スタン・ハンセンで一番おもしろかったのは、あるとき札幌で。
スタン・ハンセンは目が悪いんだよ。ふだんはコンタクトレンズで、試合のときは当然、外してるんだけど、
それでも血気盛んになると、遠くのやつが見えるんだな。
スタン・ハンセンを遠巻きに、折り畳み式の簡易いすを、スタン・ハンセンの分厚い背中に
遠くのほうからビヤーンと投げた、眼鏡をかけたおっさんがいたんだよ。
そしたらパッと見て、目が悪いはずなのに、ダーッて行ってそのおっさんの襟首をつかんでめちゃくちゃにやっちゃったんだよ。
もう顔面血だるまよ。ぼろぼろだよ、そのおやじ。
それで控室で、中継とかも全部終わって、(いすを投げたおっさんは)「おれは引かねえぞ」って。
新日のフロントとか渉外担当とかがいろいろ出てきて「もうとにかく病院に行きましょう、出血がとまってないんだから」
って言っても、「おれは引かねえ。やろう。これは問題にすっからな、おまえら。こんだけやられたら引っ込みつかねえ」
とか言って。やくざでもないのに、くだを巻いたりごろ巻いてるわけ。
「とにかく病院に」って言っても、「病院なんかいかねえよ、おれは」って。
「そりゃあ、確かにな、いすを投げたのは悪いかもしれないけどよ、ここまでやられることはない。おれはもう腹を決めた」
ってさんざん言ってるわけよ。
そしたら最後はやっぱりなれてるね、新日のフロントが。
「何が望みかはっきり言ってくださいよ」って営業マンが言ったら、
「驚くなよ、このやろうっ! 次の興行のリングサイド、5枚」って。
「何だ、好きなんじゃない、おじさん。お安い御用ですよ、そんなの」って(笑)。