「絡んだ糸をほどくなら、糸の気持ちになりなさい」
その瞬間、>35は体中に電流が走ったような衝撃を受けた。
見えたッ!

長年意味も分からず、数知れず繰り返してきた組稽古と型稽古。
わけも分からずただ聞き、記憶するだけだった老師匠の口から出る言い伝え。

あたかも、広大な砂漠の中で互いに遠く離れ離れに光っていた石が、祖母の言葉を
聴いた瞬間、全て一本の線で結ばれ、そこに見事な像が浮かびあがるようだった。
先人たちが命をかけて編み出し、後世に伝えたかった技。

「俺を肩固めで絞めてくれ。」>35は後輩に言った。「遠慮無く頼む。」
>35より身長も体重も一回り半も大きく、筋骨逞しい後輩が、畳に仰向けになった
>35を横からがっしりと固め、締め上げた。太い腕がギリギリと>35の首にくい込んでくる。
このままだとすぐに失神だ。
だが、その刹那、するりと>35の体が抜け、後輩が気が付いた時には、締め上げて
いたはずの腕が逆手に極められていた。一体何がどうなったのか彼には分からなかった。

近、現代の柔術家の、誰もがなし得なかった「秘伝・糸ほぐし」再現の瞬間である。