「ドーモ、トルテ=サン。ポイゾネスマッシュルームです。本名は一本木 占次(いっぽんぎ しめじ)、よろしく頼む」
両手を合わせつつ丁寧なオジギでトルテにアイサツしているのは、第三公女のギルドの一員である少年である。
しかし、紺色の装束と忍び道具の詰まったベストに身を包んだその姿は……あからさまにニンジャなのだ!!

「ドーモ。ポイゾネスマッシュルーム=サン。シャドウヴィジョンです……名前はトルテ、って言うか忍びなさいよ!」
半ば本能でアイサツを返しつつ、たった今ニンジャ・コミックから飛び出してきたかのような、戯画化されたシメジの
ニンジャ姿に思わず突っ込んでしまうトルテ。シメジの首に巻かれたマフラーの、極彩色が目に刺さる。

「これは異な事を……拙者本職シノビ、樹海での隠密行動なら、レンジャーであるそなたにも後れは取らぬ」
「いや、そうじゃなくてさ、なんでこんな人目の多い所でそんなニンジャ丸出しの格好で寛いでるのさって話!!」
涼しい顔で受け答えするシメジへと、半ばムキになって喰ってかかるトルテ。人里離れたシノビの里で育った彼女は、
冒険者の集う酒場の様な場所で、ニンジャである事を隠そうともしないシメジの行動が全く理解できなかったのだ。
……最も、トルテの語る『本物の忍者』ならば、このような話題にいきなり喰いつく筈も無いのだが。

「何を申すかと思えば……樹海の探索においては魔物共の目もある故に忍びもするが、
このような町中においては、魔物共もやって来ぬからこうして寛いでいるのではないか」

だがしかし、シメジは樹海を探索する『冒険者としてのシノビ』であり、隠密衆産まれのトルテとは元から感覚が違うのだ。
そして悲しいかな、この世界においてシノビやニンジャと言えば、シメジの様な『冒険者としてのシノビ』を指すものである。
トルテの様な世間の闇に紛れて生きるシノビは、そうと明かさぬが為に世間には殆ど認知されていないのが実情なのだ。

「で、でも……だってシノビって、隠密って……うぎぎぎぎ」
納得がいかずに反論しようとするも、シメジの言葉に有効な反論を思いつけず苦悶するトルテ。
トルテの考える『本物のシノビ』について言及すれば、それは当然トルテの地位、そして命より大切な忍務を記念に晒す。

「……全く、故郷(クニ)の兄ちゃんも、とんでもないヒヨッ娘送ってくれたもんだ……どうしたもんかねぇ」
そんなトルテとシメジの、噛み合わぬやり取りを横目で見ながら、公女リコリス護衛の忍務の上官でもある軍医ジンは、
苦虫を噛み潰したような表情で、小さくそうリコリスの兄、公王シュークルートへと悪態をついたのであった。

(おわり)