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【東方】魂魄妖夢はみょんみょん可愛い
0001名無したんはエロカワイイ
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2010/03/25(木) 17:41:58ID:tXdArxFq0
なかったので
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    `ヽ;::::ヽ::::::::!'_,,,,...,,,__       `ヽ.
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     く,/i !ヘ、         ",/ i  ,ハ/, '       `ヽ.
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     !、___ハ._/、, _, `"´  ̄ `   ,イゝ   )  ノ
0031名無したんはエロカワイイ
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2010/04/10(土) 13:20:29ID:UEMJFGOsO
気が付くと、俺は薄ぼんやりと天井を見上げていた…

「おや、気が付きましたか」

この声は…?ああ、そうだ。少し前に、俺を完膚無き迄に叩きのめした少女の声だ。
起き上がろうにも体が鉛のように重い。節々が痛む。

「あまり無理はしない方がいい。急所を打ちましたから」

俺の顔を覗き込みながら、ニコリともせず少女が呟く。
まだ幼さも残る、整った顔立ち。どこか澄ましたような顔が何とも憎らしい。
俺はこいつに、一太刀も入れる事も出来ず無様に負けたのだった。

それなりに腕に自信はあった。今まで負けた事などなかった。
天才といわれても、別に嬉しくもなければ誇らしくもなかった。
ただ、そんなものか、と思うだけだった。
ところがどうだ。俺は少し前に、こんな年端もいかない少女に手も足も出ずに負けたのだ。

「本当は殺しても良かったのですが。幽々子様にお伺いをたててからでないと」

幽々子…?ああ、こいつの主人の名だったな…

・ ・ ・ 

西行寺幽々子の可愛がっている従者を、人質に取って欲しい。

この依頼を受けたのが事の発端だった。
依頼人は何でも幽々子に酷い目に遭わされたそうだ。
だから幽々子にはどうしても復讐したいのだと。

復讐にも、人質を取るなんて下衆な考えにも興味は無かったが、その従者とやらが気になった。
名は魂魄妖夢、かなり剣を使えるとの事。しかも珍しい刀を持っているらしい。
その刀を報酬に頂く事を条件に引き受けたのだが…

・ ・ ・ 

結局上手くいったのは件の従者、魂魄妖夢をおびき出し立ち合いに持ち込んだ所まで。
俺の初太刀はあっさり見切られ…後は背中に強かに打ち込まれた事しか覚えていない。
すると、ここは…?

「ここはわが主、西行寺幽々子様の住まう白玉楼」
「まだ動けないはず。もう少しじっとしてなさい」

「あなたの処分は…あなたのご主人の処分が終わった後に、幽々子様が決めるそうよ」

なるほど。俺は俎板の上の鯉か。

「聞いたい事があるんだが…」
「私に答えられる事でしたら、どうぞ」
「ここまで運んでくれたのはアンタかい?」
「えぇ、まぁ。あなたのご主人にも手伝ってもらいましたが」
「傷の手当てもアンタかい?」
「幽々子様のご命令でしたから」
「…包帯の巻き方は下手くそなんだな」

今まで澄ました顔だったのが、見る見る赤くなる。
何も言わずに立ち上がると、妖夢は乱暴に襖を開けて部屋から出ていってしまった。

ぴしゃり!一応襖は閉めていった。
0033名無したんはエロカワイイ
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2010/04/10(土) 16:48:31ID:UEMJFGOsO
西行寺幽々子は、よく笑う女だった。

「それで、あんまり命乞いするものだから…つい許しちゃったのよ」

そう言ってころころと笑う。

「貴方の雇い主さん、今度私にお腹一杯ご馳走して下さるそうよ。楽しみだわぁ」

暫らくころころと笑っていたが、やがて俺の目をじっと見つめる。

「問題は命乞いもしない貴方の方ね」

俺も幽々子の目を見つめ返す。
何を考えているか、本当はどこを見ているか、それが全く読めない目だった。

「俎板の上の鯉ですから」
「あら、素敵。じゃあ洗いにしようかしら?鯉こくも乙よね」

ころころと笑う幽々子。しかし、目は俺を捕らえて離さない。

「妖夢に刃を向けたという事は、その主である私に刃を向けたのと同じ事」
「しかし…貴方の刀、真剣ではありませんでしたわね」
「生け捕りにしろ、との話でしたので」
「妖夢の腕前を舐めていたのかしら?よっぽど自信がおありだったの?」
「舐めていましたし、自信もありました」
「ところが油断大敵、負けちゃいましたわね」

幽々子は目を細めてくすくす笑う。俺は一呼吸置いて、大声で言い返した。

「完敗ですっ!!」

少し目を見開いた幽々子だったが、また目を細めてくすくすと、本当に面白そうに笑う。

「妖夢がね、貴方の初太刀を誉めてましたわよ。もう少し速ければ、危なかったって」
「そのもう少しが、決定的な力量の差です」
「不意討ちでも仕掛けたら、何とかなったわよ?」
「そういうやり方は教わっておりません故」

「あらあら…貴方は本当に、妖夢に良く似ているわ」

幽々子はまだ俺の目を見ている。しかし…本当に見ているのは、どうやら…

「妖夢はね、お料理も得意なのよ」
「俎板の上の鯉さん。貴方の処分、妖夢に一任しましょう!」

ぽんっ、と幽々子が手を打つ。俺の後ろの襖が開く。振り向くと、妖夢が立っていた。


妖夢は無表情で俺を見下ろす。俺は妖夢を見上げる。


「妖夢。一日猶予を与えます。よく考えて、この男の処分を決めなさい!」
0034名無したんはエロカワイイ
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2010/04/10(土) 21:07:27ID:UEMJFGOsO
親父は剣の達人として知られていた。小さな道場を持っていたが、弟子は俺以外いなかった。
物心がついた頃から…俺は親父に朝から晩まで、みっちりと剣術を叩き込まれ続けた。
親父がやれといった事をやる。そんな人生に疑問すら抱かなかった。
道場破りも、親父の編み出した奥義も、家の流派に伝わる秘伝も「やれ」の一言でやらされた。
「やれ」と言われた事はやった。出来た。だが、親父は決して俺を誉めなかった。

最後に親父に「やれ」と言われたのは、真剣での立ち合いだった。やれと言われたから、やった。
親父が俺を誉めたのは、その立ち合いの後の「見事」の一言のみ。
医者に診せたが、俺から受けた傷は思いの外深かったようだ。傷が元で、親父は数日後に死んだ。

俺は、する事がなくなってしまった。

・ ・ ・ 

「手入れの行き届いた庭だな」

俺は今、妖夢に連れられ白玉楼の庭にいる。
妖夢は何も言わない。極力俺と話す事を避けているようだ。

「こういう庭を、のんびりと眺めて暮らせたらなぁ」

妖夢は俺の方をちらりと一瞥すると、また俺に背を向けた。
どうやら視線すら交わしたくないらしい。

「庭に出たのは…俺の血で部屋を汚したくないからか?」

俺の言葉に、妖夢はゆっくりと振り返る。鋭い目付きで俺を見つめる。

「幽々子様は…」

「幽々子様は、あなたは死を恐れていないと仰っていたわ」

ぽつり、ぽつりと妖夢が話し出した。

「私にはそうは思えない!」

妖夢の語気が強くなる。

「あなたはただ、一生懸命生きていないだけよ!」

俺の心が騒つく。思わず妖夢から目を逸らす。

「それだけの腕を持ちながら、あんな奴の為に利用されて!」
「あんな奴?俺を雇ってた奴の事か?」
「そうよっ!あいつはね、自分の命惜しさにあなたを売ったのよ!」
「ほう、こんな俺でも誰かの命を救えるとはねぇ」
「なっ…なんて暢気なっ!!」

妖夢は呆れ果てたといった表情で俺を見る。だが、暫らくすると肩を震わせて怒りだした。

「少しは見所があるかと思っていたけど…どうやら見込み違いだったようね!」
「あなたがこれ程の愚か者だったとは!もはや是非もありません」

差していた刀を構え、妖夢は俺を睨み付ける。


「あなたの処分が決りました!覚悟は…よろしいか?」
0037名無したんはエロカワイイ
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2010/04/10(土) 23:49:29ID:UEMJFGOsO
「何か言い残す事は?」
「そうだな、どうせなら二刀流で送ってくれ」
「なんだと…?」
「あの時は後ろから打ち込まれただろ?きちんと正面から見たいんだよ」

妖夢は少し迷ったようだが、大きく深呼吸すると、スラリともう一本の大太刀を抜いてみせた。


「美しい…」


思わず声が洩れる。楼観剣、白楼剣と言ったか。どちらもかなりの業物だ。
だが、それよりも…あの大太刀を苦もなく抜いてみせる腕前…しかも二刀流。
その上、構えも実に落ち着いている。隙が見当たらない。もはや感嘆する他なかった。

「美しい?…な、何の話だ!変な目で私を見るなっ!」
「いやぁ済まない。見惚れてしまった」

明らかに妖夢は動揺していた。あれ程の事があっさり出来るかと思えば、こんな言葉で心を乱す。
妖夢という人物が、分からなくなってきた。

「と、とにかく!今からあなたを処分します!」
「あっ、そういえば…」
「まだ何かあるの?」
「あの時は…鞘から抜かずに打ち込んだんだな…」
「それは…あなたの刀には、刃がついてなかったから…」

あの刹那にそこまで見切られていたか。

「やれやれ…俺は随分と狭い世界で生きていたんだなあ…」

妖夢は何も言わずに構えを直す。
次の瞬間、目にも止まらぬ一閃!!

俺は静かに目を閉じた…


・ ・ ・ 


落ちたのは俺の首ではなく…髪の毛と、最近生やしだした髭だった。

「だらしなくて目障りだったので。切らせて貰いました」

随分と短く刈られた頭と、寂しくなった口元を撫でながら思わず呟いた。

「俺を処分するんじゃなかったのか?」
「あなたの処分は…当分の間、白玉楼での雑用係に決定しました」
「なっ…なんだそりゃ!?」
「殺して差し上げても良かったのですが…」

妖夢は刀を鞘に収め、じっと俺を見つめる。

「あなたは、まず第一に一生懸命生きていません。諦めと覚悟は違います!」
「あなたは、まず死ぬより先に、一生懸命生きる必要があります」
「取り敢えずだらしない格好では駄目です。白玉楼で働く以上、きちんとして下さい!」
「ここでの仕事は楽ではありません。覚悟は出来てますよね?」


そこまで言うと妖夢はにっこりと、実に可愛らしく微笑んだ。
0041名無したんはエロカワイイ
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2010/04/13(火) 18:36:12ID:zQsi2hfpO
親父を弔った後、とりあえず道場は畳む事にした。
一人で居るには広過ぎたし、どうせ良い思い出もない場所だった。
剣術の稽古をする必要も無くなった。かといって、他にする事もない。出来る事もない。

ふらふらと彷徨っているうちに、ようやく見つけた仕事は用心棒だった−−−

・ ・ ・ 

白玉楼の雑用係となってからは、俺の生活も随分規則正しいものになった。
あの少女−魂魄妖夢−が口喧しいせいだ。
やれ朝は早く起きろ、やれ服装は小綺麗にしろ、やれ礼儀作法に気をつけろ…

何から何まで、色々と細かい注文をつけてくる。実にやりにくい。

「おはようございます!今日は早起きでしたね」

たまにこうやって言い付けを守ってやると、本当に嬉しそうな顔をする。

「おや?まだ顔を洗ってませんね。顔を洗って、目を覚まして下さい!」

実にやりにくい。

・ ・ ・ 

俺は今、ここ白玉楼の雑用の中で一番苦手な仕事に従事している。

「また雑になってる!料理は下拵えが大事だとあれ程…」
「ちゃんと皮は剥いただろう?」
「とんでもない!こんなに分厚く切っちゃって…」
「丁寧に作っても、ぱっぱと食べられちゃって終わりなのに」
「なっ、なんて事を!幽々子様の口に入るものなんですよ!」

幽々子…いや、幽々子様か。幽々子様の食事の支度。
白玉楼の雑用の中で、これ程手間隙のかかる仕事もないだろう。
なかなか捗らないジャガイモの皮剥きに苛つく俺に、妖夢が追い討ちをかける。

「さぁ急いで!幽々子様がお待ちかねですよ!」

・ ・ ・ 

幽々子様は実によく食う。その量は、およそ常人には想像もつかないだろう。
俺も自分の目で見るまでは…いや、見てからも未だに信じられない位の量である。
それ程の量の食事を前にしても、幽々子様の箸は、食事を平らげるまでは決して止まらないのだ。
早過ぎもせず、遅過ぎもせず、実に優雅な箸捌き。見る見る間に消えていく料理。
見ていると思わず溜め息が洩れてしまう。しかも、これは朝食。夕食はもっと食う。

「お代わりは宜しいですか?」
「そうねぇ、もうちょっと頂こうかしら」

この日、俺はとうとう吹き出してしまった。

「こっ、こらっ!幽々子様の前ですよ!!」

慌てた様子で妖夢が俺を叱る。おそらく俺が笑っている理由も分かってないだろう。


本当に、どこまでも真っ直ぐなんだな。


そんな妖夢を見ていると…俺はもうどうしようもなく、笑い転げるしかなかった。
0042名無したんはエロカワイイ
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2010/04/13(火) 18:37:21ID:zQsi2hfpO
俺と妖夢との間で一悶着あったが、幽々子様は特に気にする様子もなく、悠々と朝食を平らげた。

「ふぅ、美味しかった」
「幽々子様…申し訳ありませんでした」
「妖夢、どうして謝るの?」
「お食事の最中に…お見苦しい物をお見せしてしまい…」

平身低頭して謝る妖夢。俺も何やらばつが悪くなってしまい、頭を下げた。
幽々子様は妖夢と俺をちらりと見ると、微笑んだ。

「あらあら…もうお腹は一杯よ。ご馳走様」

・ ・ ・ 

「幽々子様はあなたの主なんですよ!」

妖夢がまた怒りだした。

「主を笑う従者なんて聞いた事がありません!」
「だから、幽々子様を笑った訳じゃ…」
「じゃあ何がそんなに面白かったのですかっ!!」

あれだけ食ってる幽々子様にお代わりを勧める妖夢。それに平然と応える幽々子様。
その状況が堪らなかったのだが。今の妖夢には何を言っても怒られそうな気がする。
さて、どうしたものか。思案しているうちに、ぐぅ、と俺の腹が鳴った。

「あなたには、幽々子様に仕えているという自覚が」

ぐぅ、また俺の腹が鳴った。

「…話が終わるまで、ご飯は」

ぐぅ、もう一度俺の腹が鳴った。

・ ・ ・ 

幽々子様の食べる食事に比べると、俺や妖夢の食事は随分と質素だった。
質素ではあったが、大方妖夢が作った料理なので、味は期待出来る。
ジャガイモと格闘した報酬としては悪くない。

「こらっ!そんなにがっついて食べない!」
「腹が減ってるんだよ」
「理由になりません!何事にも作法というものが」
「はいはい、分かりました」
「まったく…」

思えば食事の作法など教わった事はなかった。
親父は剣術以外の事はあまり頓着しなかったし、口も出さなかった。
お袋は俺を産んですぐに亡くなったそうだ。生きていれば…色々と口喧しく躾られたのだろうか?

「またニヤニヤして…今度は何ですか?」
「いや、こうやって叱られるのも悪くないなぁ、って…」

俺は思わず口を押さえる。しまった。何を言ってるんだ。
自分でも顔が赤くなるのが分かる。妖夢の顔がまともに見られない。

「…おかしな人」

狼狽える俺の様子を暫く眺めていた妖夢が、クスクスと笑いながら呟いた。
0045名無したんはエロカワイイ
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2010/04/15(木) 19:25:34ID:57EwjkjyO
俺にしつこく絡んできたチンピラを軽く伸した事があった。
その時、俺の事をやたらと誉めては擦り寄ってくる男がいた。この辺りの顔役だと言う。

「どうだい、暫く俺の所に居てくれないか」

特にする事もなかったので厄介になる事にした。
その男は敵が多く、命を狙ってくる者もいた。そういう輩から守ってやるのが俺の仕事だった。

退屈な仕事だった。ある程度痛めつけると、大抵の奴は気絶するか逃げ出した。
俺の雇い主も最初はご機嫌だった。だが、そのうち色々と注文をつけてくるようになった。

ある日、とうとう殺しを依頼されたので断った。

「俺の仕事は用心棒だろ?」
「おや?先生らしくもない。怖いんですかい?」
「やりたきゃ自分でやりな」
「…先生、立場ってものが分かってないねぇ」

俺の返事が気に入らなかったようだ。俺は仕事を失った上、首に賞金をかけられた。

暫くは退屈しなかったが、飽きた。件の男に会いに行くと、顔を真っ青にして命乞いをした。

「俺が悪かった。もう二度とアンタにゃ関わらねえ」
当分困らない位の金が懐に入ったが、あまり嬉しくはなかった。
噂を聞き付けたのか、どこか暗い連中から色々と声をかけられるようになったからだ。

そんな連中を適当にあしらう毎日。俺は本当に退屈だった−−−

・ ・ ・ 

妖夢は剣を構えたまま、じっと動かない。

仕事が一段落すると、妖夢は白玉楼の庭でこうやって稽古をする。
剣の稽古というよりは…禅に近い。長い間、妖夢は微動だにしない。
そんな様子を、俺と幽々子様は屋敷の縁側で見守る。

妖夢がゆっくりと目を開く。ひゅん。風の切れる音がした。
しゃきん。今度は刀を鞘に収める音。

「それじゃあ妖夢、そろそろお夕飯の支度お願いね〜」
「おっと、もうそんな時間でしたか」

稽古を終えた妖夢は台所へ向かおうとする。さて、俺も台所へ…

「お待ちなさい。貴方には用事があるの」

幽々子様に呼び止められた。

「妖夢、ちょっと借りるわよ〜」

・ ・ ・ 

「私は剣の事はあんまり分からないんだけど」

庭に目を向けたまま、幽々子様が独り言のように呟く。

「貴方の目から見て…妖夢の稽古、どう思う?」
「俺にはとても真似出来ません」

正直な感想だった。
0046名無したんはエロカワイイ
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2010/04/15(木) 19:28:11ID:57EwjkjyO
先ほどの稽古では…妖夢は剣を一回振っただけだ。
しかし…あの一振りの為に、長時間ずっと意識を集中させていた。
構えも崩さずに…何という集中力だろう。

「あら、それは誉め言葉?」
「勿論です」
「そういえば…貴方はどんな稽古をしていたのかしら?」
「俺ですか?…もう忘れました」

朝から晩まで四六時中、重りのついた木刀を振っていた。
形が体に染み付くまで、真剣を枝のように軽く振れる様になるまで。
何百回も、何千回も、何万回も。繰り返し繰り返し…
「勿体ない話ね」

幽々子様は軽く伸びをすると、俺の方に目を向けた。

「ねぇ貴方…妖夢と一緒に稽古して下さらない?」

・ ・ ・ 

「抜かないのか?」

妖夢に立ち合いを申し込んだ日の事だ。一向に剣を抜こうとしない妖夢に思わず声をかけた。
ああ、それでしたら、と前置きして、妖夢が答えた。

「もう覚悟は出来ております。ご自由にどうぞ」

そう言って構えもしなければ、柄に手もかけない。
華奢な体に、不釣り合いな二本差し。
瞬間、俺の頭に血が上る。怒りにも似たそれは、焦りだった。

こんな小娘に、後れを取った。

焦りを振り払うように、妖夢に斬り掛かったが…俺の剣は空を切った。

・ ・ ・ 

「俺と稽古しても妖夢の足を引っ張るだけです」
「そうかしら?」
「俺は未熟者ですから」
「貴方がそんな事言ったら、妖夢も未熟者になるわねぇ」

ころころと幽々子様が笑う。

「貴方と妖夢の力量の差が気になるの?」
「その差が大きいのです」
「埋められない差じゃないわ。貴方が一生懸命やればね」
「そうだとしても…妖夢の稽古にはならないでしょう」
「困ったわねぇ」

幽々子様から溜め息が洩れる。何やら思案している様子だったが、やがて居住まいを正し俺を見据え…

「白玉楼の、妖夢の主としてお願い致します。何とぞ妖夢と稽古を」

深々と頭を下げた。
0047名無したんはエロカワイイ
垢版 |
2010/04/15(木) 19:31:14ID:57EwjkjyO
「妖夢のお師匠様はね」

どこか懐かしむ様子で、幽々子様が俺に語りかける。

「魂魄妖忌って言ってね、妖夢のお爺ちゃんなんだけど」
「剣の腕前は達人中の達人だった」

「だけど頑固なお爺ちゃんでねぇ」
「妖夢には、碌に剣術を教えてくれなかったの」

ケチなお爺ちゃんでしょ、と幽々子様は苦笑する。

「剣の構えも、足の運びも、碌に妖夢に教えなかった」
「何回か技を見せた事はあるけど…それだけよ」

「僅かな記憶だけを頼りに…妖夢は一人で稽古しているの」
「何とか自分のお師匠様に近付こうと…一生懸命に」
「悩みながら、考えながら、一人で稽古を続けてきたの」


「でもね」


「誰かと共に歩む事で…初めて分かる事もあるわ」
「そして、それは…妖夢にとって必要な事なの」

貴方にとってもね、と幽々子様は付け加えた。

「俺にとって、とは?」
「あら?貴方は何故、妖夢と立ち合ったのかしら?」
「退屈しのぎですよ」
「本当に興味のないものなら見向きもしないわよ?」

俺は言葉に詰まってしまった。

「その理由は、妖夢と稽古すればきっと貴方にも分かる筈よ」
「だって貴方は…やっぱり妖夢に似ているから」

そう言ってころころ笑っていた幽々子様だったが、今度はにやにや笑いながら、俺を横目で見た。

「いい切っ掛けじゃない、妖夢と仲良くなる…ねぇ?」
「別に、今でもそれなりですが」
「そうじゃなくて…ねぇ?もっと親密に…ねぇ?」

幽々子様はにやにや笑いをやめない。こんな風にからかわれるのは、好きじゃない。

「今のままで十分です!!」
「あら、そう?残念ねぇ…」


「妖夢もそう思うでしょ?」

振り返ると…いつの間にか妖夢が俺の真後ろにいた。無表情に俺を見下ろす。

「何が残念なのか分かりませんが…もう用事は済みましたか?」
「えぇ、今終わった所よ。長々と、ごめんなさいね」

妖夢は何も言わない。俺は妖夢に言葉をかけようとしたが、そっぽを向かれてしまった。

「さっきの話…検討しておいてね。そうそう、お夕飯もしっかりね〜」
00504
垢版 |
2010/04/15(木) 22:44:38ID:1VOpvJD70
最初期にこのスレを伸ばしておいてよかったと思えるよ。
0051名無したんはエロカワイイ
垢版 |
2010/04/16(金) 16:39:24ID:U9xh8lSkO
それから妖夢の機嫌はずっと悪かった。最近では用事がないと口すらきいてくれない。
時折、俺を責めるような目で見てくるのだ。これが案外堪えた。

「ちゃんと仲良くしないとダメじゃないの」

庭を掃除していると、幽々子様に話しかけられた。

「妖夢に言って下さいよ」
「原因は誰なのかしらね〜」

全くだ。誰が原因なのだろう。幽々子様は扇を取り出し、はたはたと扇ぐ。

「最近は貴方も早起きして頑張ってるのにねぇ」

ここ暫く、朝は妖夢より早く起きている。掃除も、ジャガイモの皮剥きも丁寧にやっているつもりだ。

「しょうがないわねぇ」

パチリと扇を閉じて、幽々子様は俺の耳元に口を寄せる。

「可哀想だから…助け船を出してあげましょう…」

・ ・ ・ 

その日、いつもより多めの買い物を頼まれ、俺と妖夢は里に出ることになった。

「私一人で大丈夫だと、幽々子様には申し上げましたが…」

俺を一瞥して、妖夢が言う。

「どうしてもあなたと行くように、との事です」

くるりと俺に背を向ける。

「とりあえず、ついて来て下さい」

そのままスタスタと歩きだした。

・ ・ ・ 

早足で歩く妖夢を追い掛けながら、里へ向かう道中…

「あなたに、言っておきたい事があります」

振り返りもせず、妖夢がこう切り出した。

「最近のあなたは…私から見ても、頑張っていると思います」
「少しは生きる気力を取り戻したようですね」

俺の方をちらりと振り返ると、また背を向けた。

「私があなたに、白玉楼で働くように仕向けたのは…」
「あれ程の腕を持つあなたに、無為に生きてほしくなかったからです」

「あなたに、一生懸命生きる気力を取り戻してほしかったからです」

一呼吸置いて、妖夢が続ける。

「だから…私の事は気にしないで結構です」
0052名無したんはエロカワイイ
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2010/04/16(金) 16:43:53ID:U9xh8lSkO
「あなたは…あなたが本当にやりたい事だけ考えて下さい」
「一番大事なのは…あなたの心構えです。あなたの人生です」
「それだけ考えて下されば…結構です。私と無理に仲良くする必要はありません!」

そこまで言うと、妖夢は俺の方を振り返った。

「とにかく…あなたのやるべき事は、私と仲良くする事ではない筈です!」

「残念だな」

妖夢は何か言いたげだったが、俺の顔を見ると、俯いて黙り込んでしまった。

そんなに情けない顔だったのだろうか。自分が今、どんな顔をしているか分からない。

気まずい沈黙が暫く続いた。

・ ・ ・ 

里での買い物を終えて、白玉楼へ帰る道中。
俺の前をスタスタと歩く妖夢を呼び止めた。

「妖夢…ちょっといいか?」
「…何か用でしょうか?」

怪訝そうな顔で妖夢が振り向く。

「妖夢に渡したいものがあるんだ」
「私に…ですか?」

ますます怪訝そうな顔をする妖夢。構わず俺は続ける。

「手を出してくれ」
「一体、何を…」

躊躇いがちに差し出された妖夢の手に、俺は包みを乗せた。

「これは…?」
「開けて見てくれ」

妖夢が包みを開けると…先ほど俺が買った櫛が姿を見せた。

「…これを、私に!?」

心底驚いた様子で妖夢が尋ねる。

「幽々子様から小遣いを頂いてね」
「俺の好きなものでも買いなさい、ってさ」

妖夢はしげしげと櫛を眺める。柘植で出来た、綺麗な桜の彫りが施されている櫛だ。

「わざわざ私なんかに…せっかくなら、あなたの好きなものでも…」
「俺は…自分が欲しかったから、その櫛を買ったんだ」

「妖夢に…受け取って欲しいと思ったから…」

ここ迄言って、俺は喋れなくなってしまった。どうした訳か、言葉が出て来ない。
言いたい事は、まだ残っているのに。

妖夢の頬が、うっすらと赤く色づいた。
0053名無したんはエロカワイイ
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2010/04/16(金) 16:46:36ID:U9xh8lSkO
妖夢は黙って、掌の櫛を見つめる。俺も黙って立ち尽くす。

「どうして私に…櫛を?」

ようやく口を開いた妖夢に促されるように、俺も口を開いた。

「妖夢には、その、世話になったから…礼がしたかった…」
「礼なんて…私は特に何も…」
「妖夢の髪は綺麗だから…いいかな、と思って…」

妖夢の顔が、耳たぶまで赤くなった。おそらく俺の顔も真っ赤だろう。火照っているのが自分でも分かる。

「…余計な事だったか?」
「そっ、そんな事は決して!!…ただ、その…」

「こういう事は…初めてだったので…」
「…俺も、初めてだよ」

互いに見つめ合う。どちらともなく、笑みが零れる。

「ありがとう。ずっと大事にします」

櫛を胸に抱き寄せて…妖夢がそっと呟いた。

・ ・ ・ 

妖夢と二人、白玉楼への帰り道を並んで歩く。
隣に並ばれると、どうにも緊張するが…話し掛け易い距離だった。

「実は、頼みがあるんだ」
「頼み…ですか。私に出来る事なら何なりと」
「幽々子様に…俺が白玉楼で働けるよう、口を利いて欲しい」
「えっ!?だって、あなたはもう既に…」
「成り行きで、じゃなく…ちゃんと自分の意志で働きたいんだ」

妖夢が俺を見つめる。俺も妖夢から目を逸らさない。

「本当に…それが、あなたのやりたい事なのですか?」

妖夢の問いかけに、俺は頷く。

「分かりました。幽々子様にお願いしてみます」

嬉しそうに、妖夢は微笑んだ。

「もう一つ、頼みがあるんだ」
「何でしょうか?」
「一緒に…剣の稽古をしてほしい」
「私と…ですか?」

驚く妖夢に、俺は思っている事を正直に話した。

「今までは…剣の道を究めたと思っていた。思っていただけで、実際は…」
「それならば…今いる所より、先に進みたいんだ」
「何処まで辿り着けるか分からないが…やれる所まで」
「妖夢の稽古の邪魔にならない様に…それだけは気を付ける!」

そこまで一気に言い切ってから、妖夢の返事を待った。
0054名無したんはエロカワイイ
垢版 |
2010/04/16(金) 16:52:11ID:U9xh8lSkO
妖夢は何やら、とても困ったような顔をしていた。

「俺と一緒では…迷惑か?」
「いえ!きっと私も勉強になると…ただ…」

そう言ってから、口籠もる妖夢。

「ただ…?遠慮なく言ってくれ」
「私は未熟者です…あなたの期待に添えるかどうか…」

未熟者…?たしか、そんな台詞を…そうだ!あの時、俺が幽々子様の前で…

幽々子様が言う様に…俺と妖夢は、似ているのかもしれない。
そう思うと…何だか急に可笑しくなって、俺は笑ってしまった。

「な、何故笑うんですか!?真面目に話しているというのに!」
「わ、悪かった!真面目な話の最中なのに…」
「まったく…あなたという人は、本当に…」

呆れ顔で俺を見る妖夢。

「俺の心の底からの頼みだ。どうか一緒に、剣の稽古を!」

姿勢を正し、俺は頭を下げた。

妖夢は面食らったようだったが…

「分かりました。こちらこそ、宜しくお願いします!」

丁寧に、頭を下げ返した。

・ ・ ・ 

「それでは、改めて宜しくね」

「精一杯、頑張ります!」
「死んだ後も、頑張って頂戴ね〜」

悪戯っぽく微笑む幽々子様。

「ところで…妖夢と一緒に稽古してくれるそうね」
「俺の方が、妖夢に頼みこんだんです」
「どちらでも結果は同じよ。本当にありがとう」

そう言って、今度は柔らかく微笑む幽々子様だったが…

「教えてあげたでしょ?女の子は贈り物に弱い、って」

拗ねた様に俺を見つめる。

「はい。ですから、妖夢には…」
「私にも何か買って欲しかったな〜…お団子とか」

たしかに、俺は幽々子様にも世話になっていた…

「思い込んだら、他の事は目に入らないのね。本当に、貴方と妖夢は…」


幽々子様はころころと笑うのであった。
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