リヴァイの思いとエレンの思いが食い違い、そしてお互いに譲るわけにいかない。そういう局面を迎えただけだった。だが、それはエレンの中に存在した絶対的存在のリヴァイが崩れる結果を生んだ。
 リヴァイはそれを感じ取り、怯えているのだ。エレンの中から自分が消えていくことを。それまで強いばかりだったリヴァイの瞳が不安に揺れている。
「………リヴァイさん」
 ぽろりとエレンは今まで呼びかけたことがない呼び方で相手を呼んでいた。
 調査兵団の兵士長ではない、ただのリヴァイだ。目の前にいるこの男を見つめた時、エレンは自分の心の中に何があるのかと恐る恐る覗いてみた。


 失望だろうか。
 怒りだろうか。
 哀しみだろうか。


 リヴァイが見捨てようとしたものは、エレンにとって残された僅かな希望、家族だった。エレンにとって人間としての生きざまに執着をもたせてくれるかけがえのない存在。
 けれども、それを救ってくれと懇願するエレンもまた、リヴァイにとって、かけがえのない親友を、戦友を見捨てろと迫ったのではないかと、その時、エレンは気づいた。
 リヴァイが大人だから、強い人だから…一度、選んだことを覆さないだろうと思ったのは事実だけれども。
 そう思ったとき、エレンは無意識に自分に縋り付くリヴァイの頭を抱きしめていた。腕の中にいるリヴァイが愛おしいと自然に思えたのである。
 ああ、この人は自分がいないとダメなのかもしれない。
 こんな風に震えて、許しを請うこの人を自分が見捨てたら、この人はどうなってしまうのだ。