【番犬と飼育員】

 そこは赤い霧で覆われた地獄へと続く道のある煉獄と呼ばれる場所でした。
 そこには大きな門があり、その門を守護する番犬ケルベロスとその世話をする飼育員がいました。
 ある日、門を通ろうとする者を見事に追い払ったケルべロスを見ていた飼育員は思いました。

「最強のケルベロスを飼育している自分は最強なんじゃないか?」と、

 その思いは、日を追うごとに増していき、やがて飼育員はケルベロスを連れて人間界へと逃げてしまいました。
 なにせ門番をしていたのだから逃げ出すことはあまり難しくありませんでした。
 そして人間界にやってこれた飼育員たちは人と話してみたいと思い、人の町のある場所を目指しました。
 ですが、人間界は入り組んでいて飼育員たちはすぐに迷ってしまいました。
 そこで、飼育員はケルべロスに聞きました。

「どうすればいいのかな?」

 ケルベロスは少し考えると答えました。

「まずは近くにいる冒険者に道を聞いてそれから人の町を探せばいいよ」
と、

 それを聞いた飼育員はなるほどと思い、近くにいる人を探しました。
 しかし、近くにいた人達は皆ケルべロスを見て逃げて行ってしまいました。
 そこで飼育員はケルベロスに言いました。

「君がいると人が寄ってこない、だから君は煉獄に帰って待っていてくれ」

 それを聞いたケルベロスは素直に帰っていきました。
 しかし、ケルベロスから人が遠ざかるのは当たり前の事でした。本来、
地獄の門を守護するケルベルスは近寄る者を追い返すのが仕事であって、ずっとそれしかしてこなかったのです。