博士と話しているとき、彼がじつによく連発していた言葉が2つありました。「リジェクトした」という言葉と「デイテストしてくれ」という言葉です。

彼がデイヴィッドと来日した時のこと、
デイヴィッドが、日英合作の小系自転車のヴァージョンとして、
内装ハブを付けてフルチェンケースのものがあったら良いと思う、
ということを埼玉県にある料亭で食事中に言いました。
私もその場で、そういうものも必要だろうね、と賛同の思いでしたが、博士は色を変えて、激越な調子でデイヴィッドをなじり、
「内装ハブはエネルギー効率が悪いんじゃ。内装ハブは過去にやった。もう二度とやる気はない。
走行性能の点から言って、絶対に内装ハブは外装ハブに比べて不利だ。
その話は二度と聞きたくない。ディテストしてくれ。」
と言い、補足しようとしたデイヴィッドにさらに、
「充分だ。もう何も言うな。」
と止めたのでした。
私はちょっと意外な気がしたのです。
博士のあまりの剣幕に私もデイヴィッドに助け舟を出せませんでした。

しかし、面白いのは、ツール・ド・フランスの実況放送解説をするくらいの、もとチャンピオンのディヴィッドが「フルチェーン・ケースが付いた車種が必要だ」
と考え、スローピング・トップ・レーサーとカーボン・ファイバー・モノコックの父、マイク・バロウズが
外装変速器付きのフルチェンケースの自転車を設計して、試作までしていることです。

博士も現実の路面の上は凸凹の繰り返しなので、小系では鏡のような路面では
空気抵抗と接地面積の小ささが味方して、ころがりがよくなるものの、実際の道路ではレギュラーホイールに負ける
いうのを重々承知で、少しでもハンデイを背負うのを嫌ったのでしょう。

一方で、私は博士が、どうしてあそこまで「小系」にこだわるのか?しばしば考えてみたのです。
彼ほどのエンジニアなら小系が自転車ではダメなことは、初歩の科学でわかることです。

それは以下の通り、