それでも、商法・刑訴は不安のままに、論文の試験に入る。今年落ちても、来年があるサ。
マア、様子でも見てヤレ、という気持ちで試験場にのりこむ。かなりひどい答案を書いてしま
った。商法はやはりダメ。刑訴も、第二問は、頭をひねりまわして、珍理論をこしらえあげて
きた。これで、もう不合格を確信。試験後は、来年にそなえて、民法等を読みはじめていた次
第。去年よりは、進歩しているはずというのが唯一の救いであった。

 八月三一日。合格発表を、「不合格を確認」するために見に行く。ところが、意外にも自分
の名を合格者の中に見つけた。驚いたのと、うれしかったのとは、もう言葉にたとえようもな
い。夢中で、友人のところへ電話をかけていた。この日飲んだビールの味のうまかったこと!

 論文も意外に合格してしまったので、またまた、あわてた。とにかく、手薄なところを読む
ばかりのことをやって、試験をむかえたのである。とても不安であった。全く自信がなかった。
また、今年落ちても来年の口述があるということだけをたよりに、試験に入って、一八日から
二七日の午後の最後まで、なんとかがんばりきれた。試験官の先生方もあまり難しいところを
聞いてこられなかったし、運がよかったのである。そして、あの九月三〇日を迎えたのである。
 
 以上でおわかりのように、私は、予想外の合格をくりかえし、かなりの「泥縄」でここまで
来てしまったのである。正に運がよかったのだし、まぐれ当たりとも言えよう。ほんとうに、
無我夢中のうちに合格したという感じなのである。あまり学説も知らないし、判例も知らない、
私のような者でも、司法試験に合格することは可能なのである。私は、人生経験もない若年ゆ
えに、これ以上のことを述べる資格をもたないものと思う。

 この「体験記」を読まれた方が、自信をつけられる足しにもなればと思い、私を見守ってい
てくれた、まわりの人々に、この日のあることを感謝しつつ、ペンを置くこととしたい。

                      (住所 東京都目黒区○○町○−○−○)