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鉄砲先輩(北のりゆき)
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 2017年AKB選抜総選挙の発表会場で「結婚する」と爆弾発言をし、一躍時の人となった須藤凜々花。
 アイドルオタク以外には理解しがたいかもしれないが、頻繁に男性宅にお泊まりしていることを週刊誌にスクープされて開き直ったこの行為は、
教会財産の横領が発覚した修道女がクリスマスのミサの最中に聖母像を蹴り倒し「処女がガキを産むわけないだろ!」と放言するに等しい。
 虚像であるとしても、アイドルとは無条件で信頼されるべき『偶像』だからだ。
 AKB選抜総選挙での須藤の得票数は、3万1779票。評者の試算では一票約八百円になるので、二千五百万円以上が投じられた。一人三票投票したとすると、一万人が二千五百円ずつ投じたことになる。
五十万円くらい投票したファンなら、それこそゴロゴロいる。全て無償の行為だ。
 須藤は、彼らの信頼と善意を裏切り、『結婚宣言』で開き直った。さらに笑えるのだが、須藤は自らを『処女』であると公言していたことも付記しておこう。
 この本の中には他者との関係性が、ほとんど出てこない。行動が自分のモノであるかへのこだわりばかりだ。ここに書かれている「プロのアイドルだから恋愛はできない」「哲学者を目指してるから嘘はつけない」という須藤の言葉は、全くの嘘であった。
 バレないように顔を隠して男の元に通い、ファンから大金を巻き上げるという自らの行動をもって自著を完全に否定したわけだ。須藤の中で思考が整理できているのだろうか? 無理だろう。どこかで必ず矛盾が生じる。
 『結婚宣言』のスピーチでの「初めて人を愛することを知りました」という須藤の言葉。これで何かを理解したつもりになった時点で、哲学を志す者として終わりではないか。
 なぜ、その感情を疑い、考察することをしないのか?
 「自分に正直に」という台詞が須藤のお気に入りである。それを突き詰めれば、刺激に反応して右往左往する虫けら同然の存在にまで人格を堕としめる事になるではないか。
 須藤は、哲学以前に人間とは社会性を有する存在であるという常識すらわきまえていない。その事を彼女の現実の行動が如実に証明している。
 評者はAKB握手会で二年以上に渡り何度も須藤と対面し、短時間だが話しをした。ファンではあったが、彼女につまらない小さなウソをつかれたことがきっかけで、何か奇妙な違和感を感じていたのだ。
 須藤の『学』の水準は想像以上に低いものであった。たしかに最近の有名どころの哲学書はそれなりに読んでいるようだ。ところが知識がいびつなのだ。社会科学系の教養は、ほぼ無い。
 また、主流で有名どころの哲学者の著作はそれなりに読んでいるようだが、傍流とされる哲学者や評論家の知識は、聞いた限りでは皆無だった。
 実存について語りながら、E・ホッファーやC・ウィルソンの存在すら知らなかった。ニーチェとフロイトに対する傾倒を語りながら、『罪と罰』以外のドストエフスキー作品を読んでいない事に驚かされた。
 ニーチェをやるのならば読んでおかなければと、ニーチェとドストエフスキーの関係を評者なりに解説した手紙を添えて『悪霊』を贈ったが、どうやら読まずに捨てたようだ。
 この本を出版した時点での須藤の知的水準はこのようなところにあった。そして現在21歳の須藤は、知性と特に品性という点で本書を執筆した18歳の時よりも大きく後退したように思える。
 須藤の哲学とは、アイドルのキャラづけにすぎないのではないかと評者は疑っている。これは真面目に受け取ってはいけない本だ。