「SFC行きたいっ」
――そう言った彼女は成績優秀だった。
英語はほぼ満点が常だったし、国語も偏差値が80を超えた時もあった。
そんなに英語と現代文ができるのなら慶応の他の学部を受けても合格するはず、と思っていた僕は、彼女を羨ましく思った。
毎日毎日ラウンジや廊下で雑談しててもその成績を維持できる彼女を、僕は羨ましく思った。
チューターに「余裕っすよ」と言っていた彼女を、僕は羨ましく思った。

そしてまた言う。
「早稲田の文構にも興味がある」
そういえば、どうして現役で大学に受からなかったのだろう。
もしかして早慶にしか行くつもりがなくてMARCHや日東駒専は蹴ったのか? と思っていると、現役では日東駒専にも落ちたらしい。
「私は模試だけの女なのよ……」

そして僕らは晴れて浪人生活を終えて大学生になった。
彼女はやはりSFCか早稲田文構に行ったのかな、と思っているとどうも違うらしい。
フェリスという女子大だそうだ。

成績トップクラスの人が早慶上智MARCH落ちてフェリス……?
模試だけの女……?
そこで僕に電流が走った。
もしかして彼女はネタバレを使っていたのではないか、と。

風の噂によると、やはりネタバレだったらしい。
周りのみんなが必死に勉強しているのに、現役時代からネタバレ使って怠けていたツケだと僕はあざ笑うばかりだ。
そして言おう。ピエール。
何度でも言おう。ピエール。