルスーツで顔は見えないが、2人は向き合う格好になっていた。

 ランチの着艦が完了し、レインメーカー少佐も敵地へと降り立つ。出迎えたエゥーゴの士官に案内されて施設へと歩いていく。その後ろを、ウィード少佐とバッタのパイロットが続く。
 程なくして1つの部屋に辿り着く。敵指揮官はここで待っているらしい。士官が開けた扉の先には、がっしりとした体躯の、厳つい男が座っていた。
「あなたがレインメーカー少佐ですな。私がここを任されているダン・ロングホーン大佐だ」
 ロングホーン大佐が立ちあがると、握手を求めた。
「いかにも私がナイト・レインメーカー少佐であります。ティターンズは軍内で2階級上の待遇ですから、あなたとは同格ですかな」
 そう言いながら手を握り返す。
「適当な事を言う爺よ…正しくは1階級だ。それに、そもそもそんなローカルルールなど知ったことではない」
「そう言う割にはよくご存知で」
 鋭い目線を向けたまま、大佐が鼻で笑った。あまり挑発に乗る人物ではないらしい。レインメーカー少佐もにこやかな表情を崩さなかった。
0723◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:25:49.71ID:Q4XtGfBY0
 ロングホーン大佐が元の席に戻り、その側に先程のパイロットが立つ。ヘルメットを脱いだその顔には火傷の跡がある。向かい合う形で着席を促されたレインメーカー少佐の側にも、ウィード少佐が立っている。
「それで…。捕虜の引き渡しだったかな」
 大佐が左の片肘をつく。その横着さにウィード少佐が眉をひそめている様だが、レインメーカー少佐は無視した。
「ええ。彼からは何の情報も得られなかったでしょう?我々としては大事な仲間でしてね、確実に救出するには話し合いしかないかと」
「どうせ貴様らに直接聞いてもしらばっくれるのだろうがな。しかし、話し合いとはティターンズにしては平和的だ。それとも…戦う力も残っていないか?」
 大佐がほくそ笑む。
「それはこの交渉が決裂すればわかる事。フォンブラウンの様には無血開港の余地を与えぬかもしれませんが…何せ我々はティターンズですからな」
 レインメーカー少佐も笑顔で返した。

「そちらの一時撤退が条件か。ものは言い様だな。…仲間を返してください!逃げるのも許してください!…という風にも、聞こえるが」
 懇願する様な大袈裟なジェスチャーでこちらを煽ってくる。
「そういえば表に並んでいたMS隊…どうも整備が行き届いている様には見えませんでしたな。そちらも虚勢を張る余裕はある様ですが、迎撃するだけの余力は本当にあるんでしょうかね」
 あくまでもレインメーカー少佐は笑顔のまま姿勢を崩さない。
「…試してみたいと言うのなら…それは開戦ということかな?」
 大佐が声のトーンを落とした。場が静まり返る。異様な迄に重い空気に、首筋を冷たい汗が一筋流れる。
「…あくまでも捕虜の引き渡し。それだけが要求です」
 レインメーカー少佐は、敵を真っ直ぐ見据え口元だけで笑ってみせた。
0724◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:26:15.90ID:Q4XtGfBY0
「…ふん、つまらん爺め。よかろう。これ以上は時間の無駄だ」
 そういって大佐は立ち上がる。
「今回は捕虜を引き渡す。その代わり、即刻この宙域から立ち去れ。猶予はない」
「わかりました。それまでに追撃でもしてこようものなら、我々もこの基地を全面破壊させていただく」
 少佐は嘯いたが、大佐はもうこちらを見てはいなかった。

20話 条件
0725◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:27:01.31ID:Q4XtGfBY0
「糞爺めが…!」
 退出したティターンズの連中が扉を閉めると、ロングホーン大佐は眉をひそめた。結局敵の要求を全て飲む形になった。
「大尉、追撃に出るぞ。やつらが宙域を出たら問答無用で叩く」
「艦長がバタついていたのはその準備ですか。しかし、敵の戦力も読めぬままでは?」
「そう、艦長には出港準備をさせていたのだ。敵の戦力だが…あの護衛機、例のテストを行っていた機体だろう?あれ以外に護衛につける機体すら無かったのだろうよ。
 牽制の為の部隊に別で増援を回せるほどティターンズも手は余っちゃいない」
「なるほど。であればすぐにでも叩けばよかったのでは?」
「アレキサンドリアに直接市街地を砲撃されれば只では済まん…やりかねん連中だ。とにかくアンマンからは引き離す方が先決と思う。ここから離れた場所でなら好きなだけドンパチしていい!さっさと行ってこい!」
「はっ」
 大尉が踵を返し、足早に去っていった。今頃他のパイロット2人も乗艦しているだろう。
0726◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:27:26.58ID:Q4XtGfBY0
 しばらくして、敵機がアンマンを出港したとの報せが入った。捕虜も取り返せて敵は満足だろう。
 入れ替わる様にしてアイリッシュ級が発進準備に取り掛かる様子を、サラミス改が入港してきた時と同じ場所から眺めていた。
「ティターンズ…。伊達にエリートを自称する訳ではない様だが、分別の無い連中が選民思想などと…片腹痛い」
 1人呟いたその時、グラナダからの通信を取り継がれた。ブライト艦長である。
「ロングホーン大佐だ。如何です?そちらは」
『別働隊が都市の発電施設占拠に動いています。これでティターンズも撤退せざるをえないでしょうね』
「流石は一年戦争の英雄ですな…。先日の無礼を侘びたい」
 昨日の今日にしては迅速な対応と言っていい。素直に大佐は感心していた。
『英雄などと…沈んだ艦の艦長ですよ。アンマン市はその後どうです?』
「今しがた敵の捕虜を開放しました。敵は撤退するところだが…こちらもこのまま逃がす気はありませんな」
『その様子だと、どうやら月はうまく守りきれそうですね』
「おかげさまで」
 それから幾らか言葉を交わして通信を切った。ブライト艦長達はまた各地を転戦することになるのだろう。しかし早くも全面撤退とは、ティターンズの3日天下といったところか。
「我々も負けてはいられんな…」
0727◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:28:17.94ID:Q4XtGfBY0
『それでは我々も出港致します』
 今度はアイリッシュ級のグレッチ艦長からの通信だった。
「ああ、じきにタイムリミットだ。奴らを叩きのめして凱旋してくれることを期待する」
『はっ』
 挨拶もそこそこに彼らは基地を立った。それを見送りながら、大佐は次の手へと思考を巡らせるのであった。
 フォンブラウンを抑え損なった以上、アンマンにこだわる理由もあるまい。しかしあのティターンズがこのまま引き下がるのであろうか。
 前回ブライト艦長が言っていたような敵の指揮系統の乱れというのも、気には掛かっていた。
 確かにフォンブラウン市の制圧は早かったものの、それに合わせたアンマン市強襲は幾らかお粗末なところもある。何よりその後の撤退も現場レベルでの対応にみえ、組織だった動きとは言えなかった。

 そんなことを考えている内にアイリッシュ級の姿は随分と遠くなった。防衛隊をこの追撃に割く余力はなく、単艦での追撃である。
 戦力的に不安がない訳ではないが、それでもやってもらわなければならない。
 来たるべきティターンズとの決戦はそう遠い未来の話ではないし、目まぐるしく変化する戦況の中で揉まれてこそ彼らは飛躍することが出来るだろう。大佐自身もそうやって生き延びてきた。
 ガラス越しにぼんやりと見える戦艦の後ろ姿。重なる様に映り込んだ自分の顔は、思うよりもいささか老けて感じた。

21話 重なる
0728◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:28:57.96ID:Q4XtGfBY0
「隊長!追撃に出るんですね」
 出港したアイリッシュ級のブリッジに合流したワーウィック大尉の顔を見たスクワイヤ少尉は気力に満ちていた。
「待たせたな。中尉の援護も期待しているぞ」
 少尉に笑いかけた大尉がフジ中尉の方へ振り向く。
「前線に出られないのが幾らか歯痒いですがね」
 フジ中尉はそう言いながらグレコ軍曹の隣の席でインカムの位置を調整していた。今回の作戦では中尉はブリッジに待機だ。オペレーターとして作戦指示を行う。
「中尉の分も私が動きますよ。だから私の分も頭使ってください」
「いや、少尉はもっと自分の頭も使ったほうがいいな」
「またそういうことを言う!」
 以前なら喧嘩の様に言い合うところだったが、不思議とお互いに冗談としてやりとり出来るようになっていた。和やかな2人をみて、大尉が意外そうな顔をしている。
「どうやらちっとばかりチームらしくなってきたみてぇだな」
 そんな様子を見ていたグレッチ艦長もニヤリと笑った。

 アイリッシュ級は程なくして月の重力から脱した。もうこちらからアレキサンドリアを捕捉出来ている以上、敵にも当然気付かれている。
「そろそろだな…。2人とも頼むぜ」
「「了解!」」
 少しまだ緊張気味の艦長に、2人は小気味よく返事を返した。すぐにブリッジを離れ、出撃の為MSの元へと向かう。
0729◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:29:27.07ID:Q4XtGfBY0
「少尉、フジ中尉とも少しは話せたか?」
 格納庫へ向かう途中、ワーウィック大尉が口を開いた。2人は移動しながらそのまま話し始める。
「もっと連携しないとこのままじゃヤバいって話を」
「その通りだな。君らの方からそういってもらえるとは思っていなかったよ正直」
 そういって大尉が頭を掻いた。
「絶対そう言われるって思いましたけどね!でも…大尉が来たからこういうことに気付けたのかもです」
「それなら私も着任した甲斐があるというものだ」

 それぞれのコックピットに乗り込み、出撃の時を待つ。まだ慣れない全天周囲モニターだが、敵は慣れるまで待ってはくれまい。
『準備はいいですか?』
 モニターにフジ中尉が映った。インカムを付けた彼を見るのは若干の違和感がある。
「いつでも」
『私もオーケーだ』
 少尉に続いて大尉からも応答がある。
『それでは簡単に説明を…。これより敵艦アレキサンドリアを背後から強襲します。敵戦力は未知数ですが、余裕があまりないことだけは確かです。間違いなく例のテスト機は出てくるかと。
 月周辺ということでデブリは比較的少ない宙域ですから、ここは正攻法で正面からぶつかる形になるでしょうね』
 中尉が淡々と述べる。とにかく叩けということだった。
『わかった。こちらも私と少尉の2機だけだ…最新鋭の機体とはいえ、油断せずいくぞ』
「了解」
 スクワイヤ少尉達は敵艦を目視しながら、それぞれ両翼のカタパルトから出撃した。
0730◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:29:56.54ID:Q4XtGfBY0
 中尉の言うとおり、そこは目立つデブリのない視野の開けた宙域だった。隠れる場所はない。
『ここでやつらを殲滅出来れば、周辺の脅威はひとまず無くなるだろう』
 大尉が言った。索敵しつつ敵艦との距離を詰めていく。
「あのテスト機、本採用されると厄介ですね」
『それなりにコストは掛かってそうだが…どうだろうな』
「あのパイロットの腕がいいだけならいいんですけど」
『そうであってほしいな…噂をすれば!』
 敵艦から機体が出撃するのが見えた。2人は速度を上げ、敵機を追い始める。敵は母艦から離れ過ぎない距離を保ちつつ2人を引きつけていた。
「アレキサンドリアはどうします!?」
『今はMSを先に叩いてください!MSを剥ぎ取れば艦はデカい的ですからね。艦砲射撃でアレキサンドリアをこちらに引きつけておきます』
 フジ中尉から指示が入る。アイリッシュ級も遅れずについてきている様だ。光る主砲を背に、少尉達はMSとの距離を縮めた。
 一定の距離になった時、ようやく敵はこちらを振り向いた。やはり例のテスト機である。
0731◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:30:48.18ID:Q4XtGfBY0
「今日は完全な2対1…。ここで落とす!」
『手筈通り、スクワイヤ少尉から仕掛けてくれ。ワーウィック大尉はサポートをお願いします』
『了解した。連携すれば叩けない相手ではないさ』
「行きます!」
 マンドラゴラはコマの様に回りながら頭から敵へ突貫する。出撃前、フジ中尉達と作戦を立てていた。
 最大の脅威は今のところ敵の携行しているライフルだ。極めて速い弾速を誇り、急所に当たればただでは済まない。これを躱しながら接近する為に、まずは運動性に優れたスクワイヤ少尉が仕掛ける。
「見てからじゃ遅いんなら!」
 敵の銃口がこちらを捉えるよりも早く機体の軌道を逸らす。通常ならば相当なGが掛かるが、過剰なGも想定しているマンドラゴラのコックピットには、対策が入念に施されている。
 少尉の技術と掛け合わせれば少しの時間ならかき乱せると判断した。
 大尉の百式にも注意しながらでは到底追いつけるスピードではない。流れ星の様にバーニアの残光が尾を引き、その幾何学模様に翻弄された敵は足を止めた。
『ここか』
 大尉はそれを見過ごさなかった。急加速をかけた百式がナギナタを携え、敵の足元から迫る。それに敵機も気付いたが、抜刀するだけの猶予を2人は与えない。
 百式は正面から袈裟に切り上げる様にしてナギナタを振り上げた。

 しかし、その刃は敵を両断することなく止まった。敵の腰部から伸びたサブアームがそのビーム刃を受け止めていた。
『隠し腕…性懲りもなく…!』
 唸る大尉。少尉は初めて見る装備だったが、それに対して大尉の対応は早かった。すぐにナギナタのビーム基部を元のサーベルとして切り離すと、逆手に持ち敵機へ突き立てに掛かった。
 その手首を両手で掴む様にして敵機が粘る。
『ライフルを捨てたか!…少尉!』
 フジ中尉の声が聞こえてか否か、掴みあいで動けない両機に向かってマンドラゴラは飛んだ。組み合いになっている以上、誤射を考えるとこちらもライフルは使えない。
 サーベルを抜刀すると、横から入り込む形で敵に飛びかかった。組み合いになっていた敵の両腕を切断する。
 間髪入れず、敵から解放された大尉の百式が突きを繰り出した。躱しきれない敵の右肩が弾け飛ぶ。
「仕留める!!」
 少尉は駄目押しの一撃を無我夢中で畳み掛ける。
0732◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:31:34.31ID:Q4XtGfBY0
 その時、敵機の熱源反応が異様に高まった。部隊に嫌な予感が走る。
『離れろ!こいつ…!』
 大尉の声とほぼ同時に敵機から光が漏れた。少尉達が退避行動をとったのも束の間、敵機は激しい閃光と共に爆裂した。強い衝撃が2人を襲う。
「うあああ!!」
 揺れる機体の中、強い光でホワイトアウトしたモニターに囲まれ、少尉は初めて恐怖を感じた。理屈ではなく本能が、忍び寄る死を感じ取っていた。目を瞑り両耳を塞ぐ様にして、少尉はただその球の真ん中で怯えるしか無かった。
 しかし、マンドラゴラは衝撃に耐え切った様だ。程なくして機器も復旧する。その作動音を聞いてようやく少尉は目を開けた。
『…自爆するとは。思い切りの良い』
 大尉の百式も無事な様だ。とはいえ機体の装甲はズタボロになっている。恐らくマンドラゴラも似たような状態だろう。
『2人とも無事ですか!?』
 フジ中尉が慌てる。
「何とか…」
 その声を聞いて、モニター越しの中尉が胸を撫でおろしたのが見えた。

『…自爆時、離脱するポットを確認しています。ガルバルディの1機が回収に出てきている様ですが、今敵艦に近づくのはあまり得策ではないでしょうね』
 中尉が口惜しそうに言う。自爆のダメージに加え、先程の高機動戦闘でかなりガタがきている。何より、少尉自身の手の震えが止まらなかった。
『うむ。作戦はここまでだな。半端に回収されるよりは自爆を選ぶか…。あの揉み合いの中でその判断が出来るのは、間違いなく手強い』
 大尉の声を聞きながら、少尉は自分の腕を抱くのが精一杯だった。

22話 ホワイトアウト
0733◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 13:33:06.60ID:Q4XtGfBY0
今回はここまでです!
だいぶ一気に投下しました笑
正直言うとストックほぼ全てを出し尽くしたので、次はもう少し遅くなるかもです…!

ゆっくり読んでてください!!
0734◆tyrQWQQxgU 2020/01/15(水) 15:55:30.14ID:Q4XtGfBY0
お待たせしました!pixiv更新しました!!
https://www.pixiv.net/novel/series/1235721

最新話まで全て更新済ですので、こちらもチェックお願いします!
0735通常の名無しさんの3倍2020/01/21(火) 21:40:00.57ID:cM4+NL5O0
お疲れ様です!

ロングホーン大佐...味方に毒を吐くし捕虜とは拳で語るし、明快に「ズケズケと踏み込んでくる男」ですねw
かといってただの無神経ではないし、生存フラグも死亡フラグも立てられる面白いキャラだと思います

ワーウィックはナギナタを握りつつメイ・ワンとの追いかけっこを笑い話にする辺り上手く前進してますね。
スギ艦長のような生き字引になってほしいものです

ニュンペー、百式改、マンドラゴラとカラフルな役者が基地前に揃ったと思えば自爆!あっけねぇ(失礼ながら苦笑)
まだまだ展開の読めない今シーズンですが、月面のみんなもSさんもご健闘を!
0737通常の名無しさんの3倍2020/01/22(水) 19:28:07.74ID:wOjmN8Fc0
本編だとメラニー会長の方からグワダンに出向いてたから
アクシズの使者がアナハイムに接触ということは無さそう
0738◆tyrQWQQxgU 2020/01/24(金) 21:48:39.95ID:oR7mXlEL0
>>735
ロングホーン大佐は割とお気に入りです。
体たらくな連中が多いので、しっかりした人物も居てほしいなと…。笑
拳で語り合うのはやっぱZでは必須ですよね!笑

僕の中で、もしカミーユが女の子だったら?とか、周りの大人にしっかり者が居たら?っていうifも含んだ構成にしています。
それと、前作主人公の扱いって難しいですよね。
某准将とかに比べるとアムロは上手く立ち回った方だと言われる事も多いですが、個人的には主人公にしてはあまり活躍しなかったという印象も強くて。
(本編前からの扱いですが)Xのジャミルくらいが理想的かなと思うので、そういう塩梅でワーウィック大尉には頑張ってほしいです。

ガンガンぶっ壊すのも前作からの伝統です!笑
とはいえキチンとデータは持ち帰ったので…?
これからの展開にも期待してください!!
0739◆tyrQWQQxgU 2020/01/24(金) 21:54:17.78ID:oR7mXlEL0
>>736
>>737
第2部ではアクシズ勢はそこまで出さない予定です。彼らとのイベントはワーウィック大尉が中心になり過ぎるので。
最初は2部で終盤まで書くつもりでしたが、色々やりたいことを考えたら3部構成が必要な気もしています。
1部と2部で書いたことの集大成として、最終章を書くのも良いかと。

まだまだ僕自身も展開が読めない部分が多いので、登場人物達がどう動いていくのか楽しみです。
0740◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:27:24.02ID:35+2VBiK0
お待たせしてすみません!
最近忙しかったので筆があまり進んでおらず…。
ずっとお待たせするのも何なので、とりあえず3話だけ公開しておきます!
0741◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:29:15.52ID:35+2VBiK0
 ウィード少佐の脱出ポットを回収し、オーブ中尉のガルバルディαが帰還した。それを確認したアレキサンドリアは、船速最大で宙域を離脱する。敵はこれ以上追ってこない様だ。
 戦況をブリッジからモニターしていたドレイク大尉はほっとひと息ついた。
「危なかったわね…」
『どんどん敵の動きが良くなってる…』
 オーブ中尉が悔しそうにモニターから目を逸らしていた。

 ソニック大尉を連れ帰ったのも束の間、月を離れたところをすぐに追撃された形だった。彼を取り戻し撤収に成功はしたものの、使える機体は尽く潰えている。ガルバルディも稼働こそするものの、戦場には出せる状態ではない。
 辛うじてテストのデータだけは持ち帰ることができたが、ニュンペーも失ってしまった。
「ごめん、機体は持ち帰れなかった」
 ウィード少佐がブリッジに戻った。傍にオーブ中尉もいる。
「あなたが帰ってきただけマシよ。データだってほら」
 ドレイク大尉は落ち込む少佐の肩を軽く叩いた。オーブ中尉も唇を噛んでいる。
「ラムはどうしてる?」
 顔を上げたウィード少佐が聞いた。
「まだ寝てるわ。あっちじゃまともに寝れてなかったみたいだしね…。レインメーカー少佐も今さっき自室に戻ったわ。かなり神経削がれてたみたいだから、今は休ませてあげましょ」
「皆ボロボロだけど、まだこれからが勝負よね…!もう負けられない」
 オーブ中尉が拳を固く握りしめながら言った。ドレイク大尉も同じ気持ちだった。
0742◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:29:56.22ID:35+2VBiK0
「これからどうする?シロッコ大佐にデータを届けるんだったら、ドゴス・ギアだかジュピトリスだかに出向くのがいいかしら」
 近辺の宙域をマップで確認しながらドレイク大尉は話題を変えた。今は前向きに進むしかない。
「…ニュンペーを失った以上、通信で済ませるのは大佐に無礼だからね…。正直顔向け出来たもんじゃないけど、顔出さなきゃ」
 ウィード少佐が椅子に腰掛けながら溜息をついた。彼女も憔悴している様だった。
「ま、今のうちにあなたも休むと良いわ。私が後は見とくから」
「ありがとう。そうする…」
 最低限の確認事項を擦り合わせ、ウィード少佐はブリッジを後にした。その後ろ姿をオーブ中尉と2人で見送っていた。
「お嬢さんは休まなくていいの?」
「何言ってんのよ。フリード独りに任せる訳ないでしょ?」
「頼もしいわね」
 そういってオーブ中尉の頭を撫でた。彼女は腕を組んでふんと鼻を鳴らしたが、特に抵抗するでもない。

 それからしばらくして、友軍の通達が入った。
「うそ…!」
 ドレイク大尉は思わず声をこぼした。フォンブラウン市がエゥーゴに奪還されたとの報せだった。
「アポロ作戦は成功したんじゃ…?」
 オーブ中尉も焦りを隠さない。友軍によれば、ティターンズが地を固めるより早くエゥーゴがライフラインを抑えたという事だった。幸い旗艦含め損害はそれほど出ていない様だが、このまま引き下がる訳にも行くまい。
「やはり…性急過ぎたのでしょうな」
 後ろからレインメーカー少佐の声がした。
「良いのですか?もう少しお休みになられた方が…」
「いやいや、まだ若い者に任せる訳にはいきませんのでな。それにこの通り」
 そういって少佐は両腕の力瘤を見せる様にして笑った。
「ラムに比べたらまだまだねー」
 オーブ中尉が茶化す。そのソニック大尉はまだ休んでいる様だ。
「ソニック大尉程は無理ですなぁ…。その代わりと言っちゃなんですが、知恵はありますよ」
「その知恵を今後もあてにしてますわ」
 ドレイク大尉は腰に手を当てながら微笑んだ。
0743◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:30:37.45ID:35+2VBiK0
「なるほど。なかなか渋いですが…」
 レインメーカー少佐を中心に、ブリッジの3人で戦況を確認していた。結局、主だった拠点は元通りエゥーゴの傘下にあると言っていい。
「何だかんだ言って、フォンブラウンを叩くにはグラナダやアンマンが目の上のたんこぶって感じね」
 オーブ中尉がペンを鼻の下に挟んで椅子と一緒にくるくる回っている。
「確かに、敵の主力をあまり叩かずに拠点だけ抑えたからグラナダの巻き返しも早かった…とも言えるわね」
「楽しちゃ駄目ねやっぱ!まずは裏側から抑えておかないと結局遠回りよ」
 そうしてドレイク大尉達が話しているのを、少佐は静かに聞いていた。
「じいさまはどう思う?」
「私ですか。ふーむ…」
 回るのをやめた中尉の問いにも、変わらず思考を巡らせている。
「…そうですな。お嬢さん方の言うとおり、グラナダ辺りを叩くのが良いでしょう。恐らく上層部もそのつもりかと。…しかし、上の連中は正攻法では仕掛けないと思いますがね…」
 レインメーカー少佐の笑みに、何か黒いものを感じた。
0744◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:31:35.04ID:35+2VBiK0
「…何にせよ、今は報告と補給が必要だわ」
 声の方を振り返ると、ウィード少佐とソニック大尉の姿があった。
「皆…済まなかった…!俺の力不足がなければ…」
 ソニック大尉は戻った時と相変わらずうなだれている。
「もう!いいのよそれは!ラムって意外と引きずるのよねー」
 オーブ中尉が意地悪く笑っていた。
「ラムが粘ってくれなきゃ全滅してたわ。あなたのおかげよ」
 ドレイク大尉も彼を励ました。実際彼が殿を務めてくれなければかなり際どいところだったのだ。
「皆揃った事だし、そろそろ目的地を」
 そういいながら、いつもの椅子へウィード少佐が座る。その側にレインメーカー少佐も立つ。変わりない光景だった。
 この艦の行き着くところに楽園があればいいが、我々の手はあまりに血塗られてはいないだろうか。ふと、ドレイク大尉は自らの両の掌を見つめた。

23話 行き着くところ
0745◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:32:15.55ID:35+2VBiK0
 アイリッシュ級に帰還したものの、スクワイヤ少尉はコックピットハッチを開けられなかった。
『大丈夫か!?』
「大丈夫です…。大丈夫なんですけど…」
 ワーウィック大尉の呼びかけに応えながら、少尉は自分の身体が自分のものでない様な感覚に襲われていた。あの時感じた恐怖を、身体が跳ね除けられずにいる。コックピットの中で、小さく丸まる様にしてうずくまった。
 しばらくしてコックピットが外から開けられた。覗き込み、様子に気づいた大尉が近づく。
「…どうした」
「わかりません…。ただ…恐ろしくて…」
 大尉はそれ以上は何も言わず、少尉が落ち着くまでそのまま傍に居た。

「光に包まれた時…死ぬんだと思いました。いや…身体がそう思ってしまったっていうか」
 少尉は、僅かに震える肩を手で抑えた。
「今までは被弾したって何てことは無かった…。高を括ってたんです…きっと。まさかこんなとこでやられるはず無いって。自惚れてたんです…!」
 そこまで言って、少尉は今までの自分が酷く矮小に思えてきた。噛み締めた唇から血が滴る。
「怖かった…!何も出来ないまま唐突に…!理不尽でどうしようもなくて!!頭より身体が…それを受け入れようとしたのが…どうしようもなく…怖くて…」
 昂ぶった気持ちが、喋りながら萎んでいった。涙が溢れ出す。
「死にたがりが聞いて呆れますね…」
 血と涙を拭いながら、上手く笑えない頬が引きつった。
0746◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:33:10.27ID:35+2VBiK0
「そうか」
 大尉はぽつりと言った。
「前にも少し話したが…私の話を聞いてくれるか?」
 少尉が小さく頷くと、大尉はその場に座り込んだ。
「きっと、全く同じ様に感じたということは無いんだろうが…。私もある時までは自分がやられるなんて思ったことはなかった。一年戦争を戦い抜いたし、頼れる仲間も居た」
 少し上を仰ぎ見る様に、大尉は回想した。
「ニューギニア基地での戦い…ほんの少し前の話だがな。そこに至るまでの間、交戦の機会が何度かあった部隊がいた。その隊長格と決着をつけなければならなかったんだ。私は乗り慣れたマラサイ、僚機は…ガンダムだった」
「例のニュータイプの…?」
「まぁな。本人は否定的だが、私もニュータイプだと思っている。そんなやつと2人掛かりだったのに、たった1機のジムクゥエルにやられかけた。恐ろしく強くてな…」
 ニュータイプの乗るガンダムとワーウィック大尉が2人掛かりで苦戦するジムクゥエルというのは、正直イメージが沸かなかった。

「倒せたと思った時、背後からサーベルで貫かれた。火傷はその時のものだよ。あの時、まさしく死んだと思った。でも私は死ねなかった…仲間が帰りを待ってたからな」
 大尉はやや恥ずかしそうに鼻を擦った。
「かつての私は、恐怖などよりとにかく戦う事しか頭に無かった。だが日々の戦いの中で明確に変わっていったのは…自分の為の戦いから、仲間の為の戦いになっていった事だと思う。
 最後の最後、やつを倒した私を支えていたのは…やはり仲間の存在だったよ」
 そこまで言うと大尉は立ち上がり、少尉の正面に立った。少尉は赤くなった目でそれを見上げる。
「恐怖と向き合うことで、きっと少尉はひとつの答えを手に入れると思う。それがどんな答えなのかは私にもわからん。だがな、その過程の苦しみは私達も一緒に分かちあえる筈だ。幾らでも私達を…仲間を頼れ」
 少尉の肩を軽く叩くと、大尉は出ていった。叩かれた肩から、少しだけ荷が降りた様な気もする。しばらくコックピットの中で大尉の言った事を反芻していた。
0747◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:33:41.75ID:35+2VBiK0
 これ以上の追撃は月を離れすぎてしまう為、一時中断となった。艦長達は、敵を追い払うにはこれで十分と判断した様である。少尉が気持ちを落ち着かせて表に出た頃には、もう艦が再びアンマン市へ入港するところだった。
「もういいのか?」
 機体を降りて格納庫を眺めていると、フジ中尉がやってきた。
「すみません、取り乱して…」
「気にするな。そんな時もあるだろう」
 珍しくフジ中尉の言葉には棘がなかった。
「大尉は勿論だが、艦長も心配していたぞ。後で顔を出してやるといい」
 そういいながら中尉がドリンクを手渡す。受け取りながら少尉は小さく会釈した。思い返せば、いつも中尉はぶっきらぼうでも彼女を気遣っていてくれた様に思う。
「私が思っていたより…死ぬのって穏やかじゃないかもしれません」
「それはそうだ。穏やかに死にたければベッドの上が良いに決まっている」
「確かに」
 2人はすこし笑った。わかりきったことではあったが、それを真に実感するのは難しいことかもしれない。
「…死んでいった者達の多くは…それを望んだり、望まれていた訳ではあるまいよ。敵ですら、殺したくて殺している訳ではないだろう。例えそれがエゥーゴとティターンズの関係であってもだ」
0748◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:34:17.60ID:35+2VBiK0
 遠い目をしたフジ中尉を尻目に、少尉もふとこの戦いの不毛さに思いを馳せた。
 彼女は志願兵である。何故志願したのか。それを振り返るには避けて通れない男がいる。その顔が浮かぶだけで、暗い気持ちも一緒に浮かび上がってきた。
「…私、実は」
 少尉が過去について少し口にしようとしたその時、艦内放送で緊急の呼び出しがかかった。
「…何だ?」
「また後で話します」
「そうか。とりあえず行こう」
 放送に従う様にして、2人はブリッジへと向かった。

 ブリッジに到着すると、そこにはアイリッシュ級の面々が揃っていた。
「おう!元気か?」
 椅子から身を乗り出したグレッチ艦長が目に入る。
「ご心配をおかけしました」
「全くだ!次同じ様なことがあったら無理矢理でも呑ますからな!覚えてろよ」
 艦長がニヤリとしながら言った。皆の優しさが身に沁みる思いだった。
「それで?何の呼び出しです」
「それがな…」
 フジ中尉の問いかけに、モニターの前に居るワーウィック大尉が答えた。
「連邦議会でティターンズの権限を強化する法案が可決されたそうだ。これから我々の立場は尚の事厳しくなるだろう」
「馬鹿な!?只でさえ連中は軍内に幅を利かせているというのに、それだけでは物足りないと?」
 フジ中尉が少々声を荒げて詰め寄る。
「月での影響力拡大に失敗したばかりだからな。地球でも拠点を失っているし、権勢を保つには議会を抱きこむ必要があるのだろう」
「大尉の話はわかります…。しかし、エゥーゴは何の抗議も出来なかったのですか!?」
「当然、毅然とした立場で発言しただろう。我々の働きを知る官僚達も決して少なくはない。だが…」
 そこまで言って、大尉は視線を落とした。皆次の言葉を待った。
「…ブレックス准将がお亡くなりになられたそうだ」
 皆、言葉を失った。
0749◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:34:51.21ID:35+2VBiK0
「正直言って、俺は彼の信奉者でも何でもない」
 グレッチ艦長が腕を組んだまま口を開いた。
「エゥーゴにいるのも成り行きだ。思想的に共感したとか、大義があるとか、そういうのは無い。…言わなくてもわかってるか」
 そういって今度は髭を弄りながら艦長が続ける。
「だがな、筋の通し方ってもんがあるよな?言いたいことがあるならはっきり言や良いんだ。間違っても、自分の言い分が通らねぇからってトップを殺して…文字通り黙殺する様なやり方はよ…筋が、通らねぇんだ」
 珍しく艦長の言葉には熱がこもっていた。少尉を始めとして、皆の視線が艦長に集まっている。
「准将をやったのはティターンズだ。ジャミトフだろうがバスクだろうが知ったこっちゃない。俺は許せん。
 もうこれからは連邦の内紛なんかじゃ収まりきれない様な…全面戦争が始まると思う。だからな、ここではっきり皆に伝えておきたい」
 椅子を降りた艦長がブリッジの窓を背にして皆を振り返った。
「この艦は俺達の新しい家だ。俺が…その…父親みてぇなもんだ。大したことはしてやれなかったが、気づいたらそうなってた。お前達の為に、俺はこれからもっと…頑張る!だから、お前らも頑張れ!」
 言葉を選びながらも艦長は話し切った。静まり返ったままのブリッジで、艦長が固まっている。
「何言ってるんです今更…。こうなってしまった以上、あなたに皆付いていきますよ」
 腰に手を当てて、呆れ気味にフジ中尉が溜息をつく。
「私も艦長に拾われた身ですからね。より一層尽力いたします。なあ少尉?」
 ワーウィック大尉がにこやかに言った。
「えっと…。そうですね、頑張ります」
 苦笑いしながらスクワイヤ少尉も応えた。
「おお…お前ら…!」
 艦長が感動した様に咽び泣く。それをグレコ軍曹たちブリッジクルーも和やかに迎えていた。
0750◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:35:31.82ID:35+2VBiK0
「ぐぬ…!よし!じゃあ今から鬼大佐にしっかり報告してくる!大尉も来い!」
「了解しました」
 鼻をすすりながらドカドカと退出していく艦長に、大尉も続いて出ていく。ざわつきながら持ち場に戻っていくクルー達の中、少尉は自らが生き延びた意味を思案した。
 エゥーゴの指導者が倒れ、一兵卒の彼女は生き延びた。そこに明確な差や理由などない。だが、そこに意味を見出すことが彼女にとっては必要だった。

24話 意味
0751◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:36:02.56ID:35+2VBiK0
「それで…。連中を取り逃がしたのか?」
 ロングホーン大佐が腕組みしながら椅子に座る机越しに、ワーウィック大尉を伴いグレッチ艦長は直立していた。嫌な汗が背中に流れるのを感じる。
「も…申し訳ありません…!力及ばず…」
 頭を下げる艦長に続いて、傍で大尉も頭を下げた。
「例の試作機は自爆しましたが、恐らくデータは回収されたものかと…」
「まあいい。諸君の働きには感謝しているとも。不十分な補給にしてはよくやった」
 椅子を回し、背を向けながら大佐が静かに言った。
「ブレックス准将亡き今こそ、我々は試されている。指揮系統の再編が必要なこのタイミングを連中が見過ごすとも思えん…。次の指示を待つんだな」
「はっ」
「報告はもういい。持ち場に戻れ」
 敬礼の後、踵を返して司令部から退出した。
0752◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:36:34.56ID:35+2VBiK0
「…ふいー。やっぱおっかねぇぜ」
 ドアを閉めるなり艦長は呟いた。クルー達には見栄を切ったものの、やはり性分はそう容易く変わるものではない。
「しかし、大佐の言うとおり敵の動きは気になりますね」
 大尉は肝が座っている。彼を伴うと幾らか自分も落ち着いていられる気がした。2人はアイリッシュ級の待つドックへと足を向けた。
「そうさなぁ。例のテスト部隊のデータで何をしでかすつもりなのか知らんが…」
「月面で再び戦闘があるとすれば、間違いなく我々は狙われるでしょうね」
「フォンブラウンが本命にしても、アンマンやグラナダは目の上のたんこぶだからな」
 2人は話しながら歩いた。すると、向かいから1人の士官らしき男が歩いてきているのが視界に入った。ワーウィック大尉の足が止まる。
「あ…?アトリエ中尉…?」

「お!?まじか…元気かよ…!?」
 金髪を短く刈ったその男は、砕けた制服の着こなしに耳のピアス、見るからに柄の悪い男だった。
「すみません、彼はベイト・アトリエ中尉。例のガンダムパイロットです」
「今は大尉っつってんだろ!…いや、申し訳ない。ベイト・アトリエ大尉であります」
 ワーウィック大尉に促された彼はびしっと敬礼してみせたが、それを解く仕草といい不遜な雰囲気は隠しきれていない。
「私はグレッチ少佐だ。アイリッシュ級で艦長をやっている。噂には聞いていたが…」
「少佐殿、以後お見知りおきを。今はネモのしがないパイロットですがね」
 頭を掻きながら彼は笑った。
「こんなとこで何をしてるんだ?」
 ワーウィック大尉が聞く。初めて見る親しげなニュアンスだった。
「ああ、補給に立ち寄ったところでな…まさか大尉に会うとは。そっちは順調か?」
「まずまずかな。敵もよくやる」
「全くだ。うちの部隊もジリ貧でよ…また一緒に戦いたいもんだぜ。来いよ?」
「馬鹿言うな、うちだってギリギリだ」
 談笑する2人に独特の距離感を感じ、なるほど彼らが組めば強かろうと艦長は感心していた。
0753◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:37:32.17ID:35+2VBiK0
「噂のニュータイプにお会いできて光栄だ」
「そんな大層なもんじゃありません」
 グレッチ艦長はそういうアトリエ大尉と握手を交わす。
「しかしネモとは勿体ない。うちはガンダムがあるが、君の様なパイロットにも支給すべきだと思うがな」
「お、ガンダムがあるんですか。そいつはいいね…。今は誰が乗ってるんです?ワーウィック大尉?」
「まさか。私はガンダムには乗らん。スクワイヤ少尉という女性だ。彼女もなかなかの腕だよ」
「ほう…?」
 アトリエ大尉が不敵な笑みを浮かべた。
「今回の補給で新しい機体も受領予定なんですが…そういう事ならちょっとした遊びでもどうです?」
「遊び?そんな暇は無いぞ。色々と聞いてないのか?」
「相変わらずだな大尉は。糞真面目だぜ」
「ふん、構うな」
「そう言うなって。…グレッチ少佐、どうです?その女パイロットと1戦交えてみたいんですが。勿論模擬戦で構いません。…俺が勝ったらそのガンダムをうちにくださいよ」
 アトリエ大尉が目をギラつかせながら言った。好戦的だがそれに見合う能力も持ち合わせているのだろう。艦長も少し興味が湧いてきた。

「馬鹿な事を言うな。全く、久々に会ったと思ったら…」
「俺がガンダムを上手く使えるのは知ってるだろ?適材適所って知ってる?」
「スクワイヤ少尉も負けてないがな」
「だったら心配要らねぇって!俺のことも打ち負かしてくれるさ」
「艦長、この男はどうもこういうところがありまして…。真に受けなくて良いですよ」
「ふーむ…」
 グレッチ艦長は腕組みした。好奇心で彼の腕前を見たいという気持ちもある。
「少尉はなんていうかな」
「…!本気ですか…?」
 ワーウィック大尉が案の定慌てる。
「よし!その女パイロットがオーケーならすぐにでもやりましょうよ!どうせ補給はまだ少しかかるし、丁度いいでしょ」
「聞いてみようか」
「はあ…。まあ聞くだけなら私も止めませんが…」
 成り行きで3人一緒にアイリッシュ級へ向かった。
0754◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:37:56.47ID:35+2VBiK0
「ん…?なんです?」
 丁度メカニックと格納庫で打ち合わせ中のスクワイヤ少尉を見つけた。帰還時には取り乱していたものの、今はすっかり落ち着いた様子である。
「こういう申し出があってな…。彼はベイト・アトリエ大尉」
 グレッチ艦長は事の顛末を彼女に伝える。
「へぇ…!彼が隊長の言ってたニュータイプ」
「このガキンチョがガンダムの?ZもMk-Uのガキが乗るって聞いたが、ガンダムってのはそういうもんなのか?」
 アトリエ大尉が茶化すと、少尉はムッとした表情を見せた。
「…マンドラゴラは私の機体です。誰にも渡せません。それに私、大人です」
「言っただろ。そんなポンポン回せるもんじゃない」
 ワーウィック大尉がやれやれとアトリエ大尉の肩を叩く。
「折角の玩具を取り上げる訳にはいかねえか!悪い悪い。代わりにワーウィック大尉でも貰っていくかな」
「誰が貰われてやるか」
「へいへい」
 両手を挙げたアトリエ大尉が彼女に背を向ける。
0755◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:38:24.63ID:35+2VBiK0
「誰も勝負しないとは言ってませんよ」
 彼の背を睨みながら少尉が言った。ワーウィック大尉が驚いた。
「おい少尉!」
「ほんとにこの子が私に相応しいのか…試すには良い機会です」
 スクワイヤ少尉は機体を見上げた。残っている先の戦闘での目立つダメージは外装くらいのものだ。
「度胸はあるみたいだな…気に入ったぜ。お前はガンダムでいい。俺は…あれを借りる」
 背を向けたままのアトリエ大尉は、百式改を指差した。
「どうせあれが大尉の機体だろ?チューンナップしてあるなら丁度いい」
「待て待て、ほんとにやる気か?艦長もなにか言ってやってくださいよ」
「うーん、俺はアトリエ大尉の腕前を見てみてぇな」
「艦長!」
 ワーウィック大尉の心配っぷりを見るに、アトリエ大尉は相当に腕が立つと見える。スクワイヤ少尉のガンダムでもサシで歯が立たないとなればかなりのものだ。
「ガンダムをどうするかは俺達の一存で決められんかもしれんが、まあやるぶんにはいいんじゃないか?」
「少佐殿、流石の御判断であります!」
 あからさまにアトリエ大尉が姿勢を正す。どうせ時間も余っていたところだ。
「ロングホーン大佐に知れたら何て言われるか…」
「ははっ、意外と大尉も心配性なんだな」
 思っていたほどワーウィック大尉も完成した人物ではないようで、どこか親近感が湧いた。
「そうと決まれば早速やろうぜお嬢さん」
「ガンダムは渡しません。勿論隊長も」
「ほーう?」
 アトリエ大尉がニヤニヤしながらワーウィック大尉を細目で見る。
「しょ…少尉!無理は禁物だぞ!」
「わかってます。…ありがとう」
 そういって少尉が笑った。ワーウィック大尉はいささか顔を赤くしている。
0756◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:39:27.28ID:35+2VBiK0
「よし、俺はブリッジから観戦しよう。久々に酒でも飲むか!大尉、何かつまみは持ってますかな?」
「そういうことならちょっとしたやつがありますよ!持ってきましょうか」
「お、いいねぇ」
 アトリエ大尉とは気が合いそうだ。彼こそ引き入れたいくらいである。想像していた様な浮世離れしたニュータイプ像とはだいぶ違う。
「ニュータイプって一口にいっても、こんなチンピラみたいな人もいるのね」
「仮にも上官だぞ?これだからガキは」
「なんです?止めときます?」
「いやー、ガンダム楽しみだなー」
 スクワイヤ少尉がアトリエ大尉と火花を散らしているのが目に見える様だ。
「こんなことにはなるとは…。アトリエ大尉、やり過ぎるなよ」
「わかってる。俺も馬鹿じゃねぇさ」
「いやいや、馬鹿なのは違いない」
「一理あるな…っておい。言うようになったなおい。おい」
 旧知の2人のやり取りを背で聞きながら、グレッチ少佐は酒を取りに自室へ向かった。

25話 性分
0757◆tyrQWQQxgU 2020/02/05(水) 11:40:41.55ID:35+2VBiK0
今回はここまで。
引き続き投下しますんで、よろしくお願いします!
0759通常の名無しさんの3倍2020/02/07(金) 18:37:51.34ID:AfaOzt6o0
お疲れ様です!

ウィード隊、ついにパプテマス・シロッコと接触ですか。
ドゴス・ギアでもジュピトリスでも、規模のわりにクローズアップされにくい舞台に思えるので、楽しみです。
木星帰りよ、こんな善いお嬢さん達をお持ち帰りするんじゃないぞw(いざという時はラムなり爺なりが動くでしょうけど)

ワーウィックの取り合いw
なんでしょ、アトリエは何だかんだで「歴史書には書きにくいけど結構ガンダムに乗ってた人」になりそうですね(笑)
それはそれとして、最初はぼんやりしていたスクワイヤがすっかり戦う気になってるのは好印象です。
なかなかいい切欠になるんじゃないでしょうか、頑張れ新主人公!
0761◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 22:24:11.44ID:aXIempxZ0
>>758

>>759

皆さんこんばんは!

シロッコ好きなんですよねー!笑
傍観者だの何だの言って大物感出してる割にシャアとハマーンの痴話喧嘩劇場に付いてきて結果艦隊壊滅させちゃったり…これでは勝てん!じゃないよ…笑
他のZ本編キャラよりは描写多めにしたいと思ってるのでご期待ください!

>>760
ありがとうございます!
読んでたのは村上春樹とか北方謙三とか、親の持ってた小説を読んでた感じですね!雑食です!笑
0762◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:42:42.45ID:aXIempxZ0
アトリエ大尉を登場させるべきかは悩みましたが、彼がいると話が動かしやすいもので…つい頼っちゃいますね。笑
スクワイヤ少尉もようやく主人公らしくなってきたので、他の面子共々引き続きよろしくお願いします!

さて、更新ペースが落ちてきているのでやっぱり小出しにしていこうと思います!笑
こっちが連載でpixivが単行本みたいな感覚で読んでいただければ良いかなと。
2話ほど投下しますので、よろしくお願いします。
0763◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:43:11.01ID:aXIempxZ0
「ったく…。大丈夫なのか?」
 ワーウィック大尉が覗き込むコックピットの中、スクワイヤ少尉は模擬戦の準備に取り掛かっていた。
「急でしたけど、私がこの機体に見合うパイロットなのかはずっと疑問でしたし」
 まともに戦績もないままに託されたガンダム。表沙汰に出来ないデータが使用されているとは言うが、それにしても優先順位がある筈だった。アトリエ大尉の様な人物が居るならば、本来そちらに回されるものではないのか。
「私を評価してくださるのは有り難いんです。でも、自分で納得できてない部分があって。この模擬戦で何かしら答えが欲しいんですよ」
「わからんではないが…」
 困った様に大尉が頭を掻く。
「それに…隊長は私の事信頼してくださいよ。彼は戦友なんでしょうけど」
「!…そうだな。折角の機会だし…あんなやつ、打ちのめしていいぞ」
 ハッとした様に大尉が笑った。ワーウィック大尉が任せてくれるならば、出ない力も出せる気がした。
0764◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:43:32.66ID:aXIempxZ0
 大尉が離れて独りになったコックピットで、スクワイヤ少尉は準備を終えた。通信が入る。
『聞こえるか少尉』
 フジ中尉からだった。
「聞こえてます」
『模擬戦だそうだな。例のガンダムパイロットと手合わせなんて、なかなか無い機会だ。しっかり勉強させてもらえ』
「あっちにこそ勉強させてやりますよ」
『ほう…また強気だな』
 ひと通り支度してヘルメットのバイザーを下ろす。映し出されたモニターには模擬戦の作戦範囲が表示されている。
『表示の通り、基地周辺の月面試験場が指定場所だ。適度な量のコロニー残骸、凹凸のある地形…低重力とも相まってMSの操縦技量を確かめるには良いフィールドといえる』
 いつもの様に中尉が解説する。確かに色んなことが出来そうだ。
『今回使用する装備は模擬戦用のライフル1丁とジムシールドのみだ。ペイント弾で被弾位置を確認出来る。サーベルは使用出来る状態だが、間違っても抜くなよ』
『俺は抜いても構わんぜ』
 中尉との通信にアトリエ大尉が割り込む。彼も準備が済んだようだ。
「私、接近戦が得意なんですよね」
『奇遇だなぁ!俺もだぜ』
『2人とも、サーベルは禁止です。いいですね?』
『ワーウィック大尉より堅いやつがいるな、この艦は』
『当然の事をお伝えしたまでです』
『あいよー』
 火を見るより明らかだが、この2人は相性が悪そうだ。
0765◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:43:59.68ID:aXIempxZ0
『さーて!やろうか!アトリエ大尉、百式改…出るぞ』
 先にアトリエ大尉の百式が出る。少尉は、ワーウィック大尉の機体に彼が乗っているのも癪に触った。
「スクワイヤ少尉、マンドラゴラ出ます」
 続くようにして少尉も出る。すっかり見慣れた月面だが、気付くとアトリエ大尉の姿が見えない。スクワイヤ少尉も近くにあった岩場に身を潜める。
『それでは模擬戦を開始します。致命傷の被弾を確認するかどちらかのリタイア、或いはタイムアウトまで続けます。いいですね?』
「了解」
『では…これより開始します』

 静寂。照明の類、それとデブリが漂う以外は動くものもなく、まるで時が止まったかのようだ。
 しばし時間を置いてスクワイヤ少尉が機体を動かしたその時、早くも被弾した。背後から右肩を撃たれた様である。
「うそっ!?何処から!?」
『ちんたらやってんじゃねえよ!』
 振り返るとアトリエ大尉の機体が見えた。彼の機体は、先程出撃に使ったカタパルトのすぐ傍に立っていた。出撃してすぐ身を翻していたのか。
『お前がケツ丸出しで隠れてんのは初めから見てた』
「卑怯な…!」
『卑怯もへったくれもあるかよ!』
 すぐに百式へ標準を合わせるも、バーニアを吹かした百式の動きは流石に早い。飛び回る大尉に追いすがる様にして少尉も食い下がった。
『流石ガンダム!これについてこれるんだな!』
「馬鹿にして…!」
『!』
 少尉は更に出力を上げ、百式を追う。慌ただしく姿勢制御をこなし、完全に百式を追い抜く。抜きざまに一瞬だけ速度を合わせると、ライフルを放った。ペイント弾が左肩を掠める。
0766◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:44:27.51ID:aXIempxZ0
『やるじゃねぇか。だが…』
 追い抜いたのも束の間、視界から百式が消えた。位置に気づくよりも早く、下からの弾丸。咄嗟に後退すると、機体の目の前を弾が通り過ぎた。
『まだまだぁ!』
 そのまま急上昇してきた百式に背後を取られた。
「く…!」
『これに頼り過ぎなんだよ』
 ライフルを交わし損ねポットにペイント弾を浴びる。どうにか振り払おうともがくと、あっさり百式は距離を離した。
『寝ぼけてんのか?』
 正面で向き合う形になり、百式は腹部目掛けて強烈な蹴りを見舞った。弾き飛ばされたマンドラゴラはそのまま地面に叩きつけられる。
『終わりかな』
「げほっ…誰が…!」
 向けられた銃口に気づいた少尉はすぐさま機体を立て直し、隆起した地形に隠れた。百式は追ってこない。

「はぁ…はぁ…」
『このまま続けても埒が明かねえ。実戦だったら今頃ガンダムはオシャカだぜ』
 身を隠したまま百式の出方を窺いつつ呼吸を整える。マンドラゴラのショックアブソーバーでなければ無傷では済まなかっただろう。
 やはりニュータイプどうこう以前にそもそも操縦技術が高過ぎる。それに加えて何をやろうにも後の先を取られている様な感覚だ。
「(くそ…考えろゲイル…!)」
 手の内にあるものをとにかく確認した。ガンダム…コロニー残骸…ペイント弾…模擬戦…。開幕早々の被弾といい、アトリエ大尉もあるものは何でも使うだろう。
「…!」
 スクワイヤ少尉は策を閃いた。
『そろそろこっちから仕掛けさせてもらうぜ』
 ほぼ同時に百式も動き始める。策を試せるのは1度きり…スクワイヤ少尉は腹を括って息を吐いた。
『…ケツを隠せと言ってるんだがな』
 こちらの動きに気づいた様だ。
『もらった!』
 百式がコロニー残骸から姿を現しライフルを撃った。ガンダムの背にそれが直撃する。
0767◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:44:56.35ID:aXIempxZ0
 しかし、そこにあったのは自立して飛ぶバーニアポットだけだった。
『なっ…!』
 恐らくアトリエ大尉にはバーニアの残光が見えていたのだろう。いや、見逃すはずがないと少尉は確信していた。
「喰らえッッッ!!!」
 振り返った百式の正面からライフルを放つ。
『んなもん喰らうかよ!』
 百式はシールドでそれを防ぐ。ここまで少尉の読みどおりだった。
「防ぐのはわかってた。でも気にするべきなのはそっちじゃないわ」
『あぁ?』
 百式の足元に背後から大きな影が落ちる。彼が背後を振り返った時、そこには倒れてくるコロニーの外壁があった。
『さっきのポットか!?』
 通過したポットはそのまま直進を続け、そのままぶつかったコロニー外壁の根本をひたすら押していたのだ。中途半端に刺さっているだけの残骸も多い事は知っていた。
『うおっ!』
 倒れてくる外壁を両手で支える百式。ライフルもシールドも手放さざるを得ない。
「今度こそッッッ!!!」
 少尉は必要なアポジモーターとサブスラスターを全開にして突っ込んだ。
『甘いぜッッッ!!!』
 突っ込みながら放ったペイント弾を数発浴びながらもアトリエ大尉は吠えた。百式は片手を外壁から離すと、瞬時にビームサーベルを抜き外壁を切り刻んだ。崩れた残骸によって巻き上げられた砂埃が辺りを包む。
0768◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:45:21.15ID:aXIempxZ0
『ちぃ…何も見えねぇ』
 一旦場所を変えようと百式がバーニアを吹かしたその瞬間を彼女は逃さなかった。咄嗟に位置を把握した少尉は、百式の足を掴みそのまま砂塵に引き摺り戻す。
『ぐおっ!』
「そっちこそ…甘かったわね…」
 辺りの視界が開けてきた時、マンドラゴラは叩きつけた百式の両肩を抑え、上から跨っていた。ブリッジからの通信で歓声が聞こえる。勝った。
『やるじゃねぇか…スクワイヤ少尉』
「模擬戦だったからですよ…じゃなきゃやられてた」
『それは違うな』
「え?」
 聞き返したその時、マンドラゴラのコックピットがペイント弾に塗れた。完全に砂埃が落ち着くと、いつの間にか百式が懐にライフルを手にしているのが見えた。
『模擬戦も俺の勝ちだぜ、嬢ちゃん』
「馬鹿な…!一体いつ…」
『組み敷かれた時にお前から奪ったんだ』
 ハッとして確認すると、確かにそのライフルはマンドラゴラのものだった。百式を抑え込むので必死になってそんなことにも気付いていなかったのか。
『ま、筋が良いのは認めるけどな』
「う…」
 少尉は肩を落とした。最後まで出し抜けなかった。
『…マンドラゴラ撃墜を確認しました』
 フジ中尉の声が聞こえる。少尉はただうなだれるしかなかった。
0769◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:46:46.26ID:aXIempxZ0
 その後帰還した両機はメンテナンスを開始した。機体を降りた少尉はトボトボと格納庫を歩く。
「嬢ちゃん!良かったぜ」
 後ろから乱暴に背を叩いたのはアトリエ大尉だった。
「あそこまでやって駄目なんて…」
「相手が俺じゃなきゃ上手くいったかもな」
 笑うアトリエ大尉にはまだまだ余裕が感じられた。仮に作戦が上手くいったとしても、何かしら対策を打たれていた様に思える。完敗だった。
「執念を感じる戦いぶり…。まるでいつかの俺達の様な。そうだろ?アトリエ大尉」
 そう言ったのは、出迎えたワーウィック大尉だった。傍にはフジ中尉も居る。
「敵の力量を測り、尚且つ機体特性や地形条件も活かした作戦。そして何より、失敗の許されない作戦を咄嗟に実行する胆力…。模擬戦である事を開き直って、使えるものを使った大胆さもありました」
 フジ中尉が眼鏡を掛け直しながら言う。
「えらい少尉を褒めるじゃねぇかよお前ら」
「素晴らしい内容だった。アトリエ大尉が1番それを実感しただろうに」
 ワーウィック大尉が苦笑いしている。
「結果が全てだぜ?」
「アトリエ大尉、最初に私が説明した事…覚えてらっしゃいますか」
「ん?」
 フジ中尉が不敵な笑みを浮かべていた。固まるアトリエ大尉。
「サーベルの使用は禁止と言った筈です。よってこの模擬戦、勝者は少尉です」
0770◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:47:08.52ID:aXIempxZ0
「ちょっと待てよ!別にガンダムにサーベル向けた訳じゃないぜ!?」
「ルールはルールだ。それに、あの状況でサーベルを使わざるを得ない形に追い込んだのは流石と言う他あるまい?他に手が無かったんだろ?」
 ワーウィック大尉がニヤニヤと意地悪く笑っている。
「ちぇ、アウェーでやるもんじゃねぇな」
 アトリエ大尉がやれやれと両手でジェスチャーした。
「それじゃ…」
 恐る恐る少尉は切り出した。
「おう。ガンダムは置いていってやるよ。お前の勝ちでいいぜ…変に粘っても格好がつかねえ」
 腕組みしたアトリエ大尉がフンと鼻を鳴らした。
「やった!」
 スクワイヤ少尉は思わずその場で小さく跳ねた。
「まあ、確かにあれだけ技量があればガンダムも本望だろうよ。俺ほどじゃねえけど」
「素直じゃないな。あんな楽しそうなところは久しぶりに見た」
「会ったの自体久々じゃねぇか!」
「一理あるな」
 2人が笑うのにつられて少尉も笑った。
0771◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:47:51.21ID:aXIempxZ0
「楽しそうなところ申し訳ないが」
 格納庫の入り口からの声に場が凍りついた。ロングホーン大佐である。
「お前達…何をやっている?」
「その、模擬戦を…」
「見ていたよ。私は各部隊に待機を命じていた筈だが、何やらドンパチ騒ぎを起こす連中が目に入ったものでな」
 アトリエ大尉の声を遮りながらロングホーン大佐が言った。カツカツと靴を鳴らしながら少尉達の前までやってくる。
「アトリエ大尉!歯を食いしばれ」
「へっ…?はっ!」
 言うなりロングホーン大佐はアトリエ大尉を殴り飛ばした。大尉は派手に尻餅をついた。
「これで不問とする。全く…よその部隊にけしかけて模擬戦などと。只でさえ問題が多いのだぞ貴様は」
「何で…俺ばっかり…」
「なんだ?まだ修正が足りんか」
「いや…結構です…」
 呆気に取られている少尉達をよそに、ロングホーン大佐は来た道を戻っていく。格納庫を出ていく時、またこちらを振り返った。
「2人共、いい勝負だった。戦果を期待しているぞ」
 大佐はニカッと笑うと、踵を返して去っていく。その場には、立ち尽くす少尉達と頬を擦るアトリエ大尉が残されていた。

26話 ドンパチ騒ぎ
0772◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:48:30.34ID:aXIempxZ0
 アレキサンドリアの面々は、ジュピトリスに到着していた。ジュピトリスはパプテマス・シロッコ大佐が木星より伴った超大型艦である。MSの整備のみならず、開発設計までも行える工蔽を備えている。
 艦同士の船体を接続し、司令部へと足を運んだ。
「ウィード少佐以下、只今帰還致しました」
 ウィード少佐を筆頭に、ドレイク大尉とソニック大尉、オーブ中尉やレインメーカー少佐も伴っていた。

「戻ったか」
 紫の髪を束ねた秀麗な面持ちの男、パプテマス・シロッコ大佐が振り返る。傍には若い女性士官を連れている。
「事前の報告の通り、機体を失いました。申し訳ありません」
 ウィード少佐に続き面々は頭を下げた。
「仕方あるまい。データを持ち帰ったならそれで良い…その為の試験だ。それに…」
 彼はウィード少佐の前に立つと、彼女の顎に軽く指を添え顔を上げさせ眼差しを合わせた。
「君のような優秀な女性を、この程度の戦局で失う訳にはいかん。君に続く多くの人間は、この先の…まだ見ぬ世界を待っているのだからな」
 ウィード少佐は、淡い色をした彼の瞳に吸い込まれる様な心地がした。控える女性士官の眼差しに気付き、ハッとした様に目線を逸らす。
「…新たな世界を築くのは君たちだ。私はあくまでも導くだけ…。その事を忘れないでくれ。私にも、輝かしい未来を見せてくれると嬉しい」
「はっ」
 ウィード少佐は再び姿勢を正し敬礼した。彼はいつも自らは一歩下がったところに居てくれる。自信が湧いてくるのは、そうした彼の指導の仕方による部分が大きい。
0773◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:48:54.97ID:aXIempxZ0
「既に機体のハードはあらかた完成しつつある。ソフト面で諸君のデータを活かす事になる予定だ」
「ありがとうございます…!しかし、相変わらず製作がお早いですね」
「時代は常に動いている。手を止めている暇は無いのだよ。新たな機体は再びエース用の機体として組み上げている…パラス・アテネとでも名付けようか」
 そう言いながら彼はモニターに機体のデータを映し出した。シルエットこそニュンペーと酷似しているが、緑主体のカラーリングと様々な武装オプションによりまた違った印象を受けた。
「アテネ…女神ですか。大佐らしい御命名です。量産型はまだ先送りになるのでしょうか?」
「いや、同時進行で開発を続けたい。その為の豊富なオプション群でもあるからな。エース機と量産機で規格を共通化することで、現場の整備性も向上する。アテネの元に集うニュンペー…実に美しい隊列になるだろう」
「早くお目にかかりたいものです」
「君達の働き如何だ。引き続き頼まれてほしい」
 そういってシロッコ大佐はウィード少佐達面々を振り返った。実際に量産へ漕ぎつければエゥーゴなど敵ではない。ジオン残党の駆逐も容易い筈だ。
「「はっ」」
 姿勢を正し再び敬礼する。これからの事を打ち合わせ、ウィード少佐達はジュピトリスを後にした。
0774◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:49:17.28ID:aXIempxZ0
「ドラフラって、ああいう男がいいのね…?意外だわ」
 ドレイク大尉が天井を仰ぎながら言った。一行は補給物資が積み終わるまでアレキサンドリアのブリッジで小休止といったところである。
「別にそういうんじゃ…」
「うっとりしてたじゃない?」
 からかうドレイク大尉。顔が熱くなるのを感じた。
「ああ見えて野生的な強さを持っているのがわかる…俺と同じだな」
「どこがあんたと一緒なのよ。目まで筋肉になったんじゃないの?」
 ソニック大尉とオーブ中尉が一緒に絡んでくる。
「あの若さで先見の明を見抜いているあたり、やはり木星というのは未知の環境なのでしょうなぁ」
 うんうんと頷きながらレインメーカー少佐が感心している。
「確かに素晴らしいお方だけど、私一人を目に掛けてくださっている訳じゃないわ。私はただの部下よ」
 ウィード少佐がため息をつく。
「叶わぬ恋ってやつかぁ…」
 オーブ中尉がわざとらしく悲しそうな顔をしてみせる。確かに彼には魅力を感じるが、親しみを覚えるにはいささか超然とし過ぎていた。胸に渦巻いているのは憧憬に近い感情なのかもしれない。
「でも彼、女たらしな感じはあるわね」
「もう!その話は終わり!」
 悪ノリを続けるドレイク大尉達を制した。
0775◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:50:35.20ID:aXIempxZ0
 しばらくしてアレキサンドリアは再びジュピトリスから離れた。パイロット達に機体のチェックをさせている間、ブリッジにはウィード少佐とレインメーカー少佐が残った。
「行き先は再び月ですな。作戦指示があるまでは宙域で待機とのことですが、本隊は何やら企んでおるのでしょう」
 レインメーカー少佐が腕組みしながら艦橋からの景色を眺めている。遠くに映る月は変わらず静かな光をたたえている。
「今度こそ連中を叩く…。それに変わりは無いわ」
「いかにも」
 ジュピトリスでは失った機体の補給も済ませてきた。試験用に用意していた予備パーツから組み上げたニュンペー2号機を始め、ガルバルディ隊も新たな武装を受領した。
「まだ月までは掛かりそうね…。…!!」
 シートにもたれたその時、ウィード少佐はモニターに映った物に気付き身を乗り出した。
「これは…!?」
「…やはり考えるスケールが違いますな、上層部は」
0776◆tyrQWQQxgU 2020/02/10(月) 23:51:11.96ID:aXIempxZ0
 そこには、本来そこにある筈のないコロニーが写っていた。アレキサンドリアからは随分遠い場所にいる様だが、それでもどうにか視認出来る距離だった。
「ただの移送…ではないわね。…まさか」
「落とすんでしょうな、月へ」
 事も無げに言うレインメーカー少佐を見た。彼の表情は変わらない。
「いくらなんでも…それに我々は何も聞いていないわ」
「あくまでもティターンズは特殊部隊から始まった軍隊ですからな。必要以上に情報は漏らさんでしょう」
 飄々としたレインメーカー少佐に、彼女は一抹の不安を覚えた。
「しかし…」
「知ったところでどうなさるんです。ニュンペーで敵を撃つのか、コロニー落としで殲滅するのか…そこにどれだけの違いが?」
「違い過ぎます…」
「まだまだウィード少佐はお若い。大局はこうやって動く事もあるのだと知っておくいい機会です。先の大戦でも、ソロモンを焼いたのはソーラ・システムという戦略兵器ですからな。決してこれが特例という訳でもありますまい」
「そんな…」
 思わず拳を握り締めた。確かに戦局は動くだろう。しかし、義のある戦いにおいて本当に許される手段なのか。コロニーの住民は何処へ行ったのか。月の一般市民達はどうなるのか。
「知れば悲しみ、知らねば顧みず…。その程度の感傷で世界は動いておらんのです。どうか、ここは耐えてください」
 察した様にレインメーカー少佐が言った。目を細める彼には一体何が見えているのだろうか。ウィード少佐には考えが及ばなかった。
 少しずつ大きくなっていくコロニーの姿に、自らの業を見た気がした。

27話 静かな光
0778通常の名無しさんの3倍2020/02/14(金) 19:26:29.05ID:lJZVDjL30
お疲れ様です!

マンドラゴラ、ブースターポッド飛ばせるんですか!
そして(爆発四散してるにせよ)コロニー外壁を押し退ける推力と剛性、どっちかと言えば『拳』、キャラが立ってるw
百式のバックパックが羽と推進器の二段階で分離させたり、ディアスやZZのバインダーを外して使えるAEらしい設計で
Vガンダムの半分はアナハイムで作ったと言われても、分かる話ですね
(この物語には出てこないでしょうけど、サナリィに部品を切り離して使い捨てにするセンスは感じません)。
実戦と模擬戦を使い分けるアトリエはまだまだですね、スクワイヤもアツくなってて気づかなかったけどw

ウィード少佐はシロッコに惹かれてるんですね、少し意外でした(>>687の段階ではもうちょっと警戒してるかなー、と)。
ソニックが自分に近い波長を感じてるのは、(木星帰りが)何故かヤザンと意気投合したあの感じですかね、これも意外。
ドレイクは距離を取って考える......ミサイル付シールドを上手く使う(>>661参照)といい、実戦的な知性派なんですね。
レインメーカー爺さんは前者2人のようなベタ誉めではなく
よく分からないけど成果は挙げてる輩に感心しつつ、内心しっかり警戒してると見ましたw
或いはふと自分もかつては見果てぬフロンティアを夢見ていたと思ったのか、でしゃばらず良い感じです

これからはアイリッシュ隊の内幕が描かれ、アレキサンドリア隊もリニューアルして新たな戦いに臨むと。
いよいよ本番・決戦という感じですね、ご健闘を!
0779◆tyrQWQQxgU 2020/02/15(土) 15:19:28.16ID:ESK3Cyhb0
>>778
いつもありがとうございます!

おー!その辺まで考察していただけるとは!頑張って考えた甲斐があります!笑
分離機構はアナハイムガンダムにはあって然るべきだと思うんですよね、劇場版ZのラストでもZのバインダー外してましたし。

何かと毎度ぶん殴られるのはアトリエ大尉の仕事…笑
模擬戦でしか通用しない戦術は、技術が向上した故の彼なりの手加減だったんですが、サーベルに関してはほんとに追い込まれて素が出ちゃった感じですね。フジ中尉の説明もまともに聞いてなかったし…笑
彼も言っていた通り実戦だったらポットも破壊されてその時点で決着は着いてますが、アトリエ大尉の戦い方からそこを割り切って考えたスクワイヤ少尉が勝った感じです。ただ、やっぱ腕は完全にアトリエ>スクワイヤですね!

アレキサンドリア隊はシロッコの元で動いているので何かしら共感している部分があります。
ドレイク大尉はマウアー的なとこもありますね…シロッコみたいなデキる男よりダメ男が好きそう…笑
彼らのこともまだまだ掘り下げたいので、それも追々。

1つの山場を迎えますんで、引き続きよろしくお願いします!!
0780◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:46:19.21ID:98Jcq17H0
お待たせしてます!
最近あまりにも忙しいもので…
多少書き溜めてるのでちょこちょこ出しときます!!
0781◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:52:24.16ID:98Jcq17H0
「そんじゃま、元気にやれよ」
 頬に湿布を貼ったアトリエ大尉。補給が終わり、再び月を立つとの事だった。しばらく月に滞在する事になるスクワイヤ少尉とワーウィック大尉は、2人で彼を見送っていた。
「ニュータイプって、信じます?」
「あぁ?MSの操縦がうまけりゃそう呼ばれるのさ。お前も、ワーウィック大尉もニュータイプなんじゃないか?」
「また適当な事を言って」
 ワーウィック大尉が呆れる。しかし案外アトリエ大尉の言うことも的外れではない気がした。
「人と深く解り合えるんでしょ?最初のガンダムに乗ってたアムロ・レイが随分前に前テレビで言ってました」
「ああ、あいつか…訳のわからん事を言うから軟禁されてたんだろ。俺を見てみろ、解り合えそうか?」
「うーん確かに」
 首をひねった少尉の頭に、ムッとしたアトリエ大尉が拳骨した。
「お前も生意気だが、まあそういうこった。俺がニュータイプでないか、ニュータイプ自体が幻想か…。どっちにしろ関係のない話だぜ」
「メアリーとお前は解り合えなかったのか?」
 そういってワーウィック大尉は、アトリエ大尉の胸元に光る石を指差した。翠の美しい光を放っている。
「ふん、あいつは特別だ。…そろそろ行くぜ」
 バツが悪そうにアトリエ大尉が歩きだした。
「え、なに?彼女かなんかですか?」
「まあ、だとしたら犯罪だな」
 ワーウィック大尉が笑う。
「だーれがロリコンだ!」
「いや、そこまでは言ってない」
 振り返ったアトリエ大尉にワーウィック大尉が胸の前で手を振ってジェスチャーする。
「けっ、その調子なら大丈夫そうだな!あばよ」
「…ほんとに、ありがとうございました」
 スクワイヤ少尉は頭を下げた。
「…マンドラゴラだっけ?あれはいい機体だ。お前なら乗りこなせるだろうよ」
 背を向けて歩きつつ、アトリエ大尉が軽く手を挙げる。姿が見えなくなるまで、少尉達はその背中を見つめていた。
0782◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:52:54.21ID:98Jcq17H0
「…戻るか」
「そうですね」
 少尉達もその場を後にする。彼女達の機体も補給が終わり、次の作戦を待つだけだった。とりあえずアイリッシュ級の元へと帰る。
「アトリエ大尉…彼って本当にガンダム貰う気だったんでしょうか」
「どうだか。私が思うに、少尉の事が気になったんだろう」
「私?」
「ああ。ガンダムに思う所はあるだろうからな。どんなパイロットなのか自分で確かめたかったんだと思う。恐らく、お眼鏡にかなったんじゃないか?」
「それなら良いですけど。でも正直、私なんかより彼の方がガンダムに似合う気はしてます」
「あいつは何に乗っても戦果を挙げるさ。それに…」
 言葉を切った大尉が足を止めた。気付いた少尉も振り返る。
「私は、少尉を信頼している」
 柔らかな表情で言う大尉と目が合った。少尉もニュータイプだったら、彼の気持ちが見えるのだろうか。
「ふふ」
 恥ずかしくなった少尉はまた足早に歩きだした。

「見送りは済んだのか」
 艦に戻るとグレッチ艦長がブリッジで出迎えた。
「はい。今頃艦も出港する頃でしょうね」
 大尉が応える。彼に並ぶ様にして少尉も顔を出した。
「いやー、惜しい男だった。ああいうやつが一人いると俺も楽しいんだがなぁ」
「ずっと居られるとそれはそれで苦労も絶えませんよ」
 苦笑いするワーウィック大尉だが、どこか寂しそうでもある。
「それはそうとゲイルちゃん!腕を上げたな。俺も艦長として鼻が高い」
 艦長が少尉を覗き込む。観戦しながら呑んでいたところをロングホーン大佐からどやされたと聞いたが、あまり悪びれている様には見えない。
「艦長のおかげでガンダムを持っていかれるところでしたよ」
「いやいや!俺はゲイルちゃんならお茶の子さいさいだろうと思ってな!」
「都合いいなぁ…」
 呆れつつも、模擬戦の機会をくれた艦長には感謝していた。アトリエ大尉との戦いで、足りなかった何かを得た気がする。
「何か指示があったら伝達してやるから、お前達も休むといい。また働いてもらうことになるからな」
 そういって艦長が帽子をかぶり直した。少尉はその言葉に甘えて自室へと戻った。
0783◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:53:32.54ID:98Jcq17H0
 スクワイヤ少尉は味気ない部屋へと帰ってきた。サラミスの時より広い自室になったものの、相変わらず置くものがないせいで余計にその広さが味気なさを強調していた。いつもの様に支度を済ませると、ベッドへ寝転がる。
 模擬戦だったとはいえ、アトリエ大尉との戦いは鬼気迫るものがあった。あれこれ余計な事を考える暇もないほど追い立てられたし、彼を倒すこと以外は考えられなかった様に思う。
 少尉は天井を見つめながら思考を巡らせた。死への恐怖も、そして好奇心も変わらずある。しかし、それを傍らに置くことが出来ればいいのではないかと思えてきた。
 無理に克服したり、押さえつけたりしなくてもいい。目の前の事に必死になれる自分をようやく見つけられたのかもしれない。
『…ゲイルちゃん!寝てんのかー?』
 しばらくうつらうつらしていたところに通信が入った。身を起こすと、目を擦りながらモニターを触る。
「む…。どうしました?」
『大変なことになった。すぐブリッジに来い』
 そういって艦長は通信を一方的に切った。何事かわからないまま、バタバタと部屋を出る。

 程なくしてブリッジに到着すると、皆集まっている様だった。一様に表情は硬い。
「なんなんです?」
 少尉が声を掛けると数人が振り返った。
「まずい事になってる」
 組んでいた腕を解いたフジ中尉がモニターを指す。そこには見慣れた形のスペースコロニーが写っていた。
「コロニーがどうしたんです」
「これがグラナダに向かってきてる」
「へ?」
 つい間抜けな声が出た。別のモニターを見ると、月との距離を観測している様な図面が映っている。
「信じられんのは無理もないが、奴らはもう手段を選ばん様だ」
 艦長がシートに沈み込みながら言った。深く被った帽子で表情は読み取れないが、声色から怒りが滲んでいた。
「ジオンの時にあれほど被害を受けておきながら、今度は同じ事をやる」
 ワーウィック大尉もモニターを見つめている。
「…前から気になっていた事があります。今言うべき事かは私にもわかりません」
 フジ中尉が改まってワーウィック大尉を見た。大尉もモニターから中尉へと視線を移した。
0784◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:54:06.59ID:98Jcq17H0
「大尉は…ジオン公国軍に所属されていたのではないですか」
「…ああ。元々私は君達の敵だった」
「…そうですか」
 ワーウィック大尉が静かに応え、中尉もまた静かだった。スクワイヤ少尉は知らなかった事だ。驚きを隠せず、大尉を見つめた。
「大尉もコロニー落としを?」
「…良い機会かもしれないな、少し話そう。私は地球降下作戦から従軍して、そのまま地上で終戦を迎えた。ルウムまでの事はサイド3で伝え聞いていただけだ…。戦後、デラーズ紛争にも加わらないままだったよ」
「私は…宇宙生まれです。ジオンに占領された連邦寄りのコロニーで父を失いました。母が言うには真面目な男だったようで、最期まで職務を全うしたのだと。私と母や兄弟は父の伝で地球にいて難を逃れましたが」
 2人の話に気付き、周りも少しずつ静かになっていた。
「…ジオン公国のやり方は間違っていた。私もそう思っている」
 ワーウィック大尉はフジ中尉を見つめた。しかし、中尉は彼から目を逸らした。
「何故そう言い切れるんです…?あなたはそれでも終戦まで戦っていた筈です」
 中尉が拳を強く握り締めるのが見えた。
「…ジオンにいた私を許せないのなら、それも仕方ない」
「大尉に何か伝えて事態が変わる訳じゃないこともわかっていますよ…!しかし…」
 中尉は再び大尉に詰め寄った。
「コロニー落としなんてものをやるティターンズは当然許せません…。しかし…そのティターンズが生まれたのはジオンのせいでしょう!?何故ジオン軍人だったあなたが此処にいるんです!?…やはり…私には割り切れない…」
 そういって中尉はブリッジを飛び出した。
「フジ中尉!」
 慌てて追いかけるワーウィック大尉をスクワイヤ少尉も追った。コロニー落としが行われると言われても正直実感は沸かない。大尉がジオン出身だったことも知らなかった。気持ちの整理がつかないまま、とにかく彼らの後を追った。

28話 解り合える
0785◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:55:54.36ID:98Jcq17H0
「ここにいたのか」
 ワーウィック大尉がフジ中尉に声をかける。格納庫に立つEWACネモの前に彼はいた。
「…申し訳ありません」
「いや、気にするな」
 スクワイヤ少尉は、彼らと一緒にしばらく黙っていた。

「…この機体、本当にに良く出来ています」
 中尉がネモを見上げる。完全に修復作業を終えた機体は、傷が癒えたフジ中尉が再び乗り込むのを待っている。
「私もこの機体と一緒で、情報収集が得意ですから。…大尉のことも色々と拝見しています。そもそも最初に見たエゥーゴの資料に違和感がありましたしね」
 大尉が着任してくる時に見ていたあの資料のことか。少尉は結局見ないままだった。大尉はただじっと話を聴いている。
「いくつかの資料に目を通して、あなたがジオン出身だと気付きました。嘘と正直が混ざった様な経歴でしたが、エゥーゴにそういう人間が居るのはごく自然です。それでも、実際にそれが判ると…私個人には引っ掛かるものがあるのも事実で」
「流石は中尉だ。私も隠すつもりは無かったが…」
 ワーウィック大尉が腕を組んで壁に寄りかかった。中尉はMSの前の柵を両手で掴んでいる。少尉はただその間で立ち尽くしていた。
「今は共に戦います。しかし、全てに納得出来ている訳ではありません」
「ああ。中尉の言うことはもっともだと思う…。今は私を…信じてくれ。何としてもティターンズを止めなければならない」
 ワーウィック大尉とフジ中尉が向き合った。
「…その気持ちは私も一緒です」
 2人の目には、確かな意思が感じられた。
0786◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:56:23.75ID:98Jcq17H0
「…中尉は私の事も調べたんですか?」
 思わずスクワイヤ少尉は聞いた。
「まあ調べはしたが…少尉は志願兵だろう?後地球出身ってことくらいは」
「よくご存知で」
 そう聞いて内心少しホッとした。それ以上の事は踏み込まれていないらしい。
「中尉の気持ちも勿論わかります。けど…今は喧嘩してる場合じゃないです。ティターンズ、止めに行きましょ」
「ふふ…少尉に諭される日が来るとはな」
 フジ中尉が自嘲気味に笑った。
「そりゃまあ、チームプレーが大事ですから」
 そういって彼女も力なく笑う。いずれ、少尉も自身の事を話さねばならない時が来るだろう。

 その時、格納庫へと通信が入る。
『ワーウィック大尉達、そこに居るんだろ?』
 近い通信機器のモニターいっぱいに映っていたのはグレッチ艦長の顔だった。
「申し訳ありません。ご心配をおかけしました」
 大尉が応答する。
『全くお前らは…誰かに何かあったと思えば今度はまた違う誰か…いい加減落ち着け!』
「いやはや、仰る通りで…」
 珍しくワーウィック大尉が辟易していた。
『まあいい。今はそれどころじゃねぇからよ…。コロニー迎撃に出る必要があるのは判ってるな?』
「はい。司令部はなんと?」
『とにかく出港しろとさ。既にアーガマやラーディッシュは出ているそうだ』
「やけに動きが早いですね…」
『何でも密告者がいたらしい。やはりティターンズも一枚岩ではないな』
「なるほど。我々もこうしてはいられませんね」
『おうよ!さっさと支度しろ!』
「はっ」
 手早く通信が切られた。最近のグレッチ艦長は貫禄が出てきたというか、艦長らしくなってきた。たった1ヶ月やそこらで人は変わるものなのか。いや、本来の一面が隠れていただけかもしれない。
「よし。早速準備だ」
 ワーウィック大尉が2人を振り返る。
「今回から私も復帰しますので、演算の類はお任せを」
 そういってフジ中尉はヘルメットを脇に抱えてリフトへと急いだ。
「…中尉、大丈夫ですかね」
「彼ならきっちりやってくれる」
 ワーウィック大尉の心境は複雑だろう。彼も自身の過去にはきっと苦しんだ筈だ。
「大尉も無理はしないでくださいね」
「ああ…ありがとう。背中は任せた」
 大尉も百式の元へと駆けていった。
0787◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:56:47.46ID:98Jcq17H0
 程なくしてアイリッシュ級は出港した。パイロットである少尉達は機体のコックピットで待機している。
『お前達、コロニーは目視できているか?』
 再び艦長からの通信が入る。
「でっかいですね。このコロニー…無人でしょうか」
『みたいだな…恐らくは一年戦争で廃棄されたものの一つだろう。多少弾が当たっても大丈夫だろうが、破片は飛ばすなよ』
 モニターに映るコロニーは核パルスエンジンを除いて光も灯っておらず、見慣れていた姿からすると幾らかおぞましさすら感じる。
『こっからはグレコ軍曹に指示を出させる。俺も忙しいからな…よく聞いとけよ』
 そういうと、艦長と入れ替わりでグレコ軍曹が節目勝ちに現れた。おかっぱの前髪で目元が見えないが、相変わらずもじもじしているのはわかる。
『フジ中尉がパイロットに復帰されましたのでこれからは私が…。先遣隊が軌道を変える為にコロニーへ接近、核パルスエンジンを破壊します。皆さんはその援護をお願いします』
『わかった。因みに敵はどの位出てきている?』
『えっと…』
 ワーウィック大尉が訊ねると、グレコ軍曹が慌てる。
『…すみません、4隻ほど護衛に就いている艦があります。アレキサンドリア級2隻とサラミス改が2隻。既にアーガマとラーディッシュがコロニーへ砲撃を開始していますので、皆さんは反対側から敵を引きつけてください』
『よし。しかし、まさかの旗艦と共同戦線か…』
 ワーウィック大尉の声には期待と焦りがみえた。少尉もアーガマの姿を実際に見るのは初めてである。
「例のニュータイプの少年もいるんでしょうか?」
『少尉、我々は何も気にせずいつもどおりやればいい。…行きましょう』
 少尉の問いにフジ中尉は淡々と応えた。彼に従って出撃準備にかかる。
0788◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:57:35.94ID:98Jcq17H0
 既に交戦が始まっている真っ只中へMS隊は飛び込む。やや離れた場所にアーガマとラーディッシュが見える。
 ラーディッシュは同じアイリッシュ級ということもあってスクワイヤ少尉達の母艦とそっくりだが、アーガマはもう少しこざっぱりとしていて、資料で見たペガサス級と何処か似ていた。
『あっちはあっちでやってる様だ。我々は横槍が入らないよう敵を抑える』
「了解」
 ワーウィック大尉指揮の元、百式改とマンドラゴラが両翼に展開し、その後方中央をネモが陣取る。
『前方に敵。サラミス改1隻と、マラサイが2機、ハイザック2機…。更に後方にアレキサンドリア級』
 フジ中尉が的確に状況を伝える。
『まずは手始めにサラミスの取り巻きを落とす。離れすぎるなよ』
「どう出ます?」
『そうだな、少尉から仕掛けろ。私も合わせる』
「わかりました…!」
 返事とほぼ同時にバーニアを吹かし速度を上げた。百式も横に付いてきている。
『私のことは気にせず突っ込んでください。2人の機動力を活かして道を拓く。そこからネモで情報を集めながら敵陣に入り込んでいきましょう』
 やや遅れながら中尉が言う。言葉通り、お構いなしにマンドラゴラは敵との距離を詰める。同じくこちらを捉えた敵部隊も布陣を完了している様だ。上下にマラサイ、両翼にハイザックといった具合に十字の陣形を組んでいる。
『行くぞ!』
 大尉の声がこだまする。十字の陣形の中央から敵艦の砲撃が届く。それを躱しつつ、迎え撃つ敵陣へと身を投じた。

29話 道を拓く
0789◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 15:59:39.20ID:98Jcq17H0
「ちぃ…!すぐそこにアーガマが居るのに!!」
 オーブ中尉はコックピットの中で拳を握り締めた。アレキサンドリアの面々はコロニーの護衛にあたりながら迎撃したエゥーゴと交戦に入っていた。先鋒のサラミス隊が例のバッタ達と戦闘に入った様だ。
『焦らないの。あっちはヤザン大尉達がやってるから』
「あの柄悪いおっさんでしょ?いけすかないわ」
 なだめるドレイク大尉に毒を吐く。ヤザン・ゲーブル大尉とはそんなに面識はないが、禄な話を聞かない為あまり良い印象は持っていない。
「ドラフラ、アーガマを落とせればシロッコ大佐も喜ぶよ〜?」
『そんな単純な話じゃないんだから』
「ふん、まあ良いわ。バッタどもには借りもあるしね」
 ブリッジから指揮を取るウィード少佐をからかいつつ、出撃準備にかかる。ジュピトリスでの改修作業でそれぞれの乗機には新たな試験装備を施した。
 オーブ中尉のガルバルディαには、メッサーラに搭載したブースターと同等のものを外付けしてある。TMAで使用した技術をMSへ落とし込む運用試験である。
 最早ガルバルディである必要性はかなり薄いが、パイロットである彼女らに転換訓練を受けさせる手間を省く為と言っていい。
0790◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 16:00:20.45ID:98Jcq17H0
『ここらで腐れ縁とおさらばしたいのは俺も同じだ。トレーニングに集中したいしな』
「あんたの本業はどっちなのよ」
 相変わらずのソニック大尉には呆れる。とはいえ一度囚われた彼にとってみればまさしく腐れ縁だろう。彼のガルバルディγは完全に装甲材そのものを取り替えた。
 その影響で機体がドム系列の様に大型化したが、各所にアポジモーターを併設することで重量級でありながらも機動性・運動性を確保している。これには、重量バランスに対する推力の必要量を検証する意味合いがある。
『あの調子だと、どうせ先鋒は持ちこたえられないでしょうね…。そろそろいきましょうか』
 ドレイク大尉のガルバルディβは、外観に大きな変化がない代わりにシールドを持ち替えていた。パラス・アテネのオプションの一つで、多数のミサイルを装填してある。
 シールドラックのグレネードを多用していた彼女にはうってつけだ。これに限らず様々なオプションを換装出来る様、各部にラッチを増設している。

 アレキサンドリアから出撃したMS隊は、母艦を離れ過ぎない位置で展開する。先鋒の隊列は乱れ、既に数機撃墜されている様だ。
「どうする?援護に入る?」
『そうね…引きつけるのがお互いに仕事みたいだけど、こっちは連中さえ片付けばアーガマを叩けるからね。早く叩くに越したことはないわ』
 何だかんだと言っても、ウィード少佐もアーガマが気に掛かるらしい。
『準備運動は済んでる。後は負荷をかけるだけだ!』
『はいはい。それじゃ、何かあれば呼び戻すから。行ってきな』
『「了解」』
 ソニック大尉とのいつもの問答を流しつつ、オーブ中尉が先頭になって友軍の元へと急いだ。ここから見えるだけでも、敵の動きが当初とはまるで違うのがわかる。連中にしても、初めての遭遇戦から今日に至るまで伊達に戦ってきた訳ではあるまい。
0791◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 16:00:57.59ID:98Jcq17H0
 お互いが射程距離に入るまでそう時間はかからなかった。こちらの接近を掴んでいたと思われる敵部隊だが、先手は打ってこない。
 友軍のマラサイが放つライフルを躱しつつ、バッタを筆頭に小さく纏った隊列を3機で組んでいる。
「いつもより大人しいじゃん…?それなら!」
 オーブ中尉は背中のバーニアを前傾にすると、2門のメガ粒子砲を放った。固定兵装なだけあって非常に高い威力を有している。それを受けた敵は一転、大きく散る様にしてビームを避けた。両側に跳んだガンダムとバッタがそれぞれオーブ中尉に迫る。
「あたしが1番叩きやすいとでも!?」
 ガンダムのライフルを躱し、更に振りかぶったバッタのナギナタを両腕のサーベルで受ける。
『こっちは俺が抑える!』
 間に割って入ったソニック大尉がガンダムを牽制する。その隙に中尉はバッタを押し返すと、再度メガ粒子砲を放った。しかしこれもまた当たらない。

「発射角が不自由ね…!」
 唸るオーブ中尉だったが、敵は待ってくれなかった。再度斬りかかるべく一気に距離を詰めてくる。
『独りでやろうとしなくていいの!』
 ナギナタの斬撃を遮る様にして、ドレイク大尉が放ったミサイル群が敵を襲う。バッタはそれを器用に切り払いながら尚も進撃を止めない。爆炎の中から敵のバイザーの光が赤く漏れる。
「何なのこいつ…ッッッ!!!」
 狼狽えながらもオーブ中尉はサーベルを構えた。1度、2度と切り結ぶうちに段々押されていく。敵の得物は長物の筈だが、こちらのサーベル二刀流の手数にも難なく付いてきた。
「腕をひけらかしてさ!そういうの嫌いなんだよね!」
 斬り合いの間を読みサーベルを収めると問答無用で敵の両肩を掴み、敵の胸元へ片方のメガ粒子砲を押し付ける。
「そらぁ!!」
 巻き添え覚悟の零距離でビームを放つ。こうでもしなければ命中させられないと踏んだ苦肉の策だった。
 しかし、放ったビームは敵を捉えられなかった。砲を押し付けた直後に互いの身体の間へ脚を挟み込まれ、ビームを放つよりも先に強力なバーニア噴射で機体を引き剥がされた。
 ビームは敵を掠めるだけに留まり、蹴り飛ばされる形になったオーブ中尉の全身に強い衝撃が走る。
「きゃあああ!!」
『言わんこっちゃないわね…』
 間髪入れず庇うようにしてドレイク大尉がバッタの前に立ち塞がるのが見えた。
0792◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 16:01:28.29ID:98Jcq17H0
「フリード!」
『連携しろっていってるでしょ!』
 再び距離の開いたバッタに、ドレイク大尉がライフルで牽制をかける。しかし、その合間を縫う様に援護に入ってきた友軍のマラサイが脈絡もなくバッタに接近しようとしていた。
「あっ…馬鹿っ!」
 敵がこれを見逃す筈もなく、サーベルを振りかぶるマラサイの後の先を取ったバッタは、容赦なくこれを袈裟に斬り捨てた。
『下手に飛び出すから…!ああなりたくなかったら言うこと聞きなさい!』
「ちぇ…了解」
『いい子ね…。…ラム?』
『おう!呼んだか!』
 呼び掛けに応じ、2人はドレイク大尉の元へ集う。ソニック大尉を追っていたガンダムも流石にこちらへ突っ込むことはせず、バッタの傍へピタリと付いた。
「…あれ?おかしい…」
 オーブ中尉は今になって気付いた。敵は3機居なかったか。これでは1機足りない。
『何だ?』
「後1機いた筈よ。こないだは居なかったけど、さっきは確かにもう1機…」
 辺りを探すが見当たらない。間違いなく3機いた筈だ。
 すると、急にバッタとガンダムが動いた。ドレイク大尉達には目もくれず彼女らの背後にいるアレキサンドリアへ向かい始める。
「何なの!?」
『いいから追うわよ…うわ!?』
 敵の背後を取ろうとしたドレイク大尉が狼狽える。先程まで無かった筈の大量のデブリが一帯に流れ込んできたのである。行く手を遮られたMS隊は大きく出遅れてしまう。
『一体何処から!?』
「…!」
 バッタ達の進む背後にネモ隊が合流するのが見えた。
「あいつらが運んできたの!?」
 よく見ると幾つかのデブリにノズルが取り付けられている。簡易的な衛生ミサイルの様な代物らしかった。大きなデブリに小さなデブリがワイヤーで連結されており、牽引出来る様になっている。
『私達を分断する為にわざわざ仕掛けを…』
「何でこんなちゃちい仕掛けでピンポイントに狙えるのよ!これじゃ軌道修正なんて出来ない筈なのに!」
『…あいつか』
 ネモ隊の最後尾にレドームを搭載した機体が付いていく。見るからにデータ収集や通信機能を強化されているのがわかる。
「あれよ!最後の1機!」
 気付いたものの後の祭りだった。今からデブリを掻い潜ったのではもう追いつけない。
0793◆tyrQWQQxgU 2020/02/28(金) 16:01:57.68ID:98Jcq17H0
「くそ!くそ!」
 手当たり次第にデブリを砕く。
『不味いわね…。いくらニュンペーでもあの敵全てを捌くのは無理よ。私達がこうも足止めされたんじゃ…』
『いや、まだ方法はある』
 そう言ってソニック大尉が指し示したのは、護衛していたコロニーだった。
「あれが何なのよ!このままじゃ核パルスも破壊されちゃう!」
『落ち着け。焦っても筋肉は育たん』
「何なのよほんとに…」
『まあ聞け。大した事ではない』
 オーブ中尉は肩を落とし次の言葉を待つ。今は彼の作戦を聞くより他に選択肢は無かった。

30話 苦肉の策
0795◆tyrQWQQxgU 2020/03/03(火) 00:01:31.35ID:v0Qdf/Si0
>>794
いつもありがとうございます!
また投下しますんでお楽しみに!
0796通常の名無しさんの3倍2020/03/07(土) 13:58:56.48ID:UCYNFzkY0
お疲れ様です!

アトリエのNT観はF91の時代に通用するやつですね。
これで新生ネオジオンにでも入ったら「何があった?!」ですよw
しかしロリコンは自己申告なのか......スクワイヤ少尉、こんな男と解り合うことはありませんぜ(爆)

互いの出自で小さくヒビの入りそうなフジとワーウィック(フジファブリックではないw)。
今はコロニーという大きな敵に一緒に戦ってますが、果たして彼らは和解できるのか......まぁ双方ティターンズ堕ちはしないでしょうけど。
ティターンズ側の内通者の話が出て、(当然ながら)スクワイヤも止めるという点で合意。なんかこの感じ、いいですね!

さてウィード旗下アレキサンドリアはPMX系装備を受領、と。
実質旧ジオン機のガルバルα(オーブ機)にメッサーラのブースターとは、攻めましたね。
ここでマッチングすれば以降のティターンズ系にも合わせていけそうなわけで...
特性としてはシュツルム・ディアスやVダッシュに近そうですが、現時点ではまだまだジャジャ馬の模様。
そういえばオーブ機はボックス・ビームサーベルとのことですが、両方ともそれで二刀流にしているのでしょうか?
ソニックのγ(ガンマ)は......動けるデブに乗る筋肉もりもりマッチョマン、濃いですねw
ドレイクのβラッチ多用モデルが最も生き残りそうですね、バーザムの変なライフルなんかもいざって時に使えるかと(笑)
しかし友軍のマラサイ、仮にも旧主役機なのに...パイロットってやっぱり大事ですね。

しかし、コロニー落としを批判する一方で似非衛星ミサイルを使うフジ中尉、地味に腹黒では?
ガンダムで言っても仕方ない気がしますが、「破片を飛ばすなよ」と言われている戦場に大量のケスラーシンドロームの種を投入するわけで
仮に他のコロニーにでも跳んだら迎撃で落とし切れるかどうか...ある意味エゥーゴらしいかも(苦笑)

では手洗いうがいなど気をつけて、続きを楽しみにしてます!
0797◆tyrQWQQxgU 2020/03/18(水) 10:46:09.16ID:nuO8ydDJ0
>>796
いつもありがとうございます!

一般的にはNT論なんてそんなものだと思うんですよね、一部の人間にしか認知されてないと思いますし。

エゥーゴの面白いところは、地球連邦であり反地球連邦であり、その上ジオンの人間も居るってとこなんですよね。
そのエゥーゴが同じ連邦内のティターンズと内ゲバやってて、アステロイドベルトからアクシズまでやってくるという混迷ぶり…。
それで裏切るやつまで出てくる訳ですから、その中で信じられるものって何かあるの?というのもテーマの1つです。

ティターンズって機体の繋がりが滅茶苦茶なので、ミッシングリンクを考えるのは楽しいです。AOZみたいな企画が立ち上がるのも納得です。
ジュピトリス系列はあまり触れられていない印象なので、そこに切り込んでみた次第。

いよいよって時の為にこの手の兵器はあるだろうと思いました。
大気圏が無い月だとそのまま破片が降ってくるかと思いますが、フジ中尉ならある程度計算した上で運用してると思います!笑
0798◆tyrQWQQxgU 2020/03/18(水) 10:47:57.12ID:nuO8ydDJ0
>>797
あとオーブ機は両手ともボックスタイプのビームサーベルです。
篭手みたいな形をイメージしてます!
0799通常の名無しさんの3倍2020/05/02(土) 07:07:56.88ID:NWG27T9L0
ご無沙汰してます!
ふとエゥーゴ側の制服が気になったのですが...

ワーウィック→サエグサやシーサーが着ていたようなチョッキ+シャツ
フジ→カツが着ていた緑系
スクワイヤ→レコアが着ていた露出の少ない方
グレッチ→グレーの正規軍服、前を止めずに着崩してる感じ(ヘンケン用だと襟から下が開かないんですよねw)

おおよそこんなところでしょうか?
ワーウィックはカミーユみたいにするほど青くないし、かといって連邦グレーを着こなすのも変かとこうしましたw
0800◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:26:58.63ID:6Hz5WWbB0
大変お待たせしました!
コロナだの副業準備だのでバタバタしてました…。
頻度は落ちるかもしれませんが、また投下していきます!!取り敢えず書き溜めていた分を落としますね!

>>799
制服とはまた良いところに目をつけましたね!
イメージでは、
・ワーウィック→ヘンケンみたいな黒で襟の裏地が緑+シャツ
・スクワイヤ→エマさんみたいな緑+黒のレギンス
・フジ→お堅いベージュの連邦カラー
・グレッチ→フジと同じく連邦標準制服を適当に着崩した感じ

…こんな感じでしょうか??
0801◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:28:15.48ID:6Hz5WWbB0
「どうにかうまくいきましたか…」
『よくあんなの思いつきますよね中尉』
『機転が利くのも中尉のいいところだ』
「全体の動きを把握出来ていて良かったですよ。2人が敵を引きつけていたからこそです」
 フジ中尉達は敵MS隊をうまく撒くと、アレキサンドリア級強襲へと向かった。
 当初はコロニーへの攻撃用で用意していた衛生ミサイルだったが、目標を変えて敵の分断に使用したのである。思いの外味方主力の進軍が早く、丁度遊ばせていたところだったのが功を奏した。
 友軍のネモ隊も急な申し入れによく対応してくれたと思う。そのネモ隊にサラミスを任せ、中尉達は指揮艦を叩く。

『今なら殆ど裸に近い筈だ。さっきの連中が戻ってくる前に速攻をかける』
 ワーウィック大尉が指示を出す。彼がジオン出身である事が確定したが、だからといって彼への信頼が揺らぐ訳ではなかった。ただただ心のしこりが疼くだけだ。今は考えるべきではない。
『私から行きます。ただ…』
「ああ、まだ後1機出てきていないのが気になるな。どう思われます?大尉」
 アレキサンドリアの砲撃を躱しつつ、中尉もスクワイヤ少尉と同じく懸念を抱いていた。
『前回テスト機を撃破したとはいえ、さっきのガルバルディ隊を見るに補給は済んでいる筈だな。まだ何か出てくるかもしれん』
0802◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:28:55.36ID:6Hz5WWbB0
「そろそろ出てきてもおかしくはありませんね…」
 敵艦の機銃をライフルで潰しながら周囲を索敵したが、まだ変化は無い。この戦況で正面のカタパルトを開くのは敵としてもリスクが大きい筈だ。
『とにかく大元を叩いてしまえば!』
 機銃を潰され砲火が手薄になった敵の横腹に少尉のガンダムが接近する。迎撃する主砲が彼女へ照準を合わせようとしていた。
『そうはさせんよ』
 まだ弾幕の厚い敵艦前方を掻い潜り、ワーウィック大尉の百式が主砲にナギナタを突き立てる。彼が瞬時に離脱すると、装填済だったとみえるメガ粒子と共に主砲が爆発した。
『大尉!』
 少尉が、大尉へ狙いを定める機銃を破壊しながら叫ぶ。
『構うな!敵をよく見て動け!』
 少尉を叱咤しながらも、2人は綺麗に連携している。まさに背中を預けあっているといっていい。中尉はその2人の連携が乱れぬ様、彼らの更に先を見る。

 ようやく敵艦に取り付いたその時、先程の爆発の裏に反応を見つけた。
「大尉!来ました…例のやつです!」
『また同じ機体…量産に入っているのか?』
 気取られたのを察知してか、敵がその姿を露わにした。その曲線的なフォルムと淡い体色は紛れもなく例の試作機だった。
『よし、やつは私が叩く。2人は引き続き敵艦を破壊しろ』
『しかし…』
 少尉が食い下がる。
「私が随時状況は共有する。少尉が危ないと思ったら動けばいい。まずは大尉に任せよう」
『…了解』
 渋々従う彼女を確認すると、大尉の百式は軌道を変えて試作機へと向かった。砲火を嫌ってか、敵は艦から距離を置こうとしている様に見える。
「ふん…艦を捨ててでも決着を付けにくるか」
 百式の動きも捉えつつ、少尉のガンダムの支援を続けた。
0803◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:29:22.09ID:6Hz5WWbB0
 護衛のない戦艦は殆ど的と言って差し支えなかった。機銃や主砲を失った片側の船体は最早こちらの進軍を止める手立ても無い。
「少尉!いけそうか!?」
『やってみます…!!』
 遂に少尉は敵の艦橋目掛けてバーニアを吹かす。しかしその時、ミサイル群がガンダムを襲った。身を捩りどうにか躱すが、艦橋は叩き損なってしまった。
『!?…もう追いつかれた!?』
 ミサイルの発射地点を辿ると、そこには撒いた筈のガルバルディ隊。
「まだ余裕はあった筈だぞ…?一体何処から…」
 中尉達の後方を追ってきたわけでは無さそうだった。しかし大回りしていては到底間に合わない。
「…!そうか、コロニーか!」
 どうも連中はコロニーの外壁を破り、その中を一直線に引き返して来たようだ。容易く機体の進路は作れないと思ったが、恐らく例のデブリを利用したのだろう。衛生ミサイルを流用した事が仇になった。
『これは大尉の援護どころじゃなさそうですね…』
 戦艦を叩くのは中断し一旦距離を取る。ガルバルディ隊もこちらを追うようにしてアレキサンドリアから離れた。
「ここが正念場だ!抜かるなよ!」
『了解!』
0804◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:30:04.00ID:6Hz5WWbB0
 中尉が激を飛ばすと、応えた少尉のガンダムが敵の隊列に突っ込んだ。行く手を阻むのは先程の大型タイプである。
『さっきからしつこい!』
 その巨躯に見合わず、しっかりとガンダムの動きに付いてくる。お互いにライフルで牽制し合うも、付かず離れずの読み合いが続いていた。その隙を狙う様にブースターを背負ったガルバルディが砲撃を放つ。
 これをガンダムは宙返りして躱すが、無防備になった所を残る1機が強襲する。
「こっちは無視か?」
 すかさず中尉はライフルで敵を牽制した。それでも3機は徹底してガンダムを狙っている。
「各個撃破は作戦として正しい。だが、戦力を甘く見積もるのは感心しないな」
 ネモの背中に背負ったバックパックはレドームのみではない。有事に備えたサブジェネレーターも搭載している。
 本来は友軍機への供給が主な用途だが、中尉はこれをライフルに直結すると、オーバーヒートさせながら敵へ放った。
 流石に想定外だったのか、躱しきれなかったブースター搭載機の左半身が吹き飛んだ。それに気を取られた万能機へガンダムが斬りかかる。
 敵は正面から斬りかかったサーベルをシールドで受けようとした。少尉は咄嗟にサーベルを逆手に持ち替えシールドを空振りさせると、ガラ空きになった腹を横一文字に凪ぐ。
 サーベルは完全にコックピットを捉えていた。真っ二つになった敵機は爆散する。
 僚機が2機損壊したのを見て、残る大型機がなりふり構わず中尉へ迫った。迎撃しようにもライフルは先程のオーバーヒートで使い物にならず、携行していた右腕も電装系に異常をきたしている。
『中尉!任せて!』
 スクワイヤ少尉のガンダムが割り込む。すると敵機はガンダムの頭部を掴み、膝蹴りと挟み込む様にして叩きつけた。
『うわっ!!』
 頭部全壊とはいかないまでも、内部の機器は破壊されただろう。今度は受け身が取れないままのガンダムを前に、敵がサーベルを抜いた。
0805◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:30:41.43ID:6Hz5WWbB0
『させんと言っているだろう!』
 ワーウィック大尉だった。敵は背後からのナギナタを咄嗟にサーベルで受けると、形勢不利を悟って後ろへ下がった。半身を失ったガルバルディに肩を貸しながら撤退していく。
「試作機はどうです?」
 こちらも直ぐ様追える状態ではなく、敵を見送りながら大尉に声を掛けた。外観を見る限り百式に大きな損傷はみられない。
『中尉達を艦から引き離してからは母艦の支援に回っていたよ。私もそこを攻めあぐねていたところでこっちに合流させてもらった』
 そう言いながらガンダムの手を引く大尉。
『すみません、モニターが死にました』
「じきにサブが復旧するだろう。よくやった」
 かなり敵の戦力を削ぐ事に成功した。報告を流し見る限り、先程のネモ隊もサラミスを落とした様である。後は主力がどうなっているかだった。

『遅くなったな!ちょっくら主力の手伝いをしてきたもんでな』
 アイリッシュ級のグレッチ艦長だった。ようやくこちらに追いついたらしい。
「あっちはどうです?」
『依然交戦中だ。しかし例のニュータイプ、凄いなあれは』
「アーガマのパイロットですか」
『ああ、とても子供が乗ってるとは思えん。おかげでかなり優勢だぞ。…あれ?ゲイルちゃん、顔どうした』
『その言い方やめてくださいよ…』
 スクワイヤ少尉が溜息をつく。
「!…あれは」
 コロニー後方で大きな光が見えた。あの位置には核パルスエンジンがある。
『やったか!』
 ワーウィック大尉の言う通り、エンジンの破壊に成功した様だ。ジワリジワリとコロニーが失速していく。フジ中尉は落下予測を概算で試みた。これならグラナダへの直撃は避けられるはずだ。
「作戦成功ですね…」
 中尉はほっと胸を撫でおろす。ティターンズの凶行をなんとか防いだ。もうコロニー落としの悲劇など目にしたくなかった。
 しかし、同じ連邦であるティターンズの士官には、コロニー落としに嫌悪感を示す人間もいる筈だ。一部の将校が強硬手段に出たのではないかとすら思える。とはいえ、エゥーゴも仇敵であるジオンを抱き込んでいる以上、お互い様かもしれない。
 敵も味方も、正義も悪もない。混沌としたこの地球圏で、自らの信念を何処まで貫いていけるのだろうか。今はただ、安堵する気持ちに浸っていたかった。

31話 正念場
0806◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:32:57.08ID:6Hz5WWbB0
 敵襲は去った。しかしアレキサンドリアの艦内は戦闘中と何ら変わりなかった。
「状況は!?」
 帰投するなりヘルメットを投げ捨て、ウィード少佐はモニターに向かって怒鳴った。
『お戻りですか。乗組員は閉鎖したブロック周辺の消火作業にあたらせています』
 ブリッジからレインメーカー少佐が応えた。
「わかりました。コロニーは?」
『核パルスエンジンを破壊された様ですな。近辺でガンダムMk-Uらしき機影も確認しています』
「ちぃ…!よりによって盗まれた機体に邪魔立てされて…!」
 開いたコックピットから格納庫を見渡しながら舌打ちする。まだガルバルディ隊は戻っていない様だ。
『そろそろガルバルディ隊も戻りましょうが…』
「連中の補給も急がせる」
『しかし…』
「…?どうしたんです」
『フリード・ドレイク大尉が戦死なさいました。オーブ中尉も重傷です』
「は…?」
 途端に全身から力が抜けた。
『とにかく早くブリッジへお戻りを』
「…わかりました」
 返事をしながらも、ウィード少佐の視点は高い天井を見上げていた。
0807◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:33:45.18ID:6Hz5WWbB0
 ウィード少佐がブリッジに入った時、モニター越しの格納庫に丁度ガルバルディ隊が帰還するところだった。
 しかしそれは最早部隊などと呼べる様相ではなかった。オーブ中尉のガルバルディαは殆ど原型を留めておらず、単独では着艦すらままならない。
 それを支えるγは欠損こそないが、各部の塗装が剥がれ激戦だったことが伺える。そして何より、βの姿がそこには無かった。
「…!脱出ポットは見当たらないのか!?」
「機体は完全に撃墜されております」
「だとしても、直前に脱出しているかもしれんでしょう!」
「それは…」
「いいから探せ!!探すんだよ!!」
 力任せに壁を叩いた。何度も叩いた。
「…ウィード少佐…お気持ちは痛いほどわかります…」
「頼む…探してくれ…探して…ください…」
 ウィード少佐はその場に崩れ落ちた。駆け寄ったレインメーカー少佐が肩を抱いたが、その暖かみすら自らの冷えていく体温が際立つだけだった。

 その後オーブ中尉は半壊した機体から救出され、緊急治療室へ運び込まれ、ソニック大尉も軽傷ながら治療を受けさせた。ウィード少佐も休むよう促されたが、頑として聞かなかった。
 結局ドレイク大尉の捜索は行わなかった。ソニック大尉の証言によれば、ガンダムのビームサーベルは間違いなくコックピットを焼いたのだという。何度聞き返しても、彼の答えは変わらなかった。
 軌道が逸れたコロニーはグラナダから遠く離れた未開拓の区域に落着し、それを捨ておいたティターンズ艦隊はそれぞれに撤退した。
 今回の作戦は現場の暴走として片付けられたが、核パルスエンジンが通常の作戦で持ち出されることなどまずない。どう考えても司令であるジャマイカン・ダニンガンの指示である。
 そもそもウィード少佐達に護衛の通達が来た時点で、上層部が容認していたとしか思えない。
 アレキサンドリアの損傷も著しく、応急処置を施しながらコンペイトウへ向かう事となった。それまでに機体のデータをまとめなければならなかったが、とてもそんな気分にはなれない。ウィード少佐は自室に籠りがちになっていた。
0808◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:34:48.46ID:6Hz5WWbB0
「…よろしいですかな?」
 断りを入れて入室してきたのはレインメーカー少佐だった。
「何か航行に問題でも?」
 書類をめくりながら平静を装うウィード少佐だったが、きっと内心の乱れにも彼は勘付いているのだろう。
「いえ、報告がひとつ」
「…?」
 ウィード少佐は書類に触る手を止めた。
「コロニー落としの一件ですが…。どうも内通者がいたとか」
「そんな馬鹿な」
 ペンを机に置き、ウィード少佐は立ち上がった。もし事実なら遠回しにドレイク大尉を殺された様なものだ。確かにエゥーゴ主力艦隊の対応には目を見張る迅速さがあった。
「…シロッコ大佐腹心の若い女性士官が居るのですが、憶えていらっしゃいますでしょうか」
 はっきり憶えていた。前回帰還時に彼の傍に立っていた少女のことだろう。
「彼女がなんだと言うんです」
「アーガマと接触していた疑いがあります」
 レインメーカー少佐は表情を変えなかった。それどころか耳を疑うような事を続けた。
「しかし、それだけではありません。同じくシロッコ大佐麾下の我々にも疑いの目が向けられている様です」
「…!」
 思わず言葉に詰まる。良心の呵責に耐え、ドレイク大尉を失い、オーブ中尉もまだ予断を許さない状況だ。そこまでして戦った結果が裏切りの疑惑なのか。
「…私には、バスク・オム大佐達上層部による、シロッコ大佐への当てつけとしか思えません」
 ウィード少佐の心境を察してか、レインメーカー少佐が静かに言った。
「アポロ作戦にしても、シロッコ大佐が指揮権を手放した直後にエゥーゴの巻き返し。その後のコロニー落としも失敗しました。バスク達にしてみればまあ面白くないでしょうからな。
 ブレックス准将の暗殺も一枚噛んでいると聞きます」
 レインメーカー少佐の言う通り、シロッコ大佐が目をつけられるのも無理はない。まして彼は聡明な男だ。野放しにしておけば取って代わられる恐れすら感じるだろう。
「…それで彼らが話をでっちあげていると?」
「少なくとも我々は裏切っておりません。シロッコ大佐にしても我々を差し向けている以上、作戦に参加している身と言って良いでしょう」
「こんな時に派閥争いなどと…!」
 ウィード少佐は憤りを隠せない。あまりに馬鹿馬鹿しい話だった。身を粉にする思いで革新を成そうとしているシロッコ大佐が裏切りなどするはずがない。
「上層部にはお気をつけください。信じられるのは身近な人間だけです」
「ご忠告、胸にしまっておきます」
 そこまで話してレインメーカー少佐は退室していった。
0809◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:35:32.40ID:6Hz5WWbB0
 しばらくしてオーブ中尉の治療が終わったと報せが入った。一命は取り留めたとのことだ。しかし彼女はもう戦線復帰は絶望的という。ドレイク大尉ももう居ない。彼女達という両腕をもがれ、立ち上がることも出来ずに地を這っている様だった。
「…済まない」
 オーブ中尉の治療について報告へ来たソニック大尉は、小さくそう言った。
「どうしてあなたが謝るの?」
「俺は皆に助けてもらって今ここにいる。だが…俺は…何も…」
 彼が目頭を抑える。
「何も…してやれなかった…!!」
 大きな身体を、小さく震わせていた。その悲痛な姿がウィード少佐には耐え難かった。
「できる事はやった…。だからそんなこと言わないで…」
 ウィード少佐達が同じ配属となった後、レインメーカー少佐はお目付け役としてやってきた。そんなウィード少佐には、真に頼れる者はソニック大尉しか残されていなかった。
「…私にはまだ、あなたという脚がある。これからも支えてほしい」
「…ああ!わかっているさ」
 顔を拭うと、ソニック大尉はいつもどおりの笑顔を見せた。彼にはこれからも辛い思いをさせるかもしれないが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 あまりにも大き過ぎる犠牲を払いながら、ウィード少佐は決意を新たにした。エゥーゴを徹底的に叩く。その上で現ティターンズの上層部も潰す。その為にはやはりシロッコ大佐の力にならねばならない。
 ドレイク大尉やオーブ中尉が身を呈して守った理想の為、ウィード少佐もシロッコ大佐の理想を守りたいと強く願った。

32話 大き過ぎる犠牲
0810◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:39:06.56ID:6Hz5WWbB0
 オーブ中尉が目を醒ました時、白衣の医師達が彼女を囲んでいるのがぼんやり見えた。状況もわからず、ただ自分が生きている事だけを自覚する。医師達は彼女の意識確認を行うと、何やら話しながら作業を始めた。
 何が起きたのか思い出すのにも時間が必要そうだ。機体が被弾したその後の映像が断片的に頭をよぎる。そのひとつひとつを結びつけようとしたが、どうも覚束ない。
 ベッドごと上体を起こされている様だが、首を固定されているらしく視線くらいしか自由が利かない有様である。今回は手酷くやられた様だ。
「目が醒めたのね」
 部屋にこぼれた光と共に聞こえてきたのはウィード少佐の声。
「…ん…よく思い出せてないんだけど…」
 借り物の様な心地がする喉を動かし、なんとか声を出した。
「無理に喋らなくていい。ゆっくり治せばいいんだから」
 そう言う彼女の声が近づく。目を開くのも億劫になり、再び目を閉じた。
「負けたの…?」
 目を閉じたまま訊く。
「…まだ終わってないわ。むしろこれからよ」
 表情は見えないが、声色に気負いを感じた。恐らく、コロニー落としには失敗したのだろう。
0811◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:39:35.32ID:6Hz5WWbB0
 意識がはっきりしてくるにつれて、何となく思い出してきた。あの時、ネモのライフルを機体に受けた。その瞬間にコックピット内に鮮血が飛び散ったのを思い出す。火花を走らせながら半壊したモニター。
 それらに挟まれて途切れ途切れの意識の中、確かに見た。あるはずのものが、そこには無かった。
「…ドラフラ、あたし…もう戦えないんでしょ?」
 オーブ中尉の問いにウィード少佐は応えなかった。いや、それが答えだった。医師が止めるのも構わず、固定された首を半ば強引に動かし自らの左腕を見る。思った通り、彼女は肘から下を失っていた。
「そんな気はしたのよ。こんな…仰々しく…」
 言葉を切って少し休む。押し寄せる現実に気持ちが昂ぶり、呼吸が乱れた。周りが少し慌ただしくなる。
「!…無理しないで」
 ウィード少佐が肩に手を添えた。オーブ中尉は深呼吸して、最後に溜息をつく。
「少しまた寝る…。ドラフラも無理しないで…」
「わかってる。リディルもね」
 ぽんぽんと胸元を叩かれた。すぐにオーブ中尉の意識は再び遠のいていった。
0812◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:40:00.29ID:6Hz5WWbB0
 それからしばらくして、オーブ中尉負傷後に何があったのかを聞いた。コロニー落とし失敗や、ドレイク大尉の戦死。今居るのはコンペイトウであることや、アレキサンドリア隊への疑惑。身体を少しずつ慣らしながら色んなことを聞いた。
「しっかし変な感じね!無いのに有るような気がする」
 容態が落ち着いて散歩程度なら許されたオーブ中尉は、ソニック大尉を伴って病棟を歩いていた。身体のバランスにまだ不慣れだが、失った腕の感覚が残っているのはよくある事なのだと言う。
「人間の身体というのはまだまだ未知数だからな。…困ったら何でも聞け。俺ももっと学ぶとしよう」
「ラムはそういうの詳しそう」
 彼に目立った負傷が無かったのは不幸中の幸いだった。
「これからどうするの?あたしはMSには乗れないだろうし、かといって人員も足りてないでしょ」
「ガルバルディ隊は解散だろう。お前もまだ治療が必要だし、俺ひとりというのもな」
「そうね…。フリードも居なくなったんだもん」
 ドレイク大尉は最期までオーブ中尉を呼んでいたのだという。彼女の言う通りもっと自分を制していれば、結果は違ったのだろうか。
「…少なくとも、彼女は俺達に止まって欲しくはないだろうな。救われたこの命…遺された使命の為に使わなければ」
「くっさ!ほんとあんたは相変わらずだわ」
 そういってオーブ中尉は笑った。正直言ってオーブ中尉としてはまだ失ったものへの実感は薄かった。どことなく高揚した気分が続いている。
「リディルが居ないと俺も締まらない。トレーニングには良いマネージャーが必要だからな」
「はいはい。今から会議でしょ?くだらない事言ってないで早く行きなさいよ」
 ソニック大尉を送り出し、彼女はひとり病室へ戻る。ウィード少佐はじめ、彼にも苦労をかけた。オーブ中尉も自分に出来る事を考えなければならなかった。
0813◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:40:32.59ID:6Hz5WWbB0
 病室へ戻ると人影を見つけてぎょっとした。よく見るとレインメーカー少佐だった。彼はベッドの傍のチェアーに腰掛けていた。
「もう!びっくりしたじゃん!」
 薄暗い部屋に照明をつける。
「失礼失礼。ここで待てば会えるかと」
 そう言って彼は立ち上がり、軽く会釈した。
「爺は会議出ないの?」
「私はお呼ばれしておりませんで。少し手が空きましたから、お嬢さんとお話でもと」
「暇なら相手してもいいわよー」
 からかう様な笑みを浮かべながら彼女はベッドに腰掛けた。彼も再び座る。
「大変でしたね」
「まあね。でもしゃーないでしょ、よくあることだわ」
 本当は割り切れるものではない。しかし、クルー達にこれ以上心配を掛けたくないという気持ちの方が強かった。少なくとも彼らの前ではいつも通り振る舞うと決めていた。
「まだお若いのに、苦労をかけさせてしまって私も申し訳ない」
「何言ってんだか。いつもは若いうちに苦労しろとか言ってるくせに」
「いやはや、歳になるとどうも説教臭くなるものでしてな」
 困った様に少佐が頭を掻く。
「そういえば、なんか疑われてるんだっけ?内通者がどうたら」
「上層部は本当の前線を知らんですからな。戦艦に同乗して喚いていればそれが前線だと思っておりますから」
「いっぺんその辺にほっぽり出してやりたいわ。そんな余裕無いわよこっちは」
「彼らは彼らなりに任務を遂行しておるのでしょう。それぞれに事情があります」
「また説教ー?」
「これはいかんですな。言ったそばから」
 そういって2人は笑った。

「…爺、あたしこれからどうなるんだろうね」
 少し和やかになったところで正直に訊いてみた。
「…通常のMSパイロットとして戦うのは難しいでしょうな。様々な技術はありますが、どれもまだ実用的ではありません」
「様々な技術?手が無くもないってことか」
 失った左手をまじまじと見つめながら自嘲気味に笑った。
「義手とかは慣熟するまでかかるんでしょ?そんなの待ってられないわ」
「元々使った事があれば別ですが、使ったことのないものですから。サイコミュなどもそうでしょうが、身体に無いものを動かすというのはもっと難しい」
 身体に無いものを動かすと言われハッとした。無い筈の左腕を動かしているこの感覚はまさしくそれだった。
「…サイコミュってさ、操縦桿が無くても動くわけ?」
「…ええ。極まると遠隔操作すら出来ると聞いておりますな」
 聞いたことがあった。ジオンのMAは勿論だが、連邦もサイコガンダムなどで実際に戦闘を行っている。
「つっても動かしてるのは皆ニュータイプだもんね。あたしには関係ないか」
 そういってオーブ中尉はベッドに身を投げ出した。
「そう焦らずとも良いでしょう。時間はあります」
 そういってレインメーカー少佐が微笑んだ。それから他愛もない話を幾つかしたのち、どうやら暇を潰せたらしい彼は、お辞儀して病室を出ていった。
0814◆tyrQWQQxgU 2020/06/03(水) 15:40:58.65ID:6Hz5WWbB0
 部屋でぽつりと独りになったオーブ中尉は外に目をやる。少しでも気晴らしになるよう窓があったが、地下に建設されたこの病棟では晴れやかな景色が見られる訳ではない。ごつごつとした岩に囲まれて作業に勤しむ人々が見えるだけだ。
「サイコミュか」
 オーブ中尉は何となく呟いた。ニュータイプ的な閃きなどとは無縁な彼女だったが、無いものを動かす感覚というのは今まさしく体感していた。この延長線なら想像ができる気がしている。
 きっと会議の中でこれからの事を話しているはずだ。何もかもを自分で決められる訳ではないとはいえ、このまま引き下がる気も彼女には毛頭無かった。
 オーブ中尉は確かにある右手と、無い筈の左手を強く握り締めた。

33話 無い筈の
0816通常の名無しさんの3倍2020/06/06(土) 11:33:14.16ID:BN3jfH6V0
乙です!
もしやコロニーより高いところまで行ったんじゃないかと心配してたので、一先ず安心しました!(待てやコラ)

機銃や主砲を近接武器で潰していくのは、メガバズーカランチャーの戦績の悪さが広まった結果でしょうか?(笑)
ワーウィックの心配をするスクワイヤも、大尉の意を汲んでフォローするフジも、いい感じに成長してますね!
ネモ隊もガルバルディ隊もミサイルを撒いて戦場に仕切りを作る、こういう集団戦描写とても好きです

フジのEWACネモ→改造ガルバルディα(大破、オーブは強化フラグ...?)
スクワイヤのマンドラゴラ→改造ガルバルディβ(ドレイク死亡、爆散)
ここでキルスコアとは...
正直、原作の展開はやらかしたことのスケールの割に話が動かなかったので、ピッタリ嵌まった感じがあります。
ジェリドは悔しさ第一みたいなキャラなのでシドレの死を軽く描写させられてしまいましたが
ウィード、ソニック、レインメーカーはシロッコ達とどう向き合っていくのか...
あらら、シロッコの小手先の悪影響が旗下の部隊にまで波及しちゃってまぁ...
ティターンズ内での疑惑に向かっていく導線、ぜひ辿らせてください!(悪趣味)

ソニックのγ、パワフルですねぇ。
高トルクパックとかF90Bとか、最近は何となく大柄な機体の格闘ぶりに燃えてきちゃう話が多くて好きです

単機でアレキサンドリアを守りきったウィードも立派、帰る家が無きゃ誰も戦えません。
でもそのせいで部下たちがボロックソにされてるのに気づけなかったんですよね......抱きしめてあげたい!(下心なし)
しかしこの件でいよいよウィード隊の依存を強めてるシロッコは不気味ですね、こっちでもひっぱたかれないかな(笑)

お、コンペイ島!ジオン共和国と並んでZ作中じゃちっとも描写のなかったコンペイ島じゃないですか!w
ジョニ帰のミナレット欲しかったおじさんとかガンダムTR-1とか、外伝では優遇されてる感じですが
今作ではどれほどゼダンやグリプスを使った大喧嘩に関わることやら......続き待ってます!
0817◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:39:39.46ID:vuolscyX0
>>815
>>816
ありがとうございます!
ちと忙しかったので筆も止まっていたのですが、余裕が出来たので息抜きに再開しました!

前作では1対多数や血ツ別の戦いが多bゥったので、描試ハが難しいですbェ多数対多数に鋳ァ戦しているとbアろです。楽しbナもらえていb驍ネら何よりでbキ!

これだけ成長している彼らがいつまでもガルバルディに苦戦するはずもなく…
一応操縦スキル自体はガルバルディ隊の中ではソニックが1番高い設定です。伊達に脳筋ではありません。
ガルバルディ隊が連携してガンダム達と渡り合っていたところを、その有利さえ覆ってきたなら…こうなるのは自明かなというところ。

シロッコの急進的なやり方には齟齬が出ないとおかしいと思ってたんですよね。
そのしわ寄せが何処かに行くとすれば、彼のような人たらしなら…わからないように何処かに押し付けていてもおかしくはないかなと。
テーマの1つなのでしっかり描写していきます。

あれだけ1年戦争で重要な拠点だったソロモンが、何故グリプス戦役では放ったらかしなのか…ガトーのせいでしょうか。笑
ア・バオア・クーは名前まで変えてばっちり最終戦に絡んでいたので、僕の話ではコンペイトウも噛ませて行こうかなと思っています!
0818◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:42:30.29ID:vuolscyX0
「ちょっと見てみろ」
 そういうグレッチ艦長の声に、スクワイヤ少尉達MS隊の面々はモニターを覗き込んだ。次の出撃指示もなく、皆ブリッジに集まっていたところだった。
 コロニー落としの一件から1ヶ月と経たず、エゥーゴとティターンズは変わらぬ小競り合いを続けている。
 アンマン市やグラナダも例外ではなく、ちょっかいをかけてくる敵部隊との戦闘が頻発していた。アポロ作戦やコロニー落としの事もあり、相手が偵察部隊であっても決して気が抜けない状況である。

「これ、どう思うよ大尉」
 モニターに表示されたその報告には、旧ジオン軍残党の最大拠点アクシズが地球圏へと接近しつつあることが記されていた。
「私はアクシズのことは何も。ただ、デラーズ紛争の敗残兵も抱きかかえた事を考えれば…それなりの規模になっている筈です」
 考え込む様に右手を顎に当てながらワーウィック大尉が応える。
「彼らが地球圏に…。もしエゥーゴと手を組んだらティターンズも危ういんじゃ?」
 スクワイヤ少尉は単純に好機だと思った。ジオン狩りのティターンズと、反地球連邦のエゥーゴ。どう考えても利するのはエゥーゴの筈だ。
「これがそうとも言えん。発想がわかりやすくて説明し甲斐があるな少尉は」
 眼鏡を掛け直しながらフジ中尉がニヤリと笑った。
「む…何だっていうんです」
「ティターンズはこれまで失敗続きだ。それも、なりふり構わずやってきたせいで市民含め敵は多い。
 そもそも論としてエゥーゴにしても地球連邦軍の一部であることを考えれば、我々と同じく彼ら残党軍を戦力として欲してもおかしくはあるまいよ」
「そんな!だってティターンズはジオンの残党狩りが名目の組織でしょ!?」
「ああ、"名目"はな。連中のやっている事を顧みれば、そんなものは方便だとわかるだろう」
「うーん…そう言われてみればそうなんですかね…」
 少尉は思わず唸った。とはいえ、残党狩りが残党と手を組むなどおかしな話である。
「問題は…彼ら残党軍自身がどういうつもりで地球圏帰還を決行したのか」
 中尉の問いかけにも、変わらず大尉は考え込んでいる。
「正直、我々がこれ以上考察を続けてもあまり得るものは無いな。私にも真意が掴めん」
 大尉は考えるのをやめた様だった。
「お前らの意見はわかった。俺もイマイチ状況が読めなくなってきたからなぁ」
 大きく溜息をついた艦長が髭をいじる。
「アーガマが接触を試みるそうだが、どうもティターンズ側にも動きが有るようだ。…とはいえ、俺達がやることは特にない」
 そういって艦長はお開きだと言わんばかりに手を叩いた。皆それぞれの持ち場へと戻っていく。
0819◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:43:32.58ID:vuolscyX0
「このまま放ったらかしですかね?私達」
 整備の為格納庫へ向かいながら、パイロットの3人で並んで歩いた。
「そうもいくまい。そろそろ局面が動く」
 ワーウィック大尉が難しい顔で言った。
「ティターンズだけでも手一杯な今、更に敵が増えるのは避けたいところですが…」
 フジ中尉はこの間の件といい、いくら戦局が厳しくなるとはいえやはり残党と表立って手を組むというのは抵抗もあるだろう。
「色々と条件もある。いくらエゥーゴが反地球連邦といっても、ザビ家再興などを掲げているのであれば力を貸すわけにはいかないだろうしな」
 そうは言うが、大尉はもうジオンに未練はないのだろうか。
「ザビ家って全滅したんじゃ?」
「いや、ドズル中将の娘がいる。彼女自身はまだ幼いが、マハラジャ・カーンの娘が摂政としてついている筈だ。その位は伝え聞いたが、それ以上の事は何も」
「ザビ家かあ…イマイチ実感湧きませんね。なんか、そこだけ時間の流れが私達と違うみたいです」
「小惑星などに引き篭もっていればそうもなるさ」
 ワーウィック大尉はやや不機嫌そうに鼻で笑った。

 スクワイヤ少尉達が整備を進めている間にも、上層部は今後の事を話し合っているはずだった。ひと通りの作業を終えて休憩していた面々に再び招集がかかる。
 拭った煤が頬についたままの少尉を始め、バタバタとブリッジへ皆が集まった。
『諸君、調子はどうかね』
 1番大きなモニターにロングホーン大佐の姿が映った。相変わらずの仏頂面である。腕組みして椅子にふんぞり返っている。
『揃った様だから始めるが…。今現在我々は、接近しつつあるアクシズの対処に追われている。今頃はバジーナ大尉達が接触している頃かな』
 ブレックス准将の死後、アーガマのクワトロ・バジーナ大尉が後継者としてエゥーゴを背負って立つ事になった。その彼が直接交渉に出向いたということか。
 しかし、何故ロングホーン大佐やブライト・ノア大佐ではなく彼が後継者として選ばれたのかはわからない。
「アーガマの報告待ちということですか?」
 フジ中尉が問う。
『いや、こちらも待ってばかりでは居られまい。ある意味で彼らは敵地に乗り込んだ様なものだからな。諸君には彼らの出迎えをやってもらいたい』
 大佐は組んでいた腕を解くと、身を乗り出す様にして両手を机についた。
『アーガマの出迎えとは言うが、実際のところ逆に敵の出迎えに遭遇する可能性もある。アクシズの連中に歓迎されるとも限らんし、アーガマがティターンズに出し抜かれていることも考えられる。…危険だが任されてくれ』
「了解しました。すぐにでも出港します。…最後に1つだけお伺いしても?」
 珍しくグレッチ艦長が一言添えた。
『なんだね?』
「アーガマの交渉が破談していた場合、今後エゥーゴはどう動くので?」
『…ふん。いずれにせよ最後に勝つのは我々でなければならない。それだけだ』
 ロングホーン大佐はそれだけ言うと一方的に通信を切った。それを聞いたグレッチ艦長は帽子を深く被り直す。
0820◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:44:32.90ID:vuolscyX0
「さて、お前達!聞いたとおりだ。さっさと準備にかかれ」
 振り返ったグレッチの艦長の一声で皆作業を再開する。ぞろぞろと退出するクルー達に置いていかれる様にして、スクワイヤ少尉はひとりその場に残っていた。
「ん?どうかしたのかゲイルちゃん」
 気付いた艦長が首を傾げた。
「…今の話、何か引っ掛かるんですか?艦長」
「そうさな…他所さんと同じでうちも一枚岩じゃねぇだろ。アクシズと接触して、古巣に戻るやつらも出る筈だ。そうなった時、ほんとに上層部が言うほど事が上手く運ぶとは思えねぇからよ」
 髭を気にしながら、艦長は神妙な面持ちで言う。
「艦長にしては真面目な考察」
「悪いかよ!早くお前も持ち場に戻れやい」
「はいはーい」
 少尉は頭の後ろで手を組みながら大股でブリッジから退出した。歩きながら艦長の言葉を反芻する。
 確かに彼の言う通り、これまで以上に複雑な戦況が予想されるだろう。確かに、ワーウィック大尉の様に割り切っている人間ばかりではあるまい。加えて、フジ中尉の様にジオン出身者へのわだかまりを抱えている人間も居るはずだ。
 ノンポリシーな少尉からするとあまり実感は湧かないものの、この組織は思っている以上に繊細で脆いのだと改めて認識していた。

34話 アクシズ
0821◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:45:28.80ID:vuolscyX0
 スクワイヤ少尉達アイリッシュ級は、ロングホーン大佐の指示から程なくしてアンマンを立った。月を離れ、小惑星アクシズの方向へと進路をとる。パイロット達は機体のコックピットの中で待機を続けていた。
「アーガマからは音沙汰ないみたいで」
『もう会談の終了予定時刻は過ぎていますね。もしかすると…』
『ああ。交渉決裂したか、頭をティターンズに叩かれたか…。いずれにせよ我々の出番だな』
 スクワイヤ少尉達が危惧しているところに丁度通信が入る。
『待たせたな。アーガマの出迎えはティターンズがしてくれたみたいだぜ。おかげであっちは今混戦状態だ』
 グレッチ艦長が溜息混じりに言う。
『交渉は?』
 フジ中尉が問う。
『さあ。今んとこ何とも言えねえわな。とにかく撤収するアーガマと代わりばんこで俺達が壁になる。すぐ出れる様にしとけよ』
『『「了解」』』
 敵がティターンズだけなら良いが、最悪の場合アクシズとも交戦しなければならない。スクワイヤ少尉は気を引き締めた。

 アイリッシュ級が敵艦を捉えたとの報告が入る。既に砲撃を開始した様だ。
『み…皆さん!聞こえますか!』
 珍しく少し声を張ったのはグレコ軍曹だった。それでも人並みの声量しかない。
「なんです?」
『あ、少尉!アーガマから戦闘宙域を抜けたとの報告がありました。一部の敵をこちらが引き付けたのでどうにか…。交渉は決裂した模様』
『それはそれは。我々も出るので?』
 フジ中尉も通信に応答する。
『お願いします。ムサイ改が2隻、加えてMSも多数…』
『それだけ判れば十分だ。2人とも、行くか』
 話を切り上げたのはワーウィック大尉だった。ほぼ同時に前方カタパルトハッチが開く。少尉達は直ぐにアイリッシュ級前方へと展開を開始した。
0822◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:46:50.66ID:vuolscyX0
 戦火の行き交う宙域を、3機は縫うように進んだ。ムサイ改を背後にして、数機のハイザック、通常仕様のガルバルディβと共に見慣れない機体も見える。
『あの黒い機体…データにはありません』
 特段慌てた様子は無いものの、フジ中尉が口を開いた。
「新型ですかね?変な鶏冠!」
 2機ほど確認出来たその黒い機体は、頭部の突起を始めとして各部に黄色の配色が見える。シルエットもいささか異形である。専用のライフルを携えているようだ。
『全く、次から次へと…。戦力は見誤るなよ!鶏冠付きは後回しにして、叩きやすいところから叩く!』
『「了解」』
 ワーウィック大尉の指示を受け、各機は速度を上げた。
「まずは…1匹」
 迎撃するハイザックのマシンガンを躱しながら放ったマンドラゴラのビームライフルが敵の腹部に直撃、機体は爆散した。その下から上がってくる様にして別のハイザックが迫る。
 そちらを捕捉した時、別方向からのガルバルディの射線も少尉の方を向いた。
「数が多い!」
『慌てるな。新型はさておき、他の連中よりはこちらの方が機体性能は勝っている』
 そう言いながらフジ中尉のネモは、少尉を狙ったガルバルディの頭部を撃ち抜く。しかし、更に先程の新型の1機がネモに急接近していた。
『流石に新型は動きが良いな…』
 迎撃するネモが抜きざまに振りかぶったビームサーベルを、敵の新型はステップする様に躱しつつ中尉の背後を取る。
『ちぃ…!』
 至近距離でのライフルを受けそうになるも、中尉はその銃口をマニピュレータで掴み強引に逸した。しかし敵は更にサーベルを抜く。
「このッ!」
 あわやというところで少尉のマンドラゴラが追いつき鶏冠付きを蹴り飛ばした。制御を失った機体を尻目に、今度はもう1機の鶏冠付きがハイザックと共に威嚇射撃を繰り出してくる。
『流石にきりが無いな…!』
 別のガルバルディをナギナタで斬り捨てながら大尉がこぼす。併せて3機ほど落としたにも関わらず尚敵の勢いは衰えない。MS部隊に加えて敵艦の砲撃も止む気配はなさそうだった。
0823◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:47:43.98ID:vuolscyX0
『後どれ位だ!?』
 珍しくワーウィック大尉が声を荒げる。月面では鬼神の如き働きをみせた大尉だったが、上下の概念がない宙域で近接戦闘を継続するのは流石に消耗するらしかった。加えて、後続から別のムサイ改もMSを発進させているのが見える。
『増援含め…ハイザック4機、ガルバルディβ3機。新型が2機です』
 冷静に見えるフジ中尉だが、恐らく彼も焦り始めているだろう。そうこう言う間にも敵の砲撃は激しさを増し、初めは攻勢にあった少尉達も次第に防戦一方になっていく。
「なんだって敵は私達にこんな戦力を…!?」
 シールドで敵のライフルを弾きながら少尉も狼狽えた。
『どうだろうな!本来はアーガマを潰したかったのかもしれんが…』
 やり取りもそこそこに、再び単身敵陣へ走った大尉は、阻むハイザックを頭から真っ二つに断った。出遅れて迎撃しようとする周囲の敵を残る2人で牽制する。
 大尉の駆る百式改はバーニアの青い軌跡を曳きながら敵の最中を斬り抜ける。疲れをみせた大尉の言葉とは裏腹に、1機、また1機と落とす中でその動きは研ぎ澄まされていく様だった。
 敵を翻弄しつつも無駄の少ない所作には感嘆を禁じ得ない。その彼の後ろに、かつて背中を預けあったというアトリエ大尉の影が浮かんだ。
「そこは…私の席なんだから」
 影を打ち消す様にして、少尉はマンドラゴラと共に大尉の後へ続く。
「だからさァ…邪魔しないで…ッ!」
 敵の新型が行く手を遮ったが、マンドラゴラは加速して突き進む。敵が動揺した一瞬にギリギリで身を捩ると、回転しながら擦れ違いざまに腹から両断した。勢いそのまま更に敵中深く潜り込んでいく。
0824◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:48:24.28ID:vuolscyX0
『大尉!いくらなんでもこのままでは!』
『ちぃ…!』
 流石に被弾も避けられず、各機動きが鈍くなってくる。マンドラゴラはシールドを失い、百式のナギナタも明らかに出力が落ちているのが見て取れた。
 支援に回っている中尉のネモでさえライフルの残弾が尽き、近接戦闘を余儀なくされている。
 戦いが尚も続きいよいよという頃、敵の動きが変わった。各機適当なところで砲撃を切り上げると、そのまま撤退し始める。
『なんだ…敵が引いていく』
「はぁ…はぁ…追撃…しますか?」
 驚いた様子の中尉と同じく、少尉も状況が読めない。
『いや、よそう。これは…』
 撤退していく敵部隊の進路の先にはアクシズの大きな影があった。
『…まさか』
『ああ、そのまさかかもしれんな』
 2人は何かを察した様である。
「どのまさかです?」
『ティターンズとアクシズが手を組んだのかもしれん。ティターンズを残党が受け入れたのか…』
 確かにティターンズ艦隊はアクシズの方向へと退いていく様に見える。出迎える様にして現れたのは見慣れないMS群だった。
「あれは…」
『ガザか…?作業用でも数を集めて運用すればどうにかといったところか。残党なりによくやるようだな』
 大尉がガザと呼んだ桃色の機体が大量に群れる様子は、いささか不気味でもあった。
『これはアーガマも逃げ帰る訳だ。流石にこの物量で追い立てられれば無事では済みません』
『そうなる前に我々も帰れということだろう。撤退するぞ』
「エゥーゴと交渉決裂して…ティターンズとは組んだってことですか…?」
 スクワイヤ少尉は2人に割って入るように言った。フジ中尉から聞いた理屈はわかるが、実際に残党と残党狩りが手を結ぶなどということがあっていいのか。
『…信念などないのかもしれんな』
 思いにふけるようにしてワーウィック大尉が呟く。
『皆さん!戻るなら今しかありません!ここで退かないとアクシズが来ます』
 グレコ軍曹からの通信だった。敵MSを寄せ付けなかったとはいえ、アイリッシュ級も敵の砲撃を受けて少なからぬ損害を被っている様だ。満身創痍のMS部隊は母艦へと帰還する。
0825◆tyrQWQQxgU 2020/06/07(日) 13:49:05.10ID:vuolscyX0
 着艦後スクワイヤ少尉がコックピットを出てヘルメットを脱ぐと、案の定艦内は騒然としていた。
「やはりエゥーゴは勢力争いから取り残された様だ」
 一足先に機体を降りていたらしいワーウィック大尉が出迎える。整備スペースのレールを掴み、少尉も機体から離れた。
「もしそうだとして、どうするんでしょうね。今までみたいに散発的な攻撃を繰り返したって埒が明かないでしょうし」
「いよいよ板挟み…連邦もジオンも敵だなんて信じられませんがね」
 呆れたようにそう言ったのはフジ中尉だった。彼もふわりと足場へ着地すると、そのままレール伝手にこちらへやってくる。
「エゥーゴも不沈船と言うわけではないからな。このままどてっぱらに穴でも開けられようものなら…皆宇宙で溺れることになる」
 大尉の表情からは何も読み取れない。
「大尉は、ジオンとも戦えるんですか?」
 ワーウィック大尉の胸のうちがどうしても気になり、少尉は恐る恐る聞いた。
「…亡者とは戦うさ。信じられるのは自らの信念を固く持った…今を生きる人々だけだ」
 そういうと、大尉は少しだけ微笑んだ。
 彼の言葉に少尉は、地球圏の様々な意志が渦巻くこの宇宙で、やっと見つけた自分の戦う意義だけは離すまいと誓った。

35話 信念
0827◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:01:11.68ID:A9l4MSXN0
>>826
ありがとうございます!

また溜まってきてるので少しずつ投下します!
0828◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:07:14.95ID:A9l4MSXN0
 フジ中尉はブリッジへと向かっていた。
「どうかしたんですか?」
 自室からひょっこり顔を出したスクワイア少尉が歩く先に見える。
「ああ。今後の作戦について進言が欲しいと艦長から言われていてな」
「なんですかそれ、私そんなこと一言も言われなかったんですけど」
 少し不服そうに少尉が言う。フジ中尉は鼻で笑ったまま彼女の前を通り過ぎ、足を止めずに歩いた。
「ちょっと!…私も行きます」
 後ろでバタバタするのが聞こえたあと、スクワイア少尉も付いてきている様だった。

 ブリッジに到着すると、そこにはワーウィック大尉と話し込むグレッチ艦長の姿があった。
「おお、来たか2人とも」
「2人ともって、私何も聞かされてなかったんですけど」
 いつも通り艦長に少尉が噛み付いている。
「それで…何か進展は?」
「どうもアクシズはゼダンの門を目指しているらしい。エゥーゴ主力はそっちに気を取られているな」
 フジ中尉の問いに応えたのはワーウィック大尉だった。
「こないだの動きからして、ティターンズとアクシズは手を組んだとみえる」
 少尉をなだめ終わったのか、艦長が髭をいじりながら言う。
「じゃあ私達は主力と一緒に奴らを追うんですか?それともまた留守番?」
 やや不機嫌な少尉が腰に手を当て艦長を見る。
「どうだかねぇ。流石に留守番ってこたぁ無いだろうが、ロングホーン大佐も決め兼ねてる。アンマンにしろグラナダにしろ、相変わらず狙われてるからな…中尉は何か考えたか?」
「そうですね…」
 中尉は少し間をおいた。考えはある。
「コンペイトウ…旧ソロモンを叩くというのはどうです?」
 言った中尉に同意する様にワーウィック大尉が頷く。少尉はピンときていない様子だ。
0829◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:07:42.14ID:A9l4MSXN0
「…1年戦争時、連邦はソロモンを叩いた後にア・バオア・クー…現ゼダンの門を決戦の地に選びました。グラナダを叩く選択肢も残しながらです。
 今はむしろその逆…我々が駐屯出来るのはグラナダを残してコンペイトウもゼダンの門もティターンズの拠点と化していますよね?」
 いつもの様にスラスラと中尉が述べると、ワーウィック大尉がその後を引き継いぐ。
「その通りだ。ここでゼダンの門を叩きたい主力を掩護する意味でもコンペイトウ攻略は正しい判断だよ。上手くすれば挟撃する形でやつらを叩ける。…どうなんです?艦長」
 ワーウィック大尉がグレッチ艦長を見上げると、釣られて皆艦長の方へ視線を移した。
「お前らがそう言っても、上層部がなんていうかはわからんさね。だがまぁ、選択肢としては有力だな」
 帽子のつばをつまみながら艦長が言う。
「とはいえ…第一に、敵に対して俺達の艦隊戦力じゃ拠点1つ潰すのもひと苦労だぜ。殆ど総力戦だ」
 そういって深く椅子へ座り直す艦長。丁度その時アンマンの基地司令から通信が入る。
『…少しいいかね?』
 ロングホーン大佐からだった。
「はい。…お前ら、来てもらったばっかりで悪いが、ちと外してくれ。作戦案は俺から大佐にちゃんと伝えとくからよ」
 艦長に手であしらわれた中尉達はそそくさとブリッジを後にした。
0830◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:08:16.49ID:A9l4MSXN0
「結局どうなるんでしょーね…」
 ブリッジのドアが閉まるなりスクワイヤ少尉が腕を組みながら言った。
「わからんな、こればかりは」
 そういってワーウィック大尉が歩き出すと、中尉達もその後に続く。
「…ああは言いましたが、私としてはこの機会にジオンを叩きたいんですよ本当は」
 中尉は思わず口に出した。決してワーウィック大尉に当てつけるつもりでは無かったが、そう取られても仕方がないと気付いたときにはもう遅かった。
「フジ中尉、そんなに大尉がジオン出身なのが気に入らないんですか?」
 苛立ちを隠さずスクワイヤ少尉が詰め寄った。彼女はかなり大尉に肩入れしている。
「すまない。そういうつもりではないんだが…。大尉、あなたもそうでしょう?結局こないだは残党とは接触出来ずじまいでしたし」
 少尉に睨まれながら大尉へと話を振った。
「…いや、いいんだ。今更連中と話が出来たところで何にもなりはしないさ。バジーナ大尉が駄目だったのなら余計に。それに、さっきの中尉の策は私の考えていたものと同じだったしな」
 変わらず冷静な大尉の横顔には、何処か諦めのようなものも感じられた。

「そういえば、なんでバジーナ大尉がエゥーゴの後継者なんです?エースって言ってもパイロットのひとりですよね」
 中尉を睨むのに飽きたスクワイヤ少尉が聞いた。本当に何も知らないらしい。
「彼の正体は旧ジオンの赤い彗星との噂だがな。ただのパイロットではないよあの男は」
 腕を組みながら、感慨深そうに大尉が言った。
「え!赤い彗星って、ホワイトベース隊を追っかけ回してたっていうあの??生きてたんですか」
 目を丸くした少尉があからさまに驚く。
「よく知ってるな少尉。珍しく話がわかるじゃないか」
 思わず中尉は鼻で笑った。彼女は何も知らないようで、たまにピンポイントでものを知っている事がある。それがおかしかった。
「知ってますよそのくらい!…でも仮に赤い彗星だとして、なんでエゥーゴの代表になるんです?」
 そんな事を話している内に随分歩いていた。その時艦内に放送が入った。
『クルーの諸君、我々の次の作戦が決まったぞ?至急ブリッジへ集まれ』
 グレッチ艦長の声だった。
0831◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:09:02.60ID:A9l4MSXN0
「まったく…歩き疲れたんですけど」
 再びブリッジに着くなり少尉がボソッと愚痴を漏らす。
「仕方ねぇだろ!大佐が急に通信してくるのが悪いんだ!文句ならあっちに言えや!」
 いつもの調子で艦長と言い合いを始めた。この辺のやり取りは大尉の着任前と何ら変わりない。
「くそ…まあいい!集まったな?」
 そういって艦長はブリッジを見渡す。
「フジ中尉からの進言もあり、諸々の情勢もあり…。我々はコンペイトウを叩くことになった!まーた主力と違う作戦かと思うかもしれんが、今回はちょっと違うぞ…?とりあえずこれを見ろ」
 そういって艦長が手を挙げると、グレコ軍曹が慌ててスクリーンを映す。そこにはアンマン・グラナダから伸びるコンペイトウへの進路、そして別艦隊の進路。それらが別々の目的地からゼダンの門へと合流する様子が示されていた。
「この図の通りだ。エゥーゴは最終決戦をゼダンの門に定めた」
 艦長はその場に立ち上がると、鼻から大きく息を吐いた。
「決戦は宇宙ですか」
 ワーウィック大尉がスクリーンに注視したままこぼす。
「実際にどうなるかまではわからん。キリマンジャロ攻略も実行段階にきているが…。ただ、ティターンズも手をこまねいているわけではない。
 地上の連邦議会も実質連中が抑えたままであるし、グリプスでもなにやらやっている様子だ。我々の作戦はその辺の動きを鈍らせる目的も兼ねている」
 以前とは違い、随分と艦長も情勢に詳しくなったものだ。立場がそうさせる部分も大いにあるのだろうが、一度切った啖呵もある。あれから全力で戦っているのがわかった。
「出来れば今度の議会でティターンズがまたおかしな法案をでっち上げるより早く、戦力的にぶちのめしておきたい。地上も宇宙もどっちもだ!その片方を任されたんだぜ?もう裏方とは呼ばせねぇわな」
 グレッチ艦長も閑古鳥なりに思うところはあったのだろう。今は気概に溢れている。
「それで、具体的にはどう動くんですか」
 中尉は一応聞いてみた。
「エゥーゴは大きく3つの艦隊に分散する。1つは地上のカラバと連携してキリマンジャロを叩く部隊。主にアーガマのパイロット達だな」
 艦長は椅子に座り直し、ぐるりと椅子を回してスクリーンを背にした。
「そっちにバジーナ大尉も?」
 さっき話したばかりの話題だからか、珍しく少尉が口を挟む。
「ああ、ジオンは一旦放ったらかしだ。どうせ交渉も出来んしな。そっち側の牽制はまた別の部隊だ…例のアトリエ大尉達がそれをやる」
 艦長の口からその名を聞いて、彼女の目が少しギラついた。
「そして、残る部隊がコンペイトウへ向かう訳だな…」
 後ろからの声。皆が振り向くと、そこにいたのはロングホーン大佐だった。
「諸君…」
「警戒し、守る戦いはここまでだ。これからは打って出る。叩き、追い立て、息の根を止める」
 腕を組んだ大佐が、珍しくその口元に笑みを浮かべていた。

36話 打って出る
0832◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:09:38.45ID:A9l4MSXN0
 ロングホーン大佐はアイリッシュの面々の視線を受け止めながら話し始めた。
「今回の作戦からは攻めに徹する。このまま状況が膠着してしまえば我々は勝てん」
 カツカツと靴を鳴らしながら艦長の側へ歩み寄る。
「しかし、アンマンやグラナダの戦力はどうなるので?」
 フジ中尉だった。
「その点なら心配は及ばん。我々のスポンサーがうまくやるさ」
「…なるほど」
 察しが良いようだ。今エゥーゴが生産拠点のグラナダやアンマンを失う事で最も困るのはアナハイムである。
 この戦いの構図がなければ連中の商売もうまくいかなくなる。ましてジオン残党が台頭してくるとなると、今のままでは彼らも計画が狂うのだろう。死の商人とはよく言ったものだ。
「その関係もあってエゥーゴは今回艦隊戦力を増強して作戦に挑む。諸君は私の元でコンペイトウ攻略作戦において旗艦として働いてもらう」
 この作戦に失敗すればエゥーゴはここまでだ。大佐自身ももう基地に籠もっている余裕はない。
「諸君が思う以上に状況は切迫している。私が指揮を取り、現場の動きをグレッチ・ファルコン少佐が仕切る。これまでよりもダイレクトな指揮系統になったと考えてくれたまえ」
 そのまま詳しい予定を各員へ伝達すると、場を解散し持ち場へと戻らせた。
0833◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:10:04.84ID:A9l4MSXN0
「…まさか大佐がこの艦にお越しになるとはついぞ思ってもみませんでしたわ」
 頬を掻きながらグレッチ艦長が苦笑いしている。
「私自身もだ。もうデスクでふんぞり返っているだけでは居られまい」
 出港準備で慌ただしくなる周囲の様子をブリッジの窓から眺める。これまでは基地の方からこれを眺めていたものだ。
「この間の捕虜の件な…。久しぶりに痛みを感じて、つくづく私は鈍っていたのだと文字通り痛感させられたよ」
 そういいながら大佐は腕を擦った。もう痛みは引いたが、もっと精神的な何かが疼いたままだ。
「お怪我と捕虜と、何か関係が?」
「いや、気にするな。こっちの話だ」
 訝しがる艦長をよそに、大佐は思わず笑みが溢れた。自らの気が充実しているのを感じている。
「それはそうと…。パイロット達の様子はどうかね?コロニー落としの一件といい、アーガマの連中を退かせる時にも随分と働いてくれたが」
「ええ、よくやっとります。フジ中尉は相変わらず頭が切れますし、スクワイヤ少尉も最近元気ですしな。何よりワーウィック大尉がしっかりまとめてくれていますよ」
 彼らの働きは目を見張るものがあった。ニューギニア攻略でも戦功を立てた大尉はともかく、他2人を月の哨戒などに充てていた自らの見る目のなさに辟易するほどだ。
「経歴を見たときはいささか心配だったがな…。ジオン出身の隊長と、エゥーゴの癖にジオン嫌いの参謀。それに何よりあの娘は…」
「まあいいじゃねぇですか。あいつら自身の問題です。何だかんだハートも強いですよ、連中は」
 元々問題を抱えた人材だからこそ彼女を仕舞い込んでいたところはあった。まさかガンダムに適正があるとは思いもよらなかったが、彼女がパイロットというのも面白い話だった。
「これからの情勢如何では彼女も肩身が狭くなるだろう。しっかり支えてやれ」
「はい。この事を知っているのは私だけですからな。彼女自身、私が知っているという事は恐らく知りませんがね」
 それからも艦長と共に港を眺めながらいくつか言葉を交わした。
0834◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:10:53.17ID:A9l4MSXN0
 暫しの休息も終わり、他の艦と作戦の会議を行ったりしているとまたたく間に時間は過ぎた。通信士のグレコ軍曹に支度をさせると、艦内へ通告を行った。
「聞こえるかな諸君。これより出港だ」
 一度言葉を切り、心なしか興奮している自分を抑えた。こんな形で基地を出るのはいつ振りか。
「…私は久しく現場を離れていたが、諸君の働きがあれば死ぬことはないと思っている次第だ。身勝手な理屈に聞こえるだろう。そう思ってもらっても構わん。
 ただ、これは信頼の証だと受け取ってもらえると私は嬉しい。諸君の力を持ってすればこの作戦、必ずや成功するだろう。私の命は皆に預ける。その代わり、私が諸君の未来を預かろう。…励んでくれたまえ」
 通信を切った。振り返ると、艦長がぱちぱちと手を叩いている。
「いやはや、お上手ですな大佐」
「君のおべっかが心強く感じたのは初めてかもしれんな」
 恥ずかしそうに頭を掻く艦長。案外、この艦で1番変わったのは艦長かもしれない。少し前なら彼の評価はただの腰の低い親父だったろう。
「これから苦労も余計にあるだろうが、よろしく頼む」
「いやいや、大佐がおられればクルーにももう少しまともな指示が出せますよ。私も安心できます」

 港のゲートが開き、月面と宇宙のコントラストが水平線を描くのが見えた。海底から水面を目指す魚の様に、艦はゆっくりとその腹を岩場から離していく。
 宇宙は膨張を続けているという説もあるが、ならば我々はいつまでたってもこの海を泳ぎ続けるということだろうか。終わりのない潜水を続けながら、その片隅で喧嘩をするくらいしか能が無いちっぽけな魚だ。
 できることならば、少し先の未来が見てみたい。その思いをこの海が汲み取ってニュータイプなる人種が生まれたのなら、それも1つの道理だ。我々には自らを変える力がある。適応し、進化していくのだ。
 星が点々と瞬く宇宙に艦を進めながら、ロングホーン大佐は瞼を閉じて自分の感傷に別れを告げた。そうして再び目を開けた大佐には、もう作戦の事しか頭に無かった。襟を正し、今後自室となる執務室へと向かった。

37話 適応
0835◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:11:26.30ID:A9l4MSXN0
 ソニック大尉は自らの乗機の前で腕を組み物思いに耽っていた。
「…ガルバルディが恋しいですかな」
 そう言いながら大尉の方へ歩いてくるレインメーカー少佐が目に入る。
「いえ、確かに思い入れはありましたが。この機体は更に上を行く機体ですよ」
 原型を留めなかったガルバルディ隊はその後、試験データを一部取り直したところで全機解体となった。死傷者が出た試験部隊もまた、再編成がなされたばかりである。
 ソニック大尉は新たな機体を見上げた。ゼク・アインと呼ばれるその機体は、かつてのジオン公国において基礎設計がなされた点においてはガルバルディに通ずるものがある。
「ペズン駐留の教導団がテスト運用している機体を回してもらったと聞きましたが、信用出来るんでしょうかね」
 髭に手を添えながら訝しむ少佐だったが、この機体の完成度はそれを払拭するだけの説得力があった。
「私はどうも細身の機体が苦手でして。こういうガッシリとした機体にこそ安心感を覚えます。全重を支える骨格と、それを覆う強固な装甲。ムーバブルフレームを発案した開発者は人体への敬意を忘れていない様で感心致します」
「そうか…」
 やや呆れ気味に少佐が笑う。そろそろ老齢になろうという彼だが、いささか筋力が足りていない様で心配になる。
「少佐、もしお時間がある様でしたら一緒にトレーニングでも?」
「いや、私は野暮用があるのでね。それに大尉のトレーニングについていける自信もありませんでな」
 そういってレインメーカー少佐はそそくさとその場を後にした。ソニック大尉は仁王立ちで後ろ姿を見送った。
0836◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:11:53.97ID:A9l4MSXN0
 機体のチェックをひと通り終えた大尉は、いつもの様に病室へと向かった。
「あ、ラム!」
 退屈そうにベッドで雑誌を読んでいたオーブ中尉が飛び起きた。
「おっとと…」
 ベッドから立ち上がった彼女だったが、ややバランスを崩してベッドの枠を掴んだ。
「あまりはしゃぐな。まだ万全じゃないだろう」
「もう大丈夫だって医者も言ってるわよ。ぼちぼち復帰ね」
 そう言って笑う中尉だったが、ソニック大尉は複雑な心境だった。
「中尉はもう戦わなくていい」
「あたしが片腕じゃ使い物にならないって言うんでしょ」
「…そうだ」
 その場に立ち尽くしてムッとしている中尉を尻目に、近くにあった椅子へ腰掛けて俯いた。
「フリードも失った。俺は…これ以上仲間が傷付いていくのを見たくない」
「何メソメソしてんのよ。こうしてる間にも大勢が戦ってるわ。戦ってる分はまだいいわよ…戦う術がない人々もそれに巻き込まれてる」
 中尉の言う通りだった。しかし、彼女もまた戦う術を失った1人ではないのか。
「…あたし、裏方で出来ることやろうかと思う。別にMSに乗るだけが戦いって訳じゃないわ」
 静かな彼女の声を聞いて、大尉はゆっくり顔を上げた。
「それがいい。」
 いつもより聞き分けの良い中尉に若干の違和感がありつつも、しばらく話してからソニック大尉は病室を後にした。
0837◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:12:40.19ID:A9l4MSXN0
「これからのことは聞いた?」
 通路で向かいから歩いてきたのはウィード少佐だった。元より軍人にしては比較的細身だった彼女だが、コンペイトウに来てからは前にも増してやつれて見えた。
「聞いたよ。オーブ中尉とも一旦お別れだな」
 そういって大尉は腕を組み、壁にもたれた。
「彼女の為よ。人員の補充はあるけど、新しい部隊長はラムで正解よ」
「俺が隊長か?柄じゃない」
 思わず大尉は溜息をついた。抗うつもりも無かったが、とはいえ納得したわけでもなかった。
「…もうフリードは居ないんだから」
 小さく零したウィード少佐の目に、光は失せていた。
「わかってる。俺なりにしっかりやるさ。まあ…新入共を戦える身体に鍛えるのは俺にしか出来んからな」
 そういって笑ってみせた大尉だったが、彼女は力なく笑うだけだった。
 無理もない。先日のコロニー落としの一件で、この部隊は艦ごと左遷が決まったのだった。オーブ中尉はゼダンの門でリハビリを兼ねて別の部署へ、そしてアレキサンドリアはもうじきコンペイトウへ正式に異動することになっている。
 シロッコ大佐麾下の技術試験部隊としての役目もそれに伴い終了し、文字通りお払い箱にされた様なものだった。疑いを少しでも晴らす為とはいえ、これではトカゲの尻尾切りではないか。
「しかし、ジオンの残党共が動き出してるんだろう?いくらなんでも俺達をコンペイトウなんかに回してる余裕があるのか?」
「上層部がうまく立ち回ってる。一時的に手を組んだなんて話も聞いたけど…信じられないわね正直」
 ティターンズは一体何処へ向かっているのか。それを良しとするジオンもジオンである。もう何が何だかわからなくなりそうだった。
 そのまますれ違う様にして背を向けたウィード少佐を見ながら、ソニック大尉は拳を握りしめた。
「…エゥーゴ…ただでは済まさん」
 小さく独りでこぼすと、彼もまた歩き始めた。
0838◆tyrQWQQxgU 2020/06/10(水) 15:13:31.28ID:A9l4MSXN0
 トレーニングの為自室へと向かう最中、レインメーカー少佐が若い男と話しているのが目に入ったので声を掛ける。
「少佐、彼が…」
「そうですよ。新しく配属になった…」
 言いかけた少佐を遮るように若い男は前に出て姿勢を正した。短く切り揃えられた赤髪と、何処か見たことのある目元をした男だった。
「ステム・オーブ少尉です。まだ配属には1日早いですが、ご挨拶だけでも」
 そういってにこやかに笑った彼だったが、どうにも目が笑っていない様に思えた。
「む…?」
 首をひねったソニック大尉に気付いてか、彼はまた口を開く。
「リディル・オーブは私の姉です。まさか同じ隊に入れ違いで配属になるとは思ってもみませんでしたが」
「おお、どおりで。目元が姉上とそっくりだなあ。軍属とは聞いていたが、2人揃ってティターンズのMSパイロットだったとは。…彼女には会えたか?」
「ええ。…あんな姉でも、覚悟を決めて戦っていたはずです。私も同志である大尉に恨み辛みをいう気はありませんよ」
 ステム少尉は軽く息を吐いて腰に手を当てた。
「まあ、これからは彼女の分も弟君が働くということだ。ビシバシ鍛えてやってくれますかな?」
 レインメーカー少佐が人差し指を立てながら言った。
「…では、私はこれで。エゥーゴを叩きのめすには時間が惜しいのです」
 そう言うと、少尉はスタスタと去っていった。
「いささか肩に力が入っている様だが…まあ無理もないか」
「マッサージでもしてほぐしてやってください。大尉はそういうの得意でしょうからなぁ」
 ステム少尉の背を見つめながら、2人はその場に立ち尽くしていた。

38話 トカゲの尻尾切り
0840通常の名無しさんの3倍2020/06/13(土) 08:29:18.00ID:P68Y1z0m0
お疲れ様です!
ちょっと立て込んでたので、2弾まとめて読ませてもらいました。
アクシズの地球圏接近を素直に好機と見るスクワイヤ...この人、戦闘時はともかく普段は先のことあまり考えてないんじゃ?w
まさか資源衛星1玉の勢力でダカール制圧までやってのけるとは思いませんよね(持続できなくて一月ちょいで撤退したけど)

大尉はハマーンのこと知らないんですね。
まぁぶっちゃけ日本国民も皇族全体を網羅してる人はそういないでしょうし、お付きの家系となれば尚更です。
何故クワトロがって、ロングホーンは内心参謀本部から疎まれてそうですし
ブライトは政治家って柄じゃないですからね(シャアも大概だろとか言わないw)

仮に艦長の推察がフラグだとすると、今度はアクシズに抜けていっちゃうキャラが出るんですかね?
「ぐ、グレコ軍曹!何を......ぐわぁっ!!」(多分こうはならない)
アーガマと代わりばんこって表現なんか好きです、やっぱチーム戦ですね。
ムサイ改キターーッ!! こやつのエンジン左右の羽がアレキサンドリアやエンドラに受け継がれ
最終的にムサカの、そしてクラップやラー・カイラムの特徴的放熱板になるのはロマンですねグヘヘ(性癖)。
そこから出てくるのはハイザックと、モブ敵機に堕ちたガルバルとぉ......バーザム!!
変な鶏冠呼ばわりされつつも動きがいい辺り、TV本編より活躍してくれるのでしょうか。ちょっと期待?(何故か疑問系)

少尉、もはやここにいないアトリエに嫉妬するw いいぞいいぞ!
疲れながらも動きがキレキレになっていくって分かりやすい死亡フラグですから
彼女には今後ともワーウィックをフォローしてほしいですね。
ガザCは不気味...目元はエゥーゴでお馴染みリック・ディアスと同じですし、ピンクの軍団とかキモっ!って感じでしょうか?w
本編だとアーガマ接触時スフィンクスみたいにMA形態で見張りをやってたのが印象的でした

おっ、ついにゼダンの門ですか。
あの壮大な破壊行為はジオン時代から旧式だったチベの改良モデルと
アーガマとの共通項も見られるアナハイム製輸送艦が一緒くたに潰されてるのが印象的でした。
わらわらと出ていく灰色のサラミスも、らしくなくて見ものでしたね!(熱いティターンズ叩き)
会話パートを多く入れることで、この辺の情勢はTVシリーズより見やすくなってていいと思います

そして今度はコンペイトウ、爺たちのアレキサンドリアが今度は出待ちと。
キリマンジャロ、ゼダンの門、アンマン、グラナダ...世界観の拡がりを感じる一方でコロニーレーザーの話が来ないのが何とも不気味です。
アトリエ大尉はまた(この時点では)マイナーな戦線に投入されるんですね、ご武運を。
月面都市はアナハイム側で上手くやる...ウォンさんが乗ってたような武装MWで部隊編成でしょうか?w
大佐乗艦キターーッ!! 戦場の空気云々も大概な死亡フラグ(ジュガン指令)ですが、気持ち的には生き残ってほしいです。
とりあえずスクワイヤは、これまで人殺しエキスパートとしてのニュータイプには見られていなかった、と。
ロングホーン大佐も中々のロマンチストですね

筋肉式ガルバルディγに代わってゼク・アインだと?!
ピッタリだと思う反面、万能機のコンセプトは先日撃墜されたβを思い出して少し不吉に思います。
しかしつくづくジオン系MSを扱う反ジオン組織ですね、ティターンズは(苦笑)。
オーブ中尉は裏方、良い兆し...なのか?
「騙されんぞ(黄色いレインコートのクソガキ並感)」

なんだぁ、新入りは男なのか(期待して損したような顔)。
彼は何に乗るのか(ニュンペーにゼク・アインだから青系でしょうか)、パイロットとしてどんな適性があるのか
一先ず力み過ぎて即墜ちするなよと!

続き楽しみにしています!
0841◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 17:21:57.71ID:5skNxF910
>>839
>>840
いつもありがとうございます!

まあ中尉にツッコまれてる通り、スクワイヤは戦略的な視点は持ち合わせていません。笑
普通に考えればティターンズの立ち位置は歪ですしね…

ワーウィックは長いこと地球に居ましたので、恐らくアステロイドでのいざこざには疎かったのだと思います。
思想的にもネオ・ジオンは嫌いでしょうし…
あとダカール演説前なので一般兵はシャア=キャスバルだと知りません。クワトロ=シャアまでは普通にバレてるでしょうけど笑

クルー達の会話は基本的には色んな伏線になる様考えています。
この章での伏線とは限りませんが…!
個人的にはバーザム好きなんですよね…笑
早くMG出ないかなと祈っています笑

ワーウィックやスクワイヤはNT的な進化はしていないので、技量で魅せてほしいなと。
ガザCがあの色で群れてると思うと…ゾッとしませんか?笑
虫みたいです…笑

戦いの流れが終盤に向かっているので色んな拠点が出てきます。
勿論コロニーレーザーも出てきますよ!お楽しみに…
0083でもそうでしたが、戦わずとも戦局を動かしているのがアナハイムかなと。
対立構図を維持する様な駆け引きをやってくれることでしょう。

ロングホーン大佐はいつ引っ張り出すか悩んでたのでようやくです。笑
ここから彼も物語にもう少し深めに関わっていきます。

ゼクアインもかっこいいですよねー…笑
ムーバブルフレームが優れている設定もありますし、ドレイク大尉の意志を引き継ぎつつも彼らしいかなと。
オーブ中尉のことは弟共々見守っていてください。笑
0842◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:21:31.61ID:5skNxF910
 スクワイヤ少尉は自室から外を眺めていた。機体の整備は万全で、後は哨戒中の部隊の報告待ちである。
「…月があんな遠く。こんなとこまで来ちゃった」
 小さくなった月を眺めながら、更に遠い惑星…地球へ想いを馳せた。彼女は地球のことをまるで知らない。生まれは地球だったのだが、物心付いた頃には宇宙にいたのだった。
 母とコロニーで暮らしながら、たまに帰ってくる父のお土産がいつも楽しみだった。

 父は地球で仕事をしていた。大きくなったら地球の美しさを見せてやりたいと、何度言われたかわからない。土の匂い、雑味のある空気…そのどれをとっても彼女には想像の及ばないものだったし、今もその感覚を知らない。
 そんな父とも久しく会っていない。彼女が軍に入ると言ったとき、最も反対したのは父だった。
 入隊の為に両親の経歴を知っり、父の仕事が地球連邦軍での仕事だと知ったのもその時のことだ。親の仕事を知らぬまま育ったこと自体、今にして思えば不自然だったのだが。
 軍人というのは勲章の付いた制服で華々しく凱旋するものだと思っていたが、彼女の父はそうではなかった。
 軍服姿を見たことは無かったし、いつもビジネスマンの様な出で立ちで帰宅していた為全く気付けなかった。母も、父が軍人であることを口にしたことはない。
 話はもつれ、半ば絶縁の様な形で家を飛び出し連邦へ身を寄せた。宿舎もあり生活には困らなかったが、結局思っていた様な劇的な変化に富んだ生活ではなかった。父の手回しだったのだろう。
 何故か丁重に扱われ、MSパイロットとしての適性を認められたにも関わらず任務に従事することもまともに無かった。退屈な生活から抜け出したい、あわよくば華々しく意味のある死を享受したかった彼女だが、そんなものには当然巡り会えぬまま。
 ティターンズの横暴が目に付くようになり軍内でもその賛否が議論される中、彼女はエゥーゴへと走った。退屈だったのだ。ただ、それだけだった。
 エゥーゴに来てからというもの、やることは山積みの組織ということもあり充実感があった。しかししばらくすると月の哨戒に回された。また元の様な生活に逆戻りである。
 この時にグレッチ艦長やフジ中尉とは出会った。フジ中尉は今よりだいぶとっつきにくい男だったが、グレッチ艦長は当時から何かと世話焼きだったのを覚えている。
0843◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:22:09.93ID:5skNxF910
「…入っていいか?」
 扉の向こうからワーウィック大尉の声がした。
「どうぞ!」
 何となくソワソワして、バタバタと彼を出迎えた。彼が着任してからというもの、クルー達の印象はガラリと変わった。頼り甲斐があったし、他の連中の様にやさぐれていなかった。しかし、何となく陰る瞬間があるのを彼女は時折目にしていた。
「落ち着かなくてな。ソロモンを攻めるなんて、昔の自分が知ったらなんて言うかわからん」
 入室した大尉がそう言って自嘲気味に笑う。フジ中尉との一件やアクシズの件もあり、やはり堪えている部分もあるだろう。彼に椅子を寄越し、スクワイヤ少尉はベッドに腰掛けた。
「そうですよねー。大尉って、何でエゥーゴに入ったんです?」
「んー…。そうだなぁ」
 火傷の後を軽く指でなぞりながら少し言葉を濁した。彼は言葉に困ると大体その仕草を見せる。
「言いたくないならいいんですけど」
「いや、ジオンにいた時の自分が情けなかっただけだ。そういう自分や、もっと情けないティターンズが許せなかったからかな、エゥーゴに来たのは」
 彼の言葉を聞きながらドリンクを冷蔵庫から取り出す。
「ジオンにはお友達とかいないんですか?」
「いない事はないが、随分と少なくなったよ。地球に親友がいるが、当分会えそうもない」
「地球かぁ」
 大尉にドリンクを手渡しながら、画像や映像でしか見たことのない地球を思い浮かべた。
「地球ってどんなところなんです?生まれた場所なのに記憶になくって」
「地球は…不思議な場所だよ。何かと振り回されるというか、コロニーの様に整然としちゃいない。人間の所有物というよりは、人間もその一部なんだなと思わせるような…。すまん、難しいな説明するのが」
 大尉が笑った。依然イメージは沸かないままだ。
0844◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:22:34.77ID:5skNxF910
「…大尉、もし良かったらですけど…」
「ん?何でも言ってくれ」
 彼からの眼差しが真摯で、思わず目を逸した。
「その…この戦いが落ち着いたら…なんていうか…一緒に地球に行きませんか?…あ!いや!一緒に暮らそうとかそういうんじゃなくって!ほら!行ってみたいなあ…っていうか…」
 しどろもどろになりながら尻すぼみになってしまった。
「…そうだな、行こうか。会いたい人が沢山いるしな」
「言ってた昔のお友達ですか?」
「それもそうだし、前の戦線で一緒に戦った連中が今も地球にいるからな。また会おうって約束はしてたし、良いタイミングになるかもしれん」
「あの…彼女さんとかそういう…」
「?…ああ、俺はそういうのはからきし…」
 言いかけたところで呼び出し音が鳴る。
「すみません」
「いや、気にするな」
 間の悪さに内心舌打ちしながら応答した。
0845◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:23:06.79ID:5skNxF910
「はーい」
「なんだその返事は!大佐だったらぶっ飛ばされてるぞ」
 グレッチ艦長だった。相変わらず空気の読めない親父だ。
「で?なんです?」
「お前…。いや、哨戒部隊が戻ったからよ。多分ゲイルちゃんが1番暇してるだろうから掛けてみた」
「失礼な。事実ですけど」
 少尉がぶすくれていると、ワーウィック大尉が割って入った。
「私も暇してますよ、艦長」
「あれ?なんでそこに大尉が?ま…まさか…」
 何故か艦長がわなわなしているのが通信越しにわかる。
「大尉!後で話は聞かせてもらうからな!一緒にブリッジに来い!い…いや!別々に来い!」
「なんでわざわざ別々に行くんです」
「ゲイルちゃんは黙ってろ!全く…最近色気ついてると思ったらそういうことか!」
 思わず顔が熱くなる。
「いやいや、艦長、多分何か思い違いを…」
「いーや!俺は言い訳は聞かんぞ!軍法会議ものだ!俺が審議して俺が判決も出してやるからな」
「さっき話聞かせろって…」
「うるせえ!」
 ワーウィック大尉の静止も聞かず、艦長が怒り狂っている。
「ええい、何でもいいからブリッジだ!作戦指示を出す!」
「「り…了解…」」
 あまりの勢いに圧倒されたまま通信は切れた。その可笑しさに、2人は一緒に笑い声を上げてしまった。
「はあ…。行こうか」
「はい!」
 やや呆れ気味の大尉に付いていく様にして、少尉もブリッジへと向かった。地球に行くならどの辺りが名所なのだろうかと、ぼんやり考えていた。

39話 地球
0846◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:24:06.15ID:5skNxF910
「何?エゥーゴだと?」
 執務室で報告を受けたウィード少佐は声を荒くした。正式にコンペイトウの部隊に組み込まれ、まだ公表されていない戦略兵器開発の支援などを準備するところであった。嫌なタイミングだ。
「それも、そこそこの規模でこちらに向かっているようですな。敵の哨戒部隊を追跡したところ、敵艦を数隻確認出来ました」
 口髭を触りながらレインメーカー少佐が言う。
「まだ他の将校たちは知らないのですか」
 身を乗り出したウィード少佐だったが、一度腰を落ち着かせながら言った。最近感情の起伏が激しい様に思う。
「ええ、私の個人的な情報です」
「個人的な情報…?」
 レインメーカー少佐はたまにそういうことを言う。まるで他に手勢があるかの様な言い方だが、未だ謎の多い男だ。
「この拠点に来てから、私も手を尽くしておりますよ。コンペイトウの哨戒部隊は私が抱き込んであります」
「何故そんなことを?」
 問うと、彼は唇を噛んだ。
「…汚名返上の為です。シロッコ大佐の疑いが晴れぬままではシロッコ麾下部隊の名が廃ります」
「…」
 何も言えぬウィード少佐は俯いたまま立ち上がった。レインメーカー少佐が裏で動いている間、私はただ拗ねていただけではないか。
「…単独作戦のご指示を。あくまでも威力偵察と言ったところですが…。ここで敵を足止めし、警戒させることで時間が稼げましょう。
 キリマンジャロの放棄とコンペイトウ陥落が重なるともなれば、如何にティターンズといえども盤石では無くなります。それだけは避けねば」
 レインメーカー少佐の言葉に、彼女は顔を上げた。キリマンジャロ基地の放棄については近々為されると聞いている。まだ現場の兵の多くは預かり知らぬことである。少しでも多くエゥーゴを道連れにして地上から宇宙へと戦線を移行したい考えだ。
 ジャブロー、ニューギニア、キリマンジャロ…。地上拠点を尽く手放すのには何か理由があるのか。ジオン残党との協力といい、今のティターンズの進み方は幾らか歪になりつつある。
「わかりました。…まだ連中にグリプスの件を知られる訳にはいかない。近付かれる前に出鼻を挫き、我々の戦力を友軍に知らしめる良い機会でもあります。…陰口など今のうちに好きなだけ叩かせておけばいい」
 そう伝えると、満足そうに彼は頭を下げた。退出していく姿を見送るでもなく、ウィード少佐はアレキサンドリアの乗員達に戦闘配置の指示を出した。裏切りの汚名はここで晴らす。
0847◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:25:05.53ID:5skNxF910
「出撃だな?準備はいつでもいいぞ!」
 執務室を出て格納庫へ向かう彼女と並んで歩くようにソニック大尉が後ろから現れた。
「ええ。ステムはどう?」
 アレキサンドリアには新たにオーブ中尉の弟が部隊に加わっていた。中尉は今頃ゼダンの門に着いた頃だろうか。
「多少自信家の様だが、腕は確かだ」
「リディルと一緒ね。センスがあるのよ。…今回は私も出る」
 今回の様な単艦行動だと、ドレイク大尉の穴を埋める為にウィード少佐自身も出る必要があった。連携自体は隊長であるソニック大尉に任せる。
「ニュンペーの調子はどうだ?データのフィードバックは済んだんだろ?」
「ガルバルディのデータのおかげで改修も進んだわ。パラス・アテネもいい機体に仕上がるでしょうね」
 改修を重ね、ニュンペーはデータ上殆どパラス・アテネと同じ機体性能と言ってよかった。特にγは優秀な近接戦闘データが取れたらしく、シロッコ大佐の専用機にも技術が転用されると聞いている。

「ステムはどの機体に?」
「私ならご心配なく」
 格納庫でステム・オーブ少尉が出迎えた。髪が短くなければもっと姉に似ているだろう。
「機体ごと転属を許されたのは幸いでした。おかげで最低限の訓練で馴染みましたから」
 そういって彼が見上げた先には、見覚えのある機体があった。
「これは…シロッコ大佐が関わっていた…」
「ええ。ガブスレイです。払い下げを貰ったばかりだったので、特別に大佐から許しを頂いてこちらに搬入しました」
 昆虫を思わせる独特なフォルム、そして可変機構を備えた構造は一般兵の扱える代物ではない。大佐が彼を目に掛けたのも納得出来る。そしてその彼を配属にしてくれたあたり、まだアレキサンドリアは見捨てられた訳ではないのだと安堵する気持ちも湧いた。
「連携は取れるのね?」
「はい。大尉にひと通り仕込まれましたからね」
「生意気言うな。まだまだその細腕では完璧には程遠い!」
 ソニック大尉の指導にも熱が入っている様だ。当のステム少尉はあまり堪えていない様子だが。
0848◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:25:39.34ID:5skNxF910
「よし…新しい編成で行くのは初めてだ。各員気を抜くなよ」
「「了解」」
 ソニック大尉の声を受けて、皆それぞれの乗機へと急ぐ。ニュンペーを除く2機はまだ実戦慣れしていない。ある程度のカバーが必要だろう。
 少佐は手慣れた動作で機体を動かす。ニュンペーに続いてゼク・アインが、そしてガブスレイが出撃準備に入る。
『選り取り見取りになりましたな!こないだまでガルバルディだらけでしたから…新鮮です』
 レインメーカー少佐がブリッジから通信を入れてきた。今回のアレキサンドリア運用は彼に一任してある。
「機体性能の平均値にバラつきはない筈です。いずれもティターンズ指折りの機体ですからね」
『わかっておりますとも。ご武運を』
「ウィード少佐、ニュンペー出るぞ」
 先頭を切って少佐はカタパルトから飛び出した。ここで戦果を挙げねば死にきれたものではない。そんな逸る気持ちを抑えるには、彼女はいささか平静さに欠けていた。

40話 単独作戦
0849◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:26:12.22ID:5skNxF910
『やはり哨戒部隊のカンは当たった様だな』
 ワーウィック大尉の言うとおり、敵が出てきていた。スクワイヤ少尉はそれをモニターで目視しながら指で撫でた。
 大尉と一緒に居た件で勝手に怒っている艦長からブリッジで作戦指示を受け、各員コクピット内で待機しているところだった。
 哨戒部隊は敵の追手に感付き、敢えてアイリッシュに誘導していた。連中が引き返している間に僚艦達は進路を変え、敵の手薄になった拠点を叩く手筈になっていた。
「うまくいきましたね!これなら私達が囮になってる間に少しは敵を家から締め出せるかも」
『そうなればいいが…どうも敵は戦力を小出しにしてきている様だな』
 フジ中尉はまだ敵の出方を伺っている。確かに思ったほど釣れていない。
『とにかく…奴らの相手は我々だ。行こう』
『「了解」』
 いつもの様に百式とマンドラゴラを両翼につけ、やや後方から中尉のネモがついてくる。
0850◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:26:36.17ID:5skNxF910
『この辺りのデータはあまり入っていないんじゃないか?中尉』
『ええ、残念ながら。デラーズによる観艦式襲撃の際のデブリも未だに多いですからね』
 2人の言うとおり、中尉のネモは月面周辺の様にはデータの観測を出来ていない。多少手探りにはなるだろう。
『前方に敵影3つ。…流石はネモだな。敵とデブリの判別が早い』
 基本は有視界戦のMSだが、視界に入る情報解析という点ではかなりの技術進歩がある。捉えた物体のモデリング作成とデータ比較などを瞬時に行えるよう、中尉の機体は特別なチューニングが施されている。
「何が居るんです?」
『これは…未確認機体とガブスレイ…それから…例の試作機?』
 腐れ縁というのか。まさかここでも出くわすとは。
「あの水色、行く先々に居ますね…やっぱ量産型?」
『いや、詳細データは未登録のままだ』
『手合わせすれば同じやつかどうかはわかる!こっちから仕掛けるぞ』
 ワーウィック大尉が右に飛ぶのを確認して、少尉は左から敵に回り込んだ。
0851◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:27:13.36ID:5skNxF910
 敵に気取られるより先に左右へ取り付き、デブリの影に隠れた。敢えて中尉のネモはセンターを取り、そのまま解析を続けながら囮になる。
『気付かれました。こっちに来ます』
 中尉が威嚇程度に射撃を行う。敵もデブリをうまく利用しながら距離を詰めてくる。
『よし、そろそろ横っ腹を叩く。いいな?少尉』
「いつでも!…って、え?」
『まずい!』
 中尉の声とほぼ同時に、少尉の隠れていたサラミスの残骸が動いた。それを持ち上げるようにして現れたのは、青い装甲の大型機だった。こちらに気付いて1機だけ進行方向を変えたらしい。
「でかい…!」
 驚いたのも束の間、敵はそのまま残骸で殴りつけてきた。飛び跳ねる様にしてそれを避けると、距離を取りながらライフルを向ける。しかし敵は間髪入れずにミサイルランチャーを面で発射してきた。
「ばっ…反則よこんなの!」
 ホーミングしてくるミサイル群を躱しながら、デブリで防ぎつつ状況を確認する。残りの2機を大尉達が牽制している様だが、明らかにガンダムを狙った動きを見せていた。
 やや離れた地点に出てきてしまった少尉だったが、ガブスレイがそれすら追ってくる。
「TMSってやつか…速い」
 敢えてデブリの残骸の中を無軌道に進むが、敵は難なく付いてくる。敵のビームがマンドラゴラの頬を掠った。
「顔直したばっかなのよ!もう!」
 転身した少尉は、ガブスレイを迎え撃つ態勢を取る。しかしその時背後に気配を感じた。
「…!水色ッ!」
 敵のビームサーベルをシールドで受けようとしたその時、敵はサーベルを逆手に持ち替えてそれを避けた。
「こいつ…あの時の…!」
 その動きは、ガルバルディを仕留めた時の少尉と全く同じだった。そのまま繰り出されるサーベルの横凪ぎを交わしきれず、脇腹に斬撃を受けた。間一髪コックピットは避けたものの、明確な被弾だった。
『ちぃ…!』
 僅かに遅れて大尉の百式が薙刀を振るう。間合いが足りない敵機はそれを受け止めず更に距離を取った。
『大丈夫か!少尉!?』
「私は大丈夫です。ただ機体制御が少し…」
 言い終わらぬ間に先程の青い機体が迫る。察知した大尉が間に割り込んだ。ビームサーベルを抜いた敵機に対し、百式も薙刀を短く構える。両者の刃が交差し、力場が反発する際のスパークが煌めいた。
『やるな…!』
 鍔迫り合いになった大尉の足元からガブスレイが急接近する。
『だが、甘い』
青い機体を押し退けた大尉は機体を宙返りさせると、更にガブスレイとのすれ違いざまに蹴りを見舞った。可変機故か、AMBACが利かないガブスレイはそのままデブリに衝突した。
 大尉はそれ以上追撃せず、少尉の傍に付いた。中尉のネモが取りつこうとする敵機を牽制する。
0852◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:27:36.35ID:5skNxF910
「こいつら、機体は違うけど…」
『ああ…間違いなく試験部隊の連中だ』
 やや呼吸を乱しながら大尉が言った。
 敵も乱れた隊列を組み直す様にして小さくまとまった。ガブスレイも可変してMSの姿を見せながら、デブリを手で退かす。その傍に降りた水色の機体。そしてその2機の前に壁を作る様にして、青い機体が立ち塞がる。
 暫しにらみ合う様にしてどちらの陣営も動きを止めていた。
『大尉、僚艦からアイリッシュへ通信があったようです。敵は全く布陣を変えていないとのこと…』
『何だと?ではこいつ等は単独で…?』
『作戦が裏目に出ましたね…。これ以上付き合っても意味がありません』
『…しかし…』
 今回は敵の方がうまくやった様だ。しかし、ここで逃がす道理も無い。
「私ならまだやれます!」
『いや、このままの長期戦はこちらが不利だ…。地の利も敵にある』

 すると敵部隊はゆっくりと距離を開け始めた。じわりじわりと牽制する様にも見えるが、時間を稼いでいる様にも思える。
『戻りましょう。敵も消極的です』
「でも!やられっぱなしです!」
『少尉、まだ前哨戦だ。そう焦るなよ』
「む…」
 そうこうしている間に敵も少しずつ引いていく。一定の距離が取れたところで両軍母艦へと退いた。
『また消化不良だな』
 撤退しながら大尉がこぼす。前回の鶏冠戦でも敵を殲滅しきれなかった。
「でも前哨戦ですもんね、次はぶちのめします」
『切り替えが早いのは良いことだ。忘れっぽい所もたまには役に立つ』
「中尉、それ褒めてます?」
0853◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:28:04.24ID:5skNxF910
 アイリッシュに帰投すると、メカニック達が直ぐに機体の補修に取り掛かった。各機消耗はいつものことだが、マンドラゴラのダメージはやや大きかった。
「危ないところだった。こうして見るとなかなか傷が深いな…」
 少尉が機体を見上げていると、大尉がやってきた。マンドラゴラは腹部横の装甲が大きく融解し、内部の回路も一部損傷している。
「あの敵…私と同じ動きをしたんです」
「本当か?もしそうなら、かなり優秀な学習コンピュータを内蔵しているのだろうな」
 不思議な感覚だった。同じ戦術を取ったというよりは、癖もそのままにトレースされたという印象だった。自身のシミュレーションのレコードを見ている気分に近い。
「もしそうなのであれば…大尉のデータも取られているでしょうね」
 フジ中尉が合流してきた。
「私のデータに汎用性があるとは思えんがな。薙刀しか遣わんのだし」
「モーション自体をトレースしていれば、他の動作への応用は可能かもしれません。回避運動などはそのまま転用できるでしょうしね」
 ワーウィック大尉の動きまで取り込んでいるとなるとなかなか厄介だった。機体が違うとはいえ、相手も恐らくワンオフの機体だ。下手をすると場合によっては敵の方が動きが良くなる可能性すらある。
「戦う度に手強くなるとはな…」
 大尉が腕組みをして唸る。
「でも、逆に言えば敵はその場では対策出来なかったりするんですよね?だったらやりようはありますよ」
「良いことを言うじゃないか。腹を切られた割には」
「中尉、やっぱり褒めてないですよねさっきから」

41話 トレース
0854◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:29:32.32ID:5skNxF910
「いやはや、お見事です」
 帰還したウィード少佐達をブリッジで出迎えたのはレインメーカー少佐だった。
「…情報とは違いましたがね。敵もこちらの動きを読んではいたようですよ」
「そうはいっても、目的通り敵の足止めが出来ただけ上等です」
 彼はウィード少佐の懸念を気にする様子もないが、正直紙一重だった。敵も奇襲を考えていたから良かったものの、これでもしエゥーゴがウィード少佐達の殲滅を優先していたならば…今頃どうなっていたかわからない。
「私は…もっとうまくやれるつもりでした」
 唇を噛んでいるのはステム少尉だった。
「…いや、上出来だ。あのバッタは尋常ならざる敵と言っていい。あれに落とされなかっただけお前は見込みがあるよ」
 そういって少尉の肩を叩くソニック大尉だったが、彼も表情はやや暗い。

「…それで、状況は?」
 ウィード少佐はスクリーンの方へ歩みを進めながら訊いた。
「エゥーゴは再び艦隊を合流させて正面に陣取っております。これでお互いに腹の中は割れた様なものですな。今は膠着しております」
 飄々としているレインメーカー少佐だが、この戦況を作り出したのは彼と言っていい。老獪な男である。
「上は何か言ってきましたか?」
「"ご苦労"とだけ」
「ふん…内心どう思われているかはわかりませんね。独断専行に変わりはない」
「拡げた風呂敷です。勝てば官軍とも言いますから」
 ニコリとしてみせたレインメーカー少佐だったが、ウィード少佐は背中を伝う嫌な汗を止められなかった。
「勝てば官軍…負ければ賊軍ですか。シロッコ大佐からは何も?」
 ステム少尉が口を挟む。彼も落ち着いて居られないようだ。
「何も。…まぁ今は状況が状況ですからな。内通を疑われている以上、我々は我々でやるしかありません。オーブ少尉とガブスレイ、ソニック大尉のゼクが届いただけでも良しとしましょう」
「…致し方ないか」
 ソニック大尉も腕を組んだ。
0855◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:30:06.96ID:5skNxF910
 その場を解散し、ウィード少佐はレインメーカー少佐と共にブリッジに居残っていた。パイロット達には少しの補給の後、機体に待機させている。
 しかし、あまり間を置かず戦況が動いた。エゥーゴの艦隊が正面から接近しているという。
「数は?」
「サラミス級が2隻ですな」
「正面か…。焦っているのかな」
「エゥーゴにしてみれば地上との2面作戦ですからな。どちらが先に落とすかといったところでしょう」
「そうはいってもどの道キリマンジャロは落ちるのでしょう?」
「エゥーゴにそれだけの力があれば、の話です。手放しでやるつもりはありませんよ」
 そうこうしている間も友軍からの支持はない。
「将校は何をやってるんです?我々だけで相手をしろとでも…?」
「これまでずっと巣に引っ込んでいた連中ですからな。肝がちいさいのですよ。…少しは自由にさせてくれると思えば、まあ」
「わかりました。駐留軍を少し借りましょう」
「そう仰ると思いましたよ。既に手配済みです」
 そういってレインメーカー少佐は通信機を手渡した。全く準備のいい男だ。それを受け取ると、ウィード少佐はすぐさまムサイ改級を1隻、MS小隊を1つ出させた。アレキサンドリアもソニック大尉達を出し、艦はムサイ改と共にMS隊の後ろについた。
「レインメーカー少佐、そういえば敵は誰が指揮を?」
「今回は直々にロングホーン大佐が出てきた様ですな。油断できませんぞ」
「いつぞやの男か…。ソニック大尉が世話になったとかいう」
 月で会った時、厳格な顔をした男だったのを憶えている。必要以上に敵を大きく見る必要はないが、一筋縄ではいかないのは容易に想像できた。
0856◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:30:43.08ID:5skNxF910
『ドラフラ、基地の連中は俺が使っていいんだな?』
 ソニック大尉だった。
「そうよ。どうせ自分では動けないだろうからね」
『了解』
 彼の機体を筆頭に、ステム少尉と共に駐留小隊を引き連れて布陣を敷く。対するエゥーゴもMS隊を発進させている様子が伺える。数はあまり多くない。
「さて…正面はラムに押させるとして…」
「まだ旗艦が見えませんな」
 レインメーカー少佐の言うとおり、アイリッシュがまだ姿を見せていない。バッタやガンダムもそちらに居るはずだ。
「デブリに潜んでいる可能性が高いですね。…警戒を続けて」
 前線は交戦を始めている。索敵班に周囲の警戒を続けさせながら、アレキサンドリアもムサイと共に艦砲射撃を行う。この距離では到底当たるものではないが、敵の進路を狭める事くらいはできる。
「あくまで正面から突破するつもりですな、連中は」
 レインメーカー少佐の言葉の通り、第1陣に続き敵の第2波のMS隊が加わってきた。いずれも機体はネモとGM2の混合部隊の様だが、数においては敵の方が優勢だ。ソニック大尉達で捌ききれなかった分が少しずつ距離を詰めてくる。
「まずいね…いくらなんでもこの物量では」
「援軍を呼びますかな?」
「…!いや、まだです。…ラム!」
『おう!どうした!』
「敵を引きつけながら後退を!」
『気軽に言ってくれる…俺のロードワークについてこれるか若造!』
『よくわかりませんけどついていきますよ!』
 ステム少尉も叫ぶ。2人の息も合ってきた様だ。
「下げるのですか…。どうするおつもりで?」
「まあ見ていてください」
 怪訝そうなレインメーカー少佐をよそに、ウィード少佐の頭の中には描いた絵があった。
0857◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:31:23.25ID:5skNxF910
 ウィード少佐の指示通り、ソニック大尉達は敵を引きつけながらジリジリと下がってくる。好機と見たのか、敵は第3波のMS隊を繰り出してきた。
「よし…恐らくこれが全部でしょうね」
「なるほど。後はどう捌くかですな」
 レインメーカー少佐が唸る。
「こちらもまだ手は残しています。…工作部隊に伝達!やれ!」
 ウィード少佐の指示を受け、デブリに機雷を仕込んでいた工作部隊が遠隔で爆破を開始する。あまり広い範囲での仕込みは出来なかったが、前回の出撃で時間を稼げた際に要所だけ機雷を仕掛けていた。
 進軍を始めた敵のサラミス級だったが、囲んでいたデブリが弾けた。中には燃料を残していた残骸もあったらしく、誘爆して派手な花火を打ち上げている。敵艦の1つがそれに巻き込まれて爆炎を上げた。
「ほう、これはたまげた」
 レインメーカー少佐が目を丸くした。
「地の利はこちらにあります。…ラム!聞こえるね!?」
『なんだこれは…!凄いことになってるぞ!』
「でしょうね!今が好機!転身して!」
『承知した!』
 一転して身を翻したソニック大尉達が、混乱した敵部隊を蹂躙する。数で勝るエゥーゴだったが、母艦に気を取られた所を大尉達に反撃を受ける形で隊列を崩し始める。
「各員気を抜くな!爆破したデブリはこちらにも飛んでくるぞ!」
 艦砲射撃を続けながら、自軍の艦隊に近づくデブリも破壊する。しかしながら敵も必死だ。それでも尚前進を止めない。
「やりますなウィード少佐。しかしエゥーゴも退く気は無いとみえる」
 レインメーカー少佐がスクリーンにかじりつきながら言う。
「かなりの混戦になってきましたね。もうひと押ししたいところですが…」
 その時だった。爆炎の中からアイリッシュが姿を現した。
0858◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:31:52.98ID:5skNxF910
「!」
「来ましたな」
 敵はやはりデブリに紛れ込んでいた。恐らく爆破で炙り出す形になったのだろう。
「早々に旗艦まで引き摺り出せるとは思ってませんでしたがね…!」
「勝てば官軍…負ければ…。…ウィード少佐?」
 レインメーカー少佐が諌める様に言った。勝てば官軍、負ければ…。
「…レインメーカー少佐。こんな時に私は…。私にはまだまだその境地は見えません」
 興奮気味だったウィード少佐は肩の力を抜いた。ここで下手は打てない。焦ってはならないのだ。旗艦は出てきたが、こちらの戦力も敵MS隊と交戦中だ。半端に動かすと持ち直した敵部隊に挟撃を受ける可能性がある。何より今アレキサンドリアも裸に近い状態なのだ。バッタやガンダムが出てきてしまえば沈められてもおかしくはない。
「全軍に通達!もう十分に敵戦力は叩いた。一旦下がるぞ」
 目の前の餌に今すぐにも喰らいつきたい気持ちを抑えた。
「…少佐、私も殿に出ます。後はお任せしますよ」
「よしなに」
 レインメーカー少佐は微笑んだ。その皺に刻まれたものは幾ばくの経験なのか…。今のウィード少佐には測りしれなかった。

41話 皺
0859◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:32:28.17ID:5skNxF910
失礼、42話でした!笑
0860◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:33:10.16ID:5skNxF910
「ええい!ここで退くだと!?」
 ロングホーン大佐は思わず拳を肘掛けに叩きつけた。囮にすべくアイリッシュを晒したにも関わらず、敵はそれを無視した。
「し…死ぬかと…思いましたぜ…」
 グレッチ艦長が腰を抜かしている。何せ爆発するデブリの中を突き抜けたのだ。しかし、これだけの事をしても敵は動じなかった。
『どうします?私とフジ中尉は出れますが』
 ワーウィック大尉からだった。修繕が追いついていないガンダムを除いて、出撃準備は出来ている様だ。
「ここで退く訳にはいかん!後続が持ち直す迄アレキサンドリアに喰らいつけ!」
『了解』
 後続のサラミス級達は今頃地獄絵図だろう。
「…舵取りの上手いやつがいるな。だが、逆に言えば奴らさえ始末出来れば…」

 混戦の中を百式達が出撃する。多少の護衛が出てきたが、大尉達は難なく撃退している様だ。
「後続はどうか!?」
「まだ駄目ですな…。かなり数も減っとります」
 グレッチ艦長がやや弱気になっているが、致し方ないとしか言えなかった。
「何が何でも立て直せ!もう敵も手札は切った筈だ!このままでは追撃戦にならんぞ!」
 ロングホーン大佐は叫び続けたが、それで事態が好転する訳でもない事は自身がよく理解していた。
 その間も大尉達が前進を続けていた。デブリが高速で飛び交っているだけに、敵の動きも決して機敏ではない。
『もうじき取り付きます』
「よし。沈められずとも可能な限り叩け」
 こちらも手痛い反撃を受けたが、せめてアレキサンドリアさえ前線から下げられれば、次の戦いを有利に運べる。
 大尉達が敵艦に取り付いている頃、サラミスのMS部隊も落ち着きを取り戻しつつあった。継戦能力の無い機体をアイリッシュに収容しつつ、僅かな手勢で追撃をかける。
 敵のMS隊も母艦と合流しつつあるが、それをさせまいと粘るこちらの部隊が交戦中である。挟撃と言うには隊列が乱れきっており、未だ混戦に変わりはない。
「大尉達はどうかな?」
「敵の試作機とやりあっている様ですな。腐れ縁ですよ全く」
 捕虜の解放交渉に来た敵将校の護衛がまさしくあの機体だった。
「…指揮官はあの爺かもしれんな、食えんやつよ」
 大佐は思わず笑った。グレッチ艦長の言うとおり腐れ縁なのだろう。
0861◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:35:01.05ID:5skNxF910
 どうも大尉達は攻めあぐねている様だった。ガンダム抜きではこんなものか。後続のMS隊も敵の殆どを討ち漏らしている。ようやく結果的に追撃の形になってきたが、これではどちらが敗走しているのかわからない。
「弱ったものだな。艦長よ」
 ため息をつきながら戦場を見渡した。グレッチ艦長は唸りながら髭を弄っている。
「敵もよくやります。後続のサラミスが被害状況をまとめ始めてますが、どうしますかね」
「潔く退くのも戦いか。仕方あるまい…追撃は切り上げる」
 大佐は重い腰を上げ、全軍に帰投命令を下した。敵との戦線を押し上げる事には成功したものの、殆ど敗戦というべき戦果であった。

 撤収していく敵部隊を口惜しくも見送り、それからは部隊の建て直しにかかった。サラミス級が1隻轟沈、MS部隊も2小隊は失っていた。残っているのは小破したアイリッシュ1隻とサラミス級1隻、ガンダム達を含むMS小隊が3つといったところだ。機体はいずれも補給が必要な状態である。
「諸君はよくやった。これで終わるつもりはないのは私だけではないのも承知している。…次だ。次で全てが決まるだろう」
 各員に向けた通信を送った。恐らく士気もまだ下がりきってはいない筈だが、唇を噛んでいる者も少なくない。
「…次はどう出ますか」
 ブリッジに帰投したフジ中尉だった。ワーウィック大尉も傍らにいる。
「ご苦労。諸君の働きでアレキサンドリアも無傷ではないな」
「しかし、あの程度ではまだ」
「うむ。とはいえあちらから仕掛けてくるほどの余力もあるまいよ」
 ロングホーン大佐は椅子に深く腰掛ける。グレッチ艦長がその側で各部署の報告を受けている。
「気になるのは他部隊の動きですね。戦力がゼダンの門に集中しているとはいえ、いくらなんでも抵抗が少なすぎます」
 フジ中尉の言うことは道理だった。こちらも必死で仕掛けはしたが、まさかあそこまで徹底的な抗戦に出るとは考えていなかった。
 しかも戦力的にはかなり少数と言ってよかった。まだ温存した戦力があるのだろうが、やはり士気が高いのは一部だけと考えて良さそうだ。
「残る戦力の士気は著しく低いと思っていいだろう。上もそういう判断で我々をこの戦力で派遣している。とはいえ一応月からは直に増援が来る予定だ」
0862◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:35:33.84ID:5skNxF910
「大佐…」
「何だ」
 ワーウィック大尉が何やら考え込んだ表情で言った。
「キリマンジャロはどのような状況です?」
「ああ、あちらはかなり順調な様だ。カラバとも上手くやっている」
「やはりそうですか。あくまでも憶測ですが…ティターンズは何か隠しているのではないですか?」
 面白い事を言う男だ。確かにロングホーン大佐も気掛かりなことはある。
「ティターンズにしては地上も宇宙も…どちらも抵抗が薄いものな。まるでこちらの必死さを嘲笑う様だ」
「私もそれを感じます。しかし、そうやって我々の消耗を狙っているのであれば、そこからの勢力図を一気にひっくり返せるだけの何かがなければ…」
「大尉。君の言うことはよくわかる。だがな、今考えるべきはコンペイトウだ。そこを忘れるな」
「はっ」
 彼が改めて姿勢を正した。正直彼の言う大局もあながち見逃していいものではない。ティターンズがコンペイトウを手薄にしているのであれば、ここで手こずっていては今後の作戦の如何に関わる。

「よろしい。また追って指示を出す。諸君は少しでも英気を養いたまえ」
 そういって2人を一度退出させた。グレッチ艦長もひと通りの報告を受け終わった様だ。
「…速攻を掛けるのも手だな」
 ロングホーン大佐は独り言のように呟いた。
「ま…まさか!援軍を待った方が良いんじゃないですかい?」
「敵もそう思っているとは考えられんかな?あの必死な抵抗…意外と突き崩せれば脆いやもしれん」
「そりゃそうかもしれませんがねぇ…。肝心のこっちの戦力がズタボロです」
「私もコンペイトウの戦局は大きく見ねばならんと考えてきた。しかし、意外とそうでもないのかもしれんと思ってな。もっと大きな目でこの絵を見れば、実際には小さな点に過ぎんのかもしれん」
「はぁ…」
 何やら飲み込めないといった様子の艦長だが、ロングホーン大佐の中では殆ど確定的な認識だった。
「こちらが休めばそれだけ敵も休ませる事になる。戦いが長引けば、最終的には増援のないコンペイトウの方が苦しくなる筈だ。今のうちに叩けるだけ叩いて消耗させねばならん」
 大佐は立ち上がり、ブリッジからの眺めを見渡した。同じ連邦の拠点でありながら、それはまるで旧ジオンの拠点ソロモンさながらに立ち塞がっていた。
 思い返せば、あの時もこの拠点は半分捨て駒の様な扱いを受けていたように思う。本来ならば重要な拠点なのだが、旧ジオンは派閥争いの為にここを切り捨てた。その結果、かなりの戦力がア・バオア・クーに集結することとなった。
0863◆tyrQWQQxgU 2020/06/17(水) 18:36:02.04ID:5skNxF910
「…!…まさか…コロニーレーザーか!?」
 大佐は思わず目を見開いた。旧ジオンはそうやって引きつけた連邦の戦力の殆どをコロニーレーザーで焼き払ったのだった。ソロモンで必要以上の戦力を消耗せず、コロニーレーザーで一気に戦局を巻き返した。実際、最近ティターンズはグリプス2周辺で不穏な動きを見せている。目的は不明だったが、密閉型コロニーはレーザー砲の砲身にするにはうってつけである。
「いや…有り得ん話ではないな…!」
「大佐…もしそうなら…」
 艦長も話に合点がいった様子だった。

43話 合点
0864通常の名無しさんの3倍2020/06/20(土) 17:00:16.13ID:WW2VzUU20
乙です!

ついに明かされるスクワイヤの出自...
スーツ姿の軍属だった父というのは、特務機関の偉い人?
一年戦争(とデラーズ戦役)で消耗した連邦軍がパイロット適性の新人を遊ばせとくとは、普通は考えにくいですね
37話のグレッチ艦長の発言からも、何だかんだエゥーゴは連邦の一部なのだと伝わってくるものがあります

グレッチ艦長、ややスケベ親父だったのがちょいガミガミ親父になってるw
地球のこと考えて浮かれてるスクワイヤ可愛いです、ジオンの亡霊の聖地なんかでタヒぬなよー!

Sさんの考えだとコロニーレーザーは各拠点でパーツ製造しグリプスに運ぶ感じですか
確かにドゴス・ギアもコロニーレーザーも単一拠点で作るのでは非効率的ですね
レインメーカー爺さん、やりますね! もしや......この男こそ特務の上級将校でスクワイヤの父親では?!(多分違う)
陥落前のも含めて地上拠点複数放棄は不可解な話、これではジャミトフの理想は......バスクとシロッコ、どちらの思惑か

ステムは赤毛の中性的美青年ってところですか......カミーユ2Pみたいな(笑) それでガブスレイですか
配備機で力関係が伝わるのも面白いですね、加速ライフルにスマートガンにフェダーインとライフルだけで普通じゃないw
ガブスレイとニュンペーがエゥーゴと交戦し始めた時期は同じくらいだと思うのですが
後者の名前が出ない辺り、前者はサラのリークで多く割れてるといったところ?
虫野郎な可変機は大体ジェリド隊で機能がアピールされてますが、出来たら額バルカンが活躍するところも見たいです!
ソニックのゼクアイン、初っぱなから筋肉式奇襲w ミサイルもライフルも上手く使うし、実はガルバルより合ってる?
ニュンペーの水影心攻撃...ニンフからの連想でしょうか? 隠し腕もあり手数が多そうなのは手強く感じます
スクワイヤはアマクサ戦のトビアみたいなこと言ってる、これも強そう

ウィード隊は案山子よりマシ程度のコンペイトウ隊を引き連れ迎撃
なまじ腕のあるステムの直後だけにガタガタの編成になりそうなのがもうw と思ったら善後策で膠着に持ち込みました
爆炎の中から出てくるアイリッシュのカッコいいこと! 今更ですが緑の百式改は一貫して「バッタ」なんですね(笑)

なるほど、グリプス戦役はどこか戦線だけ大きいイメージがありましたが
エゥーゴはここまで対ティターンズ戦の決定打になる点を見出だせてないと...
一年戦争を振り返りつつ隠し球に気づくのは上手い流れです、が前大戦のは「ソーラ・レイ」なので改稿した方が良いかと

続き楽しみに待ってます!
0865◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:48:42.22ID:GwywEkd60
>>864
彼女の父については重要な部分になるので、今後掘り下げていきます!
艦長や一部の人間は知っている様ですが、ほとんどの人間が知らないことです。
設定としては最初期の構想からの決定事項なので、是非読み進めてもらえればと!
グレッチ艦長は完全にお父さんですね…笑

コロニーレーザーみたいなでかいものを作るともなれば、工廠をもつ拠点の助力は居るかなと。
因みに個人的にはコロニーレーザー(ソーラ・レイ、グリプス2)だと思ってるので、文章ではそう表記してます!括弧内が個別名称という認識です!

ジャミトフの真の目的は地上から人を上げることなので、戦線が宇宙に移行するのは納得です。とはいえそれを前線の末端まで理解しているはずもなく…っていうのがティターンズが負ける敗因のひとつだと思ってます。

ステムは髪型が違うリディルくらいのイメージです笑
カミーユ2Pは想定外でした笑笑
ガブスレイは複数機出てますが、ニュンペーはウィード機のみなので名称不明といったところです。Zみたいなフラッグシップモデルでもないですしね。
量産機に優秀な学習装置を積むっていうのはGMからの伝統なので、それを更に掘り下げようかと。

アクシズもティターンズと結び、今はエゥーゴの厳しい時期です。
ここからどう巻き返していくのか、読み進めてみてください!
0866◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:54:19.39ID:GwywEkd60
 マンドラゴラの修理が終わったのは、攻略戦から少し時間が経過してだった。
 出撃出来なかったこともありスクワイヤ少尉自身も手伝ってはいたものの、他部隊の補給も急がねばならず、ドックは相変わらず慌ただしく人と機材が行き交っていた。
「あ、中尉!」
 格納庫から退出しようとしているフジ中尉に声を掛けた。
「少尉か。ガンダムはどうだ?」
「おかげさまで取り敢えずは。…参戦できなかったのが心残りですけどね」
「そういうな。まだ始まったばかりだろう」
 腕組みしたフジ中尉の横で、手すりに寄りかかりながら辺りを見渡す。サラミスが落ちたことで母艦を失い、アイリッシュに帰投した者も多い。心なしか普段見ない顔が多いように思えた。
「おいお前ら!暇してるんならこっち手伝え!」
 少尉達に気付いたメカニックのひとりが怒鳴った。どこも人手が足りていないのだ。
「はーい!…って中尉何処行くんです?」
「私は大佐とミーティングだ。後は頼む」
「ちょっとー!…む、仕方ないな…」
 そそくさと出ていった中尉にムッとしつつ、少尉はメカニックの手伝いに戻った。

 それから少しの間を置いて、パイロット達がブリッジへと招集された。
「補給もままならんというのに…すまんな」
 グレッチ艦長が皆に頭を下げた。おべっかつかいをやっていただけあって、人の心の機敏には鋭い。この一言だけでも、現場の人間達には響くだろう。
「ここは戦地だ。致し方あるまいよ。…さて、諸君を呼び立てたのは他でもない。奴らへの強襲をかけるためだ」
 グレッチ艦長とは対照的に、ロングホーン大佐はテキパキと作戦指示を始めた。どうも自然と役割分担できているらしい。
「前回は辛酸を舐めさせられたからな。…だからこそ奴らを休ませてはならん。絶えず攻め立てることで我々の攻略への意思が伝わるだろう。絶対に逃さん、とな」
 ロングホーン大佐の低い声はよく響く。それが尚更説得力を増していた。
0867◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:55:14.79ID:GwywEkd60
「しかし、こちらももうボロボロではないですか…」
 合流したパイロット達のうちのひとりが声を上げた。
「案ずるな。月からの増援を予定より急がせている。彼らと入れ代わり立ち代わり攻め立てることで、我々は補給も行えるようになる。苦しいのは今だけだ」
 大佐の説明に皆黙った。
「…わかるぜ。今ここにいる面子は仲間を失ったやつも多いだろう。
 でもな…ここで戦わねぇと、その犠牲も無駄になっちまう。そんで、もっと多くの仲間がやられるかもしれねぇ。今は俺達が先鋒だ。頼まれてくれ」
 グレッチ艦長が言葉を添えた。少尉は艦長のこういうところは好きだった。いらない一言を添えることもあるが。
「…では、作戦の説明をフジ中尉に任せたい。良いかね」
「はい」
 ロングホーン大佐の呼びかけで、中尉が前に出た。彼の分析力は大佐にも買われているらしい。
「今現在、我々はコンペイトウとかなり近い宙域に位置しています」
 そう言うと、スクリーンに周囲のデータが映し出される。
「流石にまだ上陸作戦とはいきませんが、もう少し進軍すれば拠点自体への砲撃も視野に入る距離です。今回、何処から攻め立てるのかですが…」
 喋りながら中尉はスクリーンの元まで歩いた。
「ここからいきましょう」
 彼が指し示した場所は、コンペイトウの上部だった。めぼしい設備も見当たらないような位置である。
「何でそんなところを?」
 少尉は思わず声に出して訊いた。
「いい質問だ。返す質問で悪いが、少尉はここに何故敵の設備が少ないのか解るか?」
「え…そりゃ…石が硬かったんじゃないですかね」
 場から小さく笑い声がこぼれる。悪いことを言った気は無かったが恥ずかしい気分である。
「…ここはな、デラーズ紛争で核攻撃を受けた爆心地近くだ。その時に殆どの戦力を一度失っている。明確な外敵のいないうちは、ここを改めて補強する必要が無かったのだろうな…今もここは手薄なままだ」
 馬鹿にされても都度思うが、彼の説明は非常にわかりやすい。馬鹿にはされるが。
「それで、この手薄な場所から攻め立てるのが今回の作戦だ。抵抗があれば敵の戦力を分散出来るし、抵抗がない場合にはあわよくば上陸できる」
「…そういうことだ。いずれにせよ正面から仕掛けるより分がある。デブリも少ないしな」
 大佐は前回のデブリ爆破で機雷にはウンザリしている。中尉の言うとおり爆心地ならば、デブリも比較的少ないだろう。
「異論はないか?」
 大佐の呼びかけに対し、皆意志は固まっているようだった。
「よろしい。ならば最後に…加えて皆に共有しておきたい事がある。ティターンズは、コンペイトウやゼダンの門だけでなく…更なる拠点を建造中との見方がある。
 その正体はまだ明るみにはなっていないが…私の見立てでは、大量破壊兵器ではないかと考えている。まだ憶測に過ぎんがな。
 その建造物が何であるにせよ、ここでコンペイトウを叩かねばその完成はより早まるだろう。だからこそ諸君の力を、今借りたいのだ」
「大量破壊兵器…」
 少尉に実感は沸かなかった。そこまでして人類は一体何と戦おうというのだろうか。大義名分?生存競争?はたまた単なる意地なのか。
0868◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:55:59.54ID:GwywEkd60
 説明が終わり、それぞれ持ち場へと戻っていく中にワーウィック大尉を見つけた。
「今度こそ私も出れそうですね」
「少尉か。やはり少尉抜きだとなかなか上手くいかんよ」
 頭を掻く大尉と横並びで格納庫へと向かう。
「私がいないんじゃ大尉も実力発揮出来ませんからね」
「まあそんなところだ。ガンダムはもういいのか?」
「あの子だけ一応アナハイムの技師がついてるんで、修理は比較的早いんですよ」
 マンドラゴラは試作機ということで、アナハイムから出向した技師が世話を焼いてくれる。技師の話に依れば、マンドラゴラの元になった機体はデラーズ紛争時にこのコンペイトウで散ったという。
 表沙汰にはなっていない話の様だが、人の記憶・口頭の伝承までは消せはしない。その証人がマンドラゴラとも言える。
「…マンドラゴラの兄弟達がここで戦ったらしいんです。何かの縁かもしれませんよね」
「アナハイムの開発計画が以前もあったと聞くものな。きっとその魂もあの機体は受け継いでいるのさ」
「魂か…」
 モノにも魂が宿るなら、ヒトと何が違うのだろう。自らの魂で訴えかけることが出来る人間が、どれほどいるだろう。

「また追って指示がある。コックピットで待機だ」
「了解!」
 格納庫に到着するなり、少尉はマンドラゴラの元へ駆けた。コックピットにヘルメットを放り込み、自身も搭乗口に手を掛けながら飛び乗る。
 初めの頃は戸惑った全天周囲モニターにも随分慣れた。もっとこの距離感を掴めば、機体の手足がまるで自分のものの様に感じられるだろう。今はまだマンドラゴラとの二人三脚だ。
「あんたの魂…私は感じる」
 コックピットの中、ひとり呟いた。深く深呼吸し、制御アームに手を乗せる。多くの人々の技術と想いの結晶。それが何故少尉に託されたのかは未だにわからない。ただ、その魂が彼女の魂と共振している事だけは確かだった。

44話 爆心地
0869◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:56:42.07ID:GwywEkd60
『そろそろ予定のポイントです。案の定…手薄ですね』
『わざわざこっちまで回り込んでくるとは敵も思うまいな』
 ワーウィック大尉とフジ中尉の通信を聞きながら、スクワイヤ少尉は2人と共に先行して敵の動きを探っていた。
「しっかし…殆ど何もありませんね…」
『そういう場所だからな』
『ですが、上陸して簡易的な拠点でも組めれば腰を落ち着かせて作戦を進められます。
 要塞の設計が変わっていなければ古い工廠もここから近い筈です。整備して補給拠点として使えれば都合も良いのですが』
『敵地で補給か。屯田兵みたいなものだな』
「ドンデンへー?」
 この2人と話していると知らない単語がよく出てくる。
『旧世紀の戦争では、敵地で田畑を耕して兵糧を補給していたそうだ。それをやっていた兵のことさ』
「へー、大尉って物知り」
 そんなことを話しながら辺りを探索する。他所に流れてしまっているのかデブリも比較的少なく、少しずつコンペイトウの岩肌も近づいてきた。

『敵影が3つ。いずれもハイザックですね』
「このくらいなら私達でもやれますね」
『いくらなんでも手薄過ぎないか?そりゃあ全ての防衛ポイントを抑えるのは無理だろうが…。逆に半端な数のモビルスーツが居るのは気になる』
 確かに大尉の言う通り、いくらか不自然な印象も受ける。
『いずれにせよここは抑えなければならないポイントです。我々で突いてみましょう。藪から蛇ってこともありますが…』
「ヤブカラヘビ?」
『少尉は少し黙ってろ』
「中尉も物知り」
 フジ中尉の毒々しい物言いにもすっかり慣れてしまった。彼は彼で少尉の扱いに手慣れてきている気がする。
0870◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:57:20.98ID:GwywEkd60
 敵に気付かれるのを承知で敵のセンサー範囲へ入る。隠れようのない以上、速攻が有効である。
「マンドラゴラ、先行します」
 機動力に優れる少尉のガンダムを筆頭に、百式とネモが続く。こちらの動きに気付いたハイザック達が迎え撃つが、敵も多少狼狽えているのがわかる。
 小さく固まっているハイザックを中尉のネモが撃つ。それを躱そうと慌てて隊列を崩した直後、ガンダムが襲った。
 袈裟斬りにして1機始末すると、返す刃で振り向きざまにもう1機横凪ぎにする。それをシールドで受けたハイザックだったが、その背後で百式の走査線が赤くチラついた。
 背後から押し当てた薙刀に形成されたビーム刃が的確にコックピットだけを貫く。逃げ出すようにして撤退を試みた残りの1機だったが、こちらはネモのライフルで撃ち抜かれた。

「…片付いた感じですね」
 また辺りに静寂が戻った。
『しかし、このまま上陸というのは余りに呆気ないな…』
『或いは、罠かもしれません』
 3機はゆっくりと地表に着陸した。敵は叩いたものの、ここに来て1度足を止める。
『我々だけで判断するのは危険かと。アイリッシュに通信を行いましょう』
『そうだな…』
「む…」
 少尉が溜息をひとつついた、その時だった。コンペイトウに敵影らしきものが映る。
0871◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:57:54.86ID:GwywEkd60
『増援か!?』
『機種不明…こ、これは』
 岩肌から突如茎のようなものが伸び、虫の頭を思わせる形状のユニットがチューリップの様にゆらゆらと揺れ始めた。
「何あれ…気持ち悪い」
 映像が鮮明でないが、極太のワイヤーか何かが先端のユニットを支えているらしい。
『防衛設備のひとつでしょうか?それにしてはあまり見ない形状ですが…』
『フジ中尉は一時退避してアイリッシュに通信を。熱源を見るにこの形は…』
 ワーウィック大尉のいう熱源は大きな菱形に見えた。岩肌の下に感知しているが、異様に大きい。
「うわっ」
 その岩肌がせり上がった。辺りの地表が大きく揺れ始める。宇宙空間では音を発していないが、この振動は尋常ではない。
 先程の茎が生えた辺りを中心に地割れが始まる。岩肌と思われていたこの辺りは、堆積物に覆われたシェルターのようであった。ひび割れた表面の下に人工的なパネルが見え始める。
『大尉!』
『いいから行け!ここは私達で抑える!』
『し…しかし!』
「…来ます」
 シェルターが開き、熱源の全容が徐々に姿を現す。緑色をした大きな物体は各部に砲門のような機構を備えているらしかった。頭頂部に先程のワイヤーが接続されており、生き物の様にうねっている。
『こんなもの…!いくら大尉達でも2人だけでは!』
『だから行けと言っている!増援を寄越すんだ!全滅したいのか!?』
『り…了解!』
 珍しく声を荒げた大尉に押され、中尉のネモは戦線を離脱した。
0872◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:58:57.92ID:GwywEkd60
「…で、どうするんです?これ…」
 思わず少尉は脱力してシートに沈んだ。どう見てもMAである。敵はまだ完全に動ける状態ではない様で、中尉を追う素振りは見せない。
『まさか完成していたとはな…グロムリン』
「知ってるんですか!?」
『ジオンの試作MAだよ。ほぼペーパープランだった筈だが、恐らくはティターンズの連中が組み上げたんだろう…』
 完全にシェルターが開き切り、足元まで確認出来るようになった。全長60mはある。グロムリンと大尉が呼んだその機体は、巨体を支えている一本脚を、ゆっくりと屈めた。
『…来るぞ!』
 大尉の声と殆ど同時に敵はメガ粒子を辺りに撒き散らした。撃つというにはあまりに砲門が多過ぎる。文字通り雨の様に、地表へビームが降り注いだ。
「あはは!笑うしかないでしょこんなの!!」
 少尉はヤケ気味に笑い声を上げた。2人は器用にビームを躱しつつ距離を取る。それを捉えた有線ユニットが少尉目掛けて更にビームを放つ。
「こなくそ…!」
 身を捩り既のところでそれを躱す。しかしそれを躱したところにも容赦なくビームの雨が降る。
『くそ!何処まで保つかわからんな!』
 大尉もうまく距離を取ろうとしているが、敵の攻撃を避けるので精一杯の様だ。
 すると敵は一本脚を踏ん張り、上にそのまま跳ね上がった。
「跳ぶの!?」
 ノズル噴射で機体のバランスを取ると、その一本脚をクローの様にして真っ直ぐ突っ込んできた。
「嘘でしょ…」
 ガンダムは螺旋状に飛ぶと、脚に絡む様にしてそれを躱す。しかし本体を避け切れず接触してしまった。激しい振動が機体を襲う。
「ぐぅ…っ!」
 まるで車にぶつかった子供のように、意に介さぬ敵の装甲にぶつかりながら弾き飛ばされる。
『少尉!』
 ワーウィック大尉の百式が全速力で追う。弾き飛ばされたガンダムを見つけ、速度を合わせてどうにか受け止めた。
「くっ…あんなの規格外ですって…!」
『わかってる。あれは本来対艦用の決戦兵器だ。逆立ちしたって勝てん』
 敵はそのまま大きく迂回し、再びこちらに向かってこようとしている。
『蛇どころか化け物が出てきたな…どうりで手薄な訳だ』
「でもこいつを落とせたら…」
『少尉…本気か?』
 正直言って勝てる気はしない。しかし、ここで死ぬならばそれまでだ。諦めではなく、自ら生を掴みにいきたいと感じていた。
 少尉は初めて、恐怖を手懐けた。

45話 藪から蛇
0873◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 14:59:44.24ID:GwywEkd60
「中尉が戻ってくるまで、落とされる訳にはいかないんですよ」
『その通りだな。しかし、このままではまともに近づく事もできん』
 再び突進してきたグロムリンを迎撃する。厄介なことに、突進しながら砲撃も躊躇なく仕掛けてくる。
『ちぃ!』
 その尽くを躱しながら、今度は大尉が仕掛ける。一定の距離まで間が縮まったタイミングで、百式は一気に逆噴射を行った。そのまま敵の勢いを殺すと、数ある爪の1つを切り落とした。
『く…この程度では…!』
 すぐさま離脱を試みた大尉だったが、追いかける様に敵がそのままグルリと回した脚部に蹴飛ばされる。
『ぐぅ…!!しょ、少尉!!』
 僅かに敵の姿勢制御が乱れた一瞬を突き、少尉はライフルを撃ちながら敵へ突っ込んだ。こちらを向いていた砲門をいくつか潰しつつ、更に接近する。
「うッッッ…とおしい!!!」
 少尉はサーベルを抜くと、破壊した砲門の1つに突き立てた。しかし相当な巨体である。浅く刺しただけでは致命傷にはならず、すぐに旋回した敵にまたもや振り払われる。そのまま地表へと叩きつけられた。

「あーあ、駄目だこりゃ」
 崩れ落ちる周囲の岩に囲まれながら、ガンダムは半ばその場にめり込むように坐礁した。少尉らをあしらった敵は悠々と着地する。
『質量が違い過ぎる。砲撃をいくら避けたところで、これではな…』
 ガンダムは勿論、大尉の百式も相当痛めつけられている。少尉とはいくらか離れた位置で膝をついているのが視界に入った。
 お互い部位の欠損こそ無いが、駆動系も装甲もかなりのダメージを受けていた。しかしそんなことはお構いなしに、敵は尚も飽きることなく砲撃を行ってくる。
『…待てよ』
 軋む機体を動かし、どうにか回避運動を行いながら大尉が呟く。
『あのビグザムでさえ稼働時間は20分しか無かった筈だ。最新技術で組み上げたとしても、あれだけのビームをいつまでも撃っていられるものか?』
「あれだけぶっ放してれば…息切れしてもおかしくない…!」
 少尉のガンダムも、大尉とは反対側からグロムリンに回り込む。
『恐らく…他部隊との連携が取れんからここに配備されているんだろうな。パイロットも乗り慣れてはいないかもしれん』
 言われてみれば、単純なパワーに物を言わせた戦い方である。高度な動きは今のところ見せていない。
『よし。少尉…ここはジワジワと敵の戦力を削ぐ。距離を取りつつ確実に装備を破壊するんだ』
「了解!」
 相も変わらず降り注ぐビームを躱しながら、敵の隙を探り続けた。
「まだいけるよね…マンドラゴラ」
 青い軌跡を残しながら、ガンダムはひたすら駆けた。
0874◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 15:00:15.05ID:GwywEkd60
 威勢よく返事をしたものの、敵MAは高火力・高機動に加えて兵装の全容はまだ見せていない。適度な距離を保ちつつ狙いを定めるのは並大抵の事では無かった。
「調子に乗って…こいつ!」
 流石のガンダムもガタがきているのか、躱しきれない攻撃が掠め始めていた。砲撃を逸らそうと角度をつけたシールドが、そのままビームに持っていかれる。
「まずっ…!」
 シールドに腕を引っ張られる形で機体が大きく傾き、そこへ更なる砲撃が襲った。幾つかを躱し、しかし幾つかをまた掠めた。
『大丈夫か!?』
「どうにか…!」
 そういう大尉の百式もあちこち装甲を失っている。彼は近接武器しか携行していない事を考えれば、更に攻撃は難しいはずだ。
『敵のシルエットは左右対称だ。両面を相手にせず、一面を2人で叩いて敵の砲撃を散らす』
 言うやいなや、息つく間もなく大尉は半ば囮になるような形で飛び出した。上部から攻める大尉に対して、少尉は足元から敵へ接近する。
 少尉は自分を狙う砲撃を躱しながら、大尉に狙いを定めた砲門から優先して破壊を試みる。そうすることでとにかく大尉の突破口を開く。
 しかし敵も側面を晒し続けることに抵抗を覚えてか、うまく旋回しながらこちらに一面を攻めさせない。敵は再び地表から脚を離すと、今度は有線で脚部そのものを射出してきた。
「くそっ…!」
 避けきれなかったガンダムは正面からクローに掴まれた。そのままクローはガンダムごと地面に突き刺さり、身動きを封じられてしまう。
『すぐ行く!』
 転身した大尉だったが、うねりながらそれを追いかける敵の有線ユニット。すぐに追いつかれ、大尉の百式も腕をワイヤーに絡め取られてしまった。
0875◆tyrQWQQxgU 2020/07/01(水) 15:01:26.31ID:GwywEkd60
「離してよッ!」
 脱出しようと粘ったものの、遂にライフルの弾を切らした。背中のポットもうまく動作せず、抜け出す事ができない。
『こんな紐くらいで…!』
 百式は自らの左腕を薙刀で切り離すと、よろめきながらも渾身の一振りでクローのワイヤーを叩き斬る。脚部を切り離された敵機は苦し紛れにビームを乱射し、百式はそれを肩に受けた。背中のバインダーからも火を吹きながら制御を失っている。
『く…。まあ2人にしては…良くやったよな』
 百式は肩から左腕を失い、殆ど墜落する様にして少尉の傍へやってきた。薙刀を地に突き立て、軋む首を持ち上げて敵を見据える。グロムリンは地表に倒れたが、スラスターで再び浮遊しようとしていた。

「大尉…」
 少尉は思わず唇を噛む。出来ることはもう殆ど無かった。
『…少尉は下がれ。恐らくアイリッシュがこちらに合流すべく進路を取っているだろう』
 大尉はガンダムを掴んだままのクローを薙刀で切断し、脱出を促す。
「そんな!大尉が残るなら私も…」
『命令だ。こいつは私がひとりでギリギリまで引きつける。もう直に敵もエネルギーを使い果たすだろう』
「…」
 2人でここに残っていてもどうしようもないことは痛い程わかっていた。しかし、ここで素直に退けない自分がいるのもまた確かだった。大尉を置いてなど行けるはずがない。引きつけるも何も、後はやられるのを待つだけではないか。敵のエネルギーが切れる保証など何処にもない。
 現に、ここにきて敵は有線ユニットにメガ粒子を集中させようとしているのが見えた。
『早く行け!死ぬつもりか!?』
「嫌です!行きません!!…マンドラゴラ!今動かないでいつ動くのよ!意気地なし!!」
 ガンダムはフレームを軋ませるばかりで少尉の声に応えない。2人がそれぞれ叫んだその時、有線ユニットが一際大きく光った。

46話 一際大きく
0877通常の名無しさんの3倍2020/07/03(金) 13:46:06.66ID:Pe6SqJ0C0
乙です!

沈んだサラミスの部隊がアイリッシュに合流...おお、大容量! 戦艦のキャラが立ってきましたね
グレッチ艦長の成長が見事で一種の死亡フラグじゃないかなんて...せめてダカール演説までは生き残ってほしいです!
外は爆心でボドボド、中はMA出撃用にくり貫いてボドボド...大丈夫か、この要塞w
一年戦争〜コスモバビロニア戦争の間で触手のモンスターが出てくるイメージは無かったので、唐突なグロムリンにビックリしました!
全身ビームの変態野郎...いい感じにボスの風格ありますね!ジオンの発想に技術が追いつかなかった感じは好みです!
これは触手や脚を潰した分だけ身軽になって手強いタイプ...いやパイロットの経験不足でそこまでは行かないのか?
ともかく奇襲が上手くいかない展開が続いてドキドキします、スクワイヤとワーウィックは生き残ることができるか?!

続き楽しみに待ってます!
0879◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:40:19.89ID:QhFDALG00
>>876
>>878

読んでいただいてありがとうございます!

>>877

今にして思えば、前章に比べると戦艦が絡む回はあまりなかったですね。
グレッチ艦長もようやく艦長らしくなってきたというか…。

コンペイトウはその後話に出てこない辺り、拠点機能はかなり落ちてるんじゃないかと思ってます。ゼダンの門は真っ二つになるのでさておき…。笑
グロムリンは自分としては結構攻めたつもりです!でも強化版は出ませんよ!あれは流石にヤバ過ぎるので…。

そこそこ書き進めてますんで、少し投下しておきます!
0880◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:41:35.60ID:QhFDALG00
 有線ユニットが眩い光を放った瞬間、別の光がグロムリンを照らした。ユニットだけでなくグロムリン本体をも貫く。凄まじい閃光に、周囲の岩石が砕け散った。
「きゃあああ!!!」
 何が起きているのかもわからぬまま、少尉は強い光から顔を背けていた。辺りが落ち着いて思わず正面を向き直った少尉が見たものは、彼女を背中から庇った百式の胸だった。
「た…大尉!!!」
 スクワイヤ少尉は泣きながら半ば叫ぶように呼び掛けた。
『大丈夫か…?』
 崩れ落ちる様にして大尉の百式はその場に座り込んだ。彼の機体はもう殆ど大破と言って差し支えない損傷を受けていた。

『…間に合いましたか』
 フジ中尉の声だった。彼のネモが巨大なビーム砲を携えているのが確認出来る。どうやら彼の砲撃がグロムリンを直撃したらしかった。砲台自体にスラスターを備えているようで、それに機体を牽引させる様な形で少尉達の元へ急行する。
 グロムリンの有線ユニットが首をもたげたが、そこへ増援のGM2達が駆けつける。駄目押しの一斉射撃をグロムリンに浴びせ、完全に沈黙させた。
「大尉!応答して!大尉!」
『泣くな…少尉、私は平気だ…。少尉こそ怪我は?』
「よかった…もう…だめかと…」
 鼻を擦りながらも少尉は安堵した。
『全く、2人とも無茶をして…!すぐにアイリッシュも来ます。さあ、退避を』
 中尉の声を聞きながら、2人は指示に従った。ガンダムの肩を百式に貸しながらその場を一旦離れる。遅れてやってきた増援のGM2達が大破したグロムリンを取り囲み始めていた。
0881◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:42:32.83ID:QhFDALG00
 ようやく到着したアイリッシュに収容された面々は、機体をメカニックに預ける。救護班がすぐに駆けつけ2人の手当を行った。念の為医務室に連れて行かれたが幸い大きな怪我はなく、湿布だの絆創膏だのを貼り付けられるだけで済んだ。
「無茶苦茶ですよ大尉達。危ないところだった」
 遅れて医務室までやってきた中尉は呆れた様子である。実際、彼が間に合わなければ2人とも死んでいただろう。
「あのビーム兵器は?」
 椅子に座り込んだままの大尉が訊いた。
「ええ…メガバズーカランチャーです。アイリッシュに積み込んでいた狙撃用の高出力ビーム砲で、本来なら別でジェネレーターに繋がねばならないんですがね。ネモのサブジェネレーターが役に立ちました」
 遠距離用のものをあの距離で撃てば、確かにMAといえどひとたまりもない。
「流石に今回は…紙一重だったな」
 大尉は天井を仰ぐ。
「運が良かっただけですよ!全く…。2人は戦力の要です。今後はもう少し自重してください」
「済まなかった…中尉に貸しが出来たな」
 疲れ果てた大尉が力なく微笑むと、中尉がやれやれと溜息をつく。そんな様子を少尉は脱力したまま眺めていた。

 その後周囲の索敵が完了したロングホーン艦隊は、MAが出てきた時のシェルターから敵拠点へと入港した。
 状況から察するに、どうもここを任されていたらしい連中は慌てて逃げ出した様だ。或いはティターンズに協力させられていた連邦軍の正規部隊だったのかもしれない。
 ドックはグロムリンを始め様々な機体の組み立てに使用していたらしく、殆どそのまま使えそうだった。敵の動きを引き続き探りつつ補給を行っていた。
「おつかれさん。今頃連中は慌てているだろうな」
 そのまま医務室で休息を取っていた3人の元へグレッチ艦長がやってきた。
「上手く行き過ぎているとは思いましたが、思わぬ遭遇でした」
 立ち上がった中尉が姿勢を正した。気にするなと言わんばかりに艦長が手で払う。
「お前らは良くやった。いや、普通なら全滅していても仕方がないレベルだったくらいだ。…ここからは別部隊が内部からコンペイトウへ侵攻を開始する手筈になっとる」
「私達はどうすれば?」
 スクワイヤ少尉ものそのそと立ち上がる。
「んー…ゲイルちゃんのガンダムにしろ、大尉の百式にしろ、正直言ってもう戦える状態ではないな。それこそ大尉の百式に至ってはもうお手上げだ。ありゃ直す方が大変だろうよ」
「そうでしょうね…」
 それを聞いたワーウィック大尉も椅子を支えにしながら立った。
「マンドラゴラはどうなるんです?」
「ガンダムはまだ何とかなるらしい。近いうちに改修するらしいがな」
 少尉は胸を撫でおろす。機体に対して愛着のようなものを抱くのは初めてのことだった。
「余っている機体があれば良いのですが、物資も足りていない今の状況では…」
「ふふ、大尉ならそんな事を言うだろうと思ってな。良い知らせがあるぜ」
 そう言って艦長がウインクしてみせた。
「ウインクて…気持ち悪…」
「何だと!ゲイルちゃんだけボールに乗せるぞ!いいからお前ら付いてこい!」
 相変わらず唾を飛ばしまくる艦長に辟易しながら、3人は彼に続いてドックへと向かった。
0882◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:43:24.96ID:QhFDALG00
 ドックではアイリッシュを施設内に収容し、サラミス改は外からドックに括りつける様な形で補給を行っていた。それをぐるりと仰ぎ見ながら、少尉達は艦長についていく。
「連中の置いていった機体が少し残っていてな。メカニック曰く特に問題もないみたいだから、慣らし運転無しで良ければ使えるぜ」
 そこに佇んでいたのは、1機のマラサイだった。
「お前に乗ることになるとはな…」
 マラサイを仰ぎ見る大尉の目は、昔の友人にでも会えたかのように感慨深そうだった。
「わかってるだろうが、大尉が前乗ってた様な試作機とは違うからな。そこんとこ頼むぜ」
「ええ、十分です。薙刀の予備はアイリッシュにありましたよね」
 待ちきれないという様子で、大尉はマラサイのコックピットへと登っていった。少尉がふと横に目をやると、マラサイの横に主砲を取り払われたボールが転がっていた。
「で…私は?まさかほんとにボール??」
 少尉は涙目になって艦長に迫った。丸い棺桶。
「バカ言え、お前もちゃんと戦力になってもらわんと困るだろうよ!予備のGM2でいいな?元々乗ってたろ」
「ああもう…びっくりさせないでよ…」
 スクワイヤ少尉は思わず少し涙が出た。

 薙刀を携えた大尉のマラサイ、通常のライフルに持ち替えたフジ中尉のネモ、そして少尉のGM2が整備を終えて集まる。
『少尉、ボールじゃなくてほんとに良いのか?』
「うるさいですよ中尉」
 軽口を叩きながら一行はドックから続く大きな通路へと出た。
『よし、準備出来たみたいだな。軍曹、オペレートしてやってくれ』
 艦長はまだ他部隊とのやり取りもせねばならない。ごたついたブリッジを背景に、今度はグレコ軍曹がモニターに映る。
『皆さんご無事で…。これからは潜入作戦に移ります』
 前よりは幾らかマシになったが、軍曹は相変わらずおどおどしている。
『えっと…。周辺マップは皆さんの機体にダウンロード済です。別働隊が敵司令部を目指して進みますので、皆さんはそれを妨害に来るであろう部隊の掃討が任務になります。中尉の方でもより詳しい情報を集めながら進軍してください』
『わかった。現状での敵の動向は?』
 ワーウィック大尉がモノアイで周囲を見渡しながら聞く。
『詳しいことはわかっていませんが、既にこちらの動きは察知しているものと思われます。コンペイトウの外に動きはあまり見られないので、主力は施設内で待ち受けているのではないかと』
「なるほどね…。取り敢えず出くわしたやつを全部叩けば良いんでしょ?」
『まあ、そういうことだ。私が先鋒になる。後ろは2人に任せるぞ』
『「了解」』
 3人は、薄暗い施設の中へと足を踏み入れていった。


47話 昔の友人
0883◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:44:13.22ID:QhFDALG00
「そうか、上から来たか」
 レインメーカー少佐はステム少尉と共に被害報告を整理していた。デスクに向かう少佐の傍にステム少尉が立っていた。エゥーゴは前回の戦闘から引き続き正面突破を試みてくるとばかり思っていたが、敵は搦手も好むようだ。
「あちらは試作MAを配置していた筈じゃないのかね?」
「それが…逃げ帰った兵が言うには撃破された様で」
「まさか。…所詮は旧戦争時の設計ということですかな」
 ジオンの遺した設計を元に、ティターンズの工廠で復元したのが例のMAだった。とても一年戦争時の技術では建造できるものではなかったが、今の水準でならと造られた代物である。そう簡単に撃破出来る様な戦力ではない。
「しかし、腐っても対艦用のMAですぞ。それなりの損害は与えておるでしょう」
「そう思いたいものですね」
 2人共薄々感じているが、恐らく戦局はロクな事になっていないだろう。いずれにせよ補給拠点を抑えられてしまったのは痛手である。
「敵は恐らく内部からの侵攻を企てているはず…。本部の連中は?」
 ひと通りの情報を整理した少佐は椅子から腰を上げる。
「今頃になって迎撃準備を始めた様ですよ。我々も出ましょう」
 ステム少尉は前回の雪辱を晴らしたいだろう。彼にも働いてもらわねばならない。
「まあ待ちなさい。艦長から改めて指示がありましょう」

「ウィード少佐、艦の方はいかがですかな」
 ブリッジへ戻ったレインメーカー少佐は、立ったまま各部署へ檄を飛ばしているウィード少佐へ声を掛けた。
「ああ、少佐。まだまだ修繕が追いついていませんよ。…別部隊が敵の侵入を許したとか?」
「左様で」
「基地の連中の体たらくには反吐が出る。かといって…我々もここをガラ空きにする訳にはいきませんし」
 彼女の言う通り、これで要塞上部に戦力を集中した所を敵増援に横腹でも突かれてしまえばひとたまりもない。
「しかし…黙って敵の侵攻を見ているわけにもいきますまい。何せこちらは体たらくの駐屯軍が迎え撃つ形ですからな」
 レインメーカー少佐の言わんとすることはわかっている筈だ。彼女は顎に指をあて、思案を巡らせている様だった。
「…MS隊を出す。ラムと私、ステムも連れて行こう。この場は少佐にお任せしても?」
「勿論です。何かあれば直ぐにお伝えしましょう」
「助かります」
 そう言うと彼女はすぐにその場を後にした。コロニー落としの1件からはどうなることかと思ったが、心持ちも良い方向へと向いてきた様だ。
0884◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:44:44.17ID:QhFDALG00
 ウィード少佐から指揮を引き継いだレインメーカー少佐は、補修作業を急がせつつ宙域での索敵を続けさせた。今のところ動きはないが、間違いなく敵の援軍が来る。今はとにかく目の前の部隊を退けるのが先決である。
『艦はお任せします。我々は本部の護衛に』
 ウィード少佐から通信が入る。
「いってらっしゃいませ。ここらで連中との腐れ縁も切ってしまいたいところですな」
『全くですよ。…ラムの方はどうか?』
『行ける。武器の換装に手間取ったが』
 ウィード少佐の問いかけにソニック大尉も応える。ミサイルランチャーを取り外し、汎用のビームライフルに持ち替えた様だ。
『私も行けます。基地内では可変機も持ち腐れですね』
 ステム少尉のガブスレイも準備を終えて合流する。
「ではでは…皆さん、ご武運を」
 レインメーカー少佐の一声を受け、MS隊が動き始める。本部までの通り道で敵に遭遇するのは考えづらい為、恐らくは迎撃戦になるだろう。本部で迎撃せず済むに越したことはないが、駐留軍が連中を抑えきれないのは火を見るより明らかと言っていい。
0885◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:45:14.22ID:QhFDALG00
「さて…。私も自分の仕事をせねば」
 ひと通りの指示を出し終えると、小さく独り言をこぼして立ち上がった。彼の任務は艦長の代行、ましてや世話係ではないのだ。それ自体、もっと大きな目的の一部分にすぎない。
 自室に戻ると、作りかけだった報告書を仕上げに掛かった。正直、アレキサンドリア隊がここまで戦い抜けるとは思っていなかった。コロニー落としではある意味責任を負わされて左遷された様なものだが、部隊の再建が出来たのは不幸中の幸いと言っていい。これなら或いは彼らの頑張りも報われるかもしれない。
 エゥーゴもよくやる。コンペイトウでも同じ月の部隊と交戦しているのは全くの偶然だが、彼らもこの大きな絵の一部だ。
 絵は自ら描くものだ。決して筆の運びを誰かに動かされるものではない。まして、描いた絵にキャンバスを台無しにされるなどあってはならない。今はエゥーゴに花を持たせてやる部分があったとしても、最終的に描き上がる絵は我々のものだ。バスクやジャミトフ…いや、ティターンズさえも所詮は絵画の登場人物に過ぎない。
「パプテマス様…貴方が絵描きならば、私は筆で在りたいのですよ」
 報告書があらかた仕上がり、椅子の背もたれに寄りかかりながら天井を見上げた後目を瞑る。
 その瞼の裏には、荘厳で神々しい…神の意志たる絵描きの、光溢れる世界が広がっていた。


48話 神の意思
0886◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:45:58.95ID:QhFDALG00
「さて…いつ来るかな」
 ソニック大尉は辺りを見渡した。
 アレキサンドリアの持ち場を離れた彼らは、本部近くの比較的開けた通路に陣取っている。エゥーゴの抑えた地点から考えると、ここを通らなければ本部までは到達出来ない筈である。
『…正直なところ、ここまで敵が到達することがあればもう手遅れね』
 ウィード少佐が溜息をついた。左遷早々に負け戦とはつくづく運のない部隊だ。
「まあな。仮に殲滅したとしても、増援を迎え撃つだけの戦力は残っていないしな」
 変わらず索敵を続けながら応えた。
『だったら早く撤退すべきでは?このまま戦ったって何の意味も…』
 ステム少尉が口を挟む。
「はいどうぞとコンペイトウを明け渡すのか?ここを簡単に取られたらグリプス2の件も情報が渡る。俺達はギリギリ迄粘らんといかんのだ」
『そんなこと言ったって…』
 ステム少尉が言い終わるより早く、レーダーに敵反応。2機。
「来たな…俺が行く。2人はここで待機だ」
『『了解』』
 2人をその場に残し、ソニック大尉は単独で敵を追った。

 まだ本部へ続く通路には気付いていないらしく、近くで右往左往している様子がわかる。大尉は大きく迂回しながら敵の後方へと回り込んだ。
「GM2か。バッタ共はまだ来ていない様だな」
 2つの機影はGM2で違いなかった。遮蔽物を利用しつつ、背後から忍び寄る。
「…遅いんだ」
 敵がこちらに気付いたその時、大尉は先手を打って敵の1機をコックピットから撃ち抜いた。崩れ落ちる機体を盾にして更に接近すると、残る1機へ掴みかかる。頭部を抑えると、そのまま床へと叩きつけた。叩きつけられ這いつくばった敵のコックピットを静かに撃ち抜く。

「…ふむ。近い」
 ゆっくりと立ち上がりながら周囲の反応に気付いた大尉は警戒を続ける。今度は3機ほどまとまっているのを見つけた。
「戻るか?…いや、どの道かち合うなら…これ以上近づかれる前に叩くべきか」
 敵を迎え撃つ判断を下した大尉は、再び遮蔽物に隠れる。熱源反応だけでは敵味方の区別はつくまい。撃破したGM2のそれに紛れて見えるだろう。交戦距離になればこちらから仕掛けるだけのことだ。
 現れた敵は幾らか警戒心が強い様に思えた。的確にルートを選択しながら確実に進んでいる。そのうち1機のGM2が先行しながらこちらへ向かってくる。
「…後ろのやつはマラサイか。みすみす敵に機体まで奪われるとは」
 先行するGM2の後ろにマラサイが見える。識別を見るに占拠された拠点の予備機らしかった。
「!」
 その時、GM2がこちらへ発砲してきた。肩をビームが掠める。
「何故バレた…?」
 すぐにバーニアを吹かすと、敵と一定の距離を取る。敵がこちらを視認していたとは考えづらい。
「…またやつか」
 GM2、マラサイの背後に、月で見た例のレドーム付きのネモがいた。恐らくこの機体の装備でこちらが味方では無いことを判別したのだろう。
0887◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:46:32.72ID:QhFDALG00
 狭い場所なだけに軽率な動きはお互いに取れない。無勢のソニック大尉としては非常に好都合な地形である。しかし、ジリジリと距離を詰めてくるGM2。先程の連中とは一味違う様だ。
「…とはいえ、所詮はGM2とマラサイ。上等なバックアップがついたところで、ゼクとやり合うには些か性能不足だろうな…!」
 大尉は状況を打開すべく先に仕掛けた。ライフルを放ちつつ、別の遮蔽物のある位置へと飛び移る。GM2はこちらの射撃を躱した体勢から一連の動作へ繋ぐと、そのまま突進してきた。
「ほう…!身体の使い方を知っているな…!」
 感心しつつも敵に向けて近くの手頃なコンテナを投げつける。敵はそれを盾で受けたが、そのタイミングを狙ってコンテナ諸共敵を撃つ。弾薬を積んでいたコンテナが誘爆し、辺りを閃光が包む。
「む…」
 大尉も少し目が眩んだが、どうやら敵はその機会を見逃さなかったらしい。マラサイが懐に潜り込んでくる。
「この程度で!」
 瞬時にサーベルを抜くと、マラサイを両断すべく縦に振るった。しかし、逆に両断されたのはゼクの右腕だった。
「馬鹿な…」
 何が起こったかわからぬまますぐに体勢を立て直し再び距離を取ろうとするが、またもやGM2が追いすがってくる。ライフルで迎撃しようとするも、敵は螺旋状の軌跡を残しながら的を絞らせない。
「これは騙されたな!こいつら…並じゃない」
 量産機体だと侮っていたが、恐らくかなりの手練だ。閉所に関わらず連携もうまい。大尉は当たらないライフルを捨てると、今度は左手でサーベルを構えた。それに応えるようにしてGM2もサーベルを抜く。
「うおおおおッッッ!!」
 先程切断された右腕で敵のサーベルを受けると、ガラ空きになった敵の腹目掛けてサーベルを横に凪ごうとした。察した敵は地面を蹴ると、両足で左腕を踏むようにして抑えつけた。
 ゼクが肩から残る右腕を失うと同時に、敵は左腕を踏み台にして後方へと跳ねるようにして退く。入れ替わる様にして今度はマラサイが迫った。
「!…あれは」
 ふと目をやると、マラサイの得物は薙刀の様だった。バッタのそれと酷似している。
「エゥーゴでは薙刀がトレンドなのか?」
 一瞬嫌な予感がよぎったが、振り払うようにして敵と切り結ぶ。敵の太刀筋は無駄がなく、一瞬でも気を抜けばやられるのは間違いない。次第に押され始める。
「この俺がこんなところで…!舐めるなッッッ」
 敵の振りが大きくなった瞬間を見計らい、間合いを詰めた。薙刀はこんな狭い場所では扱い辛いだろうことは明白だった。懐に潜り込み、至近距離からサーベルでコックピットを狙う。
 しかし敵はそれを予測していたかの様に、ゼクの左手を抑えつつショルダータックルを見舞ってきた。思わず大尉は体勢を崩した。
「こいつ…!本当に鹵獲機か!?」
 つい前に奪われた機体の動きではなかった。固定武装の扱い方も熟知しているとしか思えない。体勢を立て直す暇もなくマラサイの薙刀が迫る。
0888◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:47:13.15ID:QhFDALG00
『大尉は勝手ですよ!』
 間一髪のところに援護射撃を挟んだのはステム少尉のガブスレイだった。バルカンによる威嚇射撃を嫌い、飛びのく様にマラサイが下がる。
「少尉か!何故持ち場を離れた!?」
『あんまりにも戻るのが遅いから…!来てみたら案の定じゃないですか!』
 正直ありがたい増援だった。しかし少尉のガブスレイも狭い場所では十分にスペックを活かすことは出来ない。
『で…?どうするつもりなんです』
「こいつらは並の連中じゃない。これ以上進まれでもすれば…。いや、刺し違えてでもここで落とす」
『なるほど。作戦らしい作戦は無しですか』
 ステム少尉の呆れた様な溜息が聞こえる。実際自分でも呆れる無策っぷりではある。変わらず敵部隊は距離を詰めてきている。
「あまり時間は掛けられん。長引くと他の部隊まで呼び寄せる事になるからな」
『それに引き換え…敵さんはいざとなれば補給に戻る事も出来る訳ですか。余計に速攻掛けないと』
「ま、そんなところだ」
『防衛やってるのがどっちなのかわかんなくなりますよ、全く』
 少尉の言うとおりだった。容易く敵に拠点を与えてしまったことがそもそもの間違いなのだが、こればかりは今更どうしようもない。
「来るぞ!」
『はい!』
 マラサイを先頭に、敵が再び攻勢に出る。2人は迎え撃つべくそれぞれの得物を構え直した。

49話 無勢
0889◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:47:43.35ID:QhFDALG00
「こんの…!デカブツ!!」
 初手のマラサイの突進をいなした青い機体に向かって、スクワイヤ少尉はビームサーベルで斬りかかる。敵は驚くほど俊敏にそれも躱しつつ、カウンターに蹴りを繰り出してきた。両腕でそれを防ぎながら、バルカンで敵の関節部を狙う。敵の膝を集中的に攻撃すると、ようやく体勢を崩した。
「貰った!」
『少尉!』
 追撃をかけようとした少尉をフジ中尉が制止する。すんでの所で下がると、ガブスレイの射撃が機体の目の前を掠めていった。ワーウィック大尉のマラサイと共に一旦距離を空ける。

『ガンダムじゃなくても…やるじゃないか』
「あの子は出来過ぎてるんですよ。たまには私も身の程も知らないと」
 スクワイヤ少尉はワーウィック大尉と軽口を叩く。敵に増援が加わったが、それでもまだ2対3だ。
『この辺りに敵影はあと1つ。増援はそちら側から移動してきた様ですが…』
 フジ中尉が辺りのデータを共有してくれていたが、先程の先制攻撃は賭けだった。高性能なエコーロケーションを利用した索敵とはいえ、味方の可能性も無くはなかったのだ。中尉の分析をあてにはしているが、仲間を撃つのは御免である。
『最後の敵が動かないあたり…何が何でもここは通したくないということだろうな』
 大尉の言う通り、恐らく残る1機のいる場所が最後の関門だろう。司令部とされる場所はそう遠くない筈だ。
 敵は待ち構えるようにしてこちらの出方を伺っている。
0890◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:48:10.80ID:QhFDALG00
『性能差はあるが、どうにかここを押し切れば…』
 その時、大尉の声を遮るようにして爆発音が振動と共にあたりに響く。
「な…何なの!?」
『爆破したのか!?』
 中尉が声を荒げる。只でさえ狭い通路が瓦礫に埋もれ始めた。強烈な振動は尚も続き、連続的にあちこちで爆発が起こっているのがここからでもわかる。
「何なのよもう!」
『下がれ!死ぬぞ!』
 頭上が崩れ、大小の岩が降り注ぐ。どうにか躱しながらあたりを見渡すが、照明がやられた様で周囲はかなり暗くなってきた。
『ちぃ!退くぞ!中尉、ナビゲートを!』
 そうこうしている間にも敵との間に大きな岩が落ちてくる。分断されたタイミングで一気に来た道を戻り始めた。敵も後退を始めた様だ。
「命拾いしたわね…デカブツ共」
『どうだかな。こっちも言ってる場合じゃないぞ』
「わかってますよ、中尉」
 何が起きているのか把握出来ないまま、中尉のネモに続く。彼の言う通り、何者かがコンペイトウを内部から爆破した様だった。

『ティターンズがやったんだろうな!』
 退避しながら大尉が声を張る。確かにエゥーゴが基地を爆破する理由は無いし、その術もない。
『まずいな…通路が塞がってる』
 中尉の声に思わず正面を向き直したが、確かに先程通った筈の通路が見当たらない。取り敢えず通路だった場所の前で一旦足を止める。爆発そのものは収まったようだ。
「ったく、ゲームの途中で盤をひっくり返す子供じゃあるまいし…。第一、あれって多分…味方諸共爆破したんでしょ?」
『だろうな…。ま、その成果に俺達を生き埋めに出来そうだが』
 大尉が苦笑いする。元々入り組んでいた通路が更に複雑になっていて、通れる場所自体も限られていた。確かにこのままでは生き埋めになる。
「中尉!他に道はないんですか!?」
『む…データの通りならもうお手上げだ』
「嘘でしょ…」
 大きく溜息をついて、少尉はもう一度モニターを見渡す。辛うじて残る灯りを頼りに目視で道を探してみるが、それらしいものは見当たらない。
『幸いMSがある。重機代わりにこいつで道を作るのもひとつだな』
 大尉のマラサイが動き出した。塞がった瓦礫を手でどかし始める。残る2人もそれに続き、地道に作業を始めた。奥まで崩れていればどうしようもないが、他にやれることもない。
0891◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:48:32.25ID:QhFDALG00
『元々ジオンがMSを開発していた時、重機の延長ということにして連邦の監視を躱していたらしいな』
 岩を退かしながら大尉が言う。
「だったらこれがMSのほんとの仕事な訳ですね」
『本当にそうだったら良かったのにな。だが、そうはいかなかった』
「私達だってそうでしょう?別に殺し合う為に生まれてきた訳じゃない」
 大尉の返事はなかった。
『そういえば…。大尉はニュータイプの存在を信じてらっしゃるので?ジオニズムとでもいいましょうか』
 珍しく中尉が雑談に加わる。
『そうだな…。ジオン・ズム・ダイクンの言うような大それたものじゃないだろうが、遅かれ早かれ人の革新はあると思っているかな。実際に人類が宇宙に生活圏を拡げたのもそうだろ』
「ふーん。そんで、最後はその宇宙で生き埋めになる?」
『かもな』
 少尉が笑うと、2人も笑った。
『第六感というか…いわゆる超常的な力の片鱗も見てきた。個人的にはアトリエ大尉もそのひとりだと思っているが…。そんなものは些細なものでしかない』
『というと?』
『人の革新ってのは…超能力のことじゃない。人を感じ、労り、共に歩む事だ。それを綺麗事だと言わずに済む時が来たら、我々はまた新しい世界にいける』
「…こんなふうに?」
 大きな瓦礫が音を立てて崩れ、通り道が出来た。
0892◆tyrQWQQxgU 2020/07/08(水) 21:49:00.75ID:QhFDALG00
 通路の向こうは比較的被害が少なかった様で、殆ど原形を留めていた。急にあたりが明るくなったせいか、幾らか眩しさすら覚える。
『上出来だ。早く行こう』
 大尉に促され、まずは先導役のフジ中尉が通り抜ける。それに続いて大尉のマラサイが進み、最後に少尉のGM2が通り抜けようとした。
 しかしその瞬間、支えを失った天井が再び崩れ落ちてきた。
『少尉!!』
「うわっ!!」
 機体に直撃する形で瓦礫が降ってくる。あっという間にあたりは暗くなり、大尉達の姿は見えなくなった。

50話 綺麗事
0894通常の名無しさんの3倍2020/07/09(木) 18:08:08.75ID:A1TC5o2Z0
乙です!

高速戦闘用バッタさん、逝く...仲間を庇いつつ機体をオシャカにするのは、もう彼の生き方そのものですね
マンドラゴラは改修√ですか。ついに0083〜Zの直系ミッシングリンクがグヘヘ...あら涎が垂れちゃいましたw
アナハイムの補給も基地からの鹵獲も充実してるようですし、どうなるか楽しみです!!
ネモ×EWAC×メガバズ、盛り杉ぃ!...すンごく好みです(笑)
サブジェネがあるとは言えジムIIだと複数機要りそうな辺り、ネモってもアナハイムの最新鋭機ですね!

ゲイルちゃんにボオル...ジオンの幻陽でパブリク配備したエゥーゴなら出しかねないw
それは冗談として大尉再びマラサイ...pixiv曰く元の長柄サーベルにはゲルググのデバイスが採用されてるそうなので
ナギナタを持たせてやるのはエゥーゴの補給体制に合わせつつ、機体への無理も少ないという意味で正解かもです

で、ゲイルちゃんもジムII回帰。僕はZ外伝をそう知らないのですが...主役級が赤ジムIIに乗るのって極めて稀では?
エゥーゴながら大尉のマラサイも当然赤でしょうし、「ヘンなパーティーが誕生した!(魔法陣グルグル並感)」ですよw
こういうところは長じてもゲリラ屋ですね

ステム君、ガブスレイみたいなゴツくて刺々しい機体で洞窟戦やりたいんだ...
私的にはファミチキ、じゃなくてハイザックくださいと言いたくなりますw
ウィード少佐、持ち直してきてますね! 彼女らの方は蹴られたガブスレイが凹みと擦り傷くらいで実質無傷
この人らにヘンなパーティーで戦わせるなんて、SさんドSさんですね...w

爺はシロッコの枝...? 少なくともウィード隊に仲間意識を持ってくれてて安心しましたが、一瞬ヒヤッとなりました
>>774辺りの「若いっていいなぁ」感は演技で、ホントはゾッコンだったとw カリスマは老若男女にウケてこそですね!
早速撤退を進言してしまうステム君、一理あるけど>>883>>886で掌くるりしてしまうのはまだまだ若いですね
(まぁ「(中に)出してください」ではなく「(外に)出してください」なら一貫してますがw)
それだけティターンズがやる気のある若者にアレを掴ませるクソ組織になってきてるわけですね、救いがねぇ...

暗殺に近い瞬殺を行うソニック...正直「屋根落とし」のイメージでしたが、案外「仕留めて候」な感じです(古いw)
ゼク・アインでかくれんぼとかホント出来る男ですね、そしてフジ中尉は敵に回すと一々嫌な男だw

敵味方識別コードをそのままに出来るのは、気心知れた少数編成だからこそですね。総力戦だと恐らく事故りますw
スクワイヤ、ジムIIに戻ったことで身軽さを生かした高機動の感覚を取り戻してきてる...?
おっ、マラサイのショルダータックル!(位置的にスパイクアーマー側ですね)
Zは撃ち合いが多くて新訳で回し蹴り追加されるくらいなので、こういうアクションは何とも嬉しいです!
そこから(額のララァがパッカーンするのであろう)ガブスレイバルカン、スゴく良く外伝してる!宇宙より映えててgood!

今度のニュンペーは出待ち...ラスボス然としてきましたが、はたして...
爆破ですよ(幻聴)。鉱山を閉山する時は労働者全員が揃ったのを確認してから閉門しますが
司令本部はウィード隊を何だと思っているのやら...さすがに爺じゃないよね?(苦笑)
基本に立ち返っての通路復旧、いいですねぇ...ワーウィックも鉄の巨人に憧れてた頃を思い出してるのかな?

私的には神も仏もない言い草ですが、人間は自然淘汰で減るにはちょっぴり強すぎるので
「殺し合うため生まれてきた」も満更嘘ではないと思ってます(思ってるから某ハゲは自重してください!)
一方的に駆除されるばかりでなく、「殺し合う」ほど力が拮抗できるだけまだマシ...と、これくらいにしときましょう

さて次くらいでスクワイヤの実情が明かされるのやら...楽しみに待ってます!
0895◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:32:23.22ID:YVtOvx+T0
>>893
>>894
いつもありがとうございます!

さて、百式改も大破してマンドラゴラも中破。イレギュラーな乗り換えイベントで初期機体に戻してみました。初期機体が量産型だとこういう時融通利いていいですね。
マンドラゴラの改修についてはもうアイディアがあるんですが、それは後ほど…。

そろそろティターンズ組も話が大きく動き始めます。
エゥーゴ組との対比も重要な部分になっているので、初期からの経緯も振り返ってもらえたらと思います。

地球から宇宙へ飛び出した人類は、本当に戦い続けるしかないのか?っていうのもテーマのひとつです。ある種のニュータイプ論といいますか…。
これも掘り下げていきますので、良かったら最後までお付き合いください!!

実は結構書き溜めていて、2章ラストに向けて一気に話が進んでいきます!楽しんでください!
0896◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:35:39.93ID:YVtOvx+T0
「く…。敵も味方もよくやるものだ」
 何者かが基地を爆破したらしかった。駐留軍がヤケになったのか…なんにせよ本部襲撃は退けた。ソニック大尉は胸を撫でおろしつつ状況を確認した。
「取り敢えず敵襲は去ったが…くそ」
 敵機の反応が離れていった。しかし大尉はその場から動けずにいる。最後に貰ったバルカンが致命的だった。おかげで機体は立ち上がることが出来なくなっていた。
「…やむを得ん。機体は放棄する。俺を拾えるか?…ステム?」
 応答がない。辺りは暗く、目視ではガブスレイを確認できない。
「くそ!こんなとこでやられるなよ!ステム!!」
 何度呼びかけても反応がない。熱源を見るにすぐ側にいる筈なのだが。
「ステム!!応答しろ!!」
『…煩いなあ』
 相変わらず姿は見えないが、確かに少尉だった。
「全く…心配かけやがって。怪我はないか?」
『ええ。心配には及びませんよ…特にあんたの心配は要らない』
「何?」
 直後、ガブスレイのライフルがゼクの脚部を撃ち抜いた。片膝をついていた機体が倒れ込む。仰向けになると、見上げた先にはモノアイが不気味に浮かんでいた。
「…何のつもりだ?今更冗談とは言わんだろうな」
『あんたが向こう見ずなおかげで予定は少し狂ったけど…ここであんたが死んだなら、俺は何とでも報告出来る』
 大尉の背に冷たい汗が流れた。
0897◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:36:11.93ID:YVtOvx+T0
 状況が飲み込めないまま、注意深く周りを確認する。
「何故こんな事を?誰かの差し金か?」
『誰の差し金でもない。俺自身の意志だ』
 ステム少尉の声は怖いほど静かだった。それだけでも彼の決意の固さは察するに余りある。
「…エゥーゴか?それともジオン残党か?」
『…はあ。やっぱりあんたの脳味噌は筋肉で出来てるらしいな』
 依然として銃口を向けたまま、ステム少尉が溜息をついた。
『先のコロニー落とし…。俺の姉、リディル・オーブ中尉は負傷した。今頃はゼダンの門でリハビリをやってる。…何故こんな事になったと思う?』
「それはエゥーゴが…」
『違う!!あんたらがしくじったからだ!!』
 ステム少尉は大きく声を荒げた。ソニック大尉は何となく事態を察した。
「…それで、俺に復讐でもしたいのか」
『…姉が軍に入るのを俺は止めた。でも言うこと聞かなくてさ…。士官学校の成績も良かったし、こっちも黙らざるを得なかった。
 MS乗りの適性があったんだろ?ウィード少佐やドレイク大尉、それにあんたとも上手くやってるって…たまにメールも貰った』
 そこで一度言葉を切ると、溜息をついた様だった。ソニック大尉は静かに聞いていた。
『自分で決めたことだ、負傷したのも戦場ではよくある事だって…そう言ってた。だとしても…俺は…守る事も出来ないくせにこんな場所へ引きずり込んだあんたらを許せない』
「…許せとは言わない。だが…お前を曇らせているものは、俺を殺したところで晴れないんじゃないのか?俺達は…仲間ではないのか?」
 返事はなかった。答えないまま彼は話を続ける。
『俺は姉の後を追うように入隊したんだ。戦争さえ終わってしまえば元の暮らしに戻れると思ったから。でも…もう元には戻れない…』
 彼が鼻をすするのが聞こえた。
『元には戻らない…だったら…作り変えればいいんだと…あの人は俺に言ってくれたんだ』
 嫌な感じがした。やはり何者かの手引なのか。
「誰が言ったんだ?シロッコ大佐か?」
『…喋り過ぎたな。これだけ聞ければ…冥土の土産には十分だろ?』
 ガブスレイが動いた。ソニック大尉は咄嗟にライフルを掴む。
『くそ!離せ!』
「日頃から鍛えてないからこうなる!」
 そのまま銃口を捻じ曲げると、軋む脚部を引き摺りながら強引にガブスレイへ掴みかかった。
0898◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:36:46.48ID:YVtOvx+T0
『往生際が悪いんだよ!』
「お前の爪が甘いだけだ」
 揉み合いになりながら、膠着の隙をみてコックピットハッチを開く。左腕以外まともに使えない状態ではまともにやり合えるはずがない。自爆装置のタイマーを起動すると、機体から飛び降りた。
 機体から転げ落ちる様にして脱出する背後で、ゼクの自爆装置が作動した。爆風に煽られ、着地も上手く出来ずに近くのコンテナへと落下した。

「ぐっ…くそ…」
 幸いコンテナの天板を破ったことがクッションになり、死なずには済んだ。半壊したコンテナの切れ目から、遠くでガブスレイが撤退していくのが見える。ほんの少しの間だが気を失っていた様だ。
 ソニック大尉は重い身体を壁で支えながら立ち上がる。身体の節々が痛むが、幸い四肢は無事だ。大きな出血も見られない。
「さて…どうしたものか」
 彼の裏切りは予想出来なかったが、恐らくはステム少尉ひとりの動きではない。そうなると部隊に戻るのも危険に思えた。
「誰の差し金なんだ…。ドラフラか?いや、あいつに限ってそんな。…或いは」
 ステム少尉を唆した人物が居るはずだ。だとすれば、部隊にいる他クルーの身も危険ではないか。
「こうしてはいられんな…」
 荒い呼吸を可能な限り整えると、壊れたコンテナから外へ出る。とにかくアレキサンドリアに戻ることにした。危険は承知の上だが、かといって他に行くあてもない。
「ぐぅ…!」
 視界が歪む。流石に無理をし過ぎたのか、ぐらりとまたその場に倒れ込む。
「ドラフラ…逃げろ…」
 薄れる意識の中で、ウィード少佐とドレイク大尉…そしてオーブ中尉の姿が彼の脳裏をよぎっていた。

51話 転げ落ちる様に
0899◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:37:19.79ID:YVtOvx+T0
「痛っ…」
 計器の光だけが取り残されたコックピットの中で、スクワイヤ少尉は頭をさすった。
『大丈夫か!?』
 ワーウィック大尉の声がする。
「何とか。でも…」
 機体を動かそうと試みるが、うんともすんともいわない。
「出られそうにないです。外から見たらどうなってます?」
『完全に姿が見えないな。埋もれてる』
 フジ中尉もいささか心配そうにしている。
『すぐに助けを呼んでくる。下手なことはせずにそこで待ってろ。いいな?』
「了解…」
 大尉の声に力なく応える。やはりGM2の馬力ではこんなものか。2人が離れていくのをレーダーから見送った。

 瓦礫に埋もれてからどのくらい時間が経ったのだろうか。暗い中で独りになると、いつの日かの出撃を思い出す。まともな回避行動も取らずに被弾して、いっそ死ねればと思いながら宙域を漂っていたものだ。少尉はあの時と同じ様に、シートの上に丸まった。
 あの時と違うのは、ここでは月が見えないことだ。何だかんだ言っても、あの景色は好きだったのかもしれない。この作戦を終えてアンマンへ戻る帰路にでも、ゆっくりと眺めたらいい。
 そんなことをぼんやりと考えていた時だった。再び辺りが大きく揺れ始める。
「何何何何???」
 動かないのは百も承知で操縦桿を握り直す。爆破の第2波が来たのかもしれない。
 ガチャガチャと意味もなく操縦桿を動かそうとしていると、少し負荷が軽くなるのを感じた。
「…いけるかな」
 バックパックに駄目元で火を入れ直し、機体を持ち上げようと試みる。周囲の揺れに共鳴して瓦礫が動かしやすくなったのかもしれない。しばらく続けていると、明らかに機体が軽くなった。
「頑張って!あともう少し…!」
 機体のダメージを報せる警告を無視して、強引に瓦礫を押し退けた。瓦礫と共に弾ける様に脱出する。ゴロリと転がって通路側へと出る事が出来た。
「あいたた…。もう…やればできるじゃん」
0900◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:37:53.56ID:YVtOvx+T0
 ガンダムほど上等なショックアブソーバーがある訳ではない。脱出の衝撃でコックピットのあちこちにぶつかりながらも、所々生き返ったモニターでどうにか辺りを見渡す。
 地形が変わるほどのことは無いが、辺りの色が違う。火災が起きているようで、壁が橙色に染まっているのがわかった。
「…もしかしてアイリッシュがやられてる?」
 嫌な予感がよぎり機体を立て直そうとするものの、GM2は先の無茶な戦闘と脱出で限界を迎えたらしい。立ち上がろうとして逆に姿勢を崩した。
「何やってんのよ!これじゃ意味ないじゃない!」
 脱出したもののこれではどうすることもできない。少尉は途方に暮れ、思わずシートにもたれかかった。
「この際…いっちゃうか」
 ヤケクソ気味に呟いた少尉は身体を起こし、素早く身支度を整えるとハッチを開いた。モニターで見るよりも鮮明になった景色が広がる。やはり所々火災が起きているが、空気が比較的少ないのかあまり燃え広がってはいない様だ。
 少尉はノーマルスーツのブースターを吹かしながら機体を離れ、生身でアイリッシュがいる拠点の方向へ向かった。

 しばらく道なりに進んでいくと、徐々に辺りの惨状が見えてくる。爆破による通路のダメージも目立つが、どうもこの先で拠点が襲撃されているらしい。恐らく敵が反撃に出たのだろう。
「うわ…これやばいんじゃない?」
 なるべく壁沿いに進みながら、可能な限り先を急ぐ。この状況で敵機体に捕捉でもされようものなら抵抗のしようがない。何せ生身である。ヘルメットの集音マイクで周囲の環境音を探るが、ノイズが酷過ぎる。
「弱った…何もわかんないや。大尉達、無事かな」
 恐らくアイリッシュは最低限の防衛線しか敷いていなかった筈だ。大尉達が合流したところで劣勢に変わりない。
0901◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:38:16.02ID:YVtOvx+T0
 少し開けた場所に出てきた。その通路の先で、交戦中のアイリッシュが見えた。拠点の内外から挟まれる様な形で襲撃を受けているのがわかる。
「やっぱりか…。でもどうすんの私」
 近くまで来れたのは良しとしても、この中を突っ切ってアイリッシュまで走るのは無謀どころの話ではない。死にに行くのと同義だ。少尉は足を止めざるを得なかった。
 すると、すぐ近くに敵のハイザックが下がってきた。慌てて壁に背を付けて息を殺す。少し被弾して一時後退したらしい。
 それを追うようにしてフジ中尉のネモが近づいてきた。的確にコックピットを撃ち抜き、ハイザックを沈黙させる。
「あっぶな…。爆発したらどうすんのよほんと!」
 中尉は彼女の存在に気付いていないらしく、すぐにそのまま踵を返した。
「あ!中尉!…気付くわけ無いか」
 通信も試みたがうまく繋がらない。まさか少尉が生身で戻ってきているとは思う筈もなく、ネモは再び戦線へ戻っていった。仕方なく、十分に注意しつつ少しずつアイリッシュへ近づく。
 大体の状況が掴めてきた。爆破の混乱に乗じて襲撃されたのだろう。それなりの戦力を投入してきたらしく、辺りに倒れている機体だけでも4機は確認出来る。あの慌ただしさからしてまだまだ居るのだろう。
0902◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:38:57.05ID:YVtOvx+T0
 すると、倒れていた機体の内の1機が上体を起こす。どうも撃破されたフリをしてやり過ごしていたらしい。すぐ近くで少尉は身を潜めた。
 そのハイザックは、瓦礫の影からビームランチャーへ手を伸ばす。
「こいつ、芋ってんのね」
 まだ敵機の存在に誰も気付いていない様だ。アイリッシュまでの射線を遮るものは何もなく、このままでは艦長達が危ない。
「はあ…こんなの正気の沙汰じゃないってば…」
 選択の余地はない。少尉は駆け出すと、ビームランチャーへと飛び移り、必死でしがみついた。

「あー!!もう嫌!!!」
 絶叫しながら少尉はビームランチャーのスコープ近くにしがみついていた。敵はそれに気づかないまま、ゆっくりとランチャーを構える。少尉からしてみれば全くゆっくりではないが、振り回されながらも絶対に手を離さなかった。
「…はあ…はあ…」
 息も絶え絶えになりながらよじ登る。携行している装備はハンドガンしかないが、スコープを傷付けるくらいのことは出来るはずだ。敵の動きが止まったのを確認すると、素早く立ち上がりスコープと対峙する。
 跳弾に注意しながら角度をつけた位置からハンドガンを見舞う。1発2発と同じ箇所に命中させた。スコープにヒビが入り、そして砕ける。
「やった!!」
 しかしその直後、ハイザックのモノアイと目が合う。当然気付かれたに違いない。
「ま、片道切符だとは思ったけどさ」
 敵のマニピュレータが迫った。巨大な掌で辺りに大きな陰が出来る。
「地球、行きたかったな。…大尉、好きでしたよ」
 ひとりで呟くと、敵の手に掴まれるより先に、目を瞑り両手を広げて背中から身を投げだした。不思議と恐怖はない。
 きっとこれでアイリッシュは守れた。ワーウィック大尉達が居ればどうにかこの局面も切り抜けてくれるだろう。
 これまで何度も死線を潜り抜けてきたし、ある種この先の人生を前借りした様な心地だった。この数カ月は自分の人生で最も充実していた様に思う。自身が何かの役に立てるということの喜びを知った。この時の為に生かされてきたのだろう。

 ただ後悔があるとすれば、大尉に直接気持ちを伝えておけば良かった。
 身体が重力に引かれて、緩やかに落ちていく。地球の重力はきっとこんなものではないのだろう。風を切り、様々な音が聞こえる。動物の鳴き声に草木の揺れる音、誰かの笑い声。
 まるで知っているかの様に鮮明なイメージが浮かぶ。いや、知っていたのか。生まれて間も無い頃の、忘れてしまった記憶。今になって、思い出したのだろうか。

52話 喜び
0903◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:39:27.77ID:YVtOvx+T0
「必ず…必ずやつらの墓標をここに」
 ウィード少佐は人目を憚らずに呟いた。本部による自爆から命からがら生き延び、共にアレキサンドリアで合流出来たのはステム少尉だけだった。彼にはそれ以上何も聞かなかった。いや、聞けなかった。
 アレキサンドリアに帰還し、レインメーカー少佐から報告を受けた。上層部は揃いも揃ってコンペイトウから脱出。残された兵達は死に物狂いで敵旗艦アイリッシュを襲撃しているとのことだった。彼らも無駄死にする気は無いようだ。

「全く本部の連中は…。しかし、我々はどう出ましょうか」
 神妙な面持ちのまま、レインメーカー少佐は訪ねてきた。
「どうもこうもありませんよ。我々は直ちに出港。のち、やつらの出口を塞ぐ。殲滅次第残存部隊を回収して、我々もゼダンの門へ」
 今まさに戦っている兵達を見捨てることはできない。彼らの戦いに報いる為にも、生きる希望を捨てさせるようなことをしてはならなかった。
「そうおっしゃるだろうと思いました。準備はしておりますよ」
 アレキサンドリアは最大戦速ですぐさま出港した。一刻も早く援護に向かわねばならない。ウィード少佐も再びニュンペーの元へ急ぐ。
 格納庫ではステム少尉も準備に取り掛かっているところだった。
「大変だったね。ここさえ乗り切れば本拠地へ戻れるわ」
「ええ…」
 声を掛けたものの、ステム少尉の様子があまり芳しくない。ソニック大尉を救えなかった呵責もあるかもしれないが、今は触れないでおく事にした。
「指揮は私が執る。あなたは…あなたのやるべきことをやればいいの」
 そういって彼の背を軽く叩き、コックピットへ潜り込んだ。
0904◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:39:54.64ID:YVtOvx+T0
『もうすぐ作戦区域です。準備はよろしいですか?』
 レインメーカー少佐から通信が入る。
「いつでも。ステム、行けそう?」
『はい』
 ステム少尉の返事がいつもより短い事を気にしつつ、ニュンペーをカタパルトに接続する。
『MS隊を射出後、アレキサンドリアは援護射撃で突破口を開きます。混乱に乗じて、お2人は破壊したシェルターから侵入してください。隙をみて本艦も上陸します。友軍の回収はそれからです』
「わかりました。頼みます。…ニュンペー、出るぞ」
 既に火の手が上がり始めているシェルターの近くへ急いだ。ここで早々に敵を叩かねば、増援が来てしまう。その前に友軍を回収し、撤退する必要がある。後ろからステム少尉のガブスレイもついてきている。

 間を置かずに艦砲射撃がシェルターに向けて行われた。外部に固定されていたサラミス改が腹から折れ、爆炎を上げる。更なる砲撃に晒し、シェルターの中がはっきり見て取れるまでになった。
『少佐、ご武運を』
 レインメーカー少佐の合図と共にシェルター内へと潜り込む。真っ赤に燃える拠点の中へ身を投じた。小破したアイリッシュをMS隊が防衛している。
「ステム!離れるんじゃないよ!」
 呼びかけながら先手を打った。こちらに気付いた敵の1機を迅速にライフルで始末する。同じ隊と思しきGM2が2機、こちらに迫ってきた。アイリッシュの機銃を躱しつつ、敵機と接触する。
 まず突出してきた先頭のGM2が抜いたビームサーベルを、すれ違い様に腕ごと切断する。こちらを振り向いたところをステム少尉がライフルで胴から射抜く。
 更に迫るもう1機の射撃を尽く躱すと、こちらからもライフルで狙撃し両腕を無力化する。武装を失いバルカンで応戦してくるGM2を背後から羽交い締めにして、機銃の弾除けに使った。これで敵の迎撃をいなしながら、どうにか着地する事に成功する。
0905◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:40:21.52ID:YVtOvx+T0
 まず周囲を確認すると、敵の数は片手で数える程になっていた。友軍による決死の作戦が功を奏したらしい。とはいえこちらの損害も尋常ではなく、かなりの数居たはずの駐留軍は10機程度にまで減っていた。
 ウィード少佐は友軍全てにチャンネルを開いた。
「皆よく聞いてほしい。よくぞここまで粘ってくれた。ここを切り抜ければ、シェルター外にアレキサンドリアが待機している。敵に構わず脱出せよ。繰り返す、脱出せよ」
 彼らは責務を果たしたのだ。今度は殿としてウィード少佐が撤退を支援せねばならない。それが、全ての兵達に示せる精一杯の誠意だった。
 通信を切ると、友軍達がシェルターの外を目指し始める。追いすがる敵機を妨害する為、ニュンペーは再び地を蹴った。
『敵の殲滅はどうするんです??』
 ステム少尉からだった。
「我々でやる。これ以上は彼らに任せられない」
『しかし…』
「私ひとりでもやる。残るか、撤退するか…ステムは好きな方を選んでいい」
『そんな』
 本気だった。ドレイク大尉も、オーブ中尉も、ソニック大尉も此処にはもう居ない。独りで戦い抜いて死ぬならばそれも本望だが、それは彼女の選択であって他の兵を巻き添えにする理由にはならない。ステム少尉も例外ではなかった。
0906◆tyrQWQQxgU 2020/07/10(金) 00:41:12.72ID:YVtOvx+T0
 追いかけて来たネモが、逃げる友軍の1機を背後から切り捨てた。更に追おうとするところをライフルで牽制する。こちらに気付いた敵機達が身を翻し向かってくる。
「来い…!全員こっちに来い!」
 全身の血が沸き立つ様な心地の中、切り結び、押し飛ばし、撃ち落とす。自分の中で何かが切れてしまっているのを感じていた。この先に何があろうと構わなかった。
 先程のネモによる正確な射撃を受ける。すんでのところで躱したものの、追撃が迫った。
「くそっ…!」
 斬撃をサーベルで受け止めたものの、足が止まってしまう。別のGM2が横から更に斬りかかってきた。
 が、すぐにライフルがそれを撃ち落とした。ステム少尉のガブスレイである。
『僕も…自分にやれることをやります』
「かっこつけちゃって…。後悔しないでよ」

53話 彼女の選択
0909◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:21:56.21ID:AvQA0wbv0
>>907
デザインは見たことあります!
結構攻めてますよね

>>908
いつもありがとうございます!

さて、1週間ほど経ったので続きを投下します
0910◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:22:38.58ID:AvQA0wbv0
 スクワイヤ少尉は目を開けた。
「あれ?死んでない」
 目の前にワーウィック大尉のマラサイが居た。よく見ると少尉はマニピュレータの上に横たわっている。
『地球…行くんだろ?諦めるのはまだ早い』
「大尉!」
 思わず涙が溢れ出す。
『1度アイリッシュに戻るぞ。下手なことはするなとあれほど言ったのに』
「すみません…」
 擦った目を遣ると、敵のハイザックは完全に沈黙していた。そのコックピットには薙刀が突き立てられている。
 マラサイはそれを引き抜くと、もう片方の手に乗せた少尉をコックピットへと促した。開いたハッチの向こうに大尉が居た。スクワイヤ少尉はそそくさと乗り込む。
「さて…行くか」
 ハッチを閉じると、身を翻したマラサイはバーニアに火を入れてアイリッシュへ向かった。

「…何で大尉は私が居るってわかったんです?」
「フジ中尉だ。少尉の声を聞いたと言ってな。気のせいかもしれないと言っていたが、まさかと思って声のした方へ向かったら案の定」
 あの時の通信が通じていたのか。通りかかったのが中尉のネモでなければ今頃死んでいただろう。
「それから…通信入れっぱなしだったろ。それで少尉だと確信したよ」
「え…!?全部聞いてたんですか!?」
「まあ…ひと通り」
 顔が熱くなるのを感じた。
「えっと…いや…いいんです。これはこれでロマンチックだったかも」
「そうか」
 大尉が笑った。
0911◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:23:11.69ID:AvQA0wbv0
 飛び交う戦火を潜り抜け、どうにかアイリッシュまで辿り着く。タイミングをみて開いた格納庫へ滑り込んだ。
「私はまた戦場に戻る。少尉は一旦降りてくれ」
「わかりました。…私もすぐ行きます」
「機体があればでいい」
 少尉はマラサイのコックピットハッチに手をかける。
「少尉…!」
「?」
 声を掛けられ、思わず振り返った。
「その…。戻ったら話そう」
「…ええ」
 少尉は笑顔で返した。少尉を降ろして周囲の安全を確認すると、大尉はすぐに去っていった。
「遊ばせてる機体なんてあるかな…」
 格納庫を見渡すが、補給を行っている機体以外は空いている様子はない。仕方なく少尉はガンダムの元へ走った。
「あ、少尉。お戻りで」
 アナハイムの技師がデータを確認しているところだった。
「この子、どうにか出せない?」
「今からですか!?うーん…」
 見る限り最低限の応急処置は出来ているようだが、あくまでも外観の話だ。
「状況はわかりますよ。ここを切り抜けられなければ直すだけ無駄ですからね。しかし…正直何が起きても責任は取れません」
 技師は苦い顔をした。
「いいわよ。動くんならそれで十分」
 それ以上返事も聞かず、少尉はコックピットハッチから機体に乗り込んだ。
『少尉、止めても無駄でしょうから…説明だけでも聞いてください』
 先程の技師がモニターに映る。
『アポジモーターの稼働率は70%ってとこです。多分使ってるうちに更に数字は落ちると思いますが。関節もかなり傷んでます。あとサーベルも1本紛失した状態ですので…』
「わかった。大尉の薙刀がまだ1本余ってたよね?」
『ドライブは可能です。でも扱えますか?長物は慣れないと結構難しいですよ』
「手ぶらよりいいわ。あれと適当なライフルを1丁貰っていくから」
 いつもと違うフレームの軋みを感じつつ、装備を見繕った少尉は格納庫を後にした。
0912◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:23:47.05ID:AvQA0wbv0
「マンドラゴラ…あと少しだけ頑張ろうね」
 カタパルトは使わず、そっと艦体の陰から出撃する。辺りは幾らか静かになっていた。注意深くアイリッシュから離れる。
『ガンダムは少尉か!やっぱりな!』
「フジ中尉!」
 ガンダムに気付いたのはフジ中尉だった。彼のネモは壁際に座礁している。周辺に敵影はない。
『やはり気のせいではなかったな。全く無茶ばかりして…』
「そういう中尉こそ。…動けます?」
 周辺に展開していた敵部隊が見当たらなかった。少し離れた場所で交戦しているらしい。
『試験部隊のやつが2機ほど残ってる。そいつらにやられた』
 ネモは脚部を損壊しており、立ち上がるのは難しそうだ。
「この辺りに敵は居ないみたいですね。中尉だけでも戻っててください。後始末は任せて」
『済まないな…。どうも敵は撤退を開始した様だ。しかし先程の2機が殿を務めている…気をつけろよ』
「大丈夫ですって。まだ死ぬには早いですから」
『死にたがりのゲイルがそんな事を言うとはな』
 中尉は少し笑ったようだった。コックピットハッチから脱出した中尉がガンダムのコックピットを叩く。
『これを少尉に託す。これまでのやつらとの交戦データを蓄積・解析したものだ』
 ハッチを開けて中尉と対面する。彼から端末を手渡された。
「ロードに時間がかかるだろうが、ガンダムの反応が向上する筈だ。ぶっつけ本番になるが…」
「中尉、ありがとうございます。安心して待っててください」
「頼んだぞ。メッセージも添えてある」
 珍しく中尉が親指を立ててハンドサインを見せた。そういうこともする男なのだと今更知って、少尉も思わず笑った。

 中尉を見送り、端末を差し込む。やはりロードには幾らか時間が掛かるようだ。友軍の動きを見る限り、敵はシェルターの外に出たらしい。
「さーて…腐れ縁もここまでにしたいね」
 拠点を放棄した時点でエゥーゴの勝利は揺るがない。しかし、まだ友軍が追撃戦を続けている。これを逃せばまた敵に反抗の機会を与えるかもしれない。ガンダムのスラスターを吹かすと、少尉は敵の姿を求めてシェルターの外へと駆けた。

54話 追撃戦
0913◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:25:11.73ID:AvQA0wbv0
「だいぶ…片付いてきたね…」
 息を切らしながらウィード少佐は辺りを見渡した。もう敵は片手で数える程しか残っていなかった。シェルターを抜けるまでの間に4,5機は落とした筈だが、それからは数えている余裕も無かった。友軍は殆どがアレキサンドリアへ向かった筈だ。
「しかし…レインメーカー少佐は何を…」
 肝心のアレキサンドリアが見当たらなかった。何かトラブルがあったのかもしれない。
『とにかく今は、目の前の連中を片付けるのが先決ですかね。このままでは身動きが…』
 ステム少尉もよくやってくれている。正直独りではここまでやれなかったと思う。彼の言うとおり、今相対している4機のMSはそれなりによくやる。特に中央に陣取ったマラサイはひとりだけ動きが違う。
「あのマラサイ…。もしかしてバッタのやつか?」
 得物が同じ薙刀だった。同じパイロットということならこの動きの良さにも説明がつく。
「だとすれば…バッタはグロムリン辺りが潰してくれたか。あの時代遅れのMAもそこそこに仕事をしたみたいね」

 こちらから仕掛けるより早く、敵が一斉に動いた。少し遅れてこちらも敵に向かってスラスターを吹かした。周りを固めるGM2の威嚇射撃でこちらの進路が狭まる。その進路の先には、マラサイ。
「ステム!遅れないでよ!」
『はい!』
 ガブスレイに背中を預ける形で、少佐は突っ込んでくるマラサイに向けてライフルを放った。マラサイはこれを華麗に躱すと、薙刀を頭上で回した。
「マラサイごときがこのニュンペーとやり合えるとでも!?」
 マラサイが振り下ろした薙刀をギリギリで躱す。回避運動から繋いだ動きでバックハンドにサーベルを繰り出した。敵はそれすら薙刀で受け止めるが、無防備になった側面にはステム少尉のガブスレイが居る。
『落ちろッッッ!!』
 少尉のフェダーインライフルにサーベルが形成され、勢いよく突き立てにいく。しかしマラサイは、避けるどころかガブスレイの懐に入り込んだ。
『何だと!?』
 フェダーインライフルはリーチが長い分、懐に潜られると扱いが難しい。薙刀を扱うだけあってそのあたりは熟知している様だ。ガブスレイは首根っこを掴まれるようにして、背負い投げの要領で投げ飛ばされた。
『くそっ!』
 着地するやいなや、他敵機のライフルに晒される。攻撃を受けるより早く可変すると、少尉は敵と距離を取った。
0914◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:27:25.79ID:AvQA0wbv0
「ちょこざいな!」
 ガブスレイを投げ飛ばしたマラサイへ、今度はニュンペーで挑む。近距離でライフルを見舞った。流石に加速の早いライフルをこの距離では避けきれなかった様で、マラサイは肩の盾でいなした。脇が甘くなった所にフェンシングよろしくサーベルで突きかかる。
 いくらパイロットの腕が良かろうと、所詮はハイザックに毛が生えた程度の量産機である。ニュンペー相手では持ちこたえられなくなるのも時間の問題だろうと思った。
 しかし、こちらのサーベルを敵は捌ききった。疲れるどころか更に動きが良くなっている様にすら思えた。こちらの攻撃の隙をつかれ、薙刀の柄で脚を払われる。
「何だ!?」
 関節部を狙われたのか、一瞬ニュンペーはガクンと体勢を崩した。見上げた先で敵のモノアイが妖しく光る。
 意を決した少佐は、敵の腰部へ抱きつくとそのまま押し倒した。先程の敵の戦術と同じく、インファイトに持ち込めば薙刀は文字通り無用の長物になる筈だ。
 しかしここでも敵の方が1枚上手だった。押し倒した勢いそのまま、ニュンペーは腹から蹴り上げられた。
「ちいぃ!」
 跳ね除けられ、再び距離が開く。明らかにパイロットとしての腕は敵の方が上を行っている。
 更に良くないのは、他の機体の動きも見ながら戦わねばならない事だった。こうしてマラサイとやり合いながらも、他のGM2が茶々を入れてくる。

 長い攻防が続く。ステム少尉が被弾し地表へ不時着した。可変してMSに戻るも、肩を損傷した様だ。
『まだやれます!お構いなく!』
 少尉が叫ぶ。そこにここぞとばかりにGM2がサーベルを抜いて迫る。
「そこッッッ!」
 少佐は交戦中のマラサイ越しにそのGM2へとライフルを放った。マラサイの頭部を掠ったそのライフルは、そのままGM2の腹部を横から貫通した。間髪入れずにガブスレイが正面から横凪に両断する。
「後3機!!」
 こちらも疲弊しているが、それは敵も同様だった。マラサイの援護をしようとライフルを向けた別のGM2だったが、弾が切れたのか空撃ちした。返す様にそのGM2へライフルを見舞い、コックピットに直撃させる。
「残弾くらい確認しておくんだね」
 極限状態の中で、本能的に次の手を選択していく。研ぎ澄まされていく感覚はあるが、余裕がないのはこちらも同じだ。再度接近してきたマラサイへの反応が遅れる。
「まだだ!」
 ギリギリのところで薙刀の柄を掴み、敵と睨み合う。長い戦いで気が遠くなりそうになりながらも、どうにか踏みとどまっていた。このマラサイに乗っているだろうパイロットとその仲間達への復讐心に支えられているからかもしれない。
「お前達だけは絶対にッッッ!!!」
 少佐は力の限り吠えた。そのままマラサイを押し退けると、敵の左腕を掴み肩から引き千切った。ムーバブルフレームの難点があるとすれば、人体構造に近い故に関節部が脆弱であることだった。モノコック構造の様な堅牢さは無い。
 もいだ腕をそのまま投げ捨てると、バランスを崩したマラサイを蹴り倒す。そこへ残る1機のGM2が間に割り込んできた。
「邪魔をして…!」
 もう後はない。割り込んできたGM2と掴み合いになりながら、その腹にライフルを突き立てる。めり込んだ状態の零距離で最後の一発を撃ち込んだ。倒れかかってくる敵機をそのまま打ち捨てる。
0915◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:29:14.91ID:AvQA0wbv0
「はぁ…はぁ…」
 息も絶え絶えの少佐の傍にガブスレイも合流する。
『残るは…』
 目の前にいるマラサイは、片腕になりながらも戦う意思を曲げずにいるようだ。退く素振りは微塵も見せない。
「あんたらの勝ちだろう!それで満足じゃないのか!?何故退かない!?」
 思わず少佐は怒鳴った。何もかも失ったこの戦いは、紛れもなくティターンズの敗北だった。なのにこの男は何故まだ追ってくるのか。
 そうはいってももう敵は満身創痍だった。これ以上何か出来るとは思えない。
「…もういい。これ以上は追ってこれまい。ステム、アレキサンドリアは?」
『…来ませんよ』
「何を言ってるの?」
『レインメーカー少佐は今頃この宙域を脱している頃でしょうね…撤退した友軍位は拾ってくれたかもしれませんが』
 耳を疑った。理解が追いつかない。
『エゥーゴがここまでやるとは思いませんでしたよ。僕自身も紙一重でしたが…あなたはここで死ぬんですよ、ソニック大尉達と同じ様に』
 何を言われているのか、意味を汲むまで少し時間がかかった。
「…まさか、ラムは…」
『あんたで最後だ。エゥーゴも片付いたしね』

55話 復讐心
0916◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:37:33.47ID:AvQA0wbv0
「全く…どいつもこいつも」
 ステム少尉は思わず毒づいた。何故戦力的に余裕がない筈のエゥーゴがこれ程までに追撃を掛けてきたのか、そしてウィード少佐は何故馬鹿正直にそれを迎え撃つのか…理解に苦しんだ。

 そもそもレインメーカー少佐との当初の計画では、初戦で少し善戦した後にウィード少佐達をエゥーゴに討たせて撤退するだけの筈だった。
 しかし、ソニック大尉が単独で侵攻してきた敵と交戦に入ってしまい、あろうことか本部の爆破まで粘ってしまった。最初の誤算である。救援に入る動きを見せつつ自ら手を下す事になってしまった。
 本部の爆破自体もレインメーカー少佐の入れ知恵だった。そうすれば上層部が脱出するだけの時間は稼げると唆したのだ。
 背後の後ろ盾を失った駐留軍は、少佐の見立て通り死にもの狂いで戦った。

 大尉の誤算だけならまだ良い。しかし今度はウィード少佐がエゥーゴ相手に善戦してしまう。混戦の中でやられてくれればそれでも良かったのだが、殿になって味方を全て逃してしまった。
 ここでウィード少佐が倒れれば次はステム少尉が敵を一手に引き受けなければならなくなるし、少佐だけ残しての撤退を取れば、抑えきれずに敵の追撃が尚一層激しくなる。
 そうなると自身の脱出すら危うくなる為、先にエゥーゴを片付ける必要まで出てきてしまったのだった。
0917◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:37:55.89ID:AvQA0wbv0
「まあこれで…試験部隊が必死に戦ったという記録はより補強されるけどね。回収した友軍が証言してくれる。…ただ、おかげで俺は割を食った」
 舌打ちしながら、ステム少尉はフェダーインライフルをウィード少佐に向けた。
『全て…レインメーカー少佐とステムが?』
「この際だから聞かせてやるよ。余りに爺さんの動きが遅いから俺が補充されたんだ。シロッコ大佐は…これ以上こんな試験部隊のお遊びに付き合っている暇はない」
『大佐が…』
 信じられないといったところか。皆そう思うのだ。自分は特別だと思い込んでいて、いざ事実を突き付けられると認めようともしない。
「コロニー落としに失敗した時点で、その責任を負うのがあんたらの最後の任務だったんだ。…姉さんの負傷の代償と一緒にね」
 姉弟揃って散々振り回されてしまった。しかしそれもここで終わる。
0918◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:38:18.70ID:AvQA0wbv0
「エゥーゴも一通りは片付いたし、あんたを始末したら…俺は合流ポイントでアレキサンドリアに拾ってもらう。それで任務完了だね」
 ため息をついてニュンペーを見据えた。もうパラス・アテネは完成の目処が立ったし、ニュンペーの量産体制も整いつつある。シロッコ大佐達もこのプロトタイプを失ったとして特別惜しくは無いのだろう。
『大体の察しはついた。それで…今なら私を殺せると?』
「逆に…殺せないと思ってるのか?」
 ソニック大尉といいウィード少佐といい、何処までも邪魔をする。もうウンザリだった。
「さよなら」
 ライフルでニュンペーを狙うと、流石に抵抗してきた。ビームを躱し、こちらを組み敷こうと掴みかかってきた。そんなところまでソニック大尉と同じなのか。
「あんたはここで終わりだ!潔く撃たれれば良いものを…!」
『そうかもね。でも、実行犯のあんたを連れて帰ってくれるほどレインメーカー少佐も甘くないよ』
「無駄な抵抗だ!惑わせて!」
0919◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:38:42.25ID:AvQA0wbv0
 取っ組み合いの最中に、背後でマラサイが立ち上がっていることに気付いた。
「何!?死にぞこないが…!」
 ウィード少佐を押し退け、今度はマラサイを撃つ。右肩の装甲が弾け飛んだが、それでも膝をつかない。それどころか薙刀を脇に挟んでこちらへ向かってきた。
「馬鹿な!たかがマラサイだぞ!?何故動ける!?」
 敵の鋭い斬撃が下から斜めに迫る。動揺した少尉は思わず腕で身を庇った。刎ねられた片腕がライフルごと宙を舞う。
「くそ!いい加減落ちろよ!!」
 残る右肩のメガ粒子砲と頭部のバルカンで集中砲火を浴びせる。しかしマラサイを蜂の巣にする前にニュンペーが接近してくる。
「どいつもこいつも何故死なない!?」
『あんたの爪が甘いから!!』
「煩いんだよ!あんたも!!」
 迫るニュンペーの頭部に蹴りを入れたものの、怯むことなくこちらを睨み返してきた。
「その目は何なんだ!」
 拡散メガ粒子砲で目くらましをし、その隙にサーベルを抜く。ニュンペーを袈裟斬りにしようとするが、マラサイの妨害に遭う。千切れた左腕を拾い上げ、スパイク部で殴りつけてきた。
「こいつ!庇う理由は無いだろ!?」
 何故敵であるニュンペーを庇うのか。大人しく寝ていれば良かったものを。打突を受けよろめきつつも、返す刃でマラサイの持つ左腕を破壊する。爆発の衝撃でマラサイは再び倒れた。
0920◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:39:05.37ID:AvQA0wbv0
『ステム…この際あなたの理由は聞かない…。でも…あなたにとってこの戦いは何の意味もないわ。…せめて生き延びてくれれば良かった』
 膝をついていたニュンペーが立ちあがる。
「ソニック大尉は俺が自ら手を下してやった。あんたもそうする事で俺の目的が達成されるんだよ…。何も心配する必要はない!!」
 再びサーベルで斬りかかり、鍔迫り合いになった。Iフィールドの反発で周囲に電撃が走る。
 どちらも満身創痍だが、的になって戦っていたニュンペーのダメージの方が深刻な筈だ。単純な押し合いで負けるとは思えない。
「往生際の悪いところまでソニック大尉と同じだな。だが…それもこれまでだよ」
 サーベルを更に押し込んだ。自分の刃で焼かれて死ぬならば、彼女にはおあつらえ向きだろう。
『私も無意味な復讐の最中だから…まだ死ねない』
 装甲表面を少し溶かしたところでニュンペーはまたサーベルを押し返してくる。
「知ったことか!あんたの分際で復讐だの何だのと…身を弁えろ!」
 その時、倒れたマラサイがバルカンで邪魔してきた。
「この…!」
 気を取られたタイミングで、次第にガブスレイが押され始める。
『そこに転がってるマラサイは勿論だけど、ガンダムがまだいる。それに…』
 これだけの連戦で、何処にこんな力が残っているのか。抑えきれず膝をつく。
『ラムをやったって言うんなら、それは胸に仕舞っておくべきだったね』
0921◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:39:31.94ID:AvQA0wbv0
「は…。ほんとに立場が解ってないらしいな!あんたは…」
『解ってないのはステム…あんただよ』
 ジリジリとサーベルが近付く。苦し紛れに持てる武装を乱射するが、ニュンペーに怯む様子は無い。
『黙ってれば上手くいったかもしれないのにね…。あんたは…ここで死ぬ』
「くそ!くそ!」
 サーベルが首元まで迫る。元々大型機のニュンペーが、更に巨大に見えた。ニュンペーは両手でサーベルを握り直す。
「何なんだよ!おかしいのはお前らじゃないか!」
『自分だけはおかしくないと思ってるやつが…1番イカれてるんだよ』
 ハッとした瞬間、視界がメガ粒子砲で白く光った。

56話 返す刃
0922◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:44:34.16ID:AvQA0wbv0
「は…うぐっ…」
 思わずウィード少佐は呼吸を乱した。沈黙したガブスレイを見下ろしながら、どうにか意識を保った。
 辺りはすっかり静けさに包まれていた。マラサイもこちらに仕掛けてくる様子はなく、そのまま横たわってこちらを見据えている。
「まさか…あんたに助太刀されるとはね…」
『事情は知らんが、ワケアリみたいだったからな』
 返答にハッとして通信機器を見る。オープン回線だった。油断に油断を重ねたステム少尉らしいといえばらしい。彼は諜報を任されるには余りに若過ぎた。

 全く心当たりが無いわけではなかった。元々レインメーカー少佐はお目付け役として着任していた。今にして思えば、彼の良いように動かされていた部分も否めない。
 それがシロッコ大佐の意思だったのだとすれば、もう初めから定めは決まっていたのだ。ステム少尉含めて所詮は捨て駒だったのだ。
 恐らく彼の言っていた合流云々も少佐の方便だろう。ここまでの事をしておいて少尉を生かしておく理由がない。
「助けてもらったことは感謝する。だが…それとこれとはまた別の話だ」
 ニュンペーは再びサーベルを起動した。
『投降したくないのはわかる。だが、直にエゥーゴの増援も来るぞ。死ぬ気か?』
「投降など出来るものか。この機体も、データも、貴様らに殺された仲間の遺した全てだ。エゥーゴに接収される位なら、ここで共々死んでやる」
『それこそ犬死というんだ』
 マラサイが膝をついて立ちあがる素振りを見せた。
0923◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:45:04.05ID:AvQA0wbv0
『エゥーゴはティターンズの投降兵も受け入れる。俺も元ジオン兵だ』
「だから何だ!お前達が仮に私を受け入れても、私がお前達を許すことはない!」
 誰も彼も皆、彼女を置いて先に逝ってしまった。オーブ中尉にも合わせる顔はない。そろそろ潮時なのだろう。この復讐心以外、もう何ひとつ手元には残っていないのだ。
「…決着を。さあ立て」
『…どうしてもやるのか』
 マラサイは、薙刀を拾いながら立ち上がった。振り返ればこの男との因縁も長かった様に思う。月面での交渉時に顔を合わせて以来、ずっと戦ってきた。敵ではあるが、ある種の敬意は芽生えていた。
「お前をここで倒して、ガンダムを倒す。そうでなければ死んでも死にきれん」
『何処かでやめにしなければ、この連鎖は終わらんよ。螺旋みたいなものだ』
「お前達を殺して終わりにさせてもらう。そんなにやめにしたければここで死ねばいい」
『…生憎、後回しにしている話があるからな』
「そんな日常すらお前達が奪った!」
 ニュンペーはサーベルを構えると、マラサイに振り被った。敵は下がる様にしてそれを躱しつつ、地を蹴って飛び上がる。
「逃がすか!」
 サーベルを回転させながら投擲する。直撃はしなかったものの、敵の脚部装甲を裂く。敵の着地より早く、ガブスレイのフェダーインライフルを拾い上げ更に追撃をかけた。
0924◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:45:33.59ID:AvQA0wbv0
『相変わらず腕がいいな』
 そういいながらマラサイは薙刀を回転させてビームを弾く。そのまま距離を詰めると、脇に抱えた状態から横凪に斬りつけてきた。
「あんたのデータもしっかり入ってる」
 受け止めるようにフェダーインライフルのサーベルを展開する。ウィード少佐自身は長物の扱いには慣れていないが、学習装置の補助で互角に渡り合う。皆が身を呈して手に入れた実戦データの結晶だ。
「バッタならまだしも、半壊のマラサイで勝てるほどニュンペーは甘くない!」
 薙刀を払うと、ノーガードの左側から蹴りを見舞った。蹴飛ばしてよろめかせたところへ更にライフルで斬りつける。
『ちぃ!』
 すんでのところを薙刀の柄で防がれる。しかしIフィールドの展開が不十分だったのか、そのまま薙刀を切断した。

 再び距離を取り睨み合う。
「自慢の長物もこれではね。もうおしまいだ」
『まだわからんさ。私の奥の手はまだある』
「ハッタリを」
 こちらからライフルで仕掛けるが、マラサイは積極的に応戦してこない。ライフルの射撃を躱しながら距離を保とうとしている様だった。
「時間稼ぎのつもりか!?そんな決着…私は認めない!」
『どうかな。早く落としてみろ』
 躍起になって追いかけていると、突然振り向いたマラサイが薙刀を投げつけてきた。ギリギリで躱したものの、ライフルを破壊された。
「わざわざ丸腰になるとは」
『お互い様だ』
 そうは言うが、肉弾戦こそニュンペーに分がある。身を翻し接近してきたマラサイだったが、突き出してきた腕に絡む様にして背後を取る。腕を捻り上げると、そのままマラサイを組み伏せた。ソニック大尉の近接格闘データも取り込んでいるのだ。
「お前如きでは…私"達"には勝てない」
『まだだ…!』
 マラサイはなおも抵抗するが、マウントを取ったニュンペーを退かすほどの力はもう残っていない様だった。
0925◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 11:46:10.68ID:AvQA0wbv0
『お前は…今…私"達"と言ったな…?』
「ああ。私ひとりでは勝てずとも、仲間の魂はここにある」
 力に任せて右腕も引き千切る。これでもうマラサイは一切の抵抗が出来ない筈だ。
「安心しろ。お前を送ったらガンダムも直ぐに送ってやる。その後で…私も逝くだろうが」
『その話はまだ取っておけ。奥の手があると言ったろう』
「何?」
『…来たか』
 マラサイが全てのスラスターを全開にして足元を滑り抜けた。掬われる形でニュンペーは尻餅をつく。マラサイはそのまま受け身も取れずに近くの岩礁へぶつかり動きを止めた。モノアイが消灯する。
「くそ…。何だ…?」
 その時、高速で接近する機体を捉えた。体勢を整えて身構え、シェルターの方向を振り返った。
『大尉!!』
 若い女の声。見覚えのある機体が姿を現した。
「…奥の手ってこれね。探す手間が省けた」
 最後の敵、ガンダムだった。

57話 私"達"
0926◆tyrQWQQxgU 2020/07/17(金) 12:38:08.31ID:AvQA0wbv0
取り敢えず投下はここまでですが、もう実は2章は書き上げています。
3章でこの物語は完結します。そちらも設定が完全に定まり次第書き始めようと思いますが、その前に2.5章を少し投下予定です。裏話的な。

乞うご期待!
0928通常の名無しさんの3倍2020/07/18(土) 19:51:28.68ID:bDHris4x0
乙です!
また間が空いてしまいました(・ωく)

洞窟で味方のはずのガブスレイに睨まれるって、ちびっちゃいそうなくらい怖い絵ですね
ステムはソニックを脳筋呼ばわりしますが、正直彼の最期まで見ても私怨なのか腹黒なのかしっくり来なかったです
まぁどっちもあったってところでしょうが...復讐一筋だったジェリドが少し恋しくなったりして
何はともあれ因果応報かなぁ。ウィードやソニックの奮戦に対してふざけてるみたいで、同情しかねます
(脳筋をバカにしてる頭でっかちなのは分かりました、自分に都合よく考えたがる子ですね)

あぁ、クローアームも使ってしっかり押さえないから、あと
さすがにビームライフルでボーザツラウフは無理ですねw 銃身が熱で溶けるか溜まったIフィールドで暴発するでしょう
(と>>897の時は思いましたが、>>918>>924で撃ってますね。筒が歪んだ程度?)
そんな時の為の銃床側ビームスピア、もっと流行っていいと思います

そして久々のハイザックカスタム、Z関連の二次創作では本編より出番が多い気がします、地味に愛され機種かと
スクワイヤ、何だかんだで生き残る方に動ける子ですね...こりゃ他の媒体でも何やかんやで長生きするぞ
サラミス、再出港叶わず撃沈...性ではありますが、かなCです!

ワーウィックに回収されるスクワイヤ、こいつら...(笑)
計画通りの改修が出来ないまま戦場に放り出されるのは、GP計画の呪いなんでしょうか
ちゃっかりEWACネモ退場、いや偵察機にあるまじき戦果の数々でした。R.I.P.

試験部隊の人間に時代遅れ扱いされるレストアMAのグロムリン君、ちょっとカワイソス
まさか乗ってたのオーブ中尉じゃないスよね...? ゼダンの門でリハビリしてるはずだし
合流ポイント...あからさまな死亡フラグw
脇を使ったナギナタ攻撃も長物ならではですね

後回しにしてる話→日常 と、ボロボロでも察しがいいウィード少佐。アイバニーズとは違うのだよ、アイバニーズとは!
仲間たちの武器やデータで戦う展開の何と熱いこと!(さっき自分を殺しかけた武器とか言わないw)
やはり最期はモノアイが死ぬワーウィックのマラサイ...しかし爆発しないですね、ジェリド機は欠陥品だったか(苦笑)
今回はお色直ししたガンダムの登場で〆、いよいよラストバトル?だぁ!

3章となるとついにZZ外伝が...?wktk
2.5章というのも気になりますね、もうSさんの焦らし屋さん!w
お身体に気をつけて、続き楽しみにしてます!
0929◆tyrQWQQxgU 2020/07/19(日) 23:04:34.45ID:1WHQhniM0
>>927
>>928

いつもありがとうございます!

ステムはどのくらい描写すべきか迷いましたが、今回はあまり掘り下げずにいく感じです。
ガブスレイは強機体だと思うんですけど、扱いも難しいかなというところで。
ライフルはもう少し状態について書いてもよかったですね!基本的には使える状態だと思ってもらえれば!使ってますし!笑

ハイザックカスタムは、ティターンズ側の量産機でマイナーチェンジくらいの立ち位置なので便利でした。笑
艦隊戦はまた書きたいですね…

グロムリンは旧戦争時の設計なんで、まあそんなもんかなと…笑
連携も取りづらいとなれば持て余しますよね…
オーブ中尉はゼダンの門に行ってます!今回は出番なしですね

正直ウィード少佐はもっと早くから描写増やしとけば良かったなぁと思わんでもないですが、序盤はあまり戦わない敵のポジションだったのもそれはそれで悪くはないかなと
ついついマラサイに乗せると頑張らせちゃいますが、いくら大尉でもこれ以上は厳しいですね

3章は元々書いた通り、Z終盤の話になります!ZZは今のところ構想は無いんですが、1章の面子がこのまま出番なしというのも寂しいところ…
取り敢えずまだまだ続きますのでお付き合いください!
0930◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:19:12.71ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉はようやくワーウィック大尉を発見した。辺りには敵味方のMSの残骸が散っており、その中に大尉のマラサイを視認出来た。
「また水色!?」
『ニュンペーだ。最後くらい覚えていくといい』
 例の試作機から女の低い声がした。こちらと同じチャンネルに繋いでいるのか。
「大尉!無事ですか!?」
『ん…一応…な。しかし…待ちくたびれたぞ』
 返答があるものの、機体を見るからに大丈夫とは思えない。両腕をもがれている上各部の損傷も激しく、これ以上の戦闘は不可能だろう。
『少し…休ませてくれ…』
「はいはい」
 着地し、ニュンペーと名乗った試作機と相対する。かなり消耗している様子だが部位の欠損もなく、大尉に比べれば綺麗なものだ。

「何で同じチャンネル開いてるわけ?」
『まあ、お互いに積もる話も色々とね』
「胡散臭…」
 軽く苛立ちを覚えながら、念の為周囲を確認する。動ける敵機はニュンペーだけの様だ。
「あんたさえぶちのめせば良いのね?」
『そうだ。私もお前さえ倒せば全てが終わる』
「別に何も終わんないわよ。何言ってんだか」
 ニュンペーにライフルを向ける。よく見ると敵は何も武装を持っていない。
「丸腰でやる気?」
『心配無用』
 そう応えるなり、ニュンペーはこちらに向かってきた。
0931◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:19:57.27ID:/Z+V/y3V0
「!…速い」
 瞬時に懐に潜り込まれる。慌てて応戦しようとしたが、敵の方が速い。ライフルを構えていた腕を取られ、あらぬ方向へ曲げられた。MS故に関節の自由度は高いが、それでもかなりの負荷が掛かる。
 その上この至近距離では、斬りかかろうにも薙刀ではリーチがあり過ぎる。
「だったら!」
 薙刀の下部を切り離し、長柄のビームサーベルに切り替えた。逆手に持ち替え敵に突き立てにかかる。流石に狼狽えたのか、それを躱しながらニュンペーは再び距離を取った。
『…先程のマラサイの方が骨があったかな』
「大尉は強いよ。でも私も強い」
『2人して手負いも倒せずに?』
 そういうニュンペーの手には、ガンダムが持っていたライフルが握られている。腕を取られた時だとこちらが気付くのとほぼ同時に発砲してきた。

「泥棒!」
『盗られる方が悪いね!』
 射撃を避けながら距離を保つ。更に敵は、こちらを追いつつ先程切り離した薙刀の片割れも拾い上げる。
「人のものばっかり使って!」
 急制動を掛けて身を翻すと、宙返りして敵の頭上を取る。が、いつもより明らかに機体が重い。
「ちい!アポジモーターがどうこう言ってたねそういや!」
 構わずそのまま敵に斬りかかる。
『遅いね』
 ニュンペーは斬撃を容易く躱すと、すれ違いざまに斬りつけた。これを躱しきれず、ガンダムは胸から左肩にかけて傷を負う。しかしまだ浅い。
「まだまだぁ!」
 着地するやいなや、更に敵へサーベルを見舞う。しかし、どれだけ切り結んでも手応えがない。全て肩透かしの様な感覚すら覚えた。例の学習装置がなせる技か。
『援護が無ければ…ガンダムもこんなものか!』
 敵のサーベルによる反撃を腹に受け、一瞬足が止まる。
『死ねッッッ!』
「誰がッッッ!!!」
 ニュンペーの振り被った薙刀に、逆手に持ったガンダムの薙刀を合わせる。かなり強引だが、再び薙刀を元の1本に戻した。
『何!?』
 敵のドライブが切断され、ビームが消えた斬撃は空振りに終わる。コントロールを奪った薙刀をそのまま敵の肩に突き立てた。
「お返し」
 そのまま最大出力でビーム刃を形成する。溢れるメガ粒子で敵の左肩が弾け飛んだ。
0932◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:20:44.65ID:/Z+V/y3V0
『小賢しい真似を…!』
 衝撃で体勢を崩しながらも、ニュンペーは苦し紛れに右肩の拡散ビーム砲を放つ。正面からそれを浴びたガンダムは、両腕で身を庇いながらも大きなダメージを被る。
「何なのよ!内蔵武器あったの…?」
 敵が後ろへ下がるのを確認すると同時に、モニターがやや乱れる。サブカメラをやられたらしい。
「はあ…あんたやるね。名前は?」
『今更聞いてどうする?』
 爆散した自らの左腕からライフルをもぎ取ると、再び発砲してきた。付かず離れずの距離で敵の射撃を躱す。
「何か武器は…?」
 逃げ回りつつ辺りを探すと、友軍が落としたらしいビームライフルを見つけた。その場に転がる様にしてそのライフルを拾うと、膝立ちで狙いを定め敵を撃つ。
『そういえばいつものネモが居ないな!』
「あんたらが落としといてよく言う!」
 フジ中尉ほど正確な射撃は出来ない。その上ニュンペーの動きは素早く、コックピット内の補助スコープを使用してもなかなか命中しない。腕の損傷もあり照準がブレる。
「もう!腹立つ!」
 スコープを押しのけながら少尉は喚いた。ライフルを携えたまま、こちらから突っ込む。当たらないなら近づいて撃てばいい。

『どうしたガンダム!!』
 近距離の射撃すらニュンペーは躱す。こちらの行動パターンがわかっているかのようだ。
「この子の名前はマンドラゴラ!あんたこそ覚えておきなよ!」
 データ頼りな動きをするというのなら、敵の意表を突けばいい。ライフルを持ち直すと、ガンカタの要領でトンファーのようにして敵の腹部を殴った。
『くっ!』
「あら、初めて?優しくしてあげようか?」
 右手のトンファーと左手の薙刀。長短を使い分けて敵に間合いを測らせない。まして片腕では捌けるはずもなく、ガンダムは敵の頭部を薙刀で切り飛ばした。
 とはいえ、ビームライフルもそんな使用を前提には作られていない。何発か殴るとすぐに使い物にならなくなった。ねじ曲がったライフルを捨て、両手で薙刀を構え直す。
「これで!」
『舐めんじゃないよッッッ!』
 敵が吠えた。また先程の拡散ビーム砲を撃つ。ビームを浴びながらも、薙刀を銃口に突き立てようとした。ビーム刃が敵に触れた時、放たれたメガ粒子が刃のIフィールドで偏光して花火の様に辺りに散らばる。
「くっそ…!」
 狼狽えた少尉は思わず下がる。敵はそれを見落とさなかった。右肩にダメージを負わせつつも、頭部を掴まれガンダムは押し倒された。両腕の上に脚を乗せる様にして組み敷いてくる。
0933◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:21:16.06ID:/Z+V/y3V0
『撤回するわ…。強いね…あんたも』
「そりゃ…どうも…」
 お互いに息を切らしながら睨み合う。こちらを見下すニュンペーのモノアイが赤く光っていた。
『いいね…教えてあげる。私はドラフラ・ウィード少佐』
「…ふん。ゲイル・スクワイヤ少尉よ」
『ゲイル…スクワイヤ?』
 ウィード少佐が聞き直した。
『ああ、思い出した。あんたが例の?』
「何よ…」
『あんたの親父さん知ってる。もう死んだって聞いたけど』
 衝撃が走る。少尉は全くこの女を知らない。父が死んだ?
『…何も知らないくせにエゥーゴに居るの?名字まで変えてさ』
「別に…。何か知ってる風だね…」
 少尉は奥歯を噛み締めた。ウィード少佐と名乗るこのパイロットは父のことを知っているらしい。
『ヴォロ・アイバニーズ…。時代遅れな特務部隊の隊長だろ?随分前会った時、娘がエゥーゴに居るって言ってたからね。親不孝なやつもいるもんだと思って覚えてたよ』
「嘘…」
 父の死を、こんな形で知ることになるとは思ってもみなかった。一瞬、最後に見た父の姿が脳裏をよぎった。

58話 データ
0934◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:21:44.59ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉は耳を疑った。父がティターンズに居たのか。
「何で…父さんが」
『…は?私が知る筈無いだろ。ニューギニア基地はとっくに陥落してる。あんたらエゥーゴが落としといて何を』
 ニューギニア基地はワーウィック大尉が前に居た戦線だ。父が連邦の人間だということは知っていた。恐らくそれなりに高い地位に居たであろうことも。わざわざ母方の姓を名乗って、七光りを隠そうと躍起になっていたところもあった。
 しかし、それがティターンズだったとは聞いていなかった。この女の言う通りなら、特務部隊故に知らなかったのか。
『…余計なことを話したみたいだね。気にしないで。すぐにあんたもあっちに逝くんだし』
 ガンダムから薙刀をもぎ取ると、ビーム刃を掲げた。
『…あんた達はフリードやラムの仇だ。でも、敬意は払う。だから一瞬で終わらせてあげる…それがせめてもの情け』
0935◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:22:37.67ID:/Z+V/y3V0
「私…何も…知らなかった…」
 ニュンペーが薙刀を振り下ろす。荒れたモニターが明るくなった。
「…余計に死ねないじゃない」
 フジ中尉から貰った端末のロードが100%を示す。それと同時に表示された言葉は"形影相同"。
「中尉…だから意味わかんないってば」
 緊急で左肩の接続を切り離し、ギリギリで薙刀を躱した。残る右腕に乗るニュンペーの脚にしがみつき、そのまま引き倒す。
『何を…!』
 形勢を逆転し、跪いたニュンペーの前に立つ。
「私が本当は誰だろうと…」
 離した左腕を拾い上げ、再度接続する。過剰な負荷のせいか、接続部から煙が上がった。
「私は…私の魂を信じる」
 呼応する様にして、サブカメラが復旧する。煙の中でツインアイが光った。

『大層なことを言っても…何も変わりはしない』
 ニュンペーが立ち上がり、こちらに向かってくる。しかし、ガンダムはそれを容易くいなすと脚を払い再び膝をつかせた。
『!?』
「皆…何も知らない癖にさ…知った様な気になる」
 てっきり少尉は、ニュンペーのものと同じ様な敵の行動パターンを受け取ったのだと思っていた。
『馬鹿にして!』
 立ち上がりながらニュンペーがハイキックを見舞う。しかしガンダムはそれに手を添えると、その蹴りの勢いで逆にニュンペーの体勢を崩させた。
『な…何が起こっている!?』
 中尉のくれたデータは敵がどう出るかのデータではなく、自機の特性を活かすにはどうすればいいかというものだった。これまでの戦闘で得た癖の補正や弱点の補強…あくまでも能動的なデータだった。
「私は…全部受け入れることは出来ないかもしれない。でも…」
 少尉は頭を空っぽにした。
「いくよ…マンドラゴラ」
 今は何も考える必要はない。後で考える事が増えただけの事だ。
0936◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:24:02.82ID:/Z+V/y3V0
『何をやったのか知らないが…!私達の血の結晶が…そんな付け焼き刃に…!』
 ニュンペーは腕部のビーム砲を放つ。これまでは内蔵兵装はエネルギー節約で極力使いたくなかったのだろうが、そうも言っていられなくなったらしい。形振り構わなくなったのがわかる。
 ビーム砲を躱しつつ、敵の落とした薙刀を取り戻す。
「私に長物は向かない。だから…」
 再度薙刀を分割し、二刀流に持ち替えた。
「その付け焼き刃、2本ならどう?」
『戯れるな!』
 ニュンペーは脚部のクローを駆使して接近戦を挑んできた。こちらの捌く2本の刃に、カポエイラの様にタイミングを上手く合わせてくる。
「…いける」
 こちらからも敵のリズムに合わせる様にして攻防を繰り広げる。そして、そのリズムを意図的に崩した。斬りかかるその時に一部のアポジモーターを作動させることで、動作スピードを瞬間的に早めたのだ。
 その一瞬が敵には捉えられなかった。クローごと右の足首を切り落とす。

『こいつ…!』
 体勢を崩しながらもビーム砲を放ってくる。流石に作動しないアポジモーターが増えてきたのか、躱しきれずに右肩のバーニアが撃ち抜かれる。推進剤による爆発の衝撃で片方の薙刀を落とす。
「ちい…」
『まだ…!まだ終わっちゃいない!!』
 ニュンペーは戦意を喪失してはいない。片膝をついた状態でありながら、残る薙刀も片手で抑え込んでくる。流石にガンダムもパワーが落ちてきているのか、敵に掴まれた左手を振り払えない。
『お前も…道連れだ…!』
 左マニピュレータの手首を握り潰される。お互いの体勢が崩れつつも、ガンダムは残るスラスターで制御しつつ敵に蹴りを見舞った。
「絶対に嫌だね…」
 アポジモーターの稼働率は50%を切っている。今の無茶な制動でもかなりやられただろう。とはいえひとまず敵の武装は殆ど破壊できた筈だ。
0937◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:24:27.86ID:/Z+V/y3V0
「こなくそ…!」
 蹴りの勢いそのままに宙返りし、ガンダムは手首を失った左腕で駄目押しに殴りつける。
『ッッッ…!』
 抵抗を試みるニュンペーだが、少尉はもう反撃の隙を与えなかった。半壊した左腕が火花を散らすのも構わず、使えるだけのスラスターを加速させながら両腕で連打を繰り出す。
「あんた達が…!どれだけ…!強かろうが…!」
 ひとつ、またひとつとスラスターが死んでいく。上がらなくなる左腕。
「どんなに…!私を…!憎もうが…!」
 息も絶え絶えになりながら、残る片腕で力の限り殴りつける。倒れそうになるニュンペーに、その時間すら与えない。
「私は…死ねないッッッ!」
 振り被った拳で最後の一撃を叩き込む。ようやくニュンペーは、その場に崩れ落ちた。
0938◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:24:53.88ID:/Z+V/y3V0
 満身創痍のガンダムは、半壊したニュンペーを見下ろした。立つことすらままならなくなった敵機は、頭を垂れずにいるのが精一杯の様だった。ガンダムは残っていた最後のビームサーベルを右手に持とうとしたが、マニピュレータが言うことを聞かない。
「もう…勝負は着いたよ…」
『ふざけるな!お前達がそれで良くても…私は…!』
 ニュンペーがここにひとりで居るということは、他の部隊は全滅したということだろう。母艦が見当たらないのは気掛かりだが、友軍らしい友軍は何処にもいない。
『私には…!もう…何も残っちゃいない…!!』
 苦し紛れに撃たれたビーム砲が頬を掠める。2発目は無かった。エネルギーが底を尽きたのだろう。ニュンペーはだらりと右腕を下げた。
「あんたひとりでどうするっていうのよ」
『例え首1つになろうと…お前らに噛み付いたまま死んでやる…』
 少尉は思わず溜息をついた。

「物騒なこと言う割にさ…。結構甘いよね」
『何…?』
 少尉は武器を手放した。
「大尉のマラサイだって、トドメを刺したければいつでも刺せた。あたしにしても、うだうだ口上述べなきゃ殺せたんじゃないの?」
 ウィード少佐は押し黙っていた。
「…結局、復讐なんて柄じゃないんじゃない?あんたのこと…よく知らないけどさ」
『私の大義は…』
 少尉は通信を切った。結局この女は殺してほしいのだ。死ぬ理由が欲しいのだろう。スクワイヤ少尉にはそれが痛いほどよく分かった。まるで自らの身を裂く様に。
0939◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:25:20.97ID:/Z+V/y3V0
 少尉は死に興味を抱いた。しかし事の本質は違ったのだろうと、今になって思う。現状を打破できない自分自身に言い訳がしたかったのだ。何でもいいから自分の生に意義が欲しかった。そんな気持ちを誤魔化すように、対岸にある死を羨望したのかもしれない。
 しかし、そんな自分を救い出してくれたのが…ワーウィック大尉であり、フジ中尉であり、グレッチ艦長だった。
 こんな自分に、手を差し伸べてくれた。死への本当の恐怖を知り、傍らに置き、そして実際に我が身を投げ出す理由すら生まれた。それでも尚生きていたいと願える今の少尉にとって、彼女の声は悲痛に思えた。
 きっと自分が多くを得た裏で、彼女は多くを失ったのだ。その幾つかは少尉が奪ったのかもしれない。横凪に腹を裂いたいつぞやのガルバルディを思い出す。
 別のガルバルディや青い大きな機体も、ここに居ないということはそういうことだろう。ガブスレイも静かに沈黙している。
 彼女は、独りだった。
0940◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:25:54.87ID:/Z+V/y3V0
「私はもう…あんたから何も奪わない」
 ひとり呟き、ウィード少佐とニュンペーに背を向けると、ガンダムはよろよろと歩き出した。もし撃てるならば、撃てばいい。彼女にはその資格があるだろう。しかしきっと撃たないだろう。彼女自身が、それを望んでいるようには到底思えなかった。
 ただ、その憤りをぶつける相手が欲しかったのだと思う。だから少尉もぶつけられるだけの全てで応えた。それでも、というのなら仕方がないかもしれない。
 すると、背後で大きな爆発が起こった。振り返ると、ニュンペーは跡形もなく自爆していた。
「…馬鹿。死ぬことないじゃない」
 思わず、少尉の頬に涙が伝う。この戦いで、本当の敵は何処にいたのだろう。少なくとも今の少尉には答えが見つからなかった。
「何か…ここんとこ泣いてばっかり…。大尉…」
 機体各部のエラーがモニターを埋め尽くし視界が赤くなっていく中、少尉はマラサイを探した。

59話 形影相同
0941◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:26:48.85ID:/Z+V/y3V0
「周辺に敵は居ないな!?」
「はい!いつでも出れます!」
 グレッチ艦長の呼び掛けに、グレコ軍曹も必死で応えた。彼女もよく頑張ってくれている。
 追撃に出たMS隊以外の回収が済み、ワーウィック大尉達を追ってシェルターから出港するところだった。
「しかし…まさか上層部が逃げ出すとはな。敵ながら現場の兵が不憫だ」
 傍でロングホーン大佐が腕を組んでいる。敵の襲撃時に彼がMSで出ると言い出した時は必死で止めた。血気盛んな男だとはわかっていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
0942◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:27:16.04ID:/Z+V/y3V0
 出港した先に広がっていたのは、激しい戦闘の跡だった。残骸ばかりで生存者は見当たらない。
「必死こいて探せ!まだ大尉もゲイルちゃんも戻ってねぇんだ!」
 グレコ軍曹達に通信で呼び掛けさせながら、艦長自身も艦橋の窓に貼り付いた。動いている機体があればそれだけでわかるのだが、まるで墓場の様に静まり返っている。
「何処行った…?何処にいるんだよ…」
 目頭が熱くなるのを感じながら何度も見渡す。スクワイヤ少尉のことはまるで自分の娘の様に思っていた。大尉と一緒にいた時は思わず怒ってしまったが、内心今の彼なら任せてもいいと思っていた。その彼も見当たらない。
「状況は!?大尉達はまだ戻ってないんですか!?」
 勢いよく扉を開けて入ってきたのはフジ中尉だった。彼も負傷しているように見える。
「わからねぇ…何処にもいないんだよ…」
 艦長は帽子を深く被って呟いた。
「そんな筈ないでしょう!?私も出ます!見つからない筈がない!」
 フジ中尉は再びブリッジから駆け出していった。
0943◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:27:45.99ID:/Z+V/y3V0
 艦長の落とした肩をロングホーン大佐が叩く。
「艦長、そろそろ増援も来る。彼らが来てからの捜索というのは…」
「何言ってんです!?もし今!あいつらが怪我でもして助けを待ってたら!誰が助けるってんですかい!?」
 目を見開き、思わず艦長は大佐に怒鳴った。ハッと我に返り血の気が引いた。もうこれで今までのゴマすりも何もかも無に帰った。
「艦長…」
「…も、申し訳…」
 ロングホーン大佐の体格の良さが際立って感じる。殴られるのかと思い目を瞑った。が、彼は踵を返した。
「私もMSで捜索に出る。戦闘ではないぞ…文句はあるまい?」
「へ…?いや、そりゃしかし」
「負傷兵の気持ちも考えず、挙げ句艦長にも怒鳴られてしまった。これでは示しもつくまいよ。なあ?」
「…」
 ズレた帽子もそのままに、大佐を見送ることしか出来なかった。

 その後も捜索は続いたが、一向に彼らは見つからない。余りに状況が酷く、現場での捜索も難航していた。
『艦長、この辺りの区画には居ないようだ』
 ロングホーン大佐もフジ中尉以下動けるパイロットと共に捜索に出て暫く経った。
「そろそろ増援も到着しますな…。結局見つからずじまいか」
 グレッチ艦長も相変わらず艦橋から目視で動きがないか探り続けていたが、成果はない。
「艦長!」
 グレコ軍曹が、これまでにないような大声を出した。驚きのあまり、思わず飛び上がる。
「びっくりさせんな!どうした!?」
「それが…」
 艦長の方を振り返ったグレコ軍曹が珍しく涙を流している。不吉な予感も感じつつ、彼女の見ていたモニターに駆け寄る。
0944◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:28:39.83ID:/Z+V/y3V0
『おーい』
 そこには、見るからにくたびれたスクワイヤ少尉とワーウィック大尉の姿があった。ガンダムのコックピットの中の様だ。
「お前ら…!無事か!今何処だ!?」
『座標を今送ります。大尉を回収するまでは良かったんですけど…いやー、ガンダムがガス欠起こしちゃって。駆動系も言う事聞かないから身動き取れなくなっちゃったんですよ。ってか通信機器も壊れかけ…やっと繋がったけど』
 少尉は何でもないことの様に笑う。
「お前…!下手したら置き去りになってたぞ!?」
 涙と鼻水が止まらない。生きていてくれて良かった。
『うわっ、ちょっと、艦長汚い…』
「何とでも言え!…ああ…良かった…良かった…」
 ひと目を憚らずに泣きじゃくった。他のクルー達も鼻をすすったり笑い合ったりしている。
「艦長、ポイントを確認しました!」
 グレコ軍曹が元気に言う。
「おう!軍曹、その調子で頼むぜ!…大佐、そこから向かえますか?」
『無論だ。もう少しそこで待っているがいい』
 身体中の力が抜けた艦長は、思わず尻餅をついた。やっと、コンペイトウを巡る長い戦いが終わったのだ。
0945◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:29:08.88ID:/Z+V/y3V0
 ボロボロのガンダムを回収し、時同じくして到着した増援の艦隊と合流する。もう少し早く来てくれれば救えた命もあっただろう。しかし、これでもロングホーン大佐が手回ししてくれた結果だ。本来ならもっと遅れていたと考えれば、これで手を打つより他無かった。
 現場の後処理は到着した部隊に任せて、アイリッシュの面々には暫しの休養が言い渡された。合流部隊との擦り合わせがあるロングホーン大佐を拠点に残し、アイリッシュはコンペイトウの別ドックへと回った。
 最後のシェルター攻防戦でかなりの損傷を負ったこの艦も、そろそろ修繕しなければならない。
「ここは任せる」
 ブリッジをクルー達に預けると、艦長は医務室へと小走りで向かった。
「あ、艦長」
 スクワイヤ少尉の気が抜けた声がした方を見ると、ベッドに寝ているパイロット達を見つけた。暇そうに欠伸をする少尉と、本を読んでいた様子のフジ中尉。大尉が1番重症な様で今も眠っているが、後の2人も安静にしていなければならないと聞いている。
「やっと顔を出せた。お前ら大丈夫か?」
「大丈夫に見えます?」
「少なくともゲイルちゃんは大丈夫そうだな」
 そう言われて少尉が露骨にぶすくれる。艦長にとっては、いつものやり取りを出来ることが何より嬉しかった。
「大尉も気が張っていた様で…ぐっすり寝てますよ」
 中尉が微笑む。彼がいなければスクワイヤ少尉はガンダムの元まで辿り着けなかったと聞いていた。中尉のネモは別部隊が今頃回収してくれていることだろう。
「そういう中尉も安静にしてねぇと駄目だろ?本なんか読んでねぇで寝てろ」
「これはまた酷い言い草ですね。せめて頭くらいは動かしていないと」
「動かし過ぎだろうよ、中尉の場合は」
 艦長は苦笑いした。やれやれといった様子で中尉は本を閉じた。
0946◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:29:34.91ID:/Z+V/y3V0
「…艦長ですか」
 大尉が目を覚ました。
「おお、騒がしかったか?すまんな」
「いえいえ、十分に寝ました」
「お前らはほんと落ち着きがねぇな。こんな時くらいゆっくりしてりゃ良いのによ」
「艦長が1番煩いでしょ、どう考えても」
「何だと?」
 少尉に噛み付くと、別の患者を世話していた医師が口元に指を立てた。艦長は申し訳なくなってシュンとした。
「…ほら、怒られた」
 少尉が意地悪く笑う。
「そんなことよりよ、お前らにとりあえず報告をと思ってな」
 艦長は少尉のベッドに腰掛けた。
「今回の作戦でコンペイトウが完全に落ちたぜ。俺たちの勝ちだ。…何だ?喜べよ」
 3人とも浮かない顔をしている。
「…勝ったのは良いんですけど。私達…何と戦ってるんだろうなって思っちゃって」
「まあ…そうだよなぁ」
 少尉の言葉は、今までよりも重く感じた。実際に彼女らは向かってくる敵と命のやり取りを重ねて、敵を殺す実感を伴いながら常に前線にいたのだ。
 掛ける言葉が見つからず、艦長は白い天井を仰いだ。

60話 天井
0947◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:30:23.01ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉は自室で目を覚ました。比較的軽傷だった彼女とフジ中尉はワーウィック大尉よりひと足早く回復後、暫しの休息を許されていた。ベッドから起き上がり、のそのそと着替える。昨夜に聞いたコンペイトウの近況を思い出していた。
 コンペイトウ制圧後、エゥーゴの部隊は戦闘で半壊した基地の整備を進めていた。基地に残されていた少数の捕虜を受け入れつつ、拠点の調査や捕虜の証言などで基地の役割の全容が見えてきていた。
 ロングホーン大佐達の読み通り、ティターンズは大量破壊兵器…コロニーレーザーの建造に着手していた。コンペイトウはその資源の加工・中継なども担っていた様だ。しかし既に粗方の作業は終えていたらしく、拠点としての役目を一定終えた後だったことが伺える。
「んー…」
 背伸びをして制服の皺を伸ばす。休息と急に言われても何をしたら良いかわからない少尉は、とりあえずブリッジへと向かった。
0948◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:30:47.14ID:/Z+V/y3V0
「おう!お前らは休んでて良いんだぞ?」
 腕組みしたままグレッチ艦長が振り返った。
「そんな事言われても、こんな場所じゃバカンスって気分でも無いし。…少し痩せました?」
「おっ、そうかな?」
 艦長が少し嬉しそうに腹をさする。多分飲酒の量が減っているのだろう。酔っている暇もなかったか、酔えなくて飲むのを辞めたのか。
「まあ…まだ飛び出てますけどね、そのお腹」
「お前とは胃袋が違うんだ、胃袋が」
 艦長はそういってさすっていた腹をポンと叩いてみせた。
「ま…後で教えようと思ってたんだがな。…キリマンジャロ、落としたみたいだぜ」
「へえ。じゃあ地上の大きな拠点はひと通り攻略出来たんですね…」
「ダカールの議会がまだ残ってる。軍事施設の掃討はカラバに任せられる規模になってきたみたいだけどな」
 少し前まではティターンズの天下だった地球も、勢力図が大きく塗り替えられてきた。ジャブロー攻略に始まり、それこそニューギニア基地の攻略も大きな転機になったはずだ。
「…艦長」
「どうした?」
「ニューギニア基地攻略の話…いや、私の知りたい事…何か知ってます?」
「…」
 艦長が押し黙った。心当たりのある様子に見えた。
「私…」
「…あー…疲れた!軍曹、ちょっと久々にサボってくるわ」
「え、でもロングホーン大佐が…」
 グレコ軍曹がおどおどと慌てる。
「適当に話合わせといてくれ!…付き合えやゲイルちゃん」
 呆れているグレコ軍曹に苦笑いしてみせつつ、少尉は黙って艦長についていった。
0949◆tyrQWQQxgU 2020/07/23(木) 23:31:17.88ID:/Z+V/y3V0
 艦長の自室前までやってきた。
「お前、俺の部屋来るの初めてだなそういや」
 そう言いながら扉を開けた艦長は、どうぞといった風に手で部屋へと促した。
「へー、意外と片付いてるもんですね」
 少尉が部屋へ足を踏み入れると、小綺麗な空間が広がっていた。見るからに高そうなオーディオやウィスキーのボトルが目に入る。月面でのゴタゴタの中で積み込んだと思うと、力の入れる場所を幾らか間違えている気もしないではないが。
「まあ適当に座れ。…水でいいか?」
「コーラとかないんですか?」
「オーケー、水でいいな」
「聞く意味ありました?」
「生憎切らしててな」
 近くにあったスツールに腰掛けつつ、艦長からコップを受け取る。
「で、ニューギニア基地の話だっけか。俺も当然現場にいた訳じゃないが…何故今更そんな事を気にしてるんだ?」
 横並びにグレッチ艦長も腰掛けた。
「…私、まどろっこしいいい方は性に合いません。その…艦長ならヴォロ・アイバニーズのこと…」
「何処で聞いた?」
 珍しく艦長の反応は早かった。声もいつもより幾らか落ち着いて聞こえる。
「コンペイトウで…成り行きですよ」
「成り行き…まあ、そういうこともあるのかね」
 立ち上がった艦長は、自分のグラスを注いだ。
「…ここから先、お互いに隠しっこは無しだぜ」
 片手にグラスを持ち、片手で少尉を指差しながら艦長が眉をひそめた。水を口に運びながら、少尉は次の言葉を待つ。
「一年戦争終盤だったかな。ゲイルちゃんの親父さんには世話になった事があってな…。あれはそれこそコンペイトウ、いやソロモンで前線にいた時の話だ」

61話 成り行き
0951◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月) 00:04:25.76ID:xPbph6ya0
 いつかこんな日が来るのだろうとは思っていた。グレッチ艦長は軽く溜息をついた。
「先にひとつ言っとくが、お前の親父さんは確かにティターンズだった。だが、だからって悪人だった訳じゃあない。寧ろ出来た人だった…怖いくらい」
 スクワイヤ少尉は、手に持った水に映る自らの顔を見つめている。
「昔の話になるが、俺は当時イケイケのバリバリだった…」
 それを聞いた少尉が笑って鼻をこする。艦長としては少しでも気を楽にして聞いてほしかった。実際には、当時の艦長は今よりももっと気弱だったものだ。
「そんな俺も、戦艦が沈むとなればどうしようもなくてな。ソロモンでの戦いで乗艦がやられた。だが…当時の上官は退くことを良しとしなかった」
 口にしながらその時のことを思い返す。
0952◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月) 00:05:03.94ID:xPbph6ya0
 一年戦争において、ソロモン戦は敗北の許されないものだった。グラナダを叩くにしろア・バオア・クーを叩くにしろ、ソロモンは絶対に抜かねばならない。そのプレッシャーもあったのだろうが、それでも艦は沈む時には沈むのだ。
 ましてジオンの巨大MAなどと交戦になれば、簡単に基地を攻略など出来はしない。メガ粒子砲を艦体に受け、いよいよとなった当時の上官の焦りと恐怖で歪んだ顔を思い出す。
「…クルーも道連れに玉砕なんて訳にいかねぇ。当時副官だった俺は脱出を提言したよ。上官はおかしくなっちまって、あろうことか俺に銃を向けやがった…。俺が命令を聞けないと言ったその時さ」
 イカれた上官に撃たれるのが先か、艦が沈むのが先か。いずれにせよ死を覚悟したその時、全身が血で塗れた。
「…上官はその場で撃ち殺された。ヴォロ・アイバニーズ…お前の親父さんにな。同じ艦に乗ってたんだ。あっちはパイロットだった。
 艦の被弾時に丁度補給へ戻ってきていて、ブリッジのゴタゴタを聞きつけて来てみたら…俺を撃とうとしてる上官の姿が目に入ったってな訳だ」
 少尉は何も言わず、またコップを覗き込んでいる。何を考えているのか窺い知ることは出来ない。艦長はそのまま話を続ける。
「上官を殺すなり、俺に向かって『あんたが1番階級が高い。指示をくれ』なんて言うからよ。そらもうクルー連れて皆で一目散に逃げ出した。おかげで皆助かったんだ」
 艦が沈んでしまえば、証拠も一緒に消える。わざわざあの上官の事を証言する様なクルーも居なかった。
0953◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月) 00:05:28.59ID:xPbph6ya0
「そんでま…彼とは終戦後も多少交流があったもんでな。…ほんと言うと、ゲイルちゃんがまだガキの頃に何度か会ったりもしてるんだぜ」
「うそん」
 顔を上げた少尉が、当時のまだ子供だった頃の彼女と重なる。丁度思春期真っ只中で父親と上手くいっていなかったのか、その父親が連れてきたグレッチ艦長とも殆ど顔すら合わせようとしなかったのを憶えている。
「デラーズ紛争も終わったあたりの頃だったな。長いこと連絡を取ってなかったら、久々にあっちから寄越してきてよ。…自分の身に何かあれば娘を頼むってさ。最初俺は何の事だかさっぱりわからなかった」
「…それってつまり、ティターンズに入るからってこと?」
「そういうことだった。俺がティターンズに入る様な柄じゃない事はあっちも知ってたからな。同じ連邦とはいえ、詳しいことは伏せたんだろうよ」
 彼自身、娘が軍に入るとは思っていなかったのだろう。あの手この手で護ろうとしていた。その為に、時には汚い仕事もやった筈だ。気付けば…連絡など取れない様なところへ逝ってしまった。
0954◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月) 00:06:54.25ID:xPbph6ya0
「親父さん…俺に相談出来るのはティターンズに入る前が最後だとわかってたんだろうな。なし崩し的に俺はエゥーゴに入っちまったし。結果的にはそのおかげで上手く行ったけどよ」
「じゃあ…私がいつまでも哨戒任務に就かされてたのは、父さんと艦長のせいってことですか…?」
「まあ…そうだな」
 少尉は何かを言いかけてすぐ口を閉じた。言わんとすることは艦長にも痛いほどわかる。
「ゲイルちゃんの為だった。とにかく死んでほしくなかったんだよ…親父さんは」
「それで自分は死んだっていうんですか!?」
 艦長を遮り少尉が立ち上がった。コップを持つ手が小さく震えていた。
「落ち着け。…続けるぞ?」
 少尉に背を向けるようにして艦長は窓際へ行った。
「この事を知っているのは俺と…ロングホーン大佐だけだ。ティターンズの将校の娘がエゥーゴにいるなんて知れたら、過激なやつが何をするかわからん。とはいえ…この状況下で戦力を遊ばせておくわけにもいかなくなってきた。大佐が最大限に手回しした結果が…」
「マンドラゴラですか」
 少尉が俯いた。艦長は彼女自身の力量もガンダムを与えられた理由の一つだと思っているが、彼女はそうは考えていない様子だった。
0955◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月) 00:07:36.95ID:xPbph6ya0
「まあ何にせよ、ゲイルちゃんの活躍で俺達はここまで来れた。もう俺達が守ってやらなくたって…お前はやっていける」
 そういって艦長は少尉を見つめた。
「そんなの…身勝手ですよ…」
 見つめ返してきた少尉の目には、哀しみや憤りが入り混じっていた。背けたくなる気持ちを抑え、じっと見つめる。
「私のこれまでは…私自身の意志で決めてきたと思ってました。でも…」
 彼女が肩を落とす。小さな身体が更に小さく見えた。
「お前はお前だ。父親が誰だろうが、何に乗っていようが、お前はお前なんだ」
「だったら何で父の事を隠していたんです!?何故ガンダムなんか寄越したんです!?」
 少尉が半ば叫ぶ様に吠えた。
「ゲイルちゃん…」
 肩に触れようとした手を振り払われる。
「…許してくれとは言わない。ただ、少しでも知ってしまったなら、全てを誤解なく知っていてほしかったんだ。伝えるのが遅くなって…済まなかった」
 彼女が知ってしまった以上、今更何かを隠すことは出来ない。艦長は自分のデスクから一束の資料を引っ張り出した。
「…これに、お前の親父さんの事が書いてある。俺が掻き集めた全てだ…持っていくといい」
 目を合わせることもなく、少尉はそれを奪い取る様に受け取る。
「…失礼します」
 去っていく彼女の目には涙が光っていた。
「…アイバニーズ。お前の娘は今日も元気だぜ…。なあに、大丈夫だ。強い子に育ってる」
 独り取り残された自室で、艦長はグラスを空けた。

62話 いつかこんな日が
0956◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月) 00:12:35.71ID:xPbph6ya0
 スクワイヤ少尉はひたすら走った。何処に行くでもなくただ走った。流れる涙も拭かず、ぶつかる肩も気に留めなかった。
 父は敵でありながらずっと見守ってくれていたのだろう。それなのに自分はそんな事も知らずにいた。ただ自惚れ、玩具を与えられて喜ぶ子供の様にガンダムに乗っていた。そして父は、少尉も知らぬ所で独り死んでいったというのか。

「はあ…はあ…」
 息が切れ立ち止まった場所は格納庫だった。目の前には、傷だらけのガンダムが佇んでいた。
「お前も…私と一緒か」
 呟いて、コックピットハッチを開く。すっかり乗り慣れたシートに彼女はうずくまった。生死を共にする覚悟で一緒に戦ってきた機体には、長年連れ添った家族の様な気持ちさえ湧いてくる。シートが暖かく少尉を包んだ。
 いわゆるガンダム開発計画の末裔であるマンドラゴラは、本来ならばあってはならない機体だった。エゥーゴにいてはならない人間だった少尉が乗るには、おあつらえ向きだったのかもしれない。鼻つまみ者同士、気が合うわけだ。少尉は自嘲気味に鼻で笑った。
「…」
 艦長から受け取った資料に目をやる。父の全てがここにあると言っていた。鼻をすすりながら手に取ると、ページをめくっていった。
0957◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月) 00:19:51.58ID:0v0DPqXX0
なんか連投規制掛かりました…笑
変なとこで切れてますが1日お待ちください…
0959◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火) 00:25:39.26ID:m1HvhbmY0
 艦長の言う通り、一年戦争時はパイロットとして戦った様だ。終戦後は残党の拠点を虱潰しにまわり、いつしか特務部隊の隊長として任務をこなす様になったことがわかった。そして、ティターンズからの勧誘。そこから先の資料は、黒塗りや切り抜きが急に増えた。
 読める範囲で目を通す限り、東南アジア地域のエゥーゴ・カラバを追う任務についていた様だ。
「これって…」
 エゥーゴ側の資料と、ティターンズ側のものと思われる資料が入り混じっている。父が追っていた部隊というのは、ガルダ級とその戦力だった。そこにあった名に、ページをめくる手が思わず止まる
「カラバに合流していたエゥーゴの構成員…ワーウィック大尉とアトリエ…中尉」
 彼らは父と交戦していた様だ。偶然とはいえ、その事実に少尉は震えた。嫌な予感がする。しかしここで資料を閉じることはどうしても出来なかった。
 そして、その予感は的中する。ニューギニア基地攻略作戦。ここで父の情報が途切れる。最後まで戦っていたことだけはわかったが、父が戦った最後の相手は…試作機のマラサイとガンダムだった。
「そんなことってあるの…?いや、でも…」
 父を殺したのはワーウィック大尉なのか。或いはアトリエ大尉なのか。しかし、この資料にどれ程の信憑性があるのかもわからない。
「…本人に聞けば」
 それがもし事実なら、あまりにも酷だった。自分の愛する人が、父を殺めたかもしれないのだ。戦争で敵味方に別れている以上、仕方のない事ではある。だとしても、それが事実なら少尉はどうすればいいのか。洗いざらい話すよう問い詰めるべきなのか。或いは後ろから撃てばいいのか。どちらも少尉に出来ることではなかった。
 恐らく、大尉はこの事を知らないのだろう。艦長も話してはいないだろうし、大尉がこの事実を知った上で接してくれていたとは流石に思えない。
0960◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火) 00:26:26.50ID:m1HvhbmY0
 しかし疑問も残る。何故ロングホーン大佐とグレッチ艦長は、この事を知りながら同じ部隊に2人を配置したのか。
「…ああ、そういうことか」
 あくまでも推測だが、万が一少尉がティターンズと繋がりがあった場合に対処できる様、特務部隊と交戦経験のある大尉を呼んだのだ。大尉の着任をまともに把握していない風だったグレッチ艦長はともかく、大佐の様な立場の人間ならその位は考えるだろう。
 そして、もし何かあった時に揉み消せる機体…マンドラゴラを寄越したのだとすれば辻褄も合う。
 しかし、それ程ティターンズとの内通を警戒していたのなら大尉に話していてもおかしくないのではないか。少尉は疑心暗鬼に陥っていた。
0961◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火) 00:27:12.05ID:m1HvhbmY0
「ここに居たんだな…。大丈夫か?」
 ハッチの外の声に驚き、少尉は思わず顔を上げた。フジ中尉だった。
「ああ…中尉ですか…」
 資料をシートに隠してハッチを開けた。
「大尉じゃなくて悪かったな。廊下で声を掛けても無視して走っていったから、何事かと」
 気づかなかった。それどころではなかったのだが、少し悪いことをした。
「何でもないですよ。ただ、ガンダムが気になって」
「ふん、それならいい。無理に話す必要はあるまいよ」
 察したのか、中尉はそれ以上深く聞かなかった。
「…あ、そういえばあのデータ…」
「あれか?ちゃんとロード出来たみたいで何よりだ。役に立ったろう?」
「無かったら危なかったかもしれません。にしてもあのメッセージ何だったんです?意味わかんない」
「相変わらずだな。少しは言葉や歴史を学んだらどうなんだ」
「いいから教えてくださいよ」
 中尉は意地悪く笑った。

「形影相同…。影の形というものは、身体と相同じ様に動くだろう?転じて、心が正しく動いたならば、物事もその様に動くだろうと言うことだ」
「ふーん、なるほど」
 父は、間違った行いをしたのだろうか。娘の為に誤った道を歩み、その結果死んだというのだろうか。ならばそうして残された少尉は、過ちの産物なのか。
「…私達は、正しいんでしょうか」
 少し驚いた様に中尉が眉を動かした。
「誰にも正しいことなんてわからん。だが、正しいと思った事をやらねば何も変わらん。影は、私達が動かなければ動かないだろう?」
「中尉にもわからないことってあるんですね」
「わからんから学ぶんだ。少尉も本くらい読めばいい」
 そういって、持っていた本で軽く少尉の頭を叩いた。
「…何かあればいつでも呼べよ」
「ありがとうございます」
 彼が去っていった後も、少尉はしばらくシートにうずくまっていた。

63話 正しいこと
0962◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火) 00:27:53.10ID:m1HvhbmY0
 艦長との一件の後、少しの時間が経った。スクワイヤ少尉達はコンペイトウでの休息を終え、アイリッシュもまたコンペイトウを後にすることとなった。アンマンに戻り、グラナダのアナハイムチームによるガンダム改修や新型機の受領を行う為だった。
 小さくなっていた月も随分大きくなり、長い戦いがひとまず終わったのだという実感も少し感じられる。そんな月をしばらく眺めた後、少尉は自室を出た。
 ワーウィック大尉の容態もすっかり快方に向かい、そろそろ彼も自室での待機を許される頃合いだ。スクワイヤ少尉は大尉を手伝う為、医務室へと向かった。

「ああ、済まないな少尉」
 大尉は丁度身支度を始めているところだった。
「言っても病み上がりですもん。手伝いますよ」
「少尉こそ…ここのところ、あまり元気がないみたいだが。…大丈夫か?」
 あの一件以来、艦長ともギクシャクしたままだった。ワーウィック大尉にもどう接すればいいのか測りかねているところがある。
「別に…。さ、行きましょ」
 大尉についていく形で医務室を後にする。2人で廊下を歩きながら、何か話題がないか探した。
「…そういえば、月に戻ったら新型を受領するとかなんとか。大尉が乗るんでしょ?」
「そうなるのかな。グラナダの工廠で作ったらしいが…ジオン系の機体なら扱いも楽だ」
 大尉はいつもと変わりない。それはそうだ。考えてみれば、変わってしまったのは自分自身の心の持ちようだけだった。
「少尉のマンドラゴラも改修するんだろ?」
「らしいです。私は元通り直してくれればそれだけで全然良いんですけど、アナハイム的にはもっとデータが取れるから改良させてくれって」
「ま、少尉とガンダムはもうワンセットみたいなものだからな。少尉の活躍を考えれば、彼らが張り切るのも無理はないさ」
 これまでの少尉なら素直に喜んだ。しかし今の少尉には、大尉の何気ない言葉すら何処まで信じられるのか確証がなかった。
「…大尉」
 思わず立ち止まる。やはり、もう今までと同じでは居られない。
「どうした?やっぱり何か変だぞ」
 大尉が覗き込むようにして心配する。その彼の気遣いすら痛かった。
「…聞きたいことがあるんです。その…色々」
0963◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火) 00:28:24.25ID:m1HvhbmY0
「まあ、そうだよな。構わんよ。…立ち話もなんだし、取り敢えず荷物を置いてきていいか?」
 そういって大尉は荷物を受け取り、そそくさと自室へ入っていく。少尉はつい彼の袖を掴んだ。
「私…」
 誰を信じたらいいのかわからなかった。そのことを伝える術も、無かった。
「…入るか?散らかってるが…」
 少尉は頷いた。彼は優しく部屋へ迎え入れてくれた。
 病室にしばらくいたせいか、部屋は少し埃っぽい。物はそんなに多くもないが、生活感のある部屋だった。大尉がバタバタと衣服を片付ける。
「すまんな、普段はもうちょっと片付いてるんだが…」
 彼は苦笑いしながら、まとめた衣類を籠に投げ込む。そんな大尉を眺めていると、少尉も少し気持ちが落ち着いた。ふと傍の棚に目をやる。何処かの格納庫で撮影したのだろうか、部隊の集合写真が目に入った。

「これって」
「ああ、一緒に戦ったカラバのメンバーだよ。ここに来る前に撮ったやつでな。皆元気だといいが」
 少尉はその写真を手に取った。カラバのメンバーと共に、ワーウィック大尉と肩を組んでいるアトリエ大尉。その傍には戦場に不似合いな女の子が満面の笑みで写っていた。
「この子、誰かの子供とか?」
「いや、ガルダ級に潜り込んだ迷子だ」
 ひと通り片付けの済んだ大尉がベッドに腰掛ける。
「迷子…。ガルダ級ってザルな警備してるんですね」
 思わず少尉は笑った。
「見つけた時は私も正直目を疑ったよ。しかしまあ不思議なものでな…彼女はいわゆるニュータイプというか…」
「そういうことなら仕方ないですね」
「いやいや、本当に。研究所に居た娘なんだ」
「へぇ…」
 ショートヘアの活発そうな子だ。写真でもアトリエ大尉にパンチを食らわしている。
「…おっと、すまない。ついついお喋りになってしまうな。そんな事より、少尉の聞きたい話があるだろ?…こないだの返事だよな」
 手遊びしながら、大尉も少し落ち着かない様子で言った。
「それは最後に聞かせてください。…大尉が地球で戦ってた時の話も聞きたかったんです」
 そういって少尉もベッドに腰掛けた。
0964◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火) 00:30:21.92ID:m1HvhbmY0
 大尉は色んな話を聞かせてくれた。アトリエ大尉との出会い、先程の少女…メアリーのこと。カラバの仲間の話や、ジオン残党との共同作戦も興味深い話だった。今更だが、ワーウィック大尉がどんな道程を辿ってきたのか知ることが出来たのも少尉にとって嬉しいことではある。
 しかし、やはり1番聞きたいのは交戦したティターンズのことだった。
「ずっと同じ部隊と戦ってたんですね」
「ティターンズ自体特殊部隊の延長線みたいなものだが、交戦していた部隊はその中でも更に特務部隊と呼ばれていたらしい」
 やはり父の小隊だったのだろう。少なくともあの資料の裏付けになった。
「結局、彼らとはニューギニア基地の攻略まで戦うことになってしまった。途中でガルダ級が沈みかけたりもしたが」
「…よほど手強かったんですね」
「正直、アレキサンドリアの試験部隊よりも連中の方が練度は高かったな。特に隊長機は別格だった」
0965◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火) 00:34:28.69ID:m1HvhbmY0
なんですかねこれ…また連投規制…。
めちゃめちゃいいとこですが、この感じだと1日1話が限界かもです…。
0967◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 01:02:49.42ID:c3b+Gpyy0
 それから大尉の話はニューギニア基地攻略作戦へと移っていく。
「私とアトリエ大尉は、カラバに地上部隊を任せて基地へと侵攻した。特務部隊の連中をどうにか退けて司令部を目指したんだが、我々が到達した頃にはもう上層部の連中は壊滅した後だった」
「先を越された?」
「いや、仲間割れみたいなものだな。待ち構えていたのは、ひと仕事終えた特務部隊の隊長だったよ」
 それも父の戦いだったのだろう。資料にも、エゥーゴによる占拠時にはニューギニア基地におけるティターンズ首脳部は壊滅した後だったと記されていた。

 大尉はごろりとベッドに寝転がって天井を見上げた。
「あの隊長のことは…忘れられないだろうな」
「…何故?」
 遠い目をした大尉を見つめながら、少尉は訊いた。
「まず何より強かった。もしまたあんな敵と戦うことがあるなら、今度こそ死ぬな」
 大尉はそういいながら顔の火傷を撫でた。
「その火傷…その時の傷なんですね」
「これで済んだのは奇跡だ。私とアトリエ大尉のガンダムの2人掛かりで、たった1機のジム・クゥエルに気圧されていた」
「ジム・クゥエルって…旧式も旧式じゃないですか」
 ただただ驚いた。ジム・クゥエルは性能的にGM2とさして変わらない筈だ。多少カスタムされていたとしても、アトリエ大尉の駆るガンダムとワーウィック大尉の試作型マラサイを同時に相手取るのは尋常な事ではない。まして優勢に戦うなど可能なのか。
 少なくとも、少尉ならガンダムをもってしても恐らく無理だ。
「それに加えて…短い時間だが話した。私とよく似た男だったよ。彼を乗り越えなければ、私は前に進めないとはっきり感じた」
0968◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 01:04:47.89ID:c3b+Gpyy0
「大尉と似てたんですか?」
 少尉からすれば不思議だった。彼女の知る父の姿と大尉の姿はあまり重なる部分は無い。父は口数も少なく、只々厳格な男だった。
「かつての自分と話しているようだった。憎しみに囚われて、独りで戦うことでしか存在を証明出来なかった…。人に、自分の何かを託すのは難しいことだからな」
 それを聞いて、ようやく少尉は腑に落ちた。連邦に所属している事を周囲に隠す為軍服姿も見せず、我が子にすら己を見せなかったのが父だ。それが嫌いでもあった。
「…だが、俺はアトリエ大尉を始めとした仲間に助けられた。やつを倒すにしても私一人では無理だったが、皆の協力で戦えた。それが…生死を分けた大きな差だったんだろうな」
 大尉らしい答えだった。だからこそグロムリンとの戦いでも、身を挺して少尉を守ってくれたのだろう。彼が仲間に助けられたのと同じ様に。

「大尉って、優しいんですね」
「ん?どうした急に」
 上体を起こした大尉に、少尉は力なく微笑んだ。
「だって殺されかけたわけですよね。傷まで負わされて、生死の境を彷徨って…。そんな風に思えないですよ普通」
 大尉は父に自分を重ねたというが、大尉の戦う原動力はいつしか…憎しみではない何かにすり替わったのだろう。そういう意味では父とは逆だったのかもしれない。
「亡くした人もいる。他所者の私に良くしてくれた当時の艦長は…基地攻略半ばで戦死された。だが、それは敵にとっても同じだ。私も…自分が生き延びる為に、誰かの大切な人の命を奪ってきた」
 その通りだった。不仲ではあったし、結果的には少尉のことを縛っていた父。しかしそれでも父は少尉を守っていたのだ。その父の命を奪ったのは、紛れもなく目の前にいる男だとはっきりしてしまった。
 何かを人に託すのは難しい…。大尉のその言葉も、艦長に少尉を託した父と重なる部分がある。それが余計に苦しさを増した。

 父を殺した男。それと同時に…彼は彼女の愛する男でもあった。

64話 火傷
0969◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 01:06:21.53ID:c3b+Gpyy0
また変な切れ方したら嫌なのでここで切ります!
第2章も長いこと書いてきましたが、次でラストです。
多分明日あたり投下するので、お楽しみに…!
0971◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 16:54:35.32ID:mYNlLmBN0
「私も…聞いてほしいことがあって」
 スクワイヤ少尉は、意を決して切り出した。
「ああ、聞こう」
 ワーウィック大尉は上体だけ起こしたまま次の言葉を待っていた。
「…コンペイトウでの戦いがあって…正直、誰が味方で誰が敵なのかわからなくなったんです」
 自分の手をもう片方の手で包みながら言った。
「信じられるのは自分だけなんだって思って…でも…自分すら少し怪しくて…」
 ウィード少佐を始め、敵の戦う理由を現実として受け入れた時、本当に彼らが討つべき存在だとは思えなくなっていた。
 味方ですらそうだ。身を案じてくれていた父はティターンズだったし、信頼関係を築いてきたグレッチ艦長は真実を隠していた。今となっては、共に戦ってきたフジ中尉に自身のことを話して受け入れてもらえる自信も無い。ジオンとの折り合いをつけたばかりの中尉にはあまりに酷だ。
 そして何より、ワーウィック大尉が父を殺したという事実も知った。その彼は、自身よりも仲間を信じると言う。何が正しく、何が間違っているのか。今の少尉にはわからなくなっていた。
0972◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 16:55:05.63ID:mYNlLmBN0
「…それでも私は、少尉を信じるよ」
 暫しの静寂の後、ワーウィック大尉が言った。
「…どうして…?」
 こみ上げてくるものを抑えきれず、嗚咽を漏らす。大尉は、彼を信じられなくなりつつあった少尉とは真逆の事をいう。
「憶えているかわからんが…私が着任した日、休憩室で話したろ。まだあの頃は何というか…少し危うい感じだった」
 大尉が頭を掻く。少尉も今でも鮮明に思い出せる。ボロボロのサラミス改の中で、どうせ何も変わらないと不貞腐れていたあの頃の自分。
「あれから…ガンダムを受け取ったり、私とフジ中尉が少し揉めたり、敵との交戦があったり…。ほんとに色んな事があった」
 また大尉は寝転がった。少尉は溢れ始めた涙を袖で拭った。今日に至るまでの全ての景色が、感情が、猛スピードで彼女の中を駆け巡る。
「今の少尉は…何というか…素敵だ。鬱屈とした時間を乗り越えて…きっと少尉自身、誰かの為に戦う事ができる。…人の苦しみを知って、それでも尚生きて戦うのは簡単な事じゃない。でも今の少尉ならそれがきっと出来ると思ってる。そんな少尉を…私も守りたい」
 拭っても拭っても、涙が溢れた。ようやく気付いた。きっと少尉は、肯定して欲しかったのだ。生きていていいのだと。死後の世界に思いを馳せなくとも、今ある時間を称賛してくれる存在が欲しかったのだ。
 ただこの瞬間の為に生きてきた気さえした。
「私がもし…誰かを守れなくて…大尉の期待を裏切っても…信じてくれる…?」
「信じるさ」
 涙も言葉も止められない。
「もしも…皆いなくなって…私しかいなくなっても…」
「信じる」
「もし…!私が…あなたに銃を向ける様なことがあっても…」
「…少尉の選択を信じる」
「…うぐ…もう…何でよ…!!」
 堰が壊れたかのように、少尉はわんわん泣いた。身体から何もかもが枯れ落ちてしまうくらい泣いた。
 彼が父を殺したのだとして、それは許せない。しかしもう今の少尉にとって、ワーウィック大尉は心の底から憎める様な相手ではなかった。板挟みにされる苦しみも、ようやく気付けた生きる喜びも…溢れる感情はないまぜになった。今の少尉には、この涙の理由を説明できる術がなかった。
 のそのそと起き上がった大尉が、静かに背中をさすってくれた。
0973◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 16:55:26.42ID:mYNlLmBN0
 それから少尉が落ち着くまで、2人はただ月を眺めていた。
「月、きれいですね」
 鼻をぐずらせながら少尉は言った。
「旧世紀の日本って国で、とある有名な作家がいてな」
「え?またうんちく?」
 少尉は笑った。大尉も笑う。
「『月が綺麗ですね』ってどういう意味だと思う?」
 大尉が言う。
「そのままですよ、きれいだなーって」
「あなたの事が好きですって意味になるんだと。洒落てる」
 それを聞いた少尉は赤く腫れた目で大尉を見つめると、立ち上がり、大尉をベッドに押し倒した。
「私…馬鹿なんで。言葉で言われてもよくわかんないんですけど…。でもまあ、言ったことには責任取らないとですよね?…ねえ、月は綺麗?」
「そうだな…綺麗だ」
 少尉はそのまま大尉に被さる様にして抱きついた。互いの心臓の音が、まるで自分の物のように聞こえる。もっと聞こえる様に、彼の胸に頬を埋め耳を澄ませた。
 今はただ自分達の生だけを感じていたかった。この鼓動と月明かり以外、確かに信じられるものは何処にも無かった。
0974◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 16:55:48.46ID:mYNlLmBN0
 一夜明け、予定より少し遅れつつアイリッシュはアンマン市へ入港した。少し久しぶりの基地には、見慣れた景色が広がっている。補給がひと通り済んだところで、スクワイヤ少尉はブリッジに足を運んだ。
「お、ゲイルちゃんか。調子はどうだ」
「うん…ぼちぼちですかね」
 グレッチ艦長がいつものシートに腰掛けている。少尉はその傍に立った。
「…何かちょっとご機嫌だな?珍しいじゃねぇか」
「艦長とも仲直りしようかなって」
 驚いた様に艦長が少尉を見る。
「私…気にしないことにしたんです。色々。マンドラゴラにも言っちゃってますしね…私は、私の魂を信じるって」

「そうか…魂ねぇ…」
 艦長は口元をニヤリとさせながら、帽子を深く被り直した。
「わかんない事だらけだし、そんなに頭も良くないですけど。これからの自分の事は、今度こそ自分で決めます」
 ブリッジの向こうを眺める少尉の目に、沢山の景色が映り込む。幾何学模様の様に複雑な光が射す。
「…そりゃ、いい心掛けじゃねぇか!」
 艦長が立ち上がり、両手を腰に当てた。
「艦長!何やってるんです!?」
 バタバタとやってきたフジ中尉が眼鏡をかけ直しながら怒っている。
「どうした!」
「いやいや、補給が終わり次第大佐の所に行くようにとあれ程」
「…そうだっけ?」
 艦長がとぼけるのを見て、中尉が更に怒る。
「あなたという人は…!今回の部隊再編がどれだけ重要かわかってらっしゃらないので!?全く、やっとまともになったかと思えば…」
「あーもう、2人で勝手にやってて…」
「おい!逃げんなゲイルちゃん!」
「艦長!まだ話は終わってませんよ!こないだも…」
 問答を続ける2人を置いて、少尉はブリッジを後にした。
0975◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 16:56:31.02ID:mYNlLmBN0
「どうだ?ブリッジはいつも通りか?」
「うん、いつも通り。何だかんだで…ほんと変わんないですよあの人達」
 廊下を歩いていると、ワーウィック大尉も合流した。2人で格納庫へと足早に進む。
「少尉は変わった」
「またその話?大尉は相変わらずですよ!」
「それならいい」
「はいはい」
 談笑しながら向かった格納庫では、新しい機体の周りに人だかりが出来ていた。ここからではよく見えない。
「あ!あれ大尉のやつでしょ!?早く!」
「そんなに慌てなくてもな…おい…」
 呆れながら満更でも無さそうな大尉の手を引く。
 本当に何もかもを気にするのをやめた訳ではない。しこりは今も残ったままだ。だが、いつかはそれも許せる日が来る事を願った。既に失ったものの為に、今ある幸せを失う覚悟は持ち合わせていなかったのかもしれない。
 死への探究心は今も消えない。だが、それ以上に探すべきものを生の中に見つけた。傍に寄り添う死神を手懐けて、今は少しでも生きていたいと思うのだった。

65話(最終話) ねぇ、月は綺麗?
0976◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水) 17:04:02.31ID:mYNlLmBN0
第2章完結です。
ご愛読ありがとうございます。

これから第3章…最終章へと入っていく訳ですが、その前にスピンオフ的な話を4話程投下します。
時系列的にはコンペイトウ攻略作戦後なので、61話〜最終話辺りと平行している感じですね。
これも最終章に繋がる重要なパートになりますので、お楽しみください!

最終章はまだ殆ど構想が出来ていない状態で、しばらく期間が空くかと。
スレッドもぼちぼち埋まりそうなので、スピンオフの後は感想や質問があればお聞かせ願えたらと思っています。

気付いたら1年以上お付き合い頂いてますね…!
引き続きよろしくお願いします!
0977通常の名無しさんの3倍2020/07/31(金) 14:40:59.89ID:L0VueQHU0
乙です!

スクワイヤ少尉...ニュンペーの名前、覚えてくれたんでしょうか(苦笑)
終わりを見ている辺り、ウィード少佐も過去に囚われた人間になってしまいました(泣)
分離式ナギナタを用いた死闘、熱いです!
拡散ビームといい、ニュンペーは隠し腕のついたパラス・アテネを想像すれば良さそうですね(但しミサイル無し)
2連ライフルが無いことで固定の腕部ビームガンが映えるの、良いと思います
ライフルを鈍器にして長短を補うスクワイヤ怖っ!
爆発するイメージあるんですけど、死にたがり経験からその辺の匙加減も分かるといったところでしょうか

遂に明かされるスクワイヤの出自......けどこのやりとりで「アイバニーズ=ティターンズ兵」と知るのは難しくないですか?
ボスニア隊みたいに半ば従わされてる部隊やスードリ隊のような義勇兵、ホンコン特務のように呼ばれる流れもあります

形影相同、フジ中尉ったら分かりにくい言葉を...w
文字通り漢字なのでしょうか、百式や龍飛はある世界観ですし
それとも英語? The heart-shadow will stab the facts!(さっき考えた、現ライダー並感)みたいなw

ウィード、ホント不憫...コロニー落としに携わった業はあるでしょうけど、何も言わずに、独りで...
リディルみたいに生き残った部下もいるのに、目の前が真っ白になっちゃったんでしょうね
さて、アレキサンドリアごと逃げたレインメーカー爺さんと、そろそろ人間やめてそうなソニックの行方は...
ロングホーン大佐まで救援に行ったアイリッシュ隊との対比も印象的です

アイバニーズ......なんでぇ、いい親父だったんじゃないですか >>928で少しdisってごめんちゃい😣💦⤵
>「何故ガンダムなんか寄越したんです!?」
これは、F91、V、Gレコ辺りの親と子を繋ぐガンダムにも通じる心象でしょうね
マンドラゴラはアイバニーズの用意した機体ではありませんが、彼の願いがきっかけになってるわけで...
艦長、結局飲むんかい!(まぁ適度に飲んでた方がアル中は再発しにくいといいますしねw)
しかし辛い中でも資料を読み始めるスクワイヤは強い、こちらも請求書など読まねば...無作法というもの(私事)

マンドラゴラとワーウィックの関係......実質被害妄想ですよね(笑) 艦長・大佐「解せぬ」
いや、こういう暗いところのあった方が共感できる部分もあります
わーっ、もう、大尉の誘い受け! ちゃんと地球いけよ畜生!
月が綺麗ですね、と言いながら月に着陸したカップルはあまりいないと思いますw いい着地点だ!

新しい機体といい改修アイリッシュ(そろそろ艦名が付くのでしょうか?)といい、2.5と3章への期待が高まります!
引き続きよろしくお願いします!!
0978◆tyrQWQQxgU 2020/08/01(土) 23:46:39.74ID:DxKUOfXf0
>>977
いつも感想ありがとうございます!

アイバニーズ=ティターンズ所属という部分はもっとわかりやすく書いても良かったかもしれませんね!どうも読み手書き手が知ってる事の説明は疎かにしがちです…

フジ中尉のアレは漢字に英語でルビ振ってあるくらいのイメージで良いと思います。笑

正直言いますと、ウィードは最初から死ぬ予定でした。残念ながら。
何もないと思っていたスクワイアが色んなものを手に入れていく過程と、充実していると思われたウィードが色んなものを失っていく過程は対比になっています。
その先に何があるのかは、3章でも書けたらなと思ってます。

1章では母と娘の話をしたので、2章では父と娘の話をしたいなと思っていました。メアリーの時は母親側の描写多めだったので、今回は殆ど描写しない手法で書いてます。それぞれ、直接的に護った母親と間接的に護った父親ですね。

ワーウィックとスクワイアの関係ですが、ひとつは前作主人公を弱体化させずに一歩も引かせないという目的がありました。彼がこの局面で引くとは思えませんし。
しかし新しい人物を中心に置きたい思いもあり、どういう関係性にすれば良いか考えた時…いわゆるヒロインの逆バージョンに据えれば丸く収まるなと。笑
彼の前作での成長やアトリエ大尉の強さを描写しつつ、それによってスクワイアの父であり前作ラスボスでもあるアイバニーズの株も上がったかなと思います。
彼らによってスクワイアのキャラクターを補強しつつ、ちゃんと主人公として成長させたいと思っていたので、塩梅が結構難しい部分はありました…ワーウィック目線のパートが一切存在しないのもその関係です。

また、地球をテーマにすることが多いガンダムシリーズで月を舞台にするのも良いなと思っていました。個人的にXも好きですしね。笑
幸いグリプス戦役的にも重要な場所だったので描写しやすかった部分はあります。
地球で生き方を見つけたワーウィックの傍にいるスクワイアが、月で生き方を見つける…そういうのもロマンチックかなと。笑

新しい機体は既に決まってます!笑
過去最高に豪華な面子が揃う最終章になるかと!期待してください!
その前日譚に当たるのがスピンオフだったりしますんで、お楽しみに!
0979◆tyrQWQQxgU 2020/08/01(土) 23:56:05.58ID:DxKUOfXf0
追記ですが、強さ的には

 アイバニーズ
≫アトリエ≧ワーウィック
>ソニック≧ウィード≧スクワイア≧フジ

くらいのつもりです。機体的にはぶっちぎりでマンドラゴラが強いですが、操作性も最悪です。
ニュンペーは量産前提なところもあり、操作性や拡張性が最も高い設定です。レコアさんが完成形のパラス・アテネであそこまでやれてましたし。
なので、組み合わせ的にはやっぱりワーウィック×百式改が2章作中だと1番強いでしょうね。

…いや、名無し×グロムリンが1番強いか。笑
0980通常の名無しさんの3倍2020/08/02(日) 09:23:56.65ID:vxOKlxpp0
おおっ、強さ比乙です!
ソニックはウィードより強い設定なんですね、只の筋肉じゃないと思ってましたが


量産前提のニュンペーは作中のアレキサンドリアに先行配備されるのでしょうか...捨てた女からフィードバックして。
あとソニックが最初に乗ってたガルバルディγも気になりますね。
>>657で説明はありましたが、αとβだけでもかなり違うので若干曖昧なままというか
例えばカラーリングなんてどうなんだろうなー、て思ってました

ウィードのニュンペー→水色
オーブのガルバルα→薄萌黄
ドレイクのガルバルβ→赤紫

と来れば

ソニックのガルバルγ→檸檬色

といったところかな、と
キャラクターが暑苦しい分だけ、色くらい爽やかでいてほしかったのもありますw
0981◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 09:37:10.01ID:c/vKaxZs0
>>980
ソニックは一歩引いてる感じありましたが、彼自身は決して弱くないです。コンペイトウでも実質独りでスクワイア達相手に粘ってますしね。
とはいえ大体ウィードと同じかやや上くらいのイメージです!

ガルバルディ軍団は元デザインから継ぎ接ぎして別物っぽくなってるイメージだったので、詳細の色までは考えてなかったですね笑
単色というよりはほんとツギハギのイメージです。
そうはいっても特に描写も無いので、好きなカラーで読んでもらって良いかなと思います!
0982通常の名無しさんの3倍2020/08/02(日) 11:38:41.81ID:yA8n81MZ0
連投規制は鯖自体が政治板やニュース板の煽りを喰らってるっぽいな
あっちの連投荒らしや煽りは最悪に酷いからな
コロナ関連で何処ぞの国家のバイオテロだとか触れ廻ってるキチガイもいたし

運営が規制かけまくってるんだろう
0983通常の名無しさんの3倍2020/08/02(日) 11:45:10.43ID:vxOKlxpp0
新旧シャア板でもそれくらい働いてくれないかと思うわ

やたらID持ってる(それでいて同じようなことばかり書く)輩もいるけど
運営なら寿命半分とか出さなくても見えるんでしょ?
0984◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 21:22:27.40ID:c/vKaxZs0
>>982
>>983
なるほど、そういう背景が…!!
そういうことなら暫くは連投するの難しいでしょうね…改善されてほしいものですが…
0985◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 23:31:51.36ID:c/vKaxZs0
「おっと…。いやはや、私もトレーニングは好きな方だと思っていたが…敵わんな」
 入室してくるなり、ロングホーン大佐が呆れた様に笑った。
「…いつまでも寝てる訳にはいきませんよ。身体が…なまってしまう…!」
 上半身を剥き出しにして懸垂をしながら、ソニック大尉は応えた。その背中には、自爆時に背に受けた生々しい傷痕が残っていた。

 大尉が意識を取り戻した時、目を開けたその場所はエゥーゴによって占領された基地内の医務室だった。医師の問診では常人ならば死んでいておかしくない高さから落ちていると指摘されたが、その割には軽傷で済んでいる。日々の鍛錬が物を言うとはこのことであろう。
 傷が癒えたのち捕虜として尋問も受けたが、ソニック大尉は潔く全て答えた。事の経緯が真実だとすれば、これ以上ティターンズに恩義を感じることもない。そして何より、失っていたであろう命をロングホーン大佐に拾われた様なものだった。
 今現在は、コンペイトウから移送されてアンマンの月面基地に滞在している。
「それで…意思は固まったかね?」
 壁に寄りかかりながらロングホーン大佐は腕を組んでいた。
「…」
 懸垂をやめ、タオルを手に取り汗を拭う。
「試験部隊は壊滅、アレキサンドリアも最早私の帰りを待ってはいない。それはわかります。しかし…」
「ふむ。…こうして囚われの身になるのは2度目だな」
 大佐が腕を擦りながら笑う。
「あの時はご無礼を」
「構うものか。私が焚き付けた。…あの時の君の大義とやら、今はどうなのかな」
「大義ですか。…確かに口にしましたね」
 地球を在るべき姿に戻す。その考えは今も変わらない。しかしそれ以上に、ウィード少佐やドレイク大尉、オーブ中尉の存在が大きかった。彼女らと共に戦うことに充実を見出していたところはある。
 それを奪ったのはエゥーゴだと思っていたが、結局のところその充実自体がまやかしだったと知る今となっては…もうエゥーゴに対する強い抵抗感も無かった。
「ひとつ気掛かりなのは…エゥーゴに手を貸すということは、かつての仲間と戦うことになる。私に…それが出来るかどうかわかりません」
「よく考えてみろ。エゥーゴもティターンズも、本来ならば同じ地球連邦軍だ。この戦役自体内輪揉めのようなものだぞ」
 大尉は息を吐いた。オーブ中尉が戦線に出てくることはないだろうが、実質的な裏切りになる。それは自身の生き方に背いてはいないか。
「君自身のことだ。君が自分で決めろ。エゥーゴに与するもよし、ティターンズに帰るもよし。この際下野して戦いから距離を置くのもひとつだろう。…だがな」
 ロングホーン大佐がドリンクを渡してくれた。ありがたく受け取る。
「君のような男…私は嫌いではない」
 後ろ手を組みながら、大佐は退室していった。
0986◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 23:32:22.45ID:c/vKaxZs0
 シャワーで汗を流し、連邦軍の標準的な制服を着込む。久しぶりにティターンズ以外の制服だったが、元々着ていたこともあり身体には自然と馴染んだ。
 こうして個室まで与えられているのは破格の待遇と言えた。まるで隊員のひとりの様な扱いだ。大佐からしてみればもうエゥーゴに入れたつもりらしい。しかし、それと同時にいつでも逃げていいと言われているのと同じでもあった。手早く荷物をまとめる。
 特に周囲を気にするでもなく部屋を出た。基地の構造は把握していないが、詳細とまではいかずともおおよその見当はつく。
「ロングホーン大佐か…。変わった男だ」
 大尉は部屋を出ると、小さな荷物を持ってその場を後にした。目下向かうのは、MSが格納されているであろう整備ドックである。
 人の格好や流れを見ながら、整備ドックの方向を探った。今のような状況だと格納庫は人も多いはずだ。メカニックらしきクルーやスーツを着たままのパイロットが出てきた方へと足を運ぶ。

「ここか…」
 大きな扉の先にはドックが広がっていた。慌ただしい人の動きに囲まれ、多数の機体が整備を受けている。
 ソニック大尉は品定めをする様に外周を歩いた。GM2やネモなどの主力量産機、一部にはGMキャノン2の様な型落ち機体も見受けられた。
「…おっと、あんた。ここから先は関係者しか入れないぜ」
 更に先へ進もうとしたところを呼び止められる。柄の悪い金髪の男だった。
「何か証明の類が必要か?それなら…」
「いや、要らねぇ。俺は関係者の顔なら全部覚えてる。だが…あんたの顔は見覚えが無い。帰んな」
 証明書類を出そうとした大尉を男が制した。
「君の知らない人員補充だってあるだろう。書類ならある」
「そんな書類は幾らでも作れる。信用ならねぇ。それに…あんたからは敵の殺気を感じる」
 揉め事を起こすと面倒だが、ここを進めないとなると困る。
0987◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 23:32:47.00ID:c/vKaxZs0
「どうしてもっていうんなら、押し通ってみろよ」
 男が構える。何の確証も無しに突っかかってくるこの男が、不思議と嫌いではなかった。
「血の気の多い連中だな、全く」
「やっぱ余所者だな!?」
 早々に男は殴りかかってきた。大尉はそれを容易く躱すと、先に進んだ。
「おいこら待てこの野郎!」
 更に後ろから殴りかかってきたがそれも躱し、男の腰を抱えるとそのまま担ぎ上げた。
「てめぇ!離せよ!」
「口ほどにもないな。弱い犬ほど何とやらか」
「まじで何なんだよお前…くそ。」
 悪態を突く男の抵抗を意に介さない。子供の様に肩に担いだまま、気を取り直した大尉は先へ歩いた。
「…お前が何者か知らねぇが、ここは通さねぇ!」
 懲りずに男は暴れ続けた。あまりに暴れるので一旦放り投げる。
「私は丸腰だぞ?侵入者かもしれん男相手に随分と手緩いのだな」
「痛ってえ…!そういうお前こそ必死さが感じられねぇな。…もしかしてほんとに関係者なのか?」
 再度立ち上がる男を見ながら、大尉は自分のこれからが馬鹿馬鹿しくなっていた。この男の言う通り、本気でティターンズに戻りたいなどとは思っていないのは自分自身が一番よくわかっていた。
「ふん…。お互いこれでは茶番だな」
「うっせぇ!さっさと引き返せよデカブツ!」
 掴みかかってきた男をヒョイとつまみあげ、再び担ぎ上げて前へと進んだ。やはり男は暴れたが、もう降ろしてやらなかった。
0988◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 23:33:36.72ID:c/vKaxZs0
「来たか。…ん?」
 並ぶ機体と戦艦を前にして、ロングホーン大佐が腕を組んでいた。
「アトリエ大尉…そこで何やってる」
 ソニック大尉が担いだ男はアトリエ大尉という名らしい。
「こいつ余所者でしょう!?何者なんです!?」
 担がれたままアトリエ大尉が喚く。
「すみません大佐。機体でも奪って逃げようかと思いましたが、この男が見逃してくれなかったものですから」
 ソニック大尉は、アトリエ大尉をその辺に軽く放り投げた。彼は着地も下手くそだった。
「痛ってぇな…。何しやがる!」
「アトリエ大尉、君こそ何をやっている。彼はソニック大尉…先日の戦闘で人員が不足している君の部隊への最後の補充だ」
「え!でも」
「とやかく言うな。例の任務は彼と共に遂行しろ。それとも1人でやる気か?」
「まじかよ…」
 アトリエ大尉は立ち上がりながら身体についた埃を払った。

「…決心は着いたんだな?」
 ロングホーン大佐は再びソニック大尉を見据えた。
「はい。私は帰る場所も無い、一度死んだ身です。それに…戦うことでしか恩義を返すことが出来ん男ですから。しばらくはお世話になります」
「そうか、歓迎するとも。さあ、荷物は自室に置いておくといい。…アトリエ大尉、案内してやれ」
「はあ…了解。…ほら、デカいの!付いてこいよ」
 ややぶすくれたアトリエ大尉に付いていく形で、新たな母艦へと足を踏み入れた。

65+1話 自身の生き方
0989◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 23:41:20.89ID:c/vKaxZs0
「お前…ソニックって言ったっけ?ファーストネームは?」
 アトリエ大尉は腰をさすりながら艦内を歩いていた。勝てる気はしなかったが、ここまで子供扱いされると流石のアトリエ大尉も少し落ち込んだ。
「ラム・ソニックだ。君は?」
「酒みてぇな名前だな。俺はベイト・アトリエ」
 このジントニックみたいな名前の男からは、初見に敵と同じ雰囲気を感じた。しかしその割には切羽詰まったものを感じない。それはそうとしても、ロングホーン大佐が認めている以上あれこれ詮索するだけ無駄だった。
「まあいいや、ここがお前の部屋な」
「ありがたい」
 ソニック大尉の部屋に2人で入室すると、彼はゴソゴソと荷物を解き始めた。
「お前、余所者だよな?元ティターンズか何かか?」
「…勘の鋭いところは認める。そのとおりだ。大佐に命を救われた」
「なるほどね。それだけ判れば十分だわ」
 地球に置いてきたメイもそうだが、どうも元ティターンズ兵とは接する機会が多いらしい。

「それで…我々の任務というのは?」
 ソニック大尉が立ち上がる。
「ああ、新しい機体を受領しにいくんだ。俺用でな」
 先日の対アクシズ戦で部隊はかなりの痛手を負っていた。アトリエ大尉自身も乗機のネモに限界がきていたし、そろそろ丁度良い頃合いだった。
「受領するのが任務か?訳有な感じだが」
「その通り。体よく言っちゃいるが、要は奪いに行くって訳さ」
「それで鉄砲玉に元ティターンズの俺を使う訳か。…何を奪うつもりだ?」
「ふふ、それはお楽しみにしとけ。あんたはあんたとして…俺ほど適任な人材もいないんだとよ」
 そう言ってアトリエ大尉は笑った。今回奪うつもりの機体のことを考えれば、あながち間違ってもいない人選ではある。
 ソニック大尉を連れ、MSデッキへ向かった。今回アトリエ大尉は奪った機体で帰還しなければならない為、行きはソニック大尉の機体に同乗することになっている。機体の説明などを済ませ、その場はお開きにした。彼にはまだ色々と慣れて貰わねばならない。
0990◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 23:41:46.40ID:c/vKaxZs0
 準備を済ませ、遂に決行する日がやってきた。ワーウィック大尉達のアイリッシュが帰還した様だが、今回は出迎えに行っている暇はない。
 アトリエ大尉が格納庫へ向かうと、既にソニック大尉が機体に乗り込んでいるところだった。
「準備万端ってか?おはようさん」
「ああ、アトリエ大尉。よろしく頼む」
 まだエゥーゴに合流して日が浅いからか、少し緊張の色が見て取れる。
「あんたもMSはよく遣うと聞いたが…急にエゥーゴの機体でいけるのか?」
「問題ない。…エゥーゴはなかなかいい機体を持っているな。何よりフォルムがいい」
 2人が今回使用する機体は黒いリックディアスである。
「最近は赤が人気らしいけど、断然黒だよな」
「同感だ。ティターンズカラーという訳じゃないがな」
「ま、カッコ良けりゃそれでいいよな。…意気投合したとこで、準備するか」
 シートをソニック大尉に譲り、アトリエ大尉はその後ろについた。
『2人とも、準備はいいかな』
 艦長から通信が入る。
「ああ、大丈夫だ。短い間だったが世話になったな」
 今作戦での機体奪取成功後はこの艦から異動することになっている。主力部隊の再編である。恐らくソニック大尉もそのタイミングで正式にエゥーゴ加入が決まるのだろう。
『まだ気が早いぞ。この任務が終わるまではよろしく頼む』
「あいよ!そっちこそ手筈通り頼む」
『うむ。任された』
0991◆tyrQWQQxgU 2020/08/02(日) 23:42:28.83ID:c/vKaxZs0
 事前にリークした情報では奪取目標の試作機が3機建造されていて、その中の1機を奪えればそれで良い。その1機は現在月の周辺を輸送中の為、航行を妨害する形で強奪する。本来の引き渡しの為に装備が一式用意されているらしく、強襲して丸々掠め盗る予定だ。
 まずは母艦であるサラミス改で近付ける限界まで追いかけ、そこからはSFSに乗って単機で襲う。遅れてくる陽動部隊が支援するとのことだが、あまりあてにし過ぎない方がいいだろう。
「しっかし、何でまたこんなに情報が駄々漏れなんだ?」
『既に機体開発の主導権は反ティターンズ側に傾いているのでな。本質的に強奪ではなく受領と言っていい。今回はティターンズ寄りの連中が邪魔に入るだろうが、我々で対処出来る規模だ。残す記録としてもエゥーゴ側に正当性がある形を取りたいというわけだよ』
「回りくどい言い方だな」
 ソニック大尉が苦笑いする。
「俺達には関係ねぇ。貰うもん貰って帰るだけだ」
 アトリエ大尉はソニック大尉の肩を叩いた。

 月から出港したサラミス改は、予定のポイントへと向かう。敵の輸送艦が通った道をなぞる形だ。
「丁度いい時期に転向できて良かったんじゃねえか?これからティターンズは苦しくなるだろうぜ」
 出撃待機しながら、アトリエ大尉は後ろから話しかけた。
「何処で踏み違えたのだろうな。理念を持ち、能力のある人間を集めた組織の筈だった」
「へっ。そういう思い上がりが全ての原因だと思うけどな?」
「…確かにな」
 ソニック大尉は自嘲気味に笑う。彼の転向に至った経緯は詳しく知らないが、結局こうして人が離れていくのも時勢を表しているのだろう。
 そうこうしている間に敵の輸送艦が見えてくる。敵もこちらを捕捉しているはずだ。
『では2人とも、武運を祈る』
「おう!行ってくる!」
 アトリエ大尉の返事を聞き、ソニック大尉がリックディアスを起動する。SFSのスラスターに火を入れると、輸送艦へ向かって出撃した。

65+2話 回りくどい言い方
0992◆tyrQWQQxgU 2020/08/03(月) 00:14:29.89ID:uwYmBiVJ0
「さて…。あの輸送艦に取り付けばいいんだな?」
 ソニック大尉は操縦桿を握り直す。慣れないなりにシミュレーションはしておいた。幸いリックディアスは非常に操作性の高い機体だった。
「あんたが取り付いたら、俺が機体を奪いに行く。援護は任せるぜ」
「そんな細腕で大丈夫か?」
 とてもじゃないが、アトリエ大尉は白兵戦が得意には見えない。
「おいおい、そこはあんたの丸太みてぇな腕で援護してくれよ」
「俺ありきか。戻ったら鍛え直してやる」
「…来たぜ。お出迎えだ」
 輸送艦から敵のMSが迎撃に出てくる。ざっと4機。いずれもバーザムである。

「新型のみで編成か。余程大事な積荷なんだろうな」
「頼むぜソニック大尉!」
 開幕の合図に放たれた複数のビームを難なく避ける。まずはもっと輸送艦に近付かねばならない。敵に構わずSFSのスラスターを吹かした。
 2機ほど突出してこちらを迎撃する動きを見せている。これらの合間を縫うようにして、とにかく敵の攻撃を躱す。
「流石に…手数が多いな」
 八方から浴びせられるビームをどうにか躱しつつ、とにかく距離を詰める。
「先に叩かねぇのか!?」
「輸送艦に取り付いてしまえばやつらも手出し出来んだろう」
 嘘を言ったわけではない。とはいえ、正直まだ元同胞を撃つ事に引け目を感じている部分も否めなかった。だが敵からすればそんな事情は関係ない。当然容赦ない攻撃が続く。
「おい!大丈夫かよ!」
 うろたえるアトリエ大尉。
「黙って見ていろ!」
 粘りに粘るソニック大尉だが、いよいよ限界だった。ある程度の距離まで近付けたことを確認すると、SFSを蹴る様にして跳んだ。
「この男を送り届けねばならん。この鍛えた身体に誓って!」
0993◆tyrQWQQxgU 2020/08/03(月) 00:15:24.75ID:uwYmBiVJ0
 好機と見たのか、バーザムの1機が接近戦を仕掛けてきた。サーベルを抜き、加速を掛けて斬りかかる。
「ぬおお!!!」
 ソニック大尉は敵のマニピュレーターを掴み斬撃を止めると、もう片方の手で頭部を殴りつける。よろめいた敵機からそのままサーベルを奪うと、コックピットに突き立てた。
「次ぃ!!」
 背後から撃ち抜こうと狙いを定める別のバーザムだったが、逆にソニック大尉は背のビームピストルで威嚇射撃を食らわせる。
 180度転身し、今度はピストルを手に持ち直してそのまま敵を蜂の巣にする。ライフルに比べると威力は低いが、2丁をバランス良く扱うことで手数を増やせる。
「邪魔はさせんぞ!!」
 そのまま爆散するバーザムに背を向けつつ、再び輸送艦へ向かう。残る2機は連携して輸送艦を守っているが、これに取り付く為にはどうにかして敵を引き剥がす必要がある。
「やるじゃねぇかよ!見直したぜ」
 後ろでアトリエ大尉が声を上げる。
「まだだ。問題はここからだからな」

 味方の牽制に期待したいところだが、今のところそれらしい動きは見られない。可能ならばこの軌道を抜ける前にケリをつけてしまいたいところだ。
「多少強引だが…行くしかないな!」
「うおっ!」
 よろめくアトリエ大尉にも構わず、バインダーの出力を上げて突進した。迎え撃つ敵の射撃が掠める中、一心不乱に輸送艦目掛けて突っ込む。
 こちらの狙いを察したのか、敵が進路を塞ぐ様にして立ちはだかった。
「押し通る!!」
 ソニック大尉はサーベルを抜いた。受ける敵のサーベルと鍔迫り合いになり、そこへ更に別機体のビームも迫った。しかしここは引いた方が負ける。被弾しつつも鍔迫り合うバーザムを押し退けた。
 押し込まれ体勢を崩した敵機を踏みつける様にして、更に加速して輸送艦に向かって駆ける。背後から撃とうにも、この位置なら輸送艦への着弾が気になって撃てない筈だ。
 狙い通り敵の動きが鈍った隙を突き、リックディアスはそのまま輸送艦の後部ハッチを撃ち抜き、突き破りながら強引に着艦した。

「いてて…。全く無茶しやがるぜ」
「何にせよ…これで文句はあるまい。さて、お目当ての機体は何処だ?」
 モニターから周囲を確認する。バーザム達が格納されていたらしきハンガーの奥に、白い機体が見えた。
「よし、あれだな。援護頼む!」
 言うなり、アトリエ大尉はコックピットを飛び出していった。ソニック大尉に仕掛けてきた時もそうだったが、何故あの腕っぷしでそこまで無茶ができるのか…。飛び出したアトリエ大尉を追いかける形で、ソニック大尉も機体から離れた。

65+3話 輸送艦
0994◆tyrQWQQxgU 2020/08/03(月) 00:16:06.00ID:uwYmBiVJ0
「くそ…!簡単には渡しちゃくれねぇか!」
 アトリエ大尉は敵から見えないよう壁に背をつけて銃を抜いた。散発的に敵の銃声が響く。威勢よく飛び出したものの、騒ぎに気付いた敵クルーと白兵戦になっていた。
「…で、何か作戦があるんだろうな」
 合流したソニック大尉が溜息をつく。
「そりゃお前…その自慢の筋肉であいつらどうにかしてくれれば」
「無茶苦茶なやつだ」
 呆れ果てた様にソニック大尉が笑う。軽口を叩いてはいるが、それほど余裕があるわけではない。見た限り敵は3人ほどで、全員銃を持っている。闇雲に突っ込んでどうにかなる状況ではなかった。
 銃声が止み、ジリジリと迫ってくる敵の気配を感じる。2人は息を潜めた。
「…俺が囮になる。その間にお前が最低1人仕留めろ」
 小声でソニック大尉が呟いた。
「囮って言ったってよ…どうするつもりだ」
「俺を連れてきたのはこういう時の為だろう?俺の筋肉を信じろ」
 猶予は無い。アトリエ大尉は渋々頷いた。
「長くは保たん。任せたぞ」
 そう言ってソニック大尉は前に出た。

 遮蔽物を利用しながらソニック大尉が攻勢に出る。敵の注意を引きつけながら、アトリエ大尉のいる場所への意識を離そうとしていた。
 敵の動きを見つつ、アトリエ大尉は敵の背後を取るべくソニック大尉とは反対の方向へ走った。敵はソニック大尉との銃撃戦に夢中でこちらには気付いていない。
「よし…。くたばってな」
 瞬時に敵へ狙いを定めると、背後から1人の頭を撃ち抜いた。崩れ落ちた味方に気を取られたもう1人を、ソニック大尉が逃さず撃つ。
 最後の1人は逃走を図ったが、ソニック大尉が後ろから羽交い締めにする。揉み合いになりながらヘッドロックの要領で首を抑え込むと、そのまま落としてしまった。
「上出来だな。取っ組み合いにさえならなければお前も良い腕だ」
 周囲を確認しつつソニック大尉が言う。
「俺に限らず取っ組み合いであんたに勝てるやつがいるのか怪しいがな!…あんたはディアスに戻れ。俺は目標を奪取する」
「了解。そろそろハッチも破られそうだしな」
 ソニック大尉の言う通り、先程破壊したハッチから外のバーザムがこちらに向かってこようとしていた。アトリエ大尉は、踵を返したソニック大尉とは反対方向へ走る。
0995◆tyrQWQQxgU 2020/08/03(月) 00:16:39.53ID:uwYmBiVJ0
「待ってろよ…!」
 アトリエ大尉はとにかく機体のもとへと急ぐ。息を切らせ辿り着いた場所には、純白の機体がいた。白い装甲には赤いラインが走り、やや大型で独特なフォルム。それを見上げながらアトリエ大尉は懐かしい気分がしていた。
「久しぶりだな…ガンダム」
 そこに居たのは、アトリエ大尉のかつての乗機であるガンダムMk-Wの正当後継機…ガンダムMk-Xだった。
 まだ一部調整が済んでいないとのことだが、一応ひと通りの装備が揃っている。アトリエ大尉はハンガーのレールを伝い、コックピットへと飛び乗る。
「ガンダム盗るなら俺に任せろってね…。ま、1機盗んで1機は諦めたけどな」
 ワーウィック大尉にベッタリだったスクワイア少尉を思い出して、つい笑った。あの生真面目な男が、ああいう娘に懐かれているとは思ってもみなかった。
 事前に確認していた手順で手早く機体の起動に入る。その起動手順もMk-Wと通ずるものがあった。乗機だったMk-Wはムラサメ研究所が盗用データから組み上げた不完全な機体でもあったが、Mk-Xはオーガスタ純正だ。
 Mk-Wの一件を問われたムラサメ研究所も開発に手を貸す羽目になった様だが、サイコガンダムの運用データなどの提供によりMk-Xの完成は早まったという。
「よし…動けよ…!」
 各シーケンスをクリアし、デュアルアイに光が灯る。それと同時に、アトリエ大尉も前を見据えた。
「ガンダム…また俺と戦えて光栄だろ?」
0996◆tyrQWQQxgU 2020/08/03(月) 00:17:28.32ID:uwYmBiVJ0
 ハンガーから強引に引き剥がす様に機体を動かしつつ、リックディアスと通信チャンネルを合わせる。
「ソニック大尉!目標を奪取した!離脱するぜ!」
『わかった!これ以上は持ち堪えられん!急げ!』
 前方を確認すると、ハッチをこじ開けたバーザムと揉み合いになっているリックディアスが見えた。
「借りは返さねぇとな」
 専用のライフルを構え、正確にバーザムの頭部だけを撃ち抜く。そのままソニック大尉はバーザムを組み伏せた。
『よし!先に行け!』
「了解!」
 開けたハッチから脱出する。が、それを待ち伏せていた残る最後のバーザムが背後から斬りかかってきた。
「甘いぜ…鶏ちゃん」
 斬撃をひらりと躱し、追撃のライフルも容易く避けた。アトリエ大尉が反応した通りに機体が付いてくる。ネモが悪い機体だったとは言わないが、やはりガンダムは規格外だ。インターフェースのせいもあるが、やはりMk-Wを思い出す。
 迫る敵と向かい合いながら、とっておきの武装を射出した。当然、使い方なら熟知している。
「ん?2基もあんのか…!流石後継機…贅沢なこって!」
 再度斬りかかろうとしたバーザムだったが、それは叶わなかった。ガンダムの射出したインコムがサーベルを手首ごと弾き飛ばしたのだ。更に脚部、頭部、肩…あらゆる部位を四方から撃ち抜いた。半壊したバーザムを、大型サーベルでとどめを刺す様に両断する。
「この威力…オーバーキルか?…一理ある」
 爆散する敵機を背後に、ガンダムは悠々と武装を収めた。

『お前…その武装。…ニュータイプってやつか』
 続いて脱出してきたソニック大尉のリックディアスが追いついた。
「最近はもうニュータイプニュータイプって言われ過ぎて否定するのも面倒になってきたわ…。それに、インコムの事ならシステム的にはオールドタイプでも使えるんだけどなあ」
『いや、俺は遠慮しておこう…』
 2人が合流して程なく、援軍が輸送艦を取り囲んだ。彼らの予定よりもかなり早い段階で敵を殲滅してしまったらしい。
「これで任務完了だな。あんたが居て助かったぜ」
『お前のようなやつと戦場で相対することが無くて良かった』
「へっ、そうかい。…まあこれからもよろしく頼むわ」
 友軍にその場を任せ、2人はサラミス改への帰路についた。

65+4話 純白の機体
0997◆tyrQWQQxgU 2020/08/03(月) 00:24:58.47ID:uwYmBiVJ0
何だかんだギリギリになりましたね…
取り敢えず次建てときました!

次スレッド
グリプス戦役の小説書いてるんだけど
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1596381803/

まさか跨ぐ事になるとは書き始めた頃には思っても見ませんでしたが…笑
引き続きよろしくお願いします!
0998通常の名無しさんの3倍2020/08/03(月) 07:32:19.93ID:PIGO23ZM0
乙です!

まだ黒塗りのディアスなんていたんですね...w
あのドムもどきなカラーリング嫌いじゃないです

裏切ったのがシロッコだとしても、ティターンズ全体がジャブロー核自爆をやらかす危険集団、どのみち戻れはしない...
ここでGMキャノン2! 新訳要素も嬉しい
やはりアトリエは勘がいい、まだソニックにも迷いがあったでしょうしね
書類の件はWのデュオが「偽物だけどなぁ!」と行って逃げていくシーンを思い出しましたw

ここで来たか、(顔的に)虫野郎! 青に塗られる前というのがまた細かいw
もしやソニックをゼク・アインに乗せたのは、MK-V奪取作戦への伏線だったのでしょうか?

(もうアトリエの心配はしてないので、笑)ソニック、お前くらい生き残れよ...!

次スレ、楽しみにしてます!
0999◆tyrQWQQxgU 2020/08/03(月) 10:37:01.45ID:uwYmBiVJ0
>>998
個人的に黒ディアス渋くて好きので…笑

ティターンズは実際かなりヤバい事してますし、ソニックは知らされてない部分もあれど加担している部分もありましたから。
メイの時ほど割り切れてはいない感じですが、その辺りも3章で!

クインマンサ顔のあいつです…!
1機が教導団、1機がネオ・ジオンへ行くので正直ギリギリの数ですが…
前作主人公の1人が乗るガンダムと考えると、丁度いい顔してます笑
そうですね、教導団行きの機体同士っていう接点はあります。後で簡単に掘り下げますが、その辺の絡みも考えてはいます。

ウィード隊最後の1人がエゥーゴに来てしまいましたが、それによって彼らのストーリーもまだ終わっちゃいないといったところですね。

よろしくお願いします!
10011001Over 1000Thread
このスレッドは1000を超えました。
新しいスレッドを立ててください。
life time: 376日 16時間 22分 2秒
10021002Over 1000Thread
5ちゃんねるの運営はプレミアム会員の皆さまに支えられています。
運営にご協力お願いいたします。


───────────────────
《プレミアム会員の主な特典》
★ 5ちゃんねる専用ブラウザからの広告除去
★ 5ちゃんねるの過去ログを取得
★ 書き込み規制の緩和
───────────────────

会員登録には個人情報は一切必要ありません。
月300円から匿名でご購入いただけます。

▼ プレミアム会員登録はこちら ▼
https://premium.5ch.net/

▼ 浪人ログインはこちら ▼
https://login.5ch.net/login.php
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。

ニューススポーツなんでも実況