女優・のん「あまちゃん」からの4年半(前編)
国民的ヒロインの葛藤と成長を追った
http://bunshun.jp/articles/-/5838?page=5

〜ところが。片渕監督は、ここまで来て衝撃の事実に直面することになる。
主役のすずの声を頼もうと思った能年玲奈の姿が、どこにもなかったのである。
片渕監督が当時をふり返る。
「あの頃、私が主役のすずを演じて欲しいと願った
 能年さんは、連絡が取れない状況にありました。
 私たちは能年さんの状況を報道でしか知らないし、
 この先どうなって行くかも分からない。
 映画のスタッフの多くは、
 事務所と揉めている女優を主役に迎えれば、
 映画すら危うくなる、と言って反対する者がほとんどでした」
それでも、諦めきれなかった片渕監督は、
能年の連絡先を見つけ出し、すずを演じてくれないかとオファーした。
片渕監督の覚悟は決まっていた。
「最初に連絡したのは2016年の2月頃。
 けれど、受けるという返事はもらえず、じりじりとした時間を過ごしました。
 4月から6月までには何十人もの声優さんをオーディションするんです。
 けれど、その中にすずはいなかった。能年さんでなければ駄目でした」
 制作スタッフからは作品を案じるがため、能年の抜擢には反対の声があがっていた。
片渕監督の怒りは頂点に達した。そして、スタッフをこう一喝した。
「どこまで一人の若い女優をいじめれば気が済むんだ! 
 才能ある女優をいったいいつまで
 蔑(ないがし)ろにして放っておくつもりなんだ!」
のんの声で映画を完成させたい。
すずを演じられるのは、この世界でたった一人だけだ。
片渕監督のその覚悟は、制作チームの隅々にまで伝わった。
そして、2016年7月、前事務所との契約が切れて
能年玲奈からのんとなった彼女に
『この世界の片隅に』のオーディションを受けに来てほしいと声がかかった。〜