他人からはうかがい知れない事情を明かされて、私は思わずツッコミを入れる。そんな
事情なら確かに、付き合ってなくたって仲が良いっていうのは分かるけど、知らなきゃ誰
だって勘違いするに決まってる。
『まあ、だからね。男子って言ってもタカシは別なの。こんなこと、ごく自然だし』
 透子はおもむろに別府の手を引っつかんで引き寄せると、半ば強引に抱き寄せる。
「おまっ!? いきなり何すんだよ!!」
 さすがに人前では恥ずかしいのか、別府は抵抗して体を引きはがす。
「お前な。いつも言ってるけど場所柄をわきまえろよ。だから余計な勘違いばかりされる
んだろうが」
『いやー。かなみんには言葉で説明するより、この方が分かりやすいかなって。私たちの関係』
「椎水に見せるだけならともかく、ここ通学路だぞ。いくら下校時間から大分ズレてるっ
つったって、まだ通る奴結構いるのに」
『知らない人だったら別にほっとけばいいし。知り合いなら事情知ってる子がほとんどだ
し。普通なら噂の種にするだろうから、すぐ誤解なんて解けるし。まあ、かなみんは別として』
『ちょっと!! その、別ってなによ。人を変人みたいに言わないでくれる』
 てっきり私の人付き合い苦手な性格をからかわれたのかと思って文句をつけると、透子
はちょっと申し訳なさそうに笑って、手振りでそれを否定する。
『ゴメン。そういう意味じゃなくてさ。好きな人に彼女がいるのかどうかって、誰かに確
かめるのは怖いだろうからって思って』
『むぅ…… そういう意味なら――って、はいいいいいっ!?』
 あまりに自然に言われたから思わず流しそうになって、途中で言われた意味に気付いて
私は驚きのあまり奇声を発してしまった。
『お? いいね。そのノリツッコミ。かなみんって、そういうのも出来るんだ』
 妙なことで感心する透子に、私は勢い込んで詰め寄る。
『そんなことはどーでもいい!! それより何よ!! すっ……すすすすす……きな人っ
て!! だらっ……だるがっ……誰が、その……誰を好きだってってって!!』
 動揺して噛み噛みの言葉で問うも、透子はしれっとした様子で小首をかしげた。


また来週に続く