石丸 「僕が乗り越えなければならない人物… 誰よりも尊敬し、誰よりも憎む人物が…
    …その天才とやらだからだ。」
苗木 「…え?」
石丸 「石丸寅之助… 僕の祖父の名前だ。聞いた事はないか?
    かつての…日本国総理大臣だよ。」
苗木 「…そ、総理大臣!?」
石丸 「外務大臣、内閣官房長官を歴任し、 そして内閣総理大臣までのぼりつめた男…
    それも、なんの後ろ盾もなく、 高卒の学歴しか持たないにも関わらずな。
    まさに天才… 努力せずとも何事もこなしてしまう人物だったらしい。」
苗木 「そんなすごい人が…石丸クンのおじいさん?」
石丸 「天才ゆえに挫折知らず。 凡才にはあり得ないスピードで出世していったらしい。
    だが、それゆえの反動もあった。
    甘い気持ちに動かされ、 彼は汚職事件を起こしてしまったのだ。
    天才ゆえに世の中を舐めていたのだろう。 少なくとも、僕はそう判断する。
    それ以降の彼は、 出世したのと同じスピードで転がり落ちていった…
    政治の世界から追われただけではなく、 事業の失敗も相まって、一気に落ちぶれていったよ。
    そんな祖父の残した借金は今も残って、 ボクら家族を苦しめ続けている。
    その祖父も数年前に死んだ… 晩年の彼は誰とも口をきく事はなかった。
    あれだけ持てはやされていた祖父なのに、 葬式に出席したのは身内がほとんどだった。」
苗木 「そう…だったんだ…」
石丸 「天才…それは運命に与えられた財産だ。 だが、それは悲劇であるとも思うのだ。
    大切な努力を知らずして、 進む事が出来てしまう悲劇…
    それゆえに、一度つまずいてしまえば、 天才ほど弱い者はない…
    …祖父のようにな。」
苗木 「それが理由…? 石丸クンが“天才”を嫌う…」
石丸 「祖父の件は、いい教訓だ。 天才などという言葉に惑わされてはならないのだ。
    僕は“努力”という確実な力を身に付け、 祖父以上の事を成し遂げてみせる!
    だから、苗木くん! 共に頑張ろうではないか! 努力した者こそが報われる社会を作り上げる為にな!」
苗木 「そ、そうだね…」
   (と言っても、ボクは石丸クンと違って、 そんな大それた事が出来る訳じゃないけど…)