予備短答式民法第12問
イ 相当程度の可能性の存在が証明されたときは、その医療行為と患者の死亡との間における因果関係が肯定される。
×となっているが、平野(全)コアキシル6-9-4(563頁)によると、
「...高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信をもちうるものであることを必要とし、かつそれで足りる。」(ルンバール事件)
「被害者救済のため、判例が用いてるのは『事実上の推定』の活用である。被害者は「高度の蓋然性」を証明することはできなくとも、「相当程度の蓋然性」を証明できれば事実上の推定を受けられることになる。」
と記しており、これによれば、肢イは正解ともなり得る。

エ 労働者Aが、第三者Bの過失による事故によって負傷し、この事故を原因として労働者災害補償保険法に基づく保険給付を受けた場合、BのAに対する損害賠償責任について、
まずAの過失による過失相殺による減額をすべきで、その残額から保険給付の価額を控除して算定すべきである。
とあるが、損害保険金(給付)は一般に(社会)保険料支払い(徴収)の対価として被害者が受けたものであり、原因の同一性を欠くため、(過失相殺はもちろん)損益相殺の対象とならない。
ただ、損害保険給付については、損害賠償と同じく「損害の填補」を目的とするため、重複填補は認めるべきではないため、賠償金や損害保険給付かいずれかで損害が填補されれば、その限度でこれと重複する他方の給付は縮減する
(しかし、これは損害賠償責任の損益相殺[算定、控除]とは関係がない)、とされる。(民法(全)潮見528頁)

また、場合により損益相殺されるべきでない「利益」があることも判例で指摘される(平野(全)6-12-2)。損害保険給付が須く損益相殺の対象となり損害賠償責任の算定から控除される、がごとき前提が
そもそも誤りとも言い得る。

とすると、エは設問としてかなり曖昧な問い方であり、イとの天秤でより正しいとは到底言い難い側面がある。

結論として、正解肢は1≧2、という感じがする粗っぽい疑義問。